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特許7067995ケーキ用ミックス及びその製造方法並びにケーキ類の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】ケーキ用ミックス及びその製造方法並びにケーキ類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 6/00 20060101AFI20220509BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20220509BHJP
   A21D 2/36 20060101ALI20220509BHJP
   A23G 3/34 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
A21D6/00
A21D13/00
A21D2/36
A23G3/34 102
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018059542
(22)【出願日】2018-03-27
(65)【公開番号】P2019170172
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】312015185
【氏名又は名称】日清製粉プレミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片桐 さやか
(72)【発明者】
【氏名】田上 祐二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 浩一
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-346503(JP,A)
【文献】特開平11-332454(JP,A)
【文献】特開2002-291448(JP,A)
【文献】特開平07-050973(JP,A)
【文献】特開2018-027051(JP,A)
【文献】特開2012-254052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
A23G 3/00
A23L 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉類を含有し、該穀粉類に、グルテンバイタリティ30~47%の熱処理国内産麦小麦粉と非熱処理国内産麦小麦粉とが含まれており、
前記穀粉類における前記熱処理国内産麦小麦粉の含有率が20~80質量%である、ケーキ用ミックス。
【請求項2】
請求項1に記載のケーキ用ミックスの製造方法であって、
国内産麦小麦粉をその品温が90~115℃となる条件で熱処理して熱処理国内産麦小麦粉を得る熱処理工程と、
前記熱処理工程で得られた熱処理国内産麦小麦粉と非熱処理国内産麦小麦粉とを混合する工程とを有する、ケーキ用ミックスの製造方法。
【請求項3】
前記熱処理が湿熱処理である請求項2に記載のケーキ用ミックスの製造方法。
【請求項4】
ケーキ用ミックスに液体を加えて生地を調製し、該生地を成形し加熱する工程を有する、ケーキ類の製造方法であって、
前記ケーキ用ミックスとして、請求項1に記載のケーキ用ミックス、又は請求項2若しくは3に記載の製造方法で製造されたケーキ用ミックスを用いる、ケーキ類の製造方法。
【請求項5】
前記ケーキ類が、マフィン、スポンジケーキ又はクッキーである請求項4に記載のケーキ類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、国内産麦小麦粉を用いたケーキ用ミックス及び該ミックスを用いたケーキ類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国内産麦小麦粉、特に、生産量の多い中力系の国内産麦小麦粉は、主に外国産麦を使用した薄力粉と比較して、蛋白含量が多く、性質も異なるため、ヒキが強い、あるいはボリュームが出にくいとされ、従来、スポンジケーキ、クッキー、マフィン等のケーキ類には不適とされていた。
【0003】
一方で、近年の消費者の自然志向、健康志向の高まりを背景に、国内産麦小麦粉が持つ安心感や健康的なイメージから、消費者の間には国内産麦小麦粉を用いたケーキ類に対する需要が高まっている。
【0004】
特許文献1には、製パンに不適とされている原料から作られた小麦粉に対し、加熱及び加熱に準ずる処理を施して製パンに適したものとする方法が記載され、該小麦粉として、国内産小麦(DW)から作られた薄力又は中力小麦粉が記載されている。特許文献1の実施例2では、DWのチホク小麦から作られた小麦粉を60~69℃の温度で18分間保熱処理して得た熱処理粉と、該保熱処理が施されていない該小麦粉(無処理小麦粉)とを、熱処理粉が内数で40%(重量%)を占めるように混合して熱処理混合粉を得、該熱処理混合粉を用いて製パンを行っており、そうして得られたパンの外観及び内相が、無処理小麦粉のみを用いた場合に比して良好であったとされている。
【0005】
特許文献2には、外観及び食感が良好なケーキ類を提供可能な熱処理小麦粉として、グルテンバイタリティ及び平均粒径が特定範囲にある中力粉及び/又は薄力粉からなる熱処理小麦粉が記載されている。特許文献2の実施例では、中力系の国内産麦小麦粉(日清製粉(株)製、商品名「白龍」)を、該小麦粉の品温が80~100℃となる条件で熱処理して熱処理小麦粉を得、該熱処理小麦粉を用いてスポンジケーキを製造している(特許文献2の〔0024〕)。特許文献2には、熱処理された国内産麦小麦粉(熱処理国内産麦小麦粉)と熱処理されていない国内産麦小麦粉(非熱処理国内産麦小麦粉)とを併用してケーキ類を製造することは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-50973号公報
【文献】特開平11-332454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、外国産麦小麦粉よりも安心感の高い国内産麦小麦粉を用いたケーキ類に対する需要が高まっているが、国内産麦小麦粉を用いた従来のケーキ類は、国内産麦小麦粉の特性に起因して、ボリュームに乏しい、ヒキがあるといった問題があり、品質の点で改善の余地があった。国内産麦小麦粉を用いながらも、外国産麦小麦粉を用いた場合と同等以上の品質のケーキ類を安定的に提供し得る技術は未だ提供されていない。
【0008】
本発明の課題は、国内産麦小麦粉を用いながらも、外国産麦小麦粉を用いた場合と同等以上の品質のケーキ類を製造可能なケーキ用ミックス及びその製造方法並びにケーキ類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するべく種々検討した結果、ケーキ用ミックスに含有される穀粉類として、熱処理されていない国内産麦小麦粉(非熱処理国内産麦小麦粉)に加え、熱処理された国内産麦小麦粉(熱処理国内産麦小麦粉)で且つグルテンバイタリティが特定範囲にあるものを併用することで、主に外国産麦を使用した薄力粉に匹敵する非常に品質の良いケーキ類を製造できることを知見した。
【0010】
本発明は、前記知見に基づきなされたもので、穀粉類を含有し、該穀粉類に、グルテンバイタリティ30~52%の熱処理国内産麦小麦粉と非熱処理国内産麦小麦粉とが含まれているケーキ用ミックスである。
【0011】
また本発明は、穀粉類を含有し、該穀粉類に、熱処理国内産麦小麦粉及び非熱処理国内産麦小麦粉が含まれている、ケーキ用ミックスの製造方法であって、国内産麦小麦粉をその品温が80℃以上となる条件で熱処理して熱処理国内産麦小麦粉を得る熱処理工程と、前記熱処理工程で得られた熱処理国内産麦小麦粉と非熱処理国内産麦小麦粉とを混合する工程とを有する、ケーキ用ミックスの製造方法である。
【0012】
また本発明は、ケーキ用ミックスに液体を加えて生地を調製し、該生地を成形し加熱する工程を有する、ケーキ類の製造方法であって、前記ケーキ用ミックスとして、前記の本発明のケーキ用ミックス、又は前記の本発明の製造方法で製造されたケーキ用ミックスを用いる、ケーキ類の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、国内産麦小麦粉を用いながらも、外国産麦小麦粉を用いた場合と同等以上の高品質のケーキ類が得られる。
【0014】
本発明の主たる特徴の1つは、国内産麦小麦粉を使用する点にあるところ、近年、食の安全性に対する国民の意識の高まりにより、種々の小麦粉含有食品において、外国産麦小麦粉よりも国内産麦小麦粉を選択する気運が非常に高まっており、本発明はこうした国内産麦小麦粉に対するニーズにマッチした待望の技術であるといえる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のケーキ用ミックスは穀粉類を含有する。本発明で用いる穀粉類には、穀粉及び澱粉が包含される。前記穀粉としては、例えば、薄力粉、中力粉、強力粉、小麦全粒粉、デュラムセモリナ等の小麦粉;ライ麦粉、米粉、コーンフラワー、コーングリッツ等の小麦粉以外が挙げられる。前記穀粉には、熱処理されていない非熱処理穀粉の他、熱処理された熱処理穀粉が包含される。前記澱粉としては、例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、米澱粉等の未加工澱粉;該未加工澱粉に油脂加工、α化、エーテル化、エステル化、架橋、酸化等の処理の1つ以上を施した加工澱粉が挙げられる。
【0016】
穀粉類は、典型的には、本発明のケーキ用ミックスの主体をなすものである。本発明のケーキ用ミックスにおける穀粉類の含有量は、該ミックスの全質量に対して、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、100質量%即ち該ミックスの全部が穀粉類でもよい。
【0017】
本発明のケーキ用ミックスは、該ミックスに含有される穀粉類に、熱処理国内産麦小麦粉及び非熱処理国内産麦小麦粉が含まれている点で特徴付けられる。本発明で用いる熱処理国内産麦小麦粉は、熱処理された国内産麦小麦粉、本発明で用いる非熱処理国内産麦小麦粉は、熱処理されていない国内産麦小麦粉であり、いずれも原料となる小麦が国内産(日本産)麦である。小麦の品質は、栽培される土壌や気候などの影響を受けて大きく変化し、同じ品種の小麦でも産地が異なれば品質が異なる。国内産麦と外国産麦とにおいても品質に大きな違いがある。
【0018】
本発明で用いる国内産麦小麦粉の原料となる小麦としては、現存する国内産小麦品種、及びそれらから派生した小麦品種(現存する国内産小麦品種の品種改良で生まれた小麦品種)の双方を用いることができる。本発明では、現存する国内産小麦品種及びその派生品種からなる群から選択される小麦品種を原料とする国内産麦小麦粉の1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
前記の現存する国内産小麦品種としては、現在までに日本で品種登録された小麦品種として下記のものを例示できる。
あおばの恋、あきたっこ、アブクマワセ、あやひかり、イワイノダイチ、キタカミコムギ、きたさちほ、キタノカオリ、きたほなみ、きたもえ、キタ力ミコムギ、きぬあかり、きぬあずま、きぬいろは、きぬの波、キヌヒメ、コユキコムギ、さとのそら、さぬきの夢2000、さぬきの夢2009、しゅんよう、シラサギコムギ、シラネコムギ、シロガネコムギ、せときらら、タイセツコムギ、タクネコムギ、ダブル8号、タマイズミ、チクゴイズミ、ちくしW2号、チホクコムギ、つるきち、つるぴかり、ナンブコムギ、ニシノカオリ、ニシホナミ、ネノリゴシ、ネバリゴシ、ハナマンテ、ハルイブ、はるきらり、はるひので、ハルユタカ、ハレイブキ、ハレユタカ、バンドウワセ、フウセツ、ふくあかり、ふくさやか、ふくはるか、ふくほのか、ホクシン、ホロシリコムギ、もち姫、ゆきちから、ゆきはるか、ゆめあかり、ユメアサヒ、ゆめかおり、ゆめきらり、ユメシホウ、ユメセイキ、ゆめちから、銀河のちから、香育21号、春のかがやき、春よ恋、長崎W2号、東海103号、東海104号、東山42号、農林61号、福井県大3号、利根3号、ダブレ8号、ミナミノカオリ。
【0020】
国内産小麦品種は、品種の特性や製粉性等の観点から、薄力系又は中力系と強力系とに大別される。本発明で用いる国内産麦小麦粉の原料となる小麦は、中力系が好ましい。中力系の国内産小麦品種は通常、蛋白含量が7.5~10.5質量%である。前記の国内産小麦品種のうち、中力系として本発明で好ましく用いられるものとして、きたほなみ、シロガネコムギ、チクゴイズミを例示できる。
【0021】
本発明で用いる熱処理国内産麦小麦粉の少なくとも一部、好ましくは全部が、グルテンバイタリティが30~52%、好ましくは35~47%、より好ましくは38~42%の範囲にある特定熱処理国内産麦小麦粉である。斯かる特定熱処理国内産麦小麦粉を含有しないケーキ用ミックスでは、外国産麦小麦粉を用いた場合と同等以上の品質のケーキ類を製造することは困難である。
【0022】
本明細書でいうグルテンバイタリティは下記方法により測定される。下記のグルテンバイタリティの測定方法は、(1)小麦粉の可溶性粗蛋白質含量の測定、(2)小麦粉の全粗蛋白質含量の測定、(3)グルテンバイタリティの算出の順で行われる。
【0023】
<グルテンバイタリティの測定方法>
(1)小麦粉の可溶性粗蛋白質含量の測定:
(1-a)100mL容のビーカーに試料(小麦粉)を2g精秤して入れる。
(1-b)前記ビーカーに0.05規定酢酸40mLを加えて、室温で60分間攪拌して懸濁液を調製する。
(1-c)前記(1-b)で得た懸濁液を遠沈管に移して、5000rpmで5分間遠心分離を行った後、濾紙を用いて濾過し、濾液を回収する。
(1-d)前記ビーカーを0.05規定酢酸40mLで洗い、その洗液を遠沈管に移して、5000rpmで5分間遠心分離を行った後、濾紙を用いて濾過し、濾液を回収する。
(1-e)前記(1-c)及び(1-d)で回収した濾液を一緒にして0.05規定酢酸で100mLにメスアップする。
(1-f)ティケーター社(スウェーデン)のケルテックオートシステムのケルダールチューブに前記(1-e)で得られた液体の25mLをホールピペットで入れて、分解促進剤(日本ゼネラル株式会社製「ケルタブC」;硫酸カリウム:硫酸銅=9:1(重量比)1錠及び濃硫酸15mLを加える。
(1-g)前記ケルテックオートシステムに組み込まれているケルテック分解炉(DIGESTION SYSTEM 20 1015型) を用いて、ダイヤル4で1時間分解処理を行い、さらにダイヤル9又は10で1時間分解処理を自動的に行った後、この分解処理に続いて連続的に且つ自動的に、同じケルテックオートシステムに組み込まれているケルテック蒸留滴定システム(KJELTEC AUTO 1030型) を用いて、その分解処理を行った液体を蒸留及び滴定して(滴定には0.1規定硫酸を使用)、下記数式(1)により、試料(小麦粉)の可溶性粗蛋白質含量を求める。
【0024】
〔数1〕
可溶性粗蛋白質含量(%)
=0.14×(T-B)×F×N×(100/S)×(1/25) …(1)
前記数式(1)中、
T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(mL)
B=ブランクの滴定に要した0.1規定硫酸の量(mL)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価(用時に測定するか又は力価の表示のある市販品を用いる)
N=窒素蛋白質換算係数(5.70)
S=試料の秤取量(g)
【0025】
(2)小麦粉の全粗蛋白質含量の測定:
(2-a)前記(1)で用いたのと同じティケーター社のケルテックオートシステムのケルダールチューブに、試料(小麦粉)を0.5g精秤して入れ、これに前記(1-f)で用いたのと同じ分解促進剤1錠及び濃硫酸5mLを加える。
(2-b)前記(1)で用いたのと同じケルテックオートシステムのケルテック分解炉を用いて、ダイヤル9又は10で1時間分解処理を自動的に行った後、この分解処理に続いて連続的にかつ自動的に、同じケルテックオートシステムに組み込まれている前記(1)で用いたのと同じケルテック蒸留滴定システムを用いて、前記で分解処理を行った液体を蒸留及び滴定して(滴定には0.1規定硫酸を使用)、下記数式(2)により、試料(小麦粉)の全粗蛋白質含量を求める。
【0026】
〔数2〕
全粗蛋白質含量(%)=(0.14×T×F×N)/S …(2)
前記数式(2)中、
T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(mL)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価(用時に測定)
N=窒素蛋白質換算係数(5.70)
S=試料の秤取量(g)
【0027】
(3)グルテンバイタリティの算出:
前記(1)で求めた試料(小麦粉)の可溶性粗蛋白質含量及び前記(2)で求めた試料(小麦粉)の全粗蛋白質含量から、下記数式(3)により、試料(小麦粉)のグルテンバイタリティを求める。
【0028】
〔数3〕
グルテンバイタリティ(%)
=(可溶性粗蛋白質含量/全粗蛋白質含量)×100 …(3)
【0029】
本発明で用いる前記特定熱処理国内産麦小麦粉(グルテンバイタリティが30~52%の熱処理国内産麦小麦粉)は、国内産麦小麦粉(非熱処理国内産麦小麦粉)を熱処理することで得られる。この熱処理には、乾熱処理と湿熱処理があるところ、本発明で用いる前記特定熱処理国内産麦小麦粉はいずれの熱処理が施されたものでもよい。
【0030】
乾熱処理は、処理対象(国内産麦小麦粉)を水分無添加の条件で加熱する処理であり、処理対象中の水分を積極的に蒸発させる処理である。乾熱処理は、例えば、オーブンでの加熱、焙焼窯での加熱、乾燥器を用いる加熱、熱風を吹き付ける熱風乾燥、高温低湿度環境での放置などによって実施することができる。
【0031】
湿熱処理は、処理対象(国内産麦小麦粉)の水分を維持しながら、又は処理対象に水分を加えながら、処理対象を加熱する処理である。湿熱処理において、処理対象に加える水分としては、水、水蒸気を用いることができ、水蒸気としては飽和水蒸気が好ましく用いられる。湿熱処理における加熱方法は特に制限されず、例えば、熱風などの熱媒体を処理対象に直接接触させる方法、処理対象を高湿度雰囲気下において間接的に加熱する方法が挙げられる。湿熱処理の実施装置は特に制限されず、例えば、オートクレーブ、スチームオーブン、一軸又は二軸型エクストルーダーが挙げられる。
【0032】
前記特定熱処理国内産麦小麦粉を得るための、原料粉としての国内産麦小麦粉の熱処理は、国内産麦小麦粉(原料粉)のグルテンバイタリティを100とした場合、その熱処理後の原料粉(即ち前記特定熱処理国内産麦小麦粉)のグルテンバイタリティが50~80となる条件で実施されることが好ましい。
【0033】
グルテンバイタリティが30~52%の前記特定熱処理国内産麦小麦粉の製造方法(国内産麦小麦粉の熱処理方法)の好ましい一例として、国内産麦小麦粉(原料小麦粉)をその品温が80℃以上、好ましくは90~115℃となる条件で熱処理(乾熱処理又は湿熱処理)する方法が挙げられる。この国内産麦小麦粉の熱処理としては湿熱処理が好ましく、特に下記の、密閉容器内に飽和水蒸気を導入する湿熱処理が好ましい。
【0034】
前記の品温80℃以上の熱処理を湿熱処理によって行う場合、例えば、温度120~125℃の飽和水蒸気を導入した加圧状態の密閉容器に処理対象(国内産麦小麦粉)を導入する方法によって行うことができる。斯かる方法において、密閉容器中での処理対象の滞留時間は、好ましくは2~60秒間、より好ましくは4~20秒間であり、また、密閉容器から排出された直後の処理対象の品温は、80℃以上であり、好ましくは85~115℃、より好ましくは100~110℃である。
【0035】
前記の密閉容器内に飽和水蒸気を導入する湿熱処理は、例えば、特開平3-83567号公報に記載されているような密閉系撹拌機を用いて実施し得る。この密閉系撹拌機は、処理対象(国内産麦小麦粉)の投入口及び排出口並びにこれらを結ぶ処理対象の移送路を有する密閉式の円筒形圧力容器と、該移送路内に飽和水蒸気を導入する機構とを具備し、該移送路内に、処理対象の移送方向に延びる撹拌軸と該撹拌軸の周囲に螺旋状に植設された撹拌羽根とを含んで構成される攪拌機が設けられ、該攪拌機によって該移送路内の処理対象を撹拌可能になされている。この撹拌機は、あくまで前記移送路内の処理対象を撹拌するための部材であって、処理対象を前記排出口へ押し出すための押出具ではなく、前記密閉系撹拌機は、そのような押出具(エクストルーダーが備えるスクリューに相当する部材)は具備していない。前記密閉系撹拌機を用いた国内産麦小麦粉の湿熱処理は、該小麦粉を攪拌しながら移送する攪拌移送過程で該小麦粉に飽和水蒸気を直接当てる工程を含むものであり、斯かる湿熱処理においては、小麦粉流量3000kg/hの時に、水蒸気流量を210~260kg/hとすることが好ましい。
【0036】
本発明のケーキ用ミックスが含有する穀粉類におけるグルテンバイタリティ30~52%の熱処理国内産麦小麦粉の含有率、即ち該穀粉類の全質量に対する前記特定熱処理国内産麦小麦粉の質量の割合は、好ましくは20~80質量%、より好ましくは40~70質量%である。穀粉類における前記特定熱処理国内産麦小麦粉の含有率が低すぎると、前記特定熱処理国内産麦小麦粉と併用される非熱処理国内産麦小麦粉が相対的に多くなるため、外国産麦小麦粉を用いた場合と同等以上の高品質のケーキ類を得ることが困難となり、逆に該含有率が高すぎると、特にケーキ類のボリュームが乏しいものとなり、また、製造コストの点でも不利になるおそれがある。
【0037】
また、本発明のケーキ用ミックスが含有する穀粉類における非熱処理国内産麦小麦粉の含有率、即ち該穀粉類の全質量に対する非熱処理国内産麦小麦粉の質量の割合は、好ましくは5~80質量%、より好ましくは20~60質量%である。
【0038】
本発明のケーキ用ミックスが含有する穀粉類には、前述した熱処理又は非熱処理国内産麦小麦粉に加え、さらに外国産麦小麦粉が含まれていてもよい。外国産麦小麦粉としては、ケーキ類への適性を考慮すると、薄力粉が好ましい。本発明のケーキ用ミックスが含有する穀粉類における外国産麦小麦粉(熱処理、非熱処理を問わず)の含有率、即ち該穀粉類の全質量に対する外国産麦小麦粉の質量の割合は、国内産麦小麦粉の積極使用とケーキ類の品質とのバランス等の観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0039】
本発明のケーキ用ミックスは、穀粉類以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、砂糖、ぶどう糖、オリゴ糖、麦芽糖、トレハロース、果糖等の糖類;グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、有機酸モノグリセリド、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウム等の乳化剤;グルテン、グリアジン、グルテニン(以上、小麦蛋白質)、全卵、卵白、卵黄(以上、卵蛋白質)、脱脂粉乳、ホエー蛋白(以上、乳蛋白質)、大豆蛋白質、ゼラチン等の蛋白素材;動物油脂、植物油脂等の油脂類;卵粉等の乾燥卵、増粘多糖類等、膨張剤、乳原料、香料、食塩、酵素、色素等が挙げられ、製造するケーキ類の種類等に応じて、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて適宜の量で用いることができる。
【0040】
本発明のケーキ用ミックスは、前記特定熱処理国内産麦小麦粉及び非熱処理国内産麦小麦粉を含む各種成分を混合することによって得られる。本発明のケーキ用ミックスの常温常圧下での形態は、粉末状、顆粒状などの粉体である。
【0041】
本発明のケーキ用ミックスの製造方法の一例として、1)国内産麦小麦粉(非熱処理国内産麦小麦粉)をその品温が80℃以上、好ましくは90~115℃となる条件で熱処理(乾熱処理又は湿熱処理)して、グルテンバイタリティ30~52%の特定熱処理国内産麦小麦粉を得る熱処理工程と、2)該熱処理工程で得られた特定熱処理国内産麦小麦粉と、別途用意した非熱処理国内産麦小麦粉とを混合する工程とを有する製造方法が挙げられる。斯かる製造方法において、前記熱処理としては湿熱処理が好ましい。この湿熱処理の詳細については前述した通りである。
【0042】
本発明のケーキ用ミックスは、ケーキ類の製造に用いることができる。「ケーキ類」は通常、「薄力粉を主体とする穀粉類」を用いて製造されるベーカリー食品のことを指す。本発明のケーキ用ミックスにおける穀粉類は必ずしも薄力粉を主体とするものではないが、該ミックスを用いることで、従来品と同等以上の高品質のケーキ類を製造することができる。前記の「薄力粉を主体とする穀粉類」において、薄力粉の含有量は、該穀粉類の全質量に対して、好ましくは30質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。また、ベーカリー食品は、穀粉類(穀粉及び澱粉)を主原料とし、これに必要に応じてイーストや膨張剤(ベーキングパウダー等)、水、食塩、砂糖などの副原料を加えて得られた発酵又は非発酵生地を、焼成、蒸し、フライ等の加熱処理に供して得られる食品である。
【0043】
本発明が適用可能なケーキ類として、例えば、スポンジケーキ、バターケーキ、ロールケーキ、ホットケーキ、ブッセ、バームクーヘン、パウンドケーキ、チーズケーキ、スナックケーキ、マフィン、バー、クッキー、パンケーキ、スフレ、スコーン、ワッフル、カステラ、どら焼きが挙げられる。本発明が特に好適なケーキ類として、マフィン、スポンジケーキ、クッキーを例示できる。
【0044】
本発明のケーキ用ミックスを用いたケーキ類の製造は、常法に従って行うことができる。本発明のケーキ用ミックスを用いたケーキ類の製造方法の一例として、該ミックスに液体を加えて生地を調製し、該生地を成形し加熱する工程を有する製造方法が挙げられる。前記製造方法において、生地を調製する際にケーキ用ミックスに添加する液体としては、例えば水、牛乳、卵等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、前記製造方法において、生地の加熱方法は、典型的には、焼成である。また、前記製造方法においては、必要に応じ、調製した生地を加熱(焼成)する前に、常法に従って発酵させてもよい。
【実施例
【0045】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、実施例10は参考例である。
【0046】
〔実施例1~6及び比較例1~3〕
下記表1の配合で原材料を混合して、ケーキ用ミックスを製造した。使用した原材料の詳細は下記の通り。
・非熱処理国内産麦小麦粉:中力系(日清製粉(株)製、商品名「薫風」)
・熱処理国内産麦小麦粉:下記方法により製造したもの
・薄力粉:薄力系の外国産麦小麦粉(日清製粉(株)製、商品名「フラワー」)
【0047】
(熱処理国内産麦小麦粉の製造方法)
原料小麦粉として、各実施例で非熱処理国内産麦小麦粉として用いたものと同じものを用いた。原料小麦粉に対し、前記の密閉系撹拌機を用いた飽和水蒸気による湿熱処理を施して、グルテンバイタリティ(GV)が41%である熱処理国内産麦小麦粉を製造した。湿熱処理の条件は下記の通り。
・飽和水蒸気の温度:120~125℃
・密閉系撹拌機中での処理対象の滞留時間:10秒間
・密閉系撹拌機から排出された直後の処理対象の品温:90~115℃
・密閉系撹拌機における小麦粉流量:3000kg/h
・密閉系撹拌機における水蒸気流量:210~260kg/h
【0048】
〔実施例7~10及び比較例4~5〕
熱処理国内産麦小麦粉を変更した以外は実施例2と同様にして、ケーキ用ミックスを製造した。実施例7~10及び比較例4~5で使用した熱処理国内産麦小麦粉は、前記(熱処理国内産麦小麦粉の製造方法)に従い、湿熱処理の条件を適宜変更して製造したもので、下記表2に示すように、GVが相互に異なる。
【0049】
〔試験例〕
各実施例及び比較例のケーキ用ミックスを用いて、ケーキ類の一種であるスポンジケーキを下記方法により製造した。製造中間体であるスポンジケーキ生地の配合は下記の通り。
スポンジケーキ生地の配合:ケーキ用ミックス100質量部、砂糖135質量部、全卵180質量部、牛乳18質量部、バター18質量部
製造直後のスポンジケーキを室温で90分放置した後、所定の製品ボックスに入れて蓋をして12時間以上保管した。訓練された専門のパネラー10名に、保管されていたスポンジケーキのボリューム、食感、内相をそれぞれ下記評価基準で評価してもらった。その結果を10名の評価点の平均値として下記表1及び表2に示す。
【0050】
(スポンジケーキの製造方法)
(1)軽くほぐした全卵及び砂糖をミキサーボールに入れて、該ミキサーボールの内容物の品温を23~25℃に保ちながらホイッパーで混合し、該内容物をその比重が0.26±0.01になるまで泡立てた。
(2)予め篩で一度篩っておいたケーキ用ミックスを前記(1)のミキサーボールの内容物に加え、かたまりが生じないように均一に混ぜ合わせて、該内容物の比重を0.38±0.01とした。
(3)牛乳及びバターを一緒に湯煎で溶かしたものを前記(2)のミキサーボールの内容物に加え、さらに混ぜ合わせて、均一で滑らかな状態の比重0.43±0.01のスポンジケーキ生地を調製した。
(4)前記(3)のスポンジケーキ生地を5号型に350g分注し、180℃のオーブンで30分間焼成し、スポンジケーキを得た。
【0051】
<ボリュームの評価基準>
5点:非常にボリュームがあり、極めて良好。
4点:ボリュームがあり、良好。
3点:ややボリュームに乏しいが、問題ないレベル。
2点:ボリュームに乏しく、不良。
1点:非常にボリュームに乏しく、極めて不良。
<食感の評価基準>
5点:しっとりふんわりしていて、非常に口どけが良く、極めて良好。
4点:しっとりふんわりしていて、口どけが良く、良好。
3点:ややパサつきがあり又はややくちゃついているが、問題ないレベル。
2点:パサつきがある又はくちゃついていて、口どけがやや悪く、不良。
1点:パサつきがある又はくちゃついていて、口どけが悪く、極めて不良。
<内相の評価基準>
5点:目が非常に均一で細かく、極めて良好。
4点:目が均一で細かく、良好。
3点:やや目が不均一で粗いが、問題ないレベル。
2点:目が不均一で粗く、不良。
1点:目が非常に不均一で粗く、極めて不良。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】