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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】脂質二重膜形成用隔壁及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20220509BHJP
   G03F 7/40 20060101ALI20220509BHJP
   G03F 7/42 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
B01J19/00 M
G03F7/40 521
G03F7/42
G03F7/40 501
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018007076
(22)【出願日】2018-01-19
(65)【公開番号】P2019122945
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-01-08
(73)【特許権者】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大崎 寿久
(72)【発明者】
【氏名】早川 正俊
(72)【発明者】
【氏名】神谷 厚輝
(72)【発明者】
【氏名】金子 美晴
(72)【発明者】
【氏名】上原 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】荒木 勝文
(72)【発明者】
【氏名】根田 歩
(72)【発明者】
【氏名】平田 肇
(72)【発明者】
【氏名】浦 敏行
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-077559(JP,A)
【文献】国際公開第2011/043008(WO,A1)
【文献】米国特許第06863833(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0062239(US,A1)
【文献】KALSI,Sumit et al.,Shaped Apertures in Photoresist Films Enhance the Lifetime and Mechanical Stability of Suspended Lip,Biophysical Journal,Biophysical Society,2014年04月,Volume 106,p.1650-1659
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00-19/32
G03F 7/40
G03F 7/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個又は複数の貫通孔を有する湿式エッチング可能な樹脂から形成される薄膜と、該薄膜の両面を被覆する、湿式エッチング可能な樹脂から形成される補強層を具備し、該補強層は、前記各貫通孔及び各貫通孔の周辺部分以外の部分を被覆し、前記貫通孔は、その断面がテーパー状である、脂質二重膜形成用隔壁の製造方法であって、
片面が支持体フィルムにより被覆された、前記薄膜を準備する工程と、
該薄膜を選択的にエッチングして、断面がテーパー状である1個又は複数の前記貫通孔を形成する工程と、
前記薄膜の、前記支持体フィルムに被覆された面と反対側の面の全面を、感光性樹脂層で被覆する工程と、
前記支持体フィルムを剥離する工程と、
該支持体フィルムが剥離されて露出した前記薄膜の面の全面を、感光性樹脂層で被覆する工程と、
前記薄膜の両面に形成された感光性樹脂層を選択フォトエッチングし、前記各貫通孔を埋める感光性樹脂及び各貫通孔の周辺部分の感光性樹脂を選択的に除去する工程と、
前記両方の感光性樹脂層を加熱処理して前記補強層とする工程とを含む、製造方法。
【請求項2】
前記薄膜がポリイミド系樹脂から成る請求項記載の方法。
【請求項3】
前記補強層がポリイミド系樹脂から成る請求項又は記載の方法。
【請求項4】
前記感光性樹脂層の加熱処理を真空中で行う請求項のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質二重膜形成器具に用いられる脂質二重膜形成用隔壁、該隔壁を含む脂質二重膜形成器具及び該隔壁の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞膜上のタンパク質(膜タンパク質)は創薬標的の多くを占め、その機能を観測・解析することは学術的のみならず医薬分野でも重要とされる。こうした膜タンパク質の機能を計測することを目的の一つとして、マイクロデバイス上に人工的に細胞膜(脂質二重膜)を形成する技術が開発されてきた。脂質二重膜マイクロデバイスの技術開発に伴い、膜タンパク質の優れた機能を利用する研究が行われるようになり、人工細胞膜のセンサとしての工学応用を見据えた研究も盛んになっている。
【0003】
脂質二重膜は、直径数十~数百マイクロメートルの微小孔を設けた高分子薄膜やガラス細管先端に形成する。薄膜における微小孔の作製は、テフロン(登録商標)薄膜に熱した針を通すといった旧来の方法から、微細加工技術を利用した孔径・形状制御が可能な方法が用いられるようになった。これまでの研究を通して、孔径や孔形状、薄膜の厚さなどが形成される脂質二重膜の性質・性能に影響を及ぼすことが明らかになってきている。
【0004】
脂質二重膜形成器具としては、貫通孔を有する隔壁でチャンバーを分離し、分離された各チャンバー内に脂質単分子膜形成性溶液を入れ、隔壁内の貫通孔の部分に2層に脂質単分子膜を形成させて脂質二重膜を形成する方法が知られている(特許文献1)。このような隔壁内の貫通孔としては、テーパー形状(隔壁の厚さ方向に沿って孔径が連続的かつ一方的に変化する)を有することが、良好な脂質二重膜形成に有利であることが知られている(非特許文献1)。また、良好な脂質二重膜を形成するためには、隔壁内の貫通孔の厚さは5μm~30μm程度と薄いことが望まれるが、このような薄い膜は、機械的強度が小さくて取扱いが困難である。テーパー状の貫通孔を有し、貫通孔を設けるフィルムの機械的強度の問題を解決する方法として、非特許文献2には、シリコン基板上に、微細加工技術を駆使して窒化ケイ素膜を形成し、この窒化ケイ素膜に貫通孔を設けることが記載されている。また、パラキシリレン系ポリマーであるパリレンから成る自己支持性のフィルムを隔壁として用いることも公知である(特許文献2)。さらに、パリレンフィルムに複数の貫通孔を設け、この複数の貫通孔が設けられている領域以外の部分のフィルム両面に、補強フィルムを接着剤で貼り付けた隔壁も知られている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-81405号公報
【文献】特開2011-149868号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Kalsi et al., Biophys. J., 2014, 106, 1650-1659
【文献】Hirano-Iwata et al., Langmuir, 2010, 26, 1949-1952
【文献】Kawano et al., Sci Rep, 2013, 3, 1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献2記載の方法は、半導体装置の製造に用いられる微細加工技術を駆使した方法であり、高価な半導体製造装置を必要とし、気相反応であるスパッタリングも必要であるため、製造工程が複雑である。また、特許文献2記載の方法では、パリレンフィルムに形成される貫通孔はテーパー状ではない。さらに、非特許文献3記載の隔壁では、貫通孔がテーパー状でないことに加え、補強フィルムを接着剤で貼り付けて接着剤を乾燥させる必要があるため、製造に熟練と時間を要し、大量生産には不向きである。さらに、全ての貫通孔の近傍が補強フィルムで補強されているわけではないので、貫通孔近傍の機械的強度にも不安がある。
【0008】
本発明の目的は、良好な脂質二重膜を形成することができる脂質二重膜形成用隔壁であって、十分な機械的強度を有し、高価な装置を必要とすることなく、汎用の装置を用いて簡便に大量生産することが可能な、脂質二重膜形成用の隔壁及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、貫通孔を設ける薄膜を、湿式エッチング可能な樹脂から形成すると共に、各貫通孔及び各貫通孔の周辺部分以外の部分の両面上に、湿式エッチング可能な樹脂から形成される補強層を形成し、かつ、貫通孔の断面をテーパー状とすることにより、上記目的が達成可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
【0011】
1.1個又は複数の貫通孔を有する湿式エッチング可能な樹脂から形成される薄膜と、該薄膜の両面を被覆する、湿式エッチング可能な樹脂から形成される補強層を具備し、該補強層は、前記各貫通孔及び各貫通孔の周辺部分以外の部分を被覆し、前記貫通孔は、その断面がテーパー状である、脂質二重膜形成用隔壁。
2. 前記薄膜がポリイミド系樹脂から成る1記載の隔壁。
3. 前記補強層がポリイミド系樹脂から成る1又は2記載の隔壁。
4. 前記補強層の厚さが20μm~200μmである1~3のいずれか1項に記載の隔壁。
5. 前記各貫通孔の前記周辺部の換算直径が、補強層の厚さの5倍~50倍の範囲である1~4のいずれか1項に記載の隔壁。
6. 前記貫通孔のテーパー角が80度以下である1~5のいずれか1項に記載の隔壁。
7. 前記薄膜の厚さと前記貫通孔の孔径の比が1/50~1/5である1~6のいずれか1項に記載の隔壁。
8. 前記薄膜の厚さが1μm~30μmである1~7のいずれか1項に記載の隔壁。
9. 隔壁の全面上にパリレンの蒸着層をさらに含む、1~8のいずれか1項に記載の隔壁。
10. 1~9のいずれか1項に記載の隔壁と、該隔壁により2室に分離されたチャンバーを具備する脂質二重膜形成器具。
11. 1記載の脂質二重膜形成用隔壁の製造方法であって、
片面が支持体フィルムにより被覆された、前記薄膜を準備する工程と、
該薄膜を選択的にエッチングして、断面がテーパー状である1個又は複数の前記貫通孔を形成する工程と、
前記薄膜の、前記支持体フィルムに被覆された面と反対側の面の全面を、感光性樹脂層で被覆する工程と、
前記支持体フィルムを剥離する工程と、
該支持体フィルムが剥離されて露出した前記薄膜の面の全面を、感光性樹脂層で被覆する工程と、
前記薄膜の両面に形成された感光性樹脂層を選択フォトエッチングし、前記各貫通孔を埋める感光性樹脂及び各貫通孔の周辺部分の感光性樹脂を選択的に除去する工程と、
前記両方の感光性樹脂層を加熱処理して前記補強層とする工程とを含む、製造方法。
12. 前記薄膜がポリイミド系樹脂から成る11記載の方法。
13. 前記補強層がポリイミド系樹脂から成る11又は12記載の方法。
14. 前記感光性樹脂層の加熱処理を真空中で行う11~13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の隔壁を用いて形成された脂質二重膜は、後述の実施例において具体的に記載されるように、イオンチャネルとして機能するナノポアを持つタンパク質を脂質二重膜中に保持させて測定される電流のノイズが小さく、良好な性質を有する。本発明の隔壁は、主として湿式エッチングにより製造することができるので、製造の工程が簡便であり、高価な装置を必要とせず、安価な汎用の装置を用いて製造することができる。さらに、製造工程が簡便であることに加え、1枚の薄膜に多数の隔壁を同時に作製することができるので、大量生産が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の隔壁の1具体例の、貫通孔及びその近傍の模式切断部端面図である。
図2図1に示す本発明の隔壁の1具体例の好ましい製造方法の例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の隔壁の1具体例の、貫通孔及びその近傍の模式切断部端面図である。なお、便宜上、各構成要素の寸法比率は実際の寸法比率とは異なっている。
【0015】
隔壁は、薄膜10を具備する。薄膜10は、湿式エッチング可能な樹脂から形成される。ここで、「湿式エッチング可能な樹脂から形成される」は、湿式エッチング可能な樹脂に由来するという意味であり、最終製品中の薄膜が湿式エッチング可能である必要はない。薄膜10は、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂又はエポキシ系樹脂等から形成することができる。これらのうち、形成される脂質二重膜の性質(上記電流ノイズ等)の観点からポリイミド系樹脂が好ましい。「ポリイミド系樹脂」は、主として(50モル%以上、好ましくは、90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、最も好ましくは100モル%)ポリイミドから成る樹脂を意味する。「樹脂」は、本発明の効果に悪影響を与えない範囲で、可塑剤、帯電防止剤、無機粒子のような、しばしば樹脂に添加される添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤の合計含量は、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下である。薄膜10の厚さは、通常1μm~30μmであり、5μm~20μmが好ましく、特に5μm~10μmが好ましい。また、後の熱処理工程により、硬化してポリイミドとなるものでもよく、すなわち、ポリアミック酸等のポリイミド前駆体樹脂であってもよい。
【0016】
薄膜10には、1個又は複数の貫通孔12が設けられている。貫通孔12に形成される脂質二重膜は、厚さが5nm程度と非常に薄く、振動等による脂質二重膜の破壊を防止するためには、貫通孔12の孔径は小さい方が好ましい。一方、貫通孔12に形成される脂質二重膜は、その周辺部に油脂から成る部分が形成されるので、貫通孔12の孔径があまりに小さすぎると脂質二重膜が形成されにくくなる。このため、貫通孔12の孔径は、30μm~300μm程度が好ましく、さらには、30μm~150μm程度が好ましい。なお、テーパー状の貫通孔の「孔径」と言う場合、最も孔径が小さくなっている部分の孔径を意味する。また、同様に、良好な脂質二重膜の形成されやすさという観点から、薄膜10の厚さと貫通孔12の孔径の比(アスペクト比)は、1/50~1/5が好ましく、さらには、1/50~1/10が好ましい。
【0017】
貫通孔12は、図示のように、その断面がテーパー状(隔壁の厚さ方向に沿って孔径が連続的にかつ一方的に変化する)である。図1中、丸で囲んだ部分の拡大図が図1の右下の図である。ここに示される角度θが「テーパー角」であり、このテーパー角は、80度以下が好ましく、さらには60度以下が好ましい。一方、テーパー角があまりに小さいものは製造が困難であり、通常、テーパー角は、10度以上、好ましくは15度以上である。なお、この範囲のテーパー角は、後述する湿式エッチングにより貫通孔をエッチング形成すれば達成される。
【0018】
薄膜10の両面上には、薄膜10を被覆する、湿式エッチング可能な樹脂から形成される補強層14が形成されている。ここで、「湿式エッチング可能な樹脂から形成される」は、湿式エッチング可能な樹脂に由来するという意味であり、最終製品中の補強層が湿式エッチング可能である必要はない。補強層14は、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂又はエポキシ系樹脂等から形成することができるが、薄膜10と同じ樹脂から形成すると、熱膨張率が同じとなって、温度変化に起因する変形や剥離が生じないので好ましい。上記のとおり、薄膜10はポリイミド系樹脂から形成されることが好ましいので、補強層14もポリイミド系樹脂から形成されることが好ましい。ここで、「ポリイミド系樹脂」の説明は上記と同様であるが、後述のように、製造工程の都合上、補強層は感光性ポリイミド系樹脂から形成することが好ましい。感光性ポリイミド系樹脂は、後の熱処理工程により、硬化してポリイミドとなるものでもよく、すなわち、ポリアミック酸等のポリイミド前駆体樹脂であってもよい。
【0019】
補強層14は、各貫通孔12の部分はもちろん、各貫通孔12の周辺部10’にも形成されない。これにより、脂質二重膜が形成される貫通孔12の厚さを薄膜10の厚さに限定することができ、補強層14は、脂質二重膜の形成には全く関与しないことを確保することができる。一方、補強層14が形成されない領域を、各貫通孔12の部分と各貫通孔12の周辺部10’に限定することにより、十分な機械的強度を達成することができる。周辺部10’の形状は、通常、円形であるが、円形に限定されるものではない。「各貫通孔12の周辺部10’」の換算直径は、補強層の厚さの5倍~50倍の範囲であることが好ましく、さらには、10倍~30倍の範囲が好ましい。ここで、「換算直径」とは、周辺部10’が円形である場合にはその直径、円形でない場合には、貫通孔の部分を含む周辺部の面積と同じ面積を持つ円の直径を意味する。
【0020】
さらに、所望により、得られた隔壁の全面上にパリレンを化学蒸着(CVD)してもよい。蒸着するパリレンの厚さは、10nm~500nmが好ましく、特に50nm~200nmが好ましい。パリレンを蒸着することにより、イオンチャネルとして機能するナノポアを持つタンパク質を脂質二重膜中に保持させて測定される電流のベースライン(絶縁性能)を向上させることができる。
【0021】
以下、図1に示す本発明の隔壁の1具体例の好ましい製造方法の例を図2に基づいて説明する。なお、詳細な条件は、後述の実施例に記載されている。
【0022】
先ず、薄膜10を準備する。薄膜10は、市販品を用いることが便利であるが、薄膜10は単独では薄くて機械的強度が低く、取扱性に劣るため、片面が支持体フィルム(ポリエステルフィルム等)により被覆された形態のものを使用する。さらに、ポリイミド薄膜を絶縁膜として用い、ポリイミド薄膜上に銅層が形成された積層フィルムが、電子部品の配線層を作製するためのフィルムとして製造可能なので、このような銅層被覆ポリイミドフィルムも好ましく用いることができる。以下の説明では、このような銅層被覆ポリイミドフィルムを用いた例について説明する。
【0023】
図2の1に示すように、支持体フィルム16(ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等)上にポリイミド薄膜10が積層され、その上に銅層18が積層されたフィルムを準備する。
【0024】
次に、図2の2に示すように、銅層18上にドライフィルムレジスト(DFR)20を積層する。なお、DFRに代えてフォトレジストを塗布することも可能であるが、DFRを貼る方が簡便である。
【0025】
次に、図2の3に示すように、DFR20を、選択的に紫外線照射して、現像し、パターンを形成する。後の工程において、DFR20の現像除去された部分の下にある薄膜10の部分に貫通孔12が形成される。
【0026】
次に、図2の4に示すように、選択的にパターン形成したDFR20をマスクとして、銅層18を選択エッチングする。
【0027】
次に、図2の5に示すように、DFR20を全面除去する。
【0028】
次に、図2の6に示すように、選択エッチングされた銅層18をマスクとして、ポリイミド薄膜10を選択エッチングし、貫通孔12を形成する。
【0029】
次に、図2の7に示すように、銅層18を、エッチングにより全面除去する。
【0030】
次に、図2の8に示すように、ポリイミド薄膜10上に、感光性ポリイミド系樹脂から成るカバーレイ22aを積層する。なお、カバーレイ22aは、フィルムであることが簡便で好ましく、この場合、ロールラミネーター等を用いて積層することができる。もっとも、感光性ポリイミド系樹脂のワニスを塗布してカバーレイ22aを形成することも可能である。
【0031】
次に、図2の9に示すように、支持体フィルム16を剥離する。
【0032】
次に、図2の10に示すように、支持体フィルム16を剥離して露出したポリイミド薄膜10の面上に、カバーレイ22aと同じ感光性ポリイミド系樹脂から成るカバーレイ22bを、カバーレイ22aと同様に積層する。
【0033】
次に、図2の11に示すように、貫通孔12とその周辺部10’以外を被覆するカバーレイ22a及び22bの領域を、紫外線で両面露光する。
【0034】
次に、図2の12に示すように、カバーレイ22a及び22bを現像して貫通孔12及びその周辺部10’を被覆するカバーレイ22a及び22bを除去し、貫通孔12及びその周辺部10’を露出させる。
【0035】
次に、図2の13に示すように、カバーレイ22a及び22bを熱処理して完全硬化させて補強層14とする。熱処理は、大気中でも真空中でもよいが、良好な脂質二重膜を形成する観点から、真空中が好ましい。また、熱処理温度は、通常、150℃~250℃程度であり、160℃~190℃程度が好ましい。また、熱処理時間は50分から3時間程度が好ましく、さらには1時間から2時間程度が好ましい。
【0036】
さらに、パリレンを蒸着する場合には、CVD装置を用いて、得られた隔壁の全面上にパリレンを蒸着する。
【0037】
上記の方法によれば、エッチングは全て湿式エッチングであり、露光、湿式エッチング、加熱処理のみによって本発明の隔壁を製造することができるので、汎用の装置を用いて容易に、簡便に本発明の隔壁を製造することができる。また、1枚のポリイミド薄膜上に多数(例えば数百)の隔壁を一度に形成することができ、大量生産にも適している。
【0038】
本発明の脂質二重膜形成用隔壁は、従来の脂質二重膜形成用隔壁と同様に用いることができる。すなわち、チャンバーを、本発明の隔壁により2室に分離することにより、脂質二重膜器具を構成することができる。チャンバーとしては、例えば特許文献1に記載されているような、周知のダブルウェルチャンバーを好ましく用いることができるがこれに限定されるものではない。
【0039】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0040】
1. 実施例1 隔壁の製造
図2に示す、上記した製造方法により本発明の隔壁の好ましい具体例を製造した。具体的には以下のとおりである。
【0041】
厚さ50μmのPETフィルム(支持体フィルム16)上に、厚さ7.5μmのポリイミド薄膜10であるカプトン30EN(商品名、東レ・デュポン社製)、その上に厚さ5μmの銅層18が積層された積層フィルムを準備した(図2の1)。用いた積層フィルムのサイズは、250mm四方とした。
【0042】
次に、銅層18上に、厚さ25μmのDFR20を、大気圧ロールラミネーターにより110℃、20cm/分の速度でラミネートした(図2の2)。
【0043】
平行露光機を用いて80mJ/cm2のエネルギーで紫外線をコンタクト露光し、1%炭酸ナトリウム溶液でスプレー現像し、水洗した(図2の3)。
【0044】
パターン化されたDFR20をマスクとして、アルカリ系の銅エッチング液で銅層18を選択除去した(図2の4)。
【0045】
DFRの剥離液中に60℃で1分間浸漬してDFR20を全面的に膨潤剥離した(図2の5)。
【0046】
パターン化された銅層18をマスクとして、市販のポリイミドエッチング液(TPE3000、東レエンジニアリング社製)でポリイミド薄膜10を選択エッチングし、貫通孔12を形成した(図2の6)。
【0047】
アルカリ系の銅エッチング液で、銅層18を全面除去した(図2の7)。
【0048】
大気圧ロールラミネーターを用いて、ポリイミド薄膜10上に、厚さ30μmの市販の感光性ポリイミドフィルムからなるカバーレイ22aを2層積層した(合計膜厚60μm)(図2の8)。
【0049】
支持体PETフィルムを手で剥離した(図2の9)。
【0050】
大気圧ロールラミネーターを用いて、ポリイミド薄膜10上に、厚さ30μmの市販の感光性ポリイミドフィルムからなるカバーレイ22bを2層積層した(合計膜厚60μm)(図2の10)。
【0051】
拡散露光機を用い、紫外線のコンタクト露光により、550mJ/cm2のエネルギーで両面同時拡散露光した(図2の11)。露光部分は、貫通孔12とその周辺部10’以外を被覆している部分である。なお、この実施例では、貫通孔12は、11個設けた。
【0052】
1%炭酸ナトリウム水溶液を用いたスプレー現像により、両面同時現像を行い、水洗した(図2の12)。
【0053】
真空中で180℃で1時間加熱して、カバーレイ22aと22bを完全硬化させ、補強層14とした(図2の13)。
【0054】
以上のようにして作製した隔壁中の、貫通孔の孔径は、100μm、貫通孔周辺部(補強層14が形成されていない部分)の直径は、1.2mm、アスペクト比は、約1/20、テーパー角は40~60度であった。また、250mm四方のポリイミド薄膜に、各11個の貫通孔を有する、280個の隔壁を同時に作製した。また、作製開始から完成までに要した時間は7時間であった。
【0055】
2. 実施例2
実施例1で作製した隔壁の全面に、CVD装置を用いてパリレンを蒸着した。蒸着したパリレン層の厚さは100nmであった。
【0056】
3. 比較例1
厚さ約75μmのポリメチルメタクリレートフィルムに、直径600μmの貫通孔1個をマイクロドリルにより形成して隔壁とした。
【0057】
4. 比較例2
厚さ5μmのパリレンフィルムに紫外線リソグラフィーにより、孔径100μmの貫通孔11個を形成した。11個の貫通孔が形成されている長方形状の領域以外の両面を、補強フィルム(厚さ約75μmのアクリル樹脂フィルム)で被覆した。すなわち、長方形状の領域をくり抜いた補強フィルム2枚を準備し、接着剤を用いてパリレンフィルムの両面に貼り付け、乾燥させた。本比較例5枚程度を作製する時間から実施例1で作製可能な280枚を作製するための時間を概算すると少なくとも30時間を要する。
【0058】
5. 性能試験
(1) 脂質二重膜形成器具の作製
実施例1及び2、並びに比較例1及び2の隔壁を、1個のウェルの直径が4mm、深さが3mmのダブルウェルチャンバー(特許文献1参照)に、隔壁として組み込んで脂質二重膜形成器具を作製した。各ウェルの底面には銀塩化銀電極を配置した。
【0059】
(2) 脂質二重膜形成
まず、各ウェルに脂質溶液(n-デカン中に、ジフィタノイルフォスファチジルコリン(DPhPC)を20mg/mLの濃度で含む)1~5μLを滴下した。次に、各ウェルに膜タンパク質を含む水溶液(α-ヘモリシン 0.1nM又は1nM; KCl 1M, 10mMリン酸緩衝液, pH 7;18~25μL)を滴下し、静置した。液滴表面に脂質単分子膜が形成され、液滴同士が接触する隔壁の貫通孔では、脂質二重膜が形成される(液滴接触法)。脂質二重膜の形成は、膜タンパク質α-ヘモリシンの膜への再構成(脂質二重膜にα-ヘモリシンが機能的に組み込まれる)に伴う階段状のシグナルによって確認できる(特許文献1参照)。
【0060】
(3) 評価
上記ダブルウェルチャンバーを含む液滴接触法チップは、パッチクランプ増幅器(PICO2;Tecella LLC)に接続し、電圧クランプ条件で電流を計測した。観測周波数は5 KHz(ベッセルローパスフィルタ1 kHz)を使用した。ゲインは10mV/pA、印加電圧は50 mVとした。上述の通り、α-ヘモリシンが脂質二重膜に再構成されるとナノメートルサイズの孔(ナノポア)を脂質二重膜に開ける。本実験条件では、1nS(1GOhm)に相当する電流上昇が生じる。十分な回数の観測を繰り返し、このナノポア形成直前、すなわち脂質二重膜形成下の1秒以上の電流シグナルの標準偏差(RMSノイズ)を評価基準とした。なお、膜タンパク質の機能解析やセンサにおいては、微弱電流(小さい場合で1pA程度)を出力として得る。RMSノイズが大きい場合、出力を十分なS/N比として得ることができなくなるため、小さいほど性能が高いとされる。
【0061】
(4) 結果
結果を下記表1に示す。
【0062】
【表1】
平均値±標準偏差(pA rms)
【0063】
表1に示されるように、本発明の実施例の隔壁を用いた場合、RMSノイズが比較例のものよりも小さく、正確な測定が可能であることがわかる。比較例2の隔壁は、かなり好成績であるが、RMSノイズは実施例1及び2の方が低く、また、比較例2の隔壁は大量作製が困難であるのに対して、実施例1の隔壁は、7時間で280個を同時作製できた。
【符号の説明】
【0064】
10 薄膜
10’ 貫通孔周辺部
12 貫通孔
14 補強層
16 支持体フィルム
18 銅層
20 ドライフィルムレジスト(DFR)
22a カバーレイ
22b カバーレイ
図1
図2