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特許7067745(+)-エピカテキン及びその類似体の有用性
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】(+)-エピカテキン及びその類似体の有用性
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/353 20060101AFI20220509BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220509BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220509BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220509BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220509BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220509BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220509BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220509BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20220509BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20220509BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20220509BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220509BHJP
   C07D 311/62 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
A61K31/353
A61P25/28
A61P9/00
A61P43/00 111
A61P9/10
A61P37/02
A61P11/00
A61P25/00
A61P25/08
A61P1/18
A61P17/02
A61P35/00
C07D311/62 CSP
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018566258
(86)(22)【出願日】2017-06-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 IN2017050252
(87)【国際公開番号】W WO2017221269
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-06-05
(31)【優先権主張番号】4200/DEL/2015
(32)【優先日】2016-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(31)【優先権主張番号】201611021674
(32)【優先日】2016-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】518327682
【氏名又は名称】スフェラ ファーマ ピーブイティー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SPHAERA PHARMA PVT. LTD.
【住所又は居所原語表記】Plot No.32, Sector 5, IMT, Haryana Manesar, 122051, INDIA
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(72)【発明者】
【氏名】ドゥガー、サンディープ
(72)【発明者】
【氏名】シュライナー、フレデリック、ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】セン、ソムダッター
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-509312(JP,A)
【文献】特表2016-507519(JP,A)
【文献】特表2012-524077(JP,A)
【文献】特表2014-521702(JP,A)
【文献】特開2008-063318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P、C07D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)の化合物を含有する、電子伝達系の調節によって利益を得る病気又は疾患の治療のための医薬であって、
前記病気又は疾患が、認知症、神経変性疾患、アルツハイマー病、リー症候群、ジストニア、サルコペニア、老化の心筋症、又はミトコンドリア機能不全に関連する他の疾患、虚血性血管疾患、免疫不全状態、運動失調、肺炎症及び線維症、乳児脳炎、てんかん、シャルコー・マリー・トゥース病、外分泌性膵機能不全、創傷治癒障害、癌細胞の増殖、メタボリック症候群、II型糖尿病、先天性高脂血症、及び薬物誘発高脂血症からなる群から選択されるか、又は前記治療が、トリグリセリドレベルを低下させるためのものである、医薬
【化1】
〔式中、A及びBは独立してORであり、C及びDは独立してOHであり、Rは、独立し-C(=O)-C~Cアルキルであるか、又はRは、それが結合する酸素と共にジクロロアセテート、フェニルブタノエート、フェニルプロピオネート及び2-プロピルペンタノエートからなる群から選択される。
又は
式中、BがORであり、A、C及びDが独立してOHであり、Rが、独立し-C(=O)-C~Cアルキルであるか、又はRは、それが結合する酸素と共にジクロロアセテート、フェニルブタノエート、フェニルプロピオネート及び2-プロピルペンタノエートからなる群から選択される。〕
【請求項2】
電子伝達系が電子伝達系の複合体IVである、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
式(I)の化合物
【化2】
〔式中、A及びBは独立してORであり、C及びDは独立してOHであり、Rは、独立し-C(=O)-C~Cアルキルであるか、又はRは、それが結合する酸素と共にジクロロアセテート、フェニルブタノエート、フェニルプロピオネート及び2-プロピルペンタノエートからなる群から選択される。
又は
式中、BがORであり、A、C及びDが独立してOHであり、Rが、独立し-C(=O)-C~Cアルキルであるか、又はRは、それが結合する酸素と共にジクロロアセテート、フェニルブタノエート、フェニルプロピオネート及び2-プロピルペンタノエートからなる群から選択される。〕
【請求項4】
以下からなる群から選択される、化合物
i.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,7-ジヒドロキシクロマン-5-イル オクタノエート、
ii.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,5-ジヒドロキシクロマン-7-イル オクタノエート、
iii.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシクロマン-5,7-ジイル ジオクタノエート、
iv.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,7-ジヒドロキシクロマン-5-イル ヘプタノエート、
v.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,5-ジヒドロキシクロマン-7-イル ヘプタノエート、
vi.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシクロマン-5,7-ジイル ジヘプタノエート、
vii.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,7-ジヒドロキシクロマン-5-イル デカノエート、
viii.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,5-ジヒドロキシクロマン-7-イル デカノエート、
ix.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシクロマン-5,7-ジイル ビス(デカノエート)、
x.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシクロマン-5,7-ジイル ビス(2-プロピルペンタノエート)、
xi.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,7-ジヒドロキシクロマン-5-イル 2-プロピルペンタノエート、
xii.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,5-ジヒドロキシクロマン-7-イル 2-プロピルペンタノエート、
xiii.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシ-5-((3-フェニルプロパノイル)オキシ)クロマン-7-イル 4-フェニルブタノエート、
xiv.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,7-ジヒドロキシクロマン-5-イル 3-フェニルプロパノエート、
xv.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,5-ジヒドロキシクロマン-7-イル 4-フェニルブタノエート、
xvi.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシクロマン-5,7-ジイル ビス(2,2-ジクロロアセテート)、
xvii.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,7-ジヒドロキシクロマン-5-イル 2,2-ジクロロアセテート、
xviii.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,5-ジヒドロキシクロマン-7-イル 2,2-ジクロロアセテート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(+)-エピカテキン及びエピカテキンの(+)-アイソフォームの類似体の有用性を開示する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェノール性天然物は、様々な生物学的経路におけるその有用性、食物中でのその存在、従ってそのヒトの健康への関連性のために重要である。ポリフェノールのポリフェノールモノマー単位の置換基の立体化学は、その相対的な立体化学の用語、「アルファ/ベータ」又は「シス/トランス」で記載することができる。用語「アルファ」(α)は、置換基がフラバノール環の平面の下に向いていることを示し、「ベータ」(β)は、置換基が環の平面の上に向いていることを示す。用語「シス」は、2つの置換基が環の同一の面に向いていることを示し、「トランス」は2つの置換基が環の反対の面に向いていることを示す。
【0003】
カテキンは、2つのベンゼン環と、炭素3にヒドロキシル基を有するジヒドロピラン複素環(C環)とを有する。A環はレゾルシノールに類似し、B環はカテコールに類似している。本分子には、炭素2と炭素3に2つのキラル中心がある。従って、本分子には4つのジアステレオ異性体が存在する。その異性体の2つはトランス配置であり、カテキンと呼ばれ、他の2つはシス配置であり、エピカテキンと呼ばれる。
【0004】
(+)-カテキンと(-)-エピカテキンは、カカオに最も豊富に存在するエピマーである。生合成において、カテキン及びエピカテキンは、主に(+)-カテキン及び(-)-エピカテキンとして合成される。しかし、キバナヤグルマギク(spotted knapweed)(ケンタウレア・マキュロザ・ラム(Centaurea maculosa,Lam.))等の特定の植物は、ラセミのカテキンの存在を示す。(±)-カテキンと(±)-エピカテキンの両方が、ガラナ種子(パウリニア・クパナ変種ソルビリス(Paullinia cupana var.sorbilis))に記述されていた。
【0005】
カテキンとエピカテキンは2つのキラル中心を有するため、それらの特性は、分子の立体配座に依存する。(-)-エピカテキンは、カカオ又は茶で、主に合成され、利用可能なエピカテキンのエピマーであるために、試験された生物学的活性の報告の大部分はこの異性体のものである。エピカテキンの個々のエピマー及び/又はラセミ混合物としての活性は、先行技術に十分には記載されていない。先行技術は、フラボノイドファミリーの天然成分である(-)-エピカテキンが、インビトロ及びインビボでミトコンドリア生合成を誘導し、その結果、ミトコンドリア枯渇に関連する疾患、例えば筋ジストロフィー等の治療に成功したことを開示する。多数の論文及び特許は、抗酸化剤又は抗癌剤としてのフラボノイドの広範な使用を論じている。この技術を教示する著者らは、キラルフラボノイドを独自に活性なものとして区別していない。独自のフラボノイドの立体選択的な特性の報告もなされていない。むしろ、その効果は、典型的には、フラボノイド類のすべての化合物に起因すると説明されている。カカオ、緑茶及び他の植物のポリフェノール源中に天然に存在することが見出されているエピカテキンの(-)-アイソフォームが、ミトコンドリアの中への非特異的な電解質の拡散を許容することでミトコンドリア機能を損なうミトコンドリアの透過性移行細孔の形成を含む、急性のミトコンドリアの損傷を防止することができること、及びエピカテキンの(-)-アイソフォームが、インビボモデルでミトコンドリアの生合成を誘導することを、記載する報告が先行技術中にある(参照,WO2012/170430及びWO2013/142816)。先行技術には、異性体間の活性の差異もまた知られておらず、記載されていない。
【0006】
天然源から純粋なポリフェノールを単離及び入手することは、オリゴマー化の程度の増加に伴って困難になる。このことは、エピカテキンのエナンチオマーの活性の立体化学的な相違に関する情報が欠如していることの理由の1つである。従って、ポリフェノールを合成することが好ましい。さらに、このようなポリフェノールは、臨床的に使用する際、不十分な薬物動態プロファイル等の特定の欠点を有している。従って、ポリフェノールの薬物動態プロファイルを改善することが必要とされている。
【0007】
合成エピマーの製造手段における重要な点の1つは、立体化学的に定義されたフェノールの新しい化学的な類似体を構築する能力である。ポリフェノールの類縁体を使用して、親薬物の半減期を増やすことでポリフェノールの薬物動態プロファイルを改善することができる。それによって、所望の効果を達成するのに必要な投与回数を減少させ、並びに/又はより効果的及び/若しくはより安全な薬物を創作することが促進される。
【0008】
エピカテキンの類似体に関連する特定の先行技術、WO2014/162320がある。本出願人は生物学的に活性である天然のフラボノイドフェノールの特定の新規な類似体を開示した。しかし、本出願には、活性に関する立体異性体の重要性が開示されておらず、またこれら類似体の活性の様式が開示されていない。
【0009】
従って、カテキン/エピカテキンの異性体の有用性を精査すること、及び好ましい異性体を効果的に送達するエピカテキンの新規な類似体が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】WO2012/170430
【文献】WO2013/142816
【文献】WO2014/162320
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、エピカテキンの異性体の有用性を精査することであり、また、好ましい異性体を効果的に送達するエピカテキンの新規な類似体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、(-)-エピカテキンよりも高められた(+)-エピカテキンの活性に関する。
【0013】
本発明は、(+)-エピカテキンの薬物動態、及びそれによる薬物動力学を高める、式(I)の(+)-エピカテキンの新規な類似体に関する。
【0014】
本発明は、式(I)の(+)-エピカテキンの類似体に関する。本発明の類似体の一般構造は、式(I)によって表すことができる。
【0015】
【化1】
【0016】
〔式中、A及びBは独立してORである。
C及びDは独立してOHである。
は、独立してC~C10低級の直鎖若しくは分枝鎖の非環式若しくは環式アルキルであるか、又はヒドロキシ酪酸、ジクロロ酢酸、フェニル酪酸、バルプロ酸を含む群から選択される。〕。
【0017】
本発明は、BがORであり、A、C及びDが独立してOHであり、Rが、独立してC~C10低級の直鎖若しくは分枝鎖の非環式若しくは環式アルキルであるか、又はヒドロキシ酪酸、ジクロロ酢酸、フェニル酪酸、バルプロ酸を含む群から選択される、式(I)の(+)-エピカテキンの類似体を開示する。
【0018】
本発明は、本発明の化合物の調製する方法、及び本発明の化合物を含む使用方法を含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(-)エピカテキンと比較した電子伝達系IV(ETC IV)の発現の増加に対する阻害複合体IVにおける(+)-エピカテキンの活性を示す。(+)-エピカテキンは(-)-エピカテキンよりも約400倍強力であり、これまでにない生物学的効力を獲得する。
図2】(-)-エピカテキンと比較した(+)-エピカテキンの11-β-ヒドロキシプレグネノロンとのより大きい相同性を示す。
図3】肝臓のトリグリセリド含量に対する化合物の活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、2種のエナンチオマー、(-)-エピカテキン及び(+)-エピカテキンを有するエピカテキンの異性体に関する、予想できない立体選択性に基づく。
【0021】
A.(-)-エピカテキンと比較された(+)-エピカテキンの活性
立体異性体の物理的及び生化学的特性は、顕著にかつ予想外に異なることがある。エナンチオマーは、活性及び物理化学的特性に関して異なることがある。キラル化合物の立体選択的な代謝は、薬物動態、薬物動力学及び毒性に影響し得る。エナンチオマー間の治療効果又は副作用の発現に関して予測可能性はない(Agranat I, et. al., 2002, Putting chirality to work: the strategy of chiral switches. Nature Reviews Drug Discovery, 1: 753-768)。1つのエナンチオマーが関心のある活性を有する場合、その対になったエナンチオマーは、典型的には、不活性であるか、又は活性エナンチオマーのアンタゴニストであるか、又は望ましくない可能性のある別の活性を有する。与えられたエナンチオマーについてこのような結果を予測し、予期する方法はない(Caldwell, J, 1999, Through the looking glass in chiral development. Modern Drug Discov., 2: 51-60)。時には両方のエナンチオマーが様々な程度で同様の活性を示すことがある。受容体の活性部位を立体的に妨害する多くの可能性があるため、受容体アンタゴニストのエナンチオマー間で最大程度の変化性を見ることがより普通である。従って、本発明者らがエナンチオマー間で決定することができた効力の最大の治療的な変化体は受容体アンタゴニストである。例えば、S-(-)-プロプラノロールは、R-(+)-プロプラノロールよりも、1,2及び3アドレナリン作動性受容体の遮断に関して、100倍高い受容体アンタゴニズムを示す(Smith, S, 2009, Chiral toxicology; it's the same only different. Toxicol. Sci., 110: 4-30)。受容体を活性化するための受容体への最適なリガンド適合のより制限された要件は、通常、受容体の活性化の効力に関してかなり小さな変化に終わる。対になったエナンチオマーが類似のアゴニスト活性を示す場合、効力の差は典型的には分率の差である。先行技術には、エナンチオマーの数倍を超える特異なアゴニスト活性の例が開示されていない。
【0022】
本発明は、クラスとしてフラボノイドについてこれまで記載されていない、エピカテキンの2つのエナンチオマーにわたる著しい生物活性の範囲を開示する。(-)-エピカテキンのエナンチオマーは(+)-エピカテキンである。電子伝達系IV(ETC IV)の発現の増加に関するアッセイで比較した場合、(+)-エピカテキンは(-)-エピカテキンよりも約400倍強力であり、これまでにない生物学的効力を獲得する(図1)。データを表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
エピカテキンの(-)-及び(+)-アイソフォームの有利な特性は、最近発見され、特許出願PCT/IN2015/050072に記載されているホルモンに対するそれらの構造上の相同性に基づく。
【0025】
【化2】
【0026】
図2に示すように、(-)-エピカテキンは、OHPの3つのヒドロキシル基の2つに立体的に一致する2つのヒドロキシル基を有する。しかし、(-)-エピカテキンと関係で(+)-エピカテキンに反転させて、OHPに合わせると、OHPのヒドロキシル基の3つすべてが(+)-エピカテキンの3つのヒドロキシル基と著しい相同性を示す。ある化合物の一方のエナンチオマーの反転させた三次元構造が、その対になったエナンチオマーと比較して天然のリガンドにより近い構造的及び機能的相同性を有するとの発見に関して報告した例は今までない。
【0027】
従って、エピカテキンの使用に好ましいエナンチオマーは、エピカテキン及びその類縁体の(+)-アイソフォーム又は(2S,3S)-エナンチオマーであり、好ましくはカテキンの混入がないものである。(+)-エピカテキンは、他のフラボノイド、特にエピカテキンの既知の異性体を含まない場合に、優れた薬理学的効果をもたらす。
【0028】
理論に限定されるものではないが、本発明の化合物は、それらの独自の立体配置及び立体化学のために活性であることが、受け入れられる。本発明の化合物は、電子伝達系(ETC)、特に電子伝達系IVの調節によって利益を得るであろう病気又は疾患の治療に有用である。
【0029】
本発明は、電子伝達連系、特にETC IVの増加された発現によって利益を得るであろう病気又は疾患を治療するための方法を提供する。本方法は、それを必要とする対象に治療上有効な量の(+)-エピカテキンを投与することを含む。
【0030】
身体が必要とするATPの大部分は、すべての組織のミトコンドリアで行われる酸化的リン酸化のプロセスによって供給される。ATP合成に影響を及ぼす電子輸送複合体として知られる5つのタンパク質複合体が存在する。ETC I、II、III及びIVは電子輸送を媒介する。ETC I、III及びIVは、ADPからATPを生成するATP合成酵素であるETC Vの活性に必要な電気化学的勾配を維持するプロトンポンプとしても機能する。チトクロームCオキシダーゼ(COX)としても知られる複合体IVは、14のサブユニットからなり、その機能的複合体への組み立てには、さらに30のタンパク質因子が必要である。ETC IVは、酸化的リン酸化に特に重要である。それは、組織特異的かつ発生的に制御されるアイソフォームを現すETC複合体の唯一のものであり、様々な代謝要求の下での酸化的リン酸化の正確な調節を可能にする。従って、ETC IV(COX)タンパク質複合体は、酸化的リン酸化における律速段階であると考えられる。ETC IVの小さな正又は負の変化は、健康に重大な影響を及ぼす可能性がある。COX活性の選択的な活性化は、認知の改善、ストレス下での神経細胞の生存の改善、及び創傷治癒の改善に関連している。ETC IVの活性を含むか又は調節する多数のタンパク質の変異によって、ETC IV活性のわずかな減少であっても病理学的結果が明らかにされる。COX活性の30%の少量の減少が、心筋症を誘発するか、又はアルツハイマー病等の神経変性疾患の発症に関連することが示されている。変異又は分子操作によるCOX(ETC IV)の発現の減少は、筋持久力及び速度の低下、筋ジストニア、T細胞成熟の障害による免疫不全状態、心筋症、特に老化表現型の心筋症、運動失調、神経変性、虚血のセッティングにおける増加した毒性、肺炎症及び線維症、脳症、血管機能不全、及び癌細胞増殖の刺激に関連している。機能不全を引き起こすCOXサブユニットアイソフォームの変異に関連するさらなる特異的疾患に、外因性膵機能不全、炎症性肺疾患、シャルコー・マリー・トゥース病、乳児脳炎、及びてんかんを伴うリー症候群の神経変性が含まれる。
【0031】
要約すると、COX発現又は機能の喪失に関連する以下に示す状態は、COX(ETC IV)の発現の強力で優先的な誘導物質に対して治療的に応答性があることが期待されうる。
認知症、アルツハイマー病又はリー症候群等の神経変性疾患、ジストニア、サルコペニア、老化の心筋症、又はミトコンドリア機能不全に関連する他の疾患、虚血性血管疾患、免疫不全状態、運動失調、肺炎症、及び線維症、乳児脳炎、てんかん、シャルコー・マリー・トゥース病、外分泌性膵機能不全、創傷治癒障害、癌細胞の増殖。
【0032】
さらに、(-)-エピカテキンと比較した(+)-エピカテキンの、高脂肪食を食べるマウスの上昇したトリグリセリドを低下させる相対的効果を考慮すると、(+)-エピカテキン及びその類縁体は、コルチコステロイド治療で観察されるように、メタボリック症候群、II型糖尿病、先天性高脂血症、及び薬物誘発高脂血症等の高いトリグリセリドに関連する状態のための好ましい医薬である。
【0033】
B.増加した薬物動態特性及び高められた有用性を有する(+)-エピカテキンの類似体
別の態様では、本出願は、改善された薬物動態特性及び高められた有用性を有する(+)-エピカテキンの類似体である式(I)の化合物をも開示する。
【0034】
本発明の類似体の一般構造は、式(I)によって表すことができる。
【0035】
【化3】
【0036】
〔式中、A及びBは独立してORである。
C及びDは独立してOHである。
は、独立してC~C10低級の直鎖若しくは分枝鎖の非環式若しくは環式アルキルであるか、又はヒドロキシ酪酸、ジクロロ酢酸、フェニル酪酸、バルプロ酸を含む群から選択される。〕。
【0037】
本発明は、BがORであり、A、C及びDが独立してOHであり、Rが、独立してC~C10低級の直鎖若しくは分枝鎖の非環式若しくは環式アルキルであるか、又はヒドロキシ酪酸、ジクロロ酢酸、フェニル酪酸、バルプロ酸を含む群から選択される、式(I)の(+)-エピカテキンの類似体を開示する。
【0038】
本発明のいくつかの例示化合物を表2に列挙する。
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
本発明の化合物には、以下の化合物が含まれる。
i.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,7-ジヒドロキシクロマン-5-イル オクタノエート、
ii.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,5-ジヒドロキシクロマン-7-イル オクタノエート、
iii.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシクロマン-5,7-ジイル ジオクタノエート、
iv.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,7-ジヒドロキシクロマン-5-イル ヘプタノエート、
v.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,5-ジヒドロキシクロマン-7-イル ヘプタノエート、
vi.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシクロマン-5,7-ジイル ジヘプタノエート、
vii.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,7-ジヒドロキシクロマン-5-イル デカノエート、
viii.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,5-ジヒドロキシクロマン-7-イル デカノエート、
ix.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシクロマン-5,7-ジイル ビス(デカノエート)、
x.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシクロマン-5,7-ジイル ビス(2-プロピルペンタノエート)、
xi.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,7-ジヒドロキシクロマン-5-イル 2-プロピルペンタノエート、
xii.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,5-ジヒドロキシクロマン-7-イル 2-プロピルペンタノエート、
xiii.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシ-5-((3-フェニルプロパノイル)オキシ)クロマン-7-イル 4-フェニルブタノエート、
xiv.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,7-ジヒドロキシクロマン-5-イル 3-フェニルプロパノエート、
xv.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,5-ジヒドロキシクロマン-7-イル 4-フェニルブタノエート、
xvi.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシクロマン-5,7-ジイル ビス(2,2-ジクロロアセテート)、
xvii.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,7-ジヒドロキシクロマン-5-イル 2,2-ジクロロアセテート、
xviii.(2S,3S)-2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-3,5-ジヒドロキシクロマン-7-イル 2,2-ジクロロアセテート。
【0043】
C.本発明の化合物の合成
本発明はまた、式(I)の化合物を調製する方法に関する。本発明の化合物は、以下の合成スキーム1によって調製することができる。
【0044】
【化4】
【0045】
本興味の化合物のいくつかは、上記スキームの概要によって、(+)-エピカテキン(1)から合成することができる。エピカテキンの(+)-異性体は、その全体が本明細書に組み込まれるPCT/IN2012/000052及びPCT/IN2014/000061の記載に従って合成することができる。ポリフェノール、例えばエピカテキンの(+)異性体を、0℃~還流温度の温度範囲で、アセトニトリル又はジクロロメタン等の適切な溶媒中、DIPEA又はTEA又は炭酸カリウム等の塩基の存在下、規定量の対応するアシルクロライド又はカルボニルクロライド又はカルバモイルクロライドで処理することで、化合物2で表される興味ある化合物の置換誘導体を提供することができる。
【0046】
他の場合に、0℃~還流温度の温度範囲で、アセトニトリル等の溶媒中、TEA等の塩基の存在下、CBZ-C1等の文献公知の保護基を用いて、(+)-エピカテキン等の(+)-ポリフェノールを保護することで、化合物3を得ることができる。0℃~還流温度の温度範囲で、アセトニトリル等の溶媒中、TEA又はDIPEA等の塩基を用いて、上記で定義した可変基Rを有する類似体を生成するための異なる比の誘導化剤を用いて、化合物3を誘導体化して、類似体4、6及び8を得ることができる。続いて、化合物4、6及び8のCBZ基を除去することで、構造式5、7及び9で表される化合物を得ることができる。
【0047】
本発明は、(+)-エピカテキン、本明細書に記載の(+)-エピカテキンの類似体、及びそれらの化学的誘導体を投与することを含む方法を開示する。本発明は、増加したミトコンドリア活性から利益を得るであろう病気及び疾患が、ミトコンドリア機能不全に関連する病気又は疾患を含むことを開示する。
【0048】
理論によって制限されるものではないが、本発明の化合物は、(+)-エピカテキンと比較して優れた薬物動態特性及び薬物動力学特性を示す。
【実施例
【0049】
例示のために意図された特定の例として、本明細書が記載される。これらの実施例は、いか様にも本発明の範囲を限定するために解釈されることはできない。
【0050】
実施例1:本発明の化合物の合成
【0051】
【化5】
【0052】
[工程1]
窒素雰囲気下、0℃で、化合物[1](0.4g,1.379mmol)のアセトニトリル(40ml)中の攪拌された溶液に、トリエチルアミン(0.38ml,1.75mmol)及び、続いてクロロギ酸ベンジル(0.39ml,2.75mmol)を加え、この温度で90分間攪拌した。反応をTLCでモニターし、3つの新しいスポットが出発化合物[1]と共に観察された。反応混合物をNHCl溶液(5ml)でクエンチし、酢酸エチル(2×50ml)で抽出した。合わせた有機層を、水と食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。有機層を蒸発させて、淡褐色固体を得た。この粗生成物をシリカゲルカラムにのせて、10%酢酸エチル/ヘキサンで溶出し、化合物[3](0.43g,59%)及び化合物[10]を得た。
【0053】
[工程2]
窒素雰囲気下、0℃で、化合物[3](0.4g,0.766mmol)のアセトニトリル(40ml)中の攪拌された溶液に、トリエチルアミン(0.105ml,0.766mmol)及び、続いてオクタノイルクロライド(0.124ml,0.727mmol)を加え、この温度で45分間撹拌した。反応をTLCでモニターした。反応混合物を水(5ml)でクエンチし、酢酸エチル(2×50ml)で抽出した。合わせた有機層を水と食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。有機層を蒸発させて、淡褐色固体を得た。この粗生成物をシリカゲルカラムにのせて、10%酢酸エチル/ヘキサンで溶出し、わずかに灰色がかった白色の粉末として化合物[11](0.110g,22%)、化合物[12]及び化合物[13]で溶離した。
【0054】
【化6】
【0055】
[工程3]
化合物[11](0.050g,0.23mmol)の酢酸エチル(10ml)中の撹拌された溶液に10%Pd(OH)(0.015g)を加え、水素雰囲気下、室温で、撹拌した。反応塊をセライトで濾過し、溶媒を蒸発させて淡黄色の粘着性物質を得た。この粗生成物を酢酸エチル/n-ペンタンで粉砕して、黄色の粘着性物質として化合物[14](0.025g,80%)を得た。化合物[12]及び化合物[13]を、化合物[15]及び化合物[16]に変換した。
【0056】
実施例2:トリグリセリドレベルに対する(+)-エピカテキンの効果
動物が、標準食を食べる動物と比較して体重の20%以上を獲得し、200mg/dL以上の糖血症レベルに達するまで(通常4~6週間)、動物が高脂肪食(HFD)を食べる状態にした。溶媒のみを(胃管栄養法で)受けるコントロール群(肥満群,n=12);経口的に胃管栄養法による(+)-エピカテキン群(n=10);経口的に胃管栄養法による(-)-エピカテキン群(n=10)に、動物を無作為に割り当てた。
【0057】
全ての動物を15日間処置し、HFD下で継続した。その結果を図3に示す。トリグリセリドに対する効果として、(+)-エピカテキン群(投与量:0.003mg/Kg/日)は、(-)-エピカテキン群(投与量:0.1mg/Kg/日)と同じトリグリセリドレベルの低下、すなわち30倍以上の改善を示した。
【0058】
実施例3:本発明の(+)-エピカテキンの類似体の活性
本発明の化合物を、AMPキナーゼに対する活性について試験した。AMPキナーゼに対する活性は、培養細胞におけるAMPキナーゼリン酸化状態の定量的蛍光免疫酵素アッセイによって評価した。5-AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPキナーゼ)は、細胞内エネルギーバランスの重要なセンサーである。AMPキナーゼは、筋収縮、飢餓、又は低酸素症等の多くの要因によって引き起こされるAMP/ATP比の増加に応答して活性化される。AMPキナーゼは、 -サブユニット(63kDa)、 -サブユニット(38kDa)及び -サブユニット(38KDa)を含むヘテロ三量体タンパク質複合体である。各サブユニットにはアイソフォーム( 1, 2, 1, 2, 1, 2, 3)が同定されており、これらのアイソフォームによって12の異なるタンパク質の形成が理論的に可能となる。 -サブユニットはセリン/スレオニンキナーゼドメインを含み、調節サブユニットはAMP及びATP( -サブユニット)の結合部位、並びにグリコーゲン( -サブユニット)の結合部位を含む。AMPキナーゼは、触媒ドメイン内のThr-172のリン酸化によって活性化される。AMP結合によって、基礎レベルと比較して、AMPキナーゼ活性が2~5倍、増加することになる。 -サブユニットへのAMPの結合によって、キナーゼのアロステリック活性化が引き起こされ、AMPキナーゼをThr-172の脱リン酸化から保護するキナーゼドメインにおける構造変化が誘導される。
【0059】
BioAssay Systemsの細胞ベースのELISAは、全細胞中のリン酸化されたAMPキナーゼを測定し、シグナルを全タンパク質含量に対して標準化する。抗体は、両方の -サブユニットを認識し、従って、すべての組織(ヒト、マウス、ラット)由来の細胞に使用することができる。このシンプルで効率的なアッセイは、細胞溶解物調製の必要性を排除し、短期及び長期のアッセイにおいてAMPキナーゼ調節を研究するために使用することができる。このアッセイでは、96ウェルプレートで増殖させた細胞が固定化され、ウェル内で透過処理される。AMPキナーゼリン酸化(pAMPK)を、蛍光ELISA用いて測定し、続いて各ウェルで総タンパク質測定を行う。化合物[1001]は、1nMでAMPK活性を示す。
【0060】
実施例4:本発明の類似体の薬物動態パラメーターの決定
一群4匹の一晩絶食後のメスのBalb Cマウスに、5%NMP正常食塩水(10ml/Kg)中の化合物[1]を(胃管栄養法で)経口投与した。0.16時間、0.5時間、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間の連続的な出血によって、血液をヘパリン処理した試験管中に採取した。血液サンプルを4℃で10,000rpmで5分間遠心分離して、血漿を得た。その血漿を別々のラベルを付けた管に吸引し、-80℃で保存した。血漿から薬物を抽出するための薬物抽出溶媒として、アセトニトリル中の400ng/mlの標準物質を使用した。血漿に抽出溶媒を加え、ボルテックスし、10分間、撹拌機で振とうし、4℃で10,000rpmで10分間遠心分離した。上清を分析のために保存した。
【0061】
アセトニトリル及び血漿較正曲線を生成し、血漿からの薬物回収率を決定した。液体クロマトグラフィータンデム質量分析計(API3200 LC-MS/MS)によって、定量分析を行った。グラフパッドPRISMバージョン5.04を用いて、Cmax、Tmax、AUC及びt1/2を計算した。その結果を表3に示す。
【0062】
【表5】
【0063】
本発明の化合物[1001]が投与に適していることは、特記されうる。
図1
図2
図3