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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び多孔フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/00 20060101AFI20220509BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20220509BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20220509BHJP
   C08J 9/00 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
C08L23/00
C08L1/02
C08L71/02
C08J9/00 A CEP
C08J9/00 CES
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017210218
(22)【出願日】2017-10-31
(65)【公開番号】P2019081856
(43)【公開日】2019-05-30
【審査請求日】2020-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】子松 時博
(72)【発明者】
【氏名】岡本 誠
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 義昭
(72)【発明者】
【氏名】山崎 有亮
(72)【発明者】
【氏名】三好 貴章
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-245343(JP,A)
【文献】特開2008-081588(JP,A)
【文献】国際公開第2007/136086(WO,A1)
【文献】特開2006-282923(JP,A)
【文献】N. Ljungberg et ali.,Nanocomposites of isotactic polypropylene reinforced with rod-like cellulose whiskers,Polymer,2006年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/14
C08J 9/00 - 9/42
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂とセルロースとオイル及び/又はワックス(ただし、ポリオキシエチレン-9-ノニルフェニルエーテルのリン酸エステルは除く)とを含む、樹脂組成物であり、
前記セルロースが、平均長径μm以下のセルロースであり、
前記セルロースの含有量が、ポリオレフィン樹脂とセルロースとの合計100質量部に対し、0.3~15.0質量部であり、
前記オイル及び/又はワックスの含有量が、セルロースに対し、20~70質量%であり、
示差走査熱量計(DSC)の補外結晶化開始温度より4℃高い温度における1/2等温結晶化時間が、15分以下である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記セルロースが、結晶性セルロースである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリオレフィン樹脂が、MFR(JIS K7210 に則り190℃、荷重2.16kgで測定を実施)が0.1~2.0g/10分、かつ、密度が950~970kg/m3である、エチレン単独重合体及び/又はエチレン共重合体であり、
DSCの降温過程における結晶化ピークの温度が、112℃以上であり、
昇温過程における吸熱エンタルピー(△H2)が、樹脂換算で190J/g以上220J/g以下である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリオレフィン樹脂が、MFR(JIS K 7210-1 に則り230℃、荷重2.16kgで測定を実施)が0.1~60g/10分である、ポリプロピレン単独重合体及び/又はポリプロピレン共重合体であり、
DSCの降温過程における結晶化ピークの温度が、120℃以上であり、
昇温過程における吸熱エンタルピー(△H2)が、樹脂換算で115J/g以上140J/g以下である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記オイル及び/又はワックスが、分子中にポリオキシエチレン鎖を有するオイル及び/又はワックスを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載された樹脂組成物から作製された、多孔フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び多孔フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンは、一般的な包装用材料、容器、パイプ、電池用セパレータ、自動車の部品等、幅広い分野で使われる樹脂である。その中で多孔性を有するポリオレフィンフィルムは、液体と固体もしくは気体と固体の分離機能、またはイオン等微小な物質の透過機能を有し、フィルター、電池用セパレータとして用いられている(例えば、特許文献1参照)。
中でも電気自動車やノートパソコンの需要の増加につれ、リチウムイオン電池の生産量が増大し、例えば、特許文献2に開示されるような電池用セパレータ用途としてのポリオレフィンの使用量が増えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-317280号
【文献】特開2015-134900号
【文献】特開2008-81513号
【文献】特許第3381538号公報
【文献】再公表特許2014/017335
【文献】特開2013-56958号
【文献】特開2014-234472号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、現状においては、電池用セパレータには改良の余地も多い。電池用セパレータ用の多孔フィルムとして、特許文献3には、微多孔フィルムの製造方法が開示されているが、溶剤の添加と除去が必要となり、工程が複雑になるという問題がある。また、特許文献4には、溶剤を用いない延伸が開示されているが、十分な物性を有する微多孔フィルムは得られていない。
【0005】
また、多孔フィルムは、フィルター用途や電池用セパレータ用途のいずれにおいても、微細な穴が多く開いていることが求められる。微細な穴が多いことによって、例えば、フィルター等の用途では濾過の効率が向上する。また、電池用セパレータ用途としては、移動するイオンの数が増大するため、電池の性能向上に寄与する。このフィルム中の微細な穴の数の指標として、透気度があり、ガーレー透気度計により測定される。ただし、透気度の向上のために微細な穴を増やすと、突き差し強度が低下する傾向にある。この透気度と突き差し強度の両者をどちらも向上させることは従来技術では困難である。
【0006】
さらに、特許文献5~7には、変性セルロースを添加することにより微多孔フィルムを製造することが開示されている。しかしながら、変性セルロースは結晶化速度、結晶化度を向上させるものではなく、多孔フィルムの通気性や突刺し強度に影響を与えることは知られていない。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、通気性と突刺し強度に優れる多孔フィルムを製造できる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では上記問題の解決のため、前記課題を達成するため鋭意研究を重ねた結果、ポリオレフィン樹脂に微細なセルロースを添加された樹脂組成物は、セルロースが均一にポリオレフィン樹脂を含む組成物中に分散され、通気性と突刺し強度に優れる多孔フィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]
ポリオレフィン樹脂とセルロースとを含む、樹脂組成物であり、
前記セルロースが、平均長径5μm以下のセルロースであり、
前記セルロースの含有量が、ポリオレフィン樹脂とセルロースとの合計100質量部に対し、0.05~15.0質量部であり、
示差走査熱量計(DSC)の補外結晶化開始温度より4℃高い温度における1/2等温結晶化時間が、15分以下である、樹脂組成物。
[2]
前記セルロースが、結晶性セルロースである、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]
前記ポリオレフィン樹脂が、MFR(JIS K7210 に則り190℃、荷重2.16kgで測定を実施)が0.1~2.0g/10分、かつ、密度が950~970kg/m3である、エチレン単独重合体及び/又はエチレン共重合体であり、
DSCの降温過程における結晶化ピークの温度が、112℃以上であり、
昇温過程における吸熱エンタルピー(△H2)が、樹脂換算で190J/g以上220J/g以下である、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4]
前記ポリオレフィン樹脂が、MFR(JIS K 7210-1 に則り230℃、荷重2.16kgで測定を実施)が0.1~60g/10分である、ポリプロピレン単独重合体及び/又はポリプロピレン共重合体であり、
DSCの降温過程における結晶化ピークの温度が、120℃以上であり、
昇温過程における吸熱エンタルピー(△H2)が、樹脂換算で115J/g以上140J/g以下である、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[5]
分子中にポリオキシエチレン鎖を有するオイル及び/又はワックスを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載された樹脂組成物から作製された、多孔フィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、通気性及び突刺し強度に優れる多孔性フィルムの原料である、ポリオレフィン樹脂を含む樹脂組成物、並びに当該樹脂組成物より得られる多孔性フィルム及びその製造方法、並びに、電池用セパレータを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリオレフィン樹脂とセルロースとを含む。
前記セルロースは、平均長径5μm以下のセルロースであり、添加量は0.05~15.0質量部である。
また、本実施形態の樹脂組成物は、示差走査熱量計(DSC)の補外結晶化開始温度より4℃高い温度における1/2等温結晶化時間が、15分以下である。
【0013】
[ポリオレフィン樹脂]
本実施形態の樹脂組成物は、ポリオレフィン樹脂を主原料とする。ポリオレフィン樹脂を主原料とするとは、ポリオレフィン樹脂とセルロースとの合計を100質量部としたとき、通常85.00~99.95質量部、好ましくは87.00~99.93質量部、より好ましくは88.00~99.92であることを指す。
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブテン樹脂、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)樹脂、並びに、これらの共重合体等が挙げられる。本発明は、これらのポリオレフィン樹脂いずれでも効果が得られ、1種又は2種以上の混合物であってもよい。
また、ポリオレフィン樹脂が、上述の樹脂の共重合体である場合、ランダム重合体であってもよく、ブロック重合体であってもよい。
【0014】
(ポリエチレン樹脂)
上記ポリオレフィン樹脂の中で、好ましい樹脂の一つは、エチレン単独重合体及び/又はエチレン共重合体である。
エチレン単独重合体及びエチレン共重合体は、好ましくは、MFR(JIS K7210 に則り190℃、荷重2.16kgで測定を実施)が0.1~2.0g/10分であり、且つ、密度が950~970kg/m3である、エチレン単独重合体及び/又はエチレン共重合体であり、より好ましくは、MFRが0.12~1.0g/10分であり、且つ、密度が955~968kg/m3である、エチレン単独重合体及び/又はエチレン共重合体であり、さらに好ましくは、MFRが0.15~0.40g/10分であり、且つ、密度が960~967kg/m3である、エチレン単独重合体及び/又はエチレン共重合体である。
【0015】
エチレン共重合体とは、エチレンと共重合可能なオレフィン(以下、コモノマーともいう)との共重合体である。
エチレンと共重合可能なオレフィンとしては、特に限定されないが、具体的には、炭素数3~15のα-オレフィン、炭素数3~15の環状オレフィン、式CH2=CHR1(ここで、R1は炭素数6~12のアリール基である。)で表される化合物、及び炭素数3~15の直鎖状、分岐状又は環状のジエンからなる群より選ばれる少なくとも1種のコモノマーが挙げられる。これらの中でも、好ましくは炭素数3~15のα-オレフィンである。
上記α-オレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン等が挙げられる。
エチレン重合体が、コモノマーを含む場合、エチレン重合体中のコモノマー単位の含有量は、好ましくは2モル%以下であり、より好ましくは1.5モル%以下であり、さらに好ましくは1モル%以下である。コモノマーの含有量の下限値は、0モル%より大きければ、特に制限されない。
また、エチレン共重合体は、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。
【0016】
(ポリプロピレン樹脂)
上記ポリオレフィン樹脂の中で、好ましい樹脂の一つは、ポリプロピレン単独重合体及び/又はポリプロピレン共重合体である。
ポリプロピレン樹脂は、好ましくは、MFR(JIS K 7210-1 に則り230℃、荷重2.16kgで測定を実施)が0.1~60g/10分であるポリプロピレン樹脂であり、より好ましくは、MFRが0.2~35g/10分であるポリプロピレン樹脂であり、さらに好ましくは、MFRが0.3~20g/10分であるポリプロピレン樹脂である。
【0017】
ポリプロピレン共重合体とは、ポリプロピレンと共重合可能なオレフィン(以下、コモノマーともいう)との共重合体である。
ポリプロピレンと共重合可能なオレフィンとしては、特に限定されないが、具体的には、炭素数2~15のα-オレフィン、炭素数3~15の環状オレフィン、式CH2=CHR1(ここで、R1は炭素数6~12のアリール基である。)で表される化合物、及び炭素数2~15の直鎖状、分岐状又は環状のジエンからなる群より選ばれる少なくとも1種のコモノマーが挙げられる。これらの中でも、好ましくは炭素数2~15のα-オレフィンである。
上記α-オレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、エチレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン等が挙げられる。
ポリプロピレン重合体が、コモノマーを含む場合、ポリプロピレン重合体中のコモノマー単位の含有量は、好ましくは5モル%以下であり、より好ましくは2モル%以下であり、さらに好ましくは1モル%以下である。コモノマーの含有量の下限値は、0モル%より大きければ、特に制限されない。
ポリプロピレン共重合体は、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。
【0018】
本実施形態におけるポリオレフィン樹脂は、モノマーから公知の重合方法によって調製してもよく、市販の樹脂を用いてもよい。
上述した、ポリエチレン単独重合体及びポリエチレン共重合体、並びにポリプロピレン単独重合体及びポリプロピレン共重合体もまた、市販の製品から入手できる。
【0019】
[セルロース]
本実施形態の樹脂組成物は、平均長径5μm以下のセルロースを、組成物中に0.05~15.0質量部含む。
本実施形態におけるセルロースの長径とは、粒子の投影図における最も長い径を指し、平均長径とは、2個以上の粒子の上記長径の平均値である。
平均長径が5μm超過のセルロースを樹脂組成物中に含むことにより、フィルム、シート、部品等の成形後に引張破断強度が低下する傾向にある。その理由としては、製品に応力がかけられた場合、大きい粒子が、粒子の端部を起点として破断が起きるためと考えられる。粒子が5μm以下の場合にはポリオレフィン分子がセルロースに絡み、フィルム、シート、部品等の破断強度に優れる傾向にある。
また、セルロース粒子の平均長径が5μm超過の場合、可視光が散乱するため、可視光の透過性が著しく低下する傾向にある。
また、本実施形態におけるセルロースは、ポリオレフィンの結晶化の際に核として作用することにより、結晶化速度、結晶化度を向上させると考えられる。結晶化速度が向上することにより、微細な結晶の数が増えることになる。多孔化工程において、微細な結晶を起点として穴が生成することにより、比較的小さい穴を多量に発生することになる。また、結晶化度が向上することは、フィルムが硬くなるということであり、突刺し強度の向上につながる。
【0020】
本実施形態におけるセルロースの平均長径は、好ましくは3μm以下であり、より好ましくは1μm以下である。
また、平均長径の下限値は、0μmより大きければ特に制限されず、好ましくは0.010μm以上であり、より好ましくは0.050μm以上である。
【0021】
平均長径5μm以下のセルロースとしては、一般的にセルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル、セルロースナノウィスカーと呼ばれているもののいずれでもよく、好ましくはセルロースナノクリスタルである。
セルロース添加量は、好ましくは、0.07~13.0質量部であり、より好ましくは、0.08~12.0質量部である。
添加量0.05質量部未満になると、結晶化速度、結晶化度の向上が見られない傾向にある。一方、15.0質量部を超えると、樹脂との混合中にセルロース粒子の再凝集が起きることがあり、均一分散が難しい傾向にある。
【0022】
本実施形態における「セルロース」とは、セルロースを含有する天然由来の水不溶性繊維質物質である。セルロースの原料としては、例えば、木材、竹、麦藁、稲藁、コットン、ラミー、バガス、ケナフ、ビート、ホヤ、バクテリアセルロース等が挙げられる。原料としては、これらのうち1種の天然セルロース系物質を使用しても、2種以上を混合したものを使用してもよい。
【0023】
セルロースの平均長径は以下の方法で測定を行う。
まず、水の重量に対しセルロース粉末5~10質量%を純水に溶解し、日本精機製バイオミキサー(BM-4)により十分にセルロースを分散させた後、0.1~0.5質量%の濃度になるように純水で希釈する。
その後、マイカ上にキャストし、風乾したものを、高分解能走査型顕微鏡(SEM)又は原子間力顕微鏡(AFM)で観察し、当該観察によって得られた100~150個の粒子像を、画像解析ソフトを用いて計算することによって平均長径を算出する。
また、樹脂中に混合されたセルロースの平均長径を測定する際には、以下のように測定を行う。
セルロースを含んだポリオレフィン樹脂組成物をo-ジクロロベンゼン、又はトリクロロベンゼンに溶解し、140℃まで加熱する。完全に溶解するまで撹拌した後、熱時濾過を行いセルロースと樹脂を分離する。分離したセルロースを上記と同様に純水中に分散後風乾し、高分解能走査型顕微鏡(SEM)又は原子間力顕微鏡(AFM)で観察し、当該観察によって得られた100~150個の粒子像を、画像解析ソフトを用いて計算することによって平均長径を算出する。
セルロースの平均長径は、具体的には実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0024】
本実施形態におけるセルロースは、長径測定と同様の手法により、長径(L)と短径(D)との比(L/D)が規定され、測定される。
比(L/D)は、懸濁安定性の観点から、好ましくは20未満であり、より好ましくは15以下であり、さらに好ましくは10以下であり、よりさらに好ましくは5以下であり、さらにより好ましくは5未満であり、特に好ましくは4以下である。
【0025】
本実施形態におけるセルロースの平均重合度は、好ましくは500以下である。平均重合度が500以下であることにより、有機成分との複合化の工程において、セルロースが攪拌、粉砕、摩砕等の物理処理を受けやすくなり、複合化が促進されやすくなる。セルロースの平均重合度は、好ましくは400以下、より好ましくは350以下、さらに好ましくは300以下、さらにより好ましくは250以下、特に好ましくは200以下である。平均重合度は、小さいほど複合化の制御が容易になるため、下限は特に制限されないが、好ましい範囲としては10以上である。
平均重合度は、「第14改正日本薬局方」(廣川書店発行)の結晶セルロース確認試験(3)に規定される銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法により測定でき、具体的には実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0026】
セルロースの平均重合度を制御する方法としては、例えば、上述したセルロースの原料を加水分解処理する方法等が挙げられる。加水分解処理によって、セルロース繊維質内部の非晶質セルロースの解重合が進み、平均重合度が小さくなる。また同時に、加水分解処理により、上述の非晶質セルロースに加え、ヘミセルロースや、リグニン等の不純物も取り除かれるため、繊維質内部が多孔質化する。それにより、混練工程中等の、セルロースと有機成分に機械的せん断力を与える工程において、セルロースが機械処理を受けやすくなり、セルロースが微細化されやすくなる。その結果、セルロースの表面積が大きくなり、有機成分との複合化の制御が容易になる。
【0027】
加水分解の方法としては、特に制限されないが、酸加水分解、熱水分解、スチームエクスプロージョン、マイクロ波分解等が挙げられる。これらの方法は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。酸加水分解では、セルロースを水系媒体に分散させた状態で、プロトン酸、カルボン酸、ルイス酸、ヘテロポリ酸等を適量加え、攪拌させながら加温することにより、容易に平均重合度を制御できる。この際の温度、圧力、時間等の反応条件は、セルロース種、セルロース濃度、酸種、酸濃度により異なるが、目的とする平均重合度が達成されるよう適宜調整される。
具体的な加水分解の方法では、2質量%以下の鉱酸水溶液を使用し、100℃以上、加圧下で、10分以上の条件で、セルロースを処理する。この条件で処理する場合、酸等の触媒成分がセルロース繊維内部まで浸透するため加水分解が促進され、使用する触媒成分量が少なくなり、その結果、その後の精製も容易になる。
【0028】
本実施形態の樹脂組成物中のセルロースは、結晶セルロースであることが好ましく、セルロースI型結晶を含有し、結晶化度が10%以上であることがより好ましい。結晶化度が10%以上であることにより、セルロース粒子自体の力学物性(強度、寸法安定性)が高まるため、樹脂に分散した際に、樹脂コンパウンドの強度、寸法安定性が高くなる傾向にある。結晶化度は、より好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは50%以上であり、よりさらに好ましくは70%以上である。結晶化度の上限は、特に制限されないが、90%以下であることが好ましい。
本実施形態における結晶セルロースとは、上述したセルロースの原料、例えば、木材、竹、麦藁、稲藁、コットン、ラミー、バガス、ケナフ、ビート、ホヤ、及びバクテリアセルロース等からなる群から選択される1種以上を酸で部分的に解重合して精製したものを指す。
【0029】
結晶化度は、セルロースを広角X線回折により測定した際の回折パターン(2θ/deg.が10~30)からSegal法により、以下の式で求められる。
結晶化度(%)=((2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度)-(2θ/deg.=18の非晶質に起因する回折強度))/(2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度)×100
【0030】
本実施形態におけるセルロースは、セルロースが均一に分散した水スラリーを工程中で調製する方法によって得ることが好適であるため、コロイド状セルロースを含むことが好ましい。コロイド状セルロースの含有量が高いほど、該セルロースを樹脂組成物中に分散させた際に、分散が進み、表面積が高いネットワークを形成できるため、樹脂の強度が向上する傾向にある。セルロース中のコロイド状セルロースの含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上であり、よりさらに好ましくは80質量%以上である。コロイド状セルロースの含有量の上限は特に制限されず、理論上の上限は100質量%である。
【0031】
コロイド状セルロースの含有量は以下の方法で測定することができる。セルロースを固形分40質量%として、プラネタリーミキサー((株)品川工業所製、5DM-03-R、撹拌羽根はフック型)中において、126rpmで、室温常圧下で30分間混練し、次いで、固形分が0.5質量%の濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、遠心分離(久保田商事(株)製、商品名「6800型遠心分離器」ロータータイプRA-400型、処理条件:遠心力39200m2/sで10分間遠心した上澄みを採取し、さらに、この上澄みについて、116000m2/sで45分間遠心処理する。)し、遠心後の上澄みに残存する固形分を絶乾法で測定し、質量百分率を算出する。
【0032】
本実施形態におけるセルロースは、粒子径が小さいほど好ましい。粒子径が小さいほど、該セルロースを用いたセルロース製剤を樹脂中に分散させた際に、分散が進み、表面積が高いネットワークを形成できるため、樹脂の強度及び寸法安定性が向上する傾向にある。セルロースの粒子径は、好ましくは1.0μm以下であり、より好ましくは0.7μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以下であり、よりさらに好ましくは0.3μm以下である。粒子径の下限としては特に制限されないが、現実的には0.05μm以上である。
顕微鏡による長径測定は乾燥状態での測定のため、水中でのセルロースの粒子径を別途規定する。水中でのセルロースの粒子径は、好ましくは0.05μmから1.00μmであり、より好ましくは0.08μmから0.90μmであり、さらに好ましくは0.10μmから0.80μmである。
【0033】
セルロースの粒子径は以下の方法で測定することができる。セルロースを固形分40質量%として、プラネタリーミキサー((株)品川工業所製、5DM-03-R、撹拌羽根はフック型)中において、126rpmで、室温常圧下で30分間混練し、次いで0.5質量%の濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、遠心分離(久保田商事(株)製、商品名「6800型遠心分離器」ロータータイプRA-400型、処理条件:遠心力39200m2/sで10分間遠心した上澄みを採取し、さらに、この上澄みについて、116000m2/sで45分間遠心処理する。)し、遠心後の上澄みを採取する。この上澄み液を用いて、レーザー回折/散乱法粒度分布計(堀場製作所(株)製、商品名「LA-910」、超音波処理1分、屈折率1.20)により得られた体積頻度粒度分布における積算50%粒子径(体積平均粒子径)を測定する。
【0034】
本実施形態の樹脂組成物における、結晶化速度、結晶化ピークの温度及び吸熱エンタルピーはDSCによって測定することができ、具体的には実施例に記載の方法によって測定することができる。
DSC測定装置は、例えば、PERKIN ELMER製 DSC8000を用いるとこができる。測定は50℃より樹脂が完全に融解する温度まで10℃/分の昇温速度で測定を実施する。これを1st.Heatingと呼ぶ。なお、最高温度は用いるポリオレフィン樹脂の融点に応じて適宜選択することができるが、ポリエチレン樹脂であれば一般的には180℃、ポリプロピレン樹脂であれば一般的には200℃を適用することができる。
次に、樹脂が融解した温度から50℃まで10℃/分の速度で降温を行う。これを1st.Coolinと呼び、この過程で測定したカーブより、樹脂の補外結晶化開始温度および結晶化温度のピークを読み取る。最後に再度50℃より樹脂が融解する温度まで10℃/分の昇温速度で測定を実施する。これを2nd.Heatingと呼ぶ。この過程で測定したカーブより、吸熱エンタルピーを読み取る。
【0035】
本実施形態における1/2等温結晶時間は、上記で求めた補外結晶化開始温度より4℃高い温度において一定の温度のまま、40分間保持し、この時測定される発熱曲線がピークとなる時間と定義される。
DSCの補外結晶化開始温度より4℃高い温度における1/2等温結晶化時間は、15分以下であり、好ましくは13分以下である。ポリエチレンにおいては、上記1/2等温結晶化時間は、より好ましくは12分以下である。ポリプロピレンにおいては、上記1/2等温結晶化時間は、より好ましくは10分以下であり、さらに好ましくは5分以下であり、よりさらに好ましくは3分以下である。
【0036】
1/2等温結晶化時間を制御するには、例えば、上記のような平均長径5μm以下のセルロースを配合すること等が挙げられる。
また、平均長径5μm以下の微細なセルロースを、凝集させることなく樹脂中へ分散させることにより、1/2等温結晶化時間を15分以下とすることができる。そのためには、例えば上記のようにバイオミキサー等でセルロースを水中に微細に分散させたスラリーと、樹脂パウダーを十分に混合し、更にミキサー、押出機等で混練することが好ましい。このような混合物を調製することにより、1/2等温結晶化時間を15分以下に制御することができる。
【0037】
本実施形態のポリオレフィン樹脂が、MFR(JIS K7210 に則り190℃、荷重2.16kgで測定を実施)が0.1~2.0g/10分、かつ、密度が950~970kg/m3である、エチレン単独重合体及び/又はエチレン共重合体であるとき、樹脂組成物のDSCの降温過程における結晶化ピークの温度は、耐熱性、強度の観点から、好ましくは112℃以上であり、より好ましくは117℃以上であり、さらに好ましくは118.5℃以上である。
結晶化ピークの温度の上限値は、通常125℃以下であり、加工性の観点から、好ましくは122℃以下であり、より好ましくは120℃以下である。
結晶化ピークの温度は、ポリオレフィン樹脂の密度、セルロース添加量によって調整することができる。
【0038】
本実施形態のポリオレフィン樹脂が、MFR(JIS K7210 に則り190℃、荷重2.16kgで測定を実施)が0.1~2.0g/10分、かつ、密度が950~970kg/m3である、エチレン単独重合体及び/又はエチレン共重合体であるとき、樹脂組成物の昇温過程における吸熱エンタルピー(△H2)は、結晶化度の観点から、通常190J/g以上220J/g以下であり、加工性の観点から、好ましくは195J/g以上215J/g以下であり、より好ましくは200J/g以上210J/g以下である。
吸熱エンタルピー(△H2)は、平均長径5μm以下のセルロース添加量によって調整することができる。
【0039】
本実施形態のポリオレフィン樹脂が、MFR(JIS K 7210-1 に則り230℃、荷重2.16kgで測定を実施)が0.1~60g/10分である、ポリプロピレン単独重合体及び/又はポリプロピレン共重合体であるとき、樹脂組成物のDSCの降温過程における結晶化ピークの温度は、結晶化度の観点から、好ましくは120℃以上であり、より好ましくは125℃以上であり、さらに好ましくは131℃以上である。
結晶化ピークの温度の上限値は、通常140℃以下であり、加工性の観点から、好ましくは138℃以下であり、より好ましくは135℃以下である。
結晶化ピークの温度は、セルロース添加量によって調整することができる。
【0040】
本実施形態のポリオレフィン樹脂が、MFR(JIS K 7210-1 に則り230℃、荷重2.16kgで測定を実施)が0.1~60g/10分である、ポリプロピレン単独重合体及び/又はポリプロピレン共重合体であるとき、樹脂組成物の昇温過程における吸熱エンタルピー(△H2)は、結晶化度の観点から、通常115J/g以上140J/g以下であり、加工性の観点から、好ましくは122J/g以上138J/g以下であり、より好ましくは125J/g以上135J/g以下である。
吸熱エンタルピー(△H2)は、平均長径5μm以下のセルロース添加量によって調整することができる。
【0041】
(樹脂組成物の製造方法)
本実施形態の樹脂組成物は、公知の方法により得ることができ、例えば、ポリオレフィン樹脂とセルロースとをプラストミルミキサーや二軸押出機等により溶融混練することにより、得ることができる。
本実施形態の樹脂組成物は、前述したとおり、平均長径5μm以下のセルロースを0.05~15.0質量部含む。このような樹脂組成物を得るには、上記の溶融混練の前にポリオレフィン樹脂とセルロースとを事前に混合することが好ましい。中でもセルロースを水中に分散させたスラリーと粉末状のポリオレフィン樹脂とを混合することが好ましい。
【0042】
セルロースを水中に分散させたスラリーを得る方法としては、特に限定はされないが、ホモジナイザー等のミキサーを用いることが好ましい。ホモジナイザーの中でも、超音波タイプのホモジナイザーより、機械的なせん断応力により粒子を破砕するホモジナイザーの方が好ましい。その中でもバイオミキサーと呼ばれる二重円筒の狭い隙間で発生するせん断応力により粒子を破砕するミキサーが好ましい。スラリー中のセルロースの濃度は、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。撹拌時間は用いるセルロースの量等により適宜選択することができ、例えば1時間以上が好ましい。
上記方法によりセルロースを水中に分散させたスラリーを得た後に、ポリオレフィン樹脂粉末と混ぜることができる。必要に応じオイル等を添加してもよい。十分に樹脂粉末と水スラリーもしくはオイル等を撹拌させた後、オーブンを用い、沸点以下でゆっくりと乾燥させることにより、表面に微細なセルロースが付着した樹脂粉末を得ることができる。
【0043】
本実施形態の樹脂組成物は、その他の添加可能な成分を添加してもよい。その他の添加可能な成分としては、例えば、オイル、グリース及びワックス等が好適に挙げられる。これらは1種単独であってもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
樹脂組成物にオイル、グリース又はワックスを添加することにより、セルロースがより均一に分散する傾向にある。
オイルとしては、セルロースとポリオレフィン樹脂との両方に親和性のある官能基を有する化合物が好ましく、上記の化合物としては各種エステルやポリオキシエチレン鎖を有する有機酸類が挙げられる。
【0044】
エステルとしては、脂肪酸エステルが分散性向上に効果があり、例えば、グリセリン モノセテアレート、グリセリン ジステアレート、グリセリン ジアセトモノラウレート、ジグリセリン ステアレート、ポリグリセリン ポリリシノレート等が挙げられる。また、ロジン酸と各種アルコール、もしくはポリオキシエチレン鎖とのエステル化合物にも分散性向上の効果がある。
セルロースの分散性の観点から、ポリオキシエチレン鎖を有するオイル、グリース、及びワックスがより好ましい。このようなポリオキシエチレン鎖を有するオイル、グリース、及びワックスとしては、脂肪酸とポリオキシエチレン鎖がエステル結合した化合物、ポリオキシエチレン鎖の両端に脂肪酸がエステル結合した化合物、エチレングリコールにポリオキシエチレン鎖がエーテル結合した化合物に、脂肪酸がエステル結合した化合物(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油)等が挙げられ、好ましくはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油である。
【0045】
オイル、グリース及びワックスからなる群より選択される少なくとも1種の配合量としては、ポリオレフィン樹脂とセルロースとの合計100質量部に対し、好ましくは0.01~5.0質量部であり、より好ましくは0.05~4.0質量部であり、さらに好ましくは0.1~3.0質量部である。
【0046】
本実施形態の樹脂組成物は、特に多孔フィルムの原料として用いることができる。本実施形態の好ましい態様の一つは、本実施形態の樹脂組成物から作製された多孔フィルム、すなわち、本実施形態の樹脂組成物を含む多孔フィルムである。
また、本実施形態の多孔フィルムは、好ましくは微細な穴を2以上有するフィルム(以下、微多孔フィルムともいう)である。
微多孔フィルムは公知の方法で得ることができる。例えば、フィルムの製造工程、必要に応じて熱処理工程、その後、冷延伸工程、熱延伸工程を経て、さらに必要に応じて熱固定工程を経ることにより、目的とする微多孔性フィルムが得られる。
【0047】
本実施形態の多孔フィルムは、具体的には以下の方法により製造される。
(フィルムの製膜)
まず、本実施形態の樹脂組成物をインフレーション成形装置に供給し、150℃~280℃、好ましくは170℃~250℃の温度で、フィルム状に製膜する。
上記のようにフィルム状に押出した後のドロー比、すなわち、フィルムの巻取速度(単位:m/分)を該ポリエチレン樹脂組成物の押出速度(ダイリップを通過する溶融樹脂の流れ方向の線速度。単位:m/分)で除した値は、好ましくは10~500、より好ましくは50~400、さらに好ましくは100~300である。
また、フィルムの巻取速度は、好ましくは約2~400m/分、より好ましくは4~200m/分である。ドロー比を上記範囲とすることは、目的とする微多孔フィルムの透気性を向上させる観点から好適である。
【0048】
(熱処理工程)
上記のようにして製膜されたフィルムには、必要に応じて熱処理(アニール)を施すことが好ましい。アニールの方法としては、特に限定されないが、例えば、フィルムを加熱ロール上に接触させる方法、巻き取る前に加熱気相中に曝す方法、フィルムを芯体上に巻き取り加熱気相又は加熱液相中に曝す方法、並びにこれらを組み合わせて行う方法が挙げられる。
アニールの条件としては、特に限定されないが、例えば、100℃~170℃の加熱温度で、10秒間~100時間アニールすることが好ましい。加熱温度が100℃以上であることにより、目的とする微多孔性フィルムの透気性がさらに良好となる。また、加熱温度が170℃以下であることにより、フィルムを芯体上に巻き取った状態でアニールしてもフィルム同士が融着し難くなる。より好ましい加熱温度の範囲は、110℃~130℃である。
【0049】
(冷延伸工程)
次に、冷延伸工程について説明する。上記のようにして熱処理を施した後、少なくとも一方向に1.05倍~2.0倍に冷延伸する。冷延伸工程における延伸温度は、好ましくは-20℃以上100℃未満、より好ましくは0℃以上50℃以下の温度である。-20℃以上で延伸することにより、微多孔性フィルムのクラックが発生し易くなる傾向にある。また、100℃未満で延伸することにより、得られる微多孔性フィルムの透気性がより良好となる傾向にある。ここで、延伸温度は冷延伸工程におけるフィルムの表面温度である。
冷延伸工程における冷延伸の延伸倍率は、好ましくは1.05倍以上2.0倍以下であり、より好ましくは1.2倍以上2.0倍以下である。冷延伸工程における延伸倍率が1.05倍以上であることにより、透気性の良好な微多孔性フィルムが得られる傾向にある。また、冷延伸工程における延伸倍率が2.0倍以下であることにより、膜厚が均一な微多孔性フィルムが得られる傾向にある。
微多孔性フィルムの冷延伸は、少なくとも一方向に行い、二方向に行ってもよいが、好ましくは、フィルムの押出し方向にのみ一軸延伸を行う。
本実施形態においては、冷延伸工程において、微多孔性フィルムを、0℃以上50℃以下の温度で、MD方向に1.1倍~2.0倍に一軸延伸することが好ましい。
【0050】
(熱延伸工程)
次に、熱延伸工程について説明する。上記のようにして冷延伸を行った後、少なくとも一方向に1.05倍以上5.0倍以下に熱延伸する。熱延伸の延伸温度は、好ましくは100℃以上130℃以下、より好ましくは110℃以上125℃以下の温度である。100℃以上で熱延伸することにより、フィルムが開孔し易くなり、130℃以下で熱延伸すれば目的とする微多孔性フィルムの透気性が良好となる。ここで、熱延伸の延伸温度とは、熱延伸工程におけるフィルムの表面温度である。
熱延伸工程における熱延伸の延伸倍率は、好ましくは1.05倍以上5.0倍以下であり、より好ましくは1.1倍以上4.5倍以下であり、さらに好ましくは1.5倍以上4.0倍以下である。熱延伸工程における延伸倍率が1.05倍以上であることにより、透気性の良好な微多孔性フィルムが得られる傾向にある。また熱延伸工程における延伸倍率が、5.0倍以下であることにより、膜厚が均一な微多孔性フィルムが得られる傾向にある。
熱延伸は、少なくとも一方向に対して行い、二方向に行ってもよいが、好ましくは冷延伸の延伸方向と同じ方向に行い、より好ましくは冷延伸の延伸方向と同じ方向にのみ一軸延伸を行う。
本実施形態においては、熱延伸工程において、冷延伸工程を経て冷延伸されたフィルムを、100℃以上130℃以下の温度で、MD方向に1.5倍~5.0倍に一軸延伸することが好ましい。
なお、本実施形態の多孔フィルムの製造方法は、上述の各延伸工程に加えて、任意の延伸工程をさらに行ってもよい。
【0051】
(熱固定工程)
本実施形態の多孔フィルムの製造方法は、熱延伸工程を経て得られたフィルムに対して、好ましくは110℃以上135℃以下で熱固定を施す熱固定工程を含むことが好ましい。この熱固定の方法としては、熱固定後のフィルムの長さが、熱固定前の微多孔性フィルムの長さに対して3~50%減少する程度熱収縮させる方法(以下、この方法を「緩和」という)、延伸方向の寸法が変化しないように熱固定する方法等が挙げられる。
熱固定温度は、好ましくは110℃以上135℃以下であり、より好ましくは115℃以上130℃以下である。ここで、熱固定温度とは、熱固定工程における多孔フィルムの表面温度である。
【実施例
【0052】
以下、実施例により本実施形態を詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
<セルロースの平均重合度>
「第14改正日本薬局方」(廣川書店発行)の結晶セルロース確認試験(3)に規定さ
れる、銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法により測定した。
【0054】
<セルロースの結晶化度>
X線回折装置(株式会社リガク製 多目的X線回折装置)により粉末法にて回折像を測定(常温)し、Segal法で結晶化度を算出した。
【0055】
<セルロース粒子の長径>
セルロースの長径は以下の方法で測定を行った。
まず、水の重量に対しセルロース粉末5~10質量%を純水に溶解し、日本精機製バイオミキサー(BM-4)により十分にセルロースを分散させた後、0.1~0.5質量%の濃度になるように純水で希釈した。
その後、マイカ上にキャストし、風乾したものを、高分解能走査型顕微鏡(SEM)又は原子間力顕微鏡(AFM)で観察し、当該観察によって得られた100~150個の粒子像を、画像解析ソフトを用いて計算することによって平均長径を算出した。
【0056】
<セルロース粒子のL/D>
上記長径測定方法と同様の方法で、0.1~0.5質量%濃度の水溶液を調製後、マイカ上にキャストし、風乾した。高分解能走査型顕微鏡(SEM)又は原子間力顕微鏡(AFM)により観察された際に得られる粒子像の、長径(L)と短径(D)との比(L/D)を求め、100個~150個の粒子の平均値として算出した。
【0057】
<コロイド状セルロース含有量>
各セルロースを固形分40質量%として、プラネタリーミキサー((株)品川工業所製、5DM-03-R、撹拌羽根はフック型)中において、126rpmで、室温常圧下で30分間混練した。
次いで、固形分が0.5質量%の濃度である純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)を用いて分散させ、遠心分離(久保田商事(株)製、商品名「6800型遠心分離器」ロータータイプRA-400型、処理条件:遠心加速度39240m/s2で10分間遠心した上澄みを採取し、さらに、この上澄みについて、117720m/s2で45分間遠心処理した。)し、遠心後の上澄みに残存する固形分を絶乾法で測定し、コロイド状セルロース含有量を質量百分率として算出した。
【0058】
<セルロースの粒子径>
セルロースを固形分40質量%として、プラネタリーミキサー((株)品川工業所製、5DM-03-R、撹拌羽根はフック型)中において、126rpmで、室温常圧下で30分間混練した。
次いで、固形分が0.5質量%の濃度である純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)を用いて分散させ、遠心分離(久保田商事(株)製、商品名「6800型遠心分離器」ロータータイプRA-400型、処理条件:遠心力39200m2/sで10分間遠心した上澄みを採取し、さらに、この上澄みについて、116000m2/sで45分間遠心処理した。)し、遠心後の上澄み液を採取した。上記上澄み液を用いて、レーザー回折/散乱法粒度分布計(堀場製作所(株)製、商品名「LA-910」、超音波処理1分、屈折率1.20)により得られた体積頻度粒度分布における積算50%粒子径(体積平均粒子径)を測定した。
【0059】
<原料ポリエチレン樹脂及び原料ポリプロピレン樹脂のMFR>
原料ポリエチレン樹脂のMFRは、JIS K7210:1999(A法 コードD 温度=190℃、荷重=2.16kg)に準拠して測定した。
原料ポリプロピレン樹脂のMFRは、JIS K7210-1:1999(A法 コードM 温度=230℃、荷重=2.16kg)に準拠して測定した。
【0060】
<原料ポリエチレン樹脂及び原料ポリプロピレン樹脂の密度測定>
原料ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂の密度は、JIS K7112:1999に準拠して測定した。
【0061】
[ポリエチレン樹脂]
<PE-1>
旭化成(株)製のMFR0.21g/10分、密度963kg/m3のポリエチレンパウダーを使用した。
<PE-2>
旭化成(株)製のMFR0.25g/10分、密度956kg/m3のポリエチレンパウダーを使用した。
<PE-3>
旭化成(株)製のMFR1.35g/10分、密度963kg/m3のポリエチレンパウダーを使用した。
<PE-4>
旭化成(株)製のMFR0.8g/10分、密度952kg/m3のポリエチレンパウダーを使用した。
<PE-5>
旭化成(株)製のMFR0.05g/10分、密度952kg/m3のポリエチレンパウダーを使用した。
<PE-6>
旭化成(株)製のMFR5.0g/10分、密度951kg/m3のポリエチレンパウダーを使用した。
<PE-7>
旭化成(株)製のMFR2.0g/10分、密度925kg/m3のポリエチレンパウダーを使用した。
<PE-8>
旭化成(株)製のMFR1.35g/10分、密度963kg/m3のポリエチレンペレットを使用した。
【0062】
[ポリプロピレン樹脂]
<PP-1>
日本ポリプロ(株)製MFR0.4g/10分、密度910kg/m3のノバテックPPのペレットを、ドライアイスで冷却しながら、大阪ケミカル(株)製アブソルートミルABS-Wで10,000rpm以上の回転速度で30分以上ミキシングし、粉末化したものを使用した。
<PP-2>
日本ポリプロ(株)製MFR11g/10分、密度900kg/m3のノバテックPPのペレットをPP-1と同様に粉末化したものを使用した。
<PP-3>
日本ポリプロ(株)製MFR30g/10分、密度900kg/m3のノバテックPPのペレットをPP-1と同様に粉末化したものを使用した。
<PP-4>
日本ポリプロ(株)製MFR60g/10分、密度900kg/m3のノバテックPPのペレットをPP-1と同様に粉末化したものを使用した。
【0063】
[セルロース]
広葉樹由来KPパルプ(平均重合度1000)を細断後、4.0mol/L塩酸中、105℃で180分間加水分解した後、水洗及び濾過を行い、固形分が40質量%のウェットケーク状のセルロースを作製した(平均重合度180、結晶化度78%、平均長径358nm、粒子L/D=1.6、コロイド状セルロース含有量68質量%、粒子径0.13μm)。
上記セルロースを固形分濃度が10質量%となるように水を添加し、日本精機製バイオミキサー(BM-4)を用い、6,000rpm以上で30分間以上撹拌し、セルロースを水中に均一に分散させスラリーを調製した。
スラリー調製後に、オイル、グリース、ワックス等を添加してもよい。
【0064】
[DSCによる結晶化速度、結晶化ピーク及び吸熱エンタルピーの測定]
DSC測定装置は、PERKIN ELMER製 DSC8000を用いた。
測定は、50℃より樹脂が完全に融解する温度まで10℃/分の昇温速度で測定を実施した。上記実施を1st.Heatingと呼ぶ。なお、最高温度は、用いるポリオレフィン樹脂の融点に応じて適宜選択することができ、ポリエチレン樹脂では180℃、ポリプロピレン樹脂では200℃を適用するものとした。
次に、樹脂が融解した温度から50℃まで10℃/分の速度で降温を行った。上記降温を1st.Coolinと呼び、この過程で測定したカーブより、樹脂の補外結晶化開始温度及び結晶化温度のピークを読み取った。
最後に、再度50℃より樹脂が融解する温度まで10℃/分の昇温速度で測定を実施した。上記実施を2nd.Heatingと呼ぶ。この過程で測定したカーブより、吸熱エンタルピーを読み取った。樹脂組成物における吸熱エンタルピー[J/g]は、DSCより読み取った値を、樹脂1g当たりに換算して計算した。
【0065】
<1/2等温結晶時間の測定方法と定義>
上記で求めた補外結晶化開始温度より4℃高い温度において一定の温度のまま、40分間保持した。この時測定される発熱曲線がピークとなる時間を、1/2等温結晶化時間と定義した。
【0066】
<多孔性フィルムの製造方法>
[製膜]
インフレーションフィルム製造装置(D-50、住友重機械モダン(株)製)(スクリュー直径50mm、スクリュー:L(押出しスクリュー長)/D(押出しスクリュー直径)=28、ダイス:リップ径、100mm、リップ間隙、5.0mm)を用いて、シリンダー温度180℃、ダイス温度180℃、押出し量5.0kg/時間、ブロー比1.0、ダイス面の10mm上部に冷却空気を噴出し(フロスト高さ10mm)、フィルムを冷却及び製膜を安定化させて、30μm厚みのポリエチレン樹脂組成物フィルムを得た。
【0067】
[熱処理]
上記インフレーション成形装置より製膜したポリエチレン樹脂組成物フィルムをギヤオーブン中で120℃、3時間、熱処理(アニール)を実施した。
【0068】
[冷延伸]
上記ポリエチレン樹脂組成物フィルムを幅100mm、長さ200mm(MD方向が長辺)に切出した後、引張試験機(RTC-1310A、オリエンテック(株)製)を使用し、チャック間100mmにフィルムを取り付け、23℃にてフィルムのMD方向に引張速度200mm/minで1.5倍に冷延伸を行った。
【0069】
[熱延伸]
冷延伸を行った直後に120℃に加熱したオーブンをセットし、30秒間加熱し、MD方向にさらに引張速度300mm/minで2.0倍熱延伸を行い、60秒間熱固定して多孔性フィルムを得た。
【0070】
[透気度の測定]
JIS P―8117に準拠し、ガーレー透気度計((株)東洋精機製作所製)を用いて、微多孔性フィルムの透気抵抗度を測定した。この測定値を膜の厚さ20μmに換算した。さらに、上記の微多孔性フィルムの製造において、熱延伸倍率を1.7倍~2.5倍の範囲で変更して得られた微多孔性フィルムの気孔率を測定し、透気度(20μ換算)と気孔率の値を関数式で表し、その関数式の近似曲線より、気孔率が50%となる透気度(厚み20μm、気孔率50%換算)を算出した。
なお、微多孔性フィルムの透気性が高いほど、上記透気度の数値は小さくなる。
【0071】
[突刺し強度の測定]
デジタルフォースゲージ(ZP20N、(株)イマダ製)を用い、測定を行った。
まず、開口部直径10mmの試料ホルダー(TKS20N)に、上記方法で得られた微多孔性フィルムを固定し、固定された微多孔性フィルムの中央部を先端の曲率半径0.5mmを有する針を用いて、突刺し速度=12mm/min、23℃、湿度50%雰囲気下にて突刺し試験を行うことより、最大突刺し荷重としての突刺し強度(g)を測定した。得られた突刺し強度を20μm厚みに換算した。
【0072】
[実施例1~15]
[樹脂組成物の調製]
表1A及び表1Bに記載のとおりの組成で、上記セルロース10質量%を含むスラリー(もしくはスラリー混合物)と、ポリオレフィン樹脂パウダーとを十分に混合し混合物を得た。上記混合物を80℃で1時間、オーブンで乾燥した。乾燥した混合物を東洋精機製ラボプラストミル型番4C150で、ポリエチレンの場合には145℃、50rpmで20分間混練し、ポリプロピレンの場合には、180℃、50rpmで20分間混練した。
上記条件で、表のような配合で樹脂組成物を調製し、微多孔フィルムを得た。結果は表のとおりである。
実施例4、7及び15では、花王(株)製エマノーンCH-25をさらに樹脂組成物に添加した。実施例5では、花王(株)製エマノーンCH-40をさらに樹脂組成物に添加した。実施例8では理研ビタミン(株)製ポリグリセリン ポリリシノレート PR-100をさらに樹脂組成物に添加した。実施例14では、花王(株)製エマノーン CH-60を使用した。
【0073】
[比較例1~8]
比較例1~5、及び7~8は、表2に記載の組成で実施例1と同様に試料の調製を行った。なお、比較例6はPE-8(ペレット)を使用した。
【0074】
【表1A】
【0075】
【表1B】
【0076】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の樹脂組成物は、多孔性フィルム、電池用セパレータ、透明フィルム、拡散フィルム、及び自動車用部品等において、産業上の利用可能性を有する。