(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】遮熱コーティングの寿命推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20220509BHJP
【FI】
G01N17/00
(21)【出願番号】P 2018198303
(22)【出願日】2018-10-22
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 雅貴
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 大蔵
(72)【発明者】
【氏名】窪谷 悟
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-309504(JP,A)
【文献】特開2004-125575(JP,A)
【文献】特開2003-160852(JP,A)
【文献】特開平06-330278(JP,A)
【文献】特開平04-305155(JP,A)
【文献】特開平11-271211(JP,A)
【文献】特開平09-304131(JP,A)
【文献】米国特許第05916811(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00-17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に遮熱コーティングが形成された試験片に関して前記基材の表面側から裏面側に向けて温度が低下する条件で第1の熱サイクル試験を実行すると共に、前記試験片に関して前記基材の表面側から裏面側に渡って温度が同じ条件で第2の熱サイクル試験を実行する、熱サイクル試験工程と、
前記第1の熱サイクル試験および前記第2の熱サイクル試験において前記遮熱コーティングの剥離が生じたサイクル数と前記遮熱コーティングの剥離発生時に前記遮熱コーティングに加わった熱応力との関係式を導出する、関係式導出工程と、
実機で用いられる高温部品において前記遮熱コーティングの剥離が生ずる剥離寿命を前記関係式に基いて推定する、寿命推定工程と
を有する、
遮熱コーティングの寿命推定方法。
【請求項2】
前記寿命推定工程では、前記関係式において、前記高温部品に加わる熱応力の最大値から導かれるサイクル回数を前記剥離寿命として推定する、
請求項1に記載の遮熱コーティングの寿命推定方法。
【請求項3】
前記試験片は、金属材料で形成されたボンドコート層を介して、前記遮熱コーティングが多孔質構造で前記基材の表面に形成されており、
前記ボンドコート層は、前記第1の熱サイクル試験および前記第2の熱サイクル試験を実行する前に酸化されている、
請求項1または2に記載の遮熱コーティングの寿命推定方法。
【請求項4】
前記試験片は、実際に使用されている実機に設置された実機高温部品の一部である、
請求項1から3のいずれかに記載の遮熱コーティングの寿命推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、遮熱コーティングの寿命推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンやCO2タービンなどの機器において、高温環境下で用いられる高温部品(動翼、静翼など)は、基材の表面が遮熱コーティング(TBC;Thermal Barrier Coating)で保護されている。
【0003】
高温部品は、たとえば、タービン起動時に低温状態から高温状態になり、タービン停止時に高温状態から低温状態になる熱サイクルが繰り返されるために、基材の表面から遮熱コーティングが剥離する場合がある。具体的には、タービン起動時には作動媒体の供給によって高温部品の温度が上昇するので、基材と遮熱コーティングとの間に大きな熱伸び差が生じ、遮熱コーティングに引張りの熱応力が加わる。これに対して、タービン停止時には作動媒体の供給が停止されて高温部品の温度がタービン運転時よりも低下するので、遮熱コーティングには熱応力が加わらない。このように高温部品に繰り返し加わる熱応力に起因して、遮熱コーティングに亀裂が発生し、遮熱コーティングの剥離が発生する場合がある。
【0004】
遮熱コーティングの剥離が発生した場合には、基材の表面が高温の作動媒体に直接的に曝されるので、高温部品に損傷が発生する場合がある。このため、遮熱コーティングの再施工などの補修計画を立てるために、遮熱コーティングの寿命を推定する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】電力中央研究所 研究報告M15010(https://criepi.denken.or.jp/jp/kenkikaku/report/download/Bv10crvK2YAACuWJgT6CqujxqnszV1uh/M15010.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来においては、遮熱コーティングの寿命を簡便かつ的確に推定することが容易でない。たとえば、寿命の推定に用いるデータベースの取得に時間を要する場合がある。また、寿命の相対的な比較でなく、絶対的な寿命を的確に推定することが困難な場合がある。
【0008】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、遮熱コーティングの寿命を簡便かつ的確に推定可能な、遮熱コーティングの寿命推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態に係る遮熱コーティングの寿命推定方法は、熱サイクル試験工程と関係式導出工程と寿命推定工程とを有する。熱サイクル試験工程では、基材の表面に遮熱コーティングが形成された試験片に関して基材の表面側から裏面側に向けて温度が低下する条件で第1の熱サイクル試験を実行すると共に、その試験片に関して基材の表面側から裏面側に渡って温度が同じ条件で第2の熱サイクル試験を実行する。関係式導出工程では、第1の熱サイクル試験および第2の熱サイクル試験において遮熱コーティングの剥離が生じたサイクル数と遮熱コーティングの剥離発生時に遮熱コーティングに加わった熱応力との関係式を導出する。寿命推定工程では、実機で用いられる高温部品において遮熱コーティングの剥離が生ずる剥離寿命を関係式に基いて推定する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係る遮熱コーティングの寿命推定方法を示すフロー図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る遮熱コーティングの寿命推定方法において、第1の熱サイクル試験を実行するときの様子を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る遮熱コーティングの寿命推定方法において、第1の熱サイクル試験の試験条件を模式的に示す図である。
【
図4A】
図4Aは、実施形態に係る遮熱コーティングの寿命推定方法において、第2の熱サイクル試験を実行するときの様子を模式的に示す図である。
【
図4B】
図4Bは、実施形態に係る遮熱コーティングの寿命推定方法において、第2の熱サイクル試験を実行するときの様子を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る遮熱コーティングの寿命推定方法において、第2の熱サイクル試験の試験条件を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る遮熱コーティングの寿命推定方法において、関係式の一例を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係る遮熱コーティングの寿命推定方法において、高温部品の剥離寿命を推定する様子を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、実施形態の変形例1に係る遮熱コーティングの寿命推定方法において、関係式の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態に係る遮熱コーティングの寿命推定方法について、
図1を用いて説明する。
【0012】
[熱サイクル試験工程]
図1に示すように、遮熱コーティングの寿命を推定する場合には、まず、熱サイクル試験を実施する(ST10;熱サイクル試験工程)。
【0013】
ここでは、第1の熱サイクル試験と、第1の熱サイクル試験とは試験条件が異なる第2の熱サイクル試験とを実行する。詳細については後述するが、第1の熱サイクル試験は、温度勾配下での熱サイクル試験である。これに対して、第2の熱サイクル試験は、等温場での熱サイクル試験である。
【0014】
(第1の熱サイクル試験)
第1の熱サイクル試験を実行するときの様子について
図2および
図3を用いて説明する。
【0015】
第1の熱サイクル試験を実行する際には、
図2に示すように、基材11の表面にボンドコート層21を介して遮熱コーティング22が形成された試験片10を準備する。試験片10において、基材11は、たとえば、Ni基合金などの金属材料で形成されている。ボンドコート層21は、たとえば、MCrAlY(Mは、NiとCoの少なくとも一つ)などの金属材料を溶射することで形成されている。遮熱コーティング22は、たとえば、部分安定化ジルコニアなどのセラミック材料を溶射することで形成されている。試験片10は、たとえば、円柱形状に形成されている。
【0016】
試験片10は、
図2に示すように、載置台81に載置される。ここでは、試験片10においてボンドコート層21および遮熱コーティング22が設けられた表面が上方に向き、裏面が下方に向くように、試験片10が載置台81の上面に載せられる。
【0017】
載置台81は、
図2に示すように、表面に冷却媒体CLが供給されるように構成されており、載置台81に載せられた試験片10の裏面側を冷却する。たとえば、冷却媒体CLは、冷却水であって、冷却媒体CLが試験片10の裏面に直接的に供給される。載置台81の上方には、レーザー光源82が設置されている。レーザー光源82は、載置台81に載せられた試験片10にレーザー光LBを照射することによって、試験片10の表面側を加熱する。このように、試験片10は、レーザ加熱装置を用いて第1の熱サイクル試験が実行される。
【0018】
図3に示すように、第1の熱サイクル試験の一サイクルは、表面温度上昇時間H11、表面温度保持時間H12、および、表面温度下降時間H13のそれぞれにおいて、温度上昇、温度保持、および、温度下降のそれぞれが行われる。具体的には、表面温度上昇時間H11においては、試験片10の表面側へのレーザー光LBの照射が開始されることによって、試験片10の表面側が第1の表面温度T1
Sから第2の表面温度T1
Hに上昇する。そして、表面温度保持時間H12においては、レーザー光LBの照射が保持されることによって、試験片10の表面側が第2の表面温度T1
Hに保たれる。その後、表面温度下降時間H13においては、レーザー光LBの照射が停止されることによって、試験片10の表面側が第2の表面温度T1
Hから第1の表面温度T1
Sに下降する。第1の熱サイクル試験の一サイクルでは、試験片10の裏面側は、第1の表面温度T1
Sおよび第2の表面温度T1
Hよりも低い裏面温度T1
Lに保持される。
【0019】
第1の表面温度T1S、第2の表面温度T1H、および、裏面温度T1Lは、たとえば、下記の条件である。
・第1の表面温度T1S:100℃以上、200℃以下
・第2の表面温度T1H:900℃以上、1200℃以下
・裏面温度T1L:20℃以上、80℃以下
【0020】
また、表面温度上昇時間H11と表面温度保持時間H12との合計時間、および、表面温度下降時間H13は、たとえば、下記の条件である。各条件は、適宜、変更可能である。
・表面温度上昇時間H11と表面温度保持時間H12との合計時間:100秒以上、200秒以下
・表面温度下降時間H13:50秒以上、150秒以下
【0021】
上記のように、第1の熱サイクル試験は、基材11の表面に遮熱コーティング22が形成された試験片10に関して基材11の表面側から裏面側に向けて温度が低下する条件で実行される。つまり、第1の熱サイクル試験においては、試験片10が第1の表面温度T1Sと第2の表面温度T1Hとに変わることが繰り返し実行される。
【0022】
このとき、第1の熱サイクル試験において遮熱コーティング22の剥離が生じたサイクル数(剥離サイクル数)を求める。ここでは、試験片10を目視で観察して、遮熱コーティング22の剥離の有無を判断することで、遮熱コーティング22の剥離が生じたサイクル数(剥離サイクル数)を求める。その他、赤外線サーモグラフィを用いて、遮熱コーティング22の剥離が生じたサイクル数(剥離サイクル数)を求めてもよい。
【0023】
(第2の熱サイクル試験)
第2の熱サイクル試験を実行するときの様子について
図4A、
図4B、および、
図5を用いて説明する。
図4Aは、加熱時の状態を示し、
図4Bは、冷却時の状態を示している。
【0024】
第2の熱サイクル試験を実行する際には、
図4Aおよび
図4Bに示すように、第1の熱サイクル試験の場合と同様に、基材11の表面にボンドコート層21を介して遮熱コーティング22が形成された試験片10を準備する。そして、たとえば、電気炉を用いて第2の熱サイクル試験が実行される。
【0025】
試験片10は、
図4Aおよび
図4Bに示すように、載置台91に載置される。ここでは、試験片10においてボンドコート層21および遮熱コーティング22が設けられた表面が上方に向き、裏面が下方に向くように、試験片10が載置台91の上面に載せられる。
【0026】
図4Aおよび
図4Bに示すように、一対のヒータ911,92が設けられている。
図4Aに示すように、試験片10を加熱する際には、一対のヒータ911,92は、試験片10の上方および下方に位置した状態になる。これにより、試験片10の裏面側がヒータ911で加熱され、試験片10の表面側がヒータ92で加熱される。これに対して、
図4Aに示すように、試験片10を冷却する際には、一対のヒータ911,92は、試験片10の上方および下方に位置せずに、試験片10から離れた位置に移動する。
【0027】
図5に示すように、第2の熱サイクル試験の一サイクルは、全体温度上昇時間H21、全体温度保持時間H22、および、全体温度下降時間H23のそれぞれにおいて、温度上昇、温度保持、および、温度下降のそれぞれが行われる。第2の熱サイクル試験は、第1の熱サイクル試験の場合と異なり、試験片10の表面側から裏面側に渡って温度が均一になる状態で実行される。具体的には、全体温度上昇時間H21では、試験片10の全体は、第1の全体温度T2sから第2の全体温度T2に上昇する。そして、全体温度保持時間H22では、加熱状態を保持することによって、試験片10の全体が第2の全体温度T2に保たれる。その後、全体温度下降時間H23では、加熱が停止されることによって、試験片10の全体が、第2の全体温度T2から第1の全体温度T2
Sに下降する。
【0028】
第1の全体温度T2S、および、第2の全体温度T2は、たとえば、下記の条件である。
・第1の全体温度T2S:100℃以上、200℃以下
・第2の全体温度T2:800℃以上、1200℃以下
【0029】
また、全体温度上昇時間H21と全体温度保持時間H22との合計時間、および、全体温度下降時間H23は、たとえば、下記の条件である。
・全体温度上昇時間H21と全体温度保持時間H22との合計時間:20分以上、40分以下
・全体温度下降時間H23:20分以上、40分以下
【0030】
上記のように、第2の熱サイクル試験は、試験片10に関して基材11の表面側から裏面側に渡って温度が同じ条件で実行される。つまり、第2の熱サイクル試験においては、試験片10の全体が第1の全体温度T2Sと第2の表面温度T2とに変わることが繰り返し実行される。
【0031】
このとき、第2の熱サイクル試験において遮熱コーティング22の剥離が生じたサイクル数(剥離サイクル数)を求める。ここでは、第1の熱サイクル試験の場合と同様に、遮熱コーティング22の剥離の有無を判断することで、遮熱コーティング22の剥離が生じたサイクル数(剥離サイクル数)を求める。
【0032】
[関係式導出工程]
上記のように熱サイクル試験を実施した後には(ST10)、
図1に示すように、関係式を導出する(ST20;関係式導出工程)。
【0033】
ここでは、第1の熱サイクル試験および第2の熱サイクル試験において遮熱コーティング22の剥離が生じたサイクル数と遮熱コーティングの剥離発生時に遮熱コーティング22に加わった熱応力との関係式を導出する。
【0034】
遮熱コーティング22の剥離発生時に遮熱コーティング22に加わった熱応力を求める際には、まず、試験片10に関して熱応力解析を実行することによって熱応力分布を求める。そして、その求めた熱応力分布において熱応力の最大値を、遮熱コーティング22の剥離発生時に遮熱コーティング22に加わった熱応力として求める。なお、熱応力は、遮熱コーティング22において基材11の側に位置する界面の近傍で最大値になる。
【0035】
関係式の導出に関して
図6を用いて例示する。
図6において、縦軸は、熱応力HSの値を示し、横軸は、遮熱コーティング22の剥離が生じたサイクル数HCの対数値(log(HC))を示している。
【0036】
図6に示すように、関係式F1の導出を実行する際には、各熱サイクル試験において剥離が生じたサイクル数HCの対数値(log(HC))と、剥離発生時に遮熱コーティング22に加わった熱応力の値との関係を示すデータをプロットする。たとえば、
図6において、点P11は、第1の熱サイクル試験において剥離が生じたサイクル数HCの対数値(log(HC))と、その第1の熱サイクル試験で剥離が発生した時に遮熱コーティング22に加わった熱応力の値との関係を示すデータである。点P21、点P22、および、点P23は、第2の熱サイクル試験において剥離が生じたサイクル数HCの対数値(log(HC))と、その第2の熱サイクル試験で剥離が発生した時に遮熱コーティング22に加わった熱応力の値との関係を示すデータである。点P21と点P22と点P23とのそれぞれは、互いに異なる熱応力が発生する条件(たとえば、異なる温度条件)で第2の熱サイクル試験を実施することによって得られたデータである。
【0037】
そして、各データに基いて、たとえば、最小二乗法によって一次関数の近似式F0を導く。たとえば、下記のように、近似式F0が求められる(傾きa0,切片b0は、定数)。
【0038】
HS=a0・log(HC)+b0 ・・・(F0)
【0039】
そして、上記の近似式F0から関係式F1を求める。ここでは、近似式F0の傾きa0と傾きが同じであって、各点P11,P21,P22,P23のデータが導かれる複数の一次関数のうち、切片が最小値になる一次関数を関係式F1として求める。このため、下記のように、関係式F1が求められる。つまり、
図6の場合には、点P21のデータが導かれる一次関数の切片b1が他の各点P11,P22,P23が導かれる他の一次関数の切片よりも小さいので、点P21のデータが導かれる一次関数が関係式F1として求められる。
【0040】
HS=a0・log(HC)+b1 ・・・(F1)
【0041】
このように、本実施形態では、熱応力が異なる条件で複数の熱サイクル試験を実行し、その複数の熱サイクル試験において剥離が生じたサイクル回数の結果を用いて、上記の関係式F1を求める。
【0042】
[寿命推定工程]
上記のように、関係式を導出した後には(ST20)、
図1に示すように、剥離寿命の推定を行う(ST30;寿命推定工程)。
【0043】
ここでは、上記した試験片10と同様に基材11にボンドコート層21および遮熱コーティング22が形成された高温部品(図示なし)に関して、遮熱コーティングの剥離が生ずる剥離寿命を、上記した関係式に基いて推定する。たとえば、ガスタービン、CO2タービンなどの機器で用いられる、動翼、静翼などの高温部品に関して、遮熱コーティングの剥離が生ずる剥離寿命を推定する。
【0044】
高温部品の剥離寿命を推定に関して
図7を用いて例示する。
図7においては、縦軸は、
図6と同様に、熱応力HSの値を示し、横軸は、遮熱コーティング22の剥離が生じたサイクル数HCの対数値(log(HC))を示している。
【0045】
高温部品の剥離寿命を推定する際には、高温部品に関して熱応力解析を実行することによって熱応力分布を算出し、その熱応力分布において熱応力の最大値HSJを求める。そして、上記の関係式F1において、高温部品に加わる熱応力の最大値HSJから導かれるサイクル回数HSJの対数値(log(HCJ))を算出する。その後、その対数値(log(HCJ))から導かれるサイクル回数HSJを剥離寿命として推定する。
【0046】
以上のように、本実施形態では、基材11の表面に遮熱コーティング22が形成された試験片10に関して基材11の表面側から裏面側に向けて温度が低下する条件で第1の熱サイクル試験を実行する。これと共に、同様に形成された試験片10に関して基材11の表面側から裏面側に渡って温度が同じ条件で第2の熱サイクル試験を実行する。そして、第1の熱サイクル試験および第2の熱サイクル試験において遮熱コーティング22の剥離が生じたサイクル数と剥離発生時に遮熱コーティング22に加わった熱応力との関係式を用いて、実機で用いられる高温部品において遮熱コーティングの剥離が生ずる剥離寿命を推定する。
【0047】
このため、本実施形態では、遮熱コーティングの寿命を簡便かつ的確に推定することができる。その結果、本実施形態においては、遮熱コーティングの再施工などの補修計画を的確かつ容易に立てることができる。なお、温度勾配下での第1の熱サイクル試験は、レーザ光源を用いて実行されるので、サイクル回数を容易に増加させることができる。また、等温場での第2の熱サイクル試験は、電気炉を用いて実行されるので、応力の増加が容易である。このため、それぞれの利点を考慮して、第1の熱サイクル試験と第2の熱サイクル試験とを行うことによって、遮熱コーティングの寿命推定を効率的に実行可能である。
【0048】
[変形例]
上記の実施形態では、新品の試験片10について第1の熱サイクル試験および第2の熱サイクル試験を実行し、新品の高温部品の剥離寿命について推定する場合に関して説明したが、これに限らない。たとえば、下記の変形例に示すように、寿命の推定を実行してもよい。
【0049】
(変形例1)
変形例1では、経年劣化が生じた高温部品の剥離寿命について推定する場合について説明する。この場合には、試験片10について第1の熱サイクル試験および第2の熱サイクル試験を実行する前に、試験片10のボンドコート層21を酸化する酸化処理を予め実施する。そして、そのボンドコート層21が酸化された試験片10について第1の熱サイクル試験および第2の熱サイクル試験を実行する。そして、その結果に基づいて関係式の導出を実行した後に、その関係式を用いて経年劣化が生じた高温部品の剥離寿命を推定する。
【0050】
変形例2において導出される関係式に関して
図8を用いて例示する。
図8においては、
図6の場合と同様に、縦軸は、熱応力HSの値を示し、横軸は、遮熱コーティング22の剥離が生じたサイクル数HCの対数値(log(HC))を示している。また、上記した実施形態で導出された関係式F1については一点鎖線で示し、本変形例で導出される関係式F1bについては実線で示している。
【0051】
一般に、試験片10においてボンドコート層21が酸化されている場合には、ボンドコート層21が酸化されていない場合よりも低い熱応力で遮熱コーティング22の剥離が生ずる。このため、
図8に示すように、本変形例で導出される関係式F1bは、上記した実施形態で導出された関係式F1よりも切片が小さい状態になる。したがって、経年劣化が生じた高温部品は、剥離が生ずるサイクル数が小さく、剥離寿命が短くなると推定される。
【0052】
(変形例2)
変形例2では、実際に使用されている実機のタービンに設置された実機高温部品(使用中の高温部品)の剥離寿命を推定する場合について説明する。この場合には、実機のタービンに設置された実機高温部品の一部を試験片10として第1の熱サイクル試験および第2の熱サイクル試験を実行することによって関係式を導く。たとえば、定期検査の際に取り出した実機高温部品の一部を試験片10として用いる。使用中の高温部品は、経年劣化(ボンドコート層21の酸化等)が生じている。このため、使用中の高温部品の剥離寿命は、変形例1の場合と同様に、通常、新品の高温部品の剥離寿命よりも短くなると推定される。
【0053】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0054】
10…試験片、11…基材、21…ボンドコート層、22…遮熱コーティング、81…載置台、82…レーザー光源、91…載置台、92…ヒータ、911…ヒータ