(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】後方受圧式のピストンを有するバルブノズル
(51)【国際特許分類】
B29C 45/20 20060101AFI20220509BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
B29C45/20
B29C45/26
(21)【出願番号】P 2018038577
(22)【出願日】2018-03-05
【審査請求日】2020-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】394018225
【氏名又は名称】フィーサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073210
【氏名又は名称】坂口 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100173668
【氏名又は名称】坂口 吉之助
(72)【発明者】
【氏名】越川 仁
【審査官】馳平 憲一
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-043218(JP,A)
【文献】実開昭61-031717(JP,U)
【文献】特開2005-186336(JP,A)
【文献】特開2002-001765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディの先端に取り付けられたキャップと、
前記キャップの内部空間に配設されたピストンと、
前記キャップの内部空間に配設され、前記ピストンを摺動自在に支持するカラーと、
前記ピストンを反ゲート方向に付勢するコイルバネと、から成るゲート開閉機構を備えた構成
のバルブノズルであって、
前記バルブノズルの内部の全体に対して、溶融樹脂が流入する構成であり、
前記ピストンは、ゲートバルブ部、軸部及び後方バルブ部を有し、
前記ゲートバルブ部は、前記キャップに設けられたゲートの外側に突き出すことで該ゲートを開放する構成であり、
前記後方バルブ部に対する樹脂圧が所定値以下であると、前記ピストンが、前記コイルバネにより反ゲート方向に付勢されることによって、該後方バルブ部が閉となり、
前記後方バルブ部に対する樹脂圧が所定値以上になると、前記コイルバネの付勢力に打ち勝って、前記後方バルブ部がゲート方向へ移動することによって開となると共に、ゲートバルブ部も開とな
り、
前記後方バルブ部が閉の場合は、該後方バルブ部が嵌合することによって樹脂流路が閉塞される構成であり、
ゲートバルブ部が閉状態から開状態になるまでのストロークよりも、後方バルブ部が閉状態から開状態になるまでのストロークが長く設定されたことを特徴とするバルブノズル。
【請求項2】
後方バルブ部の面積が、ゲートバルブ部の面積の1.5倍以上であることを特徴とする請求項1に記載のバルブノズル。
【請求項3】
以下に示される数式1によ
って、ピストンの推力Tが20N以上となるように、パラメータb、c、e及びfの各サイズが設定される構成であることを特徴とする請求項1又は2に記載のバルブノズル。
【数1】
ただし、上記a~fは次の通りである。
a:射出開始時の射出樹脂圧力(MPa)
b:ゲートバルブ部-後方バルブ部間の樹脂体積(mm
3)
c:ゲートバルブ部が開放するストローク(mm)
d:樹脂の体積弾性係数(MPa)
e:ゲートバルブ部の面積(mm
2)
f:後方バルブ部の面積(mm
2)
【請求項4】
以下に示される数式2によ
って、ピストンの推力Tが20N以上となるように、パラメータb、c、e及びfの各サイズが設定される構成であることを特徴とする請求項1~3のいずれに記載のバルブノズル。
【数2】
ただし、上記gは次の通りである。
g:ゲートバルブ部-後方バルブ部間の樹脂残存圧力(MPa)
【請求項5】
以下に示される数式3によ
って、ピストンの推力Tが20N以上となるように、パラメータb、c、e及びfの各サイズが設定される構成であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のバルブノズル。
【数3】
ただし、上記h~iは次の通りである。
h:固化樹脂などによる作動抵抗(N)
i:コイルバネの荷重(N)
【請求項6】
ピストンの推力T(N)が、50N以上
となるように、パラメータb、c、e及びfの各サイズが設定される構成であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のバルブノズル。
【請求項7】
ピストンの推力T(N)が、100N以上
となるように、パラメータb、c、e及びfの各サイズが設定される構成であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のバルブノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機に用いられるバルブノズルに関し、詳しくは、射出成形機から送出される溶融樹脂の圧力によって、ノズル先端のゲートを開閉させる構成の樹脂圧作動式バルブノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、射出成形機から送り込まれる溶融した樹脂の圧力によって、ノズル先端のゲートの開閉を制御するバルブノズルが知られている。かかる方式のバルブノズルを、樹脂圧作動式のバルブノズルということがある。この樹脂圧作動式のバルブノズルとして、例えば、特許文献1を挙げることができる。
【0003】
特許文献1に記載の技術は、「ノズルホルダー(ボディ)の先端に取り付けられたノズルヘッド(キャップ)の内部空間に、断面円形部分のヘッド部分(ゲートバルブ部)と該ヘッド部分全周から連続して形成されている括れ部と軸部と矢羽状突起とを有するスプール(ピストン)と、ノズルヘッド(キャップ)の内部空間に配設されスプール(ピストン)の軸部の外径を摺動自在に支持してスプール(ピストン)のガイドとなると共に先端部がゲート近傍まで達するように伸びているカラーと、前記スプール(ピストン)を反ゲート方向に付勢するコイルバネとから成るゲート開閉機構を配置し、樹脂の圧力がある一定値以下である時には前記スプール(ピストン)が前記コイルバネにより反ゲート方向に付勢されて前記スプール(ピストン)のヘッド部分(ゲートバルブ部)の断面円形の全周がノズルヘッド(キャップ)のゲート内壁に当接して樹脂流路が閉となり、樹脂の圧力がある一定値以上になると前記コイルバネの付勢力に打ち勝って前記スプール(ピストン)のヘッド部分がノズルヘッド(キャップ)のゲートの外側に突出され、前記スプール(ピストン)の括れ部とゲート内壁部分との間に樹脂流路が形成されて樹脂流路が開となる構成」のバルブノズルである。
【0004】
この特許文献1に記載の技術によれば、送り込まれる樹脂の圧力によってピストンが作動し、ゲートの開閉を制御する構成なので、ピストンを作動させるための機構(例えば、シリンダ。)が不要である。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術では、ピストンの駆動力が不足し、ゲートの開閉制御に支障をきたす問題があった。特に、多数個取りといわれるノズルを多数有する構成では、各ノズルに加わる樹脂圧が均一ではないことがあり、ノズルの作動にバラツキが生ずるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の課題は、樹脂圧作動式のバルブノズルについて、樹脂圧によるゲート開閉の確実性を向上させ、特に多数個取りに用いられるバルブノズルについて、安定した作動を実現することができるバルブノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記本発明の課題は、下記の手段により達成される。
1.ボディの先端に取り付けられたキャップと、
前記キャップの内部空間に配設されたピストンと、
前記キャップの内部空間に配設され、前記ピストンを摺動自在に支持するカラーと、
前記ピストンを反ゲート方向に付勢するコイルバネと、から成るゲート開閉機構を備えた構成のバルブノズルであって、
前記バルブノズルの内部の全体に対して、溶融樹脂が流入する構成であり、
前記ピストンは、ゲートバルブ部、軸部及び後方バルブ部を有し、
前記ゲートバルブ部は、前記キャップに設けられたゲートの外側に突き出すことで該ゲートを開放する構成であり、
前記後方バルブ部に対する樹脂圧が所定値以下であると、前記ピストンが、前記コイルバネにより反ゲート方向に付勢されることによって、該後方バルブ部が閉となり、
前記後方バルブ部に対する樹脂圧が所定値以上になると、前記コイルバネの付勢力に打ち勝って、前記後方バルブ部がゲート方向へ移動することによって開となると共に、ゲートバルブ部も開となり、
前記後方バルブ部が閉の場合は、該後方バルブ部が嵌合することによって樹脂流路が閉塞される構成であり、
ゲートバルブ部が閉状態から開状態になるまでのストロークよりも、後方バルブ部が閉状態から開状態になるまでのストロークが長く設定されたことを特徴とするバルブノズル。
【0009】
2.後方バルブ部の面積が、ゲートバルブ部の面積の1.5倍以上であることを特徴とする上記1に記載のバルブノズル。
【0010】
3.以下に示される数式1によ
って、ピストンの推力Tが20N以上となるように、パラメータb、c、e及びfの各サイズが設定される構成であることを特徴とする上記1又は2に記載のバルブノズル。
【数1】
ただし、上記a~fは次の通りである。
a:射出開始時の射出樹脂圧力(MPa)
b:ゲートバルブ部-後方バルブ部間の樹脂体積(mm
3)
c:ゲートバルブ部が開放するストローク(mm)
d:樹脂の体積弾性係数(MPa)
e:ゲートバルブ部の面積(mm
2)
f:後方バルブ部の面積(mm
2)
【0011】
4.以下に示される数式2によ
って、ピストンの推力Tが20N以上となるように、パラメータb、c、e及びfの各サイズが設定される構成であることを特徴とする上記1~3のいずれに記載のバルブノズル。
【数2】
ただし、上記gは次の通りである。
g:ゲートバルブ部-後方バルブ部間の樹脂残存圧力(MPa)
【0012】
5.以下に示される数式3によ
って、ピストンの推力Tが20N以上となるように、パラメータb、c、e及びfの各サイズが設定される構成であることを特徴とする上記1~4のいずれかに記載のバルブノズル。
【数3】
ただし、上記h~iは次の通りである。
h:固化樹脂などによる作動抵抗(N)
i:コイルバネの荷重(N)
【0013】
6.ピストンの推力T(N)が、50N以上となるように、パラメータb、c、e及びfの各サイズが設定される構成であることを特徴とする上記1~5のいずれかに記載のバルブノズル。
【0014】
7.ピストンの推力T(N)が、100N以上となるように、パラメータb、c、e及びfの各サイズが設定される構成であることを特徴とする上記1~5のいずれかに記載のバルブノズル。
【発明の効果】
【0015】
上記1に示す発明は、いわゆる樹脂圧作動式のバルブノズルに関するものであるため、シリンダ等のピストンを作動させるための機構を必要とせず、射出成型機そのものの小型化や低コスト化に貢献することができる。
【0016】
また、従来の樹脂圧作動式バルブノズルは、ピストンの先端部分であるゲートバルブ部が受ける樹脂圧によってピストンを作動させ、ゲートを開閉させる構成であったが、本発明は、ピストンの後方(ゲートとは他端の位置)に後方バルブ部を設けることによって、この後方バルブ部に加わる樹脂圧によってピストンを作動させ、ゲートを開閉させる構成であるため、ピストンはより大きな駆動力を得ることができ、ピストンの作動、即ちゲートの開閉を確実に行うことができる。
【0017】
これらの作用効果を換言すれば、ゲートバルブ部の面積(樹脂圧を受ける面積であり、ゲートの断面積に相当する。)よりも、後方バルブ部の面積(樹脂圧を受ける面積であり、後方バルブ部によって開閉される樹脂流路の断面積に相当する。)の方が大きいため、受ける樹脂圧もこれに比例して大きく、本発明に係るピストンはより大きな駆動力を得ることができ、ピストンの作動、即ちゲートの開閉を確実に行うことができる。
【0018】
上記2に示す発明によれば、後方バルブ部の面積を、ゲートバルブ部の面積の1.5倍以上とすることで、後方バルブ部が受ける樹脂圧は大きくなり、ピストンはより大きな駆動力を得ることができ、ピストンの作動、即ちゲートの開閉をより確実に行うことができる。
【0019】
上記3に示す発明によれば、a~fの符号で示される各パラメータを調整し、これらを数式1に代入して算出したピストンの推力T(N)を高めることによって、ピストンはより大きな駆動力を得ることができ、ピストンの作動、即ちゲートの開閉をより確実に行うことができる。
換言すれば、使用する樹脂の特性(弾性係数など)に応じて、バルブノズルの寸法等を調整し、高い駆動力を得ることができるバルブノズルを設計可能である。
【0020】
上記4に示す発明によれば、gの符号で示されるパラメータをも追加して合計推力T(N)を求めることで、この求められた合計推力の正確性を高めることができる。
【0021】
上記5に示す発明によれば、h及びiの符号で示されるパラメータをも追加して合計推力T(N)を求めることで、この求められた合計推力の正確性をより高めることができる。
【0022】
上記6~7に示す発明によれば、ピストンの合計推力T(N)を50N以上又は100N以上とすることで十分な推力を得ることができるので、ピストンはより大きな駆動力を得ることができ、ピストンの作動、即ちゲートの開閉を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係るバルブノズルの一実施例(フルキャップ型)であって、ゲートが閉の状態を表す部分断面図及び部分断面斜視図
【
図2】本発明に係るバルブノズルの一実施例(フルキャップ型)であって、ゲートが開の状態を表す部分断面図及び部分断面斜視図
【
図3】本発明に係るバルブノズルの他の実施例(トップレス型)であって、ゲートが閉の状態を表す部分断面図及び部分断面斜視図
【
図4】本発明に係るバルブノズルの他の実施例(トップレス型)であって、ゲートが開の状態を表す部分断面図及び部分断面斜視図
【
図5】ゲートバルブ部が開で、後方バルブ部が閉の状態を表す部分断面図
【
図6】本発明に係るバルブノズルの他の実施例(ピストンリブセパレート型)であって、ゲートが閉の状態を表す部分断面図及び部分断面斜視図
【
図7】本発明に係るバルブノズルの他の実施例(ピストンリブセパレート型)であって、ゲートが開の状態を表す部分断面図及び部分断面斜視図
【
図8】ゲートバルブ部のストローク幅を説明するための部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係るバルブノズル(以下、単に「バルブノズル」という。)1について、図面に従って説明する。
図1は、バルブノズル1の一実施例を表す断面図及び断面斜視図であって、ゲートが閉の状態を表し、
図2は、バルブノズル1の一実施例を表す断面図及び断面斜視図であって、ゲートが開の状態を表す。
また、
図3は、バルブノズル1の他の実施例を表す断面図及び断面斜視図であって、ゲートが閉の状態を表し、
図4は、バルブノズル1の他の実施例を表す断面図及び断面斜視図であって、ゲートが開の状態を表す。
【0025】
図1~4に示されるとおり、バルブノズル1は、ピストン2、キャップ3、カラー4及びコイルバネ5から構成される。
なお、
図1~2と、
図3~4の構成の相違点は、キャップ3の形態のみである。
図1~2は、キャップ3がフルキャップやトップタイプと呼ばれる形態(以下、「フルキャップ型」という。)であり、
図3~4は、キャップ3がトップレスタイプと呼ばれる形態(以下、「トップレス型」という。)である。なおまた、
図1~4の断面図及び断面斜視図は、ピストン2以外の部分を断面で表わし、ピストン2については表面を表す。
【0026】
図1~2に示されるフルキャップ型は、ゲート31がキャップ3に設定され、キャップ3の先端が金型(
図1~2では図示しない。)に嵌合して設置される構成である。
このフルキャップ型は、ゲート31がキャップ3に設けられ、金型にはゲートを必要としないため、金型の加工が容易であるという利点がある。また、キャップ3の材質や形状などで温度制御が可能であるため、ゲート付近の温度制御が容易に可能であるという利点がある。更に、使用によりゲートが磨耗した場合に、ノズル部品の交換で対応が可能であり、換言すれば、金型の交換が不要であり、メンテナンス時間の短縮やメンテナンスコストの削減といった利点がある。
【0027】
一方、
図3~4に示されるトップレス型は、ゲート31が金型Kに設定される構成である。
このトップレス型は、成形品に残るノズル跡が小さいという利点がある。なお、フルキャップ型では、成形品にゲート部分の跡だけでなく、キャップ3と金型との嵌合部の跡も残るという問題がある。また、斜面や曲面といった特殊な形状であっても、ゲートの設定が比較的容易に可能であるという利点がある。
【0028】
ピストン2は、キャップ3に形成されたゲート31を閉塞又は開放することによって、ゲート31を開閉するための部材である。
ピストン2は、ゲートバルブ部21及び後方バルブ部22の2つのバルブ(弁)を備える構成である。ゲートバルブ部21と後方バルブ部22は、軸部23によって接続される。また、軸部23には、後述するカラー4と接触し、ピストン2のストロークを制御するための突起部24が設けられる。
【0029】
上述の通り、ピストン2は、ゲートバルブ部21、後方バルブ部22、軸部23及び突起部24から構成され、これらが一体に成形された態様でもよいし、2以上の部材に形成され、これらを接続した態様であってもよい。また、これらを形成する材料についても限定はない。
【0030】
ゲートバルブ部21は、ピストン2の先端に位置し、後述するキャップ3に形成されたゲート31のバルブ(弁)となり、このゲート31を開閉する。具体的には、ゲートバルブ部21が閉状態(
図1に示される状態)の場合は、ゲート31を閉塞して溶融樹脂を通過させず、開状態(
図2に示される状態)の場合は、ゲートバルブ部21がゲート31の外側に突き出すことでゲート31を開放し、このゲート31から溶融樹脂が通過可能な状態となる。
【0031】
ゲートバルブ部21の形状に限定はなく、この種の分野に用いられる公知公用のバルブ形状を特別の制限無く採用することができる。
【0032】
後方バルブ部22は、ゲートバルブ部21とは他端側に位置し、ボディ6に形成された樹脂流路61の弁となり、この樹脂流路61を開閉する。具体的には、後方バルブ部22が閉状態(
図1に示される状態)の場合は、樹脂流路61を閉塞して溶融樹脂が通過せず、開状態(
図2に示される状態)の場合は、後方バルブ部22が樹脂流路61からゲート31方向へ移動して弁を開放し、ボディ6側からキャップ3やカラー4内に溶融樹脂が流入可能な状態となる。
【0033】
ゲートバルブ部21と後方バルブ部22の開閉動作は基本的に連動しており、後方バルブ部22が開状態であるときは、ゲートバルブ部21も開状態となる構成である。そして、ゲートバルブ部21が閉状態であるときは、後方バルブ部22も閉状態である。
【0034】
一方、後方バルブ部22が閉状態であるときには、ゲートバルブ部21が必ず閉状態になるとはいえない。
図5に示されるような状態、即ち、後方バルブ部22が閉状態から開状態に至る移動の途中(後方バルブ部22は閉状態)で、ゲートバルブ部21が先に開状態となる場合がある。具体的には、ゲートバルブ部21が閉状態から開状態になるまでのストロークよりも、後方バルブ部22が閉状態から開状態になるまでのストロークの方が長く設定されている場合に、後方バルブ部22が閉状態で、ゲートバルブ部21が開状態となる場合がある(
図5に示される状態)。
【0035】
前述のように、後方バルブ部22が閉状態で、ゲートバルブ部21が開状態となる場合
において、ゲート31から溶融樹脂が送出されるか否かが問題となる。この場合、ゲート31から溶融樹脂が出る可能性はあるものの、ゲート31付近の樹脂は固化しているケースが多く、通常はゲート31から溶融樹脂が出ることはない。また、後方バルブ部22が閉状態であるため、ゲート31付近の樹脂圧は限定的であり、勢いよく送出されることはない。
ただし、この場合におけるゲート31からの溶融樹脂の送出の有無は、本発明の内容を限定するものではない。
【0036】
このように、ゲートバルブ部21が閉状態から開状態になるまでのストロークよりも、後方バルブ部22が閉状態から開状態になるまでのストロークが長く設定することによって、ゲート31付近で固化した樹脂を排出するために必要な駆動力を継続することができる。
【0037】
後方バルブ部22の形状に限定はなく、この種の分野に用いられる公知公用のバルブ形状を特別の制限無く採用することができる。
【0038】
後方バルブ部22の面積(樹脂流路61の径に相当し、溶融樹脂の圧力を受ける面の断面積。)は、ゲートバルブ部21の面積(ゲート31の径に相当し、溶融樹脂の圧力を受ける面の断面積。)よりも大きく形成される。これにより、ゲートバルブ部21が受ける樹脂圧よりも、後方バルブ部22が受ける樹脂圧のほうが大きくなるので、得られるピストン2の駆動力も大きくなり、ピストン2の作動、即ちゲート31の開閉を確実に行うことができる。
【0039】
軸部23は、一端側と他端側に位置するゲートバルブ部21と後方バルブ部22を接続する棒状の部材である。軸部23の形状に限定はなく、単なる棒状の形態でもよいし、
図1等に示されるように、1又は2以上のテーパー部を有する形態であってもよい。
【0040】
突起部24は、後述するカラー4と当接し、ピストン2のストロークを制御するための部材である。例えば、
図1等に示されるように、軸部23から外周方向へ矢羽状に突出した態様に形成することができ、この突起部24の端部が、カラー4の壁面又は摺動部41に当接し、ピストン2のストロークを制御する構成である。
【0041】
突起部24の形状に限定はなく、この種の分野に用いられる公知公用の突起部形状を特別の制限無く採用することができる。
図1~4に示される実施例では、4つの羽根を有する矢羽状の形状である。
【0042】
図1~4に示される構成では、突起部24は、後述するコイルバネ5が当接する箇所を兼ねる構成である。
一方で、
図1~4に示される構成とは異なり、軸部23の長手方向に2つ突起部24を並列させ、一方をカラー4との摺動によりピストン2のストロークを制御するために、他方をコイルバネ5に当接してピストン2を反ゲート方向に付勢するための部材として用いてもよい。
【0043】
上述した2つの突起部24を設ける構成の実施例を、
図6~7に示す。
図6~7に示されるバルブノズル1は、後方バルブ部22の付近に設けられ、カラー4との摺動によりピストン2のストロークを制御する第1突起部24aと、コイルバネ5に当接してピストン2を反ゲート方向に付勢する第2突起部24bとが別個に設けられた構成である。
【0044】
なお、ピストン2に設けられる突起部24は、ピストンリブと呼ばれることがあり、図
6~7に示されるような2つの突起部24が設けられる構成を、ピストンリブセパレート型と呼ぶことがある。
図6~7に示される実施例では、フルキャップ型のバルブノズル1に、突起部24を2つ設けた構成であるが、トップレス型のバルブノズル1に突起部24を2つ設けた構成であってもよい。また、フルキャップ型又はトップレス型を問わず、突起部24を3つ以上設けた構成であってもよい。
【0045】
キャップ3は、ボディ6の先端に取り付けられる部材であり、
図1~2に示されるフルキャップ型では、溶融樹脂を金型へ送出するためのゲート31を有する。一方で、
図3~4に示されるトップレス型では、金型Kにゲート31が設定される構成であるため、ゲートバルブ部21がキャップ3の先端から常に突出した構成である。
キャップ3は、ノズルヘッド等と呼称されることもある。キャップ3は、ボディ6に対して脱着可能に取り付けられ、例えば、螺合等の手段によって取り付けられる。
【0046】
ゲート31は、射出成形機から送り出された溶融樹脂を、金型へ送出するための出口となる孔である。このゲート31は、前述のピストン2の先端に位置するゲートバルブ部21によって、閉塞又は開放され、これによりゲートが閉状態又は開状態となることによって、溶融樹脂が金型へ送出されるタイミングや量を制御する。
【0047】
カラー4は、キャップ3又はボディ6の内部空間(溶融樹脂の流路となり得る空間)に設けられ、ピストン2の軸部23の外径又は軸部に設けられた突起部24を摺動可能に支持するガイド部材である。カラー4は、ピストン2を摺動可能に支持すると共に、ピストン2のストロークを制御し、換言すれば、ピストン2の摺動範囲を制限する。
【0048】
図1~4又は
図6~7に示される実施例では、ピストン2の突起部24が4つの羽根を有する矢羽状の形状であり、カラー4は、この各羽根に対応した摺動部41を有する構成である。この摺動部41は、突起部24をガイドする溝状の形態であり、複数の突起部24と摺動部41によって支持されることによって、ピストン2は安定したストロークが可能である。
【0049】
コイルバネ5は、キャップ3の内部空間に配設され、ピストン2を反ゲート方向に付勢する部材である。
図1等に示されるように、キャップ3の内部空間のゲート31側の部分と、他端側に位置するピストン2の突起部24の間に配設され、ピストン2を反ゲート方向に付勢することによって、ゲートバルブ部21がゲート31を閉状態とする位置に保持する。詳しくは後述するが、後方バルブ部22に対する樹脂圧が所定値以上になると、このコイルバネ5の付勢力に打ち勝って、ピストン2がゲート31方向へ移動し、ゲート31を開状態とする。
【0050】
ボディ6は、射出成形機(図示しない)の先端に位置する部材であり、前述の通り、キャップ3と接続される。ボディ6の内部には、溶融樹脂をゲート31の方向へ送り出すための樹脂流路61が設けられ、この樹脂流路61の端部(キャップ3との接続される付近の位置)は、ピストン2の後方バルブ部22によって開閉される構成である。
【0051】
なお、ボディ6の構成については、本発明の内容を限定するものではない。ボディ6の構成は、前述のように射出成形機に直接取り付けられる場合(例えば、射出装置用ノズル。)の他、いくつかの部品を経由して金型の中に取り付けられる場合(例えば、ホットランナーノズル。)等がある。
【0052】
本発明に係るバルブノズル1は、ピストン2がゲートバルブ部21と後方バルブ部22の2つのバルブを有し、後方バルブ部22に加わる樹脂圧によって、ピストン2が作動し
、ゲート31を開閉させる構成である。
かかる構成を、後方受圧式と呼称することがあり、本発明に係るバルブノズル1は、「後方受圧式のピストンを有するバルブノズル」、または、単に「後方受圧式バルブノズル」と呼称することがある。
【0053】
後方バルブ部22の面積は、ゲートバルブ部21の面積よりも大きく形成されるので、射出成形機から送り出される溶融樹脂によって受ける樹脂圧も大きい。よって、従来のバルブノズルよりも、ピストン2の駆動力が高く、ピストン2の作動、即ちゲート31の開閉を確実に行うことができる。
後方バルブ部22の面積は、ゲートバルブ部21の面積の1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましい。
【0054】
バルブノズル1は、ピストン2の作動、即ちゲート31の開閉を確実に行うために、複数のパラメータによってピストン2の推力T(N)を算出し、設計することが好ましい。好ましい設計に使用されるパラメータは、以下のとおりである。
【0055】
a:射出開始時の射出樹脂圧力(MPa)
b:ゲートバルブ部-後方バルブ部間の樹脂体積(mm3)
c:ゲートバルブ部が開放するストローク(mm)
d:樹脂の体積弾性係数(MPa)
e:ゲートバルブ部の面積(mm2)
f:後方バルブ部の面積(mm2)
g:ゲートバルブ部-後方バルブ部間の樹脂残存圧力(MPa)
h:固化樹脂による作動抵抗(N)
i:コイルバネの荷重(N)
【0056】
「a:射出開始時の射出樹脂圧力(MPa)」は、射出成形機から射出が開始された直後の射出樹脂圧力(樹脂圧)であって、樹脂流路61に残存した溶融樹脂によって、後方バルブ部22にかかる樹脂圧である。
【0057】
「b:ゲートバルブ部-後方バルブ部間の樹脂体積(mm3)」は、ゲートバルブ部21から後方バルブ部22の間に残存する樹脂の体積であり、換言すれば、ゲート31と樹脂流路61の端部の間に存在するバルブノズル1の内部空間(キャップ3、カラー4及び/又はボディ6によって形成される内部空間)の容積である。
【0058】
「c:ゲートバルブ部が開放するストローク(mm)」は、閉状態のゲートバルブ部21の位置から、開状態のゲートバルブ21の位置までの距離である(
図8の符号x参照)。バルブノズル1の内部空間に残存した樹脂を押し出すために必要なストロークであり、冷却等によって固化した樹脂をも排出するだけのストロークが必要である。
【0059】
「d:樹脂の体積弾性係数(MPa)」は、使用される樹脂(溶融樹脂)の固有の数値であって、この樹脂の弾性係数である。使用される樹脂によって決定される数値であり、弾性係数の値が大きいほど、樹脂は縮みにくい特性を有する。バルブノズル1においては、この弾性係数が小さいほど、取り扱いが容易である。
【0060】
「e:ゲートバルブ部の面積(mm2)」は、上述したとおり、ゲートバルブ部21の面積(ゲート31の径に相当し、溶融樹脂の圧力を受ける面の断面積。)である。ゲートバルブ部21の断面形状が円形である場合は、その直径から算出することができる。
【0061】
「f:後方バルブ部の面積(mm2)」は、上述したとおり、後方バルブ部22の面積
(樹脂流路61の径に相当し、溶融樹脂の圧力を受ける面の断面積。)である。後方バルブ部2の断面形状が円形である場合は、その直径から算出することができる。また、この後方バルブ部の面積(f)は、ゲートバルブ部の面積(e)よりも大きい。
【0062】
「g:ゲートバルブ部-後方バルブ部間の樹脂残存圧力(MPa)」は、ゲートバルブ部21から後方バルブ部22の間に残存する樹脂による圧力である。詳しくは、射出成形機から射出が開始される直前であって、後方バルブ部22には樹脂流路61に残存する溶融樹脂の圧力が加えられていない状態における、ゲート31と樹脂流路61の端部の間に存在するバルブノズル1の内部空間に残存する樹脂による圧力である。
【0063】
「h:固化樹脂等による作動抵抗(N)」は、ゲート31付近に残存する固化した樹脂等によって生ずる抵抗(摩擦)である。この固化樹脂等の影響により、ピストン2(特にゲートバルブ部21)が抵抗を受けることがあり、作動に影響が生じることがある。
【0064】
「i:コイルバネの荷重(N)」は、コイルバネ5の荷重である。この値が大きいほど、反ゲート方向への付勢力は高く、より大きな樹脂圧を加えなければゲート31が開放されない。
【0065】
上述したパラメータを用いて、ピストン2の推力T(N)を算出することができる。
先ず、上述のパラメータのうち、a~fを用いてピストン2の推力を求める。次に示す数式(1)により、ピストン2の推力T(N)を求めることができる。
【0066】
【0067】
次に、上述のパラメータのうち、a~gを用いてピストン2の推力T(N)を求める。次に示す数式(2)により、ピストン2の推力を求めることができる。数式(2)で求められる推力は、g:ゲートバルブ部-後方バルブ部間の樹脂残存圧力をも考慮したものであり、数式(1)で求められる推力よりも、その精度が高い。
【0068】
【0069】
次に、上述のパラメータa~iのすべてを用いて、ピストン2の推力T(N)を求める。次に示す数式(3)により、ピストン2の推力を求めることができる。数式(3)で求められる推力は、「h:固化樹脂による作動抵抗」と「i:コイルバネの荷重」をも考慮したものであり、数式(2)で求められる推力よりも、その精度が高い。
【0070】
【0071】
上記した数式(1)~(3)によって求められるピストン2の推力T(N)は、20N以上であることが好ましい。ピストン2の推力が20N以上であれば、後方バルブ部22に加わる樹脂圧によるピストン2の作動、即ちゲート31の開閉作用は可能である。
【0072】
上記した数式(1)~(3)によって求められるピストン2の推力が、50N以上であることがより好ましい。ピストン2の推力が50N以上であれば、後方バルブ部22に加わる樹脂圧によるピストン2の作動、即ちゲート31の開閉作用は良好である。
【0073】
上記した数式(1)~(3)によって求められるピストン2の推力が、100N以上であることが更に好ましい。ピストン2の推力が100N以上であれば、後方バルブ部22に加わる樹脂圧によるピストン2の作動、即ちゲート31の開閉作用は優良である。
【実施例】
【0074】
続いて、バルブノズル1を用いて行った検証実験について説明する。
検証に使用したバルブノズル1は、
図1又は2に示される構成である。
【0075】
検証実験では、表1に示されるとおり、各パラメータを設定した。
数式3を用いて、ピストン2の推力T(N)を算出したところ、実験例1では、ピストン2の推力T(N)が632.3Nと算出され、実験例2では、ピストン2の推力が545.8Nと算出された。実際に、実験例1及び実験例2のパラメータ用いたバルブノズル1の作動を確認したところ、その作動性は優良であった。
【0076】
【符号の説明】
【0077】
1 バルブノズル
2 ピストン
21 ゲートバルブ部
22 後方バルブ部
23 軸部
24 突起部
24a 第1突起部
24b 第2突起部
3 キャップ
31 ゲート
4 カラー
41 摺動部
5 コイルバネ
6 ボディ
61 樹脂流路
K 金型