(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】インターフェロン産生促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 35/742 20150101AFI20220509BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20220509BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20220509BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20220509BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
A61K35/742
A23L2/38 C
A23L33/135
A61P31/16
A61P43/00 117
(21)【出願番号】P 2021542354
(86)(22)【出願日】2021-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2021009831
【審査請求日】2021-07-21
【微生物の受託番号】IPOD FERM BP-2789
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114282
【氏名又は名称】ミヤリサン製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】萩原 真生
(72)【発明者】
【氏名】三鴨 廣繁
(72)【発明者】
【氏名】山岸 由佳
(72)【発明者】
【氏名】山下 誠
(72)【発明者】
【氏名】高橋 志達
(72)【発明者】
【氏名】岡 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】有吉 理
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第2016-0115202(KR,A)
【文献】国際公開第2007/114378(WO,A1)
【文献】HAGIHARA, Mao et al.,Clostridium butyricum modulates the microbiome to protect intestinal barrier function in mice with a,iScience,2020年,Vol. 23,pp. 1-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/742
A61P 43/00
A61P 31/16
A23L 33/135
A23L 2/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ 588(Clostridium butyricum MIYAIRI 588、FERM BP-2789)またはその培養物を有効成分として含む、インターフェロン産生促進剤であって、
前記クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ 588は、生菌であり、
前記インターフェロンがIFN-α、IFN-βおよびIFN-λからなる群から選択される少なくとも1つであり、
ウイルス感染症に罹患しているまたはその可能性がある対象に投与される、インターフェロン産生促進剤。
【請求項2】
前記ウイルス感染症がインフルエンザウイルス感染症である、請求項1に記載のインターフェロン産生促進剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインターフェロン産生促進剤を有効成分として含み、前記インターフェロンがIFN-α、IFN-βおよびIFN-λからなる群から選択される少なくとも1つである、
インフルエンザウイルス感染症の予防および/または治療剤。
【請求項4】
請求項1または2に記載のインターフェロン産生促進剤を含み、ウイルス感染症に罹患しているまたはその可能性がある対象に投与される、IFN-α、IFN-βおよびIFN-λからなる群から選択される少なくとも1つのインターフェロンの産生を促進するための飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターフェロン産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
インターフェロン(IFN)は、生体内でリンパ球、線維芽細胞など様々な細胞が産生する生理活性タンパク質である。インターフェロンは、タンパク質構造および受容体複合体の認識に基づき、I型インターフェロン、II型インターフェロンおよびIII型インターフェロンに分類される。インターフェロンは、抗ウイルス作用、抗がん作用など様々な生理活性を示し、なかでも、抗ウイルス作用については、I型およびIII型のインターフェロンによる作用であることが知られている。
【0003】
これまでに、I型およびIII型のインターフェロンの産生促進を目的として、細菌やその培養物を含む組成物が検討されている。例えば、国際公開第2012/091081号には、乳酸菌またはその培養物を有効成分として含むIFN産生誘導剤が開示されている。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、新規なI型および/またはIII型のインターフェロン産生促進剤を提供することを目的とする。
【0005】
本発明者らは、驚くべきことに、クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)がインターフェロンの産生を促進することを見出した。そして、この知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明の一形態によれば、クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)またはその培養物を有効成分として含む、I型および/またはIII型のインターフェロン産生促進剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】CBM588投与群およびコントロール群における生存期間および体重変化の結果をしめすグラフである。
【
図3】CBM588投与群およびコントロール群における肺組織中のインフルエンザウイルス量の測定結果を示す。
【
図4】CBM588投与群およびコントロール群における肺胞洗浄液中のインターフェロンα、インターフェロンβおよびインターフェロンλ濃度の測定結果を示す。
【
図5】CBM588投与群およびコントロール群における肺胞洗浄液中および血中の分泌型IgA濃度の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一形態に係る実施の形態を説明する。本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0009】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0010】
<インターフェロン産生促進剤>
本発明の一形態は、クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)またはその培養物を有効成分として含む、I型および/またはIII型のインターフェロン産生促進剤である。
【0011】
本明細書において、「I型および/またはIII型のインターフェロン産生促進剤」を単に「インターフェロン産生促進剤」とも称する。
【0012】
インターフェロン(IFN)は、リンパ球、線維芽細胞など様々な細胞が生産する生理活性タンパク質である。インターフェロンは、タンパク質構造および受容体複合体の認識に基づき、I型インターフェロン、II型インターフェロンおよびIII型インターフェロンに分類される。I型インターフェロンは、IFN-α、IFN-β、IFN-ω、IFN-ε、IFN-κなどを含む。II型インターフェロンは、IFN-γのみからなる。III型インターフェロンは、IFN-λを含む。
【0013】
I型および/またはIII型のインターフェロン産生促進とは、in vivo(例えば、肺胞洗浄液中)でのI型およびIII型の少なくとも一方のインターフェロンの産生を促進できることを意味する。
【0014】
一実施形態において、本発明に係るインターフェロン産生促進剤は、I型インターフェロンおよびIII型インターフェロンの少なくとも一方の産生を促進することができ、特にIFN-α、IFN-βおよびIFN-λからなる群から選択される少なくとも1つの産生を促進することができる。
【0015】
クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)とは、栄養のバランスがとれている間は分裂増殖を繰り返す(栄養細胞)が、そのバランスが崩れると菌体内に胞子を生じる芽胞形成性かつ嫌気性のグラム陽性桿菌である。嫌気性細菌に限らず、多くの細菌は、栄養細胞の形態を有する際には、乾燥状態で放置されると容易に死滅する。しかしながら、芽胞は休止細胞であるため、乾燥、熱や化学薬品などの様々な外的環境に対して強い抵抗性を有し、保存には好都合である。
【0016】
また、上述したように、クロストリジウム・ブチリカムは芽胞形成性であり、芽胞の状態にある際には、様々な外的環境に対して抵抗性を有する。このため、クロストリジウム・ブチリカムが芽胞の形態で人や動物に経口投与されると、胃酸、腸液や胆汁酸などの消化液と接しても、クロストリジウム・ブチリカムは完全には死滅せずに小腸下部から大腸に至るまでの発酵部位にも到達し増殖することが可能となる。
【0017】
さらに、クロストリジウム・ブチリカムは、生菌剤、飼料添加物や食品として広く市販されており、人や家畜などの哺乳動物に長期間にわたって投与しても全く副作用を認めず、高い安全性が保証されている。
【0018】
クロストリジウム・ブチリカムのなかでも、クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ、クロストリジウム・ブチリカム・NIP1020(Clostridium butyricum NIP1020)、クロストリジウム・ブチリカム・NIP1021(Clostridium butyricum NIP1021)、クロストリジウム・ブチリカム(FERM P-11868)、クロストリジウム・ブチリカム(FERM P-11868)、クロストリジウム・ブチリカム(FERM P-11869)、及びクロストリジウム・ブチリカム(FERM P-11870)、クロストリジウム・ブチリカム・ATCC859(Clostridium butyricum ATCC859)、クロストリジウム・ブチリカム・NBRC3315(Clostridium butyricum NBRC3315)、クロストリジウム・ブチリカム・ATCC860(Clostridium butyricum ATCC860)またはクロストリジウム・ブチリカム・ATCC19398(Clostridium butyricum ATCC19398)が好ましい。より好ましくはクロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ 588(Clostridium butyricum MIYAIRI 588、FERM BP-2789)、クロストリジウム・ブチリカム ミヤイリ 585(FERM BP-06815)、クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ595(FERM BP-06816)及びクロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ630(FERM BP-06817)からなる群より選択される1種以上であり、さらに好ましくはクロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ 588(Clostridium butyricum MIYAIRI 588、FERM BP-2789)である。なお、クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ 588株は、1981年5月1日付で通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所(現在の独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター)(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)にFERM BP-2789として寄託され、1990年3月6日付で、ブダペスト条約に基づく国際寄託機関に移管され、受託番号FERM BP-2789として寄託されている。
【0019】
クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリは生菌剤としてミヤリサン製薬株式会社から市販されており、人や動物に長期に投与しても全く副作用の無いものであるため、本発明における使用にとって特に好適である。なお、有効成分であるクロストリジウム・ブチリカムとしては、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0020】
本発明において、クロストリジウム・ブチリカムの培養物は、クロストリジウム・ブチリカムを培養した培養液、前記培養液を遠心分離して得られる菌を含む残渣および前記残渣の乾燥物を意味する。
【0021】
クロストリジウム・ブチリカムの培養物は、既知の微生物の培養方法、例えば、特開平08-252088号に開示された方法により得られる。その一実施態様を下記に示す:クロストリジウム・ブチリカムを1.0(w/v)% ペプトン、1.0(w/v)% 酵母エキス、1.0(w/v)%コーンスターチおよび0.2(w/v)%沈降炭酸カルシウムを含む培地に105~106個/mLになるように接種し、37℃にて48時間静置培養することにより、「クロストリジウム・ブチリカムの培養液」を得る。次に、得られた培養液を遠心分離(2,000~6,000g×10~30分)して、「培養液を遠心分離して得られる菌を含む残渣」を分離し、この残渣を、0~80℃、好ましくは10~20℃で、1~24時間、好ましくは5~18時間風乾等による乾燥処理または0~80℃、好ましくは10~20℃、0.05~500Torr(7Pa~66.7kPa)、好ましくは1~100Torr(133Pa~13.3kPa)で、1~24時間、好ましくは2~15時間減圧乾燥処理することなどにより、「残渣の乾燥物」を得る。乾燥物を得るためには、スプレードライ、フリーズドライなどを用いてもよい。
【0022】
本発明に係るクロストリジウム・ブチリカムの培養に使用する培地は、使用する菌株の種類等によっても異なるが、使用するクロストリジウム・ブチリカムが資化しうる炭素源、適量の窒素源、無機塩およびビタミン類などのその他の栄養素を含有する培地であれば、合成培地または天然培地のいずれでもよい。
【0023】
例えば、本発明による培地中で使用される炭素源の例として、使用する菌株が資化できる炭素源であれば特に制限されない。炭素源としては、必ずしも糖に制限されないが、菌体の増殖を考慮すると、使用する細菌が利用可能な糖または糖を含むものが好ましく使用される。使用できる炭素源の具体例としては、資化性を考慮して、セロビオース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、ラクトース、マルトース、マンノース、メリビオース、ラフィノース、サリシン、スターチ、スクロース、トレハロース、キシロース、デキストリン、および糖蜜等が挙げられる。これらの炭素源のうち、スターチ、グルコース、フルクトース、スクロースおよび糖蜜が好ましく使用される。上記した炭素源を、使用するクロストリジウム・ブチリカムを考慮して、1種または2種以上選択して使用してもよい。この際、炭素源の添加濃度は、使用するクロストリジウム・ブチリカムや炭素源の種類および使用する培地の炭素源以外の培地組成等によっても異なるが、通常0.5~5(w/v)%、好ましくは2~4(w/v)%である。
【0024】
また、窒素源およびビタミン類としては、例えば、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、味液等の大豆および小麦の加水分解物、大豆粉末、ミルクカゼイン、カザミノ酸、各種アミノ酸、コーンスティープリカー、その他の動物、植物、微生物の加水分解物等の有機窒素化合物および硫酸アンモニウムなどのアンモニウム塩が挙げられる。これらの窒素源のうち、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーおよび味液が好ましく使用される。上記した窒素源およびビタミン類を、使用するクロストリジウム・ブチリカムの生育を向上させるために、1種または2種以上選択して使用してもよい。この際、上記窒素源の添加濃度は、使用する菌株や窒素源の種類および使用する培地の窒素源以外の培地組成等によっても異なるが、窒素源を多く含むペプトンを使用する際には、通常0.5~4(w/v)%、好ましくは1~3(w/v)%であり、窒素源およびビタミン類を多く含む味液やコーンスティープリカーを使用する際には、通常0.5~5(w/v)%、好ましくは1~4(w/v)%であり、さらに、ビタミン類を多く含む酵母エキスあるいは肉エキスを使用する際には、通常0.5~4(w/v)%、好ましくは1~3(w/v)%である。
【0025】
さらに、無機塩としては、マグネシウム、マンガン、カルシウム、ナトリウム、カリウム、モリブデン、ストロンチウム、ホウ素、銅、鉄、スズおよび亜鉛などのリン酸塩、塩酸塩、硫酸塩、酪酸塩、プロピオン酸塩および酢酸塩等から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。また、培地中に、必要に応じて、消泡剤、植物油、界面活性剤、血液および血液成分、抗生物質などの薬剤、植物または動物ホルモンなどの生理活性物質等を適宜添加してもよい。
【0026】
本発明において行われる培養の条件は、本発明に使用するクロストリジウム・ブチリカムの生育の範囲(pHや温度等)等の生理学的性質によって異なるが、クロストリジウム・ブチリカムは偏性嫌気性であるため、通気しない、または窒素もしくは炭酸ガスを通気しながら、または培地中に還元剤を加えることにより酸化還元電位を下げるなどによって嫌気的条件下培養されることが必要である。その際の培養条件は、使用される菌株の生育の範囲、培地の組成や培養法によって適宜選択され、本菌株が増殖できる条件であれば特に制限されない。具体的には、培養温度は、通常20~42℃、好ましくは35~40℃である。
【0027】
また、本発明において、クロストリジウム・ブチリカムの培養は、培養中に産生される酸をアルカリで中和することにより増殖が促進されるため、予め培地に炭酸カルシウムを添加することが好ましい。この際、炭酸カルシウムの添加量は、通常0.1~4(w/v)%、好ましくは0.2~2.5(w/v)%である。または、上記中和工程を、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウムおよび炭酸カリウム等のアルカリ水溶液によって培地のpHを設定pHの範囲内に抑えながら行うことも好ましい。なお、アルカリ水溶液を使用する場合には、「設定pH」とは、培養期間中に予め設定されている培地のpHを意味し、「設定pHの範囲」とは、培養期間中に許容されるpHの範囲であり、一般的には、設定pH±許容差で表わす。本発明によると、設定pHは、通常5.0~7.5、好ましくは5.5~6.5の範囲内で設定され、設定pHの範囲は、設定pH±0.5、望ましくは設定pH±0.2である。
【0028】
なお、本発明において、培養を行う間の培地のpHは、菌の接種時では中性付近、より好ましくは6.5~7.5とする。なお、アルカリ水溶液を使用する場合には、酸素が混入しないように緩やかに攪拌しながら設定pHの範囲内に入るよう維持することが好ましい。このように菌の接種時および菌の増殖時のpHを制御することによって、菌密度を飛躍的に増大させることができる。
【0029】
本発明による培養において、クロストリジウム・ブチリカムの初期培養濃度は、クロストリジウム・ブチリカムが生育できる範囲であれば特に制限されず、通常、クロストリジウム・ブチリカムの培養で行われるものと同様である。具体的には、通常104~107個/mL、好ましくは105~106個/mLである。
【0030】
このようにして得られたクロストリジウム・ブチリカムの培養物、特にクロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ 588(Clostridium butyricum MIYAIRI 588、FERM BP-2789)の培養物は、高いインターフェロン産生促進能を有する。
【0031】
後述の実施例に示すように、本発明に係るクロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物により、I型インターフェロンおよびIII型インターフェロン、特にIFN-α、IFN-βおよびIFN-λの産生が促進される。インターフェロンの産生が促進されることにより、生体内の抗ウイルス作用が増強されうると考えられる。インターフェロン産生促進作用は、クロストリジウム・ブチリカムが有する効果としては、これまで知られていない作用である。
【0032】
本発明の他の形態は、インターフェロン産生促進剤として使用するためのクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)またはその培養物である。
【0033】
本発明の他の形態は、インターフェロン産生促進剤の製造のための、クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)またはその培養物の使用である。
【0034】
本発明に係るインターフェロン産生促進剤は、所望の効果を発揮するのに十分な量(すなわち、有効量)のクロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物を含む。インターフェロン産生促進剤は、クロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物そのものでもよく、製剤化のために許容されうる添加剤を併用して、常法に従い、経口製剤または非経口製剤として調製されてもよい。インターフェロン産生促進剤は、簡易性の観点から、好ましくは経口製剤である。製剤化のために許容されうる添加剤としては、例えば、賦形剤、安定剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、滑沢剤、甘味料、着色料、香料、緩衝剤、酸化防止剤、pH調整剤、結合剤、増粘剤、分散剤、懸濁化剤、崩壊剤、制菌剤、界面活性剤などを挙げることができる。剤形は特に制限されず、適宜設定すればよいが、例えば錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、徐放剤、溶液、懸濁液、乳濁液、ローション剤、注射剤、点滴剤、外用剤、坐剤、貼付剤などである。
【0035】
本発明に係るインターフェロン産生促進剤は、哺乳動物や鳥類、好ましくは後述のウイルス感染症に罹患しているまたはその可能性がある哺乳動物や鳥類に投与することができる。ここで、哺乳動物は、ヒト、サル、ゴリラ、チンパンジー、オランウータン等の霊長類、ならびにマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ラクダ、ヤギなどの非ヒト哺乳動物双方を包含する。鳥類としては、ニワトリ、ウズラ、ハトなどが挙げられる。これらのうち、好ましくはヒトである。
【0036】
<インターフェロンの産生を促進する方法>
本発明の一形態は、有効量のクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)またはその培養物を対象に投与することを有する、インターフェロンの産生を促進する方法である。
【0037】
「クロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物」は、上記インターフェロン産生促進剤と同じであるため、説明を省略する。
【0038】
本形態において、「有効量」とは、インターフェロン産生を促進するという効果を発揮するうえで少なくとも必要とされる有効成分(すなわち、クロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物)の量を意味する。
【0039】
本形態において、「対象」とは、特に制限するものではないが、哺乳動物や鳥類であり、好ましくは後述のウイルス感染症に罹患しているまたはその可能性がある哺乳動物や鳥類である。哺乳動物および鳥類としては、本発明に係るインターフェロン産生促進剤において説明した事項と同じであるため、説明を省略する。本形態において、対象は、好ましくはヒトである。
【0040】
本形態において、クロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物は、経口、経静脈、筋肉内、髄腔内、腹腔内、経皮(例えば塗り薬として)または吸入投与されうる。クロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物は、これらの各投与形態に応じて、製剤化のために許容されうる添加剤を併用して、常法に従い、経口製剤または非経口製剤として調製されてもよい。製剤化のために許容されうる添加剤としては、本発明に係るインターフェロン産生促進剤において説明した事項と同じであるため、説明を省略する。
【0041】
<ウイルス感染症の予防および/または治療剤>
本発明の一形態は、上述のインターフェロン産生促進剤を有効成分として含む、ウイルス感染症の予防および/または治療剤である。
【0042】
上述のとおり、クロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物を有効成分として含むインターフェロン産生促進剤によって、I型インターフェロンおよびIII型インターフェロン、特にIFN-α、IFN-βおよびIFN-λの産生が促進される。さらに、後述の実施例に示すように、本発明に係るインターフェロン産生促進剤により、肺組織および血液中のIgA濃度が上昇する(実施例参照)。そのため、本発明に係るインターフェロン産生促進剤は、クロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物を有効成分として含むことにより、抗ウイルス作用(例えば、抗インフルエンザウイルス作用)を発揮することができる。
【0043】
ウイルス感染症としては、インフルエンザウイルス、SARS-CoV-2を含むコロナウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヘルペスウイルス、パピローマウイルス、RSウイルス、ノロウイルス、ロタウイルスなどの感染症が挙げられる。本発明に係るインターフェロン産生促進剤は、特にインフルエンザウイルス感染症に対して予防および/または治療効果を発揮することができる。
【0044】
ウイルス感染症の予防および/または治療剤の形態は、当業者に適切と考えられるいずれの投与経路によって投与されても良い。例えば、ウイルス感染症の予防および/または治療剤は、経口、経静脈、筋肉内、髄腔内、腹腔内、経皮(例えば塗り薬として)または吸入投与されうる。ウイルス感染症の予防および/または治療剤は、これらの各投与形態に応じて、薬理学的に許容される担体を含む。薬理学的に許容される担体としては、特に限定されるものではないが、例えば、乳糖、デンプン等の賦形剤;デキストリン、セルロース等のバインダー;水、有機溶剤等の溶剤;ワセリン、ミツロウ、パラフィン等の基剤等が挙げられる。
【0045】
ウイルス感染症の予防および/または治療剤における有効成分の配合割合は、特に限定されない。ウイルス感染症の予防および/または治療剤は、インターフェロン産生促進剤の有効成分、すなわち有効量のクロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物を含むようにインターフェロン産生促進剤を適切な量で含むことが好ましい。前記配合割合は、ウイルス感染症の予防および/または治療剤全体に対して、インターフェロン産生促進剤が例えば0.001~50質量%である。
【0046】
なお、本形態は、以下の実施形態を含む:
クロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物を有効成分として含む、ウイルス感染症の予防および/または治療剤;
ウイルス感染症の予防および/または治療剤として使用するためのクロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物の使用;
ウイルス感染症の予防および/または治療剤の製造のためのクロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物の使用。
【0047】
本発明に係るウイルス感染症の予防および/または治療剤は、必要に応じて他の補助成分を含むことができる。他の補助成分としては、抗生物質、ビタミン類(例えば、ビタミンC、ビタミンE)、アミノ酸類、ペプチド類、ミネラル類(例えば、亜鉛、鉄、銅、マンガンなど)、核酸、多糖類、脂肪酸類、生薬等が挙げられる。
【0048】
本発明に係るウイルス感染症の予防および/または治療剤の用法用量は、処置すべき症状や病態、年齢等によって適宜変更すればよいが、例えば有効成分として0.1~1000mg/kg体重である。
【0049】
本発明に係るウイルス感染症の予防および/または治療剤の対象は、哺乳動物や鳥類であり、好ましくは上述のウイルス感染症に罹患しているまたはその可能性がある哺乳動物や鳥類である。哺乳動物および鳥類としては、本発明に係るインターフェロン産生促進剤において説明した事項と同じであるため、説明を省略する。本形態において、対象は、好ましくはヒトである。
【0050】
<ウイルス感染症の予防および/または治療方法>
本発明の一形態は、上述のインターフェロン産生促進剤の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、ウイルス感染症の予防および/または治療方法である。
【0051】
本形態において、「対象」および「ウイルス感染症」は、ウイルス感染症の予防および/または治療剤において説明した事項と同じであるため、説明を省略する。
【0052】
本形態において、「有効量」とは、ウイルス感染症の予防および/または治療といった所望の効果を発揮するうえで少なくとも必要とされるインターフェロン産生促進剤の有効成分(すなわち、クロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物)の量を意味する。
【0053】
なお、本形態は、以下の実施形態を含む。
【0054】
クロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、ウイルス感染症の予防および/または治療方法。
【0055】
本形態において、インターフェロン産生促進剤の用法用量は、処置すべき症状や病態、年齢等によって適宜変更することができる。
【0056】
<飲食品>
本発明の一形態は、上述のインターフェロン産生促進剤を含む、飲食品である。
【0057】
本発明に係る飲食品は、インターフェロン産生促進剤の有効成分、すなわち有効量のクロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物を含むようにインターフェロン産生促進剤を適切な量で含むことが好ましい。本形態において、「有効量」とは、個々の飲食品を通常喫食される量摂取した結果、有効成分としての効果を発揮しうるような量で有効成分を含有することを意味する。
【0058】
本発明に係る飲食品は、インターフェロン産生促進剤に安定剤等の慣用の添加成分を加えて飲食品として調製したもの、各種タンパク質、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類等を、それらにさらに配合して調製したもの、液状、半液体状もしくは固体状にしたもの、ペースト状にしたもの、または、一般の飲食品へインターフェロン産生促進剤を添加したものであってもよい。
【0059】
本発明において、「飲食品」は、医薬以外のものであって、哺乳動物などが経口摂取可能な形態のものであれば特に制限はなく、その形態も液状物(溶液、懸濁液、乳濁液など)、半液体状物、粉末、または固体成形物のいずれのものであってもよい。このため飲食品は、例えば飲料の形態であってもよく、また、サプリメントのような栄養補助食品の錠剤形態であってもよい。
【0060】
飲食品として具体的には、例えば、即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品などの即席食品類;清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、栄養飲料、アルコール飲料などの飲料類;パン、パスタ、麺、ケーキミックス、唐揚げ粉、パン粉などの小麦粉製品;飴、キャラメル、チューイングガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、デザート菓子などの菓子類;ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレー・シチューの素類などの調味料;加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズなどの油脂類;乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、アイスクリーム類、クリーム類などの乳製品;魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品などの水産加工品;畜肉ハム・ソーセージなどの畜産加工品;農産缶詰、ジャム・マーマレード類、漬け物、煮豆、シリアルなどの農産加工品;冷凍食品;栄養食品などが挙げられる。
【0061】
本発明において「飲食品」には、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示が付された食品、または、病者用食品のような分類のものも包含される。さらに「飲食品」という用語は、ヒト以外の哺乳動物および鳥類を対象として使用される場合には、飼料を含む意味で用いられうる。
【0062】
本発明の飲食品においては、上述した有効成分に加えて、他の機能を有する成分をさらに添加してもよい。また例えば、日常生活で摂取する食品、健康食品、機能性食品、サプリメント(例えば、カルシウム、マグネシウム等のミネラル類、ビタミンK等のビタミン類を1種以上含有する食品)に本発明の有効成分を配合することにより、本発明による効果に加えて、他の成分に基づく機能を併せ持つ飲食品を提供することができる。
【0063】
飲食品におけるインターフェロン産生促進剤の配合割合は、特に限定されるものではないが、飲食品乾燥質量に対して、インターフェロン産生促進剤が例えば0.001~50質量%である。
【実施例】
【0064】
以下に具体例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。なお、特記しない限り、作業は室温(25℃)で行った。
【0065】
マウスを用いた動物実験に関しては、愛知医科大学の設置した倫理委員会である動物実験委員会の承認(承認番号:2020-38)を得て実施した。
【0066】
<インフルエンザウイルス感染モデルマウスの作製>
Balb/cマウス(9~10週齢、雌、日本チャールス・リバー株式会社より購入)に対し、7日間の検疫・馴化期間を設け、全個体健康状態に異常がなく体重減少を認めないことを確認して、試験に供した。マウスには、12時間照明、温度20~26℃、湿度30~70%の飼育環境で、餌および水を自由摂取させた。
【0067】
マウスにインフルエンザウイルスH3N2(1.8×10
5pfu/mL)を経鼻的に感染させて、インフルエンザウイルス感染モデルマウス1を作製した。また、マウスにインフルエンザウイルスH3N2(1.8×10
4pfu/mL)を経鼻的に感染させて、インフルエンザウイルス感染モデルマウス2を作製した(
図1参照)。
【0068】
<試験例1:生存期間および体重変化の評価>
CBM588投与群では、インフルエンザウイルス感染モデルマウス1に生理食塩水へ懸濁したクロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ 588(Clostridium butyricum MIYAIRI 588、FERM BP-2789)の培養物(以下、単に「CBM588」とも称する)を500mg/kg/dayとなるように経口投与した(n=5)。CBM588中の菌量は、3.3×1010cfu/gであった。なお、CBM588は、クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ 588をコーンスターチ2.0(w/v)%、アミノ酸液2.0(w/v)%および炭酸カルシウム0.75(w/v)%を含むCS液体培地を用いて37℃で48時間静置培養した後、培養液を遠心分離して得られた残渣の乾燥物である。
【0069】
コントロール群では、インフルエンザウイルス感染モデルマウス1に生理食塩水を0.4mL/day経口投与した(n=5)。
【0070】
マウスの健康状態を観察しながら、12時間照明、温度20~26℃、湿度30~70%の飼育環境で、餌および水を自由摂取させて飼育し、CBM588投与群およびコントロール群との生存期間および体重変化を比較した。結果を
図2に示す。
【0071】
図2に示すように、コントロール群と比較して、CBM588投与群では、生存期間の延長と体重減少の抑制効果とが認められた。
【0072】
<試験例2:肺組織中のインフルエンザウイルス量の測定>
CBM588投与群では、インフルエンザウイルス感染モデルマウス2に生理食塩水へ懸濁したCBM588を500mg/kg/dayとなるように経口投与した(n=5)。コントロール群では、インフルエンザウイルス感染モデルマウス2に生理食塩水を0.4mL/day経口投与した(n=5)。
【0073】
試験例1と同様に、マウスの健康状態を観察しながら飼育した。
【0074】
投与後2日目においてマウスを安楽死させた。肺組織を採取してホモジネートした後、上清を用いてプラークアッセイを実施してウイルス量を測定した。結果を
図3に示す。
【0075】
図3に示すように、コントロール群と比較して、CBM588投与群では、肺組織中のインフルエンザウイルス量の有意な減少が認められた。
【0076】
<試験例3:肺胞洗浄液中のインターフェロン濃度の測定>
CBM588投与群では、インフルエンザウイルス感染モデルマウス2に生理食塩水へ懸濁したCBM588を500mg/kg/dayとなるように経口投与した(n=5)。コントロール群では、インフルエンザウイルス感染モデルマウス2に生理食塩水を0.4mL/day経口投与した(n=5)。
【0077】
試験例1と同様に、マウスの健康状態を観察しながら飼育した。
【0078】
投与後1日目、2日目、4日目または7日目においてマウスを安楽死させた。マウスの気管を切開し、PBSで肺を洗浄したものを肺胞洗浄液(BALF)サンプルとした。
【0079】
BALFサンプル中のIFN-α、β及びλの濃度は、以下のキットを使用して、ELISA法により測定した:
IFN-α:VeriKineTM IFN-α 測定ELISAキット(マウス)、PBL製、#42120-1
IFN-β:Mouse IFN-beta Quantikine ELISA Kit、RSD製、#MIFNB0
INF-λ:Mouse IL-28 ELISA Kit、abcam製、#ab100708。
【0080】
【0081】
図4に示すように、コントロール群と比較して、CBM588投与群では、インターフェロン濃度が増加したことが分かる。
【0082】
<試験例4:BALF中および血中の分泌型IgA濃度の測定>
CBM588投与群では、インフルエンザウイルス感染モデルマウス2に生理食塩水へ懸濁したCBM588を500mg/kg/dayとなるように経口投与した(n=5)。コントロール群では、インフルエンザウイルス感染モデルマウス2に生理食塩水を0.4mL/day経口投与した(n=5)。
【0083】
試験例1と同様に、マウスの健康状態を観察しながら飼育した。
【0084】
投与後1日目、2日目、3日目、4日目または7日目においてマウスを安楽死させた。マウスの気管を切開し、PBSで肺を洗浄したものを肺胞洗浄液(BALF)サンプルとした。また、心穿刺にて血液サンプルを採取した。
【0085】
BALF中および血中の分泌型IgA濃度は、以下のキットを使用して、ELISA法により測定した:
IgA:IgA Mouse ELISA kit、Thermofisher製、#EMIGA。
【0086】
【0087】
図5に示すように、コントロール群と比較して、CBM588投与群では、分泌型IgA濃度が増加したことが分かる。
【要約】
【課題】新規なインターフェロン産生促進剤を提供する。
【解決手段】クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)またはその培養物を有効成分として含む、I型および/またはIII型のインターフェロン産生促進剤。
【選択図】なし