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特許7068002熱可塑性エラストマー組成物並びにウエザストリップ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物並びにウエザストリップ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/02 20060101AFI20220509BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20220509BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20220509BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20220509BHJP
   B60J 10/17 20160101ALI20220509BHJP
   B60J 10/76 20160101ALI20220509BHJP
【FI】
C08L23/02
C08K9/04
C08J3/22 CES
C08J3/24 Z
B60J10/17
B60J10/76
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018064747
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019172887
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111095
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 光男
(72)【発明者】
【氏名】山口 恵弘
(72)【発明者】
【氏名】岸 亮太
(72)【発明者】
【氏名】栗本 英一
(72)【発明者】
【氏名】守谷 せいら
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/052029(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103436029(CN,A)
【文献】特開2016-098336(JP,A)
【文献】特開2003-313575(JP,A)
【文献】特開2003-313576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C08J 3/00- 3/28
B60J 10/17
B60J 10/76
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動的架橋熱可塑性エラストマーからなる基材に対し、組成物全体に対する割合が15質量%以上36質量%以下の有機修飾ナノダイヤモンドが含まれてなり、
前記有機修飾ナノダイヤモンドにおいて、ナノダイヤモンドの表面に結合される有機修飾基は、CH (CH NH (nは1以上の整数)であってnは13以上であることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
表面を窓ガラスが摺動する摺動部を備え、少なくとも当該摺動部が請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなることを特徴とするウエザストリップ。
【請求項3】
表面を窓ガラスが摺動する摺動部を備え、少なくとも当該摺動部が請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなるウエザストリップの製造方法であって、
オレフィン系熱可塑性樹脂及び有機修飾ナノダイヤモンドを含んでなるマスターバッチを作製する工程と、
当該マスターバッチ及びオレフィン系ゴムを押出機へ供給するとともに、溶融混錬して動的架橋を行い、前記熱可塑性エラストマー組成物を得る工程とを含むことを特徴とするウエザストリップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物、並びに、熱可塑性エラストマー組成物を用いたウエザストリップ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウエザストリップは、一般にオレフィン系ポリマー(ゴム、熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマー)により形成されている。ウエザストリップのうち、特に窓枠部に取り付けられて窓ガラスが摺動するガラスラン等では、窓ガラスの摺動時における異音の発生等を防止すべく、窓ガラスとの摺動性を高めることが必要とされる。
【0003】
従来では、摺動性を向上させるべく、窓ガラスとの接触面に薄保護膜を被着し、当該薄保護膜の表面に凹凸等の粗面部を形成することで、窓ガラスとの摺動抵抗を低減させる手法が知られている(例えば、特許文献1等参照)。
【0004】
また、オレフィン系ポリマーに所定の滑材を配合した材料により得られる摺動材を用いて、ウエザストリップにおけるガラスの摺動部表面を形成する手法も知られている。滑材としては、グラファイトからなる固体滑材(例えば、特許文献2等参照)や、雲母やモリブデン等の固定滑材(例えば、特許文献3等参照)が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公平7-73893号公報
【文献】特開2016-98336号公報
【文献】特許第2864054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、窓ガラスとの摺動部に凹凸等の粗面部を設ける前者の手法では、初期の摺動性が劣り、また、窓ガラスの繰り返しの摺動に伴う摺動部の摩耗が進んでしまいやすい。
【0007】
一方、グラファイト等の滑材を用いた後者の手法では、初期の摺動性は良好と言えるが、窓ガラスの摺動に伴う摺動部の摩耗が生じてしまいやすい。摺動部が摩耗してしまうと、摺動部表面の滑材が剥がれ落ちてしまい、経時的に摺動性が低下してしまうおそれがある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、摺動性や耐摩耗性の向上を図ることのできる熱可塑性エラストマー組成物、並びに、ウエザストリップ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記目的を解決するのに適した各手段につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する手段に特有の作用効果を付記する。
【0010】
手段1.動的架橋熱可塑性エラストマーからなる基材に対し、組成物全体に対する割合が15質量%以上36質量%以下の有機修飾ナノダイヤモンドが含まれてなり、
前記有機修飾ナノダイヤモンドにおいて、ナノダイヤモンドの表面に結合される有機修飾基は、CH (CH NH (nは1以上の整数)であってnは13以上であることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物。
【0011】
上記手段1によれば、熱可塑性エラストマー組成物には、有機修飾ナノダイヤモンド(以下、ナノダイヤモンドを単に「ND」と表すことがある)が15質量%以上含有されている。NDを含有させることで、少なくとも組成物表面の硬度を高めることができ、良好な摺動性を得ることができる。
【0012】
また、上記手段1によれば、単なるNDではなく、有機修飾されたNDが用いられている。有機修飾NDを用いることで、動的架橋熱可塑性エラストマー(以下、単に「TPV」と称することがある)からなる基材に対する有機修飾NDの相溶性を高めることができる。これにより、基材中におけるNDの凝集を効果的に抑えて、基材中におけるNDの分散性を著しく高めることができ、基材(TPV)に対するNDのなじみを良好とすることができる。従って、基材中にNDをより留まりやすくする(摩擦力が加わったときに容易にNDが剥落しないようにする)ことができる。それ故、有機修飾NDが15質量%以上含有されて高硬度である点と相俟って、優れた耐摩耗性を実現することができる。その結果、良好な摺動性を長期間に亘って維持することができる。
【0013】
尚、NDの分散性が高められることによってNDの凝集に起因する表面状態の悪化を防止することができるため、良好な外観品質をより確実にかつ容易に得ることも可能である。
【0014】
一方、上記手段1によれば、有機修飾NDの含有量は36質量%以下とされている。そのため、組成物が過度に固くなることを防止して十分な柔軟性を確保することができ、また、押出成形等の加工に係る容易性や利便性の向上を図ることができる。
【0016】
また、上記手段によれば、基材に対する有機修飾NDの相溶性をより確実に向上させることができる。これにより、NDの分散性をより高めることができ、耐摩耗性をさらに効果的に向上させることができる。
【0017】
尚、nが大きいほど、基材に対する有機修飾NDの相溶性を高めることができる。従って、n≧15とすることが好ましく、n≧17とすることがより一層好ましい。
【0018】
手段.表面を窓ガラスが摺動する摺動部を備え、少なくとも当該摺動部が手段1に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなることを特徴とするウエザストリップ。
【0019】
上記手段によれば、ウエザストリップにおける窓ガラスの摺動部において、摺動性を良好なものとしつつ、耐摩耗性を効果的に向上させることができる。そのため、長期間に亘って良好な摺動性を維持することができる。
【0020】
手段.表面を窓ガラスが摺動する摺動部を備え、少なくとも当該摺動部が手段1に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなるウエザストリップの製造方法であって、
オレフィン系熱可塑性樹脂及び有機修飾ナノダイヤモンドを含んでなるマスターバッチを作製する工程と、
当該マスターバッチ及びオレフィン系ゴムを押出機へ供給するとともに、溶融混錬して動的架橋を行い、前記熱可塑性エラストマー組成物を得る工程とを含むことを特徴とするウエザストリップの製造方法。
【0021】
上記手段によれば、熱可塑性エラストマー組成物は、有機修飾ND及びオレフィン系熱可塑性樹脂を含んでなるマスターバッチ(例えばペレット状やチップ状をなす)とオレフィン系ゴムとを押出機へと供給して、溶融混錬するとともに動的架橋を行うことで製造される(尚、製造される組成物の組成比によっては、マスターバッチ以外のオレフィン系熱可塑性樹脂等も押出機へと供給され得る)。マスターバッチを予め作製することで、オレフィン系熱可塑性樹脂に有機修飾NDを予め十分に分散させることができるとともに、溶融混錬時において、オレフィン系ゴムの影響によるNDの分散阻害をより確実に抑制することができる。そのため、基材中におけるNDの分散性をより一層高めることができ、基材(TPV)に対するNDのなじみをより良好なものとすることができる。これにより、基材中にNDをより一層留まりやすくする(摩擦力が加わったときのNDの剥落をより生じにくくする)ことができ、より優れた耐摩耗性を得ることができる。その結果、さらに長期間に亘って良好な摺動性を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】ドアの概略構成を示す正面模式図である。
図2】本体部の内側にドアガラスが進入した状態における図1のJ-J線断面図である。
図3】マスターバッチ及びオレフィン系ゴム等を溶融混錬して動的架橋するときの概略図である。
図4】(a)は、耐摩耗性試験における試験片等を示す概略図であり、(b)は、摩耗量が測定される試験片の概略断面図である。
図5】(a)は、有機修飾NDを含んでなる熱可塑性エラストマー組成物の断面写真であり、(b)は、未修飾NDを含んでなる熱可塑性エラストマー組成物の断面写真である。
図6】有機修飾NDの含有量を種々異なるものとしたサンプルに対する耐摩耗性試験の試験結果を示すグラフである。
図7】有機修飾NDの含有量を種々異なるものとしたサンプルに対する硬度測定試験の試験結果を示すグラフである。
図8】有機修飾NDを含んでなるサンプルとそれ以外のサンプルとに対する耐摩耗性試験の試験結果を示すグラフである。
図9】有機修飾NDの含有量を種々異なるものとしたサンプルに対する摩擦係数測定試験の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1に示すように、自動車のドア用開口部に開閉可能に設けられるフロントドア100には、窓ガラスとしての昇降可能なドアガラスDGと、当該ドアガラスDGの外周形状に対応して設けられ、ドアガラスDGの昇降を案内するとともに、ドアガラスDGが上昇して窓部Wが閉じられたときに、ドアガラスDGの周縁部とドアフレーム101との間をシールするウエザストリップとしてのガラスラン1とが設けられている。
【0024】
ガラスラン1は、上辺部に対応する押出成形部2と、前後の縦辺部に対応する押出成形部3,4と、押出成形部2,3の端部同士及び押出成形部2、4の端部同士を接続する型成形部5,6(図1で散点模様を付した部分)とから構成されている。ガラスラン1は、窓部Wの外周に沿って形成されたチャンネル部DCに取付けられている。
【0025】
また、ガラスラン1は、TPO(オレフィン系熱可塑性エラストマー)により構成されている。さらに、図2に示すように、ガラスラン1のうちドアガラスDGの後縁部に対応する押出成形部4は、チャンネル部DCに嵌め込まれる断面コ字状の本体部11と、当該本体部11から突出形成された車外側シールリップ12及び車内側シールリップ13とを備えている。ドアガラスDGにより窓部Wが閉じられた状態においては、車外側シールリップ12がドアガラスDGの外側面に対して圧接され、車内側シールリップ13がドアガラスDGの内側面に対して圧接される。これにより、ドアガラスDGの車外側及び車内側がそれぞれシールされる。
【0026】
さらに、本実施形態では、車外側シールリップ12のうちドアガラスDGが摺動する部位、車内側シールリップ13のうちドアガラスDGが摺動する部位、及び、本体部11の内側部には、ドアガラスDGの摺動性を向上させるための摺動部21が形成されている。摺動部21は、押出成形に際して本体部11や車外側シールリップ12等と同時に形成される層状部位であり、所定の熱可塑性エラストマー組成物により構成されている。この熱可塑性エラストマー組成物については後に説明する。
【0027】
尚、上記では、ドアガラスDGの後縁部に対応する押出成形部4について説明しているが、押出成形部2,3及び型成形部5,6についても押出成形部4と同様に、本体部11及びシールリップ12,13と、ドアガラスDGの摺動部位に対応して形成された摺動部21とを備えた形状をなしている。
【0028】
次いで、上述した摺動部21を構成する熱可塑性エラストマー組成物について説明する。当該熱可塑性エラストマー組成物は、動的架橋熱可塑性エラストマー(以下、単に「TPV」と称することがある)からなる基材に対し、15質量%以上36質量%以下の有機修飾ナノダイヤモンド(以下、ナノダイヤモンドを単に「ND」と称することがある)が含まれてなるものである。TPVは、マトリックス(海相)である熱可塑性樹脂中に、ドメイン(島相)として架橋ゴムが分散した海島構造をなすものである。本実施形態におけるTPVは、オレフィン系熱可塑性樹脂の1つであるのポリプロピレン(PP)と、オレフィン系ゴムの1つであるエチレン・プロピレン・ジエン共重合体ゴム(EPDM)とを備えたものである。
【0029】
尚、オレフィン系熱可塑性樹脂としては、PPの他に、ポリエチレン(PE)等を用いることができる。また、オレフィン系ゴムとしては、EPDMの他に、EPM(エチレン-プロピレンゴム)、EBM(エチレン-ブチレン共重合体)、EOM(エチレン-オクテン共重合体)等のエチレン-αオレフィン共重合体を用いることができ、また、これらの中から複数種を選択して用いることもできる。
【0030】
さらに、TPVにおけるオレフィン系熱可塑性樹脂の含有割合については特に限定されるものではないが、10質量%以上90質量%以下であることが好ましい。また、オレフィン系ゴムの含有割合についても特に限定されるものではないが、10質量%以上80質量%以下とすることが好ましい。尚、オレフィン系熱可塑性樹脂及びオレフィン系ゴムの合計含有量を100質量%未満とする場合、残余分はプロセスオイル等とされる。
【0031】
有機修飾NDは、表面に有機修飾基が結合してなるNDである。NDの表面に結合される有機修飾基としては、n(nは1以上の整数)が13以上とされた、CH(CHNHが好適に用いられる。すなわち、CH(CH13NH(テトラデシルアミン)、CH(CH15NH(ヘキサデシルアミン)、及び、CH(CH17NH(オクタデシルアミン)などが好適に用いられる。また、基材に対するNDの相溶性という面では特に炭素数が多いものが好ましい。従って、CH(CH15NHがより好ましく、CH(CH17NHがより一層好ましい。尚、有機修飾基として、nが13未満の有機修飾基、例えばCH(CH11NH(ドデシルアミン)を用いることもできる。また、官能基として、アミノ基に代えて、カルボキシル基(-COOH)やヒドロキシ基(-OH)を具備するものを用いてもよい。
【0032】
次に、ガラスラン1の製造方法のうち、特に上述した熱可塑性エラストマー組成物の製造方法を中心に説明する。まず、オレフィン系熱可塑性樹脂(本実施形態ではPP)及び有機修飾NDを含んでなるチップ状(ペレット状)のマスターバッチMB(図3参照)を予め製造しておく。マスターバッチMBは、例えば、溶融状態のオレフィン系熱可塑性樹脂に有機修飾NDを練り込んで十分に分散させるとともに、有機修飾NDの分散したオレフィン系熱可塑性樹脂を所定のペレタイザー等によりペレット化(チップ化)することで得ることができる。
【0033】
次いで、図3に示すように、押出機としての所定の二軸混錬押出機51に対し、前記マスターバッチMB及び架橋前のオレフィン系ゴム(本実施形態ではEPDM)を、相溶化剤、カーボン、架橋剤、老化防止剤(酸化防止剤)及び可塑剤とともに投入する。尚、製造対象の熱可塑性エラストマー組成物の組成比に応じて、マスターバッチMBを構成するオレフィン系熱可塑性樹脂の他に、オレフィン系熱可塑性樹脂を別途投入してもよい。また、マスターバッチMBやオレフィン系ゴム等の投入後、これらをある程度混錬した段階で架橋剤を投入してもよい。
【0034】
そして、押出機51を通る過程で二軸の回転によるせん断により、オレフィン系熱可塑性樹脂(PP)と架橋前のオレフィン系ゴム(EPDM)とを溶融混錬しながらオレフィン系ゴム(EPDM)を動的架橋することで、TPVからなる基材に対し有機修飾NDが分散状態で含まれてなる熱可塑性エラストマー組成物が得られる。
【0035】
尚、混錬及び動的架橋を平行して(同時期に)行ってもよいし、混錬を行った後に動的架橋を行ってもよい。但し、架橋ゴムの粒子をより小さなものとするという点では、ある程度の混錬を行った後に動的架橋を行うことが好ましい。
【0036】
また、ガラスラン1を製造するにあたっては、押出成形や型成形など公知の熱可塑性樹脂の成形に用いられる成形方法(例えば、二色同時押出成形や、スライド型を用いた二色成形法等)を用いることで、TPOからなる本体部11やシールリップ12,13の表面に、上述した熱可塑性エラストマー組成物からなる摺動部21が形成されてなるガラスラン1を得ることができる。
【0037】
以上詳述したように、本実施形態によれば、熱可塑性エラストマー組成物には、有機修飾NDが15質量%以上含有されている。そのため、有機修飾NDは海相であるPP中に多く分散していると推定されるから、少なくとも組成物表面の硬度を高めることができ、摺動部21において良好な摺動性を得ることができる。
【0038】
また、単なるNDではなく、有機修飾されたNDを用いることで、基材に対する有機修飾NDの相溶性を高めることができる。これにより、基材中におけるNDの凝集を効果的に抑えて、基材中におけるNDの分散性を著しく高めることができ、基材(TPV)に対するNDのなじみを良好とすることができる。従って、基材中にNDをより留まりやすくする(摩擦力が加わったときに容易にNDが剥落しないようにする)ことができる。それ故、有機修飾NDが15質量%以上含有されて高硬度である点と相俟って、優れた耐摩耗性を実現することができる。その結果、良好な摺動性を長期間に亘って維持することができる。
【0039】
加えて、NDの分散性が高められることによってNDの凝集に起因する表面状態の悪化を防止することができる。これにより、良好な外観品質をより確実にかつ容易に得ることも可能である。
【0040】
一方、有機修飾NDの含有量が36質量%以下とされているため、組成物が過度に固くなることを防止して十分な柔軟性を確保することができる。その結果、押出成形等の加工に係る容易性や利便性の向上を図ることができる。
【0041】
さらに、有機修飾NDにおいて、有機修飾基としてCH(CHNHが用いられ、しかもnは13以上とされている。そのため、基材に対する有機修飾NDの相溶性をより確実に向上させることができる。その結果、NDの分散性をより高めることができ、耐摩耗性をさらに効果的に向上させることができる。
【0042】
加えて、熱可塑性エラストマー組成物は、有機修飾ND及びオレフィン系熱可塑性樹脂(PP)を含んでなるマスターバッチMBとオレフィン系ゴム(EPDM)とを二軸混錬押出機51へと供給して、溶融混錬するとともに動的架橋を行うことで製造される。マスターバッチMBを予め作製しておくことで、オレフィン系熱可塑性樹脂(PP)に有機修飾NDを予め十分に分散させることができるとともに、溶融混錬時において、オレフィン系ゴム(EPDM)の影響によるNDの分散阻害をより確実に抑制することができる。そのため、基材中におけるNDの分散性をより一層高めることができ、基材(TPV)に対するNDのなじみをより良好なものとすることができる。これにより、基材中にNDをより一層留まりやすくする(摩擦力が加わったときのNDの剥落をより生じにくくする)ことができ、より優れた耐摩耗性を得ることができる。その結果、さらに長期間に亘って良好な摺動性を維持することが可能となる。
【0043】
次いで、上記実施形態によって奏される作用効果を確認すべく、TPVからなる基材に有機修飾NDが含まれてなる熱可塑性エラストマー組成物のサンプルX(実施例)と、基材(TPV)に未修飾のNDが含まれてなる熱可塑性エラストマー組成物のサンプルY(比較例)とを(ND成分が互いに同質量となるように)作製するとともに、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてサンプルX,Yの断面を観察し、NDの分散状態を確認した。図5(a)にサンプルXの断面SEM画像を示し、図5(b)にサンプルYの断面SEM画像を示す。尚、サンプルXについては、CH(CH17NH(オクタデシルアミン)が結合されてなる有機修飾NDを用いた。
【0044】
図5(b)に示すように、未修飾のNDを用いたサンプルYには、数μmオーダーのNDの凝集が確認され、分散性の面で劣ることが判明した。これに対し、図5(a)に示すように、有機修飾NDを含有したサンプルXは、目立ったNDの凝集は確認されず、良好な分散性を有することが明らかとなった。これは、有機修飾NDを用いることで、基材(TPV)に対するNDの相溶性が向上したことによると考えられる。
【0045】
上記の結果から、基材(TPV)に対するNDの分散性を良好なものとし、耐摩耗性を高めるという観点から、有機修飾されたNDを用いることが好ましいといえる。
【0046】
次に、有機修飾NDを配合していないTPVからなるサンプル1(TPV単体)と、基材としてのTPVに対し有機修飾NDを0.8質量%配合してなるサンプル2と、基材(TPV)に有機修飾NDを5質量%配合してなるサンプル3と、基材(TPV)に有機修飾NDを15質量%配合してなるサンプル4と、基材(TPV)に有機修飾NDを36質量%配合してなるサンプル5とを用意し、各サンプルに対し耐摩耗性試験及び硬度測定試験を行った。
【0047】
耐摩耗性試験の概要は次の通りである。すなわち、図4(a)、(b)に示すように、サンプル1~5によって幅20mm、長さ160mm、厚さ2mmの試験片TPを作製するとともに、試験片TPを保持具HD上に取付け、試験機にセットした。その上で、底面が幅50mm×摺動方向長さ20mm(R10mm付)のガラス製摩耗子GSを、30Nの荷重を加えた状態で試験片TPに載せつつ(押付けつつ)、試験片TPの表面をその長さ方向にストローク100mm、摺動速度60回/分で往復させ、10000回往復させた後の試験片TPの磨耗量A(mm)を測定した。そして、摩耗量Aが50μm以下である場合に、耐摩耗性が優れると判定する一方、摩耗量Aが50μm超である場合に、耐摩耗性がやや劣ると判定した。図6に、サンプル1~5に対する耐摩耗性試験の結果を示す。尚、図6では、サンプル名に続いて摩耗量Aの値を付記する。
【0048】
また、硬度測定試験においては、JIS K6253に準拠し、所定の硬度試験機を用いてサンプル1~5のショアD硬度をそれぞれ求めた。図7に、サンプル1~5に対する硬度測定試験の結果を示す。尚、図7では、サンプル名に続いてショアD硬度の値を付記する。
【0049】
さらに、参考として、表1において、サンプル1~5の材料配合比を示す。サンプル1~5は、EPDM、PP(サンプル5では不配合)、有機修飾ND及びPPからなるマスターバッチ、相溶化剤、カーボン、架橋剤、老化防止剤(酸化防止剤)並びに可塑剤を配合して作製した。
【0050】
【表1】
【0051】
尚、これら材料についてより詳しく説明すると、EPDMとして、三井化学株式会社製の商品名「三井EPT 3072EM」(エチレン=64%、ジエン=5.4%、油展量=40phr)を用い、PPとして、日本ポリプロ株式会社製の商品名「ノバテックPP EC7」を用い、相溶化剤として、三井化学株式会社製の商品名「タフマー XM-7080」を用いた。また、カーボンとして、三福工業株式会社製の商品名「MFP-CMB45L」を用い、架橋剤として、田岡化学工業株式会社製の商品名「TACKIROL 250-I」を用い、老化防止剤として、BASF Company Ltd.社製の商品名「IRGANOX 1010」を用い、可塑剤として、出光興産株式会社製の商品名「ダイアナプロセスオイル PW-100」を用いた。
【0052】
また、マスターバッチとして、CH(CH17NH(オクタデシルアミン)をNDの表面に結合してなる有機修飾NDとPPとをそれぞれ50質量%ずつ含むものを作製し、これを用いた。従って、表1におけるマスターバッチの配合量の半分が、サンプル1~5における有機修飾NDの含有量に相当する。例えば、サンプル4は、マスターバッチの配合量が30.0質量%であるため、有機修飾NDの含有量は15質量%である。
【0053】
図6に示すように、有機修飾NDを15質量%以上含有したサンプル4,5は、摩耗量Aが44.7mm又は34.7mmとなり、優れた耐摩耗性を有することが明らかとなった。これは、有機修飾NDを用いたことで基材(TPV)に対するNDの分散性を高めることができた点、及び、図7の硬度測定試験の結果から分かるように、有機修飾NDの含有量を15質量%以上としたことで表面硬度を十分に高めることができた点によると考えられる。
【0054】
尚、基材としてのTPVに対し滑材としてのCaCO、クレー又はグラファイトを36質量%配合して作製したサンプルA,B,Cに対し、それぞれ上記耐摩耗性試験を行ったところ、図8図8では、上記サンプル5の試験結果を合わせて示す)に示すように、有機修飾NDを含有したサンプルは、サンプルA~Cと比べて耐摩耗性が顕著に優れることが明らかとなり、この点からも有機修飾NDを含有させることの有用性が確認された。
【0055】
次いで、上記サンプル1~5に対し摩擦係数測定試験を行った。摩擦係数測定試験の概要は次の通りである。すなわち、JIS K7125に準拠し、各サンプルによってそれぞれ同一質量及び同一の摺動面積(底面積)を有する試験片を作製するとともに、当該試験片を所定のテーブルに載置した状態で100mm/分で移動させたときの荷重から動摩擦係数μを算出した。そして、動摩擦係数μが0.40以下となった場合に、摺動性が良好であると判定し、一方、動摩擦係数μが0.40超となった場合に、摺動性がやや劣るであると判定した。図9に、摩擦係数測定試験の結果を示す。尚、図9では、各サンプル名に続いて動摩擦係数μの値を付記する。
【0056】
図9に示すように、有機修飾NDの含有量を15質量%以上としたサンプル4,5は、動摩擦係数μが0.40以下となり、優れた摺動性を有することが分かった。これは、有機修飾NDの含有量を15質量%以上としたことで表面硬度を十分に高めることができたことによると考えられる。また、NDの含有により、試験片表面に僅かな(外観品質に影響を与えない程度の)凹凸が形成され、その結果、試験片及びテーブルの接触面積が低下したことも要因であると考えられる。
【0057】
尚、動摩擦係数とともに、サンプル1~5の静摩擦係数についても計測したところ、動摩擦係数μと同傾向の試験結果となった。すなわち、有機修飾NDの含有量を15質量%以上とすることで、始動時においても良好な摺動性を得られることが確認された。
【0058】
上記の各種試験結果から、摺動性や耐摩耗性のそれぞれにおいて良好な性能を得るという観点から、有機修飾NDを15質量%以上含有させることが好ましいといえる。但し、熱可塑性エラストマー組成物が過度に固くなることを防止するために、有機修飾NDの含有量を36質量%以下とすることが好ましい。
【0059】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0060】
(a)上記実施形態では、本発明の技術思想をウエザストリップとしてのガラスラン1に具体化しているが、本発明の技術思想をインナウエザストリップやアウタウエザストリップなど、窓ガラスが摺動し得るその他のウエザストリップに適用してもよい。
【0061】
(b)上記実施形態におけるガラスラン1の形状は一例であって、ガラスラン1の形状を適宜変更してもよい。また、ガラスラン1は、全て押出成形により成形してもよいし、全て型成形で成形してもよい。
【0062】
尚、上記実施形態では、摺動部21を表層に設ける構成としているが、断面全てにおいて本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物を用いて成形することとしてもよい。さらに、押出成形部2,3,4のみに摺動部21を設けることとしてもよい。
【0063】
(c)上記実施形態では、TPVからなる基材に有機修飾NDが含まれてなる熱可塑性エラストマー組成物を得る方法として、マスターバッチMB及び架橋前のオレフィン系ゴムを二軸混錬押出機51に投入し、溶融混錬しつつ動的架橋を行う手法を挙げているが、その他の手法を用いてもよい。例えば、TPVを押出成形してウエザストリップ等の製品を得る際に、押出機によってTPV及び有機修飾NDを混ぜ合わせることとしてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1…ガラスラン(ウエザストリップ)、21…摺動部、51…二軸混錬押出機(押出機)、DG…ドアガラス、MB…マスターバッチ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9