(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】極低温冷却装置
(51)【国際特許分類】
F25B 9/00 20060101AFI20220509BHJP
【FI】
F25B9/00 Z
F25B9/00 A
F25B9/00 F
(21)【出願番号】P 2018095373
(22)【出願日】2018-05-17
【審査請求日】2021-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 政彦
(72)【発明者】
【氏名】根塚 隼人
【審査官】庭月野 恭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0229620(US,A1)
【文献】特開平03-094483(JP,A)
【文献】特開2005-172597(JP,A)
【文献】特開昭63-135768(JP,A)
【文献】特開平07-142242(JP,A)
【文献】特開2016-042000(JP,A)
【文献】特開2013-130336(JP,A)
【文献】特開平04-115506(JP,A)
【文献】特開2007-194258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 9/00
H01F 5/00,6/04
H01L 39/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空可能な気密空間を形成するとともに第1被冷却体を内部収容する真空容器と、
前記真空容器に設けられた開口の周縁部に接続し、外周が大気に接し、内周が前記気密空間に連通する伸縮自在な連通空間を形成する第1ベローズと、
前記真空容器の開口とは反対側の前記第1ベローズの先端に設けられ冷凍機を固定するフランジと、
前記冷凍機を挿入させる前記フランジの開口の周縁部に接続し、外周が前記気密空間に接し、内周が前記冷凍機を収容する第1収容空間を形成する第1スリーブと、
前記フランジとは反対側の前記第1スリーブの先端に設けられ、前記冷凍機の第1冷熱ブロックが当接し前記第1被冷却体に熱的に連結する第1伝熱ブロックと、
前記第1スリーブの一部に形成され、挿入された前記冷凍機に応じて前記
第1収容空間を伸縮させる第2ベローズと、を備え
、
前記第1スリーブには、前記第2ベローズの伸長量を規制する規制部材が設けられており、この規制部材は、
前記第2ベローズを挟むように前記第1スリーブに配置される一対の支持部材と、
いずれか一方の前記支持部材に一端が固定され他端が他方の支持部材に挿通される柱材と、
前記支持部材に挿通する前記柱材の一端に設けられ抜け落ちを防止するストッパと、
前記支持部材及び前記ストッパを弾性的に連結する付勢部材と、を有していることを特徴とする極低温冷却装置。
【請求項2】
請求項1に記載の極低温冷却装置において、
前記第2ベローズの外周は、前記連通空間を形成していることを特徴とする極低温冷却装置。
【請求項3】
真空可能な気密空間を形成するとともに第1被冷却体を内部収容する真空容器と、
前記真空容器に設けられた開口の周縁部に接続し、外周が大気に接し、内周が前記気密空間に連通する伸縮自在な連通空間を形成する第1ベローズと、
前記真空容器の開口とは反対側の前記第1ベローズの先端に設けられ冷凍機を固定するフランジと、
前記冷凍機を挿入させる前記フランジの開口の周縁部に接続し、外周が前記気密空間に接し、内周が前記冷凍機を収容する第1収容空間を形成する第1スリーブと、
前記フランジとは反対側の前記第1スリーブの先端に設けられ、前記冷凍機の第1冷熱ブロックが当接し前記第1被冷却体に熱的に連結する第1伝熱ブロックと、
前記第1スリーブの一部に形成され、挿入された前記冷凍機に応じて前記第1収容空間を伸縮させる第2ベローズと、を備え、
前記第1被冷却体は、前記気密空間に収容されている第2被冷却体を包囲する熱シールド部材であり、
前記冷凍機には、第1冷熱ブロックよりも低温に設定される第2冷熱ブロックがさらに設けられており、
前記冷凍機を挿入させる前記第1伝熱ブロックの開口の周縁部に接続し、外周が前記熱シールド部材の内側の前記気密空間に接し、内周が前記冷凍機を収容する第2収容空間を形成する第2スリーブと、
前記第1伝熱ブロックとは反対側の前記第2スリーブの先端に設けられ、前記冷凍機の第2冷熱ブロックが当接し前記第2被冷却体に熱的に連結する第2伝熱ブロックと、
前記第2スリーブの一部に形成され、挿入された前記冷凍機に応じて前記第2収容空間を伸縮させる第3ベローズと、を備え、
前記第2スリーブには、前記第3ベローズの伸長量を規制する規制部材が設けられており、この規制部材は、
前記第3ベローズを挟むように前記第2スリーブに配置される一対の支持部材と、
いずれか一方の前記支持部材に一端が固定され他端が他方の支持部材に挿通される柱材と、
前記支持部材に挿通する前記柱材の一端に設けられ抜け落ちを防止するストッパと、
前記支持部材及び前記ストッパを弾性的に連結する付勢部材と、を有していることを特徴とする極低温冷却装置。
【請求項4】
請求項3に記載の極低温冷却装置において、
前記第1スリーブには、前記第2ベローズの伸長量を規制する規制部材が設けられていることを特徴とする極低温冷却装置。
【請求項5】
請求項3に記載の極低温冷却装置において、
前記第2被冷却体は超電導コイルであって、
この超電導コイルと前記第2伝熱ブロックとは、高純度アルミ又は銅を用いたフレキシブルな伝熱板を介して熱的に連結していることを特徴とする極低温冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、被冷却体を極低温に冷却する極低温冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導状態を維持するために、超電導マグネット等の被冷却体を、液体ヘリウム等の寒剤又は冷凍機を用いて、80K以下の極低温に安定的に冷却する技術が求められている。このうち、冷凍機を用いる冷却方法は取扱いが容易であることから、近年適用範囲が拡大している。
【0003】
ところでこの冷凍機は、摺動シールの交換等のメンテナンスが年1回程度必要であり、そのメンテナンス作業は、分解により中身を取り出す必要がある。超電導マグネットが冷却された状態でメンテナンス作業を実施すると、冷凍機の内部が氷結しその性能が低下するおそれがある。
【0004】
このため、超電導マグネットを室温まで昇温する必要があるが、大型の超電導マグネットの再冷却には時間がかかり、中には数週間を要する場合もある。そこで、超電導マグネットの冷却を維持した状態で、冷凍機を交換する極低温冷却装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-53068号公報
【文献】特開2007-303814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、冷却を維持した状態で冷凍機を交換する従来の極低温冷却装置では、機器の組立の誤差や熱収縮によるずれにより接触が不十分となり、冷凍機で発生した冷熱の伝導性が悪化するために、被冷却体の冷却性能が低下する課題がある。
【0007】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、冷却を維持した状態で冷凍機を交換することができ、かつ被冷却体の冷却性能に優れる極低温冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係る極低温冷却装置において、真空可能な気密空間を形成するとともに第1被冷却体を内部収容する真空容器と、前記真空容器に設けられた開口の周縁部に接続し外周が大気に接し内周が前記気密空間に連通する伸縮自在な連通空間を形成する第1ベローズと、前記真空容器の開口とは反対側の前記第1ベローズの先端に設けられ冷凍機を固定するフランジと、前記冷凍機を挿入させる前記フランジの開口の周縁部に接続し外周が前記気密空間に接し内周が前記冷凍機を収容する第1収容空間を形成する第1スリーブと、前記フランジとは反対側の前記第1スリーブの先端に設けられ前記冷凍機の第1冷熱ブロックが当接し前記第1被冷却体に熱的に連結する第1伝熱ブロックと、前記第1スリーブの一部に形成され挿入された前記冷凍機に応じて前記第1収容空間を伸縮させる第2ベローズと、を備え、前記第1スリーブには、前記第2ベローズの伸長量を規制する規制部材が設けられており、この規制部材は、前記第2ベローズを挟むように前記第1スリーブに配置される一対の支持部材と、いずれか一方の前記支持部材に一端が固定され他端が他方の支持部材に挿通される柱材と、を有していることを特徴とする。さらには、前記第1被冷却体は、前記気密空間に収容されている第2被冷却体を包囲する熱シールド部材であり、前記冷凍機には、第1冷熱ブロックよりも低温に設定される第2冷熱ブロックがさらに設けられており、前記冷凍機を挿入させる前記第1伝熱ブロックの開口の周縁部に接続し、外周が前記熱シールド部材の内側の前記気密空間に接し、内周が前記冷凍機を収容する第2収容空間を形成する第2スリーブと、前記第1伝熱ブロックとは反対側の前記第2スリーブの先端に設けられ、前記冷凍機の第2冷熱ブロックが当接し前記第2被冷却体に熱的に連結する第2伝熱ブロックと、前記第2スリーブの一部に形成され、挿入された前記冷凍機に応じて前記第2収容空間を伸縮させる第3ベローズと、を備え、前記第2スリーブには、前記第3ベローズの伸長量を規制する規制部材が設けられており、この規制部材は、前記第3ベローズを挟むように前記第2スリーブに配置される一対の支持部材と、いずれか一方の前記支持部材に一端が固定され他端が他方の支持部材に挿通される柱材と、を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、冷却を維持した状態で冷凍機を交換することができ、かつ被冷却体の冷却性能に優れる極低温冷却装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る極低温冷却装置を示す構成図。
【
図2】第1実施形態に係る極低温冷却装置から冷凍機を取り外した状態の説明図。
【
図3】(A)第1実施形態に係る極低温冷却装置に冷凍機を装着した状態の説明図、(B)比較例として第1ベローズが装備されていない極低温冷却装置に冷凍機を装着した状態の説明図。
【
図4】(A)比較例として連通空間が第1ベローズにより形成されない極低温冷却装置の冷却特性の説明図、(B)第1実施形態に係る極低温冷却装置の実施例1に関する冷却特性の説明図、(C)第1実施形態に係る極低温冷却装置の実施例2に関する冷却特性の説明図。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る極低温冷却装置を示す構成図。
【
図6】第2実施形態に係る極低温冷却装置から冷凍機を取り外した状態の説明図。
【
図7】ベローズの伸長量を規制する規制部材の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る極低温冷却装置10A(10)を示す構成図である。
図2は第1実施形態に係る極低温冷却装置10Aから冷凍機20を取り外した状態の説明図である。
【0012】
図1に示すように極低温冷却装置10Aは(適宜、
図2参照)、真空可能な気密空間15を形成するとともに被冷却体11を内部収容する真空容器16と、この真空容器16に設けられた開口17の周縁部に接続し外周が大気に接し内周が気密空間15に連通する伸縮自在な連通空間18を形成する第1ベローズ31と、この真空容器の開口17とは反対側の第1ベローズ31の先端に設けられ冷凍機20を固定するフランジ34と、冷凍機20Aを挿入させるフランジの開口35の周縁部に接続し外周が気密空間15に接し内周が冷凍機20Aを収容する収容空間41を形成するスリーブ51と、フランジ34とは反対側のスリーブ51の先端に設けられ冷凍機20Aの冷熱ブロック21が当接し被冷却体11に熱的に連結する伝熱ブロック61と、スリーブ51の一部に形成され挿入された冷凍機20Aに応じて収容空間41を伸縮させる第2ベローズ32と、を備えている。
【0013】
真空容器16の内部には、支持部材(図示略)により固定された被冷却体11が内部収容されている。この支持部材(図示略)は、真空容器16の外部から被冷却体11への熱移動が極力少なくなるように、機械剛性を維持しつつ熱伝導率が小さくなるように材料及び形状が選定される。そして真空容器16の内部を真空装置(図示略)で減圧し、この被冷却体11を真空断熱することにより、気密空間15を介する真空容器16から被冷却体11への熱の伝わりを抑制することができる。
【0014】
図2に示すように、冷凍機20Aは、一段式の冷凍機であって、その外観は、駆動部23と、取付フランジ24と、冷却シリンダ25と、コールドヘッド26とから構成されている。冷凍機20Aは、冷却シリンダ25の内部で作動ガスを断熱膨張させ、その先端のコールドヘッド26に70~40Kの冷熱を発生させる。冷凍機20Aの種類としては、GM冷凍機(ギボード・マクマホン(Gifford-McMahon)冷凍機)、ソルベイ冷凍機、パルスチューブ冷凍機等が挙げられる。
【0015】
コールドヘッド26には、円錐状の接触面21aを有する冷熱ブロック21が設けられている。この冷熱ブロック21の接触面21aは、これと反対形状を有する伝熱ブロック61の接触面61aに接触し、冷凍機20で発生させた冷熱をこの伝熱ブロック61に伝達する。このような構成を有する冷凍機20は、気密空間15を大気圧に戻す必要が無く真空状態のままで、冷却装置10に対し着脱される。
【0016】
図2を参照して、極低温冷却装置10Aの本体側の構成を説明する。
フランジ34は、その開口35に挿入される冷凍機20Aの取付フランジ24とボルト(図示略)等により気密に締結される。このフランジ34の開口35の周縁には、スリーブ51の一端が溶接等により接続されている。さらにフランジ34の外周縁には、第1ベローズ31の一端が接続されている。
【0017】
第1ベローズ31は、一端が真空容器16の開口17の周縁部に接続され、他端がフランジ34の外周縁に接続されている。この第1ベローズ31は、真空容器16に対してフランジ34を、弾性的に支持している。これにより第1ベローズ31は、その内周面とスリーブ51の外周面とフランジ34の底面とにより、気密空間15に連通する伸縮自在な連通空間18を形成している。
【0018】
このように第1ベローズ31が構成されていることで、真空容器16の気密空間15の気密性とスリーブ51の収容空間41の気密性とを維持したまま、冷凍機20Aの真空容器16に対する相対的な固定位置を調整することができる。
【0019】
スリーブ51は、一端がフランジ34の開口35の周縁部に接続され、他端が伝熱ブロック61の外周縁に接続されている。そして、このスリーブ51の内周面及び伝熱ブロック61の上面は、フランジ34の開口35から挿入される冷凍機20Aを収容する収容空間41を形成する。なお、この収容空間41は、冷凍機20の取付フランジ24によりフランジ34の開口35が気密に封止されることにより、被冷却体11が存在する気密空間15や外気から隔離された密閉空間となる。
【0020】
第2ベローズ32は、スリーブ51の胴体の一部に形成され、この胴体を弾性的に伸縮させる。スリーブ51の胴体の一部が第2ベローズ32で形成されていることにより、挿入された冷凍機20Aに応じて収容空間41を伸縮させることができる。これにより冷凍機20の寸法誤差、挿入角度のずれ、又は冷却時の熱収縮によるずれや冷熱ブロック21の装着ずれが吸収され、収容空間41の気密性と冷熱ブロック21及び伝熱ブロック61の接触性とを両立させることができる。
【0021】
伝熱ブロック61は、冷熱ブロックの接触面21aとは反転形状を有する接触面61aを有しており、この接触面61aの外縁に、スリーブ51の一端が接続されている。そして伝熱ブロック61は、接触面61aの反対面において被冷却体11に接続し、冷凍機20と被冷却体11とを熱的に連結している。
【0022】
収容空間41には、冷凍機20が発生した冷熱が伝熱ブロック61に効率的に伝達されるように、設定温度域において気相状態で熱伝導率の大きいガス(例えば、ヘリウムガス)等が充填される。収容空間41に収容された冷凍機20Aの冷熱ブロック21と伝熱ブロック61とは、互いの接触面積を広くすることができ、さらに接触部分の近傍に生じた隙間には高熱伝導性ガスが充填されているため、良好な伝熱経路が形成される。
【0023】
図3は、冷凍機20Aのコールドヘッド26に、冷熱ブロック21が傾いて装着された場合を模擬している。
図3(A)は第1実施形態に係る極低温冷却装置10Aに冷凍機20Aを装着した状態の説明図である。
図3(B)は比較例として第1ベローズが装備されていない極低温冷却装置に冷凍機20Aを装着した状態の説明図である。
【0024】
図3(A)に示す実施例において、冷凍機20Aが収容空間41に挿入されて、傾いて装着された冷熱ブロック21が伝熱ブロック61に当接したとする。この場合、第1ベローズ31と第2ベローズ32が変形することにより、冷凍機20Aが固定されているフランジ34を上下又は水平方向に対し適度に傾かせる。これにより、冷熱ブロック21の傾きが吸収される。
【0025】
さらに、真空容器16の外側の大気圧と、気密空間15及び連通空間18の内部圧との圧力差により、冷凍機20Aは、伝熱ブロック61の方向に強く引き付けられる。これにより、冷熱ブロック21と伝熱ブロック61との隙間が減少し、両者の良好な接触が維持され、熱抵抗の低減が図られる。
【0026】
これに対し、
図3(B)に示される比較例では、本発明における第1ベローズ(比較例では不存在)と第2ベローズ32の両方の変形が担保されないために、冷熱ブロック21の傾きを吸収することができず、伝熱ブロック61との接触において大きな隙間が生じてしまう。なお、
図3(B)の比較例において、第2ベローズ32のみが設けられている場合を示しているが、第1ベローズ31のみが設けられている場合も、同様に冷熱ブロック21の傾きを吸収することができず、接触が悪く熱抵抗が大きくなる。
【0027】
なお
図3では、冷熱ブロック21が傾いて装着された場合を例示して説明しているが、その他に、伝熱ブロック61が接続する被冷却体11が真空容器16に対し理想位置からずれて支持されている場合や、その他の機器の寸法誤差、冷凍機20の挿入角度のずれ、又は冷却時の熱収縮によるずれが生じる場合も、これらずれを吸収して冷熱ブロック21と伝熱ブロック61との接触を良好にすることができる。
【0028】
図4(A)は比較例として、第1ベローズ31により連通空間(不存在)が形成されない極低温冷却装置の冷却特性の説明図である。
図4(B)は第1実施形態に係る極低温冷却装置10Aの実施例1に関する冷却特性の説明図である。
図4(C)は第1実施形態に係る極低温冷却装置10Bの実施例2に関する冷却特性の説明図である。
図4の右側に示される冷却特性のグラフは、収容空間41において冷凍機20Aとの境界位置における温度分布を破線で示し、スリーブ51との境界位置における温度分布を実線で示している。そして、グラフ中の矢印は、熱の流れる向きと量を示している。
【0029】
図4(A)の比較例の構成のうち実施例と相違する点は、第2ベローズ32が形成されるスリーブ51がフランジ34の開口35ではなく、真空容器16の開口17に接続している点である。これにより、比較例では、実施例のような第1ベローズ31の内周とスリーブ51の外周とで形成される連通空間18が存在しない。
【0030】
このために、
図4(A)の比較例では、第1ベローズ31のみを介して外気と収容空間41とが接しているために、冷却特性グラフが示すように、収容空間41の水平方向における温度勾配が大きくなることが避けられない。このため比較例では、収容空間41への熱侵入が多い。
【0031】
これに対し、
図4(B)の実施例1では、外気と収容空間41との間が連通空間18により真空断熱されているために、冷却特性グラフが示すように、収容空間41の水平方向における温度勾配が小さくなる。このため実施例1では、収容空間41への熱侵入が低減される。具体的に熱侵入量を測定すると、比較例では17Wであったのに対し、実施例1では7Wと、1/2以下に低減されている。これにより実施例1の極低温冷却装置10Aでは、被冷却体11(
図1)の冷却性能が比較例に対して優れていることが判る。
【0032】
図4(C)の極低温冷却装置10Bは、スリーブ51の一部を形成する第2ベローズ32の一端がフランジ34の開口35に直接接続されている。その結果、連通空間18は、第2ベローズ32の外周と第1ベローズ31の内周とにより形成される。これにより、
図4(C)の実施例2では、冷却特性グラフが示すように、収容空間41の水平方向における温度勾配がさらに小さくなり、収容空間41への熱侵入がさらに低減される。これにより実施例2の極低温冷却装置10Bでは、実施例1よりも被冷却体(
図1)の冷却性能がさらに向上する。
【0033】
(第2実施形態)
次に
図5及び
図6を参照して本発明における第2実施形態について説明する。
図5は本発明の第2実施形態に係る極低温冷却装置10Cを示す構成図である。
図6は第2実施形態に係る極低温冷却装置10Cから冷凍機20Bを取り外した状態の説明図である。なお、
図5及び
図6において
図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0034】
図5に示すように極低温冷却装置10Cは(適宜、
図6参照)、真空可能な気密空間15aを形成するとともに第1被冷却体11(熱シールド部材11)を内部収容する真空容器16と、この真空容器16に設けられた開口17の周縁部に接続し外周が大気に接し内周が気密空間15aに連通する伸縮自在な連通空間18を形成する第1ベローズ31と、真空容器16の開口17とは反対側の第1ベローズ31の先端に設けられ冷凍機20Bを固定するフランジ34と、冷凍機20Bを挿入させるフランジの開口35の周縁部に接続し外周が気密空間15aに接し内周が冷凍機20Bを収容する第1収容空間41を形成する第1スリーブ51と、フランジ34とは反対側の第1スリーブ51の先端に設けられ冷凍機20Bの第1冷熱ブロック21が当接し第1被冷却体11(熱シールド部材11)に熱的に連結する第1伝熱ブロック61と、第1スリーブ51の一部に形成され挿入された冷凍機20Bに応じて第1収容空間41を伸縮させる第2ベローズ32と、を備えている。
【0035】
第2実施形態では、第1被冷却体11(熱シールド部材11)で包囲される空間15bに、第2被冷却体12(超電導コイル12)が収容されている。そして、冷凍機20Bには、第1冷熱ブロック21よりも低温に設定される第2冷熱ブロック22が設けられている。
【0036】
さらに極低温冷却装置10Cは、冷凍機20Bを挿入させる第1伝熱ブロックの開口63の周縁部に接続し外周が第1被冷却体11(熱シールド部材11)の内側の空間15bに接し内周が冷凍機20Bを収容する第2収容空間42を形成する第2スリーブ52と、第1伝熱ブロック61とは反対側の第2スリーブ52の先端に設けられ冷凍機20Bの第2冷熱ブロック22が当接し第2被冷却体12(超電導コイル12)に熱的に連結する第2伝熱ブロック62と、第2スリーブ52の一部に形成され挿入された冷凍機20Bに応じて第2収容空間42を伸縮させる第3ベローズ33と、を備えている。なお第2被冷却体である超電導コイル12と第2伝熱ブロック62とは、高純度アルミ又は銅を用いたフレキシブルな伝熱板65を介して熱的に連結されている。
【0037】
図6に示すように、冷凍機20Bは、二段式の冷凍機であって、その外観は、駆動部23と、取付フランジ24と、第1冷却シリンダ25と、第1コールドヘッド26と、第2冷却シリンダ27と、第2コールドヘッド28と、から構成されている。冷凍機20Bは、第1冷却シリンダ25の内部で作動ガスを断熱膨張させ、その先端の第1コールドヘッド26に70~40Kの冷熱を発生させる。さらに70~40Kに冷却された作動ガスを第2冷却シリンダ27の内部で断熱膨張させ、その先端の第2コールドヘッド28に20~4Kの冷熱を発生させる。冷凍機20Bの種類としては、GM冷凍機(ギボード・マクマホン(Gifford-McMahon)冷凍機)、ソルベイ冷凍機、パルスチューブ冷凍機等が挙げられる。
【0038】
第1コールドヘッド26には、円錐状の接触面21aを有する第1冷熱ブロック21が設けられている。この第1冷熱ブロック21の接触面21aは、これと反対形状を有する第1伝熱ブロック61の接触面61aに接触し、第1冷却シリンダ25で発生させた冷熱をこの第1伝熱ブロック61に伝達する。
【0039】
第2コールドヘッド28には、円錐状の接触面22aを有する第2冷熱ブロック22が設けられている。この第2冷熱ブロック22の接触面22aは、これと反対形状を有する第2伝熱ブロック62の接触面62aに接触し、第2冷却シリンダ27で発生させた冷熱をこの第2伝熱ブロック62に伝達する。
【0040】
図6を参照して、極低温冷却装置10Bの本体側の構成を説明する。
フランジ34は、その開口35に挿入される冷凍機20Bの取付フランジ24と、ボルト(図示略)等により気密に締結される。このフランジ34の開口35の周縁には、第1スリーブ51の一端が溶接等により接続されている。さらにフランジ34の外周縁には、第1ベローズ31の一端が接続されている。
【0041】
第1ベローズ31は、一端が真空容器16の開口17の周縁部に接続され、他端がフランジ34の外周縁に接続されている。この第1ベローズ31は、真空容器16に対してフランジ34を、弾性的に支持している。これにより第1ベローズ31は、その内周面と第1スリーブ51の外周面とフランジ34の底面とにより、気密空間15aに連通する伸縮自在な連通空間18を形成している。
【0042】
このように第1ベローズ31が構成されていることで、真空容器16の気密空間15aの気密性とスリーブ51,52の収容空間41,42の気密性とを維持したまま、冷凍機20Bの真空容器16に対する相対的な固定位置を調整することができる。
【0043】
第1スリーブ51は、一端がフランジ34の開口35の周縁部に接続され、他端が第1伝熱ブロック61の外周縁に接続されている。そして、この第1スリーブ51の内周面及び第1伝熱ブロック61の上面は、冷凍機20Bの第1冷却シリンダ25を収容する第1収容空間41を形成する。
【0044】
第2ベローズ32は、第1スリーブ51の胴体の一部に形成され、この胴体を弾性的に伸縮させる。第1スリーブ51の胴体の一部が第2ベローズ32で形成されていることにより、挿入された冷凍機20Bに応じて第1収容空間41を伸縮させることができる。これにより冷凍機20Bの第1冷却シリンダ25や第1コールドヘッド26の寸法誤差、挿入角度のずれ又は冷却時の熱収縮によるずれや第1冷熱ブロック21の装着ずれが吸収され、収容空間41、42の気密性と第1冷熱ブロック21及び第1伝熱ブロック61の接触性とを向上させることができる。
【0045】
第1伝熱ブロック61は、冷熱ブロックの接触面21aとは反転形状を有する接触面61aを有しており、この接触面61aの外縁に、第1スリーブ51の一端が接続されている。さらに第1伝熱ブロック61は、冷凍機20Bの第2冷却シリンダ27を通過させる開口63が設けられている。そして第1伝熱ブロック61は、第1被冷却体11(熱シールド部材11)に接続し、第1コールドヘッド26から供給される冷熱を第1被冷却体11に伝達する。
【0046】
第2スリーブ52は、一端が第1伝熱ブロック61の開口63の周縁部に接続され、他端が第2伝熱ブロック62の外周縁に接続されている。そして、この第2スリーブ52の内周面及び第2伝熱ブロック62の上面は、冷凍機20Bの第2冷却シリンダ27を収容する第2収容空間42を形成する。なお、この第1収容空間41及び第2収容空間42は、冷凍機20の取付フランジ24によりフランジ34の開口35が気密に封止されることにより、被冷却体11が存在する気密空間15aや外気から隔離された密閉空間となる。
【0047】
第3ベローズ33は、第2スリーブ52の胴体の一部に形成され、この胴体を弾性的に伸縮させる。第2スリーブ52の胴体の一部が第3ベローズ33で形成されていることにより、挿入された冷凍機20Bに応じて第2収容空間42を伸縮させることができる。これにより冷凍機20Bの第2冷却シリンダ27や第2コールドヘッド28の寸法誤差、挿入角度のずれ又は冷却時の熱収縮によるずれや第2冷熱ブロック22の装着ずれが吸収され、第2冷熱ブロック22と第2伝熱ブロック62との接触性を向上させることができる。
【0048】
第2伝熱ブロック62は、第2冷熱ブロック22の接触面22aとは反転形状を有する接触面62aを有しており、この接触面62aの外縁に、第2スリーブ52の一端が接続されている。そして第2伝熱ブロック62は、第2被冷却体12(超電導コイル12)(
図5)に接続し、第2コールドヘッド28から供給される冷熱をこの第2被冷却体12に伝達する。
【0049】
第1収容空間41及び第2収容空間42には、冷凍機20が発生した冷熱が第1伝熱ブロック61及び第2伝熱ブロック62の各々に効率的に伝達されるように、設定温度域において気相状態で熱伝導率の大きいガス(例えば、ヘリウムガス)等が充填される。冷凍機20Bの第1冷熱ブロック21及び第1伝熱ブロック61並びに第2冷熱ブロック22及び第2伝熱ブロック62は、接触面積を広くすることができ、さらに接触部分の近傍に生じた隙間には高熱伝導性ガスが充填されているため、良好な伝熱経路が形成される。
【0050】
図7はベローズ33の伸長量を規制する規制部材70の構成図である。
第2スリーブ52には、第3ベローズ33の伸長量を規制する規制部材70が設けられている。この規制部材70は、第3ベローズ33を挟むように第2スリーブ52に配置される一対の支持部材71(71a,71b)と、いずれか一方の支持部材71aに一端が固定され他端が他方の支持部材71bに挿通される柱材72と、支持部材71bを挿通する柱材72の一端に設けられ抜け落ちを防止するストッパ74と、柱材72が挿通する支持部材71b及びストッパ74を弾性的に連結する付勢部材73とを備えている。
【0051】
この規制部材70により、第2冷熱ブロック22と第2伝熱ブロック62とが、付勢部材73の付勢力により相互に押し付けられる。これにより、第2冷熱ブロック22と第2伝熱ブロック62との隙間が減少し、両者の良好な接触が維持され、熱抵抗の低減が図られる。なお、この規制部材70を第1スリーブ51に設けて、第2ベローズ32の伸長量を規制するようにしてもよい。
【0052】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の極低温冷却装置によれば、真空容器に連通する連通空間を伸縮自在に形成する第1ベローズと冷凍機の収容空間を伸縮自在に形成する第2ベローズとを持つことにより、冷却を維持した状態で冷凍機を交換することができ、かつ被冷却体の冷却性能に優れる極低温冷却装置が提供される。
【0053】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0054】
10(10A,10B,10C)…極低温冷却装置、11…第1被冷却体(熱シールド部材)、12…第2被冷却体(超電導コイル)、15,15a…気密空間、15b…空間、16…真空容器、17…真空容器の開口、18…連通空間、20(20A,20B)…冷凍機、21…第1冷熱ブロック(冷熱ブロック)、21a…第1冷熱ブロックの接触面、22…第2冷熱ブロック、22a…第2冷熱ブロックの接触面、23…駆動部、24…取付フランジ、25…冷却シリンダ、26…第1コールドヘッド(コールドヘッド)、27…冷却シリンダ、28…第2コールドヘッド、31…第1ベローズ、32…第2ベローズ、33…第3ベローズ、34…フランジ、35…フランジの開口、41…第1収容空間(収容空間)、42…第2収容空間、51…第1スリーブ(スリーブ)、52…第2スリーブ、61…第1伝熱ブロック(伝熱ブロック)、61a…第1伝熱ブロックの接触面、62…第2伝熱ブロック、62a…第2伝熱ブロックの接触面、63…第2伝熱ブロックの開口、65…伝熱板、70…規制部材、71(71a,71b)…支持部材、72…柱材、73…付勢部材、74…ストッパ。