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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】インクジェットヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/16 20060101AFI20220509BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
B41J2/16 503
B41J2/14 305
B41J2/16 305
B41J2/16 511
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019509331
(86)(22)【出願日】2018-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2018010711
(87)【国際公開番号】W WO2018180669
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2017062786
(32)【優先日】2017-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】與田 光宏
【審査官】亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-117989(JP,A)
【文献】特開2011-020297(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0100212(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズルと、当該ノズルに連通するインク流路内のインクに所定箇所で圧力変化を付与する圧電素子及び振動板と、を有するインクジェットヘッドの製造方法であって、
熱発泡性粘着剤を介して圧電板材を基礎部材に固定する仮固定工程、
前記圧電板材を加工して前記圧電素子を含む構造物を形成する素子形成工程、
前記構造物のうち基準となる基準素子と前記振動板との間で前記所定箇所に応じた位置合わせを行い、前記圧電素子を前記振動板に接着する接着工程、
前記熱発泡性粘着剤を加熱して発泡させ、前記構造物から前記基礎部材を剥離させる剥離工程
を含み、
前記基礎部材及び前記熱発泡性粘着剤は、光透過性の部材であり、
前記基準素子は、中空の筒状構造であり、
前記接着工程では、前記筒状構造の内部を通して視認される前記振動板上の所定の標識に対して位置合わせされる
インクジェットヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記熱発泡性粘着剤の厚みは、前記圧電板材の厚みの1/10以上である請求項1記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記所定の標識は、前記筒状構造の内周面形状より小さい当該内周面形状の相似形状を含む請求項1又は2記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記所定の標識は、前記振動板に設けられた孔部の外縁を含む請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記基準素子は、少なくとも所定の軸方向について対称な形状である請求項1~のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記素子形成工程では、ブラスト加工により前記圧電板材が加工される請求項1~のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記基礎部材の前記構造物の形成位置と重ならない位置には、当該基礎部材の前記圧電板材の固定面と、当該固定面の反対側の面とを貫通する貫通部が設けられている請求項1~のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記貫通部は、前記基礎部材の長手方向に沿って延在して設けられている請求項記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項9】
インクを吐出するノズルと、当該ノズルに連通するインク流路内のインクに所定箇所で圧力変化を付与する圧電素子及び振動板と、を有するインクジェットヘッドの製造方法であって、
熱発泡性粘着剤を介して圧電板材を基礎部材に固定する仮固定工程、
前記圧電板材を加工して前記圧電素子を含む構造物を形成する素子形成工程、
前記構造物のうち基準となる基準素子と前記振動板との間で前記所定箇所に応じた位置合わせを行い、前記圧電素子を前記振動板に接着する接着工程、
前記熱発泡性粘着剤を加熱して発泡させ、前記構造物から前記基礎部材を剥離させる剥離工程
を含み、
前記基礎部材の前記構造物の形成位置と重ならない位置には、当該基礎部材の前記圧電板材の固定面と、当該固定面の反対側の面とを貫通する貫通部が設けられており、
前記貫通部は、前記基礎部材の長手方向に沿って延在して設けられている
インクジェットヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記貫通部は、前記基礎部材の深さ方向及び前記延在の方向に垂直な方向の幅が、前記圧電板材が設けられる面で最も狭くなるように前記深さ方向について非一様に設けられている請求項8又は9記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記基礎部材の前記構造物の形成位置と重ならない位置には、当該基礎部材の長手方向に垂直な方向に沿って延在する溝部が設けられている請求項8~10のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記素子形成工程では、前記貫通部を前記構造物の形成位置の基準として用いる請求項7~11のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ノズルからインクを吐出して媒体上に着弾させ、画像記録や製膜などを行う技術がある。ノズルからのインク吐出動作の一つとして、ノズルに連通するインク流路に沿って設けられた振動板に圧電素子を接着し、当該圧電素子に所定の電圧を印加することで変形させて振動板を振動させ、インクに圧力変化を付与する構成が用いられている。この技術では、正確な吐出量や吐出速度などの駆動特性を得るために、圧電素子が振動板に対して正確な位置に接着される必要がある。
【0003】
このような圧電素子の接着に係る技術として、貫通孔が設けられた基板上に熱発泡性の接着剤を介して圧電部材を固定し、貫通孔の位置を基準位置として圧電部材を加工して圧電素子を形成し、当該基板の貫通孔を介して被接着対象(振動板)の標識などに対して位置合わせを行って接着した後、熱発泡性の接着剤を加熱して発泡させることにより圧電素子から基板を剥離させる技術がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-117989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、基準位置に対して圧電素子を配置形成し、更に当該基準位置を用いて振動板との接着を行うことから手間が増え、また、その分精度が低下して駆動特性に影響するという課題がある。
【0006】
この発明の目的は、より容易に駆動特性を向上させることのできるインクジェットヘッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、
インクを吐出するノズルと、当該ノズルに連通するインク流路内のインクに所定箇所で圧力変化を付与する圧電素子及び振動板と、を有するインクジェットヘッドの製造方法であって、
熱発泡性粘着剤を介して圧電板材を基礎部材に固定する仮固定工程、
前記圧電板材を加工して前記圧電素子を含む構造物を形成する素子形成工程、
前記構造物のうち基準となる基準素子と前記振動板との間で前記所定箇所に応じた位置合わせを行い、前記圧電素子を前記振動板に接着する接着工程、
前記熱発泡性粘着剤を加熱して発泡させ、前記構造物から前記基礎部材を剥離させる剥離工程
を含み、
前記基礎部材及び前記熱発泡性粘着剤は、光透過性の部材であり、
前記基準素子は、中空の筒状構造であり、
前記接着工程では、前記筒状構造の内部を通して視認される前記振動板上の所定の標識に対して位置合わせされる。
【0008】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記熱発泡性粘着剤の厚みは、前記圧電板材の厚みの1/10以上である。
【0011】
また、請求項記載の発明は、請求項1又は2記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記所定の標識は、前記筒状構造の内周面形状より小さい当該内周面形状の相似形状を含む。
【0012】
また、請求項記載の発明は、請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記所定の標識は、前記振動板に設けられた孔部の外縁を含む。
【0013】
また、請求項記載の発明は、請求項1~のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記基準素子は、少なくとも所定の軸方向について対称な形状である。
【0014】
また、請求項記載の発明は、請求項1~のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記素子形成工程では、ブラスト加工により前記圧電板材が加工される。
【0015】
また、請求項記載の発明は、請求項1~のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記基礎部材の前記構造物の形成位置と重ならない位置には、当該基礎部材の前記圧電板材の固定面と、当該固定面の反対側の面とを貫通する貫通部が設けられている。
【0016】
また、請求項記載の発明は、請求項記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記貫通部は、前記基礎部材の長手方向に沿って延在して設けられている。
また、請求項9記載の発明は、
インクを吐出するノズルと、当該ノズルに連通するインク流路内のインクに所定箇所で圧力変化を付与する圧電素子及び振動板と、を有するインクジェットヘッドの製造方法であって、
熱発泡性粘着剤を介して圧電板材を基礎部材に固定する仮固定工程、
前記圧電板材を加工して前記圧電素子を含む構造物を形成する素子形成工程、
前記構造物のうち基準となる基準素子と前記振動板との間で前記所定箇所に応じた位置合わせを行い、前記圧電素子を前記振動板に接着する接着工程、
前記熱発泡性粘着剤を加熱して発泡させ、前記構造物から前記基礎部材を剥離させる剥離工程
を含み、
前記基礎部材の前記構造物の形成位置と重ならない位置には、当該基礎部材の前記圧電板材の固定面と、当該固定面の反対側の面とを貫通する貫通部が設けられており、
前記貫通部は、前記基礎部材の長手方向に沿って延在して設けられている。
【0017】
また、請求項10記載の発明は、請求項8又は9記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記貫通部は、前記基礎部材の深さ方向及び前記延在の方向に垂直な方向の幅が、前記圧電板材が設けられる面で最も狭くなるように前記深さ方向について非一様に設けられている。
【0018】
また、請求項11記載の発明は、請求項8~10のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記基礎部材の前記構造物の形成位置と重ならない位置には、当該基礎部材の長手方向に垂直な方向に沿って延在する溝部が設けられている。
【0019】
また、請求項12記載の発明は、請求項7~11のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記素子形成工程では、前記貫通部を前記構造物の形成位置の基準として用いる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に従うと、より容易に駆動特性を向上させたインクジェットヘッドを製造することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態のインクジェットヘッドの製造方法により製造されるインクジェットヘッドを正面側から見たノズルを含む面における断面図である。
図2A】ヘッドチップの形成の手順を示す図である。
図2B】ヘッドチップの形成の手順を示す図である。
図2C】ヘッドチップの形成の手順を示す図である。
図2D】ヘッドチップの形成の手順を示す図である。
図3A】ヘッドチップの形成の手順を示す図である。
図3B】ヘッドチップの形成の手順を示す図である。
図3C】ヘッドチップの形成の手順を示す図である。
図3D】ヘッドチップの形成の手順を示す図である。
図4A】仮固定基板を示す図である。
図4B】仮固定基板を示す断面図である。
図4C】仮固定基板を示す断面図である。
図5A】基準位置標識と位置合わせ標識の形状の対応関係の例を示す図である。
図5B】基準位置標識と位置合わせ標識の形状の対応関係の例を示す図である。
図5C】基準位置標識と位置合わせ標識の形状の対応関係の例を示す図である。
図6】位置合わせについて説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態のインクジェットヘッドの製造方法により製造されるインクジェットヘッド1を正面側から見たノズルを含む面における断面図である。
【0023】
インクジェットヘッド1は、ヘッドチップ10と、共通インク室20と、配線部材30と、駆動部40と、保持基板50などを備える。
【0024】
ヘッドチップ10は、ノズル111からインクを吐出させるための構成であり、複数の板状の部材が積層形成されている。ここでは、ヘッドチップ10は、ノズル111及び圧力室112を含み、吐出されるインクの保持、加圧が主に行われるインク吐出基板11と、インク吐出基板11内のインクに圧力変化を付与するための駆動動作に係る構成を備える吐出駆動基板13とに分けられ、これらは、振動板12によって隔てられる。インク吐出基板11は、ノズル111を有するノズル基板11aと、圧力室112が設けられた圧力室基板11bとが積層されて形成されている。吐出駆動基板13は、圧電素子141a及び基準位置標識141bが格納されるスペーサー基板13aと、電装系や駆動回路の配線が設けられた駆動基板13bとが積層されて形成されている。インク吐出基板11及び吐出駆動基板13には、更に、一又は複数の中間基板が含まれて積層されていても良い。
【0025】
インク吐出基板11は、上述のように、ノズル111及び圧力室112を有する。ノズル111の開口部は、ノズル基板11aの圧力室基板11bとの当接面とは反対側の面に複数配列されており、当該反対側の面に略垂直にインクが吐出される。圧力室112(所定箇所)は、ノズル111に連通しており、インクを貯留する。圧力室112内のインクには、振動板12の振動に応じて圧力変化が付与され、ノズル111内のインクを開口部から吐出させたり、吐出させずにノズル111内で液面(メニスカス面)を振動させたりする。
【0026】
振動板12は、各圧力室112の壁面の一部をなし、圧電素子141aの変形に伴って変形することで圧力室112の内部のインクに圧力変化を付与する。振動板12としては、主にシリコン(Si)基板が用いられる。また、振動板12上には、圧電素子141aに電圧(共通電圧が多いがこれに限られない)を印加するための電極及び配線がめっきなどにより各圧電素子141aの接着位置に合わせて薄膜状に形成されていて良い。
【0027】
吐出駆動基板13には、圧力室112に連通する個別インク供給路が設けられており、この個別インク供給路は、振動板12に接する面とは反対側の面で開口されている。この開口が設けられた面(開口面)上には、全ての開口を覆うように共通インク室20が設けられている。共通インク室20のインク室形成部材20a内に貯留されるインクは、吐出駆動基板13の開口から各圧力室112を経てノズル111まで続くインク流路により供給され、ノズル111の開口部から吐出される。
【0028】
配線部材30は、例えば、FPC(Flexible Printed Circuits)などであり、吐出駆動基板13の配線に接続されている。この配線により伝えられる駆動信号の電圧が導電性を有する接続部131を介して圧電素子141aに印加されて当該圧電素子141aを変位動作させる。配線部材30は、保持基板50を貫通して引き出されて駆動部40に接続される。
【0029】
駆動部40は、インクジェット記録装置の制御部からの制御信号や、電力供給部からの電力供給などを受けて、各ノズル111からのインク吐出動作や非吐出動作に応じて、圧電素子141aの適切な駆動信号を配線部材30に出力する。駆動部40は、IC(Integrated Circuit)などで構成されている。
【0030】
保持基板50は、ヘッドチップ10の上面に接合されており、共通インク室20のインク室形成部材20aを保持している。
【0031】
圧電素子141a及び基準位置標識141bには、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などが用いられている。圧電素子141aは、振動板12に対し、当該振動板12を挟んで圧力室112に対して適切な圧力変化を付与する正確な位置に均等に接着される必要がある。基準位置標識141bは、圧力室112のない場所に設けられ、また、駆動信号も供給されず、したがって、インクの吐出動作には関わらない。ここでは、圧電素子141aは、たわみモード(ベンドモード)での変形が生じるように設計配置されたものが用いられるが、シアモード(せん断モード)など他のモードでの変形に応じて圧力室112内のインクに圧力変化を付与するものであっても良い。
【0032】
次に、本実施形態のインクジェットヘッド1の製造手順について説明する。
【0033】
このインクジェットヘッド1では、振動板12が接着されたインク吐出基板11に対して位置を合わせて圧電素子141a及び基準位置標識141bが接着され、更に吐出駆動基板13が接着されることで、ヘッドチップ10が形成される。その後、このヘッドチップ10に対し、共通インク室20、配線部材30及び駆動部40が取り付けられる。
【0034】
図2A図2D及び図3A図3Dは、ヘッドチップ10の形成の手順を示す図である。
まず、熱発泡性粘着剤602の層を介して圧電シート141(圧電板材)が仮固定基板601(基礎部材)の上面に一様に固定される(図2A;仮固定工程)。仮固定基板601としては、ここでは、透明なガラス基板(光透過性の部材)が用いられる。ガラス基板としては、特に、熱によるゆがみの小さい石英ガラスが好ましく用いられる。これにより、ガラス基板を透過して接着されている圧電シート141(圧電素子141a及び基準位置標識141b;図2C)が視認可能とされている。また、後述のように、仮固定基板601には、孔部601a、601b及び溝部601c、601dがそれぞれ設けられている(図4A図4C参照)。
【0035】
このときの熱発泡性粘着剤602の層の厚さは、圧電シート141の厚さの1/10以上であることが好ましい。この厚さは、圧電シート141の形成時における一般的な膜厚のばらつき(所望の厚さの1/10程度)と等しいかこれより大きい厚さに対応する。これにより、熱発泡性粘着剤602は、後の工程で圧電素子141aを振動板12に押圧接着する場合に、圧電素子141aの有無に応じた凹凸や振動板12と圧力室112(図3(a)参照)との位置関係などに応じた圧力(応力)差を適切に分散させる緩衝材としても機能し、圧電素子141aを均一に振動板12に接着することが可能になる。熱発泡性粘着剤602としては、従来周知のものが用いられる。これらは、光透過性を有し、ここで用いられる程度の厚さであれば、仮固定基板601及び当該熱発泡性粘着剤602の層を透過して反対側の標識などを読み取ることが可能なものである。
【0036】
次に、圧電シート141の表面にフォトレジスト膜701を塗布し、マスク702を用いて圧電素子などが設けられない部分のレジストパターンを生成する(図2B)。このときレジストパターンは、孔部601a、601bなどを基準として設けられ得る。レジストパターンの位置が全体として多少ずれても問題は生じないが、概略範囲が定められることで、これら孔部601a、601bや溝部601c、601dと圧電素子141a及び基準位置標識141bとの重なりを防止し、また、後の工程で行われる基準位置標識141bと振動板12の位置合わせ標識125(図3など参照)との位置合わせ範囲が限定されて容易になる。
【0037】
レジストパターン701aの範囲外の圧電シート141を除去して(圧電シート141を加工して)圧電素子141a及び基準位置標識141b(基準素子)を形成する(図2C;素子形成工程)。不要な圧電シートの除去には、特には限られないが、例えば、ブラスト加工が用いられる。なお、ここでは基準位置標識141bとして一つのみが示されているが、互いに離隔した2箇所に設けることで二次元面内での位置合わせを容易かつより正確に行うことができる。
【0038】
レジストパターン701aを除去し、圧電素子141a及び基準位置標識141bの表面に接着剤142を塗布する(図2D)。レジストパターン701aの除去は、周知の各種方法から選択されて行われる。
【0039】
次に、基準位置標識141bをインク吐出基板11に接合された振動板12上の位置合わせ標識125(アライメントマーク)に対して位置合わせする(図3A)。上述のように、基準位置標識141b及び位置合わせ標識125は、仮固定基板601及び熱発泡性粘着剤602を透過して、仮固定基板601の基準位置標識141bとは反対側の面から視認可能となっている。すなわち、位置合わせ標識125は、基準位置標識141bとともに視認可能な大きさ及び形状を有する。
【0040】
位置合わせ標識125は、振動板12がインク吐出基板11に接着される場合にも用いられ得る。位置合わせがなされた状態で、圧電素子141a及び基準位置標識141bが振動板12と接着される(図3B)。これにより、圧力室112の位置に一致させて圧電素子141aが接着される。図3A及び図3Bに示す工程が本実施形態のインクジェットヘッドの製造方法における接着工程を構成する。
【0041】
接着剤142が定着した後、仮固定基板601の背面側(圧電素子141aなどとは反対面側)から加熱装置711を接触させて、熱発泡性粘着剤602を加熱する。これにより熱発泡性粘着剤602が発泡して粘着力が十分に低下するので、仮固定基板601及び熱発泡性粘着剤602を圧電素子141a及び基準位置標識141bから剥離させる(図3C;剥離工程)。
【0042】
図4A図4Cは、仮固定基板601を示す図である。ここでは、背面側が上方に図示されている。
仮固定基板601には、表面側(圧電シート141が粘着される固定面側)とその反対側の面側(背面側)とを貫通する孔部601a、601b(貫通部)と、背面側に設けられた溝部601c、601dとが設けられている。図4Aに示すように、孔部601a、601bは、仮固定基板601の長手方向に沿って延在して設けられており、溝部601c、601dは、この長手方向に対して直交するように(垂直な方向に延在して)設けられている。図4Bの断面図(図4Aの断面線AAにおける断面)に示すように、孔部601a、601bは、仮固定基板601の表面側まで貫通しており、溝部601c、601dは、仮固定基板601の表面側まで貫通していない。
【0043】
これら孔部601a、601b及び溝部601c、601dは、いずれも、表面側において圧電素子141a及び基準位置標識141bが設けられる範囲(形成位置;通常想定され得るずれの範囲を含む)と重ならない位置に設けられている。複数の圧電素子141a、すなわち、ノズルの配置が二次元配列のような場合には、孔部や溝部のそれぞれは、仮固定基板601の長手方向やこれに垂直な方向について一端付近から他端付近まで連続して設けられていなくても良い。また、孔部601a、601b及び溝部601c、601dは、必ずしも交差せず、例えば、溝部601c、601dは、孔部601a、601bと交差しないように、複数の溝に分割されても良い。
【0044】
孔部及び溝部の数、長さ、幅や溝部の深さは、特には限られないが、仮固定基板601の剛性、すなわち、圧電素子141a及び基準位置標識141bの位置が必要な精度で維持される範囲で、接着剤142による振動板12との接着時に生じる応力むらを適切に分散させるように設けられる。また、孔部601a、601bにより、圧電素子141a及び基準位置標識141bを形成するブラスト加工時に用いられる研磨剤を逃がすことができる。
【0045】
また、図4Cの断面図(図4Bと同一の断面)に示すように、孔部601a1、601b1は、開口幅(深さ方向及び孔部の延在の方向に垂直な方向の幅)が深さとともに変化する非一様な形状(テーパー形状)を有していても良い。この場合のテーパー形状は、圧電素子141aが設けられる面で最も狭くなるように形成される。これにより、孔部601a1、601b1が圧電素子141aや基準位置標識141bの形成範囲と重ならない余地を広く取ることができる。
【0046】
図5A図5Cは、基準位置標識141bと位置合わせ標識125の形状の対応関係の例を示す図である。
ここでは、仮固定基板601を透過して見た場合に基準位置標識141bが存在して振動板12が見えない部分をハッチにより示している。
【0047】
基準位置標識141bとしては、図1図2A図2D及び図3A図3Dに示したような圧電素子141aと同一形状、すなわち、円柱や角柱形状に加えて、図5Aに示すように、基準位置標識141bを中空の円筒形状(筒状構造)に形成することができる。この場合、位置合わせ標識125(所定の標識)として、例えば、基準位置標識141bの内側面と同一半径の円125aと、この円よりも半径の小さい(基準位置標識141bの内周面形状よりも小さい)同心の円125b(相似形状、所定の軸方向について対称)とを設けることができる。この場合、基準位置標識141bの内部を通して視認される小さい方の円125bが当該内部の中央に来るように位置合わせがなされる。この位置合わせ標識125は、上述の配線とともに形成されることとして良く、すなわち、インク吐出に関わらないダミー電極として形成され得る。また、外側の円125aは、設けられなくても良い。
【0048】
また、位置合わせ標識125は、振動板12の表面に印されたものに限られない。
図6は、図3Aと同一断面における位置合わせについて説明する図である。
例えば、位置合わせ標識125における半径の小さい円125bは、振動板12及びインク吐出基板11に設けられた貫通穴113の外周円(孔部の外縁)であっても良い。この場合、これら基準位置標識141bの円筒形状内部及び貫通穴113に配線、例えば、ヒーターやセンサー、例えば、温度センサー(サーミスター)などを挿入することとしても良い。なお、インク吐出基板11を貫通して穴が設けられている場合には、最終的にノズル111の開口部が設けられた面で当該穴が接着剤などにより封止される。あるいは、貫通穴113の代わりに、インク吐出基板11を貫通せず振動板12及びインク吐出基板11の一部のみ(少なくとも振動板12)に設けられた孔部であっても良い。この貫通穴113や孔部は、インク吐出基板11において、ノズル111や圧力室112の形成時に一括して形成され得る。
【0049】
また、基準位置標識141bとこれに対応する位置合わせ標識125としては、図5Bに示すように、上述の小さい円125bと、当該円125bの中心で交差する十字線125cとを設けることができる。このときの十字線125cの長さは、基準位置標識141bの円筒内面と等しい長さとされており、基準位置標識141bと位置合わせ標識125との位置ずれ方向及び位置ずれ量が見やすくなっている。あるいは、十字線125cのみで位置合わせ標識125が構成されていても良い。
【0050】
また、図5Cに示すように、基準位置標識141bは、非円形の中空形状、ここでは、十字形状であっても良い。この場合、位置合わせ標識125として、基準位置標識141bの十字形の各幅に応じた長さの腕部125dを有する十字線125cを設けることができる。特に、基準位置標識141bと圧電素子141aとの形成にブラスト加工が用いられる場合、当該ブラスト加工は、他の処理と比較しても複雑な形状を精度良く形成することが可能である。したがって、基準位置標識141bは、単純な円柱形状、円筒形状や角柱形状などに限られず、精度良くかつ位置合わせの処理が容易となる種々の形状で形成されて良い。
【0051】
以上のように、本実施形態のインクジェットヘッド1の製造方法は、インクを吐出するノズル111と、当該ノズル111に連通するインク流路内のインクに圧力室112で圧力変化を付与する圧電素子141a及び振動板12と、を有するインクジェットヘッド1の製造方法であって、熱発泡性粘着剤602を介して圧電シート141を仮固定基板601に固定する仮固定工程、圧電シート141を加工して圧電素子141aを含む構造物を形成する素子形成工程、構造物のうち基準となる基準位置標識141bと振動板12との間で圧力室112の位置に応じた位置合わせを行い、圧電素子141aを振動板12に接着する接着工程、熱発泡性粘着剤602を加熱して発泡させ、構造物から仮固定基板601を剥離させる剥離工程、を含む。
このように、圧電素子141aの形成時に圧電シート141から一括して形成される基準位置標識141bを基準として位置合わせを行うことで、圧電素子141aと基準位置標識141bとの相対位置関係を容易かつ正確に定めることができ、これにより、圧電素子141aを振動板12上の適切な位置に容易に合わせすることができる。したがって、より容易にインクジェットヘッドの駆動特性を均一化して向上させることができる。
【0052】
また、熱発泡性粘着剤602の厚みは、圧電シート141の厚みの1/10以上である。
現在の製造方法では、圧電素子141aの厚みのばらつきは、通常最大でその厚さの1/10程度となる。そこで、これと同等以上の厚さの熱発泡性粘着剤602の層を設けることで、インク吐出基板11に対して押圧して接着する際に、熱発泡性粘着剤602が適度な緩衝材となって均一な接着を行うことができる。
【0053】
また、仮固定基板601及び熱発泡性粘着剤602は、光透過性の部材である。したがって、背面側(圧電素子141aが設けられる面とは反対側)から透視して容易かつ正確に位置合わせを行うことができる。
【0054】
また、基準位置標識141bは、中空の筒状構造であり、接着工程では、筒状構造の内部を通して視認される振動板12上の位置合わせ標識125に対して位置合わせされる。
このような構造とすることで、位置合わせ標識125の中心を含む範囲を視認することができ、容易かつ正確に位置合わせを行うことができる。
【0055】
また、位置合わせ標識125は、基準位置標識141bの円筒形状の構造の内周面形状(すなわち円形)より小さい円125bを含む。このような位置合わせ標識125を基準位置標識141bと組み合わせることで、基準位置標識141bの円筒内で偏らずにバランス良く位置合わせ標識125を位置させることで、容易に正確な位置合わせを行いやすくすることができる。
【0056】
また、位置合わせ標識125は、振動板12に設けられた貫通穴113の外縁を含む。このように、位置合わせ標識125は、圧力室112やノズル111などと合わせて同様に孔部形状に形成されることで、容易かつ正確に圧力室112の位置に対する基準とされる。また、この貫通穴113を配線経路などとすることもできるので、単なる標識としてだけではなくより有効に活用することができる。
【0057】
また、基準位置標識141bは、少なくとも所定の軸方向について対称な形状である。これにより、当該軸方向についての位置合わせ時に位置ずれの有無や向きを容易に検出して調整することができる。
【0058】
また、素子形成工程では、ブラスト加工により圧電シート141が加工される。
これにより、互いに離隔して設けられる複数の圧電素子141aや基準位置標識141bを熱発泡性粘着剤602や仮固定基板601上に容易に形成することができる。また、このような微小構造物を高い精度で多数形成することができる。
【0059】
また、仮固定基板601のうち圧電素子141a及び基準位置標識141bを含む構造物の形成位置と重ならない位置には、仮固定基板601の圧電シート141の固定面と、当該固定面の反対側の面とを貫通する孔部601a、601bが設けられている。このように、仮固定基板601の押圧時に微小な変形の余地を生じさせることで、圧電シート141の微小な起伏などに応じた圧力むらを適度に平滑化して適切に均一な押圧力で複数の圧電素子141aを振動板12に接着することができる。
【0060】
また、孔部601a、601bは、仮固定基板601の長手方向に沿って延在して設けられている。このように、圧力室112も多数が配列される長手方向に沿って長い孔を設けることで、多くの圧電素子141aの接着時における押圧力を適切に平滑、均一化することができる。
【0061】
また、孔部601a1、601b1のように、仮固定基板601の深さ方向及び延在の方向に垂直な方向の幅が、圧電シート141が設けられる面で最も狭くなるように深さ方向について非一様なテーパー形状に設けられている。このように、仮固定基板601における圧電シート141の接着面で圧電素子141aなどの構造物の配置の自由度を可能な限り維持しつつ効率良く適切に接着時の押圧力を均一化することができる。
【0062】
また、仮固定基板601の圧電素子141aや基準位置標識141bなどの構造物の形成位置と重ならない位置には、当該仮固定基板601の長手方向に垂直な方向に沿って延在する溝部601c、601dが設けられている。このように、孔部601a、601bなどと異なる向きにもこれらと交差するように溝が設けられることで、仮固定基板601の剛性を必要な範囲で維持しつつ、押圧力の不均一をより効果的に分散させることができる。
【0063】
また、素子形成工程では、孔部601a、601bを圧電素子141aや基準位置標識141bなどの構造物の形成位置の基準として用いる。上述のように、圧電素子141aと基準位置標識141bの相対位置関係が正確であれば、圧電シート141上における圧電素子141a及び基準位置標識141bの多少の位置ずれは問題にならないが、これら孔部601a、601b自体が構造物と重ならないようにするための容易な基準となり、かつ位置合わせ時に概略位置が定められていれば、精密な調整に速やかに移行できる。したがって、より適切に効率良く位置合わせを行って駆動特性の均一化を図ることができる。
【0064】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施の形態では、光(可視光)透過性を有する仮固定基板601、特に、ガラス基板を透過して基準位置標識141bと位置合わせ標識125とを一致させたが、これに限られない。ガラス以外の光透過性部材(透明樹脂など)が用いられても良いし、赤外線などで透過検出可能な場合には、仮固定基板601が光透過性を有しなくても良い。また、振動板12やインク吐出基板11に貫通穴113が設けられている場合には、この貫通穴113を通して基準位置標識141bを視認して位置合わせを行っても良い。この場合、基準位置標識141bのサイズは、貫通穴113のサイズより小さく形成されることが好ましい。基準位置標識141bの全体サイズが貫通穴113のサイズよりも小さくない場合には、貫通穴113から視認可能な範囲内で位置合わせが可能な形状や構造を有する構造とされる。
【0065】
また、上記実施の形態では、圧電シート141から構造物として圧電素子141a及び基準位置標識141bを形成することとしたが、これら以外のものが併せて形成されても良い。また、上記実施の形態では、圧電素子141aと別個に基準位置標識141bが形成されたが、一又は複数の圧電素子141a自体が基準位置標識とされて用いられても良い。
【0066】
また、上記実施の形態では、ブラスト加工により圧電素子141a及び基準位置標識141bを形成したが、これに限られない。レーザー加工や機械加工などがなされても良い。
【0067】
また、上記実施の形態では、仮固定基板601に直交する孔部601a、601b及び溝部601c、601dが設けられたが、必ずしも設けられていなくても良い。例えば、溝部がなくても良いし、溝部の位置にのみ孔部が設けられていても良い。また、孔部や溝部は、仮固定基板601の長手方向に沿って設けられたりこれに直交したりする配置に限られない。圧電素子141a及び基準位置標識141bの形成位置と重ならない範囲で任意に形成可能である。
【0068】
また、上記実施の形態では、熱発泡性粘着剤602の厚みを規定したが、これに限るものではない。
【0069】
また、製造されるインクジェットヘッド1が吐出対象とするインクは、画像を記録するための各色のインクに限られず、コーティングなどに用いられる透明なインク(液体)や構造を形成するための種々の液体であっても良い。
その他、上記実施の形態で示した構成、構造、製造方法の内容や手順などの具体的な細部は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
この発明は、インクジェットヘッドの製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 インクジェットヘッド
10 ヘッドチップ
11 インク吐出基板
11a ノズル基板
11b 圧力室基板
111 ノズル
112 圧力室
113 貫通穴
12 振動板
125 位置合わせ標識
13 吐出駆動基板
13a スペーサー基板
13b 駆動基板
131 接続部
141 圧電シート
141a 圧電素子
141b 基準位置標識
142 接着剤
20 共通インク室
20a インク室形成部材
30 配線部材
40 駆動部
50 保持基板
601 仮固定基板
601a、601a1、601b、601b1 孔部
601c、601d 溝部
602 熱発泡性粘着剤
701 フォトレジスト膜
701a レジストパターン
702 マスク
711 加熱装置
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6