(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】回転角度センサシステムおよび半導体装置
(51)【国際特許分類】
G01D 5/20 20060101AFI20220509BHJP
【FI】
G01D5/20 A
(21)【出願番号】P 2018043816
(22)【出願日】2018-03-12
【審査請求日】2020-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池永 佳史
(72)【発明者】
【氏名】廣島 茜
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-316266(JP,A)
【文献】国際公開第2009/139338(WO,A1)
【文献】特開2010-197217(JP,A)
【文献】米国特許第05444368(US,A)
【文献】特開2003-307436(JP,A)
【文献】特開2013-152251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/20-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸倍角が2以上の整数であり、第1の極および第2の極を備えるロータと、検出コイルが巻かれる突極を複数備えるステータとを有する回転角度センサと、
前記複数の検出コイルからの検出信号を合成することで、前記ロータの回転角度のサイン成分を表す第1の合成検出信号と、コサイン成分を表す第2の合成検出信号とを生成する合成回路と、
を有する回転角度センサシステムであって、
前記合成回路が前記第1の合成検出信号または前記第2の合成検出信号のいずれか一方を生成する際に合成対象とする前記検出コイルは、前記第1の極を基準に第1の電気角で設置される第1の検出コイルと、前記第2の極を基準に前記第1の電気角とは異なる第2の電気角で設置される第2の検出コイルとを含み、前記第2の極を基準に前記第1の電気角で設置される検出コイルを含ま
ず、
前記軸倍角は2であり、
前記ステータは、72°の機械角間隔で順に設置される第1の突極、第2の突極、第3の突極、第4の突極、第5の突極を有し、
前記合成回路は、前記第1の突極と前記第3の突極と前記第4の突極にそれぞれ巻かれる前記検出コイルからの検出信号を合成することで、前記第1の合成検出信号または前記第2の合成検出信号の一方を生成し、前記第2の突極と前記第5の突極にそれぞれ巻かれる前記検出コイルからの検出信号を合成することで、前記第1の合成検出信号または前記第2の合成検出信号の他方を生成する、
回転角度センサシステム。
【請求項2】
軸倍角が2以上の整数であり、第1の極および第2の極を備えるロータと、検出コイルが巻かれる突極を複数備えるステータとを有する回転角度センサと、
前記複数の検出コイルからの検出信号を合成することで、前記ロータの回転角度のサイン成分を表す第1の合成検出信号と、コサイン成分を表す第2の合成検出信号とを生成する合成回路と、
を有する回転角度センサシステムであって、
前記合成回路が前記第1の合成検出信号または前記第2の合成検出信号のいずれか一方を生成する際に合成対象とする前記検出コイルは、前記第1の極を基準に第1の電気角で設置される第1の検出コイルと、前記第2の極を基準に前記第1の電気角とは異なる第2の電気角で設置される第2の検出コイルとを含み、前記第2の極を基準に前記第1の電気角で設置される検出コイルを含ま
ず、
前記軸倍角は2であり、
前記ステータは、
第1の突極と、
前記第1の突極を基準に機械角135°離れた位置に設置される第2の突極と、
前記第1の突極を基準に機械角45°離れた位置に設置される第3の突極と、
前記第3の突極を基準に機械角135°離れた位置に設置される第4の突極と、
を有し、
前記合成回路は、前記第1の突極と前記第2の突極にそれぞれ巻かれる前記検出コイルからの検出信号を合成することで、前記第1の合成検出信号または前記第2の合成検出信号の一方を生成し、前記第3の突極と前記第4の突極にそれぞれ巻かれる前記検出コイルからの検出信号を合成することで、前記第1の合成検出信号または前記第2の合成検出信号の他方を生成する、
回転角度センサシステム。
【請求項3】
軸倍角が2以上の整数であり、第1の極および第2の極を備えるロータと、検出コイルが巻かれる突極を複数備えるステータとを有する回転角度センサと、
前記複数の検出コイルからの検出信号を合成することで、前記ロータの回転角度のサイン成分を表す第1の合成検出信号と、コサイン成分を表す第2の合成検出信号とを生成する合成回路と、
を有する回転角度センサシステムであって、
前記合成回路が前記第1の合成検出信号または前記第2の合成検出信号のいずれか一方を生成する際に合成対象とする前記検出コイルは、前記第1の極を基準に第1の電気角で設置される第1の検出コイルと、前記第2の極を基準に前記第1の電気角とは異なる第2の電気角で設置される第2の検出コイルとを含み、前記第2の極を基準に前記第1の電気角で設置される検出コイルを含ま
ず、
前記軸倍角は3であり、
前記ステータは、
第1の突極と、
前記第1の突極を基準に機械角140°離れた位置に設置される第2の突極と、
前記第2の突極を基準に機械角140°離れた位置に設置される第3の突極と、
前記第1の突極を基準に機械角30°離れた位置に設置される第4の突極と、
前記第4の突極を基準に機械角140°離れた位置に設置される第5の突極と、
前記第5の突極を基準に機械角140°離れた位置に設置される第6の突極と、
を有し、
前記合成回路は、前記第1の突極と前記第2の突極と前記第3の突極にそれぞれ巻かれる前記検出コイルからの検出信号を合成することで、前記第1の合成検出信号または前記第2の合成検出信号の一方を生成し、前記第4の突極と前記第5の突極と前記第6の突極にそれぞれ巻かれる前記検出コイルからの検出信号を合成することで、前記第1の合成検出信号または前記第2の合成検出信号の他方を生成する、
回転角度センサシステム。
【請求項4】
軸倍角が2以上の整数である回転角度センサからの検出信号を処理する半導体装置であって、
前記回転角度センサは、
第1の極および第2の極を備えるロータと、
検出コイルが巻かれる突極を複数備えるステータと、
を有し、
前記半導体装置は、前記複数の検出コイルからの検出信号を合成することで前記ロータの回転角度のサイン成分を表す第1の合成検出信号と、コサイン成分を表す第2の合成検出信号とを生成する合成回路を有し、
前記合成回路が前記第1の合成検出信号または前記第2の合成検出信号のいずれか一方を生成する際に合成対象とする前記検出コイルは、前記第1の極を基準に第1の電気角で設置される第1の検出コイルと、前記第2の極を基準に前記第1の電気角とは異なる第2の電気角で設置される第2の検出コイルとを含み、前記第2の極を基準に前記第1の電気角で設置される検出コイルを含ま
ず、
前記合成回路は、
増幅率を個別に可変設定可能な複数の可変増幅器と、
第1の加算器および第2の加算器と、
選択信号に応じて、前記複数の可変増幅器からの各出力信号の一部を前記第1の加算器へ伝送し、前記複数の可変増幅器からの各出力信号の他の一部を前記第2の加算器へ伝送する選択回路と、
を有し、
前記第1の加算器は、前記選択回路からの前記各出力信号の一部を加算することで前記第1の合成検出信号を生成し、
前記第2の加算器は、前記選択回路からの前記各出力信号の他の一部を加算することで前記第2の合成検出信号を生成し、
前記第1の検出コイルの巻線数と前記第2の検出コイルの巻線数は同じであり、
前記複数の可変増幅器の前記増幅率は、前記第1の電気角と前記第2の電気角との差を反映して定められる、
半導体装置。
【請求項5】
請求項
4記載の半導体装置において、
前記軸倍角は2であり、
前記第1の電気角と前記第2の電気角との差は、72°である、
半導体装置。
【請求項6】
請求項
4記載の半導体装置において、
前記軸倍角は2であり、
前記第1の電気角と前記第2の電気角との差は、90°である、
半導体装置。
【請求項7】
請求項
4記載の半導体装置において、
前記複数の
可変増幅器の少なくとも一つは、
複数の抵抗素子と、
前記複数の抵抗素子の抵抗値によって定められる増幅率で増幅動作を行うオペアンプ回路と、
前記複数の抵抗素子の中の一つの抵抗素子の両端に結合され、PWM信号に応じてオン・オフが制御されるスイッチ素子と、
を有する、
半導体装置。
【請求項8】
請求項
4記載の半導体装置において、
さらに、前記合成回路からの前記第1の合成検出信号に含まれる励磁信号の位相を基準に、前記第2の合成検出信号に含まれる励磁信号の位相を90°シフトさせ、当該シフト後の2個の信号を加算する変換回路を有する、
半導体装置。
【請求項9】
請求項
4記載の半導体装置において、
さらに、前記複数の検出コイルからの検出信号をデジタル変換するアナログデジタル変換器を有し、
前記合成回路内の前記複数の
可変増幅器は、前記アナログデジタル変換器からのデジタル値を入力とするデジタル回路で構成される、
半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転角度センサシステムおよび半導体装置に関し、例えば、可変リラクタンス(VR)型のレゾルバおよびレゾルバデジタル変換器の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、軸倍角(ロータの極対数)が3で、ステータの突極数が12の可変リラクタンス(VR)型のレゾルバが示される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】「可変リラクタンス(VR)型レゾルバの開発」、航空電子技報、No.29、2006年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、非特許文献1に示されるように、ステータに検出コイルが巻かれた突極を設置し、ロータの極とステータの突極との距離がロータの回転に伴い変化する(その結果、リラクタンスが変化する)ことを利用して回転角度を検出する可変リラクタンス(VR)型のレゾルバ(回転角度センサ)が知られている。このような回転角度センサでは、回転角度の検出誤差の要因として、主に、突極の位置ズレや、ロータ軸の偏心等が挙げられる。
【0005】
ここで、非特許文献1のように、軸倍角が3、ステータの突極数が12の回転角度センサは、ロータの各極を基準に電気角が等しくなる位置に各突極が設置されるような対称構造となる。例えば、ロータのある極を基準に、ある電気角で突極(および検出コイル)が設置されていれば、ロータの別の極を基準に、同じ電気角で別の突極が設置されることになる。この場合、例えば、この2個の検出コイルからの検出信号を合成することで、検出誤差を平均化することができる。
【0006】
一方、突極の位置ズレに対する感度(検出コイルからの検出信号のズレ量)は、電気角に応じて適宜変化し得る。このため、非特許文献1のような対称構造を用いる場合、ロータのある極を基準に、最大の感度となる電気角に突極(および検出コイル)が設置されていれば、ロータの別の極を基準に、最大の感度となる電気角に別の突極が設置されることになる。その結果、例えば、この2個の突極に位置ズレが生じた場合、最大のズレ量を持つ2個の検出信号を合成するような事態が生じ、回転角度センサ全体としての検出誤差の最大値が大きくなる恐れがある。
【0007】
後述する実施の形態は、このようなことに鑑みてなされたものであり、その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施の形態による回転角度センサシステムは、回転角度センサと、合成回路とを有する。回転角度センサは、軸倍角が2以上の整数であり、第1および第2の極を備えるロータと、検出コイルが巻かれる突極を複数備えるステータとを有する。合成回路は、複数の検出コイルからの検出信号を合成することで、ロータの回転角度のサイン成分およびコサイン成分を表す第1および第2の合成検出信号を生成する。ここで、合成回路が第1または第2の合成検出信号のいずれか一方を生成する際に合成対象とする検出コイルは、第1の極を基準に第1の電気角で設置される第1の検出コイルと、第2の極を基準に第1の電気角とは異なる第2の電気角で設置される第2の検出コイルとを含み、第2の極を基準に第1の電気角で設置される検出コイルを含まない。
【発明の効果】
【0009】
前記一実施の形態によれば、回転角度の検出誤差を低減可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態1による回転角度センサシステムの主要部の構成例を示す概略図である。
【
図2】本発明の実施の形態1による回転角度センサシステムにおいて、
図1の回転角度センサの構成例を示す概略図である。
【
図3】
図1におけるレゾルバデジタル変換器の構成例を示す概略図である。
【
図4】
図3における合成回路の構成例を示す概略図である。
【
図5】
図3のレゾルバデジタル変換器の概略的な動作例を示す波形図である。
【
図6】
図1を変形した回転角度センサシステムの主要部の構成例を示す概略図である。
【
図7】(a)は、
図2の回転角度センサにおけるある時刻での回転状態を示す模式図であり、(b)は、(a)の回転状態での検出動作の一例を説明する図である。
【
図8】(a)は、
図7(a)とは異なる時刻での回転状態を示す模式図であり、(b)は、(a)の回転状態での検出動作の一例を説明する図である。
【
図9】
図2の回転角度センサにおいて、ロータ軸の偏心が生じた場合の影響を説明する図である。
【
図10】(a)は、軸倍角が2の回転角度センサにおいて、突極の設置角度と検出誤差との関係を検証した結果の一例を示す図であり、(b)は、(a)の補足図である。
【
図11】本発明の実施の形態2による回転角度センサシステムにおいて、
図1の回転角度センサ周りの構成例を示す概略図である。
【
図12】(a)は、軸倍角が3の回転角度センサにおいて、突極の設置角度と検出誤差との関係を検証した結果の一例を示す図であり、(b)は、(a)の補足図である。
【
図13】本発明の実施の形態2による回転角度センサシステムにおいて、
図11とは異なる回転角度センサ周りの構成例を示す概略図である。
【
図14】本発明の実施の形態3による回転角度センサシステムの主要部の構成例を示す概略図である。
【
図15】
図14における合成回路の構成例を示す概略図である。
【
図16】
図15における可変増幅器の構成例を示す回路図である。
【
図17】本発明の実施の形態4による回転角度センサシステムにおいて、
図2の回転角度センサ内に含まれる各検出コイルの
図2とは異なる構成例を示す模式図である。
【
図18】(a)は、本発明の比較例となる回転角度センサの構成例、および、ある時刻での回転状態を示す模式図であり、(b)は、(a)の回転状態での検出動作の一例を説明する図である。
【
図19】(a)は、
図18(a)とは異なる時刻での回転状態を示す模式図であり、(b)は、(a)の回転状態での検出動作の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらは互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも良い。
【0012】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0013】
また、実施の形態の各機能ブロックを構成する回路素子は、特に制限されないが、公知のCMOS(相補型MOSトランジスタ)等の集積回路技術によって、単結晶シリコンのような半導体基板上に形成される。
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0015】
(実施の形態1)
《回転角度センサシステムの概略》
図1は、本発明の実施の形態1による回転角度センサシステムの主要部の構成例を示す概略図である。
図1に示す回転角度センサシステムは、モータMTと、ドライバDRVと、回転角度センサ(レゾルバ)RSVと、フィルタFLTと、レゾルバデジタル変換器RDCaと、制御装置となるマイクロコントローラMCUとを有する。ドライバDRVは、例えば、3相(u相、v相、w相)インバータ等を含み、マイクロコントローラMCUからの3相のPWM(Pulse Width Modulation)信号PWMu,PWMv,PWMwに応じて、モータMTの3相の駆動端子に駆動電圧Vu,Vv,Vwを印加する。また、ドライバDRVは、電流センサ(例えば、3相インバータ内の電流経路に挿入されるシャント抵抗等)を含み、当該電流センサによって各相に流れる電流に比例する電流センス電圧VISを出力する。
【0016】
回転角度センサRSVは、例えば、可変リラクタンス(VR)型のレゾルバであり、モータMTの回転軸に取り付けられ、モータMTの回転角度θを検出する。具体的には、回転角度センサRSVは、外部からの励磁信号VIN(例えば周波数5kHzのサイン信号)をモータMTの回転角度θに応じて変調することで複数(ここでは5本)の検出信号Vxを出力する。レゾルバデジタル変換器(半導体装置)RDCaは、例えば、一つの半導体チップで構成され、検出信号Vxを適宜処理することで、モータMTの回転角度θに応じた位相を持つ検出クロック信号CKdを生成する。
【0017】
マイクロコントローラMCUは、例えば、一つの半導体チップで構成され、プロセッサ回路CPUと、タイマ回路TMRm,TMRr1,TMRr2と、アナログデジタル変換器ADCiとを備える。タイマ回路TMRr1は、励磁信号VINと同じ周波数で変化する励磁用クロック信号CKeを出力する。フィルタ(ロウパスフィルタ)FLTは、当該励磁用クロック信号CKeを入力として励磁信号VINを出力する。タイマ回路TMRr2は、位相差検出回路PHDETを備える。位相差検出回路PHDETは、励磁用クロック信号CKeと検出クロック信号CKdとの位相差を所定の内部クロック信号(例えばMHzオーダ以上)を用いてカウントする。
【0018】
アナログデジタル変換器ADCiは、ドライバDRVからの電流センス電圧VISをデジタル変換する。プロセッサ回路CPUは、所定のプログラム処理によって実現される位置算出回路RPCAL、速度算出回路RSCALおよび電流指令回路ICMDを備える。位置算出回路RPCALは、位相差検出回路PHDETからのカウント値に基づき、モータMTの回転角度θを算出する。速度算出回路RSCALは、位置算出回路RPCALからの回転角度θの変化率に基づきモータMTの回転速度を算出する。
【0019】
電流指令回路ICMDは、モータMTの回転速度と目標回転速度との誤差を入力とするPI(比例・積分)制御等によって電流指令値を算出し、当該電流指令値とアナログデジタル変換器ADCiからのデジタル値(モータ電流の検出値に相当)との誤差を入力とするPI制御等によってPWMデューティ比を算出する。タイマ回路TMRmは、PWM信号生成回路であり、電流指令回路ICMDからのPWMデューティ比に基づくPWM信号PWMu,PWMv,PWMwを生成する。
【0020】
《回転角度センサ(比較例)の構成および問題点》
図18(a)は、本発明の比較例となる回転角度センサの構成例、および、ある時刻での回転状態を示す模式図であり、
図18(b)は、
図18(a)の回転状態での検出動作の一例を説明する図である。
図19(a)は、
図18(a)とは異なる時刻での回転状態を示す模式図であり、
図19(b)は、
図19(a)の回転状態での検出動作の一例を説明する図である。
【0021】
図18(a)および
図19(a)に示す回転角度センサは、軸倍角が2であり、2個の極P1,P2を備えるロータRTaと、8個の突極SP1~SP8が設置されるステータST’とを備える。8個の突極SP1~SP8は、機械角45°の間隔で順に設置される。8個の突極SP1~SP8には、それぞれ検出コイルが巻かれている。
【0022】
ロータRTaが回転すると、ロータRTaの各極P1,P2と、各突極SP1~SP8との距離が変化し、これに応じて各検出コイルのリラクタンス、ひいては検出信号の大きさが変化する。各突極SP1~SP8(例えばSP1)からの検出信号(V1)は、ロータRTaの機械角180°の回転に対応して、電気角360°のサイン信号となる。また、隣接する突極からの検出信号は、電気角が90°離れている。これにより、突極SP1の電気角は、突極SP5の電気角に等しくなり、同様に、突極SP2~SP4の電気角は、それぞれ、突極SP6~SP8の電気角に等しくなる。
【0023】
このように、
図18(a)および
図19(a)に示す回転角度センサは、ロータRTaの各極P1,P2を基準に電気角が等しくなる位置に各突極が設置されるような対称構造となる。例えば、ロータの極P1を基準に、ある電気角で突極(および検出コイル)SP1が設置されていれば、ロータの極P2を基準に、同じ電気角で別の突極SP5が設置されることになる。回転角度センサからの検出信号は、この電気角が等しい突極(検出コイル)SP1,SP5からの検出信号V1,V5を合成(加算)することで得られ、この合成検出信号に基づいて、ロータRTaの回転角度θのサイン成分またはコサイン成分の一方が算出される。
【0024】
図18(b)には、突極SP1の検出コイルからの検出信号V1と、突極SP5の検出コイルからの検出信号V5とが示される。検出信号V1と検出信号V5は、位置ズレ等の誤差要因が無ければ等しい波形となる。ここで、
図18(a)に示されるように、ロータRTaの回転角度θに応じてロータRTaの極P1,P2と突極SP1,SP5との距離が最短となる場合、
図18(b)に示されるように、例えば、検出信号V1のピーク値と検出信号V5のピーク値とを加算するような処理が行われる。このピーク値付近の電気角は、突極の位置ズレに対する感度が小さい電気角となる。このため、仮に、突極SP1や突極SP5に位置ズレが生じた場合でも(すなわち、検出信号V1,V5が電気角方向に若干シフトした場合でも)、検出信号V1,V5のズレ量は、さほど大きくならない。
【0025】
一方、
図19(a)に示されるように、ロータRTaが
図18(a)の状態から機械角45°(電気角90°)回転した場合、
図19(b)に示されるように、例えば、検出信号V1の中間値と検出信号V5の中間値とを加算するような処理が行われる。この中間値付近の電気角は、突極の位置ズレに対する感度が大きい電気角となる。このため、仮に、突極SP1や突極SP5に位置ズレが生じた場合(例えば、検出信号V1,V5が同じ電気角方向に若干シフトした場合)、個々の検出信号V1,V5のズレ量は大きくなり、その加算結果となる合成検出信号のズレ量は、更に大きくなり得る。その結果、回転角度センサ全体としての回転角度の検出誤差(具体的には、検出誤差の最大値)が大きくなる恐れがある。検出誤差が大きくなると、
図1のモータMTを高精度に制御できない場合がある。
【0026】
なお、
図18(a)および
図19(a)の構成において、より詳細には、突極SP1,SP5の検出コイルは、突極SP3,SP7の検出コイルを加えて合成される。具体的には、当該4個の検出コイルは、突極SP3,SP7の検出コイルを逆巻き(すなわち検出信号を逆極性)にした上で直列に接続される。当該4個の検出コイルの両端信号に基づき、ロータRTaの回転角度θのサイン成分またはコサイン成分の一方が算出される。同様に、突極SP2,SP6,SP4,SP8の検出コイルは、突極SP4,SP8の検出コイルを逆巻きにした上で直列に接続される。当該4個の検出コイルの両端信号に基づき、サイン成分またはコサイン成分の他方が算出される。
【0027】
この場合、例えば、
図19(a)および
図19(b)のように、突極SP1,SP5が位置ズレに対する感度が大きい電気角に位置する場合、突極SP3,SP7も位置ズレに対する感度が大きい電気角に位置することになる。ただし、当該4個の突極全てに同一方向の誤差成分が生じる可能性は低いため、一般的には、合成する突極の数を増やすほど、平均化に伴い回転角度センサ全体としての検出誤差の最大値を小さくできる可能性が高い。しかし、このように合成する突極の数を増やすと、回転角度センサの製造コスト等が増大する恐れがある。
【0028】
《回転角度センサ(実施の形態1)の構成》
図2は、本発明の実施の形態1による回転角度センサシステムにおいて、
図1の回転角度センサの構成例を示す概略図である。
図2に示す回転角度センサは、軸倍角が2であり、2個の極P1,P2を備えるロータRTaと、5個の突極SP11~SP15が設置されるステータSTaとを備える。5個の突極SP11~SP15は、機械角72°(電気角144°)の間隔で順に設置され、それぞれ、検出コイルL1~L5が巻かれている。検出コイルL1~L5の巻線数は、同じである。検出コイルL1~L5の一端には、励磁信号VINが共通に印加される。検出コイルL1~L5の他端からは、それぞれ検出電圧V11~V15が出力される。
【0029】
各検出信号(例えばV11)は、ロータRTaの機械角180°の回転に対応して、電気角360°のサイン信号となる。隣接する突極からの検出信号(例えば、V11とV12)は、電気角が144°離れている。なお、より詳細には、各検出信号は、励磁信号VINを当該サイン信号で変調した信号となる。また、ここでは、励磁信号VINは検出コイルに印加されるが、各突極に検出コイルおよび励磁コイルが巻かれた構成を用いてもよく、この場合、励磁信号VINは、当該励磁コイルに印加される。
【0030】
図2の回転角度センサは、
図18(a)の構成例と異なり、ロータRTaの各極P1,P2を基準に電気角が異なる位置に各突極が設置されるような非対称構造となる。このため、例えば、ロータの極P1を基準に、ある電気角で突極(および検出コイル)SP11が設置されていれば、ロータの極P2を基準に、同じ電気角となる突極(および検出コイル)は設置されない。言い換えれば、ステータSTaは、ロータの極P2を基準に、突極SP11と同じ電気角で設置される突極を有しない。
【0031】
《レゾルバデジタル変換器の詳細》
図3は、
図1におけるレゾルバデジタル変換器の構成例を示す概略図である。
図4は、
図3における合成回路の構成例を示す概略図である。
図5は、
図3のレゾルバデジタル変換器の概略的な動作例を示す波形図である。
図3に示すレゾルバデジタル変換器(半導体装置)RDCaは、合成回路SYCaと、変換回路CVCとを備える。合成回路SYCaは、
図2に示した複数(ここでは5個)の検出コイルL1~L5からの検出信号V11~V15を選択的に合成することで、ロータRTaの回転角度θのサイン成分およびコサイン成分を表す各合成検出信号VS,VCを生成する。
【0032】
合成回路SYCaは、詳細には、
図4に示されるように、複数(ここでは5個)の増幅器AMP1~AMP5と、加算器ADDsと、加算器ADDcとを備える。複数の増幅器AMP1~AMP5は、それぞれ、複数の検出コイルL1~L5からの検出信号V11~V15を、予め個別に設定された増幅率で増幅する。加算器ADDsは、複数の増幅器AMP1~AMP5からの各出力信号の一部(ここでは、AMP1,AMP3,AMP4の出力信号)を加算することでサイン成分を表す合成検出信号VSを生成する。加算器ADDcは、複数の増幅器AMP1~AMP5からの各出力信号の他の一部(ここでは、AMP2,AMP5の出力信号)を加算することでコサイン成分を表す合成検出信号VCを生成する。
【0033】
ここで、
図2および
図4から分かるように、合成回路SYCaが合成検出信号VSを生成する際に対象とする検出コイルは、ロータRTaの極P1を基準に所定の電気角(θAとする)で設置される検出コイルL1と、極P2を基準にθAとは異なる電気角(θAを基準に72°(機械角36°))で設置される検出コイルL3,L4とを含む。この際に、当該合成回路SYCaが対象とする検出コイルは、
図18(a)の場合と異なり、ロータRTaの極P2を基準にθAで設置される検出コイルを含まない。
図2の構成例では、ステータSTaは、当該検出コイルおよび突極を有しない。
【0034】
同様に、合成回路SYCaが合成検出信号VCを生成する際に対象とする検出コイルは、ロータRTaの極P1を基準に所定の電気角(θBとする)で設置される検出コイルL2と、極P2を基準にθBとは異なる電気角(θBを基準に72°)で設置される検出コイルL5とを含む。この際に、当該合成回路SYCaが対象とする検出コイルは、
図18(a)の場合と異なり、ロータRTaの極P2を基準にθBで設置される検出コイルを含まない。
図2の構成例では、ステータSTaは、当該検出コイルおよび突極を有しない。
【0035】
このような非対称構造を用いる場合、合成回路SYCaは、合成対象となる各検出コイルからの各検出信号(例えば、V11,V13,V14)を単純に加算することはできず、電気角の差(72°)を反映した所定の比率で重み付けを行ったのち加算する必要がある。また、合成回路SYCaは、サイン成分の振幅とコサイン成分の振幅とが一致するように、各検出信号V11~V15に重み付けを行う必要がある。
【0036】
そこで、この例では、増幅器AMP1,AMP3,AMP4の増幅率は、それぞれ、1.7、-0.85、-0.85に定められ、増幅器AMP2,AMP5の増幅率は、共に1.0に定められる。その結果、サイン成分を表す合成検出信号VSは、“VS=0.85(2×V11-(V13+V14))”となり、コサイン成分を表す合成検出信号VCは、“V12-V15”となる。当該合成検出信号VS,VCは、具体的には、例えば、以下のようにして定められる。
【0037】
まず、各検出信号V11~V15は、ロータRTaの回転角度θ、励磁信号VINの角周波数ω、および回転角度センサの構造に依存した定数“m”および“α”を用いて、式(1)~式(5)で定められる。“m”は、ロータRTaが回転したときの検出コイルにおけるインダクタンスの変動率であり、“α”はロータRTaが回転したときの回転角度センサからの検出信号の平均振幅である。
【0038】
V11=α(1+m×sin(2θ))×sin(ωt) …(1)
V12=α(1+m×sin(2(θ+72°)))×sin(ωt) …(2)
V13=α(1+m×sin(2(θ+72°×2)))×sin(ωt) …(3)
V14=α(1+m×sin(2(θ+72°×3)))×sin(ωt) …(4)
V15=α(1+m×sin(2(θ+72°×4)))×sin(ωt) …(5)
ここで、サイン成分を“VS’=2×V11-(V13+V14)”で表すことを前提として、θ成分に着目してVS’を求めると、式(6)のようになる。また、コサイン成分を“VC’=V12-V15”で表すことを前提として、θ成分に着目してVC’を求めると、式(7)のようになる。
【0039】
VS’=2sin(2θ)-(sin(2θ-72°)+sin(2θ+72°))
=2sin(2θ)-(2sin(4θ/2)cos(-144°/2))
=2sin(2θ)(1-cos(72°)) …(6)
VC’=sin(2θ+144°)-sin(2θ-144°)
=2sin(288°/2)cos(4θ/2)
=2cos(2θ)sin(144°) …(7)
このように、VS’からはsin(2θ)の成分が得られ、VC’からはcos(2θ)の成分が得られる。ここで、VC’の振幅を基準にすると(すなわち、合成検出信号VCをVC’に定めると)、VS’の振幅は、“(1-cos(72°))/sin(144°)”倍になる。そこで、VC’の振幅とVS’の振幅を同じにするためには、VS’を“sin(144°)/(1-cos(72°))≒0.85”倍すればよく、これによって、合成検出信号VSが定められる。
【0040】
図3において、変換回路CVCは、位相シフタPSFと、加算器ADD1と、コンパレータCMPとを備える。位相シフタPSFは、合成回路SYCaからの合成検出信号VSに含まれる励磁信号VINの位相を基準に、合成検出信号VCに含まれる励磁信号VINの位相を90°(π/2)シフトさせる。詳細には、位相シフタPSFは、合成検出信号VSに含まれる励磁信号VINの位相を“φ”シフトさせ、合成検出信号VCに含まれる励磁信号VINの位相を“φ+π/2”シフトさせる。加算器ADD1は、当該シフト後の2個の信号を加算する。コンパレータCMPは、加算器ADD1からの信号とゼロとを比較することで検出クロック信号CKdを生成する。
【0041】
具体的に説明すると、まず、励磁信号VINは、
図5に示されるように“sin(ωt)”で表される。各検出信号Vx(V11~V15)は、当該励磁信号VINをロータRTaの各極P1,P2との距離に応じて変調した信号となる。合成回路SYCaからの合成検出信号VSは、検出信号V11,V13,V14を所定の比率で加算することで励磁信号VINを“sin(2θ)”(2θはロータRTの電気角)で変調した信号となり、“sin(2θ)×sin(ωt)”で表される。一方、合成回路SYCaからの合成検出信号VCは、検出信号V12,V15を所定の比率で加算することで励磁信号VINを“cos(2θ)”で変調した信号となり、“cos(2θ)×sin(ωt)”で表される。
【0042】
位相シフタPSFは、合成検出信号VSを受けて“sin(2θ)×sin(ωt-φ)”で表される信号を出力し、合成検出信号VCを受けて“cos(2θ)×sin(ωt-φ+π/2)=cos(2θ)×cos(ωt-φ)”で表される信号を出力する。加算器ADD1は、当該2個の信号を加算することで“cos(ωt-φ-2θ)”で表される信号を出力する。すなわち、加算器ADD1は、“φ”を適切に調整することで、励磁信号VINと同じ周波数で位相が電気角“2θ”だけ異なる信号を出力する。
【0043】
コンパレータCMPは、当該加算器ADD1からの信号を矩形波に整形することで検出クロック信号CKdを生成する。その結果、
図5に示されるように、
図1の位相差検出回路PHDETによって励磁用クロック信号CKeと検出クロック信号CKdとの位相差をカウントすることで、電気角“2θ”を検出することができ、回転角度(機械角)θを得ることが可能になる。
【0044】
《回転角度センサシステム(変形例)の概略》
図6は、
図1を変形した回転角度センサシステムの主要部の構成例を示す概略図である。
図6に示す回転角度センサシステムは、
図1の構成例と異なり、レゾルバデジタル変換器RDCb内に、複数の検出コイルからの検出信号Vxをデジタル変換するアナログデジタル変換器ADCrを備える。また、レゾルバデジタル変換器RDCbは、
図4に示したような機能を持つ合成回路SYCbと、位置検出回路RPDETとを備える。さらに、マイクロコントローラMCUは、
図1の構成例と比較して、位置算出回路RPCALが設けられない構成となっている。
【0045】
合成回路SYCbは、アナログデジタル変換器ADCrからのデジタル値を入力とするデジタル回路で構成される。すなわち、合成回路SYCbは、
図4で述べたような重み付け処理や加算処理をデジタル演算で行う。位置検出回路RPDETは、合成回路SYCbからのデジタル値となる合成検出信号VS,VCを受け、デジタル演算によってロータRTaの回転角度θを算出する。合成検出信号VS,VCから回転角度θを算出する方法は、様々な方法が知られており、場合によっては、専用のデジタル回路を用いたデジタル演算で実現することも可能である。このような構成例を用いることで、
図1の構成例と比較して、マイクロコントローラ(制御装置)MCUの処理負荷を軽減することが可能になる。
【0046】
《実施の形態1の主要な効果》
図7(a)は、
図2の回転角度センサにおけるある時刻での回転状態を示す模式図であり、
図7(b)は、
図7(a)の回転状態での検出動作の一例を説明する図である。
図8(a)は、
図7(a)とは異なる時刻での回転状態を示す模式図であり、
図8(b)は、
図8(a)の回転状態での検出動作の一例を説明する図である。
【0047】
図7(b)には、合成検出信号VSの合成対象となる突極SP11,SP13,SP14の各検出コイル(L1,L3,L4)からの各検出信号V11,V13,V14が示される。より詳細には、各検出信号V11,V13,V14には、
図5に示したように励磁信号VINが含まれるが、説明の簡素化のため、励磁信号VINの記載は省略される。検出信号V11と、検出信号V13,V14のそれぞれとは、電気角が72°異なる。
【0048】
図7(a)では、
図18(a)の場合と同様に、ロータRTaの回転角度θに応じてロータRTaの極P1と突極SP11との距離が最短となっている。この場合、
図7(b)に示されるように、突極SP11の検出コイルは、
図18(b)の場合と同様に、位置ズレ感度が小さくなる電気角で検出信号V11を出力する。一方、突極SP13,SP14の検出コイルは、
図18(b)の場合とは異なり、ぞれぞれ、位置ズレ感度が中程度となる電気角で検出信号V13,V14を出力する。
【0049】
また、
図8(a)では、
図19(a)の場合と同様に、ロータRTaは、
図7(a)の状態から機械角45°(電気角90°)回転している。この場合、
図8(b)に示されるように、突極SP11の検出コイルは、
図19(b)の場合と同様に、位置ズレ感度が大きくなる電気角で検出信号V11を出力する。一方、突極SP13,SP14の検出コイルは、
図19(b)の場合とは異なり、ぞれぞれ、位置ズレ感度が小~中程度となる電気角で検出信号V13,V14を出力する。
【0050】
このように、実施の形態1の方式(すなわち、合成対象となる各突極を非対称に設置する方式)を用いると、
図19(a)および
図19(b)で述べたような、位置ズレ感度が大きい電気角での検出信号と、同じく位置ズレ感度が大きい電気角での検出信号とを合成するような事態が生じなくなる。その結果、回転角度センサ全体としての回転角度の検出誤差(具体的には、検出誤差の最大値)を低減できる。
【0051】
図9は、
図2の回転角度センサにおいて、ロータ軸の偏心が生じた場合の影響を説明する図である。
図9の例では、ロータ軸が突極SP11の方向に偏心している。この場合、例えば、検出信号V12と検出信号V15には、ほぼ同じ量の誤差が生じる。一方、合成検出信号VCを生成する際には、検出信号V12と検出信号V15の差分が演算されるため、当該誤差は打ち消される。このように、複数の検出信号の合成によって合成検出信号VS,VCを生成することで、ロータ軸の偏心に伴う検出誤差もある程度低減できる。
【0052】
以上のようにして回転角度θの検出誤差を低減できることで、
図1のモータMT(ひいては、モータMTを含む各種アクチュエータ等)を高精度に制御することが可能になる。さらに、例えば、
図18(a)に示した8突極の構成のように、突極の数を増やさずとも検出誤差を低減できるため、回転角度センサの製造コスト等を低減できる。
【0053】
(実施の形態2)
《突極の設置角度と検出誤差との関係(軸倍角=2)》
図10(a)は、軸倍角が2の回転角度センサにおいて、突極の設置角度と検出誤差との関係を検証した結果の一例を示す図であり、
図10(b)は、
図10(a)の補足図である。
図10(b)には、
図2に示した回転角度センサが示される。
図10(b)において、“γ”はロータRTaの極P1を基準とする突極SP12の設置角度(ここでは機械角)と極P2を基準とする突極SP15の設置角度との差分であり、“β”は隣接する突極間の機械角であり、“θ”はロータRTの回転角度(機械角)である。
【0054】
ここで、突極SP12,SP15の各検出コイルからの各検出信号(V12,V15)を合成することで合成検出信号VCを生成する場合を考える。この場合、検出信号VCは、式(8)で算出される。式(8)における各係数(“m”および“α”)は、式(1)等の場合と同様である。一方、式(8)において、突極SP12,SP15の設置角度にズレが生じた場合、式(9)に示されるように、突極SP12の“θ”は“θ1”となり、突極SP15の“θ”は“θ2”となる。
【0055】
VC=VB-VE=α(1+m×sin(ωt)cos2(θ+β))-α(1+m×sin(ωt)cos2(γ-θ+β)) …(8)
VC=α×m×sin(ωt)(cos2(θ1+β)-cos2(γ-θ2+β)) …(9)
ここで、式(9)に示される合成検出電圧VCの0≦θ(θ1,θ2)≦360°の範囲での最大誤差は、式(10)に示されるように、“γ”に依存する関数f(γ)となる。式(10)における“A”は、f(0)=1となるように定めた定数である。
【0056】
f(γ)=A(max(∂V2/∂θ1)+max(∂V2/∂θ2)) …(10)
図10(a)は、0≦γ≦180°の範囲で式(10)のf(γ)を演算した結果を示したものである。
図10(a)において、実施の形態1に示した
図2の構成例(γ=36°の構成)を用いると、比較例となる
図18(a)の構成(γ=0°の構成)を用いる場合と比較して、突極(および検出コイル)の位置ズレに対する最大誤差を約20%程度低減できることが分かる。なお、ここでは、コサイン成分を表す合成検出信号VCを例としたが、サイン成分を表す合成検出信号VSに関しても同様の結果となる。
【0057】
《回転角度センサ周り(実施の形態2)の構成》
図11は、本発明の実施の形態2による回転角度センサシステムにおいて、
図1の回転角度センサ周りの構成例を示す概略図である。
図11に示す回転角度センサは、前述した
図2の構成例と比較して、ステータSTbの構成が異なっている。ステータSTbには、4個の突極SP21~SP24が設置される。突極SP23は、突極SP21を基準に機械角135°離れた位置に設置される。突極SP22は、突極SP21を基準に機械角45°離れた位置に設置される。突極SP24は、突極SP22を基準に機械角135°離れた位置に設置される。
【0058】
合成回路SYCcは、突極SP21と突極SP23にそれぞれ巻かれる各検出コイルからの検出信号V21,V23を所定の比率で合成することで、サイン成分の合成検出信号VSを生成する。また、合成回路SYCcは、突極SP22と突極SP24にそれぞれ巻かれる各検出コイルからの検出信号V22,V24を所定の比率で合成することで、コサイン成分の合成検出信号VCを生成する。
【0059】
このように、合成回路SYCcが合成検出信号VSを生成する際に対象とする検出コイルは、ロータRTaの極P1を基準に所定の電気角(θAとする)で設置される突極SP21の検出コイルと、極P2を基準にθAとは異なる電気角(θAを基準に90°(機械角45°))で設置される突極SP23の検出コイルとを含む。この際に、当該合成回路SYCcが対象とする検出コイルは、実施の形態1の場合と同様に、ロータRTaの極P2を基準にθAで設置される検出コイルを含まない。
図11の構成例では、ステータSTbは、当該検出コイルおよび突極を有しない。
【0060】
同様に、合成回路SYCcが合成検出信号VCを生成する際に対象とする検出コイルは、ロータRTaの極P1を基準に所定の電気角(θBとする)で設置される突極SP22の検出コイルと、極P2を基準にθBとは異なる電気角(θBを基準に90°(機械角45°))で設置される突極SP24の検出コイルとを含む。この際に、当該合成回路SYCcが対象とする検出コイルは、実施の形態1の場合と同様に、ロータRTaの極P2を基準にθBで設置される検出コイルを含まない。
図11の構成例では、ステータSTbは、当該突極SP23および検出コイルを有するが、当該検出コイルは、合成検出信号VCの合成対象から除外される。
【0061】
図11の構成例は、
図10(a)に示したγ=45°の構成に該当する。このため、実施の形態1(
図2)の構成例と比較して、突極の位置ズレに伴う回転角度の検出誤差を更に低減できる。また、
図2の構成例と比較して突極の数が更に少なくなるため、製造コストの更なる低減が図れる場合がある。ただし、
図11の構成例では、ロータ軸の偏心に伴う検出誤差を十分に低減できない可能性があるため、この観点では、各突極が均等に設置される
図2の構成例が望ましい。なお、
図2および
図11では、γが36°の場合と45°の場合を示したが、
図10(a)から分かるように、例えば、γが10°~36°(電気角が20°~72°)の範囲や、36°~45°(電気角が72°~90°)の範囲であっても、γ=0°の場合と比較して効果が得られる。
【0062】
《突極の設置角度と検出誤差との関係(軸倍角=3)》
図12(a)は、軸倍角が3の回転角度センサにおいて、突極の設置角度と検出誤差との関係を検証した結果の一例を示す図であり、
図12(b)は、
図12(a)の補足図である。
図12(b)では、ロータRTbの3個の極P1,P2,P3に対応して、それぞれ、3個の突極SP31,SP33,SP35が配置される。“γ”はロータRTbの極P1を基準とする突極SP31の設置角度(ここでは機械角)と極P2を基準とする突極SP33の設置角度との差分であり、かつ、極P2を基準とする突極SP33の設置角度と極P3を基準とする突極SP35の設置角度との差分である。この場合、突極SP31を0°とすると、突極SP33は(120+γ)°に設置され、突極SP35は(240+2γ)°に設置される。
【0063】
ここで、突極SP31,SP33,SP35の各検出コイルからの各検出信号を合成することで合成検出信号を生成する場合を考える。すなわち、
図12(b)の構成を前提として、
図10(a)および
図10(b)の場合と同様にしてf(γ)を計算する。
図12(a)は、0≦γ≦120°の範囲におけるf(γ)の計算結果を示したものである。
図12(a)に基づくと、γ=20°の場合に回転角度の検出誤差を最小化できる。
【0064】
《回転角度センサ周り(応用例)の構成》
図13は、本発明の実施の形態2による回転角度センサシステムにおいて、
図11とは異なる回転角度センサ周りの構成例を示す概略図である。
図13に示す回転角度センサでは、
図12(a)に基づき、γ=20°となるように各突極が設置される。
図13において、ステータSTcは、6個の突極SP31~SP36を備える。突極SP33は、突極SP31を基準に機械角140°離れた位置に設置される。突極SP35は、突極SP33を基準に機械角140°離れた位置に設置される。突極SP32は、突極SP31を基準に機械角30°離れた位置に設置される。突極SP34は、突極SP32を基準に機械角140°離れた位置に設置される。突極SP36は、突極SP34を基準に機械角140°離れた位置に設置される。
【0065】
合成回路SYCdは、突極SP31,SP33,SP35にそれぞれ巻かれる各検出コイルからの検出信号V31,V33,V35を所定の比率で合成することで、サイン成分の合成検出信号VSを生成する。また、合成回路SYCdは、突極SP32,SP34,SP36にそれぞれ巻かれる各検出コイルからの検出信号V32,V34,V36を所定の比率で合成することで、コサイン成分の合成検出信号VCを生成する。
【0066】
このように、合成検出信号VSの合成対象となる突極は、極P1を基準に所定の電気角(θA1とする)で設置される突極SP31と、極P2を基準にθA1とは異なる電気角(θA2とする)で設置される突極SP33と、極P3を基準にθA1およびθA2とは異なる電気角(θA3とする)で設置される突極SP35とを含む。突極SP33は、θA1を基準に40°(機械角20°)で設置され、突極SP35は、θA1を基準に80°(機械角40°)で設置される。この際に、合成検出信号VSの合成対象となる突極は、実施の形態1の場合と同様に、極P2を基準にθA1やθA3で設置される検出コイルや、極P3を基準にθA1やθA2で設置される検出コイルを含まない。合成検出信号VCの合成対象となる突極に関しても同様である。
【0067】
《実施の形態2の主要な効果》
以上、実施の形態2の回転角度センサシステムを用いることで、実施の形態1の場合と同様の効果が得られる。さらに、実施の形態1と比較して、回転誤差の更なる低減や、製造コストの更なる低減を図れる場合がある。
【0068】
(実施の形態3)
《回転角度センサシステム(応用例)の概略》
図14は、本発明の実施の形態3による回転角度センサシステムの主要部の構成例を示す概略図である。
図14に示す回転角度センサシステムは、
図1の構成例と比較して、次の点が異なっている。1点目として、レゾルバデジタル変換器(半導体装置)RDCcは、
図4とは異なる合成回路SYCeを備える。2点目として、マイクロコントローラMCUは、PWM信号PWMR[1]~PWMR[n]を生成するタイマ回路(PWM信号生成回路)TMRr3を備える。
【0069】
《合成回路(応用例)の構成》
図15は、
図14における合成回路の構成例を示す概略図である。前述した
図2、
図11および
図13のような非対称構造の回転角度センサを用いる場合、合成回路は、回転角度センサからの各検出信号に対して適切な比率で重み付けを行う必要がある。この適切な比率は、回転角度センサの構造に応じて適宜変わり得る。この場合、様々な構造の回転角度センサに対応可能な汎用的な合成回路が求められる。
【0070】
そこで、
図15に示す合成回路SYCeは、n個の可変増幅器VAMP[1]~VAMP[n]と、選択回路SELUと、加算器ADDs2,ADDc2とを備える。n個の可変増幅器VAMP[1]~VAMP[n]は、増幅率を個別に可変設定可能であり、それぞれ、n個の検出信号Vx[1]~Vx[n]を増幅する。選択回路SELUは、選択信号に応じて、n個の可変増幅器VAMP[1]~VAMP[n]からの各出力信号の一部を加算器ADDs2へ伝送し、他の一部を加算器ADDc2へ伝送する。
【0071】
加算器ADDs2は、選択回路SELUからの前述した各出力信号の一部を加算することでサイン成分を表す合成検出信号VSを生成する。加算器ADDc2は、選択回路SELUからの前述した各出力信号の他の一部を加算することでコサイン成分を表す合成検出信号VCを生成する。なお、例えば、回転角度センサの構造に応じて検出信号Vx[n]を用いないような場合、可変増幅器VAMP[n]の増幅率は、ゼロであってもよく、また、選択回路SELUは、可変増幅器VAMP[n]の出力信号を加算器ADDs2,ADDc2に伝送しなくてもよい。
【0072】
図16は、
図15における可変増幅器の構成例を示す回路図である。
図16に示す可変増幅器VAMP[k](k=1~n)は、抵抗素子R1,R2と、抵抗素子R1,R2の抵抗値によって定められる増幅率で増幅動作を行うオペアンプ回路OPAと、スイッチ素子SW[k]とを有する。スイッチ素子SW[k]は、例えば、MOSトランジスタ等で構成される。スイッチ素子SW[k]は、抵抗素子R1,R2の中の一つの抵抗素子(この例ではR1)の両端に結合され、マイクロコントローラMCUからのPWM信号PWMR[k]に応じてオン・オフが制御される。
【0073】
これにより、抵抗素子R1の実効抵抗値は、抵抗素子R1の抵抗値にPWM信号PWMR[k]のPWMデューティ比を乗算した結果となる。このため、マイクロコントローラMCUは、PWM信号PWMR[k]を介して可変増幅器VAMP[k]の増幅率を任意に設定することが可能になる。
【0074】
《実施の形態3の主要な効果》
以上、実施の形態3の回転角度センサシステムを用いることで、実施の形態1,2の場合と同様の効果が得られる。さらに、実施の形態1,2の回転角度センサを用いる前提で、レゾルバデジタル変換器に汎用性を持たせることが可能になる。さらに、
図16のような可変増幅器を用いることで、レゾルバデジタル変換器における回路面積の低減や、増幅率の設定精度の向上(ひいては、回転角度の検出誤差の低減)を図れる場合がある。
【0075】
すなわち、実施の形態1,2の方式を用いる場合、回転角度の検出誤差の低減効果を得るためには、増幅率の設定精度が高いことが前提となる。増幅率を可変設定する方式として、一般的に、複数の抵抗素子を選択的に用いるような方式が知られている。このような方式を用いて増幅率を高精度かつ高分解能に設定するためには、多く抵抗素子が必要とされる。一方、
図16のような方式を用いると、1個のスイッチ素子によって増幅率を設定できるため、多く抵抗素子を用いる場合と比較して回路面積を低減できる。
【0076】
さらに、増幅率の設定分解能は、PWMデューティ比の分解能によって定められる。マイクロコントローラMCUは、一般的に、PWMデューティ比を高分解能で設定できる場合が多いため、これを利用して、増幅率の設定分解能を高めることができる。また、可変増幅器を用いると、例えば、各検出コイル(例えば、
図2のL1~L5)の巻数にばらつきが生じた場合に、これに伴う誤差を併せて補正することが可能になる。なお、
図16の可変増幅器は、
図4の各増幅器AMP1~AMP5に対して適用してもよい。この場合、各増幅器AMP1~AMP5における増幅率の誤差をトリミングすることができる。
【0077】
(実施の形態4)
《検出コイルの構成》
図17は、本発明の実施の形態4による回転角度センサシステムにおいて、
図2の回転角度センサ内に含まれる各検出コイルの
図2とは異なる構成例を示す模式図である。
図4の合成回路SYCaでは、複数の増幅器AMP1~AMP5を用いて、各検出信号V11~V15に対する重み付けを行ったが、その代わりに、各検出コイルL1~L5(
図2)の巻数によって重み付けを行うことも可能である。
【0078】
図17の例では、
図3に示した合成検出信号VS(=0.85(2×V11-(V13+V14)))を得るため、検出コイルL1,L3,L4が、検出コイルL3,L4を逆巻き(すなわち検出信号V13,V14を逆極性)にした上で直列に接続される。この際の検出コイルL1,L3,L4の巻数比は、“L1:L3:L4=1.7:0.85:0.85”である。同様に、合成検出信号VC(=V12-V15)を得るため、検出コイルL2,L5が、検出コイルL5を逆巻き(すなわち検出信号V15を逆極性)にした上で直列に接続される。この際の検出コイルL2,L5の巻数比は、“L2:L5=1.0:1.0”である。
【0079】
《実施の形態4の主要な効果》
以上、実施の形態4の回転角度センサシステムを用いることで、実施の形態1,2の場合と同様の効果が得られる。さらに、
図4のような合成回路SYCaが不要となるため、レゾルバデジタル変換器の回路面積を低減できる。ただし、実際上は、このように巻数比を微調整することが容易でない場合や、または、巻数比にある程度の誤差が生じる場合がある。このような観点では、
図4(または
図15)のような合成回路を設けることが有益となる。
【0080】
なお、ここでは、各検出コイルを直列接続する構成としたが、巻数比を変えた状態で各検出コイルに個別に検出信号を出力させ、合成回路が、当該検出信号を増幅することなく加算するように構成することも可能である。この際に、合成回路は、当該巻数比の誤差を補正するための可変増幅器を備えてもよい。
【0081】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、前述した実施の形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0082】
ADC アナログデジタル変換器
ADD 加算器
AMP 増幅器
CVC 変換回路
DRV ドライバ
L 検出コイル
MCU マイクロコントローラ
MT モータ
OPA オペアンプ回路
P 極
PSF 位相シフタ
PWMR PWM信号
R 抵抗素子
RDC レゾルバデジタル変換器
RSV 回転角度センサ
RT ロータ
SELU 選択回路
SP 突極
ST ステータ
SW スイッチ素子
SYC 合成回路
TMR タイマ回路
V,Vx 検出信号
VAMP 可変増幅器
VIN 励磁信号
VS,VC 合成検出信号
θ 回転角度