(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】心電計測布
(51)【国際特許分類】
A61B 5/282 20210101AFI20220509BHJP
A61B 5/256 20210101ALI20220509BHJP
A61B 5/273 20210101ALI20220509BHJP
【FI】
A61B5/282
A61B5/256 210
A61B5/273
(21)【出願番号】P 2017218939
(22)【出願日】2017-11-14
【審査請求日】2020-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】上島 一夫
(72)【発明者】
【氏名】黒田 知宏
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-158709(JP,A)
【文献】特開昭54-021085(JP,A)
【文献】特表2010-511465(JP,A)
【文献】特表2014-505529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/25-5/297
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に装着して心電図を計測するための複数の計測電極を含む心電計測布であって、前記計測電極が導電性糸により形成されており、計測電極を所定の位置に配置する電極配置部が一枚の布帛に含まれており、かつ複数の計測電極のうち少なくともいずれかの計測電極で心電図を計測可能であり、
計測電極の数が15個以上であり、
前記電極配置部は心電計に接続される端子部をさらに含み、前記計測電極のうち9個以上の計測電極と前記端子部間の回路の導通および非導通を
衣服のサイズの分類であるLL、L、M、Sの4パターンに切り替えることができるセレクタを
備えることを特徴とする心電計測布。
【請求項2】
前記計測電極と前記端子部間の回路の配線が導電性糸の導線を含む、請求項1に記載の心電計測布。
【請求項3】
被験者の腋下と高さを合わせることにより位置合わせする第1の位置基準部と、被験者の正中線に合わせることにより位置合わせする第2の位置基準部を含む、請求項1または請求項2に記載の心電計測布。
【請求項4】
前記一枚の布帛は、導電性糸および非導電性糸からジャカード織機により作製された平織組織の織物である、請求項1~3のいずれかに記載の心電計測布。
【請求項5】
前記導電性糸および非導電性糸は、撚糸糸条である、請求項4に記載の心電計測布。
【請求項6】
導電性粘着ゲルを計測電極に塗布してなる、請求項1~5のいずれかに記載の心電計測布。
【請求項7】
シートを導電性粘着ゲル塗布面に貼布してなる、請求項6に記載の心電計測布。
【請求項8】
装着時に前記シートを剥離することができる、請求項7に記載の心電計測布。
【請求項9】
被験者の身体前面に当接して使用することができる、請求項1~8のいずれかに記載の心電計測布。
【請求項10】
前記電極配置部は、標準12誘導法による6個の胸部電極に相当する計測電極を含む、請求項1~9のいずれかに記載の心電計測布。
【請求項11】
前記電極配置部は、標準12誘導法による4個の四肢電極に相当する計測電極を含む、請求項1~10のいずれかに記載の心電計測布。
【請求項12】
前記電極配置部は、標準12誘導法による10個の電極に相当する計測電極を含む、請求項1~11のいずれかに記載の心電計測布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心電図を計測するための計測電極を提供する心電計測布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、虚血性心疾患においては、救命率を向上させるため、発症から速やかに経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary angioplasty:PCA)を施す必要があることが知られている。例えば、ST型上昇心筋梗塞(ST-segment elevation myocardial infarction:STEMI)の場合には、救急搬送の10分以内に12誘導心電図により診断し、PCAを施行する医療機関に搬送することが望まれる。このためには、被験者に心電計の計測電極を速やかに適切に取り付けることが必要である。
【0003】
一方、西陣織の技術によりジャカード織機を用いて導電性糸及び非導電性糸を綴れ織りし、一枚の布帛に電極及び配線を一体に形成する技術が提案されている(特許文献1、2)。また、その技術を利用し、複数の計測電極を所定の位置に配置する電極配置部と、前記電極配置部を被験者の所定の位置に固定する保持部とを一枚の布帛に一体に含んだ心電計測布が提供されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-15817号公報
【文献】特開2011-15818号公報
【文献】特開2016-158709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の心電計測布は診断に必要な数の計測電極が固定されて配置されており、被験者の身体の大きさによっては、身体の適切な位置に電極が当接せず、適切な計測が行われないため、被験者の身体の大きさに合わせたサイズの計測布を複数準備しておくことが必要であった。複数の計測布を準備しておくには、保管するスペースが必要であると同時に、計測時に、一旦装着した計測布のサイズが被験者の身体の大きさに合わなかった場合、別のサイズの計測布を装着し直す必要があり、速やかに計測を行うことができないおそれがあった。
【0006】
本発明は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、身体がいかなる大きさの被験者にも心電図の計測電極を適切に速やかに取り付けることを可能にするような心電計測布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、複数の計測電極のうちの1つ以上の計測電極と端子部間の回路の導通および非導通を切り替えることができるセレクタを備えることにより、その心電計測布を被験者の身体に装着した際に、身体がいかなる大きさの被験者でも心電計測を行うことが可能であることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして本発明によれば、「被験者に装着して心電図を計測するための複数の計測電極を含む心電計測布であって、前記計測電極が導電性糸により形成されており、計測電極を所定の位置に配置する電極配置部が一枚の布帛に含まれており、かつ複数の計測電極のうち少なくともいずれかの計測電極で心電図を計測可能であり、
計測電極の数が15個以上であり、
前記電極配置部は心電計に接続される端子部をさらに含み、前記計測電極のうち9個以上の計測電極と前記端子部間の回路の導通および非導通を衣服のサイズの分類であるLL、L、M、Sの4パターンに切り替えることができるセレクタを備えることを特徴とする心電計測布。」が提供される。
【0009】
その際、前記計測電極と前記端子部間の回路の配線が導電性糸の導線を含むことが好ましい。また、被験者の腋下と高さを合わせることにより位置合わせする第1の位置基準部と、被験者の正中線に合わせることにより位置合わせする第2の位置基準部を含むことが好ましい。また、前記一枚の布帛は、導電性糸および非導電性糸からジャカード織機により作製された平織組織の織物であることが好ましい。また、前記導電性糸および非導電性糸は、撚糸糸条であることが好ましい。また、導電性粘着ゲルを計測電極に塗布してなることが好ましい。また、シートを導電性粘着ゲル塗布面に貼布してなることが好ましい。また、装着時に前記シートを剥離することができることが好ましい。また、被験者の身体前面に当接して使用することができることが好ましい。また、前記電極配置部は、標準12誘導法による6個の胸部電極に相当する計測電極を含むことが好ましい。また、前記電極配置部は、標準12誘導法による4個の四肢電極に相当する計測電極を含むことが好ましい。また、前記電極配置部は、標準12誘導法による10個の電極に相当する計測電極を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、心電図の計測電極を身体がいかなる大きさの被験者にも適切に速やかに装着することができる。ひいては、救急搬送における12誘導心電図などによる診断を可能にすることにより、虚血性心疾患を発症した患者の救命に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態の心電計測布の正面図を示す図面代用写真である。
【
図2】実施の形態の心電計測布の背面図を示す図面代用写真である。
【
図3】実施の形態のセレクタを示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態に係る心電計測布について図面を参照して詳細に説明する。なお、図面において示す心電計測布の寸法、使用態様等は一例を示すものであり、本発明はかかる例や図面の内容に限定されるものではない。
【0013】
(実施の形態)
実施の形態は、被験者に装着して心電図を計測するための計測電極を含む心電計測布であって、計測電極は導電性糸により形成されており、計測電極を所定の位置に配置する電極配置部が一枚の布帛に含まれており、かつ複数の計測電極のうち少なくともいずれかの計測電極で心電図を計測可能である。
【0014】
ここで、計測電極の数としては15個以上(より好ましくは15~20個)であることが好ましい。また、前記電極配置部は、標準12誘導法による6個の胸部電極に相当する計測電極を含むことが好ましい。また、前記電極配置部は、標準12誘導法による4個の四肢電極に相当する計測電極を含むことが好ましい。また、前記電極配置部は、標準12誘導法による10個の電極に相当する計測電極を含むことが好ましい。
【0015】
図1、
図2は、実施の形態の心電計測布を示す図(計測電極の数が15個の例)である。
図1は心電計測布10の正面図(被験者の身体に当接する面)であり、
図2は心電計測布10の背面図である。
【0016】
実施の形態の心電計測布10は、一枚の布帛によって形成されている。この布帛は平織組織の織物であり、西陣織の技術によりジャカード織機を用いて導電撚糸(導電撚糸糸条)および非導電撚糸(非導電撚糸糸条)から綴れ織りし、導電撚糸が電極および配線の所定のパターンを形成するように非導電撚糸に折り込んだものである。
【0017】
実施の形態では、導電撚糸に直径100μmの銀メッキ繊維を用い、非導電撚糸に55~550dtexのポリエステルまたはレーヨン繊維を用いている。
【0018】
心電計測布10は、被験者の身体に当接する面において、布帛の長手方向に一端から他端までが複数の計測電極21を配置した電極配置部11を構成している。
【0019】
電極配置部11には、所定の位置に導電撚糸による計測電極211~15が形成されている。これらの計測電極21の内、第5~15計測電極215~15は、標準12誘導法で規定された6個の胸部電極に対応しており、第1、2、3、4計測電極211、2、3、4は標準12誘導法で規定された四肢電極に相当するものであり、電極配置部11において、被験者の前面に対応する部分の四端近くに形成されている。撚糸糸条による配線23によって接続され、第1~15計測電極211~15で計測した電圧を出力する端子部25が設けられている。端子部25は、セレクタと一体化しており、心電計と接続できるように、例えばスナップなどの所定の規格を採用している。
【0020】
ここで、前記セレクタは、前記計測電極のうちの9個以上(より好ましくは9~20個)の計測電極と前記端子部間の回路の導通および非導通を切り替えることができることが好ましい。
【0021】
実施の形態の計測電極211~15には導電性粘着ゲルが塗布されており、さらにポリエチレン製のフィルムを心電計測布10の被験者の身体に当接する面に貼りつけられている。使用前にそのフィルムを剥離する。
【0022】
また、心電計測布10のの被験者の身体に当接する面の電極配置部11における略中央には、この心電計測布10の長手方向に直交して上端から下端まで伸びる基準線による第2の位置基準部32が形成されている。この第2の位置基準部32は、心電計測布10を被験者に装着するとき正中線に合わせる基準線となるように、目視により識別できるように綴織や印刷によって形成することができる。
【0023】
心電計測布10は、第1の位置基準部31を被験者の腋下の高さに合わせるとともに、第2の位置基準部32の基準線を被験者の正中線に合わせることにより、被験者1に対する位置合わせをすることができる。この位置合わせによって、第5~15計測電極215~15が標準12誘導法で規定された胸部電極の位置に所定の位置精度を有して適切に取り付けられる。また、第1~4計測電極211~4も標準12誘導法で規定された四肢電極に相当するように四肢に近く取り付けられる。
【0024】
計測電極21はジャカード織機により作製され、略矩形の形状になるように、平織の布帛において非導電撚糸中に導電撚糸糸条により形成されたものである。さらに、計測電極21は、写真には表れていない導電撚糸糸条による導線の配線23を含む配線で接続されており、さらにセレクタ41およびそれに備わった端子部25に接続されている。
【0025】
このように実施の形態の心電計測布10は、標準12誘導電極法で規定された計測電極21を被験者の適切な位置に取り付けることが容易にできるようになる。したがって、第1の実施の形態の心電計測布10は、救急搬送などの救急現場において心電図の電極の適切な取り付けを速やかに行うことを可能とし、ひいては虚血性心疾患の患者の心電図に基づいた診断による救命率の向上に貢献することができる。
【0026】
さらに、実施の形態の心電計測布10は、平織組織の織物に形成されたものであり、形態安定性を高め、布帛でありながら電極の位置関係が布の伸縮によって大幅に代わることがない構造としている。
【0027】
さらにまた、実施の形態の心電計測布10は、非導電撚糸の布帛の中に導電撚糸による計測電極21および配線23が折り込まれ、導電撚糸は非導電撚糸により適度に電気的に遮蔽されている。したがって、外部からのノイズなどの影響が抑制され、計測電極21からの微弱な生体信号を的確に捉えることができる。
【0028】
実施の形態の心電計測布10は、西陣織の技術によりジャカード織機を用いた綴れ織りにより導電撚糸および非導電撚糸を用いて平織に作製したものである。ジャカード織機の製造工程を利用することによって、様々な体のサイズに合わせた多品種少量製品を工業的に安定して逓増することができる。
【0029】
なお、本発明はこれにジャカード織機を用いた平織織物に限定されない。綾織、朱子織など他の織物組織を使用することもできる。また、導電撚糸および非導電撚糸に限られず、導電性糸および非導電性糸を使用することもできる。
【0030】
実施の形態において、導電撚糸に銀メッキ繊維を使用したが、本発明はこれに限定されない。導電撚糸は、例えば、金、銀、銅、ステンレス等の金属繊維、カーボン、チタン、アルミナなどの無機繊維、ポリアニリン、ポリアセチレン等の導電性ポリマー、硫化銅およびニッケルを含有したアクリル、ナイロンまたはポリエステル繊維などから作製することができる。
【0031】
実施の形態において、非導電撚糸にはポリエステルまたはレーヨン繊維を使用したが、本発明はこれに限定されない。非導電撚糸は、例えば、綿、絹、アクリル、ナイロン繊維などから作製することができる。
【0032】
実施の形態において、銀メッキ繊維による導電撚糸は直径100μm、ポリエステルまたはレーヨンによる非導電撚糸は55~550dtexとしたが、本発明はこれに限定されない。銀メッキ繊維による導電撚糸は直径20μm~240μm、ポリエステルまたはレーヨンによる非導電撚糸は55~1100dtexの範囲とすることができる。
【0033】
実施の形態において、計測電極は略矩形の形状であったが、本発明はこれに限定されない。例えば、矩形、正方形、楕円形、同心円等の各種の所望の形状にすることができる。
【0034】
実施の形態においては標準12誘導電極法による12誘導心電図を用いたが、本発明はこれに限られず、他の方式の心電計を利用することもできる。
【0035】
実施の形態において、前記布帛の装着方法は被験者の身体前面に装着したが、本発明はこれに限定されない。しかし、被験者の身体前面に装着する場合、仰臥位の被験者の上にそのまま置くことで装着することが可能であり、被験者の意識がない状態でも速やかに装着することができ好ましい。
【0036】
実施の形態において、装着時に被験者の身体に前記布帛を当接させる際の手段は粘着剤を用いたが、本発明はこれに限定されず、ベルトや面ファスナーなどを用いて締付けによって当接させてもよい。しかし、粘着剤を用いる際に、導電性粘着ゲルを計測電極に塗布しておくと、その粘着性を利用して前記布帛を被験者の身体へ当接させると同時に、計測電極と身体とを低インピーダンスで安定的に電気的に接続することができ、前記布帛の装着後、速やかにかつ安定的に計測を行うことができるので好ましい。
【0037】
粘着剤を用いた場合は、前記粘着剤の乾燥による粘着剤低下を抑制するため、前記布帛を使用しない間は、その表面をシートで被覆しておくことが好ましい。前記被覆シートの形状、大きさおよび材質は特に限定されるものではないが、粘着剤を被覆するのに十分な形状および大きさであることが好ましい。前記被覆シートの素材は特に限定されないが、剥離が容易な樹脂製のフィルムなどが好ましい。
【0038】
前記セレクタの形状、大きさ、材質は特に限定されないが、操作しやすいようにスイッチの大きさは指の太さより大きい幅を有することが好ましい。また前記セレクタは、操作の途中で被験者の身体に衝突した際の衝撃が低減されるように、角が取られており、軽量である樹脂製であることが好ましい。
【0039】
実施の形態において、前記計測電極のうちの1つ以上の計測電極と前記端子部間の回路の導通および非導通を4パターンに切り替えることができるセレクタを備えていたが、本発明において切り替えのパターン数は限定されず、2以上(より好ましくは2~10)である。しかし、多様な被験者の身体の大きさに対応することができ、かつ、被験者の身体を目視して速やかに分類を判断することができる4パターンが好ましい。4チャンネルの場合、一般的な衣服のサイズの分類であるLL、L、M、Sという指標にそれぞれのチャンネルを割り振ることができる。
【0040】
前記布帛は、しかし、特に女性の被験者の胸部の膨らみ部分に前記布帛が当たり、前記計測電極と身体の間の密着性が損なわれ、計測に影響を及ばさないようにするために、前記電極部分を損なわない範囲で、胸部に当たる部分の面積を小さくすることが好ましい。
【0041】
前記布帛の、胸部に当たる部分の面積を小さくする手段は特に限定されないが、切断が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、虚血性心疾患の心電計を用いた診断などの医療分野に利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
10 心電計測布
11 電極配置部
21 計測電極
23 配線
25 端子部
31 第1の位置基準部
32 第2の位置基準部
41 セレクタ