(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】時系列データ評価装置及び時系列データ評価用プログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 17/18 20060101AFI20220509BHJP
【FI】
G06F17/18 Z
(21)【出願番号】P 2020110907
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2021-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】391016358
【氏名又は名称】東芝情報システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100074147
【氏名又は名称】本田 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】奥富 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】真尾 朋行
(72)【発明者】
【氏名】梅野 健
【審査官】田中 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-133305(JP,A)
【文献】特開2021-64324(JP,A)
【文献】特開2021-64323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
nを正の整数として、データ長がn+1の時系列データ{ξ
0,ξ
2,ξ
3,・・・,ξ
n}が、写像τによりξ
k=τ(ξ
k-1)=τ
k(ξ
0),k=1,2,・・・,nとして生成されるとき、ξ
kが含まれる区間Iをm個の区間に等分割した分割区間X
i(i=1,2,・・・,m)について、各分割区間を更にM等分した細分割区間X
jを有するデータに関し、外測度と同時外測度を求めると共に内測度と同時内測度を求める外測度・内測度算出手段と、
前記外測度と前記同時外測度に基づき、データ密度を一定としたときの一定密度同時外測度及びi固定の外測度全度数を求めると共に、前記内測度と前記同時内測度に基づき、データ密度を一定としたときの一定密度同時内測度及びi固定の内測度全度数を求める一定密度情報算出手段と、
前記一定密度同時外測度及び前記i固定の外測度全度数に基づき、外測度に関する外測度確率分布とデータ密度を一定とした場合の外測度条件付確率分布を求めると共に、前記一定密度同時内測度及び前記i固定の内測度全度数に基づき、内測度に関する内測度確率分布とデータ密度を一定とした場合の内測度条件付確率分布を求める確率分布算出手段と、
前記外測度確率分布と前記外測度条件付確率分布に基づき外測度に関する外測度データ評価値を求めると共に、前記内測度確率分布と前記内測度条件付確率分布に基づき内測度に関する内測度データ評価値を求める外測度・内測度評価値算出手段と、
前記外測度データ評価値と前記内測度データ評価値に基づき前記時系列データ全体の評価値を算出する時系列データ評価値算出手段と
を具備することを特徴とする時系列データ評価装置。
【請求項2】
外測度を外測度カウンタc
1[i]の値c
1[i]により表し、同時外測度を同時外測度カウンタc
2[i][j]の値c
2[i][j]により表し、内測度を内測度カウンタc
3[i]の値c
3[i]により表し、同時内測度を同時内測度カウンタc
4[i][j]の値c
4[i][j]により表すとき、
前記一定密度情報算出手段は、外測度全度数nを下記の式(01)により求め、内測度全度数n
*を下記の式(02)により求めることを特徴とする請求項1に記載の時系列データ評価装置。
【数1】
【請求項3】
前記一定密度情報算出手段は、データ密度を一定としたときの一定密度同時外測度d
2[i][j]及びi固定の外測度全度数t
2[i]を下記の式(03)と式(05)により求めると共に、データ密度を一定としたときの一定密度同時内測度d
4[i][j]及びi固定の内測度全度数t
4[i]を式(04)と式(06)により求めることを特徴とする請求項1または2に記載の時系列データ評価装置。
i=1,2,・・・,m,j=1,2,・・・,m×Mに対して、
【数2】
i=1,2,・・・,mに対して、
【数3】
【請求項4】
前記確率分布算出手段は、外測度に関する外測度確率分布p
out(i)とデータ密度を一定とした場合の外測度条件付確率分布p´
out(j|i)を下記の式(07)、式(08)、式(09)により求めると共に、内測度に関する内測度確率分布p
inn(i)とデータ密度を一定とした場合の内測度条件付確率分布p´
inn(j|i)を下記の式(010)、式(011)、式(012)により求めることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の時系列データ評価装置。
【数4】
【請求項5】
前記外測度・内測度評価値算出手段は、外測度に関する前記外測度データ評価値を求める際には、これに先立って下記の式(013)と式(014)による外測度データ評価中間値h
outを求めると共に、内測度に関する前記内測度データ評価値を求める際には、これに先立って下記の式(015)と式(016)による内測度データ評価中間値h
innを求めることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の時系列データ評価装置。
【数5】
【請求項6】
前記外測度・内測度評価値算出手段は、外測度データ評価中間値h
outに基づき外測度データ評価値H
*
outを下記の式(017)により求め、内測度データ評価中間値h
innに基づき内測度データ評価値H
*
innを下記の式(018)により求めることを特徴とする請求項5に記載の時系列データ評価装置。
【数6】
【請求項7】
前記時系列データ評価値算出手段は、前記外測度データ評価値と前記内測度データ評価値の平均を得る演算により、前記時系列データ全体の評価値を算出することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の時系列データ評価装置。
【請求項8】
コンピュータを、
nを正の整数として、データ長がn+1の時系列データ{ξ
0,ξ
2,ξ
3,・・・,ξ
n}が、写像τによりξ
k=τ(ξ
k-1)=τ
k(ξ
0),k=1,2,・・・,nとして生成されるとき、ξ
kが含まれる区間Iをm個の区間に等分割した分割区間X
i(i=1,2,・・・,m)について、各分割区間を更にM等分した細分割区間X
jを有するデータに関し、外測度と同時外測度を求めると共に内測度と同時内測度を求める外測度・内測度算出手段、
前記外測度と前記同時外測度に基づき、データ密度を一定としたときの一定密度同時外測度及びi固定の外測度全度数を求めると共に、前記内測度と前記同時内測度に基づき、データ密度を一定としたときの一定密度同時内測度及びi固定の内測度全度数を求める一定密度情報算出手段、
前記一定密度同時外測度及び前記i固定の外測度全度数に基づき、外測度に関する外測度確率分布とデータ密度を一定とした場合の外測度条件付確率分布を求めると共に、前記一定密度同時内測度及び前記i固定の内測度全度数に基づき、内測度に関する内測度確率分布とデータ密度を一定とした場合の内測度条件付確率分布を求める確率分布算出手段、
前記外測度確率分布と前記外測度条件付確率分布に基づき外測度に関する外測度データ評価値を求めると共に、前記内測度確率分布と前記内測度条件付確率分布に基づき内測度に関する内測度データ評価値を求める外測度・内測度評価値算出手段、
前記外測度データ評価値と前記内測度データ評価値に基づき前記時系列データ全体の評価値を算出する時系列データ評価値算出手段
として機能させることを特徴とする時系列データ評価用プログラム。
【請求項9】
外測度を外測度カウンタc
1[i]の値c
1[i]により表し、同時外測度を同時外測度カウンタc
2[i][j]の値c
2[i][j]により表し、内測度を内測度カウンタc
3[i]の値c
3[i]により表し、同時内測度を同時内測度カウンタc
4[i][j]の値c
4[i][j]により表すとき、
前記コンピュータを、前記一定密度情報算出手段として、外測度全度数nを下記の式(01)により求め、内測度全度数n
*を下記の式(02)により求めるように機能させることを特徴とする請求項8に記載の時系列データ評価用プログラム。
【数7】
【請求項10】
前記コンピュータを、前記一定密度情報算出手段として、データ密度を一定としたときの一定密度同時外測度d
2[i][j]及びi固定の外測度全度数t
2[i]を下記の式(03)と式(05)により求めると共に、データ密度を一定としたときの一定密度同時内測度d
4[i][j]及びi固定の内測度全度数t
4[i]を式(04)と式(06)により求めるように機能させることを特徴とする請求項8または9に記載の時系列データ評価用プログラム。
i=1,2,・・・,m,j=1,2,・・・,m×Mに対して、
【数8】
【数9】
【請求項11】
前記コンピュータを、前記確率分布算出手段として、外測度に関する外測度確率分布p
out(i)とデータ密度を一定とした場合の外測度条件付確率分布p´
out(j|i)を下記の式(07)、式(08)、式(09)により求めると共に、内測度に関する内測度確率分布p
inn(i)とデータ密度を一定とした場合の内測度条件付確率分布p´
inn(j|i)を下記の式(010)、式(011)、式(012)により求めるように機能させることを特徴とする請求項8乃至10のいずれか1項に記載の時系列データ評価用プログラム。
【数10】
【請求項12】
前記コンピュータを、前記外測度・内測度評価値算出手段として、外測度に関する前記外測度データ評価値を求める際には、これに先立って下記の式(013)と式(014)による外測度データ評価中間値h
outを求めると共に、内測度に関する前記内測度データ評価値を求める際には、これに先立って下記の式(015)と式(016)による内測度データ評価中間値h
innを求めるように機能させることを特徴とする請求項8乃至11のいずれか1項に記載の時系列データ評価用プログラム。
【数11】
【請求項13】
前記コンピュータを、前記外測度・内測度評価値算出手段として、外測度データ評価中間値h
outに基づき外測度データ評価値H
*
outを下記の式(017)により求め、内測度データ評価中間値h
innに基づき内測度データ評価値H
*
innを下記の式(018)により求めるように機能させることを特徴とする請求項12に記載の時系列データ評価用プログラム。
【数12】
【請求項14】
前記コンピュータを、前記時系列データ評価値算出手段として、前記外測度データ評価値と前記内測度データ評価値の平均を得る演算により、前記時系列データ全体の評価値を算出するように機能させることを特徴とする請求項8乃至13のいずれか1項に記載の時系列データ評価用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、時系列データ評価装置及び時系列データ評価用プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、時系列データについてカオス度合を把握するための定量化法として、リアプノフ指数と呼ばれる指標がよく用いられている。リアプノフ指数を求める場合は、データ生成源の情報(離散系の差分方程式や連続系の微分方程式等)が既知である必要がある。データ生成源の情報が未知である場合には、大量のデータから推定する手段が与えられているが、所謂「埋め込み次元の推定」に関する処理は、次元毎に系の様子を見ながら調整を繰り返す必要があり煩雑であるにも拘わらず、必ずしも一意にリアプノフ指数を得られないという問題がある(非特許文献5、6、7)。
【0003】
近年になって情報理論に基づく「カオス尺度(Chaos Degree)」と称される指標が提案された(非特許文献1)。以下に、カオス尺度の計算手法の一例を示す。
【0004】
<カオス尺度の定義>
データ長がn+1の時系列データを
{ξ
0,ξ
1,ξ
2,・・・,ξ
n}・・・(1)
と表す。
データは、差分方程式τ
【数1】
により、
【数2】
として生成されているものとする。
【0005】
上記のξ
kが含まれている区間I≡[a,b]をm個の区間に等分割する。この分割区間をX
i(i=1,2,・・・,m)とすると、Iについて次の式(2)が成り立つ。
【数3】
【0006】
ここで、ξ
k∈X
iとなる確率分布p(i)と、ξ
k∈X
i,ξ
k+1∈X
jとなる同時確率分布p(i,j)を次の式(3)、(4)の通りに算出する。
【数4】
上記において#{(条件式)}は、(条件式)を満たす数を意味する。
【0007】
上記のように確率分布p(i)と同時確率分布p(i,j)が求まると、カオス尺度Hは以下の式(5)または式(6)として定義される。
【数5】
ただし、0log0=0とする。
【0008】
上記のカオス尺度Hの最小値は0であるが、最大値は分割数mに依存してlogmである。
【数6】
カオス尺度Hの値は大きいほどカオス性が大きい(複雑性が高い)ことを意味する。即ち、カオス尺度Hに関する解釈は、次のようにまとめることができる。
【数7】
【0009】
このカオス尺度とリアプノフ指数は極めて類似の挙動を示すことが知られている(非特許文献2、3、4)。
図1~
図3には、ロジスティック写像(a:3.5~4.0)のカオス尺度とリアプノフ指数の値の変化を示している。
図1は分割数m=80、細分割数M=80であり、
図2は分割数m=160、細分割数M=160ものを示しており、
図3は分割数m=320、細分割数M=320のものを示している。いずれも、データ長(n+1)のnが10000000である。これら
図1~
図3を参照すると、カオス尺度とリアプノフ指数は、類似の変化を行うことが明らかである。カオス尺度は、データのみから一意に計算可能であるという特徴を有している。
【0010】
近年になって、本願発明者らは、カオス尺度とリアプノフ指数の数理学的関係性を明らかにした(非特許文献8、9、10、11)。
【0011】
また、本願発明者らは、カオス尺度の分割をΔx≡||Xi||(j=1,2,・・・,m)と表したとき、カオス尺度はΔx→0の極限において、
【数8】
の関係にあることを示した(非特許文献9、11)。上記式(7)において、D関数と称するD(x)に相当する部分を小さく抑えることによりカオス尺度をリアプノフ指数に近接させる手法を基本とした構成を有する時系列データ解析装置及び時系列データ解析用プログラムの発明を出願した(特願2019-190054)。この発明は、修正カオス尺度と称する指数を求めるものとして説明した。
【0012】
更に、本願発明者らは、カオス尺度を改良した拡張カオス尺度と称する指標を求める時系列データ解析装置及び時系列データ解析用プログラムの発明を出願した(特願2019-190055)。以下に、拡張カオス尺度の説明を行う。
【0013】
<拡張カオス尺度>
データ長がn+1の時系列データを式(8)により表す。
{ξ
0,ξ
1,ξ
2,・・・,ξ
n}・・・(8)
<カオス尺度の定義>において述べたように、分割数mに対する分割区間X
iをX
i(i=1,2,・・・,m)とすると、Iについて次の式(9)が成り立つものであった。なお、式(9)と式(2)は、同一である。
【数9】
【0014】
上記分割区間を各分割区間毎にM分割した細分割区間をX´
iをX´
i(i=1,2,・・・,m×M)とすると、Iについて次の式(10)が成り立つ。
【数10】
ここで、ξ
k∈X
iとなる確率分布p(i)と、ξ
k∈X
i,ξ
k+1∈X´
jとなる同時確率分布p´(i,j)は、次に示す式(11)と式(12)のようになる。
【数11】
【0015】
上記式(11)により確率分布算出手段が確率分布p(i)を求める。また、上記式(12)により同時確率算出手段が同時確率p´(i,j)を求める。
【0016】
また、本実施形態では、拡張カオス尺度H
*を拡張カオス尺度算出手段が算出するが、拡張カオス尺度H
*を求めるための中間値として次の式(13)と式(14)により示されるhを拡張カオス尺度算出手段が算出する。
【数12】
【0017】
拡張カオス尺度H
*を拡張カオス尺度算出手段が算出するためには、次の式(15)によるものとする。即ち、拡張カオス尺度算出手段は、次の式(15)と、上記式(13)または上記式(14)のいずれかを用いて、拡張カオス尺度H
*を算出する。
【数13】
ただし、
0log0=0
である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【文献】大矢雅則,原利英,“数理物理と数理情報の基礎,”近代科学社,2016年
【文献】K.Inoue, M.0hya, K.Sato, "Application of chaos degree to some dynamical systems," Chaos, Solitons& Fractals, Volume 11, Issue9, July2000, Pages 1377-1385
【文献】K.Inoue, "Basic properties of entropic chaos degree in classical systems," Internationa1 journal on information 16(12(B)), December2013,8589-8596
【文献】井上哲,“カオス尺度における準周期軌道の取り扱い,”日本応用数理学会論文誌,VOL.25,No2,2005.年,pp.105-115
【文献】岡田大樹,梅野健,“新たな非線形時系列解析の手法―移動最大リアプノフ指数線によるカオス解析―,”レーザー学会,Vol.43,No6(2015)1993,pp.117-134.
【文献】A. Wolf, J. B. Swift, H. L. Swinney and J. A. Vastano, "Determining Lyapunov Exponents from a Time Series," Physica D, Vol. 16, No3,1985, pp285-317.
【文献】M. T. Rosenstein, J. J. Collins and C. J. De Luca, "A Practical Method for Calculating Largest Lyapunov Exponents for Small Data Sets," Physica D, Vol.65,1993, pp.117-134.
【文献】奧富秀俊,真尾朋行,“カオス尺度とリァプノフ指数の数理的関係性について,"電子情報通信学会,2017年度第3回CCS研究会(2), November,2017
【文献】奥富秀俊,真尾朋行,“カオス尺度の極限値の算出について,"日本応用数理学会2018年度年会,応用カオス(1)-3, September2018
【文献】真尾朋行,奧富秀俊,梅野健,“カオス尺度の計算方法について,”日本応用数理学会、2018年度年会,応用カオス(1)-4, September2018
【文献】奧富秀俊,“カオス尺度とKSエントロピーの関係についての考察,"電子情報通信学会,2018年度第1回CCS研究会(2), June,2018
【文献】真尾朋行,奧富秀俊,“心拍間隔データのカオス尺度と自律神経活動の関連について,"日本応用数理学会2016年度年会,応用カオス(2)-1, September2016
【文献】真尾朋行,奥富秀俊,“心拍変動のカオス性と副交感神経活動との関係について,”電子情報通信学会,第3回CCS研究会(1), November,2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、分割数mや細分割数Mの大小に関わりなく、精度良く時系列データ評価を行うことが可能な時系列データ評価装置及び時系列データ評価用プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の実施形態に係る時系列データ評価装置は、nを正の整数として、データ長がn+1の時系列データ{ξ0,ξ2,ξ3,・・・,ξn}が、写像τによりξk=τ(ξk-1)=τk(ξ0),k=1,2,・・・,nとして生成されるとき、ξkが含まれる区間Iをm個の区間に等分割した分割区間Xi(i=1,2,・・・,m)について、各分割区間を更にM等分した細分割区間Xjを有するデータに関し、外測度と同時外測度を求めると共に内測度と同時内測度を求める外測度・内測度算出手段と、
前記外測度と前記同時外測度に基づき、データ密度を一定としたときの一定密度同時外測度及びi固定の外測度全度数を求めると共に、前記内測度と前記同時内測度に基づき、データ密度を一定としたときの一定密度同時内測度及びi固定の内測度全度数を求める一定密度情報算出手段と、
前記一定密度同時外測度及び前記i固定の外測度全度数に基づき、外測度に関する外測度確率分布とデータ密度を一定とした場合の外測度条件付確率分布を求めると共に、前記一定密度同時内測度及び前記i固定の内測度全度数に基づき、内測度に関する内測度確率分布とデータ密度を一定とした場合の内測度条件付確率分布を求める確率分布算出手段と、
前記外測度確率分布と前記外測度条件付確率分布に基づき外測度に関する外測度データ評価値を求めると共に、前記内測度確率分布と前記内測度条件付確率分布に基づき内測度に関する内測度データ評価値を求める外測度・内測度評価値算出手段と、
前記外測度データ評価値と前記内測度データ評価値に基づき前記時系列データ全体の評価値を算出する時系列データ評価値算出手段と
を具備することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】分割数m=80、細分割数M=80のときの、ロジスティック写像(a:3.5~4.0)のカオス尺度とリアプノフ指数及び本発明の実施形態で算出した評価値の値の変化を示す図。
【
図2】分割数m=160、細分割数M=160のときの、ロジスティック写像(a:3.5~4.0)のカオス尺度とリアプノフ指数及び本発明の実施形態で算出した評価値の値の変化を示す図。
【
図3】分割数m=320、細分割数M=320のときの、ロジスティック写像(a:3.5~4.0)のカオス尺度とリアプノフ指数及び本発明の実施形態で算出した評価値の値の変化を示す図。
【
図4】本発明の実施形態に係る時系列データ評価装置のブロック図。
【
図5】本発明の実施形態に係る時系列データ評価装置の機能ブロック図。
【
図6】CPU101が計算を行って、内測度c
3[i]、同時内測度c
4[i][j]を得るときの動作を示すフローチャート。
【
図7】分割数m=80、細分割数M=80のときの、ロジスティック写像(a:3.5~4.0)の拡張カオス尺度とリアプノフ指数及び本発明の実施形態で算出した評価値の値の変化を示す図。
【
図8】分割数m=160、細分割数M=160のときの、ロジスティック写像(a:3.5~4.0)の拡張カオス尺度とリアプノフ指数及び本発明の実施形態で算出した評価値の値の変化を示す図。
【
図9】分割数m=320、細分割数M=320のときの、ロジスティック写像(a:3.5~4.0)の拡張カオス尺度とリアプノフ指数及び本発明の実施形態で算出した評価値の値の変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下添付図面を参照して、本発明の実施形態に係る時系列データ評価装置及び時系列データ評価用プログラムを説明する。各図において同一の構成要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
図4は、実施形態に係る時系列データ評価装置100のブロック図を示す。時系列データ評価装置100は、クラウドコンピュータ、サーバコンピュータ、パーソナルコンピュータ、その他のコンピュータにより構成することができる。
【0023】
時系列データ評価装置100は、CPU101が主メモリ102のプログラムやデータに基づき演算を行うものである。CPU101には、バス103を介して外部記憶装置104が接続されており、外部記憶装置104には、時系列データ評価用プログラムが記憶されている。CPU101が外部記憶装置104から時系列データ評価用プログラムを主メモリ102へ読み出してこのプログラムを実行することにより時系列データ評価装置として機能する。
【0024】
バス103には、外部記憶装置104以外に時系列データ供給部105が接続されている。時系列データ供給部105は、外部のセンサなどからリアルタイムで時系列データを取り込み保持するものとすることができ、或いは、外部の何らかの装置などが収集した時系列データを取り込み保持したものとすることができる。更に、収集した時系列データを記憶した媒体がセットされることにより、時系列データを保持し供給可能となっている装置であっても良い。更に、上記の構成を全て備えたものであっても良い。いずれにしても、CPU101が時系列データ評価用プログラムを実行して時系列データの評価を行う場合には、時系列データはこの時系列データ供給部105から供給される。
【0025】
バス103には、結果出力部106が接続されている。結果出力部106は、表示装置やプリンタなど、時系列データ評価装置100において処理した結果を出力する装置とすることができる。また、結果出力部106は、時系列データ評価装置100において処理した結果を記憶する媒体でもよく、更に、回線などを介して処理の依頼者(クライアント)へ処理結果を送信などする装置であっても良い。
【0026】
外部記憶装置104に記憶されている時系列データ評価用プログラムが実行されることにより、
図5に示される各手段が実現される。即ち、時系列データ評価装置100は、
図5に示されるように、外測度・内測度算出手段201、一定密度情報算出手段202、確率分布算出手段203、外測度・内測度評価値算出手段204、時系列データ評価値算出手段205を具備している。
【0027】
本実施形態の時系列データ評価装置100では、以下に示す<評価値>を得るものであり、これにより求めた評価値とリアプノフ指数の差を小さく抑え、当該評価値をリアプノフ指数の推定値として機能させるものである。この評価値は、KSエントロピーの推定値としても機能させることも可能である。
【0028】
外測度・内測度算出手段201は、nを正の整数として、データ長がn+1の時系列データ{ξ0,ξ2,ξ3,・・・,ξn}が、写像τによりξk=τ(ξk-1)=τk(ξ0),k=1,2,・・・,nとして生成されるとき、ξkが含まれる区間Iをm個の区間に等分割した分割区間Xi(i=1,2,・・・,m)について、各分割区間を更にM等分した細分割区間Xjを有するデータに関し、外測度と同時外測度を求めると共に内測度と同時内測度を求めるものである。
【0029】
具体的には、長さがn+1の時系列データ{ξ
0,ξ
2,ξ
3,・・・,ξ
n}に対して、外測度カウンタc
1[i]、同時外測度カウンタc
2[i][j]の値を、次の式(16)、式(17)によりCPU101が計算を行って、外測度c
1[i]、同時外測度c
2[i][j]を得る。
【数14】
【0030】
内測度カウンタc
3[i]、同時内測度カウンタc
4[i][j]の値を、CPU101が
図6に示すフローチャートのアルゴリズムにより計算を行って、内測度c
3[i]、同時内測度c
4[i][j]を得る。この
図6のフローチャートを用いて動作を説明する。
【0031】
CPU101は
図6のフローチャートに示す処理を行う。即ち、ステップS11からステップS25までにおいてはiを1からmまで1づつ歩進させて処理を行うステップである。ステップS11においてはiを1に歩進し、同時内測度カウンタc
4[i][1]へ同時外測度カウンタc
2[i][1]の値をセットし(S12)、同時内測度カウンタc
4[i][m×M]へ同時外測度カウンタc
2[i][m×M]の値をセットする(S13)。この次にステップS14へ進む。
【0032】
ステップS14からステップS20までにおいてはjを2からm×M-1まで1づつ歩進させて処理を行うステップである。そこで、ステップS15では、同時外測度カウンタc2[i][j+1]の値が0より大きく、且つ、同時外測度カウンタc2[i][j-1]の値が0より大きいかを検出し、YESの場合には、同時内測度カウンタc4[i][j]へ同時外測度カウンタc2[i][j]の値をセットする(S16)。ステップS15においてNOとなると、同時内測度カウンタc4[i][j]へ0をセットする(S18)。ステップS20では、jがm×M-1となっているかを検出し(S20)、NOとなるとステップS14へ戻ってjを歩進させてステップS15からステップS20までを繰り返す。
【0033】
ステップS20においてYESとなると、内測度カウンタc3[i]に0をセットし(S21)、jを1からm×Mまで1づつ歩進させて処理を行うステップS22からステップS24の処理へ進む。このステップS22からステップS24の処理では、内測度カウンタc3[i]へ、jを1からm×Mまで1づつ歩進させた内測度カウンタc3[i]の値と同時内測度カウンタc4[i][j]の値との和をセットし、j=m×Mとなると、iがmとなっていない限りステップS11へ戻ってiを1に歩進し、ステップS12以降の処理を続ける。
以上のようにして、内測度c3[i]、同時内測度c4[i][j]が得られる。
【0034】
次に、CPU101は、一定密度情報算出手段202として動作する。一定密度情報算出手段202は、上記外測度と上記同時外測度に基づき、データ密度を一定としたときの一定密度同時外測度及びi固定の外測度全度数を求めると共に、上記内測度と上記同時内測度に基づき、データ密度を一定としたときの一定密度同時内測度及びi固定の内測度全度数を求めるものである。この処理を行う前に、外測度に関する全度数nと内測度に関する全度数n*を以下の式(18)、式(19)により求める。
【0035】
外測度に関する全度数は、次の通りのデータ数nに等しい合計値である。
【数15】
一方、内測度に関する全度数n
*は次の通り、一般的には、外測度に関する全度数nよりも小さな値となることに留意する。
【数16】
【0036】
次に、CPU101は、データ密度を一定としたときの一定密度同時外測度d2[i][j]を式(20)により求め、データ密度を一定としたときの一定密度同時内測度d4[i][j]を式(21)により求める。更にi固定の外測度全度数t2[i]を次の式(22)により求めると共に、i固定の内測度全度数t4[i]を次の式(23)によりを求めるものである。
【0037】
i=1,2,・・・,m,j=1,2,・・・,m×Mに対して、
【数17】
i=1,2,・・・,mに対して、
【数18】
【0038】
次に、CPU101は、確率分布算出手段203として処理を行う。つまり、確率分布算出手段203は、外測度に関する外測度確率分布pout(i)とデータ密度を一定とした場合の外測度条件付確率分布p´out(j|i)を下記の式(24)、式(25)、式(26)により求めると共に、内測度に関する内測度確率分布pinn(i)とデータ密度を一定とした場合の内測度条件付確率分布p´inn(j|i)を下記の式(27)、式(28)、式(29)により求める。
【0039】
【0040】
更に、CPU101は、上記外測度・内測度評価値算出手段204として、外測度に関する上記外測度データ評価値を求める際には、これに先立って下記の式(30)と式(31)によって外測度データ評価中間値houtを求めると共に、内測度に関する上記内測度データ評価値を求める際には、これに先立って下記の式(32)と式(33)によって内測度データ評価中間値hinnを求める。
【0041】
【0042】
更に、CPU101は、上記外測度・内測度評価値算出手段204は、外測度データ評価中間値houtに基づき外測度データ評価値H*
outを下記の式(34)により求め、内測度データ評価中間値hinnに基づき内測度データ評価値H*
innを下記の式(35)により求める。
【0043】
【0044】
CPU101は、時系列データ評価値算出手段205として機能する。時系列データ評価値算出手段205は、上記外測度データ評価値H*
outと上記内測度データ評価値H*
innに基づき上記時系列データ全体の評価値を算出する。
【0045】
CPU101は、時系列データ評価値算出手段205として、上記外測度データ評価値と上記内測度データ評価値の平均を得る演算により、上記時系列データ全体の評価値を算出する。具体的には、次の式(36)に示すように相加平均を求めることにより、上記時系列データ全体の評価値H
*を算出する。
【数22】
【0046】
上記時系列データ全体の評価値H
*は、リアプノフ指数と極めて精度よく一致したグラフを得ることができ、リアプノフ指数の推定値とすることができる。
図1~
図3には、ロジスティック写像(a:3.5~4.0)のカオス尺度とリアプノフ指数の値の変化と共に、本実施形態の時系列データ全体の評価値H
*の変動を示している。これらの
図1~
図3によれば、上記時系列データ全体の評価値H
*は、リアプノフ指数と極めて精度よく一致したものであることが判る。
【0047】
図7~
図9には、ロジスティック写像(a:3.5~4.0)の拡張カオス尺度とリアプノフ指数の値の変化と共に、本実施形態の時系列データ全体の評価値H
*の変動を示している。
図7は分割数m=80、細分割数M=80であり、
図8は分割数m=160、細分割数M=160ものを示しており、
図9は分割数m=320、細分割数M=320のものを示している。いずれも、データ長(n+1)のnが10000000である。これらの
図7~
図9によれば、上記時系列データ全体の評価値H
*は、拡張カオス尺度と比較しても、リアプノフ指数と極めて精度よく一致したものであることが判る。
【0048】
なお、上記時系列データ全体の評価値H*を算出する場合に、上記外測度データ評価値H*
outと上記内測度データ評価値H*
innとの相加平均を求めることを示したが、これに限定されない。例えば、上記内測度データ評価値H*
innとの相乗平均を求める手法を採用することができ、また、pを適当な重みとした、重み付き平均「(1-p)H*
out+pH*
inn」等であっても良い。更に、相加平均を一般化した一般化平均「[(H*
out^m+H*
inn^m)/2]^(1/m)」であっても良い。一般的平均の特殊なものとして、mを1とすることで「相加平均」となり、また一般化平均においてmを-1とすることで、「調和平均」とすることもできる。
【符号の説明】
【0049】
100 時系列データ評価装置
102 主メモリ
103 バス
104 外部記憶装置
105 時系列データ供給部
106 結果出力部
201 外測度・内測度算出手段
202 一定密度情報算出手段
203 確率分布算出手段
204 外測度・内測度評価値算出手段
205 時系列データ評価値算出手段