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特許7068177血中のIgAの産生抑制剤又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤をスクリーニングする方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】血中のIgAの産生抑制剤又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤をスクリーニングする方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6844 20180101AFI20220509BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220509BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220509BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220509BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20220509BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220509BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220509BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20220509BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z ZNA
A61K45/00
A61P13/12
A61P43/00 111
A61K31/198
A61P31/04
A61P37/02
C07K14/47
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018545077
(86)(22)【出願日】2017-10-13
(86)【国際出願番号】 JP2017037194
(87)【国際公開番号】W WO2018070524
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2016202769
(32)【優先日】2016-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506343922
【氏名又は名称】笹部 潤平
(73)【特許権者】
【識別番号】516309925
【氏名又は名称】鈴木 将貴
(73)【特許権者】
【識別番号】506291173
【氏名又は名称】相磯 貞和
(74)【代理人】
【識別番号】100120857
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 聡
(72)【発明者】
【氏名】笹部 潤平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 将貴
(72)【発明者】
【氏名】相磯 貞和
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第99/059567(WO,A1)
【文献】特開2013-181003(JP,A)
【文献】特開2014-001170(JP,A)
【文献】Nature microbiology,2016年07月25日,doi:10.1038/nmicrobiol.2016.125.
【文献】ビタミン,Vol.88, No.10,重岡 成,2014年,p.515-523
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/6844
A61K 45/00
A61P 13/12
A61P 43/00
A61K 31/198
A61P 31/04
A61P 37/02
C07K 14/47
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質であるD-アミノ酸酸化酵素(DAO)の遺伝子の発現の促進、前記DAOの発現若しくは活性の促進、上記DAOの反応増加、又は感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌の減少若しくはLactobacillus属に属する細菌の増加を指標として、血中の免疫グロブリンA(IgA)の産生抑制剤、又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤をスクリーニングする方法。
【請求項2】
前記疾患が、血中の過剰IgAに起因する糸球体腎炎である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記糸球体腎炎が、IgA腎症、メサンギウム増殖性腎炎、又は紫班病性腎炎である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質であるDAOの反応基質、Lactobacillus属細菌又は抗生物質を含む、血中IgA産生抑制剤、又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤。
【請求項5】
前記反応基質が、D-アミノ酸又はD-アミノ酸誘導体である、請求項4に記載の血中IgA産生抑制剤、又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤。
【請求項6】
腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質であるDAOの遺伝子の発現を促進する工程、前記DAOの発現若しくは活性を促進する工程、又は前記DAOの反応基質、Lactobacillus属細菌若しくは抗生物質を投与する工程を含む、個体(ヒトは除く。)の血中のIgAの産生を抑制する方法。
【請求項7】
腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質であるDAOの遺伝子の発現の抑制、前記DAOの発現若しくは活性の抑制、又は感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌の増加若しくはLactobacillus属細菌の減少を指標として、血中のIgAの産生促進剤をスクリーニングする方法。
【請求項8】
腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質であるDAOの遺伝子の発現を抑制する工程、前記DAOの発現若しくは活性を抑制する工程、又は感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌を投与する工程を含む、個体(ヒトは除く。)の血中のIgAの産生を促進する方法。
【請求項9】
腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質であるDAOの遺伝子の発現が低下した個体、又は前記DAOの発現若しくは活性が低下した個体の腸内細菌叢における前記DAOの反応基質を産生する腸内細菌の存在頻度に基づき、血中の過剰IgAに起因する疾患のリスク、程度ないし状態を評価する方法。
【請求項10】
腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質であるDAOの遺伝子の発現が低下した個体、又は前記DAOの発現若しくは活性が低下した個体の腸内細菌叢における前記DAOの反応基質を産生する腸内細菌の存在頻度に基づき、血中の過剰IgAに起因する疾患を予防又は治療するために除去すべき腸内細菌及び投与すべき腸内細菌よりなる群から選択される少なくとも1種を提示する方法。
【請求項11】
前記腸内細菌が、感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌である、請求項9又は10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中の免疫グロブリンA(IgA)の産生抑制剤又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤をスクリーニングする方法、血中のIgAの産生抑制剤又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤、個体の血中のIgAの産生を抑制する方法、血中のIgAの産生促進剤をスクリーニングする方法、個体の血中のIgAの産生を促進する方法、血中の過剰IgAに起因する疾患のリスク、程度ないし状態を評価する方法及び血中の過剰IgAに起因する疾患を予防又は治療するために除去すべき腸内細菌及び投与すべき腸内細菌よりなる群から選択される少なくとも1種を提示する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腸上皮の粘膜は常に微生物にさらされており、粘膜面を防御する粘膜免疫防御系の存在が知られている。粘膜免疫防御系には、生体の初期防御である「自然免疫系」と特定の抗原を排除するための「獲得免疫系」が存在する。小腸に発現するD-アミノ酸酸化酵素(D-amino acid oxidase;以下、単に「DAO」ともいう。)は、腸内で細菌由来のD-アミノ酸を分解して過酸化水素を発生させて病原体を排除することで自然免疫系の一つとして機能する(非特許文献1)。
ここで、D-アミノ酸は、L-アミノ酸の光学異性体である。L-アミノ酸がリボソームを介したタンパク質合成に普遍的に生命で利用されるのに対し、D-アミノ酸はL-アミノ酸とは異なる生理機能がある。哺乳類では、D-アミノ酸のうち2種(D-セリン、D-アスパラギン酸)は主に脳に分布し、神経伝達や神経内分泌に関連すると考えられている。
また、哺乳類のD-アミノ酸とは異なる13種を超えるD-アミノ酸の合成が細菌で報告されており、細菌細胞壁の構築や再構築に利用されている。腸内細菌叢は特に、D-アラニン、D-プロリン、D-グルタミン酸、D-アスパラギン酸を合成することが知られている。
【0003】
一方、粘膜免疫防御系で中心的な役割を持つ獲得免疫系はIgAであるものの、その制御機構の全貌は明らかになっていない(非特許文献2)。
ここで、IgAは、獲得免疫を司る抗体の一種であり、主に粘膜上皮に存在する形質細胞により分泌され、腸管、気道、鼻腔の恒常性維持を担う。また、初乳に多く含まれ、まだ自身で抗体を多く産生できない新生児の腸管を細菌やウイルスから守る働きもあることが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Sasabe et al.,Nature Microbiology,1:16125(2016)
【文献】Nature Reviews Nephrology 12,147-156(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術に鑑み、血中IgA産生抑制剤、血中IgA産生促進剤又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤のスクリーニングに好適なスクリーニング方法、及び血中のIgAの産生抑制剤又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤の提供、血中IgA量の制御に好適な方法の提供、並びに血中の過剰IgAに起因する疾患のリスク、程度ないし状態を評価する方法及び血中の過剰IgAに起因する疾患を予防又は治療するために除去すべき腸内細菌及び投与すべき腸内細菌よりなる群から選択される少なくとも1種を提示する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、粘膜における自然免疫系の1つであるDAOが、獲得免疫系に属するIgAの産生を制御しうることを見出し、上記知見に基づき、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0007】
本発明の第1の態様は、
腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質遺伝子の発現の促進、上記抗菌タンパク質の発現若しくは活性の促進又は上記抗菌タンパク質の反応増加、又は感作性細菌群から選択される少なくとも1種の細菌の減少若しくはLactobacillus属細菌の増加を指標として、血中のIgAの産生抑制剤、又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤をスクリーニングする方法である。
【0008】
本発明の第2の態様は、
腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質の反応基質、Lactobacillus属細菌又は抗生物質を含む、血中IgA産生抑制剤、又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤である。
【0009】
本発明の第3の態様は、
腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質遺伝子の発現を促進する工程、上記抗菌タンパク質の発現若しくは活性を促進する工程、前記抗菌タンパク質の反応基質、Lactobacillus属細菌若しくは抗生物質を投与する工程を含む、個体(ヒトは除く。)の血中のIgAの産生を抑制する方法である。
【0010】
本発明の第4の態様は、
腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質遺伝子の発現の抑制、上記抗菌タンパク質の発現若しくは活性の抑制、又は感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌の増加若しくはLactobacillus属細菌の減少を指標として、血中のIgAの産生促進剤をスクリーニングする方法である。
【0011】
本発明の第5の態様は、
腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質遺伝子の発現を抑制する工程、上記抗菌タンパク質の発現若しくは活性を抑制する工程、又は感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌を投与する工程を含む、個体(ヒトは除く。)の血中のIgAの産生を促進する方法である。
【0012】
本発明の第6の態様は、
腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質遺伝子の発現が低下した個体、又は前記抗菌タンパク質の発現若しくは活性が低下した個体の腸内細菌叢における上記抗菌タンパク質の反応基質を産生する腸内細菌の存在頻度に基づき、血中の過剰IgAに起因する疾患のリスク、程度ないし状態を評価する方法である。
【0013】
本発明の第7の態様は、
腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質遺伝子の発現が低下した個体、又は前記抗菌タンパク質の発現若しくは活性が低下した個体の腸内細菌叢における上記抗菌タンパク質の反応基質を産生する腸内細菌の存在頻度に基づき、血中の過剰IgAに起因する疾患を予防又は治療するために除去すべき腸内細菌及び投与すべき腸内細菌よりなる群から選択される少なくとも1種を提示する方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、血中IgA産生抑制剤、血中IgA産生促進剤又は血中の過剰IgAに起因する疾患(例えば、血中の過剰IgAに起因する糸球体腎炎等)の予防又は治療剤を好適にスクリーニングすることができる。
また、本発明によれば、血中のIgAの産生抑制剤又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤を提供することができる。
また、本発明によれば、血中IgA量を好適に制御することができる。
また、本発明によれば、血中の過剰IgAに起因する疾患のリスク、程度ないし状態を評価する方法及び血中の過剰IgAに起因する疾患を予防又は治療するために除去すべき腸内細菌及び投与すべき腸内細菌よりなる群から選択される少なくとも1種を提示する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】腸内細菌叢が誘導する血漿IgAが、DAOによって量的に制御されていることを示す図である。(a)は、抗生剤投与の有無の条件下で、野生型マウス及びDAO活性欠損マウスにおける血漿中IgA濃度を示す図である。(b)は、抗生剤投与による腸内細菌量の変化を示す図である。
図2】腸内細菌叢が血漿IgA濃度をDAO活性依存的に上昇させる時間経過を示す図である。
図3】(a)は、腸内細菌叢の感作性がDAO活性依存的な血漿IgA濃度の変化に影響を与えることを示す図である。(b)は、高感作性腸内細菌叢及び低感作性腸内細菌叢の組成(綱レベル)を示す図である。
図4】骨髄移植による血球中DAO発現のIgA産生への関与を示す図である。
図5】野生型マウスと自然発症IgA腎症モデルマウスとのDAO活性の比較を示す図である。
図6】自然発症IgA腎症モデルマウスにおいて、DAO活性の有無が血漿IgA濃度に与える影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
本明細書及び特許請求の範囲において、「感作性細菌群」とは、血中のIgA増加に寄与し得る細菌群を意味し、血中のIgA増加に寄与し得る限り特に制限はないが、Allobaculum属、Turicibacter属、Bacteroidales目S24-7科、Desulfovibrio属、Clostridiales目、Streptococcus属、Halomonadaceae科、Streptophyta目、Coriobacteriaceae科に属する細菌群が挙げられる。
【0017】
<血中のIgAの産生抑制剤、又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤をスクリーニングする方法>
第1の態様に係るスクリーニング方法は、腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質遺伝子の発現の促進、上記抗菌タンパク質の発現若しくは活性の促進、上記抗菌タンパク質の反応増加、又は感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌の減少若しくはLactobacillus属細菌の増加を指標とすることにより、血中のIgAの産生抑制剤、又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤をスクリーニングすることができる。
第1の態様においてスクリーニングとは、生物(例えば、動物)又は小腸上皮細胞に被験物質を投与して、腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質遺伝子の発現の促進、上記抗菌タンパク質の発現若しくは活性の促進又は上記抗菌タンパク質の反応増加を指標として、被験物質の母集団を少なくとも絞ることを意味し、血中のIgAの産生抑制剤候補、又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤候補を選定することが好ましい。
第1の態様に係るスクリーニング方法は、投与した上記被験物質の上記抗菌タンパク質遺伝子の発現の促進効果、記抗菌タンパク質の発現若しくは活性の促進効果又は上記抗菌タンパク質の反応増加効果を評価して、又は感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌の減少若しくはLactobacillus属細菌の増加を評価して、血中のIgAの産生抑制剤候補、又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤候補を選定する工程を含むことが好ましい。
【0018】
スクリーニング方法としては、上記を指標とする限り、インビボ(in vivo)、インビトロ(in vitro)、インシリコ(in silico)等の任意のスクリーニング方法であってもよい。
第1の態様に係るスクリーニング方法の好ましい例としては、
(1)生物(例えば、動物)に被験物質を投与(経口、静脈注射等)して、腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質(例えば、DAO)遺伝子若しくは上記抗菌タンパク質の発現の促進、上記抗菌タンパク質の活性の促進、上記抗菌タンパク質の反応増加、又は感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌の減少若しくはLactobacillus属細菌の増加を指標として、上記被験物質の投与下の結果と、上記被験物質の非投与下又は陰性対照(上記抗菌タンパク質遺伝子若しくは上記抗菌タンパク質の発現又は活性に影響しない物質を投与した対照)の結果とを比較して、上記被験物質の上記抗菌タンパク質遺伝子の発現の促進効果、上記抗菌タンパク質の発現若しくは活性の促進効果又は上記抗菌タンパク質の反応増加効果を評価して、又は感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌の減少若しくはLactobacillus属細菌の増加を評価して、血中のIgAの産生抑制剤候補、又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤候補を選定する工程を含むスクリーニング方法、
(2)小腸上皮細胞を被験物質の存在下及び非存在下において培養し、腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質(例えば、DAO)遺伝子若しくは上記抗菌タンパク質の発現の促進、又は上記抗菌タンパク質の活性の促進、上記抗菌タンパク質の反応増加、又は感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌の減少若しくはLactobacillus属細菌の増加を指標として、上記被験物質の存在下の結果と、上記被験物質の非存在下又は陰性対照の結果とを比較して、上記被験物質の上記抗菌タンパク質遺伝子の発現の促進効果、上記抗菌タンパク質の発現若しくは活性の促進効果又は上記抗菌タンパク質の反応増加効果を評価して、又は感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌の減少若しくはLactobacillus属細菌の増加を評価して、血中のIgAの産生抑制剤候補、又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤候補を選定する工程を含むスクリーニング方法等が挙げられる。
上記促進又は上記反応増加の程度としては統計的に有意な促進であれば特に制限はないが、被験物質の非存在下(例えば、被験物質の投与前(例えば、野生型)又は陰性対照の系)における上記抗菌タンパク質遺伝子若しくは上記抗菌タンパク質の発現又は活性、又は反応量に対して、1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましい。
【0019】
感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌の減少の程度としては統計的に有意な減少であれば特に制限はないが、被験物質の非存在下における腸内細菌叢(例えば、後述の高感作性腸内細菌叢)における上記細菌の割合に対して、1/2以下であることが好ましく、1/4以下であることがより好ましく、1/10以下であることがさらに好ましく、存在しなくなることが特に好ましい。
上記少なくとも1種の細菌が減少された場合、腸内細菌叢に占める感作性細菌群の合計の存在頻度が15%以下であることが好ましく、10%以下がより好ましく、8%以下が更に好ましい。
【0020】
Lactobacillus属細菌の増加の程度としては統計的に有意な増加であれば特に制限はないが、被験物質の非存在下における腸内細菌叢(例えば、後述の高感作性腸内細菌叢)における上記細菌の割合に対して、1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましく、3倍以上であることが更に好ましい。
Lactobacillus属に属する細菌が増加された場合、腸内細菌叢に占めるLactobacillus属に属する細菌の存在頻度が60%以上であることが好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましい。
【0021】
腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質遺伝子の塩基配列情報を基にすれば、インシリコでも各種のヒト腸内における上記抗菌タンパク質遺伝子の発現の促進を測定することができる。また、インビボ、インビトロでも、例えば該遺伝子の一部又は全部の塩基配列を有するプローブまたはプライマーを利用することにより、各種のヒト腸内における上記抗菌タンパク質遺伝子の発現の促進を測定することができる。上記抗菌タンパク質遺伝子の発現の促進の測定は、RT-PCR、ノザンブロット、サザンブロット等の常法により行うことができる。
また、上記抗菌タンパク質遺伝子のmRNAレベルでの発現量の促進の測定も、RT-PCR、ノザンブロット、サザンブロット等の常法により行うことができる。
【0022】
PCRを行なう場合、プライマーは、上記抗菌タンパク質遺伝子のみを特異的に増幅できるものであれば特に限定されず、上記抗菌タンパク質遺伝子の配列情報に基づき適宜設定することができる。例えば、上記抗菌タンパク質遺伝子又は上記遺伝子の発現制御領域の塩基配列中の連続する少なくとも10ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチド、並びに該オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドをプローブまたはプライマーとして使用することができる。より具体的には、上記抗菌タンパク質遺伝子又は上記遺伝子の発現制御領域の塩基配列中の連続した10~60残基、好ましくは10~40残基の塩基配列を有するオリゴヌクレオチド、並びに該オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドを使用することができる。
【0023】
上記したオリゴヌクレオチド及びアンチセンスオリゴヌクレオチドは、DNA合成機を用いて常法により製造することができる。該オリゴヌクレオチドまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドとして、例えば、検出したいmRNAの一部の塩基配列において、5’末端側の塩基配列に相当するセンスプライマー、3’末端側の塩基配列に相当するアンチセンスプライマー等を挙げることができる。センスプライマー及びアンチセンスプライマーとしては、それぞれの融解温度(T)および塩基数が極端に変わることのないオリゴヌクレオチドであって、10~60塩基程度のものが挙げられる、10~40塩基程度のものが好ましい。
【0024】
また上記抗菌タンパク質の発現量の促進の測定は、抗体を用いたウェスタンブロット又はELISA等の通常の免疫分析により行なうことができる。具体的には、モレキュラークローニング第2版又はカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載された当業者に公知の常法により行うことができる。
また、上記抗菌タンパク質の活性促進又は反応増加の測定は、DAO活性測定、反応生成物の定量等任意の分析で行うことができる。例えば、DAO活性測定方法としては、Watanabe T,Motomura Y,Suga T(1978) A new colorimetric determination of D-amino acid oxidase and urate oxidase activity. Anal Biochem 86:310e315.に記載の方法により行うことができる。
上記細菌の量(例えば、腸内細菌叢に占める存在頻度)の測定は、細菌ゲノムDNAの抽出後、16sリボソームDNAを標的とした定量的PCR法を用いて行うことができる。
【0025】
腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質としては、腸管の自然免疫として腸管上皮から放出され、腸内細菌の制御を担うタンパク質又はペプチドが挙げられ、DAO、ディフェンシン(α-ディフェンシン、β-ディフェンシン等)、カテリシジン、ホスホリパーゼD、REG3G(Regenerating islet-derived protein 3 gamma)又はリゾチームであることが好ましく、DAO又はディフェンシンであることがより好ましく、DAO又はα-ディフェンシンであることが更に好ましく、DAOであることが特に好ましい。
例えば、ヒトDAOのアミノ酸配列、マウスDAOのアミノ酸配列はそれぞれ、配列番号1、2で表される。
腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質の取得方法としては特に制限はなく、化学合成により合成したタンパク質でもよいし、生体試料又は培養細胞などから単離した天然由来のタンパク質でもよいし、遺伝子組み換え技術による作製した組み換えタンパク質でもよい。
【0026】
腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質(例えば、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列を有するDAO)をコードする遺伝子は全て上記抗菌タンパク質遺伝子に属する。
例えば、ヒトDAO遺伝子の塩基配列、マウスDAO遺伝子の塩基配列はそれぞれ、配列番号3、4で表される。
腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質遺伝子の取得方法は特に限定されない。本明細書の配列表の配列番号1又は2に記載したアミノ酸配列、配列番号3又は4に記載した塩基配列の情報に基づいて適当なブローブやプライマーを調製し、それらを用いて、ヒト又はマウスcDNAライブラリー(腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質遺伝子が発現される適当な細胞より常法に従い調製したもの)から所望クローンを選択することにより、上記抗菌タンパク質遺伝子を単離することができる。
PCR法により上記抗菌タンパク質遺伝子を取得することもできる。例えば、ヒト又はマウス培養細胞由来の染色体DNAまたはcDNAライブラリーを鋳型として使用してPCRを行う。
PCRの反応条件は適宜設定することができ、例えば、94℃で30秒間(変性)、55℃で30秒~1分間(アニーリング)、72℃で2分間(伸長)からなる反応工程を1サイクルとして、例えば30サイクル行った後、72℃で7分間反応させる条件などを挙げることができる。次いで、増幅されたDNA断片を、大腸菌等の宿主で増幅可能な適切なベクター中にクローニングすることができる。
上記したブローブ又はプライマーの調製、cDNAライブラリーの構築、cDNAライブラリーのスクリーニング、並びに目的遺伝子のクローニングなどの操作は当業者に既知であり、例えば、モレキュラークローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載された方法に準じて行うことができる。
【0027】
第1の態様に係るスクリーニング方法に供される被験物質としては任意の物質を使用することができる。被験物質の種類は特に限定されず、微生物又は微生物由来成分でもよいし、核酸分子でもよいし、抗体でもよく、個々の低分子合成化合物でもよいし、天然物抽出物中に存在する化合物でもよく、合成ペプチドでもよい。あるいは、被験化合物はまた、微生物ライブラリー、化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリーもしくはコンビナトリアルライブラリーでもよい。微生物ライブラリー又は化合物ライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の微生物ライブラリー又は化合物ライブラリーを使用することもできる。
被験物質は、好ましくは、微生物若しくは微生物由来成分(例えば、微生物ライブラリー)、低分子化合物(例えば、化合物ライブラリー)、核酸分子又は抗体であり、腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質遺伝子又は抗菌タンパク質に対して特異性が高い観点から、微生物若しくは微生物由来成分(例えば、腸内細菌若しくは腸内細菌由来成分)、核酸分子又は抗体がより好ましい。
第1の態様に係るスクリーニング方法において、血中の過剰IgAに起因する疾患としては、血中の過剰IgAに起因する糸球体腎炎、血中の過剰IgAに起因するIgA血管炎、血中の過剰IgAに起因する皮膚疾患(例えば、アナフィラクトイド紫斑病)等が挙げられる。
上記糸球体腎炎としては、IgA腎症、メサンギウム増殖性腎炎、又は紫班病性腎炎であることが好ましい。
例えば、IgA腎症について、腎糸球体に沈着したIgAが補体系および炎症性サイトカインを誘導することで糸球体腎炎を発症すること等が知られている。これにより血尿および蛋白尿を呈し、慢性経過により透析導入へと移行することが多いこと等が知られている。
【0028】
<血中のIgAの産生抑制剤、又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤>
第2の態様に係る血中のIgAの産生抑制剤、又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤は、上記抗菌タンパク質の反応基質、Lactobacillus属細菌(例えば、上記細菌を含む腸内細菌叢)又は抗生物質を含む。
上記抗菌タンパク質(例えば、DAO)の反応基質としては、アミノ酸、アミノ酸誘導体が挙げられる。
ここで、アミノ酸誘導体としては、アミノ酸を構成する任意の炭素原子、酸素原子、窒素原子又はイオウ原子が化学修飾されたアミノ酸が挙げられ、例えば、上記化学修飾としては、炭素数1~3の直鎖状又は分岐状アルキル基(例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基等)によるアルキル化修飾等が挙げられる。
アミノ酸又はアミノ酸誘導体としては、D-アミノ酸(例えば、D-アラニン、D-プロリン、D-メチオニン、D-セリンなどの中性又は塩基性D-アミノ酸)又はD-アミノ酸誘導体であることが好ましい。
細菌は多様なD-アミノ酸を産生するため(Lam H et al.,Science;325:1552-1555.2009)、腸内細菌叢の全て又は多くの細菌群は上記反応基質を産生することができる。プロバイオティクスとして用いられる乳酸菌も上記反応基質を産生することができる。
第2の態様に係る血中のIgAの産生抑制剤、又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤が上記反応基質を含む場合、血中のIgAの産生抑制の観点から、上記抗菌タンパク質遺伝子ないし上記抗菌タンパク質の発現若しくは活性(上記抗菌タンパク質遺伝子ないし上記抗菌タンパク質が複数種存在する場合には、各々の発現若しくは活性)が、野生型ないし健常人の上記発現若しくは活性の1/2以上である患者に投与することが好ましく、野生型ないし健常人の上記発現若しくは活性と同等以上である患者に投与することがより好ましい。
特に、DAO遺伝子ないしDAOの発現若しくは活性が野生型ないし健常人の上記発現若しくは活性の1/2以上である患者に投与することが好ましく、野生型ないし健常人の上記発現若しくは活性と同等以上である患者に投与することがより好ましい。
【0029】
抗生物質としては、本発明の効果を達成し得る限り特に制限はなく、例えば、アンピシリン、ネオマイシン、バンコマイシン等任意の抗生物質が挙げられる。上記抗生物質としては、腸内細菌に対する抗生物質が好ましく、感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌に対する抗生物質であることがより好ましい。
第2の態様に係る血中のIgAの産生抑制剤、又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤の形態としては、上記抗菌タンパク質の反応基質、Lactobacillus属細菌又は抗生物質を含む限り特に制限はないが、医薬品若しくは医薬品組成物、食品若しくは食品組成物(例えば、サプリメント、飲料等)等が挙げられる。
第2の態様に係る血中のIgAの産生抑制剤、又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤の投与形態としては特に制限はなく、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができるが経口的に投与することが好ましい。その投与量は、年齢、投与経路、投与回数により異なり、当業者であれば適宜選択できる。
経口投与した場合の投与量としては特に制限はないが、一般的には一回につき体重1kgあたり0.1μg~10mg程度の範囲である。
【0030】
<個体の血中のIgAの産生を抑制する方法>
第3の態様に係る個体(ヒトは除く。)の血中のIgAの産生を抑制する方法は、腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質遺伝子の発現を促進する工程、上記抗菌タンパク質の発現若しくは活性を促進する工程、上記抗菌タンパク質の反応基質、Lactobacillus属細菌若しくは抗生物質を投与する工程を含む。
個体としては、生物個体が挙げられ、動物であることが好ましく、哺乳類であることがより好ましい。哺乳類としては、げっ歯動物(例えば、マウス、ラット)等が挙げられる。なお、本態様は、ヒト個体に対しても適用可能である。
上記抗菌タンパク質遺伝子若しくは上記抗菌タンパク質の発現を促進する方法としては、(+)-5-メチル-10,11-ジヒドロ-5H-ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン-5,10-イミン(MK-801)、ケタミン、モルヒネ、MAPK/Erkシグナル阻害剤(PD98059など)、又はpoly(IC)を投与する方法等が挙げられる(下記文献1)~5)参照)。
1)Hashimoto A, Yoshikawa M, Andoh H, Yano H, Matsumoto H, Kawaguchi M, Oka T, Kobayashi H. Effects of MK-801 on the expression of serine racemase and d-amino acid oxidase mRNAs and on the D-serine levels in rat brain. Eur J Pharmacol.2007 Jan 19;555(1):17-22. Epub 2006 Oct 10. PubMed PMID:17109841.
2)Takeyama K, Yoshikawa M, Oka T, Kawaguchi M, Suzuki T, Hashimoto A. Ketamine enhances the expression of serine racemase and D-amino acid oxidase mRNAs in rat brain. Eur J Pharmacol. 2006 Jul 1;540(1-3):82-6. Epub 2006 Apr 28. PubMed PMID: 16716293.
3)Yoshikawa M, Shinomiya T, Takayasu N, Tsukamoto H, Kawaguchi M, Kobayashi H, Oka T, Hashimoto A. Long-term treatment with morphine increases the D-serine content in the rat brain by regulating the mRNA and protein expressions of serine racemase and D-amino acid oxidase. J Pharmacol Sci. 2008 Jul;107(3):270-6. Epub 2008 Jul 5. PubMed PMID: 18603832.
4)Nagai T, Yu J, Kitahara Y, Nabeshima T, Yamada K. D-Serine ameliorates neonatal PolyI:C treatment-induced emotional and cognitive impairments in adult mice. J Pharmacol Sci. 2012;120(3):213-27. Epub 2012 Oct 26. PubMed PMID: 23099320.
5)Sasabe J, Miyoshi Y, Suzuki M, Mita M, Konno R, Matsuoka M, Hamase K, Aiso S. D-Amino acid oxidase controls motoneuron degeneration through D-serine. Proc Natl Acad Sci USA. 2012;109(2):627-32. Epub 2011 Dec 27. PubMed PMID: 22203986.
【0031】
上記抗菌タンパク質の活性を促進する方法としては、フラビン、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、DAO活性化因子(DAOアクチベーター:別名G72タンパク質)を作用させる方法等が挙げられる。
第3の態様における上記促進の程度としては第1の態様における上記促進の程度と同様である。
第3の態様における上記抗菌タンパク質遺伝子の発現の検出、上記抗菌タンパク質遺伝子のmRNAレベルでの発現量の測定、上記抗菌タンパク質の発現量の測定、上記抗菌タンパク質の活性促進の測定は、第1の態様における方法と同様である。
【0032】
上記抗菌タンパク質の反応基質、Lactobacillus属細菌若しくは抗生物質を投与する方法としては、
(a)反応基質(例えば、D-アミノ酸又はD-アミノ酸誘導体)、Lactobacillus属に属する細菌若しくは抗生物質を医薬品若しくは医薬品組成物又は食品若しくは食品組成物として経口投与する方法、
(b)DAOの基質となるD-アミノ酸、Lactobacillus属細菌又は抗生物質を投与(例えば、経口投与)する方法等が挙げられる。
抗生物質の具体例及び好ましい例としては上述の通りである。
【0033】
上記抗菌タンパク質の反応基質を投与する場合、血中のIgAの産生抑制の観点から、上記抗菌タンパク質遺伝子ないし上記抗菌タンパク質の発現若しくは活性(上記抗菌タンパク質遺伝子ないし上記抗菌タンパク質が複数種存在する場合には、各々の発現若しくは活性)が、健常個体(例えば、野生型)の上記発現若しくは活性の1/2以上である個体に投与することが好ましく、健常個体(例えば、野生型)の上記発現若しくは活性と同等以上である個体に投与することがより好ましい。
特に、DAO遺伝子ないしDAOの発現若しくは活性が健常個体(例えば、野生型)の上記発現若しくは活性の1/2以上である個体に投与することが好ましく、健常個体(例えば、野生型)の上記発現若しくは活性と同等以上である個体に投与することがより好ましい。
また、例えば、Watanabe T,Motomura Y,Suga T(1978) A new colorimetric determination of D-amino acid oxidase and urate oxidase activity. Anal Biochem 86:310e315.に記載の比色法による550nmの吸光度で示した組織破砕液(例えば、腎組織破砕液)におけるDAO活性が10以上である個体に投与することが好ましく、20以上である個体に投与することがより好ましい。
【0034】
反応基質、腸内細菌又は抗生物質の投与形態としては特に制限はなく、個体の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができるが経口的に投与することが好ましい。その投与量は、年齢、投与経路、投与回数により異なり、当業者であれば適宜選択できる。
経口投与した場合の投与量としては特に制限はないが、一般的には一回につき体重1kgあたり0.1μg~10mg程度の範囲である。
【0035】
<血中のIgAの産生促進剤をスクリーニングする方法>
第4の態様に係る血中のIgAの産生促進剤をスクリーニングする方法は、腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質遺伝子の発現の抑制、上記抗菌タンパク質の発現若しくは活性の抑制、又は感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌の増加若しくはLactobacillus属に属する細菌の減少を指標とする。
第4の態様においてスクリーニングとは、生物(例えば、動物)又は小腸上皮細胞に被験物質を投与して、腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質遺伝子の発現の抑制、又は上記抗菌タンパク質の発現若しくは活性の抑制を指標として、験物質の母集団を少なくとも絞ることを意味し、血中のIgAの産生促進剤候補を選定することが好ましい。
第4の態様に係るスクリーニング方法は、投与した上記被験物質の上記抗菌タンパク質遺伝子の発現の抑制効果又は上記抗菌タンパク質の発現若しくは活性の抑制効果を評価して、又は感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌の増加若しくはLactobacillus属に属する細菌の減少を評価して、血中のIgAの産生促進剤候補を選定する工程を含むことが好ましい。
スクリーニング方法としては、上記を指標とする限り、インビボ(in vivo)、インビトロ(in vitro)、インシリコ(in silico)等の任意のスクリーニング方法であってもよい。
第4の態様に係るスクリーニング方法の好ましい例としては、
(1)生物(例えば、動物)に被験物質を投与して、腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質遺伝子若しくは上記抗菌タンパク質の発現の抑制、上記抗菌タンパク質の活性の抑制又は感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌の増加若しくはLactobacillus属細菌の減少を指標として上記被験物質の投与下の結果と、上記被験物質の非投与下又は陰性対照の結果とを比較して、上記被験物質の上記抗菌タンパク質遺伝子の発現の抑制効果又は上記抗菌タンパク質の発現若しくは活性の抑制効果を評価して、又は感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌の増加若しくはLactobacillus属細菌の減少を評価して、血中のIgAの産生促進剤候補を選定する工程を含むスクリーニング方法、
(2)小腸上皮細胞を被験物質の存在下及び非存在下において培養し、腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質遺伝子若しくは上記抗菌タンパク質の発現の抑制、上記抗菌タンパク質の活性の抑制、又は感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌の増加若しくはLactobacillus属細菌の減少を指標として、上記被験物質の存在下の結果と、上記被験物質の非存在下又は陰性対照の結果とを比較して、上記被験物質の上記抗菌タンパク質遺伝子の発現の抑制効果又は上記抗菌タンパク質の発現若しくは活性の抑制効果、又は感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌の増加若しくはLactobacillus属細菌の減少を評価して、血中のIgAの産生促進剤候補を選定する工程を含むスクリーニング方法等が挙げられる。
また、上記抑制の程度としては統計的に有意な抑制であれば特に制限はないが、被験物質の非存在下(例えば、被験物質の投与前の系又は陰性対照の系)における上記抗菌タンパク質遺伝子若しくは上記抗菌タンパク質の発現又は活性に対して、1/2以下であることが好ましく、1/4以下であることがより好ましく、1/10以下であることがさらに好ましく、発現又は活性がなくなることが特に好ましい。
【0036】
感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌の増加の程度としては統計的に有意な増加であれば特に制限はないが、被験物質の非存在下における腸内細菌叢(例えば、後述の低感作性腸内細菌叢)における上記細菌の割合に対して、2倍以上であることが好ましく、3倍以上であることがより好ましい。
上記少なくとも1種の細菌が増加された場合、腸内細菌叢に占める感作性細菌群の合計の存在頻度が30%以上であることが好ましく、40%以上がより好ましく、45%以上が更に好ましい。
【0037】
Lactobacillus属細菌の減少の程度としては統計的に有意な増加であれば特に制限はないが、被験物質の非存在下における腸内細菌叢(例えば、後述の低感作性腸内細菌叢)における上記細菌の割合に対して、1/2以下であることが好ましく、1/3以下であることがより好ましい。
Lactobacillus属に属する細菌が減少された場合、腸内細菌叢に占めるLactobacillus属に属する細菌の存在頻度が50%以下であることが好ましく、45%以下がより好ましく、40%以下が更に好ましい。
【0038】
第4の態様における上記抗菌タンパク質遺伝子の発現の検出、上記抗菌タンパク質遺伝子のmRNAレベルでの発現量の測定、上記抗菌タンパク質の発現量の測定、上記抗菌タンパク質の活性抑制、上記細菌の測定は、第1の態様における方法と同様である。
第4の態様に係るスクリーニング方法に供される被験物質としては、第1の態様に係るスクリーニング方法に供される被験物質として挙げられた被験物質と同様の被験物質が挙げられるとともに、微生物に対して抗菌作用を有する物質(例えば、抗生物質)等も挙げられる。
【0039】
<個体の血中のIgAの産生を促進する方法>
第5の態様に係る個体(ヒトは除く。)の血中のIgAの産生を促進する方法は、腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質遺伝子の発現を抑制する工程、上記抗菌タンパク質の発現若しくは活性を抑制する工程、又は感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌を投与する工程を含む。
第5の態様における個体としては、第3の態様において前述した個体が挙げられる。また、本態様はヒト個体に対しても適用可能である。
第5の態様における上記抑制の程度、上記細菌の増加若しくは減少の程度としては第4の態様における上記抑制の程度、上記細菌の増加若しくは減少の程度と同様である。
第5の態様に係る方法において、腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質遺伝子又は上記抗菌タンパク質の発現を抑制する手法としては、例えば、腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質をコードする塩基配列の一部若しくは全てを破壊又は変異させる方法(ノックアウト)等が挙げられる。
上記抗菌タンパク質をコードする塩基配列の一部若しくは全てを破壊又は変異させる方法は、化学合成、遺伝子工学的手法又は突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法が挙げられる。
具体的には、上記抗菌タンパク質をコードするDNAに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的手法等を用いて行うことができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、モレキュラークローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載の方法に準じて行うことができる。
例えば、DAOをコードするアミノ酸配列のうち、181番目のグリシンをアルギニンに変異することによりDAOの活性を消失させることができ、常染色体劣性遺伝し得る。劣性ホモ接合体の個体を、以下、「DAO活性欠損マウス」という(Konno R. and Yasumura Y.、Genetics103:277-285(1983)、Hashimoto A.,Yoshikawa M.,Niwa A. and Konno R.、Brain Res.1033:210-215(2005))。
また、上記タンパク質の発現を抑制するには、NF-kB阻害剤(カフェイン酸フェネチルエステル(CAPE)など)を投与する方法などが挙げられる。
また、腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質の活性を抑制する手法としては、上記抗菌タンパク質の基質に対して競争的な阻害剤(6-クロロ-3-ヒドロキシ-1,2-ベンズイソオキサゾール(CBIO)等)を投与する方法等が挙げられる。
【0040】
<血中の過剰IgAに起因する疾患のリスク、程度ないし状態を評価する方法>
第6の態様に係る血中の過剰IgAに起因する疾患のリスク、程度ないし状態を評価する方法は、腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質遺伝子の発現が低下した個体、又は上記抗菌タンパク質の発現若しくは活性が低下した個体の腸内細菌叢における上記抗菌タンパク質の反応基質を産生する腸内細菌の存在頻度に基づき、血中の過剰IgAに起因する疾患のリスク、程度ないし状態を評価する。
第6の態様における個体の上記抗菌タンパク質遺伝子の発現の低下又は上記抗菌タンパク質の発現若しくは活性の低下の程度としては統計的に有意な低下であれば特に制限はないが、健常個体(例えば、野生型)における上記抗菌タンパク質遺伝子若しくは上記抗菌タンパク質の発現、活性、又は反応量(上記抗菌タンパク質遺伝子若しくは上記抗菌タンパク質が複数種存在する場合には、各々の発現、活性、又は反応量)に対して、1/2以下であることが好ましく、1/3以下であることがより好ましく、1/4以下であることが更に好ましい。
特に、健常個体(例えば、野生型)におけるDAO遺伝子若しくはDAOの発現、活性、又は反応量に対して、1/2以下であることが好ましく、1/3以下であることがより好ましく、1/4以下であることが更に好ましい。
第6の態様における個体の上記抗菌タンパク質遺伝子の発現の検出、上記抗菌タンパク質遺伝子のmRNAレベルでの発現量の測定、上記抗菌タンパク質の発現量の測定、上記抗菌タンパク質の活性促進の測定は、第1の態様における方法と同様である。
【0041】
上記腸内細菌の存在頻度の測定方法としては、腸内細菌叢における細菌ゲノムDNAの抽出後、16sリボソームDNAを標的としてPCR増幅し、次世代シーケンサ解析で各種細菌の量(例えば、腸内細菌叢に占める存在頻度)を解析する方法等が挙げられる。
感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌の存在頻度が5%以上である場合、血中の過剰IgAに起因する疾患のリスクが高いと評価することができ、上記疾患の程度ないし状態が進行していると評価することができ、存在頻度が10%以上である場合、上記リスクがより高いと評価することができ、上記疾患の程度ないし状態がより進行していると評価することができ、存在頻度が15%以上である場合、上記リスクが更に高いと評価することができ、上記疾患の程度ないし状態が更に進行していると評価することができる。
一方、感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌の存在頻度が5%未満である場合、血中の過剰IgAに起因する疾患のリスクが低いと評価することができ、上記疾患の程度ないし状態は進行していないと評価することができ、存在頻度が3%以下である場合、上記リスクがより低いと評価することができ、上記疾患の程度ないし状態が特に進行していないと評価することができ、存在頻度が1%以下である場合、上記リスクが最も低いと評価することができ、上記疾患の程度ないし状態が最も進行していないと評価することができる。
【0042】
<血中の過剰IgAに起因する疾患を予防又は治療するために除去すべき腸内細菌及び投与すべき腸内細菌よりなる群から選択される少なくとも1種を提示する方法>
第7の態様に係る血中の過剰IgAに起因する疾患を予防又は治療するために除去すべき腸内細菌及び投与すべき腸内細菌よりなる群から選択される少なくとも1種を提示する方法は、腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質遺伝子の発現が低下した個体、又は前記抗菌タンパク質の発現若しくは活性が低下した個体の腸内細菌叢における上記抗菌タンパク質の反応基質を産生する腸内細菌の存在頻度に基づき、血中の過剰IgAに起因する疾患を予防又は治療するために除去すべき腸内細菌及び投与すべき腸内細菌よりなる群から選択される少なくとも1種を提示する。
第7の態様における個体の上記抗菌タンパク質遺伝子の発現の低下又は上記抗菌タンパク質の発現若しくは活性の低下の程度としては第6の態様における方法と同様である。
第7の態様における個体の上記抗菌タンパク質遺伝子の発現の検出、上記抗菌タンパク質遺伝子のmRNAレベルでの発現量の測定、上記抗菌タンパク質の発現量の測定、上記抗菌タンパク質の活性促進の測定は、第1の態様における方法と同様である。
【実施例
【0043】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
<野生型マウス及びDAO活性欠損マウスにおける血漿中IgA濃度の比較>
以下、DAO活性欠損マウスとして、自然発生のDAO活性欠損(DAOG181R/G181Rマウス)をマウス(C57BL/6マウス)と交配を重ねて遺伝的に純化して用いた。
野生型マウス(C57BL/6マウス)及びDAO活性欠損マウス、各々の尾から血液50μlを採取し、ELISA(Mouse IgA Ready Set Go!:アフィメトリクス社製)法を用いて血漿中IgA濃度を測定した。
抗生剤投与は、アンピシリン1g/L、ネオマイシン1g/L及びバンコマイシン0.5g/Lの3剤を飲水に混ぜて3週間自由摂取させた。対照群は水を自由摂取させた。
抗生剤投与前後の腸内細菌量の定量は、糞中の細菌ゲノムDNAを抽出し、16sリボソームDNAを標的とした定量的PCR法を用いておこなった。
【0045】
図1(a)は、抗生剤投与有無の条件下で、野生型マウス及びDAO活性欠損マウスにおける血漿中IgA濃度を示す図である。(b)は、抗生剤投与前後の糞中の細菌量を定量的PCR法で比較した結果を示す図である。図1中、*は有意水準p<0.05、**は有意水準p<0.01、***は有意水準p<0.001を示す。
図1から明らかなように、野生型マウスの血漿とDAO活性欠損マウスの血漿とを比較すると、DAO活性欠損マウスにおいてIgAが有意に高いことが分かる。
さらに、抗生剤投与により腸内細菌叢が著明に減少した条件下では、野生型マウスとDAO活性欠損マウスの間でIgA量の変化が消失することから、DAOは腸内細菌叢によるIgA誘導に関与していることが分かる。
【0046】
上記抗生剤投与後に下記表1に示した組成を有する免疫感作性が比較的高い腸内細菌叢(以下、単に「高感作性腸内細菌叢」という。)を野生型マウス及びDAO活性欠損マウスに移植した。高感作性腸内細菌叢は慶應義塾大学保有の野生型マウスから取得した。
【表1】
上記表中、pは門レベル、cは綱レベル、oは目レベル、fは科レベル、gは属レベルにおける細菌分類名を示す。
【0047】
結果を図2に示す。
図2は、抗生剤投与後に高感作性腸内細菌叢を移植し、移植後0週後、2週後及び3週後に野生型マウス及びDAO活性欠損マウスにおける血漿中IgA濃度を示す図である。図2中、**は有意水準p<0.01、***は有意水準p<0.001を示す。
図2から明らかなように、高感作性腸内細菌叢がDAO活性欠損マウスにおいて血漿IgAを誘導するのに3週間を要することがわかる。
すなわち、自然免疫系の抗菌タンパク質(例えば、DAO)遺伝子の発現の抑制、又は上記抗菌タンパク質の発現若しくは活性の抑制、又は感作性細菌群に属する少なくとも1種の細菌の増加により、血中のIgAの産生を促進することができることがわかる。
また、上記結果から、DAOの遺伝子欠損により、粘膜面で細菌由来のD-アミノ酸とDAOの反応が減弱すると、粘膜及び血中のIgAが増加するものと考えられる。
【0048】
<腸内細菌叢の種類の相違によるDAO活性依存的な血漿中IgA誘導性の相違>
野生型マウスとDAO活性欠損マウスを、下記表2に示した組成を有する免疫感作性が比較的低い腸内細菌叢(以下、単に「低感作性腸内細菌叢」という。)及び上記高感作性細菌叢の2種類の腸内細菌環境で8週間飼育した。低感作性腸内細菌叢は日本クレア社製マウスから取得した。
また、小腸内容物から細菌ゲノムDNAを抽出し、16sリボソームDNAを標的にPCR増幅し、次世代シーケンサで配列分析して小腸内容物に存在する細菌叢の組成を解析した。
【表2】
上記表中、pは門レベル、cは綱レベル、oは目レベル、fは科レベル、gは属レベルにおける細菌分類名を示す。
【0049】
結果を図3に示す。
図3(a)は、これらマウスの血漿中IgA濃度の結果を示す図である。図中、***は有意水準p<0.001を示す。図3(b)は、上記解析結果を示す図であり、低感作性腸内細菌叢を有する野生型マウスの小腸内細菌叢の組成と高感作性腸内細菌叢を有する野生型マウスの小腸内細菌叢の組成を門及び綱レベルで示す図である。図3(b)中、pは門レベル、cは綱レベルでの細菌分類名を示す。
図3に示した結果から、特定の腸内細菌叢(高感作性腸内細菌叢)によって、DAO活性依存的にIgAが誘導されることが分かる。
さらに、低感作性腸内細菌叢と比べて、高感作性腸内細菌叢において有意(有意水準p<0.05)に多い細菌属を下記表3に列記した。
【表3】
このように上記表3に記載の細菌属を含む腸内細菌叢(特に、感作性細菌群として定義したAllobaculum属、Turicibacter属、Bacteroidales目S24-7科、Desulfovibrio属、Clostridiales目、Streptococcus属、Halomonadaceae科、Streptophyta目、及びCoriobacteriaceae科に属する細菌よりなる群から選択される少なくとも1種の細菌)に由来するD-アミノ酸とDAOとの反応が減弱すると、粘膜及び血中のIgAが増加するものと考えられる。
【0050】
一方、腸内細菌叢におけるLactobacillus属に属する細菌の割合を増加させることにより、粘膜及び血中のIgAの産生を抑制し得ると考えられる。
すなわち、Lactobacillus属に属する細菌は血中IgA産生抑制剤、又は血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤の成分として機能し得ると考えられる。
【0051】
<骨髄移植による血球中DAO発現のIgA産生への関与>
野生型マウスに野生型マウス由来の骨髄またはDAO活性欠損マウス由来の骨髄を移植した。
野生型マウス由来の骨髄を移植した野生型マウス及びDAO活性欠損マウス由来の骨髄を移植した野生型マウス、各々の尻尾から血液50μlを採取し、ELISA(Mouse IgA Ready Set Go!:アフィメトリクス社製)法を用いて血漿中IgA濃度を測定した。
結果を図4に示す。
図4に示した結果から明らかなように、野生型マウス由来の骨髄を移植した野生型マウスと、DAO活性欠損マウス由来の骨髄を移植した野生型マウスとの間で、血漿中IgA濃度に有意な差は認められなかった。
DAOの発現は、小脳、腎臓、小腸、白血球にあることが知られているが、体内のIgA産生の主要な組織は細菌との接触環境下にある腸管の粘膜上皮であることが知られている。実際、DAO活性欠損マウスでは小腸におけるIgA産生細胞が増加し、腸管管腔に放出されるIgAの増加が確認されている(例えば、非特許文献1)。
一方で、腎臓は感染性腎盂腎炎などの要因を除いて無菌的環境であるため、腎臓のDAOはIgAの産生と直接的な因果関係に乏しいと考えられる。
したがって、腸管(特にDAOの発現を認める小腸)におけるDAOの活性欠損がIgA産生増加の主因と考えられる。
以上から、骨髄組織の発現するDAOとIgAの誘導とは無関係であり、IgA産生への小腸DAOによる関与が強く示唆される。
【0052】
<自然発症IgA腎症モデルマウスにおけるDAO活性>
野生型マウスと自然発症IgA腎症モデルマウス(日本エスエルシー社製)とでDAO活性を比較した。DAO活性は以下の比色法によって測定した。
腎組織を7mMクエン酸(pH8.3)中で破砕し、5,500×gで10分間遠心分離後、50μLの上清を150μLの100mM D-アラニン水溶液、100μLの0.1mMフラビンアデニンジヌクレオチド水溶液、150μLの700U/mLのカタラーゼ含有133mMピロリン酸ナトリウム水溶液及び50μLのメタノールと混合し、37℃で1時間震とう混和した。500μLの10%トリクロロ酢酸を加えて反応を停止させ、12,000×gで5分間遠心分離した。250μLの上清を250μLの5M水酸化ナトリウム及び250μLの0.5%4-アミノ-3-ヒドラジノ-5-メルカプト-1,2,4-トリアゾールを含む0.5M塩酸を混合し15分、常温で静置したのち、0.75%過ヨウ素酸カリウム含有0.2M水酸化ナトリウム水溶液を加えて直ちに転倒混和し、550nmの吸光度を測定した。
本方法はWatanabeらの方法を使用している(Watanabe T,Motomura Y,Suga T(1978) A new colorimetric determination of D-amino acid oxidase and urate oxidase activity. Anal Biochem 86:310e315.)。
図5は野生型マウスと自然発症IgA腎症モデルマウスとのDAO活性の比較を示す図である。図5中、***は有意水準p<0.001を示す。
図5に示した結果から明らかなように、IgA腎症モデルマウスではDAO活性が有意に90%以上低下していることがわかる。
【0053】
図6は、野生型マウスと自然発症IgA腎症モデルマウスを交配して生まれた仔マウス群と、DAO活性欠損マウスと自然発症IgA腎症モデルマウスを交配して生まれた仔マウス群における血漿中IgA濃度を示した図である。
図6に示した結果から、自然発症IgA腎症モデルマウスの遺伝的要因を野生型マウスとの交配でヘテロに希釈すると血漿中IgA濃度が顕著に低下するのに対して、DAO活性を有さない自然発症IgA腎症モデルマウスとDAO活性欠損マウスとの交配では血漿中IgA濃度の低下が抑制されることがわかる。このことから、自然発症IgA腎症モデルマウスの血漿中IgA上昇にDAO活性が寄与していることが強く示唆される。
したがって、腸内の自然免疫系の抗菌タンパク質(例えば、DAO)遺伝子の発現の促進、又は上記抗菌タンパク質の発現若しくは活性の促進を指標として、血中の過剰IgAに起因する疾患の予防又は治療剤をスクリーニングすることができることが示唆される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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