(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】親水性表面変性炭素質粒子材料
(51)【国際特許分類】
C01B 32/21 20170101AFI20220509BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20220509BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220509BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20220509BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20220509BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20220509BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20220509BHJP
【FI】
C01B32/21
C01B33/02 Z
H01M4/36 B
H01M4/36 C
H01M4/36 D
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/587
H01M10/0525
(21)【出願番号】P 2017501653
(86)(22)【出願日】2015-07-15
(86)【国際出願番号】 EP2015066212
(87)【国際公開番号】W WO2016008951
(87)【国際公開日】2016-01-21
【審査請求日】2018-07-17
【審判番号】
【審判請求日】2020-08-14
(32)【優先日】2014-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2014-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511089686
【氏名又は名称】イメリス グラファイト アンド カーボン スイッツァランド リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャル グラス
(72)【発明者】
【氏名】ピルミン ウルマン
(72)【発明者】
【氏名】ジモーネ チュルヒャー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル シュパール
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】河本 充雄
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/039477(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/149807(WO,A2)
【文献】特開2003-151533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B32/00-32/99
H01M 4/00- 4/62
H01M10/05-10/0587
H01M10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面変性炭素質粒子材料であって、
前記表面変性炭素質粒子材料は、炭素質コア粒子、及び前記炭素質コア粒子にコーティングされている親水性非グラファイト質炭素CVDコーティングを含み、
BET比表面積(BET SSA)が、49m
2/g未満であり、
前記表面変性炭素質粒子材料は、酸素含有分が200ppm超1700ppm以下であること
、及び多環芳香族炭化水素(PAH)濃度が、200mg/kg未満であることを特徴とし、かつ
前記炭素コーティングが、酸化された非晶性炭素を含む、
表面変性炭素質粒子材料。
【請求項2】
(i)3秒後接触角が、90°未満、及び/又は、5秒後接触角が60°未満であり、並びに/又は、
(ii)前記表面変性炭素質粒子材料の表面エネルギーが、少なくとも59mJ/m
2である
ことを特徴とする濡れ性能を更に有する、請求項1に記載の表面変性炭素質粒子材料。
【請求項3】
(i)スプリングバック比が、15~75%であり、及び/又は
(ii)BET表面積が、0.5~5m
2/gであり、及び/又は
(iii)メソポア面積が、5.0m
2/g未満であり、及び/又は、
(iv)キシレン密度が、2.1~2.260g/cm
3であり、及び/又は、
(v)励起波長が632.8nmであるレーザを用いて測定されるときに、I
D/I
G比(R(I
D/I
G))が、0.3超であり、及び/又は
(vi)平均粒子サイズ(D
50)が、0.5~100μmである
ことを更に特徴とする、請求項1
又は2に記載の表面変性炭素質粒子材料。
【請求項4】
前記炭素質コア粒子は、天然グラファイト、合成グラファイト、コークス、硬質炭素、グラファイト化微細コークス、それらの混合物、又は、ケイ素、スズ、ビスマス、アンチモン、アルミニウム、銀、SiO
X(X=0.2~1.8)若しくはSnO
2粒子を更に含有しているかかる炭素粒子の組成物から選ばれる、請求項1~
3のいずれか一項に記載の表面変性炭素質粒子材料。
【請求項5】
前記炭素質コア粒子が、合成グラファイト粒子、又は、合成グラファイト粒子とケイ素粒子との混合物である、請求項
4に記載の表面変性炭素質粒子材料。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の表面変性炭素質粒子材料の調製方法であって、前記炭素質コア粒子に、
(a)非グラファイト質炭素により化学気相成長(CVD)によりコーティングをし、そして
(b)工程(a)により得られたコーティングされている炭素質粒子材料の親水性を増加するための酸化処理を施す、
方法。
【請求項7】
前記炭素質粒子材料を、不活性キャリアガスと混合された炭化水素ガス又はアルコール蒸気と10~180分間の範囲の時間接触させることにより、前記化学気相成長を行う、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
工程a)から得られた炭素質粒子材料を、気相/固相法において、空気、二酸化炭素、水蒸気、酸素、オゾン若しくはそれらの任意の組合せを接触させるか、又は、別には、液相/固相法において、水性過酸化水素若しくは液相中に存在する他の酸化剤と接触させるかのいずれかにより、酸化処理する前記工程b)を行う、
請求項
6又は
7に記載の方法。
【請求項9】
a)工程(b)の後に得られる表面変性炭素質粒子材料のBET SSAは、
(i)出発炭素質粒子材料のBET SSAより小さく、及び/又は、
(ii)工程(a)から得られる非グラファイト質炭素コート炭素質粒子材料のBET SSA以上であり、
及び/又は、
b)工程(b)から得られる表面変性炭素質粒子材料のD
90粒度分布は、
(i)工程(a)から得られる非グラファイト質炭素コート炭素質粒子材料のD
90粒度分布の±10%以内にあり、及び/又は、
(ii)出発炭素質粒子材料のD
90粒度分布の±10%以内にあり、
及び/又は、
c)工程(b)の後に得られる表面変性炭素質粒子材料のメソポア面積は、
(i)出発炭素質粒子材料のメソポア面積よりも小さく、及び/又は、
(ii)工程(a)から得られる非グラファイト質炭素コート炭素質粒子材料のメソポア面積以上であり、及び/又は、
d)工程(b)から得られる表面変性炭素質粒子材料のキシレン密度が、出発炭素質粒子材料のキシレン密度と比較して、1~7%低下されている、
請求項
6~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の表面変性炭素質粒子材料を含む組成物。
【請求項11】
請求項
10に記載の組成物であって、
(i)他の未変性若しくは変性の炭素質粒子材料との混合物の状態であるか、又は、
(ii)粒子形態の他の非炭素質材料若しくはそれらの組合せとの混合物の状態である、
組成物。
【請求項12】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の表面変性炭素質粒子材料の、リチウムイオン電池の負電極材料を調製するための使用。
【請求項13】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の表面変性炭素質粒子材料を活物質として含む、リチウムイオン電池の負電極。
【請求項14】
前記炭素質コア粒子は、天然グラファイト及び/又は合成グラファイトを含み、かつ前記負電極は、追加の天然グラファイト、合成グラファイト及び/又はグラファイト化微細コークスをさらに含む、請求項
13に記載のリチウムイオン電池の負電極。
【請求項15】
(i)前記追加の天然グラファイト及び/又は合成グラファイトは負電極の2質量%~10質量%の範囲の量で存在し、及び/又は
(ii)前記追加の天然グラファイト、合成グラファイト及び/又はグラファイト化微細コークスは、ピッチコートされたものである、
請求項
14に記載のリチウムイオン電池の負電極。
【請求項16】
前記追加の天然グラファイト及び/又は合成グラファイトの平均粒子サイズは、平均粒子サイズ(D
50)が0.5~100μm又は1~20μmの範囲である、請求項
15に記載のリチウムイオン電池の負電極。
【請求項17】
電池の負電極に請求項1~
5のいずれか一項に記載の表面変性炭素質粒子材料を含む、リチウムイオン電池。
【請求項18】
リチウムイオン負電極半電池試験において決定される一回目のサイクルでの非可逆的な電荷損失が、20%未満であり、及び/又は、リチウムイオン負電極半電池試験において決定される二回目のサイクルでの非可逆的な電荷損失が、6%未満である、請求項
17に記載のリチウムイオン電池。
【請求項19】
5~95質量%の質量比で、請求項1~
5のいずれか一項に記載の表面変性炭素質粒子材料を含む、ポリマー複合材料。
【請求項20】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の表面変性炭素質粒子材料を含む、エネルギー貯蔵デバイス。
【請求項21】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の表面変性炭素質粒子材料を含む、炭素ブラシ。
【請求項22】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の表面変性炭素質粒子材料を孔形成性材料として含む、セラミック、セラミック前駆体材料又はグリーン材料。
【請求項23】
リチウムイオン電池を含む、電気車両、ハイブリッド電気車両又はプラグインハイブリッド電気車両であって、前記リチウムイオン電池が、前記電池の負電極中に請求項1~
5のいずれか一項に記載の表面変性炭素質粒子材料を活物質として含む、車両。
【請求項24】
前記表面変性炭素質粒子材料が、グラファイト質材料を含むか、又は、前記表面変性炭素質粒子材料のコア粒子が、非グラファイト質粒子を含む、請求項
23に記載の電気車両、ハイブリッド電気車両又はプラグインハイブリッド電気車両。
【請求項25】
液体、及び表面変性炭素質粒子材料を含む、分散体であって、
前記表面変性炭素質粒子材料は、炭素質コア粒子、及び前記炭素質コア粒子にコーティングされている親水性非グラファイト質炭素CVDコーティングを含み、
BET比表面積(BET SSA)が、49m
2
/g未満であり、
40質量%の前記表面変性炭素質粒子材料を含有している分散体の粘度が、2,000~4,000mPa・sであり、
前記表面変性炭素質粒子材料は、酸素含有分が200ppm超1700ppm以下であること
、及び多環芳香族炭化水素(PAH)濃度が、200mg/kg未満であることを特徴とし、かつ
前記炭素コーティングが、酸化された非晶性炭素を含む、
分散体。
【請求項26】
(a)前記表面変性炭素質粒子材料は
、
(1)3秒後接触角が、90°未満、及び/又は、5秒後接触角が60°未満であり、並びに/又は、
(2)前記表面変性炭素質粒子材料の表面エネルギーが、少なくとも59mJ/m
2である
ことを特徴とする濡れ性能を更に有するか、又は
(b)前記表面変性炭素質粒子材料が、請求項1~
5のいずれか一項に規定されるとおりである、
請求項
25に記載の分散体。
【請求項27】
未変性炭素質粒子を更に含み、前記表面変性炭素質粒子材料が、炭素質粒子の総量の10~99wt.%の範囲の量で存在する、請求項
25又は
26に記載の分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、親水性炭素コーティングを有する新規の表面変性炭素質粒子材料、前記炭素質粒子材料の調製方法、及び、その用途、例えば、リチウムイオン電池における負電極のための活物質としての用途に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池における負電極のための活物質としては、種々のグラファイト質材料が一般に使用されている。これらの電極の製造方法において、リチウムイオン電池における電極の製造のための溶媒としては、N-メチルピロリドン(NMP)が頻繁に使用されてきた。例えば、電極グラファイト質材料は、溶解したポリビニリデンフルオリド(PVDF)バインダを含むNMP中に一般に分散されている。このスラリーを、湿潤コーティング法で金属箔集電体上にコーティングし、コーティングを乾燥し、そして所望の電極密度にまでロールプレスする。分散及び湿潤コーティング法は、いずれもスラリーの限定されたレオロジー挙動(すなわち、沈降安定性のために低せん断速度で高粘度及び適切な混合のために高せん断速度でチクソトロピー効果)を必要とする。
【0003】
欧州におけるREACH規制(化学物質の登録・評価・認可・制限:Registration,Evaluation,Authorisation and Restriction of Chemicals)及び世界の他の地域での同様の規制の最近の導入は、しかしながら、NMPの使用に関する厳格な制限を導いている。NMPは非常に高い懸念のある物質として分類されており、そして生殖毒性物質であると疑われている。したがって、電極の分野において、NMP又は他の有機溶媒は、例えば、水によって置き換えられるべきであり、水は、結果的に水性コーティング法に適する電極材料を必要とする。
【0004】
NMP又は有機溶媒の置き換えは、次に、公知の炭素質負電極材料の疎水性により生じる別の問題をもたらした。この疎水性は、炭素表面の水による不十分な濡れを生じさせ、それにより、不安定な分散体を生じる。これらの特性は、コーティングプロセスにおける困難性、例えば、
i)コーティングにおける欠陥を形成することがある分散されていない炭素質粒子の凝集、
ii)コーティングにおける不均一及び電極の電気化学性能に影響を及ぼす不均一電極表面を形成する、促進された沈殿及びバインダ分離、
iii)適切な混合を行うことができない、特に高固形分での高粘度、及び/又は、
iv)疎水性炭素材料が水性スラリー中に均一に分散するまでの長い処理時間
をもたらす。
【0005】
産業における現在の方法においては、複雑でかつ高価な分散技術及び水中での炭素質粒子の疎水性表面を安定化する分散剤の使用により、これらの問題を対処しなければならない。
【0006】
さらに、疎水性は、バインダの使用に関係するさらなる問題をもたらす。典型的には、水性電極製造方法において、水溶性で親水性のカルボキシメチルセルロース(CMC)バインダを、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)ラテックスバインダと組み合わせて使用する。しかしながら、公知の疎水性炭素質材料はこれらの水溶性バインダと完全に適合性ではない。これらのバインダとのより強くかつより耐性(化学及び機械的劣化に対する)のあるバインダの相互作用を示すために、炭素質粒子材料の表面は親水性官能基を含むべきである。
【0007】
炭素質粒子材料とバインダとの間の好ましい結合相互作用を達成することは、Liインターカレーション及びデインターカレーションの間に炭素質活物質が膨張及び収縮するときに、サイクルの間の電極機械一体性などに対して有利な効果を生じる。上記の好ましい相互作用は、電極中に存在するバインダの量を最少化し、バインダが電極の導電性に対して示しうる隔離的効果を緩和し、そして電極における活物質含有分、すなわち、エネルギー密度を最大化することをすることをさらに可能にする。
【0008】
さらに、上記の好ましい相互作用は、電極の導電性及び機械的一体性に悪影響を及ぼす、電極乾燥の間に潜在的に起こりうるバインダのマイグレーション及びスキニングの作用を緩和する。電極の好ましい機械一体性及び導電性は、均質な電流密度分布をもたらし、それにより、特に高電流で、充電及び放電容量の良好な保持性をもたらす。
【0009】
疎水性炭素質表面は、例えば、BET表面積、界面面積及びグラファイト負電極の電解質に対する反応性を低下させるために使用される、炭素層によりグラファイト粒子をコーティングすることにより形成される。低表面積炭素コーティングは、電荷損失を低減することにより炭素粒子の電気化学的パラメータを改良し、セル安全性及び充電/放電サイクル安定性を改良する。さらに、炭素によるコーティングは、好ましい加圧挙動を有する炭素質活物質をもたらし、約40kN/cm2の典型的なプロセス圧での加圧時に、十分に緻密(典型的に1.5~1.8g/cm3の範囲にある密度)である一方で、電解質と電極との間のリチウム拡散を可能にする粒子間の好ましい孔ネットワークを維持している、電極の製造を可能にする。対照的に、コーティングされていないグラファイト質材料をベースとして製造される電極は頻繁に1.9g/cm3超という非常に高い密度を示し、これは電極孔におけるリチウムイオンの好ましくない拡散経路を生じさせ、それゆえ、電極孔におけるリチウムイオン拡散により制限されるリチウム挿入速度をもたらす。
【0010】
親水性炭素質粒子材料を製造する必要性は、長年にわたって増加しているが、このような親水性炭素質粒子材料を製造するための方法は、非常にわずかな数しか記載されていない。疎水性表面をもたらす典型的な表面コーティング法は、乾燥又は湿潤混合プロセスにおけるグラファイトなどの炭素質粒子の上のコールタールピッチのコーティング、及びその後の不活性ガス雰囲気中での高温での炭素化を基礎とする(非特許文献1及び2)。当該技術分野で記載される別の公知の方法としては、典型的にCVDコーティングと呼ばれる、高温で炭化水素蒸気中でグラファイト粒子を処理することによって達成されるグラファイト表面での熱分解炭素のコーティング(化学気相成長)が挙げられる(非特許文献3~5;)。
【0011】
特許文献1は、酸化処理、又は、別には、化学気相成長(CVD)コーティングのいずれかにより得ることができる合成グラファイト質粒子の表面変性法を記載しており、それは改良された表面特性を有するグラファイト材料を提供する。両方の方法は基本的に異なり、そして区別されるグラファイト質粒子を製造するが、両方の方法は、未変性のグラファイトそのものよりも有利な特性を有するグラファイト粒子をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【非特許文献】
【0013】
【文献】Wanら、Journal of Applied Electrochemistry,2009,39,1081
【文献】Yoonら、Journal of Power Sources,2001,94,68
【文献】Hanら、Electrochimica Acta,2003,48,1073
【文献】Lopez-Honoratoら、Carbon 2009,47,396
【文献】Liuら、New Carbon Materials,2008,23,30
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記の従来技術に関係して、本発明の目的は、それゆえ、親水性表面を特徴としそして改良された特性を示す表面変性炭素質粒子材料を提供し、また、特にリチウムイオン電池における負電極のための材料として使用されるときに、好ましい物理化学特性及び電気化学特性を有するこのような材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
グラファイト又は他の炭素質粒子材料などの炭素質粒子であって、任意選択的にケイ素、スズ、ビスマス、アンチモン、アルミニウム、銀、SiOX(X=0.2~1.8)、SnO2粒子又は他のヘテロ元素粒子を含む炭素質粒子の表面で有利な親水性コーティングを提供する新規の方法を開発した。この方法は、一方で、BET比表面積(BET SSA)及び電気化学セルの電解質に対する反応性を低下させつつ、同時に十分に親水性表面であり、とりわけ、優れた濡れ性能、及び、親水性表面を有する炭素質粒子材料に関係する他の好ましい特性、例えば、バインダとの十分に強い結合相互作用を示すことを確保する。更に、この材料は、好ましいスプリングバック特性を示すことが見出され、そのことは、とりわけ、より低い密度である電極材料を製造することを可能にし、それにより、より良好なLi-イオン拡散性を可能にし、次いで、高速の放電をもたらす。更に、本明細書中に記載の新規の方法は効率的に多環芳香族炭化水素(PAH)の含有分を低減する。多環芳香族炭化水素の存在は、毒性及び環境上の問題から明らかに望ましくない。
【0016】
より詳細には、発明者は、粒子材料を非グラファイト質炭素層によりコーティングすること(例えば、化学気相成長、CVDによる)、次いで、親水性表面基を導入し、それにより、粒子表面の親水性を増加させる、酸化処理により、コーティングされた粒子材料を変性することを含む、表面変性炭素質粒子材料の調製方法を開発した。
【0017】
リチウムイオン電池を製造する際に、炭素質活物質表面はエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの高極性電解質と接触する。したがって、親水性表面基は、電解質による電極表面の濡れ及び炭素質活物質の表面上の強固な固体電解質界面(SEI)層の形成に関する有利な効果をさらに提供する。SEIは、高極性の無機物質及び有機物質からなるとされており、例えば、リチウムエチレンジカーボネート、水酸化リチウム及びフッ化リチウムからなるとされている(D.Aurbachら、J.Electrochem.Soc.1994,141,603.)。炭素質活物質の親水性表面は、官能基の間の相互作用によりSEI層の界面を安定化させ、電解質との所望されない反応からグラファイト質表面を保護し、そして制御されないSEI成長又は電極表面での他の寄生的反応による閉塞から電極内部の孔構造を保存する。該反応は、リチウムのインターカレーション及びデインターカレーションの間にSEI層が炭素質活物質に十分に接着していない場合に起こりうる。
【0018】
このように、本発明の第一の態様においては、表面変性炭素質粒子材料を提供する。該材料は、親水性非グラファイト質炭素コーティングを有する炭素質コア粒子を含み、そして49m2/g未満の比較的に低いBET比表面積(BET SSA)を有する。親水性表面変性炭素質粒子材料は更に、3秒後接触角が90°未満であり、及び/又は、5秒後接触角が約60°未満であることにより特徴付けされる濡れ性能により規定されうる。代わりに又は追加的に、材料は、少なくとも59mJ/m2である表面エネルギーにより規定されうる。この新規の表面変性炭素質粒子材料は、また、代わりに又は追加的に、約15~約75%の比較的に高いスプリングバック比によっても規定されうる。
【0019】
別の関連態様において、本発明は本明細書中に記載のような親水性表面変性炭素質粒子材料の調製方法を提供し、まず、グラファイト質炭素などの炭素質粒子材料を化学気相成長(CVD)法などにより非グラファイト質炭素によりコーティングし、そして、次に、コーティング工程から得られたコート炭素質粒子材料の親水性を増加させるための酸化処理を施す。上記のとおり、酸化処理は最終材料中のPAH濃度を有意に減少させることが見出された。
【0020】
本発明の別の態様は、本開示中に記載された上記の方法により得ることができる、本明細書中に規定されるとおりの親水性表面変性炭素質材料に関する。
【0021】
本発明に係る表面変性炭素質粒子材料が好ましい電気化学特性及び処理特性を示すことを考慮すれば、本発明の別の態様は、リチウムイオン電池のための負電極材料の調製における親水性表面変性炭素質粒子材料の使用を含む。
【0022】
更に別の関連態様は、それゆえ、活物質として、本明細書中に規定されるとおりの親水性表面変性合成炭素質粒子材料を含むリチウムイオン電池の負電極の提供である。
【0023】
最後に、ポリマー複合材料が、典型的には合計組成物の5~95%(w/w)の比で、親水性炭素質粒子材料を含むときには、電池の負電極中に前記親水性表面変性炭素質粒子材料を含むリチウムイオン電池は、本発明の別の態様である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、例2に係るCVDコートグラファイトBの透過型電子顕微鏡画像を示す。
【
図2】
図2は、例2に係るCVDコートされた、酸化されたグラファイトBの透過型電子顕微鏡画像を示す。
【
図3】
図3は、親水性出発材料(グラファイトB)、酸化グラファイトB(未コート、比較例)、CVD工程後の疎水性材料(CVDコートグラファイトB)、及び、例2に係る酸化工程後の親水性材料(CVDコート及び酸化グラファイト)の濡れ特性を示す。0秒、1秒及び3秒後に画像を撮像した。a)、b)及びc)は出発材料の親水性特質を示し、d)、e)及びf)は比較の(未コート化)酸化グラファイトDの親水性特質を示し、g)、h)及びi)はCVDコート材料の疎水性特質を示し、そしてj)、k)及びl)は最後の酸化工程後の材料の親水性特質を示す。
【
図4】
図4は、疎水性出発材料(グラファイトD)、酸化グラファイトD(未コート化、比較例)、CVD工程後の疎水性材料(CVDコートグラファイトD)及び例5に係る酸化工程後の親水性材料(CVDコート及び酸化グラファイトD)の濡れ特性を示す。0秒、1秒及び5秒後に画像を撮像した。a)、b)及びc)は、出発材料の疎水性特質を示し、d)、e)及びf)は、比較(未コート)酸化グラファイトDの親水性を示し、g)、h)及びi)は、CVDコート材料の疎水性特質を示し、そしてj)、k)及びl)は、最終の酸化工程後の材料の親水性特質を示す。
【
図5】
図5は、疎水性、CVDコートケイ素含有炭素質化合物Si-B(パネルA)及び親水性CVDコート及び酸化ケイ素含有炭素質化合物(Si-C)(パネルB)の電気化学半電池サイクル結果を示す。
【
図6】
図6はCVDコート及び酸化ケイ素/グラファイト複合材Si-CのSEM/EDX(走査型電子顕微鏡/エネルギー拡散性x-線分光法)分析を示す(左パネル:SEM画像;右パネル:対応するEDX分析を含むSEM画像)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の特定の実施形態は、2段階表面変性プロセス、すなわち、非グラファイト質炭素コーティング技術、次いで、粒子の酸化処理により調製されうる、新規の親水性表面変性炭素質粒子材料を提供する。両方のプロセス工程を順次に適用することにより、本発明者らは、優れた特性を備えた親水性炭素コーティングを含む表面変性炭素質粒子材料を調製することができることを驚くべきことに見出した。
【0026】
非グラファイト質炭素コーティングの後に続く酸化において、本発明者らは、そのモルホロジーが変化するが、コーティングが寸法的に安定なままであることを見出した。酸化の後の親水性非グラファイト質炭素コーティングの存在は、ラマン分光法により測定されるとおりの乱れの非常に小さい変化(ID及びIGバンドの相対強度)、コーティングの酸化後のTEM画像における炭素コーティングの存在、及び、酸化時のBET比表面積(BET SSA)の緩やかな増加により示される。コート炭素質粒子材料の酸化後のBET SSAは、しかしながら、典型的には、炭素コーティングを有しない前駆体材料のBET SSAよりも十分に低いままである。同時に、酸素含有基による炭素コーティングの官能化の高い効率は、酸化された材料の親水性により説明され、例えば、接触角/濡れ性能試験に準拠して、比較的に高い表面エネルギーにより、及び/又は、酸化後の炭素コート炭素質粒子材料の増加した酸素含有分により説明される。
【0027】
Liイオン電池用途の特定の要求に対して、酸素含有表面基の量を微細調節するために、酸化条件を変更することができる。未コート結晶性グラファイトと比較して、非グラファイト質炭素コーティング層が酸化に対してより高い傾向がある結果(例えば、ラマン分光法により示されるように、より高い乱れのために、上記を参照されたい)、酸化処理によるBET SSAの所与の増加のため、より多くの量の酸素含有官能基を導入されうる。
【0028】
酸化処理は、初期の非グラファイト質炭素コーティングの表面粗さを若干増加するとみられる。それゆえ、炭素コーティングプロセス、次いで、酸化処理の組合せの使用により、ユニークなことに、例えば、グラファイト質活物質については所望の低いBET SSA値に達することが可能であり、一方、親水性酸素含有基により官能化された表面及び有利な表面モルホロジーを得るという目標を同時に達成することができる。結果として、親水性炭素コーティングを有する炭素質粒子材料は、リチウムイオン電池アノードにおいて優れた性質及び性能特性を示し、そしてポリマーとのより高い適合性を示す。
【0029】
本発明に係る変性炭素質粒子材料の親水性表面は、多くの有利な効果を提供する。とりわけ、水中の炭素質粒子の容易な分散をもたらし、そして得られる、例えば、水性分散体の粘度を低減し、それにより、とりわけ、電極製造プロセスにおいて使用される前記炭素質粒子の水性分散体を製造するために、より低いエネルギーインプットで、より迅速でかつより簡単な分散プロセスを可能にし、又は、同一の粘度レベルで、分散体のより高い炭素含有分を可能にし、このようにして、乾燥電極フィルムを得るための、より早い乾燥プロセスを可能にする。本明細書中に記載の新規の方法により得られるコート炭素質粒子材料のレオロジーは、水性媒体中に分散されるときに、例えば、リチウムイオン電池の集電体箔上にコーティングされた電極膜を製造するために適用される湿潤コーティングプロセスにとって有利である。
【0030】
親水性炭素質粒子材料の、約15~約75%の高スプリングバック比などの加圧特性は、電極製造のために有利であり、所望の範囲の密度をもたらし(約40kN/cm2で加圧したときに、約1.5~1.8g/cm3)、改良されたLi-イオン拡散を可能とし、それにより、電池において高い放電速度をもたらす。変性表面モルホロジーはまた、CMC及びSBRバインダと親水性炭素質粒子材料との間の好ましい相互作用、電解質による電極の効率的な濡れ、及び、堅牢な固体電解質界面(SEI)層の形成をもたらす。
【0031】
これらの効果は、ビニリデンカーボネートなどのSEI-形成を補助する電解質添加剤の非存在下にサイクルされる、CMC/SBRバインダをベースとする電極の好ましい放電容量に反映され、また、ガルバノスタット充電及び放電容量の好ましい保持に反映される(例えば、表1を参照されたい)。ケイ素金属又はリチウム金属との合金を形成する他の金属、例えば、スズ、ビスマス、アルミニウムを含有する炭素質粒子材料において、非可逆性及び可逆性容量損失の減少は、親水性炭素コーティングの結果として観察された(
図5と比較)。観察された効果は、電極及び電解質充填多孔性ネットワークの機械的一体性がリチウムインターカレーション及びデインターカレーションの間に維持され、そして電極における電流密度分布が均一のままであることに反映される。未コート材料又はコート疎水性(すなわち、酸化処理を行っていない)炭素質材料におけるガルバノスタット充電及び放電容量の好ましくない保持は、不十分なバインダ炭素質活物質相互作用により粒子間の電気接触が失われるか、又は、制御されていないSEI成長及び炭素質粒子の表面での他の副反応により、電解質充填孔が閉塞されることを示唆している。最終の得られる親水性炭素コート炭素質粒子材料の改良された適用特性の他に、本明細書中に記載の組み合わせたコーティング/表面変性プロセスの別の主な利点は、得られる親水性コート炭素質粒子材料における多環芳香族炭化水素(PAH)のより良好な制御及び有意な減量にある。PAH微量体は、典型的には、グラファイト及び他の炭素質粒子材料のコールタールピッチ系コーティングにおいて見られるものであり、そして環境上の懸念となる。本発明の方法においても使用されうるCVDコーティング法はまた、有意な量のPAHを形成する。しかしながら、これらの所望されないPAHの含有分は、炭素コート材料が典型的には300℃を超える温度で空気(又は他の適切なガス又は蒸気)に暴露されたときに、第二の酸化処理工程において有意に減量される。この追加の工程は、それゆえ、炭素質粒子のPAH濃度を完全に制御することができ、そしてこのようにして、材料の取り扱いを容易にする。500℃を超える処理温度は表面でPAHを破壊するだけでなく、所望の親水性表面特性を確保し、上記の利点をもたらす。
【0032】
親水性コート炭素質粒子材料はまた、例えば、リチウムイオン電池電極、他の電気化学セル、又はより一般的には導電性若しくは熱伝導性若しくは自己潤滑性のための炭素質粒子材料を含むフィラーを含むポリマー複合材において使用される際に、ポリマーマトリックスにおけるより良好な適合性を示す。
【0033】
特定の実施形態によると、本発明に係る方法は、出発材料、すなわち、コアグラファイト(他の炭素質)粒子が比較的に高いBET SSAを有することができるという利点をさらに提供する。というのは、非グラファイト質炭素コーティング(例えば、CVDによる)は、実質的にBET SSAを低減させるが、次の酸化処理を通した高い親水性を達成するからである。
【0034】
〈表面変性炭素質粒子材料〉
本発明に係る表面変性炭素質粒子材料は、親水性非グラファイト質炭素コーティングを有する炭素質コア粒子を含む。コーティング(及びそれゆえ粒子)は、とりわけ、その高い濡れ特性の観点で親水性であることを特徴とし、すなわち、炭素質粒子材料は炭素質粒子材料と水が接触したときに水を吸収することができる。濡れ性能は、例えば、接触角/濡れ試験により測定することができ(詳細に関しては下記の方法の項目を参照されたい)、ここで、水の液滴は炭素質粒子材料の層により覆われた平表面上に配置される。疎水性材料(例えば、未変性CVDコートグラファイト)では、水滴は、本質的に湾曲した/球形の形状を(その表面張力のために)維持し、一方、親水性材料では、水滴は表面上で幾分素早く広がり、そして最終的に材料に吸収される。液滴を平らな炭素質材料表面上に配置した後の所与の時間の後に90°を(大きく)超える接触角は、疎水性材料であることを示し、一方、親水性材料は、特に数秒間待った後に、90°を(大きく)下回る接触角を示す。疎水性材料及び親水性材料の差異のある挙動は、例えば、
図3及び4に示されている。
【0035】
代わりに又は追加的に、炭素質粒子材料の親水性表面は、材料の表面エネルギーを決定することにより(更に)特徴付けることができ、ここで、濡れ性能試験と同様に、3.5vol%(=2.7質量%)のイソプロパノールを含む水溶液の接触角は、上記の濡れ性能試験(手順の詳細に関しては、再び、下記の方法の項目を参照されたい)に関して上記したのと本質的に同様に決定される。2.7wt%のイソプロパノールを含むこのような水溶液の表面張力は59mJ/m2であるので(mN/mと等価の単位、Vazquezら,J.Chem.Eng.Data 1995,40,611-614から外挿される)、本発明に係るすべての表面変性親水性炭素質粒子材料は、この溶液を吸着する(又は少なくとも90°未満の接触角を有する)ことが見出された。この観察から、本明細書中に記載の表面変性親水性炭素質粒子材料の表面エネルギーは、少なくとも59mJ/m2であったことを結論付けることができる。
【0036】
このように、第一の態様において、本発明は、BET比表面積(BET SSA)が49m2/g未満、好ましくは25m2/g未満、15m2/g未満又はさらには10m2/g未満であり、又は、幾つかの場合には5m2/g未満(例えば、0.5~5m2/g又は1~5m2/g)である、親水性炭素コーティングを有する炭素質コア粒子を含む表面変性炭素質粒子材料に関する。
【0037】
幾つかの実施形態において、親水性表面変性炭素質粒子材料は、3秒後接触角が約90°未満、好ましくは75°未満、70°未満、65°未満、60°未満、55°未満又は50°未満であることを特徴とする濡れ性能を示すことにより更に規定されうる。代わりに又は追加的に、親水性表面変性炭素質粒子材料の濡れ性能は、5秒後接触角が約60°未満、好ましくは40°未満、30°未満、25°未満又は20°未満であることにより特徴付けることができる。
【0038】
上記で説明したとおり、幾つかの実施形態において、親水性表面変性炭素質粒子材料は、代わりに又は追加的に、上記に説明したとおり、表面エネルギーが少なくとも59mJ/m2、好ましくは少なくとも62mJ/m2、少なくとも67mJ/m2又は少なくとも70mJ/m2であることをさらに特徴とすることができる。
【0039】
親水性表面変性炭素質粒子材料を更に特徴付ける更に別の代わりの又は追加の方法は、そのスプリングバック比によるものである。圧縮力(本ケースでは、0.477トン/cm2)を解放した後の炭素質粒子材料のスプリングバックは、炭素質粒子の結晶性、テクスチャー、粒子サイズ及び表面特性により影響を受ける。本発明に係る表面変性炭素質粒子材料は、このように、幾つかの実施形態において、代わりに又は追加的に、スプリングバック比が約15~約75%、好ましくは約20~60%又は25~50%であることを更に特徴とすることができる。
【0040】
特定の実施形態において、本発明の表面変性炭素質粒子材料は、比較的に低い多環芳香族炭化水素(PAH)含有分を更に特徴とすることができ、該多環芳香族炭化水素(PAH)濃度は、200mg/kg未満である。好ましくは、PAH含有分はさらに低く、例えば、150mg/kg、100mg/kg、50mg/kg、30mg/kg未満であり、さらに10mg/kgを超えないこともできる。幾つかの実施形態において、PAH含有分はさらには5mg/kg未満、2mg/kg未満、1mg/kg未満又はさらには0.5mg/kg未満である。このような低いPAH含有分は、例えば、CVD以外の代わりのコーティング法によって達成されうる。本明細書中に記載の表面変性法は、親水性表面及び低減されたPAH含有分を有するコーティングにより達成される利点(例えば、活性表面積を低減する)を組み合わせる炭素質粒子材料を生じさせる。
【0041】
本発明に係る表面変性炭素質粒子材料のコアは、例えば、天然グラファイト、合成グラファイト、剥離グラファイト、グラフェン、数層グラフェン、グラファイト繊維、ナノグラファイト、グラファイト化微細コークス、又は、非グラファイト質炭素、例えば、硬質炭素、カーボンブラック、石油系若しくは石炭系コークス、ガラス質カーボン、ナノチューブ、フラーレン又はそれらの混合物から選ばれる。あるいは、ケイ素、スズ、ビスマス、アンチモン、アルミニウム、銀、SiOX(X=0.2~1.8)、SnO2又は他のヘテロ元素粒子との混合物中に前記炭素質粒子材料を含む組成物はコア材料として使用されうる。原則的に、非グラファイト質炭素コーティング(例えば、CVDコーティング)の適用を示した任意の粒子材料は、本発明の方法により変性されうる。利点は炭素質粒子材料が負電極の活物質として使用されるリチウムイオン電池の関係で特に有用であるから、炭素コア材料は、好ましくは、場合により上記のとおりの他のヘテロ原子との混合物中にある、天然若しくは合成グラファイトであり、その特性として特に好ましい合成グラファイトは特定の用途の要求に従って適宜選択され又は調節されうる。可逆性Li-吸収特性を有する少なくとも1つのヘテロ元素(例えば、ケイ素、スズ又は酸化ケイ素)の粒子を更に含む炭素質前駆体材料の使用は、リチウムイオン電池のアノードにおけるエネルギー容量の更なる増加を可能にし、それゆえ、特定の実施形態において特に好ましい。
【0042】
幾つかの実施形態において、本発明に係る表面変性炭素質粒子材料の親水性炭素コーティングは酸化された非グラファイト質炭素を含み、それは好ましくは等方性構造を有する非晶性である。コーティングは、例えば、当該技術分野で一般によく知られている化学気相成長(CVD)法により得ることができる。酸化処理を施すことができる代わりの非グラファイト質炭素コーティングとしては、ガラスライクカーボン、ダイアモンドライクカーボン(DLC)、乱層の炭化ピッチ系炭素を挙げることができる。
【0043】
本発明に係る表面変性炭素質粒子材料は、特定の実施形態において、約200ppm超、好ましくは約400ppm超、約600ppm超、約700ppm超又は約800ppm超の酸素含有分を更に特徴とすることができる。炭素質粒子材料の絶対酸素含有分は、出発材料の酸素含有分に依存することが理解されるが、(未処理)出発材料、又は、更には、第一のコーティング工程(「工程a)」、すなわち、酸化処理前)の後に得られる炭素コート材料と比較したときに、本発明に係る方法の第二の工程(「工程b)」)により酸素含有分が増加されることが明らかである。グラファイトの特殊な場合には、親水性炭素コーティングは、すべての炭素がsp2形態(混成化)を有するので、表面にいかなる官能基をも有しないグラファイト質基本平面を官能化させることができる。
【0044】
上記のとおり、原則的に、多くの異なる炭素質粒子材料には、本明細書中に記載の新規の方法を施すことができる。しかしながら、多くの場合に、本発明の表面変性炭素質粒子材料は、特にリチウムイオン電池用途で、比較的に低いBET SSAを特徴とすることが好ましい。変性粒子の実際のBET SSAは、もちろん、コーティング前のBET SSA及びコーティング方法の詳細及び次の酸化処理に依存する。いずれにしても、特定の実施形態において、BET SSAは、約0.5~約25m2/g、又は、約0.5~約10.0m2/g、又は、約0.5~約5.0m2/g、又は、約1.0~約5.0m2/g、又は、約1.2~約4.3m2/g、又は、約1.5~約4.1m2/gの範囲である。
【0045】
相対的に言えば、本発明の表面変性炭素質粒子材料は、幾つかの実施形態において、工程(b)(すなわち、酸化工程)後に得られるBET SSAが(i)未変性出発材料のBET SSAより小さいこと及び/又は(ii)工程(a)(すなわち、コーティング工程)から得られる炭素コート炭素質粒子材料のBET SSA以上であることを更に特徴とする。
【0046】
粒子のコーティングの更に別の結果は、低いBET SSAだけでなく、総孔面積に対する調節可能なメソポア面積であり、それは電解質充填孔におけるリチウムイオン拡散を改良するために孔サイズ分布を調節することを可能にする。メソポア面積は、典型的には、次の酸化処理時に若干増加され、一方、それは絶対的な点で非常に低いままであり、そして未変性出発材料のメソポア面積よりも確かに低い。幾つかの実施形態において、表面変性炭素質粒子材料は、したがって、メソポア面積が約5.0m2/g未満、約4.0m2/g未満、約3.8m2/g未満であり、約3.6m2/g未満、約3.5m2/g未満、約2m2/g未満、1.5m2/g未満又は更には1m2/g未満であることを更に特徴とすることができる。特定の実施形態において、出発材料の可能な微細孔は表面処理によりほとんど完全に消失しているようであることを観測した。
【0047】
炭素コーティング及び次の酸化処理はまた、典型的には、出発材料と比較してキシレン密度を下げるが、その効果は比較的に低い(しばしば、出発材料の密度よりも約1~7%の範囲低い)。ここで、幾つかの実施形態において、本発明の表面変性炭素質粒子材料は、キシレン密度が約2.1~2.260g/cm3、好ましくは2.15~2.250g/cm3であることをさらに特徴とすることができる。しかしながら、コア(出発)材料が既に(より)低いキシレン密度を初めから有している場合には、親水性表面変性炭素質粒子は、より低いキシレン密度を示すことができることが再び理解されよう。
【0048】
粒子の粒度分布(PSD)は、本発明の方法によって大きく影響を受けない。このように、それは、表面変性工程の前の出発材料のPSDにより主として支配される。どちらかといえば、例えば、D90値として表現されたときに、PSDは、むしろ、コーティングにより若干増加し、そして次の酸化処理によりあまり影響されない。いずれにしても、本発明の表面変性炭素質粒子材料は、幾つかの実施形態において、D90粒度分布が0.5μm~100μm、好ましくは1~50μmであることを更に特徴とすることができるが、他の粒子サイズ値も可能である。
【0049】
最終的に、簡単に上記されるように、本発明の親水性表面変性合成グラファイトは、特定の実施形態において、632.8nmの励起波長を有するレーザで測定されるときに、ID/IG比(R(ID/IG))が約0.3超であり、好ましくはR(ID/IG)が0.4~1.0であることを特徴とすることができる。この比は、また、処理の前の出発材料の比に依存するが、一般的な観測で、非グラファイト質炭素によるコーティング工程後にID/IG比が増加している。
【0050】
酸化処理は材料中に増加した酸素含有分をもたらすが、親水性表面変性炭素質粒子材料は、本発明の別の態様において、別の様式で規定されることができる。これらの実施形態において、親水性表面変性炭素質粒子材料は、酸素含有分が約200ppm超、好ましくは約400ppm超、約600ppm超、約700ppm超、又は、約800ppm超であることを特徴とすることができる。
【0051】
これらの別の実施形態は、場合により、上記に既に詳細に示したパラメータ、すなわち、濡れ性能、表面エネルギー、スプリングバック比、PAH含有分、コア材料、炭素コーティング、BET SSA、キシレン密度及びID/IGのいずれかによりさらに特徴付けることができる。
【0052】
あるいは、本明細書中に記載の表面変性炭素質粒子材料は、親水性非グラファイト質炭素コーティングを有する炭素質コア粒子を含み、該親水性表面炭素質粒子材料は、BET SSAと比表面エネルギーとの間の比が、0.8未満、好ましくは0.6未満、0.5未満、0.4未満、0.3未満又は0.2未満であることを特徴とすることにより規定されうる。幾つかの実施形態、特に低表面積粒子については、比は、0.15又は0.1未満、例えば、0.06未満、0.05未満、0.04未満、0.03未満又は0.02未満である。特定の実施形態において、比は0.01未満又は0.007未満であることができる。
【0053】
本明細書中に記載の表面変性炭素質粒子材料は、水性分散体中で顕著に低い粘度を示すので、親水性表面変性炭素質粒子材料は、代わりに又は追加的に、親水性非グラファイト質炭素コーティングを有する炭素質コア粒子を含み、そして40質量%の前記炭素質材料を含む水性分散体中で2,000~4,000mPaの粘度を示すことにより規定されうる。好ましくは、この濃度での粘度は、2,000~3,000mPa・s又は2,300~2,600mPa・sである。
【0054】
〈親水性表面変性炭素質粒子材料の調製方法〉
本発明の別の態様は本明細書中に記載されそして特許請求されるとおりの親水性非グラファイト質炭素コーティングを備えた表面変性炭素質粒子材料の調製方法に関する。親水性非グラファイト質炭素コーティングは、炭化水素を含有したガス混合物中で可能なコア材料として上記した材料から選ばれるような炭素質粒子材料を高温で処理し、非グラファイト質炭素を含むコーティングを得て、次いで、コーティングされた粒子を空気(又は他の適切な酸素含有)雰囲気中で高温にて処理して、変性した、より親水性の表面を生じさせることにより達成されうる。酸化工程はまた、このような酸化処理なしのコート粒子と比較して、粒子のPAH含有分の低減をもたらす。
【0055】
このように、幾つかの実施形態において、本発明に係る親水性非グラファイト質炭素コーティングを備えた表面変性炭素質粒子材料の調製方法は、
(a)非グラファイト質炭素で炭素質粒子材料をコーティングすること、及び、
(b)次に、工程(a)から得られたコート炭素質粒子材料の親水性を増加させるために酸化処理すること、
を含む。
【0056】
酸化処理は、好ましくは得られた粒子材料の親水性が本明細書中に示したとおりの濡れ性能及び/又は表面エネルギー特性を実現する様式で、そのような時間で行う。
【0057】
炭素堆積工程を、酸化雰囲気中でのコート粒子の次の処理と組み合わせることにより、炭素コーティングの望ましい親水性特性達成することができることを驚くべきことに見出した。炭素質粒子の表面に堆積された非グラファイト質炭素(工程(a))は適切な温度で酸素含有ガスにさらすときに(工程(b))、より親水性となる。
【0058】
いかなる理論にも拘束されることを望まないが、酸化処理は、カルボニル、カルボキシル、ヒドロキシル、ケトン、ケテン、アルデヒド、アルコール、キノン又はアルコキシアルキル基などの官能基を導入し、それにより粒子をより親水性にするものと考えられる。
【0059】
本発明に係る方法により変性されるべき炭素質粒子(すなわち、出発材料)は、好ましくは、天然グラファイト、合成グラファイト、剥離グラファイト、グラフェン、数層グラフェン、グラファイト繊維、ナノグラファイト、グラファイト化微細コークス、又は、非グラファイト質炭素、例えば、硬質炭素、カーボンブラック、石油系若しくは石炭系コークス、ガラス質カーボン、ナノチューブ、フラーレン又はそれらの混合物から選ばれる。あるいは、ケイ素、スズ、ビスマス、アンチモン、アルミニウム、銀、SiOX(X=0.2~1.8)、SnO2又は他のヘテロ元素粒子との混合物として前記炭素質粒子材料を含む組成物は、コア材料として使用されうる。親水性表面特性が特にリチウムイオン電池用途において特に有用であることを考慮すると、出発材料は、このような場合に、好ましくは、それぞれの用途の要求に従って、天然若しくは合成グラファイト又はヘテロ原子含有炭素質粒子材料から選ばれ、合成グラファイト又はケイ素含有グラファイトがそれらの調節可能な特性及び高エネルギー密度のために好ましい。
【0060】
工程a)の非グラファイト質炭素コーティングは、当該技術分野で知られている、任意の公知の適切な炭素-コーティング技術、例えば、化学気相成長(CVD)、物理気相成長(PVD)、ピッチコーティング、熱分解、原子層堆積(ALD)、レーザアブレーション、スパッタリング又は蒸発により達成されうる(例えば、HANDBOOK OF DEPOSITION TECHNOLOGIES FOR FILMS AND COATINGS Science,Technology and Applications Second Edition Noyes Publications,Park Ridge,New Jersey,U.S.A.,(Ed.Rointan F.Bunshah),1994,F.Xiong,MRS Proceedings,Vol.270,1992,又は、S.Bhardwajら,Carbon Letters,2007,8,285-291を参照されたい)。あるいは、非晶性炭素コーティングはまた、適切な液体、好ましくは水又は水性溶媒中に両親媒性材料の存在下で、炭素質粒子を分散させる技術により達成されうる。溶媒の除去の後に、両親媒性分子の層でコーティングされた炭素質材料には、炭素化を達成するために不活性雰囲気中で熱処理を施す。この方法は本願出願人(Imerys Graphite&Carbon)によるPCT/EP2015/058112により詳細に記載されており、ここで、参照によりその全体を本明細書に取り込む。
【0061】
いかなる場合でも、CVDコーティングは、工程a)の炭素コーティングを得るための好ましい方法の1つである。
【0062】
化学気相成長(CVD)工程は、特定の実施形態において、処理されるべき炭素質粒子材料を、不活性キャリアガスと混合された炭化水素ガス又はアルコール蒸気と接触させることにより行われる。炭化水素ガスは、好ましくは、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、アセチレン、ブタン、イソブテン、ベンゼン、トルエン、キシレン、液化石油ガス(LPG)、天然ガス及びそれらの組合せからなる群より選ばれる脂肪族又は芳香族炭化水素から選ばれる。特に好ましい炭化水素ガスは、アセチレン、天然ガス、メタン又はプロパンである。CVDコーティング工程(a)に使用されるアルコールは、好ましくは、エタノール、プロパノール、イソプロパノール及びそれらの組合せからなる群より選ばれ、エタノール又はプロパノールが特に好ましい。炭化水素ガス又はアルコール蒸気はまた、窒素又はアルゴンなどの不活性キャリアガス、好ましくは窒素と混合されうる。
【0063】
CVDコーティングのための適切なガス流速は、一般に、特定の環境(反応器タイプ、負荷、滞留時間及び出発材料のタイプ)に依存し、そして本明細書中に含まれる情報を用いて当業者によって決定されうる。幾つかの実施形態において、良好な結果は、流速が約1~5L/min、約1~3L/min又は約1~2L/minの流速のプロパン又はアセチレンガスを、場合により、1~10L/min、約1~8L/min、約2~5L/min又は2~3L/minの流速の不活性キャリアガスと組み合わせて用いて得られるが、正確な流速は、反応器タイプ、処理される材料及び他のプロセスパラメータに依存する。他の実施形態において、プロパン又はアセチレンガスと窒素又はアルゴンキャリアガスとの事前調製混合物は、CVDコーティング工程のために使用されうる。例えば、流動床反応器において、コーティングは、より高い流速、例えば、約1~50L/min、10~25L/min又は20~25L/minの流速で達成される。幾つかの実施形態において、混合物中のプロパン又はアセチレンガス/不活性キャリアガスの比は約1:10又は1:9である。
【0064】
本発明のこの態様の特定の実施形態によるCVDコーティング工程は、典型的に、10~180分、10~120分、10~60分又は20~40分の範囲にある反応器内での滞留時間で行われる。
【0065】
CVDコーティング工程のための温度は、典型的には、500~1200℃の範囲にあるが、多くの場合に、温度は、典型的には、600~1100℃又は700~1050 ℃の範囲である。
【0066】
工程a)のCVDコーティングを行うための出発材料と炭化水素ガス又はアルコール蒸気との接触時間は、通常、10~180分、10~120分、10~60分、又は20~40分の範囲にある。
【0067】
CVDコーティング工程は、一般に、若干の過剰圧で行われる。このように、特定の実施形態において、CVDコーティング工程は大気圧よりも0~80mbar、0~60mbar、0~50mbar、10~60mbar、10~50mbar又は0~40mbar高い圧力で行われる。
【0068】
表面変性炭素質粒子材料の調製方法の酸化処理は、一般に、コート粒子を適切な酸素源と接触させることにより、気相/固相プロセスで行われることができ、又は、別には、液/固相プロセスで行われることができる。適切な気相酸化剤は、幾つかの実施形態において、一般に高温での空気、二酸化炭素、水蒸気、酸素、オゾン又はそれらの組合せから選ばれることができる。本発明のこの態様の多くの実施形態において、酸化処理は、便利には空気又は合成空気を用いて行われる。あるいは、酸化は、コート粒子を、適切な酸化剤を含む液体と接触させることにより、液/固相プロセスで行うことができる。例えば、このような液/固相プロセスにおける適切な酸素源は、例えば水性過酸化水素である。
【0069】
酸化処理が気/固相プロセスであるときには、酸化処理工程b)での気相酸化剤の流速は、典型的には、1~50L/min、又は、1~20L/min、2~10L/min又は2~5L/minの範囲にあるが、正確な流速は、反応器タイプ、処理される材料及び他のプロセスパラメータに依存する。このように、例えば、プロセスが(単一)流動床反応器中で行われるときには、酸化処理工程におけるガスの流速は、10~30L/min又は10~20L/minの範囲であることができる。
【0070】
本発明の特定の実施形態による酸化処理は一般に、300~900℃、好ましくは500~900℃、550~750℃又は550~600℃の範囲の温度で行われるが、酸化処理は、特に高度反応性ガスのオゾンを用いるときに、便利には、より低い温度又は更には周囲温度にて行うこともできる。
【0071】
酸化工程b)の処理時間は通常、1~30分又は10~25分の範囲にあり、そして好ましくは15~20分間で行われる。
【0072】
上記に説明されるとおり、本発明に係る酸化処理は、PAHを焼失させ、そしてカルボニル、カルボキシル、ヒドロキシル、ケトン、ケテン、アルデヒド、アルコール、キノン、アルコキシアルキル基などの官能基を形成させ、それにより、本発明に係る親水性表面変性炭素質粒子材料の表面反応性の改良をもたらす。
【0073】
いかなる場合にも、温度、処理時間、圧力及びガス選択並びに酸化処理中の流速などのプロセスパラメータは、本開示中の情報を用いて、本明細書中に記載されるとおりの所望の製品特性及び表面処理合成グラファイト材料のパラメータを得るために、当業者により容易に調節されうる。
【0074】
本発明に係る親水性表面変性炭素質粒子材料の調製のためのプロセスパラメータは、好ましくは、工程(b)の後に得られる表面変性炭素質粒子材料のBET SSAが、出発の炭素質粒子材料のBET SSAよりも低く、及び/又は、コーティング工程(工程(a))から得られる炭素コート炭素質粒子材料のBET SSA以上であるように調節される。特定の実施形態において、本発明の方法は未処理の出発材料と比較して、10~90%、好ましくは20~80%のBET SSAの低下をもたらす。
【0075】
代わりに又は追加的に、酸化処理(工程(b))から得られる表面変性炭素質粒子材料のD90粒度分布が工程(a)から得られる炭素コート炭素質粒子材料のD90PSDと同じ範囲であり、そしてまた、出発の炭素質粒子材料のD90PSDと同様であるように、プロセスパラメータを調節する。幾つかの実施形態において、本発明に係る工程(b)から得られる親水性表面変性炭素質粒子材料のD90粒度分布が(未変性の)出発材料のD90粒度分布の±10%以内、又は、±5%の範囲内になるように、プロセスパラメータを調節する。
【0076】
代わりに又は追加的に、工程(b)から得られる表面変性炭素質粒子材料のメソポア面積が、(i)出発炭素質粒子材料のメソポア面積よりも小さい、及び/又は、(ii)工程(a)から得られる炭素コート炭素質粒子材料のメソポア面積以上であることを、表面変性炭素質粒子材料が特徴とするように、プロセスパラメータを調節できる。
【0077】
代わりに又は追加的に、工程(b)から得られる表面変性炭素質粒子材料のキシレン密度が出発炭素質粒子のキシレン密度と比較して、1~10%、好ましくは1~7%低下されるように、プロセスパラメータを調節できる。
【0078】
本発明に係る表面変性炭素質粒子材料の調製方法は、典型的には、反応器中で行われ、好ましくは、反応器は連続駆動又はバッチ式回転炉、タンブリングベッド反応器、流動床反応器、固定床反応器又はマルチプル炉床炉中で行われるが、本明細書中に記載されるとおりのプロセス工程を行うのに適する(そしてコーティングされる粒子と反応性媒体トの接触を可能とする)かぎり、他の反応器タイプも同様に一般に可能であることは容易に明らかである。
【0079】
本発明の幾つかの実施形態によるプロセス工程(a)及び(b)は、便利には同一の反応器中で行うことができ、好ましくは、反応器は、工程(a)の非グラファイト質炭素コーティングの後に、そして工程(b)の酸化処理の前に、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴンなど)によりパージされる。換言すれば、プロセス工程(a)及び(b)は、別個の2工程プロセス(コーティング工程が初期工程)で行われるか、又は、「単一の反応器」として実施されるが、本明細書中に記載のとおりの、初期コーティングプロセスと、次いで、表面酸化処理とに分割された明確な別個の処理条件を用いた2工程プロセスで実施されるかのいずれかであることができることが容易に理解される。
【0080】
伝統的な2工程プロセスの場合に、本発明の第一のプロセス工程の間に得られる炭素コート炭素質粒子材料は、典型的に、反応器から回収され、そして次いで、工程(b)の酸化処理のために同一の又は異なる反応器又はファーネスに移される。代替の単一反応器では、炭素質粒子材料は、同一の反応器中にあり、その間に、最初にコーティングプロセスを受け、次いで、好ましくはコーティング工程に使用されたすべての微量の炭化水素ガスを除去するための不活性ガスを用いたパージング工程を伴って、酸化処理を施される。
【0081】
本発明に係る方法が回転炉中で行われるときに、コーティング及び次の酸化工程の間の回転炉の適切な傾きは、3~9°、又は5~8°、又は、5~7.5°の範囲である。
【0082】
これらの値は、所望の結果を得るための大まかな指針を提供する、回転炉のためのプロセスパラメータを例示するためであると理解されるべきである。いかなる場合でも、当業者は、上記及び添付の特許請求の範囲に規定されるとおりの、酸化された非グラファイト質炭素によりコートされた親水性表面変性炭素質粒子材料を得るために、温度、プロセスガスの選択及び流速、及び、滞留時間などのプロセスパラメータをどのように調節するかが、当業者に理解されよう。
【0083】
最終の表面変性炭素質粒子材料の特性は、もちろん、炭素質出発材料、すなわち、新規の炭素質粒子材料のコアを形成する炭素粒子の特性にも依存する。プロセスの炭素コーティング工程が、一般に炭素質粒子材料のBET SSAを低下させる(時折、かなり)ことを考えると、本発明の方法はまた、出発材料としての比較的に高い表面積の炭素質粒子材料の使用を可能にする。しかしながら、典型的には、炭素質出発材料のBET表面積は、0.5~10m2/g、0.5~8m2/g、1.5~7.5m2/gの範囲にあるが、より高い(又はより低い)表面積を有する出発材料は同様に、本発明の方法において出発材料として使用されうる。
【0084】
本発明に係る方法を施される多くの適切な炭素質(例えば、グラファイト質)コア材料は市販されており、そして本発明の方法において使用されうる。
【0085】
〈本発明により調製される表面変性炭素質粒子材料〉
本発明の別の態様は、本明細書中に記載の方法のいずれかにより得ることができる、本明細書中に規定されるとおりの親水性表面変性炭素質粒子材料に関する。
【0086】
〈表面変性炭素質粒子材料の使用〉
得られる本明細書中に規定されるとおりの親水性表面変性炭素質粒子材料は、優れた電気化学特性を示すので、本発明の更に別の態様はリチウムイオン電池の負電極材料を調製するための前記表面変性炭素質粒子材料の使用に関する。
【0087】
〈表面変性炭素質粒子材料を用いた下流製品〉
結果的に、活物質として、本明細書中に規定されるとおりの親水性表面変性炭素質粒子材料を含む、リチウムイオン電池の負電極は、本発明の別の態様を表す。これは電極を含み、ここで、負電極は、活物質として、本発明に係る炭素質粒子材料を100%未満で含む。換言すると、更に他の材料(グラファイト又は他のもの)との混合物を含む負電極も同様に本発明の態様として考えられる。
【0088】
例えば、幾つかの実施形態において、炭素質コア粒子は天然グラファイト及び/又は合成グラファイトを含み、そして負電極は追加の天然グラファイト、合成グラファイト、及び/又は、グラファイト化微細コークスをさらに含み、好ましくは、追加の天然グラファイト、合成グラファイト、及び/又は、グラファイト化微細炭素は負電極の2質量%~10質量%又は3質量%~5質量%の範囲の量で存在する。他の実施形態において、負電極は、高度に結晶性である未コート合成若しくは天然グラファイトと、親水性表面変性炭素質粒子材料の混合物を含むことができる。あるいは、追加の天然グラファイト、合成グラファイト及び/又はグラファイト化微細コークスはピッチコートされていることができる。未コート高結晶性グラファイトの典型的な濃度は、負電極中の合計電気活性物質の2~10wt.%であることができる。追加の天然グラファイト、合成グラファイト及びグラファイト化微細コークスの平均粒子サイズ(D50)は0.5~100μm又は1~20μmの範囲であることができる。
【0089】
本発明はまた、リチウムイオン電池の負電極における活物質として本明細書中に規定されるとおりの親水性表面変性炭素質粒子材料を含むリチウムイオン電池に関する。また、負電極が更に他の炭素質粒子材料との混合物を含む電池も、本発明のこの態様に含まれる。
【0090】
さらに、本発明の特定の実施形態はまた、本明細書中に規定されるとおりの親水性表面変性炭素質粒子材料を含むポリマー複合材料を含み、典型的に、総組成物の5~95質量%、好ましくは10~85質量%の質量比である。
【0091】
更に別の態様において、本発明は、本発明に係る親水性表面変性炭素質粒子材料を含むエネルギー貯蔵デバイスに関する。
【0092】
本発明のさらなる態様は、本発明に係る親水性表面変性炭素質粒子を含む炭素ブラシに関する。
【0093】
リチウムイオン電池を含み、リチウムイオン電池が電池の負電極中に活物質として、本明細書中に規定されるとおりの親水性表面変性炭素質粒子材料を含む、電気車両、ハイブリッド電気車両又はプラグインハイブリッド電気車両は、本発明の別の態様を表す。この態様の幾つかの実施形態において、炭素質粒子は、グラファイト質材料を含み、一方、他の材料において、炭素質粒子は非グラファイト質材料を含み、いずれも場合により、本明細書中に規定されるとおりの他のヘテロ元素との混合物の状態である。
【0094】
さらに、孔形成性材料として、本明細書中に規定されるとおりの親水性表面変性炭素質粒子材料を含む、セラミック、セラミック前駆体材料又はグリーン材料は、本発明の別の態様である。
【0095】
本発明の更に別の態様は、液体、好ましくは水又は水性の液体、及び、親水性非グラファイト質炭素コーティングを有する炭素質コア粒子を含む表面変性炭素質粒子材料を含む分散体であって、分散体は、10s-1のせん断速度で、40wt%の前記炭素質材料を含む水性分散体において2,000~4,000mPa・sの低い粘度を有する、分散体に関する。好ましくは、この濃度及びせん断速度での粘度は、2,000~3,000mPa、又は、2,300~2,600mPa・sである。
【0096】
本発明のこの態様の特定の実施形態において、分散体中の前記表面変性炭素質粒子材料は、
(i)BET SSAが49m2/g未満であり、好ましくは25m2/g未満又は10m2/g未満である、及び/又は、
(ii)酸素含有分が約200ppm超、約400ppm超、約600ppm超、約700ppm超又は約800ppm超である、
ことを特徴とする。他の実施形態において、親水性表面変性炭素質粒子材料は上記及び添付の特許請求の範囲に記載のパラメータのいずれかを特徴とする。
【0097】
分散体は、場合により、未変性炭素質粒子を更に含んでよく、親水性表面変性炭素質粒子は、炭素質粒子の総量の10~99wt.%の量で存在し、又は、炭素質粒子の総量の20~90%、又は、炭素質粒子の総量の30~85wt.%の量で存在する。
【0098】
本発明の親水性表面変性炭素質粒子材料は、場合により、平均粒子サイズ(D50)が0.5~100μm又は1~50μmの範囲にあることによりさらに規定されうる。
【0099】
本明細書中に記載の製品を規定するために使用される種々の特性及びパラメータを決定する適切な方法を下記により詳細に示す。
【0100】
〈測定方法〉
本明細書中に特定される百分率(%)値は、特に特定されないかぎり、質量基準である。
【0101】
〈BET比表面積、DFTマイクロポア及びメソポア体積及び面積〉
本方法は、77Kでのp/p0=0.04~0.26の範囲の液体窒素の吸着等温線の示度に基づく。窒素ガス吸着は、Quantachrome Autosorb-1にて行う。Brunauer,Emmet及びTellerにより提案された手順(Adsorption of Gases in Multimolecular Layers,J.Am.Chem.Soc.,1938,60,309-319)に従って、単層容積(monolayer capacity)を決定することができる。窒素分子の断面積、サンプルの単層容積及び質量に基づいて、比表面積を計算することができる。77Kにて圧力範囲p/p0=0.01~1で測定される等温線を測定し、そしてDFT計算により処理し、孔サイズ分布、マイクロ及びメソポア体積及び面積を評価する。
参考文献:Ravikovitch,P.,Vishnyakov,A.,Russo,R.,Neimark,A.,Langmuir 16(2000)2311-2320; Jagiello,J.,Thommes,M.,Carbon 42(2004)1227-1232。
【0102】
〈レーザ回折による粒度分布〉
コヒーレント光線内の粒子の存在は、回折を生じさせる。回折パターンの寸法は、粒子サイズと相関がある。低出力レーザからの平行光線は、水中に懸濁しているサンプルを含むセルを明るくする。セルを出ていく光線は、光学系により集中する。系の焦点平面における光エネルギーの分布を、その後に分析する。光学ディテクタにより提供される電気信号は、計算機により粒度分布へと変換される。その方法は、粒子の合計体積/サイズクラスの離散数の割合を生成し、体積粒度分布(PSD)を形成する。粒度分布は、典型的には、D10、D50及びD90値(粒子集合の10%(体積基準)がD10値未満のサイズを有し、粒子集合の50%(体積基準)がD50値未満のサイズを有し、そして粒子集合の90%(体積基準)がD90値未満のサイズを有する)により規定される。
【0103】
本明細書中で引用するレーザ回折による粒度分布データはMALVERN Mastersizer Sを用いて測定した。PSDを決定するために、小さいサンプルの炭素材料を数滴の湿潤剤及び少量の水と混合する。記載のように調製したサンプルを装置(MALVERN Mastersizer S)の貯蔵容器中に導入し、そして100%強度及び40%に設定したポンプ及び撹拌機速度で5分の超音波処理の後に、測定値を得る。
参考文献:ISO 13320(2009)/ISO 14887
【0104】
〈キシレン密度〉
分析は、DIN 51 901に規定されるとおりの液体排除の原理に基づく。約2.5g(精度0.1mg)の粉末を、25ml比重瓶を用いて計量する。キシレンを真空下(15トル)に添加する。標準圧での数時間の滞留時間後に、比重瓶を状態調節しそして計量する。密度は、質量及び体積の比を表す。サンプルの質量により質量を提供し、そしてサンプルの粉末あり及びなしのキシレン充填比重瓶の質量差から体積を計算する。
参考文献:DIN 51 901
【0105】
〈酸素含有分〉
固体サンプル中の酸素質量画分は、不活性ガスフュージョン又は固体キャリアガス熱抽出の原理を用いて評価する。サンプルをグラファイトるつぼ中に入れ、そして電極ファーネス中に挿入する。るつぼを、衝撃炉の上部電極及び下部電極の間に維持する。不活性ガス(He又はAr)によるパージ後に、るつぼを通して高電流が通過し、温度の上昇が生じる(2500℃を超える)。炉内で発生されるガスは流れている不活性ガス流中に放出される。その後、ガス流は、測定用の適切な赤外(NDIRによりCOとしてO)又は熱伝導(TCDによりN及びH)ディテクタに送られる。計器検量は、公知の基準材料を用いて行われる。
【0106】
〈ラマン分光〉
632.8nm HeNe LASERを用いたHORIBA ScientificのLabRAM-ARAMISマイクロラマン分光計を用いてラマン分析を行う。比ID/IGは、バンドD及びバンドGと呼ばれる強度の比に基づく。これらのピークは、それぞれ、1350cm-1及び1580cm-1で測定され、炭素材料に特徴的である。
【0107】
〈スパーク放電光学エミッション分光法(SD OES)〉
SD OES分析を、SDAR OES同時発光分光計(アルゴン中のスパーク放電を用いた発光分光計(OES):ARL 分光計3460)により行った。
【0108】
炭素質粒子材料は、必要ならば、振動ミル、例えば、wolframカーバイド容器を有するNAEFミルにより、約80μmの最大粒子サイズにまで細砕する。ミリング(任意工程)の後に、サンプルをスクリーン(例えば、0.5mm)に通過させ、必要とされる粒子サイズにまでミリングされなかった凝集体又は粒子を除去する。次いで、粉末をプレスされたパレットへと、Herzog Pressなどにより圧密化する。
【0109】
〈プレスされたペレットの調製(Herzog pressを使用)〉
加圧ツールのボトムに汚れのないカードボード紙を配置した後に、約6gの被分析サンプルを丸いプレス加工ダイに少なくとも20mm直径で充填し、第二の汚れのないカードボード紙をサンプルの上に注意深く置く。上部シリンダーを下げ、そして圧力計が20トンを示すまで圧力を印加する。圧力を少なくとも30秒間印加し、その後、圧力を解放し、そしてサンプルを取り出してもなお、両面がカードボード紙で保護されている。上記手順の後に、サンプル(この時点でペレットの形態)は分析の準備ができている。
【0110】
〈分光分析〉
サンプルを分光計のアルゴン雰囲気下で励起スタンド上に置く。次いで、完全に自動化された分析(分光計製造者のソフトウェア)を開始する。再現可能な分析結果が得られるまで分析を繰り返す(サンプルペレットをその都度回転させる)。計器を、外部の認定試験所により分析された内部標準により検量する。
参考文献:K.Slickers,Automatic Emission Spectroscopy,Bru:hl,Druck und Presshaus Giessen(D),(1992)
【0111】
〈スプリングバック〉
スプリングバックは、圧密化グラファイト粉末の復元力(resilience)に関する情報源である。規定量の粉末を20mm直径のダイ中に注ぐ。パンチを挿入しそしてダイをシールした後に、空気をダイから脱気する。1.5メートルトンの圧縮力を印加し、圧力0.477t/cm2とし、そして粉末高さを記録する。この高さを、圧力を解放した後に再び記録する。スプリングバックは、圧力下の高さに対する%での高さの差異である。
【0112】
〈PAH濃度〉
多環芳香族炭化水素PAHの濃度をGrimmer法により決定し、そして分析をBIU-Grimmer(ドイツ)により外部的に行った。PAH分析のために一般に使用されるGrimmer法は、ppbを下回る範囲の定量化のためにGC-MS(SIM)を用いた安定な同位元素希釈法に基づく。
【0113】
〈SEM/EDX(走査型電子顕微鏡/エネルギー分散X線分光分析)〉
SEM/EDX測定はOxford Instruments X-Max EDXプローブを備えたJeol JSM-5600LV SEM計器で行った。
【0114】
〈接触角/濡れ性能〉
20℃にて、スパチュラを用いて、1cm3のグラファイト粉末を顕微鏡スライドガラス上で展開し、そして1バールの圧力でプレスし、それにより、表面を可能な限り平坦に調製する。その後、体積が10μLである脱塩水の液滴を粉末表面上にEasy Drop(Kru:ss GmbH,Hamburg,ドイツ)を用いて落とす。液滴形状分析DSA1ソフトウェア(Kru:ss GmbH,Hamburg,ドイツ)を用いて、水系(system water)を用いた接線法(Tangent Method)1を用いて(Stro:mら,J.Colloid Interface Sci.,1987,119,352)、水滴と粉末との間の接触角を決定する。一般に、材料は、この試験における接触角が90°未満であるときに親水性であると考えられる。接触角が90°を超える場合、材料は疎水性であると考えられる。接触角値は水滴がグラファイト表面上に着いた1秒後、3秒後及び5秒後に決定される。水滴が粉末により即座に吸収される場合には、接触角値を計算することができない。これらの場合には、値0°が割り付けられ、非常に親水性の材料であることを示す。
【0115】
〈濡れ性能/表面エネルギー測定〉
20℃にて、スパチュラで1cm3のグラファイト粉末を顕微鏡スライドグラス上で展開し、そして1barの圧力でプレスし、それにより、可能な限り平坦に表面を調製する。2.7質量%の2-プロパノールを含む水溶液を、蒸留した脱イオン水を用いて調製した。このような溶液の表面張力は、59mNm-1又は59mJ/m2である(Vazquezら,J.Chem.Eng.Data,1995,40,611-614から外挿)。後に、10μLの総体積のこの溶液の液滴を、Easy Drop(Kru:ss GmbH,Hamburg,ドイツ)を用いて粉末表面上に落とす。
【0116】
水系により接線法1(Stro:mら,J.Colloid Interface Sci.,1987,119,352)を用いて、液滴形状分析DSA1ソフトウェア(Kru:ss GmbH,Hamburg,ドイツ)を用いて、溶液液滴と粉末との間の接触角を決定する。この試験での接触角が90°未満であるときに、材料は親水性であると考えられる。接触角が90°を超える場合、材料は疎水性であると考えられる。
【0117】
〈粘度〉
グラファイトをベースとする水性電極スラリー(97%の固形分含有分)、SBRラテックスバインダ(2%の固形分含有分)、CMCバインダ(1%の固形分含有分、水中1%CMC溶液の粘度:2,000mPa・s)を、メカニカルスターラを用いて調製する。スラリーの固形分含有分を表2及び3に提供する。分散体のレオロジーを、コーン/プレート測定装置を備えたMolecular Compact Rheometer MCR300(Physica,ドイツ)を用いて測定する。測定温度は20℃である。粘度値を10s-1のせん断速度で、単位mPa・sにて決定する。
参考文献:DIN 3219
【0118】
〈リチウムイオン負電極半電池試験〉
{一般的な半電池パラメータ}
リチウム金属箔をカウンター/基準電極として用いた2電極コイン電池設計。アルゴン充填グローブボックス中での電池アセンブリ(酸素及び水含有分1ppm未満)。
電極の直径:13mm。
【0119】
電極上で既定の力を有する検量スプリング(100kN)を用いる。試験を25℃にて行う。
Cu箔上のコーティング:100~200μm(ドクターブレード)。
乾燥手順:コーティングされたCu箔を15分間、周囲圧力で乾燥し、次いで、真空下に乾燥する(50mbar未満、炭素質粒子材料がSiを含んでいない場合には120℃、炭素質粒子材料がSiを含んでいる場合150℃)。切断後に、グローブボックス中に挿入する前に、電極を10時間、炭素質粒子材料がSiを含んでいない場合には120℃にて、炭素質粒子材料がSiを含んでいる場合には150℃にて真空下(50mbar未満)で乾燥する。
加圧:電極箔を10~40kN/cm2で1秒間、液圧式プレスを用いてプレスし、電極密度1.4~1.8g/cm3をもたらす。
電解質:エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)1:3(v/v)、1M LiPF6
セパレータ:ガラス繊維シート、約1mm厚
【0120】
ポテンシオスタットを用いたサイクリングプログラム:一回目の充電:一定電流工程20mA/gから電圧5mVvs.Li/Li+、次いで、5mA/gのカットオフ電流に達するまで一定電圧工程5mVvs.Li/Li+。一回目の放電:一定電流工程20mA/gから電圧1.5Vvs.Li/Li+、次いで、5mA/gのカットオフ電流に達するまで一定電圧工程1.5Vvs.Li/Li+。更なる充電サイクル:0.13Cでの一定電流工程から電圧5mVvs.Li/Li+、次いで、5mA/gのカットオフ電流に達するまで一定電圧工程5mVvs.Li/Li+。さらなる放電サイクル:1C(炭素質粒子材料がSiを含んでいる場合)又は3C(炭素質粒子材料がSiを含んでいない場合)での一定電流工程から電圧1.5Vvs.Li/Li+、次いで、5mA/gのカットオフ電流に達するまで一定電圧工程1.5Vvs.Li/Li+。
【0121】
CMC(カルボキシメチルセルロース)/SBR(スチレンブタジエンゴム)バインダを用いた分散体形成の手順:炭素質粒子材料がSiを含んでいない場合には、97%グラファイト(活物質、48.5g)、2%SBR(スチレンブタジエンゴム)バインダ(水中48質量%、2.08g)、1%CMC(ナトリウムカルボキシメチルセルロース)バインダ(水中1.0質量%、50.0g)。炭素質粒子材料がSiを含んでいる場合には、95%活物質(47.5g)、1%の導電性カーボンブラック添加剤(0.5g)、2.5%SBR(スチレンブタジエンゴム)バインダ(水中48質量%、2.6g)、1.5%CMC(ナトリウムカルボキシメチルセルロース)バインダ(水中1.5質量%、50.0g)。
【0122】
分散体調製:炭素質粒子材料がSiを含んでいない場合には、CMCバインダ溶液及び炭素質粒子材料の分散体をフラスコ中で調製し、ここで、該フラスコは真空下に置くことができ、次いで、グラファイトが完全に濡れるまでガラス棒で混合する。スラリーをメカニカルスターラで真空下(50mbar未満)に30分間撹拌する(600rpm)。真空を一時的に除去し、そしてSBRバインダ溶液を添加する。スラリーをメカニカルスターラ(600rpm)で更に30分間真空下(50mbar未満)で撹拌する。炭素質粒子材料がSiを含んでいる場合には、CMCバインダ溶液、導電性カーボンブラック添加剤及び20mLの脱イオン水の分散体をフラスコ中で調製し、ここで、該フラスコは真空下に置くことができ、次いで、動静翼ミキサで混合し(11,000rpm)、次いで、炭素質粒子材料を添加する。スラリーをメカニカルミキサ(1,000rpm)で20分間真空下(50mbar未満)に撹拌する。真空を一時的に除去し、そしてSBRバインダ溶液を添加する。スラリーをメカニカルミキサ(1,000rpm)でさらに20分間真空下(50mbar未満)に撹拌する。
【0123】
〈ガルバノスタット充電容量0.13C、サイクル15/5の保持の計算〉
一定電流(0.13C)でサイクル15の充電容量をサイクル5での対応する値で割る(%)。
【0124】
〈ガルバノスタット放電容量3C、サイクル15/5の保持の計算〉
一定電流(3C)でサイクル15の充電容量をサイクル5での対応する値で割る[%」。
【0125】
本発明の様々な態様を一般的な用語で記載してきたが、多くの変更及び若干の変更は、本発明の主旨及び範囲を逸脱することなく可能であることは当業者に明らかである。
【実施例】
【0126】
〈実施例1〉
処理されるべき材料、粒度分布がそれぞれD10及びD90で7μm及び33μmである細砕された合成グラファイトであるグラファイトAを、1050℃に加熱された回転炉反応器に連続的に供給した。炭素コーティング前駆体としてのプロパン(C3H8)ガス(1L/min)及びキャリアガスとしての窒素(N2)(2L/min)の混合物を反応器に供給し、反応器中の圧力を周囲圧よりも0~40mbar高い圧力に維持した。4°の傾き及び回転速度6RPMに設定した回転炉により、約40分間の滞留時間を開始した。
【0127】
次いで、酸化処理は以下のように行った。CVDコートグラファイトAを600℃に加熱された反応器中に供給し、ここで、合成空気の流れ(2L/min)を伴い、傾斜は7.5°に設定され、回転速度7.5RPMで、残留時間は約15分間となった。PAHを焼失させ、そして官能基、例えば、カルボニル、カルボキシル、ヒドロキシル、ケトン、ケテン、アルデヒド、アルコール、キノン及びアルコキシアルキル基の形成により、CVDコート&酸化されたグラファイトAの表面反応性が改良された。酸化されたCVDコートグラファイトAは、表1に示されるように、出発材料、酸化処理前のCVDコートグラファイト及び低表面積(ピッチコート)グラファイトと比較して、接触角/濡れ性能分析、酸素含有分及びキシレン密度により特徴付けられた。リチウムイオン電池用途のための表面処理プロセスの利点を実証する電気化学的結果も表1に示す。
【0128】
【0129】
〈実施例2〉
それぞれD10及びD90の粒度分布が9μm及び34μmである合成細砕グラファイトBを1050℃に加熱された回転炉反応器中に連続的に供給した。炭素コーティング前駆体としてプロパン(C3H8)ガス(2L/min)及びキャリアガスとして窒素(N2)ガス(2L/min)の混合物を反応器中に供給した。反応器中の圧力を、大気圧を0~40mbar超える圧力で維持した。3°に設定された回転炉の傾き及び7.5RPMの回転速度により、約30分間の滞留時間を開始した。
【0130】
CVDコートグラファイトB材料は、グラファイト粒子の表面のマイクロポア及びメソポアの閉塞を生じさせるグラファイト粒子の表面上の非グラファイト質炭素の堆積のために、低下されたBET比表面積を示した。表面上の非グラファイト質炭素の存在は無秩序性の増加(バンドDの増加及びID/IGの変化)としてラマン分光により決定された。非グラファイト質炭素の実密度はグラファイト質炭素と比較して、より低く、CVDにより修飾したグラファイトのキシレン密度の若干の低下をもたらす。
【0131】
次に、CVDコートグラファイトBに酸化処理を施した。CVDコートグラファイトBを、600℃に加熱した反応器へ供給し、合成空気(2L/min)の流速、5°に設定した傾き及び5RPMの回転速度により、滞留時間が約15分となった。酸化したCVDコートグラファイトBは、表2に示すとおり、接触角/濡れ性能分析(
図3に示す)、表面エネルギー(
図7に示す)、酸素含有分、PAH含有分、メソポア面積、粘度測定値及びキシレン密度により特徴付けられ、出発材料、酸化処理の前のCVDコートグラファイト及び低表面積(ピッチコート)グラファイトと比較している。CVDコートし、そして酸化したグラファイトBの透過型電子顕微鏡(TEM)画像を
図1及び2に示す。
【0132】
【0133】
〈実施例3〉
D10及びD90の粒度分布がそれぞれ11μm及び28μmである天然球形グラファイト(「NSG」)を、1050℃に加熱した回転炉反応器に連続的に供給した。炭素コーティング前駆体としてのプロパンガス(C3H8、2L/min)及びキャリアガスとしての窒素ガス(N2、2L/min)の混合物を反応器に供給し、反応器中の圧力を大気圧よりも0~40mbar高い圧力に維持した。3°に設定された回転炉の傾斜及び7.5RPMの回転速度により、約30分の残留時間を開始した。
【0134】
CVD-コートNSGを、次いで、550℃に加熱した反応器中に供給し、合成空気の流速(2L/min)、5°の傾斜及び5RPMの回転速度で、滞留時間が約20分であった。酸化したCVDコートNSGは接触角/濡れ性能分析、表面エネルギー(
図7に示す)、酸素含有分、PAH含有分、メソポア面積、粘度測定値及びキシレン密度により特徴付けられ、出発材料、酸化処理の前のCVDコートグラファイト及び低表面積(ピッチコート)グラファイトと比較している。結果を表3に示す。
【0135】
【0136】
〈実施例4〉
D10及びD90の粒度分布がそれぞれ6μm及び29μmである非細砕合成グラファイト(「グラファイトC」)を、700℃に加熱した回転炉反応器に連続的に供給した。炭素コーティング前駆体としてのアセチレンガス(C2H2、1L/min)及びキャリアガスとしての窒素ガス(N2、9L/min)の混合物を反応器に供給し、反応器中の圧力を大気圧よりも0~40mbar高い圧力に維持した。4°に設定された回転炉の傾斜及び6RPMの回転速度により、約20分の残留時間を開始した。
【0137】
CVDコートグラファイトCの酸化工程を行い、それにより、PAHを除去し、そして濡れ性能を改良し、また、CVDにより修飾したグラファイトCの粘度を低下させた。CVDコートグラファイトCを600℃に加熱した反応器中に供給し、合成空気の流速(2L/min)、5°に設定した傾斜及び約5RPMの回転速度で約15分の滞留時間であった。酸化した、CVDコートされたグラファイトCはBET SSA、PSD及びキシレン密度により特徴付けされ、そして出発材料、酸化処理の前のCVDコートグラファイト、及び、低表面積(ピッチコート)グラファイトと比較した。結果を表4に示す。
【0138】
【0139】
〈実施例5〉
D10及びD90の粒度分布がそれぞれ6μm及び29μmである非細砕合成グラファイト(グラファイトD)を、1050℃に加熱した回転炉反応器に連続的に供給した。炭素コーティング前駆体としてのプロパンガス(C3H8、2L/min)及びキャリアガスとしての窒素ガス(N2、2L/min)の混合物を反応器に供給し、反応器中の圧力を大気圧よりも0~40mbar高い圧力に維持した。3°に設定された回転炉の傾斜及び7.5RPMの回転速度により、約30分の残留時間を開始した。
【0140】
酸化処理のために、CVDコートグラファイトDを、次いで、550℃に加熱した反応器中に供給し、合成空気の流速(2L/min)、5°に設定した傾斜及び5RPMの回転速度により滞留時間約20分となった。酸化したCVDコートグラファイトDはBET SSA、PSD、ポアサイズ分布、接触角/濡れ性能(
図4に示す)、酸素含有分及びキシレン密度により特徴付けられ、出発材料、酸化処理の前のCVDコートグラファイト及び低表面積(ピッチコート)グラファイトと比較している。結果を表5に示す。
【0141】
【0142】
〈実施例6〉
5wt%のナノシリコン粉末(Si99%超、100nm、多結晶、US Research Nanomaterials Inc.)と95wt%の合成グラファイトであるグラファイトBとの機械ブレンドを調製した(Si-A)。このブレンドをチューブ炉中で炭素源としてのプロパン(C3H8)で、化学気相成長(CVD)によりコーティングした。材料を、1050℃に加熱した回転炉反応器中に連続的に供給した。炭素コーティング前駆体としてのプロパンガス(3L/min)及びキャリアガスとしての窒素(N2)ガス(1L/min)の混合物を反応器に供給した。反応器中の圧力は大気圧よりも0~40mbar高い圧力に維持した。4°に設定した回転炉の傾斜及び7.5RPMの回転速度により、約30分間の滞留時間を開始した。この工程は、グラファイト及びケイ素上に炭素コーティング層を形成し、材料Si-Bとした。次に、材料Si-B(すなわち、5%ナノシリコンを含むグラファイトBのCVDコートブレンド)に酸化処理を施した。Si-Bを600℃に加熱した反応器中に供給し、合成空気の流速(2L/min)、6°に設定した炉の傾斜及び6RPMの回転速度により、滞留時間約15分間となり、材料Si-Cとなった。結果を表6に示す。
【0143】
図5は、ケイ素含有炭素質粒子材料(「Si-C」、Si含有分約3%)上の親水性非グラファイト質炭素コーティングから生じる良好な電気化学的効果を示す。Si-C粒子の表面上の親水性官能基はより良好にアンカーされたSEI層の形成を可能にし、比較の粒子「Si-B」(炭素コーティングを有するが、酸化処理がなされていないことにより疎水性表面を有する)と比較して、堅牢性が増加し、また、CMC/SBRバインダの相互作用がより強くなる。これにより、次いで、寄生電気化学プロセス低減及び容量劣化の低減がもたらされる。結果的に、一回目及び二回目のサイクルでの非可逆的な電荷損失は、Si-B材料(20.7%、7.0%)と比較して、Si-C材料(17.4%、4.6%)では、より低いことが見出された。材料Si-B&Si-Cが同様のBET表面積であるとすると、Si-Cにより示されるサイクル1及び2での減少した非可逆的損失は、前記材料の比表面反応性の低減に起因する可能性がある。さらに、容量劣化は、5サイクル後の可逆容量がSi-Cで412Ah/kgであり、一方、Si-Bの可逆容量が392Ah/kgにすぎなかったことにより示されるとおり、Si-Bと比較して、Si-Cで低減されている。最適化されていない電極及び電解質パラメータのために、有意なサイクル損失を数回のサイクルにわたって両方の材料で観察した。しかしながら、化合物Si-B(370Ah/kg)及び化合物Si-C(390Ah/kg)の間の可逆的な容量差20Ah/kgは、10回のサイクルの後にさえ保持され、それは炭素コーティング上の親水性表面基の存在に起因する。
【0144】
CVDコート&酸化されたケイ素/グラファイト複合材料Si-CのSEM画像を
図6に示す(左パネル)。材料のEDX分析は、Si及びCの存在を確認する(再び、
図6を参照されたい、右パネル)。
【0145】
【0146】
〈実施例7〉
本明細書中に記載のとおりの様々な炭素質粒子材料を、表面エネルギー測定に付した(方法の詳細に関しては材料及び方法の項目を参照されたい)。分析の結果を下記の表に要約する。
【0147】
【表7】
本発明の実施態様の一部を以下の項目〈1〉-〈41〉に記載する。
〈1〉親水性非グラファイト質炭素コーティングを有する炭素質コア粒子を含む、表面変性炭素質粒子材料であって、前記親水性表面変性炭素質粒子材料は、BET比表面積(BET SSA)が、49m
2
/g未満、好ましくは25m
2
/g未満又は10m
2
/g未満である、表面変性炭素質粒子材料。
〈2〉(i)3秒後接触角が、90°未満、好ましくは75°未満、70°未満又は65°未満であり、及び/又は、5秒後接触角が約60°未満、好ましくは40°未満、30°未満、25°未満又は20°未満であり、及び/又は、
(ii)前記炭素質粒子材料の表面エネルギーが、少なくとも59mJ/m
2
、好ましくは少なくとも62mJ/m
2
、少なくとも67mJ/m
2
又は少なくとも70mJ/m
2
である
ことを特徴とする濡れ性能を示す、項目1に記載の親水性表面変性炭素質粒子材料。
〈3〉スプリングバック比が、約15~約75%、好ましくは約20~60%又は25~50%であることを特徴とする、項目1又は2に記載の表面変性炭素質粒子材料。
〈4〉多環芳香族炭化水素(PAH)濃度が、200mg/kg未満、150mg/kg未満、30mg/kg未満又は10mg/kg未満である、項目1~3のいずれか一項に記載の親水性表面変性炭素質粒子材料。
〈5〉前記炭素質コア粒子は、天然グラファイト、合成グラファイト、コークス、硬質炭素、グラファイト化微細コークス、それらの混合物、又は、ケイ素、スズ、ビスマス、アンチモン、アルミニウム、銀、SiO
X
(X=0.2~1.8)若しくはSnO
2
粒子をさらに含有しているかかる炭素粒子の組成物から選ばれる、項目1~4のいずれか一項に記載の親水性表面変性炭素質粒子材料。
〈6〉前記炭素質コア粒子が、合成グラファイト粒子、又は、合成グラファイト粒子とケイ素粒子との混合物である、項目1~5のいずれか一項に記載の親水性表面変性炭素質粒子材料。
〈7〉前記炭素コーティングが、酸化された非晶性炭素を含み、好ましくは、酸化処理前の初期炭素コーティングが化学気相成長(CVD)法により得られる、項目1~6のいずれか一項に記載の親水性表面変性炭素質粒子材料。
〈8〉(i)酸素含有分が、約200ppm超であり、約400ppm超であり、約600ppm超であり、約700ppm超であり又は約800ppm超であり、及び/又は、
(ii)BET表面積が、約0.5~約5m
2
/g、又は、約1.0~約5m
2
/g、又は、約1.5~約4.1m
2
/gであり、及び/又は、
(iii)メソポア面積が、5.0m
2
/g未満、4m
2
/g未満、3.8m
2
/g未満又は約3.6m
2
/g未満であり、及び/又は、
(iv)キシレン密度が、2.1~2.260g/cm
3
、好ましくは2.15~2.25g/cm
3
であり、及び/又は、
(v)励起波長が632.8nmであるレーザを用いて測定されるときに、I
D
/I
G
比(R(I
D
/I
G
))が、約0.3超であり、好ましくはR(I
D
/I
G
)が0.4~1.0である
ことを特徴とする、項目1~7のいずれか一項に記載の親水性表面変性炭素質粒子材料。
〈9〉親水性非グラファイト質炭素コーティングを有する炭素質コア粒子を含む、表面変性炭素質粒子材料であって、前記親水性表面変性炭素質粒子材料は、BET SSA及び比表面エネルギーの比が、0.8未満、好ましくは0.6未満、0.5未満、0.4未満、0.3未満又は0.2未満であることを特徴とする、表面変性炭素質粒子材料。
〈10〉親水性非グラファイト質炭素コーティングを有する炭素質コア粒子を含む、表面変性炭素質粒子材料であって、前記親水性表面変性炭素質粒子材料が、40質量%の前記炭素質材料を含有している水性分散体において低い粘度を示し、好ましくは40質量%の前記炭素質材料を含む前記分散体の粘度が2,000~4,000mPa・sであることを特徴とする、表面変性炭素質粒子材料。
〈11〉項目1~10のいずれか一項に記載の親水性表面変性炭素質粒子材料の調製方法であって、前記炭素質粒子を
(a)非グラファイト質炭素によりコーティングすること、及び、
(b)工程(a)により得られたコート炭素質粒子材料の親水性を増加するための酸化処理を施し、
好ましくは、変性されるべき炭素質粒子が、天然グラファイト、合成グラファイト、コークス、硬質炭素、それらの混合物、又は、ケイ素、スズ、アルミニウム、銀、ビスマス、アンチモン、SiO
X
(X=0.2~1.8)若しくはSnO
2
粒子をさらに含有しているかかる炭素粒子の組成物から選ばれる、方法。
〈12〉工程(a)の非グラファイト質炭素コーティングを、化学気相成長(CVD)、物理気相成長(PVD)、ピッチコーティング、熱分解、原子層堆積(ALD)、レーザアブレーション、スパッタリング又は蒸着から選ばれる方法により得る、項目11に記載の方法。
〈13〉前記炭素質粒子材料を、不活性キャリアガスと混合された炭化水素ガス又はアルコール蒸気と10~180分間の範囲の時間接触させることにより、前記化学気相成長を行い、好ましくは、前記炭化水素ガスがメタン、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、アセチレン、ブタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びそれらの組合せからなる群より選ばれる脂肪族若しくは芳香族炭化水素であり、又は、前記アルコールがエタノール、プロパノール、イソプロパノール及びそれらの組合せからなる群より選ばれる、項目11又は12に記載の方法。
〈14〉前記化学気相成長を、500~1200℃、又は、600~1100℃、又は、700~1050℃の範囲の温度で行い、及び/又は、
前記炭化水素ガスがアセチレン又はプロパンであり、前記キャリアガスが窒素であり、及び/又は、
接触時間が10~180分、10~120分、10~60分、又は、20~40分間の範囲である、項目11~13のいずれか一項に記載の方法。
〈15〉工程a)から得られた炭素質粒子材料を、気相/固相法において、空気、二酸化炭素、水蒸気、酸素、オゾン若しくはそれらの任意の組合せを接触させるか、又は、別には、液相/固相法において、水性過酸化水素若しくは液相中に存在する他の酸化剤と接触させるかのいずれかにより、前記酸化処理工程b)を行い、
好ましくは、
空気、二酸化炭素、水蒸気、オゾン又は酸素の流速が、1~50L/min、又は、1~20L/min又は2~5L/minの範囲にあり、及び/又は、
前記酸化処理が、500~900℃、550~750℃又は550~600℃の範囲の温度で行われるが、但し、工程b)がオゾンを用いて行われる場合には、前記酸化処理を周囲温度で行い、及び/又は、
前記酸化処理を10~30分、又は、10~25分、又は、15~20分の時間行う、
項目11~14のいずれか一項に記載の方法。
〈16〉a)工程(b)の後に得られる表面変性炭素質粒子材料のBET SSAは、
(i)出発炭素質粒子材料のBET SSAより小さく、好ましくは、BET SSAは出発材料と比較して10~90%低下され、及び/又は、
(ii)工程(a)から得られる非グラファイト質炭素コート炭素質粒子材料のBET SSA以上であり、
及び/又は、
b)工程(b)から得られる表面変性炭素質粒子材料のD
90
粒度分布は、
(i)工程(a)から得られる非グラファイト質炭素コート炭素質粒子材料のD
90
粒度分布と同様であり、及び/又は、
(ii)出発炭素質粒子材料のD
90
粒度分布と同様であり、
好ましくは、D
90
粒度分布値は、出発材料のD
90
粒度分布の±10%の範囲内又は±5%の範囲内にあり、及び/又は、
c)工程(b)の後に得られる表面変性炭素質粒子材料のメソポア面積は、
(i)出発炭素質粒子材料のメソポア面積よりも小さく、及び/又は、
(ii)工程(a)から得られる非グラファイト質炭素コート炭素質粒子材料のメソポア面積以上であり、及び/又は、
d)工程(b)から得られる親水性表面変性炭素質粒子材料のキシレン密度が、出発炭素質粒子材料のキシレン密度と比較して、1~7%低下されている、
項目11~15のいずれか一項に記載の方法。
〈17〉(i)プロセス工程(a)及び(b)を同一の反応器中で行い、好ましくは、工程(a)の非グラファイト質炭素コーティングの後に、そして工程(b)の酸化処理の前に、反応器を不活性ガスでパージし、又は、
(ii)非グラファイト質炭素コート炭素質粒子材料を反応器から回収し、次いで、工程(b)の酸化処理のための同一の又は異なる反応器中に移す、
項目11~16のいずれか一項に記載の方法。
〈18〉項目11~17のいずれか1項記載の方法により得ることができる、項目1~10のいずれか一項に記載の親水性表面変性炭素質粒子材料。
〈19〉項目1~10のいずれか一項又は項目18に記載の表面変性炭素質粒子材料を含む組成物。
〈20〉項目1~10のいずれか一項又は項目18に記載の1種以上の表面変性炭素質粒子材料と混合され、前記1種以上の追加の表面変性炭素質粒子材料が、第一の表面変性炭素質粒子材料とは異なる、項目19に記載の組成物。
〈21〉項目19又は20に記載の組成物であって、
(i)他の未変性又は変性炭素質粒子材料との混合物の状態である組成物、好ましくは、前記追加の炭素質粒子材料は、天然若しくは合成グラファイト、剥離グラファイト、カーボンブラック、コークス、グラフェン、グラフェン繊維、単層ナノチューブ(SWNT)、多層ナノチューブ(MWNT)若しくはこれらの組合せであるカーボンナノチューブを含むナノチューブ、フラーレン、ナノグラファイト、グラファイト化微細コークス、及び、それらの組合せからなる群より選ばれ、又は、
(ii)粒子形態の他の非炭素質材料又はそれらの組合せとの混合物の状態である、
組成物。
〈22〉項目1~10のいずれか一項又は項目18に記載の親水性表面変性炭素質粒子材料の、リチウムイオン電池の負電極材料を調製するための使用。
〈23〉項目1~10のいずれか一項又は項目18に記載の親水性表面変性炭素質粒子材料を活物質として含む、リチウムイオン電池の負電極。
〈24〉前記炭素質コア粒子は、天然グラファイト及び/又は合成グラファイトを含み、そして前記負電極は、追加の天然グラファイト、合成グラファイト及び/又はグラファイト化微細コークスをさらに含む、項目23に記載のリチウムイオン電池の負電極。
〈25〉前記追加の天然グラファイト及び/又は合成グラファイトは負電極の2質量%~10質量%又は3質量%~5質量%の範囲の量で存在する、項目24に記載の負電極。
〈26〉前記追加の天然グラファイト及び/又は合成グラファイトの平均粒子サイズは、平均粒子サイズ(D
50
)が0.5~100μm又は1~20μmの範囲である、項目24又は25に記載の負電極。
〈27〉前記追加の天然グラファイト、合成グラファイト及び/又はグラファイト化微細コークスはピッチコートされたものである、項目24~26のいずれか一項に記載の負電極。
〈28〉電池の負電極に項目1~10のいずれか一項又は項目18に記載の親水性表面変性合成炭素質粒子材料を含む、リチウムイオン電池。
〈29〉リチウムイオン負電極半電池試験において決定される一回目のサイクルでの非可逆的な電荷損失が、20%未満であり、及び/又は、リチウムイオン負電極半電池試験において決定される二回目のサイクルでの非可逆的な電荷損失が、6%未満であり、
好ましくは、リチウムイオン負電極半電池試験において決定される一回目のサイクルでの非可逆的な電荷損失における改良は、項目11の工程b)において規定されるとおりの酸化処理を行っていない対照材料と比較して、少なくとも約10%であり、及び/又は、
リチウムイオン負電極半電池試験において決定される二回目のサイクルでの非可逆的な電荷損失における改良は、項目11の工程b)において規定されるとおりの酸化処理を受けていない対照材料と比較して、少なくとも約20%である、項目28に記載のリチウムイオン電池。
〈30〉5~95質量%、好ましくは10~85質量%の質量比で、項目1~10のいずれか一項又は項目18に記載の親水性表面変性炭素質粒子材料を含む、ポリマー複合材料。
〈31〉項目1~10のいずれか一項又は項目18に記載の表面変性炭素質粒子材料を含む、エネルギー貯蔵デバイス。
〈32〉項目1~10のいずれか一項又は項目18に記載の表面変性炭素質粒子材料を含む、炭素ブラシ。
〈33〉リチウムイオン電池を含む、電気車両、ハイブリッド電気車両又はプラグインハイブリッド電気車両であって、前記リチウムイオン電池が、前記電池の負電極中に項目1~10のいずれか一項又は項目18に記載の表面変性炭素質粒子材料を活物質として含む、車両。
〈34〉前記炭素質粒子材料が、グラファイト質材料を含む、項目33に記載の電気車両、ハイブリッド電気車両又はプラグインハイブリッド電気車両。
〈35〉前記炭素質粒子材料のコア粒子が、非グラファイト質粒子を含む、項目33に記載の電気車両、ハイブリッド電気車両又はプラグインハイブリッド電気車両。
〈36〉項目1~10のいずれか一項又は項目18記載の表面変性炭素質粒子材料を孔形成性材料として含む、セラミック、セラミック前駆体材料又はグリーン材料。
〈37〉液体、及び、親水性非グラファイト質炭素コーティングを有する炭素質コア粒子を含む表面変性炭素質粒子材料を含む、分散体であって、粘度が低く、好ましくは、40質量%の前記炭素質材料を含有している分散体の粘度が、2,000~4,000mPa・sであり、又は、2,000~3,000mPa・sであり、又は、2,300~2,600mPa・s.である、分散体。
〈38〉前記表面変性炭素質粒子材料は、
(i)BET SSAが49m
2
/g未満、好ましくは25m
2
/g未満又は10m
2
/g未満であり、及び/又は、
(ii)酸素含有分が約200ppm超、約400ppm超、約600ppm超、約700ppm超又は約800ppm超である
ことを特徴とする、項目37に記載の分散体。
〈39〉表面変性炭素質粒子材料が、項目1~10のいずれか一項又は項目18に規定されるとおりである、項目37又は38に記載の分散体。
〈40〉未変性炭素質粒子を更に含み、前記表面変性炭素質粒子が、炭素質粒子の総量の10~99wt.%、又は、炭素質粒子の総量の20~90%、又は、炭素質粒子の総量の30~85wt.%の範囲の量で存在する、項目37~39のいずれか一項に記載の分散体。
〈41〉前記表面変性炭素質粒子の平均粒子サイズ(D
50
)が、0.5~100μm、又は、1~50μmの範囲にある、項目1~10のいずれか一項又は項目18に記載の表面変性炭素質粒子材料、又は、項目37~40のいずれか一項に記載の分散体。