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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】転削工具
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/08 20060101AFI20220509BHJP
【FI】
B23C5/08 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021572912
(86)(22)【出願日】2021-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2021016804
【審査請求日】2021-12-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 高大
【審査官】村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-065108(JP,U)
【文献】特開2005-040907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸の周りを回転可能な転削工具であって、
複数の切削インサートと、
前記複数の切削インサートが取り付けられるボディと、を備え、
前記ボディは、第1面と、前記第1面に連なる外周面と、前記中心軸に沿った方向において前記第1面の反対側から前記外周面に連なる第2面と、を含み、
前記ボディには、第1ポケットと第2ポケットとが周方向において交互に設けられており、
前記第1ポケットは、前記第1面に開口しており、かつ前記第2面に開口しておらず、
前記第2ポケットは、前記第2面に開口しており、かつ前記第1面に開口しておらず、
前記複数の切削インサートは、前記第1ポケットに配置されている第1切削インサートと、前記第2ポケットに配置されている第2切削インサートとを含み、
前記第1切削インサートは、前記中心軸に対して垂直な径方向において、前記外周面よりも外側に位置する第1主切刃を有し、
前記第2切削インサートは、前記径方向において、前記外周面よりも外側に位置する第2主切刃を有し、
前記中心軸を含む平面に対して、前記第1主切刃を回転投影することによって得られる前記第1主切刃の軌跡を第1主軌跡とし、
前記平面に対して、前記第2主切刃を回転投影することによって得られる前記第2主切刃の軌跡を第2主軌跡とした場合、
前記第1主軌跡は、前記第2主軌跡と交差し、
前記第1主軌跡と前記第2主軌跡との交点における前記第1主軌跡の接線は、前記第1面から前記第2面に向かうに従って前記中心軸に近づくように傾斜しており、
前記交点における前記第2主軌跡の接線は、前記第2面から前記第1面に向かうに従って前記中心軸に近づくように傾斜しており、
前記第1主切刃は第1直線切刃を有し、且つ、前記第2主切刃は第2直線切刃を有する、転削工具。
【請求項2】
前記第1主切刃は、前記第1直線切刃に連なる第1コーナ切刃を有し、
前記第2主切刃は、前記第2直線切刃に連なる第2コーナ切刃を有し、
前記平面に対して前記第1直線切刃を回転投影することによって得られる前記第1直線切刃の軌跡を第1直線軌跡とし、
前記平面に対して前記第1コーナ切刃を回転投影することによって得られる前記第1コーナ切刃の軌跡を第1コーナ軌跡とし、
前記平面に対して前記第2直線切刃を回転投影することによって得られる前記第2直線切刃の軌跡を第2直線軌跡とし、
前記平面に対して前記第2コーナ切刃を回転投影することによって得られる前記第2コーナ切刃の軌跡を第2コーナ軌跡とし、
前記第1直線軌跡と前記第1コーナ軌跡との接点を第1接点とし、
前記第2直線軌跡と前記第2コーナ軌跡との接点を第2接点とした場合、
前記第1主軌跡は、前記第1直線軌跡と前記第1コーナ軌跡とを含み、
前記第2主軌跡は、前記第2直線軌跡と前記第2コーナ軌跡とを含み、
前記第1直線軌跡は、前記第2直線軌跡と交差し、
前記径方向において、前記第1コーナ軌跡は、前記第2直線軌跡よりも内側に位置し、
前記径方向において、前記第2コーナ軌跡は、前記第1直線軌跡よりも内側に位置し、
前記径方向において、前記第2直線軌跡と前記第1接点との距離は、0.01mm以上であり、
前記径方向において、前記第1直線軌跡と前記第2接点との距離は、0.01mm以上である、請求項1に記載の転削工具。
【請求項3】
前記径方向において、前記第1主軌跡の最外周に位置する点を第1最外周点とし、
前記径方向において、前記第2主軌跡の最外周に位置する点を第2最外周点とした場合、
前記中心軸に平行な方向において、前記交点は、前記第1最外周点と前記第2最外周点との間に位置している、請求項1または請求項2に記載の転削工具。
【請求項4】
前記径方向において、前記第1最外周点と前記交点との距離は、0.1mm以下であり、
前記径方向において、前記第2最外周点と前記交点との距離は、0.1mm以下である、請求項3に記載の転削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、転削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
実開昭62-65108号公報(特許文献1)には、スローアウェイ式転削工具が記載されている。当該スローアウェイ式転削工具によれば、2つの主切刃の回転軌跡は、軸線方向において連続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭62-65108号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示に係る転削工具は、中心軸の周りを回転可能な転削工具であって、複数の切削インサートと、複数の切削インサートが取り付けられるボディとを備えている。ボディは、第1面と、第1面に連なる外周面と、中心軸に沿った方向において第1面の反対側から外周面に連なる第2面とを含む。ボディには、第1ポケットと第2ポケットとが周方向において交互に設けられている。第1ポケットは、第1面に開口しており、かつ第2面に開口していない。第2ポケットは、第2面に開口しており、かつ第1面に開口していない。複数の切削インサートは、第1ポケットに配置されている第1切削インサートと、第2ポケットに配置されている第2切削インサートとを含んでいる。第1切削インサートは、中心軸に対して垂直な径方向において、外周面よりも外側に位置する第1主切刃を有している。第2切削インサートは、径方向において、外周面よりも外側に位置する第2主切刃を有している。中心軸を含む平面に対して、第1主切刃を回転投影することによって得られる第1主切刃の軌跡を第1主軌跡とする。平面に対して、第2主切刃を回転投影することによって得られる第2主切刃の軌跡を第2主軌跡とする。第1主軌跡は、第2主軌跡と交差する。第1主軌跡と第2主軌跡との交点における第1主軌跡の接線は、第1面から第2面に向かうに従って中心軸に近づくように傾斜している。交点における第2主軌跡の接線は、第2面から第1面に向かうに従って中心軸に近づくように傾斜している。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、本実施形態に係る転削工具の構成を示す斜視模式図である。
図2図2は、本実施形態に係る転削工具の構成を示す側面模式図である。
図3図3は、図1の領域IIIの拡大斜視模式図である。
図4図4は、本実施形態に係る転削工具のボディの構成を示す拡大斜視模式図である。
図5図5は、本実施形態に係る転削工具の構成を示す正面模式図である。
図6図6は、図5のVI-VI線に沿った平面に対して第1切刃および第2切刃の各々を回転投影することによって得られる第1切刃および第2切刃の各々の軌跡を示す模式図である。
図7図7は、図6の領域VIIの拡大模式図である。
図8図8は、第1主軌跡および第2主軌跡の各々を示す模式図である。
図9A図9Aは、従来の転削工具を用いて被削材を切削している状態を示す斜視模式図である。
図9B図9Bは、本実施形態に係る転削工具を用いて被削材を切削している状態を示す斜視模式図である。
図10図10は、本実施形態に係る転削工具において、第2主切刃の径方向の位置が変動した場合における第2主切刃の回転投影軌跡(第2主軌跡)を示す模式図である。
図11図11は、サンプル1に係るカッタの第1主切刃の回転投影軌跡(第1主軌跡)および第2主切刃の回転投影軌跡(第2主軌跡)を示す模式図である。
図12図12は、サンプル2に係るカッタの第1主切刃の回転投影軌跡(第1主軌跡)および第2主切刃の回転投影軌跡(第2主軌跡)を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
本開示の目的は、加工面において段差が発生することを抑制可能な転削工具を提供することである。
【0007】
[本開示の効果]
本開示によれば、加工面において段差が発生することを抑制可能な転削工具を提供することができる。
【0008】
[本開示の実施形態の説明]
まず、本開示の実施形態を列挙して説明する。
【0009】
(1)本開示に係る転削工具5は、中心軸Aの周りを回転可能な転削工具5であって、複数の切削インサート7と、複数の切削インサート7が取り付けられるボディ30とを備えている。ボディ30は、第1面1と、第1面1に連なる外周面3と、中心軸Aに沿った方向において第1面1の反対側から外周面3に連なる第2面2とを含む。ボディ30には、第1ポケット10と第2ポケット20とが周方向において交互に設けられている。第1ポケット10は、第1面1に開口しており、かつ第2面2に開口していない。第2ポケット20は、第2面2に開口しており、かつ第1面1に開口していない。複数の切削インサート7は、第1ポケット10に配置されている第1切削インサート100と、第2ポケット20に配置されている第2切削インサート200とを含んでいる。第1切削インサート100は、中心軸Aに対して垂直な径方向Cにおいて、外周面3よりも外側に位置する第1主切刃104を有している。第2切削インサート200は、径方向において、外周面3よりも外側に位置する第2主切刃204を有している。中心軸Aを含む平面に対して、第1主切刃104を回転投影することによって得られる第1主切刃104の軌跡を第1主軌跡114とする。平面に対して、第2主切刃204を回転投影することによって得られる第2主切刃204の軌跡を第2主軌跡214とする。第1主軌跡114は、第2主軌跡214と交差する。第1主軌跡114と第2主軌跡214との交点6における第1主軌跡114の接線は、第1面1から第2面2に向かうに従って中心軸Aに近づくように傾斜している。交点6における第2主軌跡214の接線は、第2面2から第1面1に向かうに従って中心軸Aに近づくように傾斜している。
【0010】
(2)上記(1)に係る転削工具5によれば、第1主切刃104は、第1直線切刃108と、第1直線切刃108に連なる第1コーナ切刃101とを有していてもよい。第2主切刃204は、第2直線切刃208と、第2直線切刃208に連なる第2コーナ切刃201とを有していてもよい。平面に対して第1直線切刃108を回転投影することによって得られる第1直線切刃108の軌跡を第1直線軌跡118としてもよい。平面に対して第1コーナ切刃101を回転投影することによって得られる第1コーナ切刃101の軌跡を第1コーナ軌跡111としてもよい。平面に対して第2直線切刃208を回転投影することによって得られる第2直線切刃208の軌跡を第2直線軌跡218としてもよい。平面に対して第2コーナ切刃201を回転投影することによって得られる第2コーナ切刃201の軌跡を第2コーナ軌跡211としてもよい。第1直線軌跡118と第1コーナ軌跡111との接点を第1接点121としてもよい。第2直線軌跡218と第2コーナ軌跡211との接点を第2接点221としてもよい。第1主軌跡114は、第1直線軌跡118と第1コーナ軌跡111とを含んでいてもよい。第2主軌跡214は、第2直線軌跡218と第2コーナ軌跡211とを含んでいてもよい。第1直線軌跡118は、第2直線軌跡218と交差していてもよい。径方向Cにおいて、第1コーナ軌跡111は、第2直線軌跡218よりも内側に位置していてもよい。径方向Cにおいて、第2コーナ軌跡211は、第1直線軌跡118よりも内側に位置していてもよい。径方向において、第2直線軌跡218と第1接点121との距離は、0.01mm以上であってもよい。径方向Cにおいて、第1直線軌跡118と第2接点221との距離は、0.01mm以上であってもよい。
【0011】
(3)上記(1)または(2)に係る転削工具5によれば、径方向Cにおいて、第1主軌跡114の最外周に位置する点を第1最外周点122としてもよい。径方向Cにおいて、第2主軌跡214の最外周に位置する点を第2最外周点222としてもよい。中心軸Aに平行な方向において、交点6は、第1最外周点122と第2最外周点222との間に位置していてもよい。
【0012】
(4)上記(3)に係る転削工具5によれば、径方向Cにおいて、第1最外周点122と交点6との距離は、0.1mm以下であってもよい。径方向Cにおいて、第2最外周点222と交点6との距離は、0.1mm以下であってもよい。
【0013】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の実施形態の詳細を、図面を参照しながら説明する。以下の図面においては、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さない。
【0014】
まず、本実施形態に係る転削工具の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る転削工具5の構成を示す斜視模式図である。図2は、本実施形態に係る転削工具5の構成を示す側面模式図である。図1および図2に示されるように、本実施形態に係る転削工具5は、中心軸Aの周りを回転可能なサイドカッタである。本実施形態に係る転削工具5は、複数の切削インサート7と、ボディ30と、第1締結部材15と、第2締結部材25とを主に有している。ボディ30には、複数の切削インサート7の各々が取り付けられる。
【0015】
ボディ30は、第1面1と、第2面2と、外周面3と、内周面4とを有している。第2面2は、中心軸Aに沿った方向において第1面1の反対側にある。外周面3は、第1面1および第2面2の各々に連なっている。第2面2は、中心軸Aに沿った方向において第1面1の反対側から外周面3に連なっている。径方向Cにおいて、内周面4は、外周面3の内側にある。内周面4は、第1面1および第2面2の各々に連なっている。ボディ30の内周面4に囲まれた領域には、たとえば回転駆動装置の主軸(図示せず)が配置される。本明細書においては、第2面2から第1面1に向かう方向を第1方向A1と称し、第1面1から第2面2に向かう方向を第2方向A2と称する。径方向Cは、中心軸Aに垂直な方向である。
【0016】
図2に示されるように、複数の切削インサート7は、第1切削インサート100と、第2切削インサート200とを有している。中心軸Aに平行な方向において、第1切削インサート100の一部は、第1面1から第1方向A1に突出している。中心軸Aに平行な方向において、第1切削インサート100は、第2切削インサート200よりも第1方向A1側に位置している。
【0017】
図2に示されるように、中心軸Aに平行な方向において、第2切削インサート200の一部は、第2面2から第2方向A2に突出している。中心軸Aに平行な方向において、第2切削インサート200は、第1切削インサート100よりも第2方向A2側に位置している。第1切削インサート100および第2切削インサート200の各々は、ボディ30の外周面3に配置されている。
【0018】
第1締結部材15および第2締結部材25の各々は、たとえば皿ネジである。第1締結部材15は、第1切削インサート100をボディ30に固定している。第2締結部材25は、第2切削インサート200をボディ30に固定している。第1締結部材15および第2締結部材25の各々は、ボディ30の外周面3に配置されている。第1締結部材15と第2締結部材25とは、外周面3の周方向において交互に配置されている。
【0019】
図2に示されるように、中心軸Aに平行な方向において、第1締結部材15は、第1面1と第2面2との間に位置している。中心軸Aに平行な方向において、第1締結部材15は、第1面1と第2締結部材25との間に位置していてもよい。中心軸Aに平行な方向において、第1締結部材15は、第2締結部材25よりも第1方向A1側に位置している。
【0020】
図2に示されるように、中心軸Aに平行な方向において、第2締結部材25は、第1面1と第2面2との間に位置している。中心軸Aに平行な方向において、第2締結部材25は、第2面2と第1締結部材15との間に位置していてもよい。中心軸Aに平行な方向において、第2締結部材25は、第1締結部材15よりも第2方向A2側に位置している。
【0021】
図3は、図1の領域IIIの拡大斜視模式図である。図4は、本実施形態に係る転削工具5のボディ30の構成を示す拡大斜視模式図である。図4に示される領域は、図3に示される領域に対応している。図3および図4に示されるように、ボディ30の外周面3には、第1ポケット10と、第2ポケット20とが設けられている。第1ポケット10と、第2ポケット20とは、外周面3の周方向において交互に設けられている。
【0022】
図4に示されるように、第1ポケット10は、第1面1に開口しており、かつ第2面2に開口していない。第1ポケット10は、たとえば、第1座面11と、第1側面12と、第1壁面13とにより規定されている。第1座面11は、第1面1に連なっていてもよい。第1座面11は、第2面2から離間している。第1座面11には、第1締結孔16が設けられている。
【0023】
中心軸Aと平行な方向において、第1側面12は、第2面2と、第1座面11との間に位置している。第1側面12は、第1面1および第2面2の各々から離間している。第1側面12は、外周面3に連なっていてもよい。第1壁面13は、第1座面11に対して回転方向後方に位置している。第1壁面13は、外周面3に連なっていてもよい。第1壁面13は、第1面1に連なっていてもよい。第1壁面13は、第2面2から離間している。
【0024】
図4に示されるように、第2ポケット20は、第2面2に開口しており、かつ第1面1に開口していない。第2ポケット20は、たとえば、第2座面21と、第2側面22と、第2壁面23とにより規定されている。第2座面21は、第2面2に連なっていてもよい。第2座面21は、第1面1から離間している。第2座面21には、第2締結孔26が設けられている。
【0025】
中心軸Aと平行な方向において、第2側面22は、第1面1と、第2座面21との間に位置している。第2側面22は、第1面1および第2面2の各々から離間している。第2側面22は、外周面3に連なっていてもよい。第2壁面23は、第2座面21に対して回転方向後方に位置している。第2壁面23は、外周面3に連なっていてもよい。第2壁面23は、第2面2に連なっていてもよい。第2壁面23は、第1面1から離間している。
【0026】
図3に示されるように、第1切削インサート100は、第1ポケット10に配置されている。第1切削インサート100は、第1頂面105と、第1底面106と、第1外周側面107とを有している。第1底面106は、第1頂面105の反対側に位置している。第1外周側面107は、第1頂面105および第1底面106の各々に連なっている。第1頂面105は、すくい面として機能してもよい。第1外周側面107は、逃げ面として機能してもよい。第1外周側面107には、第1貫通孔120が設けられている。第1締結部材15は、第1貫通孔120を貫通し、第1締結孔16に締め付けられる。
【0027】
第1切削インサート100は、第1切刃109を有している。第1切刃109は、第1頂面105と第1外周側面107との稜線により構成されている。第1切刃109は、第1主切刃104と、第1副切刃103とを有している。第1副切刃103は、第1主切刃104に連なっている。第1主切刃104は、径方向Cにおいて、外周面3よりも外側に位置している。別の観点から言えば、第1主切刃104は、径方向Cにおいて、外周面3よりも外側に突出している。第1主切刃104は、実質的に被削材の切削に寄与する切刃である。
【0028】
第1主切刃104は、第1直線切刃108と、第1コーナ切刃101と、第3コーナ切刃102とを有していてもよい。第1コーナ切刃101は、第1直線切刃108に連なっている。第3コーナ切刃102は、第1直線切刃108に連なっている。中心軸Aに平行な方向において、第1直線切刃108は、第1コーナ切刃101と、第3コーナ切刃102との間に位置している。第1直線切刃108に対して、第1コーナ切刃101は、第3コーナ切刃102の反対側に位置している。中心軸Aに平行な方向において、第1コーナ切刃101は、第2面2と第1直線切刃108との間に位置している。第3コーナ切刃102は、第1直線切刃108よりも第1方向A1側に位置している。第3コーナ切刃102は、第1副切刃103に連なっている。
【0029】
図3に示されるように、第2切削インサート200は、第2ポケット20に配置されている。第2切削インサート200は、第2頂面205と、第2底面206と、第2外周側面207とを有している。第2底面206は、第2頂面205の反対側に位置している。第2外周側面207は、第2頂面205および第2底面206の各々に連なっている。第2頂面205は、すくい面として機能してもよい。第2外周側面207は、逃げ面として機能してもよい。第2外周側面207には、第2貫通孔220が設けられている。第2締結部材25は、第2貫通孔220を貫通し、第2締結孔26に締め付けられる。
【0030】
第2切削インサート200は、第2切刃209を有している。第2切刃209は、第2頂面205と第2外周側面207との稜線により構成されている。第2切刃209は、第2主切刃204と、第2副切刃203とを有している。第2副切刃203は、第2主切刃204に連なっている。第2主切刃204は、径方向Cにおいて、外周面3よりも外側に位置している。別の観点から言えば、第2主切刃204は、径方向Cにおいて、外周面3よりも外側に突出している。第2主切刃204は、実質的に被削材の切削に寄与する切刃である。
【0031】
第2主切刃204は、第2直線切刃208と、第2コーナ切刃201と、第4コーナ切刃202とを有していてもよい。第2コーナ切刃201は、第2直線切刃208に連なっている。第4コーナ切刃202は、第2直線切刃208に連なっている。中心軸Aに平行な方向において、第2直線切刃208は、第2コーナ切刃201と、第4コーナ切刃202との間に位置している。第2直線切刃208に対して、第2コーナ切刃201は、第4コーナ切刃202の反対側に位置している。中心軸Aに平行な方向において、第2コーナ切刃201は、第1面1と第2直線切刃208との間に位置している。第4コーナ切刃202は、第2直線切刃208よりも第2方向A2側に位置している。第4コーナ切刃202は、第2副切刃203に連なっている。
【0032】
図5は、本実施形態に係る転削工具5の構成を示す正面模式図である。図5に示されるように、第1切削インサート100と第2切削インサート200とは、外周面3の周方向において交互に配置されている。本実施形態に係る転削工具5によれば、第1切削インサート100の数は、たとえば6個である。第2切削インサート200の数は、たとえば6個である。第1切削インサート100の数は、第2切削インサート200の数と同じである。第1切削インサート100および第2切削インサート200の各々の数は、6個以上であってもよい。第1切削インサート100および第2切削インサート200の各々の数は、特に限定されないが、たとえば8個であってもよいし、10個であってもよいし、12個であってもよい。
【0033】
図5に示されるように、第1切削インサート100は、周方向において等間隔に配置されていてもよい。同様に、第2切削インサート200は、周方向において等間隔に配置されていてもよい。周方向において、第1切削インサート100と第2切削インサート200との距離は、一定であってもよい。別の観点から言えば、回転方向において、第1切削インサート100と、当該第1切削インサート100の回転方向前方に位置する第2切削インサート200との間隔は、当該第1切削インサート100と、当該第1切削インサート100の回転方向後方に位置する第2切削インサート200との間隔と同じであってもよい。
【0034】
図6は、VI-VI線に沿った平面Bに対して第1切刃109および第2切刃209の各々を回転投影することによって得られる第1切刃109および第2切刃209の各々の軌跡を示す模式図である。VI-VI線に沿った平面Bは、中心軸Aを含む平面Bである。図7は、図6の領域VIIの拡大模式図である。
【0035】
図6および図7に示されるように、第1切刃軌跡119は、中心軸Aを含む平面Bに対して、第1切刃109を回転投影することによって得られる第1切刃109の軌跡である。第1切刃軌跡119は、一点鎖線で示されている。第2切刃軌跡219は、中心軸Aを含む平面Bに対して、第2切刃209を回転投影することによって得られる第2切刃209の軌跡である。第2切刃軌跡219は、実線で示されている。
【0036】
図7に示されるように、第1切刃軌跡119は、第1主軌跡114と、第1副軌跡113とを有している。第1主軌跡114は、中心軸Aを含む平面Bに対して、第1主切刃104を回転投影することによって得られる第1主切刃104の軌跡である。第1副軌跡113は、中心軸Aを含む平面Bに対して、第1副切刃103を回転投影することによって得られる第1副切刃103の軌跡である。第1副軌跡113は、第1主軌跡114に連なっている。
【0037】
図7に示されるように、第2切刃軌跡219は、第2主軌跡214と、第2副軌跡213とを有している。第2主軌跡214は、中心軸Aを含む平面Bに対して、第2主切刃204を回転投影することによって得られる第2主切刃204の軌跡である。第2副軌跡213は、中心軸Aを含む平面Bに対して、第2副切刃203を回転投影することによって得られる第2副切刃203の軌跡である。第2副軌跡213は、第2主軌跡214に連なっている。
【0038】
第3軌跡300は、中心軸Aを含む平面Bに対して、ボディ30を回転投影することによって得られるボディ30の軌跡である。第3軌跡300は、外周軌跡303と、第1軌跡301と、第2軌跡302とを有している。外周軌跡303は、中心軸Aを含む平面Bに対して、外周面3を回転投影することによって得られる外周面3の軌跡である。第1軌跡301は、中心軸Aを含む平面Bに対して、第1面1を回転投影することによって得られる第1面1の軌跡である。第2軌跡302は、中心軸Aを含む平面Bに対して、第2面2を回転投影することによって得られる第2面2の軌跡である。外周軌跡303は、第1軌跡301および第2軌跡302の各々に連なっている。
【0039】
径方向Cにおいて、第1主軌跡114および第2主軌跡214の各々は、外周軌跡303よりも外側に位置している。中心軸Aに平行な方向において、第1副軌跡113は、第1軌跡301よりも第1方向A1側に位置していてもよい。中心軸Aに平行な方向において、第2副軌跡213は、第2軌跡302よりも第2方向A2側に位置していてもよい。
【0040】
図8は、第1主軌跡114および第2主軌跡214の各々を示す模式図である。図8においては、径方向Cにおけるスケールを、中心軸Aに平行な方向におけるスケールよりも大幅に大きくしている。径方向Cにおいて、中心軸Aから離れる方向は、外側とする。径方向Cにおいて、中心軸Aに近づく方向は、内側とする。
【0041】
図8に示されるように、第1主軌跡114は、第1直線軌跡118と、第1コーナ軌跡111と、第3コーナ軌跡112とを有している。第1直線軌跡118は、中心軸Aを含む平面Bに対して第1直線切刃108を回転投影することによって得られる第1直線切刃108の軌跡である。第1コーナ軌跡111は、中心軸Aを含む平面Bに対して第1コーナ切刃101を回転投影することによって得られる第1コーナ切刃101の軌跡である。第3コーナ軌跡112は、中心軸Aを含む平面Bに対して第3コーナ切刃102を回転投影することによって得られる第3コーナ切刃102の軌跡である。第1直線軌跡118と第1コーナ軌跡111との接点は、第1接点121である。
【0042】
図8に示されるように、第2主軌跡214は、第2直線軌跡218と、第2コーナ軌跡211と、第4コーナ軌跡212とを有している。第2直線軌跡218は、中心軸Aを含む平面Bに対して第2直線切刃208を回転投影することによって得られる第2直線切刃208の軌跡である。第2コーナ軌跡211は、中心軸Aを含む平面Bに対して第2コーナ切刃201を回転投影することによって得られる第2コーナ切刃201の軌跡である。第4コーナ軌跡212は、中心軸Aを含む平面Bに対して第4コーナ切刃202を回転投影することによって得られる第4コーナ切刃202の軌跡である。第2直線軌跡218と第2コーナ軌跡211との接点は、第2接点221である。
【0043】
図8に示されるように、第1主軌跡114は、第2主軌跡214と交差している。具体的には、第1直線軌跡118は、第2直線軌跡218と交差している。第1主軌跡114と第2主軌跡214との交点6は、第1面1と第2面2との中間地点に位置していてもよい。第2直線軌跡218の内、交点6より第2方向A2側に位置する部分は、径方向Cにおいて、第1コーナ軌跡111よりも外側に位置していてもよい。第1直線軌跡118の内、交点6より第1方向A1側に位置する部分は、径方向Cにおいて、第2コーナ軌跡211よりも外側に位置していてもよい。
【0044】
第1主軌跡114と第2主軌跡214との交点6における第1主軌跡114の接線(第1接線L1)は、第1面1から第2面2に向かうに従って中心軸Aに近づくように傾斜している。径方向Cにおいて、第1コーナ軌跡111は、第1直線軌跡118よりも内側に位置している。径方向Cにおいて、第3コーナ軌跡112は、第1コーナ軌跡111よりも外側に位置している。第1直線軌跡118と中心軸Aとの距離は、第1面1から第2面2に向かうにつれて小さくなる。
【0045】
第1主軌跡114と第2主軌跡214との交点6における第2主軌跡214の接線(第2接線L2)は、第2面2から第1面1に向かうに従って中心軸Aに近づくように傾斜している。径方向Cにおいて、第2コーナ軌跡211は、第2直線軌跡218よりも内側に位置している。径方向Cにおいて、第4コーナ軌跡212は、第2コーナ軌跡211よりも外側に位置している。第2直線軌跡218と中心軸Aとの距離は、第2面2から第1面1に向かうにつれて小さくなる。
【0046】
図8に示されるように、径方向Cにおいて、第2コーナ軌跡211は、第1直線軌跡118よりも内側に位置している。径方向Cにおいて、第1直線軌跡118と第2接点221との距離(第1距離E1)は、たとえば0.01mm以上であってもよい。第1距離E1の下限は、特に限定されないが、たとえば0.012mm以上であってもよいし、0.014mm以上であってもよい。第1距離E1の上限は、特に限定されないが、たとえば0.02mm以下であってもよいし、0.018mm以下であってもよい。
【0047】
図8に示されるように、径方向Cにおいて、第1コーナ軌跡111は、第2直線軌跡218よりも内側に位置している。径方向Cにおいて、第2直線軌跡218と第1接点121との距離(第2距離E2)は、たとえば0.01mm以上であってもよい。第2距離E2の下限は、特に限定されないが、たとえば0.012mm以上であってもよいし、0.014mm以上であってもよい。第1距離E1の上限は、特に限定されないが、たとえば0.02mm以下であってもよいし、0.018mm以下であってもよい。
【0048】
径方向Cにおいて、第1主軌跡114の最外周に位置する点は、第1最外周点122とされる。径方向Cにおいて、第2主軌跡214の最外周に位置する点は、第2最外周点222とされる。中心軸Aに平行な方向において、第1主軌跡114と第2主軌跡214との交点6は、第1最外周点122と第2最外周点222との間に位置している。中心軸Aに平行な方向において、第1主軌跡114と第2主軌跡214との交点6は、第1接点121と第2接点221との間に位置している。
【0049】
図8に示されるように、径方向Cにおいて、第1最外周点122と、第1主軌跡114と第2主軌跡214との交点6との距離(第3距離E3)は、たとえば0.1mm以下であってもよい。第3距離E3の上限は、特に限定されないが、たとえば0.08mm以下であってもよいし、0.06mm以下であってもよい。第3距離E3の下限は、特に限定されないが、たとえば0.02mm以上であってもよいし、0.04mm以上であってもよい。第1最外周点122は、たとえば第1直線軌跡118と第3コーナ軌跡112との接点であってもよい。
【0050】
図8に示されるように、径方向Cにおいて、第2最外周点222と、第1主軌跡114と第2主軌跡214との交点6との距離(第4距離E4)は、たとえば0.1mm以下であってもよい。第4距離E4の上限は、特に限定されないが、たとえば0.08mm以下であってもよいし、0.06mm以下であってもよい。第4距離E4の下限は、特に限定されないが、たとえば0.02mm以上であってもよいし、0.04mm以上であってもよい。第2最外周点222は、たとえば第2直線軌跡218と第4コーナ軌跡212との接点であってもよい。
【0051】
第1仮想直線X1は、第1最外周点122を通りかつ中心軸Aに平行な直線である。第1仮想直線X1は、第2最外周点222を通ってもよい。第2仮想直線X2は、第1主軌跡114と第2主軌跡214との交点6を通りかつ中心軸Aに平行な直線である。第2仮想直線X2に対する第1直線軌跡118の角度(第1角度θ1)は、たとえば0.2°以上0.6°以下であってもよい。同様に、第2仮想直線X2に対する第2直線軌跡218の角度(第2角度θ2)は、たとえば0.2°以上0.6°以下であってもよい。
【0052】
径方向Cにおいて、第1主軌跡114と第2主軌跡214との交点6と、第1仮想直線X1との距離(第5距離D)は、第3距離E3と同じであってもよい。第5距離Dは、第4距離E4と同じであってもよいし。第3距離E3は、第4距離E4と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0053】
図8に示される第1主軌跡114は、第1切削インサート100の第1主切刃104の配置を調整することにより得ることができる。具体的には、周方向に見た場合、第1主切刃104が第1主軌跡114と一致するように第1切削インサート100が第1ポケット10に配置されてもよい。同様に、図8に示される第2主軌跡214は、第2切削インサート200の第2主切刃204の配置を調整することにより得ることができる。具体的には、周方向に見た場合、第2主切刃204が第2主軌跡214と一致するように第2切削インサート200が第2ポケット20に配置されてもよい。
【0054】
次に、第1切刃109および第2切刃209の各々の回転投影軌跡の測定方法について説明する。
【0055】
第1切刃109および第2切刃209の各々の回転投影軌跡は、ZOLLER社製のツールプリセッターを用いて測定することができる。ツールプリセッターは、テールストック付き工具測定機(型番:Phoenix600)である。まず、全ての第1ポケット10に第1切削インサート100が配置されかつ全ての第2ポケット20に第2切削インサート200が配置されたカッタが、テールストック付き工具測定機にセットされる。次に、テールストック付き工具測定機の測定プログラムを用いて中心軸Aに沿った方向および径方向Cの各々において最大となる切削インサートの切刃の外形の回転投影軌跡が抽出される。測定プログラムは、Lasso機能(プログラムNo.80)とする。測定モードは、CRIS360°とする。測定プログラムを用いて抽出された切刃の軌跡は、DXFデータとして出力される。測定精度は、0.001mm(小数点以下3桁)である。
【0056】
次に、第1切刃109および第2切刃209の各々の回転投影軌跡の解析方法について説明する。上記測定プログラムから出力されたDXFデータは、AUTODESK社製の2次元CADソフトを用いて解析される。2次元CADソフトは、AutoCAD Mechanical2020とする。寸法入力コマンドで、第1距離E1、第2距離E2、第3距離E3、第4距離E4および第5距離D等が測定される。測定精度は、0.001mm(小数点以下3桁)である。
【0057】
次に、被削材の切削方法について説明する。
図9Aは、第1直線軌跡118と第2直線軌跡218とがほぼ平行であり、かつ、第1直線軌跡118と第2直線軌跡218とが重なるように狙って設計された従来の転削工具5を用いて被削材50を切削している状態を示す斜視模式図である。図9Aは、本実施形態に係る転削工具5との対比において、被削材50の状態を説明するための図である。図9Aに示されるように、転削工具5であるカッタは、中心軸Aの周りを回転方向Rに回転しながら、送り方向Fへ移動する。転削工具5が中心軸Aの周りを回転することにより、第1切削インサート100と第2切削インサート200とが、交互に被削材50を切削する。これにより、被削材50に溝53が形成される。溝53は、底面部51と、側面部52とにより規定される。溝53の底面部51において、段差54が形成される場合がある。段差54は、径方向Cにおける第1直線軌跡118と第2直線軌跡218とのわずかなずれによって生じる。このずれは、設計上意図されたものではなく、製造上のばらつきによって生じたものである。段差54は、第1切削インサート100で切削された部分と第2切削インサート200で切削された部分との繋ぎ目付近に形成される。図9Aの水平方向における溝53の深さは、段差54の図9Aの上下方向における上側と、下側とで異なっている。
【0058】
図9Bは、本実施形態に係る転削工具5を用いて被削材50を切削している状態を示す斜視模式図である。図9Bに示されるように、転削工具5であるカッタは、中心軸Aの周りを回転方向Rに回転しながら、送り方向Fへ移動する。転削工具5が中心軸Aの周りを回転することにより、第1切削インサート100と第2切削インサート200とが、交互に被削材50を切削する。これにより、被削材50に溝53が形成される。溝53は、底面部51と、側面部52とにより規定される。溝53の底面部51において、凸状部51aが形成される場合がある。凸状部51aは、第1切削インサート100で切削された部分と第2切削インサート200で切削された部分との繋ぎ目付近に形成される。図9Bの水平方向における溝53の深さは、凸状部51aにおいて、最も浅い。
【0059】
次に、上記実施形態に係る転削工具5の作用効果について説明する。
図9Aに示されるように、第1ポケット10に配置された第1切削インサート100と第2ポケット20に配置された第2切削インサート200とを有する従来の転削工具5を用いて被削材50に溝53を形成する場合、溝53の底面部51において段差54が形成される場合がある。当該段差54は、第1切削インサート100の第1主切刃104によって切削された底面部と、第2切削インサート200の第2主切刃204によって切削された底面部との繋ぎ面付近において形成される。
【0060】
従来の転削工具5においては、第1主切刃104の回転投影軌跡と第2主切刃204の回転投影軌跡とが同一直線上に位置するように、第1主切刃104および第2主切刃204の各々が配置される場合がある。しかしながら、実際に第1切削インサート100をボディ30の第1ポケット10に配置する際、第1切削インサート100の厚みのばらつきおよび第1ポケット10の第1底面106の高さのばらつきなどの原因により、第1切削インサート100の第1主切刃104の位置は、径方向Cにおいてばらつく。同様に、第2切削インサート200をボディ30の第2ポケット20に配置する際、第2切削インサート200の厚みのばらつきおよび第2ポケット20の第2底面206の高さのばらつきなどの原因により、第2切削インサート200の第2主切刃204の位置は、径方向Cにおいてばらつく。これにより、第1切削インサート100の第1主切刃104によって切削された底面部の高さは、第2切削インサート200の第2主切刃204によって切削された底面部の高さと異なる。そのため、溝53の底面部51において段差54が発生する。段差54は、視覚的に目に留まりやすい。そのため、底面部51が顧客の要求する表面粗さを満たす場合であっても、段差54の存在により底面部51の視覚的な美しさが低下し、顧客満足度が低くなる場合がある。
【0061】
本実施形態に係る転削工具5によれば、中心軸Aを含む平面Bに対して、第1主切刃104を回転投影することによって得られる第1主切刃104の軌跡を第1主軌跡114とし、当該平面Bに対して、第2主切刃204を回転投影することによって得られる第2主切刃204の軌跡を第2主軌跡214とすると、第1主軌跡114は、第2主軌跡214と交差する。第1主軌跡114と第2主軌跡214との交点6における第1主軌跡114の接線は、第1面1から第2面2に向かうに従って中心軸Aに近づく。交点6における第2主軌跡214の接線は、第2面2から第1面1に向かうに従って中心軸Aに近づく。
【0062】
図10は、本実施形態に係る転削工具5において、第2主切刃204の径方向Cの位置が変動した場合における第2主切刃204の回転投影軌跡(第2主軌跡214)を示している。第1状態S1(破線)は、第2主切刃204の径方向Cの位置が変動していない状態の第2主軌跡214を示している。第2状態S2(実線)は、第2主切刃204の径方向Cの位置が外側に変動した状態の第2主軌跡214を示している。図10に示されるように、第2主切刃204の径方向Cの位置のばらつきによって、第2主切刃204が第2状態S2にある場合であったとしても、第2主軌跡214の第2接点221は、第1主軌跡114よりも内側に位置している。そのため、第2主軌跡214の第2接点221の位置付近においては、第2主切刃204ではなく第1主切刃104によって溝53の底面部51が切削される。従って、第2主切刃204の径方向Cの位置が変動した場合であっても、第2主切刃204の第2接点221の位置における溝53の底面部51の形状は変化しない。結果として、溝53の底面部51において段差54が発生することを抑制することができる。
【0063】
また本実施形態に係る転削工具5によれば、径方向Cにおいて、第2直線軌跡218と第1接点121との距離(第2距離E2)は、0.01mm以上であってもよい。径方向Cにおいて、第1直線軌跡118と第2接点221との距離(第1距離E1)は、0.01mm以上であってもよい。これにより、溝53の底面部51において段差54が発生することをより確実に抑制することができる。そのため、第1切削インサート100および第2切削インサート200の各々の径方向Cの位置がある程度ばらついている場合であっても、溝53の底面部51において段差54の発生を抑制することができる。従って、第1切削インサート100および第2切削インサート200の各々をボディ30に取り付ける際、第1切削インサート100および第2切削インサート200の各々の径方向Cの位置のばらつきの許容量が大きくなる。結果として、第1切削インサート100および第2切削インサート200の各々をボディ30に取り付ける時間を短縮することができる。
【0064】
さらに本実施形態に係る転削工具5によれば、径方向Cにおいて、第1最外周点122と交点6との距離(第3距離E3)は、0.1mm以下であってもよい。径方向Cにおいて、第2最外周点222と交点6との距離(第4距離E4)は、0.1mm以下であってもよい。これにより、溝53の底面部51が過度に凸状になることを抑制することができる。
【実施例
【0065】
(サンプル準備)
まず、サンプル1に係るカッタおよびサンプル2に係るカッタを準備した。サンプル1に係るカッタは、実施例である。サンプル2に係るカッタは、比較例である。サンプル1に係るカッタは、本実施形態に係る転削工具5(図1)とした。サンプル1に係るカッタの刃径は、125mmとした。サンプル1に係るカッタの刃幅は、19mmとした。サンプル2に係るカッタは、第1直線軌跡118と第2直線軌跡218とがほぼ平行であり、かつ、第1直線軌跡118と第2直線軌跡218とが重なるように狙って設計された従来の転削工具5とした。当該設計を除いて、サンプル2に係るカッタの仕様は、サンプル1に係るカッタと同様とした。
【0066】
図11は、サンプル1に係るカッタの第1主切刃104の回転投影軌跡(第1主軌跡114)および第2主切刃204の回転投影軌跡(第2主軌跡214)を示す模式図である。図11に示されるように、第1直線軌跡118は、第2直線軌跡218と交差している。第1距離E1は、0.033mmである。第2距離E2は、0.019mmである。第5距離Dは、0.036mmである。
【0067】
図12は、サンプル2に係るカッタの第1主切刃104の回転投影軌跡(第1主軌跡114)および第2主切刃204の回転投影軌跡(第2主軌跡214)を示す模式図である。図12に示されるように、第1直線軌跡118は、第2直線軌跡218と交差していない。第1距離E1は、0.035mmである。第2距離E2は、0.011mmである。第2切刃209軌跡の最外周点と、第1切刃109軌跡と第2切刃209軌跡との交点との距離(第6距離H)は、0.036mmである。
【0068】
次に、サンプル1に係るカッタおよびサンプル2に係るカッタの各々を用いて、被削材50に溝53を形成した。設備は、OKK株式会社製の立形マシニングセンタ(VM660R(BT50))とした。被削材50は、炭素鋼(S50C)とした。切削速度(Vc)は、200m/分とした。1刃あたりの送り量(fz)は、0.2mm/toothとした。軸方向切込み量(ap)は、19mm(刃幅)とした。径方向切込み量(ae)は、8mmとした。切削方法は、ダウンカットとした。加工方式は、ドライ加工とした。
【0069】
(測定条件)
次に、被削材50に形成された溝53の底面部51における段差54の深さを測定した。段差54の深さの測定は、株式会社ミツトヨ製のコントレーサーを用いて行われた。コントレーサーは、表面性状測定器フォームトレーサ(型番:SV-C3200H4)とした。スタイラスは、片角スタイラス(型番:SPH-71)とした。ソフトウェアは、FORMTRACEPAKとした。測定速度は、200μm/秒とした。測定ピッチは、2μmとした。
【0070】
段差54が延びる方向に対して垂直な方向に、X軸が配置された。溝53の底面部51にスタイラスを接触させた状態で、繋ぎ目の段差54部分の形状が測定された。抽出した段差54の形状に基づいて、段差54の高さが測定された。底面部51における段差54は、第1切削インサート100と第2切削インサート200とが周方向に重なる領域付近において形成される。段差54の高さの測定精度は、0.0001mm(小数点以下4桁である)。
【0071】
(測定結果)
【0072】
【表1】
【0073】
表1は、溝53の底面部51における段差54の測定値を示している。表1に示されるように、サンプル1に係るカッタを用いて被削材50に溝53を形成した場合、溝53の底面部51に形成された段差54の測定値は、0.0001mm未満であった。一方、サンプル2に係るカッタを用いて被削材50に溝53を形成した場合、溝53の底面部51に形成された段差54の測定値は、0.026mmであった。以上の結果より、本実施形態に係る転削工具5を用いて被削材50に溝53を形成する場合、溝53の底面部51における段差54の高さを低減可能であることが確かめられた。
【0074】
今回開示された実施形態および実施例は全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態および実施例ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0075】
1 第1面、2 第2面、3 外周面、4 内周面、5 転削工具、6 交点、7 切削インサート、10 第1ポケット、11 第1座面、12 第1側面、13 第1壁面、15 第1締結部材、16 第1締結孔、20 第2ポケット、21 第2座面、22 第2側面、23 第2壁面、25 第2締結部材、26 第2締結孔、30 ボディ、50 被削材、51 底面部、51a 凸状部、52 側面部、53 溝、54 段差、100 第1切削インサート、101 第1コーナ切刃、102 第3コーナ切刃、103 第1副切刃、104 第1主切刃、105 第1頂面、106 第1底面、107 第1外周側面、108 第1直線切刃、109 第1切刃、111 第1コーナ軌跡、112 第3コーナ軌跡、113 第1副軌跡、114 第1主軌跡、118 第1直線軌跡、119 第1切刃軌跡、120 第1貫通孔、121 第1接点、122 第1最外周点、200 第2切削インサート、201 第2コーナ切刃、202 第4コーナ切刃、203 第2副切刃、204 第2主切刃、205 第2頂面、206 第2底面、207 第2外周側面、208 第2直線切刃、209 第2切刃、211 第2コーナ軌跡、212 第4コーナ軌跡、213 第2副軌跡、214 第2主軌跡、218 第2直線軌跡、219 第2切刃軌跡、220 第2貫通孔、221 第2接点、222 第2最外周点、300 第3軌跡、301 第1軌跡、302 第2軌跡、303 外周軌跡、A 中心軸、A1 第1方向、A2 第2方向、B 平面、C 径方向、D 第5距離、E1 第1距離、E2 第2距離、E3 第3距離、E4 第4距離、F 送り方向、H 第6距離、L1 第1接線、L2 第2接線、R 回転方向、S1 第1状態、S2 第2状態、X1 第1仮想直線、X2 第2仮想直線、θ1 第1角度、θ2 第2角度。
【要約】
転削工具は、複数の切削インサートと、ボディとを有している。ボディは、第1面と、第2面と、外周面とを含む。ボディには、第1ポケットと第2ポケットとが周方向において交互に設けられている。複数の切削インサートは、第1ポケットに配置されている第1切削インサートと、第2ポケットに配置されている第2切削インサートとを含んでいる。中心軸を含む平面に対して、第1主切刃を回転投影することによって得られる第1主切刃の軌跡を第1主軌跡とする。平面に対して、第2主切刃を回転投影することによって得られる第2主切刃の軌跡を第2主軌跡とする。第1主軌跡は、第2主軌跡と交差する。第1主軌跡と第2主軌跡との交点における第1主軌跡の接線は、第1面から第2面に向かうに従って中心軸に近づくように傾斜している。交点における第2主軌跡の接線は、第2面から第1面に向かうに従って中心軸に近づくように傾斜している。
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