(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】電線被覆材用組成物、絶縁電線およびワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
C08L 51/00 20060101AFI20220509BHJP
C08F 255/00 20060101ALI20220509BHJP
C08K 3/011 20180101ALI20220509BHJP
C08K 3/014 20180101ALI20220509BHJP
C08K 3/016 20180101ALI20220509BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20220509BHJP
C08K 5/02 20060101ALI20220509BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20220509BHJP
C08L 23/02 20060101ALI20220509BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20220509BHJP
H01B 3/44 20060101ALI20220509BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
C08L51/00
C08F255/00
C08K3/011
C08K3/014
C08K3/016
C08K3/22
C08K5/02
C08K5/13
C08L23/02
C08L23/26
H01B3/44 F
H01B3/44 L
H01B3/44 P
H01B7/00 301
(21)【出願番号】P 2020118149
(22)【出願日】2020-07-09
(62)【分割の表示】P 2018052721の分割
【原出願日】2018-03-20
【審査請求日】2021-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 達也
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-181413(JP,A)
【文献】特開2011-168697(JP,A)
【文献】国際公開第2009/008537(WO,A1)
【文献】特開2010-174157(JP,A)
【文献】特開2017-174551(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084613(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/175076(WO,A1)
【文献】特開2008-234883(JP,A)
【文献】特開2018-154679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 255/00
H01B 3/44
H01B 7/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリオレフィンに対してシランカップリング剤をグラフト重合させたシラングラフトポリオレフィン
(B)未変性ポリオレフィン
(C)カルボキシ基、エステル基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基から選択される1種または2種以上の官能基を有する変性ポリオレフィン
(D)難燃剤
(E)架橋触媒
を含み、
前記(A)シラングラフトポリオレフィンの、シラングラフト前のポリオレフィンが、密度0.865~0.890g/cm
3、融点80℃以上であり、
前記(B)未変性ポリオレフィンが、密度0.860~0.950g/cm
3であり、
前記(A)シラングラフトポリオレフィンを30~90質量部
前記(B)未変性ポリオレフィンと前記(C)変性ポリオレフィンとを合計で10~70質量部含
み、
前記(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対し、前記(D)難燃剤として、
(D-1)金属水酸化物10~100質量部、
(D-2)臭素系難燃剤10~40質量部および三酸化アンチモン5~20質量部、
の少なくともいずれか一方を含むことを特徴とする電線被覆材用組成物。
【請求項2】
前記(D)難燃剤として、
前記(D-1)金属水酸化物を少なくとも含むことを特徴とする請求項1に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項3】
前記(D-1)金属水酸化物は、平均粒径が0.1~10μmの、表面処理を施されていない粒子であることを特徴とする請求項2に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項4】
前記(D)難燃剤として、
前記(D-1)金属水酸化物と、
前記(D-2)臭素系難燃剤および三酸化アンチモン
の両方を含むことを特徴とする請求項2または3に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項5】
前記(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対し、前記(D)難燃剤として、
前記(D-1)金属水酸化物10~50質量部、および
前記(D-2)臭素系難燃剤10~20質量部および三酸化アンチモン5~20質量部、
を含むことを特徴とする請求項4に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項6】
前記(D-2)において、前記臭素系難燃剤と前記三酸化アンチモンが、臭素系難燃剤:三酸化アンチモン=3:1~2:1の当量比で含まれることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項7】
前記(A)シラングラフトポリオレフィンの、シラングラフト前のポリオレフィンが、密度0.865~0.880g/cm
3、190℃×2.16kg荷重におけるメルトフローレイト0.5~5g/10分、ショアA硬度55~70、曲げ弾性率3~50MPa、融点100℃以上であり、
前記(B)未変性ポリオレフィンが、190℃×2.16kg荷重におけるメルトフローレイト0.5~5g/10分、曲げ弾性率3~200MPa、融点65℃以上であることを特徴とする請求項
1から6のいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項8】
前記(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するポリオレフィンおよび前記(B)未変性ポリオレフィンが、それぞれ、エチレンおよびプロピレンの単独重合体、エチレンまたはプロピレンとα-オレフィンとの共重合体、ポリオレフィンエラストマーから選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項9】
前記(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するポリオレフィンおよび前記(B)未変性ポリオレフィンが、それぞれ、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンから選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項
8に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項10】
前記(A)シラングラフトポリオレフィンは、前記(E)架橋触媒と混合して架橋させた際のゲル分率が、85%以上であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項11】
前記(C)変性ポリオレフィンは、
1種または2種以上のα-オレフィンからなる未変性のベースポリオレフィンに、前記官能基を有する重合性化合物をグラフト重合させたもの、および
前記官能基を有する重合性化合物と、該重合性化合物と重合可能なオレフィンとを共重合させたもの、
から選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項12】
前記(E)架橋触媒は、錫、亜鉛、鉄、鉛、コバルトより選択される金属のカルボン酸塩、チタン酸エステル、有機塩基、無機酸、有機酸より選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項13】
さらに
前記(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対し、
(F)酸化防止剤を1~10質量部、
(G)金属不活性剤を1~10質量部、
(H)滑剤を1~10質量部、
から選択される1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1から
12のいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項14】
前記(F)酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤であり、
前記(G)金属不活性剤は、銅不活性剤、キレート化剤から選択される1種または2種以上であり、
前記(H)滑剤は、炭化水素、脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸アミド、アルキレン脂肪酸アミド、金属せっけん、エステル系滑剤から選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項13に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項15】
さらに
前記(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対し、
(I-1)酸化亜鉛を1~15質量部およびイミダゾール系化合物を1~15質量部、
(I-2)硫酸亜鉛を1~15質量部、
のいずれか一方を含むことを特徴とする請求項1から
14のいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物。
【請求項16】
請求項1から
15のいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物を架橋させてなる電線被覆材を有することを特徴とする絶縁電線。
【請求項17】
前記電線被覆材のゲル分率が、50%以上であることを特徴とする請求項16に記載の絶縁電線。
【請求項18】
請求項16または17に記載の絶縁電線を有することを特徴とするワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線被覆材用組成物、絶縁電線およびワイヤーハーネスに関し、さらに詳しくは、自動車等の車両に配索される電線の被覆材料として好適な電線被覆材用組成物および、これを用いた絶縁電線およびワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車に用いられる絶縁電線は、エンジンの周辺等の高温を発する箇所に用いられることもあり、高い耐熱性が求められる。従来、このような絶縁電線の被覆材としては、架橋ポリ塩化ビニル樹脂や、架橋ポリオレフィン樹脂が用いられていた。これらの樹脂の架橋方法は、電子線で架橋する方式が主流であった(例えば特許文献1)。
【0003】
しかし、電子線架橋は、高価な電子線架橋装置などを必要とし、設備費用が高価であり、製品コストが上昇してしまうという問題があった。そこで安価な設備で架橋が可能であるシラン架橋が注目されている。電線、ケーブルなどの被覆材に用いられる、シラン架橋が可能なポリオレフィン組成物が公知である(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-294039号公報
【文献】特開2000-212291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シランによる架橋は、水架橋と称されるように、空気中の水分で架橋が促進される。そこで、成形時に、意図しない架橋反応が進行し、部分的な硬化物が生成することを防ぐため、シラン変性樹脂と、架橋触媒、その他の成分とをそれぞれバッチ化し、混合する方法がとられている。しかし、架橋触媒やその他の成分を非架橋樹脂に添加し、バッチ化するため、樹脂全体の架橋度が低下してしまい、耐熱性や、機械的特性が低下してしまう懸念があった。
【0006】
また近年、ハイブリッド自動車などの普及により、高電圧、高電流に対応した電線が求められており、電線直径の大きな電線が多くなっている。直径の大きな絶縁電線では、組立作業性の確保等の観点から、被覆材の柔軟性が求められる。しかしながら、被覆材を柔軟にすると、製造時に、原料であるペレットや、架橋前の絶縁電線が融着したり、加熱時に電線被覆材が変形したりするなどの問題であった。
【0007】
本発明は、難燃性に優れるシラン架橋可能なポリオレフィン系組成物であって、柔軟性に優れるとともに、耐融着性、耐加熱変形性に優れる電線被覆材用組成物および、これを用いた絶縁電線およびワイヤーハーネスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電線被覆材用組成物は、(A)ポリオレフィンに対してシランカップリング剤をグラフト重合させたシラングラフトポリオレフィンと、(B)未変性ポリオレフィンと、(C)カルボキシ基、エステル基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基から選択される1種または2種以上の官能基を有する変性ポリオレフィンと、(D)難燃剤と、(E)架橋触媒と、を含み、前記(A)シラングラフトポリオレフィンの、シラングラフト前のポリオレフィンが、密度0.855~0.890g/cm3、融点80℃以上であり、前記(B)未変性ポリオレフィンが、密度0.855~0.950g/cm3であることを要旨とする。
【0009】
前記(A)シラングラフトポリオレフィンの、シラングラフト前のポリオレフィンが、密度0.865~0.880g/cm3、190℃×2.16kg荷重におけるメルトフローレイト0.5~5g/10分、ショアA硬度55~70、曲げ弾性率3~50MPa、融点100℃以上であり、前記(B)未変性ポリオレフィンが、190℃×2.16kg荷重におけるメルトフローレイト0.5~5g/10分、曲げ弾性率3~200MPa、融点65℃以上であることが好ましい。
【0010】
前記(A)シラングラフトポリオレフィンを30~90質量部と、前記(B)未変性ポリオレフィンと前記(C)変性ポリオレフィンとを合計で10~70質量部含み、前記(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対し、前記(D)難燃剤として、(D-1)金属水酸化物10~100質量部と、(D-2)臭素系難燃剤10~40質量部および三酸化アンチモン5~20質量部と、の少なくともいずれか一方を含み、前記(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対し、前記(E)架橋触媒を0.01~1質量部を含むことが好ましい。
【0011】
さらに、前記(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対し、(F)酸化防止剤を1~10質量部と、(G)金属不活性剤を1~10質量部と、(H)滑剤を1~10質量部と、を含むことが好ましい。
【0012】
さらに、前記(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対し、(I-1)酸化亜鉛を1~15質量部およびイミダゾール系化合物を1~15質量部または、(I-2)硫酸亜鉛を1~15質量部のいずれか一方を含むことが好ましい。
【0013】
前記(A)シラングラフトポリオレフィンおよび前記(B)未変性ポリオレフィンを構成するポリオレフィンが、それぞれ、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンから選択される1種または2種以上であることが好ましい。
【0014】
本発明に係る絶縁電線は、上記の電線被覆材用組成物を架橋させてなる電線被覆材を有することを要旨とする。
【0015】
本発明に係るワイヤーハーネスは、上記の絶縁電線を有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る電線被覆材用組成物によれば、難燃性に優れるシラン架橋可能なポリオレフィン系組成物であって、柔軟性に優れるとともに、耐融着性、耐加熱変形性に優れる電線被覆材用組成物を提供することができる。
【0017】
一般にポリオレフィンは、密度が低いものほど、柔軟性に優れるが、融点が低くなる傾向にあり、柔軟性と、耐融着性や耐加熱変形性を両立することが困難であった。本発明は、密度と融点を適切な範囲とすることにより、柔軟性に優れるとともに、耐融着性、耐加熱変形性に優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0019】
本発明に係る電線被覆材用組成物(以下、「本組成物」ともいう)は、(A)シラングラフトポリオレフィンと、(B)未変性ポリオレフィンと、(C)変性ポリオレフィンと、(D)難燃剤と、(E)架橋触媒とを含む。さらに、(F)酸化防止剤、(G)金属不活性剤、(H)滑剤、(I)亜鉛系安定剤を含むことが好ましい。以下に各成分の詳細を説明する。
【0020】
(A)シラングラフトポリオレフィンは、主鎖となるポリオレフィンに、シランカップリング剤をグラフト重合させ、シラングラフト鎖を導入したものである。
【0021】
(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するポリオレフィンは、密度が、0.855~0.890g/cm3の範囲内のものが好ましい。より好ましくは、0.860~0.885g/cm3の範囲内であり、さらに好ましくは、0.865~0.880g/cm3の範囲内である。ポリオレフィンは、低密度である方がシランカップリング剤をグラフトしやすく、柔軟性に優れるが、密度が0.855g/cm3未満では、融点が過度に低くなりやすく、ペレットや架橋前の成形品が融着しやすくなり、加熱時の変形が発生しやすくなる。また、電線の耐熱性、耐摩耗性が低下し易く、樹脂が柔らかくなりすぎるため、混練性が低下する虞がある。一方、ポリオレフィンの密度が0.890g/cm3を超えるものは、グラフト率が低下し、架橋密度が低下したり、柔軟性が低下したりする虞がある。なお、ポリオレフィンの密度は、ASTM D790に準拠して測定することができる。
【0022】
本組成物は、蒸気に触れさせることで架橋させることができる。このとき、成形品同士が融着することを防止する観点から、シラングラフトポリオレフィンを構成するポリオレフィンは、融点が80℃以上であることが好ましい。より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは120℃以上である。ポリオレフィンの融点が80℃未満であると、成型前のペレットや、架橋前の成形品が融着しやすくなり、加熱時の変形が発生しやすくなる。融点の上限は特に限定しないが、柔軟性やその他の物性に優れるポリオレフィンとしては、概ね135℃以下となる場合が多い。なお、ポリオレフィンの融点は、JIS K7121に準拠して測定することができる。
【0023】
一般に、ポリオレフィンは、ポリマー鎖に分岐が多く、分岐側鎖が長いほど、密度が低く、柔軟性に優れるが、それに伴って融点が低くなる。シラングラフトポリオレフィンを構成するポリオレフィンとして、分岐が少なく、高度に高密度化された結晶部分と、長い分岐側鎖を有し、低密度な非結晶部分とを併せ持つポリオレフィンを選択することにより、適切な密度および融点を有するポリオレフィンを得ることができる。これにより、柔軟性を維持しつつ、耐融着性、耐加熱変形性を満足することができる。
【0024】
(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するポリオレフィンは、190℃×2.16kg荷重のメルトフローレイト(以下、「MFR」ともいう)が0.5~5.0g/10分の範囲内であることが好ましい。より好ましくは1.0~3.0g/10分の範囲内である。ポリオレフィンのMFRが0.5g/10分以上であると押し出し成形性に優れ、生産性が向上する。一方、MFRが5g/10分以下であると、成型時に樹脂形状を保持しやすく、生産性が向上する。なお、MFRは、ASTM D1238に準拠して測定することができる。
【0025】
(A)シラングラフトポリオレフィンに用いられるポリオレフィンは、ショアA硬度が55~70の範囲内であることが好ましい。また、シラングラフトポリオレフィンに用いられるポリオレフィンは、曲げ弾性率が、3~50MPaの範囲内であることが好ましい。ショアA硬度および曲げ弾性率が上記の範囲内であると、柔軟性に優れるとともに、耐摩耗性等の機械的特性にも優れる。なお、ショアA硬度は、ASTM D2240に準拠して測定することができ、曲げ弾性率は、ASTM D790に準拠して測定することができる。
【0026】
(A)シラングラフトポリオレフィンに用いられるポリオレフィンとしては、エチレン、プロピレンの単独重合体、エチレンまたはプロピレンとα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。少なくともポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体から選択される1種以上を用いることが好ましい。
【0027】
上記ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、メタロセン低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、併用してもよい。これらの低密度のポリエチレンを用いると、電線の柔軟性に特に優れ、また、押出生産性が向上する。
【0028】
また上記ポリオレフィンとしては、オレフィンをベースとするポリオレフィンエラストマーを用いてもよい。ポリオレフィンエラストマーを用いると、被覆材に柔軟性を付与することができる。ポリオレフィンエラストマーとしては、例えばポリエチレン系エラストマー(PEエラストマー)、ポリプロピレン系エラストマー(PPエラストマー)などのポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、エチレン-プロピレンゴム(EPM、EPR)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM、EPT)などが挙げられる。
【0029】
(A)シラングラフトポリオレフィンに用いられるシランカップリング剤は、特に限定されるものではないが、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシランなどのビニルアルコキシシランやビニルトリアセトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランなどを例示することができる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
シランカップリング剤のグラフト量の上限は、過剰な架橋を防止するなどの観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下であるとよい。一方、グラフト量の下限は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上であるとよい。グラフト量が0.1%以上であると、本組成物を架橋させて電線被覆材とした際に、十分に架橋し、耐熱性や機械的強度に優れる。なお、グラフト量は、シラングラフト前のポリオレフィンの質量に対して、グラフトされたシランカップリング剤の質量を百分率で表したものである。
【0031】
(A)シラングラフトポリオレフィンは、架橋触媒と混合して架橋させた際に、ゲル分率が85%以上となることが好ましい。より好ましくは90%以上である。ゲル分率が85%以上であると、本組成物を架橋させた際に、十分に架橋し、耐熱性や機械的強度に優れる。
【0032】
上記のシラングラフトポリオレフィンのゲル分率は、例えば、下記の測定方法により得られる。
シラングラフトポリオレフィン100質量部に対して、架橋触媒0.5質量部程度を加えた材料を200℃×5分間混練し、得られた塊状体を200℃×3分間圧縮プレス加工し、厚さ1mmのシートを成形する。これを湿度95%、60℃の恒温恒湿槽で12時間架橋させた後、乾燥させる。
得られた成形シートから0.1g程度の試験体を採取し、試験体を120℃のキシレン溶媒中に浸漬して20時間後に取り出し、乾燥させた後に試験体を秤量する。キシレン浸漬前の質量に対する、キシレン浸漬後の質量を百分率で表したものをゲル分率とする。なお、キシレン浸漬前後において、架橋物中にシラングラフトポリオレフィン以外の物質が含まれる場合には、その質量を除くことで、シラングラフトポリオレフィンのゲル分率を算出することができる。例えば、架橋触媒は、キシレン浸漬後も架橋物中に含まれるものとし、後述のように、架橋触媒を非架橋成分であるバインダー樹脂に希釈して加えた場合には、キシレン浸漬後には、バインダー樹脂は全量キシレン中に溶出したものとして計算すればよい。
【0033】
(A)シラングラフトポリオレフィンは、例えば、ポリオレフィンとシランカップリング剤に遊離ラジカル発生剤を加え、二軸あるいは単軸の押出混練機で混練することにより調製することができる。この他にも、ポリオレフィンを重合する際に、シランカップリング剤を添加する方法を用いてもよい。
このとき、シランカップリング剤の配合量は、ポリオレフィン100質量部に対して、0.5~5質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、3~5質量部の範囲内である。シランカップリング剤の配合量が0.5質量部以上であれば、ポリオレフィンが十分にグラフトされる。一方、シランカップリング剤の配合量が5質量部以下であれば、混練時に架橋反応が過度に進むことを抑制でき、ゲル状物質の発生を抑制でき、生産性、作業性に優れる。
【0034】
遊離ラジカル発生剤としては、ジクミルパーオキサイド(DCP)、ベンゾイルパーオキサイド、ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ブチルパーアセテート、tert-ブチルパーベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサンなどの有機過酸化物を例示することができる。遊離ラジカル発生剤としては、ジクミルパーオキサイド(DCP)が好ましい。
遊離ラジカル発生剤にジクミルパーオキサイド(DCP)を用いる場合には、ポリオレフィンにシランカップリング剤をグラフト重合させる際の混練温度を120℃以上にすることが好ましい。
【0035】
遊離ラジカル発生剤の配合量は、シラングラフトされるポリオレフィン100質量部に対して0.025~0.1質量部の範囲内であることが好ましい。遊離ラジカル発生剤の配合量が0.025質量部以上であれば、グラフト化反応が十分に進行する。一方、遊離ラジカル発生剤の配合量が0.1質量部以下であると、グラフト化反応が過度に進むことを抑制でき、目的のシラングラフトポリオレフィンが得られやすい。
遊離ラジカル発生剤は、不活性物質のタルクや炭酸カルシウムで希釈して加えてもよいし、エチレンプロピレンゴムやエチレンプロピレンジエンゴムやポリオレフィンなどで希釈しペレット化して加えてもよい。
【0036】
(B)未変性ポリオレフィンは、例えば、グラフト重合や共重合などにより、変性基を導入されていない、炭化水素からなるポリオレフィンである。具体的には、エチレン、プロピレンの単独重合体、エチレンまたはプロピレンとα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。少なくともポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体から選択される1種以上を用いることが好ましい。
【0037】
ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、メタロセン低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、併用してもよい。これらの低密度のポリエチレンを用いると、電線の柔軟性に特に優れ、また、押出生産性が向上する。
【0038】
また、(B)未変性ポリオレフィンとしては、オレフィンをベースとするポリオレフィンエラストマーを用いてもよい。ポリオレフィンエラストマーを用いると、被覆材に柔軟性を付与することができる。ポリオレフィンエラストマーとしては、例えばポリエチレン系エラストマー(PEエラストマー)、ポリプロピレン系エラストマー(PPエラストマー)などのポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、エチレン-プロピレンゴム(EPM、EPR)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM、EPT)などが挙げられる。
【0039】
(B)未変性ポリオレフィンは、(A)シラングラフトポリオレフィンの主鎖に用いられるポリオレフィンと同じものでもよいし、異なるものを用いてもよい。同じ種のポリオレフィンを用いると相溶性に優れる。
【0040】
(B)未変性ポリオレフィンとしては、密度が0.855~0.950g/cm3の範囲内のものが用いられる。より好ましくは、0.860~0.940g/cm3の範囲内である。未変性ポリオレフィンの密度が0.855g/cm3未満では、融点が過度に低くなりやすく、ペレットや架橋前の成形品が融着しやすくなり、加熱時の変形が発生しやすくなる。また、樹脂が柔らかくなりすぎるため、混練性が低下する虞がある。一方、未変性ポリオレフィンの密度が0.950g/cm3を超えると、柔軟性が低下する。
【0041】
(B)未変性ポリオレフィンは、融点が65℃以上であることが好ましい。より好ましくは80℃以上、さらに好ましくは100℃以上である。(B)未変性ポリオレフィンの融点が65℃以上であると、耐融着性、耐加熱変形性に優れる。架橋成分である(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するポリオレフィンとして、十分に融点の高いポリオレフィンを用いると、(B)未変性ポリオレフィンの融点は、(A)シラングラフトポリオレフィンを構成するポリオレフィンの融点よりも低くしてもよい。なお、ポリオレフィンの融点は、JIS K7121に準拠して測定することができる。
【0042】
(B)未変性ポリオレフィンは、MFRが0.5~5.0g/10分の範囲内であることが好ましい。より好ましくは1.0~3.0g/10分の範囲内である。ポリオレフィンのMFRが0.5g/10分以上であると押し出し成形性に優れ、生産性が向上する。一方、MFRが5g/10分以下であると、成型時に樹脂形状を保持しやすく、生産性が向上する。なお、MFRはASTM D1238に準拠して測定することができる。
【0043】
未変性ポリオレフィンは、曲げ弾性率が、3~200MPaの範囲内であることが好ましい。より好ましくは10~100MPaであることが好ましい。曲げ弾性率が上記の範囲内であると、柔軟性に優れる。なお、曲げ弾性率は、ASTM D790に準拠して測定することができる。
【0044】
(C)変性ポリオレフィンは、カルボキシ基、エステル基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基から選択される1種または2種以上の官能基を有する変性ポリオレフィンである。(C)変性ポリオレフィンは、1種または2種以上のα-オレフィンからなる未変性のベースポリオレフィンに上記の官能基を有する重合性化合物をグラフト重合させることにより、官能基を導入したものであってもよいし、上記の官能基を有する重合性化合物と、該重合性化合物と重合可能なオレフィンとを共重合させることにより、官能基を導入したものであってもよい。ただし、メタクリロキシアルキルシランなどにより、シラノール誘導体が導入されたものは、(A)シラングラフトポリオレフィンに分類されるため除くこととする。
【0045】
(C)変性ポリオレフィンは、カルボキシ基、エステル基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基から選択される1種または2種以上の官能基を有することから、無機成分に対し高い相互作用を示し、ポリオレフィン鎖を有することから、(A)シラングラフトポリオレフィン、(B)未変性ポリオレフィンなどの樹脂成分との親和性も高い。そのため、(C)変性ポリオレフィンは、樹脂成分と無機成分との相溶化剤として用いることができ、無機成分の分散性、接着性に優れる。
【0046】
カルボキシ基を有する重合性化合物としては、分子内に炭素-炭素二重結合のような重合性基とカルボキシ基とを有する化合物であれば、特に限定されない。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α-クロロアクリル酸、イタコン酸、ブテントリカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、あるいはこれらを分子構造の一部に含む誘導体などが挙げられる。これらの酸が酸無水物を形成する場合は、その酸無水物を用いることにより、酸無水物基を導入することができる。
【0047】
エステル基を有する重合性化合物としては、上記のカルボキシ基を有する重合性化合物とアルコールとの反応により得られるエステル化合物を用いることができる。また、炭素-炭素二重結合を有するアルコールと、各種カルボン酸との反応により得られるエステル化合物であってもよい。このような化合物としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、などが挙げられる。
【0048】
アミノ基を有する重合性化合物としては、分子内に炭素-炭素二重結合のような重合性基とアミノ基とを有する化合物であれば、特に限定されない。例えば、上記のカルボキシ基を有する重合性化合物とアルカノールアミンとの反応により得られるエステル類、ビニルアミン、アリルアミンあるいはこれらを分子構造の一部に含む誘導体などが挙げられる。
【0049】
エポキシ基を有する重合性化合物としては、分子内に炭素-炭素二重結合のような重合性基とエポキシ基とを有する化合物であれば、特に限定されない。例えば、上記のカルボキシ基を有する重合性化合物とグリシジルアルコールとの反応により得られる酸グリシジルエステル類、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルオキシエチルビニルエーテル、スチレン-p-グリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類、p-グリシジルスチレン、あるいはこれらを分子構造の一部に含む誘導体などが挙げられる。
【0050】
上記の官能基を有する重合性化合物と共重合可能な重合性モノマーとしては、分子内に炭素-炭素二重結合のような重合性基を有する化合物であれば、特に限定されない。例えば、エチレン、プロピレンなどの官能基を有しないオレフィンモノマーを用いてもよいし、カルボキシ基、エポキシ基以外の官能基を有する重合性モノマーを用いてもよい。これらは1種を単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0051】
(C)変性ポリオレフィンの配合量は、(A)~(C)の樹脂成分の合計100質量部に対して、3~15質量部であることが好ましい。より好ましくは、4~10質量部である。(C)変性ポリオレフィンを3質量部以上有すると、樹脂成分と無機成分との親和性に優れる。
【0052】
上記樹脂成分(A)~(C)は、(A)~(C)の合計を100質量部とした場合の配合割合が、(A)シラングラフトポリオレフィンが30~90質量部、(B)未変性ポリオレフィンと(C)変性ポリオレフィンとの合計が10~70質量部であることが好ましい。上記の範囲内であると、柔軟性に優れるとともに、十分な架橋密度が得られ、耐熱性、耐摩耗性に優れる。
【0053】
(D)難燃剤としては、金属水酸化物、臭素系難燃剤などが挙げられる。金属水酸化物を用いる場合、単独で難燃性を付与する難燃剤とすることができ、臭素系難燃剤を用いる場合、難燃助剤である三酸化アンチモンと併用することにより、難燃性を向上させることができる。(D)難燃剤は、金属水酸化物または臭素系難燃剤のどちらか一方のみを用いてもよいし、これらを組み合わせて用いてもよい。難燃剤としては、コスト、耐熱変形性に優れるなどの観点から、金属水酸化物が好ましい。
【0054】
金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化ジルコニウムなどが挙げられる。上記の中では、コスト、耐熱変形性に優れるなどの観点から水酸化マグネシウムが好ましい。水酸化マグネシウムは、化学的に合成された合成水酸化マグネシウム、あるいは天然に産出する鉱物を粉砕した天然水酸化マグネシウムのいずれを用いてもよい。
【0055】
金属水酸化物は、平均粒径が0.1~10μmであることが好ましく、0.5~5μmであることがより好ましい。金属水酸化物の平均粒径が、0.1μm以上であると凝集が起こり難く、10μm以下であると分散性に優れる。また金属水酸化物は、分散性を向上させるなどの目的で、シランカップリング剤、高級脂肪酸、ポリオレフィンワックスなどの表面処理剤により処理されていてもよい。本発明においては、(C)変性ポリオレフィンを含むことから、表面処理を施さなくても、金属水酸化物の分散性に優れる。
【0056】
臭素系難燃剤としては、エチレンビステトラブロモフタルイミド、エチレンビストリブロモフタルイミドなどのフタルイミド構造を持つ臭素系難燃剤、エチレンビスペンタブロモフェニル、テトラブロモビスフェノールA(TBBA)、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)、TBBA-カーボネイト・オリゴマー、TBBA-エポキシ・オリゴマー、臭素化ポリスチレン、TBBA-ビス(ジブロモプロピルエーテル)、ポリ(ジブロモプロピルエーテル)、ヘキサブロモベンゼン(HBB)などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。融点が高く耐熱性に優れるなどの観点から、少なくともフタルイミド系難燃剤あるいはエチレンビスペンタブロモフェニルまたはその誘導体から選択される1種以上を用いることが好ましい。
【0057】
難燃助剤である三酸化アンチモンは、臭素系難燃剤と共に添加することで、難燃性を向上させることができる。三酸化アンチモンは、純度99%以上のものを用いるのが好ましい。三酸化アンチモンは、鉱物として産出される三酸化アンチモンを粉砕処理して微粒化して用いることができる。その際、平均粒子径が3μm以下であることが好ましく、更に好ましくは1μm以下である。3μm以下であると樹脂との界面強度に優れる。また三酸化アンチモンは、分散性を向上させるなどの目的で、シランカップリング剤、高級脂肪酸、ポリオレフィンワックスなどの表面処理剤により処理されていてもよい。
【0058】
金属水酸化物を単独で用いる場合、(A)~(C)の樹脂成分の合計100質量部に対して、10~100質量部の範囲内で添加することが好ましい。10質量部以上であると、難燃性に優れる。一方、金属水酸化物を100質量部より多く添加しても、難燃性の向上が見込めなく、また、柔軟性に優れるなどの観点から、上限を100質量部とするとよい。
【0059】
難燃成分として臭素系難燃剤および無機系難燃助剤の併用系を用いる場合には、臭素系難燃剤と無機系難燃助剤とを、当量比で、臭素系難燃剤:無機系難燃助剤=3:1~2:1の範囲内で含むことが好ましい。
【0060】
臭素系難燃剤および無機系難燃助剤を難燃剤として用いる場合、(A)~(C)の樹脂成分の合計100質量部に対して、臭素系難燃剤10~40質量部と三酸化アンチモン5~20質量部の範囲内で配合することが好ましい。臭素系難燃剤が10質量部以上であると、難燃性に優れる。一方、臭素系難燃剤を40質量部より多く添加しても、難燃性の向上が見込めなく、また、柔軟性に優れるなどの観点から、上限を100質量部とするとよい。
【0061】
難燃剤として、金属水酸化物および臭素系難燃剤を併用して用いる場合には、それぞれの添加量を減らすことができ、(A)~(C)の樹脂成分の合計100質量部に対して、金属水酸化物を10~50質量部、臭素系難燃剤を5~20質量部、三酸化アンチモンを5~20質量部の範囲内で配合することが好ましい。
【0062】
(E)架橋触媒は、(A)シラングラフトポリオレフィンをシラン架橋させるためのシラノール縮合触媒である。架橋触媒として、例えば、錫、亜鉛、鉄、鉛、コバルトなどの金属のカルボン酸塩、チタン酸エステル、有機塩基、無機酸、有機酸などを例示することができる。具体的には、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫ビスイソオクチルチオグリコールエステル塩、ジブチル錫β-メルカプトプロピオン酸塩、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、酢酸第一錫、カプリル酸第一錫、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、チタン酸テトラブチルエステル、チタン酸テトラノニルエステル、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジン、硫酸、塩酸、トルエンスルホン酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸などを例示することができる。架橋触媒として好ましくは、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫ビスイソオクチルチオグリコールエステル塩、ジブチル錫β-メルカプトプロピオン酸塩である。
【0063】
(E)架橋触媒は、(A)シラングラフトポリオレフィンと混合すると架橋反応が進行してしまうため、電線を被覆する直前で混合することが好ましい。この際、架橋触媒の分散性を向上させるため、予めバインダー樹脂と混合して架橋触媒バッチとして用いることが好ましい。架橋触媒を予め混合した架橋触媒バッチとして用いることで、(A)シラングラフトポリオレフィンの予期せぬ架橋反応を防止できるとともに、架橋触媒の分散性に優れ、十分に架橋反応が進行する。また、架橋触媒バッチとして用いることで、架橋触媒の添加量の制御が容易である。
【0064】
架橋触媒バッチに用いられるバインダー樹脂としては、前述の(A)~(C)で用いられるポリオレフィンを用いることができる。特に低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、メタロセン低密度ポリエチレンが好ましい。これらの低密度のポリエチレンを用いると、電線の柔軟性が良好となり、押出性に優れ、生産性が向上する。また、例えば、(B)未変性ポリオレフィンの一部を、バインダー樹脂として用いてもよい。
【0065】
架橋触媒バッチは、バインダー樹脂100質量部に対して、0.5~5質量部の範囲内で架橋触媒を含むことが好ましい。より好ましくは1~5質量部の範囲内である。0.5質量部以上であれば架橋反応が進行しやすく、5質量部以下であると触媒の分散性に優れる。
【0066】
(E)架橋触媒は、(A)~(C)の樹脂成分の合計100質量部に対して、架橋触媒の量として、0.01~1.0質量部の範囲内で添加することが好ましく、さらに好ましくは0.02~0.9質量部である。0.01質量部以上であれば架橋反応が進行しやすく、1.0質量部以下であると、過度な架橋を防止できる。
【0067】
(F)酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、特に融点が200℃以上のヒンダードフェノールが好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’-(ヘキサン-1,6-ジイル)ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネート、3,3’,3”,5,5’5”-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a”-(メシチレン-2,4,6-トリル)トリ-p-クレゾール、カルシウムジエチルビス[[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネート]、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,3,5-トリス[(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-キシリル)メチル]-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,6-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、3,9-ビス[2-(3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-プロピノキ)-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンなどが挙げられる。これらは1種単独で用いても2種以上併用してもよい。融点が200℃以上のヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、3,3’,3”,5,5’5”-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a”-(メシチレン-2,4,6-トリル)トリ-p-クレゾール、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンなどが挙げられる。
【0068】
(F)酸化防止剤の添加量は、(A)~(C)の樹脂成分の合計100質量部に対し、好ましくは1~10質量部、より好ましくは1~5質量部の範囲内である。上記の範囲内であると、酸化防止効果に優れるとともに、ブルーム等を抑制できる。
【0069】
(G)金属不活性剤としては、銅などの重金属に対する接触酸化を防ぐことが可能な、銅不活性剤またはキレート化剤などが用いることができる。金属不活性化剤は、2,3-ビス[3-(3,5-ジーtert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル]プロピオノヒドラジドなどのヒドラジド誘導体や3-(N-サリチロイル)アミノ-1,2,4-トリアゾールなどのサリチル酸誘導体などが挙げられる。金属不活性剤としては、3-(N-サリチロイル)アミノ-1,2,4-トリアゾールなどのサリチル酸誘導体が好ましい。
【0070】
(G)金属不活性剤の添加量は、(A)~(C)の樹脂成分の合計100質量部に対し、好ましくは1~10質量部、より好ましくは1~5質量部の範囲内である。上記の範囲内であると、銅害の防止効果に優れるとともに、ブルームや架橋阻害を抑制できる。
【0071】
(H)滑剤は、特に限定されず、内部滑剤、外部滑剤のいずれを用いてもよい。滑剤としては、流動パラフィン、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスなどの炭化水素、ステアリン酸、オレイン酸、エルカ酸などの脂肪酸、高級アルコール、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどの脂肪酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどのアルキレン脂肪酸アミド、ステアリン酸金属塩などの金属せっけん、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリルステアレート、硬化油などのエステル系滑剤が挙げられる。滑剤としては、樹脂成分との相溶性の観点から、エルカ酸、オレイン酸、ステアリン酸などの脂肪酸誘導体、またはポリエチレン系ワックスを用いるのが好ましい。
【0072】
(H)滑剤の添加量は、(A)~(C)の樹脂成分の合計100質量部に対し、好ましくは1~10質量部、より好ましくは1~5質量部の範囲内である。上記の範囲内であると、十分な潤滑効果が得られる。
【0073】
(I)成分である(I-1)酸化亜鉛およびイミダゾール系化合物の組み合わせ、または(I-2)硫化亜鉛は、耐熱性、耐長期加熱性を向上させるための添加剤として用いられる。(I-2)硫化亜鉛のみの添加、あるいは(I-1)酸化亜鉛とイミダゾール系化合物の併用のいずれを選択しても、同様の効果が得られる。
【0074】
上記酸化亜鉛は、例えば、亜鉛鉱石にコークスなどの還元剤を加え、焼成して発生する亜鉛蒸気を空気で酸化する方法、硫酸亜鉛や塩化亜鉛を塩量に用いる方法で得られる。酸化亜鉛は特に製法は限定されず、いずれの方法で製造されたものでもよい。また硫化亜鉛についても、製法は既知の方法で製造されたものを用いることができる。酸化亜鉛および硫化亜鉛の平均粒径は、好ましくは3μm以下であり、より好ましくは1μm以下である。酸化亜鉛および硫化亜鉛は、平均粒径が小さくなると、樹脂との界面強度が向上し、分散性も向上する。
【0075】
上記イミダゾール系化合物としてはメルカプトベンズイミダゾールが好ましい。メルカプトベンズイミダゾールとしては、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトメチルベンズイミダゾール、4-メルカプトメチルベンズイミダゾール、5-メルカプトメチルベンズイミダゾールなどや、これらの亜鉛塩などが挙げられる。融点が高く、混合中の昇華も少ないため高温で安定であることから、2-メルカプトベンズイミダゾールおよびその亜鉛塩が特に好ましい。
【0076】
(I)成分は、(A)~(C)の樹脂成分の合計100質量部に対し、(I-1)酸化亜鉛、イミダゾール系化合物をそれぞれ1~15質量部、あるいは(I-2)硫化亜鉛を1~15質量部添加することが好ましい。上記の範囲内であると、耐熱性、耐長期加熱性に優れるとともに、粒子が凝集し難く、分散性に優れる。
【0077】
本発明に係る電線被覆材用組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、種々の添加材を含んでもよい。添加材としては、例えば、無機フィラー、顔料、シリコーンオイルなどを例示することができる。
【0078】
例えば無機フィラーと添加する場合、フィラーの添加により、樹脂の硬度を調製することが可能であり、融着性や耐加熱変形特性を向上させることが可能である。無機フィラーとしては、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムなどを例示することができる。無機フィラーの添加量は、樹脂強度などの観点から、(A)~(C)の樹脂成分の合計100質量部に対し、30質量部以下であることが好ましい。
【0079】
本発明に係る電線被覆材用組成物は、例えば、(A)~(E)の各成分、および、必要に応じて添加される各種添加成分を配合し、二軸押出混練機などを用いて混練することにより調製できるが、シラングラフトポリオレフィンと架橋触媒とを混合すると、大気中の水分により架橋反応が進行してしまう。保存時等の架橋反応や、その他の余剰反応を防止する観点から、電線を被覆する直前で各種成分を混合することが好ましい。このような方法としては、予めシラングラフトバッチ、難燃バッチ、架橋触媒バッチをそれぞれ調整し、ペレット化しておくことが好ましい。
【0080】
シラングラフトバッチは、(A)シラングラフトポリオレフィンを含むバッチである。難燃バッチは、(B)未変性ポリオレフィン、(C)変性ポリオレフィン、(D)難燃剤を含むバッチである。架橋触媒バッチは、(E)架橋触媒とバインダー樹脂を含むバッチである。(F)~(I)の各成分、および、必要に応じて添加される各種添加成分は、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、シラングラフトバッチ、難燃バッチ、架橋触媒バッチのいずれに含まれてもよい。
【0081】
本発明に係る絶縁電線およびワイヤーハーネスについて説明する。
【0082】
本発明に係る絶縁電線は、導体の外周が、上記の電線被覆材用組成物を架橋させてなる電線被覆材(単に被覆材ということもある)からなる絶縁層により被覆されている。絶縁電線の導体は、その導体径や導体の材質などは特に限定されるものではなく、絶縁電線の用途などに応じて適宜選択することができる。導体としては例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などが挙げられる。電線の軽量化などの観点から、アルミニウムまたはアルミニウム合金であることが好ましい。電線被覆材の絶縁層は、単層であっても、2層以上の複数層であってもよい。
【0083】
本発明の絶縁電線において、架橋後の被覆材の架橋度は、耐熱性の観点から、ゲル分率で50%以上であることが好ましい。より好ましくは被覆材のゲル分率が60%以上である。絶縁電線の被覆材のゲル分率は、一般的に架橋電線の架橋状態の指標として用いられている。被覆材のゲル分率は、例えば、JASO D608-92に準拠して測定することができる。
【0084】
本発明の絶縁電線を製造するには、上記シラングラフトバッチ、難燃バッチ、架橋触媒バッチの各バッチを、例えば、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの通常の混練機を用いて加熱混練し、押出成形機などを用いて得られた組成物を導体の外周に押出被覆した後、架橋すればよい。
【0085】
被覆材を架橋する方法としては、被覆電線の被覆層を水蒸気あるいは水にさらすことにより架橋することができる。このとき、常温~90℃の温度範囲内で、48時間以内で行うことが好ましい。より好ましくは、50~80℃の温度範囲内で、8~24時間である。
【0086】
本発明のワイヤーハーネスは、上記の絶縁電線を有するものである。ワイヤーハーネスは、上記絶縁電線のみがひとまとまりに束ねられた単独電線束の形態、あるいは上記の絶縁電線と他の絶縁電線とが混在状態で束ねられた混在電線束の形態のいずれでもよい。電線束は、コルゲートチューブなどのワイヤーハーネス保護材や、粘着テープのような結束材などで束ねられてワイヤーハーネスとして構成される。
【0087】
そして、本発明に係る絶縁電線は、自動車用、機器用、情報通信用、電力用、船舶用、航空機用など各種電線に利用することができる。特に自動車用電線として好適に利用できる。
【0088】
自動車用電線は、国際規格であるISO 6722により、許容耐熱温度に応じてA~Eまでのクラスに分類される。本発明の絶縁電線は上記の電線被覆材組成物から形成されたものであるから、耐熱性に優れ、高電圧がかかるバッテリーケーブルなどに最適であり、耐熱温度125℃のCクラスや、150℃のDクラスの特性を得ることが可能である。
【0089】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。
【0091】
[(A)シラングラフトポリオレフィン]
シラングラフトポリオレフィン(シラングラフトPE1~3、シラングラフトPP1)は、ベースポリオレフィンとして下記に示すポリオレフィン(ベースPE1~5、ベースPP1)を用いて、ポリオレフィン100質量部に対してビニルトリメトキシシラン(信越化学社製、「KBM1003」)1.5質量部、ジクミルパーオキサイド(日油社製、「パークミルD」)0.15質量部をドライブレンドした材料を内径25mmの単軸押出混練機にて、140℃で混練して調製した。
【0092】
上記のシラングラフトポリオレフィン100質量部に対して、架橋触媒バッチ(三菱化学社製、「リンクロンLZ015H」)5質量部を加えた材料を東洋精機社製、「ラボプラストミル」を用いて200℃×5分間混練し、得られた塊状体を200℃×3分間圧縮プレス加工し、厚さ1mmのシートを成形する。これを湿度95%、60℃の恒温恒湿槽で12時間架橋させた後、常温で24時間乾燥した。
得られた成形シートから0.1g程度の試験体を採取し、秤量した。次いで、試験体を120℃のキシレン溶媒中に浸漬して20時間後に取り出し、取り出した試験体を100℃×6時間乾燥した後、乾燥後の試験体を秤量した。シラングラフトポリオレフィンの、キシレン浸漬前の質量に対するキシレン浸漬後の質量を百分率で表したものをゲル分率とし、表1に示す。
ゲル分率%=(キシレン浸漬後の質量/キシレン浸漬前の質量)×100
なお、触媒バッチ中に含まれる架橋触媒は、キシレン浸漬後も架橋物中に含まれるものとし、バインダー樹脂は、キシレン浸漬後に全量キシレン中に溶出したものとして、シラングラフトポリオレフィンのゲル分率を算出した。
【0093】
シラングラフトポリオレフィンを構成するベースポリオレフィンは下記の樹脂を用いた。シラングラフト前のベースポリオレフィンの密度、融点、190℃×2.16kg荷重におけるメルトフローレイト(MFR)、曲げ弾性率、ショアA硬度、およびシラングラフト後のゲル分率を表1に示す。
・ベースPE1:ダウエラストマー社製、「INFUSE9107」
・ベースPE2:ダウエラストマー社製、「INFUSE9807」
・ベースPE3:ダウエラストマー社製、「INFUSE9507」
・ベースPE4:VLDPE試作品
・ベースPE5:ダウエラストマー社製、「エンゲージ7467」
・ベースPP1:日本ポリプロ社製、「ノバテックEC9」
【0094】
【0095】
[(B)未変性ポリオレフィン]
未変性ポリオレフィン(未変性PE1~4)は、下記の樹脂を用いた。各ポリオレフィンの密度を表2に示す。
・未変性PE1:ダウエラストマー社製、「エンゲージ7467」
・未変性PE2:ダウエラストマー社製、「エンゲージ7256」
・未変性PE3:ダウエラストマー社製、「INFUSE9107」
・未変性PE4:日本ポリエチレン社製、「ノバテックHDHY331」
・PPエラストマー:日本ポリプロ社製、「ニューコンNAR6」
【0096】
【0097】
[(C)変性ポリオレフィン]
変性ポリオレフィン(変性PE1~3、変性PP1)は、下記の樹脂を用いた。変性PE1~3はポリエチレンをベースポリオレフィンとし、変性PP1はポリプロピレンをベースポリオレフィンとする。変性ポリオレフィン(変性PE1~3、変性PP1)は、ベースポリオレフィンに対して、それぞれ、括弧内に示した化合物(無水マレイン酸、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチル)を反応させることにより対応する官能基を導入した樹脂である。なお、エステル基、酸無水物基等の一部は、加水分解によりカルボキシ基として存在する場合がある。
・変性PE1:三菱ケミカル社製、「モディックAP512P」(無水マレイン酸変性)
・変性PE2:住友化学社製、「ボンドファーストE」(メタクリル酸グリシジル変性)
・変性PE3:住友化学社製、「アクリフトWH102」(メタクリル酸メチル変性)
・変性PP1:三井化学社製、「アドマーQB550」(無水マレイン酸変性)
【0098】
上記以外の成分は、下記の通りである。
[(D)難燃剤]
・金属水酸化物1:協和化学社製、「キスマ5」(水酸化マグネシウム)
・金属水酸化物2:アルベマール社製、「グラニフィンH10」(水酸化マグネシウム)
・金属水酸化物3:住友化学社製、「C305」(水酸化アルミニウム)
・臭素系難燃剤1:アルベマール社製、「SAYTEX8010」(エチレンビスペンタブロモベンゼン)
・臭素系難燃剤1:アルベマール社製、「SAYTEXBT-93」(エチレンビステトラブロモフタルイミド)
・三酸化アンチモン:山中産業社製、MSWグレード
[(E)架橋触媒]
・架橋触媒バッチ:三菱化学社製、「リンクロンLZ082」
[(F)酸化防止剤]
・酸化防止剤1:Basfジャパン社製、「イルガノックス1010」
・酸化防止剤2:Basfジャパン社製、「イルガノックス3114」
[(G)金属不活性剤]
・金属不活性剤:ADEKA社製、「CDA-1」
[(H)滑剤]
・滑剤:日本油脂社製、「アルフローP10」(エルカ酸アミド)
[(I)成分]
・酸化亜鉛:ハクスイテック社製
・イミダゾール化合物:川口化学社製、「アンテージMB」(2-メルカプトベンゾイミダゾール)
・硫化亜鉛:Sachtleben Chemie Gmbh社製、「SACHTOLITH HD-S」
【0099】
(シラングラフトバッチの調製)
シラングラフトポリオレフィンをペレット化したものをシラングラフトバッチとして用いた。
【0100】
(架橋触媒バッチの調製)
予めペレットの状態で供給される三菱化学社製、「リンクロンLZ082」を架橋触媒バッチとして用いた。「リンクロンLZ082」は、バインダー樹脂であるポリエチレン(密度0.91g/cm3)99質量部と、架橋触媒である錫化合物1質量部とを含有する。
【0101】
(難燃剤バッチの調製)
表3、4に示す成分のうち、シラングラフトポリオレフィンと架橋触媒およびバインダー樹脂を除く成分を二軸押出混練機に加え、200℃で0.1~2分程度加熱混練し、十分に分散させた後、ペレット化して、難燃剤バッチを調製した。
【0102】
(絶縁電線の作製)
表3、4に示す配合量比で調整した,シラングラフトバッチ、難燃剤バッチ、架橋触媒バッチを押出成形機のホッパーで混合し、押出成形機の温度を200℃に設定して、押出加工を行った。押出加工は外径2.4mmの導体上に、厚さ0.7mmの絶縁体を押出被覆して被覆材を形成した(被覆外径3.65mm)。その後、湿度95%、65℃の恒温恒湿槽で24時間架橋処理を施して絶縁電線を作製した。
【0103】
得られた電線被覆材用組成物および絶縁電線について、耐融着性、ISO難燃性、ゲル分率、ISO長期加熱性、ISO耐摩耗性、柔軟性、ISO加熱変形性について試験を行い、評価した。評価結果を表4、5に示す。なお、各試験方法と評価基準については以下の通りである。
【0104】
(耐融着性)
上記の電線導体に絶縁体を押出被覆して被覆材を形成した架橋前の絶縁電線を、外径30mm鉄製リールに300m分巻き取り、湿度95%、65℃の恒温恒湿槽で24時間架橋処理を施した。架橋後の絶縁電線をプラスチックリールに巻き替え、電線同士が融着した際に現れる融着跡の有無を目視により確認した。融着跡が残っていなかったものを合格「○」、融着跡が残っていたものを不合格「×」とした。
【0105】
(ISO難燃性)
ISO 6722に準拠し、架橋させた絶縁電線が、70秒以内に消火するものを合格「○」、70秒以内に消火しないものを不合格「×」とした。
【0106】
(ゲル分率)
JASO D608-92に準拠して、ゲル分率を測定した。すなわち、架橋させた絶縁電線の被覆材から0.1g程度の試料を採取し、秤量した。これを試験管に入れ、キシレン20mlを加えて、120℃の恒温油槽中で24時間加熱する。その後、試料を取り出し、100℃の乾燥機内で6時間乾燥後、常温になるまで放冷し、秤量した。試験前の質量に対する試験後の質量を百分率で表したものをゲル分率とした。ゲル分率50%以上のものを合格「○」、60%以上をより優れる「◎」、ゲル分率50%未満のものを不合格「×」とした。
【0107】
(ISO長期加熱性)
ISO 6722に準拠し、架橋させた絶縁電線を125℃または150℃の恒温槽に3000時間放置した後、1kV、1分の耐電圧試験を行った。125℃の恒温槽に放置後の耐電圧試験において、絶縁破壊しなかったものを合格「○」、絶縁破壊したものを不合格「×」、さらに、150℃の恒温槽に放置後の耐電圧試験においても絶縁破壊しなかったものをより優れる「◎」とした。
【0108】
(ISO耐摩耗性)
ISO 6722に準拠し、架橋させた絶縁電線に対して、外径0.45mmの鉄線を荷重7Nで押し当て、55回/分の速さで往復動させ、鉄線と導体である銅が導通するまでの回数を測定した。700回以上を合格「○」、1000回以上をより優れる「◎」、700回未満を不合格「×」とした。
【0109】
(柔軟性)
JIS K7171を参考にし、shimadzu製オートグラフAG-01を用いて3点曲げ柔軟性の評価を行った。すなわち、架橋させた絶縁電線を100mmの長さに切り取り、3本を横一列に並べ先端をポリ塩化ビニルテープで固定して試験片とした。支柱間50mmの治具上にセットした試験片に対して、支柱間の中心を、1mm/分の速度で上方から押し込み、最大荷重を測定した。
最大荷重が3N以下の場合を合格「○」とし、最大荷重が2N以下の場合を良好「◎」とし、最大荷重が3Nを超える場合を不合格「×」とした。
【0110】
(ISO加熱変形性)
ISO 6722に準拠し、架橋させた絶縁電線に対して、先端が0.7mm幅のブレードを荷重190gで押し当て、150℃の恒温槽に4時間放置した後、絶縁電線を1%食塩水中で1kV、1分の耐電圧試験を行った。絶縁破断しなかったものを合格「○」、絶縁破断したものを不合格「×」とした。また、合格の場合、上記恒温槽に入れる前の絶縁被覆の同方向累計厚み(例えば、片側0.7mmの場合は、0.7×2=1.4mmとなる)に対する、恒温槽から取り出した後の厚みの割合を残率として、残率が75%以上のものをより優れる「◎」とした。
【0111】
【0112】
【0113】
表3、4より、比較例1、2、5は、シラングラフトポリオレフィンを構成するポリオレフィンの融点が80℃未満であるため、架橋時に電線同士が融着した。比較例3は、シラングラフトポリオレフィンを構成するポリオレフィンの密度が0.890g/cm3よりも大きいため、ゲル分率が低く、柔軟性に劣る。比較例4は未変性ポリオレフィンの密度が0.950g/cm3よりも大きいため、柔軟性に劣る。比較例5は、難燃剤を含まないため、難燃性に劣り、また、無機成分の含容量が少なくなることから、耐摩耗性にも劣る。比較例6は、架橋触媒を含まないため、架橋されない。
一方、本発明の構成を満足する実施例によれば、柔軟性に優れるとともに、耐融着性に優れ、耐加熱変形性にも優れる。また、(I)成分を添加した実施例4、5は、(I)成分を添加しないものに比べ、耐長期加熱性に優れる。