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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】捩り振動低減装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/30 20060101AFI20220509BHJP
   F16F 15/134 20060101ALI20220509BHJP
   F16H 1/28 20060101ALI20220509BHJP
   F16H 45/02 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
F16F15/30 V
F16F15/134 A
F16F15/134 D
F16H1/28
F16H45/02 Y
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019035234
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2020139563
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】594079143
【氏名又は名称】株式会社アイシン福井
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】石橋 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】西田 秀之
(72)【発明者】
【氏名】八壽八 勇
(72)【発明者】
【氏名】大井 陽一
(72)【発明者】
【氏名】吉川 卓也
(72)【発明者】
【氏名】大塚 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】田中 克典
(72)【発明者】
【氏名】平本 知之
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-168884(JP,A)
【文献】特開2016-188655(JP,A)
【文献】特開昭55-020964(JP,A)
【文献】特開2014-043874(JP,A)
【文献】特開昭59-001840(JP,A)
【文献】特開昭62-141358(JP,A)
【文献】特開2018-040475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/30
F16F 15/134
F16H 1/28
F16H 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンギヤと、前記サンギヤと同心円上に配置されたリングギヤと、前記サンギヤと前記リングギヤとに噛み合っている複数のピニオンギヤを回転可能に保持しているキャリヤとを回転要素として備えており、前記各回転要素によって差動作用を生じる遊星歯車機構を備え、
前記サンギヤと前記リングギヤと前記キャリヤとのうちのいずれか一つがエンジンからトルクが入力される入力要素とされ、前記サンギヤと前記リングギヤと前記キャリヤとのうちのいずれか他の一つがトルクを出力する出力要素とされ、前記サンギヤと前記リングギヤと前記キャリヤとのうちのいずれか更に他の一つが前記入力要素と前記出力要素とに対して慣性力によって相対回転する慣性要素とされ、
前記入力要素と前記出力要素との間に前記入力要素と前記出力要素とを相対的に捩れ回転させる捩りトルクに応じて弾性変形する弾性体が設けられ、
前記入力要素と前記出力要素とが前記弾性体を弾性変形させて相対的に捩り回転することにより前記ピニオンギヤが前記サンギヤおよび前記リングギヤに噛み合った状態で回転し、前記入力要素と前記出力要素とが所定角度、捩り回転した状態で前記入力要素に入力されるトルクの振動に伴って前記ピニオンギヤが所定の角度の範囲内で往復回転するように構成された捩り振動低減装置において、
前記捩りトルクが予め定めた基準トルクより小さい場合に前記ピニオンギヤが前記入力要素に入力される前記トルクの振動によって往復回転する所定の角度範囲である第1領域と、
前記捩りトルクが前記基準トルク以上の場合に前記ピニオンギヤが前記入力要素に入力される前記トルクの振動によって往復回転する所定の角度範囲である第2領域とを有し、
前記第2領域に位置する前記ピニオンギヤと前記ピニオンギヤに噛み合う前記サンギヤとの間のバックラッシと、前記第2領域に位置する前記ピニオンギヤと前記ピニオンギヤに噛み合う前記リングギヤとの間のバックラッシとのうちの少なくともいずれか一方のバックラッシが、前記第1領域に位置する前記ピニオンギヤと前記ピニオンギヤに噛み合う前記サンギヤとの間のバックラッシと、前記第1領域に位置する前記ピニオンギヤと前記ピニオンギヤに噛み合う前記リングギヤとの間のバックラッシよりも大きい
ことを特徴とする捩り振動低減装置。
【請求項2】
請求項1に記載の捩り振動低減装置において、
前記第2領域は、前記キャリヤの回転方向で前記第1領域よりも前方側に位置していることを特徴とする捩り振動低減装置。
【請求項3】
請求項1に記載の捩り振動低減装置において、
前記第2領域に位置する前記ピニオンギヤと前記ピニオンギヤに噛み合う前記サンギヤとの間のバックラッシが、前記第1領域における前記ピニオンギヤと前記サンギヤとの間のバックラッシと前記第1領域における前記ピニオンギヤと前記リングギヤとの間のバックラッシとよりも大きいことを特徴とする捩り振動低減装置。
【請求項4】
請求項1に記載の捩り振動低減装置において、
前記第2領域に位置する前記ピニオンギヤと前記ピニオンギヤに噛み合う前記リングギヤとの間のバックラッシが、前記第1領域における前記ピニオンギヤと前記サンギヤとの間のバックラッシと、前記第1領域における前記ピニオンギヤと前記リングギヤとの間のバックラッシとよりも大きいことを特徴とする捩り振動低減装置。
【請求項5】
請求項1に記載の捩り振動低減装置において、
前記第2領域に位置する前記ピニオンギヤと前記ピニオンギヤに噛み合う前記サンギヤとの間のバックラッシと、前記第2領域に位置する前記ピニオンギヤと前記ピニオンギヤに噛み合う前記リングギヤとの間のバックラッシとが、前記第1領域における前記ピニオンギヤと前記サンギヤとの間のバックラッシと、前記第1領域における前記ピニオンギヤと前記リングギヤとの間のバックラッシとよりも大きいことを特徴とする捩り振動低減装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の捩り振動低減装置において、
前記基準トルクは、前記弾性体を介して前記入力要素から前記出力要素に伝達されたスプリングトルクの振動の大きさと、前記慣性要素の慣性トルクの振動の大きさとが等しくなるときの前記捩りトルクである第1基準トルク以上であり、かつ、
前記スプリングトルクの振動の大きさと、前記スプリングトルクと前記慣性トルクとが合成されて前記出力要素から出力される出力トルクの振動の大きさとが等しくなるときの前記捩りトルクである第2基準トルク以下の範囲内である
ことを特徴とする捩り振動低減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、入力されたトルクの変動(振動)に起因する捩り振動を低減するように構成された捩り振動低減装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
捩り振動を低減する装置として遊星歯車機構を使用した例が特許文献1に記載されている。その遊星歯車機構はロックアップクラッチを有するトルクコンバータの内部であって、かつ、半径方向でばねダンパの外側に当該ばねダンパと同心円上に並んで配置されている。遊星歯車機構のキャリヤにロックアップクラッチとばねダンパの入力側部材とが連結されていて、ロックアップクラッチを介してキャリヤにエンジントルクが入力されるようになっている。また、サンギヤにばねダンパの出力側部材が連結されている。つまり、キャリヤとサンギヤとがばねダンパを介して連結されている。軸線方向でリングギヤの両側には、リングギヤの外径および内径とほぼ同じ外径および内径の環状の側板がそれぞれ設けられている。それらの側板はリベットによってリングギヤに一体化されており、リングギヤと共に慣性質量体として機能する。そして、入力されるエンジントルクの振動に応じてばねダンパのばねが伸縮すると、キャリヤとサンギヤとが所定角度、相対回転する。それに伴ってリングギヤが強制的に回転させられ、リングギヤの慣性トルクがエンジントルクの振動に対する抵抗として作用し、捩り振動低減装置から出力されるトルクの振動が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-71624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された捩り振動低減装置では、上述したように、リングギヤの慣性トルクを制振トルクとして作用させてエンジントルクの振動を低減している。その慣性トルクは慣性モーメントと角加速度とによって決まる。エンジン回転数がある程度高くなると、エンジントルクの振動による起振力(トルク)が小さくなり、また、リングギヤの慣性トルクが大きくなる。そのため、エンジン回転数が高い場合には、エンジントルクの振動による起振力よりもリングギヤの慣性トルクが大きくなってしまう。すなわち、リングギヤが振動することによるトルクが起振力となってしまい、結果的には、振動減衰性能が悪化する可能性がある。
【0005】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、エンジン回転数が高い場合における制振性能の悪化を抑制することのできる捩り振動低減装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記の目的を達成するために、サンギヤと、前記サンギヤと同心円上に配置されたリングギヤと、前記サンギヤと前記リングギヤとに噛み合っている複数のピニオンギヤを回転可能に保持しているキャリヤとを回転要素として備えており、前記各回転要素によって差動作用を生じる遊星歯車機構を備え、前記サンギヤと前記リングギヤと前記キャリヤとのうちのいずれか一つがエンジンからトルクが入力される入力要素とされ、前記サンギヤと前記リングギヤと前記キャリヤとのうちのいずれか他の一つがトルクを出力する出力要素とされ、前記サンギヤと前記リングギヤと前記キャリヤとのうちのいずれか更に他の一つが前記入力要素と前記出力要素とに対して慣性力によって相対回転する慣性要素とされ、前記入力要素と前記出力要素との間に前記入力要素と前記出力要素とを相対的に捩れ回転させる捩りトルクに応じて弾性変形する弾性体が設けられ、前記入力要素と前記出力要素とが前記弾性体を弾性変形させて相対的に捩り回転することにより前記ピニオンギヤが前記サンギヤおよび前記リングギヤに噛み合った状態で回転し、前記入力要素と前記出力要素とが所定角度、捩り回転した状態で前記入力要素に入力されるトルクの振動に伴って前記ピニオンギヤが所定の角度の範囲内で往復回転するように構成された捩り振動低減装置において、前記捩りトルクが予め定めた基準トルクより小さい場合に前記ピニオンギヤが前記入力要素に入力される前記トルクの振動によって往復回転する所定の角度範囲である第1領域と、前記捩りトルクが前記基準トルク以上の場合に前記ピニオンギヤが前記入力要素に入力される前記トルクの振動によって往復回転する所定の角度範囲である第2領域とを有し、前記第2領域に位置する前記ピニオンギヤと前記ピニオンギヤに噛み合う前記サンギヤとの間のバックラッシと、前記第2領域に位置する前記ピニオンギヤと前記ピニオンギヤに噛み合う前記リングギヤとの間のバックラッシとのうちの少なくともいずれか一方のバックラッシが、前記第1領域に位置する前記ピニオンギヤと前記ピニオンギヤに噛み合う前記サンギヤとの間のバックラッシと、前記第1領域に位置する前記ピニオンギヤと前記ピニオンギヤに噛み合う前記リングギヤとの間のバックラッシよりも大きいことを特徴とするものである。
【0007】
この発明では、前記第2領域は、前記キャリヤの回転方向で前記第1領域よりも前方側に位置してよい。
【0008】
この発明では、前記第2領域に位置する前記ピニオンギヤと前記ピニオンギヤに噛み合う前記サンギヤとの間のバックラッシが、前記第1領域における前記ピニオンギヤと前記サンギヤとの間のバックラッシと前記第1領域における前記ピニオンギヤと前記リングギヤとの間のバックラッシとよりも大きくてよい。
【0009】
この発明では、前記第2領域に位置する前記ピニオンギヤと前記ピニオンギヤに噛み合う前記リングギヤとの間のバックラッシが、前記第1領域における前記ピニオンギヤと前記サンギヤとの間のバックラッシと、前記第1領域における前記ピニオンギヤと前記リングギヤとの間のバックラッシとよりも大きくてよい。
【0010】
この発明では、前記第2領域に位置する前記ピニオンギヤと前記ピニオンギヤに噛み合う前記サンギヤとの間のバックラッシと、前記第2領域に位置する前記ピニオンギヤと前記ピニオンギヤに噛み合う前記リングギヤとの間のバックラッシとが、前記第1領域における前記ピニオンギヤと前記サンギヤとの間のバックラッシと、前記第1領域における前記ピニオンギヤと前記リングギヤとの間のバックラッシとよりも大きくてよい。
【0011】
この発明では、前記基準トルクは、前記弾性体を介して前記入力要素から前記出力要素に伝達されたスプリングトルクの振動の大きさと、前記慣性要素の慣性トルクの振動の大きさとが等しくなるときの前記捩りトルクである第1基準トルク以上であり、かつ、前記スプリングトルクの振動の大きさと、前記スプリングトルクと前記慣性トルクとが合成されて前記出力要素から出力される出力トルクの振動の大きさとが等しくなるときの前記捩りトルクである第2基準トルク以下の範囲内であってよい。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、捩り振動低減装置の入力要素にエンジンで発生させたトルク(以下、エンジントルクと記す。)が入力される。入力要素と出力要素とは弾性体を介して連結されている。その弾性体は、エンジントルクと出力要素を回転させるためのトルクとによる捩りトルクによって弾性変形させられ、これにより入力要素と出力要素とが相対的に捩れ回転させられる。また、慣性力によって入力要素や出力要素に対して慣性要素が回転させられると共に、その回転に振動が生じる。そして、慣性要素が生じる慣性トルクがエンジントルクの振動に対して制振トルクとして作用し、エンジントルクの振動が低減される。このとき、ピニオンギヤは捩りトルクの大きさに応じた角度、当該ピニオンギヤの組み付け位置すなわち、入力要素と出力要素との間に相対的な捩れが生じていない位置からキャリヤの円周方向に回転すると共に、エンジントルクの振動に応じて円周方向に往復回転する。
【0013】
具体的には、捩りトルクが予め定めた基準トルクよりも小さい場合には、ピニオンギヤは第1領域に位置し、第1領域内でエンジントルクの振動に応じて円周方向に往復回転する。捩りトルクが基準トルク以上の場合には、ピニオンギヤは第2領域に位置し、第2領域内でエンジントルクの振動に応じて円周方向に往復回転する。この発明では第2領域に位置するピニオンギヤと当該ピニオンギヤに噛み合うサンギヤとの間のバックラッシと、第2領域に位置するピニオンギヤと当該ピニオンギヤに噛み合うリングギヤとの間のバックラッシとのうちの少なくともいずれか一方のバックラッシが、第1領域に位置するピニオンギヤと当該ピニオンギヤに噛み合うサンギヤとの間のバックラッシと、第1領域に位置するピニオンギヤと当該ピニオンギヤに噛み合うリングギヤとの間のバックラッシよりも大きく設定されている。そのため、ピニオンギヤが第2領域に位置する場合には、バックラッシの分、各ギヤの噛み合いが生じず、第2領域でのピニオンギヤとサンギヤとの噛み合い、あるいは、ピニオンギヤとリングギヤとの噛み合いが悪化してそれらの間でのトルクの伝達効率、および、遊星歯車機構の全体としてトルクの伝達効率が低下する。特に、高回転数の場合には、エンジントルクの振動による起振力が小さく、また、振幅が小さいので、入力要素から出力要素への振動の伝達が生じにくくなる。また、慣性要素の振動による起振力も、バックラッシが大きいことにより出力要素に伝達されにくくなる。したがって、エンジン回転数の増大に伴ってエンジントルクが増大しまたエンジントルクの振幅が小さくなる場合に、遊星歯車機構ではトルクの伝達効率が低下するので、制振性能の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明の実施形態に係る捩り振動低減装置の一例を模式的に示すスケルトン図である。
図2】この発明の実施形態に係る捩り振動低減装置の一例を模式的に示す正面図である。
図3】エンジントルクが大きい場合におけるサンギヤの円周上でピニオンギヤが位置する範囲と、エンジントルクが小さい場合におけるサンギヤの円周上でピニオンギヤが位置する範囲とをそれぞれ示す図である。
図4】各領域におけるサンギヤの歯厚をそれぞれ示す図であり、図4の(A)は第1領域でのサンギヤの歯厚を示す図であり、図4の(B)は第2領域でのサンギヤの歯厚を示す図である。
図5】慣性トルクの振動、および、捩り振動低減装置から出力されるトルクの振動、ならびに、ばねダンパから出力されるトルクの振動の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、この発明の実施形態を説明する。図1はこの発明の実施形態に係る捩り振動低減装置の一例を模式的に示すスケルトン図であり、図2はこの発明の実施形態に係る捩り振動低減装置の一例を模式的に示す正面図である。ここに示す捩り振動低減装置1は、駆動力源2と駆動対象部3との間のトルクの伝達経路に設けられており、駆動力源2で発生させたトルクの振動を低減して駆動対象部3に伝達するように構成されている。駆動力源2は一例としてガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関(以下、単にエンジンと記す。)であり、したがって、その出力トルク(以下、単にエンジントルクと記す。)は不可避的に振動する。また、上記のエンジン2はエンジン回転数の増大に伴ってエンジントルクが増大し、エンジントルクが最大となるエンジン回転数よりもエンジン回転数が高くなると、エンジントルクが低下し、また、エンジン回転数の増大に伴ってエンジントルクの振動が小さくなる特性を有するエンジン2である。駆動対象部3は例えば変速機であって、その変速機は変速比がステップ的に変化する有段式の変速機、もしくは、変速比が連続的に変化する無段変速機などの従来知られた変速機であってよい。
【0016】
上記の捩り振動低減装置1は遊星歯車機構4を備えている。遊星歯車機構4はエンジン2の出力軸と同一の軸線上に配置されており、前記出力軸にトルク伝達可能に連結されている。ここに示す遊星歯車機構4はシングルピニオン型の遊星歯車機構によって構成されており、サンギヤ5と、サンギヤ5に対して同心円上に配置されたリングギヤ6と、サンギヤ5とリングギヤ6とに噛み合う複数のピニオンギヤ7を回転可能に保持するキャリヤ8とを回転要素として備え、それらの回転要素によって差動作用を行うように構成されている。上述したエンジン2の出力軸にキャリヤ8が連結されており、駆動対象部3にサンギヤ5が連結されている。リングギヤ6には慣性質量体9が一体に設けられている。慣性質量体9はリングギヤ6とは別体として構成し、リングギヤ6と一体となって回転するようにリングギヤ6に取り付けてもよい。それらリングギヤ6と慣性質量体9とが一体となって回転することによって生じる慣性トルクが後述するように、エンジントルクの振動に対して制振トルクとして作用する。なお、上述したキャリヤ8が、この発明の実施形態における入力要素に相当し、サンギヤ5が、この発明の実施形態における出力要素に相当し、リングギヤ6が、この発明の実施形態における慣性要素に相当している。
【0017】
サンギヤ5とキャリヤ8とは、図1および図2に示すように、この発明の実施形態における弾性体に相当するばねダンパ10を介して連結されている。ばねダンパ10はエンジントルクの伝達方向で上流側に配置された駆動側部材11と、エンジントルクの伝達方向で駆動側部材11の下流側に配置された従動側部材12と、駆動側部材11と従動側部材12とを相対回転可能に連結するコイルスプリング13とを備えている。駆動側部材11にキャリヤ8が一体化されており、従動側部材12の外周部にサンギヤ5が形成されている。つまり、ばねダンパ10は図2に示すように、捩り振動低減装置1の半径方向で遊星歯車機構4の内周側に、遊星歯車機構4と同心円上に並んで配置されている。ここで、「並んで」とは、遊星歯車機構4とばねダンパ10とのそれぞれの少なくとも一部が、半径方向で重なり合っている状態を意味している。
【0018】
また、駆動側部材11と従動側部材12とのそれぞれにコイルスプリング13が配置される窓孔部14が形成されており、各窓孔部14を重ね合わせた状態で各窓孔部14の内部にコイルスプリング13が配置される。そして、駆動側部材11と従動側部材12とが相対回転することによりコイルスプリング13が捩り振動低減装置1の円周方向に伸縮するようになっている。
【0019】
ここで、捩り振動低減装置1に入力されるエンジントルクの大きさによる、サンギヤ5に対するキャリヤ8の回転角度、つまり、円周方向におけるピニオンギヤ7の位置について説明する。上述したように、エンジン2にキャリヤ8が連結されており、サンギヤ5に駆動対象部3が連結されているので、エンジントルクと駆動対象部3を回転させるためのトルクとによってばねダンパ10のコイルスプリング13を圧縮する荷重が生じ、その荷重に応じた弾性変形がコイルスプリング13に生じる。上記のコイルスプリング13を弾性変形させてサンギヤ5とキャリヤ8とを相対回転させる、エンジントルクと駆動対象部3を回転させるためのトルクとによるトルクが、この発明の実施形態における捩りトルクに相当する。そのため、エンジントルクが大きい場合には、捩りトルクが大きくなるので、キャリヤ8とサンギヤ5とが大きく捩れてサンギヤ5に対するキャリヤ8の回転角度が大きくなる。これとは反対にエンジントルクが小さい場合には、捩りトルクが小さくなるので、上記の回転角度が小さくなる。このように、捩り振動低減装置1では、捩りトルクに応じてサンギヤ5とキャリヤ8とが互いに捩れて回転し、サンギヤ5の円周上でのピニオンギヤ7の位置、および、円周方向に往復回転する領域が捩りトルクの大きさに応じて変化する。
【0020】
図3は、捩りトルクが大きい場合におけるサンギヤ5の円周上でピニオンギヤ7が位置する領域と、捩りトルクが小さい場合におけるサンギヤ5の円周上でピニオンギヤ7が位置する領域とをそれぞれ示す図である。上述したように、エンジン2は当該エンジン2で出力可能な最大エンジントルクに対応するエンジン回転数に達するまでは、エンジン回転数の増大に伴ってエンジントルクが大きくなる特性を有している。つまり、エンジン回転数が高いことによりエンジントルクが大きい場合には、捩りトルクが大きい。図3に示すように、捩りトルクが大きい場合におけるピニオンギヤ7の組み付け位置P0からのピニオンギヤ7の回転角度θ2は、捩りトルクが小さい場合におけるピニオンギヤ7の組み付け位置P0からのピニオンギヤ7の回転角度θ1よりも大きい。なお、上記の組み付け位置P0は、入力要素であるキャリヤ8と出力要素であるサンギヤ5との間に相対的な捩れが生じていない場合、つまり、キャリヤ8とサンギヤ5とが一体となって回転している場合におけるピニオンギヤ7の位置である。そのため、前記捩りトルクが大きい場合にピニオンギヤ7が位置すると共に往復回転する第2領域Bは、捩りトルクが小さい場合にピニオンギヤ7が位置すると共に往復回転する第1領域Aよりも、キャリヤ8の回転方向で前方側に位置する。また、エンジントルクが大きい場合には、上述したようにエンジントルクの振幅が小さいため、第2領域Bでのピニオンギヤ7の振幅は小さくなる。これに対してエンジントルクが小さい場合には、エンジントルクの振幅が大きいため、第1領域Aでのピニオンギヤ7の振幅は大きくなる。したがって、第2領域Bでピニオンギヤ7が往復回転する角度範囲は、第1領域Aでピニオンギヤ7が往復回転する角度範囲よりも小さくなる。
【0021】
この発明の実施形態では、エンジン回転数が高くなることに伴って、リングギヤ6と慣性質量体9とが生じる慣性トルクがエンジントルクの振動よりも増大して捩り振動低減装置1の制振性能が悪化することを抑制するために、第2領域Bにピニオンギヤ7が位置する場合における遊星歯車機構4のトルクの伝達効率を低減するように構成されている。具体的には、第2領域Bに位置するピニオンギヤ7とサンギヤ5との間のバックラッシと、当該ピニオンギヤ7とリングギヤ6との間のバックラッシとのうちの少なくとも一方のバックラッシが、第1領域Aに位置するピニオンギヤ7とサンギヤ5との間のバックラッシと、当該ピニオンギヤ7とリングギヤ6との間のバックラッシとよりも大きく設定されている。バックラッシの変更は、例えば、歯厚や歯溝の幅を変更することによって行うことができる。
【0022】
図4は、各領域A,Bにおけるサンギヤ5の歯厚を示す図であり、図4の(A)は第1領域Aでのサンギヤ5の歯厚TAを示す図であり、図4の(B)は第2領域Bでのサンギヤ5の歯厚TBを示す図である。図4に示すように、第2領域Bでのサンギヤ5の歯厚TBは、第1領域Aでのサンギヤ5の歯厚TAよりも薄く設定されている。そのため、第2領域Bでは、ピニオンギヤ7とサンギヤ5との間のバックラッシが、第1領域Aでのピニオンギヤ7とサンギヤ5との間のバックラッシより大きい。その結果、第2領域Bにピニオンギヤ7が位置する場合における遊星歯車機構4の全体としてのトルクの伝達効率は、後述するように、第1領域Aにピニオンギヤ7が位置する場合における前記トルクの伝達効率に比較して低くなる。なお、歯厚TA,TBに替えて、歯溝の幅を大きく設定してバックラッシを広げてもよい。
【0023】
次に、上述した構成の捩り振動低減装置1の作用について説明する。エンジン2が駆動され、当該エンジン2で発生させたエンジントルクがキャリヤ8に入力される。これに対してサンギヤ5には、駆動対象部3を回転させるためのトルクが作用している。これらのエンジントルクと駆動対象部3を回転させるためのトルクとによる上記の捩りトルクによってコイルスプリング13が弾性変形させられる。そして、捩りトルクの大きさに応じた角度、サンギヤ5とキャリヤ8とが捩れて回転させられる。エンジン回転数が低いことによりエンジントルクが小さい場合には、捩りトルクが小さいため、サンギヤ5に対するキャリヤ8の回転角度は小さく、図3での第1領域Aにピニオンギヤ7が位置する。
【0024】
エンジントルクの振動によってコイルスプリング13に作用する圧縮力つまり捩りトルクが変化し、キャリヤ8とサンギヤ5との捩り回転が繰り返し生じる。ピニオンギヤ7はエンジントルクの振動に応じて第1領域A内で円周方向に往復回転する。また、キャリヤ8やサンギヤ5に対してリングギヤ6が相対回転させられると共に、リングギヤ6の回転に振動が生じる。上述した構成では、リングギヤ6の回転速度はサンギヤ5の回転速度に対してギヤ比に応じて増速されるため、リングギヤ6の角加速度が増大されてリングギヤ6と慣性質量体9とによる慣性トルクが大きくなる。また、キャリヤ8に入力されるエンジントルクの振動と、リングギヤ6の振動とには位相のずれがあるため、上記の慣性トルクが、エンジントルクの振動に対する制振トルクとして作用し、キャリヤ8に入力されたエンジントルクは、前記慣性トルクによって低減されて滑らかになり、駆動対象部3に伝達される。
【0025】
エンジン回転数が高くなると、リングギヤ6の角加速度が増大するので、リングギヤ6と慣性質量体9とが生じる慣性トルクも増大する。ばねダンパ10を介して従動側部材12に伝達されたエンジントルクの振動の大きさと前記慣性トルクの大きさとがほぼ等しくなると、駆動対象部3に現れる振動レベルは最小になる。この振動レベルが最小になるエンジン回転数(以下、第1設計回転数と記す。)は、設計上、予め定めることができる。上述したエンジン回転数が第1設計回転数のときの駆動対象部3を回転させるための捩りトルクを第1基準トルクとする。
【0026】
ここで、リングギヤ6と慣性質量体9とによる慣性トルクの振動、および、捩り振動低減装置1から出力されるトルクの振動、ならびに、ばねダンパ10から出力されるトルクの振動について説明する。図5は、それらのトルクの振動の一例を模式的に示す図である。ばねダンパ10では、入力されたエンジントルクの振動に応じてコイルスプリング13が伸縮することによって前記エンジントルクの振動を吸収もしくは低減して出力する。また、エンジン2はエンジン回転数の増大に伴ってエンジントルクの振動が小さくなる特性を有している。そのため、ばねダンパ10から出力されるトルク(以下、スプリングトルクと記す。)の振動は図5に一点鎖線で示すように、エンジン回転数の増大に伴って次第に小さくなる特性がある。そのスプリングトルクの振動はコイルスプリング13の伸縮によるものであるから、慣性トルクの振動に対して位相のずれがある。また、慣性トルクは上述したように、エンジン回転数の増大に伴うリングギヤ6の角加速度の増大に伴って増大する。そのため、慣性トルクの振動は、図5に二点鎖線で示すように、エンジン回転数の増大に伴って次第に大きくなる特性がある。
【0027】
上記のスプリングトルクの振動の大きさと慣性トルクの振動の大きさとが一致もしくはほぼ一致するエンジン回転数が上述した第1設計回転数となっている。したがって、第1設計回転数では、図5に実線で示すように、捩り振動低減装置1から出力されるトルク(以下、ダンパ出力トルクと記す。)の振動の大きさは最小になる。ダンパ出力トルクの振動はエンジン回転数に増大に伴う慣性トルクの振動の増大に伴って増大する。また、スプリングトルクの振動の大きさと、ダンパ出力トルクの振動の大きさとが一致するエンジン回転数(以下、第2設計回転数と記す。)のとき、上述した駆動対象部3を回転させるための捩りトルクを第2基準トルクとする。
【0028】
エンジンの回転数上昇に伴ってエンジントルクが増大していく動作状態において、サンギヤ5に対するキャリヤ8の回転角度が大きくなると、ピニオンギヤ7が第1領域Aから第2領域Bに移動する。そして、ピニオンギヤ7はエンジントルクの振幅に応じて第2領域B内で円周方向に往復回転つまり振動する。また、第2領域Bでは、上述したようにピニオンギヤ7とサンギヤ5との間のバックラッシが、第1領域Aでのピニオンギヤ7とサンギヤ5との間のバックラッシと、ピニオンギヤ7とリングギヤ6との間のバックラッシとよりも大きい。ピニオンギヤ7とサンギヤ5との間のバックラッシが大きくなっているので、ピニオンギヤ7とサンギヤ5との間の噛み合いが生じない、もしくは、噛み合いが生じにくくなっている。つまり、サンギヤ5に対してピニオンギヤ7がいわゆる空振りする。こうして、サンギヤ5とピニオンギヤ7との噛み合い状態が悪化するため、入力要素であるキャリヤ8が保持しているピニオンギヤ7からサンギヤ5へのトルクの伝達が生じにくくなる。また、リングギヤ6および慣性質量体9が振動して慣性トルクを生じるとしても、当該慣性トルクがサンギヤ5に伝達されにくくなる。このように第2領域Bでのトルクの伝達効率が低いので、高回転数域での捩り振動低減装置1の制振性能の悪化を抑制することができる。このことから、エンジン回転数が第1設計回転数を超える領域では、慣性トルクの振動が増大していくため、第1領域Aと第2領域Bとの境界は第1基準トルク以上に設定することが望ましい。また、エンジン回転数が第2設計回転数を超える領域においては、ダンパ出力トルクの振動がスプリングトルクの振動を超えるため、第1領域Aと第2領域Bとの境界は第2基準トルク以下に設定すると、ダンパ出力トルクの振動低減に効果的となる。これより基準トルクは上記の第1基準トルク以上であってかつ第2基準トルク以下の範囲内にあることが望ましい。また、基準トルクは第1領域A、第2領域Bの付近であっても同様に効果的である。
【0029】
過負荷トルクがダンパ装置に入力された際には、ばねダンパ10の駆動側部材11と従動側部材12との相対回転が図示しないストッパーによって規制される。そのため、ばねダンパ10の全体が一体となって回転し、それによって遊星歯車機構4の全体が一体となって回転する。その結果、捩り振動低減装置1に入力されたエンジントルクは捩り振動低減装置1から駆動対象部3にそのまま出力される。
【0030】
なお、この発明は上述した実施形態に限定されないのであって、第2領域Bにおけるピニオンギヤ7とサンギヤ5との間のバックラッシを大きく設定することに替えて、第2領域Bにおけるピニオンギヤ7とリングギヤ6との間のバックラッシを大きく設定してもよい。こうすることによっても上述した実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。また、第2領域Bにおけるピニオンギヤ7とサンギヤ5との間のバックラッシと、ピニオンギヤ7とリングギヤ6との間のバックラッシとを共に大きく設定してもよい。この場合には、サンギヤ5とリングギヤ6とのそれぞれに対してピニオンギヤ7がいわゆる空振りするため、遊星歯車機構4の全体がほぼ一体となって回転する状態になる。上述した各実施形態よりも第2領域Bでのトルクの伝達効率が更に低下し、また、慣性トルクが生じにくく、慣性トルクが生じたとしても出力要素であるサンギヤ5に伝達されにくいので、より効果的に、エンジン2の高回転数域での制振性能の悪化を抑制することができる。この発明は、要は、第2領域Bにおいて、互いに噛み合うギヤ同士の間のトルクの伝達効率が、第1領域Aにおける、互いに噛み合うギヤ同士の間のトルクの伝達効率よりも小さくなるように構成されていればよい。
【符号の説明】
【0031】
1…捩り振動低減装置、 4…遊星歯車機構、 5…サンギヤ、 6…リングギヤ、 7…ピニオンギヤ、 8…キャリヤ、 9…慣性質量体、 13…コイルスプリング(弾性体)、 A…第1領域、 B…第2領域。
図1
図2
図3
図4
図5