(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】エレクトロクロミックデバイス用の対電極
(51)【国際特許分類】
G02F 1/15 20190101AFI20220509BHJP
【FI】
G02F1/15 502
(21)【出願番号】P 2017527761
(86)(22)【出願日】2015-11-20
(86)【国際出願番号】 US2015061995
(87)【国際公開番号】W WO2016085823
(87)【国際公開日】2016-06-02
【審査請求日】2018-10-22
【審判番号】
【審判請求日】2021-01-29
(32)【優先日】2014-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509335373
【氏名又は名称】ビュー, インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】195 S. Milpitas Blvd., Milpitas, CA 95035 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ガレスピー、デーン
(72)【発明者】
【氏名】カイラサム、スリダー、ケイ.
(72)【発明者】
【氏名】ロズビキー、ロバート、ティー.
【合議体】
【審判長】瀬川 勝久
【審判官】野村 伸雄
【審判官】吉野 三寛
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-525860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/163
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロクロミック積層体を製造する方法であって、
陰極着色エレクトロクロミック材料を備える陰極着色層を形成することと、
異なる組成を有する2つ以上の副層を備え
、前記2つ以上の副層のうちの第1副層は二元金属酸化物を含み、第2副層は酸化ニッケルタングステンタンタルを含む、陽極着色層を形成することと、
を含み
、前記酸化ニッケルタングステンタンタルはNi:(W+Ta)の原子比率が1.8:1と3:1の間であり、W:Taの原子比率が1:1と2:1の間であ
る、方法。
【請求項2】
前記酸化ニッケルタングステンタンタルが約1.8:1と2.5:1の間であるNi:(W+Ta)の原子比率を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸化ニッケルタングステンタンタルが約2.1:1と2.5:1の間であるNi:(W+Ta)の原子比率を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化ニッケルタングステンタンタルが約2:1と3:1の間であるNi:(W+Ta)の原子比率を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記陽極着色層を形成することが、前記酸化ニッケルタングステンタンタルを形成するために1つまたは複数のスパッタターゲットをスパッタすることを含み、前記1つまたは複数のスパッタターゲットはそれぞれ、ニッケル、タングステン、およびタンタルから成るグループから選択される少なくとも1の金属を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記1つまたは複数のスパッタターゲットの内の少なくとも1つが、ニッケル、タングステン、及びタンタルから成るグループから選択される元素金属を備える、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記1つまたは複数のスパッタターゲットの内の少なくとも1つが、ニッケル、タングステン、及びタンタルから成るグループから選択される2つ以上の金属を備える合金を備える、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記1つまたは複数のスパッタターゲットの内の少なくとも1つが酸化物を備える、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記陽極着色層が実質的に非晶質である、請求項1から請求項8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記陰極着色層及び前記陽極着色層が、前記陰極着色層と前記陽極着色層との間に別個のイオン伝導体層を成膜されることなく、互いと直接的に物理的に接触して形成され、
前記方法は、前記陰極着色層と前記陽極着色層の間に、イオン伝導性かつ電子絶縁性を有する界面領域を形成することをさらに含む、請求項1から請求項9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記2つ以上の副層が、異なる形態を有する、請求項1から請求項10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記陰極着色エレクトロクロミック材料が酸化タングステン(WO
x)を備える、請求項1から請求項11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
xが3.0未満である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
xが少なくとも約2.7である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記陰極着色層が二重層または傾斜層を備え、前記陰極着色層の一部分が酸素に対して超化学量論的である、請求項1から請求項14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
エレクトロクロミックデバイス積層体であって、
陰極着色材料を備える陰極着色層と、
異なる組成を有する2つ以上の副層を備え
、前記2つ以上の副層のうちの第1副層は二元金属酸化物を含み、第2副層は酸化ニッケルタングステンタンタルを含む、陽極着色層と、を備え、
前記酸化ニッケルタングステンタンタルはNi:(W+Ta)の原子比率が1.8:1と3:1の間であり、W:Taの原子比率が1:1と2:1の間であ
る、エレクトロクロミックデバイス積層体。
【請求項17】
前記酸化ニッケルタングステンタンタルが、約1.8:1と2.5:1の間であるNi:(W+Ta)の原子比率を有する、請求項16に記載のエレクトロクロミックデバイス積層体。
【請求項18】
前記酸化ニッケルタングステンタンタルが、約2:1と2.5:1の間であるNi:(W+Ta)の原子比率を有する、請求項17に記載のエレクトロクロミックデバイス積層体。
【請求項19】
前記酸化ニッケルタングステンタンタルが、約2:1と3:1の間であるNi:(W+Ta)の原子比率を有する、請求項16に記載のエレクトロクロミックデバイス積層体。
【請求項20】
前記陽極着色層が実質的に非晶質である、請求項16から請求項19の何れか一項に記載のエレクトロクロミックデバイス積層体。
【請求項21】
前記陽極着色層が、非晶質基質全体に散乱される第2の材料の領域を有する第1の材料の前記非晶質基質を備える、請求項16から請求項20の何れか一項に記載のエレクトロクロミックデバイス積層体。
【請求項22】
前記陰極着色層が前記陽極着色層と直接的に物理的に接触する、請求項16から請求項21の何れか一項に記載のエレクトロクロミックデバイス積層体。
【請求項23】
前記2つ以上の副層が、異なる形態を有する、請求項16から請求項22の何れか一項に記載のエレクトロクロミックデバイス積層体。
【請求項24】
前記陰極着色材料が酸化タングステン(WO
x)を備える、請求項16から請求項23の何れか一項に記載のエレクトロクロミックデバイス積層体。
【請求項25】
xは3.0未満である、請求項24に記載のエレクトロクロミックデバイス積層体。
【請求項26】
xは少なくとも約2.7である、請求項25に記載のエレクトロクロミックデバイス積層体。
【請求項27】
前記陰極着色層が二重層または傾斜層を備え、前記陰極着色層の一部分が酸素に対して超化学量論的である、請求項16から請求項26の何れか一項に記載のエレクトロクロミックデバイス積層体。
【請求項28】
エレクトロクロミックデバイス積層体を製造するための統合成膜システムであって、
順番に位置合わせされ、相互接続され、外部環境に基板を曝露することなくあるステーションから次のステーションに前記基板を通すよう作動する複数の成膜ステーションであって、前記複数の成膜ステーションが、
(i)陰極着色層を成膜するための1つまたは複数の物質源を含む第1の成膜ステーションと、
(ii)
異なる組成を有する2つ以上の副層を備える陽極着色層を成膜するための1つまたは複数の物質源を含む第2の成膜ステーションであって、
前記2つ以上の副層のうちの第1副層は二元金属酸化物を含み、第2副層は酸化ニッケルタングステンタンタルを含み、前記酸化ニッケルタングステンタンタルはNi:(W+Ta)の原子比率が1.8:1と3:1の間であり、W:Taの原子比率が1:1と2:1の間である、第2の成膜ステーションと、
を備える、前記複数の成膜ステーションと、
少なくとも前記陰極着色層及び前記陽極着色層を備える積層体を形成するために、前記基板に(i)前記陰極着色層、及び(ii)前記陽極着色層の2つ以上の副層を成膜するように、前記複数の成膜ステーションに前記基板を通すためのプログラム命令を含むコントローラと、
を備
える統合成膜システム。
【請求項29】
前記酸化ニッケルタングステンタンタルが、約1.8:1と2.5:1の間のNi:(W+Ta)の原子比率を有する、請求項28に記載の統合成膜システム。
【請求項30】
前記酸化ニッケルタングステンタンタルが、約2:1と2.5:1の間のNi:(W+Ta)の原子比率を有する、請求項29に記載の統合成膜システム。
【請求項31】
前記酸化ニッケルタングステンタンタルが、約2:1と3:1の間のNi:(W+Ta)の原子比率を有する、請求項28に記載の統合成膜システム。
【請求項32】
前記陽極着色層を成膜するための前記1つまたは複数の物質源の内の少なくとも1つが、ニッケル、タングステン、及びタンタルから成るグループから選択される元素金属を備える、請求項28から請求項31の何れか一項に記載の統合成膜システム。
【請求項33】
前記陽極着色層を成膜するための前記1つまたは複数の物質源の内の少なくとも1つが、ニッケル、タングステン、及びタンタルから成るグループから選択される2つ以上の金属を備える合金を備える、請求項28から請求項32の何れか一項に記載の統合成膜システム。
【請求項34】
前記陽極着色層を成膜するための前記1つまたは複数の物質源の内の少なくとも1つが酸化物を備える、請求項28から請求項33の何れか一項に記載の統合成膜システム。
【請求項35】
前記統合成膜システムが、実質的に非晶質な物質として前記陽極着色層を成膜するように構成される、請求項28から請求項34の何れか一項に記載の統合成膜システム。
【請求項36】
前記統合成膜システムが、互いと直接的に物理的に接触するように前記陰極着色層及び前記陽極着色層を成膜するように構成される、請求項28から請求項35の何れか一項に記載の統合成膜システム。
【請求項37】
前記コントローラが、異なる形態を有する2つ以上の副層として前記陽極着色層を成膜するためのプログラム命令を含む、請求項28から請求項36の何れか一項に記載の統合成膜システム。
【請求項38】
前記陰極着色層が酸化タングステン(WO
x)を備える、請求項28から請求項37の何れか一項に記載の統合成膜システム。
【請求項39】
xが3.0未満である、請求項38に記載の統合成膜システム。
【請求項40】
xが少なくとも約2.7である、請求項39に記載の統合成膜システム。
【請求項41】
前記陰極着色層が二重層または傾斜層を備え、前記陰極着色層の一部分が酸素に対して超化学量論的である、請求項28に記載の統合成膜システム。
【請求項42】
エレクトロクロミック積層体に含まれる陽極着色層であって、
2つ以上の副
層を備え、
前記2つ以上の副層のうちの第1副層は二元金属酸化物を含み、第2副層は、
(a)ニッケルと、
(b)タングステンと、
(c)タンタルと、
(d)酸素と、
を約1.8:1と3:1の間であるNi:(W+Ta)の原子比率および、約1:1と2:1の間であるW:Taの原子比率
で含む、陽極着色層。
【請求項43】
前記
第2副層は、Ni:(W+Ta)の前記原子比率が約1.8:1と2.5:1の間である、請求項42に記載の
陽極着色層。
【請求項44】
前記
第2副層は、Ni:(W+Ta)の前記原子比率が約2:1と2.5:1の間である、請求項43に記載の
陽極着色層。
【請求項45】
前記
第2副層は、Ni:(W+Ta)の前記原子比率が約2:1と3:1の間である、請求項42に記載の
陽極着色層。
【請求項46】
約50~650nmの間の厚さを有する前記2つ以上の副層で提供される、請求項42から請求項45の何れか一項に記載の
陽極着色層。
【請求項47】
前記2つ以上の副層のうちの少なくとも1つが1つまたは複数のスパッタターゲットをスパッタすることにより形成される、請求項42から請求項46の何れか一項に記載の
陽極着色層。
【請求項48】
前記2つ以上の
複層が着色特性を有する、請求項42から請求項47の何れか一項に記載の
陽極着色層。
【請求項49】
前記2つ以上の副層のうちの少なくとも1つが非晶質であ
る、請求項42から請求項48の何れか一項に記載の
陽極着色層。
【請求項50】
前記2つ以上の副層のうちの少なくとも1つが、ナノ結晶が全体に分布する非晶質基質として提供され、前記ナノ結晶の平均直径は、約50nm以下である、請求項42から請求項49の何れか一項に記載の
陽極着色層。
【請求項51】
前記ナノ結晶が約50nm未満の平均直径を有する、請求項50に記載の
陽極着色層。
【請求項52】
前記ナノ結晶が約1~10nmの間の平均直径を有する、請求項51に記載の
陽極着色層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本願は、それぞれがその全体として及びすべての目的のために参照により本明細書に援用される、2014年11月26日に出願され、「COUNTER ELECTRODE FOR ELECTROCHROMIC DEVICES」と題する米国仮出願第62/085,096号、及び2015年7月14日に出願され、「COUNTER ELECTRODE FOR ELECTROCHROMIC DEVICES」と題する米国仮出願第62/192,443号に対する優先権の利益を主張する。
【0002】
エレクトロクロミズムは、材料が、通常電圧の変化にさらされることによって、異なる電子状態に置かれるときに光学特性の電気化学的に媒介された可逆変化を示す現象である。光学特性は、通常、色、透過率、吸光度、及び反射率の1つまたは複数である。1つの周知のエレクトロクロミック材料は、例えば酸化タングステン(WO3)である。酸化タングステンは、透明から青への着色転移が電気化学的還元により発生する陰極エレクトロクロミック材料である。また、例えば酸化ニッケル(NiO)等の陽極エレクトロクロミック材料も既知である。
【背景技術】
【0003】
エレクトロクロミック材料は、例えば窓及び鏡の中に組み込まれてよい。係る窓及び鏡の色、透過率、吸光度、及び/または反射率は、エレクトロクロミック材料で変化を起こさせることによって変更され得る。エレクトロクロミック材料の1つの周知の応用は、建物用のエレクトロクロミック窓である。
【0004】
エレクトロクロミズムは1960年代に発見されたが、エレクトロクロミックデバイスは、歴史的に、技術がその最大限の商業的可能性を実現するのを妨げてきた、多様な問題に悩まされてきた。例えば、エレクトロクロミック窓は酸化タングステン及び/または酸化ニッケルの材料を使用してよいが、改善の大きな余地がある。改善できる特定の分野は、経時的な材料安定性、切替え速度、及び光学特性を含み、例えば、着色状態は多くの場合青すぎ、透明な状態は多くの場合黄色すぎる。
【発明の概要】
【0005】
本明細書の実施形態は、エレクトロクロミック材料、エレクトロクロミック積層体、エレクトロクロミックデバイス、ならびに係る材料、積層体、及びデバイスを作るための方法及び装置に関する。多様な実施形態では、対電極材料は、ニッケル、タングステン、タンタル、及び酸素を含む物質の新規の組成物を含む。
【0006】
開示されている実施形態の一態様では、エレクトロクロミック積層体を製造する方法が提供され、方法は、陰極着色するエレクトロクロミック材料を含む陰極着色層を形成すること、及びニッケルタングステンタンタル酸化物(NiWTaO)を含む陽極着色層を形成することを含む。NiWTaO材料は特定の組成を有することがある。例えば、一部の場合では、NiWTaOは、約1.5:1と3:1の間、または約1.5:1と2.5:1の間、または約1.8:1と2.5:1の間、または約2:1と2.5:1の間、または約2:1と3:1の間であるNi:(W+Ta)の原子比率を有する。これらの場合または他の場合では、NiWTaOは、約0.1:1と6:1の間、または約0.2:1と5:1の間、または約0.2:1と1:1の間、または約1:1と2:1の間であるW:Taの原子比率を有してよい。
【0007】
陽極着色層は、NiWTaOを形成するために1つまたは複数のスパッタターゲットをスパッタすることによって形成されてよい。スパッタターゲットの1つまたは複数の内の少なくとも1つは、ニッケル、タングステン、及びタンタルから成るグループから選択された元素金属を含んでよい。一部の場合では、スパッタターゲットの1つまたは複数の内の少なくとも1つは、ニッケル、タングステン、及びタンタルから成るグループから選択される2つ以上の金属を含む合金を含んでよい。1つまたは複数のスパッタターゲットの少なくとも1つは、一部の場合では酸化物を含んでよい。多様な実施形態では、陽極着色層は実質的に非晶質であってよい。
【0008】
陰極着色層及び陽極着色層は、陰極着色層と陽極着色層との間に別個に成膜されたイオン伝導体層なしに、互いと直接的に物理的に接触して形成されてよい。一部の実施態様では、陽極着色層は、異なる組成及び/または形態を有する2つ以上の副層を含む。特定の実施形態では、陰極着色するエレクトロクロミック材料は酸化タングステン(WOx)を含む。一部の係る場合では、xは3.0未満であってよい。これらの場合または他の場合では、xは少なくとも約2.7であってよい。多様な実施態様では、陰極着色層は二重層または傾斜層を含んでよく、陰極着色層の一部分は酸素に対して超化学量論的であってよい。
【0009】
開示されている実施形態の別の態様では、エレクトロクロミック積層体が提供され、エレクトロクロミック積層体は、陰極着色する材料を含む陰極着色層、及びニッケルタングステンタンタル酸化物(NiWTaO)を含む陽極着色層を含む。
【0010】
NiWTaOは、一部の場合では特定の組成を有してよい。例えば、NiWTaOは、約1.5:1と3:1の間、または約1.5:1と2.5:1の間、または約1.8:1と2.5:1の間、または約2:1と2.5:1の間、または約2:1と3:1の間であるNi:(W+Ta)の原子比率を有してよい。これらの場合または他の場合では、NiWTaOは、約0.1:1と6:1の間、約0.2:1と5:1の間、または約0.2:1と1:1の間、または約1:1と2:1の間であるW:Taの原子比率を有してよい。陽極着色層は実質的に非晶質であってよい。一部の場合、陽極着色層は、非晶質基質全体に散乱される第2の材料の領域を有する第1の材料の非晶質基質を含んでよい。
【0011】
陰極着色層は、一部の場合、陽極着色層と直接的に物理的に接触してよい。いくつかの実施形態では、陽極着色層は、異なる組成及び/または形態を有する2つ以上の副層を含んでよい。特定の実施形態では、陰極着色する材料は酸化タングステン(WOx)を含む。一部の係る場合では、xは3.0未満であってよい。これらの場合または他の場合では、xは少なくとも約2.7であってよい。多様な実施態様では、陰極着色層は二重層または傾斜層を含んでよく、陰極着色層の一部分は酸素に対して超化学量論的であってよい。
【0012】
開示されている実施形態の追加の態様では、エレクトロクロミック積層体を製造するための統合成膜システムが提供され、システムは、順番に位置合わせされ、相互接続され、外部環境に基板を曝露することなく、あるステーションから次のステーションに基板を渡すよう作動する複数の成膜ステーションであって、(i)陰極着色層を成膜するための1つまたは複数の物質源を含む第1の成膜ステーション、(ii)ニッケルタングステンタンタル酸化物(NiWTaO)を含む陽極着色層を成膜するための1つまたは複数の物質源を含む第2の成膜ステーションを含む、複数の成膜ステーションと、少なくとも陰極着色層及び陽極着色層を含む積層体を形成するために、基板上に(i)陰極着色層、及び(ii)陽極着色層を成膜するように、複数のステーションに基板を通すためのプログラム命令を含んだコントローラと、を含む。
【0013】
NiWTaOは、一部の場合では特定の組成を含むように成膜されてよい。例えば、NiWTaOは、約1.5:1と3:1の間、または約1.5:1と2.5:1の間、または約1.8:1と2.5:1の間、または約2:1と2.5:1の間、または約2:1と3:1の間であるNi:(W+Ta)の原子比率を有してよい。これらの場合または他の場合では、NiWTaOは、約0.1:1と6:1の間、または約0.2:1と5:1の間、または約0.2:1と1:1の間、または約1:1と2:1の間であるW:Taの原子比率を有してよい。
【0014】
特定の実施態様では、陽極着色層を成膜するための1つまたは複数の物質源の内の少なくとも1つは、ニッケル、タングステン、及びタンタルから成るグループから選択される元素金属を含んでよい。これらの実施態様または他の実施態様では、陽極着色層を成膜するための1つまたは複数の物質源の内の少なくとも1つは、ニッケル、タングステン、及びタンタルから成るグループから選択される2つ以上の金属を含む合金を含む。一部の実施形態では、陽極着色層を成膜するための1つまたは複数の物質源の内の少なくとも1つは酸化物を含んでよい。陽極着色層は、一部の場合では特定の形態を含むように成膜されてよい。例えば、成膜システムは、陽極着色層を実質的に非晶質な材料として成膜するように構成されてよい。
【0015】
これらの場合または他の場合では、統合成膜システムは、陰極着色層及び陽極着色層を互いと直接的に物理的に接触して成膜するように構成されてよい。さらに、陽極着色層は特定の構造を含むように成膜されてよい。一部の実施形態では、例えば、コントローラは陽極着色層を、異なる組成及び/または形態を有する2つ以上の副層として成膜するためのプログラム命令を含んでよい。陽極着色層の副層はすべて第2の成膜ステーションで成膜されてよいが、一部の場合では、陽極着色層の1つまたは複数の副層は第3の成膜ステーションで成膜されてよい。特定の実施形態では、陰極着色層は酸化タングステン(WOx)を含む。一部の係る場合では、xは3.0未満であってよい。これらの場合または他の場合では、xは少なくとも約2.7であってよい。多様な実施態様では、陰極着色層は二重層または傾斜層を含んでよく、陰極着色層の一部分は酸素に対して超化学量論的であってよい。
【0016】
開示されている実施形態の追加の態様では、(a)ニッケル、(b)タングステン、(c)タンタル、及び(d)酸素、を含む物質の組成物が提供され、組成物は約1.5:1と3:1の間であるNi:(W+Ta)の原子比率、及び約0.1:1と6:1の間であるW:Taの原子比率を含む。
【0017】
特定の実施形態では、Ni:(W+Ta)の原子比率は、約1.5:1と3:1の間、または約1.5:1と2.5:1の間、または約1.8:1と2.5:1の間、または約2:1と2.5:1の間、または約2:1と3:1の間であってよい。これらの実施形態または他の実施形態では、W:Taの原子比率は約0.1:1と6:1の間、または約0.2:1と5:1の間、または約0.2:1と1:1の間、または約1:1と2:1の間であってよい。組成物は、約50~650nmの間の厚さを有する層で提供されてよい。組成物は1つまたは複数のスパッタターゲットをスパッタすることによって形成されてよい。多様な実施形態では、組成物は、印加される陽極電位に応じて着色される。
【0018】
一部の実施態様では、組成物は非晶質である。一部の場合では、組成物は、ナノ結晶が全体に分布する非晶質基質として提供される。ナノ結晶は約50nm以下の平均直径、一部の場合には、約1~10nmの間の平均直径を有することがある。
【0019】
開示されている実施形態のこれらの及び他の特徴及び優位点は、関連付けられた図面を参照し、以下にさらに詳細に説明される。
【0020】
以下の発明を実施するための形態は、図面と併せて検討されるときにより完全に理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】特定の実施形態に係るエレクトロクロミックデバイスの概略断面図である。
【
図1B】特定の実施形態に係るエレクトロクロミックデバイスの概略断面図である。
【
図1C】特定の実施形態に係るエレクトロクロミックデバイスの概略断面図である。
【
図1D】特定の実施形態に係る不均一対電極層の組成を説明するグラフである。
【
図1E】特定の実施形態に係る不均一対電極層の組成を説明するグラフである。
【
図1F】特定の実施形態に係る不均一対電極層の組成を説明するグラフである。
【
図1G】特定の実施形態に係る不均一対電極層の組成を説明するグラフである。
【
図2】
図4Aに関して提供される多段階プロセスの説明に関するエレクトロクロミック窓装置の断面図である。
【
図3】デバイスの中に切込まれたトレンチの場所を示すエレクトロクロミックデバイスの平面図である。
【
図4A】エレクトロクロミック窓を製造する方法を説明するプロセスフローを示す図である。
【
図4B】特定の実施形態に係るエレクトロクロミックデバイスの一部であるエレクトロクロミック積層体を製造する方法を示す図である。
【
図4C】特定の実施形態に係るエレクトロクロミックデバイスの一部であるエレクトロクロミック積層体を製造する方法を示す図である。
【
図4D】特定の実施形態に係るエレクトロクロミックデバイスの一部であるエレクトロクロミック積層体を製造する方法を示す図である。
【
図4E】特定の実施形態に従ってエレクトロクロミックデバイスを製造するために使用される調整プロセスのためのプロセスフローを示す図である。
【
図5A】特定の実施形態に係る統合成膜システムを示す図である。
【
図5B】統合成膜システムを斜視図で示す図である。
【
図5C】モジュール方式の統合成膜システムを示す図である。
【
図5D】2つのリチウム成膜ステーションを有する統合成膜システムを示す図である。
【
図5E】1つのリチウム成膜ステーションを有する統合成膜システムを示す図である。
【
図6A】特定の実施形態に係る回転スパッタターゲットを示す図である。
【
図6B】特定の実施形態に係る基板上に材料を成膜する2つの回転スパッタターゲットの上から見下ろす図である。
【
図7A】二次スパッタターゲットが、一次スパッタターゲットの上に材料を成膜するために使用され、該一次スパッタターゲットが次いで特定の実施形態に従って基板上に成膜する実施形態に関する図である。
【
図7B】二次スパッタターゲットが、一次スパッタターゲットの上に材料を成膜するために使用され、該一次スパッタターゲットが次いで特定の実施形態に従って基板上に成膜する実施形態に関する図である。
【
図7C】二次スパッタターゲットが、一次スパッタターゲットの上に材料を成膜するために使用され、該一次スパッタターゲットが次いで特定の実施形態に従って基板上に成膜する実施形態に関する図である。
【
図8】多様な光学的に切り替え可能な材料を成膜するためのヒステリシス曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
一部の実施形態に係るエレクトロクロミックデバイス100の概略断面図が
図1Aに示される。エレクトロクロミックデバイスは、基板102、導電層(CL)104、(陰極着色層とも呼ばれることがある)エレクトロクロミック層(EC)106、イオン伝導性層(IC)108、(陽極着色層とも呼ばれることがある)対電極層(CE)110、及び導電層(CL)114を含む。要素104、106、108、110、及び114は、集合的にエレクトロクロミック積層体120と呼ばれる。特定の実施態様では、以下に
図1B~
図1Gに関して説明されるように、不均一な対電極が使用されてよい。
【0023】
エレクトロクロミック積層体120全体で電位を印加するよう作動する電源116は、例えば消色状態から着色状態へエレクトロクロミックデバイスの移行を達成する。他の実施形態では、層の順序は基板に対して逆転する。すなわち、層は以下の順序、つまり、基板、導電層、対電極層、イオン伝導性層、エレクトロクロミック材料層、導電層になる。
【0024】
消色状態と着色状態の間の移行に対する参照は非制限的であり、多くの中でも、実装されてよいエレクトロクロミック移行のただ1つの例だけを示唆することを理解されたい。本明細書に特別の定めのない限り、消色‐着色の移行に対する参照がなされるたびに、対応するデバイスまたはプロセスは、非反射‐反射、透明‐不透明等の他の光学状態の移行を包含する。さらに、用語「消色」及び「色褪せた」は、例えば着色されていない、透明な、または半透明な等の光学的に中性の状態を指す。なお、さらに、本明細書に特別の定めのない限り、エレクトロクロミック移行の「色」または「色合い」は任意の特定の波長または波長の範囲に制限されない。当業者により理解されるように、適切なエレクトロクロミック材料及び対電極材料の選択が関連する光学遷移を決定する。本明細書の態様な実施形態では、対電極は、ニッケルタングステンタンタル酸化物、つまりNiWTaOと呼ばれることがあるニッケル、タングステン、タンタル、及び酸素を含むように製造される。個々の元素は変化するレベル/濃度で存在してよい。特定の実施形態では、例えばNiWTaO対電極は、本明細書に開示される多様な組成の範囲に入る組成物を有してよい。
【0025】
特定の実施形態では、エレクトロクロミックデバイスは消色状態と着色状態との間で可逆的に循環する。消色状態では、電位は、積層体内の使用可能なイオンがエレクトロクロミック材料106を着色状態にさせ、主として対電極110に存在することができるようにエレクトロクロミック積層体120に印加される。エレクトロクロミック積層体上の電位が逆転すると、イオンは導電層108を横切ってエレクトロクロミック材料106に移送され、該材料を着色状態にする。
【0026】
特定の実施形態では、エレクトロクロミック積層体120を構成する材料のすべては無機、固体(つまり固体状態にある)、または無機と固体の両方である。有機材料は経時的に劣化する傾向があるため、無機材料は長期間機能できる信頼できるエレクトロクロミック積層体の優位点を提供する。また、固体状態の材料は、液体状態の材料が多くの場合有するように、封じ込め及び漏れの問題を有さないという優位点を提供する。エレクトロクロミックデバイスの層のそれぞれは以下に詳細に説明される。積層体の層の任意の1つまたは複数はある程度の量の有機材料を含んでよいが、多くの実施態様では、層の1つまたは複数は有機物をほとんど含まない、もしくは含まないことを理解されたい。同じことは、少量で1つまたは複数の層内に存在することがある液体についても言うことができる。固体状態材料が、ゾルゲルまたは化学気相成長を利用する特定のプロセス等の、液体成分を利用するプロセスによって成膜されて得る、または別様に形成され得ることも理解されたい。
【0027】
再び
図1Aを参照すると、電源116は通常低圧電源であり、輻射センサ及び他の環境センサと連動して動作するように構成されてよい。また、電源116は、時節、時刻、及び測定された環境条件等の多様な要因に従ってエレクトロクロミックデバイスを制御するコンピュータシステム等のエネルギー制御システムとインタフェースをとるように構成されてもよい。係るエネルギー制御システムは、大面積エレクトロクロミックデバイス(つまり、エレクトロクロミック窓)と連動して、建物のエネルギー消費を劇的に低下させることができる。
【0028】
適切な光学特性、電気特性、熱的特性、及び機械特性を有する任意の材料は、基板102として使用されてよい。係る適切な基板は、例えばガラス材料、プラスチック材料、及び鏡材料を含む。適切なプラスチック基板は、例えば、アクリル、ポリスチレン、ポリカーボネート、アリルジグリコールカーボネート、SAN(スチレンアクリロニトリル共重合体)、ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)、ポリエステル、ポリアミド等を含む。プラスチック基板が使用される場合、プラスチック基板は、好ましくは、プラスチック窓ガラス技術で周知であるように、例えばダイヤモンド状の防護コーティング、シリカ/シリコーン抗摩耗コーティング等のハードコートを使用し、障壁保護され、摩耗保護される。適切なガラスは、透明または薄く彩色されたソーダ石灰ガラスのどちらかを含み、これは、ソーダ石灰フロートガラスを含む。ガラスは焼き戻しが施されていてもいなくてもよい。例えば基板102として使用されるソーダ石灰ガラス等のガラスを有するエレクトロクロミックデバイス100の一部の実施形態では、ナトリウムイオンのガラスから導電層104の中への拡散を防ぐために基板102と導電層104との間にナトリウム拡散障壁層(不図示)がある。
【0029】
一部の実施形態では、基板102の光透過率(つまり、透過放射線またはスペクトル対入射放射線またはスペクトルの比率)は、約40~95%、例えば約90~92%である。基板はエレクトロクロミック積層体120を支持するために適切な機械特性を有する限り、基板は任意の厚さであってよい。基板102は任意のサイズであってよいが、一部の実施形態では、基板102は厚さ約0.01mmから10mmであり、厚さ約3mmから9mmであることが好ましい。
【0030】
一部の実施形態では、基板は建築用ガラスである。建築用ガラスは建築材料として使用されるガラスである。建築用ガラスは、通常商業ビルで使用されるが、住宅用建物で使用されてもよく、必ずしも必要ではないが、通常、屋外環境から屋内環境を分離する。特定の実施形態では、建築用ガラスは少なくとも20インチ×20インチであり、はるかに大きく、例えば約72インチ×120インチほど大きいこともある。建築用ガラスは通常約少なくとも2mmの厚さである。厚さ約3.2mm未満である建築用ガラスは焼き戻しを施すことができない。基板として建築用ガラスを有する一部の実施形態では、基板は、エレクトロクロミック積層体が基板に製造された後にも焼き戻しされ得る。基板として建築用ガラスを有する一部の実施形態では、基板はスズフロートラインからのソーダ石灰ガラスである。
【0031】
基板102の上部には導電層104がある。特定の実施形態では、導電層104及び114の一方または両方は無機及び/または固体である。導電層104及び114は、導電性酸化物、薄い金属被膜、導電性金属窒化物、及び組合せ導体を含むいくつかの異なる材料から作られてよい。通常、導電層104及び114は少なくとも、エレクトロクロミズムがエレクトロクロミック層によって示される波長の範囲で透明である。透明な導電性酸化物は、金属酸化物及び1つまたは複数の金属でドープされた金属酸化物を含む。係る金属酸化物及びドープ金属酸化物の例は、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、ドープ酸化インジウム、酸化スズ、ドープ酸化スズ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム亜鉛、ドープ酸化亜鉛、酸化ルテニウム、ドープ酸化ルテニウム等を含む。
【0032】
酸化物は多くの場合これらの層に使用されるので、酸化物は「透明導電性酸化物(TCO)」層と呼ばれることがある。実質的に透明である薄い金属被膜も使用されてよい。係る薄い金属被膜に使用される金属の例は、金、白金、銀、アルミニウム、ニッケル合金等を含む遷移金属を含む。ガラス細工業界で周知の銀をベースにした金属被膜も使用される。導電性窒化物の例は、窒化チタン、窒化タンタル、酸窒化チタン、及び酸窒化タンタルを含む。導電層104及び114は複合導体であってもよい。係る複合導体は、基板の面の1つの上にきわめて導電性の高いセラミックワイヤ及び金属線または導電層パターンを設置し、次いでドープ酸化スズまたは酸化インジウムスズ等の透明な導電材料で上塗りすることによって製造されてよい。理想的には、係るワイヤは裸眼では見えないほど十分に薄い必要がある(例えば、約100μm以下)。
【0033】
一部の実施形態では、ガラス基板等の市販されている基板は透明な導電層コーティングを含む。係る製品は基板102と導電層104の両方に使用されてよい。係るガラスの例は、オハイオ、トレドのPilkington社によるTEC Glass、並びにペンシルバニア、ピッツバーグのPPG Industries社によるSUNGATE(登録商標)300及びSUNGATE(登録商標)500の商標で販売されている導電層被覆ガラスを含む。TEC Glassはフッ素化された酸化スズの導電層で被覆されたガラスである。他の実施形態では、基板は、例えばGorilla Glass、Willow Glass、Eagle Glass等の、例えばニューヨーク、コーニングのCorning, Inc.社によって製造される薄いガラス等の焼きなましガラスであってよい。
【0034】
一部の実施形態では、両方の導電層(つまり、導電層104及び114)に同じ導電層が使用される。一部の実施形態では、導電層104及び114のそれぞれに異なる導電材料が使用される。例えば、一部の実施形態では、TEC Glassは基板102(フロートガラス)及び導電層104(フッ素化された酸化スズ)に使用され、酸化インジウムスズは導電層114に使用される。上述したように、TEC Glassを利用する一部の実施形態では、ガラス基板102とTEC導電層104との間にナトリウム拡散障壁がある。一部のガラスは低ナトリウムであり、ナトリウム拡散障壁を必要としない。
【0035】
導電層の機能は、電源116によって提供される電位を、エレクトロクロミック積層体120の表面上で積層体の内部領域にほとんどオーム電位を降下させることなく拡散させることである。電位は導電層への電気的接続を介して導電層に伝達される。一部の実施形態では、バスバー、つまり導電層104に接触しているバスバー及び導電層114に接触しているバスバーは、電源116と導電層104と114との間に電気的接続を提供する。また、導電層104及び114は他の従来の手段を用いて電源116に接続してもよい。
【0036】
一部の実施形態では、導電層104及び114の厚さは約5nmと約10,000nmとの間である。一部の実施形態では、導電層104と114の厚さは約10nmと約1,000nmの間である。他の実施形態では、導電層104及び114の厚さは約10nmと約500nmの間である。
【0037】
また、各導電層104及び114の厚さは実質的に均一である。エレクトロクロミック積層体120の他の層を設けやすいように、導電層104は、平滑な層(つまり低粗度、Ra)が望ましい。また層が広がる相対的に大きな面積のため、導電層のシート抵抗(Rs)も重要である。一部の実施形態では、導電層104及び114のシート抵抗は、約1~30オーム/平方である。一部の実施形態では、導電層104及び114のシート抵抗は、約15オーム/平方である。一般に、2つの導電層のそれぞれのシート抵抗がほぼ同じであることが望ましい。一実施形態では、2つの層はそれぞれ約10~15オーム/平方のシート抵抗を有する。特定の実施形態では、導電層はそれら自体、例えば、ITO/Ag/ITO等の、例えば透明導電性酸化物/金属/透明導電性酸化物の積層体、及び当業者に既知の類似する透明導電層等の積層体構造であってよい。係る層では、例えば金属内層は、通常例えば、厚さ約0.5nmと約20nmの間、または厚さ約1nmと約10nmの間、または厚さ約1nmと約5nmの間等、透明になるほど十分に薄い。例えば、銀等の金属中間層その可撓性及び/または延性を高めるために他の金属がドープされてよく、例えば、銀中間層はビスマス、ベリリウム、及び/または他の金属がドープされてよい。係るドーパントは、例えば約1%と約20%の間、例えば約1%と約10%の間、例えば約1%と約5%の間等、例えば金属中間層の約1重量%~25重量%の間であってよい。
【0038】
導電層104の上に積層されているのは、(エレクトロクロミック層106とも呼ばれる)陰極着色層106である。特定の実施形態では、エレクトロクロミック層106は無機及び/または固体であり、典型的な実施形態では、無機かつ固体である。エレクトロクロミック層は、金属酸化物を含むいくつかの異なる陰極着色エレクトロクロミック材料の任意の1つまたは複数を含んでよい。係る金属酸化物は、例えば酸化タングステン(WO3)、酸化モリブデン(MoO3)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化チタン(TiO2)、酸化バナジウム(V2O5)、及び酸化タンタル(Ta2O5)を含む。一部の実施形態では、陰極着色金属酸化物は、リチウム、ナトリウム、カリウム、モリブデン、バナジウム、チタン、及び/または他の適切な金属もしくは金属を含有する化合物等の1つまたは複数のドーパントでドープされる。バルク材が陰極着色している限り、係るドーパントは、陰極着色、陽極着色、または非エレクトロクロミックであることがある。例えば、混合酸化物(例えば、W‐Mo酸化物、W‐V酸化物)も特定の実施形態で使用される。金属酸化物を含むエレクトロクロミック層106は対電極層110から伝達されるイオンを受け取ることができる。
【0039】
一部の実施形態では、酸化タングステンまたはドープ酸化タングステンはエレクトロクロミック層106に使用される。一実施形態では、エレクトロクロミック層は実質的にWOxから作られ、「x」はエレクトロクロミック層の酸素対タングステンの原子比率を指し、xは約2.7と3.5の間である。準化学量論的酸化タングステンだけがエレクトロクロミズムを示す、つまり化学量論的酸化タングステンWO3はエレクトロクロミズムを示さないことが示唆されている。より具体的な実施形態では、xが3.0未満及び少なくとも約2.7であるWOxがエレクトロクロミック層に使用される。別の実施形態では、エレクトロクロミック層はWOxであり、xは約2.7と約2.9の間である。ラザフォード後方散乱分光法(RBS)等の技術は、タングステンに結合される酸素原子及びタングステンに結合されない酸素原子の総数を特定できる。いくつかの事例において、xが3以上である酸化タングステン層は、おそらく準化学量論的酸化タングステンととともに、結合していない過剰な酸素のため、エレクトロクロミズムを示す。別の実施形態では、酸化タングステン層は化学量論的以上の酸素を有し、xは3.0~約3.5である。
【0040】
特定の実施形態では、酸化タングステンは、結晶質、ナノ結晶、または非晶質である。一部の実施形態では、酸化タングステンは実質的にナノ結晶であり、透過電子顕微鏡法(TEM)によって特徴付けられるように、粒径は平均で約5nm~50nm(または約5nm~20nm)である。また、酸化タングステンの形態は、X線回折(XRD)を使用し、ナノ結晶として特徴付けられてもよい。例えば、ナノ結晶エレクトロクロミック酸化タングステンは、以下のXRD特徴、つまり約10~100nm(例えば約55nm)の結晶サイズによって特徴付けられてよい。さらに、ナノ結晶酸化タングステンは、例えばおよそ数個(約5~20)の酸化タングステン単位格子等、制限された長距離秩序を示し得る。
【0041】
エレクトロクロミック層106の厚さは、エレクトロクロミック層に選択される陰極着色材料に依存する。一部の実施形態では、エレクトロクロミック層106は、厚さ約50nm~2,000nm、または約200nm~700nmである。一部の実施形態では、エレクトロクロミック層は約300nm~約500nmである。また、エレクトロクロミック層106の厚さは実質的に均一でもある。一実施形態では、実質的に均一なエレクトロクロミック層は上述の厚さ範囲のそれぞれで約±10%変わるにすぎない。別の実施形態では、実質的に均一なエレクトロクロミック層は、上述の厚さ範囲のそれぞれで約±5%変わるにすぎない。別の実施形態では、実質的に均一なエレクトロクロミック層は上述の厚さ範囲のそれぞれで約±3%変わるにすぎない。
【0042】
概して、陰極着色するエレクトロクロミック材料では、エレクトロクロミック材料のカラー化/着色(つまり任意の光学特性、例えば、吸光度、反射率、及び透過率の変化)は、材料の中への可逆的にイオンが入り込むこと(例えば、インターカレーション)、及び電荷平衡化(charge balancing)電子の対応する注入により引き起こされる。通常、光学遷移の原因となる若干のイオンがエレクトロクロミック材料に不可逆的に結合される。以下に説明されるように、不可逆的に結合されたイオンの一部またはすべては材料の「隠れ電荷(blind charge)」を補償するために使用される。大部分のエレクトロクロミック材料において、好適なイオンとしてはリチウムイオン(Li+)及び水素イオン(H+)(すなわち、陽子)を含む。しかし、一部の場合では、他のイオンが適切となる。そのようなイオンは、例えば重水素イオン(D+)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca++)、バリウムイオン(Ba++)、ストロンチウムイオン(Sr++)、及びマグネシウムイオン(Mg++)を含む。本明細書に説明される多様な実施形態では、エレクトロクロミック現象を生じさせるために、リチウムイオンが使用される。リチウムイオンの酸化タングステンへのインターカレーション(WO3-y(0<y≦約0.3))は、酸化タングステンを透明(消色状態)から青(着色状態)に変化させる。
【0043】
再び
図1Aを参照すると、エレクトロクロミック積層体120で、イオン伝導性層108がエレクトロクロミック層106を積層する。イオン伝導性層108の上に(対電極層110とも呼ばれる)陽極着色層110がある。特定の実施形態では、このイオン伝導性層108は省略され、陰極着色エレクトロクロミック層106は陽極着色する対電極層110と直接的に物理的に接触する。一部の実施形態では、対電極層110は無機及び/または固体である。対電極層は、エレクトロクロミックデバイスが消色状態にあるときにイオン溜としての機能を果たすことができるいくつかの異なる材料の1つまたは複数を含んでよい。この点で、陽極着色する対電極層は一部の状況では「イオン貯蔵層」と呼ばれる。例えば適切な電位の印加によって開始されるエレクトロクロミック移行の間、陽極着色する対電極層は、それが保持するイオンのいくらかまたはすべてを陰極着色するエレクトロクロミック層に移し、エレクトロクロミック層を着色状態に変化させる。同時に、NiWTaOの場合、対電極層はイオンの喪失により着色する。
【0044】
多様な実施形態では、陽極着色する対電極材料は、ニッケル、タングステン、タンタル、及び酸素を含む。材料は任意の適切な組成でNiWTaOとしてともに提供されてよい。NiWTaO材料は特に澄んでいるまたは消色状態で中間的な色であるため、NiWTaO材料は陽極着色する材料として特に有利である。多くの対電極材料は、その澄んだ状態でさえわずかに色づいている(着色している)。例えば、NiOは茶色であり、NiWOは概して澄んだ状態でわずかに黄色い色合いを有する。美観の理由から、エレクトロクロミックデバイスの陰極着色する材料と陽極着色する材料の両方は、デバイスが消色状態にあるとき、非常に澄んでおり(透明であり)、無色である。
【0045】
さらに、いくつかの対電極材料は優れた色品質を示す(つまり、その消色状態で非常に澄んでいる)が、急速に光学遷移を受ける材料の能力が経時的に弱まっていくため、商業的な使用には適さない。言い換えると、これらの材料の場合、光学遷移の持続時間はデバイスの年齢/使用とともに増加する。この場合、新規に製造される窓は、例えば6カ月の間使用されている同一の窓よりもより高い切替え速度を示すだろう。優れた色品質を示すが、経時的に遷移速度を減少させる陽極着色する対電極材料の一例は酸化ニッケルタンタル(NiTaO)である。係る材料でのタングステンの包含は、経時的な切替え速度の減少を著しく削減することが示されている。したがって、NiWTaOは、陽極着色する対電極材料の貴重な候補である。
【0046】
NiWTaOは、陽極着色する材料として使用されるときに多様な組成を有してよい。特定の実施形態では、NiWTaOの多様な成分間で特定のバランスが保たれてよい。例えば、材料中のNi:(W+Ta)の原子比率は、約1.5:1と3:1の間、例えば約1.5:1と2.5:1の間、または約2.1と2.5:1の間に該当してよい。特定の例では、Ni:(W+Ta)の原子比率は約2:1と3:1の間である。Ni:(W+Ta)の原子比率は材料中の(i)ニッケル原子、(ii)材料中のタングステン原子及びタンタル原子の数の合計の比率に関する。
【0047】
また、NiWTaO材料はW:Taの特定の原子比率を有することもある。特定の実施形態では、W:Taの原子比率は、約0.1:1と6:1の間、例えば約0.2:1と5:1の間、または約1:1と3:1の間、または約1.5:1と2.5:1の間、または約1.5:1と2:1の間である。一部の場合では、W:Taの原子比率は約0.2:1と1:1の間、または約1:1と2:1の間、または約2:1と3:1の間、または約3:1と4:1の間、または約4:1と5:1の間である。一部の実施態様では、Ni:(W+Ta)及びW:Taの特定の原子比率が使用される。本明細書では特定の組合せだけが明示的に示されているが、開示されているNi:(W+Ta)組成及び開示されているW:Ta組成のすべての組合せが意図される。例えば、Ni:(W+Ta)の原子比率は約1.5:1と3:1の間であってよく、W:Taの原子比率は約1.5:1と3:1の間である。別の例では、Ni:(W+Ta)の原子比率は約1.5:1と2.5:1の間であってよく、W:Taの原子比率は約1.5:1と2.5:1の間である。追加の例では、Ni:(W+Ta)の原子比率は約2:1と2.5:1の間であってよく、W:Taの原子比率は約1.5:1と2:1の間、または約0.2:1と1:1の間、または約1:1と2:1の間、または約4:1と5:1の間である。
【0048】
対電極の他の例の材料は、酸化ニッケル、酸化ニッケルタングステン、酸化ニッケルバナジウム、酸化ニッケルクロム、酸化ニッケルアルミニウム、酸化ニッケルマンガン、酸化ニッケルマグネシウム、酸化クロム、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ロジウム、酸化イリジウム、酸化マンガン、プルシアンブルーを含むが、これに限定されるものではない。材料(例えば、金属及び酸素)は、所与の用途のために必要に応じて異なる化学量論的比率で提供されてよい。一部の場合では、光学的に受動的な対電極が使用されてよい。特定の場合では、対電極材料はセリウムチタニウムオキシド、酸化セリウムジルコニウム、酸化ニッケル、ニッケル‐タングステン酸化物、酸化バナジウム、及び酸化物の混合物(例えば、NiO及び/またはNi2O3のWO3との混合物)を含んでよい。これらの酸化物のドープされた製剤も、例えばタンタル及びタングステン及び上記に示される他の添加物を含むドーパントと共に使用されてよい。
【0049】
陽極着色する対電極層110は、陰極着色するエレクトロクロミック材料が消色状態にあるときに陰極着色するエレクトロクロミック材料でエレクトロクロミズム現象を生じさせるために使用されるイオンを含むため、陽極着色する対電極が相当量のこれらのイオンを保持するとき、陽極着色する対電極は好ましくは高い透過率及び中間色を有する。
【0050】
電荷が、例えば従来の酸化ニッケルタングステンから作られる陽極着色する対電極110から取り除かれる(つまり、イオンが対電極110からエレクトロクロミック層106に移送される)と、対電極層は(多かれ少なかれ)透明な状態から茶色に着色された状態に変わる。同様に、電荷がNiWTaOから作られる陽極着色する対電極110から取り除かれると、対電極層は透明な状態から茶色に着色された状態に変わる。しかしながら、NiWTaO対電極層の透明な状態は、NiWO対電極層の透明状態よりもより澄んでいて、より薄い色(例えば、特により薄い黄色)を有する。
【0051】
対電極形態は結晶質、非晶質、またはそのなんらかの組合せであってよい。結晶相はナノ結晶であってよい。一部の実施形態では、酸化ニッケルタングステンタンタル(NiWTaO)対電極材料は非晶質または実質的に非晶質である。多様な実質的に非晶質な対電極は、いくつかの条件下で、その結晶質の相対物と比較すると、いくつかの条件下ではよりよく機能することが判明している。対電極酸化物材料の非晶質状態は、以下に説明される特定の処理条件の使用によって入手されてよい。いかなる理論または仕組みに拘束されることを望むものではないが、非晶質のニッケル‐タングステン酸化物またはニッケル‐タングステン‐タンタル酸化物はスパッタリングプロセスで相対的に低いエネルギー原子で作り出されると考えられる。低エネルギー原子は、例えばより低いターゲット出力、より高いチャンバ圧(つまり、より低い真空)、及び/またはより大きいソース対基板距離のスパッタリングプロセスで得られる。また、非晶質膜は、重い原子(例えば、W)の相対的に高い率/濃度がある場合により形を成す可能性が高い。説明されたプロセス条件下では、紫外線照射/熱への曝露の下で、よりよい安定性を有する膜が作り出される。実質的に非晶質な物質は、非晶質基質中に分散される、通常はナノ結晶であるが、必ずしもナノ結晶であるものではない、なんらかの結晶質の物質を有してよい。係る結晶物質の粒径及び量は以下により詳細に説明される。
【0052】
一部の実施形態では、対電極形態は微細結晶相、ナノ結晶相、及び/または非晶相を含んでよい。例えば、対電極は、例えばナノ結晶を全体に分布させる非晶質基質を有する材料であってよい。特定の実施形態では、ナノ結晶は対電極材料の(実施形態に応じて重量でまたは体積で)約50%以下、対電極材料の約40%以下、対電極材料の約30%以下、対電極材料の約20%以下、または対電極材料の約10%以下を構成してよい。特定の実施形態では、ナノ結晶は約50nm未満、一部の場合では約25nm未満、約10nm未満、または約5nm未満の最大直径を有する。一部の場合では、ナノ結晶は、約50nm以下、または約10nm以下、または約5nm以下(例えば約1~10nm)の平均直径を有する。
【0053】
特定の実施形態では、ナノ結晶の少なくとも約50%が平均ナノ結晶直径の1標準偏差以内の直径を有するナノ結晶サイズ分布を有することが望ましく、例えば、ナノ結晶の少なくとも約75%が平均ナノ結晶直径の1標準偏差以内の直径を有する、またはナノ結晶の少なくとも約90%が平均ナノ結晶直径の1標準偏差以内の直径を有する。
【0054】
非晶質基質を含む対電極は、相対的により結晶質である対電極と比較してより効率的に動作する傾向があることが判明している。特定の実施形態では、添加物は、基本の陽極着色する材料の領域が見つけられてよいホストマトリックスを形成してよい。多様な場合では、ホストマトリックスは実質的に非晶質である。特定の実施形態では、対電極の結晶構造だけが、例えば酸化物の形で、基本の陽極着色するエレクトロクロミック材料から形成される。酸化物の形の基本の陽極着色するエレクトロクロミック材料の一例は酸化ニッケルタングステンである。添加物は、実質的に結晶質ではないが、基本の陽極着色するエレクトロクロミック材料の領域(例えば、一部の場合ではナノ結晶)を組み込む非晶質ホストマトリックスを形成することに寄与してよい。一例の添加物はタンタルである。他の実施形態では、添加物及び陽極着色する基本の材料はともに共有結合及び/またはイオン結合で化合物を形成する。化合物は結晶質、非晶質、またはその組合せであってよい。他の実施形態では、陽極着色する基材は、添加物の領域が不連続相または不連続ポケットとして存在するホストマトリックスを形成する。例えば、特定の実施形態は、例えば非晶質基質全体に分布する結晶物質について本明細書で説明される直径のポケット等の、ポケット内の第1の材料全体に分布する、やはり非晶質の第2の材料とともに、第1の材料の非晶質基質を有する非晶質対電極を含む。
【0055】
一部の実施形態では、対電極の厚さは約50nm~約650nmである。一部の実施形態では、対電極の厚さは約100nm~約400nmであり、ときには150nm~300nmの範囲、または約200nm~300nmの間である。また、対電極層110の厚さは実質的には均一である。一実施形態では、実質的に均一な対電極層は、上述の厚さ範囲のそれぞれで約±10%しか変わらない。別の実施形態では、実質的に均一な対電極層は上述した厚さ範囲のそれぞれで約±5%しか変わらない。別の実施形態では、実質的に均一な対電極層は上述した厚さ範囲のそれぞれで約±3%しか変わらない。
【0056】
消色状態の間の対電極層に(及び相応して着色状態の間のエレクトロクロミック層に)保持され、エレクトロクロミック移行を生じさせるために利用できるイオンの量は、層の厚さ及び製造方法だけではなく、層の組成にも依存する。エレクトロクロミック層と対電極層の両方とも、層表面積の平方センチメートルあたりで、約数十ミリクーロンの(リチウムイオン及び電子として)利用可能な電荷を保持できる。エレクトロクロミック膜の電荷容量は、外部電圧または電位を印加することによって膜の単位面積及び単位厚さあたりで可逆的に注入する、及び抽出することができる電荷の量である。一実施形態では、WO3層は約30mC/cm2/ミクロンと約150mC/cm2/ミクロンの間の電荷容量を有する。別の実施形態では、WO3層は約50mC/cm2/ミクロンと約100mC/cm2/ミクロンの間の電荷容量を有する。一実施形態では、NiWTaO層は約75mC/cm2/ミクロンと約200mC/cm2/ミクロンの間の電荷容量を有する。別の実施形態では、NiWTaO層は約100mC/cm2/ミクロンと約150mC/cm2/ミクロンの間の電荷容量を有する。
【0057】
図1Aに戻ると、エレクトロクロミック層106と対電極層110との間には、多くの場合イオン伝導性層108が存在する。イオン伝導性層108は、エレクトロクロミックデバイスが消色状態と着色状態との間で変化するとき(電解質のように)イオンがそれを通して移送される媒体として働く。イオン伝導性層108は、エレクトロクロミック層及び対電極層に関連するイオンに対して高い導電性を有するが、通常の動作中に起こる電子移動がほとんど無視できる程度の十分に低い電子伝導性を有することが好ましい。高いイオン伝導率を有する(イオン伝導体層とも呼ばれることがある)薄いイオン伝導性層は高速イオン伝導できるので、高性能エレクトロクロミックデバイスのための高速切替えが可能となる。特定の実施形態では、イオン伝導性層108は無機及び/または固体である。イオン伝導体層は、材料から、及び相対的にほとんど欠陥を生じさせない方法で製造される場合、高性能デバイスを作り出すために非常に薄くすることができる。多様な実施態様では、イオン伝導体材料は、約10
8シーメンス/cmまたはオーム
‐1cm
-1と約10
9シーメンス/cmまたはオーム
‐1cm
-1の間のイオン伝導率及び約10
11オーム‐cmの電子抵抗を有する。
【0058】
他の実施形態では、イオン伝導体層は省略されてよい。係る実施形態では、エレクトロクロミックデバイスのためにエレクトロクロミック積層体を形成するとき、別個のイオン伝導体材料は成膜されない。代わりに、これらの実施形態では、陰極着色するエレクトロクロミック材料が、陽極着色する対電極材料と直接的に物理的に接触して成膜されてよい。陽極着色する材料及び陰極着色する材料の一方または両方は、材料の残りの部分と比較して酸素が豊富である部分を含むように成膜されてよい。通常、酸素を豊富に含む部分は他のタイプの層と接触している。例えば、エレクトロクロミック積層体は、陰極着色する材料と接触する陽極着色する材料を含んでよく、陰極着色する材料は、陽極着色する材料と直接的に物理的に接触する、酸素を豊富に含む部分を含む。別の例では、エレクトロクロミック積層体は、陰極着色する材料と接触する陽極着色する材料を含み、陽極着色する材料は、陰極着色する材料と直接的に物理的に接触する、酸素を豊富に含む部分を含む。追加の例では、陽極着色する材料と陰極着色する材料の両方とも酸素を豊富に含む部分を含み、陰極着色する材料の酸素を豊富に含む部分は、陽極着色する材料の酸素を豊富に含む部分と直接的に物理的に接触している。これらの層の酸素を豊富に含む部分は、別々の副層(例えば、陰極着色する材料または陽極着色する材料は、酸素を豊富に含む副層及び酸素をあまり豊富に含まない副層を含む)として設けられてよい。また、層の酸素を豊富に含む部分は、傾斜層に設けられてもよい(例えば、陰極着色または陽極着色する材料は、酸素濃度の勾配を含んでよく、勾配は層の表面に垂直な方向である)。イオン伝導体層が省略され、陽極着色する対電極材料が陰極着色するエレクトロクロミック材料と直接的に接触する実施形態は、それぞれがその全体として参照により本明細書に援用される以下の米国特許、つまり米国特許第8,300,298号、及び米国特許第8,764,950号にさらに説明される。
【0059】
図1Aの実施形態に戻ると、リチウムイオン伝導体層にとって適切な材料の例は、ケイ酸リチウム、ケイ酸アルミニウムリチウム、酸化リチウム、タンステン酸リチウム、ホウ酸リチウムアルミニウム(lithium aluminum borate)、ホウ酸リチウム、ケイ酸リチウムジルコニウム、ニオブ酸リチウム、ホウケイ酸リチウム、リンケイ酸リチウム、窒化リチウム、オキシ窒化リチウム、フッ化アルミニウムリチウム、オキシ窒化リン酸リチウム(LiPON)、チタン酸ランタンリチウム(LLT)、タンタル酸リチウム、ジルコニウム酸リチウム、オキシ窒化ケイ素炭素リチウム(lithium silicon carbon oxynitride)(LiSiCON)、リン酸チタンリチウム、酸化バナジウムゲルマニウムリチウム(lithium germanium vanadium oxide)、酸化ゲルマニウム亜鉛リチウム(lithium zinc germanium oxide)、及び高い電気抵抗を有しつつ(そこを通る電子の移動を遮りつつ)リチウムイオンがそれらを通過するのを可能にする他のセラミック材料を含む。しかしながら、任意の材料は、それが低欠陥品率で製造することができ、それが電子の通過を実質的に防ぎつつ、対電極層110とエレクトロクロミック層106との間のイオンの通過を可能にするのであれば、イオン伝導性層108に使用されてよい。
【0060】
特定の実施形態では、イオン伝導性層は結晶質、非晶質、またはその混合物である。通常イオン伝導性層は非晶質である。別の実施形態では、イオン伝導性層はナノ結晶である。別の実施形態では、イオン伝導性層は混合された非晶相及び結晶相であり、結晶相はナノ結晶である。
【0061】
イオン伝導性層108の厚さは、材料に応じて変わることがある。一部の実施形態では、イオン伝導性層108は厚さ約5nm~100nm、好ましくは厚さ約10nm~60nmである。一部の実施形態では、イオン伝導性層は厚さ約15nm~40nmまたは厚さ約25nm~30nmである。また、イオン伝導性層の厚さは実質的に均一である。
【0062】
エレクトロクロミック層と対電極層との間のイオン伝導性層を横切って移送されるイオンは、それらがエレクトロクロミック層に存在するとき、エレクトロクロミック層での色変化(つまり、エレクトロクロミックデバイスを消色状態から着色状態に変える)を達成するために役立つ。陽極着色する対電極層を有するデバイスの場合、これらのイオンの不在は対電極層で色を生じさせる。エレクトロクロミックデバイス積層体のための材料の選択に応じて、係るイオンはリチウムイオン(Li+)及び水素イオン(H+)(つまり、陽子)を含む。上述したように、他のイオンは特定の実施形態で利用されてよい。これらは重水素イオン(D+)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca++)、バリウムイオン(Ba++)、ストロンチウムイオン(Sr++)、及びマグネシウムイオン(Mg++)を含む。特定の実施形態では、デバイスの動作中の副反応が、デバイスを逃れ、性能を劣化させる可能性がある水素ガスへの再結合を引き起こすため、水素イオンは使用されない。したがって、例えばリチウムイオン等のこの問題を有さないイオンが使用されてよい。
【0063】
また、本明細書の実施形態のエレクトロクロミックデバイスは、建築用ガラスよりも小さいまたは大きい基板に拡大縮小可能である。エレクトロクロミック積層体は、最高で約12インチ×12インチまたは80インチ×120インチまでもの幅広い範囲のサイズである基板上に成膜できる。
【0064】
一部の実施形態では、エレクトロクロミックガラスは複層ガラス(Insulating Glass Unit(IGU))の中に統合される。複層ガラスは、概してユニットによって形成される空間に入れられた気体の断熱性を最大化し、同時にユニットを通る明瞭な視界を提供する意図をもって、1つのユニットに組み付けられた複数のガラス板から成り立つ。エレクトロクロミックガラスを組み込む複層ガラスは、電源にエレクトロクロミックガラスを接続するための導線を除き、技術で現在既知の複層ガラスに類似している。エレクトロクロミック型の複層ガラスは、より高い温度になり得るので(エレクトロクロミックガラスによる放射エネルギーの吸収するため)、従来の複層ガラスで使用される封止剤よりもより堅牢な封止剤が必要なことがある。例えば、ステンレス鋼のスペーサバー、高温ポリイソブチレン(PIB)、新しい二次封止剤、スペーサバーの継ぎ目用の箔がコーティングされたPIBテープ等がある。
【0065】
<異質の対電極>
図1Aに示されるように、陽極着色する対電極は、一部の場合では単一の均質層であってよい。しかしながら、本明細書のいくつかの実施形態では、陽極着色する対電極層は組成または形態等の物理的特徴において異質である。係る異質対電極層は改善された色、切替え動作、耐用期間、均一性、プロセスウィンドウ等を示すことがある。異種対電極は、その全体として参照により本明細書に援用される米国仮特許出願第62/192,443号にさらに説明される。
【0066】
特定の実施形態では、対電極層は2つ以上の副層を含み、副層は異なる組成及び/または形態を有する。また、係る副層の1つまたは複数は傾斜組成物質を有してもよい。組成勾配及び/または形態勾配は、線形遷移、S状遷移、ガウス遷移等を含む任意の形の遷移を有してよい。2つ以上の副層として対電極を提供することによっていくつかの利点を実現できる。例えば、副層は相補的性質を有する異なる材料であってよい。ある材料はよりよい色品質を促進し、一方、別の材料は高品質で長い耐用期間の切替え動作を促進する。材料の組合せは高度の膜品質及び均一性を促進し、同時に高速度の成膜(したがってスループット)を達成し得る。また、本明細書に概略される手法のいくつかは、エレクトロクロミックデバイス全体でのリチウム分布のより優れた制御を促進してよく、一部の場合では、対電極の形態の改善(例えばより高い透過率)及びエレクトロクロミックデバイスでの欠陥の全体的な削減につながることがある。本明細書の多様な実施形態から生じることがある別の利点は、1つまたは複数の中間状態で使用できることである。多様な副層間の電位の差はリチウムが別々の場所(例えば、特定の程度まで特定の副層の中)に存在できるようにし、それによってエレクトロクロミックデバイスが、例えば完全に着色したデバイスと完全に消色したデバイスとの間で中間色合い状態を達成できるようにする。一部の場合では、中間状態は、デバイスに異なる電圧を印加することによって達成できる。対電極層の中に複数の副層を包含することは、異なる電圧を印加して異なる中間色合い状態を達成する必要性を削減または排除し得る。開示されている実施形態のこれらの利点及び他の利点を以下にさらに説明する。
【0067】
一部の場合では、対電極は第1の陽極着色する電極材料の第1の副層、及び第2の陽極着色する対電極材料の1つまたは複数の追加の副層を含む。多様な場合では、CE層の第1の副層は陰極着色するエレクトロクロミック材料に、CE層の第2の(及び任意選択で追加の)副層(複数可)よりも近くに位置してよい。一部の実施態様では、第1の副層は、通常、約50nmを超えない厚さを有する、概して薄く、多くの場合迅速に成膜された層として特徴付けされるフラッシュ層である。フラッシュ層は、存在する場合、エレクトロクロミック特性を示すこともあれば、示さないこともある。特定の実施形態では、フラッシュ層は、(この層は陽極着色層等の他の層に非常に類似する組成を有してよいが)残りのエレクトロクロミック層/対電極層とともに変色しない対電極材料から作られる。一部の実施形態では、第1の副層/フラッシュ層は、例えば約1と5x1010オーム‐cmの間等、相対的に高い電子抵抗を有する。
【0068】
一般的に言えば、第1の陽極着色する対電極材料及び第2の陽極着色する対電極材料は、それぞれ無関係に任意の陽極着色する対電極材料であってよい。第1の対電極材料及び/または第2の対電極材料は、二成分金属酸化物(例えば、リチウムまたは他の移送されたイオンに加えて2つの金属を含む酸化物で、NiWOが一例である)、三元金属酸化物(例えば、3つの金属を含む酸化物であり、NiWTaOが一例である)、またはなおさらに複雑な材料であってよい。多くの場合、材料は、ある程度までデバイス内で可動であることがあるリチウムも含む。
【0069】
特定の例では、第1の陽極着色する材料はNiWOである。これらの例または他の例では、第2の陽極着色する材料は、追加の金属(例えば、無アルカリ金属、遷移金属、後遷移金属、または特定の場合は半金属)でドープされる、またはそれ以外の場合追加の金属を含むNiWOであってよく、1つの例の材料はNiWTaOである。
【0070】
一部の実施形態では、第1の陽極着色する材料及び第2の陽極着色する材料は同じ元素を含有するが、異なる割合で含有する。例えば、両方の材料がNi、W、及びTaを含有してよいが、元素の2つまたは3つは異なる質量比または原子比率で存在してよい。一部の他の実施形態では、第1の副層及び第2の副層は、互いに組成的により著しく異なることがある。例えば、第1の副層及び第2の副層(及び任意の追加の副層)は、他の副層の組成とは関わりなく、それぞれ任意の陽極着色する材料であってよい。
【0071】
2つ以上の副層は異なる物理的特性を有してよい。多様な場合では、副層の1つまたは複数で使用される材料は、付随する副層(複数可)なしで提供される場合、対電極材料として十分に機能しない(例えば、劣った色品質、劣った耐用期間性能、遅い切替え速度、遅い成膜速度等を示す)材料である。
【0072】
図1Bは、一実施形態に係る、成膜されるエレクトロクロミック積層体の断面図を提供する。積層体は透明な導電性酸化物層204及び214を含む。透明な導電性酸化物層204と接触しているのは、陰極着色するエレクトロクロミック層206である。透明な導電性酸化物層214と接触しているのは、2つの副層210a及び210bを含む陽極着色する対電極層210である。対電極の第1の副層210aは、エレクトロクロミック層206と接触し、第2の副層210bは、透明な導電性酸化物層214と接触している。本実施形態では、(イオン伝導体層としての機能を果たす界面領域は、その全体として参照により本明細書に援用される、2012年5月2日に出願され、「ELECTROCHROMIC DEVICES」と題する米国特許出願第13/462,725号に説明されるように、この構造体から原位置で形成されてよいが)別個のイオン伝導体層は成膜されていない。
【0073】
陽極着色する対電極層210の第1の副層及び第2の副層210a、及び210Bは異なる組成及び/または形態を有してよい。多様な例では、第2の副層210bは、第1の副層210aに存在しない少なくとも1つの金属及び/または金属酸化物を含む。特定の例では、第1の副層210aはNiWOであり、第2の副層210bは別の金属(例えば、NiWTaO、NiWSnO、NiWNbO、NiWZrO等)でドープされる、またはそれ以外の場合別の金属と結合されるNiWOである。別の実施形態では、第1の副層及び第2の副層210a及び210bは、異なる相対濃度で同じ元素を含む。
【0074】
一部の実施形態では、第1の副層210aはフラッシュ層である。フラッシュ層は、通常薄い層である(したがって、必ずしもそうではないが、薄い層は相対的に迅速に成膜される)。一部の実施形態では、陽極着色する対電極の第1の副層は、厚さ約10~100nm、例えば、厚さ約20~50nmであるフラッシュ層である。いくつかの実施形態では、第1の副層/フラッシュ層は、残りの副層の材料よりも高い成膜速度で成膜する材料であってよい。同様に、フラッシュ層は残りの副層よりも低い出力で成膜されてよい。残りの副層(複数可)は多くの実施形態では第1の副層210aよりも厚いことがある。対電極層210が210a及び210b等の2つの副層を含む特定の実施形態では、第2の副層210bは、厚さ約20~300nm、例えば厚さ約150~250nmであってよい。
【0075】
特定の実施形態では、第2の副層210bは組成に関して均質である。
図1Dは、第1の副層がNiM1Oであり、第2の副層が組成的に均質なNiM1M2Oである特定の実施形態で、
図1Bの第1の副層及び第2の副層210a及び210bに存在する多様な元素の濃度を示すグラフを示す。第1の副層210aはCE1と名前を付けられ、第2の副層210bはCE2と名前を付けられる。この例では、第1の副層は、約25%のニッケル、約8%のM1、及び約66%の酸素である組成を有し、第2の副層は、約21%のニッケル、約3%のM1、約68%の酸素、及び約8%のM2である組成を有する。M2は多様な実施形態において、金属であってよい。
【0076】
他の実施形態では、第2の副層210bは傾斜組成物質を含んでよい。組成物質は、その中の金属の相対濃度に対して等級付けされてよい。例えば、一部の場合、第2の副層210bは、第1の副層には存在しない金属に対して傾斜組成物を有する。1つの特定の例では、第1の副層はNiWOであり、第2の副層はNiWTaOであり、タンタルの濃度は第2の副層を通して等級付けされている。(タンタルを除く)残りの元素の相対濃度は第2の副層を通して均一であってよく、または残りの元素の相対濃度はこの副層を通して変化してもよい。特定の例では、酸素の濃度も第2の副層210bの中でも(及び/または第1の副層210aの中でも)等級付けされてよい。
【0077】
図1Eは、第1の副層がNiM1Oであり、第2の副層がNiM1M2Oの傾斜層である特定の実施形態で、
図1Bの第1の副層及び第2の副層210a及び210bに存在するM2の濃度を示すグラフを提示する。
図1Dと同様に、第1の副層210aはCE1と名前が付けられ、第2の副層はCE2と名前が付けられる。この例では、M2の濃度は第2の副層を通して、約15%(原子濃度)の値まで上昇する。一実施形態では、他の元素は、変化するM2濃度に対応するために必要に応じて調整される、
図1Dに関して説明された組成を実質的に反映するが、他の元素は図から省略されている。
【0078】
特定の実施形態では、第1の副層及び第2の副層は、互いとはより異なる組成を有することがある。
図1Fは、第1の副層がNiM1Oであり、第2の副層がNiM2Oである実施形態で、
図1Bの第1の副層及び第2の副層210a及び210bに存在する多様な元素の濃度を示すグラフを提示する。特定の場合では、他の金属及び材料も使用されてよいが、M1はタングステンであり、M2はバナジウムである。
図4Cは対電極層の両方の副層を通して一定のままである酸素及びニッケルの濃度を示すが、これは必ずしもそうではない。
図1D~
図1Fに関して説明された特定の組成は例として提供されるにすぎず、制限的となることを意図していない。異なる材料及び濃度/組成も使用されてよい。
【0079】
図1Cは、
図1Bに示されるエレクトロクロミック積層体に類似するエレクトロクロミック積層体の追加の例を示す。
図1Cの積層体は、透明な導電性酸化物層304及び314、陰極着色するエレクトロクロミック層306、及び陽極着色する対電極層311を含む。ここで、対電極層311は3つの副層311a~311cから作られる。第1の副層311aは、
図1Bの第1の副層210aに関して上述したようにフラッシュ層であってよい。副層311a~311cは異なる組成を有してよい。第2の副層及び第3の副層311b及び311cは、一部の実施形態では、異なる相対濃度で同じ元素を含んでよい。別の実施形態では、副層311a~311cのすべてが異なる相対濃度の同じ元素を含む。
【0080】
一部の実施形態では、追加の副層が提供されてよい。追加の副層は組成に関して均質であってよい、または追加の副層は上述したように等級付けされてよい。また、
図1B及び
図1Cの第1の副層、第2の副層、及び第3の副層に関して説明された傾向は、係る追加の副層が設けられる多様な実施形態の追加の副層全体でも当てはまってよい。一例では、対電極は4つの副層を含むように成膜され、(エレクトロクロミック層に最も近く位置決めされる)第1の副層は第1の材料(例えばNiM1O)を含み、第2の副層、第3の副層、及び第4の副層は、第1の副層には存在しない追加の元素(例えば金属)を含む第2の材料(例えば、NiM1M2O)を含む。この追加の元素の濃度は、エレクトロクロミック層から遠く離れている副層ではより高く、エレクトロクロミック層により近い副層ではより低くなってよい。1つの特定の例として、(エレクトロクロミック層に最も近い)第1の副層はNiWoであり、第2の副層は3%(原子濃度)のTaを有するNiWTaOであり、第3の副層は7%(原子濃度)のTaを有するNiWTaOであり、(エレクトロクロミック層から最も遠い)第4の副層は10%(原子濃度)のTaを有するNiwTaOである。
【0081】
さらに別の実施形態では、対電極は単一の層として提供されてよいが、対電極層の組成は等級付けされてよい。組成は、材料に存在する1つまたは複数の元素に関して等級付けされてよい。一部の実施形態では、対電極は材料の1つまたは複数の金属に対して傾斜組成物を有する。これらのまたは他の実施形態では、対電極は、1つまたは複数の非金属、例えば酸素に対して傾斜組成物を有してよい。
図1Gは、対電極が傾斜組成物を有する単一層として提供される対電極層に存在するM2の濃度を示すグラフを提示する。この例では、組成はその中の金属(M2)に対して等級付けされる。他の元素(Ni、M1、O)は
図1Gから省略されている。一実施形態では、これらの元素は、変化するM2組成に対応するために必要に応じて調整される、
図1Dまたは
図1Fに関して説明された組成を実質的に反映する。
【0082】
いかなる理論または作用メカニズムに拘束されることを望むものではないが、開示されている第1の副層は、対電極層の成膜中の過剰な加熱または他の厳しい状況から生じる損傷からイオン伝導性層及び/またはエレクトロクロミック層を保護するのに役立つと考えられる。第1の副層は、残りの副層を成膜するために使用される条件よりも穏和である条件下で成膜されてよい。例えば、一部の実施形態では、第1の副層は約5~20kW/m2のスパッタ出力で成膜されてよく、第2の副層は約20~45kW/m2のスパッタ出力で成膜されてよい。第1の副層がNiWOであり、第2の副層がNiWTaOである1つの特定の例では、NiWTaOはNiWOよりも高いスパッタ出力を使用し成膜されてよい。この高出力プロセスは、イオン伝導性層及び/またはエレクトロクロミック層に直接的に成膜するために実行される場合、一部の実施態様では、例えば関連する材料の過剰な加熱及び早期結晶化のため、及び/またはイオン伝導性層及び/またはエレクトロクロミック層での酸素の損失のためにイオン伝導性層及び/またはエレクトロクロミック層を劣化させる可能性がある。ただし、NiWOの薄いフラッシュ層が第1の副層として提供される場合、このNiWO層はより穏やかな条件下で成膜できる。NiWO副層は次いで以後のNiWTaO副層(複数可)の成膜中に下部のイオン伝導性層及び/またはエレクトロクロミック層を保護してよい。この保護は、より信頼性があり、よりうまく機能するエレクトロクロミックデバイスにつながることがある。
【0083】
また、開示されている実施形態は、陽極着色する材料の中でのより高品質の形態及び改善された形態の制御から生じる改善された性能を示すこともある。例えば、2つ以上の副層として対電極を提供することによって、1つまたは複数の追加の境界面が対電極の中に導入される(例えば、副層が互いに接触する境界面)。これらの境界面は、例えば結晶核再生成及び関係する粒成長の影響により、結晶の形成を中断させることがある。係る影響は、結晶がより大きく成長するのを防ぎ、形を成すあらゆる結晶のサイズを制限するように作用することがある。形態に対するこの影響は、空隙及び他の欠陥がより少ないデバイスの製造につながることがある。
【0084】
いかなる理論または作用メカニズムに拘束されることを望むものではないが、開示されている方法は、エレクトロクロミックデバイスの中でのリチウムの分布に対する制御の改善を達成するために使用され得ることも考えられる。異なる対電極材料はリチウムに対する異なる親和性を示し、したがって対電極材料(複数可)の選択は、リチウムイオンがエレクトロクロミックデバイスでどのように分布するのかに影響を与える。特定の材料及び材料の組合せを選択することによって、デバイスの中でのリチウムの分布を制御できる。特定の実施形態では、対電極の副層はリチウムに対して異なる親和性を有する材料を含む。例えば、第1の副層の材料は対電極の第2の(または追加の)副層(複数可)の材料と比較してリチウムに対してより高い親和性またはより低い親和性を有することがある。
【0085】
関連して、開示されている方法は、エレクトロクロミックデバイスを製造するために使用されるリチウムの総量に対する制御の改善を達成するために使用されてよい。多様な場合では、リチウムは対電極層の成膜中に添加されてよい。一部の実施形態では、リチウムは対電極の1つまたは複数の副層の成膜中に添加されてよい。これらの実施形態及び他の実施形態では、リチウムは対電極の以後の副層の成膜の間で添加されてよい。エレクトロクロミックデバイスの中でのリチウムの分布及びリチウムの総量を制御することによって、デバイスの均一性及び外観は改善され得る。
【0086】
開示されている技法で生じる別の利点は色及び切替え性能の改善である。上述したように、特定の対電極材料は、色(例えば、より澄んだ消色状態、より魅力的な着色状態等)、切替え速度、耐用期間、及び他の特性に関してより優れた性能を示す。しかしながら、一方の特性に対して高品質の結果を促進する特定の材料は他方の特性に対して欠点を有することがある。例えば、材料が非常に透明で着色されていない消色状態を示すために望ましい材料は、低速の切替え速度及び/または短い耐用期間に関係する問題に苦しむことがある。この材料を(相対的により黄色い消色状態等の独自の問題を有することがある)別の対電極材料と結合することによって、多様な実施態様では、特性が改善された対電極を達成することが可能である。ある対電極材料に関係する欠点は、別の対電極材料の特性によって軽減されることがある。
【0087】
<エレクトロクロミック窓を製造する方法>
エレクトロクロミック積層体の成膜
上述したように、実施形態の一態様はエレクトロクロミック窓を製造する方法である。広義では、方法は、イオン伝導性層が、陰極着色するエレクトロクロミック層及び陽極着色する対電極層を分離する積層体を形成するために、基板に(i)陰極着色するエレクトロクロミック層、(ii)任意選択のイオン伝導性層、及び(iii)陽極着色する対電極層を順次成膜することを含む。順次成膜は、圧力、温度、及び/またはガス組成が統合成膜システムの外部の外部環境とは関係なく制御される制御された周囲環境を有し、基板がエレクトロクロミック層、イオン伝導性層、及び対電極層の順次成膜中いずれのときでも統合成膜システムを離れない単一統合成膜システムを利用する。(制御された周囲環境を維持する統合成膜システムの例は、
図5A~
図5Eに関して以下により詳細に説明される。)ガス組成は、制御された周囲環境での多様な構成要素の分圧によって特徴付けられてよい。また、制御された周囲環境は、粒子の数または粒子密度に関して特徴付けられることもある。特定の実施形態では、制御された周囲環境はm
3あたり350未満の(0.1マイクロメートル以上のサイズの)粒子を含有する。特定の実施形態では、制御された周囲環境はクラス1000のクリーンルーム(US FED STD 209E)またはクラス100のクリーンルーム(US FED STD 209E)の要件を満たす。特定の実施形態では、制御された周囲環境は、クラス10のクリーンルーム(US FED STD 209E)の要件を満たす。基板はクラス1000、クラス100、またはクラス10の要件を満たすクリーンルームの制御された周囲環境に進入してよい及び/または周囲環境を出てよい。
【0088】
この製造の方法は、通常は、基板として建築用ガラスを使用し、エレクトロクロミック窓を作るための多段階プロセスに統合されるが、必ずしも基板として建築用ガラスを使用し、エレクトロクロミック窓を作るための多段階プロセスに統合されるものではない。便宜上、以下の説明は、エレクトロクロミック窓を製造するための多段階プロセスの文脈で、方法及びその多様な実施形態を予想するが、方法はこのように制限されていない。エレクトロクロミック鏡及び他のデバイスは、本明細書に説明される処理及び手法のいくつかまたはすべてを使用し、製造されてよい。
【0089】
図2は、
図4Aに関して説明される多段階プロセス等の多段階プロセスによるエレクトロクロミック窓デバイス600の断面表現である。
図4Aは、エレクトロクロミックデバイス600を組み込むエレクトロクロミック窓を製造する方法700を説明するプロセスフローを示す。
図3は、デバイスの中に切込まれるトレンチの場所を示すデバイス600の平面図である。したがって、
図2、
図3、及び
図4Aは同時に説明される。説明の一態様は、デバイス600を含むエレクトロクロミック窓であり、説明の別の態様は、デバイス600を含むエレクトロクロミック窓を製造する方法700である。以下の説明に含まれるのは、
図4B~
図4Eの説明である。
図4B~
図4Dは、デバイス600の一部であるエレクトロクロミック積層体を製造する特定の方法を示す。
図4Eは、例えばデバイス600を製造する際に使用されるプロセスを調整するためのプロセスフローを示す。
【0090】
図2は、拡散障壁610及び拡散障壁上の第1の透明導電酸化物(TCO)コーティング615を任意選択で有するコーティングガラス605から作られる基板で始め、製造されるエレクトロクロミックデバイス600の特定の例を示す。方法700は、基板、すなわち例えば透明な導電性酸化物615等の透明な導電層が後に続く、例えばナトリウム拡散障壁層及び反射防止層を有するフロートガラスを利用する。上述したように、デバイスに適した基板は、オハイオ、トレドのPilkington社によるTEC Glass及びペンシルバニア、ピッツバーグのPPG IndustriesによるSUNGATE(登録商標)300及びSUNGATE(登録商標)500の商標で販売されるガラスを含む。第1のTCO層615は、基板上に製造されるエレクトロクロミックデバイス600の電極を形成するために使用される2つの導電層の内の第1の導電層である。
【0091】
方法700は、基板が以後の処理のために基板を準備するために洗浄される洗浄プロセス705で始まる。上述したように、汚染物は基板上に製造されるデバイスで欠陥を生じさせることがあるため、基板から汚染物を取り除くことは重要である。1つの重大な欠陥は、IC層を横切る導電性の経路を作成し、このようにしてデバイスを局所的に短絡させ、エレクトロクロミック窓に視覚的に認識可能な異常を生じさせる粒子または他の汚染物である。本明細書の製造方法に適した洗浄プロセス及び装置の一例は、Lisec(登録商標)(オーストリア、サイテンシュテッテンの(LISEC Maschinenbau Gmbh社のガラス洗浄装置及びプロセスの商標)である。
【0092】
基板の洗浄は、不必要な微粒子を取り除くための超音波処理調整だけではなく機械的なスクラビングも含んでよい。上述したように、微粒子はデバイスの中の局所的な短絡だけではなく表面的な傷にもつながることがある。
【0093】
いったん基板が洗浄されると、基板上の第1のTCO層の線を除去するために、第1のレーザー切込プロセス710が実行される。一実施形態では、結果として生じるトレンチはTCOと拡散障壁(一部の場合には拡散障壁は実質的には貫通されないが)の両方を通して切除する。
図2は、この第1のレーザー切込トレンチ620を示す。トレンチは、(上述したようにエレクトロクロミック層、イオン伝導性層、及び対電極層を含む)エレクトロクロミック(EC)積層体625の上部に成膜される第2のTCO層630に電流を提供するために使用される第1のバスバー640と最終的に接触する、基板の1つの端縁近くのTCOの領域を分離するために基板の片側の全長を横切って基板に切込まれる。
図3は、トレンチ620の場所を概略で(正確な縮尺ではない)示す。示されている実施形態では、拡散障壁上の第1のTCO層の分離されていない(主要な)部分は、最終的に第2のバスバー645と接触する。特定の実施形態では、デバイスに第1のバスバーを取り付ける方法は、デバイス積層体層が(第1のTCO層の分離部分と第1のTCO層の主要な部分の両方に)置かれた後にデバイス積層体層を通してそれを押し付けることを含むため、分離トレンチ620が必要とされることがある。当業者は、エレクトロクロミックデバイスで電極、この場合はTCO層に電流を提供するためには他の配置が可能であることを認識する。第1のレーザー切込によって分離されたTCO領域は、通常、一体型ガラスユニット(IGU)及び/または窓ガラス、フレーム、またはカーテンウォールの中に組み込まれるときに最終的に、バスバーとともに隠される基板の1つの端縁に沿った領域である。第1のレーザー切込に使用される1つまたは複数のレーザーは、通常、例えばダイオード励起ソリッドステートレーザー等のパルスタイプのレーザーであるが、必ずしもダイオード励起ソリッドステートレーザー等のパルスタイプのレーザーではない。例えば、レーザー切込は、(マサチューセッツ、オックスフォードの)IPG Photonics社の、または(リトアニア、ヴィリニュスの)Ekspla社の適切なレーザーを使用し、実行できる。
【0094】
レーザートレンチは、第1のTCO層の一部分を分離するために端から端まで基板の側面に沿って掘られ、第1のレーザー切込710によって作られるトレンチ620の深さ及び幅の寸法は、いったんデバイスがその後成膜されると、バルクTCOから第1のTCO層を分離するのに十分である必要がある。トレンチの深さ及び幅は、あらゆる残りの微粒子がトレンチを横切って短絡するのを防ぐほど十分である必要がある。一実施形態では、トレンチは深さ約300nmと900nmの間(例えば、約300nmと500nmの間)、及び幅約20μmと50μmの間である。別の実施形態では、トレンチは深さ約350nmと450nmの間、及び幅約30μmと45μmの間である。別の実施形態では、トレンチは深さ400nmと幅約40μmである。
【0095】
第1のレーザー切込プロセス710の後、基板を再度洗浄する(処理715)。この際の基板の洗浄は通常、必ずしもそうではないが、上述した洗浄方法を用いて行われる。この第2の洗浄プロセスは、第1のレーザー切込によって生じるあらゆる破片を取り除くために実行される。いったん洗浄処理715が完了すると、基板はEC積層体625の成膜のための準備が完了する。これはプロセスフロー700でプロセス720として示される。上述したように、方法は、圧力及び/またはガス組成が統合成膜システムの外部の外部環境とは関係なく制御される制御された周囲環境を有し、基板はEC層、IC体層、及びCE層の順次成膜中いずれのときでも統合成膜システムを離れない単一統合成膜システムを使用し、IC層がEC層及びCE層を分離する積層体を形成するために、基板に(i)陰極着色するEC層、(ii)任意選択のIC層、及び(iii)陽極着色するCE層(例えば、多様な実施形態ではNiWTaO)を順次成膜することを含む。一実施形態では、順次成膜された層のそれぞれは物理気相成長される。一般的に、エレクトロクロミックデバイスの層は、2~3例を挙げると、物理気相成長法、化学気相成長法、プラズマ強化気相成長法、及び原子層堆積法を含む多様な技法によって成膜されてよい。本明細書に使用される用語、物理気相成長法は、スパッタリング、蒸発、アブレーション等を含むPVD技術として理解されている一連の技術を全て含む。
図4Bはプロセス720の一実施形態を示す。最初に、陰極着色するEC層が基板に成膜され、プロセス722、次いでIC層が成膜され、プロセス724(上述したように、特定の実施形態では、IC層、したがってプロセス724は省略される)、次いで陽極着色するCE層が成膜される、プロセス726。成膜の逆の順序もまた、実施形態である。すなわち、CE層が最初に成膜され、次いで任意選択のIC層、及び次いでEC層が成膜される。一実施形態では、エレクトロクロミック層、任意選択のイオン伝導性層、及び対電極層のそれぞれは固体相の層である。別の実施形態では、エレクトロクロミック層、任意選択のイオン伝導性層、及び対電極層のそれぞれは無機材料のみを含む。
【0096】
特定の実施形態は1つの対電極層、1つのイオン伝導体層、及び1つのエレクトロクロミック層に関して説明しているが、これらの層の1つまたは複数は、別個の組成、サイズ、形態、電荷密度、光学特性等を有してよい1つまたは複数の副層から構成されてよいことを理解されたい。さらに、デバイス層の任意の1つまたは複数は、組成または形態がそれぞれ層の厚さの少なくとも一部分で変化する傾斜組成または傾斜形態を有してよい。一例では、酸素、ドーパント、または電荷キャリアの濃度は、少なくとも層が製造されるのにつれ、所与の層の中で変わる。別の例では、層の形態は結晶質から非晶質に変わる。係る傾斜組成または傾斜形態は、デバイスの機能特性に影響を与えるために選ばれてよい。一部の場合では、追加の層が積層体に加えられてよい。一例では、TCO層の一方または両方とEC積層体との間に熱拡散層が置かれる。
【0097】
また、上述したように、特定の実施形態のエレクトロクロミックデバイスは、エレクトロクロミック層と対電極層との間でのイオン伝導性層を通るイオンの移動を利用する。一部の実施形態では、これらのイオン(またはイオンの中性前駆体)は、1つまたは複数の層として積層体に導入され(
図4C及び
図4Dに関してより詳細に以下に説明する)、積層体の中に最終的にインターカレーションする。一部の実施形態では、これらのイオンは、エレクトロクロミック層、イオン伝導性層、及び対電極層の1つまたは複数と同時に積層体の中に導入される。リチウムイオンが使用される一実施形態では、リチウムは、例えば積層体の層の1つまたは複数を作るために使用される材料とともにスパッタされる、または(例えば酸化リチウムニッケルタングステンタンタルを利用する方法によって)リチウムを含む材料の一部としてスパッタされる。一実施形態では、IC層は酸化リチウムシリコンアルミニウムのターゲットをスパッタすることによって成膜される。別の実施形態では、リチウムは所望される膜を達成するためにシリコンアルミニウムとともに同時スパッタされる。
【0098】
再び
図4Bのプロセス722を参照すると、一実施形態では、エレクトロクロミック層を成膜することは、WO
xを成膜することを含み、例えばxは3.0未満及び少なくとも約2.7である。本実施形態では、WO
xは実質的に非晶質の形状を有する。一部の実施形態では、エレクトロクロミック層は約200nmと700nmの間の厚さに成膜される。一実施形態では、エレクトロクロミック層を成膜することは、ターゲットを含有するタングステンからタングステンをスパッタすることを含む。WO
xエレクトロクロミック層を形成するための特定の成膜条件は、その全体として参照により本明細書に援用される米国特許出願第12/645,111号にさらに説明される。
【0099】
ターゲットからのスパッタリングに関連してEC層の成膜を説明しているが、他の成膜技法が一部の実施形態で利用されることを理解されたい。例えば、化学気相成長、原子層堆積法等が利用されてよい。これらの技法のそれぞれは、PVDとともに、当業者に既知であるように独自の形式の物質源を有する。
【0100】
再び
図4B、処理724を参照すると、いったんEC層が成膜されると、IC層が成膜される。一実施形態では、イオン伝導性層を成膜することは、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化ニオブ、及び酸化シリコンアルミニウムから成るグループから選択される材料を成膜することを含む。IC層を形成するための特定の成膜条件は、上記に参照により援用される米国特許出願第12/645,111号にさらに説明される。特定の実施形態では、イオン伝導性層を成膜することは、約10nmと100nmの間の厚さにイオン伝導性層を成膜することを含む。本明細書の他の箇所に記載されるように、IC層は特定の実施形態では省略されてよい。
【0101】
再び
図4B、処理726を参照すると、IC層が成膜された後、陽極着色するCE層が成膜される。一実施形態では、対電極層は酸化ニッケルタングステンタンタル(NiWTaO)の層を成膜することを含む。特定の実施形態では、対電極層を成膜することは、酸素を含有する環境でニッケル及び/またはタンタル中に(重量比で)約30%~約70%のタングステンを含んだターゲットをスパッタして、酸化ニッケルタングステンタンタルの層(タンタルは適切な組成でのタングステン/ニッケル/タンタルターゲットによって、または別のターゲットによって、または蒸発タンタル源等の別の源によって提供されている)を作り出すことを含む。別の実施形態では、ターゲットはニッケル(及び/またはタンタル)中の約40%と約60%の間のタングステンであり、別の実施形態ではニッケル中の約45%と約55%の間のタングステンであり、さらに別の実施形態ではニッケル(及び/またはタンタル)中の約51%のタングステンである。
【0102】
陽極着色する対電極層がNiWTaOを含む特定の実施形態では、多くの成膜ターゲットまたはターゲットの組合せが使用されてよい。例えば、ニッケル、タングステン、及びタンタルの個々の金属ターゲットが使用できる。他の場合では、ターゲットの少なくとも1つは合金を含む。例えば、ニッケル‐タングステンの合金ターゲットは、金属タンタルターゲットとともに使用できる。別の場合では、ニッケル‐タンタルの合金ターゲットは金属タングステンターゲットとともに使用できる。追加の場合では、タングステン‐タンタルの合金は金属ニッケルターゲットとともに使用できる。さらに追加の場合では、ニッケル‐タングステン‐タンタル材料を含有する合金ターゲットが使用されてよい。さらに、示されているターゲットのいずれも酸化物として提供できる。多くの場合、スパッタリングは酸素の存在下で発生し、係る酸素は材料の中に組み込まれる。酸素を含有するスパッタターゲットは、酸素を含有するスパッタリング環境の代わりにまたは酸素を含有するスパッタリング環境に加えて使用されてよい。
【0103】
陽極着色する対電極材料を形成するためのスパッタリングターゲット(複数可)は、本明細書に説明される組成のいずれかで対電極を形成できるようにする組成を有してよい。単一のスパッタターゲットが使用される一例では、スパッタターゲットは、本明細書に開示されるNiWTaO材料のいずれかの組成に一致する組成を有してよい。他の例では、スパッタターゲットの組合せが使用され、組み合わされたターゲットの組成は本明細書に開示されるNiWTaO材料のいずれかでの成膜を可能にする。さらに、スパッタターゲットは、以下にさらに説明するように、材料を所望のとおりに成膜できるようにする任意のやり方で配置されてよい。
【0104】
一実施形態では、CEを形成するときに使用されるガス組成は、約30%と約100%の間の酸素を含有し、別の実施形態では、約80%と約100%の間の酸素を含有し、さらに別の実施形態では、約95%と約100%の間の酸素を含有し、別の実施形態では約100%の酸素を含有する。一実施形態では、CEターゲットをスパッタするために使用される電力密度は(ターゲットの表面積で除算される印加電力に基づいて決定される)約2ワット/cm2と約50ワット/cm2の間であり、別の実施形態では約5ワット/cm2と約20ワット/cm2の間であり、さらに別の実施形態では約8ワット/cm2と約10ワット/cm2の間であり、別の実施形態では約8ワット/cm2である。一部の実施形態では、スパッタリングを達成するために供給される電力は直流(DC)で供給される。他の実施形態では、パルス状DC/AC反応性スパッタリングが使用される。パルス状DC/AC反応性スパッタリングが使用される一実施形態では、周波数は約20kHzと約400kHzの間であり、別の実施形態では、約20kHzと約50kHzの間であり、さらに別の実施形態では約40kHzと約50kHzの間であり、別の実施形態では約40kHzである。
【0105】
成膜ステーションまたは成膜チャンバ内の圧力は、一実施形態では約1と約50mTorrの間であり、別の実施形態では約20と約40mTorrの間であり、別の実施形態では約25と約35mTorrの間であり、別の実施形態では約30mTorrである。一部の場合では、酸化ニッケルタングステンNiWOセラミックターゲットは、例えばアルゴン及び酸素でスパッタされる。一実施形態では、NiWOは約15%(原子濃度)のNiと約60%のNi、約10%のWと約40%のW、及び約30%のOと約75%のOの間である。別の実施形態では、NiWOは約30%(原子濃度)のNiと約45%のNi、約10%のWと約25%のW、及び約35%のOと約50%のOの間である。一実施形態では、NiWOは約42%(原子濃度)のNi、約14%のW、及び約44%のOである。別の実施形態では、対電極層を成膜することは、約150nmと350nmの間の厚さに、さらに別の実施形態では約200nmと約250nmの間の厚さに対電極層を成膜することを含む。上記の条件は、高品質のNiWTaO層の成膜を達成するために互いに任意の組合せで使用されてよい。
【0106】
CE層を形成するためのスパッタリングプロセスは、1つまたは複数のスパッタターゲットを活用してよい。1つのスパッタターゲットが使用される一例では、ターゲットは、ニッケル、タングステン、及びタンタルを含んでよい。一部の場合では、スパッタターゲットは酸素も含む。スパッタターゲットはグリッド、またはグリッドの異なる部分が異なる関連材料を含む(例えば、グリッドの特定の部分はニッケル元素、タングステン元素、タンタル元素、ニッケル‐タングステン合金、ニッケル‐タンタル合金、及び/またはタングステン‐タンタル合金を含んでよい)他の重複する形状を含んでよい。一部の場合では、スパッタターゲットは関連材料(例えば、ニッケル、タングステン、及びタンタルの2つ以上)の合金であってよい。2つ以上のスパッタターゲットが使用される場合、各スパッタターゲットは関連材料(例えば、その内のいずれかが酸化物の形で提供できる、ニッケル、タングステン、及び/もしくはタンタルの元素形態、ならびに/または合金形態)の少なくとも1つを含んでよい。スパッタターゲットは、一部の場合では重複してよい。また、スパッタターゲットは一部の実施形態では回転してもよい。上述したように、対電極層は通常酸化物材料である。酸素はスパッタターゲット及び/またはスパッタガスの一部として提供されてよい。特定の場合には、スパッタターゲットは実質的には純金属であり、スパッタリングは酸化物を形成するために酸素の存在下で行われる。
【0107】
一実施形態では、CE層の成膜の速度を正規化するために、不適切に高い出力(または所望されるプロセス条件への他の不適切な調整)の必要性を未然に防いで成膜速度を高めるように使用される。一実施形態では、CE標的(陰極またはソース)と基板表面の間の距離は約35mmと約150mmの間であり、別の実施形態では、約45mmと約130mmの間であり、別の実施形態では約70mmと約100mmの間である。
【0108】
上述したように、1つまたは複数の回転ターゲットが一部の場合に使用されてよい。多様な場合には、回転ターゲットは内部磁石を含んでよい。
図6Aは回転ターゲット900の図を示す。回転ターゲット900の内部には、(ターゲットが適切な電力を供給されるときに)材料にスパッタコーン906(スパッタコーンはスパッタプラズマとも呼ばれる)内のターゲット表面904から離れてスパッタさせる磁石902がある。磁石902はスパッタターゲット900の長さに沿って伸長してよい。多様な実施形態では、磁石902は、結果として生じるスパッタコーン906がターゲットの表面904に垂直な方向(通常、スパッタコーン906の平均方向に一致する、スパッタコーン906の中心軸に沿って測定される方向)でスパッタターゲット900から生じるように半径方向で外向きに伸長するように配向されてよい。スパッタコーン906は、上方から見られるときにv形状であってよく、ターゲット900の高さ(またはターゲット900の高さと同じではない場合、磁石902の高さ)に沿って伸長してよい。回転ターゲット900内部の磁石902は、スパッタコーン906も固定されるように、固定されてよい(つまり、ターゲット900の表面904は回転するが、ターゲット900の中の磁石902は回転しない)。スパッタコーン906に示される小さい円/点は、スパッタターゲット900から生じるスパッタされた材料を表す。回転ターゲットは、所望されるように、他の回転するターゲット及び/または平面的なターゲットと結合されてよい。
【0109】
一例では、NiWTaOの陽極着色するEC層、ニッケル及びタングステンを含む第1のターゲット、及びタンタルを含む第2のターゲット(任意選択で酸化物の形のどちらかまたは両方)を成膜するために2つの回転ターゲットが使用される。
図6Bはこのように陽極着色層を成膜するための成膜システムの上から見下ろす図を示す。ニッケルタングステンターゲット910及びタンタルターゲット912は、それぞれ内部磁石914を含む。磁石914は、ニッケルタングステンターゲット910及びタンタルターゲット912からのスパッタコーン916及び918がそれぞれ重複するように互いに向かって曲げられる。また、
図6Bはターゲット910及び912の前を通過する基板920を示す。示されるように、スパッタコーン916及び918は、スパッタコーン916及び918が基板920に当たる場所で密接に重なり合う。一部の実施形態では、多様なスパッタターゲットからのスパッタコーンは互いと密接に重なり合ってよい(例えば、基板上で成膜するときに単一のスパッタコーンだけが到達する重なり合わない面積は、例えばどちらかのスパッタコーンが達する総面積の約5%未満等、約10%未満である)。他の実施形態では、スパッタコーンは、スパッタコーンのどちらかまたは両方が、例えばどちらかのスパッタが達する総面積の少なくとも約10%、例えば少なくとも約20%、または少なくとも約30%、または少なくとも約50%である重なり合わない面積を有するように互いから大きく分岐してよい。
【0110】
図6Bに示される実施形態に類似した実施形態では、一方のスパッタターゲットはタングステンであり、他方はニッケルとタンタルの合金である(どちらかまたは両方のターゲットとも任意選択で酸化物の形をとる)。同様に、一方のスパッタターゲットがニッケルであり、他方はタングステン及びタンタルの合金であってよい(どちらかまたは両方のターゲットとも任意選択で酸化物の形をとる)。関連する実施形態では、3つのスパッタターゲット、つまりタンタルターゲット、ニッケルターゲット、及びタングステンターゲット(そのいずれかが任意選択で酸化物の形をとることがある)が使用される。3つのターゲットのそれぞれからのスパッタコーンは、必要に応じて磁石を曲げることによって重なり合ってよい。また、遮蔽、格子、及び/または他の追加のプラズマ形成要素が、NiWTaOを形成するために適切なプラズマ混合物を作成するのを助けるために使用されてよい。
【0111】
多様なスパッタターゲット設計、向き、及び実装は、その全体が参照により本明細書に援用される、2012年5月2日に出願され、「ELECTROCHROMIC DEVICES」と題する米国特許出願第13/462,725号にさらに説明される。
【0112】
スパッタターゲットから離れてスパッタする材料の密度及び向き/形状は、例えばスパッタプラズマを生成するために使用される磁場の形状及び強度、圧力、並びに出力密度を含む多様な要因に依存する。また、各ターゲットと基板の間の距離だけではなく隣接するターゲット間の距離も、スパッタプラズマがどのようにして混合するのか及び結果として生じる材料がどのようにして基板に成膜されるのかに影響を及ぼすことがある。
【0113】
特定の実施形態では、エレクトロクロミック積層体で単一の層を成膜するために、2つの異なるタイプのスパッタターゲット、つまり(a)基板上に材料をスパッタする一次スパッタターゲット、及び(b)一次スパッタターゲットの上に材料をスパッタする二次スパッタターゲットが提供される。一次スパッタターゲット及び二次スパッタターゲットは、金属、金属合金、及び成膜された層で所望される組成を達成する金属酸化物の任意の組合せを含んでよい。1つの特定の例では、一次スパッタターゲットはニッケルとタングステンの合金を含み、二次スパッタターゲットはタンタルを含む。別の例では、一次スパッタターゲットはタンタルを含み、二次スパッタターゲットはニッケルとタングステンの合金を含む。これらのスパッタターゲットは、NiWTaOの陽極着色層を成膜するためにともに使用されてよい。合金(例えば、ニッケル‐タンタル、タングステン‐タンタル)及び金属(例えば、ニッケル、タングステン)の他の組合せも使用できる。任意のスパッタターゲットは、酸化物として提供されてよい。
【0114】
一次スパッタターゲットと二次スパッタターゲットの両方を使用するとき、いくつかの異なるセットアップが可能である。
図7A及び
図7Bは、NiWTaOの陽極着色する対電極層を成膜するための成膜ステーションの一実施形態の上から見下ろす図を示す。NiWTaOを成膜する特定の文脈で示されているが、本明細書に説明されるスパッタターゲット構成は、ターゲットが積層体に所望される材料を成膜するために適切な組成であるならば、エレクトロクロミック積層体で任意の材料を成膜するために使用されてよい。一次スパッタターゲット1001及び二次スパッタターゲット1002が提供され、それぞれが内部磁石1003を有する。平面的なターゲットまたは他の形状のターゲットも使用されてよいが、この例の各スパッタターゲットは回転スパッタターゲットである。ターゲットは同じ方向でまたは反対方向で回転してよい。二次スパッタターゲット1002は、
図7Aに示されるように、基板1004が2つのターゲット間に存在しないときに一次スパッタターゲット1001の上に材料をスパッタする。次いで、基板1004が2つのターゲット間の位置に移動するにつれ、
図7Bに示されるように、二次スパッタターゲット1002からのスパッタリングは停止し、一次スパッタターゲット1001から基板1004の上へのスパッタリングが始まる。
【0115】
材料が一次スパッタターゲット1001から離れてスパッタされ、基板1004の上に成膜されるとき、成膜された材料は、それぞれ一次スパッタターゲット及び二次スパッタターゲット1001及び1002の両方から生じた材料を含む。実際には、この方法は、一次スパッタターゲット1001における、混ぜられたスパッタターゲット表面の現場形成を含む。この方法の1つの優位点は、二次スパッタターゲット1002からの材料(例えば、一部の場合には、この材料はタンタル、タングステン、ニッケル、またはその組合せ及び/もしくは合金である)の新たなコーティングが一次スパッタターゲット1001の表面に周期的に成膜される点である。混ぜられた材料は、次いで、ともに基板1004に送達される。
【0116】
図7Cに示される関係する実施形態では、二次スパッタターゲット1022は一次スパッタターゲット1021の後方に位置決めされ、基板1024は、それが2つのターゲット1021と1022の間で見通し線を遮らないように一次ターゲット1021の前を通過する。スパッタターゲットのそれぞれは磁石1023を含んでよい。この実施形態では、二次スパッタターゲット1021から一次スパッタターゲット1022の上へのスパッタリングを周期的に停止する必要はない。代わりに、係るスパッタリングは連続的に発生することがある。一次スパッタターゲット1021が基板1024と二次スパッタターゲット1022との間に位置する(例えば、二次スパッタターゲット1022と基板1024との間に見通し線がない)場合、一次スパッタターゲット1021は、一次スパッタターゲット1021の上に成膜される材料を基板1024の上にスパッタできるように回転する必要がある。二次スパッタターゲット1022の設計にはより多くの柔軟性がある。関係する実施形態では、二次スパッタターゲットは平面的なターゲットまたは他の回転していないターゲットであってよい。2つの回転ターゲットが使用される場合、ターゲットは同じ方向でまたは反対方向で回転してよい。
【0117】
類似する実施形態では、二次スパッタターゲット(例えば、
図7A~
図7Cの二次ターゲット)は、別の二次物質源で置き換えられてよい。二次物質源は、スパッタリング以外の手段により一次スパッタターゲットに物質を提供してよい。一例では、二次物質源は一次スパッタターゲットに蒸発した物質を提供する。蒸発した物質は、成膜されている層の任意の成分であってよい。多様な例では、蒸発した物質は元素金属または金属酸化物である。蒸発した物質の特定の例は、NiWTaOの陽極着色する対電極材料を形成するために使用されてよいタンタル、タングステン、及びニッケルを含む。一実施形態では、タンタル元素は、ニッケル及びタングステンの混合物及び/または合金を含む一次スパッタターゲット上に蒸着する。二次物質源が蒸発した物質を提供する場合、二次物質源は一次スパッタターゲット及び基板に対して任意の場所で提供されてよい。一部の実施形態では、二次物質源は、ほぼ
図7Cに示されるセットアップのように、それが一次スパッタターゲットの後方にあり、おもに一次スパッタターゲット上に成膜するように提供される。
【0118】
一次スパッタターゲットと二次スパッタターゲットの両方が使用される場合、二次スパッタターゲットは、(すでに陰極性である)一次スパッタターゲットの電位に比較して陰極性である電位で処理されてよい。代わりに、ターゲットは個別に処理されてよい。さらに、相対的なターゲット電位とは関わりなく、二次ターゲットから排出される中性種は一次ターゲットの上に成膜する。中性原子はフラックスの一部となり、中性原子は相対電位に関わりなく陰極性の一次ターゲットの上に成膜する。
【0119】
多様な実施形態では、エレクトロクロミック積層体で1つまたは複数の材料を成膜するために反応性スパッタリングが使用されてよい。
図8は、固定出力での酸素濃度の関数としてスパッタターゲットからのスパッタリング成膜速度を示す図である。
図8に示されるように、ターゲットが曝露されてきた/処理されてきた、酸素濃度プロファイルに関係する強力なヒステリシス効果がある。例えば、低酸素濃度から開始し、より高い酸素濃度に増加するとき、成膜速度は、酸素濃度が、スパッタターゲットが十分に迅速にターゲットから除去できない酸化物を形成する点に達するまでかなり高く留まる。この点で、成膜速度は低下し、スパッタターゲットは基本的に金属酸化物ターゲットを形成する。酸化物ターゲットの成膜速度は、他のすべての条件が等しいとき、金属ターゲットの成膜速度よりも概してはるかに低い。
図8の相対的に高い成膜速度領域は金属成膜レジームに対応する。一方、相対的に低い成膜速度は金属酸化物成膜レジームに対応する。ターゲットが当初高酸素濃度に曝露され、高酸素濃度の下で処理され、次いで相対的により低い濃度に曝露され、相対的により低い濃度の下で処理されるとき、成膜速度がより高いレベルに上がる点に酸素濃度が到達するまで、成膜速度はかなり低く留まる。
図8に示されるように、これらの変化が起こる酸素濃度は、酸素濃度が増加しているのか、それとも減少しているのかに応じて異なる。レジーム変化が発生する正確な酸素濃度は、内部磁石1003のターゲット電力密度及び磁気の強度を変更することによって制御できる。例えば、一方のターゲットが(より高い出力及び/または磁気の強度に起因して)表面から金属原子の実質的により高いフラックスをスパッタする場合、そのターゲットは、金属原子の非常に低いフラックスをスパッタしているターゲットに比較すると、金属成膜レジームに留まりそうである。係るヒステリシス効果は、成膜プロセスで利益を得るために使用できる。
【0120】
エレクトロクロミック積層体で材料を成膜するために2つ以上のスパッタターゲットが使用される特定の実施形態では、1つのターゲットが金属成膜レジームで処理されてよく、別のターゲットは金属酸化物成膜レジームで処理されてよい。ターゲット電力密度、内部磁石1003の磁気の強度、及び各ターゲットが経時的に曝露される/処理される雰囲気を制御することによって、これらのレジームの両方で同時に処理することが可能である。一例では、第1のニッケルタングステンターゲットは、それが金属成膜レジームで作用するように、酸素の相対的に低い濃度に曝露され、次いで酸素の中レベルの濃度にされる。第2のタンタルターゲットは、それが金属酸化物成膜レジームで作用するように、酸素の相対的に高い濃度に曝露され、次いで酸素の中レベルの濃度にされる。2つのターゲットは次いで一緒にされ、依然として中レベル酸素濃度に曝露され、それらは両方のレジーム(金属成膜レジームの下で作用し続ける第1のターゲット及び金属酸化物成膜レジームの下で作用し続ける第2のターゲット)の下で基板上に材料を成膜するために使用される。
【0121】
ターゲットごとに異なる雰囲気曝露は多くの場合に必要とされないことがある。異なる履歴的な酸素曝露以外の他の要因により、ターゲットは異なる成膜レジームの下で作用することになる。例えば、ターゲットはターゲット内の異なる材料のために異なるヒステリシス曲線を有することがある。したがって、ターゲットは同じ雰囲気の酸素条件に履歴的にさらされ、同じ雰囲気の酸素条件下で処理されていても異なるレジームの下で作用できることがある。さらに、各ターゲットに印加される出力の量は各ターゲットによって遭遇する成膜レジームに著しく影響を及ぼすことがある。したがって、一例では、各ターゲットに印加される異なる出力のために、あるターゲットは金属成膜レジームの下で処理され、別のターゲットは金属酸化物成膜レジームの下で処理される。本手法は、ターゲットが異なる酸素濃度に曝露できるようにターゲットを互いから分離することを必要としないためより容易であることがある。ヒステリシス曲線の異なる点でターゲットを処理する1つの優位点は、成膜された物質の組成を厳密に制御できる点である。
【0122】
成膜処理の順序は第1のEC層、第2のIC層、及び最終的にCE層であると
図4Bに示され(
図2で暗示される)が、多様な実施形態では順序は逆にできることを理解されたい。言い換えると、本明細書に説明されるように、積層体層の「順次」成膜が列挙されるとき、上述した「順方向の」シーケンスと同様に、続く「逆方向の」順序、つまり第1のCE層、第2のIC層、及び第3のEC層をカバーすることが意図される。順方向のシーケンスと逆方向のシーケンスの両方とも信頼できる高品質のエレクトロクロミックデバイスとして機能できる。さらに、ここに列挙される多様なEC材料、IC材料、及びCE材料を成膜するために列挙される条件は係る材料を列挙することに制限されないことを理解されたい。他の材料は、一部の場合には同じ類似する条件下で成膜されてよい。さらに、IC層は特定の場合には省略されてよい。さらに、
図6及び
図7の文脈で説明される成膜された材料と同じまたは類似した成膜された材料を作り出すために、一部の実施形態では、スパッタリングなしの成膜条件を用いてよい。
【0123】
EC層及びCE層のそれぞれが安全に保持できる電荷の量は使用される材料に応じて変わるので、層のそれぞれの相対厚さは必要に応じて容量に適合するように制御されてよい。一実施形態では、エレクトロクロミック層は酸化タングステンを含み、対電極は酸化ニッケルタングステンタンタルを含み、エレクトロクロミック層対電極層の厚さの比率は約1.7:1と2.3:1の間、または約1.9:1と2.1:1の間である(約2:1が特有の例である)。
【0124】
再び
図4B、処理720を参照すると、CE層が成膜された後、EC積層体は完成する。
図4Aでは、「積層体を成膜する」を指すプロセス処理720は、この状況では、第2のTCO層(が第2のTCOを作るために酸化インジウムスズが使用されるときには「ITO」と呼ばれることもある)が加えられたEC積層体を意味することに留意されたい。概して、本明細書での「積層体」はEC‐IC‐CE層、すなわち、「EC積層体」を指す。再び
図4Bを参照すると、プロセス728によって表される一実施形態では、TCO層は積層体上に成膜される。
図2を参照すると、これはEC積層体625上の第2のTCO層630に対応する。いったんプロセス728が完了すると、プロセスフロー720は終了する。通常、必ずしも必要ではないが、キャッピング層がEC積層体に成膜される。一部の実施形態では、キャッピング層は、IC層と同様にSiAlOである。第2のTCO層を形成するための特定の成膜条件は、上記に参照により援用される米国特許出願第12/645,111号にさらに説明される。
【0125】
言及されたように、EC積層体は、積層体の製造中いずれのときでも統合成膜システムを離れない統合成膜システムで製造される。一実施形態では第2のTCO層も、基板がEC積層体及びTCO層の成膜中に統合成膜システムを離れない統合成膜システムを使用し、形成される。一実施形態では、層のすべては、基板が成膜中統合成膜システムを離れない統合成膜システムで成膜される。すなわち、一実施形態では、基板はガラス板であり、第1のTCO層と第2のTCO層との間に挟まれるEC層、IC層、及びCE層を含む積層体が、ガラスが成膜中に統合成膜システムを離れないガラス上で製造される。本実施形態の別の実施態様では、基板は統合成膜システムに入る前に拡散障壁が成膜されたガラスである。別の実施態様では、基板はガラスであり、拡散障壁、第1のTCO層と第2のTCO層との間に挟まれるEC層、IC層、及びCE層を含む積層体はすべて、ガラスが成膜中の統合成膜システムを離れないガラス上に成膜される。
【0126】
いかなる理論に拘束されることを望むものではないが、先行技術のエレクトロクロミックデバイスは、その内の1つが製造中のIC層の中への受け入れがたいほど多数の粒子の統合である多様な理由から高い欠陥品率に苦しんでいたと考えられる。EC層、IC層、及びCE層のそれぞれが制御された周囲環境下で単一の統合成膜装置で成膜されることを確実にする配慮はなされていなかった。1つのプロセスでは、IC層は、必ず他の真空統合プロセスとは別に実行されるゾルゲルプロセスによって成膜される。係るプロセスでは、EC層及び/またはCE層が制御された周囲環境で成膜され、それにより高品質の層を促進するとしても、基板はIC層を成膜するために制御された周囲環境から取り出される必要がある。これは、通常、IC層の形成の前に(真空または他の制御された周囲環境から外部環境へ)ロードロックに基板を通すことを必要とする。ロードロックの通過は、通常、基板上に多数の粒子を導入する。IC層が成膜される直前に係る粒子を導入することは、重大なIC層で欠陥が形成される可能性を大幅に高める。係る欠陥は、上述したように輝点または「星座」の発生につながる。
【0127】
上述したように、リチウムは、EC層、CE層、及び/またはIC層が基板上に形成される際に、それらの層に供給されてよい。これは、例えば所与の層の他の材料(例えば、タングステン及び酸素)とともにリチウムを同時にスパッタリングすることを必要とすることがある。以下に説明される特定の実施形態では、リチウムは別個のプロセスを介して供給され、EC層、CE層、及び/またはIC層に拡散させる、またはそれ以外の場合それらの層の中に導入させることができる。一部の実施形態では、エレクトロクロミック積層体の単一の層だけがリチオ化される。例えば、一部の例では、陽極着色するCE層だけがリチオ化される。他の場合では、陰極着色するEC層がリチオ化される。さらに他の場合には、IC層だけがリチオ化される。
【0128】
一部の実施形態では、エレクトロクロミック積層体は、間にイオン伝導性層なしにエレクトロクロミック層と直接的に物理的に接触する対電極層を含む。エレクトロクロミック層及び/または対電極層は、これらの層の他方と接触する酸素が豊富である部分を含んでよい。酸素が豊富である部分は、エレクトロクロミック層及び/または対電極層の残りの部分でよりも高い酸素濃度を有するエレクトロクロミック材料または対電極材料を含む。係る設計に従って製造されるエレクトロクロミックデバイスは、上記に参照により援用される、2010年4月30日に出願された米国特許第8,300,298号でさらに論ぜられ、説明される。
【0129】
特定の実施形態では、エレクトロクロミック積層体の製造は統合成膜システムにおいて行われる。係る統合システムは、真空を破壊することなく積層体内で多様な層の成膜を可能にしてよい。他の場合では、積層体内の1つまたは複数の層が、保護された真空環境からの取り出しを必要とするプロセスによって成膜されてよい。例えば、一部の場合では、1つまたは複数の層(例えば、陰極着色するEC層)が、物理蒸着を使用し真空下で基板に成膜され、次いで基板は真空から取り出され、イオン伝導体層はゾルゲル(または他の無真空)プロセスを使用し、成膜され、次いで基板は陽極着色する対電極層の成膜のために真空環境に戻される。ゾルゲルプロセスは、小さい分子から固形物を作り出すことを含む。モノマーは別個の粒子の統合ネットワークまたはネットワークポリマーのための前駆体として働くコロイド溶液に変換される。成膜されてよいイオン伝導体材料の例は、例えばシリカベース構造、ケイ酸リチウム、ケイ酸アルミニウムリチウム、ホウ酸リチウムアルミニウム(lithium aluminum borate)、ホウ酸リチウム、ケイ酸リチウムジルコニウム、ニオブ酸リチウム、ホウケイ酸リチウム、リンケイ酸リチウム、窒化リチウム、フッ化アルミニウムリチウム、及び他の係るリチウムベースのセラミック材料、シリカ、または酸化ケイ素、二酸化ケイ素、及び酸化タンタルを含む。
【0130】
<エレクトロクロミック積層体の直接的なリチオ化>
一部の実施形態では、上述したように、リチウムイオンのインターカレーションがエレクトロクロミックデバイス積層体の光学状態を切り替えることを担う。必要とされるリチウムが多様な手段によって積層体に導入されてよいことが理解されたい。例えば、リチウムは層の材料の成膜と同時に、これらの層の1つまたは複数に提供されてよい(例えば、EC層の形成中のリチウム及びタングステンの同時成膜)。しかしながら、一部の場合では、
図4BのプロセスはEC層、IC層、及び/またはCE層にリチウムを供給するための1つまたは複数の処理によって中断されてよい。例えば、リチウムは、リチウム元素が他の材料の実質的な成膜なしに供給される1つまたは複数の個別のリチオ化ステップを介して導入されてもよい。係るリチオ化ステップ(複数可)は、EC層、IC層、及び/またはCE層の成膜後に行われてよい。代わりに(またはさらに)、1つまたは複数のリチオ化ステップが、単一の層を成膜するために実行されるステップの間に実行されてもよい。例えば、対電極層は、最初に限られた量の酸化ニッケルタングステンタンタルを成膜し、続いてリチウムを直接的に成膜することによって成膜し、次いで追加の量の酸化ニッケルタングステンタンタルを成膜することによって終えられてよい。係る手法は、成膜を改善し、望ましくない副反応を防ぐ、ITO(または導電層の他の材料)からリチウムをうまく分離する等の特定の優位点を有してよい。別個のリチオ化処理を実行する積層体形成プロセスの一例が
図4Cに示される。特定の場合では、リチオ化処理(複数可)は、層の成膜が完成される前にリチウムを導入できるようにするために、所与の層の成膜が、一時的に中断される間に実行される。
【0131】
図4Cは、
図4Aのプロセス720と同様に基板上に積層体を成膜するためのプロセスフロー720aを示す。プロセスフロー720aは、
図4Bに関して説明されるように、EC層を成膜すること、処理722、IC層を成膜すること、処理724、及びCE層を成膜すること、処理726を含む。しかしながら、プロセスフロー720aは、リチオ化処理723及び727の追加により720とは異なる。一実施形態では、リチウムは、基板がエレクトロクロミック層、イオン伝導性層、対電極層、及びリチウムを順次成膜している間は、いずれのときでも統合成膜システムを離れない統合成膜システムを使用し、物理気相成長される。リチオ化のための特定の条件は、上記に参照により援用される米国特許出願代12/645,111号にさらに説明される。
【0132】
二重リチオ化方法の一実施形態では、上記に説明されたように、EC層は(例えば「隠れ電荷(blind charge)」を補償するために)EC材料に不可逆的に結合されたリチウムの要件を満たすほど十分なリチウムで処理される。可逆循環に必要とされるリチウムは(やはり隠れ電荷を有することがある)CE層に添加される。特定の実施形態では、EC層は、隠れ電荷を完全に補償するために十分なリチウムが添加されるまで実質的には変色しないので、隠れ電荷を補償するために必要とされるリチウムは、リチウムが添加されるにつれてEC層の光学密度を監視することによって滴定できる。
【0133】
当業者は、金属リチウムは自然発火性があり、つまり水分及び酸素にきわめて反応性に富むため、リチウムが酸素または水分に曝露される可能性がある本明細書に説明されるリチオ化方法は、真空雰囲気下で、不活性雰囲気下でのどちらかで、または両方で実行されることを理解するだろう。装置及び方法の制御された周囲環境は、特に複数のリチオ化ステップがあるリチウムの成膜において柔軟性を提供する。例えば、リチオ化が滴定プロセスで実行される場合、及び/または積層体の積層時の複数のステップの間に実行される場合、リチウムは、酸素または水分への曝露から保護され得る。
【0134】
特定の実施形態では、リチオ化は、EC層表面上での遊離リチウムが相当な厚さで形成されることを防ぐほど十分な速度で実行される。一実施形態では、EC層のリチオ化の間、リチウムターゲットは、リチウムがEC層の中に拡散するための時間を与えるのに十分に間隔をおいて配置される。任意選択で、基板(及びしたがってEC層)は、EC層の中へのリチウムをより良く拡散するように、約100℃と約150℃の間に加熱される。加熱は、別個にまたはターゲット離間させること及びターゲット(複数可)を通りすぎる基板並進させることを組み合わせて行われてよい。一部の場合では、基板は、基板へのリチウムの供給を遅くし、積層体表面での遊離した金属リチウムの蓄積を防ぐためにスパッタされたリチウムターゲットの前で前後に移動される。分離プロトコルは、リチオ化を実行するために使用されてよい。係るプロトコルは、上記に参照により援用される米国特許出願第12/645,111号にさらに説明される。
【0135】
図4Dは、基板上に積層体を成膜するための別のプロセスフロー720bを示す。プロセスは
図4Aのプロセスフロー700に類似している。プロセスフロー720bは、
図4Bに関して説明されるように、EC層を成膜すること(処理722)、IC層を成膜すること(処理724)、及びCE層を成膜すること(処理726)を含む。しかしながら、介入しているリチオ化処理727があるため、プロセスフロー720bは720とは異なる。積層体堆積のプロセスのこの実施形態では、すべての必要とされるリチウムは、CE層にリチウムを供給し、積層体製造中及び/または積層体製造後にIC層を通る拡散によってリチウムをEC層の中にインターカレーションできるようにすることによって添加される。
【0136】
<多段階熱化学調整>
再び
図4Aを参照すると、いったん積層体が成膜されると、デバイスには多段階熱化学調整(MTC)プロセスが実行される(ブロック730を参照)。通常、MTCプロセスは、エレクトロクロミック積層体のすべての層が形成された後にだけ実行される。MTCプロセス730の一部の実施形態は
図4Eにより詳細に示される。MTCプロセスは、例えば真空を破壊するもしくは積層体を製造するために使用される制御された周囲環境の外部に基板を移動することなく、完全にエクスサイチュで、つまり積層体を成膜するために使用される統合成膜システムの外部で、または少なくとも部分的にもしくは完全にインサイチュで、つまり成膜システムの内部で成膜できることに留意されたい。特定の実施形態では、MTCプロセスの初期の部分はインサイチュで実行され、プロセスの後の部分はエクスサイチュで実行される。特定の実施形態では、MTCの部分は、例えば第2のTCO層の成膜前に等、特定の層の成膜前に実行される。
【0137】
図4Eを参照すると、及び特定の実施形態に従って、デバイスは最初に、非反応性の条件下で(例えば不活性ガス下で)熱処理される。ブロック732を参照されたい。次に、デバイスは反応性の条件下で熱処理される。ブロック734を参照されたい。熱処理を実行するための特定の条件は、上記に参照により援用される米国特許出願第12/645,111号にさらに説明される。
【0138】
上述したように、追加の層は光学性能(例えば、反射防止)、(物理的な処理に起因する)耐久性、気密性等の改善のために必要とされることがある。これらの層の1つまたは複数の追加は、上述した実施形態に対する追加の実施形態に含まれることが意図される。
【0139】
本明細書に説明されるリチオ化及び高温処理の実施は、エレクトロクロミック積層体の多様な材料の組成及び構造に影響を及ぼすことがある。一例として、エレクトロクロミック積層体が、陽極着色するCE層と(別個のイオン伝導性層が陽極着色するCE層と陰極着色するEC層の間に成膜されずに)直接的に接触する陰極着色するEC層を含む場合、熱処理の実施は陰極着色するEC層及び陽極着色するCE層の組成及び/構造を、これらの層の間の界面領域で変更することがあり、それによってイオン伝導性の、電子絶縁特性を有する領域を形成する。同様に、リチオ化及び熱処理の実施は、陽極着色する対電極層の組成及び構造に影響を及ぼすことがある。多様な場合では、陽極着色する対電極層は係る処理を通して改善される。
【0140】
<デバイスの完成のための製造プロセス>
再び
図4Aを参照すると、第2のレーザー切込(ブロック740)が実行される。レーザー切込740は、第1のレーザー切込に垂直な基板の2つの側面で積層体の外縁の近くの基板の長さに沿って実行される。
図3は、レーザー切込740によって形成されるトレンチ626の場所を示す。また、この切込は、(第1のバスバーが接続される)第1のTCO層の分離された部分をさらに分離し、端縁で(例えば、マスク近くで)積層体コーティングを分離して積層体層の成膜ロールオフによる短絡を最小限に抑えるために、第1のTCO(及び存在する場合は拡散障壁)を貫通して基板まで実行される。一実施形態では、トレンチは幅が約100μmと300μmの間である。別の実施形態では、トレンチは幅が約150μmと250μmの間である。別の実施形態では、トレンチは幅が約150μmである。トレンチは、関連する構成要素を効果的に分離するほど十分に深い必要がある。
【0141】
次に、第3のレーザー切込745が第1のレーザー切込の反対で、且つ第1のレーザー切込に平行する基板の端縁価格の積層体の周縁に沿って実行される。この第3のレーザー切込は第2のTCO層及びEC積層体を分離するほど十分に深いにすぎず、第1のTCO層を貫通していない。
図2を参照すると、レーザー切込745は、トレンチ635を形成する。これは、EC積層体及び第2のTCOの均一な等角の部分を、最も外側の端縁部分から分離する。最も外側の端縁部分(例えば
図2に示されるように、トレンチ635を切断することによって分離される領域650の近くの層625及び630の部分)は、ロールオフに苦しむことがあり、近くに第2のバスバーが取り付けられる領域650の第1のTCO層と第2のTCO層との間で短絡を引き起こす。また、トレンチ635は、第2のバスバーから第2のTCOのロールオフ領域も分離する。トレンチ635は
図3にも示される。当業者は、レーザー切込2及び3が、異なる深さで切込されるが、単一のプロセスで行うことができ、それによりレーザー切断深さは、説明されるように基板の3つの側面の回りの連続経路の間で変えられる。最初に、第1のレーザー切込に垂直な第1の側面に沿って第1のTCO(及び任意選択で拡散障壁)を貫通するのに十分な深さで行い、次いで第1のレーザー切込に反対の且つ第1のレーザー切込に平行な側面に沿ってEC積層体の底部まで貫通するのに十分な深さで行い、及び、次いで再び第1のレーザー切込に垂直な第3の側面に沿った最初の深さで行う。
【0142】
再び
図4Aのプロセス700を参照すると、第3のレーザー切込の後に、バスバーが取り付けられる、プロセス750。
図2を参照すると、バスバー1、640、及びバスバーバー2、645が取り付けられる。バスバー1は、多くの場合、例えば超音波はんだ付けによって第2のTCO及びEC積層体を貫通するように押されて第2のTCO層と接触する。この接続方法は、バスバーが接触する第1のTCOの領域を分離するために使用されるレーザー切込プロセスを必要とする。当業者は、例えば、スクリーンパターン化方法及びリソグラフィーパターン化方法等のバスバー1を第2のTCO層と接続する(またはより従来のバスバーを交換する)他の手段が可能であることを理解する。一実施形態では、熱硬化が後に続く導電性インクのシルクスクリーン印刷によって(または別のパターン化方法を使用して)、またはインクを焼結することによって、デバイスの透明な伝導性層と電気的導通が確立される。係る方法が使用されるとき、第1のTCO層の一部分の分離は回避される。プロセスフロー700を使用することによって、エレクトロクロミックデバイスは、第1のバスバーが第2のTCO層630と電気的に導通し、第2のバスバーが第1のTCO層615と電気的に接続するガラス基板に形成される。このようにして、第1のTCO及び第2のTCOはEC積層体のための電極としての機能を果たす。
【0143】
再び
図4Aを参照すると、バスバーが接続された後、デバイスはIGUに統合される、プロセス755。IGUは基板の周縁の回りに(例えば、PVB(ポリビニルブチラール)、PIB、または他の適切なエラストマから作られる)ガスケットまたはシールを置くことによって形成される。必ずしも必要ではないが、通常は、水分を吸収するために組立て中にIGUフレームまたはスペーサバーに乾燥材が含まれる。一実施形態では、シールはバスバーを取り囲み、バスバーまでの導線がシールを貫通して伸長する。シールが配置された後、ガラスの第2のシートがシールに置かれ、基板、ガラスの第2のシート、及びシールによって生じる体積は、通常はアルゴンである不活性ガスで充填される。いったんIGUが完成すると、プロセス700は完了する。完成したIGUは例えば、窓枠、フレーム、またはカーテンウォールに設置し、エレクトロクロミック窓を操作するために電源及びコントローラに接続できる。
【0144】
上記の方法に関して説明されるプロセスステップに加えて、1つまたは複数の端縁除去ステップがプロセスフローに加えられてよい。端縁除去は、(
図2に関して説明される)エレクトロクロミックデバイスを例えば窓の中に組み込むための製造プロセスの一部であり、例えば、ロールオフは、デバイスを窓の中へ組み込む前に取り除かれる。マスクされていないガラスが使用される場合、IGUフレームの真下に伸長することになるコーティングは、IGUへ組み込む前に除去される(長期信頼性のために所望されない)。この端縁除去プロセスは、上記に示される実施形態に代替の実施形態として上記の方法に含まれることが意図される。
【0145】
特定の実施形態では、異なるプロセスフローは、エレクトロクロミックデバイスを製造するために使用されてよい。代替のプロセスフローは、それぞれその全体として参照により本明細書に援用される、2014年6月4日に出願され、「THIN‐FILM DEVICES AND FABRICATION」と題する米国特許出願第14/362,863号に、及び2013年2月8日に出願され、「DEFECT‐MITIGATION LAYERS IN ELECTOCHROMIC DEVICES」と題する米国特許出願第13/763,505号にさらに説明される。
【0146】
<統合成膜システム>
上記に説明されたように、統合成膜システムは、例えば建築用ガラス上でエケレクトロクロミックデバイスを製造するために利用されてよい。上述したように、エレクトロクロミックデバイスは、同様にエレクトロクロミック窓を作るために使用されるIGUを作るために使用される。用語「統合成膜システム」は、光学的に透明な基板及び半透明な基板上にエレクトロクロミックデバイスを製造するための装置を意味する。装置は、それぞれが、係るデバイスまたはその部分の洗浄、エッチング、及び温度制御だけではなく、エレクトロクロミックデバイスの特定の構成要素(または構成要素の一部分)を成膜する等の特定のユニット操作を専門に行う複数のステーションを有する。複数のステーションは、エレクトロクロミックデバイスが外部環境に曝露されることなく、製造されている基板があるステーションから次のステーションに移動できるように完全に統合されている。統合成膜システムは、プロセスステーションが位置するシステム内部の制御された周囲環境で動作する。完全に統合されたシステムは、成膜される層の間の界面特性のより優れた制御を可能にする。界面特性は、他の要因の中でも、層間の接着性、界面領域での汚染物質がないことを指す。用語「制御された周囲環境」は、開放大気環境またはクリーンルーム等の外部環境から分離された密閉環境を意味する。制御された周囲環境では、圧力及びガス組成の少なくとも1つは外部環境の状況とは独立して制御される。概して、必ずしもそうではないが、制御された周囲環境は、大気圧以下の圧力、例えば少なくとも不完全真空を有する。制御された周囲環境での状況は処理操作中一定のままとなることもあれば、経時的に変わることもある。例えば、エレクトロクロミックデバイスの層は制御された周囲環境の真空下で成膜されてよく、成膜処理の終わりには、環境は、パージガスまたは試薬ガスで際充填されてよく、別のステーションでの処理のために圧力を例えば大気圧まで高め、次いで次の処理のために真空が確立し直されてよい等である。
【0147】
一実施形態では、システムは直列に位置合わせされ、相互接続され、外部環境に基板を曝露することなくあるステーションから次のステーションに基板を輸送するよう作動する複数の成膜ステーションを含む。複数の成膜ステーションは(i)陰極着色するエレクトロクロミック層を成膜するための1つまたは複数のターゲットを含む第1の成膜ステーション、(ii)イオン伝導性層を成膜するための1つまたは複数のターゲットを含む第2の成膜ステーション、及び(iii)対電極層を成膜するための1つまたは複数のターゲットを含む第3の成膜ステーションを含む。第2の成膜ステーションは特定の場合には省略されてよい。例えば、装置は別個のイオン伝導体層を成膜するための任意のターゲットを含まないことがある。また、システムは、積層体を形成するために基板上に(i)エレクトロクロミック層、(ii)(任意選択の)イオン伝導性層、及び(iii)対電極層、を順次成膜するように、基板が複数のステーションを通過するためのプログラム命令を含むコントローラも含む。対電極層が2つ以上の副層を含む場合、副層は、他の要因の中でも各副層の所望される組成に応じて異なるステーションでまたは同じステーションで形成されてよい。一例では、第1のステーションは陰極着色するエレクトロクロミック層を成膜するために使用されてよく、第2のステーションは陽極着色する対電極層の第1の副層を成膜するために使用されてよく、第3のステーションは陽極着色する対電極層の第2の副層を成膜するために使用されてよい。
【0148】
一実施形態では、複数の成膜ステーションは真空を破壊することなくあるステーションから次のステーションに基板を通すよう作動する。別の実施形態では、複数の成膜ステーションは建築用ガラス基板にエレクトロクロミック層、任意選択のイオン伝導性層、及び対電極層を成膜するように構成される。別の実施形態では、統合成膜システムは、複数の成膜ステーションにいる間、建築用ガラス基板を垂直向きで保持するよう作動する基板ホルダー輸送機構を含む。さらに別の実施形態では、統合成膜システムは、外部環境と統合成膜システムとの間に基板を通すための1つまたは複数のロードロックを含む。別の実施形態では、複数の成膜ステーションは、陰極着色するエレクトロクロミック層、イオン伝導性層、及び陽極着色する対電極層から成るグループから選択される層を成膜するための少なくとも2つのステーションを含む。
【0149】
一部の実施形態では、統合成膜システムは、それぞれがリチウム含有ターゲットを含む1つまたは複数のリチウム成膜ステーションを含む。一実施形態では、統合成膜システムは2つ以上のリチウム成膜ステーションを含む。一実施形態では、統合成膜システムは動作中に個々のプロセスステーションを互いに分離させるための1つまたは複数の遮断弁を有する。一実施形態では、1つまたは複数のリチウム成膜ステーションは遮断弁を有する。本書では、用語「遮断弁」は、あるステーションで実行されている成膜または他のプロセスを、統合成膜システムの他のステーションでのプロセスから分離させるための装置を意味する。一例では、遮断弁は、リチウムが成膜される間に関与する統合成膜システムの中の物理的な(固体)遮断弁である。実際の物理的な固体の弁は、統合成膜システムの他のプロセスまたはステーションからリチウム成膜を完全にまたは部分的に分離させる(遮断する)ために関与してよい。別の実施形態では、遮断弁は気体ナイフまたは気体シールドであってよく、例えばアルゴンまたは他の不活性ガスの分圧はリチウム成膜ステーションと他のステーションとの間の領域を通されて、他のステーションへのイオンの流れを遮る。別の例では、遮断弁は、排出領域に進入するリチウムイオンまたは他のステーションからのイオンが、隣接プロセスを汚染するのではなく、例えば廃液流に除去されるように、リチウム成膜ステーションと他のプロセスステーションとの間の排出領域であってよい。これは、リチウム成膜が、統合成膜システムの他のプロセスから十分に分離されるように、統合成膜システムのリチオ化ステーションでの差圧によって、例えば制御された周囲環境において流体動態を介して達成される。繰り返しになるが、遮断弁はリチウム成膜ステーションに限定されるものではない。
【0150】
図5Aは、特定の実施形態に係る統合成膜システム800を概略で示す。この例では、システム800は、システムに基板を導入するための入口ロードロック802、及びシステムから基板を導出するための出口ロードロック804を含む。ロードロックは、システムの制御された周囲環境を乱すことなく基板を導入し、システムから導出することを可能にする。統合成膜システム800は、複数の成膜ステーション、例えばEC層成膜ステーション、IC層成膜ステーション、及びCE層成膜ステーションを有するモジュール806を有する。広義では、統合成膜システムはロードロックを有する必要はなく、例えばモジュール806は単独で統合成膜システムとしての機能を果たすことができる。例えば、基板は、モジュール806にロードされてよく、制御された周囲環境を確立し、次いで基板はシステム内の多様なステーションを通して処理されてよい。統合成膜システムの中の個々のステーションは加熱器、冷却器、多様なスパッタターゲット及び該スパッタターゲットを移動するための手段、RF電源及び/またはDC電源及び電源供給機構、例えばプラズマエッチング等のエッチングツール、ガス源、真空源、グロー放電源、プロセスパラメータモニタ及びプロセスパラメータセンサ、ロボット、電源等を含むことがある。
【0151】
図5Bは、斜視図で、及び内部の切断図を含むより多くの詳細とともに統合成膜システム800のセグメント(または簡略化されたバージョン)を示す。この例では、システム800はモジュール方式であり、入口ロードロック802及び出口ロードロック804は成膜モジュール806に接続されている。例えば建築用ガラス基板825をロードするための入口ポート810がある(ロードロック804は対応する出口ポートを有する)。基板825は、トラック815に沿って移動するパレット820によって支持される。この例では、パレット820は下降傾斜を介してトラック815によって支持されるが、パレット820は装置800の底部近くに位置するトラック、または例えば、装置800の上部と底部との間の通路等のトラックの頂上で支持することもできる。パレット820は、システム800を通して前方及び/または後方に(両矢印によって示されるように)並進できる。例えば、リチウム成膜中、基板はリチウムターゲット830の前で前方及び後方に移動され、所望されるリチオ化を達成するために複数回通過してよい。パレット820及び基板825は実質的に垂直に配向されている。実質的に垂直な配向は、これに制限されるものではないが、例えばスパッタリングからの原子の凝集から生成される粒状物質は重力に屈する傾向があり、基板825に成膜しないため、実質的に欠陥を防ぐのに役立ってよい。また、建築用ガラス基板は大きくなる傾向があるため、基板が統合成膜システムのステーションを横切る際に、基板を垂直に配向することは、より厚い熱いガラスで発生するたるみに対する懸念が少ないので、より薄いガラス基板のコーティングを可能にする。
【0152】
ターゲット830は、この場合は円筒形のターゲットであるが、成膜を実行する(便宜上、他のスパッタ手段はここでは示されない)基板表面に実質的に平行に且つ基板表面の前で配向される。基板825は成膜中ターゲット830を通り過ぎて並進できる、及び/またはターゲット830は基板825の前を移動できる。ターゲット830の移動経路は基板825の経路に沿った並進に制限されない。ターゲット830はその長さ方向の軸に沿って回転し、基板の経路に沿って(前方に及び/または後方に)並進し、基板の経路に垂直な経路に沿って並進し、基板825に平行な面内での円状の経路で移動する等であってよい。ターゲット830は円筒形である必要はなく、ターゲット830は平面的または所望される特性を有する所望される層の成膜に必要な任意の形状とすることができる。また、各成膜ステーションに複数のターゲットがあってよく、及び/またはターゲットは所望されるプロセスに応じてステーション間で移動してよい。
【0153】
また、統合成膜システム800は、システムの中で制御された周囲環境を確立し、維持する多様な真空ポンプ、気体流入口、圧力センサ等も有する。これらの構成要素は図示されていないが、当業者によって当然理解されるだろう。システム800は、LCD及びキーボード835を伴って
図5Bで表される、例えばコンピュータシステムまたは他のコントローラを介して制御される。当業者は、本明細書の実施形態が1つまたは複数のコンピュータシステムに記憶される、または1つまたは複数のコンピュータシステムを通して転送されるデータを含む多様なプロセスを利用してよいことを理解するだろう。また、実施形態は、これらの操作を実行するためのコンピュータ及びマイクロコントローラ等の装置にも関する。これらの装置及びプロセスは、本明細書の方法及び方法を実行するように設計された装置に係るエレクトロクロミック材料を成膜するために利用されてよい。制御装置は、必要とされる目的のために特別に構築されてよい、または制御装置はコンピュータに記憶されるコンピュータプログラム及び/またはデータ構造によって選択的に作動または再構成される汎用コンピュータであってよい。本明細書に示されるプロセスは任意の特定のコンピュータまたは他の装置に本質的に関係していない。特に多様な汎用機械は本明細書の教示に従って作成されるプログラムと共に使用されてよい、または必要とされる方法及びプロセスを実行する及び/または制御する、より専門化された装置を構築する方がより便利なことがある。
【0154】
上述したように、統合成膜システムの多様なステーションはモジュール方式であってよいが、いったん接続されると、システムの中の多様なステーションで基板を処理するために制御された周囲環境が確立され、維持される連続システムを形成する。
図5Cは、システム800に類似する統合成膜システム800aを示すが、この例ではステーションのそれぞれ、具体的にはEC層ステーション806a、IC層ステーション806b、及びCE層ステーション806cはモジュール方式である。類似した実施形態では、IC層ステーション806bは省略される。モジュール方式の形は必要ではないが、カスタムニーズ及び新たに出現するプロセスの進歩に従って、必要性に応じて統合成膜システムを組み立てることができるため、モジュール方式の形は便利である。例えば、
図5Dは、2つのリチウム成膜ステーション807a及び807bを有する統合成膜システム800bを示す。システム800bは、例えば上述したように、
図4Cと関連して説明される二重リチオ化方法等の、本明細書に係る方法を実行するために装備される。システム800bは、例えば基板の処理中にリチウムステーション807bを活用するだけで、
図4Dと関連して説明される方法等の単一リチオ化方法を実行するためにも使用できる。しかし、モジュール方式のフォーマットを用いると、例えば単一リチオ化が所望されるプロセスである場合、リチオ化ステーションの1つは余分であり、
図5Eに示されるように、システム800cが使用できる。システム800cは1つのみのリチウム成膜ステーション807を有する。
【0155】
システム800b及び800cは、EC積層体にTCO層を成膜するためのTCO層ステーション808も有する。プロセスの要求に応じて、例えば洗浄プロセス、レーザー切込、キャッピング層、MTC等のためのステーション等、追加のステーションが統合成膜システムに追加できる。
【0156】
上記の実施形態は理解を容易にするために、ある程度詳細に説明されてきたが、説明されている実施形態は例示的と見なされるべきであり、制限的と見なされるべきではない。特定の変更及び変更形態が添付の特許請求の範囲の範囲内で実施できることは当業者に明らかである。
【0157】
<実験結果>
実験結果は、開示されているNiWTaO材料が非常に高品質の着色特性を示すことを示している。特に、NiWTaO材料は、その消色状態において非常に澄んで(透明で)おり、その消色状態でもいくぶん色が付いている他の材料と比較すると、より少ない色(特に黄色)を有している。さらに、NiWTaO材料は経時的に良好な切替え特性を示す。言い換えると、切替え速度は、切替え速度がますます遅くなる特定の他の材料と比較すると、対電極の寿命に亘って著しく減少することはない。
【0158】
<NiWTaO成膜>
混合された酸化ニッケルタングステンタンタルである、NiWTaOは、基板が成膜チャンバ内で前後にラスタ化されるのにつれ、スパッタされた材料の非常に薄い層の反復される成膜を使用し、成膜されてよい。チャンバ圧力が約10mTorrでのアルゴン及び酸素分子の混合物でのNiW合金及びタンタル金属ターゲットの反応性スパッタリングが使用されてよい。NiW合金ターゲットは、Ni及びWの粉末を使用する熱間静水圧プレス(HIP)方法を使用し、作り出されてよい。各ターゲットに対する出力は、2つの同期パルスDC電源を使用し、独立して制御される。Ta対Ni+Wの比率は、2つのターゲット間の出力の比を変えることによって調整される。所与の出力状態のNiWTaOの厚さは、基板が成膜チャンバを通って移動するにつれ、基板を加速させるまたは減速させることによって変更できる。対電極全体の所望される厚さを達成するために、ターゲットの前を通過する回数は、必要に応じて増加できる、または減少できる。膜の酸化の程度は、全圧だけではなくスパッタリングガスのAr及びO2の分圧も調整することによって制御できる。これらのプロセスパラメータの操作を通じて、NiW:Ta:Oの比率を制御できる。加熱器は温度変動のために使用されてよいが、最高性能の膜及びデバイスは通常追加の加熱なしに成膜される。基板温度は通常100℃未満である。
【0159】
一例として、高性能対電極は、出力設定値及び基板速度設定値が1回の通過で5nm未満の厚さを達成するように選択された、純粋な酸素環境でのスパッタリングによって達成されてよい。150回を超える成膜システムの通過は、一部の場合では、膜厚を構築するために実行できる。2つのスパッタターゲットの電源は、NiW電力(例えば約6kW)がTa電力(例えば約0.5kW)よりも大きくなるように(例えば約12倍大きい)選ばれてよい。結果として生じるNi:(W+Ta)比は約2:1であってよい。
【0160】
<他の実施形態>
上記実施形態は理解を容易にするためにある程度詳細に説明されてきたが、説明されている実施形態は例示的と見なされるべきであり、制限的と見なされるべきではない。特定の変更及び変更形態が添付の特許請求の範囲の範囲内で実施できることは当業者に明らかである。