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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】含フッ素シリカコンポジット粒子
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/22 20060101AFI20220509BHJP
   C08G 77/46 20060101ALI20220509BHJP
   C08G 77/48 20060101ALI20220509BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
C08G77/22
C08G77/46
C08G77/48
C08K9/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018031094
(22)【出願日】2018-02-23
(65)【公開番号】P2019143103
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】木島 哲史
(72)【発明者】
【氏名】金海 吉山
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英夫
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-196481(JP,A)
【文献】特開2014-196480(JP,A)
【文献】特開2017-193604(JP,A)
【文献】特開2004-022393(JP,A)
【文献】特開2017-186495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00-77/62
C08G 79/00-79/14
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
H01M 8/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
HO(CH2)aCF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕bO(CF2)cO〔CF(CF3)CF2O〕dCF(CF3)(CH2)aOH 〔I〕
(ここで、aは1~3、b+dは0~50、cは1~6の整数である)で表される含フッ素アルコール、トリアルコキシアルキルシランおよび少なくとも1個のホスホン酸部位を有する化合物またはキレート樹脂とシリカ粒子との縮合体からなる含フッ素シリカコンポジット粒子。
【請求項2】
トリアルコキシアルキルシランが、トリメトキシメチルシランまたはトリエトキシメチルシランである請求項1記載の含フッ素シリカコンポジット粒子。
【請求項3】
少なくとも1個のホスホン酸部位を有する化合物が、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)または2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸である請求項1記載の含フッ素シリカコンポジット粒子。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の含フッ素アルコール、トリアルコキシアルキルシランおよび少なくとも1個のホスホン酸部位を有する化合物またはキレート樹脂を、シリカ粒子の存在下で、アルカリ性または酸性触媒を用いて縮合反応させることを特徴とする含フッ素シリカコンポジット粒子の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素シリカコンポジット粒子に関する。さらに詳しくは、含フッ素アルコールを用いた含フッ素シリカコンポジット粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、多孔性および非多孔性基体の永久的な耐油および耐水表面処理のための、固体樹脂に対するフッ素含有量5~75質量%を有する液状の、フッ素含有および単一成分の組成物であって、適切な安定化成分および親水性シラン成分と組み合わせて、保存安定性、疎水性、疎油性および耐塵性にすぐれた組成物が記載されている。
【0003】
しかしながら、ここでは現在環境面から削減が求められているパーフルオロオクタン酸およびその前駆体であるC8以上のパーフルオロアルキル基を有する含フッ素アルコールが用いられているばかりではなく、鉱物および非鉱物基体の表面処理剤の調製に際し、毒性の高いイソシアネート化合物を用いることでフッ素化合物にシリル基を導入しており、したがってその実施に際しては製造環境を整える必要がある。
【0004】
本出願人らは先に、環境中に放出されてもパーフルオロオクタン酸等を生成させず、しかも短鎖の化合物に分解され易いユニットを有する含フッ素アルコールを用いた含フッ素シリカコンポジット粒子として、一般式
HO-A-RF′-A-OH 〔Ib〕
(ここで、RF′は炭素数8未満のパーフルオロアルキレン基を有し、O、SまたはN原子を含有する直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基であり、Aはアルキレン基である)で表される含フッ素アルコールおよびアルコキシシランとシリカ粒子との縮合体からなる含フッ素シリカコンポジット粒子を提案している(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2011-511113号公報
【文献】特開2014-196480号公報
【文献】特開2008-38015号公報
【文献】米国特許第3,574,770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、 一般式
HO(CH 2 ) a CF(CF 3 )〔OCF 2 CF(CF 3 )〕 b O(CF 2 ) c O〔CF(CF 3 )CF 2 O〕 d CF(CF 3 )(CH 2 ) a OH 〔I〕
(ここで、aは1~3、b+dは0~50、cは1~6の整数である)で表される含フッ素アルコールおよびアルコキシシランとシリカ粒子との縮合体からなる含フッ素シリカコンポジット粒子において、その親油撥水性をなお一層改善せしめたものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の目的は、上記含フッ素アルコール、トリアルコキシアルキルシランおよび少なくとも1個のホスホン酸部位を有する化合物またはキレート樹脂とシリカ粒子との縮合体からなる含フッ素シリカコンポジット粒子によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る含フッ素シリカコンポジット粒子は、有機溶媒に溶かして各種基材表面に適用することで、親油撥水性を有する薄膜を形成し、基材表面の改質を行うことができるので、油水分離などに有効に使用される。具体的には、産業用から一般家庭の分野での油水混合液からの水の有効な回収を可能としている。
【0009】
一方、トリアルコキシアルキルシランに代えてテトラアルコキシシランを用いた場合には、得られたコンポジット粒子を有機溶媒に溶かして基材表面に適用すると、そこに撥油親水性を示す薄膜を形成させる(後記比較例1~2参照)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
含フッ素アルコールとしては、一般式
HO(CH 2 ) a CF(CF 3 )〔OCF 2 CF(CF 3 )〕 b O(CF 2 ) c O〔CF(CF 3 )CF 2 O〕 d CF(CF 3 )(CH 2 ) a OH 〔I〕
a:1~3、好ましくは1
b+d:0~50、好ましくは1~20
b+dの値に関しては、分布を有する混合物であってもよい
c:1~6、好ましくは2~4
で表される化合物が用いられる。
【0011】
一般式〔I〕で表されるパーフルオロアルキレンエーテルジオールにおいて、a=1の化合物は特許文献3~4に記載されており、次のような一連の工程を経て合成される。
FOCRfCOF → H3COOCRfCOOCH3 → HOCH2RfCH2OH
Rf:-CF(CF3)〔OCF2C(CF3)〕 b O(CF2)cO〔CF(CF3)CF2O〕 d CF(CF3)-
【0012】
この含フッ素アルコール、トリアルコキシアルキルシランおよびホスホン酸部位を有する化合物またはキレート樹脂は、シリカ粒子の存在下において、アルカリ性または酸性の触媒の存在下で反応させることにより、含フッ素コンポジット粒子を形成させる。
【0013】
前記トリアルコキシアルキルシランとしては、例えばトリメトキシメチルシラン、トリエトキシメチルシラン等が用いられる。トリアルコキシアルキルシランが用いられないと、親油撥水性が殆ど発揮されない。
【0014】
少なくとも1個のホスホン酸部位を有する化合物として、例えば
1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸〔HEDP〕
ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)〔NTMP〕
2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸〔PBTC〕
等が挙げられる。
【0015】
これらのホスホン酸部位含有化合物は、含フッ素アルコールに対する重量比で目的の親油撥水性を示す限り、10~60重量%の範囲内で任意に設定されるが、好ましくは含フッ素アルコール50~80重量%に対して50~20重量%の割合で用いられる。
【0016】
また、キレート樹脂としては、市販品、例えばキレスト製品キレスパール等が用いられ、その使用割合はホスホン酸部位含有化合物と同等の範囲にある。
【0017】
これら各成分間の反応は、触媒量のアルカリ性または酸性触媒、例えばアンモニア水あるいは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液、または塩酸、硫酸等の存在下で、約0~100℃、好ましくは約10~30℃の温度で約0.5~48時間、好ましくは約1~10時間程度反応させることにより行われる。
【0018】
得られた含フッ素コンポジット粒子中の含フッ素アルコール量は、約1~60モル%、好ましくは約5~30モル%であり、コンポジット粒子径は、ナノシリカが用いられた場合には約30~200nmである。
【0019】
このような含フッ素コンポジット粒子の製造の際、反応系にシリカ粒子を共存させて縮合反応を行うと、含フッ素アルコール-トリアルコキシアルキルシラン-ホスホン酸部位含有化合物またはキレート樹脂-シリカ粒子の4成分からなる縮合体としての含フッ素シリカコンポジット粒子を製造することができる。
【0020】
シリカ粒子としては、平均粒径(動的光散乱法により測定)が5~200nm、好ましくは10~100nmであって、その一次粒子径が40nm以下、好ましくは5~30nm、さらに好ましくは10~20nmのオルガノシリカゾルが用いられる。実際には、市販品である日産化学工業製品メタノールシリカゾル、スノーテックスIPA-ST(イソプロピルアルコール分散液)、スノーテックスEG-ST(エチレングリコール分散液)、スノーテックスMEK-ST(メチルエチルケトン分散液)、スノーテックスMIBK-ST(メチルイソブチルケトン分散液)等が用いられる。
【0021】
また、平均粒径がμmオーダーのシリカ粒子を用いることもでき、これは市販品、例えば和光純薬工業製品ワコーゲル C-500HG等が用いられる。その場合のコンポジット粒子の粒子径は、約0.5~100μmである。
【0022】
これらの各成分は、シリカ粒子100重量部に対し、含フッ素アルコールが約100~800重量部、好ましくは約200~500重量部の割合で、またトリアルコキシアルキルシランが約100~600重量部、好ましくは約200~500重量部の割合で用いられる。含フッ素アルコールの使用割合がこれよりも少ないと親油撥水性が低くなり、一方これよりも多い割合で使用されると溶媒への分散性が悪くなる。また、トリアルコキシアルキルシランの使用割合がこれよりも少ないと親油性が低くなり、一方これよりも多い割合で使用されると溶媒への分散性が悪くなる。
【0023】
反応生成物である含フッ素シリカコンポジット粒子は、シリカ粒子表面の水酸基に、シロキサン結合をスペーサーとして含フッ素アルコール、トリアルコキシアルキルシランおよびホスホン酸部位含有化合物またはキレート樹脂が結合しているものと考えられ、したがってシリカの化学的、熱的安定性とフッ素のすぐれた撥水性、防汚性などが有効に発揮されており、またトリアルコキシアルキルシランによる親油撥水性が有効に発揮されており、実際にガラス表面を含フッ素シリカコンポジット粒子で処理したものは良好な親油撥水性を示すなどの効果がみられる。また、シリカコンポジット粒子の粒径およびそのバラツキも小さい値を示している。なお、シリカコンポジット粒子は、含フッ素アルコール、トリアルコキシアルキルシランおよびホスホン酸部位含有化合物またはキレート樹脂とシリカ粒子との反応生成物として形成されるが、この発明の目的を阻害しない限り他の成分の混在も許容される。
【実施例
【0024】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0025】
実施例1
容量13.5mlの反応容器に、含フッ素アルコール
HO(CH2)CF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕bO(CF2)2O〔CF(CF3)CF2O〕dCF(CF3)(CH2)OH
〔OXF9PO-OH (b+d=7)〕
250mg、シリカゲル(和光純薬工業製品ワコーゲルC-500HG、平均粒子径5~10μm)50mg、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)〔NTMP〕(50重量%水溶液)を純分として100mgおよびメタノール5mlを仕込み、さらにトリメトキシメチルシラン〔MTMS〕238mgを添加し、30分間攪拌した。その後、25重量%アンモニア水を1ml加え、さらに5時間攪拌して、コンポジット粒子メタノール溶液を得た。
【0026】
実施例2
実施例1において、シリカゲルの代わりに、メタノールシリカゾル(日産化学製品、30重量%メタノール溶液、平均粒径11nm)333.33mgが、またNTMPの代わりにキレート樹脂(キレスト製品キレスパールCH351、平均粒径0.5~1μm)〔Pst-OH〕100mgがそれぞれ用いられ、25重量%アンモニア水量が0.5mlに変更された。
【0027】
比較例1
実施例1において、含フッ素アルコール量が100mgに変更され、またMTMSの代わりにテトラエトキシシラン〔TEOS〕100mgが用いられた。
【0028】
比較例2
実施例2において、MTMSの代わりに、テトラエトキシシラン〔TEOS〕235mgが用いられ、25重量%アンモニア水量が2mlに変更された。
【0029】
以上の各実施例および比較例で得られたコンポジット粒子メタノール(ゾル)溶液について、液滴の接触角(単位:°)の測定を行った。
【0030】
このコンポジット粒子メタノール(ゾル)溶液をマイクロピペットで0.30ml取り、これをカバーガラス(松浪ガラス工業製品硼ケイ酸ガラス;18×18mm)に滴下し、室温下で溶媒を蒸発させた後、真空下で一日乾燥させた。得られた改質基材に、n-ドデカンまたは水の液滴4μlを静かに接触させ、付着した液滴の接触角をθ/2法により、接触角計(協和界面化学製Drop Master 300)を用いて経時的な測定を行った。
【0031】
得られた結果は、次の表に示される。なお、比較例3は、ガラス基材それ自身についての測定値である。

n-ドデカン
0分 5分 0分 5分 10分 15分 20分 25分 30分
実施例1 82 0 141 117 106 103 93 87 84
〃 2 70 0 134 128 120 114 111 104 99
比較例1 44 13 0 0 0 0 0 0 0
〃 2 85 75 0 0 0 0 0 0 0
〃 3 0 0 54 42 35 24 20 20 20