IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社TF−METALの特許一覧 ▶ 株式会社タチエスの特許一覧

<>
  • 特許-車両用シートスライド装置 図1
  • 特許-車両用シートスライド装置 図2
  • 特許-車両用シートスライド装置 図3
  • 特許-車両用シートスライド装置 図4
  • 特許-車両用シートスライド装置 図5
  • 特許-車両用シートスライド装置 図6
  • 特許-車両用シートスライド装置 図7
  • 特許-車両用シートスライド装置 図8
  • 特許-車両用シートスライド装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】車両用シートスライド装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/07 20060101AFI20220509BHJP
【FI】
B60N2/07
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018202400
(22)【出願日】2018-10-29
(65)【公開番号】P2020069806
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】517251797
【氏名又は名称】株式会社TF-METAL
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【弁理士】
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】小泉 憲史
(72)【発明者】
【氏名】久保田 秀和
【審査官】小原 正信
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-052841(JP,A)
【文献】特開2006-035910(JP,A)
【文献】特開2005-008065(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0334316(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102015100931(DE,A1)
【文献】特開2019-093889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向での前後両端部が固定部材により車体に固定されると共に上面が開放された断面略コ字状のロアレールと、
前記ロアレールに対してその長手方向に摺動可能に嵌合するアッパレールと、
前記ロアレールに対する前記アッパレールの位置調整に際してそのロック,アンロックを司るロック機構と、
前記ロアレールに対する前記アッパレールの位置調整範囲を規制するストローク規制ストッパと、
を備えた車両用シートスライド装置において、
前記ロアレールの底壁部のうち当該ロアレールの後端部を前記車体に固定する前記固定部材よりも前方側のレール幅方向中央部に、側面視で略円弧状をなして上方に向かって突出する異物干渉部が切り起こし形成されていると共に、
前記異物干渉部は前側舌片部と後側舌片部とに切り離されていることを特徴とする車両用シートスライド装置。
【請求項2】
前記ロアレールの底壁部のうち当該ロアレールの後端部を前記車体に固定する前記固定部材よりも前方側のレール幅方向中央部に長手方向に延びる一対の長孔部が形成されていて、
前記一対の長孔部同士の間に前記異物干渉部が切り残されるかたちで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用シートスライド装置。
【請求項3】
前記異物干渉部は、前後方向の中央部よりも後側部分で前記前側舌片部と前記後側舌片部とに切り離されていて、
前記後側舌片部は、後方側に向かってレール幅方向で次第に幅広となる形状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の車両用シートスライド装置。
【請求項4】
前記ロアレールのレール幅方向において、前記一対の長孔部の外側に前記ストローク規制ストッパが設けられていることを特徴とする請求項2または3に記載の車両用シートスライド装置。
【請求項5】
前記異物干渉部を形成している前記前側舌片部と前記後側舌片部は、両者の対向端部同士を離間させるスリットをもって切り離されていて、
前記スリットは平面視でクランク状に形成されていることを特徴とする請求項3または4に記載の車両用シートスライド装置。
【請求項6】
前記前側舌片部と前記後側舌片部の対向端部が下向きに折り曲げられていることを特徴とする請求項3または4に記載の車両用シートスライド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるシートの位置調整のためにそのシートをスライド移動可能に支持する車両用シートスライド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シートの位置調整を手動で行う車両用シートスライド装置では、周知のように、車体フロア部に固定されるロアレールと、このロアレールに摺動可能に嵌合すると共にシートが搭載されることになるアッパレールと、を備えている。
【0003】
このようなシートスライド装置において、ロアレールに対してアッパレール(シート)を最前進位置までスライドさせた状態では、断面略コ字状のロアレールが上向きで開口した状態となるため、例えば乗員が落としたライタなどの異物がロアレール内に入り込むことが考えられる。
【0004】
このような状態でアッパレールを後方にスライドさせた際に、ロアレールを車体フロア部に固定しているボルトとアッパレールの後端との間での異物の挟み込みを防止して、アッパレールの動きに追従して異物がロアレールの後方にスムーズに排出されるようにするために、ロアレールに異物干渉部材を設けることが行われている。
【0005】
例えば特許文献1には、ばね鋼からなる異物干渉部材(異物排出/剥離防止部材61)を、ロアレールの底部に対してピンのかしめ加工により固定した構造のものが開示されている(特許文献1の図3を参照のこと)。
【0006】
また、特許文献2には、樹脂製の異物干渉部材(滑り台状のブロック体31)を、ロアレールの底部にいわゆる爪嵌合方式にて固定した構造のものが開示されている(特許文献2の図2を参照のこと)。
【0007】
さらに、特許文献3には、ロアレールとブラケットを連結しているリベットまたはボルトに隣接するように、ロアレールの底部に、コイン等の異物が乗り上げ可能な半球状の突出部(ダボ30)を一体に形成した構造のものが開示されている(特許文献3の図6,7を参照のこと)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-47659号公報
【文献】特開2008-265723号公報
【文献】特開2006-35910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された構造では、ばね鋼製の異物干渉部材を採用しているため、コストアップが余儀なくされる。その上、車体フロアに対するロアレールの位置決めを行うピンを、ロアレールに対する異物干渉部材の固定手段と兼用化しているため、レイアウト上の制約によっては、上記ピンと異物干渉部材の固定手段とを別々に設定する必要がある。その結果、部品点数の増加によってさらなるコストアップを招く恐れがある。
【0010】
また、特許文献2に開示された構造では、樹脂製の異物干渉部材を爪嵌合方式にてロアレールに固定する構造であるため、かしめ方式や溶接方式に比べて異物干渉部材が外れやすく、異物干渉部材の位置安定性の面で改善の余地が残されている。
【0011】
さらに、特許文献3に開示された構造では、特定のリベットまたはボルトに隣接するように半球状の突出部がロアレールに一体に形成されてはいても、リベットまたはボルトの頭部の高さが大きい場合、あるいはロアレールの材質に高張力系のものが採用されている場合には、十分な高さの突出部を形成することができなくなる。そのため、本来の異物干渉効果ひいては異物排出効果が発揮できない可能性がある。
【0012】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、ロアレールに異物干渉部を一体に形成することを前提としつつも、特許文献3に開示の技術のような種々の制約を緩和して、異物干渉による十分な異物排出効果が得られ、しかも異物干渉部を設けてもロアレールの十分な強度と剛性が得られるようにした車両用シートスライド装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、長手方向での前後両端部が固定部材により車体に固定されると共に上面が開放された断面略コ字状のロアレールと、前記ロアレールに対してその長手方向に摺動可能に嵌合するアッパレールと、前記ロアレールに対する前記アッパレールの位置調整に際してそのロック,アンロックを司るロック機構と、前記ロアレールに対する前記アッパレールの位置調整範囲を規制するストローク規制ストッパと、を備えた車両用シートスライド装置を前提としている。
【0014】
その上で、前記ロアレールの底壁部のうち当該ロアレールの後端部を前記車体に固定する前記固定部材よりも前方側のレール幅方向中央部に、側面視で略円弧状をなして上方に向かって突出する異物干渉部が切り起こし形成されていると共に、前記異物干渉部は前側舌片部と後側舌片部とに切り離されていることを特徴とする。
【0015】
異物干渉部が形成されるロアレールの十分な強度と剛性を確保する上で望ましい態様としては、前記ロアレールの底壁部のうち当該ロアレールの後端部を前記車体に固定する前記固定部材よりも前方側のレール幅方向中央部に長手方向に延びる一対の長孔部が形成されていて、前記一対の長孔部同士の間に前記異物干渉部が切り残されるかたちで形成されているものとする。
【0016】
同様の理由から、望ましい態様としては、前記異物干渉部は、前後方向の中央部よりも後側部分で前記前側舌片部と前記後側舌片部とに切り離されていて、前記後側舌片部は、後方側に向かってレール幅方向で次第に幅広となる形状に形成されているものとする。
【0017】
さらに同様の理由から望ましい態様としては、前記ロアレールのレール幅方向において、前記一対の長孔部の外側に前記ストローク規制ストッパが設けられているものとする。
【0018】
異物干渉部によるスムーズな異物排出効果の上で望ましい態様としては、前記異物干渉部を形成している前記前側舌片部と前記後側舌片部は、両者の対向端部同士を離間させるスリットをもって切り離されていて、前記スリットは平面視でクランク状に形成されているものとする。
【0019】
異物干渉部によるさらなるスムーズな異物排出効果の上で望ましい態様としては、前記前側舌片部と前記後側舌片部の対向端部が下向きに折り曲げられているものとする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、側面視で略円弧状に形成された異物干渉部が前側舌片部と後側舌片部とに切り離されているため、異物干渉部の高さを十分に確保して、異物干渉によるスムーズな異物排出効果が期待できる。
【0021】
特に、レール幅方向中央部に長手方向に延びる一対の長孔部が形成されていて、それらの一対の長孔部同士の間に異物干渉部が切り残されるかたちで形成されている態様では、ロアレール自体が断面略コ字状のものであることとも相俟って、ロアレールの底壁部に長孔部と共に異物干渉部が形成されていても、ロアレール自体の十分な強度と剛性を確保できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係るシートスライド装置の第1の実施の形態を示す図で、シートスライド装置を含む車両用シートの一例を示す斜視図。
図2図1に示したシートスライド装置に二つで一組として用いられる一方のシートレールの詳細を示す図で、アッパレールが最後退位置にある状態での断面説明図。
図3】同じく一方のシートレールの詳細を示す図で、アッパレールが最前進位置にある状態での断面説明図。
図4図3に示したシートレールのA-A線に沿った拡大断面説明図。
図5図2,3に示したロック機構の構成要素であるロックレバーの概略を示す斜視図。
図6図2,3に示したロック機構の構成要素である解除レバーの概略を示す斜視図。
図7図3のB部の拡大図で、(a)は平面図、(b)は同図(a)のC-C線に沿った断面説明図。
図8】本発明に係るシートスライド装置の第2の実施の形態として、図7と同等部位を示す拡大図で、(a)は平面図、(b)は同図(a)のD-D線に沿った断面説明図。
図9】本発明に係るシートスライド装置の第3の実施の形態として、図7と同等部位を示す拡大図で、(a)は平面図、(b)は同図(a)のE-E線に沿った断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1~7は本発明に係るシートスライド装置を実施するためのより具体的な第1の形態を示し、特に図1は本実施の形態のシートスライド装置を含む車両用シート(以下、単に「シート」と言う。)の一例を示している。なお、図1の矢印Fは車両前方方向を示している。
【0024】
図1に示すように、シートクッション1aとシートバック1bとからなるシート1は、シートスライド装置2の上に搭載される。シートスライド装置2は、車両前後方向に延在する左右で一組のシートレール3を主要素として構成される。各シートレール3は左右共に同じ構造のものであり、互いに平行となるように車幅方向で並んで配置される。
【0025】
各シートレール3は、後述するように、ロアレール4と、そのロアレール4にスライド可能に嵌合するアッパレール5と、から構成される。シート1は各アッパレール5に固定されると共に、各ロアレール4は車体のフロア部に固定される。そして、シートスライド装置2に付帯している操作ハンドル6を例えば引き上げ操作することで、ロアレール4に対するアッパレール5のロック状態が解除されて、シート1の前後方向での位置調整が可能となる。
【0026】
図2,3は図1に示した一方のシートレール3の詳細を示す断面図であり、図2はロアレール4に対してアッパレール5が最後退位置まで後退した状態を、図3はロアレール4に対して逆にアッパレール5が最前進位置まで前進した状態をそれぞれ示している。また、図4図3のA-A線に沿った拡大断面図である。なお、図1と同様に、図2,3の矢印Fは車両前方方向を示している。
【0027】
図2~4に示すように、シートレール3は、ロアレール4と、このロアレール4に対して長手方向で摺動可能に、すなわち長手方向にスライド移動可能に嵌合保持されたアッパレール5と、から構成される。
【0028】
図4から明らかなように、ロアレール4は、金属板を折り曲げることで上面が開放された断面略コ字状のものとして形成されている。ロアレール4は、底壁部4aと両側の側壁部4bとに加えて、双方の側壁部4bの開放端側を連接部4cを介して内側に折り曲げた下向きの起立壁部4dを有している。
【0029】
他方、ロアレール4の内部にスライド可能に嵌合保持されるアッパレール5は、金属板を折り曲げることで下面が開放された断面略コ字状のものとして形成されている。アッパレール5は、天壁部5aと両側の側壁部5bとに加えて、双方の側壁部5bの開放端を外側に湾曲させつつ上方へ折り曲げた湾曲壁部5cを有している。なお、ロアレール4およびアッパレール5に要求される強度を考慮して、それらの素材には、例えば引っ張り強度が590MPa以上の高張力鋼板が用いられる。特に、近時では、軽量化を目的に引っ張り強度が980MPaの超高張力鋼板が用いられるようになっている。
【0030】
ロアレール4にアッパレール5をスライド可能に組み付ける際には、図4に示すように、ロアレール4の幅方向両側において、側壁部4bと起立壁部4dの間にアッパレール5の湾曲壁部5cが挟み込まれるように嵌合される。また、ロアレール4とアッパレール5との間には、レール幅方向の左右で独立したボールリテーナ7に保持された転動体としての複数のスチールボール8が介装される。なお、図4ではボールリテーナ7を図示省略している。
【0031】
図2,3に示すように、シートレール3の前端部および後端部にそれぞれ左右一対の略矩形状をなすボールリテーナ7が設けられていて、一つのボールリテーナ7につき4個のスチールボール8が保持されている。そして、アッパレール5のスライド移動に追従してそれらのスチールボール8が転動することで、いわゆる直動軸受と同等の機能が発揮されることになる。なお、スチールボール8を保持している各ボールリテーナ7は、アッパレール5の動きに追従してスライド移動可能ではあるもの、ロアレール4とアッパレール5とが長手方向で重なり合っている範囲から逸脱することがないように位置規制されている。
【0032】
上記のように、アッパレール5と組み合わされたロアレール4は、前後両端部に配置される固定部材としての取付ボルト9とロケートピン10(図2,3参照)のほか、ブラケット11を介して車体のフロアに固定される。なお、ロアレール4の前側のブラケット11に挿入される取付ボルトは図示省略している。また、ブラケット11の代わりに図示しないレッグ部材を介して車体に固定する場合、ロアレール4とレッグ部材とを、上記取付ボルト9に代わってリベットを用いて固定することもある。
【0033】
また、アッパレール5には、図2,3に示した複数の取付ボルト12を用いて、先に述べたようにシート1におけるシートクッション1a側のシートフレームが固定される。そして、図1に示すように、双方のシートレール3のアッパレール5にまたがるかたちで、平面視で略コ字状をなすパイプ状の操作ハンドル6が連結される。
【0034】
図2,3に示すように、アッパレール5には、シート1の前後方向での位置調整に際して、そのロック,アンロックを司るロック機構13が設けられる。このロック機構13は、本出願人が先に出願している特開2018-58576号公報に記載されているものと同様であるので、ここではその概略のみを説明する。
【0035】
図2,3に示したロック機構13は、概略的には、アッパレール5の前端部内に配置されるロック部材14と、アッパレール5の前端部内においてロック部材14と長手方向の一部が重なるように配置される解除レバー15と、ロック部材14および解除レバー15の前端部に挿入・連結されることになる図1の操作ハンドル6と、を主要素として構成される。そして、ロック機構13の主要素であるロック部材14の概略を図5に、解除レバー15の概略を図6にそれぞれ示している。
【0036】
ロック部材14は、図5に示すように、例えばばね鋼をもって細長い略フラットバー状のものとして形成されていて、長手方向の中間部には取付部となる取付孔16が形成されている。また、ロック部材14の後端部は幅広のフラット部17となっていて、このフラット部17にはアッパレール5のレール長手方向に並ぶように複数のロック孔18aが形成されている。その結果として、はしご歯状の複数のロック歯18が形成されている。
【0037】
このロック部材14のロック歯18に対応して、図2,3に示すように、アッパレール5の双方の側壁部5bには、複数のロック歯18を含むフラット部17の前後方向長さMを受容し得る切欠部19が形成されている。また、この切欠部19の上縁には、この上縁から下方へ突出して上記ロック部材14のロック孔18aに係合可能な当該ロック孔18aの数に対応した数(本実施の形態では二つ)の爪部19aが形成されている。
【0038】
同様に、ロック部材14のロック歯18に対応して、ロアレール4の双方の起立壁部4dには、ロック部材14におけるロック歯18のピッチと同じピッチで、多数のロック溝20が前後方向に沿って形成されている。したがって、後述するように、アッパレール5の切欠部19に嵌合している複数のロック歯18が、同時にロアレール4のロック溝20に噛み合うことで、ロアレール4に対してアッパレール5がスライド移動不能にロックされる。
【0039】
図2,3に示すように、ロック部材14の取付孔16とアッパレール5の天壁部5aとにまたがるかたちで、下部に大径のフランジ部21a(図3参照)を備えたリベット21が挿入されていて、天壁部5aの上面側からかしめ加工が施されている。これにより、ロック部材14はアッパレール5の天壁部5aに固定されている。
【0040】
解除レバー15は、図6に示すように、ロック部材14のうち前端部14aとロック歯18以外の部分を両側から挟み込むように変形ボックス状に形成されている。解除レバー15の双方の側壁部15aには、互いに内側に向かって突出する係止凸部22が形成されている。さらに、双方の側壁部15aの上端面の長手方向中間部には凹部23が形成されている。
【0041】
解除レバー15の係止凸部22は図2,3に示したリベット21のフランジ部21aの上方に配置され、同時に、凹部23が図5に示したロック部材14の突起部14bに揺動可能に支持されるようになっている。また、解除レバー15の前端部にはチャンネル部24が形成されていると共に、解除レバー15の後端部には湾曲凸部25が曲折形成されている。この湾曲凸部25は、図5に示したロック部材14のフラット部17の上面に当接するようになっている。そして、図2,3に示すように、解除レバー15のチャンネル部24に対して、操作ハンドル6の後端接続部6aが嵌合・接続される。
【0042】
解除レバー15は、図2,3に示したアッパレール5の前後方向において、ロック部材14の前端部14aとフラット部17とにより、チャンネル部24および湾曲凸部25がそれぞれ上方に付勢されている。そのため、解除レバー15は、凹部23がロック部材14の突起部14bに押し付けられる。これにより、リベット21のフランジ部21aに係止凸部22が接触することなく、解除レバー15が突起部14bを支点として揺動変位可能となっている。
【0043】
このようなロック機構13の構造では、図2,3ではロック状態を示していることから、このロック状態から図1に示した操作ハンドル6を引き上げると、解除レバー15は、ロック部材14の突起部14bを支点として図2,3の時計回り方向に揺動変位する。それに伴って、解除レバー15の後端部の湾曲凸部25がロック部材14のフラット部17を下方に押し下げることで、複数のロック歯18がロアレール4のロック溝20から外れてアンロック(ロック解除)状態となる。
【0044】
これにより、初めてロアレール4に対するアッパレール5のスライド移動、ひいては図1に示したシート1の前後方向での位置調整が可能となる。また、操作ハンドル6の引き上げ操作力を解除すると、ロック部材14自体のばね力により、当該ロック部材14および解除レバー15が直ちに先のロック状態に復帰することになる。
【0045】
なお、このロック機構13の構造はあくまで一例であって、同等の機能が発揮されるならば、他の形式のロック機構を採用することができることは言うまでもない。
【0046】
図7の(a)は図3のB部の拡大した平面図を示し、図7の(b)は同図(a)のC-C線に沿った断面説明図を示している。なお、図7では、図2,3に示した取付ボルト9は図示省略している。
【0047】
図7の(a),(b)に示すように、ロアレール4の底壁部4aのうち、図2,3に示した固定部材としての取付ボルト9が挿入される取付孔26に近接して、その取付孔26の前方側に異物干渉部27が形成されている。この異物干渉部27は、図3に示すように、ロアレール4に対してアッパレール5が最前進位置にある状態で、例えば乗員が落としたライタその他の異物Wがロアレール4内に入り込んだ場合の排出対策として設けられる。
【0048】
すなわち、異物干渉部27は、ロアレール4に異物Wが入り込んだ状態のままでアッパレール5を後退させた場合に、異物Wが異物干渉部27を導入部としてそれに近接する取付ボルト9の頭部9aに乗り上げて、取付ボルト9の後方側にスムーズに排出されるように誘導する役目をする。このようなことから、異物干渉部27は、取付ボルト9の頭部9aと同等の高さ位置まで及ぶように形成されていることが望ましい。なお、取付ボルト9としては、上記のように頭部9a上を異物Wが通過することを考慮して、その頭部9aが偏平な円錐台形状のものが採用されている。
【0049】
より詳しくは、図2,3に示すように、ロアレール4のうちその前部および後部には、ロアレール4に対するアッパレール5のストローク規制ストッパとしての固定側となる前側ストッパ28と後側ストッパ29が形成されている。これらの前側ストッパ28および後側ストッパ29は、ロアレール4の底壁部4aの一部を斜め上方に向けて切り起こすかたちで、レール幅方向で対向するように対をなして形成されている。
【0050】
他方、図2,3および図4に示すように、ロアレール4の前側ストッパ28および後側ストッパ29に対応して、アッパレール5の長手方向の中間部には可動側ストッパ30が形成されている。この可動側ストッパ30は、図4に示したアッパレール5の両側壁部5bを、上記前側ストッパ28および後側ストッパ29と干渉し得るように、下方へ延長するかたちで、レール幅方向で対向するように対をなして形成されている。
【0051】
したがって、図2に示すように、アッパレール5を最後退位置まで後退させた時には、可動側ストッパ30が後側ストッパ29に当接することで、アッパレール5がその位置に位置規制される。同様に、図3に示すように、アッパレール5を最前進位置まで前進させた時には、可動側ストッパ30が前側ストッパ28に当接することで、アッパレール5がその位置に位置規制される。
【0052】
ロアレール4の底壁部4aに形成された上記ストローク規制ストッパとしての後側ストッパ29が図7の(a)にわかりやすく描かれている。この双方の後側ストッパ29を切り起こすためのスリットが、後側ストッパ29を超えてその前方側まで大きく延長されて、それぞれの後側ストッパ29を取り囲む異形の長孔部31として形成されている。長孔部31が後側ストッパ29の前方側まで大きく延長されていることにより、長孔部31は実質的に異物干渉部27と共用化されている。それによって、ロアレール4の底壁部4aにおいて、双方の長孔部31同士の間に切り残されるかたちで、前後方向に沿って異物干渉部27が切り起こし形成されている。
【0053】
この異物干渉部27は、双方の長孔部31同士の間に前後方向に沿って帯状で且つブリッジ状に切り残された上で、上方に向かって凸形状となるように緩やかな略円弧状に膨出形成されている。この異物干渉部27の後半部は後方側に向かって次第に幅広になるように略台形状に形成されている。
【0054】
さらに、異物干渉部27の前後方向での全長のうち中央部分よりも後方側の部分に、双方の長孔部31同士を接続するかたちでスリット32が形成されている。これにより、異物干渉部27は、片持ち支持形態で帯状をなす前側舌片部27aと、それよりも前後方向長さが小さく片持ち支持形態の略台形状をなす後側舌片部27bと、に切り離されている。
【0055】
ただし、異物干渉部27が前側舌片部27aと後側舌片部27bとに切り離されてはいても、双方の自由端はスリット32を挟んで対向しつつ、段差を生じることなく共通の円弧状面上に位置している。そして、図2,3に示すように、異物干渉部27の最大高さ位置は、取付ボルト9の頭部9aとほぼ同等の高さ位置まで及ぶように形成されている。
【0056】
また、上記のように、双方の長孔部31に挟まれるかたちで異物干渉部27が形成されていても、双方の長孔部31の外側にはさらに後側ストッパ29が斜めに切り起こし形成されているので、異物干渉部27の周囲での十分な強度と剛性が確保されている。
【0057】
したがって、このような異物干渉部27がロアレール4に形成されているシートスライド装置2では、図3に示したように、例えば乗員が落としたライタその他の異物Wがロアレール4内に入り込んでしまった場合に、その異物Wをスムーズに排出するように異物干渉部27が機能する。
【0058】
すなわち、図3に示すように、ロアレール4内に異物Wが入り込んだ状態のままでアッパレール5を後退させた場合に、異物Wが異物干渉部27を導入部としてそれに近接する取付ボルト9の頭部9aに乗り上げて、アッパレール5の後退動作に追従して、取付ボルト9の後方側に異物Wがスムーズに排出されるようになる。そのため、アッパレール5を後退させた際に、アッパレール5の後端と取付ボルト9との間に異物Wを挟み込んでしまうこともなければ、異物Wの存在によってアッパレール5の後退動作が阻害されることもない。
【0059】
このように本実施の形態のシートスライド装置2によれば、ロアレール4の底壁部4aに異物干渉部27が一体的に形成されていることで、異物干渉部27が外れてその機能を失ってしまうこともなければ、部品点数および組付工数の削減によるコストダウンを図ることができる。その上、ロアレール4内に異物Wが入り込んでしまった場合でも、その異物Wをスムーズに排出することができるので、アッパレール5のスライド動作に支障をきたすこともない。
【0060】
また、二つの長孔部31に挟まれるかたちで異物干渉部27が形成されてはいても、図4に示すように、ロアレール4自体が底壁部4aとその両側の側壁部4bとで断面略コ字状に形成されていると共に、連接部4cと起立壁部4dとを有する断面形状のものとなっているのに加えて、図7に示すように、長孔部31に隣接して後側ストッパ29が斜めに切り起こし形成されているので、ロアレール4のうち異物干渉部27の周囲での十分な強度を剛性を確保することができる。
【0061】
その上、異物干渉部27の一部を形成している後側舌片部27bは、後方側に向かって次第に幅広になるように略台形状に形成されているので、異物干渉部27の周囲での強度と剛性がさらに十分なものとなる。そのため、後側舌片部27bの後方側に、固定部材である取付ボルト9のための取付孔26を近接して配置することが可能となる。結果的には、前側舌片部27aと後側舌片部27bとからなる異物干渉部27のほか、一対の後側ストッパ29および取付ボルト9のための取付孔26を、互いに近接するように集約して設定することができ、レイアウトの自由度が高いものとなる。
【0062】
図8の(a),(b)は、本発明に係るシートスライド装置の第2の実施の形態を示していて、図7の(a),(b)と同等部位を示している。そして、図8の(a),(b)では、図7の(a),(b)と共通する部分に同一符合を付してある。
【0063】
図8の(a),(b)に示す第2の実施の形態では、異物干渉部37を前側舌片部37aと後側舌片部37bとに切り離しているスリット33の形状が図7の(a),(b)に示したものとは異なっている。
【0064】
図8の(a),(b)に示した異物干渉部37におけるスリット33は、平面視にてクランク状に形成されている。その結果、前側舌片部37aと後側舌片部37bの自由端部における対向端面が互いに逆向きのL字状に形成されていて、それらの対向端面同士が凹と凸の関係をもって互いにはまり合うようにしてスリット33の幅に相当する間隔を隔てて対向している。なお、前側舌片部37aと後側舌片部37bの対向端面において凸となる部分の突出長L1は、スリット33の前後方向での幅寸法(間隔)G1よりも十分に大きく設定されている。
【0065】
したがって、この第2の実施の形態では、先の第1の実施のものと同様の効果が得られることはもちろんのこと、仮にスリット33の幅に相当する間隔G1が前後方向に広がったとしても、前側舌片部37aと後側舌片部37bの対向端面同士が凹と凸の関係をもって互いにはまり合うようにして対向していることには変わりはない。そのため、上向き円弧状の異物干渉部37がスリット33の前後方向での幅寸法以上の間隔をもって途切れてしまうことがない。
【0066】
このことは、例えば図2,3に示した取付ボルト9の頭部9aの高さに応じて、上方に向かって凸形状をなす円弧状の異物干渉部37の突出長を大きくした場合に特に有利であり、上方への突出長が大きくなったとしても必要十分な異物Wの排出効果が期待できる。
【0067】
図9の(a),(b)は、本発明に係るシートスライド装置の第3の実施の形態を示していて、図7の(a),(b)と同等部位を示している。そして、図9の(a),(b)では、図7の(a),(b)と共通する部分に同一符合を付してある。
【0068】
図9の(a),(b)に示す第3の実施の形態では、異物干渉部27のうちスリット32を隔てて対向している前側舌片部27aと後側舌片部27bの対向端面を含む端部を、それぞれ略くの字状をなすように下向きに折り曲げて屈曲片部27cを形成した点で図7の(a),(b)に示したものとは異なっている。
【0069】
この第3の実施の形態では、先の第1の実施のものと同様の効果が得られることはもちろんのこと、異物干渉部27の上面の円弧状面に、前側舌片部27aと後側舌片部27bの対向端面でのエッジ部が露出していないことになる。そのため、例えば異物干渉部27上に乗り上げた異物Wが滑りながら移動する際に、上記エッジ部に引っ掛かることがない。それによって、後方側への異物Wの排出がよりスムーズに行われるようになる。
【符号の説明】
【0070】
2…シートスライド装置
4…ロアレール
4a…底壁部
5…アッパレール
9…取付ボルト(固定部材)
13…ロック機構
27…異物干渉部
27a…前側舌片部
27b…後側舌片部
27c…屈曲片部
28…前側ストッパ(ストローク規制ストッパ)
29…後側ストッパ(ストローク規制ストッパ)
31…長孔部
32…スリット
33…スリット
37…異物干渉部
37a…前側舌片部
37b…後側舌片部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9