(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】鋼板積層体の製造方法及び成形鋼板積層体
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20220509BHJP
H02K 1/18 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
H02K15/02 F
H02K1/18 B
H02K1/18 C
H02K15/02 E
(21)【出願番号】P 2019543435
(86)(22)【出願日】2018-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2018025013
(87)【国際公開番号】W WO2019058703
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2020-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2017183311
(32)【優先日】2017-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本田 武
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-127015(JP,A)
【文献】実開昭56-102943(JP,U)
【文献】特開昭57-095158(JP,A)
【文献】特開2012-223034(JP,A)
【文献】特開2012-223035(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/00- 1/16
H02K 1/18- 1/26
H02K 1/28- 1/34
H02K 15/00-15/02
H02K 15/04-15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を打ち抜き成形することによって、製品部と、前記製品部の外側に配置されるスクラップ部と、前記スクラップ部の外縁に配置される切り欠き部と、を有する複数の成形鋼板を成形する成形工程と、
前記複数の成形鋼板を、厚み方向に積層することにより、成形鋼板積層体を得る成形鋼板積層工程と、
前記成形鋼板積層体から
環状の切断位置に沿って前記スクラップ部を切断することによって鋼板積層体を得る積層体加工工程と、
を有する、鋼板積層体の製造方法。
【請求項2】
前記成形工程は、前記成形鋼板の厚み方向の全体に前記切り欠き部を成形する、請求項1に記載の鋼板積層体の製造方法。
【請求項3】
前記成形工程は、前記切り欠き部を、前記スクラップ部の外周縁に1箇所成形する、請求項1又は2に記載の鋼板積層体の製造方法。
【請求項4】
成形鋼板積層工程は、前記複数の成形鋼板を、少なくとも一部の成形鋼板が他の成形鋼板とは周方向に異なる位置で積層する、請求項1から3のいずれか1つに記載の鋼板積層体の製造方法。
【請求項5】
前記成形鋼板は、周方向に所定の角度ごとに配置された複数のティースを有するモータ用の電磁鋼板であり、
前記成形鋼板積層工程は、前記複数の成形鋼板を、前記所定の角度に応じて周方向に異なる位置で積層する、請求項1から4のいずれか1つに記載の鋼板積層体の製造方法。
【請求項6】
前記成形工程は、前記スクラップ部に、前記所定の角度に応じて位置合わせ用の貫通孔を形成する、請求項5に記載の鋼板積層体の製造方法。
【請求項7】
鋼板の打ち抜き成形によって得られた複数枚の成形鋼板が厚み方向に積層された成形鋼板積層体において、
前記成形鋼板は、
製品部と、
前記製品部の外周側に位置するスクラップ部と、
前記スクラップ部の外周縁に位置する切り欠き部とを備え、
前記製品部と前記スクラップ部との境界は環状の切断位置であり、
成形鋼板を中心軸周りに周方向に移動させることで、前記切り欠き部が他の成形鋼板の前記切り欠き部と異なる周方向位置に積層された、成形鋼板積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの固定子コアなどに用いられる鋼板積層体の製造方法及び成形鋼板積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの固定子コアを製造する方法として、プレス装置等によって鋼板を固定子コアの形状に打ち抜いた成形鋼板を作成し、当該成形鋼板を厚み方向に複数枚積層した鋼板積層体を用いる方法が知られている。このような方法により製造された鋼板積層体としては、例えば、特許文献1(実開昭64-9437号公報)及び特許文献2(特開2016-187253号公報)などに記載されている。
【0003】
前記特許文献1には、所定量のスキューを付加しながら積層される回転子積層鉄心が開示されている。この特許文献1の回転子積層鉄心は、鉄心外径の1個所または複数個所に、スキュー量検知用リマークが形成されている。
【0004】
前記特許文献2には、打ち抜き形成された鉄心片を積層して製造される積層鉄心が開示されている。この特許文献2の積層鉄心は、鉄心片の側部に、光の反射状況が異なる一定幅の光反射特定領域が周方向に沿って設けられている。また、前記積層鉄心において、鉄心片の側部の連続により形成される側面には、光反射特定領域により形成される縞模様が存在している。
【0005】
前記特許文献2の積層鉄心では、上述の構成により、鋼板から多列取りされた鉄心片の打抜き列の確認、あるいは鉄心片の転積状況やスキューの確認を容易に行うことができる。
【0006】
なお、前記特許文献2には、鋼板材料から鉄心片を打ち抜く際に、該鉄心片の切断部分に形成されるせん断面及び破断面の比率を変えることにより、前記光反射特定領域を形成する点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実開昭64-9437号公報
【文献】特開2016-187253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、前記特許文献1のように積層体の外周部に切り欠きなどを設けると、積層体を形成する鋼板の回転対称性が損なわれる。そのため、積層体の重量のアンバランスの原因になるとともに、固定子コアの磁気特性に影響を与える可能性がある。
【0009】
また、前記特許文献2のように、鉄心片の切断部分に形成される加工面においてせん断面及び破断面の比率を変える場合でも、鉄心片の磁気特性に影響を与える可能性がある。
【0010】
本発明の目的は、成形鋼板を厚み方向に複数枚積層することによって得られた成形鋼板積層体の性能に影響を与えることなく、前記成形鋼板積層体の積層状態を容易に確認可能な鋼板積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記技術的課題を解決するために、以下の鋼板積層体の製造方法を提供する。
【0012】
本発明の第1の観点からの鋼板積層体の製造方法は、鋼板を打ち抜き成形することによって、製品部と、前記製品部の外側に配置されるスクラップ部と、前記スクラップ部の外縁に配置される切り欠き部と、を有する複数の成形鋼板を成形する成形工程と、前記複数の成形鋼板を、厚み方向に積層することにより、成形鋼板積層体を得る成形鋼板積層工程と、前記成形鋼板積層体から前記スクラップ部を切断することによって鋼板積層体を得る積層体加工工程と、を有する。
【0013】
また、本発明の第2の観点からの成形鋼板積層体は、鋼板の打ち抜き成形によって得られた複数枚の成形鋼板が厚み方向に積層された成形鋼板積層体である。前記成形鋼板は、製品部と、前記製品部の外周側に位置するスクラップ部と、前記スクラップ部の外周縁に位置する切り欠き部とを備え、成形鋼板を中心軸周りに周方向に移動させることで、前記切り欠き部が他の成形鋼板の前記切り欠き部と異なる周方向位置に積層される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の鋼板積層体の製造方法によれば、各成形鋼板の外周側に位置するスクラップ部に設けられた切り欠き部を、成形鋼板を積層する際の位置決め用のマークとして用いることができる。よって、鋼板積層体において、成形鋼板の周方向の位置を目視により確認することができる。
【0015】
また、製品部の外周に設けられているスクラップ部が切り欠き部を有するため、製品の性能に影響を与えることがない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態にかかる製造方法を用いて製造された鋼板積層体を固定子コアとして用いたモータの概略構成を、中心軸を含む断面で模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、鋼板積層体の一例としての固定子コアの概略構成を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、固定子コアの製造方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、鋼板打ち抜き工程において鋼板から打ち抜き鋼板を打ち抜く際の前記打ち抜き鋼板の配置を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、分割コア片成形部を成形する前の打ち抜き鋼板の平面図である。
【
図6】
図6は、成形鋼板の概略構成を示す平面図である。
【
図7】
図7は、プッシュバック加工において、(a)第1工具を第2工具に対して移動させた状態、(b)第1工具を元の位置に戻した状態を、それぞれ模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、成形鋼板が厚み方向に複数枚積層された成形鋼板積層体の概略構成を示す斜視図である。
【
図9】
図9は、切断加工後の固定子コア積層体の概略構成を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。なお、図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。また、各図中の構成部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0018】
本明細書において、「鋼板積層体」とは、鋼板をプレス装置などで打ち抜いて得られた成形鋼板を厚み方向に積層した後に、外周部などを切断して製品部のみとした状態の製品を意味する。「成形鋼板積層体」とは、鋼板積層体の製造途中の中間体であり、成形鋼板を厚み方向に積層し、外周部などを切断する前の状態の積層体を意味する。
【0019】
本発明の実施形態にかかる鋼板積層体は、モータの固定子などに好適に用いられる。以下の実施形態では、本発明にかかる鋼板積層体を、モータの固定子コア積層体70として使用する例について説明するが、他の用途に用いられる鋼板積層体においても、同様に用いることができる。
【0020】
また、以下の説明において、“固定”、“接続”及び“取り付ける”等(以下、固定等)の表現は、部材同士が直接、固定等されている場合だけでなく、他の部材を介して固定等されている場合も含む。すなわち、以下の説明において、固定等の表現には、部材同士の直接的及び間接的な固定等の意味が含まれる。
【0021】
なお、以下の説明では、回転子の中心軸と平行な方向を「軸方向」、中心軸に直交する方向を「径方向」、中心軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。ただし、この方向の定義により、本発明に係るモータの使用時の向きを限定する意図はない。
【0022】
(モータの構成)
図1に、本発明の実施形態にかかる鋼板積層体70を用いたモータ1の概略構成を示す。モータ1は、回転子2と、固定子3と、ハウジング4と、蓋板5とを備える。回転子2は、固定子3に対して、中心軸Pを中心として回転する。本実施形態では、モータ1は、筒状の固定子3内に、回転子2が中心軸Pを中心として回転可能に配置された、いわゆるインナーロータ型のモータである。
【0023】
回転子2は、シャフト20と、回転子コア21と、マグネット22とを備える。回転子2は、固定子3の径方向内側に配置され、固定子3に対して回転可能である。
【0024】
本実施形態では、回転子コア21は、中心軸Pに沿って延びる円筒状である。回転子コア21は、所定の形状に形成された電磁鋼板を、厚み方向に複数枚、積層することによって構成される。
【0025】
回転子コア21には、中心軸Pに沿って延びるシャフト20が軸方向に貫通した状態で固定される。これにより、回転子コア21は、シャフト20とともに回転する。また、本実施形態では、回転子コア21の外周面上には、周方向に所定の間隔で複数のマグネット22が配置される。なお、マグネット22は、周方向に繋がるリングマグネットであっても良い。
【0026】
固定子3は、ハウジング4内に収容される。本実施形態では、固定子3は、筒状であり、径方向内側に回転子2が配置される。すなわち、固定子3は、回転子2に対して径方向に対向して配置される。回転子2は、固定子3の径方向内側に中心軸Pを中心として回転可能に配置される。
【0027】
固定子3は、固定子コア31と、固定子コイル36と、ブラケット37とを備える。本実施形態では、固定子コア31は、軸方向に延びる円筒状である。固定子コア31は、所定の形状に形成され且つ厚み方向に積層された複数枚の電磁鋼板を有する。本実施形態では、電磁鋼板は、本発明の成形鋼板からスクラップ部42を切断した部材であり、固定子コア31は、本発明の鋼板積層体の一例である。
【0028】
図2に示すように、固定子コア31は、筒状のヨーク31aから径方向内側に延びる複数のティース31bを有する。固定子コイル36は、固定子コア31のティース31bに装着された絶縁材料(例えば、絶縁性の樹脂材料)からなるブラケット37上に巻かれる。なお、ブラケット37は、固定子コア31の軸方向の両端面上に配置される。
【0029】
固定子コア31は、中心軸Pを中心に環状に配置された複数の分割コア32を有する。
図2に示す例では、固定子コア31は、12個の分割コア32を有する。各分割コア32は、筒状のヨーク31aの一部を構成する分割ヨーク部32aと、一つのティース31bとを有する。
【0030】
なお、固定子コア31を構成する分割コア32の数は、ティース31bの数に応じて適宜決められる。すなわち、固定子コアのティースの数が12個よりも多ければ、分割コアの数は12個よりも多い。一方、固定子コアのティースの数が12個よりも少なければ、分割コアの数は12個よりも少ない。
【0031】
分割コア32は、複数枚積層された板状の分割コア片33を有する。
図2に示す例では、分割コア32を構成する複数の分割コア片33は、同じ形状を有する。分割コア片33は、分割ヨーク部32aの一部を構成する分割ヨーク片33aと、ティース31bの一部を構成するティース片33bとを有する。複数の分割コア片33は、厚み方向に積層された状態で、分割ヨーク片33a及びティース片33bにそれぞれ設けられたかしめ部33cによって、互いに連結されている。
【0032】
分割ヨーク部32aの周方向の端部と、該分割ヨーク部32aと周方向に隣り合う分割ヨーク部32aの周方向の端部とは、接触する。これにより、複数の分割コア32における分割ヨーク部32aによって、固定子コア31の円環状のヨーク31aが構成される。
【0033】
ハウジング4は、筒状であり、中心軸Pに沿って延びる。本実施形態では、ハウジング4は、内部に回転子2及び固定子3を収容可能な内部空間を有する円筒状である。ハウジング4は、円筒状の側壁4aと、側壁4aの軸方向の一方の端部を覆う底部4bと、を有する。ハウジング4の軸方向の他方側の開口は、蓋板5によって覆われる。ハウジング4及び蓋板5は、例えば鉄を含む材料によって構成される。有底筒状のハウジング4の開口が蓋板5によって覆われることにより、ハウジング4の内部には内部空間が形成される。特に図示しないが、蓋板5は、ハウジング4に対して、例えば、ボルト等によって固定されてもよいし、圧入や接着などの方法によって固定されてもよい。なお、ハウジング4及び蓋板5は、鉄を含む材料に限らず、アルミニウム(アルミニウム合金を含む)などの他の材料によって構成されてもよい。
【0034】
(固定子コアの製造方法) 次に、上述のような構成を有
する固定子コア31の製造方法について説明する。
【0035】
図3は、固定子コア31の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図4は、鋼板打ち抜き工程において鋼板から打ち抜き鋼板40aを打ち抜く際の打ち抜き鋼板40aの配置を模式的に示す図である。
図5は、分割コア片成形部49を成形する前の成形前鋼板40の平面図である。
図6は、分割コア片33となる分割コア片成形部49が成形された成形鋼板50を示す平面図である。
図7は、プッシュバック加工を模式的に示す図である。
図8は、複数枚の成形鋼板50が厚み方向に積層された成形鋼板積層体60を示す斜視図である。
図9は、成形鋼板積層体60を切断加工することによって得られた固定子コア積層体70を示す平面図である。
【0036】
図4に示すように、最初に、図示しないプレス装置によって鋼板100から打ち抜き鋼板40aが打ち抜かれる。この工程が、
図3に示す鋼板打抜き工程である(ステップS1)。打ち抜き鋼板40aは、後続する中央孔打抜き工程(ステップS2)及びスロット打ち抜き工程(ステップS3)において打ち抜かれる中央孔45及びスロット46を有しないが、
図4においては、成形前鋼板40の構成の理解の容易のため、中央孔45及びスロット46を破線で図示する。
【0037】
本実施形態では、鋼板打抜き工程(ステップS1)によって得られた打ち抜き鋼板40aは、略正12角形である。打ち抜き鋼板40aは、後述するように、中央部分に製品部41と製品部の外側にスクラップ部42とを有する。スクラップ部42は、後述する積層工程(ステップS6)の後に続く加工工程(ステップS7)において、製品部41から切断除去される。製品部41とスクラップ部42との境界は、後述する成形鋼板積層体60を切断する際の切断位置Xであり、
図4,
図5及び
図6及び
図8において、破線で図示する。
【0038】
また、鋼板打ち抜き工程で、打ち抜き鋼板40aのスクラップ部42の外周縁に、切り欠き部43が形成される。切り欠き部43がスクラップ部42の外周縁に形成されていることにより、後述の成形鋼板50の積層工程(ステップS6)時において、切り欠き部43の位置を容易に確認できる。これにより、成形鋼板50を回転させて積層する場合などにおいて、成形鋼板積層体60の特定の位置に切り欠き部43が存在するか否かによって、積層工程(ステップS6)の成形鋼板50の積層配置状態を容易に確認できる。すなわち、切り欠き部43は、成形鋼板50の積層配置の状態を確認するためのマークとして機能する。
【0039】
本実施形態では、切り欠き部43は、スクラップ部42の外周縁に1箇所形成されている。ただし、切り欠き部43の数は、1つに限定されるものではなく、スクラップ部42の外周縁の複数個所に配置されていてもよい。
【0040】
なお、鋼板打ち抜き工程では、プレス装置は、図示しない上下の金型で鋼板100を挟むことによって打ち抜き鋼板40aを打ち抜く。そのため、切り欠き部43は、打ち抜き鋼板40aの厚み方向の全体にわたって形成される。
【0041】
上記のようにして鋼板100から打ち抜かれた打ち抜き鋼板40aに対し、中央孔打ち抜き工程(ステップS2)及びスロット打ち抜き工程(ステップS3)を行い、円形の中央孔45及びスロット46を形成することにより、成形前鋼板40が得られる。本実施形態では、最初に、打ち抜き鋼板40aに円形の中央孔45を打ち抜く中央孔打ち抜き工程(ステップS2)などの処理を行う。中央孔45の中心は、モータ1の中心軸Pと一致する。
【0042】
次に、中央孔45を囲んで複数のティース片33bを形成するために、中央孔45の周りに複数のスロット46を打ち抜く。この工程が、
図3に示すスロット打ち抜き工程である(ステップS3)。
【0043】
上述の中央孔打ち抜き工程(ステップS2)及びスロット打ち抜き工程(ステップS3)は、プレス加工によって行われる。中央孔打ち抜き工程及びスロット打ち抜き工程は、従来の固定子コアの製造方法と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0044】
図5に、上述のように中央孔45及びスロット46が形成された成形前鋼板40を示す。
【0045】
図5に示すように、成形前鋼板40には、外周側に位置するスクラップ部42に複数の貫通穴47が打ち抜かれている。成形前鋼板40の貫通穴47の打ち抜きは、上述の中央孔打ち抜き工程(ステップS2)またはスロット打ち抜き工程(ステップS3)と同時に行ってもよいし、中央孔打ち抜き工程及びスロット打ち抜き工程の前、または後、もしくはそれらの工程の間で行ってもよい。
【0046】
次に、
図6に示すように、成形前鋼板40の中央孔45の外周側に、分割コア片33となる分割コア片成形部49a,49bを、環状に複数並んで成形し、成形鋼板50とする。分割コア片成形部49a,49bは、分割ヨーク片33aとなる分割ヨーク片成形部48及びティース片33bを有する。分割コア片成形部49を成形する工程では、分割ヨーク片成形部48を成形する。具体的には、分割コア片成形部49a,49bを成形する工程では、成形前鋼板40において、中央孔45の中心に対してティース片33bよりも外側を、分割ヨーク片33aの形状で厚み方向に打ち抜いた後、該打ち抜いた部分を元の位置に戻す、いわゆるプッシュバック加工を行う。この工程が、
図3に示すプッシュバック工程である(ステップS4)。
【0047】
プッシュバック加工は、
図7に示すように、成形前鋼板40の一部を厚み方向に挟み込む上下一対の工具を有する第1工具W1と、成形前鋼板40の一部を厚み方向に挟み込む上下一対の工具を有する第2工具W2とを用いて行われる。第1工具W1は、第2工具W2に対して、成形前鋼板40の厚み方向に移動可能である。本実施形態では、第1工具W1は、分割ヨーク片33aと同じ形状を有する。
【0048】
図7(a)に示すように、第1工具W1が第2工具W2に対して成形前鋼板40の厚み方向の一方に移動することにより、成形前鋼板40のうち第1工具W1に挟み込まれた部分と第2工具W2に挟み込まれた部分との境界では、せん断加工が行われる。なお、第2工具W2に対する第1工具W1の移動距離は、成形前鋼板40を分離させる移動距離であってもよいし、成形前鋼板40を分離させない移動距離であってもよい。
【0049】
その後、
図7(b)に示すように、第1工具W1を第2工具W2に対して成形前鋼板40の厚み方向の他方に移動させることにより、第1工具W1を元の位置に戻す。これにより、前記境界では、成形前鋼板40のうち第1工具W1に挟み込まれた部分が第2工具W2に挟み込まれた部分に嵌め込まれる。
【0050】
分割コア片成形部49a,49bは、上述のようなプッシュバック加工が行われる押出部49aと、押し出されない非押出部49bとを有する。
図5に示すように、押出部49aと非押出部49bとは、周方向に交互に位置する。
【0051】
押出部49aと、プッシュバック加工によって押し出されない部分との間には、分断部49cが形成される。すなわち、押出部49aと非押出部49bとの境界、及び、押出部49aと成形前鋼板40の外周側との境界には、それぞれ、プッシュバック加工によって、分断部49cが形成される。分断部49cでは、押出部49aが、それ以外の部分に対して摩擦によって保持される。
【0052】
ここで、上述のようにプッシュバック加工によって、分割コア片33となる分割コア片成形部49a,49bが環状に複数並んだ成形鋼板50を形成する工程が、プッシュバック工程(ステップS4)に対応する。
【0053】
なお、鋼板100から打ち抜き鋼板40aを打ち抜く鋼板打抜き工程(ステップS1)、打ち抜き鋼板40aから中央孔45を打ち抜く中央孔打抜き工程(ステップS2)、複数のスロット46を打ち抜くスロット打ち抜き工程(ステップS3)を行うことにより成形前鋼板40を得る工程、及び、成形前鋼板40に分割コア片成形部49a,49bを成形するプッシュバック工程(ステップS4)を行なうことにより成形鋼板50を得る一連の工程が本発明の成形工程に対応する。
【0054】
以上のように、プッシュバック加工によって、分割コア片成形部49a,49bを成形することにより、加工時に分割コア片成形部49a,49bが折り曲げられない。これにより、加工による残留応力及び残留ひずみの発生を抑制できる。よって、分割コア片33、すなわち固定子コア31の寸法精度を高めることができる。また、上述のように残留応力及び残留ひずみの発生を抑制することにより、分割コア片33における磁束の流れの乱れを抑制できるため、固定子コア31の磁気特性の低下を抑制できる。
【0055】
上述のように、プッシュバック加工によって、成形前鋼板40に分割コア片成形部49a,49bを成形した後、分割ヨーク片成形部48及びティース片33bに、かしめ部33cを形成する。かしめ部33cは、分割ヨーク片成形部48及びティース片33bに、厚み方向の一方に突出するとともに前記厚み方向他方側の面に凹部を有する凸部を形成することにより、得られる。このかしめ部33cを形成する工程が、
図3に示すかしめ部成形工程である(ステップS5)。
【0056】
その後、分割コア片成形部49a,49bが形成された成形鋼板50を、厚み方向に積層して、隣り合う成形鋼板50のかしめ部33cをかしめることにより、
図8に示すような成形鋼板積層体60を得る。この工程が、
図3に示す積層工程である(ステップS6)。積層工程(ステップS6)は、本発明の成形鋼板積層工程に対応する。
【0057】
積層工程(ステップS6)では、複数の成形鋼板50を、中心軸Pの周りに所定の角度で1枚ずつ回転させ、周方向に異なる位置で積層する。このように成形鋼板50を1枚ずつ回転させて積層することにより、スクラップ部42の外周縁に設けられている切り欠き部43の位置は、それぞれ、周方向に異なる。それぞれの成形鋼板50の回転角度は、例えば、鋼板のティース片33bの数に応じて決定すればよい。本実施形態では、成形鋼板50は12個のティース片33bを有するため、成形鋼板50の回転角度は30度、もしくは30度の倍数とすることが好ましい。
【0058】
本実施形態では、複数の成形鋼板50を1枚ごとに30度ずつ回転させて積層しているが、複数枚の成形鋼板50の切り欠き部43が周方向で同じ位置となるように所定枚数ごとに回転させて積層してもよい。
【0059】
なお、積層工程(ステップS6)において、スクラップ部42の貫通穴47は、回転角度の位置合わせに用いられる。すなわち、貫通孔47は、積層工程(ステップS6)において、軸線方向から見て貫通孔47が重なる位置に成形鋼板50を回転させて積層することで、複数の成形鋼板50を、中心軸Pがずれることなく、容易に積層できる。
【0060】
上記のようにして作成された成形鋼板積層体60は、複数の成形鋼板50を1枚ごとに回転させて積層しているため、成形鋼板50の回転角度に応じて、側面に切り欠き部43の位置が周方向に異なった状態に配置される。これにより、成形鋼板積層体60の側面に表れた切り欠き部43の位置を確認することで、積層の状況を容易に視認することができる。
【0061】
成形鋼板積層体60は放電加工等によって、分割ヨーク片成形部48の外周側の切断位置X(
図8に破線で示す位置)でスクラップ部42と製品部41とを切断される。これにより、
図9に上面視で示すような固定子コア積層体70を得る。固定子コア積層体70は、本発明の鋼板積層体の一例である。この工程が、
図3に示す加工工程(ステップS7)である。加工工程(ステップS7)は、本発明の積層体加工工程に対応する。成形鋼板積層体60を切断する際の切断位置Xは、分割ヨーク片成形部48の外周端よりも内周側の位置である。
【0062】
上述のように成形鋼板積層体60からスクラップ部42を切断位置Xで切断した後も、固定子コア積層体70において隣り合う分割ヨーク片成形部48の間には、分断部49cが残る。これ
により、固定子コア積層体70を複数の分割コア32に分割することができる。
【0063】
以上説明したように、本実施形態にかかる鋼板積層体の製造方法によれば、各成形鋼板50の外周側に位置するスクラップ部42に設けられた切り欠き部43を、成形鋼板積層体60における成形鋼板50の位置決め用のマークとして用いることができる。よって、成形鋼板50を積層して得られた成形鋼板積層体60において、成形鋼板50の周方向の位置を目視により確認することができる。
【0064】
また、本実施形態にかかる鋼板積層体の製造方法によれば、製品部41の外周に設けられているスクラップ部42が切り欠き部43を有するので、前記鋼板積層体である固定子コア31の磁気特性に影響を与えることがない。
【0065】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施可能である。
【0066】
前記実施形態では、モータ1の固定子コア31の製造方法について説明している。しかしながら、製品部の周囲にスクラップ部を有する成形鋼板を厚み方向に積層した構造を有する構造体を製造する際に、上述の実施形態の製造方法を適用してもよい。
【0067】
前記実施形態では、モータ1の固定子コア31は、電磁鋼板を回転積層することにより得られる。しかしながら、回転積層ではない固定子コアを製造する際に、上述の実施形態の製造方法を適用してもよい。
【0068】
前記実施形態では、モータ1の固定子コア31は、複数の分割コア32を有する。しかしながら、分割しない円板状の固定子コアを製造する際に、上述の実施形態の製造方法を適用してもよい。この場合は、分割コアを形成するためのプッシュバック加工を行う前の成形前鋼板を積層することによって、成形鋼板積層体を得ればよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、板状の成形鋼板が複数枚積層された鋼板積層体の製造方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 モータ 2 回転子 3 固定子 4 ハウジング 5 蓋板20 シャフト21 回転子コア22 マグネット31 固定子コア31a ヨーク31b ティース32 分割コア33 分割コア片33a 分割ヨーク片33b ティース片33c かしめ部36 固定子コイル37 ブラケット40 成形前鋼板40a 打ち抜き鋼板41 製品部42 スクラップ部43 切り欠き部45 中央孔46 スロット47 貫通孔48 分割ヨーク片成形部49a 分割コア片成形部(押出部)49b 分割コア片成形部(非押出部)49c 分断部50 成形鋼板60 成形鋼板積層体70 固定子コア積層体100 鋼板