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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】ビフィズス菌増殖促進剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/38 20060101AFI20220509BHJP
   C07K 14/405 20060101ALN20220509BHJP
【FI】
C12N1/38
C07K14/405
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018035562
(22)【出願日】2018-02-28
(65)【公開番号】P2019151559
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉永 恵子
(72)【発明者】
【氏名】村上 桂
(72)【発明者】
【氏名】久保 幸也
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-252660(JP,A)
【文献】特開2002-223727(JP,A)
【文献】特開2016-204273(JP,A)
【文献】久保孝 他,食用海藻類のラット盲腸内フローラおよび血清脂質レベルに及ぼす影響,日本水産学会誌,1997年,Vol. 63,pp. 928-933
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C07K 1/00-19/00
A23L 17/60
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)~(C)を順次実施する工程を含むことを特徴とする、下記(C)で回収した沈殿物を有効成分とするビフィズス菌増殖促進剤の製造方法(但し、プロテアーゼ処理工程を含むものを除く)。
(A):脱塩わかめに水を加えて撹拌し、得られた混合物を遠心分離処理して上清を廃棄し沈殿物を回収する。
(B):(A)で回収した沈殿物とアルカリ金属塩とを接触させる。
(C):(B)の接触後、得られた混合物を遠心分離処理して上清を廃棄し沈殿物を回収する。
【請求項2】
以下の(A)及び(B)を順次実施する工程を含むことを特徴とする、下記(B)で分離したタンパク質を有効成分とするビフィズス菌増殖促進剤の製造方法(但し、プロテアーゼ処理工程を含むものを除く)。
(A):わかめ又はわかめ加工品をアルギン酸リアーゼで処理し、これを遠心分離処理して上清を廃棄し沈殿物を回収する。
(B):(A)で回収した沈殿物をエタノールを用いて洗浄し、水、エタノール及び油のいずれにも溶解しないタンパク質を分離する。
【請求項3】
対象とするビフィズス菌がビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載のビフィズス菌増殖促進剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビフィズス菌増殖促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ビフィズス菌はヒトの腸内に多く存在する善玉菌であり、腸内菌叢の中では優先種の一つである。ビフィズス菌は、腸内の糖質や食物繊維を利用して乳酸や酢酸、酪酸といった有機酸等を産生し、悪玉菌の増殖を抑制する等して腸内菌叢の正常化をはかることが知られている。加えて、腸管免疫に対する調節機能を発揮することや、加齢や食生活、ストレスの影響を受けてビフィズス菌の菌数が減少することなどが報告されていることから、ヒトが健康を保つためには、ビフィズス菌を優勢に維持することが重要である。
【0003】
ビフィズス菌の増殖を促進する化合物や素材としては、以前より、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、シクロデキストリン、コンニャクマンナン、豆乳等、多数知られており、これら以外にも、例えば、ブロッコリー、カリフラワー、ケール、なずな、すずしろ、はたざお、たがらし、たいせい、おおばたねつけばな、やまがらし、おらんだがらし、高菜、からしな、わさび、ゆりわさび、ひのな、すぐきな、かぶ、あぶらな、キャベツ、ほうれん草、小松菜、セロリ、パセリ、レタス及びリンゴからなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有するビフィズス菌増殖促進剤(特許文献1)、スイートバジル、オレガノ、トウガラシ、ニガウリ、カキ、キク、雪白体菜、ミズナ、ルッコラ、オカヒジキ、スカンポ、ソバ、ツルムラサキおよびトウミョウからなる群から選択される1種または2種以上を含有する、ビフィズス菌増殖促進剤(特許文献2)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、及び、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)から選ばれる少なくとも1種のビフィズス菌を増殖させるためのビフィズス菌増殖用組成物であって、大麦の茎及び/又は葉の粉砕物及び/又はその乾燥粉末を含有することを特徴とする、ビフィズス菌増殖用組成物(特許文献3)等が知られている。
【0004】
このような状況下、ビフィズス菌の増殖を促進し得る更なる新規な素材が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-266860号公報
【文献】特開2006-333837号公報
【文献】特開2017-147990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ビフィズス菌の増殖を促進し得る新規な素材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、わかめ加工品及びわかめ由来のタンパク質がビフィズス菌の増殖を促進することを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)わかめ加工品を有効成分とすることを特徴とするビフィズス菌増殖促進剤、
(2)わかめ由来のタンパク質を有効成分とすることを特徴とするビフィズス菌増殖促進剤、
(3)わかめ由来のペプチドを有効成分とすることを特徴とするビフィズス菌増殖促進剤、
(4)対象とするビフィズス菌がビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)であることを特徴とする前記(1)~(3)のいずれかに記載のビフィズス菌増殖促進剤、
からなっている。
【発明の効果】
【0009】
本発明のビフィズス菌増殖促進剤は、ビフィズス菌の増殖を促進することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で言うところのわかめとは、分類学的にはコンブ目チガイソ科ワカメ属に属する海藻類である。わかめの種類としては、ワカメ(Undaria pinnatifida)、ヒロメ(U.undarioides)、アオワカメ(U.peterseniana)があり、本発明ではいずれも好ましく用いられる。また、本発明に用いられるわかめの部位に特に制限はなく、葉、芽かぶ等のいずれを用いても良い。
【0011】
本発明のビフィズス菌増殖促進剤は、わかめ加工品、わかめ由来のタンパク質又はわかめ由来のペプチドを有効成分とするものである。
【0012】
本発明に用いられるわかめ加工品としては、わかめを加工したものであって、食用として摂取可能なものであれば特に制限されないが、例えば、乾燥わかめ(例えば乾燥カットわかめ、素干しわかめ等)、ボイル塩蔵わかめ、塩蔵わかめ、脱塩わかめ又は食物繊維除去わかめ等が挙げられる。ここで、脱塩わかめは、わかめ、乾燥わかめ、ボイル塩蔵わかめ又は塩蔵わかめ等を含水エタノール溶液で洗浄することにより脱塩処理したものである。また、食物繊維除去わかめは、わかめ、乾燥わかめ、ボイル塩蔵わかめ、塩蔵わかめ又は脱塩わかめ等から食物繊維を除去したものである。以下、脱塩わかめ及び食物繊維除去わかめの製造方法の概略を示す。
【0013】
<脱塩わかめの製造方法>
先ず、濃度が10~60%(v/v)の含水エタノールでわかめを洗浄する。洗浄方法に特に制限はないが、例えばわかめを含水エタノールに浸漬し攪拌する方法や、超音波等で処理する方法等が挙げられる。また、洗浄されるわかめの形状に特に制限はないが、洗浄処理の効率の観点から、チップ状に切断してあるものが好ましい。また、洗浄時間は、洗浄方法やわかめの形状等に応じて適宜設定すれば良く、例えば、チップ状に切断したわかめを含水エタノールに浸漬し、撹拌する方法であれば5~60分間とすることができる。また、洗浄温度は、わかめに含まれる有効成分の流出に影響しない程度に設定すれば良く、例えば0~30℃であることが好ましい。また、洗浄後、濾過したわかめを再び含水エタノールで洗浄する操作を1回~3回実施しても良い。また、洗浄後、濾過したわかめを乾燥し、自体公知の方法により粉末化しても良い。
【0014】
<食物繊維除去わかめの製造方法>
先ず、脱塩わかめに水を加えて攪拌し、得られた混合物を遠心分離処理して上清を廃棄し沈殿物を回収する。脱塩わかめの形状に特に制限はないが、食物繊維の除去効率の観点から、粉末状に粉砕されたものが好ましい。また、攪拌条件は、80~100℃で5分~10時間とすることができる。
次に、回収した沈殿物とアルカリ金属塩とを接触させる。アルカリ金属塩としては、例えば、有機酸のアルカリ金属塩が好ましく、クエン酸のアルカリ金属塩(例えば、クエン酸ナトリウム等)がより好ましい。前記沈殿物に対するアルカリ金属塩の量は、アルカリ金属塩の種類等により異なるが、例えば、クエン酸三ナトリウムを用いる場合、該沈殿物の固形分100質量部に対し、100~3000質量部、好ましくは200~1500質量部である。接触方法としては、例えば、アルカリ金属塩の水溶液を調製し、これを該沈殿物に加えて撹拌するのが好ましい。また、攪拌条件は、室温(0~30℃)~50℃で2分~4時間とすることができる。
接触後、得られた混合物を遠心分離処理して上清を廃棄し沈殿物を回収することにより、食物繊維除去わかめが得られる。得られた食物繊維除去わかめを乾燥し、自体公知の方法により粉末化しても良い。
【0015】
尚、わかめ加工品(例えば、食物繊維除去わかめ)の製造過程で、水溶性の抽出物(以下、「水溶性わかめ抽出物」という。)が副生成物として得られる場合がある。この水溶性わかめ抽出物は、ビフィズス菌増殖促進剤の有効成分としての効果が十分に発揮されるものではないため、本発明に用いられるわかめ加工品には含まれないものとする。
【0016】
本発明に用いられるわかめ由来のタンパク質(以下、「わかめタンパク質」ともいう。)としては、わかめから分離したタンパク質であれば特に制限されない。以下、わかめタンパク質の製造方法の概略を示す。
【0017】
<わかめタンパク質の製造方法>
わかめタンパク質は、自体公知のタンパク質分離法により、わかめ又はわかめ加工品からタンパク質を分離して製造することができる。タンパク質分離法としては、例えば、(1)pH3.0~5.0の緩衝液に浸漬して組織を軟化し、かつ糖類、色素等を溶出・除去した後、アルカリ類を用いて溶解し、酸を加えてpHを4.5~5.0に調整して沈殿として回収する酸沈工程を含む方法、(2)等電点よりも高いpHの水性抽出剤で抽出し、該タンパク質抽出液を等電点付近のpHに調整する酸沈処理により、タンパク質を沈殿させて回収する等電点沈殿法、(3)イオン交換体吸着法、(4)膜分離法、(5)アルギン酸リアーゼ等の酵素で処理し、これを遠心分離処理して上清を廃棄し沈殿物を回収することにより、粘質多糖類を除去し、該沈殿物をエタノールを用いて洗浄し、色素、脂質等を除去することにより、タンパク質を分離する方法が挙げられる。中でも、本発明においては、前記(5)の方法が簡便に実施でき、風味の良好なわかめタンパク質が得られるため好ましい。尚、前記(5)の方法により分離されるわかめタンパク質は、不溶性のものである。不溶性とは、水、エタノール及び油のいずれにも溶解しないことをいう。
【0018】
上記わかめタンパク質の製造方法において、わかめタンパク質の原料として脱塩わかめを用いると、タンパク質の抽出率が高まるとともに、海藻独特の臭いが低減したわかめタンパク質が得られるため好ましい。また、上記わかめタンパク質の製造方法において、セルラーゼ等の酵素で処理することにより、セルロース等の水溶性成分を除去すると、わかめタンパク質の抽出率が高まるため好ましい。アルギン酸リアーゼ及びセルラーゼ等による酵素処理の温度及びpHは常識的に許容される範囲内の条件であれば良いが、その酵素の至適温度、至適pHで行うことが反応時間の短縮や酵素の安定性上望ましい。
【0019】
ここで、わかめタンパク質の純度は、ケルダール法(日本食品科学工学会 新食品分析法編集委員会編、「新・食品分析法」、光琳、平成8年11月30日発行、p.33-38)により試料の全窒素量を測定し、係数6.25を乗じてタンパク質含有量とすることにより算出できる。
【0020】
本発明で用いられるわかめ由来のペプチド(以下、「わかめペプチド」ともいう。)としては、例えば、わかめタンパク質を分解して得られるペプチドであれば特に制限されない。以下、わかめペプチドの製造方法の概略を示す。
【0021】
<わかめペプチドの製造方法>
わかめペプチドは、例えば、わかめタンパク質をタンパク質分解酵素で処理して得られる処理物から分取することにより製造される。タンパク質分解酵素としては、例えば、プロテアーゼ、トリプシン、パンクレアチン、キモトリプシン、ペプシン、パパイン等が挙げられ、中でもプロテアーゼが好ましく用いられる。タンパク質分解酵素の使用量、タンパク質分解酵素による処理の温度及びpHは常識的に許容される範囲内の条件であれば良いが、その酵素の至適使用量、至適温度、至適pHで行うことが反応時間の短縮や酵素の安定性上望ましい。タンパク質分解酵素による処理により得られる処理物からペプチドを分取する方法に特に制限はないが、例えば、該処理物を遠心分離し、未分解の蛋白質を除去して上清を得た後、該上清を限外濾過膜で処理し、分子量1万以下のペプチドを得る方法が挙げられる。
【0022】
ここで、上記方法により得られるわかめペプチドは、特開2003-128694号公報に記載されるように、特定の複数種類のジペプチドを含有するものであり、少なくともVal-Tyr、Ile-Tyr及びPhe-Tyr等の疎水性アミノ酸-チロシンを含有するものである。
【0023】
本発明のビフィズス菌増殖促進剤は、上記わかめ加工品、わかめタンパク質又はわかめペプチドをそのまま、あるいは製薬学的に許容される添加物、食品素材、食品原料、さらに必要に応じて食品添加物等を適宜混合し、常法に従い、例えば、ビフィズス菌増殖促進を目的とする医薬品、医薬部外品、又は飲食品(健康食品、特定保健用食品又は機能性表示食品を含む)として製造される。該医薬品又は医薬部外品としては、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、マイクロカプセル、ソフトカプセル、ハードカプセル、シロップ剤、エリキシル剤等経口的形態の製剤が挙げられる。該飲食品としては、例えば、固形食品、クリーム状又はジャム様の半固形食品、ゲル状食品、飲料等あらゆる食品形態をとることが可能である。具体的には、例えば、清涼飲料、乳性飲料、サプリメント、クッキー、プリン、ゼリー菓子、キャンディ、ドロップ、チューインガム、チョコレート、ヨーグルト、アイスクリーム、マーガリン、ショートニング、マヨネーズ又はドレッシング等が挙げられる。
【0024】
上記医薬品、医薬部外品又は飲食品の製造に用いられる添加物、食品素材、食品原料又は食品添加物としては、例えば、賦形剤(乳糖、麦芽糖、デキストリン、コーンスターチ、結晶セルロース等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等)、崩壊剤(カルボキシメチルセルロースカルシウム、無水リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム等)、結合剤(デンプン糊液、ヒドロキシプロピルセルロース液、アラビアガム液等)、溶解補助剤(アラビアガム、ポリソルベート80等)、甘味料(砂糖、果糖、ブドウ糖液糖、ハチミツ、アスパルテーム等)、着色料(β-カロテン、食用タール色素、リボフラビン等)、保存料(ソルビン酸、パラオキシ安息香酸メチル、亜硫酸ナトリウム等)、増粘剤(アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム等)、酸化防止剤(BHT、BHA、アスコルビン酸、トコフェロール等)、香料(ハッカ、ストロベリー香料等)、酸味料(クエン酸、乳糖、DL-リンゴ酸等)、調味料(DL-アラニン、5´-イノシン酸ナトリウム、L-グルタミン酸ナトリウム等)、乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等)、pH調整剤(クエン酸、クエン酸三ナトリウム等)、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸類等が挙げられる。
【0025】
本発明のビフィズス菌増殖促進剤を医薬品、医薬部外品又は飲食品として使用する場合、上記した添加物、食品素材、食品原料又は食品添加物の他に、薬剤学的又は食品衛生学的に許容される他の素材を常法により適宜添加混合してもよい。このようなものとしては特に限定されず、例えば、コーティング剤、吸収促進剤、安定化剤、漢方薬(生薬エキス)等が挙げられる。
【0026】
本発明のビフィズス菌増殖促進剤は、経口的に摂取することにより、ヒトの腸管に生息する種々のビフィズス菌、とりわけ、ヒトにとって有益なビフィズス菌を増殖させ、腸内細菌叢を維持改善する効果が期待できる。尚、本発明のビフィズス菌増殖促進剤の有効成分は、食品として広く食されているわかめに由来し、経口的に摂取する上で安全性の高いものである。
【0027】
また、本発明のビフィズス菌増殖促進剤は、ビフィズス菌の発酵により製造される発酵飲食品(例えば、ヨーグルト、乳性飲料等)の製造時に添加することにより、製造工程中のビフィズス菌の増殖及びビフィズス菌による発酵を促進する目的で使用することができる。更に、本発明のビフィズス菌増殖促進剤は、ビフィズス菌株培養用培地に添加することにより、ビフィズス菌の培養効率を高める目的で使用することができる。
【0028】
本発明のビフィズス菌増殖促進剤により増殖が促進されるビフィズス菌種に特に制限はないが、例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)などが挙げられ、好ましくはビフィドバクテリウム・ロンガムである。
【0029】
本発明のビフィズス菌増殖促進剤の生体に対する投与量は、該ビフィズス菌増殖促進剤の配合組成や投与の目的、投与経路等により異なるが、例えばわかめ加工品を経口投与する場合、成人1日当たり10~10000mgの範囲であり、わかめタンパク質を経口投与する場合、成人1日当たり2~2000mgの範囲であり、わかめペプチドを経口投与する場合、成人1日当たり2~2000mgの範囲である。
【0030】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0031】
[脱塩わかめの製造]
乾燥わかめ200gに25%(v/v)の含水エタノール4000mLを加え、これをスリーワンモーター(型式:BLh600;新東科学社製)を用いて速度「3」で60分間撹拌し、洗浄した。洗浄後、濾過して液部を除去し、固形部に25%(v/v)の含水エタノール4000mLを加え、更に同一の条件にて洗浄した。その後濾過して液部を除去し、固形部を真空乾燥して粉砕し、粉末状の脱塩わかめ約146.4gを得た。以上の操作を2回繰り返し、粉末状の脱塩わかめ(試作品1)約293gを得た。
【0032】
[食物繊維除去わかめの製造]
脱塩わかめ(試作品1)50gに水道水15000mLを加え、95℃で60分間撹拌し、得られた混合物を室温まで冷却した。この混合物を10000×g、15℃で10分間遠心分離し、上清液及び沈殿物をそれぞれ回収した(ここで回収した上清液は、後述の「水溶性わかめ抽出物の製造」で使用した)。得られた沈殿物に2%クエン酸三ナトリウム水溶液5000mLを加え、室温で30分間撹拌した後、10000×g、15℃で10分間遠心分離し、上清液を廃棄し、沈殿物を回収した。得られた沈殿物を凍結乾燥して粉砕し、粉末状の食物繊維除去わかめ(試作品2)15.5gを得た。
【0033】
[わかめタンパク質の製造]
水道水8000mLにクエン酸三ナトリウム二水和物160g、無水クエン酸1.6g、アルギン酸リアーゼ(製品名:アルギン酸リアーゼS;28000units/g;アマノエンザイム社製)40mg及び脱塩わかめ(試作品1)201.5gを加え、撹拌しながら45℃で4時間処理した。処理物を5000×g、15℃で5分間遠心分離し、上清液を廃棄し、沈殿物を回収した。
得られた沈殿物に水道水6000mL、クエン酸三ナトリウム二水和物80g、無水クエン酸0.8g及びアルギン酸リアーゼ(製品名:アルギン酸リアーゼS;28000units/g;アマノエンザイム社製)40mgを加え、撹拌しながら45℃で17時間処理した。処理物を5000×g、15℃で5分間遠心分離し、上清液を廃棄し、沈殿物を回収した。得られた沈殿物に超純水3000mLを加えて撹拌した後、5000×g、15℃で5分間遠心分離し、沈殿物を回収する操作を4回繰り返すことにより、該沈殿物を洗浄した。洗浄後、沈殿物を凍結乾燥して粉砕し、72.6gの粉砕物を得た。得られた粉砕物に100%エタノール700mLを加えて10分間撹拌し、濾過して液部を除去し、固形部を回収する操作を6回繰り返した。
得られた固形部を40℃で24時間真空乾燥し、61.9gの乾燥物を得た。得られた乾燥物のうち61.0gに水道水1500mLを加え、これに1N塩酸を加えpH4.8に調整した後に、セルラーゼ(製品名:セルラーゼT「アマノ」4;アマノエンザイム社製)2gを加え、45℃で5時間撹拌した。処理物を5000×g、15℃で5分間遠心分離し、上清液を廃棄し、沈殿物を回収した。
得られた沈殿物に超純水1200mLを加えて撹拌した後、5000×g、15℃で5分間遠心分離し、沈殿物を回収する操作を3回繰り返すことにより、該沈殿物を洗浄した。
洗浄した沈殿物に50%エタノール1000mLを加えて撹拌した後、5000×g、15℃で5分間遠心分離し、沈殿物を回収する操作を4回繰り返すことにより、沈殿物を更に洗浄した。洗浄した沈殿物に100%エタノール1000mLを加えて撹拌した後、5000×g、15℃で5分間遠心分離し、沈殿物を回収する操作を2回繰り返すことにより、沈殿物を更に洗浄した。
洗浄後、沈殿物を真空乾燥して粉砕し、粉末状のわかめタンパク質(試作品3;純度約80%)50.2gを得た。
【0034】
[わかめペプチドの製造]
乾燥わかめ100gに2000mLの0.1Mクエン酸緩衝液を加えpHを7.0に調整し、これにアルギン酸リアーゼ(商品名:アルギン酸リアーゼS;ナガセケムテックス社製)100Uを加えた後、45℃で3時間処理した。その後、得られた処理物を3000×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄し沈殿物を回収し、わかめから分離されたタンパク質を含有する組成物35gを得た。
次に、上記組成物に対し、1500gの蒸留水を加え、ホモジナイズした後、10000Uのプロテアーゼ(商品名:プロテアーゼS「アマノ」;天野エンザイム社製)を加え、pHを8.0に調製した後、72℃にて18時間処理した。その後3000×gで5分間、遠心分離し上清を回収した。回収した上清は、限外濾過膜(商品名:FB02-FC-FUS0181;ダイゼン・メンブレン・システムズ社製)で限外濾過し、透過液を回収した後、凍結乾燥して粉砕し、粉末状のわかめペプチド(試作品4)約10gを得た。
【0035】
[水溶性わかめ抽出物の製造]
前述の「食物繊維除去わかめの製造」で回収した上清液を用いて水溶性わかめ抽出物を製造した。即ち、該上清液をロータリーエバポレーターにて濃縮後、凍結乾燥して粉砕し、粉末状の水溶性わかめ抽出物(試作品5)22.0gを得た。
【0036】
[ビフィズス菌増殖試験]
【0037】
(1)ビフィズス菌の培養
試験菌株として、Bifidobacterium longum subsp.longum JCM1217株を、5%馬血液(コージンバイオ社製)を加えたBL培地(日水製薬社製)に植菌し、37℃で48時間、嫌気培養(H:10%、CO:10%、N:80%)した。得られた菌体を生理食塩水を用いて適宜希釈し、2.0×10cfuを含む量でプレート中の各試験培地に塗抹し、37℃で7日間嫌気培養(H:10%、CO:10%、N:80%)した。
試験培地としては、MRS寒天培地(Oxoid UK社製)に脱塩わかめ(試作品1)、食物繊維除去わかめ(試作品2)、わかめタンパク質(試作品3)、わかめペプチド(試作品4)又は水溶性わかめ抽出物(試作品5)を0.8質量%添加し、121℃、15分間加熱滅菌処理したものを使用した。また、陰性対照の試験培地として、試作品1~5のいずれも添加していないMRS寒天培地を同様に調製した。更に、陽性対照の試験培地として、試作品1~5のいずれも添加していないTOSプロピオン酸寒天培地(ヤクルト薬品工業社製)も同様に調製した。
尚、上記MRS寒天培地1L当たりの組成は、ペプトン10.0g、ラブーレムコ末8.0g、酵母エキス4.0g、ブドウ糖20.0g、モノオレイン酸ソルビタン1.0mL、リン酸水素二カリウム2.0g、酢酸ナトリウム三水和物5.0g、クエン酸トリアンモニウム2.0g、硫酸マグネシウム七水和物0.2g、硫酸マンガン四水和物0.05g、硫酸マンガン四水和物0.05g、寒天10.0gである。また、上記TOSプロピオン酸寒天培地1L当たりの組成は、ペプトン10.0g、酵母エキス1.0g、リン酸二水素カリウム3.0g、リン酸一水素二カリウム4.8g、硫酸アンモニウム3.0g、硫酸マグネシウム七水和物0.2g、L-システイン塩酸塩一水和物0.5g、プロピオン酸ナトリウム15.0g、ガラクトオリゴ糖10g、寒天15.0gである。
【0038】
(2)ビフィズス菌の増殖促進効果の評価
培養後の試験培地を撮影して得た画像について、画像解析ソフトウェアImageJ(バージョン1.4.3.67;アメリカ国立衛生研究所;http://rsbweb.nih.gov/ij)を用いて、各試験培地上で生育したビフィズス菌の生育面積を求めた。そして、ビフィズス菌の増殖に適したTOSプロピオン酸寒天培地上で生育したビフィズス菌の生育面積を100%としたときの各試験培地の生育面積の割合をビフィズス菌の増殖促進率(%)とした。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1の結果から、試作品1~4を添加したMRS寒天培地では、ビフィズス菌の増殖促進効果が確認できた。特に、試作品2及び4を添加したものでは、ビフィズス菌の培養に適した陽性対照を上回る増殖促進効果があった。これに対し、試作品5を添加したMRS寒天培地では、ビフィズス菌の増殖促進効果はごくわずかであり、ビフィズス菌の培養に適さない陰性対照とほぼ同じであった。従って、脱塩わかめ、食物繊維除去わかめ、わかめタンパク質及びわかめペプチド(特に、食物繊維除去わかめ及びわかめペプチド)は、ビフィズス菌増殖促進剤の有効成分として有用であることが分かった。
【0041】
[ビフィズス菌増殖促進剤の処方例]
以下に、脱塩わかめ(試作品1)、食物繊維除去わかめ(試作品2)、わかめタンパク質(試作品3)及びわかめペプチド(試作品4)を有効成分として含有するビフィズス菌増殖促進剤(カプセル剤及び錠剤)を調製する際の処方例を示す。
【0042】
処方例1:脱塩わかめを含有するカプセル剤
脱塩わかめ(試作品1) 99質量%
トリグリセリン脂肪酸エステル 1質量%
【0043】
処方例2:食物繊維除去わかめを含有する錠剤
食物繊維除去わかめ(試作品2) 55質量%
結晶セルロース 20質量%
還元麦芽糖 20質量%
トリグリセリン脂肪酸エステル 5質量%
【0044】
処方例3:わかめタンパク質を含有する錠剤
わかめタンパク質(試作品3) 78質量%
結晶セルロース 20質量%
トリグリセリン脂肪酸エステル 2質量%
【0045】
処方例4:わかめペプチドを含有する錠剤
わかめペプチド(試作品4) 82質量%
還元麦芽糖 15質量%
トリグリセリン脂肪酸エステル 3質量%