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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】車両用灯具
(51)【国際特許分類】
   F21S 41/25 20180101AFI20220509BHJP
   F21S 41/663 20180101ALI20220509BHJP
   F21V 29/504 20150101ALI20220509BHJP
   F21V 29/87 20150101ALI20220509BHJP
【FI】
F21S41/25
F21S41/663
F21V29/504
F21V29/87
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018029344
(22)【出願日】2018-02-22
(65)【公開番号】P2019145372
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081433
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 章夫
(72)【発明者】
【氏名】本橋 和也
【審査官】當間 庸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-097968(JP,A)
【文献】特開2001-124986(JP,A)
【文献】登録実用新案第3165336(JP,U)
【文献】特開平07-168095(JP,A)
【文献】国際公開第2009/069468(WO,A1)
【文献】特開2017-146600(JP,A)
【文献】特開2008-300095(JP,A)
【文献】特開平8-68935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 41/00
F21V 29/504
F21V 29/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、光源から出射した光を投影する投影レンズを含む車両用灯具であって、前記投影レンズは、2枚以上の樹脂レンズと、1枚以上のガラスレンズを含んでおり、前記樹脂レンズの合計の屈折力Prと、前記投影レンズ全体の屈折力Ptの屈折力比R(=Pr/Pt)が0<R<1/3の関係にあることを特徴とする車両用灯具。
【請求項2】
光源と、光源から出射した光を投影する投影レンズを含む車両用灯具であって、前記投影レンズは、2枚以上の樹脂レンズと、1枚以上のガラスレンズを含んでおり、前記樹脂レンズの合計の屈折力Prと、前記投影レンズ全体の屈折力Ptの屈折力比R(=Pr/Pt)が0<R≦1/6の関係にあることを特徴とする車両用灯具。
【請求項3】
前記投影レンズは、前記光源と反対側から順に、正の屈折力を有する第1レンズと、負の屈折力を有する第2レンズと、正の屈折力を有する第3レンズとを含むトリプレットレンズで構成されており、前記第1レンズと前記第2レンズは樹脂で構成され、前記第3レンズはガラスで構成されている請求項1又は2に記載の車両用灯具。
【請求項4】
前記投影レンズは、前記光源と反対側から順に、正の屈折力を有する第1レンズと、負の屈折力を有する第2レンズと、正の屈折力を有する第3レンズと、正の屈折力を有する第4レンズを含んで構成されており、前記第1レンズと前記第2レンズは樹脂で構成され、前記第3レンズと前記第4レンズはガラスで構成されている請求項1又は2に記載の車両用灯具。
【請求項5】
前記光源からの光を投影してADB配光制御を行う請求項1ないし4のいずれかに記載の車両用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等の車両に用いられる灯具に関し、特にADB(Adaptive Driving Beam)配光制御が可能な前照灯(ヘッドランプ)に適用して好適な車両用灯具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のヘッドランプとして、自車両の前方領域の照明効果を高める一方で、当該前方領域に存在する先行車や対向車等の自車両の前方領域に存在する車両(以下、前方車両と称する)に対する眩惑を防止する配光を得るための手法の一つとして、ADB配光制御が提案されている。このADB配光制御では、車両位置検出装置によって前方車両を検出し、検出した前方車両が存在する領域の光量を低減あるいは消灯し、それ以外の広い領域を明るく照明する制御が行われる。
【0003】
近年ではこのADB配光制御はLED等の発光素子を光源とするヘッドランプにも適用されており、光源としての複数個のLEDからの光、すなわち各LEDのそれぞれの照明領域を合成して自車両の前方領域を照明するための配光を形成している。そして、前方車両を検出したときには、検出した前方車両に対応する照明領域のLEDを減光あるいは消灯する構成がとられている。
【0004】
このようなADB配光制御では、複数個のLEDから出射された白色光を投影レンズで自車両の前方領域に投影して複数の照明領域を形成し、これらの照明領域を適宜に組み合わせて合成することで所要の照明領域を形成している。しかし、投影レンズによる収差により、投影されるLEDの光のパターン形状が変化され、高精度なADB配光制御が困難になる。
【0005】
特許文献1では、投影レンズの後側主面を所定の曲率となるように設計することによりコマ収差の方向を特定し、投影される光パターンの均一性を高めている。しかし、この特許文献1の技術は収差を改善するものではないので、収差が要因となる光のパターン形状の変化に対処することは難しい。
【0006】
収差を改善するために投影レンズを複数枚のレンズ、例えばトリプレットレンズとして構成することが考えられる。この場合において、投影レンズの軽量化、低価格化を図るために、複数枚のレンズの一部を樹脂レンズで構成することも考えられる。例えば、特許文献2では、トリプレットレンズを備えるカメラにおいて、第1レンズと第2レンズを樹脂で構成し、第3レンズをガラスで構成した技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-16928号公報
【文献】特開平8-68935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2のレンズはいわゆる常温で使用されることが多いカメラに適用されているため環境温度の変化が要因となる問題が生じることは少ないが、この種のレンズを自動車用ランプの投影レンズに適用したときには問題が生じることがある。すなわち、このような投影レンズに適用した場合には、ランプの非点灯時と点灯時とで、その環境温度が0℃から80℃程度の範囲で変化されるため、樹脂で構成されたレンズの熱膨張変化によってトリプレットレンズの光学特性、特に球面収差によるスポット形状の変化が顕著になる。投影レンズにより結像されるスポット形状が温度変化に伴って変化されると、投影される照明領域のパターン形状も変化されることになり、そのため、温度変化に伴ってADB配光制御の信頼性が低下されるという問題が生じる。
【0009】
本発明の目的は、温度変化に対する配光パターンの形状変化、すなわち投影レンズの結像性能を示すスポット形状の温度依存性を改善した投影レンズを備えた車両用灯具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の車両用灯具は、光源と、光源から出射した光を投影する投影レンズを含む車両用灯具であって、投影レンズは、2枚以上の樹脂レンズと、1枚以上のガラスレンズを含んでおり、樹脂レンズの合計の屈折力Prと、投影レンズ全体の屈折力Ptの屈折力比R(=Pr/Pt)が0<R<1/3の関係にある。
【0011】
本発明における投影レンズは、好ましくは、光源と反対側から順に、正の屈折力を有する第1レンズと、負の屈折力を有する第2レンズと、正の屈折力を有する第3レンズとを含むトリプレットレンズで構成され、第1と第2のレンズは樹脂で構成され、第3レンズはガラスで構成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、投影レンズを構成する複数のレンズのうち、2枚以上のレンズを樹脂で構成することにより投影レンズを軽量化でき、かつ樹脂レンズと投影レンズ全体のそれぞれの屈折力の比の値を1/3よりも小さくすることにより、投影レンズの結像性能を示すスポット形状の温度依存性を改善し、好適なADB配光制御を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の配光制御装置を備えるヘッドランプの概略縦断面図。
図2】ランプユニットを前方から見た透視的な概略図。
図3】実施形態1の投影レンズを構成する第1ないし第3レンズの面構成を示す図と、その設計式及び設計値。
図4】LEDチップから出射される光を合成した配光パターン図。
図5】屈折力比と焦点距離変化率の温度依存性を示す図。
図6A】実施形態1の投影レンズの温度変化によるスポット形状の変化を示すシミュレーション図。
図6B】比較例の投影レンズの温度変化によるスポット形状の変化を示すシミュレーション図。
図7】実施形態2の投影レンズの構成図。
図8】実施形態2の投影レンズを構成する第1ないし第4レンズの面構成を示す図と、その設計式及び設計値。
図9】実施形態2の投影レンズの温度変化によるスポット形状の変化を示すシミュレーション図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明をADB配光制御を適用した自動車のヘッドランプHLに適用した概念構成の縦断面図である。なお、以後の説明において、前又は後についてはヘッドランプHLにおける光源側を後、ヘッドランプHLの前方側を前と称する。
【0015】
前記ヘッドランプHLは、ランプボディ11と、透光性材料からなる前面カバー12とで形成されているランプハウジング1内にランプユニット2が内装されている。このランプユニット2は、内面が光反射面として形成されたユニットケーシング21に内装かつ支持された光源3と投影レンズ4を有しており、光源3から出射した光を投影レンズ4により自動車の前方領域に照射して所望の配光を得るように構成されている。
【0016】
図2は前記投影レンズ4を前方から見たときの透視的な概略図であり、図1にも示したように、前記光源3はヒートシンク32に支持されている基板31に複数個の発光素子30、ここでは9個の白色光を発光するLED(発光ダイオード)チップ301~309が搭載されている。これらのLEDチップ301~309は、上下二段に、すなわち上段には4個のLEDチップ301~304が、下段には5個のLEDチップ305~309がそれぞれ水平方向に配列された状態で搭載されている。これらのLEDチップ301~309が発光したときに、それぞれから出射される光は直接、あるいは前記ユニットケーシング21の内面で反射されて投影レンズ4に向けられる。
【0017】
図1に示したように、前記LEDチップ301~309は基板31を通して発光回路5に接続されており、この発光回路5によって個別に発光、消光、さらには発光光度が変化できるように制御される。前記発光回路5には運転者が操作する照明スイッチ51が接続されており、この照明スイッチ51により、ロービーム配光、ハイビーム配光、ADB配光が切り替え設定できるように構成されている。また、この発光回路5はADB制御を実行するための車載カメラ52が接続されており、当該車載カメラ52で撮像した自動車の前方画像から前方車両を検出し、当該前方車両を眩惑しない配光制御を実行するように構成されている。
【0018】
図3に示すように、実施形態1では、前記投影レンズ4はトリプレットレンズで構成されており、ランプ前側から順に、正の屈折力を有する凸レンズからなる第1レンズ41と、負の屈折力を有する凹レンズからなる第2レンズ42と、正の屈折力を有する凸レンズからなる第3レンズ43とで構成されている。これら第1レンズ41~第3レンズ43はそれぞれの光軸を一致させて同軸配置されており、この投影レンズ4のランプ後側の焦点Foの近傍に前記光源3、すなわち前記各LEDチップ301~309が配設されている。
【0019】
前記投影レンズ4を構成している3枚のレンズのうち、第1レンズ41と第2レンズ42は透光性のある樹脂で構成されており、例えば、第1レンズはPMMA(アクリル樹脂)で構成され、第2レンズ42はPC(ポリカーボネート樹脂)で構成される。第3レンズ43は第2レンズ42よりも低屈折率で低分散(高アッベ数)の透光性のあるガラスで構成されており、例えば、N-BK7(ホウケイ酸クラウンガラス)で構成されている。
【0020】
また、投影レンズ4における収差、すなわち色収差、球面収差、非点収差、コマ収差を低減するために、第1レンズ41の前面(第1面)S1と後面(第2面)S2、第2レンズ42の前面(第3面)S3と後面(第4面)S4、第3レンズ43の前面(第5面)S5と後面(第6面)S6のうち、少なくとも第1面S1から第5面S5は非球面に設計されている。なお、この実施形態では第1面S1から第6面S6の全てを図3に示す非球面定義式(1)に基づく非球面に設計されている。ここで、zはサグ量、rは光軸からの径方向寸法、cは曲率半径、kはコーニック定数、α,αは非球面係数である。
【0021】
以上の構成の投影レンズ4を備える実施形態1のヘッドランプHLでは、運転者によるランプスイッチ51の切替え等によってロービーム配光制御あるいはハイビーム配光制御に設定される。ロービーム配光制御のときには、発光回路5での制御により上段の4つのLEDチップ301~304が発光される。これらのLEDチップ301~304から出射された白色光は投影レンズ4により自動車の前方領域に照射され、図4において、照明領域P1~P4が合成された配光、すなわちレンズ光軸Lxを通る水平線Hにほぼ沿ったカットオフラインよりも下側領域を照明するロービーム配光が形成される。
【0022】
ハイビーム配光制御のときには、発光回路5での制御によりさらに下段の5つのLEDチップ305~309が発光される。これらLEDチップ305~309の白色光は投影レンズ4により自動車の前方領域に照射され、照明領域P5~P9が合成された配光となる。この配光は前記したロービーム配光P1~P4と合成され、広い領域を照明するハイビーム配光が形成される。
【0023】
一方、運転者によってADB配光制御に設定されたときには、発光回路5は原則としてハイビーム配光の制御を行うとともに、車載カメラ52で撮像した画像に基づいて自動車の前方領域に存在する前方車両を検出する。そして、検出した前方車両と重なる照明領域、特に照明領域P5~P9と重なる領域に対応したLEDチップを減光あるいは消光するように制御する。これにより、前方車両が属する照明領域が選択的に遮光されて前方車両に対する眩惑を防止する一方で、他の照明領域での視認性を高めたADB配光が実行される。
【0024】
また、実施形態1の投影レンズ4では、第1レンズ41と第2レンズ42を構成している樹脂の比重、ここではPMMAとPCの比重はそれぞれほぼ1.2(g/cm-3)であり、第3レンズのガラスの比重2.0(g/cm-3)に比較するとほぼ1/2であるので、第1レンズ41と第2レンズ42をガラスで構成した投影レンズよりも投影レンズ4の軽量化が実現できる。また、低価格化も実現できる。なお、第3レンズ43をガラスで構成している理由は、後述するように投影レンズ4の結像性能を改善するためである。
【0025】
ここで、投影レンズ4の環境温度について考察すると、ヘッドランプHLを消灯しているときには、投影レンズ4の温度は外気温度にほぼ等しく、概ね0℃~40℃である。一方、ヘッドランプHLが点灯しているときにはLEDチップ301~309で発生する熱により80℃程度まで上昇される。
【0026】
実施形態の投影レンズ4は、第1レンズ41のPMMAの熱膨張係数は4.7~7(×10-5/℃)程度、第2レンズ42のPCの熱膨張係数は5.6(×10-5/℃)程度である。第3レンズ43のN-BK7の熱膨張係数は30(×10-7/℃)程度である。そのため、第1レンズ41と第2レンズ42が熱膨張により変形すると、第1レンズ41と第2レンズ42のレンズ屈折力が変化し、投影レンズ4における収差が問題になる。一方、第3レンズ43はガラスで構成されており、樹脂に比較して2桁程度熱膨張係数が小さいので、投影レンズ4の温度変化によっても屈折力に及ぼす影響は無視できる。
【0027】
そこで、本発明者は樹脂で構成された第1レンズ41と第2レンズ42の屈折力の変化が投影レンズ4の結像性能に及ぼす影響について考察した。特に、第1レンズ41と第2レンズ42の合計の屈折力に着目し、この合計の屈折力が投影レンズ4の全体の屈折力に占める割合と、投影レンズ4の結像性能との相関を考察した。すなわち、第1レンズ41と第2レンズ42の合計屈折力P1,2と、投影レンズ4の全体の屈折力Ptとの屈折力比Rを求め、この屈折力比R(=P1,2/Pt)と、投影レンズ4における結像性能の温度依存性を調べた。
【0028】
第1レンズ41の正の屈折力を(+P1)とし、第2レンズ42の負の屈折力を(-P2)としたとき、第1レンズ41と第2レンズ42の合計屈折力P1,2は、
1,2=P1-P2
である。なお、第1レンズ41の焦点距離を(+f1)とし、第2レンズ42の焦点距離を(-f2)とすると、第1レンズ41の屈折力P1は(+1/f1)であり、第2レンズ42の屈折力P2は(-1/f2)であるので、合計屈折力P1,2
1,2=(1/f1)-(1/f2)
として求められる。
【0029】
また、第3レンズ43の正の屈折力を(+P3)とすると、投影レンズ4の全体の屈折力Ptは、
Pt=P1-P2+P3
である。すなわち、第3レンズ43の焦点距離を(+f3)とすると、
Pt=(1/f1)-(1/f2)+(1/f3)
として求められる。
【0030】
そして、前記した屈折力比Rを変化させたときの投影レンズ4の結像性能の温度依存性を評価するために、収差と密接な関係のある焦点距離の変化率を測定したところ、図5に示す結果が得られた。横軸は屈折力比Rであり、縦軸は焦点距離の変化率(%)である。屈折力比Rが、1/6,1/3,1/2となるように設計した投影レンズについて、その温度を40℃変化させたときの焦点距離の変化率を測定した。この結果、屈折力比Rが大きくなると変化率が増加するが、結像性能としてのスポット形状の影響が顕著になる焦点距離変化率を0.1(%)以下にするためには、屈折力比RをR<1/3にすることが好ましいことが判明した。
【0031】
そこで、実施形態1では、第1レンズ41と第2レンズ42の合計屈折力P1,2と、投影レンズ4の全体の屈折力Ptとの屈折力比Rが、R<1/3となるように設計している。すなわち、
R=(P1,2/Pt)<1/3
である。
【0032】
これを実現するために、実施形態1の投影レンズ4では、樹脂で構成されている第1レンズ41と第2レンズ42の形状、すなわち、前記第1面S1から第4面S4を図3に示したように非球面に設計し、第1レンズ41の焦点距離と第2レンズ42の焦点距離をほぼ等しく構成している。このように、第1レンズ41の焦点距離f1と第2レンズ42の焦点距離f2をほぼ等しくすることにより、合計屈折力P1,2は「0」に近い、小さな値となる。したがって、投影レンズ4の全体の屈折力Ptに対して、第1レンズ41と第2レンズ42の合計屈折力P1,2を相対的に極めて小さくでき、屈折力比Rを1/3よりも格段に小さく設計することが容易になる。
【0033】
また、実施形態1の投影レンズ4では、第1レンズ41と第2レンズ42を構成している樹脂のそれぞれの熱膨張係数がほぼ等しくされている。そのため、温度変化に対する第1レンズと第2レンズの屈折力は互いに相反する方向に変化し、合計の屈折力P1,2は温度変化によってもそれほど変化されない。これにより、屈折力比Rを1/3よりも小さ値に保持することが容易になる。
【0034】
なお、第1レンズ41と第2レンズ42を構成する樹脂の種類が相違して、それぞれの熱膨張係数にある程度の違いが生じていても、樹脂の熱膨張係数はガラスの熱膨張係数に比較すれば元々極めて大きいため、当該熱膨張係数の違いは無視できる。したがって、この場合においても、前記したような温度依存性の改善効果が得られる。また、第1レンズ41と第2レンズ42を熱膨張係数が等しい樹脂で構成すれば、温度依存性をさらに改善することができる。
【0035】
本発明者がシミュレーションした実施形態1の投影レンズ4の結像性能としてのスポット形状を図6Aに示す。図3に示した実施形態1の投影レンズ4は、第1レンズ41と第2レンズ42を樹脂で構成し、第3レンズ43をガラスで構成している。また、第1レンズ41と第2レンズ42の合計屈折力を「0」に近い小さい値にしており、その屈折力比RをR<1/3に設計している。
【0036】
図6Bは実施形態1の投影レンズ4と同様なレンズ構成であるが、第1レンズ41から第3レンズ43を全て樹脂で構成した比較例としての投影レンズのシミュレーションである。したがって、第1レンズから第3レンズは全て熱膨張による変形が顕著になり、屈折力比RがR<1/3の条件を満たしたものとはなっていない。
【0037】
これら実施形態の投影レンズ4と、比較例の投影レンズに対して、第1レンズ41側から所要の径寸法の光束を入射してスポットを結像する。そして、いずれも投影レンズの温度が0℃、20℃、40℃、80℃に変化したときの焦点距離、RMS(二乗平均平方根:Root Mean Square)半径、スポット形状の変化を得ている。なお、RMSについては光軸に対する角度が0°と10°について求めている。これから、各温度における焦点距離変化、スポット形状の変化、RMS半径の値を比較すれば、図6Aの実施形態の投影レンズは、図6Bの比較例の投影レンズに比較してスポット形状の温度依存性が少ないことが判る。
【0038】
因みに、図6Aに示した実施形態1の投影レンズ4では、全体の屈折力Ptは0.175であり、第1レンズ41と第2レンズ42の合計屈折力P1,2は0.002である。したがって、屈折力比Rはほぼ1/80であり、前記したR<1/3の条件を満たしている。この屈折力比Rが1/80の場合には、図5からも判るように、焦点距離の変化率は0.08(%)以下に改善できる。
【0039】
なお、この屈折力比Rの値の範囲は、前記したように焦点距離変化率を0.1(%)以下にする場合であり、焦点距離変化率をより厳しくする場合には屈折力比Rの値はより小さい範囲に設定し、反対に焦点距離変化率を緩和してもよい場合には屈折力比Rの値をこれより大きい範囲に設定してもよいことは言うまでもない。例えば、より厳しくする場合には、図5からも判るように、屈折力比RをR<1/6にすれば、焦点距離の変化率を0.08(%)近くまで改善できる。
【0040】
実施形態1においては、第1面から第6面の全てを非球面に設計した例を説明したが、本発明は、少なくとも第1面から第5面が非球面であればよく、したがって第6面は球面であっても良い。また、第1レンズと第3レンズの凸レンズ、及び第2レンズの凹レンズは両面が同じ方向に湾曲しているメニスカスレンズの場合でも本発明を適用することができる。
【0041】
図7は実施形態2の投影レンズ4Aのレンズ構成図である。実施形態2では投影レンズは4枚のレンズで構成されている。すなわち、ランプ前側から順に、正の屈折力を有する凸レンズからなる第1レンズ41と、負の屈折力を有する凹レンズからなる第2レンズ42と、それぞれ正の屈折力を有する凸レンズからなる第3レンズ43及び第4レンズ44とで構成されている。なお、面S1~S6は実施形態1と同様であり、面S7,S8は第4レンズ44の前面と後面を表している。
【0042】
図8は実施形態2の投影レンズ4Aの面構成図と設計式及び設計値を示す図である。この投影レンズ4Aは、前記第1と第2のレンズ41,42は樹脂で構成されており、前記第3と第4のレンズ43,44はガラスで構成されている。そして、実施形態2においては、第1レンズ41と第2レンズ42の合計屈折力P1,2と、第1レンズ41から第4レンズ44を含む投影レンズ4の全体の屈折力Ptとの屈折力比RがR=1/6となるように設計している。すなわち、R(=1/6)<1/3であり、実施形態1で説明した条件、
R=(P1,2/Pt)<1/3
を満たしている。
【0043】
実施形態2の投影レンズ4Aにおいて、屈折力比Rを変化させたときの結像性能の温度依存性を評価したところ、図5に示した実施形態1と同じ結果が得られた。これから、実施形態2の投影レンズ4Aにおいても焦点距離変化率を0.1(%)以下にするためには、屈折力比RをR<1/3にすることが好ましいことが判明した。
【0044】
図9は実施形態2の投影レンズ4Aの温度変化によるスポット形状の変化を示すシミュレーション図である。この投影レンズにおいても、図6Aに示した実施形態1の投影レンズと同様に、スポット形状の温度依存性が少ないことが判る。
【0045】
本発明者の検討によれば、本発明にかかる投影レンズは、2枚以上の樹脂レンズと、1枚以上のガラスレンズを備える構成であれば、樹脂レンズの合計屈折力Prと、樹脂レンズとガラスレンズを含む投影レンズ4の全体の屈折力Ptとの屈折力比R(=Pr/Pt)が、R<1/3の条件を満たせば、実施形態1,2と同様の作用効果を奏することができる。
【0046】
ここで、実施形態のヘッドランプにおいては光源を9個のLEDチップで構成してADB配光を形成した例を示したが、ADB配光に限られるものではなく、LEDチップの個数や照明領域の個数、さらには個々の照明領域のパターン形状は任意に設定することができる。また、光源としてMEMS(micro electro mechanical systems)ミラーアレイを用いたランプに適用することもできる。あるいは、光源光を直接投影する光学系に限らず、回転ミラー及び揺動ミラーの反射光による光走査(スキャン)光学系を用いたランプに適用できる。
【符号の説明】
【0047】
HL ヘッドランプ
1 ランプハウジング
2 ランプユニット
3 光源
4,4A 投影レンズ
5 発光回路
41 凸レンズ(第1レンズ:樹脂レンズ)
42 凹レンズ(第2レンズ:樹脂レンズ)
43 凸レンズ(第3レンズ:ガラスレンズ)
44 凸レンズ(第4レンズ:ガラスレンズ)
301~309 LEDチップ(発光素子)
S1~S8 第1面~第8面
R 屈折力比
Pr 樹脂レンズの合計屈折力
Pt 投影レンズ全体の屈折力
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9