(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】アミノ酸ポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/02 20060101AFI20220509BHJP
C07K 1/06 20060101ALI20220509BHJP
C07K 7/00 20060101ALI20220509BHJP
C07K 5/10 20060101ALI20220509BHJP
C08G 69/10 20060101ALI20220509BHJP
C40B 40/10 20060101ALN20220509BHJP
【FI】
C07K1/02
C07K1/06
C07K7/00
C07K5/10
C08G69/10
C40B40/10
(21)【出願番号】P 2019503086
(86)(22)【出願日】2018-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2018007647
(87)【国際公開番号】W WO2018159721
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2017039354
(32)【優先日】2017-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512088316
【氏名又は名称】株式会社糖鎖工学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】梶原 康宏
(72)【発明者】
【氏名】和泉 雅之
(72)【発明者】
【氏名】岡本 亮
(72)【発明者】
【氏名】原口 拓也
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 健文
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第1998/056807(WO,A1)
【文献】国際公開第1998/028434(WO,A1)
【文献】国際公開第1998/034878(WO,A1)
【文献】WANG, P. et al.,"Promising general solution to the problem of ligating peptides and glycopeptides.",J. AM. CHEM. SOC.,2010年12月01日,Vol.132, No.47,P.17045-17051,doi:10.1021/ja1084628
【文献】MALI, S.M. et al.,"Thioacetic acid/NaSH-mediated synthesis of N-protected amino thioacids and their utility in peptide,J. ORG. CHEM.,2014年03月21日,Vol.79, No.6,P.2377-2383,doi:10.1021/jo402872p
【文献】SUMIKAWA, Y. et al.,"Application of peptide thioacids to NCL-type sequential condensation of peptide fragments.",PEPTIDE SCIENCE,2009年03月,Vol.2008,P.175-176
【文献】原口拓也、外3名,「チオアシッドを用いた前生物的なペプチド結合形成反応」,日本化学会春季年会講演予稿集(CD-ROM),2017年03月03日,Vol.97th,ROMBUNNO.1C3-56
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C40B 40/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチド結合で連結したアミノ酸のポリマーを製造する方法であって、
(A)それぞれ下記:
H
2N-CH(R)-COSH (1)
(式中、Rは任意のアミノ酸の側鎖を示す。)
に示す第1および第2のアミノ酸誘導体を準備する工程;および
(B)前記第1のアミノ酸誘導体と第2のアミノ酸誘導体とを酸化反応させて、下記:
H
2N-CH(R)-CO-HN-CH(R)-CO-SH (2)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示す。)
に示す化合物を取得する工程;
を含んでおり、
ここで、前記第1のアミノ酸誘導体および第2のアミノ酸誘導体の少なくともいずれか一方は、保護基を有しない、
ことを特徴とする、
製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法であって、
前記第1のアミノ酸誘導体および第2のアミノ酸誘導体はいずれも保護基を有しない、
製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法であって、
(C)工程(B)で取得された化合物(2)を、下記:
H
2N-CH(R)-COSH (1)
(式中、Rは任意のアミノ酸の側鎖を示す。)
に示す第3のアミノ酸誘導体との酸化反応に供し、下記:
H
2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)
2-SH (3)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示す。)
に示す化合物を取得する工程
を含む、
製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の製造方法であって、
工程(C)を複数回実施することにより、下記:
H
2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)
n-SH (4)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示し、nは2以上の整数を示す。)
に示す化合物を取得する、
ことを特徴とする、
製造方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の製造方法であって、
前記1個または複数の第3のアミノ酸誘導体は、保護基を有しない、
製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法であって、
(D)工程(B)で取得された化合物(2)、または、工程(C)で取得された化合物(3)または化合物(4)と、下記:
H-X (5)
(式中、Xは、N、O、S、およびSeよりなる群から選択される原子で結合する置換基を示す。)
に示す求核性試薬を反応させて、下記:
H
2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)
m-X (6)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示し、mは任意の整数を示し、Xは、N、O、S、およびSeよりなる群から選択される原子で結合する置換基を示す。)
に示す化合物を取得する工程
をさらに含む、
製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法であって、
Xは、N原子またはS原子で結合する置換基である、
製造方法。
【請求項8】
請求項4に記載の製造方法であって、
4個~20個のアミノ酸を含むポリマーの製造方法である、
製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法であって、
第1または第2のアミノ酸誘導体、または前記複数の第3のアミノ酸誘導体の少なくとも1つは、側鎖に無保護の4-アミノブチル基を有する、
製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記第1および第2のアミノ酸誘導体、および前記1または複数の第3のアミノ酸誘導体の側鎖は、同一である、
製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の製造方法であって、
前記側鎖はいずれもメチル基である、
製造方法。
【請求項12】
ペプチド結合で連結した、複数のアミノ酸のポリマーを製造する方法であって、
(a)下記:
H
2N-CH(R)-COSH (1)
(式中、Rは任意のアミノ酸の側鎖を示す。)
に示す複数のアミノ酸誘導体を準備する工程;および
(b)前記複数のアミノ酸誘導体を酸化反応に供し、複数の下記:
H
2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)
x-SH (7)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示し、xは任意の整数を示す。)
に示す化合物、および/または、下記:
H
2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)
y-S-S-(CO-CH(R)-NH)
z-CO-CH(R)-NH
2 (8)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示し、yおよびzは任意の整数を示す。)
に示す化合物を取得する工程を含み、
ここで、前記複数のアミノ酸誘導体のうちの一部または全ては、保護基を有しない、
ことを特徴とする、
製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、
前記複数のアミノ酸誘導体のうちの全ては、保護基を有しない、
製造方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載の方法であって、
工程(b)で取得された化合物が、化合物(7)を含む、
製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の製造方法であって、
(c1)工程(b)で取得された化合物(7)と、下記:
H-X (5)
(式中、Xは、N、O、S、およびSeよりなる群から選択される原子で結合する置換基を示す。)
に示す求核性試薬を反応させて、下記:
H
2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)
x-X (9)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示し、xは任意の整数を示し、Xは、N、O、S、Seよりなる群から選択される原子で結合する置換基を示す。)
に示す化合物を取得する工程
をさらに含む、
製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の製造方法であって、
Xは、N原子またはS原子で結合する置換基である、
製造方法。
【請求項17】
請求項12または13に記載の製造方法であって、
工程(b)で取得された化合物が、化合物(8)を含む、
製造方法。
【請求項18】
請求項17に記載の製造方法であって、
(c2)工程(b)で取得された化合物(8)と、下記:
H-X (5)
(式中、Xは、N、O、S、およびSeよりなる群から選択される原子で結合する置換基を示す。)
に示す求核性試薬を反応させて、下記:
H
2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)
y-X (10)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示し、yは任意の整数を示し、Xは、N、O、S、およびSeよりなる群から選択される原子で結合する置換基を示す。)
および、下記:
H
2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)
z-X (11)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示し、zは任意の整数を示し、Xは、N、O、S、およびSeよりなる群から選択される原子で結合する置換基を示す。)
に示す化合物を取得する工程
をさらに含む、
製造方法。
【請求項19】
請求項18に記載の製造方法であって、
Xは、N原子またはS原子で結合する置換基である、
製造方法。
【請求項20】
請求項12~19のいずれか1項に記載の製造方法であって、
4個~20個のアミノ酸を含むポリマーの製造方法である、
製造方法。
【請求項21】
請求項12~20のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記複数のアミノ酸誘導体の少なくとも1つは、側鎖に無保護の4-アミノブチル基を有する、
製造方法。
【請求項22】
請求項12~21のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記複数のアミノ酸誘導体の側鎖は同一である、
製造方法。
【請求項23】
請求項22に記載の製造方法であって、
前記側鎖はいずれもメチル基である、
製造方法。
【請求項24】
請求項12~23のいずれか1項に記載の製造方法であって、
ポリペプチドのライブラリーを作製するための、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸ポリマーの製造方法、具体的には、ペプチド結合で連結したアミノ酸のポリマーをチオアシッドアミノ酸を用いて製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸ポリマーは、多くの工業製品、およびこれらの製品への添加剤、これらの製品に含まれる化合物の合成中間体など、様々な目的で利用されている。例えば、アスパラギン酸のホモポリマーであるポリアスパラギン酸は、洗剤、肥料、農薬、化粧料またはこれらの製品の添加剤として使用されている。また、近年では蜘蛛の糸に含まれているポリアラニンが、その強度の関係から注目を集めている。このように、アミノ酸ポリマーは、従来にはない新たな特徴を付与する機能性高分子材料として、様々な用途が見出されてきており、今後、アミノ酸ポリマーを工業的に製造するニーズがますます高まっていくことが予想される。
【0003】
アミノ酸ポリマーの製造方法として、生物学的手法、化学的手法など種々の方法が開発されているが、製造効率および品質など、様々な点で改善の余地が認められる。
【0004】
例えば、生物学的手法においては、非天然型のアミノ酸導入に制限があることや、糖タンパク質における糖鎖構造の不均一性などが挙げられる。
【0005】
また、化学的手法においては、生物学的手法とは異なり、自由な設計、構造制御が可能であるが、合成中の保護、脱保護工程が必要となる。そのため、その工程で生じる副反応や、コストや時間といった生産性の制限が課題として挙げられる。また、脱保護の工程においては、しばしば毒性の高い毒物の使用が必要であることも課題として挙げられる。
【0006】
そこで、自由な設計、構造制御が可能な化学合成の生産性を向上させるために、保護、脱保護の工程をより簡便かつ迅速に、より安全な工程に改善することが望まれている。
【0007】
チオアシッドは、チオ酸基(-COSH)を有する化合物の総称である。チオアシッドを用いたアミド結合の形成方法として、これまでに、アジド基を有するアミノ酸とのカップリング(非特許文献1)、チオアシッドのS-S二量体を活性エステルとして利用する方法(非特許文献2)、チオアシッドをニトロソ化することで活性化する方法(非特許文献3)などが知られている。また、チオアシッドアミノ酸を使用したペプチド結合の形成方法として、保護されたチオアシッドアミノ酸のS-S二量体を活性エステルとして使用する方法(非特許文献4)、およびチオアシッドアミノ酸をHOBtエステル前駆体として利用する方法(非特許文献5)が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】J.Am.Chem.Soc.2003,125,7754-7755
【文献】Nature,Vol 389,4 September 1997
【文献】Org.Lett.,Vol.13,No.5,2011
【文献】J.Org.Chem.2014,79,2377-2383
【文献】J.Am.Chem.Soc.9Vol.132,No.47,2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来のアミノ酸ポリマーの製造方法に比べて、より簡便かつ効率的にアミノ酸ポリマーを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
アミノ酸間のペプチド結合は、一方のアミノ酸のα-アミノ基を求核性基として、他方のアミノ酸のカルボキシル基と縮合させることで形成される。縮合の際に活性化されたカルボキシル基は、α-アミノ基のほか、側鎖に存在する様々な求核性を有する官能基と反応しやすくなるため、構造が制御されたアミノ酸のポリマーを製造するためには、アミノ酸の側鎖およびα-アミノ基(反応対象となるもの以外)を保護する必要がある。
本願発明者らは、本発明の課題を解決するために鋭意検討を重ねたところ、驚くべきことに、アミノ酸のポリマーの製造にチオアシッドアミノ酸を用い、これを互いに酸化反応に供する場合には、α-アミノ基および側鎖を保護することなく、ペプチド結合で連結されたアミノ酸のポリマーが効率的に製造できることを見出した。本発明者らは、さらに驚くべきことに、長い側鎖および求核性を有する官能基を有し、したがって、従来のアミノ酸の縮合方法では保護が必須であると考えられていたリシンを用いた場合でも同様に、アミノ酸のポリマーが製造できることを見出した。これは、本発明の製造方法が、アミノ酸側鎖の種類に制限されずに、様々な目的で使用できることを意味する。
【0011】
本発明は、上記知見に基づくものであり、以下の特徴を包含する:
[1] ペプチド結合で連結したアミノ酸のポリマーを製造する方法であって、
(A)それぞれ下記:
H2N-CH(R)-COSH (1)
(式中、Rは任意のアミノ酸の側鎖を示す。)
に示す第1および第2のアミノ酸誘導体を準備する工程;および
(B)前記第1のアミノ酸誘導体と第2のアミノ酸誘導体とを酸化反応させて、下記:
H2N-CH(R)-CO-HN-CH(R)-CO-SH (2)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示す。)
に示す化合物を取得する工程;
を含んでおり、
ここで、前記第1のアミノ酸誘導体および第2のアミノ酸誘導体の少なくともいずれか一方は、保護基を有しない、
ことを特徴とする、
製造方法。
【0012】
[2] [1]に記載の製造方法であって、
前記第1のアミノ酸誘導体および第2のアミノ酸誘導体はいずれも保護基を有しない、
製造方法。
【0013】
[3] [1]または[2]に記載の製造方法であって、
(C)工程(B)で取得された化合物(2)を、下記:
H2N-CH(R)-COSH (1)
(式中、Rは任意のアミノ酸の側鎖を示す。)
に示す第3のアミノ酸誘導体との酸化反応に供し、下記:
H2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)2-SH (3)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示す。)
に示す化合物を取得する工程
を含む、
製造方法。
【0014】
[4] [3]に記載の製造方法であって、
工程(C)を複数回実施し、下記:
H2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)n-SH (4)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示し、nは2以上の整数を示す。)
に示す化合物を取得する、
ことを特徴とする、
製造方法。
【0015】
[5] [3]または[4]に記載の製造方法であって、
前記1個または複数の第3のアミノ酸誘導体は、保護基を有しない、
製造方法。
【0016】
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の製造方法であって、
(D)工程(B)で取得された化合物(2)、または、工程(C)で取得された化合物(3)または化合物(4)と、下記:
H-X (5)
(式中、Xは、N、O、S、およびSeよりなる群から選択される原子で結合する置換基を示す。)
に示す求核性試薬を反応させて、下記:
H2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)m-X (6)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示し、mは任意の整数を示し、Xは、N、O、S、およびSeよりなる群から選択される原子で結合する置換基を示す。)
に示す化合物を取得する工程
をさらに含む、
製造方法。
【0017】
[7] [6]に記載の製造方法であって、
Xは、N原子またはS原子で結合する置換基である、
製造方法。
【0018】
[8] [4]に記載の製造方法であって、
4個~20個のアミノ酸を含むポリマーの製造方法である、
製造方法。
【0019】
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の製造方法であって、
第1または第2のアミノ酸誘導体、または前記複数の第3のアミノ酸誘導体の少なくとも1つは、側鎖に無保護の4-アミノブチル基を有する、
製造方法。
【0020】
[10] [1]~[8]のいずれかに記載の製造方法であって、
前記第1および第2のアミノ酸誘導体、および前記1個または複数の第3のアミノ酸誘導体の側鎖は、同一である、
製造方法。
【0021】
[11] [10]に記載の製造方法であって、
前記側鎖はいずれもメチル基である、
製造方法。
【0022】
[12] ペプチド結合で連結した、複数のアミノ酸のポリマーを製造する方法であって、
(a)下記:
H2N-CH(R)-COSH (1)
(式中、Rは任意のアミノ酸の側鎖を示す。)
に示す複数のアミノ酸誘導体を準備する工程;
(b)前記複数のアミノ酸誘導体を酸化反応に供し、複数の下記:
H2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)x-SH (7)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示し、xは任意の整数を示す。)
に示す化合物、および/または、下記:
H2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)y-S-S-(CO-CH(R)-NH)z-CO-CH(R)-NH2 (8)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示し、yおよびzは任意の整数を示す。)
に示す化合物を取得する工程を含み、
ここで、前記複数のアミノ酸誘導体のうちの一部または全ては、保護基を有しない、
ことを特徴とする、
製造方法。
【0023】
[13] [12]に記載の方法であって、
前記複数のアミノ酸誘導体のうちの全ては、保護基を有しない、
製造方法。
【0024】
[14] [12]または[13]に記載の方法であって、
工程(b)で取得された化合物が、化合物(7)を含む、
製造方法。
【0025】
[15] [14]に記載の製造方法であって、
(c1)工程(b)で取得された化合物(7)と、下記:
H-X (5)
(式中、Xは、N、O、S、およびSeよりなる群から選択される原子で結合する置換基を示す。)
に示す求核性試薬を反応させて、下記:
H2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)x-X (9)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示し、xは任意の整数を示し、Xは、N、O、S、Seよりなる群から選択される原子で結合する置換基を示す。)
に示す化合物を取得する工程
をさらに含む、
製造方法。
【0026】
[16] [15]に記載の製造方法であって、
Xは、N原子またはS原子で結合する置換基である、
製造方法。
【0027】
[17] [12]または[13]に記載の製造方法であって、
工程(b)で取得された化合物が、化合物(8)を含む、
製造方法。
【0028】
[18] [17]に記載の製造方法であって、
(c2)工程(b)で取得された化合物(8)と、下記:
H-X (5)
(式中、Xは、N、O、S、およびSeよりなる群から選択される原子で結合する置換基を示す。)
に示す求核性試薬を反応させて、下記:
H2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)y-X (10)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示し、yは任意の整数を示し、Xは、N、O、S、およびSeよりなる群から選択される原子で結合する置換基を示す。)
および、下記:
H2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)z-X (11)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示し、zは任意の整数を示し、Xは、N、O、S、およびSeよりなる群から選択される原子で結合する置換基を示す。)
に示す化合物を取得する工程
をさらに含む、
製造方法。
【0029】
[19] [18]に記載の製造方法であって、
Xは、N原子またはS原子で結合する置換基である、
製造方法。
【0030】
[20] [12]~[19]のいずれかに記載の製造方法であって、
4個~20個のアミノ酸を含むポリマーの製造方法である、
製造方法。
【0031】
[21] [12]~[20]のいずれかに記載の製造方法であって、
前記複数のアミノ酸誘導体の少なくとも1つは、側鎖に無保護の4-アミノブチル基を有する、
製造方法。
【0032】
[22] [12]~[21]のいずれかに記載の製造方法であって、
前記複数のアミノ酸誘導体の側鎖は同一である、
製造方法。
【0033】
[23] [22]に記載の製造方法であって、
前記側鎖はいずれもメチル基である、
製造方法。
【0034】
[24] [12]~[23]のいずれかに記載の製造方法であって、
ポリペプチドのライブラリーを作製するための、
製造方法。
【0035】
以上述べた本発明の一または複数の特徴を任意に組み合わせた発明も、本発明の範囲に含まれることを、当業者であれば理解するであろう。
【発明の効果】
【0036】
本発明の製造方法によれば、従来の保護基を利用する方法と比較して、極めて効率的にアミノ酸のポリマーを製造することができる。
本発明の製造方法は、また、保護基を利用しなくてもよいため、脱保護に毒性の高い毒物を使用する従来の方法に伴う問題を、容易に回避することができる。
本発明の製造方法は、複数のアミノ酸のポリマーを大量に合成できるため、ポリアミノ酸の工業生産や、ポリペプチドのライブラリーの作製に適したものであり得る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は、H-Phe-SHの酸化反応の直後および二時間後の生成物についてのLC-MS結果を示す。
【
図2】
図2は、
図1中のMS(A)、MS(B)およびMS(C)に対応する画分を質量分析した結果を示す。
【
図3】
図3は、H-Phe-SHおよびH-Ala-SHのオリゴメリゼーション反応の1分後のUHPLC結果を示す図である。
【
図4】
図4は、画分(A)から(I)について測定した質量分析結果を示す。画分(A)から(I)は、それぞれ
図3中のMS(A)からMS(I)に対応している。
【
図5】
図5は、画分(J)について測定した質量分析結果を示す。画分(J)は
図3中のMS(J)に対応している。
【
図6】
図6は、Phe-SHおよびLys-SHのオリゴメリゼーション反応の分析LC-MSのTICクロマトグラムを示す。
【
図7】
図7は、
図6のTICクロマトグラムの2.2~14.0分の範囲から得た統合MSスペクトルを示す。
【
図8】
図8は、
図6のTICクロマトグラムの7分時点のピークトップから得た2F2KオリゴペプチドのMSスペクトルを示す。HRMS(ESI): calcd for C
30H
40N
6O
4S [M+2H]
2+ 293.1645, found 293.1640。
【
図9】
図9は、2F2KオリゴペプチドのCIDフラグメンテーションパターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明において、「アミノ酸」は、その最も広い意味で用いられ、天然のアミノ酸、すなわち、セリン(Ser)、アスパラギン(Asn)、バリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、アラニン(Ala)、チロシン(Tyr)、グリシン(Gly)、リジン(Lys)、アルギニン(Arg)、ヒスチジン(His)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、トレオニン(Thr)、システイン(Cys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、トリプトファン(Trp)、プロリン(Pro)に加えて、アミノ酸変異体などの非天然アミノ酸を含む。したがって、本発明において、アミノ酸として、例えばL-アミノ酸;D-アミノ酸;化学修飾されたアミノ酸:ノルロイシン、β-アラニン、オルニチンなどの生体内でタンパク質の構成材料とならないアミノ酸:アミノ酸の側鎖置換基がさらに別の置換基によって置換された変異体などが含まれる。
【0039】
本発明において、「アミノ酸誘導体」とは、アミノ酸のカルボキシル基がチオ酸基(-COSH)に変換されたアミノ酸(本明細書中、「チオアシッドアミノ酸」とも称する)を指し、典型的には、α-アミノ基を有する下記構造のものをいう:
H2N-CH(R)-COSH (1)
化合物(1)におけるRは、任意のアミノ酸の側鎖を表しており、したがって、Rは、天然のアミノ酸の側鎖であってもよいし、非天然の側鎖に置換されたものであってもよい。
【0040】
カルボキシル基にチオ酸基を導入する方法としては、様々な方法が知られている。例えば、そのような方法として、アンチモン触媒(例えば、Ph3SbO)の存在下、目的とするチオカルボン酸類に対応するカルボン酸と硫化リンとの反応で製造する方法(Chem.Ber,123,2081-2082(1990))、硫化水素を硫化剤として用いる方法(J.Org.Chem.,25,180-182(1960))、カルボン酸を酸ハロゲン化物に変換した後、硫化水素の金属塩(ナトリウム塩又はカリウム塩)と反応させる方法(Org.Synth.,4,924(1963);Synthesis.,998-1004(2005))、酸ハロゲン化物に、硫化剤として、N,N-ジメチルホルムチオアミドやチオアセトアミドを用いる方法(Phosphorus,Sulfur,and Silicon.,178,1661-1665(2003))、クロロ炭酸エステルと対応するカルボン酸との反応により、混合酸無水物に変換後、硫化水素と反応させる(Chem.Pharm.Bull.,34,999-1014(1986))などが挙げられる。本発明においては、これらの公知の方法を用いて、アミノ酸をチオアシッドアミノ酸に変換して、本発明に用いることができる。あるいは、アミノ酸誘導体は、例えば、アミノ酸中のカルボキシル基のチオエステル基への変換と、硫黄原子の保護基の脱保護によって調製することができる。
【0041】
本発明は、一態様において、ペプチド結合で連結したアミノ酸のポリマーを製造する方法に関する。
特定の理論に拘束されるものではないが、本発明の製造方法において、ペプチド結合の形成は、アミノ酸誘導体間でのジスルフィド(S-S)結合の形成と、これに続く分子内転移反応によって進行するものと考えられる(下記参照)。
【化1】
したがって、本発明の製造方法においては、反応の進行のために、チオアシッドアミノ酸間でジスルフィド結合が形成される任意の方法および条件を採用することができる。そのような方法および条件は、当業者に公知であり、例えばCHEMICAL APPROACHES to the SYNTHESIS of PEPTIDES and PROTEIN Chapter 5 Formation of Disulfide Bridge 209頁~236頁、1997年、CRC PRESSを参考に、当業者は適宜、適切な方法および条件を選択することができる。
【0042】
本発明の製造方法においては、特に、上記反応は、酸化反応によって進行させることができる。
したがって、本発明の製造方法は、一態様において、
(A)それぞれ下記:
H2N-CH(R)-COSH (1)
(式中、Rは任意のアミノ酸の側鎖を示す。)
に示す第1および第2のアミノ酸誘導体を準備する工程;および
(B)前記第1のアミノ酸誘導体と第2のアミノ酸誘導体とを酸化反応させて、下記:
H2N-CH(R)-CO-HN-CH(R)-CO-SH (2)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示す。)
に示す化合物を取得する工程を含んでおり、ここで、前記第1のアミノ酸誘導体および第2のアミノ酸誘導体の少なくともいずれか一方は、保護基を有しないことを特徴とする。
【0043】
本発明において、「第1のアミノ酸誘導体および第2のアミノ酸誘導体の少なくともいずれか一方は、保護基を有しない」とは、第1のアミノ酸誘導体および第2のアミノ酸誘導体の少なくともいずれか一方が、その側鎖または官能基に保護基を1つも有していないことを意味する。
本発明において、保護基は、アミノ酸のポリマー合成における側鎖およびアミノ基の保護に慣用的に使用される保護基を意味し、これに限定されるものではないが、例えば、水酸基の保護基としては、例えば、メチル基、tert-ブチル基、ベンジル基、ベンゾイル基、アセチル(Ac)基、トリメチルシリル(TMS)基、トリエチルシリル(TES)基、tert-ブチルジメチルシリル(TBSまたはTBDMS)基などを挙げることができる。アミノ基の保護基としては、例えば、脂溶性保護基として、9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基、t-ブチルオキシカルボニル(Boc)基、ベンジル基、アリルオキシカルボニル(Alloc)基、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル(troc)基、アリルオキシカルボニル基、アセチル基などの、カーボネート系またはアミド系の保護基等を挙げることができる。
【0044】
本発明の製造方法において、上記のとおり、第1のアミノ酸誘導体および第2のアミノ酸誘導体の少なくともいずれか一方は、保護基を有していないものであるが、他方のアミノ酸誘導体が、保護基を有することを妨げない。したがって、保護基を有する第1のアミノ酸誘導体と保護基を有しない第2のアミノ酸誘導体を使用する場合、および保護基を有しない第1のアミノ酸誘導体と保護基を有する第2のアミノ酸誘導体を使用する場合のいずれも、本発明の範囲内である。好ましくは、第1のアミノ酸誘導体および第2のアミノ酸誘導体として、いずれも保護基を有していないアミノ酸誘導体が使用される。
【0045】
本発明の製造方法において、酸化反応は、これに限定されるものではないが、酸化剤の使用による酸化等によって行うことができる。
【0046】
本発明に使用することができる酸化剤は、チオ酸基(-COSH)中のスルファニル基(SH)の酸化カップリングによってジスルフィド結合を形成することができる酸化剤であれば、特に限定されない。そのような酸化剤の例としては、これに限定されるものではないが、塩化鉄(III)、ヨウ素等を挙げることができる。本発明の一実施形態において、酸化反応は、酸化剤、例えば塩化鉄(III)の使用によって実施される。
【0047】
本発明において、酸化反応は、水単独または水と有機溶媒との混合溶媒を用いて行うことができる。有機溶媒としては、これに限定されるものではないが、ヘキサンやシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒、ベンゼンやトルエンなどの芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタンやクロロホルムなどの含ハロゲン溶媒、酢酸エチルやアセトニトリルなどの非プロトン性極性溶媒、エタノールやメタノールなどのプロトン性極性溶媒を用いることができる。
【0048】
本発明において、酸化反応における反応温度は特に限定されず、例えば室温で反応させることができる。また、酸化反応におけるpH条件も特に制限されず、例えばpH1~4の範囲とすることができる。
【0049】
本発明の製造方法において、製造目的とするアミノ酸のポリマーに応じて、第1および第2のアミノ酸誘導体の側鎖は、同一の側鎖であってもよいし、異なる側鎖であってもよい。
【0050】
本発明の製造方法は、さらに、(C)上記工程(B)で取得された化合物(2)を、下記:
H2N-CH(R)-COSH (1)
(式中、Rは任意のアミノ酸の側鎖を示す。)
に示す第3のアミノ酸誘導体との酸化反応に供し、下記:
H2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)2-SH (3)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示す。)
に示す化合物を取得する工程を含むことができる。
工程(C)により、化合物(2)に対して、さらに1分子のアミノ酸がペプチド結合で連結される。
第3のアミノ酸誘導体は、保護基を有するものであってもよいし、保護基を有しないものであってもよい。本発明の好ましい実施形態では、第3のアミノ酸誘導体は、保護基を有しないものである。また、第3のアミノ酸誘導体の側鎖は、製造目的とするアミノ酸のポリマーの種類に応じて、第1および第2のアミノ酸誘導体のいずれかまたは両方と同一の側鎖であってもよいし、いずれとも異なるものであってもよい。
【0051】
本発明の製造方法において、必要に応じて、工程(C)を複数回繰り返すことで、所望の長さを有する、下記:
H2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)n-SH (4)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示し、nは2以上の整数を示す。)
に示す化合物を取得することができる。これにより、配列が制御された所望の長さのアミノ酸のポリマーを効率的に製造することができる。
したがって、本発明の製造方法において、潜在的に、複数の第3のアミノ酸誘導体が使用され得る。使用される複数の第3のアミノ酸誘導体は、それぞれ独立に、保護基を有するものであってもよいし、保護基を有しないものであってもよい。好ましい実施形態において、使用される1個または複数の第3のアミノ酸誘導体は、すべて、保護基を有しないものである。また、使用される複数の第3のアミノ酸誘導体の側鎖は、製造目的とするアミノ酸のポリマーの種類に応じて、それぞれ独立に、第1および第2のアミノ酸誘導体のいずれかまたは両方と同一の側鎖であってもよいし、いずれとも異なるものであってもよい。
【0052】
一実施形態において、本発明の製造方法は、取得されたアミノ酸のポリマーを誘導体化する工程をさらに含むことができる。具体的に、本発明の製造方法は、
(D)工程(B)で取得された化合物(2)、または、工程(C)で取得された化合物(3)または化合物(4)と、下記:
H-X (5)
(式中、Xは、N、O、S、およびSeよりなる群から選択される原子で結合する置換基を示す。)
に示す求核性試薬を反応させて、下記:
H2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)m-X (6)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示し、mは任意の整数を示し、Xは、N、O、S、およびSeよりなる群から選択される原子で結合する置換基を示す。)
に示す化合物を取得する工程、をさらに含むことができる。
これにより、SH体の形態で取得されたアミノ酸のポリマーを、所望の形態に変換することができる。
【0053】
工程(D)は、当業者に周知のアミノ酸またはペプチドの誘導体化方法にならって行えばよい。例えば、化合物(2)または(3)と求核性試薬(5)との反応には、アミド系溶媒、ヘキサンやシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒、ベンゼンやトルエンなどの芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタンやクロロホルムなどの含ハロゲン溶媒、酢酸エチルやアセトニトリルなどの非プロトン性極性溶媒、エタノールやメタノールや水などのプロトン性極性溶媒を用いることができる。この反応は特に酸性から中性の緩衝溶液中で行われる。緩衝溶液としては例えば、リン酸緩衝溶液、トリス緩衝溶液、HEPES緩衝溶液、クエン酸緩衝溶液などが挙げられる。これらの緩衝溶液は、単独で使用しても、2種以上を混合してもよい。
【0054】
工程(D)の反応温度としては、特に制限はないが、0℃~30℃の範囲で実施可能であり、好ましくは0℃~20℃の範囲で実施され、さらに好ましくは0℃~10℃の範囲で実施される。また、反応時間は、特に制限はないが、1分~5時間の範囲で実施可能であり、好ましくは1分~2時間の範囲で実施され、さらに好ましくは1分~30分の範囲で実施される。また、工程(D)のpH条件は、特に制限はないが、1~8の範囲で実施可能であり、好ましくは2~7の範囲で実施され、さらに好ましくは4~7の範囲で実施される。
【0055】
化合物(5)の具体的な例としては、水、メタノールのようなアルキルアルコール、ベンジルアルコールのようなアリールアルコール、保護、あるいは無保護のヒドラジン、エタンチオールのようなアルキルチオール、ベンジルチオールのようなアリールチオール、セレノ化合物などを挙げることができる。
【0056】
一実施形態において、化合物(5)におけるXは、N原子またはS原子で結合する置換基であり、それにより、アミノ酸のポリマーは、それぞれヒドラジド体またはチオエステルの形態で取得される。
【0057】
本発明は、別の態様において、ペプチド結合で連結した、複数のアミノ酸のポリマーを製造する方法に関し、当該方法は、(a)下記:
H2N-CH(R)-COSH (1)
(式中、Rは任意のアミノ酸の側鎖を示す。)
に示す複数のアミノ酸誘導体を準備する工程;および
(b)前記複数のアミノ酸誘導体を酸化反応に供し、複数の下記:
H2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)x-SH (7)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示し、xは任意の整数を示す。)
に示す化合物、および/または、下記:
H2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)y-S-S-(CO-CH(R)-NH)z-CO-CH(R)-NH2 (8)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示し、yおよびzは任意の整数を示す。)
に示す化合物を取得する工程を含んでいる。この態様において、本発明の製造方法は、複数のアミノ酸誘導体を、同時に、酸化反応に供する点で特徴付けることができる。また、この態様において、本発明の製造方法は、前記複数のアミノ酸誘導体のうちの少なくとも一部または全てが、保護基を有しないことを特徴とする。
【0058】
本発明の製造方法において、「前記複数のアミノ酸誘導体のうちの一部は、保護基を有しない」とは、工程(a)で準備される複数のアミノ酸誘導体に、保護基を有していないアミノ酸誘導体が含まれていることを意味し、保護基を有していないアミノ酸誘導体の割合は必ずしも問題としないが、好ましくは、複数のアミノ酸誘導体のうち、少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも93%、より好ましくは少なくとも94%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%が、保護基を有しないアミノ酸誘導体であることが好ましい。本発明において、好ましくは、工程(a)で準備される複数のアミノ酸誘導体の全ては、保護基を有しないものである。
【0059】
工程(b)は、工程(a)で準備された複数のアミノ酸誘導体を同時に酸化反応に供する工程である。特定の理論に拘束されるものではないが、複数のアミノ酸誘導体を同時に酸化反応に供する場合には、アミノ酸誘導体のモノマーまたはポリマーとアミノ酸誘導体のモノマーとが順次的にジスルフィド結合および分子内転移を生じ、ペプチド結合を形成する第1の反応と、アミノ酸誘導体のポリマー同士がジスルフィド結合を生じる第2の反応とが、起こると考えられる。
【化2】
【0060】
また、特定の理論に拘束されるものではないが、第2の反応によって(アミノ酸ポリマー)-S-S-(アミノ酸ポリマー)(化合物(8))が生じる場合、この分子内で分子内転移は生じないと考えられるが、反応系に、アミノ酸誘導体のモノマーが存在している場合には、ジスルフィド結合を挟んで存在するアミノ酸ポリマーの一方と、当該アミノ酸誘導体モノマーとが、交換反応を起こし、(アミノ酸ポリマー)-S-S-(アミノ酸モノマー)を形成し(下記参照)、この分子が分子内転移反応を起こすことで、アミノ酸の伸長が進行すると考えられる。
【化3】
なお、このようなアミノ酸誘導体モノマーとの交換反応が生じない場合には、アミノ酸ポリマー同士がジスルフィド結合を形成した時点で、それ以上のアミノ酸の伸長が起こらないと考えられるため、長鎖のアミノ酸のポリマーの製造ができないと考えられる。アミノ酸誘導体モノマーとの交換反応が生じている蓋然性が高いことは、本願の実施例において、最大で19アミノ酸の長さのポリマーが製造できていることからも推認できる。
【0061】
一方、(アミノ酸ポリマー)-S-S-(アミノ酸ポリマー)が生じた時点で、利用可能なアミノ酸誘導体のモノマーが存在していない場合には、アミノ酸誘導体モノマーとの交換反応が起こらないため、それ以上の伸長は起こらないと考えられる。本発明の製造方法は、任意に、さらなる反応の進行のため、アミノ酸誘導体のモノマーを反応系に追加する工程をさらに含んでもよいが、いずれにしても、工程(b)を行った時点で、潜在的に、化合物(7)に加えて、化合物(8)が生じ得ることが当業者に理解されよう。
【0062】
また、本発明の製造方法において、前記の「複数のアミノ酸誘導体」の側鎖は、製造対象とするアミノ酸のポリマーに応じて、全て同一であってもよいし、異なるものであってもよい。例えば、前記の「複数のアミノ酸誘導体」の側鎖を全て同一にすることにより、本発明の製造方法は、特定のポリアミノ酸を大量に得る目的に適したものとなり得る。そのようなポリアミノ酸として、例えばこれに限定されるものではないが、ポリアラニンを挙げることができる。ポリアラニンは、前記「複数のアミノ酸誘導体」として、側鎖がメチル基であるアミノ酸誘導体からなる均一な集団を準備し、これを酸化反応に供することによって、調製することができる。また、20種の天然アミノ酸の側鎖を含むように前記の「複数のアミノ酸誘導体」を準備して用いることにより、本発明の製造方法は、ポリペプチドのライブラリーを得る目的に適したものとなり得る。
【0063】
一実施形態において、本発明の製造方法は、
(c1)工程(b)で取得された化合物(7)と、下記:
H-X (5)
(式中、Xは、N、O、S、およびSeよりなる群から選択される原子で結合する置換基を示す。)
に示す求核性試薬を反応させて、下記:
H2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)x-X (9)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示し、xは任意の整数を示し、Xは、N、O、S、Seよりなる群から選択される原子で結合する置換基を示す。)
に示す化合物を取得する工程をさらに含むことができる。
これにより、SH体の形態で取得されたアミノ酸のポリマーを、所望の形態に変換することができる。
【0064】
工程(c1)は、当業者に周知のアミノ酸またはペプチドの誘導体化方法にならって行えばよい。化合物(7)と求核性試薬(5)との反応には、アミド系溶媒、ヘキサンやシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒、ベンゼンやトルエンなどの芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタンやクロロホルムなどの含ハロゲン溶媒、酢酸エチルやアセトニトリルなどの非プロトン性極性溶媒、エタノールやメタノール、水などのプロトン性極性溶媒を用いることができる。この反応は特に酸性から中性の緩衝溶液中で行われる。緩衝溶液としては例えば、リン酸緩衝溶液、トリス緩衝溶液、HEPES緩衝溶液、クエン酸緩衝溶液などが挙げられる。これらの緩衝溶液は、単独で使用しても、2種以上を混合してもよい。
【0065】
工程(c1)の反応温度としては、特に制限はないが、0℃~30℃の範囲で実施可能であり、好ましくは0℃~20℃の範囲で実施され、さらに好ましくは0℃~10℃の範囲で実施される。また、反応時間は、特に制限はないが、1分~5時間の範囲で実施可能であり、好ましくは1分~2時間の範囲で実施され、さらに好ましくは1分~30分の範囲で実施される。また、工程(c1)のpH条件は、特に制限はないが、1~8の範囲で実施可能であり、好ましくは2~7の範囲で実施され、さらに好ましくは4~7の範囲で実施される。
【0066】
化合物(5)の具体的な例としては、水、メタノールのようなアルキルアルコール、ベンジルアルコールのようなアリールアルコール、保護、あるいは無保護のヒドラジン、エタンチオールのようなアルキルチオール、ベンジルチオールのようなアリールチオール、セレノ化合物を挙げることができる。
【0067】
一実施形態において、化合物(5)におけるXは、N原子またはS原子で結合する置換基であり、それにより、アミノ酸のポリマーは、それぞれヒドラジド体またはチオエステルの形態で取得される。
【0068】
別の実施形態において、本発明の製造方法は、
(c2)工程(b)で取得された化合物(8)と、下記:
H-X (5)
(式中、Xは、N、O、S、およびSeよりなる群から選択される原子で結合する置換基を示す。)
に示す求核性試薬を反応させて、下記:
H2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)y-X (10)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示し、yは任意の整数を示し、Xは、N、O、S、およびSeよりなる群から選択される原子で結合する置換基を示す。)
および、下記:
H2N-CH(R)-CO-(HN-CH(R)-CO)z-X (11)
(式中、各Rは、それぞれ独立に、任意のアミノ酸の側鎖を示し、zは任意の整数を示し、Xは、N、O、S、およびSeよりなる群から選択される原子で結合する置換基を示す。)
に示す化合物を取得する工程をさらに含むことができる。
工程(c2)は、求核性試薬である化合物(4)の使用によってジスルフィド結合を開裂させることにより、1分子の化合物(8)から、化合物(10)および(11)を誘導体化形態で取得する工程である。
【0069】
求核性試薬によるジスルフィド結合の開裂は、水による加水分解、あるいはアルコールによるエステル化、アミノ化合物によるアミド化、ヒドラジド化、チオールによるチオエステル化、セレノ化合物によるセレノエステル化等、当業者に公知である。化合物(8)と求核性試薬(5)との反応には、アミド系溶媒、ヘキサンやシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒、ベンゼンやトルエンなどの芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタンやクロロホルムなどの含ハロゲン溶媒、酢酸エチルやアセトニトリルなどの非プロトン性極性溶媒、エタノールやメタノールや水などのプロトン性極性溶媒を用いることができる。この反応は特に酸性から中性の緩衝溶液中で行われる。緩衝溶液としては例えば、リン酸緩衝溶液、トリス緩衝溶液、HEPES緩衝溶液、クエン酸緩衝溶液などが挙げられる。これらの緩衝溶液は、単独で使用しても、2種以上を混合してもよい。
【0070】
工程(c2)の反応温度としては、特に制限はないが、0℃~30℃の範囲で実施可能であり、好ましくは0℃~20℃の範囲で実施され、さらに好ましくは0℃~10℃の範囲で実施される。また、反応時間は、特に制限はないが、1分~5時間の範囲で実施可能であり、好ましくは1分~2時間の範囲で実施され、さらに好ましくは1分~30分の範囲で実施される。また、工程(c2)のpH条件は、特に制限はないが、1~8の範囲で実施可能であり、好ましくは2~7の範囲で実施され、さらに好ましくは4~7の範囲で実施される。
【0071】
化合物(5)の具体的な例としては、水、メタノールのようなアルキルアルコール、ベンジルアルコールのようなアリールアルコール、保護、あるいは無保護のヒドラジン、エタンチオールのようなアルキルチオール、ベンジルチオールのようなアリールチオール、セレノ化合物を挙げることができる。
【0072】
本発明の製造方法によれば、例えば、4個~20個、5個~20個、6個~20個、7~20個、8~20個、9個~20個、または10個~20個のアミノ酸を含むポリマーまたはポリマーの集団を効率的に製造することができる。
【0073】
本発明の製造方法は、また、従来のアミノ酸の縮合反応において、保護が必須であるとされてきた、側鎖に4-アミノブチル基を有するリシンなど、反応性の高い側鎖を有するアミノ酸誘導体を無保護で用いる場合であっても、ペプチド結合で連結されたアミノ酸のポリマーが製造できるため、アミノ酸の種類による制約を受けず、非常に汎用性が高いという利点を有している。
【0074】
なお、本明細書において用いられる用語は、特定の実施形態を説明するために用いられるのであり、発明を限定する意図ではない。
【0075】
また、本明細書において用いられる「含む」との用語は、文脈上明らかに異なる理解をすべき場合を除き、記述された事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを意図するものであり、それ以外の事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを排除しない。
【0076】
異なる定義が無い限り、ここに用いられるすべての用語(技術用語および科学用語を含む。)は、本発明が属する技術の当業者によって広く理解されるのと同じ意味を有する。ここに用いられる用語は、異なる定義が明示されていない限り、本明細書および関連技術分野における意味と整合的な意味を有するものとして解釈されるべきであり、理想化され、または、過度に形式的な意味において解釈されるべきではない。
【0077】
第一の、第二のなどの用語が種々の要素を表現するために用いられる場合があるが、これらの要素はそれらの用語によって限定されるべきではないことが理解される。これらの用語は一つの要素を他の要素と区別するためのみに用いられているのであり、例えば、第一の要素を第二の要素と記し、同様に、第二の要素は第一の要素と記すことは、本発明の範囲を逸脱することなく可能である。
【0078】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、しかしながら、本発明はいろいろな形態により具現化することができ、ここに記載される実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。
【実施例】
【0079】
原料物質
下記実施例において、下記の物質を使用した:N,N-ジイソプロピルエチルアミン(N,N-diisopropylethylamine:DIPEA)、トリフルオロ酢酸(Trifluoroacetic acid:TFA)、トリイソプロピルシラン(triisopropylsilane:TIPS)、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(N,N-dimethyl-4-aminopyridine:DMAP)、ジクロロメタン(Dichloromethane:DCM)、ギ酸(formic acid:FA)、アセトニトリル(Acetonitrile:MeCN)、(ベンゾトリアゾール-1-イロキシ)トリピロリジノフォスフォニウム ヘキサフルオロフォスフェイト((benzotriazol-1-yloxy)tripyrolidinophosphonium hexafluorophosphate:PyBOP)、トリフェニルメタンチオール(Triphenylmethanethiol)。
【0080】
1.チオアシッドアミノ酸の合成
Boc-Phe-STrt (1)
ナス型フラスコに、Boc-Phe-OH(165.4mg、0.62mmol)、PyBOP(1622.1mg、3.12mmol)、Trt-SH(861.6mg、3.12mmol)を入れて、減圧下で乾燥した。乾燥後、DCM(3.1ml)を加えて、-20℃まで冷却した。-20℃下において、DIPEA(543.0μl)を加え、アルゴン雰囲気下で2時間攪拌した。その後、酢酸(543.0μl)を加えて中和後、反応溶液を濃縮した。濃縮残渣をシリカゲルカラム(溶出溶媒:酢酸エチル:ヘキサン=1:10)で精製し、Boc-Phe-STrt 1(268.4mg、0.51mmol、82.2%)を得た。
1H NMR(400MHz,CDCl3) δ 4.82(d,1H),4.62(q,1H),2.99(q,1H),2.91(m,1H),1.43 (s,9H)
13C NMR(100MHz,CDCl3) δ 197.7
HRMS(ESI): calcd for C33H33NO3S[M+Na]+ 546.2073,found 546.2076
【0081】
H-Phe-SH (2)
Boc-Phe-STrt 1(268.4mg、0.51mmol)に対して、5%TIPS/TFA(5.1ml)を加えて、室温で攪拌した。10分後、反応溶液を濃縮し、濃縮残渣に対してジエチルエーテル(40mL)を加えて、目的物を沈殿させた。沈殿した目的物を遠沈操作によって回収した。回収した沈殿物に対してジエチルエーテルを加えて再び遠沈操作を行うことによって、沈殿物を洗浄した。この洗浄を2回繰り返した。沈殿物を常温、常圧で乾燥した後に、0.1%TFA/H2O:MeCN=1:1に溶かして凍結乾燥することによって、Boc-Phe-SH 2(91.2mg、0.50mmol、98%)を得た。
1H NMR(400MHz,DMSO) δ 7.73(s,2.5H),7.26(m,5H),3.68(q,1H),3.35(q,1H),2.92(q,1H)
13C NMR(100MHz,DMSO): δ 208.4,137.4,129.9,128.8,127.0,63.9,38.6
HRMS(ESI): calcd for C9H10NOS [M-H]- 180.0489,found 180.0489
【0082】
Boc-Gly-STrt (3)
ナス型フラスコに、Boc-Gly-OH(208.2mg、1.19mmol)、WSCI・HCl(273.4mg、1.43mmol)、Trt-SH(361.3mg、1.31mmol)、DMAP(14.5mg、0.12mmol)を入れて、減圧下で乾燥した。乾燥後、THF(5.9ml)を加え、アルゴン雰囲気下で16時間、室温で攪拌した。その後、酢酸エチル(20mL)を加えて、反応溶液を希釈し、有機相を水、飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水でそれぞれ2回ずつ洗浄し、最後に有機相を硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過によって、硫酸マグネシウムを除去した後に有機相を濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(溶出溶媒:酢酸エチル:ヘキサン=1:10)で精製し、Boc-Gly-STrt 3(304.6mg、0.70mmol、59.1%)を得た。
13C NMR(100MHz,CDCl3) δ 194.8
HRMS(ESI): calcd for C26H27NO3S [M+Na]+ 456.1604, found 456.1601
【0083】
H-Gly-SH (4)
H-Phe-SH 2の合成と同様の手順で、原料Boc-Gly-STrt 3(304.6mg、0.70mmol)からH-Gly-SH 4(63.1mg、0.69mmol、quant)を得た。
HRMS(ESI): calcd for C2H4NOS [M-H]- 90.0019, found 90.0019
【0084】
Boc-Ala-STrt (5)
Boc-Phe-STrt 1の合成と同様の手順で、原料Boc-Ala-OH(633.4mg、3.35mmol)からBoc-Ala-STrt 5(1243.1mg、2.78mmol、83.0%)を得た。
13C NMR(100MHz,CDCl3) δ 198.6
HRMS(ESI): calcd for C27H29NO3S [M+Na]+ 470.1760, found 470.1766
【0085】
H-Ala-SH (6)
H-Phe-SH 2の合成と同様の手順で、原料Boc-Ala-STrt 5(1243.1mg、2.78mmol)からH-Ala-SH 6(277.7mg、2.64mmol、95%)を得た。
1H NMR(400MHz,DMSO) δ 7.69(s,3H),3.49(q,1H),1.32(d,3H)
13C NMR(100MHz,DMSO) δ 210.0,58.4,19.0
HRMS(ESI): calcd for C2H6NOS [M-H]- 104.0176, found 104.0176
【0086】
Boc-Ser(tBu)-STrt (7)
Boc-Phe-STrt 1の合成と同様の手順で、原料Boc-Ser(tBu)-OH・DCHA(717.6mg、1.62mmol)からBoc-Ser(tBu)-STrt 7(685.2mg、1.48mmol、91.1%)を得た。
1H NMR(400MHz,CDCl3) δ 5.44(d,1H),4.33(d,1H),3.76(dd,1H),3.43(dd,1H),1.45(s,9H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ 197.9
【0087】
H-Ser-SH (8)
H-Phe-SH 2の合成と同様の手順で、原料Boc-Ser(tBu)-STrt 7(685.2mg、1.48mmol)からH-Ser-SH 8(173.3mg、1.43mmol、97%)を得た。
1H NMR(400MHz,DMSO) δ 7.69(s,3H),5.11(s,1H),3.96(q,1H),3.52(m,2H)
13C NMR(100MHz,DMSO) δ 206.5,65.0,62.5
HRMS(ESI): calcd for C3H6NO2S [M-H]- 120.0125, found 120.0125
【0088】
2.チオアシッドアミノ酸のホモオリゴマー化反応
H-Phe-SHのポリメリゼーション
水(221μl)に溶解したH-Phe-SH
2(0.40mg、2.2μmol)に対して、水(5μL)に溶解した塩化鉄(III)FeCl
3(2.98mg、11.0μmol)を加えて、室温で静置した(pH=1.26)。反応開始から0時間後、2時間後、それぞれ2μLの溶液をピペットマンで測り取り、pH7のリン酸緩衝液(20μL)によって反応を停止し、LC-MSによって分析を行った。
図1は、二時間後の結果(波長220nm)の結果を示す(LC-MS analysis method: C18 5μm、4.6×100mm、0.1%FA:0.1%FAin90%MeCN=95:5から45:55、20分、0.2ml/分の流速)。
図2は
図1における、MS(A)、MS(B)、MS(C)の各範囲を質量分析した結果である。MS(A)、MS(B)およびMS(C)のm/zおよび組成は、それぞれ以下のとおりであった:(A)m/z=460.4:H-FFF-OH、(B)m/z=476.4:H-FFF-SH、(C)m/z=1211.8:H-FFFFFFFF-SH。
【0089】
3.チオアシッドアミノ酸のヘテロオリゴマー化反応
H-Phe-SHおよびH-Ala-SHのオリゴメリゼーション
水(520μl)に溶解したH-Phe-SH
2(0.7mg、3.9μmol)、およびH-Ala-SH
6(1.0mg、9.5μmol)の混合物に対して、水(5μL)に溶解した塩化鉄(III)FeCl
3(5.2mg、19.2μmol)を加えて室温で静置した(pH=1.40)。反応開始5分後、2μLの溶液をピペットマンで測り取り、pH7のリン酸緩衝液(20μL)によって反応を停止し、UHPLCを用いて分析を行った。
図3は、1分後の結果(波長218nm)を示す(UHPLC analysis method:C18 5μm、4.6×50mm、0.1%FA:0.09%FAin90%MeCN=95:5から5:95、5分、0.2ml/分の流速)。
【0090】
図4および
図5には、F=Phe、A=Alaの一文字表記によって観測された主な生成物の組成を表す。
図4および5中の(A)から(J)は、それぞれ
図3中のMS(A)からMS(J)で示される画分について測定した質量分析結果に対応している。なお、
図5(J)は
図4(I)を部分的に拡大した図である。MS(A)からMS(J)のm/zおよび組成は、それぞれ以下のとおりであった:(A)m/z=322.20:H-F1A2-OH、(B)m/z=535.35:H-F1A5-SH、(C)m/z=327.19:H-F2-SH、m/z=677.25:H-F1A7-SH、(D)m/z=398.37:H-F2A1-SH、m/z=611.24:H-F2A4-SH、(E)m/z=687.38:H-F3A3-SH、(F)m/z=763.57:H-F4A2-SH、(G)m/z=839.54:H-F5A1-SH、(H)m/z=986.51:H-F6A1-SH、(I)m/z=1133.53:H-F7A1-SH、m/z=1280.57:H-F8A1-SH、(J)m/z=2067.82:H-F9A10-SH。
【0091】
反応開始5分後に分析した質量分析によって観測した最大のペプチドは、19残基のアミノ酸から構成されるものであり、その組成は、フェニルアラニン9残基、アラニン10残基を含むチオアシッドペプチドであった(
図5J)。
【0092】
4.Phe-SHおよびLys-SHのオリゴメリゼーション
Boc-Lys(Boc)-STrt(13)
上記Boc-Phe-STrt 1の合成と実質的に同一の方法で、Boc-Lys(Boc)-OH(1.05g、1.98mmol)からアモルファスとして、Boc-Lys(Boc)-STrt 13(1.10g、1.82mmol、92%)を得た。
[α]D
20-26.78(c=0.95,CHCl3).1H NMR(400MHz,CDCl3) δ: 7.26(m),4.99(d,1H),4.49(1H),4.28(q,1H),3.05(q,2H),1.67(m,1H),1.45(s,9H),1.44(s,9H),1.40(m,1H),1.18(m,2H).13C NMR(100MHz,CDCl3) δ: 198.2,156.1,155.3,143.6,129.9,127.7,127.1,80.1,79.2,70.3,60.3,40.0,32.2,29.6,28.5,28.3,22.2. HRMS(ESI):calcd for C35H44N2NaO5S[M+Na]+ 627.2863, found 627.2861
【0093】
H-Lys-SH(14)
H-Phe-SH 2の合成と実質的に同一の方法で、Boc-Lys(Boc)-STrt 13(840mg、1.33mmol)から白色粉末としてH-Lys-SH 14(165mg、1.02mmol、73%)を得た。
[α]D
204.73(c=0.74,H2O:MeCN=1:1).1H NMR(400MHz,D2O) δ: 3.86(t,1H),2.87(t,2H),1.85(m,2H),1.57(m,2H),1.33(m,2H).13C NMR(100MHz,D2O) δ: 214.4,62.4,39.0,31.4,26.3,21.1.HRMS(ESI):calcd for C6H13N2OS[M-H]- 161.0754, found 180.0755
【0094】
Phe-SHおよびLys-SHのオリゴメリゼーション
H-Phe-SH
2(0.1mg、0.55μmol)およびH-Lys-SH
14(0.45mg、2.76μmol)を脱気水(47.5μL)に溶解した。この溶液に5倍過剰のFeCl
3・6H
2O(2.76μmol)を含むFeCl
3・6H
2O溶液(0.1mg/μL、7.5μL)を添加した。反応の各時点で、反応混合物の一部をリン酸緩衝液(pH7)で反応停止し、LCMS分析を行い、反応の進行をモニターした(表1、
図6~9)。なお、すべてのLC-MS分析は、反応停止した5分後に行った。
【表1】