(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】糖鎖リモデリングされたFc含有分子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/08 20060101AFI20220509BHJP
C12P 19/18 20060101ALI20220509BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20220509BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20220509BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20220509BHJP
C12N 15/56 20060101ALN20220509BHJP
【FI】
C12P21/08
C12P19/18
C12N9/10
C07K16/00 ZNA
C12N15/09 Z
C12N15/56
(21)【出願番号】P 2018525301
(86)(22)【出願日】2017-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2017024206
(87)【国際公開番号】W WO2018003983
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2016131450
(32)【優先日】2016-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【氏名又は名称】石橋 公樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161160
【氏名又は名称】竹元 利泰
(72)【発明者】
【氏名】岩本 充広
(72)【発明者】
【氏名】大石 昇平
(72)【発明者】
【氏名】関口 幸子
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 洋行
(72)【発明者】
【氏名】宮内 隆記
(72)【発明者】
【氏名】本田 雄
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-082962(JP,A)
【文献】特表2015-507925(JP,A)
【文献】藤田清貴 ほか,微生物酵素を用いた糖タンパク質糖鎖の自由なモデリング,科学と生物,2003年,Vol. 41(4), pp. 244-249
【文献】野口 真人 ほか,糖オキサゾリンの一段階合成がもたらす構造明確な糖タンパク質合成,Trends in Glycoscience and Glycotechnology,2015年,Vol. 27(158), pp. J35-J42
【文献】研究の背景,Kajihara Laboratory[online],2015年05月03日,https://web.archive.org/web/20160503171417/https://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/kajihara/background.html,[retrieved on 4.26.2021]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
A61K 38/00-38/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元末端が活性化されていない複合型糖鎖を含む糖鎖ドナー分子、N297 糖鎖の非還元末端にGlcNAcを有するFc含有分子であるアクセプター分子、当該糖鎖ドナー分子の複合型糖鎖を基質とするがFc含有分子のN297糖鎖を基質としないエンドーβ-Nアセチルグルコサミニダーゼ(酵素A)、及び、Fc含有分子のN297糖鎖を基質とするエンドーβ-Nアセチルグルコサミニダーゼ(酵素B)を同一の反応液中で反応させる工程、を含む、糖鎖ドナー分子に由来する複合型糖鎖を含むN297糖鎖を有するFc含有分子の製造方法:
ここで、酵素Aは、
EndoM N175Q、またはEndoCC N180Hであり、
酵素Bは、
EndoS D233Q、EndoS D233Q/Q303L、またはEndoS D233Q/E350Qである。
【請求項2】
反応液から糖鎖ドナー分子に由来する複合型糖鎖を含むN297糖鎖を有するFc含有分子を精製する工程をさらに含む、請求項1の製造方法。
【請求項3】
糖鎖ドナー分子が有する複合型糖鎖が、非還元末端が化学修飾されていても良いN結合型糖鎖又はO結合型糖鎖である請求項1または2の製造方法。
【請求項4】
糖鎖ドナー分子が、含まれる複合型糖鎖の非還元末端が化学修飾されていても良い(MSG1-)Asn、(MSG2-)Asn、SGPまたは(SG-)Asnである請求項3の製造方法。
【請求項5】
アクセプター分子が、GlcNAc又は(Fucα1,6)GlcNAcからなるN297糖鎖を有するFc含有分子である請求項1~4のいずれかの製造方法。
【請求項6】
Fc含有分子が、IgG、CLCHまたはFc断片である請求項1~5のいずれかの製造方法。
【請求項7】
糖鎖ドナー分子に含まれる複合型糖鎖の非還元末端にアジド基が導入されていることを特徴とする、請求項1~
6のいずれかの製造方法。
【請求項8】
複合型糖鎖の非還元末端に導入されたアジド基にDBCOを含む化合物を結合させる工程をさらに含む、請求項
7の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、hANPペプチドをキャリアとなるFc含有分子に搭載することで、皮下投与後に緩やかに血中に移行し、かつhANPの薬理作用持続時間を大幅に延長させたコンジュゲート体、それを有効成分として含有する医薬、当該コンジュゲートの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド(hANP)は、血管拡張作用、利尿作用、細胞増殖抑制作用、静脈灌流量の低下作用、交感神経活性抑制作用を有する生理活性ペプチドである。天然型のhANPは、血中の中性エンドペプチダーゼ(NEP)により切断されるなどにより、血中では速やかに活性が消失する。日本において、hANPは急性心不全治療薬として臨床応用されているが、投与後の急激な血圧低下を避ける目的で、血圧モニタリングしながらの点滴などによる静脈内持続投与が必要である。
hANPのような内因性の生理活性ペプチドは、特異的な受容体に対する選択性が非常に高い為、高い有効性と安全性が期待できる。その反面、体循環中に、様々な代謝酵素により速やかに代謝されるか、腎において糸球体濾過により速やかに排出される為、血中半減期が極めて短いことが知られている。このことから、代謝酵素耐性を付与する、あるいは腎排泄を回避することで、ペプチドの血中半減期を延長する試みがなされている。例えば、糖鎖修飾ペプチド(特許文献1)、融合ポリペプチド(特許文献2)、アルブミン融合ペプチド(特許文献3、非特許文献1)、免疫グロブリンFc融合ペプチド(特許文献4、非特許文献2)、ポリエチレングリコール(PEG)修飾ペプチド(非特許文献3、4)など様々な方法が挙げられる。
抗体医薬品は、neonatal Fc receptor(FcRn)を介したリサイクリング機構によって、ペプチド医薬品やタンパク医薬品と比べて非常に長い血中半減期を有している(非特許文献5)。このことから、同様のリサイクリング効果が期待される融合ペプチドもhANPの半減期延長の手段として考えられてきた(特許文献3及び4、非特許文献1及び2)。しかしながら、血中で速やかに代謝されるhANPをそのままキャリアタンパクに搭載した場合、キャリア上のhANP部分が循環中に代謝を受けると示唆されており、「hANP-タンパク融合体」をキャリアタンパク部分の血中滞留性と同等レベルで血中に滞留させることが難しい(非特許文献2)。
【0003】
近年、抗体-薬物結合体の技術開発が盛んに行われており、様々な合成法が報告されている(非特許文献6、非特許文献7、8)。しかしながら、キャリアタンパクと搭載する薬物部分の相性が悪くなるような結合法を採用すると、キャリア部分あるいは薬物部分が不安定化して、血中半減期が延長されなかったり、凝集性が増したりする恐れがある。その為、最適な結合方法やリンカーを選択することは非常に重要となる。また、一般にバイオ医薬品においては、静脈内投与よりも皮下投与において、緩やかに血中へ移行することが知られている(非特許文献9)が、化学修飾を受けた抗体の体内動態を予測することが困難である。
このように、緩やかな血中移行性、十分な血中滞留時間及び薬理効果に必要な活性の保持を全て併せ持つhANP製剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】PCT国際特許出願公開 WO2014/115797 A1
【文献】米国特許出願公開 US2006-036227
【文献】米国特許出願公開 US2007-0162986 A1
【文献】PCT国際特許出願公開 WO2008/154226 A1
【非特許文献】
【0005】
【文献】Regulatory Peptides,2012, 175,7-10
【文献】Bioconjugate Chem., 2012, 23, 518-526
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1994, 91, 12544-12548
【文献】Bioconjugate Chem., 2008, 19, 342-348
【文献】Chem. Soc. Rev., 2012, 41, 2686-2695
【文献】Bioconjugate Chem., 2015, 26, 176-192
【文献】J. Am. Chem. Soc., 2012, 134, 12308-12318
【文献】Angew. Chem. Int. Ed., 2016, 55, 2361-2367
【文献】Drug Metab. Dispos., 2014, 42,1881-1889
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、皮下投与において薬効と安全性を併せ持つhANPの改良体を見出すことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、皮下投与において薬効と安全性を併せ持つhANPの改良体について鋭意検討した結果、hANPペプチドをIgG重鎖の297番目に相当するAsnに結合する糖鎖と特定のPEGリンカーを介して連結させたコンジュゲート体が、GC-A受容体発現細胞に対して細胞内cGMP濃度を上昇させたこと、ラットに投与した際の血中持続時間が延長されたこと、このとき、コンジュゲート体の投与後168時間以降においても持続的に血中のcGMP濃度が上昇していたこと、hANPペプチドとして糖鎖修飾されたhANPを採用したコンジュゲート体が特に良好な物性を有すること等を見出し、更に研究を重ねて本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、以下を提供するものである。
(1) hANPペプチドがポリエチレングリコールリンカー(L(PEG))を介して、Fc含有分子のAsn297に結合する糖鎖(N297糖鎖)に結合したコンジュゲート体またはその薬学上許容される塩、ここで、
hANPペプチドが、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、N末端から連続する1~5個のアミノ酸および/またはC末端の1アミノ酸が欠失していても良く、且つ、当該ペプチドのN末端およびC末端のいずれか、または、両方が糖鎖修飾されていても良く、
L(PEG)は、10~35個のエチレングリコール構造を含み、他の結合構造および/または修飾構造を含んでいても良いリンカー構造であり、
Fc含有分子は、ヒトIgGのFc領域に相当するアミノ酸配列を有し、ヒトの生体分子に対する特異的な結合能を持たない分子であり、並びに、
N297糖鎖は、以下の式で表される構造を有する糖鎖N297-(Fuc)SG、N297-(Fuc)MSG1又はN297-(Fuc)MSG2である、
【0009】
【化1】
(式中、[L(PEG)]は、L(PEG)がβ-Manの分岐鎖の1-3鎖側及び1-6鎖側の両方の非還元末端のシアル酸の2位に結合したカルボニル基と結合することを表す。)
【0010】
【化2】
(式中、[L(PEG)]は、L(PEG)がβ-Manの分岐鎖の1-3鎖側の非還元末端のシアル酸の2位に結合したカルボニル基と結合することを表す。)
【0011】
【化3】
(式中、[L(PEG)]は、L(PEG)がβ-Manの分岐鎖のうち1-6鎖側の非還元末端のシアル酸の2位に結合したカルボニル基と結合することを表す。)
(2) hANPペプチドが、hANP(1-28)、hANP(2-28)、hANP(3-28)、hANP(1-27)、hANP(2-27)又はhANP(3-27)である(1)のコンジュゲート体、または、その薬学上許容される塩。
(3) hANPペプチドが、以下式で表されるAG5、AG7、AG9またはSGのいずれかの糖鎖が側鎖にNグリコシド結合したアスパラギンまたはグルタミンが当該ペプチドのN末端またはC末端に結合した糖鎖修飾ペプチドである、(1)又は(2)のコンジュゲート体、または、その薬学上許容される塩、
【0012】
【0013】
【0014】
【0015】
【化7】
(上記式中、” -(N/Q)”は、Nグリコシド結合によりアスパラギンまたはグルタミンの側鎖に結合することを示す。)。
(4) hANPペプチドが、SG糖鎖が側鎖にNグリコシド結合したアスパラギンがそのN末端に結合したhANP(1-28)であることを特徴とする、(3)のコンジュゲート体、または、その薬学上許容される塩。
(5) L(PEG)が、25~30個のエチレングリコール構造を含み、結合構造として、アミド結合、及び、1,2,3-トリアゾール環を含んでいるリンカー構造である(1)のコンジュゲート体またはその薬学上許容される塩。
(6) L(PEG)が、以下のいずれかの式で表されるリンカー構造である(1)のコンジュゲート体またはその薬理学上許容される塩、
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
【化15】
(上記式において、「hANP」はhANPペプチドのN末端と結合することを表し、「N297 GLY」はN297結合糖鎖の非還元末端と結合していることを表す。また、各リンカー構造は式中L(PEG)-X1及びL(PEG)-X2(これらを合わせて、L(PEG)-X(XはA,B,C,D,E,F、G又はHである)と表記する。)の構造で示されるように、1,2,3-トリアゾール環部位に、結合形成時に生成される幾何異性構造を有し、コンジュゲート体1分子中に、これらの構造からなるリンカーのいずれか一方のみが存在し、又は、その両方が混在している。)。
(7) Fc含有分子が、ヒトの生体成分以外の物質を抗原とするヒトIgGモノクローナル抗体、または、ヒトIgGのFc領域を有し可変領域部を欠損させた断片又は改変体である(1)のコンジュゲート体またはその薬学上許容される塩。
(8) Fc含有分子が、ヒトIgGに由来するFcまたはヒトIgGの定常領域からなるCLCHである(7)のコンジュゲート体またはその薬学上許容される塩。
(9) Fc含有分子が、配列番号3のアミノ酸番号20~474のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号5のアミノ酸番号21~234のアミノ酸配列からなる軽鎖の組み合わせからなる抗体(mAb-A)、配列番号7のアミノ酸番号20~349のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号9のアミノ酸番号21~125のアミノ酸配列からなる軽鎖の組み合わせからなるCLCH(CLCH-A)、配列番号11のアミノ酸番号20~349のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号9のアミノ酸番号21~125のアミノ酸配列からなる軽鎖の組み合わせからなるCLCH(CLCH-B)、配列番号15のアミノ酸番号21~243のアミノ酸配列からなるFc断片(Fc-B)、又は、配列番号17のアミノ酸番号21~247のアミノ酸配列からなるFc断片(Fc-A)或いはそれらの改変体である(7)のコンジュゲート体またはその薬学上許容される塩。
(10) hANPペプチドが、hANP(1-28)又は(SG-)Asn-hANP(1-28)、
PEGリンカーが、L(PEG)-A、L(PEG)-B、L(PEG)-C、L(PEG)-D、L(PEG)-E、L(PEG)-F、L(PEG)-G又はL(PEG)-H、
Fc含有分子が、mAb-A、CLCH-A、CLCH-B、Fc-A又はFc-B、
N297糖鎖が、N297-(Fuc)SG、
である、(1)のコンジュゲート体又はその薬学上許容される塩。
(11) hANPペプチドが(SG-)Asn-hANP(1-28)、PEGリンカーがL(PEG)-B、Fc含有分子がFc-A又はFc-B、及び、N297糖鎖がN297-(Fuc)SG、である、(1)のコンジュゲート体又はその薬学上許容される塩。
(12) (1)~(11)のいずれかのコンジュゲート体又はその薬学上許容される塩を有効成分として含有する医薬。
(13) GC-Aの活性化により治療可能な疾患の治療剤、又は、予防剤である(12)の医薬。
(14) 高血圧症、急性心不全、慢性心不全、急性腎不全、慢性腎不全の治療剤、又は、予防剤である(12)の医薬。
(15) 以下の工程を含む、(1)~(11)のいずれかのコンジュゲート体の製造方法:
工程A:動物細胞で産生したFc含有分子を加水分解酵素で処理し、(Fucα1,6)GlcNAc-Fc含有分子を製造する工程;
工程B1:SG(10)又はMSG(9)のシアル酸にアジド基を導入し、還元末端をオキサゾリン化した糖鎖ドナー分子と、糖転移酵素存在下で(Fucα1,6)GlcNAc-Fc含有分子と反応させ、シアル酸にアジド基が導入されたSG型糖鎖リモデリングFc含有分子を合成する工程、あるいは、工程B2:(SG-)Asn、(MSG-)Asnのシアル酸にアジド基を導入した糖鎖ドナー分子と、2種の糖転移酵素存在下で(Fucα1,6)GlcNAc-Fc含有分子と反応させ、シアル酸にアジド基が導入されたSG型糖鎖リモデリングFc含有分子を合成する工程;
及び、
工程C:一方にhANPペプチド、他方にDBCOを有するリンカー分子を、工程Bで作製されたシアル酸にアジド基が導入されたSG型糖鎖リモデリングFc含有分子と反応させ、(1)のコンジュゲート体を合成する工程。
(16) 工程Aの反応液を、ハイドロキシアパタイトカラムによる精製を含む工程により(Fucα1,6)GlcNAc-Fc含有分子を精製する工程を更に含む、(15)の製造方法。
(17) 投与が必要な対象に対して、(1)~(11)のいずれかのコンジュゲート体又はその薬学上許容される塩を有効成分として投与することを含む、GC-Aの活性化により治療可能な疾患を治療、又は、予防する方法。
(18) GC-Aの活性化により治療可能な疾患の治療、又は、予防のために使用される、(1)~(11)のいずれかのコンジュゲート体又はその薬学上許容される塩。
(19) GC-Aの活性化により治療可能な疾患の治療剤、又は、予防剤の製造のための(1)~(11)のいずれかのコンジュゲート体又はその薬学上許容される塩の使用。
上記の(17)~(19)において、GC-Aの活性化により治療可能な疾患は、好ましくは、高血圧症、急性心不全、慢性心不全、急性腎不全、慢性腎不全である。
【発明の効果】
【0024】
本発明のコンジュゲート体は、皮下投与時の緩やかな血中移行性、長期間の血中半減期及び長期間の薬理効果発現を併せ持つため、臨床において、従来知られているhANP製剤では治療効果が得られなかった疾患への適用や患者の利便性が向上した薬剤の開発が可能となる。また、本コンジュゲート体において、hANPペプチドとして糖鎖修飾されたhANPペプチドを採用することによって、コンジュゲート体の凝集性が大幅に抑制され、良好な物性を示したため、多様な製剤形態への適用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明のコンジュゲート体((I)の分子)を模式的に表したものである。(a)は、hANPペプチド、(b)はPEGリンカー、(c)はN297糖鎖(ここで、白の楕円はNeuAc(Sia)、白の六角形はMan、塗りつぶした六角形はGlcNAc、白のひし形はGal、及び、白の逆三角形はFuc)、をそれぞれ表す。Y字型は、Fc含有分子を表し、便宜上Fabを含む全長IgGとして図示したが、本発明のコンジュゲート体のFc含有分子は、N297糖鎖が結合するFc領域を有するものであれば良い。また、本模式図では、N297糖鎖を便宜上N297-(Fuc)SGとして表示し、全ての分岐鎖の非還元末端のシアル酸にPEGリンカーが結合した態様が示されているが、N297-(Fuc)MSGを採用することで、いずれか一方のみの分岐鎖においてのみPEGリンカーが結合したシアル酸を有し、他方の分岐鎖の非還元末端にはシアル酸を持たなくても良い。このような表示方法は、特に言及がない限り、本明細書の全体を通じて適用される。
【
図2】
図2は、本発明のコンジュゲート体の製造中間体である、(Fucα1,6)GlcNAc-Fc含有分子(
図2のAの(II)の分子)、及び、SG型糖鎖リモデリングFc含有分子(
図2のBの(III)の分子)、の構造を示す模式図である。両方の図において、Y字型は
図1と同様のFc含有分子を表す。
図2のAにおいて、(d)はFucの1位と、6位においてαグリコシド結合したGlcNAcのみからなるN297糖鎖を示す。
図2のBにおいて、(c)は
図1と同様のN297糖鎖を表し、(e)は、PEGリンカーの部分構造であり、末端に別のリンカー分子との結合に供される官能基(ここではアジド基が例示されるが、これに限定されない)を表す。PEGリンカーの結合様式は、
図1の説明と同様である。
【
図3A】
図3A及び
図3Bは、動物細胞で産生されたFc含有分子からSG型糖鎖リモデリングFc含有分子を製造する工程の模式図である。図中の分子(II)、(III)は、
図2と同様に、 (Fucα1,6)GlcNAc-Fc含有分子及びSG型糖鎖リモデリングFc含有分子をそれぞれ表す。(IV)の分子は動物細胞で産生されたFc含有分子であり、N297糖鎖が不均一な分子の混合物である。
図3Aは、(IV)の不均一なN297糖鎖を、EndoSのような加水分解酵素で処理することで、均一な(Fucα1,6)GlcNAc-Fc含有分子(II)が作製される工程を示す。ここで用いられるSG型糖鎖ドナー分子は、SG(10)、MSG1(9)又はMSG2(9)の非還元末端のシアル酸がPEGリンカーで修飾されたものであり、作製されるSG型N297糖鎖リモデリングFc含有分子においても、
図2のBで説明したとおり、非還元末端のシアル酸が同様の修飾を受けたものとなる。図においては、便宜上ドナー分子としてSG(10)を用いた形で示されるが、MSG1(9)又はMSG2(9)を糖鎖ドナーとすることで、(III)のリモデリング抗体はN297糖鎖のいずれか一方のみの非還元末端に官能基を有するリンカー分子が結合したリモデリングFc含有分子が合成される。
【
図3B】
図3A及び
図3Bは、動物細胞で産生されたFc含有分子からSG型糖鎖リモデリングFc含有分子を製造する工程の模式図である。図中の分子(II)、(III)は、
図2と同様に、 (Fucα1,6)GlcNAc-Fc含有分子及びSG型糖鎖リモデリングFc含有分子をそれぞれ表す。(IV)の分子は動物細胞で産生されたFc含有分子であり、N297糖鎖が不均一な分子の混合物である。
図3Bは、Fc含有分子(II)のN297糖鎖のGlcNAcに対して、EndoS D233Q変異体のような糖転移酵素を用いて、SG型糖鎖ドナー分子の糖鎖を糖鎖転移させることで、(III)のSG型糖鎖リモデリングFc含有分子が作製される工程を示す。ここで用いられるSG型糖鎖ドナー分子は、SG(10)、MSG1(9)又はMSG2(9)の非還元末端のシアル酸がPEGリンカーで修飾されたものであり、作製されるSG型N297糖鎖リモデリングFc含有分子においても、
図2のBで説明したとおり、非還元末端のシアル酸が同様の修飾を受けたものとなる。図においては、便宜上ドナー分子としてSG(10)を用いた形で示されるが、MSG1(9)又はMSG2(9)を糖鎖ドナーとすることで、(III)のリモデリング抗体はN297糖鎖のいずれか一方のみの非還元末端に官能基を有するリンカー分子が結合したリモデリングFc含有分子が合成される。
【
図4】
図4は、化合物1-10([N
3-PEG(3)]
2-SG(10)-Ox)のNMRチャートである。
【
図5】
図5は、化合物1-11([N
3-PEG(3)]-MSG1(9)-Ox)のNMRチャートである。
【
図6】
図6は、本発明のコンジュゲート体を皮下投与したラットの血漿中cGMP濃度の経時変化 を示すグラフである。横軸が投与後の経過時間(h)、縦軸はcGMP濃度(pmol/mL)を示し、各データは平均値±標準誤差で示した(n=2-4)。実線の●が化合物3-1、実線の〇が化合物3-2、実線の■が化合物3-3、実線の□が化合物3-4、破線の〇が化合物3-5、破線の□が化合物3-6、をそれぞれ示す。
【
図7】
図7は、本発明のコンジュゲート体を皮下投与したラットの血漿中の全ヒトFc含有分子及びコンジュゲート体の検出量の経時変化を示すグラフである。横軸が投与後の経過時間(h)、縦軸は検出物濃度(μg/mL)を示し、各データは平均値±標準偏差で示した(n=3-4)。●は化合物3-1、〇は化合物3-2、■は化合物3-3で、□は化合物3-4である。それぞれの化合物において、実線はコンジュゲートとしての検出量、破線はヒトFc含有分子の検出量を示す。それぞれの化合物で、実線と破線が重なっていることは、hANP(1-28)部分のみがFc含有分子より速やかに分解されず、あるいはhANP(1-28)がFc含有分子から乖離せず、コンジュゲートとして血中に持続していることを示す。
【
図8】
図8は、本発明のコンジュゲート体を皮下投与したラットの血漿中cGMP濃度の経時変化 を示すグラフである。横軸が投与後の経過時間(h)、縦軸はcGMP濃度(pmol/mL)を示し、各データは平均値±標準誤差で示した(n=2-4)。実線の◆が化合物3-7、実線の◇が化合物3-8、実線の×が化合物3-9、実線の△が化合物3-10、実線の▲が化合物3-11、破線の◆が化合物3-12、破線の×が化合物3-13、破線の▲が化合物3-14、をそれぞれ示す。
【
図9】
図9は、本発明のコンジュゲート体を皮下投与したサルの血漿中の全ヒトFc含有分子及びコンジュゲート体の検出量の経時変化を示すグラフである。横軸が投与後の経過時間(h)、縦軸は検出物濃度(μg/mL)を示し、各データは平均値±標準偏差で示した(n=3-4)。●は化合物3-2、〇は化合物3-4、■は化合物3-15で、□は化合物3-16、◆は化合物3-17である。それぞれの化合物において、
図7と同様に、実線はコンジュゲートとしての検出量、破線はヒトFc含有分子の検出量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明について、以下に詳細に説明する。
【0027】
本発明は、hANPペプチドがPEGリンカーを介して、Fc含有分子の保存されたアスパラギン(Asn297)に結合するN結合型糖鎖(N297糖鎖)に連結したコンジュゲート体またはその薬学上許容される塩、を提供する。本発明のコンジュゲート体はhANPペプチド、PEGリンカー、Fc含有分子、それらを構成する部分構造など、複数の構造単位が連結した大型の分子であり、この構造の模式図を
図1に示す。
本発明において、複数の構造単位が「連結された」とは、それぞれの構造単位が直接共有結合により結合しているか、又は、リンカーを介して間接的に結合されることで、同一分子中に存在していることを意味する。構造単位間を連結する化学構造は特に限定されない。
本発明のコンジュゲート体を構成する構造単位は非常に分子量が大きく、複雑な構造を有するため、便宜上記号を利用して簡略的に記載する場合がある。このような記号表記において、hANPペプチドは「hANP」、PEGリンカーは「L(PEG)」又は「PEG(n)」(nは含まれる連続したエチレングリコール単位((-CH
2-CH
2-O-)の構造単位)の個数)、Fc含有分子に含まれるN297糖鎖は「N297 GLY」、Fc含有分子は「mAb」、「CLCH」、「Fc」のようにそれぞれ記載する。また、糖鎖には、後述の通り、SG等の表記を用いる。それぞれの構造単位同士の結合は、一般的な結合様式は省略される場合もあるが、特徴的な構造や官能基については有機合成化学分野で通常用いられる表現により表示することがある。
【0028】
本発明のコンジュゲート体又はその部分構造の表記において、アミノ酸又はペプチドは、特別な記載がない限り、左側にN末端(アミノ基)、右側にC末端(カルボキシル基)となるように表記する。アミノ酸又はペプチドの右に“*”を付けて記載する場合(例えば、Gln*)、前記のルールを逆転させ、左側にC末端、右側にN末端となることを示すものとする。
【0029】
また、アミノ酸について表記する場合、中心となる炭素原子(α炭素)に直接結合した、アミノ酸として必須の構造である、アミノ基及びカルボキシル基を、それぞれ「αアミノ基」及び「αカルボキシル基」と表記するものとする。
【0030】
本明細書において、コンジュゲート体又はその部分構造の表記において、アミノ酸又はペプチドがそのN末端のアミノ基において他のリンカーと連結する場合、連結される構造単位を表す記号は当該ペプチド又はアミノ酸を表す記号の左側に、ハイフンを付けて、括弧を付けずに記載され、この場合のハイフンはペプチド又はアミノ酸のアミノ基とリンカー構造の有するカルボキシル基の間で形成されるアミド結合を表すものとする。例えば、Asnのアミノ基にSGが連結した構造は、”SG-Asn”として表記される。
これに対して、本明細書におけて、アミノ酸又はペプチドがそのC末端のカルボキシル基において別の構造単位と連結する場合、連結される構造単位を表す記号は、当該アミノ酸又はペプチドを表す記号の右側にハイフンを付けて、括弧を付けずに記載され、この場合のハイフンはペプチド又はアミノ酸のC末端カルボキシル基とリンカー構造の有するアミノ基(又はアジド基)の間で形成されるアミド結合を表すものとする。例えば、Tyrのカルボキシル基にSGが連結した構造は、”Tyr-SG”として表記される。
【0031】
さらに、本明細書において、アミノ酸の側鎖において糖鎖と連結した場合の部分構造は、側鎖部分を括弧で表示し、例えば、「(SG-)Asn」のように表記するものとする。
【0032】
本発明において、「糖鎖」とは、2つ以上の単糖がグリコシド結合により結合された構造単位を意味する。具体的な単糖や糖鎖を、例えば”GlcNAc-”、”SG-”のように、略号として標記することがある。構造式中でこれらの略号で記載した場合、還元末端で別の構造単位とのグリコシド結合に帰属する酸素原子又は窒素原子は、特別な定義がある場合を除き、当該糖鎖を表す略号には含まれないものとして表示される。
【0033】
本明細書において、糖鎖の基本単位となる単糖の記載は、別に定める場合を除き、便宜上、その環構造において、環を構成する酸素原子に結合し、且つ、水酸基(又はグリコシド結合に帰属する酸素原子)と直接結合した炭素原子を1位(シアル酸においてのみ2位)として表記する。実施例化合物の名称は、化学構造全体として付されたものであり、このルールは必ずしも適用されない。
糖鎖に含まれる単糖としては、糖の基本構造を有するものであれば特に限定されず、6員糖、5員糖、など様々なものを用いることができる。また、天然に存在する糖であっても、人工的に合成された糖であっても良いが、天然に存在する糖が好ましい。単糖としては、例えば、グルコース(Glu)、フルクトース(Flu)、マンノース(Man)、ガラクトース(Gal)、グルコサミン(Glc)、Nアセチルグルコサミン(GlcNAc)、グルクロン酸(GlucA)、ノイラミニン酸(Neu)、シアル酸/N-アセチルノイラミニン酸(Sia/NeuNAc/Neu5Ac)、ガラクトサミン、Nアセチルガラクトサミン(GalNAc)、キシロース(Xyl)、イズロン酸(IdoA)、フコース(Fuc)、アルドトリオース、グリセルアルデヒド、アルドテトロース、エリトロース、トレオース、アルドペントース、リボース、リキソース、アラビノース、アルドヘキソース、アロース、タロース、グロース、アルドロース、イドース、ケトトリオース、ジヒドロキシアセトン、ケトテトロース、エリトルロース、ケトペントース、キシルロース、リブロース、ケトヘキソース、プシコース、ソルボース、タガトース、等を挙げることができる。
【0034】
本明細書において、糖鎖を記号(例えば、GLY、SG、GlcNAc等)として記載する場合、別に定義される場合を除き、還元末端の炭素までを、当該記号に含めるものとし、N-又はO-グリコシド結合に帰属するN又はOは、当該記号には含まれないものとする。また、同様に、hANPペプチドを記号(例えば、hANP、hANP(1-28)など)として表記する場合は、原則としてN末端の―NH、及び、C末端のC=Oは、当該記号に含まれるものとして表記される。また、特に断りが無い限り左側がN末端、右側がC末端として表記される。すなわち、修飾を受けないhANPペプチドは、H-hANP-OH として表記される。
【0035】
<hANPペプチド>
本発明において、「hANPペプチド」とは、28個のアミノ酸からなる生理活性ペプチドであるヒト型心房性ナトリウム利尿ペプチド(human Atrial Natriuretic Peptide:配列番号1、以下天然型hANP、又は、hANP(1-28))のアミノ酸配列において、少なくとも7位から27位のアミノ酸を含むアミノ酸配列からなるペプチドを意味する。天然型hANPは、細胞表面に発現するGC-A受容体(Chinkers M,et al.,Nature 338;78-83,1989))に結合し、その受容体の細胞内ドメインに存在するグアニレートサイクレースを活性化させ、細胞内のcGMP濃度を上昇させることにより、その生理活性を発揮する。天然型hANPは、Biochem.Biophys.Res.Commun.,118巻,131頁,1984年に記載のα-hANPが、一般名カルペリチド(carperitide)として、日本において製造販売承認を取得し、販売(商品名:ハンプ、HANP)されている。α-hANPは、一般的にはHuman pro-ANP[99-126]としても知られている。
天然型hANPは、配列番号1の7位と23位のCys残基同士がジスルフィド結合し、分子内リング構造を形成する。hANPによるGC-A受容体の活性化には、このリング構造と、そのC末端側27位Arg残基までのアミノ酸が重要であることが知られている(Silver, MA,, Curr. Opin. Nephrol. Hypertens. (2006), 15, p14-21、A. Calderone, Minerva Endocrinol.(2004), 29, p.113-127)。そのため、このリング構造からなるhANP(7-27)は、GC-Aを活性化させる最小単位であると考えられる。本発明のhANPペプチドとしては、配列番号1)において、N末端側から連続する1乃至6個のアミノ酸、及び/又は28位のアミノ酸が欠失していても良いアミノ酸配列からなるペプチドであり、好ましくは、配列番号1の1位、1位及び2位、並びに、28位のアミノ酸の少なくとも一箇所が欠失していても良いペプチドであり、より好ましくは配列番号1の1位、並びに、1位及び2位のアミノ酸が欠失しても良いアミノ酸配列からなるペプチド(hANP(2-28)、hANP(3-28)等)であり、最も好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド(hANP(1-28))である。
【0036】
本発明において、配列番号1のペプチドは「hANP(1-28)」、配列番号1の1位のアミノ酸が欠失したペプチドは「hANP(2-28)」、配列番号1の1位及び2位のアミノ酸が欠失したペプチドは「hANP(3-28)」などとそれぞれ表記され、他の一部のアミノ酸が欠失したペプチドも同様に表記される。
【0037】
本発明のコンジュゲート体一分子中のhANP分子の個数は、Fc含有分子に結合されるN297糖鎖やPEGリンカーの構造に依存して変動するが、通常は、2又は4個である。
【0038】
本発明のコンジュゲート体において、hANPペプチドとPEGリンカーの結合は、例えば、N末端のαアミノ基、又は、C末端のαカルボキシル基とアミド結合により結合することができ、hANPペプチドのN末端にPEGリンカーが結合することが好ましい。
【0039】
本発明のコンジュゲート体において、hANPペプチドは糖鎖修飾されていても良い。hANPペプチドの糖鎖修飾については、特許文献1に様々な態様が記載されており、これらを利用して多様な糖鎖修飾ペプチドを適用することができる。hANPペプチドの修飾に用いる糖鎖としては、ヒトの体内に存在する糖鎖と類似した構造を有する糖鎖を採用することが適切である。
【0040】
天然の糖タンパク質に含まれる糖鎖には、糖タンパク質のアスパラギンに結合しているN結合型糖鎖と、セリン又はトレオニンに結合しているO結合型糖鎖に大別され、それぞれに特徴的な基本構造を有する。天然においては、N結合型糖鎖はNグリコシド結合、O結合型糖鎖はOグリコシド結合により、タンパク質のアミノ酸側鎖と結合しているが、人工的には、いずれのグリコシド結合によっても他の化合物と結合させることができる。そのため、グリコシド結合の様式を限定するものではない。例えば、糖鎖の還元末端をアジド化し、当該アジド化された糖鎖とカルボキシル基を有する化合物をトリフェニルホスフィン存在下反応させることにより、糖鎖に所望の構造を有する化合物をN-グリコシド結合により結合させることができる。また、糖鎖をアルコールのような水酸基を有する化合物と反応させることで、所望の化合物と糖鎖をO-グリコシド結合で結合させることができる。
【0041】
N結合型糖鎖の基本構造は、以下の構造式及び配列式で表され、この糖鎖構造からなる糖鎖をAG5と呼ぶものとする。
【0042】
【0043】
【化17】
(式中、「-(N/Q)」は、Asn又はGlnの側鎖とNグリコシド結合することを示す。)
N結合型糖鎖の多くは、この基本構造を有しており、その非還元末端や分岐糖においてさらに別の糖が結合していても良い。
【0044】
ヒト型糖鎖、又は、ヒト適合型糖鎖とは、ヒトの体内で抗原性を示さないことが知られている糖鎖であり、N結合型糖鎖では,高マンノース型、複合(コンプレックス)型、混成型などが知られている。高マンノース型は、N型基本構造の非還元末端に、複数のマンノースが連続したマンノースリッチ構造を有する糖鎖である。複合型とは、N結合型基本構造の非還元末端に、Galβ1-4GlcNAcのモチーフ構造を有する糖鎖である。混成型糖鎖とは、N結合型基本構造の非還元末端に、Galβ1-4GlcNAcモチーフ構造を有し、且つ、複数のマンノースからなるマンノースリッチな構造を有する糖鎖である。
N結合型複合型糖鎖の代表的なものとしては、鶏卵の卵黄に含まれるシアリルグリコペプチド(Sialyl GlycoPeptide:以下、「SGP」という)に含まれる糖鎖であり、以下の構造式及び配列式で示される構造からなるシアリルグリカン(Sialyl Glycan、以下、「SG」という)を例示することができる。
【0045】
【0046】
【化19】
(式中、「-(N/Q)」は、Asn又はGlnの側鎖とNグリコシド結合することを示す。)
【0047】
SGPは、鶏卵の卵黄から、常法例えば、WO2011/0278681に記載の方法に従って単離、精製することができる。また、SGPの精製品が市販(東京化成(株)、(株)伏見製薬所)されており、購入することができる。また、SGの糖鎖部分において還元末端のGlcNAcが一つ欠損した糖鎖(以下、「SG(10)」)のみからなるジシアロオクタサッカリド(東京化成(株)製)などが市販されている。また本明細書において、SG(10)のβ-Manの分岐鎖のいずれか一方のみで非還元末端のシアル酸が欠失した糖鎖構造をMSG(9)といい、分岐鎖の1-3糖鎖のみにシアル酸を有するものをMSG1(9)、分岐鎖の1-6糖鎖のみにシアル酸を有するものをMSG2(9)、とそれぞれ表記するものとする。
また、SGの還元末端のGlcNAcを別の糖に置き換えた還元末端改変糖鎖を、公知の糖転移反応を利用して、上記のジシアロサッカリドを用いて作製することができる。SGの還元末端のGlcNAcを、Glcに置き換えた還元末端改変糖鎖をSG(Glc)、Manに置き換えた還元末端改変糖鎖をSG(Man)、とそれぞれ表記するものとする。
【0048】
本発明の糖鎖として用いることができる改変糖鎖の具体例として、SGをノイラミニダーゼ処理し、2つの非還元末端のNeuAcを欠失させたAG9(以下の構造式及び配列式のAG9)、AG9をガラクトシダーゼ処理し、2つの非還元末端のGalを欠失させたAG(7)(以下構造式及び配列式のAG7)、AG7をさらにN-アセチルグルコサミニダーゼで処理し、2つの非還元末端のGlcNAcを欠失させたAG5(上記、N結合型基本構造からなる糖鎖),などを例示することができる。また、上記において、SGに代えてSGの還元末端改変糖鎖(例えばSG(Glc)、SG(Man)など)を採用して同様に処理することで、AG(9)、AG(7)及びAG(5)の還元末端改変糖鎖(例えばAG(9)の還元末端のGlcNAcがGlcに置き換えられたAG(9-Glc)、AG(9)の還元末端のGlcNAcがManに置き換えられたAG(9-Man)など)も、本発明の糖鎖修飾に採用することができる。
【0049】
【0050】
【化21】
(式中、「-(N/Q)」は、Asn又はGlnの側鎖とNグリコシド結合することを示す。)
【0051】
【0052】
【化23】
(式中、「-(N/Q)」は、Asn又はGlnの側鎖とNグリコシド結合することを示す。)
本発明のコンジュゲート体において、hANPペプチドに結合する糖鎖の個数の上限はないが、例えば3個以下であり、好ましくは2個又は1個である。hANPペプチドに付加する糖鎖は、同一の構造のものであっても異なる構造の糖鎖が混在していても良いが、全て同一の糖鎖構造であることが好ましい。
【0053】
本発明の糖鎖修飾されたhANPペプチドの一つの態様として、上述のようなN結合型糖鎖が側鎖にNグリコシド結合したAsn又はGln(「(GLY-)Asn」又は「(GLY-)Gln」を含むhANPペプチドを挙げることができる。このようなペプチドにおいて、配列番号1のアミノ酸配列の1位~5位、及び、28位のいずれか一つ又は複数のアミノ酸が(GLY-)Asn又は(GLY-)Glnに置換されていても良い。また、配列番号1の6位~27位を含む連続したアミノ酸配列からなるペプチドのN末端及びC末端のいずれか一方または両方に(GLY-)Asn又は (GLY-)Glnがペプチド結合したものでも良い。このようなペプチドとして、好ましいものは、hANP(1-28)、hANP(2-28)、hANP(3-28)、hANP(4-28)、hANP(5-28)、又は、hANP(6-28)のN末端及び/又はC末端に(GLY-)Asn若しくは(GLY-)Glnがペプチド結合したペプチドであり、より好ましくは、hANP(1-28)、 hANP(2-28)又は hANP(3-28)のN末端に(SG-)Asn若しくは(SG-)Glnがペプチド結合したペプチドであり、さらに好ましくは、(SG-)Asn-hANP(1-28)である。
【0054】
本発明において、hANPペプチドの修飾に用いられる糖鎖として、天然に存在する糖タンパク質又は糖脂質に由来する糖鎖を用いる場合、例えば特許文献1等に記載された方法に準じて、当該糖鎖は、加水分解酵素を用いて、切断・単離され、又は、糖転移酵素を用いた転移反応により所望の化合物(被転移化合物)へ転移させて、用いることができる。例えばSGは、SGPを公知の方法で加水分解酵素(Endo M等)と反応させて加水分解により切り出す、又は、糖転移酵素(Endo-M N175Q変異体など)を用いて所望の化合物に転移させて取り出すことができる。また、SGPをアクチナーゼ等のペプチド分解酵素で処理することによって、(SG-)Asn、又は、(SG-)Asnを含むペプチド断片に分解され、糖鎖結合画分を公知の分離方法によって精製することで、糖鎖結合アミノ酸として取得することができる。このようにして得られた、(SG-)Asn、(SG-)Gln又はそれらを含むペプチド断片を、通常の保護基を用いた反応によってhANPペプチドのN末端及び/又はC末端にペプチド結合させることによって、糖鎖修飾を含むhANPペプチドを製造することができる。
【0055】
<Fc含有分子>
本発明のコンジュゲート体において、「Fc含有分子」は、IgG重鎖のFc領域においてよく保存されたN結合型糖鎖による修飾を受けるアスパラギン(「Asn297」という。)の側鎖に結合する糖鎖(「N297糖鎖」という)を介してhANPペプチドと連結し、血中でhANPペプチドを長期間持続させるためのキャリアタンパク質として機能するため、ヒトIgGのFc領域に相当するアミノ酸配列を有し、ヒトの生体分子に対する特異的な結合能を持たないことが必要である。IgGのFc領域に相当するアミノ酸配列としては、例えば、配列番号7のアミノ酸番号128~349のアミノ酸配列、配列番号11のアミノ酸番号128~349のアミノ酸配列、配列番号15のアミノ酸番号22~243のアミノ酸配列、配列番号17のアミノ酸番号26~247のアミノ酸配列、及び、それらの配列を改変したアミノ酸配列を挙げることができる。
IgGは重鎖と軽鎖からなる。両鎖はジスルフィド結合で連結されており、さらに、重鎖同士がヒンジ領域でジスルフィド結合してホモ2量体を形成している。また、IgGはドメイン構造を有しており、可変領域を含み抗原結合能を有するFabドメインと、Fc受容体と結合するFcドメインがヒンジ領域を介して連結されている。本発明のFc含有分子は、Fc領域を含むものであれば特に限定されず、全長IgG重鎖、Fc領域を含む抗体断片、それらのアミノ酸配列を部分的に改変した改変体などを用いることができる。また、本発明のFc含有分子は、重鎖のみでも良く、重鎖の構造に対応した軽鎖を有していても良い。Fc含有分子の元となるIgGのサブクラスは特に限定されず、いずれのサブクラスを選択しても良いが、好ましくはIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4であり、より好ましくはIgG1である。IgGの定常領域におけるアミノ酸配列はよく保存されており、Edelman et al.,(Biochemistry、(1969) Vol. 63, pp. 98-85)においてそれぞれのアミノ酸がEu番号(Eu INDEX)で特定されている。例えば、Fc領域においてN結合型糖鎖が付加するAsn297は、Eu番号において297位に相当するものであり、分子の断片化や領域欠損によって実際のアミノ酸位置が変動した場合であってもEu番号で表示することによってアミノ酸が一義的に特定される。
【0056】
Fc含有分子として、完全長IgGを採用する場合、ヒト体内に通常存在する物質に特異的な結合能を有しないIgGであれば特に限定は無いが、非ヒト動物のタンパク質を抗原としたIgGはヒトの対応分子・関連分子が存在する場合はヒトの分子に交差反応性を示す可能性があるため、ヒトが対応分子・関連分子を持たない抗原に対するモノクローナル抗体を選択するのが好ましい。また、ヒト体内の成分に結合する恐れがある抗体であっても、遺伝子工学的手法によって、その可変領域に変異を導入し、ヒト成分との結合活性を欠失させた分子であれば、本発明のFc含有分子として採用することができる。本発明のFc含有分子に用いられる完全長IgGとして、より好ましくは、哺乳動物以外の生物に由来する分子を抗原とするIgGであり、より好ましくは、微生物由来の分子を抗原としたIgGであり、さらに好ましくはリポポリサッカライド(LPS)を抗原としたIgGである。このようなモノクローナル抗体は、例えば、WO2015/046505等に記載されており、具体的には配列番号3のアミノ酸番号20~474のアミノ酸配列からなる重鎖(アミノ酸番号1~19はシグナルペプチド、当該重鎖をコードするヌクレオチド配列は配列番号2)、及び、配列番号5のアミノ酸番号21~234のアミノ酸配列からなる軽鎖(アミノ酸番号1~20はシグナルペプチド、該軽鎖をコードするヌクレオチド配列は配列番号4)の組み合わせからなるmAb-A などが挙げられる。
【0057】
本発明のFc含有分子として、抗体断片又は改変体を採用する場合、二量体を形成できる形でFc領域を含むものであれば特に限定されず、さまざまな配列のものを採用することができる。由来となる抗体が、上述のようなヒト成分と特異的な結合脳を有しないものであれば、可変領域の一部又は全部を保持した改変体を採用しても良いか、好ましくは可変領域を欠損させた断片又は改変体である。
【0058】
このような改変体の例としては、例えば、ヒトIgG重鎖から可変領域を欠失させた定常領域のみからなるCHを挙げることができる。本発明のFc含有分子としてCHを採用する場合、その由来となるIgGサブクラスは特に限定されない。ヒトIgG1に由来するCH(「CH-A」という)のアミノ酸配列を配列番号7のアミノ酸番号20~349(N末端側1位~19位はシグナルペプチド、CH-Aをコードするヌクレオチド配列は配列番号6)に示す。この配列において、ヒンジ領域は118位Glu~132位ProのEPKSCDKTHTCPPCPであり、Fc領域は133位Ala~349位Lysであり、199位AsnがAsn297に相当する(配列番号11でも同様)。Fc含有分子としてCHを選択する場合、CHのみを採用してもよく、軽鎖の定常領域のみからなるCLと組み合わせたCLCHとして採用することもできる。IgG1軽鎖のCL(「CL-A」という)のアミノ酸配列を配列番号9のアミノ酸番号21~125(N末端側の1位~20位のアミノ酸はシグナルペプチド、CL-Aをコードするヌクレオチド配列は配列番号8)に示す。本発明のFc含有分子の好ましい態様としてCLCHを挙げることができ、より好ましくは、CH-AとCL-Aを組み合わせたCLCH-Aである。
【0059】
本発明のFc含有分子として、Fc領域を主体とする断片又は改変体を採用する場合、例えば、IgGのFc領域のN末端にヒンジ領域の一部であるCPPCが付加したアミノ酸配列(IgG1の配列の例としては、配列番号7の128位~349位の配列)からなる抗体断片を採用することができる。ヒンジ領域はFc含有分子の構造的自由度を高める領域であり、本発明の目的であるキャリアタンパク質としての機能に影響するものではないため、CPPCを含む限り、適宜長さを調整して採用することができる。このようなFcを主体とする抗体断片の例としては、IgG1に由来するものとしては、配列番号7又は配列番号11の118位Glu~349位Lysのアミノ酸配列において、N末端から連続する1~10個のアミノ酸が欠失しても良いアミノ酸配列からなるFc含有分子又はそのアミノ酸配列が改変された改変体であり、好ましくは、配列番号7の123位Asp~349位Lys、127位Thr~349位Lys、又は、126位His~349位LysからなるFc含有分子である。また、Fc-A及びFc-Bに関連する分子としては、配列番号15のアミノ酸番号22~243のアミノ酸配列、若しくは、配列番号17のアミノ酸番号26~247のアミノ酸配列、又は、それらのN末端に、T、HT、THT、KTHT若しくはDKTHTが付加したアミノ酸配列からなるFc含有分子或いはそれらのアミノ酸配列が改変された改変体を例示することができる。好ましくは、配列番号15のアミノ酸番号21~243のアミノ酸配列、又は、配列番号17のアミノ酸番号25~247のアミノ酸配列、又は、配列番号17のアミノ酸番号21~247のアミノ酸配列、からなるFc含有分子である。これらのFc断片におけるAsn297は、配列番号15では93位のAsnであり、配列番号17では97位Asnである。
【0060】
また、本発明のFc含有分子として抗体断片又は改変体を設計する場合、ヒンジ領域において二量体を構成するためのCys、Fc領域において分子内ジスルフィド結合に寄与するCys、N297糖鎖が結合するAsn297及びその周辺のアミノ酸を保持しつつ、キャリアタンパクとしての機能を損なわない範囲で、1~数箇所(好ましくは5箇所以下、より好ましくは3、2又は1箇所)において、1~数個(改変箇所当たり、好ましくは20個以下、より好ましくは15個以下、さらに好ましくは10個以下、さらにより好ましくは7、6、5、4、3、2又は1個)のアミノ酸を、置換、欠失、挿入及び/又は付加させた改変体を採用しても良い。アミノ酸配列の改変の箇所としては、N末端、及び、C末端におけるアミノ酸の置換、欠失及び/又は付加等が行われる。特にN末端のアミノ酸は生物工学的手法でFc含有分子を産生させる際に影響する場合があり、所望の生産系に適したアミノ酸配列へと改変させることができる。また、Eu番号で、Leu234 - Lue235のアミノ酸は、抗体とFc受容体との結合によるT細胞活性化によるエフェクター活性発現に影響を与える部位であることが知られている。この領域に含まれるLeuをAlaに置換する(得られる変異体を「LALA体」という)ことでこのエフェクター活性を消失させ、副作用リスクを低減させることができる場合があり(米国特許公報US5885573)、必要に応じてこのような改変を施しても良い。本発明の実施例において、CLCH-AのLALA体としてCLCH-Bが、Fc-BのLALA体としてFc-Aが、それぞれ作製され、本発明のコンジュゲートにおけるキャリア分子として適切に機能することが確認されている。
また、目的分子の発現、精製効率の向上を目的として、シグナル配列、ペプチド分解酵素認識配列、GSTのようなTag配列を付加させても良い。
【0061】
本発明に用いられるFc含有分子は、動物細胞を用いた産生過程で翻訳後修飾を受けAsn297に不均一な糖鎖が付加するが、そのN297糖鎖が以下のいずれかの構造からなるSG型糖鎖にリモデリングされたもの(SG型N297糖鎖)である。通常は動物細胞からの産生時に、2量体の両方のモノマーのAsn297に糖鎖が付加し、二量体のFc含有分子当たり2つのN297糖鎖を有する通常体として産生される。しかし、産生条件やFc含有分子の構造によっては、一方のモノマーのみにN297糖鎖が付加した糖鎖欠損体(二量体のFc含有分子当たり1つのN297糖鎖を有する分子)が、一定の割合で産生される場合がある。このような、糖鎖欠損体を含むFc含有分子であっても、本発明に用いることができる。
【0062】
【化24】
(式中、[L(PEG)]は、L(PEG)がβ-Manの分岐鎖の1-3鎖側及び1-6鎖側の両方の非還元末端のシアル酸の2位に結合したカルボニル基と結合することを表す。
【0063】
【化25】
(式中、[L(PEG)]は、L(PEG)がβ-Manの分岐鎖の1-3鎖側の非還元末端のシアル酸の2位に結合したカルボニル基と結合することを表す。
【0064】
【化26】
(式中、[L(PEG)]は、L(PEG)がβ-Manの分岐鎖のうち1-6鎖側の非還元末端のシアル酸の2位に結合したカルボニル基と結合することを表す。)。
本発明のコンジュゲート体において、N297糖鎖が、N297-(Fuc)MSG1又はN297-(Fuc)MSG2である場合、Fc含有分子が二量体であり、通常両方のモノマーにN297糖鎖を有するため、コンジュゲート体は2つのPEGリンカー及びhANPペプチドが結合された分子(2価のhANPペプチド)となる(Fc含有分子が糖鎖欠損体の場合、一方のモノマーのみにN297-(Fuc)MSG1又はN297-(Fuc)MSG2が付加し、1価のhANPペプチドとなる)。一方で、N297糖鎖が、N297-(Fuc)SGである場合、Fc含有分子が二量体であるため、コンジュゲート体は4つのPEGリンカー及びhANPペプチドが結合された分子(4価のhANPペプチド)となる(Fc含有分子が糖鎖欠損体の場合、一方のモノマーのみにN297-(Fuc) SGが付加し、2価のhANPペプチドのコンジュゲートとなる)。本発明のコンジュゲート体は、これら複数種類のN297糖鎖を有する分子、又はそれらの通常体と糖鎖欠損体の混合物(本発明において、このような混合物は、便宜上、通常体のコンジュゲートとして表記される。)であっても良く、いずれか一つの構造からなるN297糖鎖を有する分子であっても良く、好ましくはいずれか一つの構造からなるSG型N297糖鎖を有する分子であり、より好ましくはN297糖鎖としてN297-(Fuc)SGを有し、コンジュゲート体が4価のhANPペプチド(糖鎖欠損体では2価)を有するものである。
【0065】
これらの糖鎖構造中、還元末端のフコース付加したGlcNAc(Fucα1,6)GlcNAc)は、動物細胞で産生されたFc含有分子に由来し、それより非還元末端側の糖鎖は、上述したSGと同様の糖鎖構造にリモデリングされたものである。いずれもその非還元末端のシアル酸2位に結合したカルボン酸を利用して、PEGリンカーと結合している。
【0066】
このようなSG型N297糖鎖を有するFc含有分子は、例えばWO2013/120066などに記載の方法に準じて、
図3に示すような方法で製造することができる。公知の方法に準じて、動物細胞を用いて、遺伝子組み換えタンパク質としてFc含有分子を産生させた場合、N297糖鎖は、基本構造としてフコース付加したN結合型糖鎖構造を有するが、非還元末端の構造や構成糖に多様な修飾がされた様々な構造からなる糖鎖を有する抗体またはそ断片の混合物として得られる(
図3Aの(IV))。このように動物細胞で産生されたFc含有分子は、EndoSなどの加水分解酵素で処理することによって、還元末端のキトビオース構造のGlcNAcβ1- 4GlcNAcの間のグリコシド結合が加水分解され、N297糖鎖として(Fucα1,6)GlcNAcのみを有する単一の糖鎖構造を有するFc含有分子(「(Fucα1,6)GlcNAc-Fc含有分子」という、
図2のA参照)が得られる(
図3A)。
【0067】
このようなN297糖鎖の加水分解反応に用いる酵素としては、EndoS又はその加水分解活性を保持した変異酵素などを用いることができる。
上記の加水分解反応により得られた(Fucα1,6)GlcNAc-Fc含有分子を糖鎖アクセプター分子として、EndoS D233Q変異体のような糖転移酵素を用いてSG型糖鎖ドナー分子と反応させることによって、上述の構造からなるSG型N297糖鎖を有するFc含有分子(
図2のB参照)を得ることができる(
図3B)。
【0068】
目的物が4価のhANPペプチドを有するコンジュゲート体である場合、この糖転移反応にには糖鎖としてSG(10)を有する糖鎖ドナー分子を用いる。このようなSG(10)糖鎖は、例えばSGPから加水分解等によって取得されたものを用いても良く、市販のジシアロオクタサッカリド(東京化成工業(株)のようなSG(10)糖鎖のみを用いても良い。
目的物が2価のhANPペプチドを有するコンジュゲート体である場合、糖鎖としてMSG1(9)又はMSG2(9)を有する糖鎖ドナー分子を採用する。このような糖鎖は、市販のmonosialo-Asn free (1S2G/1G2S-10NC-Asn、(株)糖鎖工学研究所)を原料に実施例1-11に記載の方法に準じて分離して採用することもできるし、分離せずに混合物として採用することもできる。
【0069】
ドナー分子に含まれるSG型糖鎖の還元末端のGlcNAcは、例えば2-クロロ-1,3-ジメチル-1H-ベンズイミダゾール-3-イウム-クロライド処理によるオキサゾリン化のような形で活性化されたものを用いることが好ましいが、後述する2種類の酵素を同時に用いる場合は活性化の必要はない。
【0070】
ドナー分子に含まれるSG型糖鎖は、その非還元末端のシアル酸に含まれるカルボン酸に、PEGリンカー、又は、その部分構造を有するリンカー分子を結合させた糖鎖を有する。
【0071】
このような糖転移反応に用いる酵素としては、N297糖鎖に複合型糖鎖を転移させる活性を有するものであれば様々なものが採用できるが、好ましいものはEndoSの233番目のAspをGlnに置換することで加水分解反応を抑制した改変体であるEndoS D233Qである。EndoS D233Qを用いた糖転移反応については、WO2013/120066などに記載されている。また、EndoS D233Qに対して、さらに変異を加えたEndoS D233Q/Q303L、EndoS D233Q/E350A、EndoS D233Q/E350Q、EndoS D233Q/E350D、EndoS D233Q/E350N、EndoS D233Q/D405Aなどのような改変体酵素を利用してもよい。このようなEndoS D233Qの改変体を用いた糖転移反応は、WO2017/010559に記載されている。
【0072】
Fc含有分子の糖鎖リモデリング(糖加水分解、及び糖鎖転移反応)後のFc含有分子の精製操作は、反応に使用した低分子化合物及び酵素との分離を目的とし、このような精製には、通常、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどが使用されるが、更にハイドロキシアパタイトカラムによる追加精製を施すことによって、糖鎖転移反応効率の向上が確認された。すなわち、本発明は、Fc含有分子の糖加水分解後の反応液からの中間体の精製工程において、更にハイドロキシアパタイトカラムによる精製工程を含む、コンジュゲート体の製造方法を提供する。
【0073】
糖鎖リモデリング報告例(J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 12308-12318.、Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 2361-2367)に従うと、Fc含有分子を加水分解酵素で処理した反応液をプロテインAカラム(アフィニティクロマトグラフィーカラム)で精製するのみであるが、この精製方法では、加水分解酵素(EndoS)が完全には除去できず、残留酵素が影響して、次の糖転移反応に影響を与えることが判明した。ここで、精製法を検討した結果、Fc含有分子を加水分解酵素で処理した反応液をプロテインAカラム、ハイドロキシアパタイトカラム(CHTカラム、Bio-Rad Laboratories, Inc.)の順に精製することによって、残留酵素の影響なく、次の糖鎖転移反応の反応効率が向上した。
【0074】
また、本発明は、2種類の酵素を同時に用いることで、還元末端が活性化されていないSGPや(SG-)Asnなどを直接糖鎖ドナーとして、Fc含有分子のN297糖鎖へ糖転移させる方法を提供する。通常の糖転移反応は、糖鎖ドナーの還元末端が活性化されている必要があり、このような活性型ドナーの調製に時間とコストを要していた。本方法は、天然から取得され、又は、市販されている糖ペプチドなどを直接糖転移反応に使用できるため、効率的な糖鎖リモデリングが可能となる。
使用する2種類のEndo酵素は、複合型糖鎖を広く基質とする酵素A(EndoM様酵素)とFc含有分子のN297糖鎖を基質とする酵素B(EndoS様酵素)を適切に組合せることが重要である。
酵素Aとしては、EndoM、EndoOm、EndoCCとその加水分解活性を低下させたEndoM変異体、EndoOm変異体、EndoCC変異体などを例示できる。酵素Aとして好ましいものは、EndoM N175Q、EndoCC N180H、EndoOm N194Qである。
酵素Bとしては、EndoS、EndoS2(EndoS49)及びそれらの加水分解活性を低下させたEndoS変異体、 EndoS2(EndoS49)変異体などを例示できる。酵素Bとして好ましいものは、EndoS D233Q 、EndoS D233Q/Q303L、EndoS D233Q/E350A、EndoS D233Q/E350Q、EndoS D233Q/E350D、EndoS D233Q/E350N、EndoS D233Q/D405Aなどである。
糖鎖ドナーの構造は、採用される酵素Aに認識される糖鎖構造を有するものであれば、特に限定されず、天然から取得されたもの、化学反応あるいは酵素反応との組み合わせで合成可能な分子など、様々なものを用いることができる。アノマー部位の置換基Rは、R=H以外、何を使用してもよい。N結合型糖鎖構造の場合(下記式参照。アノマーの置換基Rは一番上の構造式の還元末端のR)、アミド構造やアジドを例示できる。
【0075】
【化27】
O結合型糖鎖構造の場合(下記式参照。アノマーの置換基Rは一番上の構造式の還元末端のR)、エチレングリコール構造やグリコール酸構造、あるいはアノマー水酸基の保護基として用いられるベンジル基、アリル基、パラニトロフェニル基がなどが例示できる。また、糖鎖ドナーの非還元末端の構造についても、酵素Aに認識されるものであれば特に限定されず、天然の糖鎖構造、天然の糖鎖構造から非還元末端糖鎖を欠失させたもの、任意の水酸基をりん酸修飾したもの、化学的にリンカー構造が結合したものなど、様々なものを使用することができる。好ましい糖鎖ドナーとしては、SGP、(SG-)Asn、([N
3-PEG(3)]
2-SG)-Asn-PEG(3)-N
3などである。
【0076】
【化28】
本方法に用いるアクセプター分子としては、N297糖鎖を有するFc含有分子であれば特に制限なく、mAb、CLCH、Fc断片など様々なタイプのものを適宜選択して使用できる。
反応温度は、用いる酵素の至適温度に応じて適宜選択することができるが、通常15~50℃であり、好ましくは、25~40℃である。本方法では、2種類の酵素を用いるため、一方の酵素の至適温度で他方の酵素が失活してしまうと、適切に転移反応が進まない場合がある。そのため、至適反応温度等の条件が近い酵素の組み合わせを選択するのが好ましい。
【0077】
<PEGリンカー>
本発明においてPEGリンカーとは、本発明のコンジュゲート体においてhANPペプチドとFc含有分子の連結を仲介する、ポリエチレングリコール構造を含む化学構造を意味する。PEGリンカー構造は、通常は分岐構造を含まない直鎖構造からなり、一方の末端でhANPペプチドのN末端のアミノ基又はC末端のカルボキシル基と結合し、他方の末端でFc含有分子のN297糖鎖のシアル酸2位のカルボン酸と結合している。
【0078】
本発明のコンジュゲート体に含まれるPEGリンカーは、約10個以上のエチレングリコール単位を直鎖状に含んでおり、この長さは、コンジュゲート体が保持するhANPの活性発現に重要である。リンカー構造に含まれるエチレングリコール単位(-CH2-CH2-O-)の個数の上限は約50個以下であり、好ましくは約40個以下であり、より好ましくは約35個以下であり、さらに好ましくは約30個以下である。リンカー構造に含まれるエチレングリコール単位の下限としては、好ましくは約15個以上であり、より好ましくは約20個以上であり、さらに好ましくは約25個以上である。
【0079】
このようなPEGリンカーは、単一の分子に由来するものであっても良く、複数の分子を結合させた、複数の部分構造からなるものであっても良い。このような、リンカー構造の由来となる分子を「リンカー分子」という。
本発明のPEGリンカーが、一つのリンカー分子に由来する場合、Fc含有分子との結合にはSG型N297糖鎖のシアル酸の2位カルボン酸と結合させるため、コンジュゲート体の構造の均一性を確保するため、hANPペプチドとはN末端と結合するように、リンカー分子に含まれる官能基を選択することが好ましい。
【0080】
本発明のPEGリンカーが、複数のリンカー分子に由来する場合、当該リンカー分子としては、少なくとも、N297糖鎖のシアル酸2位のカルボン酸に結合する官能基を含む化合物、及び、hANPペプチドのN末端又はC末端と結合できる官能基を有する化合物が用いられる。この2種類のリンカー分子が直接結合できる官能基をさらに有していれば、直接結合することもできるし、さらに別の化合物を仲介して連結されていてもよい。
用いられるリンカー分子は、コンジュゲート体製造の効率や利便性を考慮して適宜、適切な官能基や構造を有する化合物が選択される。そのため、最終的に構成されるPEGリンカー構造において、合計として所定の個数のエチレングリコール単位構造を含んでいれば良く、一種類のリンカー分子のみがPEGを含んでいても良く、2つ又はそれ以上のリンカー分子がエチレングリコール単位を含んでいても良い。
【0081】
リンカー構造において、「PEG(n)」と表示する場合、nは含まれる連続したエチレングリコール単位の個数を表し、別の化学構造が挿入された場合、PEG(n)-PEG(m)のように表示する。例えば、24単位のポリエチレングリコールを含むリンカー構造はPEG(24)と表し、12単位のポリエチレングリコールを含むリンカー分子と6単位のポリエチレングリコールを含むリンカー分子が結合して形成されたリンカー構造は、PEG(12)-PEG(6)のように表示する。例えば、同一のリンカー分子が結合して形成されるPEG(12)-PEG(12)部分は、PEG(12)2と簡易表記を用いて表示する場合もある。このような所望の長さのPEGリンカーは、例えば、3-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-(9H-フルオレン-9-イルメトキシカルボニルアミノ) エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ]プロパン酸(Fmoc-PEG(12)-COOH)のように、一方にFmoc保護されたアミノ基、他方にカルボン酸を有するFmoc-PEG試薬を用いて、脱保護及びカルボン酸の活性化を繰り返すことによって、所望のPEG長を有するリンカーを形成することができる。このようなFmoc-PEG試薬は、Novabiochemより、Fmoc-PEG(3)-COOH、Fmoc-PEG(6)-COOH、Fmoc-PEG(12)-COOH、Fmoc-PEG(24)-COOH等が市販されている。
【0082】
このようなリンカー分子同士の結合には、有機合成化学の分野で公知の様々な方法を適用することができ、特に限定されるものではない。一般に、抗体-薬物コンジュゲート合成に応用されている結合法を参考にできる(Bioconjugate Chem. 2015, 26, 2198-2215)。例えば、アジド基とアセチレン基のHusgen反応による環形成法として、1,2,3-トリアゾール環を形成させる付加環化反応[Cu(I)-Catalyzed Azide-Alkyne
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(CuAAC)]、アジド基とジベンジルシクロオクテン(DBCO)の反応により1,2,3-トリアゾール環を形成させる付加環化反応[Strain-promoted Azide-Alkyne Cycloaddition(SPAAC)]を例示でき、ここでは、その他同様に歪んだシクロオクチン構造を有する化合物、ビシクロ[6.1.0]ノン-4-エン(BCN)(Angew.Chem.Int.Ed.2010,49,9422-9425)や中員環構造上にヘテロ原子を含むシクロアルキン(Angew.Chem.Int.Ed.2015,54,1190-1194)なども利用できる。別の環形成反応として、1,2,4,5-テトラジン環と歪んだアルケンとのDiels-Alder付加環化反応(Curr.Opin.Chem.Biol.,2014,21,89-95)を例示できる。また、アルデヒド基とのPictet-Spengler反応型の環化縮合として、Hydrazino-Pictet-Spengler ligation(Bioconjugate Chem. 24,846-851.)やOxyamine-based Pictet-Spengler ligation(Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 110, 46-51)が例示できる。その他、アミノ基とカルボキシル基によるアミド結合、SH基とマレイミド基のマレイミド縮合、SH基とメチルスルフォニルフェニルオキサジアゾール基との縮合(Angew. Chem., Int. Ed. 52, 12592-6.)、SH基とヨードアセチル基との結合、SH基と2-ピリジルジチオ基との縮合によるジスルフィド結合、アルデヒド基とヒドラジドのヒドラゾン縮合、アルデヒド基とアミノオキシ基のオキシム縮合等を例示することができる。本発明で採用されるリンカー分子としてはこれらの結合様式に合致した官能基を有するものを適宜選択して、リンカー構造の形成に用いることができる。
【0083】
このような結合反応において、結合様式によっては立体異性体、光学異性体、幾何異性体などが形成される場合がある。これらの異性体は公知の方法で分離して用いても良く、混合物として用いても良い。最終的なコンジュゲートが巨大分子であるためこれら部分構造の異性体の構造的相違はほぼ、コンジュゲート体には影響しないものと考えられる。
【0084】
このようなPEGリンカーの具体例としては、例えば、以下のL(PEG) A1
~L(PEG) H1、及びL(PEG) A2~L(PEG) H2、のような構造を挙げることができる。
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【化36】
(上記式において、「hANP」はhANPペプチドのN末端と結合することを表し、「N297 GLY」はN297糖鎖の非還元末端のシアル酸2位のカルボニル基と結合していることを表す。)。
【0093】
これらのリンカー構造は、Fc含有分子に結合するN297糖鎖に導入されたアジド基とhANPペプチドを含むリンカー分子に結合したDBCO基のClick反応で形成される1,2,3-トリアゾール環を有する。この構造では、アジド基に結合するリンカー構造が、トリアゾール環の1位又は3位に結合した幾何異性体が形成されるが、Fc含有分子1分子当たり2又は4つのアジド基で反応するため、コンジュゲート1分子中に幾何異性構造が混在している。
【0094】
<コンジュゲート体及びその製造方法>
本発明のコンジュゲート体は、上述したhANPペプチド、Fc含有分子、リンカー分子等の中間体を適宜、有機合成化学分野で公知の反応を利用して結合させることで製造することができる。その製造の順序は特に限定されず、中間体や目的物の構造に合わせて、常法に従って、様々な方法を採用することができる。
それぞれの中間体の有する官能基は、当該製造工程に応じて、常法に従って、適宜、活性化、不活性化、保護基の付加、脱保護等を行う。
【0095】
各反応工程において、中間体及び最終物は、適宜分離・精製され次の反応へ供され、又は医薬品原体若しくは試薬として利用される。
上記に例示したPEGリンカーを有するコンジュゲート体は、例えば以下のように製造することができる。
N297糖鎖に結合するリンカー分子は、N297糖鎖の非還元末端に官能基(例えばアジド基)を有する分子であり、上述のFc含有分子の糖鎖リモデリング工程で合成する。一方にアミノ基、他方に別の官能基(例えばアジド基)を有するリンカー分子をSG(10)と反応させ、糖鎖の非還元末端のシアル酸2位のカルボン酸に当該リンカー分子を結合させる。続いて、この糖鎖分子の還元末端GlcNAcを活性化させて、糖鎖ドナー分子とし、糖転移酵素存在下で(Fucα1,6)GlcNAc-Fc含有分子と反応させて、Fc含有分子のN297糖鎖の非還元末端に官能基を導入する。
hANPペプチドのN末端に結合するリンカー分子は、一方にカルボキシル基、他方に別の官能基(DBCO、保護基が導入されたアミノ基など)を有する分子である。hANPペプチドを当該リンカー分子と反応させることで、hANPペプチドのN末端側に所望の官能基を導入することができる。
【0096】
このようにして得られた、官能基が導入されたFc含有分子とhANPペプチドを直接、又は別のリンカー分子を介して連結させることによって、本発明のコンジュゲート体を得ることができる。
【0097】
本発明のコンジュゲート体の具体例としては、上記のL(PEG)A~L(PEG)Hにおいて、hANPペプチドがhANP(1-28)又は(SG-)Asn-hANP(1-28)であり、Fc含有分子が配列番号3のアミノ酸番号20~474のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号5のアミノ酸番号21~234のアミノ酸配列からなる軽鎖の組み合わせ(mAb-A)からなる抗体、または、
配列番号7のアミノ酸番号20~349のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号9のアミノ酸番号21~125のアミノ酸配列からなる軽鎖の組み合わせからなるCLCH(CLCH-A)であり、SG型N297糖鎖がN297-(Fuc)SG又はN297-(Fuc)MSG1であり、より具体的には実施例3で合成された、化合物3-1~化合物3-14を挙げることができるが、好ましくは化合物3-1~化合物3-6である。
【0098】
<機能、活性>
本発明のコンジュゲート体は、修飾されていないhANP(1-28)と比較して、延長された血中持続時間、及び、優れた物性を示し、且つ、皮下投与時にhANP製剤として好ましい緩やかな血中移行性能を有している。天然型hANP(1-28)は、血中から速やかに消失するため、臨床では点滴等により静脈内へ持続投与する必要があったが、本発明のコンジュゲート体は通常の皮下投与によっても長期間薬理効果を発揮できる。また、本発明のコンジュゲート体は、高濃度においても凝集性が低いという特性を有する。このような、本発明のコンジュゲート体の特性によって、従来の天然型hANPや既存のhANP製剤では達成できなかった投与方法、投与経路、製剤技術を採用することが可能となり、急性の循環器系疾患のみならず、慢性の循環器系疾患(高血圧症や慢性心疾患など)の治療に用いることも可能となる。さらに、本発明のコンジュゲート体は生物学的研究ツールとしても有用である。天然型hANPは、長期間血中に存在した場合の組織移行性などは不明であるが、本発明のコンジュゲート体を投与することで、このような局在やhANPが長期間血中に存在することによる生体への影響を調べることが可能となる。
本発明のコンジュゲート体の血中持続性は、実施例4-2の方法に準じて、動物への投与後の末梢血中のcGMP濃度、及び/又は、末梢血サンプル中に含有される当該コンジュゲート体を検出することによって試験することが出来る。本発明のコンジュゲート体は、体内に投与された後、約24時間後においても末梢血中のcGMP濃度を上昇させる効果を維持しており、より好ましくは投与約48時間後においても当該効果を維持しており、より好ましくは投与約72時間後においても当該効果を維持しており、さらにより好ましくは投与約96、120、144又は168時間後においても当該効果を維持している。更に、本発明のコンジュゲート体は、皮下投与後緩やかに活性を発現し、そのピークは24~48時間後である場合が多く、このような血中動態は低血圧発現のリスクを低減・回避できると期待される。また、コンジュゲート体の投与後の末梢血からの、当該コンジュゲート体の検出に関して、約24時間後においても検出されることが好ましく、より好ましくは約48時間後においても検出されることであり、さらに好ましくは約72時間後においても検出されることであり、さらにより好ましくは約96、120、144又は168時間後においても検出されることである。
【0099】
本発明のコンジュゲート体は、高い濃度の水溶液においても凝集しにくいという優れた物性を示す。hANPペプチドは溶液中の塩の影響などによりゲル化し易い性質を有しており、製剤の取扱いに注意が必要であった。本発明のコンジュゲート体は凝集性の問題が低減され、有効成分を高濃度にしたり、様々な添加物を採用できるなど、多様な形態の製剤に適用することができる。特に、糖鎖修飾されたhANPペプチドを含むコンジュゲート体は、非常に良好な非凝集性を示すことが確認されている。
【0100】
本発明のコンジュゲート体の血中持続時間は、コンジュゲート体を生体に投与し、一定時間おきに血液を採取し、当該血液サンプル中に含まれるコンジュゲート体を検出することにより測定することができる。コンジュゲート体の検出方法としては、例えば、LC-MSによる検出、hANPのリング構造を特異的に認識する抗体を用いたELISA法、など、様々な方法を用いることができる。また、本発明のコンジュゲート体をcGMP上昇活性を発現する用量で投与した場合、当該血液サンプルのcGMPレベルを市販の測定キットを用いて測定し、投与開始前の血中のcGMPレベルと比較することで、血中のコンジュゲート体の生物活性としての持続時間を測定することができる。また、コンジュゲート体を放射性同位体で標識し、血液サンプルをSDS-PAGE等で分離し、放射性シグナルを検出することによって、検出することもできる。
【0101】
本発明において、「血中持続時間が延長された」とは、天然型hANPと比較して被験物質の投与後に血中から検出可能な時間が延長されることを意味する。サルへの皮下投与において、天然型hANPは200nmol/kgの投与後30分の時点で血中濃度が測定限界以下となる(data not shown)が、コンジュゲート体は100nmol/kgの投与7日後でも血中から検出された。
【0102】
また、本発明のコンジュゲート体は、NEPによるhANPペプチドの分解に対して耐性を有することが、持続時間が延長される要因の一つと考えられる。このような、NEP分解耐性は、公知の方法で測定することができる。
【0103】
本発明のコンジュゲート体のcGMP上昇活性は、GC-A受容体を発現する細胞を十分量までの濃度勾配に調整した被験物質で刺激した後、細胞を溶解してその細胞溶解液中のcGMP濃度を測定し、最大のcGMP濃度(Emax)を同定することで測定する。本発明のコンジュゲート体が「cGMP上昇活性を保持する」とは、コンジュゲート体が示す最大cGMP濃度が、天然型hANPの最大cGMP濃度と比較して、約30%以上であることを意味し、好ましくは、約50%以上であり、より好ましくは、約70%以上である。本発明のコンジュゲート体は、天然型hANPと比較して、高濃度に製剤化することができ、且つ、延長された血中持続時間を示すため、いわゆるEC50値のような指標で活性を定義することは適切ではなく、濃度を上昇させた場合の最大の活性が、天然型の一定以上の活性を示すことができれば、臨床において、持続的、及び又は、高濃度で投与された場合に十分な薬効を得ることができる。
【0104】
本発明は、本発明のコンジュゲート体を有効成分として含有する医薬を提供する。
【0105】
<医薬>
本発明に係る医薬の有効成分として用い得る物質は、上述したコンジュゲート体の薬学的に許容される塩であってもよい。すなわち、本発明においては、上述した物質の、無機酸、例えば塩酸、硫酸、リン酸、又は有機酸、例えばギ酸、酢酸、酪酸、トリフルオロ酢酸(TFA)、コハク酸、クエン酸等の酸付加塩を、有効成分として使用することもできる。あるいは、本発明においては、上述した物質の、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム等の金属塩、有機塩基による塩の形態を有効成分として使用することもできる。このような、本発明のコンジュゲート体の塩は、hANPペプチド部分の塩であっても良く、糖鎖の構造において塩を形成していても良い。本発明のコンジュゲート体の塩として好ましくは、hANPペプチド部分で薬学上許容される塩を形成したものであり、また、本発明に係る医薬組成物は、その有効成分に係る物質の遊離形としても、又はその薬学上許容し得る塩であってもよい。
【0106】
本発明に係る医薬の有効成分として用い得る物質又はその薬学的に許容し得る塩は、公知の薬学的に許容し得る担体、賦形剤、希釈剤などと混合して医薬に一般に使用されている投与方法、即ち経口投与方法、又は、経粘膜投与、静脈内投与、筋肉内投与もしくは皮下投与等の非経口投与方法によって個体に投与するのが好ましい。
【0107】
本発明に係る医薬の有効成分として用い得る物質の投与量は、疾患の種類、個体(患者)の年齢、体重、症状の程度及び投与経路などによっても異なるが、一般的に1日当りの投与量の上限としては、例えば約100mg/kg以下であり、好ましくは約50mg/kg以下であり、さらに好ましくは1mg/kg以下である。また、一日あたりの投与量の下限としては、例えば約0.1μg/kg以上であり、好ましくは0.5μg/kg以上であり、より好ましくは、1μg/kg以上である。
【0108】
本発明に係る医薬の投与頻度は、使用する有効成分、投与経路、および処置する特定の疾患に依存しても変動する。例えばペプチド性の物質を経口投与する場合、一日当たり4回以下の投与回数で処方することが好ましく、また非経口投与、例えば静脈内投与する場合には、通常のシリンジを用いて注射することもできるし、インフュージョンポンプ、カテーテル等を利用して持続的に投与することもできる。また、皮下注射、筋肉内注射等の経路で投与することも好ましく、その場合、通常用いられる様々な投与デバイスを利用することができる。
【0109】
本発明の医薬の有効成分を液剤として調整する場合、本発明のコンジュゲート体又はその薬学的に許容しうる塩を、水性溶媒に溶解し、必要に応じて、安定化剤、pH調整剤、界面活性剤等を添加して調整することができる。また、凍結乾燥製剤とする場合、上記のように調製した液剤を凍結乾燥し、使用時に生理食塩水、注射用水、ブドウ糖液などで溶解して用いることができる。
【0110】
本発明の医薬は、GC-Aへ作用してcGMPレベルを上昇させることにより、治療することができる疾患の患者に投与することで、当該疾患を治療する効果を有する。ここで、疾患又は症状の「治療」とはGC-Aの活性化により正常化が期待される病的症状の進行を遅延、軽減、緩和及び/又は抑制することで、症状を正常化に近づけることを意味する。疾患の早期又は疾患リスクが高い状態で投与を開始することで、疾患の重症化または発症を抑制する効果が期待される。また、過去に当該疾患を罹患したものは、再発、又は、慢性化に陥る危険性があるが、このような患者に対して、本発明の医薬を継続的に投与することによって、再発や慢性化のリスクを低減させることが期待できる。このような効果も、治療に含まれるものとする。
【0111】
このような疾患としては、例えば、高血圧、急性心不全(急性心不全発症後における病状管理を含む)、慢性心不全、虚血性心疾患、急性腎炎(急性腎炎発症後における病状管理を含む)、慢性腎炎、急性腎不全(急性腎不全発症後における病状管理を含む)、慢性腎不全、虚血性心疾患(心筋梗塞など)、悪性腫瘍の転移、肝繊維化、肝硬変、透析における組織の癒着、繊維化、などである。
【実施例】
【0112】
以下、実施例を用いて、本発明を具体的に説明する。実施例に示されたものは、本発明の実施形態の一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0113】
実施例1は、本発明のコンジュゲートの製造中間体である、hANPペプチド、リンカー分子又はその誘導体の製造例であり、実施例2は抗体分子の作製例であり、実施例3は、コンジュゲート体の合成例であり、実施例4は、本発明のコンジュゲート体の特性や効果を確認した試験例である。
【0114】
本明細書に記載されている各中間体の質量は、次の方法で確認した。装置には、Q Exactive( Thermo Fisher Scientific Inc製)、Ultimate 3000(Thermo Fisher Scientific Inc製)およびCORETECS UPLC C18 (WatersInc製) (1.6 μm、2.1x50 mm)を使用し、移動相Aにはアセトニトリル、移動相Bには0.1%ギ酸添加水溶液を利用し、移動相Aが4分間で2%から95%に変化するグラジェントにて使用し、流速0.4 mL/min、40℃にて分析した。
【0115】
本特許に記載されているタンパク濃度は、微量分光光度計Xpose(Trinean製)を用いて定量した。糖鎖リモデリング抗体分子、コンジュゲート体の質量は、次の方法で確認した。糖鎖リモデリング抗体分子、コンジュゲート体を重鎖と軽鎖にフラグメント化した後に、それぞれのピークを分析カラムで分離し、質量分析した。装置には、Q Exactive( Thermo Fisher Scientific Inc製)、Ultimate 3000(Thermo Fisher Scientific Inc製)およびMAbPac RP (Thermo Fisher Scientific Inc製) (4.0 μm、2.1x50 mm)を使用し、移動相Aにはアセトニトリル、移動相Bには0.1%ギ酸/0.02%トリフルオロ酢酸添加水溶液を利用し、移動相Aが4分間で20%から50%に変化するグラジェントにて使用し、流速0.6 mL/min、80℃にて分析した。
【0116】
[実施例1]各種中間体の合成
以下において、構造式中で、単に「hANP」と表記される場合、修飾ペプチド中のhANPペプチドがhANP(1-28)(配列番号1)であることを示し、当該ペプチドはN末端のSerにおいて、リンカー分子と結合、又は、糖鎖修飾されている。
【0117】
<実施例1-1>DBCO-PEG(12)2-hANP(1-28) (下記式の化合物1-1) の合成
【0118】
【化37】
(上記の図において、構造式の右の模式図は、
図1~3及び実施例3の反応式に表示されるコンジュゲート体又は中間体の模式図中の対応構造を示す。)
【0119】
(1-1A)Fmoc-PEG(12)-hANP(1-28)の合成
Fmoc-PEG試薬であるFmoc-PEG(12)-COOH;3-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-(9H-フルオレン-9-イルメトキシカルボニルアミノ) エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ]プロパン酸(Novabiochem製、304mg,0.36mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(4.6ml)に、N,N,N',N'-テトラメチル-O-(N-スクシンイミジル)ウロニウムテトラフルオロボラート(東京化成工業(株)製,109mg,0.36mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(1.0ml)とジイソプロピルエチルアミン(131μl,0.75mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。
hANP(1-28)酢酸塩(1000mg)をN,N-ジメチルホルムアミド(11ml)、蒸留水(3ml)に溶解させ、ジイソプロピルエチルアミン(315μl,1.81mmol)を加えた。この溶液に対して、事前に調製した活性エステルを含むN,N-ジメチルホルムアミド溶液(5.6m)を加え、室温で1時間攪拌した。
反応終了後、反応液にトリフルオロ酢酸(186μl,2.41mmol)を加え、20mL-scintillation vial(Biotage製)に移し、高速濃縮装置V-10(Biotage)を用いて溶媒を除去した。適量のアセトニトリルを前記バイアルに加え、高速濃縮装置V-10(Biotage)を用いて溶媒を除去し、固形物を得た。この固形物に適量のジエチルエーテルを加えてデカンテーションした後に、適量のアセトニトリル/ジエチルエーテル(1/2)を加え再びデカンテーションした。得られた固形物を減圧下乾燥し、表記目的化合物を含む粗生成物を得た。これ以上精製せず、そのまま次の反応に用いた。
【0120】
(1-1B)H2N-PEG(12)-hANP(1-28)の合成
工程(1-1A)で合成した粗生成物(全量)をN,N-ジメチルホルムアミド(16ml)と蒸留水(3.2ml)の混合溶液に溶解させ、ピペリジン(518μl,5.23mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。反応終了後、反応液に酢酸(451μl,7.88mmol)加え、20mL-scintillation vial(Biotage)に移し、高速濃縮装置V-10(Biotage)を用いて溶媒を除去した。適量のアセトニトリルを前記バイアルに加え、高速濃縮装置V-10(Biotage)を用いて溶媒を除去し、固形物を得た。この固形物に適量のジエチルエーテルを加えてデカンテーションした後に、適量のアセトニトリル/ジエチルエーテル(1/2)を加え、再びデカンテーションした。得られた固形物を適量の0.1%トリフルオロ酢酸水溶液と酢酸を加えて溶解させ、数回に分けて、逆相HPLC分離精製した。0.1%トリフルオロ酢酸水溶液と0.1%トリフルオロ酢酸アセトニトリル溶液を溶離液とし、装置にはPurif-Rp2(昭光サイエンティフィック製)を使用し、カラムにはInertsil ODS-3(GLサイエンス製)を使用した。溶出中にUV検出(220nm)された目的物を含むフラクションを一つにまとめ、凍結乾燥した。表記目的化合物(826mg)を無色固体として得た。
【0121】
(1-1C)Fmoc-PEG(12)2-hANPの合成
Fmoc-PEG試薬であるFmoc-PEG(12)-COOH;3-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-(9H-フルオレン-9-イルメトキシカルボニルアミノ) エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ] エトキシ]プロパン酸(Novabiochem製,251mg,0.30mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(3.8ml)に、N,N,N',N'-テトラメチル-O-(N-スクシンイミジル)ウロニウムテトラフルオロボラート(東京化成工業(株)製、90mg,0.30mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(0.8ml)とジイソプロピルエチルアミン(87μl,0.50mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。
工程(1-1B)で合成した化合物(826mg)をN,N-ジメチルホルムアミド(10ml)と蒸留水(3.5ml)を加えて溶解させ、ジイソプロピルエチルアミン(160μl,0.92mmol)を加えた。この溶液に対して、事前に調製した活性エステルを含むN,N-ジメチルホルムアミド溶液(4.6m)を加え、室温で1時間攪拌した。反応終了後、反応液にトリフルオロ酢酸(77μl,1.00mmol)を加え、20mL-scintillation vial(Biotage製)に移し、高速濃縮装置V-10(Biotage)を用いて溶媒を除去した。適量のアセトニトリルを前記バイアルに加え、高速濃縮装置V-10(Biotage)を用いて溶媒を除去し、固形物を得た。この固形物にジエチルエーテルを加えてデカンテーションした後に、適量のアセトニトリル/ジエチルエーテル(1/2)を加え、再びデカンテーションした。得られた固形物を減圧下乾燥し、表記目的化合物を含む粗生成物を得た。これ以上精製せず、そのまま次の反応に用いた。
【0122】
(1-1D)H2N-PEG(12)2-hANP(1-28)の合成
工程(1-1C)で合成した粗生成物(全量)をN,N-ジメチルホルムアミド(14ml)と蒸留水(1.4ml)を加えて溶解させ、ピペリジン(395μl,3.99mmol)を加え、室温で30分攪拌した。反応液に蒸留水(1.0ml)を加え、更に30分攪拌した。反応終了後、反応液に酢酸(343μl,5.99mmol)を加え、20mL-scintillation vial(Biotage製)に移し、高速濃縮装置V-10(Biotage)を用いて溶媒を除去した。アセトニトリルを前記バイアルに加え、高速濃縮装置V-10(Biotage)を用いて溶媒を除去し、固形物を得た。この固形物に適量のジエチルエーテルを加えてデカンテーションした後に、適量のアセトニトリル/ジエチルエーテル(1/2)を加え再びデカンテーションした。得られた固形物を適量の0.2%トリフルオロ酢酸水溶液と酢酸を加えて溶解させ、数回に分けて、逆相HPLC分離精製した。0.1%トリフルオロ酢酸水溶液と0.1%トリフルオロ酢酸アセトニトリル溶液を溶離液とし、装置にはPurif-Rp2(昭光サイエンティフィック製)を使用し、カラムにはInertsil ODS-3(GLサイエンス製)を使用した。溶出中にUV検出(220nm)された目的物を含むフラクションを一つにまとめ、凍結乾燥した。表記目的化合物(694mg)を無色固体として得た。
【0123】
(1-1E)DBCO-PEG(12)2-hANP(1-28)の合成
工程(1-1D)で合成した化合物(520mg)をN,N-ジメチルホルムアミド(5.5ml)と蒸留水(1.5ml)を加えて溶解させ、ジイソプロピルエチルアミン(77μl,0.44mmol)を加えた。この溶液に対して、DBCO-NHS ester(Click Chemistry Tools製, 53mg, 132mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(0.2m)を加え、室温で1時間攪拌した。反応終了後、20mL-scintillation vial(Biotage製)に移し、高速濃縮装置V-10(Biotage)を用いて溶媒を除去した。この固形物にジエチルエーテルを加えてデカンテーションした後に、アセトニトリル/ジエチルエーテル(1/2)を加え再びデカンテーションした。得られた固形物を適量の0.1%トリフルオロ酢酸水溶液と酢酸を加えて溶解させ、数回に分けて、逆相HPLC分離精製した。0.1%トリフルオロ酢酸水溶液と0.1%トリフルオロ酢酸アセトニトリル溶液を溶離液とし、装置にはPurif-Rp2(昭光サイエンティフィック製)を使用し、カラムにはInertsil ODS-3(GLサイエンス製)を使用した。溶出中にUV検出(220nm)された目的物を含むフラクションを一つにまとめ、凍結乾燥し、表記目的化合物(化合物1-1)(283mg)を無色固体として得た。
ESI-MS: Calcd for C200H322N48O67S3: [M+4H]4+ 1142.8(ave.), Found 1142.6 ; [M+5H]5+914.4(ave.), Found 914.3; [M+6H]6+ 762.2(ave.), Found 762.0
【0124】
<実施例1-2>DBCO-PEG(12)2-(SG-)Asn-hANP(1-28)(下記式の化合物1-2)の合成
【0125】
【化38】
(上記の図において、構造式の右の模式図は、
図1~3及び実施例3の反応式に表示されるコンジュゲート体又は中間体の模式図中の対応構造を示す。)
【0126】
(1-2A)Fmoc-(SG-)Asnフリー体の調製
Fmoc-(SG-)Asn (1S2S-11NC-Asn-Fmoc、糖鎖工学研究所製,2g)を適量の0.1%トリフルオロ酢酸水溶液に溶解させ、複数回に分けて逆相HPLC分離精製した。0.1%トリフルオロ酢酸水溶液と0.1%トリフルオロ酢酸アセトニトリル溶液を溶離液とし、装置にはPurif-Rp2(昭光サイエンティフィック製)を使用し、カラムにはInertsil ODS-3(GLサイエンス製)を使用した。溶出中にUV検出(220nm)された目的物を含むフラクションを一つにまとめ、凍結乾燥した。無色固体(1.8g)を得た。
【0127】
(1-2B)hANP(1-28)TFA塩(トリフルオロ酢酸塩)の調製
カルペリチド酢酸塩(hANP(1-28)酢酸塩)(2.7g)を蒸留水(200 ml)に溶解させ、トリフルオロ酢酸(4ml,52.3mmol)加え、10分間放置した後に、凍結乾燥した。凍結乾燥終了後、蒸留水(200 ml)に溶解させ、再び凍結乾燥した。無色固体(2.7g)を得た。
【0128】
(1-2C)(SG-)Asn-hANP(1-28)の合成
工程(1-2A)で調製したFmoc-(SG-)Asnフリー体(436mg)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(7.2ml)に対して、氷冷下HATU(65mg,0.17mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(0.8ml)とジイソプロピルエチルアミン(118μl,0.68mmol)を加え、2.5分攪拌し、速やかに次の反応に用いた(溶液1-2C)。
工程(1-2B)で調製したhANP(1-28)TFA塩(400mg)をN,N-ジメチルホルムアミド溶液(4.8ml)と蒸留水(1.2ml)を加えて溶解させ、ジイソプロピルエチルアミン(118μl,0.68mmol)を加えた。この溶液に対して、事前に調製した活性エステルを含むN,N-ジメチルホルムアミド溶液1-2C(8.0m)を加え、室温で30分攪拌した。反応終了後、酢酸(82μl,1.36mmol)を加えた。約5mlずつの反応液をあらかじめアセトニトリル(35ml)を加えた遠沈管(50ml)3本に移した。小型遠心機(日立工機、CF16RX)を利用して、固形物を沈殿させ、上澄みを取り除いた。3本の遠沈管に分かれた固形物を1つの遠沈管にまとめ、アセトニトリル(30mL)で洗浄した後、ジエチルエーテル(30mL)で2回洗浄した後に、減圧下乾燥し、粗生成物を得た。
得られた粗生成物(全量)をN,N-ジメチルホルムアミド溶液(8.4ml)、蒸留水(1.4ml)に溶解させ、ピペリジン(224μl,2.26mmol)を加え、室温で30分攪拌した。反応終了後、酢酸(194μl,3.39mmol)を加えた。約5mlずつの反応液をあらかじめアセトニトリル(35ml)を加えた遠沈管(50ml)2本に移した。小型遠心機(日立工機、CF16RX)を利用して、固形物を沈殿させ、上澄みを取り除いた。2本の遠沈管に分かれた固形物を1つの遠沈管にまとめ、アセトニトリル(30mL)で洗浄、ジエチルエーテル(30mL)x2で洗浄した後に、減圧下乾燥し、粗生成物を得た。
以上の操作を3ロット分行い、各粗生成物(3ロット分)を1つにまとめた。得られた固形物を適量の0.1%トリフルオロ酢酸水溶液と酢酸を加えて溶解させ、数回に分けて、逆相HPLC分離精製した。0.1%トリフルオロ酢酸水溶液と0.1%トリフルオロ酢酸アセトニトリル溶液を溶離液とし、装置にはPurif-Rp2(昭光サイエンティフィック製)を使用し、カラムにはInertsil ODS-3(GLサイエンス製)を使用した。溶出中にUV検出(220nm)された目的物を含むフラクションを一つにまとめ、凍結乾燥した。表記目的化合物(SG-)Asn-hANP(1-28) (1.49g)を無色固体として得た。
ESI-MS: Calcd for C215H345N53O102S3: [M+4H]4+ 1351.1(ave.), Found 1351.1; [M+5H]5+1081.1(ave.), Found 1080.9
【0129】
(1-2D)Fmoc-PEG(12)2-(SG-)Asn-hANPの合成
WO2014115797A1 (実施例2-28A)に記載された方法に従って合成したFmoc-NH-PEG(12)2-COOH(122mg,0.085mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(1.0ml)に、N,N,N',N'-テトラメチル-O-(N-スクシンイミジル)ウロニウムテトラフルオロボラート(東京化成工業(株),23mg,0.077mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(1.0ml)とジイソプロピルエチルアミン(54μl,0.31mmol)を加え、室温で1時間攪拌した(溶液1-2D)。
工程(1-2C)で合成した化合物(300mg)をN,N-ジメチルホルムアミド(3ml)、蒸留水(1.4ml)に溶解させ、ジイソプロピルエチルアミン(54μl,0.31mmol)を加えた。この溶液に対して、事前に調製した活性エステルを含むN,N-ジメチルホルムアミド溶液1-2D(2.0m)を加え、室温で22時間攪拌した。
反応終了後、反応液にトリフルオロ酢酸(47μl,0.61mmol)を加え、約3.2mlずつの反応液をあらかじめジエチルエーテル/アセトニトリル(30ml/10ml)を加えた遠沈管(50ml)2本に移した。小型遠心機(日立工機、CF16RX)を利用して、固形物を沈殿させ、上澄みを取り除いた。2本の遠沈管に分かれた固形物を1つの遠沈管にまとめ、適量のジエチルエーテル/アセトニトリル(1/1)で洗浄した後に、減圧下乾燥し、粗生成物を得た。これ以上精製せずにそのまま用いた。上記操作を4ロット分行い、表記目的化合物を含む粗生成物を計1.47g得た。
【0130】
(1-2E)H2N-PEG(12)2-(SG-)Asn-hANP(1-28)の合成
工程(1-2D)で合成した粗生成物(0.734g)をN,N-ジメチルホルムアミド(7.2ml)、蒸留水(1.2ml)に溶解させ、ピペリジン(200μl,2.05mmol)を加え、室温で45分攪拌した。反応終了後、反応液に酢酸(176μl,3.07mmol)加え、約2.1mlずつの反応液をあらかじめジエチルエーテル/アセトニトリル(30ml/10ml)を加えた遠沈管(50ml)4本に移した。小型遠心機(日立工機、CF16RX)を利用して、固形物を沈殿させ、上澄みを取り除いた。4本の遠沈管に分かれた固形物を1つの遠沈管にまとめ、適量のジエチルエーテル/アセトニトリル(1/1)及び適量のジエチルエーテルで洗浄した後に、減圧下乾燥し、粗生成物を得た。得られた固形物を適量の0.2%トリフルオロ酢酸水溶液と酢酸を加えて溶解させ、数回に分けて、逆相HPLC分離精製した。0.1%トリフルオロ酢酸水溶液と0.1%トリフルオロ酢酸アセトニトリル溶液を溶離液とし、装置にはPurif-Rp2(昭光サイエンティフィック製)を使用し、カラムにはInertsil ODS-3(GLサイエンス製)を使用した。溶出中にUV検出(220nm)された目的物を含むフラクションを一つにまとめ、凍結乾燥した。表記目的化合物(416mg)を無色固体として得た。
【0131】
(1-2F)DBCO-PEG(12)2-(SG-)Asn-hANPの合成
工程(1-2E)で合成した化合物(832mg)をN,N-ジメチルホルムアミド(12ml)、蒸留水(2.4ml)に溶解させ、ジイソプロピルエチルアミン(123μl,0.71mmol)を加えた。この溶液に対して、DBCO-NHS ester(Click Chemistry Tools製, 57mg, 142mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(0.4m)を加え、室温で1時間攪拌した。反応終了後、反応液にトリフルオロ酢酸(109μl,1.42mmol)を加え、約2.5mlずつの反応液をあらかじめジエチルエーテル/アセトニトリル(30ml/5ml)を加えた遠沈管(50ml)6本に移した。小型遠心機(日立工機、CF16RX)を利用して、固形物を沈殿させ、上澄みを取り除いた。6本の遠沈管に分かれた固形物を1つの遠沈管にまとめ、適量のジエチルエーテル/アセトニトリル(1/1)で洗浄した後に、減圧下乾燥し、粗生成物を得た。得られた固形物を適量の0.2%トリフルオロ酢酸水溶液と酢酸を加えて溶解させ、逆相HPLC分離精製した。0.1%トリフルオロ酢酸水溶液と0.1%トリフルオロ酢酸アセトニトリル溶液を溶離液とし、装置にはPurif-Rp2(昭光サイエンティフィック製)を使用し、カラムにはInertsil ODS-3(GLサイエンス製)を使用した。溶出中にUV検出(220nm)された目的物を含むフラクションを一つにまとめ、凍結乾燥した。表記目的化合物(620mg)を無色固体として得た。
ESI-MS: Calcd for C288H464N56O130S3: [M+5H]5+ 1378.4(ave.), Found 1378.2; [M+6H]6+1148.9(ave.), Found 1148.7; [M+7H]7+ 984.9(ave.), Found 984.9
PEGリンカーが有するPEG長やPEG縮合数は、使用するFmoc-PEG試薬、縮合・Fmoc脱保護の順番、及び繰り返し回数の選択により制御可能である。従って、実施例1-1あるいは実施例1-2の方法にこれらの要素の選択を組み入れることで、DBCO-L(PEG) -hANPを自在に合成することが可能である。以下に、実施例1-1に記載した方法と同様の方法に従って、Fmoc-PEG試薬、縮合・Fmoc脱保護の順番、及び繰り返し回数を変えて合成した化合物を示す。
【0132】
<実施例1-3>DBCO-PEG(12)-hANP(1-28) (下記式の化合物1-3)の合成
【0133】
【化39】
(上記の図において、構造式の右の模式図は、
図1~3及び実施例3の反応式に表示されるコンジュゲート体又は中間体の模式図中の対応構造を示す。)
実施例1-1の工程(1-1E)において、出発物質を工程(1-1B)で合成したH2N-PEG(12)-hANP(1-28)に置き換えて合成することで、標題の目的化合物1-3を得た。
ESI-MS: Calcd for C
173H
269N
47O
54S
3: [M+3H]
3+ 1323.5(ave.), Found 1323.2; [M+5H]
5+794.5(ave.), Found 794.4
【0134】
<実施例1-4>DBCO-PEG(24)-hANP(1-28) (下記式の化合物1-4)の合成
【0135】
【化40】
(上記の図において、構造式の右の模式図は、
図1~3及び実施例3の反応式に表示されるコンジュゲート体又は中間体の模式図中の対応構造を示す。)
実施例1-1の工程(1-1A)においてFmoc-PEG試薬としてFmoc-PEG(24)-COOHを用い、工程(1-1E)の出発物を当該方法において工程(1-1B)で得られたH2N-PEG(24)-hANP(1-28)に置き換えて合成することで、標題の目的化合物1-4を得た。
ESI-MS: Calcd for C
197H
317N
47O
66S
3: [M+4H]
4+ 1125.0(ave.), Found 1124.8,[M+5H]
5+ 900.2(ave.), Found 900.0; [M+6H]
6+ 750.4(ave.), Found 750.2
【0136】
<実施例1-5>DBCO-PEG(12)-PEG(6)-hANP(1-28) (下記式の化合物1-5)の合成
【0137】
【化41】
(上記の図において、構造式の右の模式図は、
図1~3及び実施例3の反応式に表示されるコンジュゲート体又は中間体の模式図中の対応構造を示す。)
実施例1-1の工程(1-1A)においてFmoc-PEG試薬としてFmoc-PEG(6)-COOHに置き換えて合成することで、標題の目的化合物1-5を得た。
ESI-MS: Calcd for C
288H
464N
56O
130S
3: [M+5H]
5+ 1378.4(ave.), Found 1378.2; [M+6H]
6+1148.9(ave.), Found 1148.7; [M+7H]
7+ 984.9(ave.), Found 984.9
【0138】
<実施例1-6>DBCO-PEG(6)-PEG(12)-hANP(1-28) (下記式の化合物1-6)の合成
【0139】
【化42】
(上記の図において、構造式の右の模式図は、
図1~3及び実施例3の反応式に表示されるコンジュゲート体又は中間体の模式図中の対応構造を示す。)
実施例1-1の工程(1-1C)においてFmoc-PEG試薬としてFmoc-PEG(6)-COOHに置き換えて合成することで、標題の目的化合物1-6を得た。
ESI-MS: Calcd for C
188H
298N
48O
61S
3: [M+3H]
3+ 1435.3(ave.), Found 1435.0; [M+4H]
4+1076.7(ave.), Found 1076.5; [M+5H]
5+ 861.6(ave.), Found 861.4
【0140】
<実施例1-7>DBCO-PEG(6)2-hANP(1-28) (下記式の化合物1-7)の合成
【0141】
【化43】
(上記の図において、構造式の右の模式図は、
図1~3及び実施例3の反応式に表示されるコンジュゲート体又は中間体の模式図中の対応構造を示す。)
実施例1-1の工程(1-1A)及び工程(1-1C)においてFmoc-PEG試薬としてFmoc-PEG(6)-COOHに置き換えて合成することで、標題の目的化合物1-7を得た。
ESI-MS: Calcd for C
176H
274N
48O
55S
3: [M+3H]
3+ 1347.2(ave.), Found 1347.0; [M+4H]
4+1010.6(ave.), Found 1010.5; [M+5H]
5+ 808.7(ave.), Found 808.6
【0142】
<実施例1-8>DBCO-PEG(6)3-hANP(1-28) (下記式の化合物1-8)の合成
【0143】
【化44】
(上記の図において、構造式の右の模式図は、
図1~3及び実施例3の反応式に表示されるコンジュゲート体又は中間体の模式図中の対応構造を示す。)
実施例1-1の工程(1-1A)及び工程(1-1C)においてFmoc-PEG試薬としてFmoc-PEG(6)-COOHに置き換え、工程(1-1D)と(1-1E)の間で更に工程(1-1C)~(1-1D)を繰り返すことによって合成することで、標題の目的化合物1-8を得た。
ESI-MS: Calcd for C
191H
303N
49O
62S
3: [M+3H]
3+ 1459.0(ave.), Found 1458.7; [M+4H]
4+1094.5(ave.), Found 1094.3; [M+5H]
5+ 875.8(ave.), Found 875.6
【0144】
<実施例1-9>DBCO-PEG(6)4-hANP(1-28) (下記式の化合物1-9)の合成
【0145】
【化45】
(上記の図において、構造式の右の模式図は、
図1~3及び実施例3の反応式に表示されるコンジュゲート体又は中間体の模式図中の対応構造を示す。)
実施例1-1の工程(1-1A)及び工程(1-1C)においてFmoc-PEG試薬としてFmoc-PEG(6)-COOHに置き換え、工程(1-1D)と(1-1E)の間で更に工程(1-1C)~(1-1D)を2回繰り返すことによって合成することで、標題の目的化合物1-9を得た。
ESI-MS: Calcd for C
206H
332N
50O
69S
3: [M+4H]
4+ 1178.3(ave.), Found 1178.3; [M+5H]
5+942.9(ave.), Found 942.7; [M+6H]
6+ 785.9(ave.), Found 785.7
【0146】
<実施例1-10>[N3-PEG(3)]2-SG(10)-Ox(下記式からなる化合物)の合成
【0147】
【化46】
(上記の図において、構造式の右の模式図は、
図1~3及び実施例3の反応式に表示されるコンジュゲート体又は中間体の模式図中の対応構造を示す。)
【0148】
(1-10A)[N3-PEG(3)]2-SG(10)の合成
5mlサンプリングチューブ((株)イナ・オプティカ)に、11-アジド-3,6,9-トリオキサウンデカン-1-アミン(Aldrich,96μl,0.485mmol)、ジシアロオクタサッカリド(東京化成工業(株), 50 mg, 0.24mmol)の水溶液(0.5ml)を加え、1時間攪拌した後に、凍結乾燥した。凍結乾燥後の5mlサンプリングチューブに、HATU(92mg,0.24mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(0.6ml)とジイソプロピルエチルアミン(42μl,0.24mmol)を加え、37℃で4時間攪拌した。
【0149】
反応終了後、あらかじめジエチルエーテル(20ml)を加えた遠沈管(50ml)に反応液を移した。小型遠心機(日立工機、CF16RX)を利用して、固形物を沈殿させ、上澄みを取り除いた。ジエチルエーテル(20ml)を加えて、デカンテーションした。続いて、アセトニトリル(20ml)を加えて、デカンテーションした後に、減圧下乾燥し、粗生成物を得た。得られた固形物を適量の0.2%トリフルオロ酢酸水溶液に溶解させ、逆相HPLC分離精製した。0.1%トリフルオロ酢酸水溶液と0.1%トリフルオロ酢酸アセトニトリル溶液を溶離液とし、装置にはPurif-Rp2(昭光サイエンティフィック製)を使用し、カラムにはInertsil ODS-3(GLサイエンス製)を使用した。溶出中にUV検出(220nm)された目的物を含むフラクションを一つにまとめ、凍結乾燥して、表記目的化合物(42mg)を無色固体として得た。
ESI-MS: Calcd for C92H157N13O61 : [M+2H]2+1211.7(ave.), Found 1211.5; [M-2H]2- 1209.6(ave.), Found 1209.5
【0150】
(1-10B)[N
3-PEG(3)]
2-SG(10)-Oxの合成
5mlサンプリングチューブ((株)イナ・オプティカ製)に、工程(1-10A)で合成した化合物(40mg)、2-クロロ-1,3-ジメチル-1H-ベンズイミダゾール-3-イウム-クロライド(CDMBI)(伏見製薬所製、17.9mg,0.083mmol)の水溶液(200μl)を加えた。氷冷後の反応液にりん酸三カリウム(52.6 mg, 0.25mmol)の水溶液(200μl)を加え、氷冷下で2時間攪拌した。得られた反応液を、アミコンウルトラ(ウルトラセル30K、 Merck Millipore製)を用いて限外ろ過し、固形物を除去した。その通過液を、ゲルろ過クロマトグラフィーにて精製した。装置にはPurif-Rp2(昭光サイエンティフィック製)を使用し、カラムにはHiPrep 26/10 Desalting(GEヘルスケア製)を使用し、移動相に0.03%- NH
3水溶液を使用し、流速を10ml/min、分画容量を10mlとした。溶出中にUV検出(220nm)された目的物を含むフラクションを一つにまとめ、1N水酸化ナトリウム水溶液(33μl,0.033mmol)を加えて凍結乾燥した。表記目的化合物(34 mg)を無色固体として得た。
NMR(in D2O)(
図4のチャート)。
【0151】
<実施例1-11>[N3-PEG(3)]-MSG1(9)-Ox(下記式からなる化合物)の合成
【0152】
【化47】
(上記の図において、構造式の右の模式図は、
図1~3及び実施例3の反応式に表示されるコンジュゲート体、中間体又は反応式の模式図中の対応構造を示す。)
【0153】
(1-11A)(MSG1-)Asnの調製
市販品であるmonosialo-Asn free (1S2G/1G2S-10NC-Asn 、(株)糖鎖工学研究所製)(「(MSG-)Asn」と呼ぶ)(500mg)を以下の条件で逆相HPLC分離精製し、1st main peakとして溶出される(MSG1-)Asn(保持時間 15~19 min 付近)と2nd main peakとして溶出される(MSG2-)Asn(保持時間 21~26 min 付近)に分離した。0.1%ぎ酸水溶液を溶離液として使用し、装置にはELS-PDAトリガー分取システム(日本分光株式会社製)を使用し、カラムにはInertsil ODS-3(10um、30Φx250mm、GLサイエンス社製)を使用し、流速を30ml/minとした。溶出中にUV検出(210nm)された最初のピークに帰属するフラクションを一つにまとめ、凍結乾燥して、表記目的化合物(238mg)を無色固体として得た。上記の溶出操作でUV検出される2つ目のピークに帰属するフラクションを集めることで、(MSG2-)Asnを取得することができる。
【0154】
(1-11B)MSG1(9)の合成
工程(1-11A)で得られた化合物(229mg)を200mMりん酸緩衝溶液(pH6.25)(1145μL)に溶解させ、EndoM(東京化成工業(株)製、1U/mL))水溶液(100μL)を加え、35℃で6日間インキュベートした。反応終了後、反応液をVIVASPIN 15R (Hydrosart膜、30K,6,000 g)を用いて限外ろ過し、得られた通過液を逆相HPLC分離精製した。0.1%トリフルオロ酢酸水溶液を溶離液として使用し、装置にはELS-PDA トリガー分取システム(日本分光株式会社製)、カラムにはInertsil ODS-3(GLサイエンス社製)を使用した。溶出中にUV検出(210nm)された目的物を含むフラクションを一つにまとめ、凍結乾燥して、表記目的化合物(117mg)を無色固体として得た。
【0155】
(1-11C)[N
3-PEG(3)]-MSG1(9)の合成
工程(1-11B)で合成した化合物(169mg)を使い、工程(1-10A)と同様の手法に従って、表記目的物 (94.2mg)を得た。
ESI-MS: Calcd for C
73H
124N
8O
51: [M+H]
+ 1929.9(ave.), Found 1929.7
(1-11D)[N
3-PEG(3)]-MSG1(9)-Oxの合成
工程(1-11C)で合成した化合物(100mg)を使い、工程(1-10B)と同様の手法に従って、表記目的物(89mg)を得た。NMR(in D2O)(
図5のチャート)。
また、工程(1-11B)の出発物質として、工程(1-11A)の2つ目のピークとして得られる(MSG2-)Asnを用いて、以降同様の操作を行うことによって、[N
3-PEG(3)]-MSG2(9)-Ox(化合物1-11において、β-Manの分岐鎖のうち1-6鎖側のシアル酸にリンカーが結合した化合物1-12)を合成することができる。実施例3-5、3-6において化合物1-11を化合物1-12に置換することで、2つのhANPペプチドが異なる分岐鎖に連結したコンジュゲートを合成することができる。
【0156】
【0157】
<実施例1-12>[N3-PEG(3)]2-SG(10)の合成-2
上記(1-10A)で合成した[N3-PEG(3)]2-SG(10)は、以下の方法によっても合成された。この方法で得られた化合物を用いて、工程(1-10B)を行うことで、化合物1-10を合成することができる。
【0158】
(1-12A)([N3-PEG(3)]2-SG)-Asn-PEG(3)-N3(下記式の化合物)の合成
【0159】
【化49】
工程(1-2A)で調製したFmoc-(SG-)Asnフリー体(1000mg)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(10ml)に対して、HATU(891mg,2.34mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(3ml)、11-アジド-3,6,9-トリオキサウンデカン-1-アミン(東京化成工業(株),511mg,2.34mmol)とジイソプロピルエチルアミン(816μl,4.69mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(3ml)を加え、37℃で3時間攪拌した。更に、HATU(148mg,0.39mmol)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(500μl)を加え、37℃で1時間攪拌した。その後に、ピペリジン(386μl,3.91mmol)を加え、37℃で1時間攪拌した。反応終了後、酢酸(469μl)を加えた。
【0160】
あらかじめジエチルエーテル(100ml)を加えたジャンボコニカルチューブ(175ml)2本に反応液を半分ずつ移した。小型遠心機(日立工機、CF16RX)を利用して、固形物を沈殿させ、上澄みを取り除いた。ガム状の固形物を遠沈管(50ml)に移し、ジエチルエーテル(30ml)、アセトニトリル(10ml)を加え、デカンテーションした。この操作を2回繰り返した。同様にして、適量のアセトニトリル、あるいは適量のジエチルエーテルを加えて、デカンテーションした後に、減圧下乾燥し、粗生成物を得た。得られた固形物を適量の0.2%トリフルオロ酢酸水溶液に溶解させ、逆相HPLC分離精製した。0.1%トリフルオロ酢酸水溶液と0.1%トリフルオロ酢酸アセトニトリル溶液を溶離液とし、装置にはPurif-Rp2(昭光サイエンティフィック製)を使用し、カラムにはInertsil ODS-3(GLサイエンス製)を使用した。溶出中にUV検出(220nm)された目的物を含むフラクションを一つにまとめ、凍結乾燥して、表記目的化合物(637mg)を無色固体として得た。
ESI-MS: Calcd for C112H192N20O70: [M+3H]3+ 980.6(ave.), Found 980.4。
【0161】
(1-12B)[N3-PEG(3)]2-SG(10)(工程(1-10A)の化合物)の合成
【0162】
【化50】
2mlのチューブに、工程(1-12A)で合成した([N
3-PEG(3)]
2-SG)-Asn-PEG(3)-N
3(78.6mg)を100mMリン酸バッファー,pH6.0(ナカライテスク(株),465μl)に溶解させた。この溶液に1U/mL EndoM(東京化成工業(株),70μl)を加え、28℃で5時間振とうした後に、室温で4日間静置した。反応終了後、適量の0.2%トリフルオロ酢酸水溶液を加え、逆相HPLCにより分離精製した。0.1%トリフルオロ酢酸水溶液と0.1%トリフルオロ酢酸アセトニトリル溶液を溶離液とし、装置にはPurif-Rp2(昭光サイエンティフィック製)を使用し、カラムにはInertsil ODS-3(GLサイエンス製)を使用した。溶出中にUV検出(220nm)された目的物を含むフラクションを一つにまとめ、凍結乾燥して、表記目的化合物(40mg)を無色固体として得た。
ESI-MS: Calcd for C
92H
157N
13O
61: [M+2H]
2+ 1211.7(ave.), Found 1211.5
【0163】
[実施例2]キャリアタンパクの調製
【0164】
<実施例2-1> キャリア用全長抗体(mAb-A)の調製
キャリア用全長抗体として、ヒト体内に存在しない抗原を認識する抗LPS抗体A(以降、「mAb-A」と呼ぶ)(WO2015/046505におけるh#1G5-H1/L1)を選択し、当該抗体をWO2015/046505の実施例2、5及び7等に記載された方法と同様の方法で調製した。最終保存サンプルは、19.4mg/mlのmAb-A溶液 (HBSor(25mM ヒスチジン/5% ソルビトール、pH6.0))とした。
【0165】
<実施例2-2>CLCH-Aの調製
キャリア用分子として、IgG1の可変領域を欠損させた部分抗体分子であるCLCH-Aを以下のように作製した。
【0166】
(2-2A)CH―A発現ベクターの構築
ヒト重鎖分泌シグナルとヒトIgG1定常領域を結合したCHタイプ重鎖(CH―A)のアミノ酸をコードするDNA配列を含むDNA断片(配列番号6)を合成した。合成したDNA断片をPCRにより増幅し、WO2015/046505に記載されたpCMA-LKをXbaI及びPmeIで消化してκ鎖分泌シグナル及びヒトκ鎖定常領域を取り除いたDNA断片とIn-Fusion HD PCRクローニングキット(Clontech社)を用いて結合して、CH―A発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA/CH」と命名した。CH―Aのアミノ酸配列を配列番号7のアミノ酸番号20~349(アミノ酸番号1~19はシグナル配列)に示した。
【0167】
(2-2B)CL―A発現ベクターの構築
ヒト軽鎖分泌シグナルとヒトκ鎖定常領域を結合したCLタイプ軽鎖(CL―A)のアミノ酸をコードするDNA配列を含むDNA断片(配列番号8)を合成した。工程(2-2A)と同様の方法で、CL発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA/CL」と命名した。CL―Aのアミノ酸配列を配列番号9のアミノ酸番号21~125(アミノ酸番号1~20はシグナル配列)に示した。
【0168】
(2-2C)CLCH-Aの生産
WO2015/046505の実施例2に記載された方法と同様の方法で、上記で構築したpCMA/CHとpCMA/CLの組み合わせてFreeStyle 293F細胞(INVITROGEN社製)を用いて、CH―AとCL―Aを組み合わせた部分抗体分子を含む培養上清を得た。得られた部分抗体分子を「CLCH-A」と命名した。
【0169】
(2-2D)CLCH-Aの精製
工程(2-2C)で得られた培養上清からCLCH-Aを、組み換えProteinAアフィニティークロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィーの2段階工程で精製した。精製工程と精製後のバッファー置換、濃縮工程は4-6℃下で実施した。最初に、培養上清を、PBSで平衡化したMabSelectSuRe(GE Healthcare Bioscience社製)が充填されたカラムにアプライした。培養液がカラムに全て入ったのち、カラム容量2倍以上のPBSでカラムを洗浄した。次に2Mアルギニン塩酸塩溶液(pH4.0)で溶出し、溶出液を分画し、吸光度に基づきCLCH-Aの含まれる画分を集めた。回収液を透析(Thermo Scientific社、Slide-A-Lyzer Dialysis Cassette)により50mM MES/20mM NaCl、pH6.0への液置換を行った。回収した溶液を50mM MES/20mM NaCl、pH6.0で平衡化したHiTrap SP HP(GE Healthcare Bioscience社製)にアプライした。50mM MES/20mM NaCl、pH6.0でカラムを洗浄したのち、0から200 mM塩化ナトリウムによる直線的濃度勾配溶出(10カラム容量)を実施し、上記と同様の方法で溶出液からCLCH-Aの含まれる画分を集めた。回収液を透析(Thermo Scientific社、Slide-A-Lyzer Dialysis Cassette)によりHBSor(25mM ヒスチジン/5% ソルビトール、pH6.0)への液置換を行った。最後にCentrifugal UF Filter Device VIVASPIN20(分画分子量UF10K,Sartorius社,4℃下)にて濃縮し、濃度を20mg/ml以上に調製し、CLCH-A精製サンプルとした。
【0170】
<実施例2-3>CLCH-Bの調製
キャリア用分子として、CLCH-Aの重鎖にLALA変異を導入させた部分抗体分子であるCLCH-Bを以下のように作製した。
【0171】
(2-3A)CH-B発現ベクターの構築
pCMA/CHをテンプレートとし、下記プライマーセット(CHLALA-F及びCHLALA-R)とKOD -Plus- Mutagenesis Kit(TOYOBO社)を用いて、配列番号9のアミノ酸番号136-137のLeu-Leu(Eu番号でLeu234 - Lue235に相当)をAla-Alaに置換する変異を導入することによりCH-B発現ベクターを構築した。構築した発現ベクターを「pCMA/CH-B」と命名した。CH―BをコードするDNAのヌクレオチド配列を配列番号10のヌクレオチド番号58~1047(ヌクレオチド番号1~57はシグナル配列)に示し、アミノ酸配列を配列番号11のアミノ酸番号20~349(アミノ酸番号1~19はシグナル配列)に示した。
プライマーセット
CHLALA-F;5’-GCGGGAGGCCCTTCCGTGTTCCTGTTCCCC-3’(配列番号12)
CHLALA-R;5’-GGCTTCGGGGGCAGGACAAGGGGGACAGGTG-3’(配列番号13)。
(2-3B)CLCH-Bの生産及び精製
pCMA/CH―Bと工程(2-2B)で作製したpCMA/CLを組み合わせて工程(2-2C)と同様の方法で、CH-BとCL-Aを組み合わせた部分抗体分子(得られる部分抗体分子を「CLCH-B」と命名した。)を含む培養上清を得た。得られた培養上清から工程2-2Dと同様の方法で部分抗体分子を精製し、CLCH-B精製サンプルとした。
【0172】
<実施例2-4>Fc-B(野生型Fc)の調製
キャリア用分子として、IgG1のFc断片からなる部分抗体分子であるFc-Bを以下のように作製した。
【0173】
(2-4A)Fc-B発現ベクターの構築
ヒト軽鎖分泌シグナルとヒトFc領域を結合したFc-Bのアミノ酸配列をコードするDNA配列を含むDNA断片(配列番号14)を合成した。工程(2-2A)と同様の方法で、Fc-B発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pCMA/Fc-B」と命名した。Fc-Bのアミノ酸配列を配列番号15のアミノ酸番号21~243(アミノ酸番号1~20はシグナル配列)に示した。
【0174】
(2-4B)Fc-Bの生産
pCMA/Fc-Bを用いて、実施例(2-2C)と同様の方法でFc-Bを部分抗体分子として含む培養上清を得た。
【0175】
(2-4C)Fc-Bの精製
工程(2-4B)で得られた培養上清からFc断片を、組み換えProteinAアフィニティークロマトグラフィー(4-6℃下)とセラミックハイドロキシアパタイト(室温下)の2段階工程で精製した。組み換えProteinAアフィニティークロマトグラフィー精製後とセラミックハイドロキシアパタイト精製後のバッファー置換工程は4-6℃下で実施した。最初に、培養上清を、PBSで平衡化したMabSelectSuRe(GE Healthcare Bioscience社製、HiTrapカラム)にアプライした。培養上清がカラムに全て入ったのち、カラム容量2倍以上のPBSでカラムを洗浄した。次に2Mアルギニン塩酸塩溶液(pH4.0)で溶出し、Fc断片の含まれる画分を集めた。その画分を透析(Thermo Scientific社、Slide-A-Lyzer Dialysis Cassette)によりPBSに置換した後、5mM りん酸ナトリウム/50mM MES/pH7.0のバッファーで5倍希釈したFC断片溶液を、5mM NaPi/50mM MES/30mM NaCl/pH7.0のバッファーで平衡化されたセラミックハイドロキシアパタイトカラム(日本バイオラッド、Bio-Scale CHT Type-l Hydroxyapatite Column)にアプライした。0から2M塩化ナトリウムによる直線的濃度勾配溶出を実施し、Fc-Bの含まれる画分を集めた。その画分を透析(Thermo Scientific社、Slide-A-Lyzer Dialysis Cassette)によりHBSor(25mM ヒスチジン/5% ソルビトール、pH6.0)への液置換を行った。最後にCentrifugal UF Filter Device VIVASPIN20(分画分子量UF10K,Sartorius社,4℃下)にて濃縮し、濃度を10mg/mlに調製し、精製Fc-Bサンプルとした。
【0176】
<実施例2-5>Fc-A(LALA体)の調製
キャリア用分子として、Fc-BのLALA体であり、N末端が延長された、Fc-Aを以下のように作製した。
【0177】
(2-5A)Fc-A発現ベクターの構築
pCMA/Fc-Bをテンプレートとし、下記プライマーセット(FcLALA-F及びFc05-R)とKOD -Plus- Mutagenesis Kit(TOYOBO社)を用いて、配列番号15のアミノ酸番号30-31のLeu-Leu(Eu番号でLeu234 - Lue235に相当)をAla-Alaに置換させ、且つ、N末端に4アミノ酸(DKTH)を付加する変異を導入することによりFc-A発現ベクターを構築した。構築した発現ベクターを「pCMA/Fc-A」と命名した。Fc-AをコードするDNAのヌクレオチド配列を配列番号16のヌクレオチド番号61~741(ヌクレオチド番号1~60はシグナル配列)に示し、アミノ酸配列を配列番号17のアミノ酸番号21~247(アミノ酸番号1~20はシグナル配列)に示した。
プライマーセット
FcLALA-F;5’-TGTCCTGCTCCAGAGGCCGCGGGCGGACCTAGCGTGTTCCTGTTCCCC-3’(配列番号18)
Fc05-R;5’-TGGAGGACAGGTGTGAGTTTTGTCGCCGTAGGCGCCGCTGATCCACAGCAG-3’(配列番号19)
【0178】
(2-5B)Fc-Aの生産及び精製
pCMA/Fc-Aを用いて、工程(2-2C)と同様の方法でFc-Aを部分抗体分子として含む培養上清を得た。得られた培養上清から実施例2-4Cと同様の方法で精製し、Fc-A精製サンプルとした。
【0179】
[実施例3]コンジュゲートの作製
本実施例で製造された各コンジュゲート体には、その構造的特徴を表示する名称を付した。当該名称は、原則として上記の明細書に定義した命名法を採用するが、完全な構造は図や構造式を参照して特定される。PEGリンカーにおいて、「//」はアジド基とDBCOの反応により形成される1,2,3-トリアゾール環を表し、「-」はアミド結合を表す。
【0180】
<実施例3-1>mAb-A-[PEG(3)//PEG(12)2-hANP(1-28)]4(化合物3-1)の合成
【0181】
(3-1A)(Fucα1,6)GlcNAc-mAb-Aの調製
【0182】
【化51】
実施例2-1で調整したmAb-A溶液19.4mg/ml (5%ソルビトール/25mMヒスチジン溶液(pH6.0))(26.0ml)をアミコンウルトラ(ウルトラセル30K、 Merck Millipore製)を用いて50mM りん酸緩衝液(pH6.0)へ緩衝液交換を行った。得られた24.5mg/ml mAb1溶液 (50mMりん酸緩衝液(pH6.0))(20.0ml)に2.00mg/ml 野生型EndoS溶液(PBS)(1.26ml)を加えて、37℃で3時間インキュベートした。反応の進行具合をExperion電気泳動ステーション(BIO-RAD製)を用いて確認した。反応終了後、以下の方法に従い、アフィニティークロマトグラフィーによる精製とハイドロキシアパタイトカラムによる精製を行った。
【0183】
(1)アフィニティークロマトグラフィーによる精製
精製装置:AKTA pure150(GE ヘルスケア製)
カラム:HiTrap rProtein A FF (5ml)(GE ヘルスケア製)
流速:5ml/min(チャージ時は1.25ml/min)
上記で得た反応液を5回に分けて精製した。カラムへの結合時は、反応液をカラム上部へ添加し、結合バッファー(20mMりん酸緩衝液(pH7.0))を1.25ml/minで2CV流し、更に5ml/minで5CV流した。中間洗浄時は、洗浄溶液(20mM りん酸緩衝液(pH7.0)、0.5M 塩化ナトリウム溶液)を15CV流した。溶出時は、溶出バッファー(ImmunoPure IgG Eution buffer、PIERCE製)を6CV流した。溶出液を1M トリス緩衝液(pH9.0)で直ちに中和した。溶出中にUV検出(280nm)されたフラクションについて、微量分光光度計Xpose(Trinean製)、及びExperion電気泳動ステーション(BIO-RAD製)を用いて確認した。
目的物を含むフラクションをアミコンウルトラ(ウルトラセル30K、 Merck Millipore製)を用いて濃縮し、緩衝液(5mM りん酸緩衝液、50mM 2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)溶液(pH6.8))交換を行った。
【0184】
(2)ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーによる精製
精製装置:AKTA pure150(GE ヘルスケア製)
カラム:Bio-Scale Mini CHT Type Iカートリッジ(5ml)(BIO-RAD製)
流速:5ml/min(チャージ時は1.25ml/min)
カラムを2連結し、上記(1)で得られた溶液を2回に分けて精製した。溶液をカラムの上部へ添加し、A液(5mM りん酸緩衝液、50mM 2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)溶液(pH6.8))を1.25ml/minで2CV流し、更に5ml/minで3CV流した。その後、A液とB液(5mM りん酸緩衝液、50mM 2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)溶液(pH6.8)、2M塩化ナトリウム溶液)を用いて、溶出した。溶出条件は、A液:B液 = 100:0 ~ 0:100 (15CV)である。さらに、洗浄溶液(500mMりん酸緩衝液(pH6.5))を5CV流した。
溶出中にUV検出(280nm)されたフラクションについて、微量分光光度計Xpose(Trinean製)、及びExperion電気泳動ステーション(BIO-RAD製)を用いて確認した。
目的物を含むフラクションをアミコンウルトラ(ウルトラセル30K、 Merck Millipore製)を用いて濃縮し、50mM りん酸緩衝液(pH6.0)へ緩衝液交換を行い、23.7mg/ml (Fucα1,6)GlcNAc-mAb-A溶液(50 mMりん酸緩衝液(pH6.0))(19.9ml)が得られた。
ESI-MS:
calculated for the heavy chain of (Fucα1, 6)GlcNAc-mAb-A (-Lys, pyrGlu), M = 50166.6 found(m/z), 50165.3 (deconvolution data).
calculated for the light chain of (Fucα1, 6)GlcNAc-mAb-A, M = 23292.9 found(m/z), 23292.0 (deconvolution data).
【0185】
(3-1B)mAb-A-[PEG(3)-N3]4の調製
【0186】
【0187】
【化53】
(上記式は、SG型N297糖鎖の非還元末端シアル酸にアジド基が導入されたリンカー構造を示す。実施例3において、N297糖鎖にアジド基を導入した中間体のリンカー構造は全て上記式と同一の構造である。)
工程(3-1A)で得られた23.7mg/ml (Fucα1,6)GlcNAc-mAb-A溶液 (50mMりん酸緩衝液(pH6.0))(8.90ml)に50mMりん酸緩衝液(pH6.0)(1.65ml)、実施例1-10で合成した[N
3-PEG(3)]
2-SG(10)-Ox (33.8mg) 50mMりん酸緩衝液(pH6.0)溶液(0.676ml)、2.10mg/ml EndoS D233Q/Q303L溶液(PBS)(1.98ml)を加えて、30℃で3.5時間インキュベートした。以上の操作を2ロット分行った。反応の進行具合をExperion電気泳動ステーション(BIO-RAD製)を用いて確認した。反応終了後、アフィニティークロマトグラフィーによる精製時の結合バッファーを20mMりん酸緩衝液(pH7.0)から20mMりん酸緩衝液(pH6.0)に変えて、工程(3-1A)と同様の方法に従い、アフィニティークロマトグラフィーによる精製とハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーによる精製を行った後、目的物を含むフラクションをアミコンウルトラ(ウルトラセル30K、 Merck Millipore製)を用いて濃縮、続いて20mM りん酸緩衝液(pH6.0)へ緩衝液交換を行い、20.5mg/ml mAb-A-[PEG(3)-N
3]
4溶液(20mMりん酸緩衝液(pH6.0))(19.0ml)が得られた。
ESI-MS:
calculated for the heavy chain of mAb-A-[PEG(3)-N
3]
4(-Lys, pyrGlu), M = 52569.9 found(m/z), 52569.4 (deconvolution data).
calculated for the light chain of mAb-A-[PEG(3)-N
3]
4, M = 23292.9 found(m/z), 23292.1 (deconvolution data).
【0188】
(3-1C)mAb-A-[PEG(3)//PEG(12) 2-hANP(1-28)]4(下記式の目的化合物、化合物3-1)の調製
【0189】
【0190】
【化55】
(上記式は、化合物3-1における、N297糖鎖のシアル酸、PEGリンカー及びhANPペプチドの構造を示す。式中、Click反応で形成されるトリアゾール環は幾何異性を有し、化合物3-1は上記式の左右の構造からなるリンカーを混合して保持する。化合物3-1には、全てのN297糖鎖の非還元末端シアル酸が上記式のリンカーにより修飾されているため、コンジュゲート1分子当たり4つのhANP(1-28)が連結されている。)
工程(3-1B)で得られた20.5mg/ml mAb-A-[PEG(3)-N
3]
4溶液 (20mMりん酸緩衝液(pH6.0))(2.44ml)に20mMりん酸緩衝液(pH6.0)(1.56ml)、ジメチルスルホキシド(0.736ml)、実施例1-1で合成したDBCO-PEG(12)
2-hANP(1-28) (12.9mg)ジメチルスルホキシド溶液 (0.264ml)をDBCO化合物として加えて、30℃で16時間インキュベートした(Click反応)。反応液をNAP25(GE ヘルスケア製)、20mMりん酸緩衝液(pH6.0)で粗精製した。反応の進行具合を、下記の条件による疎水性相互作用クロマトグラフィーで確認後、下記のアフィニティークロマトグラフィーによる精製を行った。
【0191】
(1)疎水性相互作用クロマトグラフィーによる分析条件
分析装置:日立D-7000 (日立製)
カラム:TSKgel Butyl-NPR (4.6x100mm)(東ソー製)
移動層:A液 20mM りん酸緩衝液(pH7.0)、2M 硫酸アンモニウム溶液
B液 20mM りん酸緩衝液(pH7.0)
グラジェント:A:B=75:25~0:100(0~25分)-0:100(25~30分)
温度:25℃
波長:214nm
流速:1ml/min
【0192】
(2)アフィニティークロマトグラフィーによる精製
精製装置:AKTA pure150(GE ヘルスケア製)
カラム:HiTrap rProtein A FF (5ml)(GE ヘルスケア製)
流速:5ml/min(チャージ時は1.25ml/min)
カラムへの結合時は、上記で得た反応液をカラム上部へ添加し、結合バッファー(20mMりん酸緩衝液(pH6.0))を1.25ml/minで2CV流し、更に5ml/minで5CV流した。中間洗浄時は、洗浄溶液(20mM りん酸緩衝液(pH7.0)、0.5M 塩化ナトリウム溶液)を10CV流した。溶出時は、溶出バッファー(ImmunoPure IgG Elution buffer、PIERCE製)を6CV流した。溶出液を1M トリス緩衝液(pH9.0)で直ちに中和した。溶出中にUV検出(280nm)されたフラクションについて、微量分光光度計Xpose(Trinean製)、及び疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いて確認した。
目的物を含むフラクションをアミコンウルトラ(ウルトラセル30K、 Merck Millipore製)を用いて濃縮し、5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5)へ緩衝液交換を行い、フィルター(Millex-GV、0.22μm、PVDF、滅菌済、Merck Millipore製)でろ過し、19.4mg/ml mAb-A-[PEG(3)//PEG(12)2-hANP]4溶液(5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5))(2.14ml)が得られた。
ESI-MS:
calculated for the heavy chain of mAb-A-[PEG(3)//PEG(12)2-hANP]4 (-Lys, pyr-Glu), M = 61708.2 found(m/z), 61706.4 (deconvolution data).
calculated for the light chain of mAb-A-[PEG(3)//PEG(12)2-hANP]4, M = 23292.9 found(m/z), 23291.7 (deconvolution data).
【0193】
<実施例3-2>mAb-A-[PEG(3)//PEG(12)2-(SG-)Asn-hANP(1-28)]4(下記式の目的化合物、化合物3-2)の合成
【0194】
【0195】
【化57】
(上記式は、化合物3-2における、N297糖鎖のシアル酸、PEGリンカー及びhANPペプチドの構造を示す。式中、Click反応で形成されるトリアゾール環は幾何異性を有し、化合物3-2は上記式の左右の構造からなるリンカーを混合して保持する。化合物3-2には、全てのN297糖鎖の非還元末端シアル酸が上記式のリンカーにより修飾されているため、コンジュゲート1分子当たり4つのhANP(1-28)が連結されている。)
工程(3-1B)で得られた20.5mg/ml mAb-A-[PEG(3)-N
3]
4溶液 (20mMりん酸緩衝液(pH6.0))(5.51ml)、20mMりん酸緩衝液(pH6.0)(2.49ml)、ジメチルスルホキシド(1.40ml)、工程(1-2F)で合成したDBCO-PEG(12)
2-(SG-)Asn-hANP(1-28) (43.1mg)ジメチルスルホキシド溶液 (0.596ml)を用いて、30℃で16時間インキュベートした。以上の操作を2ロット分行った。以下工程(3-1C)と同様の方法で21.6mg/ml mAb-A-[PEG(3)//PEG(12)
2-(SG-)Asn-hANP(1-28)]
4溶液(5%ソルビトール/10 mM 酢酸緩衝液(pH5.5))(10.2ml)が得られた。
ESI-MS:
calculated for the heavy chain of mAb-A-[PEG(3)//PEG(12)
2-(SG-)Asn-hANP]
4(-Lys, pyrGlu), M = 66348.4 found(m/z), 66347.5 (deconvolution data).
calculated for the light chain of mAb-A-[PEG(3)//PEG(12)
2-(SG-)Asn-hANP]
4, M =23292.9 found(m/z), 23291.9 (deconvolution data).
【0196】
<実施例3-3>CLCH-A-[PEG(3)//PEG(12)2-hANP(1-28)]4(化合物3-3)の合成
(3-3A)(Fucα1,6)GlcNAc-CLCH-Aの調製
【0197】
【化58】
実施例2-2で調整した21.6mg/ml CLCH-A溶液(5%ソルビトール/25 mMヒスチジン溶液(pH6.0) )(21.0ml)をアミコンウルトラ(ウルトラセル10K、 Merck Millipore製)を用いて50mM りん酸緩衝液(pH6.0)へ緩衝液交換を行った。得られた22.0mg/ml CLCH-A溶液 (50mMりん酸緩衝液(pH6.0))(20.0ml)に2.00mg/ml 野生型EndoS溶液(PBS)(2.27ml)を加えて、37℃で6時間インキュベートした。反応の進行具合をExperion電気泳動ステーション(BIO-RAD製)を用いて確認した。反応終了後、工程(3-1A)と同様の方法に従い、アフィニティークロマトグラフィーによる精製とハイドロキシアパタイトカラムによる精製を行った後、目的物を含むフラクションをアミコンウルトラ(ウルトラセル10K、 Merck Millipore製)を用いて濃縮、続いて、50mM りん酸緩衝液(pH6.0)へ緩衝液交換を行い、21.1mg/ml (Fucα1,6)GlcNAc-CLCH-A溶液(50mMりん酸緩衝液(pH6.0))(20.4ml)が得られた。
ESI-MS:
calculated for the heavy chain of (Fucα1,6)GlcNAc-CLCH-A (-Lys), M = 36386.4 found(m/z), 36386.1 (deconvolution data).
calculated for the light chain of (Fucα1,6)GlcNAc-CLCH-A, M =11507.6 found(m/z), 11506.8 (deconvolution data).
【0198】
(3-3B)CLCH-A-[PEG(3)-N3]4の調製
【0199】
【化59】
工程(3-3A)で得られた21.1mg/ml (Fucα1,6)GlcNAc-CLCH-A溶液(50mMりん酸緩衝液(pH6.0))(4.65ml)に50mMりん酸緩衝液(pH6.0)(2.66ml)、実施例1-10で合成した[N
3-PEG(3)]
2-SG(10)-Ox (23.5mg) 50mMりん酸緩衝液(pH6.0) 溶液(0.470ml)、2.10mg/ml EndoS D233Q/Q303L溶液(PBS)(1.40ml)を加えて、30℃で3時間インキュベートした。さらに、(1-10B)で合成した[N
3-PEG(3)]
2-SG(10)-Ox (11.8mg) 50mMりん酸緩衝液(pH6.0) 溶液(0.236ml) を加えて、30℃で1時間インキュベートした。以上の操作を3ロット分行った。反応の進行具合をExperion電気泳動ステーション(BIO-RAD製)を用いて確認した。反応終了後、アフィニティーカラムによる精製時の結合バッファーを20mMりん酸緩衝液(pH7.0)から20mMりん酸緩衝液(pH6.0)に変えて、工程(3-1A)と同様の方法に従い、アフィニティークロマトグラフィーによる精製とハイドロキシアパタイトカラムによる精製を行った後、目的物を含むフラクションをアミコンウルトラ(ウルトラセル10K、 Merck Millipore製)を用いて濃縮、続いて、5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5)へ緩衝液交換を行い、19.3mg/ml CLCH-A-[PEG(3)-N
3]
4溶液(5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5))(13.8ml)が得られた。
ESI-MS:
calculated for the heavy chain of CLCH-A-[PEG(3)-N
3]
4 (-Lys), M = 38789.6 found(m/z), 38789.4(deconvolution data).
calculated for the light chain of CLCH-A-[PEG(3)-N
3]
4, M = 11507.6 found(m/z), 11506.7 (deconvolution data).
【0200】
(3-3C)CLCH-A-[PEG(3)//PEG(12)2-hANP(1-28)]4 (化合物3-3)の調製
【0201】
【0202】
【化61】
(上記式は、化合物3-3における、N297糖鎖のシアル酸、PEGリンカー及びhANPペプチドの構造を示す。式中、Click反応で形成されるトリアゾール環は幾何異性を有し、化合物3-3は上記式の左右の構造からなるリンカーを混合して保持する。化合物3-3には、全てのN297糖鎖の非還元末端シアル酸が上記式のリンカーにより修飾されているため、コンジュゲート1分子当たり4つのhANP(1-28)が連結されている。)
工程(3-3B)で得られた19.3mg/ml CLCH-A-[PEG(3)-N
3]
4溶液(5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5))(5.18ml)に5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5) (2.82ml)、ジメチルスルホキシド(1.18ml)、実施例1-1で合成したDBCO-PEG(12)
2-hANP(1-28)(40.1mg)ジメチルスルホキシド溶液 (0.816ml)を加えて、30℃で16時間インキュベートした。以上の操作を2ロット分行った。反応液をNAP25(GE ヘルスケア製)、20mMりん酸緩衝液(pH6.0)で粗精製した。反応の進行具合を下記の条件の疎水性相互作用クロマトグラフィーで確認後、下記のアフィニティークロマトグラフィーによる精製を行った。
【0203】
(1)疎水性相互作用クロマトグラフィーによる分析条件
分析装置:日立D-7000 (日立製)
カラム:TSKgel Butyl-NPR (4.6x100mm)(東ソー製)
移動層:A液 20mM りん酸緩衝液(pH7.0)、2M 硫酸アンモニウム溶液
B液 20mM りん酸緩衝液(pH7.0)
グラジェント:A:B=75:25~0:100(0~25分)-0:100(25~30分)
温度:25℃
波長:214nm
流速:1ml/min
【0204】
(2)アフィニティークロマトグラフィーによる精製
精製装置:AKTA pure150(GE ヘルスケア製)
カラム:HiTrap rProtein A FF (5ml)(GE ヘルスケア製)
流速:5ml/min(チャージ時は1.25ml/min)
上記で得た2ロット分の反応液を3回に分けて精製した。カラムへの結合時は、反応液をカラム上部へ添加し、結合バッファー(20mMりん酸緩衝液(pH6.0))を1.25ml/minで4CV流し、更に5ml/minで5CV流した。中間洗浄時は、洗浄溶液(20mM りん酸緩衝液(pH7.0)、0.5M 塩化ナトリウム溶液)を10CV流した。溶出時は、溶出バッファー(ImmunoPure IgG Eution buffer、PIERCE製)を6CV流した。溶出液を1M トリス緩衝液(pH9.0)で直ちに中和した。溶出中にUV検出(280nm)されたフラクションについて、微量分光光度計Xpose(Trinean製)、及び疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いて確認した。
目的物を含むフラクションをアミコンウルトラ(ウルトラセル10K、 Merck Millipore製)を用いて濃縮し、5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5)へ緩衝液交換を行い、フィルター(Millex-GV、0.22μm、PVDF、滅菌済、Merck Millipore製)でろ過し、21.3mg/ml CLCH-A-[PEG(3)//PEG(12)2-hANP(1-28)]4溶液(5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5))(9.60ml)が得られた。
ESI-MS:
calculated for the heavy chain of CLCH-A-[PEG(3)//PEG(12)2-hANP]4 (-Lys), M = 47928.0 found(m/z), 47928.4 (deconvolution data).
calculated for the light chain of CLCH-A-[PEG(3)//PEG(12)2-hANP]4, M = 11507.6 found(m/z), 11506.7 (deconvolution data).
【0205】
<実施例3-4>CLCH-A-[PEG(3)//PEG(12)2-(SG-)Asn-hANP(1-28)]4(下記式の目的化合物、化合物3-4)の合成
【0206】
【0207】
【化63】
(上記式は、化合物3-4における、N297糖鎖のシアル酸、PEGリンカー及びhANPペプチドの構造を示す。式中、Click反応で形成されるトリアゾール環は幾何異性を有し、化合物3-4は上記式の左右の構造からなるリンカーを混合して保持する。化合物3-4には、全てのN297糖鎖の非還元末端シアル酸が上記式のリンカーにより修飾されているため、コンジュゲート1分子当たり4つのhANP(1-28)が連結されている。)
工程(3-3B)で得られた19.3mg/ml CLCH-A-[PEG(3)-N
3]
4溶液(5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5)) (2.59ml)、5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5) (1.41ml)、ジメチルスルホキシド(0.602ml)、実施例1-2で合成したDBCO-PEG(12)
2-(SG-)Asn-hANP(1-28)(28.7mg)ジメチルスルホキシド溶液 (0.398ml)を用いて、30℃で16時間インキュベートした。以下工程(3-3C)と同様の方法で、20.0mg/ml CLCH-A-[PEG(3)//PEG(12)
2-(SG-)Asn-hANP(1-28)]
4溶液(5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5))(2.46ml)が得られた。
ESI-MS:
calculated for the heavy chain of CLCH-A-[PEG(3)//PEG(12)
2-(SG-)Asn-hANP]
4 (-Lys), M = 52568.2 found(m/z), 52568.4(deconvolution data).
calculated for the light chain of CLCH-A-[PEG(3)//PEG(12)
2-(SG-)Asn-hANP]
4, M = 11507.6 found(m/z), 11506.7(deconvolution data).
【0208】
<実施例3-5>mAb-A-[PEG(3)//PEG(12)2-(SG-)Asn-hANP]2の合成(化合物3-5)
(3-5A)mAb-A-[PEG(3)-N3]2の調製
【0209】
【化64】
工程(3-1A)で合成した化合物に対して、実施例1-11で合成した[N
3-PEG(3)]-MSG1(9)-Oxを糖鎖供与体として使い、30℃で3時間インキュベートし、工程(3-1B)と同様の操作を行うことで、14.1mg/ml mAb-A-[PEG(3)-N
3]
2溶液(20mMりん酸緩衝液(pH6.0))(5.90ml)を得た。
ESI-MS:
calculated for the heavy chain of mAb-A-[PEG(3)-N
3]
2 (-Lys, pyrGlu), M = 52078.4 found(m/z), 52077.0(deconvolution data).
calculated for the light chain of mAb-A-[PEG(3)-N
3]
2, M = 23292.9 found(m/z), 23291.7 (deconvolution data).
【0210】
(3-5B)mAb-A-[PEG(3)//PEG(12) 2-(SG-)Asn-hANP(1-28)]2(下記式の目的化合物、化合物3-5)の調製
【0211】
【0212】
【化66】
(上記の構造式は、化合物3-5における、N297糖鎖のシアル酸、PEGリンカー及びhANPペプチドの構造を示す式中、Click反応で形成されるトリアゾール環は幾何異性を有し、化合物3-5は上記式の左右の構造からなるリンカーを混合して保持する。化合物3-5には、全てのN297糖鎖の非還元末端シアル酸が上記式のリンカーにより修飾されているため、コンジュゲート1分子当たり2つのhANP(1-28)が連結されている。)
。)
工程(3-5A)で合成した化合物に対して、実施例1-2で合成したDBCO-PEG(12)
2-(SG-)Asn-hANP(1-28) 4当量を用いて、実施例3-2と同様の操作を行うことで、17.9mg/ml mAb-A-[PEG(3)//PEG(12)
2-hANP(1-28)]
2溶液(5%ソルビトール/10 mM 酢酸緩衝液(pH5.5)) (2.55ml)を得た。
ESI-MS:
calculated for the heavy chain of mAb-A-[PEG(3)//PEG(12)
2-hANP]
2(-Lys, pyrGlu), M = 58967.7 found(m/z), 58968.1 (deconvolution data).
calculated for the light chain of mAb-A-[PEG(3)//PEG(12)
2-hANP]
2, M = 23292.9 found(m/z), 23291.8 (deconvolution data).
【0213】
<実施例3-6>CLCH-A-[PEG(3)//PEG(12)2-(SG-)Asn-hANP(1-28)]2(化合物3-6)の合成
(3-6A)CLCH-A-[PEG(3)-N3]2の調製
【0214】
【化67】
工程(3-3A)で合成した化合物に対して、実施例1-11で合成した[N
3-PEG(3)]-MSG1(9)-Oxを糖鎖供与体として使い、30℃で3時間インキュベートし、(3-3B)と同様の操作を行うことで、14.6mg/ml CLCH-A-[PEG(3)-N
3]
2溶液(5%ソルビトール/10 mM 酢酸緩衝液(pH5.5)) (3.98ml)を得た。
ESI-MS:
calculated for the heavy chain of N
3-MSG-CLCH-A(-Lys), M = 38298.1 found(m/z), 38297.7 (deconvolution data).
calculated for the light chain of N
3-MSG-CLCH-A, M =11507.6 found(m/z), 11506.8 (deconvolution data).
【0215】
(3-6B)CLCH-A- [PEG(3)//PEG(12) 2-(SG-)Asn-ANP(1-28)]2の調製
【0216】
【0217】
【化69】
(上記式は、化合物3-6における、N297糖鎖のシアル酸、PEGリンカー及びhANPペプチドの構造を示す。式中、Click反応で形成されるトリアゾール環は幾何異性を有し、化合物3-6は上記式の左右の構造からなるリンカーを混合して保持する。化合物3-6には、全てのN297糖鎖の非還元末端シアル酸が上記式のリンカーにより修飾されているため、コンジュゲート1分子当たり2つのhANP(1-28)が連結されている。)
工程(3-6A)で合成した化合物に対して、実施例1-2で合成したDBCO-PEG(12)
2-(SG-)Asn-hANP(1-28) 4当量を用いて、実施例3-4と同様の操作を行うことで、19.2mg/ml CLCH-A-[PEG(3)//PEG(12)
2-(SG-)Asn-ANP(1-28)]
2溶液(5%ソルビトール/10 mM 酢酸緩衝液(pH5.5)) (2.62ml)を得た。
ESI-MS:
calculated for the heavy chain of CLCH-A- [PEG(3)//PEG(12)
2-(SG-)Asn-ANP]
2 (-Lys), M = 45187.4 found(m/z), 45188.0 (deconvolution data).
calculated for the light chain of CLCH-A- [PEG(3)//PEG(12)
2-(SG-)Asn-ANP]
2, M =11507.6 found(m/z), 11506.8 (deconvolution data).
【0218】
<実施例3-7>多様なリンカー構造を有するコンジュゲート(化合物3-7~化合物3-14)の合成
【0219】
【化70】
あるモノクローナル抗体(mAb-B)に対して、実施例3-1に記載された方法を用いることで、 mAb-B-[PEG(3)-N
3]
4を合成した。続いて、Ckick反応に用いるDBCO化合物として、実施例1で合成した化合物1-1、化合物1-3、化合物1-4、化合物1-5、化合物1-6、化合物1-7、化合物1-8及び化合物1-9)を使い分けることで、PEGリンカー部分の構造が異なるmAb-B-[L(PEG)-hANP(1-28)]
4を合成した。用いたDBCO化合物と目的とするコンジュゲートの構造の対応を表1に示す(各化合物に対応するL(PEG)は、化合物3-7:L(PEG) B、化合物3-8:L(PEG)E、化合物3-9:L(PEG)A 、化合物3-10:L(PEG)D、化合物3-11:L(PEG)C、化合物3-12:L(PEG)F、化合物3-13:L(PEG)G、化合物3-14:L(PEG)H)。化合物3-1~3-6と同様に、いずれの化合物においても、Click反応で形成されるトリアゾール環は幾何異性を有し、幾何異性構造を有するリンカーを混合して保持する。また、コンジュゲート1分子当たり4つのhANP(1-28)が連結されている。
【0220】
【0221】
<実施例3-8>CLCH-B-[PEG(3)//PEG(12)2-(SG-)Asn-hANP(1-28)]4(上記化合物3-2の構造において、CLCH-AがCLCH-Bに置き換えられた目的化合物、化合物3-15)の合成
本実施例の各工程の反応スキーム及び物質の構造は、実施例3-2の対応するスキームにおいてCLCH-AをCLCH-Bに置き換えたものである。
(3-8A)(Fucα1,6)GlcNAc-CLCH-Bの調製
工程(3-3A)に記載したCLCH-A溶液の部分を、実施例2-3で調整した20.6mg/mLのCLCH-B溶液(5%ソルビトール/25 mMヒスチジン溶液(pH6.0))に置き換え、工程(3-3A)に記載された方法に準じて、19.8mg/ml(Fucα1,6)GlcNAc-CLCH-B溶液(50mMりん酸緩衝液(pH6.0))(16ml)が得られた。
ESI-MS:
calculated for the heavy chain of (Fucα1,6)GlcNAc-CLCH-B(-Lys), M = 36303.1; found 36302.6(deconvolution data).
calculated for the light chain of (Fucα1,6)GlcNAc-CLCH-B, M = 11507.8; found 11506.7(deconvolution data).
【0222】
(3-8B)CLCH-B-[PEG(3)-N3]4の調製
工程(3-3B)に記載した(Fucα1,6)GlcNAc-CLCH-A溶液の部分を、工程(3-8A)で得られた19.8mg/ml (Fucα1,6)GlcNAc-CLCH-B溶液(50mMりん酸緩衝液(pH6.0)) に置き換え、工程(3-3B)に記載された方法に準じて、19.3mg/ml CLCH-B-[PEG(3)-N3]4溶液(5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5))(15.7ml)が得られた。
ESI-MS:
calculated for the heavy chain of CLCH-B-[PEG(3)-N3]4 (-Lys), M = 38706.3; found 38704.7(deconvolution data).
calculated for the light chain of CLCH-B-[PEG(3)-N3]4, M = 11507.8; found 11506.8(deconvolution data).
【0223】
(3-8C)CLCH-B-[PEG(3)//PEG(12)2-(SG-)Asn-hANP(1-28)]4 (化合物3-15)の調製
工程(3-8B)で得られた19.3mg/ml CLCH-B-[PEG(3)-N3]4溶液(5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5) ) (3.90ml)、5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5) (4.1ml)、ジメチルスルホキシド(1.4ml)及び実施例1-2で合成したDBCO-PEG(12)2-(SG-)Asn-hANP(1-28)(43.4mg)ジメチルスルホキシド溶液 (0.6ml)を混合して、30℃で16時間インキュベートした。上記操作を4ロット実施した。以下工程(3-3C)と同様の方法で、27.1mg/ml CLCH-B-[PEG(3)//PEG(12)2-(SG-)Asn-hANP(1-28)]4溶液(5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5))(11.5ml)が得られた。
ESI-MS:
calculated for the heavy chain of CLCH-B-[PEG(3)//PEG(12)2-(SG-)Asn-hANP]4(-Lys), M = 52484.9; found 52484.4(deconvolution data).
calculated for the light chain of CLCH-B-[PEG(3)//PEG(12)2-(SG-)Asn-hANP]4, M = 11507.8; found 11506.7(deconvolution data).
【0224】
<実施例3-9>Fc-A-[PEG(3)//PEG(12)2-(SG-)Asn-hANP(1-28)]4(下記式の目的化合物、化合物3-16)の合成
【0225】
(3-9A)(Fucα1,6)GlcNAc-Fc-Aの調製
【0226】
【化71】
(上記式は、調製されたキャリアタンパクに糖鎖構造欠損体が含まれることに由来する混合物を表している。n=1の他に、n=0が含まれていてもよい。)
実施例2-5で調製したFc-A溶液10.4mg/ml (5%ソルビトール/25mMヒスチジン溶液(pH6.0) )(80.0ml)をVIVASPIN 20 (10,000MWCO、Sartorius製)を用いて50mM りん酸緩衝液(pH6.0)へ緩衝液交換を行い、約50mLとした。得られたFc-A溶液(50mMりん酸緩衝液(pH6.0))を2本のビオラモ遠沈管(VIO-50B)にわけ、7.70mg/ml 野生型EndoS溶液(PBS)(0.8ml)を加えて、37℃で2時間インキュベートした。反応の進行具合をExperion電気泳動ステーション(BIO-RAD製)を用いて確認した。反応終了後、以下の方法に従い、アフィニティークロマトグラフィーによる精製とハイドロキシアパタイトカラムによる精製を行った。
【0227】
(1)アフィニティークロマトグラフィーによる精製
精製装置:AKTA pure150(GE ヘルスケア製)
カラム:MediaScout ValiChrom 25mm ID x 100mm H; V=50.0mL
担体:KANEKA KanCapA
流速:40mL/min (サンプル添加時は10mL/min)
上記で得た反応液(x2本)を0.45um PVDFフィルターでろ過し、約40mL(x2)とし、2回に分けて精製した。カラムへの結合時は、反応液をカラム上部へ添加し、結合バッファー(20mMりん酸緩衝液(pH7.0))を10ml/minで4.4CV流し、更に40ml/minで5CV流した。中間洗浄時は、洗浄溶液(20mM りん酸緩衝液(pH7.0)、0.5M 塩化ナトリウム溶液)を10CV流した。溶出時は、溶出バッファー(ImmunoPure IgG Elution buffer、PIERCE製)を6CV流した。溶出液を1M トリス緩衝液(pH9.0)で直ちに中和した。溶出中にUV検出(280nm)されたフラクションについて、必要に応じて、微量分光光度計Xpose(Trinean製)、及びExperion電気泳動ステーション(BIO-RAD製)を用いて確認した。目的物を含むフラクションをVIVASPIN 20 (10,000MWCO、Sartorius製)を用いて濃縮し、緩衝液(5mM りん酸緩衝液、50mM 2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)溶液(pH7.0))交換した。
【0228】
(2)ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーによる精製
精製装置:AKTA pure150(GE ヘルスケア製)
カラム:MediaScout ValiChrom 25mm ID x 100mm H; V=50.0mL
担体:BIO-RAD CHT Type I 40um
流速:20mL/min (サンプル添加時は10mL/min)
上記(1)で得られた溶液を0.45um PVDFフィルターでろ過し、約40mLずつ2つに分けた。これらを以下の工程により、2回に分けて精製した。溶液をカラムの上部へ添加し、A液(5mM りん酸緩衝液、50mM 2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)溶液(pH7.0))を10ml/minで4.2CV流し、更に20ml/minで2CV流した。その後、A液とB液(5mM りん酸緩衝液、50mM 2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)溶液(pH7.0)、2M塩化ナトリウム溶液)を用いて、溶出した。溶出条件は、A液:B液 = 100:0 ~ 0:100 (15CV)である。さらに、洗浄溶液(500mMりん酸緩衝液(pH6.5))を5CV流した。
溶出中にUV検出(280nm)されたフラクションについて、必要に応じて微量分光光度計Xpose(Trinean製)、及びExperion電気泳動ステーション(BIO-RAD製)を用いて確認した。
目的物を含むフラクションをVIVASPIN 20 (10,000MWCO、Sartorius製)を用いて濃縮し、50mM りん酸緩衝液(pH6.0)へ緩衝液交換を行い、得られた溶液を24mL ずつ4つの容器に分け、、以下の溶液a~dとした。
溶液a:7.24mg/mL(Fucα1,6)GlcNAc-Fc-A溶液(50 mMりん酸緩衝液(pH6.0))(24ml)(173.8mg)
溶液b:7.42mg/mL(Fucα1,6)GlcNAc-Fc-A溶液(50 mMりん酸緩衝液(pH6.0))(24ml) (178.1mg)
溶液c:7.18mg/mL(Fucα1,6)GlcNAc-Fc-A溶液(50 mMりん酸緩衝液(pH6.0))(24ml) (172.3mg)
溶液d:7.19mg/mL(Fucα1,6)GlcNAc-Fc-A溶液(50 mMりん酸緩衝液(pH6.0))(24ml) (172.6mg)
ESI-MS:
calculated for the chain of (Fucα1,6)GlcNAc-Fc-A(-Lys), M = 25685.0, found 25681.9 (deconvolution data).
【0229】
(3-9B)Fc-A-[PEG(3)-N3]4の調製
【0230】
【化72】
(上記式は、調製されたキャリアタンパクに糖鎖構造欠損体が含まれることに由来する混合物を表している。n=1の他に、n=0が含まれていてもよい。)
工程(3-8A)で得られた4つの(Fucα1,6)GlcNAc-Fc-A溶液 (50mMりん酸緩衝液(pH6.0))(24ml)をそれぞれ2つにわけ、計8本の50mL 遠沈管に分けた。
1本の(Fucα1,6)GlcNAc-Fc-A溶液(50mMりん酸緩衝液(pH6.0))(12ml)に、50mMりん酸緩衝液(pH6.0)(1.65ml)、実施例1-10で合成した[N3-PEG(3)]
2-SG(10)-Ox (56.0mg) 50mMりん酸緩衝液(pH6.0)溶液(1.0ml)及び4.3mg/ml EndoS D233Q/Q303L溶液(PBS)(1.16ml)を加えて、30℃で4時間インキュベートした。以上の操作を8ロット分行った。反応の進行具合をExperion電気泳動ステーション(BIO-RAD製)を用いて確認した。反応終了後、アフィニティークロマトグラフィーによる精製時の結合バッファーを20mMりん酸緩衝液(pH7.0)から20mMりん酸緩衝液(pH6.0)に変えて、工程(3-9A)と同様の方法に従い、アフィニティークロマトグラフィーによる精製とハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーによる精製を行った。目的物を含むフラクションを全てまとめた後、限外ろ過膜(Pellicon XL50 Cassette Ultracel 10kDa (2個使用))を装着した限外ろ過装置(CogentμScale TFF System)を使用して、約100mLに濃縮した。VIVASPIN 20 (10,000MWCO、Sartorius製)を用いて5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5)へ緩衝液交換を行い、得られた溶液を2つの容器に分け、以下の溶液a及び溶液bを得た。
溶液a:12.45mg/mL Fc-A-[PEG(3)-N
3]
4溶液(5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5))(19.7ml)(245.3mg)
溶液b:14.95mg/mL Fc-A-[PEG(3)-N
3]
4溶液(5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5)) (19.5ml) (291.5mg)
ESI-MS:
calculated for the chain of Fc-A-[PEG(3)-N
3]
4 (-Lys), M = 28088.3; found 28086.4(deconvolution data).
【0231】
(3-9C)Fc-A-[PEG(3)//PEG(12)2-(SG-)Asn-hANP(1-28)]4 (化合物3-16)の調製
【0232】
【化73】
(上記式は、調製されたキャリアタンパクに糖鎖構造欠損体が含まれることに由来する混合物を表している。n=1の他に、n=0が含まれていてもよい。)
【0233】
【化74】
(上記式は、化合物3-16における、N297糖鎖のシアル酸、PEGリンカー及びhANPペプチドの構造を示す。式中、Click反応で形成されるトリアゾール環は幾何異性を有し、化合物3-16は上記式の左右の構造からなるリンカーを混合して保持する。化合物3-16には、全てのN297糖鎖の非還元末端シアル酸が上記式のリンカーにより修飾されているため、コンジュゲート1分子当たり、通常体Fc-Aでは4つのhANP(1-28)、糖鎖欠損体Fc-Aでは2つのhANP(1-28)が連結されている。)
工程(3-9B)で調製した溶液aである12.45mg/mL Fc-A-[PEG(3)-N
3]
4溶液(5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5))(4.0ml)、5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5) (6.0ml)、ジメチルスルホキシド(1.9ml)、及び、実施例1-2で合成したDBCO-PEG(12)2-(SG-)Asn-hANP(1-28)(45.1mg)ジメチルスルホキシド溶液 (0.62ml)を混合して、30℃で16時間インキュベートした。上記操作を溶液aについて4ロット実施した。また、工程(3-9B)で調製した溶液bである14.95mg/mL Fc-A-[PEG(3)-N
3]
4溶液(5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5))(3.3ml)、5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5) (6.7ml)、ジメチルスルホキシド(1.9ml)、及び、実施例1-2で合成したDBCO-PEG(12)
2-(SG-)Asn-hANP(1-28)(45.1mg)ジメチルスルホキシド溶液 (0.62ml)を混合して、30℃で16時間インキュベートした。上記操作を溶液bについて4ロット実施した。このようにして得られた計8ロット分の反応液をNAP25(GE ヘルスケア製)、20mMりん酸緩衝液(pH6.0)で粗精製した。反応の進行具合を下記の条件の疎水性相互作用クロマトグラフィーで確認後、下記のアフィニティークロマトグラフィーによる精製を行った。
【0234】
(1)疎水性相互作用クロマトグラフィーによる分析条件
分析装置:日立D-7000 (日立製)
カラム:TSKgel Butyl-NPR (4.6x100mm)(東ソー製)
移動層:A液 20mM りん酸緩衝液(pH7.0)、2M 硫酸アンモニウム溶液
B液 20mM りん酸緩衝液(pH7.0)
グラジェント:A:B=75:25~0:100(0~25分)-0:100(25~30分)
温度:25℃
波長:214nm
流速:1ml/min
【0235】
(2)アフィニティークロマトグラフィーによる精製
精製装置:AKTA pure150(GE ヘルスケア製)
カラム:MediaScout ValiChrom 25mm ID x 100mm H; V=50.0mL
担体:KANEKA KanCapA
流速:40mL/min (サンプル添加時は10mL/min)
上記で得られた溶液を0.45um PVDFフィルターでろ過し、約80mLずつ2つに分け、以下の操作により、2回に分けて精製した。カラムへの結合時は、反応液をカラム上部へ添加し、結合バッファー(20mMりん酸緩衝液(pH6.0))を10ml/minで5CV流し、更に40ml/minで5CV流した。中間洗浄時は、洗浄溶液(20mM りん酸緩衝液(pH7.0)、0.5M 塩化ナトリウム溶液)を10CV流した。溶出時は、溶出バッファー(ImmunoPure IgG Elution buffer、PIERCE製)を6CV流した。溶出液を1M トリス緩衝液(pH9.0)で直ちに中和した。溶出中にUV検出(280nm)されたフラクションについて、必要に応じて微量分光光度計Xpose(Trinean製)、及び疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いて確認した。
目的物を含むフラクションを2回分全てまとめた後、限外ろ過膜(Pellicon XL50 Cassette Ultracel 10kDa (2個使用))を装着した限外ろ過装置(CogentμScale TFF System)を使用して、約40mLに濃縮した後に、5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5)へ緩衝液交換した。最後に、フィルター(Millex-GV、0.22μm、PVDF、滅菌済、Merck Millipore製)でろ過し、7.81mg/ml Fc-A-[PEG(3)//PEG(12)2-hANP(1-28)]4溶液(5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5))(56ml)が得られた。
calculated for the chain of Fc-A-[PEG(3)//PEG(12)2-hANP(1-28)]4 (-Lys), M = 41866.8; found 41863.8 (deconvolution data).
以下に、コンジュゲート体をフラグメント化せずに質量分析した結果を示す。
calculated for Fc-A-[PEG(3)//PEG(12)2-hANP(1-28)]4 (-Lys), M = 83713.5; found 83712.6 (deconvolution data).
calculated for Fc-A-[PEG(3)//PEG(12)2-hANP(1-28)]2 (-Lys), M = 67186.4; found 67184.8(deconvolution data).
【0236】
<実施例3-10>Fc-B-[PEG(3)//PEG(12)2-(SG-)Asn-hANP(1-28)]4(化合物3-16の構造において、Fc-AをFc-Bに置き換えた構造を有する化合物、化合物3-17)の合成
本実施例の各工程の反応スキーム及び物質の構造は、実施例3-9の対応するスキームにおいてFc-AをFc-Bに置き換えたものである。
【0237】
(3-10A)(Fucα1,6)GlcNAc-Fc-Bの調製
実施例2-4で調整したFc-B溶液13.0mg/ml (5%ソルビトール/25mMヒスチジン溶液(pH6.0))(20.0ml)をVIVASPIN 20 (10,000MWCO、Sartorius製)を用いて50mM りん酸緩衝液(pH6.0)へ緩衝液交換した。得られた20.0mg/ml Fc-B溶液 (50mMりん酸緩衝液(pH6.0))(13.0ml)に、50mM りん酸緩衝液(pH6.0)(7.0ml)加え、2.00mg/ml 野生型EndoS溶液(PBS)(1.92ml)を加えて、37℃で2時間インキュベートした。反応の進行具合をExperion電気泳動ステーション(BIO-RAD製)を用いて確認した。反応終了後、以下の方法に従い、アフィニティークロマトグラフィーによる精製とハイドロキシアパタイトカラムによる精製を行った。
【0238】
(1)アフィニティークロマトグラフィーによる精製
精製装置:AKTA pure150(GE ヘルスケア製)
カラム:HiTrap rProtein A FF (5ml)(GE ヘルスケア製)
流速:5ml/min(チャージ時は1.25ml/min)
上記で得た反応液を5つにわけ、以下の方法により5回に分けて精製した。カラムへの結合時は、反応液をカラム上部へ添加し、結合バッファー(20mMりん酸緩衝液(pH7.0))を1.25ml/minで2CV流し、更に5ml/minで5CV流した。中間洗浄時は、洗浄溶液(20mM りん酸緩衝液(pH7.0)、0.5M 塩化ナトリウム溶液)を10CV流した。溶出時は、溶出バッファー(ImmunoPure IgG Elution buffer、PIERCE製)を6CV流した。溶出液を1M トリス緩衝液(pH9.0)で直ちに中和した。溶出中にUV検出(280nm)されたフラクションについて、必要に応じて、微量分光光度計Xpose(Trinean製)、及びExperion電気泳動ステーション(BIO-RAD製)を用いて確認した。
目的物を含むフラクションを5回分全てまとめた後、VIVASPIN 20 (10,000MWCO、Sartorius製)を用いて濃縮し、緩衝液(5mM りん酸緩衝液、50mM 2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)溶液(pH6.5))交換を行い、12mLとした。
【0239】
(2)ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーによる精製
精製装置:AKTA pure150(GE ヘルスケア製)
カラム:Bio-Scale Mini CHT Type Iカートリッジ(5ml)(BIO-RAD製)
流速:5ml/min(チャージ時は1.25ml/min)
カラムを2連結し、上記(1)で得られた溶液を3つに分け、以下の方法により3回に分けて精製した。溶液をカラムの上部へ添加し、A液(5mM りん酸緩衝液、50mM 2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)溶液(pH6.5))を1.25ml/minで2CV流し、更に5ml/minで3CV流した。その後、A液とB液(5mM りん酸緩衝液、50mM 2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)溶液(pH6.5)、2M塩化ナトリウム溶液)を用いて、溶出した。溶出条件は、A液:B液 = 100:0 ~ 0:100 (15CV)である。さらに、洗浄溶液(500mMりん酸緩衝液(pH6.5))を5CV流した。
溶出中にUV検出(280nm)されたフラクションについて、必要に応じて微量分光光度計Xpose(Trinean製)、及びExperion電気泳動ステーション(BIO-RAD製)を用いて確認した。
目的物を含むフラクションを3回分全てまとめた後、VIVASPIN 20 (10,000MWCO、Sartorius製)を用いて濃縮し、50mM りん酸緩衝液(pH6.0)へ緩衝液交換を行い、7.17mg/ml (Fucα1,6)GlcNAc-Fc-B溶液(50 mMりん酸緩衝液(pH6.0))(35.4ml)が得られた。
ESI-MS:
calculated for the chain of (Fucα1, 6)GlcNAc-Fc-B(-Lys), M = 25287.7; found 25286.8 (deconvolution data).
【0240】
(3-10B)Fc-B-[PEG(3)-N3]4の調製
工程(3-10A)で得られた7.17mg/ml (Fucα1,6)GlcNAc-Fc-B溶液 (50mMりん酸緩衝液(pH6.0))(6.0ml)に実施例1-10で合成した[N3-PEG(3)]2-SG(10)-Ox (28.6mg)溶液(50mMりん酸緩衝液(pH6.0))(0.50ml)及び2.10mg/ml EndoS D233Q/Q303L溶液(PBS)(1.2ml)を加えて、30℃で3.5時間インキュベートした。この反応液に更に、実施例1-10で合成した[N3-PEG(3)]2-SG(10)-Ox (6.1mg)溶液(50mMりん酸緩衝液(pH6.0))(0.10ml)を加え、30℃で0.5時間インキュベートした。以上の操作を5ロット分行った。反応の進行具合をExperion電気泳動ステーション(BIO-RAD製)を用いて確認した。反応終了後、アフィニティークロマトグラフィーによる精製時の結合バッファーを20mMりん酸緩衝液(pH7.0)から20mMりん酸緩衝液(pH6.0)に変えて、工程(3-10A)と同様の方法に従い、アフィニティークロマトグラフィーによる精製とハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーによる精製を行った。分割操作で得られた分を併せて、目的物を含むフラクションの全てをVIVASPIN 20 (10,000MWCO、Sartorius製)を用いて濃縮後、NAP25(GE ヘルスケア製)を用いて、5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5)へ緩衝液交換し、13.06mg/mL Fc-B-[PEG(3)-N3]4溶液(5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5))(13.7ml)を得た。
ESI-MS:
calculated for the chain of Fc-B-[PEG(3)-N3]4 (-Lys), M = 27691.0; found 27690.4(deconvolution data).
【0241】
(3-10C)Fc-B-[PEG(3)//PEG(12)2-(SG-)Asn-hANP(1-28)]4 (化合物3-17)の調製
工程(3-10B)で調製した13.06mg/mL Fc-B-[PEG(3)-N3]4溶液(5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5))(3.1ml)、5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5) (4.9ml)、ジメチルスルホキシド(1.5ml)、及び、実施例1-2で合成したDBCO-PEG(12)2-(SG-)Asn-hANP(1-28)(36.6mg)ジメチルスルホキシド溶液 (0.51ml)を混合して、30℃で16時間インキュベートした。上記操作を4ロット実施した。反応液をNAP25(GE ヘルスケア製)、20mMりん酸緩衝液(pH6.0)で粗精製した。反応の進行具合を下記の条件の疎水性相互作用クロマトグラフィーで確認後、下記のアフィニティークロマトグラフィーによる精製を行った。
【0242】
(1)疎水性相互作用クロマトグラフィーによる分析条件
分析装置:日立D-7000 (日立製)
カラム:TSKgel Butyl-NPR (4.6x100mm)(東ソー製)
移動層:A液 20mM りん酸緩衝液(pH7.0)、2M 硫酸アンモニウム溶液
B液 20mM りん酸緩衝液(pH7.0)
グラジェント:A:B=75:25~0:100(0~25分)-0:100(25~30分)
温度:25℃
波長:214nm
流速:1ml/min
【0243】
(2)アフィニティークロマトグラフィーによる精製
精製装置:AKTA pure150(GE ヘルスケア製)
カラム HiTrap rProtein A FF, 5mL
流速:5mL/min (サンプル添加時は1.25mL/min)
上記で得られた溶液を6つにわけ、以下の方法により6回に分けて精製した。カラムへの結合時は、反応液をカラム上部へ添加し、結合バッファー(20mMりん酸緩衝液(pH6.0))を1.25ml/minで4CV流し、更に5ml/minで5CV流した。中間洗浄時は、洗浄溶液(20mM りん酸緩衝液(pH7.0)、0.5M 塩化ナトリウム溶液)を10CV流した。溶出時は、溶出バッファー(ImmunoPure IgG Elution buffer、PIERCE製)を6CV流した。溶出液を1M トリス緩衝液(pH9.0)で直ちに中和した。溶出中にUV検出(280nm)されたフラクションについて、必要に応じて微量分光光度計Xpose(Trinean製)、及び疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いて確認した。
目的物を含むフラクションを6回分全てあわせたものをVIVASPIN 20 (10,000MWCO、Sartorius製)を用いて濃縮後、5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5)へ緩衝液交換した。最後に、フィルター(Millex-GV、0.22μm、PVDF、滅菌済、Merck Millipore製)でろ過し、13.03mg/ml Fc-A-[PEG(3)//PEG(12)2-hANP(1-28)]4溶液(5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5))(13.6ml)が得られた。
calculated for the chain of Fc-B-[PEG(3)//PEG(12)2-hANP(1-28)]4 (-Lys), M = 41469.4; found 41467.9 (deconvolution data).
以下に、コンジュゲート体をフラグメント化せずに質量分析した結果を示す。
calculated for Fc-B-[PEG(3)//PEG(12)2-hANP(1-28)]4(-Lys), M = 82918.8; found 82917.0 (deconvolution data).
calculated for Fc-B-[PEG(3)//PEG(12)2-hANP(1-28)]2 (-Lys), M = 66391.7; found 66390.8 (deconvolution data).
【0244】
[実施例4]各種コンジュゲートの評価
【0245】
<実施例4-1> コンジュゲートのcGMP上昇活性試験
以下の方法により、実施例3で作製した化合物3-1~化合物3-6のcGMP上昇活性を測定した。
CHO細胞にhuman GC-Aを恒常的に発現させたCHO/human GC-A細胞をα-MEM, 10%FBS, 1%Penicillin-streptomycinで2×105cells/mlに懸濁し、384 well plate (Corning製, 3826)に20 μl/wellで播種し(4×103 cells/well)、CO2インキュベーター内で一晩培養した。翌日、このプレートから培地を除去した後、1.6 mM IBMX/KRB bufferを10-15 μl/well添加し、プレートシェイカーで攪拌後、室温で10分間インキュベーションをした。次に、0.1%BSA/PBSに溶解した被験物質(各コンジュゲート及び天然型hANP(1-28)を最終濃度が0.0001, 0.001, 0.01, 0.1, 1, 10及び100 nMとなるように希釈系列を調製)を5 μl/wellずつ添加し、プレートシェイカーで攪拌後、CO2インキュベーター内で15分間インキュベーションをした。その後、各well中のcGMP量をcGMP kit(CISBIO製)を用いて添付のプロトコールに従って測定した。各濃度における被験物質の活性値(T/C)は溶媒のみを添加したウェルの測定値を0とし、1 nM天然型hANPを添加したウェルの測定値を1として補正し、これに基づき、各被験物質の比活性(被験物質のEC50値/天然型hANPのEC50値)及びEmax(濃度範囲における被験物質の最大活性値)を算出した(表2)。
【0246】
表2の結果から、全てのコンジュゲートがcGMP上昇活性を示した。また、コンジュゲートのEmaxは天然型hANPとほぼ等価であった。糖鎖修飾hANP-mAb-Aコンジュゲート(化合物3-2)は、hANP-mAb-Aコンジュゲート(化合物3-1)より比活性は弱いことが確認された。また、糖鎖修飾hANP-CLCH-Aコンジュゲート(化合物3-4)は、hANP- CLCH-Aコンジュゲート(化合物3-3)より比活性は弱いことが確認された。このことから、hANPペプチドに糖鎖を導入するとin vitro活性は低下する傾向があると示唆された。また、hANPペプチド数が2つの糖鎖修飾hANP-mAb-Aコンジュゲート(化合物3-5)は、hANPペプチドの数が4つの糖鎖修飾hANP-mAb-Aコンジュゲート(化合物3-2)より比活性が4.5倍減弱した。また、hANPペプチド数が2つの糖鎖修飾hANP-CLCH-Aコンジュゲート(化合物3-6)は、hANPペプチドの数が4つの糖鎖修飾hANP-CLCH-Aコンジュゲート(化合物3-4)より比活性が3.2倍減弱した。このことから、hANPペプチド数が多い方が、良好な活性を示す傾向が示唆された。
【0247】
また、キャリア分子として、CLCHのLALA体であるCLCH-Bを採用した化合物3-15、Fc断片のLALA体であるFc-Aを採用した化合物3-16、及び、野生型Fc断片であるFc-Bを採用した化合物3-17は、いずれも天然型hANPと同レベルのin vitro活性を示した。
【0248】
【0249】
<試験例4-2> コンジュゲートのラットの血中持続性試験
以下の方法により、実施例3で作製した各コンジュゲートのラットの血中における持続性(血中cGMPの持続的上昇作用及び被験物質の血中からの検出時間)を調べた。
【0250】
(1)血漿サンプルの調製
イソフルラン:日本薬局方イソフルラン
採血用針およびシリンジ:テルモシリンジ 25G x 1 SR ツベルクリン用
採血用チューブ:キャピジェクト微量採血管 EDTA-2Na 500 μL
サンプル保管用チューブ:MTARIX4170 サンプルトラックチューブ 0.75 mL
8-9週齢の雄性Slc:SDラットに対しイソフルラン吸入麻酔((エスカイン吸入麻酔液を1-2%の濃度で維持して吸入)を行った。必要に応じてPBSで希釈した被験物質(各コンジュゲート、化合物3-1~3-6)の溶液を、皮下より、100 nmol/kgの用量(1 mL/kg)で急速投与した。投与前並びに投与後0.25、0.5、1、2、4、8、24、48、72、96、120及び168時間のうち化合物毎に選抜した時点で、頸静脈から経時的採血(200μL/回)を行い、血液サンプルは速やかに氷上に置いた。
採取した血液サンプルは遠心機(Sigma 4K15、ローター:Nr12130-H)を用いて5000 rpm,5 min,4℃で遠心分離し、分離した血漿サンプルをPK測定用とcGMP測定用の2本に分け測定まで-80℃に保存した。
【0251】
(2)血漿中cGMP濃度の測定
血漿中のcGMP濃度は、100倍に希釈した血漿サンプルについて、Amersham cGMP Enzymeimmunoassay Biotrak
TM (EIA) System (dual range)を用いて、キットに添付のプロトコールに従って測定した。得られた血漿中cGMP濃度推移を
図6に示す。
【0252】
(3)血漿サンプル中の被験物質の検出
(1)で調整したラット血漿サンプル10 μLをRexxip HN Buffer (Gyros AB.製)で10倍希釈し、必要に応じて適宜、更に同バッファーで10倍希釈(最終:100倍希釈)し、あるいは、これを更に1%血漿/ Rexxip HN Bufferで10倍希釈(最終:1000倍希釈)し、測定用血漿サンプルとした。1次抗体としてはサンプル中の全てのヒトFc含有分子(Fc/Fc) 測定用にGoat Anti-Human IgG Biotin conjugate (SouthernBiotec) を、サンプル中のhANP(1-28)が結合したコンジュゲート(ANP/Fc)測定用にはMouse Anti-ANP IgG (GeneTex) を用いた。1次抗体をそれぞれ700 nMになるよう0.1%PBS-Tにて調製した。検出用の2次抗体として両者ともに、DyLight標識したGoat Anti-Human IgG (SouthernBiotec) を10 nMになるようRexxip F Buffer (Gyros AB.) にて調製した。各溶液を自動ELISA装置Gyrolab xP workstation にセットし、Bioaffy 200 CD (Gyros AB.) にインジェクションして被験物質(Fc/Fc、ANP/Fc)の含有量をサンドウィッチELISA法により測定し、血漿中の濃度を算出した。
得られた血漿中濃度推移を
図7に示す。
図6、及び
図7より、天然型hANPに比べて各種コンジュゲートは、緩やかな血中移行性、長い血中滞留性、及び薬理作用持続性を併せ持つGC-A活性化薬であることが確認された。
図6より、以下のことが確認された。
hANP-mAb-Aコンジュゲートである化合物3-1は、最も高いEmaxを示した。また、化合物3-1は、hANP-CLCH-Aコンジュゲートである化合物3-3と比べて、より長い薬理活性持続を示した。
糖鎖修飾hANP-mAb-Aコンジュゲートである化合物3-2、及び糖鎖修飾hANP-CLCH-Aコンジュゲートである化合物3-4は、化合物3-1と比べてEmaxに到達するまでの時間と減衰速度も遅延した。すなわち、糖鎖修飾hANP-mAb-Aコンジュゲートの方がより長い薬理活性持続を示すと考えられる。
【0253】
hANPペプチドの数が2つのコンジュゲート体である化合物3-5、及び化合物3-6は、hANPペプチドの数が4つのコンジュゲート体である化合物3-2及び化合物3-4と比較すると、Emaxが減弱した。すなわち、hANPペプチドの数が多い糖鎖修飾hANP-mAb-Aコンジュゲートの方がより強い薬理活性を示すと考えられる。
【0254】
【0255】
hANPコンジュゲートは、投与後168時間後においても、血中濃度が確認された。
【0256】
hANP-mAb-Aコンジュゲートである化合物3-1は、hANP-CLCH-Aコンジュゲートである化合物3-3と比べると、Fc/FcとANP/Fcの乖離幅が小さく、投与後168時間の血漿中濃度が高く、減衰速度が遅い。このことは、化合物3-1は、化合物3-3より長い血中滞留性を有していることを示している。
【0257】
糖鎖修飾hANP-mAb-Aコンジュゲートである化合物3-2は、hANP-mAb-Aコンジュゲートである化合物3-1と比べると、Fc/FcとANP/Fcの乖離幅が小さく、投与後168時間の血漿中濃度が高く、減衰速度が遅い。このことは、化合物3-2は、化合物3-1より長い血中滞留性を有していることを示している。また、糖鎖修飾hANP-CLCH-Aコンジュゲートである化合物3-4は、hANP-CLCH-Aコンジュゲートである化合物3-3と比べると、Fc/FcとANP/Fcの乖離幅が小さく、投与後168時間の血漿中濃度が高く、減衰速度が遅い。このことは、化合物3-4は、化合物3-3より長い血中滞留性を有していることを示している。
【0258】
<実施例4-3> コンジュゲートのcGMP上昇活性に対するPEGリンカーの影響
本実験は、実施例3-7で合成したコンジュゲートを用いて、cGMP上昇活性に対するPEGリンカー部分の影響を検討することを目的に実施した。実施例4-1に記載した方法と同様にして、天然型hANPと被験物質の比活性及びEmaxを算出した。結果を表3に示す。
【0259】
PEGリンカーの長さ・種類のin vitro活性に与える影響について、以下のことが確認された。Emaxについては全ての化合物でhANPと同程度まで保たれていた。また、hANPに対する比活性は0.41-2.84倍の幅にあり、いずれの化合物も一定以上のcGMP上昇活性を有していた。PEGリンカーに含まれるエチレングリコール単位が多い化合物ほど良好な活性を示す傾向が見られた。一方で、全体として同程度の長さのリンカー構造の場合、短いPEG(例えばPEG(6))を含むリンカー分子を多数結合させたリンカー構造の化合物よりも、長いPEGを少数結合させたリンカー構造の化合物のほうが良好な活性を示す傾向が示唆された。
【0260】
【0261】
<試験例4-4> コンジュゲートのラットの血中持続性に対するPEGリンカーの影響
本実験は、実施例3-7で合成したコンジュゲートを用いて、動物血中での持続性に対するPEGリンカー部分の影響を検討することを目的に実施した。実施例4-2に記載した方法と同様に、被験物質をラットに皮下投与した後の血漿中cGMP濃度の経過時変化を調べた。結果を
図8に示す。
【0262】
PEGリンカーの長さ・種類のin vitro活性に与える影響について、以下のことが確認された。PEG(12)-PEG(12)を有する化合物3-7のEmaxが最も高かったが、in vitroの結果と相反して、PEG(24)を有する化合物3-9は最も活性が弱く持続も短かった。
【0263】
<試験例4-5> コンジュゲートの物性評価
天然型hANP(1-28)については、凝集性が高いことが分かっている。例えば、7mg/mL PBS溶液中、30℃でインキュベートした場合、24時間以内に、ゲル状析出物が確認され、48時間以内に溶液全体がゲル状となることが確認される。
【0264】
含有されるhANPのモル数換算でほぼ同量になる濃度で試験を実施すれば、hANPコンジュゲートの凝集性を間接的に比較することができる。本発明のコンジュゲート体の凝集性を確認する目的で、以下の試験を行った。
(1)加速劣化試験
各サンプルをVivapore 5(Vivascience製)で濃縮し、25 mM AcONa 5% sorbitol pH5.5(ABSor液)またはPBSへ透析後、70 mg/mLに調製した。Spin-X 0.22 μm遠心式フィルター(Costar製)でろ過し、0.5 mL滅菌スリムチューブ(住友ベークライト製)に80 μLずつ分注して密封後 40℃で2週間静置した。劣化前後のサンプルをAgilent 1260 LC、DAWN HELEOS 8、Eclipse3+で構成されたSEC-MALSシステム(Wyatt Technology製)で測定し、ASTRAソフトウェア(Wyatt Technology製)で解析した。測定は、カラム: Nanofilm SEC-250 7.8´300 mm(Sepax製)、バッファー: 0.2 M KPi 0.2 M KCl pH 7.0、流速: 0.5 mL/min、カラム温度: 30°C、検出波長: 280 nmの条件で実施した。結果を表4に示す。
【0265】
天然型hANPのPBS溶液が48時間以内に溶液全体がゲル状となるのに対して、コンジュゲートでは2週間後でも溶液の流動性が確認され、溶液安定性が改善された。加速劣化処理により化合物3-3の高分子量体はABSor液の場合で8.2%から14.2%へ、PBS液の場合で9.2%から45.7%へ増加した。化合物3-3のhANP部近傍に糖鎖を導入した化合物3-4の場合、加速劣化処理により高分子量体はABSor液の場合で1.8%から4.5%へ、PBS液の場合で2.8%から12.8%へ増加した。よって、hANP部近傍への糖鎖導入により、凝集性が顕著に低減されることが示された。
【0266】
【0267】
<試験例4-6> コンジュゲートのサルの血中持続性試験
以下の方法により、実施例3で作製したキャリア分子が異なる各コンジュゲートのサルの血中における被験物質の血中からの検出時間を調べることで、コンジュゲートの血中持続性に対するキャリア分子の影響を検討した。
【0268】
(1)血漿サンプルの調製
採血用針およびシリンジ:テルモシリンジ 25G x 1 SR ツベルクリン用
採血用チューブ:キャピジェクト微量採血管 EDTA-2Na、 もしくはベノジェクと真空採血管EDTA-2Na
サンプル保管用チューブ:MTARIX4170 サンプルトラックチューブ 0.75 mL
3-7年齢の雄性カニクイザルに対し無麻酔下において披験物質の投与および採血を実施した。必要に応じてPBSで希釈した被験物質(各コンジュゲート、化合物3-2、3-4、3-15、3-16、及び3-17)の溶液を、皮下より、10 nmol/kgの用量(1 mL/kg)で急速投与した。投与前並びに投与後0.25、0.5、1、2、4、8、24、48、96、168、336、528(あるいは504)、及び696(あるいは672)時間の時点で、静脈から経時的採血(約500μL/回)を行い、血液サンプルは速やかに氷上に置いた。
採取した血液サンプルを遠心分離することで得られた血漿サンプルを測定まで-80℃に保存した。
【0269】
(2)血漿サンプル中の被験物質の検出
(1)で調整したサル血漿サンプル10 μLにRexxip HN Buffer (Gyros AB.) を90 μL添加後混合(10倍希釈サンプル、MRD 10)、もしくはさらにRexxip HN Bufferで10倍希釈(100倍希釈サンプル、MRD 100)、さらに1%血漿/ Rexxip HN Bufferで10倍希釈(1000倍希釈サンプル、MRD 100)して測定用血漿サンプルを調製した。1次抗体としてはサンプル中の全てのヒトFc含有分子(Fc/Fc) 測定用にGoat Anti-Human IgG Biotin conjugate (SouthernBiotec)を、サンプル中のhANP(1-28)が結合したコンジュゲート(ANP/Fc)測定用にはMouse Anti-ANP IgG (GeneTex) を用いた。1次抗体をそれぞれ700 nMになるよう0.1%PBS-Tにて調製した。検出用の2次抗体として両者ともに、DyLight標識したGoat Anti-Human IgG (SouthernBiotec)を10 nMになるようRexxip F Buffer (Gyros AB.) にて調製した。こ各溶液を自動ELISA装置Gyrolab xP workstation にセットし、Bioaffy 200 CD (Gyros AB.) にインジェクションして被験物質(Fc/Fc、ANP/Fc)の含有量をサンドウィッチELISA法により測定し、血漿中の濃度を算出した。
得られた血漿中濃度推移を
図9に示す。
図9より、この試験で用いたhANPコンジュゲートは、投与後672時間(28日)後においても、分解されずにコンジュゲート体として血中濃度が確認された。キャリア分子がそれぞれCLCH-A、CLCH-Bである化合物3-4および化合物3-15は、キャリア分子がmAb-Aである化合物3-2と比べて速やかに血中から減衰した。一方、キャリア分子がそれぞれFc-A、Fc-Bである化合物3-16及び化合物3-17は、化合物3-2より緩やかに血中から減衰した。すなわち、サルにおいて糖鎖修飾hANP-Fcコンジュゲートの血中持続性が最も長いことが示された。
【0270】
[実施例5]2種類のEndo酵素を使用した糖鎖転移反応
使用する2種類のEndo酵素に関して、酵素A(EndoM様酵素)及び酵素B(EndoS様酵素)は適切に組合せることができる。酵素Aには、EndoM,EndoOm,EndoCCとその加水分解活性を低下させたEndoM変異体,EndoOm変異体,EndoCC変異体などを例示できる。また、酵素Bには、EndoS,EndoS2(EndoS49)とその加水分解活性を低下させたEndoS変異体, EndoS2(EndoS49)変異体などを例示できる。糖鎖供与体部分の構造は、化学反応あるいは酵素反応との組み合わせで合成可能な分子であれば、アノマー部位の置換基Rは、R=H以外、何を使用してもよい。
【0271】
【0272】
【0273】
<実施例5-1> 糖鎖供与体にSGPを用いた糖鎖転移率の測定
mAb-Cとして、市販のTrastuzumabを使用した。Trastuzumab(440mg/vial、Genentech製)に対して、実施例3-1に記載された方法を用い、51.3mg/ml (Fucα1,6)GlcNAc-Trastuzumab溶液(50 mMトリス緩衝液(pH7.4))(1.65ml)とした。51.3mg/ml (Fucα1,6)GlcNAc-Trastuzumab溶液 (50 mMトリス緩衝液(pH7.4))(19.5μl)に対して、50 mMトリス緩衝液(pH7.4)(0.5μl)、SGP(東京化成製)(5.82mg)溶液(50mMトリス緩衝液(pH7.4))(29.1μl)、1U/ml EndoM N175Q溶液(東京化成製) (5.0μl)及び2.00mg/ml EndoS D233Q溶液(PBS)(10.0μl) を加えて、28℃で48時間インキュベーションした。
反応開始から、2時間後、4時間後、8時間後、24時間後及び48時間後の各時点で、この反応液の一部を採取し、反応の進行度をExperion電気泳動ステーション(BIO-RAD製)で測定した。測定に当っては、機器に付随している手順書に従って、測定サンプルを調製した。この過程で、採取した反応液をジチオトレイトールを含む溶液にさらして、95℃で5分間加熱する操作がある為、糖鎖転移反応は即座に停止される。
【0274】
得られた測定サンプルをExperion Pro260 Chipsに移して、Experion電気泳動ステーションに付随している手順書に従って測定した。得られたクロマトグラムより、未反応物と糖鎖転移体が分離したピークとして確認される。未反応物と糖鎖転移体のピーク面積比から糖鎖転移率を下記算出式により算出した。
糖鎖転移率(%) = [SG-Trastuzumab由来のH鎖のピーク面積] /{[(Fucα1,6)GlcNAc-Trastuzumab由来のH鎖ピーク面積 + [SG-Trastuzumab由来のH鎖のピーク面積]}×100
同様にして各種Endo酵素の組み合わせを変えて反応を行い、各反応時間における糖鎖転移率を算出した(表5)。
【0275】
<実施例5-2> 糖鎖供与体にSG-Asnを用いた糖鎖転移率の測定
51.3mg/ml (Fucα1,6)GlcNAc-Trastuzumab溶液 (50 mMトリス緩衝液(pH7.4))(19.5μl)に対して、50 mMトリス緩衝液(pH7.4)(0.5μl)、SG-Asn アンモニウム塩 (4.74mg)溶液(50mMトリス緩衝液(pH7.4))(23.7μl)、1U/ml EndoM N175Q溶液 (5.0μl)及び、2.00mg/ml EndoS D233Q溶液(PBS)(10.0μl) を加えて、28℃で48時間インキュベーションした。以下実施例5-1と同様の方法で、各反応時間における糖鎖転移率を算出した(表5)。
【0276】
<実施例5-3> 酵素AにEndoCCを用いた糖鎖転移率の測定
51.3mg/ml (Fucα1,6)GlcNAc-Trastuzumab溶液 (50 mMトリス緩衝液(pH7.4))(19.5μl)に対して、50 mMトリス緩衝液(pH7.4)(0.5μl)、SGP(東京化成製)(5.82mg)溶液(50mMトリス緩衝液(pH7.4))(29.1μl)、1.16U/ml EndoCCあるいは2.21U/ml EndoCC N180H溶液(伏見製薬所) (15.0μl)及び2.00mg/ml EndoS D233Q溶液(PBS)(10.0μl) を加えて、28℃あるいは37℃で48時間インキュベーションした。以下実施例5-1と同様の方法で、各反応時間における糖鎖転移率を算出した(表5)。
【0277】
表5. 反応条件と糖鎖転移率の経時変化
【0278】
【0279】
糖鎖供与体にオキサゾリン体を使用しない場合、2種類のEndo酵素変異体を適度な割合で混合させることで糖鎖転移反応が効率的に進行することを確認した。酵素Aの加水分解活性が高い場合、酵素Bに加水分解活性を抑えた変異体を使用しても、糖鎖転移率は低い。加水分解活性を抑えた酵素Bは、その程度により、糖鎖転移率90%を越えるまでの反応時間に違いがある。反応の至適温度が50℃とされるEndoCCは、反応温度が高い方が転移率が高くなる傾向がある。
【0280】
適切に化学修飾された糖鎖供与体を選ぶことにより、Fc含有分子に化学修飾された糖鎖構造を導入することができる。例えば、糖鎖供与体SGPや(SG-)Asnの代りに、(N3-PEG(3)-SG-)Asn-PEG(3)-N3を用いると対応する糖鎖をFc含有分子に転移させることができる。また、Fc含有分子はmAb,CLCH,Fcを適宜使用できる。
【0281】
<実施例5-4> ([N3-PEG(3)]2-SG-)Asn-PEG(3)-N3を用いたmAb-A-[PEG(3)-N3]4の調製
糖鎖ドナーとして([N3-PEG(3)]2-SG-)Asn-PEG(3)-N3を用い、mAb-A-[PEG(3)-N3]4を以下の方法で作製した。
【0282】
51.27mg/ml (Fucα1, 6)GlcNAc-mAb-A溶液 (50 mMトリス緩衝液(pH7.4))(200μl)に、工程(1-12A)で作成した([N3-PEG(3)]2-SG-)Asn-PEG(3)-N3(50.0mg)溶液(50mMトリス緩衝液(pH7.4)) (240μl)、1U/ml EndoM N175Q溶液 (東京化成製) (50μl)及び2.10mg/ml EndoS D233Q Q303L溶液(PBS)(100μl)を加えて、28℃で20時間インキュベートした後に、実施例3-1に記載された方法に準じ、反応スケールに適した精製方法(精製装置、カラム)や限外ろ過方法(限外ろ過膜)を選択し、14.78mg/mL mAb-A-[PEG(3)-N3]4溶液(5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5))(500μl)を得た。
ESI-MS:
calculated for the heavy chain of mAb-A-[PEG(3)-N3]4(-Lys, pyrGlu), M = 52569.9; found 52570.0(deconvolution data).
calculated for the light chain of mAb-A-[PEG(3)-N3]4, M = 23292.9; found 23292.0 (deconvolution data).
【0283】
<実施例5-5> ([N3-PEG(3)]2-SG-)Asn-PEG(3)-N3を用いたCLCH-B-[PEG(3)-N3]4の調製
糖鎖ドナーとして([N3-PEG(3)]2-SG-)Asn-PEG(3)-N3を用い、CLCH-B-[PEG(3)-N3]4を以下の方法で作製した。
【0284】
39.2mg/ml (Fucα1, 6)GlcNAc-CLCH-B溶液 (50 mMトリス緩衝液(pH7.4))(150μl)に50mMトリス緩衝液(pH7.4) (50μl)、工程(1-12A)で作成した([N3-PEG(3)]2-SG-)Asn-PEG(3)-N3(53.0mg)溶液(50mMトリス緩衝液(pH7.4))(240μl)、1U/ml EndoM N175Q溶液 (東京化成製) (50μl)及び2.10mg/ml EndoS D233Q Q303L溶液(PBS)(100μl)を加えて、28℃で20時間インキュベートした後に、実施例3-8に記載された方法に準じ、反応スケールに適した精製方法(精製装置、カラム)や限外ろ過方法(限外ろ過膜)を選択し、8.92mg/mL CLCH-B-[PEG(3)-N3]4溶液(5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5))(500ul)を得た。
ESI-MS:
calculated for the heavy chain of CLCH-B-[PEG(3)-N3]4 (-Lys), M = 38706.3; found 38706.1(deconvolution data).
calculated for the light chain of CLCH-B-[PEG(3)-N3]4, M = 11507.8; found 11506.7(deconvolution data).
【0285】
<実施例5-6> ([N3-PEG(3)]2-SG-)Asn-PEG(3)-N3を用いたFc-A-[PEG(3)-N3]4の調製
糖鎖ドナーとして([N3-PEG(3)]2-SG-)Asn-PEG(3)-N3を用い、Fc-A-[PEG(3)-N3]4を以下の方法で作製した。
【0286】
24.8mg/ml (Fucα1, 6)GlcNAc-Fc-A溶液 (50 mMトリス緩衝液(pH7.4))(140μl)に50mMトリス緩衝液(pH7.4) (60μl)、工程(1-12A)で作成した([N3-PEG(3)]2-SG-)Asn-PEG(3)-N3(60.0mg) 50mMトリス緩衝液(pH7.4)溶液(240μl)、1U/ml EndoM N175Q溶液 (東京化成製) (50μl)及び2.10mg/ml EndoS D233Q Q303L溶液(PBS)(100μl)を加えて、28℃で20時間インキュベートし後に、実施例3-9に記載された方法に準じ、反応スケールに適した精製方法(精製装置、カラム)や限外ろ過方法(限外ろ過膜)を選択し、4.06mg/mL Fc-A-[PEG(3)-N3]4溶液(5%ソルビトール/10mM 酢酸緩衝液(pH5.5))(500ul)を得た。
calculated for the chain of Fc-B-[PEG(3)-N3]4 (-Lys), M = 28088.3; found 28085.6(deconvolution data).
【配列表】