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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】蓄電素子管理装置及び蓄電素子管理方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20220509BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20220509BHJP
   G01R 31/387 20190101ALI20220509BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20220509BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20220509BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H01M10/42 P
G01R31/387
H02J7/00 Y
H02J7/00 X
G01R31/392
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019509772
(86)(22)【出願日】2018-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2018012037
(87)【国際公開番号】W WO2018181129
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2017069840
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤野 有希子
(72)【発明者】
【氏名】柏 雄太
(72)【発明者】
【氏名】杉山 侑輝
(72)【発明者】
【氏名】荒木 貴葉
【審査官】坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-21218(JP,A)
【文献】特開2002-199616(JP,A)
【文献】特開平9-218252(JP,A)
【文献】特開2012-221782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/48
H01M 10/42
G01R 31/387
H02J 7/00
G01R 31/392
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電素子の電圧を検出する電圧センサと、前記蓄電素子の電圧と残存容量との相関関係についての情報が記憶されるメモリと、情報処理部と、を備え、
前記情報処理部は、前記電圧センサにより検出した前記蓄電素子の電圧に基づき、前記メモリに記憶された前記蓄電素子の電圧と残存容量との相関関係から前記残存容量を取得して、その残存容量と、前記満充電時の残存容量よりも小さい所定量に設定された基準容量との比率に基づいて充電状態を求め、
さらに情報処理部は、前記充電状態と、他の方法により求められた充電状態との比較に基づいて前記蓄電素子の状態を判断する蓄電素子管理装置。
【請求項2】
前記他の方法により求められた充電状態は、前記蓄電素子への入出力電流の測定に基づいて積算した充電状態である請求項1記載の蓄電素子管理装置。
【請求項3】
前記情報処理部は、さらに、前記基準容量より大きく前記蓄電素子の満充電時の残存容量よりも小さい所定容量において、前記充電状態の変化量に対する前記蓄電素子の電圧値の変化量から、蓄電素子の状態を判断する請求項1又は2記載の蓄電素子管理装置。
【請求項4】
蓄電素子の満充電容量よりも小さい所定量に設定された基準容量と前記蓄電素子の電圧から求められる容量との比率によって前記蓄電素子の充電状態を求め、前記蓄電素子が前記基準容量以下となっている領域において、前記蓄電素子の電圧から求められる容量による充電状態と、他の方法によって求められる充電状態との比較に基づいて前記蓄電素子の状態を判断する蓄電素子管理方法。
【請求項5】
蓄電素子の電圧と残存容量との相関関係についての情報が記憶されるメモリと、情報処理部と、を備え、
前記情報処理部は、蓄電素子の電圧を検出する電圧センサにより検出された前記蓄電素子の電圧に基づき、前記メモリに記憶された前記蓄電素子の電圧と残存容量との相関関係から前記残存容量を取得して、その残存容量と、前記満充電時の残存容量よりも小さい所定量に設定された基準容量との比率に基づいて充電状態を求め、
さらに情報処理部は、前記充電状態と、他の方法により求められた充電状態との比較に基づいて前記蓄電素子の状態を判断する蓄電素子管理装置。
【請求項6】
蓄電素子の電圧と残存容量との相関関係についての情報が記憶されるメモリと、情報処理部と、を備え、
前記情報処理部は、蓄電素子の電圧を検出する電圧センサにより検出された前記蓄電素子の電圧に基づき、前記メモリに記憶された前記蓄電素子の電圧と残存容量との相関関係から前記残存容量を取得して、その残存容量と、前記満充電時の残存容量よりも小さい所定量に設定された基準容量との比率に基づいて充電状態を求め、
さらに情報処理部は、前記比率に基づいた充電状態よりも大きな充電状態で前記電圧センサから取得した前記蓄電素子の電圧値情報と、予め取得した閾値との比較に基づいて前記蓄電素子の状態を判断する蓄電素子管理装置。
【請求項7】
前記電圧値情報は、所定期間における電圧変化値、或いは所定容量変化値における電圧変化値である請求項6記載の蓄電素子管理装置。
【請求項8】
蓄電素子の満充電容量よりも小さい所定量に設定された基準容量と前記蓄電素子の電圧から求められる容量との比率によって前記蓄電素子の充電状態を求め、前記蓄電素子が前記基準容量以下となっている領域よりも大きな領域において、前記蓄電素子の電圧値情報と、予め取得した閾値との比較に基づいて前記蓄電素子の状態を判断する蓄電素子管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、リチウムイオン電池等の蓄電素子の充電状態(SOC:State Of Charge)を取得すると共に、その経時変化特性を予測することで、蓄電素子の劣化予測を行う、或いは、劣化予測情報を基にして使用者へ通知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池等の蓄電素子は電気自動車等の車両用途や、住宅用や電力平準化用の定置型の蓄電装置としても広く利用されており、それらの蓄電素子のSOC(満充電状態に対してどの程度の割合となっているか)を常時正確に把握する必要性は高い。そのSOCを取得する手法の一例としてOCV法がある。これは、例えば下記の特開2009-104983号公報に記載の技術のように、電池の開放電圧(OCV:Open circuit Voltage)と残存容量との間には比較的精度の良い相関関係があることを利用してSOCを求めるものである。具体的には、電池に電流が流れていないときの電池電圧、すなわち開放電圧を測定し、予め測定・記憶しておいたOCVと残存容量との相関関係を参照して、測定されたOCVに対応する残存容量を求める。そして、その残存容量を満充電時の容量で除算してSOC(%)を求めるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-104983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの研究によれば、OCVと残存容量との相関関係は電池等の劣化に伴って徐々に変化するため、それを不変のものとしてSOCを算出すると、SOC算出の精度が悪くなるという現象が見出された。例えばLiFePO4などのリン酸鉄系の正極活物質とソフトカーボンを負極活物質として使用したリチウムイオン電池では、図1に示すように変化していた。すなわち、初期のOCV-残存容量特性が実線で示すものであったときに、それぞれ750時間、1500時間、2250時間、3000時間、3750時間のサイクル試験後では変化していた。これを基にSOCを計算してOCV-SOC相関関係を描くと、初期の電池では図2に示す実線の通りとなり、例えば2250時間サイクル試験後の電池では破線の通りとなる。OCV法では電池の劣化によって、特に高容量領域でのSOCの誤差が大きくなることが明らかである。
【0005】
その理由は、例えば、リン酸鉄系の正極活物質を使用したリチウムイオン電池では、正極電位が放電容量によって変化しない領域が広いため、負極の劣化が容量低下に直結するためと考えられる。
【0006】
本明細書では、蓄電素子の劣化があっても正確なSOCを取得できる技術を開示し、正確なSOC推定に基づく劣化予測を行い、使用者に通知する、といったアプリケーションを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書によって開示される蓄電素子管理装置は、蓄電素子の電圧を検出する電圧センサと、前記蓄電素子の電圧と残存容量との相関関係についての情報が記憶されるメモリと、情報処理部と、を備え、前記情報処理部は、前記電圧センサにより検出した前記蓄電素子の電圧に基づき、前記メモリに記憶された前記蓄電素子の電圧と残存容量との相関関係から前記残存容量を取得して、その残存容量と、前記満充電時の残存容量よりも小さい所定量に設定された基準容量との比率に基づいて充電状態を求め、さらに情報処理部は、前記充電状態と、他の方法により求められた充電状態との比較に基づいて前記蓄電素子の状態を判断する。
【0008】
前記メモリには、前記基準容量に対する残存容量の比率であるSOCと前記蓄電素子の電圧との相関関係についての情報が記憶されていてもよい。こうすると、蓄電素子の電圧に基づき直接的にSOCを取得できる。
【発明の効果】
【0009】
本明細書によって開示される技術によれば、正確なSOC推定に基づく劣化予測が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】サイクル試験によるリチウムイオン電池の容量変化を示すグラフ
図2】サイクル試験によって変化したOCV-SOC特性を示すグラフ
図3】リチウムイオン電池の単極電位と容量との関係を示すグラフ
図4】実施形態の二次電池モジュールを示すブロック図
図5】実施形態の二次電池のOCV-SOC相関関係を示すグラフ
図6】実施形態における電池A及びBのOCV-充電容量の相関関係を示すグラフ
図7】実施形態における電池A及びBのOCV-SOC相関関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態の概要)
本明細書によって開示される蓄電素子管理装置は、蓄電素子の電圧を検出する電圧センサと、前記蓄電素子の電圧と残存容量との相関関係についての情報が記憶されるメモリと、情報処理部と、を備え、前記情報処理部は、前記電圧センサにより検出した前記蓄電素子の電圧に基づき、前記メモリに記憶された前記蓄電素子の電圧と残存容量との相関関係から前記残存容量を取得して、その残存容量と、前記満充電時の残存容量よりも小さい所定量に設定された基準容量との比率(割合)に基づいて充電状態を求め、さらに情報処理部は、前記充電状態と、他の方法により求められた充電状態との比較に基づいて前記蓄電素子の状態を判断する。
【0012】
メモリには、前記基準容量に対する残存容量の比率であるSOCと前記蓄電素子の電圧との相関関係についての情報が記憶されていてもよい。そうすると、蓄電素子の電圧に基づき直接的にSOCを取得できる。
【0013】
前記蓄電素子は、リン酸鉄リチウムを正極活物質とするリチウムイオン二次電池であってもよく、負極活物質が非晶質炭素であってもよい。これらの活物質を使用したリチウムイオン二次電池においては、劣化によるOCV-残存容量特性の変化が大きいからである。
【0014】
このようにして基準容量を適切に設定すると、蓄電素子の劣化があってもOCV-残存容量特性の変化が少なく、その結果、SOCを正確に決定できる。
【0015】
(実施形態の詳細)
以下、本明細書で開示される技術を電動車両駆動用の電池モジュールに適用した実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0016】
本実施形態の電池モジュールは、図4に示すように、直列接続された複数個の二次電池30と、これら二次電池30を管理するバッテリ-マネージャー(以下、BM)50、及び二次電池30に流れる電流を検出する電流センサ40を有する。BM50は「蓄電素子管理装置」の一例である。
【0017】
二次電池30は「蓄電素子」の一例であり、図示しない充電器によって充電され、車両駆動用のモータを駆動するインバータ(負荷10として図示する)に直流電力を供給する。この二次電池30は、正極活物質としてLiFePO4、負極活物質として非晶質炭素を使用したリチウムイオン電池である。
【0018】
この二次電池30に関しては、その開放電圧(OCV)と後述するように定義された充電状態(SOC)との間には相関関係(ここでは「OCV-SOC相関関係」と呼ぶ)があることが判っており、その関係をテーブル化した情報がメモリ63に記憶されている。
【0019】
BM50は、制御部60と、二次電池30の各セルの両端電圧を測定する電圧計測部70と、電流センサ40からの信号に基づき二次電池30に流れる電流を測定する電流計測部80とを備える。制御部60は情報処理部としての中央処理装置(以下、CPU)61と、メモリ63とを含む。メモリ63には、上記のOCV-SOC相関関係の他、BM50の動作を制御するための各種のプログラムが記憶されており、CPU61はメモリ63から読み出したプログラムに従ってSOCを決定する。
【0020】
(二次電池30のOCV-SOC相関関係)
二次電池のSOCは一般に、ある時点での二次電池の残存容量の満充電容量に対する比率(%)として定義されるが、本明細書で開示する技術では、SOCを、満充電容量ではなくそれより小さい「基準容量」に対するある時点での二次電池30の残存容量の比率(%)として定義する。この定義によるSOCを「換算SOC」と呼ぶこととする。本実施形態の二次電池30において、満充電容量におけるOCVをV1とし、基準容量に対応するOCVをV2とする。この二次電池30のOCV-換算SOC相関関係は、予め次のようにして測定したものである。
【0021】
満充電は、1C充電3時間後にV1の定電圧充電を行う。基準容量への充電は、1C充電3時間後にV2の定電圧充電を行う。(1)満充電容量及び基準容量の各二次電池30に関して1/10容量分を25℃10Aで充電し、(2)4時間放置して最後の30分間の電圧を平均したものをOCVとする。(1)(2)を10回繰り返すことで、二次電池30のOCV-SOC相関関係を測定できる。10回目の充電は、V1又はV2の定電流定電圧充電とする。
【0022】
二次電池30が劣化すると、二次電池30の満充電容量が減少する。二次電池30の使用期間が長く、電池が劣化するほど、二次電池30(各セル)の電圧が満充電電圧であるV1になるまでの二次電池30の満充電容量は減少していく。
【0023】
SOCは、従来、二次電池の現在の充電容量を満充電容量で除算することによって求められていため、二次電池のOCVが同じ場合、電池性能が低下した二次電池のSOCは、二次電池の初期状態でのSOCに比べて、大きく推定されてしまう。例えば、測定した二次電池30のセル電圧がV2より低いV3の場合、図2から明らかなように、二次電池30の初期状態では、SOCは約40%であると推定されるのに対し、電池性能が低下した二次電池30では、SOCは約50%であると推定されてしまう。
【0024】
一方、図1に示す通り、二次電池30の電圧がV2になるまでの部分的な充電容量(基準容量)は、二次電池30の初期状態と、同図に記載の時間だけ充放電を繰り返した後とを比較しても、二次電池6の劣化による充電容量変化の誤差は基準値以下である。つまり、二次電池30のOCV-換算SOC特性に着目すると、二次電池6の初期状態のものと、充放電を繰り返した後のものとでは、ほとんど変わらない。
【0025】
本実施形態では、この基準容量を使って換算SOCを定義してある。即ち、基準容量(OCV=V2)での二次電池30の換算SOCを100%と定義する。その結果、本実施形態のOCV-換算SOC相関関係は図5に示す通りになる。実線は二次電池30の初期品のものを示し、破線は例えば2250時間のサイクル試験後の二次電池30のものを示す。図から明らかなように、二次電池30の劣化の有無に関わらず、OCVから精度良くSOCを決定できる。これにより、以下のような効果を奏する。
・BM50を車載用の電池モジュールに適用した場合に、EV走行可能距離の算出精度が向上する。
・二次電池30の電池切れを防止できる。
・二次電池30の使用可能容量が少ない場合に、電池寿命が削られることを抑制するための余分なリザーブを持たずに済み、二次電池30の使用領域ギリギリの設定ができる。
【0026】
本実施形態の二次電池30について、以下の試験電池A及びBを試作し、先の説明と同様にしてOCV-充電容量(Ah)特性を測定した。これは活物質の塗工量のバラツキによるSOC誤差への影響を確認するためである。
試験電池A:正極活物質の塗工量を設計値に対して+数%とし、負極活物質の塗工量を設計値に対して-数%とした。
試験電池B:正極活物質の塗工量を設計値に対して-数%とし、負極活物質の塗工量を設計値に対して+数%とした。
【0027】
両電池A,BのOCV-充電容量特性は、図6に示す通りであった。満充電容量(OCV=V1)は正極塗工量に依存して電池Aが大きく、電池Bが小さくなる。一方、基準容量(OCV=V2)は負極塗工量に依存し、逆に電池Bが大きく電池Aが小さくなる。
【0028】
残存容量と基準容量との比率を換算SOCと定義してOCV-換算SOC相関関係を描くと、図7に示す通りとなり、両電池A,Bの差はほとんどないことが判る。このことは、本実施形態の換算SOCの定義とすれば、製造バラツキによるSOC誤差を抑えることができることを意味する。
【0029】
本実施形態の「基準容量」は満充電容量よりは小さな値であるが、正極活物質としてLiFePO4、負極活物質として非晶質炭素を使用したリチウムイオン電池に本明細書の技術を提供した本実施形態では、二次電池30のセル電圧がV2である最大の充電容量を「基準容量」とした。その具体的な数値は、活物質の種類により様々に異なり得る。サイクル試験による容量変化を測定し、図1に示されるように容量劣化が起こりにくい領域の最大の充電容量として決定してもよい。図3に示されるようにリン酸鉄系の正極活物質では電池電圧と-容量との相関関係において平坦領域が広い。このため、その領域で負極のバランスずれによって劣化が進行することに鑑みると、その平坦領域のOCV(本実施形態ではV2)に対応する最大容量に設定することもできる。
【0030】
「基準容量」は活物質の種類に応じて満充電容量よりも小さな値として設定すればSOC誤差を小さくできるが、その値は常に一定にしておくに限らず、電池の劣化に併せて徐々に小さな値に変化させてもよい。
【0031】
本実施形態では蓄電素子として上記のリチウムイオン電池を使用する場合について説明したが、これに限られず、他の正極活物質、或いは負極活物質を使用した電池であってもよいし、電気化学反応を伴うキャパシタに適用することもできる。
【0032】
次に、他の正極活物質、或いは負極活物質の一例を挙げる。例えば、正極活物質および負極活物質の組み合わせとしては、図3のような、縦軸が単極電位で横軸が容量のグラフにおいて、正極が平坦な領域(あるいは平坦に近い領域)を含むグラフ形状で、負極が変化領域(言い換えると傾斜した領域)を含むグラフ形状である組み合わせ(高SOC側のSOC-OCV曲線において、劣化度合いでグラフ形状が他のSOC領域よりも変化する組み合わせ)が考えられる。活物質例としては、正極活物質として、リン酸塩系正極活物質(鉄の部分がMn、Co、Ni)、リン酸塩以外にSiO4、PO4、P2O7等があげられる。負極活物質としては、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素が挙げられる。
【0033】
縦軸が単極電位で横軸が容量のグラフにおいて、正極が変化領域(言い換えると傾斜した領域)を含むグラフ形状で、負極が平坦な領域(あるいは平坦に近い領域)を含むグラフ形状である組み合わせ(低SOC側のSOC-OCV曲線において、劣化度合いで曲線形状が他のSOC領域よりも変化する組み合わせ)が考えられる。活物質例としては、正極活物質として、層状酸化物系正極等があげられる。負極活物質としては、Gr、Si、SiOが挙げられる。
【0034】
上記実施形態では、BM50のメモリ63に、セル電圧とSOC(基準容量に対する残存容量の比率)との相関関係(OCV-換算SOC特性)についてのテーブル化した情報を記憶しておき、それを参照してOCVから換算SOCを直ちに決定するようにした。しかしながら、これに限らず、メモリにセル電圧と残存容量との相関関係についての情報を記憶しておき、それを参照してOCVから残存容量を決定し、その残存容量を基準容量で除算して換算SOCを決定してもよい。
【0035】
メモリに記憶する情報は相関関係をテーブル化した情報とするに限らず、セル電圧の関数として換算SOCや残存容量を表した数式を記憶しておき、その関数にセル電圧を入力することで換算SOC等を算出してもよい。
【0036】
上述のように、本発明では、蓄電素子の電圧と残存容量との相関関係から残存容量を求め、その残存容量の基準容量(満充電時の残存容量よりも小さい所定量に設定されている)に対する比率を算出することで、誤差の小さな換算SOCを算出できる。その換算SOCを利用して、蓄電素子の劣化推定(予測)、劣化診断(判断)、および使用者などへの通知方法について説明する。
【0037】
換算SOCが100%以下では、蓄電素子の充放電サイクル数(ひいては蓄電素子の劣化)に依らず、蓄電素子の電圧値と換算SOCとはほぼ1対1の関係がある。換算SOCが100%以下の領域において、例えば時刻t1及びt2の二時点において蓄電素子の各電圧を測定して二つの換算SOCの値を取得し、その差ΔSOCを算出する(これをΔSOC(v)とする)。その一方で、時刻t1とt2間における蓄電素子への電流の出入りを電流センサによって測定積算して両時刻t1,t2間のSOC変化(これをΔSOC(i)とする)を算出する。この方法は電流積算法によるSOC変化の算出方法として周知である。
二つのSOC変化(ΔSOC(v)、ΔSOC(i))を比較して、両者の差異が所定値以上であるときには、蓄電素子が異常である、蓄電素子が劣化した、センサなどの探査子(プローブ)が異常である、或いは処理部が異常である等、少なくとも何れかの部位が異常であると判断できる。
その判断結果を外部に通知したり、使用者に通知することで、不具合に対する適切な対応を取る、蓄電素子を交換したりする等、といったことが可能となる。
【0038】
図1において、例えば基準容量(OCV=V2)等の所定容量に対する比率としてのSOCが1(或いは100%)以上の領域においては、蓄電素子の電圧と容量との関係が充放電サイクル数(すなわち蓄電素子の劣化)に依存して変化することがわかる。すなわち、図1に示すように、縦軸である電圧が急変(急増)する容量が蓄電素子のサイクル数(蓄電素子の劣化)に依存して小さくなる現象がある。このため、充電状態の変化量に対する蓄電素子の電圧値の変化量が急激な変化をする値を測定することで蓄電素子の状態(例えば、蓄電素子の異常、蓄電素子の劣化推定(予測)、および蓄電素子の寿命(交換時期)等)を判断できる。具体的には、容量変化あたりの電圧変化の値(ΔV/ΔAh)を所定の閾値と比較することで、蓄電素子の完全劣化或いは完全劣化に近付いた程度を数値的に判定できる。
この判定をトリガーとして、蓄電素子の状態(例えば、蓄電素子の異常、蓄電素子の劣化推定(予測)、および蓄電素子の寿命(交換時期)等)を判断し、使用者や外部機器に対して通知できる。その通知に対して、適切な判断を行うことができる。
通知については、ある閾値を判断材料にして通知を行っても良いし、閾値を複数設けて段階的に通知を行っても良い。例えば、電圧値で判断するのであれば、複数の電圧値で判断しても良い。充電状態の変化量に対する蓄電素子の電圧値の変化量において、複数の変化量を閾値として設けていても良い。そのようにして、段階的な通知を受けて、段階的に適切な判断を行っても良い。使用者に対して段階的な通知、例えば、蓄電素子の寿命が近づいて来た、蓄電素子の交換時期が近い、蓄電素子の寿命である、蓄電素子を交換してください、ディーラー(販売店)に連絡してください、使用を停止してください等、といったことを行うことで、使用者が慌てることなく、蓄電素子の交換等、適切な処置を行うことができる。通知は使用者だけでなく、通信を用いてディーラー(メーカー)側に通知しても良い。
【0039】
蓄電素子の状態を判断する方法について、他の方法も考えられる。例えば、蓄電素子を状態検知モードとして(ユーザーの指定時、或いは所定期間毎に検知モードが起動)、換算SOCが100%以上において取り得る値まで電圧値を上げ、電圧値の変化から蓄電素子の状態を判断しても良い。
具体的には、ある所定期間における電圧変化値を取得し、その大きさから蓄電素子の状態を判断しても良い。例えば、蓄電素子を状態検知モードで作動させる。図1の電圧V2以上まで電圧値を上げた条件下で、ある所定期間における電圧変化値を取得し、その電圧変化値で蓄電素子の状態を判断する。或いは、ある容量変化における電圧変化値(ΔV/ΔAh)を取得してもよい。その場合、容量変化は電流積算法を用いれば良い。これら電圧変化値の判定において、基準となる電圧変化値(例えば、略劣化していない蓄電素子の電圧変化値)を事前に取得しておき、今回取得した電圧変化値との比較(例えば、所定の閾値を設けておき比較する)を行ってもよい。所定の閾値は直前の電圧変化値であっても良い。上述のように、これら電圧変化値の判定において、幾つかのカテゴリー分けを行い、段階的な通知(検知)を受けて、段階的に適切な判断を行っても良い。例えば、蓄電素子の寿命が近づいて来た、蓄電素子の交換時期が近い、蓄電素子の寿命である、蓄電素子を交換してください、ディーラー(販売店)に連絡してください、使用を停止してください等、といったことを行う。
【0040】
以上より、蓄電素子の状態を事前にディーラー(メーカー)側が把握する、あるいはユーザーに通知することで、突然の故障・不具合を回避できるだけでなく、メンテナンスのための事前準備をディーラー(メーカー)側もユーザー側も行うことができる。補給部品の在庫確認、入手や輸送の準備、メンテナンス要員の確保などを事前に行うことができ、スムーズなサービスをディーラー(メーカー)側はユーザー側に提供できる。或いは、ディーラー(メーカー)側は蓄電素子の劣化特性や蓄電素子の交換時期における蓄電素子の特性情報を大量に入手できる。それにより、例えばビッグデータを使った蓄電素子の状態推定による新たなサービス提供を行うことができる。
【0041】
本技術は、自動車や二輪車だけに限定されない。鉄道用車両や港湾用輸送車両(システム)、産業用電池、電源装置、家庭用蓄電システム等、蓄電池を用いる幅広い分野で適用可能である。故障診断器や充電機への組み込みも本技術の適用範囲である。
【0042】
上述した実施の形態から、以下であってもよい。
(構成例1)蓄電素子の電圧を検出する電圧センサと、前記蓄電素子の電圧と残存容量との相関関係についての情報が記憶されるメモリと、情報処理部とを備え、
前記情報処理部は、前記電圧センサにより検出した前記蓄電素子の電圧に基づき、前記メモリに記憶された前記蓄電素子の電圧と残存容量との相関関係から前記残存容量を取得して、その残存容量の基準容量に対する比率を算出し、かつ、前記基準容量が満充電時の残存容量よりも小さい所定量に設定されている蓄電素子管理装置。
(構成例2)蓄電素子の電圧を検出する電圧センサと、基準容量に対する残存容量の比率である充電状態と前記蓄電素子の電圧との相関関係についての情報が記憶されるメモリと、情報処理部とを備え、
前記情報処理部は、前記電圧センサにより検出した前記蓄電素子の電圧に基づき、前記メモリに記憶された前記蓄電素子の電圧と残存容量との相関関係から前記充電状態を取得し、かつ、前記基準容量が満充電時の残存容量よりも小さい所定量に設定されている蓄電素子管理装置。
(構成例3)前記蓄電素子は、リン酸鉄リチウムを正極活物質とするリチウムイオン二次電池である蓄電素子管理装置。
(構成例4)前記蓄電素子は、ソフトカーボンを負極活物質とするリチウムイオン二次電池である蓄電素子管理装置。
(構成例5)蓄電素子と、
上記構成例の何れかに記載の蓄電素子管理装置と、を含む蓄電モジュール。
このような構成例1ないし5によれば、蓄電素子の性能低下があっても正確なSOCを取得できる。
(構成例6)前記基準容量の所定値における前記蓄電素子の電圧値が所定値、或いは所定値以上であることから、蓄電素子の状態を判断することと、を含む蓄電素子管理方法。
(構成例7)前記基準容量より大きく、前記蓄電素子が満充電時の残存容量よりも小さい所定容量において、前記蓄電素子の電圧値に関係する物理量から、蓄電素子の状態を判断することと、を更に含む蓄電素子管理方法。
(構成例8)前記基準容量より大きく、前記蓄電素子が満充電時の残存容量よりも小さい所定容量において、前記蓄電素子の電圧値から、蓄電素子の状態を判断することと、を更に含む蓄電素子管理方法。
(構成例9)前記情報処理部は、前記基準容量より大きく、前記蓄電素子が満充電時の残存容量よりも小さい所定容量において、前記充電状態の変化量に対する前記蓄電素子の電圧値の変化量から、蓄電素子の状態を判断することと、を更に含む蓄電素子管理方法。
(構成例10)前記蓄電素子の電圧と残存容量との相関関係から前記充電状態を取得することと、
前記蓄電素子の電圧値が所定値以上となる前記充電状態において、蓄電素子を使用しないことと、
を含む蓄電素子管理方法。
(構成例11)前記充電状態の変化量に対する前記蓄電素子の電圧値の変化量から、蓄電素子の状態を判断することと、を更に含む蓄電素子管理方法。
このような構成例6ないし11の構成によれば、蓄電素子の性能低下により、通常的な使用に支障をきたす状態や所望の性能が得られない状態であることを使用者に通知することができ、蓄電素子の交換や使用停止などといった適切な対応を取ることができる。
【符号の説明】
【0043】
20:電池モジュール 30:二次電池(蓄電素子) 40:電流センサ 50:バッテリ-マネージャー 60:制御部 61:CPU(情報処理部) 63:メモリ 70:電圧計測部(電圧センサ)
図1
図2
図3
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図5
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図7