(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】電気絶縁油組成物
(51)【国際特許分類】
H01B 3/46 20060101AFI20220509BHJP
H01G 4/32 20060101ALI20220509BHJP
H01G 2/10 20060101ALN20220509BHJP
【FI】
H01B3/46 B
H01G4/32 541
H01G2/10 E
(21)【出願番号】P 2018103631
(22)【出願日】2018-05-30
【審査請求日】2020-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100190931
【氏名又は名称】熊谷 祥平
(72)【発明者】
【氏名】亀山 敦史
(72)【発明者】
【氏名】福永 晴菜
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-265967(JP,A)
【文献】特開平07-226332(JP,A)
【文献】特開2002-363585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/46
H01G 4/32
H01G 2/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(エチルフェニル)フェニルメタンと、1-エチルフェニル-1-フェニルエタンと、1-エチルフェニル-2-フェニルエタンと、を含む電気絶縁油組成物。
【請求項2】
ビス(エチルフェニル)メタン及び(ジエチルフェニル)フェニルメタンを更に含む、請求項1に記載の電気絶縁油組成物。
【請求項3】
1,1-ビス(エチルフェニル)エタン及び1-ジエチルフェニル-1-フェニルエタンを更に含む、請求項1又は2に記載の電気絶縁油組成物。
【請求項4】
前記(エチルフェニル)フェニルメタンの含有量が、電気絶縁油組成物全量を基準として10~35質量%であり、前記1-エチルフェニル-1-フェニルエタンの含有量が、電気絶縁油組成物全量を基準として、20~60質量%であり、前記1-エチルフェニル-2-フェニルエタンの含有量が、電気絶縁油組成物全量を基準として、5~30質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の電気絶縁油組成物。
【請求項5】
エポキシ化合物を、電気絶縁油組成物全量を基準として0.01~1.0質量%含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の電気絶縁油組成物。
【請求項6】
40℃における動粘度が5mm
2/s以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の電気絶縁油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電気絶縁油に対して主に求められる性能は、絶縁破壊電圧が高いことをはじめ、水素ガス吸収性が高いこと、粘度が低いこと、更に融点が低いこと等が挙げられる。近年、コンデンサをはじめとする各種油入電気機器(油含浸電気機器)が世界中で使用されるに当たり、より絶縁破壊電圧の高い電気絶縁油が使用されつつある。
【0003】
1-フェニル-1-キシリルエタン及び1-エチルフェニル-1-フェニルエタンは、その製造が容易であり、絶縁破壊電圧が比較的高く、誘電損失が小さい、融点が低い等の優れた特性を有していることから、電気絶縁油として広く用いられている。例えば、特許文献1には、電気絶縁油組成物として、1-フェニル-1-(2,4-ジメチルフェニル)エタン又は1-フェニル-1-(2,5-ジメチルフェニル)エタンを含有する組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、世界経済の発展に伴って、油含浸電気機器には、これまで使用されていなかった地域(例えば、極低温の地域等)での使用が求められ、それに対応できるような低温特性に優れた電気絶縁油の検討が進められている。また、屋外に設置させることの多い産業用電気機器の場合、その使用形態ゆえに高温における特性も重要である。しかしながら、上述したような従来の電気絶縁油組成物は、温度領域によってはその絶縁破壊電圧が必ずしも満足できるものではなかった。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、広範な温度領域において良好な絶縁破壊電圧を達成し得る電気絶縁油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(エチルフェニル)フェニルメタンと、1-エチルフェニル-1-フェニルエタンと、1-エチルフェニル-2-フェニルエタンと、を含む電気絶縁油組成物を提供する。
【0008】
電気絶縁油組成物は、ビス(エチルフェニル)メタン及び(ジエチルフェニル)フェニルメタンを更に含んでいてもよい。
【0009】
電気絶縁油組成物は、1,1-ビス(エチルフェニル)エタン及び1-ジエチルフェニル-1-フェニルエタンを更に含んでいてもよい。
【0010】
(エチルフェニル)フェニルメタンの含有量は、電気絶縁油組成物全量を基準として10~35質量%であり、1-エチルフェニル-1-フェニルエタンの含有量は、電気絶縁油組成物全量を基準として、20~60質量%であり、1-エチルフェニル-2-フェニルエタンの含有量は、電気絶縁油組成物全量を基準として、5~30質量%であってもよい。
【0011】
電気絶縁油組成物は、エポキシ化合物を、電気絶縁油組成物全量を基準として0.01~1.0質量%含んでいてもよい。
【0012】
電気絶縁油組成物は、40℃における動粘度が5mm2/s以下であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、広範な温度領域において良好な絶縁破壊電圧を達成し得る電気絶縁油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
本実施形態に係る電気絶縁油組成物は、(エチルフェニル)フェニルメタンと、1-エチルフェニル-1-フェニルエタンと、1-エチルフェニル-2-フェニルエタンと、を含む。上記電気絶縁油組成物は、広範な温度領域(例えば、-50℃~80℃)において良好な絶縁破壊電圧を達成し得る。
【0016】
本実施形態に係る電気絶縁油組成物が上記のような効果を奏する理由を、本発明者等は以下のように推察する。まず、従来の電気絶縁油組成物が、低温環境下において絶縁破壊電圧を低下させる原因として、使用の際に電気絶縁油組成物に含まれる成分が凝固することで油中に固形物が析出し、その部分から放電が発生しやすくなることが考えられる。一方で、高温環境下においては、コンデンサを構成する部材の一つである電極間の誘電体として使用されるポリプロピレンフィルム等のフィルムが、電気絶縁油組成物により膨潤することに起因して、フィルムの機械的ストレスの上昇やフィルム密度の低下が発生し、コンデンサの性能低下が起こりやすくなると考えられる。
【0017】
これに対し、本実施形態に係る電気絶縁油組成物は、(エチルフェニル)フェニルメタンと、1-エチルフェニル-1-フェニルエタンと、1-エチルフェニル-2-フェニルエタンと、を含むことで、低温環境下及び高温環境下において、上述したような絶縁破壊電圧を低下させる要因の発生をバランスよく抑制することができたためと、本発明者等は推察する。具体的な理由は必ずしも明らかではないが、まず、上述した3成分ともに、分子中の芳香族炭素の比率が比較的高いため、水素ガス吸収性が高く、耐電圧特性に優れると考えられる。そして、上記3成分を含むことで、凝固点降下が起こり、低温環境下において電気絶縁油組成物に含まれる成分の凝固を効果的に抑制できたと推察する。また、(エチルフェニル)フェニルメタンは、特にポリプロピレンフィルム等のフィルムに対する膨潤性が小さく、高温環境下において絶縁破壊電圧の低下を効果的に抑制することができたと考えられる。
【0018】
電気絶縁油組成物における(エチルフェニル)フェニルメタンの含有量は、更に良好な絶縁破壊電圧を達成する観点から、電気絶縁油組成物全量を基準として、好ましくは10質量%以上、より好ましくは12質量%以上、更に好ましくは15質量%以上である。電気絶縁油組成物における(エチルフェニル)フェニルメタンの含有量は、更に良好な絶縁破壊電圧を達成する観点から、電気絶縁油組成物全量を基準として、好ましくは35質量%以下、より好ましくは33質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0019】
電気絶縁油組成物における1-エチルフェニル-1-フェニルエタンの含有量は、更に良好な絶縁破壊電圧を達成する観点から、電気絶縁油組成物全量を基準として、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30質量%以上である。電気絶縁油組成物における1-エチルフェニル-1-フェニルエタンの含有量は、更に良好な絶縁破壊電圧を達成する観点から、電気絶縁油組成物全量を基準として、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
【0020】
電気絶縁油組成物における1-エチルフェニル-2-フェニルエタンの含有量は、更に良好な絶縁破壊電圧を達成する観点から、電気絶縁油組成物全量を基準として、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、更に好ましくは10質量%以上である。電気絶縁油組成物における1-エチルフェニル-2-フェニルエタンの含有量は、更に良好な絶縁破壊電圧を達成する観点から、電気絶縁油組成物全量を基準として、好ましくは30質量%以下、より好ましくは27質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
【0021】
本実施形態に係る電気絶縁油組成物は、本発明の効果を著しく阻害しない範囲において、上述した各成分以外に、他の炭化水素を更に含んでいてもよい。このような他の炭化水素を更に含む場合、当該炭化水素の沸点が220℃以上であってよく、250℃以上であってよい。また、当該炭化水素の沸点が420℃以下であってよく、350℃以下であってよい。
【0022】
他の炭化水素としては、例えば、ビス(エチルフェニル)メタン、(ジエチルフェニル)フェニルメタン、1,1-ビス(エチルフェニル)エタン、1-ジエチルフェニル-1-フェニルエタン、1,1-ジフェニルエタン、1,2-ジフェニルエタン、ベンジルトルエン等の2環の芳香族化合物、アルキルナフタレン、ジベンジルトルエン等の多環芳香族化合物などが挙げられる。
【0023】
他の炭化水素の含有量は特に制限されないが、電気絶縁油組成物全量を基準として、例えば65質量%以下、50質量%以下、又は35質量%以下であってよい。他の炭化水素の含有量は、電気絶縁油組成物全量を基準として、例えば0.1質量%以上、1質量%以上、又は5質量%以上であってよい。
【0024】
上述した本実施形態に係る電気絶縁油組成物に含まれる各成分の入手方法には特に制限はなく、市販品を用いてもよいし、自ら製造してもよい。
【0025】
電気絶縁油組成物は、水等の極性物質の含有により誘電正接が高くなり、絶縁性能が低下する。そのため、電気絶縁油組成物は、活性白土と接触させて水等の極性物質を除去したうえで使用することが好ましい。このときに使用する活性白土は、特に限定されない。活性白土の形状としては、特に限定されないが、実用上の観点から成型体の方が好ましい。
【0026】
電気絶縁油組成物は、各成分の製造方法によっては塩素分が含まれる場合がある。塩素分は電気絶縁油組成物の性能を悪化させる傾向があるため、塩素分の含有量を抑えることで電気絶縁油組成物の性能の悪化を抑制することができる。塩素分については必ずしも上記活性白土で除去できないため、電気絶縁油組成物は、塩素トラップ剤(塩素捕獲剤)としてエポキシ化合物を更に含むことが好ましい。なお、エポキシ化合物は、活性白土と接触させることによってある程度除去されてしまうことから、電気絶縁油組成物が白土処理された後にエポキシ化合物を添加することが望ましい。
【0027】
エポキシ化合物としては、例えば、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシシクロヘキサン)カルボキシレート、ビニルシクロヘキセンジエポキサイド、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシ-6-メチルヘキサン)カルボキシレート等の脂環式エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、オルソクレゾールノボラック型エポキシ化合物等のビスフェノールAのジグリシジルエーテル型エポキシ化合物などが例示される。エポキシ化合物の含有量は、電気絶縁油組成物全量を基準として0.01~1.0質量%であることが好ましく、0.3~0.8質量%であることがより好ましい。含有量が0.01質量%以上であれば塩素分をトラップする効果が充分に発揮される傾向があり、1.0質量%以下であれば電気絶縁油組成物の電気特性に悪影響を及ぼしにくい。
【0028】
本実施形態に係る電気絶縁油組成物の40℃における動粘度は、流動性の低下による絶縁破壊電圧の低下をより効果的に抑制する観点から、好ましくは5mm2/s以下であり、より好ましくは4.5mm2/s以下であり、更に好ましくは4mm2/s以下である。電気絶縁油組成物の40℃における動粘度は、臭気又は引火点の低下を効果的に抑制する観点から、2.5mm2/s以上であることが好ましい。本明細書における動粘度は、JIS K 2283に準拠して測定される動粘度を意味する。
【0029】
本実施形態に係る電気絶縁油組成物は、油含浸電気機器に好適に用いられ、特にプラスチックフィルムを絶縁材料又は誘電体材料の少なくとも一部に使用した油含浸コンデンサに含浸させるために好適に用いられる。
【0030】
プラスチックフィルムとしては、ポリエステルフィルム、ポリフッ化ビニリデンフィルム等の他、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム等のポリオレフィンフィルムなどを用いることができるが、それらの中でもポリオレフィンフィルムが好適である。特に好適なポリオレフィンフィルムは、ポリプロピレンフィルムである。
【0031】
本実施形態において好適な油含浸コンデンサは、導体としてアルミニウム等の金属箔と、上記絶縁材料又は誘電体材料としてのプラスチックフィルムとを、必要に応じて絶縁紙等の他の材料とともに巻回し、常法により電気絶縁油組成物を含浸させることにより製造される。あるいは、油含浸コンデンサは、上記絶縁材料又は誘電体材料としてのプラスチックフィルム上に、アルミニウム、亜鉛等の導体としての金属箔を蒸着などの方法により形成した金属蒸着プラスチックフィルム(メタライズド・フィルム)を、必要に応じてプラスチックフィルム又は絶縁紙とともに巻回し、常法により電気絶縁油組成物を含浸させることによっても製造される。
【0032】
以上、本実施形態に係る電気絶縁油組成物について説明したが、本発明は、上記実施形態に何ら限定されることはない。例えば、本実施形態に係る各成分を含む組成物は、電気絶縁油としてだけでなく、溶剤、洗浄剤等としても用いることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
[調製例1:触媒の調製]
硫酸アルミニウム、硫酸、n-プロピルアミン、n-プロピルブロマイドを水に溶解させ、この溶液に水ガラスを撹拌しながら徐々に加え、できるだけ均一なゲル状スラリーを調製した。これをオートクレーブに入れ、撹拌しながら160℃で72時間かけて結晶化させた。結晶を濾別し、水洗液が中性になるまで水洗及び濾過を繰り返すことにより、SiO2/Al2O3モル比が70のゼオライトZSM-5を得た。得られたゼオライトを空気中で焼成することにより触媒を調製した。
【0035】
[調製例2:(エチルフェニル)フェニルメタン(EDPM)の調製]
上記調製例1で得られたゼオライトZSM-5を塩酸でイオン交換させることにより水素型に変換した水素型ZSM-5(12~14メッシュ)200mlを、内容積250mlの反応容器に充填し、乾燥窒素を送りながら480℃で3時間乾燥した。
【0036】
反応温度270℃、圧力20気圧(窒素雰囲気下)、LHSV=1.0にて、エチルベンゼン及びジフェニルメタンの混合液(モル比;エチルベンゼン:ジフェニルメタン=2:1)を通油し、通油された反応液を蒸留することにより、EDPMの含有量が85質量%である混合物を得た。なお、当該混合物には他の成分として、ビス(エチルフェニル)メタン及び(ジエチルフェニル)フェニルメタン(DEDPM)が含まれていた(合計含有量:15質量%)。
【0037】
[調製例3:1-エチルフェニル-1-フェニルエタン(1,1-EDPE)の調製]
ジフェニルメタンの代わりに、1,1-ジフェニルエタンを用いた以外は、調製例2と同様の操作を行い、1,1-EDPEの含有量が86質量%である混合物を得た。なお、当該混合物には他の成分として、1,1-ビス(エチルフェニル)エタン及び1-ジエチルフェニル-1-フェニルエタン(1,1-DEDPE)が含まれていた(合計含有量:14質量%)。
【0038】
[調製例4:1-エチルフェニル-2-フェニルエタン(1,2-EDPE)の調製]
ジフェニルメタンの代わりに、1,2-ジフェニルエタンを用いた以外は、調製例2と同様の操作を行い、1,2-EDPEを得た。
【0039】
(実施例1)
上記調製例2~4で得られた各成分を混合し、表1に示す組成を有する電気絶縁油組成物を調製した。実施例1の電気絶縁油組成物の組成及び40℃における動粘度を表1に示す。
【0040】
(比較例1)
特開昭53-135959号公報に記載の方法に従ってスチレンと混合キシレンとのアラルキル化を行い、1,1-EDPEの含有量が30質量%であり、1-フェニル-1-キシリルエタン(PXE)の含有量が70質量%である電気絶縁油組成物を得た。比較例1の電気絶縁油組成物の組成及び40℃における動粘度を表1に示す。
【0041】
<モデルコンデンサによる試験油(電気絶縁油組成物)の評価>
試験に用いたコンデンサは次のとおりである。固体絶縁体として、チューブラー法で得られた厚み12.7μm(重量法)の信越フィルム(株)製の易含浸タイプ同時二軸延伸ポリプロピレンフィルムを使用し、電極としてアルミニウム箔を使用した。また、誘電体としては、厚み12.7μm(重量法)の信越フィルム(株)製のインフレーション法ポリプロピレンフィルムを2枚重ねたものを使用した。これらを常法に従って、巻回、積層することにより、油含浸用のモデルコンデンサ素子を作製した。
【0042】
この素子は0.2~0.3μFの静電容量を有している。この素子をブリキ製の缶に入れた。缶は絶縁体が低温で収縮したときに充分に対応できるように柔軟な構造にした。また、電極の端部はスリットしたままで折り曲げていない状態とした。電極から端子までを結線する方法として、高周波用コンデンサに用いられる方法と同じく、電極の一端をそれぞれポリプロピレンフィルムからはみ出した構造で巻き、はみ出した部分をまとめてリード線とスポット溶接する構造にした。
【0043】
このようにして準備した缶型コンデンサを、常法に従って真空乾燥した後、同じ真空下で試験油(実施例1及び比較例1で得られた各電気絶縁油組成物)を含浸し、封口した。なお、含浸にあたっては各試験油を予め活性白土で処理してから用いた。すなわち、水澤化学工業(株)製の活性白土ガレオナイト#036を試験油に10質量%添加し、液温25℃で30分間撹拌した後、濾過した。濾過後、塩素捕獲剤としてエポキシ化合物(脂環式エポキシ化合物、商品名:セロキサイド2021P、ダイセル化学工業(株)製)を、電気絶縁油組成物全量を基準として0.65質量%となるように添加し、得られた電気絶縁油組成物を試験油として、含浸に用いた。
【0044】
次に、コンデンサ内部での含浸状況を均一にして安定化するために、恒温槽中、80℃で2昼夜熱処理を施した。その後、コンデンサを室温で5日間静置した後、AC1270V(50V/μmに相当)にて30℃の恒温槽で16時間課電処理をした後に試験に供した。これを予備課電と称する。
【0045】
次に、これら油含浸コンデンサを所定の温度下で所定の課電方法で交流電圧を課電して、コンデンサが絶縁破壊を起こした電圧と時間から下記式(1)により絶縁破壊電圧を求めた。なお、所定の温度は、-50℃、-30℃、30℃及び80℃とした。所定の課電方法とは、電位傾度50v/μmから、24時間ごとに10v/μmの割合で段階的に課電電圧を上昇させる方法である。結果を表1に示す。
【0046】
絶縁破壊電圧(v/μm)=V+s×(T/1440) ・・・(1)
【0047】
式(1)中、Vは絶縁破壊時の課電電圧(v/μm)を、Sは24時間ごとの上昇電圧(v/μm)を、Tは課電電圧上昇後、絶縁破壊までの経過時間(分)をそれぞれ示す。
【0048】