(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】水抜き工
(51)【国際特許分類】
E21D 9/04 20060101AFI20220509BHJP
【FI】
E21D9/04 B
(21)【出願番号】P 2018023648
(22)【出願日】2018-02-14
【審査請求日】2020-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】591140813
【氏名又は名称】株式会社カテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】特許業務法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高味 英司
(72)【発明者】
【氏名】浅井 良倫
(72)【発明者】
【氏名】永田 潤一
(72)【発明者】
【氏名】嘉本 惇一
(72)【発明者】
【氏名】岩本 昭仁
(72)【発明者】
【氏名】安田 耕治
【審査官】山崎 仁之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-174171(JP,A)
【文献】特開2004-238981(JP,A)
【文献】特開2000-045680(JP,A)
【文献】特開2000-034882(JP,A)
【文献】北村義宣外3名,切羽前方の地下水圧管理に基づく断層破砕帯のトンネル掘削,トンネル工学報告集,日本,土木学会,2015年11月,第25巻1-15,P.1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの切羽前方地山に長尺の水抜き孔を設置して前記切羽前方地山に帯水した湧水を減ずる水抜き工であって、
前記切羽前方地山内に止水材を注入して前記切羽前方地山内の水脈を閉塞するとともに水流の方向を変えることにより、前記切羽前方地山内に帯水した前記湧水を前記水抜き孔に導
き、
前記切羽前方地山に注入する前記止水材は、前記湧水との接触によって発泡硬化するウレタン系止水材であることを特徴とする水抜き工。
【請求項2】
前記止水材は、前記切羽前方地山に形成された注入孔から注入され、
前記注入孔の長さは、前記水抜き孔の長さよりも短いことを特徴とする請求項1に記載の水抜き工。
【請求項3】
トンネルの切羽前方地山において、掘削断面外に向けて水抜き孔を形成する第1工程と、
前記切羽前方地山の切羽における前記水抜き孔に近い位置を削孔して止水材を注入するための注入孔を形成する第2工程と、
前記注入孔から湧水が出ることを確認する第3工程と、
前記注入孔を形成する前に前記水抜き孔から出ていた湧水の流出量が低減することを確認する第4工程と、
前記注入孔に挿入した資材である注入ボルトを介してウレタン系止水材を前記切羽前方地山に注入して、前記ウレタン系止水材の発砲硬化によって注入孔周辺の水脈を閉塞する第5工程と、
を含み、
前記第1工程、前記第2工程、前記第3工程、前記第4工程、前記第5工程を順番に行う工程を繰り返し行う水抜き工。
【請求項4】
前記止水材を注入するための資材は、前記トンネルの掘削時に切削して撤去可能な構成とされていることを特徴とする
請求項1から3のいずれか一項に記載の水抜き工。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水抜き工に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの掘削に重大な支障を与える要素の一つに、トンネルの湧水が挙げられる。高圧湧水あるいは多量の湧水が発生した場合、切羽の崩壊やトンネルの水没を引き起こし、大幅な工費の増大と工期の遅延をもたらす虞がある。
【0003】
湧水対策のための工法は、水抜き工と止水工に大別されるが、山岳トンネルでは基本的に水抜き工が採用されている。水抜き工はトンネル切羽から前方地山に向かって長尺の水抜き孔を削孔して、前方の地山内に帯水している湧水を抜く工法である。水抜き孔については、湧水の多い地山は破砕質および多亀裂な地山であることが多いため、孔壁保持のために有孔鋼管が設置される。水抜き孔をトンネルの切羽面(掘削断面)内から削孔した場合、この有孔鋼管がトンネルを掘削する地山に残置されるため、トンネル掘削の支障となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、上記のような問題を回避するため、有孔鋼管を掘削時の支障にならないようトンネルの切羽面外に向けて打設される場合がある。しかし、この場合は、水抜き孔が長くなるほど掘削するトンネルの断面からの離隔が大きくなり、切羽前方地山内に帯水する湧水を効率的に抜くことが困難となる。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、確実かつ効率的な水抜き工を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
トンネルの切羽前方地山に長尺の水抜き孔を設置して前記切羽前方地山に帯水した湧水を減ずる水抜き工であって、
前記切羽前方地山内に止水材を注入して前記切羽前方地山内の水脈を閉塞するとともに水流の方向を変えることにより、前記切羽前方地山内に帯水した前記湧水を前記水抜き孔に導く水抜き工である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、
前記切羽前方地山に注入する前記止水材は、前記湧水との接触によって発泡硬化するウレタン系止水材である請求項1に記載の水抜き工である。
【0009】
請求項3に記載の発明は、
前記止水材を注入するための資材は、前記トンネルの掘削時に切削して撤去可能な構成とされている請求項1又は2に記載の水抜き工である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水抜き工では、トンネルの切羽前方地山に長尺の水抜き孔を設置して切羽前方地山に帯水した湧水を減ずる。この際、切羽前方地山内に止水材を注入して切羽前方地山内の水脈を閉塞するとともに水流の方向を変えることにより、切羽前方地山内に帯水した湧水を水抜き孔に導く。よって、切羽前方地山内に帯水した湧水を確実かつ効率的に抜くことができる。
【0011】
請求項2に記載の水抜き工によれば、湧水との接触によって発泡硬化するウレタン系止水材を用いているから、水脈を確実に閉塞でき、水流の方向を変えやすい。
【0012】
請求項3に記載の水抜き工によれば、トンネルの掘削時に、止水材を注入するための資材を切削して撤去することで、円滑に山岳トンネルの掘削が行える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
【
図1】(A)は、トンネルの切羽前方地山に水抜き孔を形成する工程を説明する平面視の説明図である。(B)は、(A)の構成を側面視した様子を示す側面図である。
【
図2】(A)は、トンネルの切羽前方地山に注入孔を形成する工程を説明する平面視の説明図である。(B)は、(A)の構成を側面視した様子を示す側面図である。
【
図3】(A)は、注入ボルトを示す正面図である。(B)は、パッカーが膨張した状態を説明する説明図である。
【
図4】(A)~(D)は、注入ボルトによって止水材を注入する際に順次行われる各工程を説明する説明図である。
【
図5】(A)は、止水材によって止水された止水領域を説明する平面視の説明図である。(B)は、(A)の構成を側面視した様子を示す側面図である。
【
図6】(A)は、
図5に続く工程であり、再度水抜き孔を形成する工程を説明する平面視した説明図である。(B)は、(A)に続く工程であり、再度止水材によって止水された止水領域を説明する平面視した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態に係る水抜き工は、例えば、以下の(1)~(5)の工程を順番に行うことが好ましい。
(1)トンネルの切羽前方地山において、掘削断面外に向けて水抜き孔を形成する工程。
(2)トンネルの切羽における水抜き孔に近い位置を削孔して注入孔を形成する工程。
(3)注入孔から湧水が出ることを確認する工程。
(4)注入孔を形成する前に水抜き孔から出ていた湧水の流出量が低減することを確認する工程。
(5)注入孔に挿入した注入ボルトを介してウレタン系止水材を切羽前方地山に注入して、ウレタン系止水材の発砲硬化によって注入孔周辺の水脈を閉塞する工程。
また、トンネルの掘削の進行にしたがって、上記(1)~(5)によって行われる工程を繰り返し行うことが好ましい。
【0015】
以下、具体的な水抜き工の工程について、
図1~
図6を参照して説明する。本実施形態の水抜き工は、トンネルの切羽前方地山12に長尺の水抜き孔20を削孔して、切羽前方地山12の内部に帯水している湧水を確実かつ効率的に抜く工法である。
【0016】
まず、
図1に示すように、トンネルの掘削で形成された切羽10において、所定の長さ(例えば10mや20m)の水抜き孔20を形成する。具体的には、水抜き孔20は、切羽前方地山12において、切羽10から掘削範囲12A(掘削断面)の外側の非掘削範囲12Bに向けて削孔される。ここで、掘削範囲12Aとは、トンネルの形成のために掘削される部分であり、非掘削範囲12Bとは、掘削範囲12Aに隣接して掘削されない部分である。水抜き孔20は、掘削進行方向の奥側に向かうにつれて掘削範囲12Aから離れるように、掘削進行方向に対して傾斜している。また、水抜き孔20には、孔壁の保持のために有孔鋼管(図示略)を設置する。切羽前方地山12に形成された水抜き孔20は、当該水抜き孔20につながる水脈からの湧水を流し出す。なお、水抜き孔20は、
図1では2つ設けているが、2つ以外の数を、
図1で示す位置とは異なる位置に設けてもよい。
【0017】
次に、
図2に示すように、切羽10において水抜き孔20に近い位置(例えば、切羽10の縁部近傍の水抜き孔20に隣接する位置)を削孔して、後述する止水材60を注入するための注入孔30を形成する。具体的には、注入孔30は、長尺状であり、例えば水抜き孔20の半分程度の長さで形成される。ここで、注入孔30が形成された後に、注入孔30から湧水が流れ出ることと、注入孔30が形成される前に水抜き孔20から流れ出ていた湧水の流出量が低減することを確認する。このような状態が確認された場合、注入孔30につながった水脈が水抜き孔20にもつながっていることが分かる。なお、注入孔30は、
図2では1つ設けているが、2つ以上の数を、
図2で示す位置とは異なる位置に設けてもよい。
【0018】
続いて、注入孔30に注入ボルト(請求項の「資材」に相当)40を挿入し、注入ボルト40を介して水脈を閉塞する止水材60を切羽前方地山12(具体的には、掘削範囲12A)に注入する。ここで、止水材60は、ウレタン系の薬液であり、水と接触すると発泡体が形成され、止水効果を奏する。
図4(A)に示すように、注入孔30に注入ボルト40を挿入する前は、水脈Vとつながる注入孔30から湧水Wが流れ出している。
図4(A)に示すような状態において、
図4(B)に示すように、注入孔30に注入ボルト40を挿入する。
【0019】
ここで、注入ボルト40について、
図3を用いて説明する。注入ボルト40は、
図3に示すように、本体部41、本体バルブ42、およびパッカー50を備えている。注入ボルト40は、高圧注入に耐えることができる。また、注入ボルト40は、トンネル掘削時に同時に切削して撤去可能である。例えば、注入ボルト40は、樹脂製である。本体部41は、その内側空間を止水材60が流通可能に、管状に形成されている。本体部41は、その外周面にねじ山が形成されている。また、本体部41は、ねじ山が形成されず、ねじ山が形成されている部分よりも縮径された平坦部43が形成されている。平坦部43には、本体部41の内側空間と外側空間とを連通する連通孔44が形成されている。連通孔44は、周方向に略等配で4つ形成されている。連通孔44には、連通孔バルブ45が設けられている。連通孔バルブ45は、ゴム製のリングバンドであり、各連通孔44を閉塞するように平坦部43に組み付けられている。連通孔バルブ45は、後述する本体バルブ42が開放される圧力よりも低い圧力で開放するように設けられている。
【0020】
本体バルブ42は、
図3(A)に示すように、本体部41の先端部41Aに取着されている。具体的には、本体バルブ42は、本体部41の先端部41Aの内周に嵌め込まれている。本体バルブ42は、所定の圧力で開放されるように設けられている。すなわち、本体バルブ42は、本体部41内に止水材60を流通させたとき、本体部41の内圧が所定圧力(例えば5MPa)に達すると開放される。
【0021】
パッカー50は、
図3に示すように、本体部41の外周面に装着される。パッカー50は、筒状に形成され、ゴム製で弾性を有している。パッカー50は、
図3(B)に示すように、その両端近傍を樹脂製のリングバンド51でかしめられていることにより、本体部41に装着されている。
【0022】
図4(B)に示すように、注入孔30に注入ボルト40を挿入すると、本体部41の内側空間を流通して基端部41Bから湧水Wが流れ出る。続いて、
図4(C)に示すように、注入ボルト40に対して、基端部41Bから止水材60を注入する。注入された止水材60は、本体部41の内側空間に滞留して内圧を上昇させ、連通孔バルブ45を開放させる。連通孔バルブ45が開放されると、パッカー50内に止水材60が充填される。パッカー50は、止水材60が充填されると膨張して、注入孔30の内壁に押し付けられる。これにより注入ボルト40が注入孔30に固定される。パッカー50は、連通孔バルブ45が逆止弁として作用することにより、内圧が下降しても収縮することなく、膨張した状態が維持される。
【0023】
図4(C)に示す状態において、さらに注入ボルト40に止水材60を注入し続け、本体部41の内側空間の内圧を上昇させる。これにより、本体部41の内圧が所定圧力(例えば5MPa)に達すると、本体バルブ42が開放される。すると、
図4(C)の矢印のように、本体部41の先端部41Aから止水材60が流出する。さらに止水材60を注入ボルト40に注入し続け、止水材60を水脈Vに注入する。ここで、止水材60の注入圧は、水脈V内の湧水の水圧に耐え得る大きさとする。止水材60は、湧水との接触によって発砲硬化する。水脈V内で硬化した止水材60は、
図4(D)に示すように、注入孔30の近辺にある水脈Vを閉塞し、
図5に示すように止水領域ARを形成する。なお、
図5では、注入孔30の近辺に形成される止水領域ARを、簡略的に注入孔30を囲むように示している。
【0024】
このように、注入孔30の近辺にある水脈Vを閉塞することで、切羽前方地山12内における水脈の方向を変えることができる。具体的には、切羽前方地山12における掘削範囲12Aに位置する部分の水脈Vを閉塞することで、非掘削範囲12Bに向かう水脈に変えることができる。そして、掘削範囲12Aに帯水した湧水を、水抜き孔20に導くことができる。
【0025】
続いて、以上のように湧水が水抜きされた切羽前方地山12の掘削を行う。ここで、切羽前方地山12の掘削時には、同時に注入ボルト40も切削して撤去する。そのため、掘削の都度注入ボルト40を取り出して撤去する必要がなく、円滑にトンネルの掘削を進めることができる。そして、新たに形成された切羽10(例えば、注入孔30が無くなるまで掘削して形成された切羽10)に対して、上記
図1~
図5を用いて説明した工程を同様に行う。具体的には、
図6(A)に示すように、新たな注入孔30を切孔し、続けて、
図4(A)~(D)に示す工程を行い、
図6(B)に示すように、新たな止水領域ARを形成する。その後も、掘削の進行にしたがって、上記
図1~5に示す工程を繰り返し行う。
【0026】
本実施形態の水抜き工では、トンネルの切羽前方地山12に長尺の水抜き孔20を設置して切羽前方地山12に帯水した湧水を減ずる。この際、切羽前方地山12内に止水材60を注入して切羽前方地山12内の水脈を閉塞するとともに、水流の方向を変えることにより、切羽前方地山12内に帯水した湧水を水抜き孔20に導く。よって、切羽前方地山12内に帯水した湧水を確実かつ効率的に抜くことができる。
【0027】
本実施形態の水抜き工によれば、湧水との接触によって発泡硬化するウレタン系の止水材60を用いているから、水脈Vを確実に閉塞でき、水流の方向を変えやすい。
【0028】
本実施形態の水抜き工によれば、トンネルの掘削時に、止水材60を注入するための注入ボルト40を切削して撤去することで、円滑に山岳トンネルの掘削が行える。
【0029】
<他の実施形態>
尚、本発明においては、上記実施形態に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施形態とすることができる。
【0030】
上記実施形態では、止水材60の注入工程(
図4参照)において、注入ボルト40を1つ用いる構成を示したが、切羽前方地山12に帯水する湧水量や、水抜き孔20の数によって適宜増減してもよい。
【0031】
上記実施形態では、注入ボルト40として、
図3に示すように、樹脂製であって本体部41、本体バルブ42、およびパッカー50を備える構成を例示した。しかしながら、注入ボルト40は、止水材60を注入可能であり、トンネル掘削時に同時に切削して撤去可能な構成であれば、その他の構成であってもよい。
【0032】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述および図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的および例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲または精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料および実施形態を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【産業上の利用可能性】
【0033】
トンネルの水抜き工に関する技術として広く利用される。
【符号の説明】
【0034】
10…切羽
12…切羽前方地山
20…水抜き孔
30…注入孔
40…注入ボルト(資材)
41…本体部
41A…先端部
42A…基端部
43…平坦部
44…連通孔
45…連通孔バルブ
50…パッカー
51…リングバンド
60…止水材
AR…止水領域
V…水脈
W…湧水