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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】加工データの生成方法
(51)【国際特許分類】
   B23P 23/04 20060101AFI20220509BHJP
   B23K 26/342 20140101ALI20220509BHJP
   B23Q 3/155 20060101ALI20220509BHJP
   B23Q 17/24 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
B23P23/04
B23K26/342
B23Q3/155 K
B23Q17/24 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019092646
(22)【出願日】2019-05-16
(62)【分割の表示】P 2016534633の分割
【原出願日】2014-11-28
(65)【公開番号】P2019193973
(43)【公開日】2019-11-07
【審査請求日】2019-05-16
(31)【優先権主張番号】102013224649.8
(32)【優先日】2013-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510296225
【氏名又は名称】ザウアー ゲーエムベーハー レーザーテック
【氏名又は名称原語表記】Sauer GmbH Lasertec
【住所又は居所原語表記】Deckel-Maho-Str.1,Pfronten Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヒルデブランド,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ライザッハー,マルティーン
【審査官】村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第7020539(US,B1)
【文献】特開2001-191336(JP,A)
【文献】特開平10-202757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 23/04
B23K 26/342
B23Q 3/155
B23Q 17/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッディング加工機において加工対象物をクラッディング加工で加工するための加工データ(34)を生成する方法であって、
(a)三次元での加工対象物の各部分又は各領域の温度に関する情報を所定の空間分解能で提供する温度関係データ(36)を決定する工程と、
(b)前記加工対象物は意図的に「大きめ」に加工されているが、加工データ(34)が冷却後の正確な寸法及び温度補償をもたらすように、前記温度関係データ(36)に基づいて前記加工データ(34)を生成する工程と、
を備える、方法。
【請求項2】
(c)加工すべき前記加工対象物が記述された加工対象物データ(33)、肉盛溶接の特性値データ(32)および他のパラメータに基づいて、時間軸に沿った加工の推移が反映された加工推移データ(35)が、前記加工推移データ(35)から決定される工程と、
(d)前記温度関係データ(36)が、前記加工対象物データ(33)、前記特性値データ(32)および前記加工推移データ(35)に基づいて、決定される工程と、
を備える、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(b)の工程は、
(b1)修正加工対象物データ(33’)が前記温度関係データ(36)に基づいて生成され、前記加工データ(34)が前記修正加工対象物データ(33’)および他のデータに基づいて生成される工程と、
(b2)修正加工データ(34’)が前記加工対象物データ(33)に基づいて生成され、前記特性値データが前記温度関係データ(36)に基づいて生成される工程と、
の少なくとも一方を含む、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記(d)の工程において、
複数セットの前記温度関係データ(36)は、どれが複数の異なる前記加工推移データ(35)を反映するかを決定され、
複数セットの前記温度関係データ(36)は記憶され、かつ/または、複数セットの前記温度関係データ(36)は前記(b1)の工程で複数セットの前記修正加工対象物データ(33’)の生成に用いられ;複数セットの前記修正加工対象物データ(33’)は記憶され、かつ/または、複数セットの前記温度関係データ(36)は前記(b2)の工程で複数セットの前記修正加工データ(34’)の生成に用いられ;複数セットの前記修正加工データ(34’)は記憶される、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
(e)前記(d)の工程で決定された前記前記温度関係データ(36)を検証する工程をさらに備え、
前記(e)の工程において限界値が検出された場合には、選択可能パラメータデータは修正(31’)されて前記(c)の工程に戻って修正加工推移データ(35’)を生成し、前記修正加工推移データ(35’)に基づいて前記(d)の工程において修正温度関係データ(36’)が決定される、
請求項2に記載の方法。
【請求項6】
コンピュータ制御の工作機械において加工対象物を加工するためにクラッディングヘッドを用いて行うクラッディングの実施方法であって、
請求項1から請求項5のいずれかに記載の方法に従ってクラッディング用の加工データ(34)を生成する工程と、
前記加工データに基づいて前記工作機械を制御する工程と、
加工中に温度および加工対象物表面上の位置を所定の空間分解能で測定する工程と、
測定値をチェックする工程と、
前記チェックの結果に基づいて、前記クラッディングヘッドと前記加工対象物との間の相対送り速度、溶着熱出力、素材供給レート、素材供給速度およびレーザ集光度といった加工パラメータのうちの1つ以上を修正する工程と、
を備える、クラッディングの実施方法。
【請求項7】
前記温度は、現在のクラッディング箇所で測定され、所定の温度または所定の温度範囲内に至る、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
時間の流れに沿った加工の推移および/または前記加工対象物のこれまでの加工で得た温度データを、対応する目標値および/または目標範囲と比較し、逸脱が検出された場合には前記加工対象物のこれから先の加工のための修正加工データを生成する、
請求項6または請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記工作機械において前記クラッディングヘッドと前記材料除去工具とを交換することにより、前記加工対象物の段取りを替えることなくレーザクラッディングと材料除去加工とが交互に実行される、
請求項6から請求項8のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工作機械、測定装置、加工対象物温度調節装置、加工データの生成方法およびクラッディングの実施方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
従来、材料付着加工方法の一つとして、主に対象物に所望のコーティングを施したり最終形状に近づけるための修復溶着を施す目的で、クラッディングが用いられる。しかし加工対象物を仕上げる手段として、レーザを用いたクラッディングには特に次に述べる点で問題がある。
【0003】
まず、クラッディング自体が比較的精度の低い材料付着加工方法である。クラッディングそのものの低精度だけで1mm以上の誤差が生じる。
【0004】
その上、クラッディングは「高温」プロセスである。溶着される素材は液相になり、通常1500℃を超える温度に達する。コーティングや部分修復の際に、素材は比較的広範囲の放熱体に溶着されるので、溶着された素材は急速に冷却される。一方で、加工対象物全体から見ると、溶着された素材の近傍には冷めた放熱体が存在しない、つまり以前に溶着が施された加工対象物部位が熱いままということがある。すなわち、溶着された素材は比較的急速に(鉄やスチールの場合)赤熱温度未満(500℃未満)まで冷却されるものの、その後も加工対象物の温度は比較的高く留まる。この温度は例えば100℃から200℃の間、あるいはそれ以上である。鉄の熱膨張率は10-5/℃なので、加工対象物の加工時の温度(例えば300℃)と使用時の温度(例えば室温)の差が例えば300℃あれば、3×10-3すなわち0.3%の寸法変化が生じる。これは加工対象物の全体寸法が例えば100mmとすれば、300μmの寸法変化に相当する。このオーダーの誤差は多くの分野で許容できない。
【0005】
米国特許7020539B1に、部品の製造または修復のためのシステムおよび方法が開示されている。このシステムはクラッディングステーションを備え、これを用いて二次元形状の素材層を積層することによって三次元形状の部品を製造する。同システムはさらに加工ステーションを備え、これを用いて、積層された二次元形状の素材層の1つ以上の少なくとも一部を除去する。クラッディングは例えばレーザクラッディングで行う。素材の溶着は例えば多軸ロボットによって行う。加工ステーションは多軸加工機および自動工具交換装置を備える。
【0006】
「MM Das Industriemagazin」誌17/2009号に所収の、ノボトニー他による記事「加工センターでのクラッディングを可能にするレーザユニット」、42頁以降に、CNC加工機の回転主軸にテーパー(円錐状)カップリングを介して装着されるレーザ加工光学系が開示されている。レーザ照射スポットに溶着素材が粉体ノズルを介して供給される。同じ加工機上で加工対象物に切削加工を施すこともできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、レーザクラッディングによる加工対象物の精密な加工を可能にする工作機械、クラッディング方法およびその構成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は独立請求項に記載の特徴によって達成される。従属請求項には本発明の好ましい実施形態が記載されている。
【0009】
工作機械は、機械コントローラと;機械フレームと;ワークテーブルと;好ましくは所定の規格(SK、HSKなど)に適合した、回転主軸の駆動端を成すツールホルダと;前記ワークテーブルと前記ツールホルダとの相対的な位置決めを行う複数の並進軸および/または回転軸と;1つ以上の材料除去工具、特に切削工具、を収納するツールマガジンと;工具を前記ツールホルダ前記ツールマガジンとの間で搬送する自動動作アームを備えていてもよい、前記ツールホルダと前記ツールマガジンとの間で前記工具を自動搬送する工具交換機構と;前記ツールホルダに装着可能なクラッディングヘッドと;前記クラッディングヘッドを前記ツールホルダとは別の場所に収納する収納装置と、を備える。前記収納装置は前記ツールマガジンとは別の場所に設けられていてもよい。
【0010】
クラッディングと材料除去加工を自動で交互に行えば迅速な加工が可能になり、結果を予測しやすくする。そのため、温度の分布や影響がより予測しやすくなり、製造計画時に想定しておくことが可能になる。
【0011】
前記収納装置は収納された前記クラッディングヘッドを収納位置と交換位置との間で並進搬送および/または回転搬送する搬送装置をさらに備えてもよい。該交換位置は前記クラッディングヘッドの取り出しまた返却のために前記ツールホルダが到達可能な位置である。
【0012】
前記クラッディングヘッドは本発明の独立した一部分を成し、該クラッディングヘッドは、好ましくはレーザビームを用いた溶着装置と;例えばワイヤー状または流動流体中のパウダー状の溶着素材(金属、セラミックなど)を溶着スポットへ供給する溶着素材供給装置と;不活性ガス供給装置と;レーザ光および/または溶着素材および/または不活性ガスおよび/または電力および/または電気信号の伝達のための可撓管路、を備える。さらに空間分解能を有する温度センサを設けてもよい。
【0013】
クラッディング加工機に載置された加工対象物を測定するために特にクラッディングの実施方法において使用される測定装置もまた本発明の独立した一部分を成す。該測定装置は、一つのユニットとして構成されてもよいし、分散された複数の構成部分からなるものでもよい。該測定装置は、その全体または一部がレーザクラッディングヘッドと一体に構成されてもよいし、レーザクラッディングヘッドとは別体に構成されてもよい。
【0014】
前記測定装置は、加工対象物表面上の点の位置データを好ましくは三次元的に取得する位置測定装置と;加工対象物表面上の点における温度に関する温度データを、前記位置測定装置による該点の測定と近接した時点において取得する温度測定装置と;加工対象物表面上の複数の点についての位置データと温度データとを互いに関連付けて記憶する記憶装置と、を備える。前記記憶装置はさらに加工対象物表面上の点の測定時刻に関する時間データを他のデータと互いに関連付けて記憶してもよい。
【0015】
コンピュータ制御の工作機械において加工される加工対象物のための加工対象物温度調節装置は、取付部を有し、該取付部において前記温度調節装置が前記工作機械のワークテーブル上に取り付けられ;加工対象物載置部を有し、該加工対象物載置部は前記加工対象物自体の底部であるかまたは前記加工対象物の底部がその上に載置され;制御可能な加熱部(フィードバックの有無は問わない)を有し、該加熱部が前記取付部と前記加工対象物載置部との間に設けられて前記加工対象物載置部を加熱し;断熱部を有し、該断熱部が前記加熱部と前記取付部との間に設けられる。
【0016】
記憶された加工対象物データおよび他のデータに基づいてクラッディング加工機において加工対象物を加工するための加工データを生成する方法は、前記加工機に入力する加工データを生成するための以下の工程を備えることを特徴とする:加工対象物データ、プロセス特定値データ、その他のパラメータに基づいて、時間の流れに沿った加工の推移が記述された加工推移データを生成する工程;前記加工対象物データ、前記特性値データ、および前記加工推移データに基づいて、前記加工対象物の各部に対する温度の影響が記述された温度関係データを生成し、さらに該温度関係データに基づいて前記加工データを生成する工程。
【0017】
クラッディングの実施方法は、クラッディング用の加工データを生成する工程と;前記加工データに基づいて工作機械を制御する工程と;加工中に温度および加工対象物表面上の位置を所定の空間分解能で測定する工程と;測定値をチェックする工程と;前記チェックの結果に基づいて、クラッディングヘッドと加工対象物との間の相対送り速度、溶着熱出力、素材供給レート、素材供給速度およびレーザ集光度といった加工パラメータのうちの1つ以上を修正する工程と、を備える。
【0018】
以下に本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】工作機械の一例を示す模式図。
図2】クラッディングヘッドの一例を示す模式図。
図3】クラッディング用のデータを生成するための方法の一例を示す模式図。
図4a】クラッディング用のデータを生成するための方法の他の一例を示す模式図。
図4b】クラッディング用のデータを生成するための方法の他の一例を示す模式図。
図5】加工対象物温度調節装置の一例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に本発明に係る工作機械の一例を示す。工作機械10は一般に機械コントローラ19を備え、機械コントローラ19は不図示の記憶装置に接続され得る。機械コントローラ19は単独のコンピュータでもよく、あるいは適切に相互接続された複数のコンピュータおよび/または他の(デジタル)装置の一群であってもよい。これらのコンピュータ等は工作機械10の近傍に設置されてもよいが、必ずしも全てが工作機械10の近傍に設置される必要はなく、また適切な手段(有線または無線)によって相互接続されてよい。機械コントローラ19は工作機械10の中核機能を制御する。また、機械コントローラ19は工作機械10内のセンサ18からデータを受信することができ、工作機械10を動作させるための各種制御信号を出力することができる。
【0021】
機械コントローラ19は例えば、特定の加工対象物(ワークピース、ワーク)を加工するために工作機械10を制御する目的で生成された加工データに基づいて動作する。加工データは例えば実行可能なプログラムであるか、または機械コントローラ19において実行されるプログラムから参照される実行不可能なデータである。
【0022】
工作機械10は機械フレーム11を備え、この機械フレーム11の対向する部位にワークテーブル13およびツールホルダ14がそれぞれ通常は可動軸12a、12bを介して搭載される。可動軸12a、12bは例えば複数の並進軸(x、y、z)または回転軸(φ、λ、θ)からなり、機械コントローラ19からの制御により位置決め可能である。例えばツールホルダ14を1軸、2軸または3軸の並進軸を介して機械フレーム11に取り付ける一方で、ワークテーブル13を1軸、2軸または3軸の回転軸を介して機械フレーム11に取り付けることができる。工作機械10は通常(不図示の)中が閉空間の囲いを備え、これにより切削屑による周囲の汚染を抑制する。
【0023】
ツールホルダ14は何らかの規格、例えばHSKまたはSK、に準拠したものであることが好ましい。ツールホルダ14は回転主軸(スピンドル)の駆動端を成すものであってもよい。回転主軸により、ツールホルダ14に装着可能な工具15を回転させることができる。システム構成としては例えば、10000rpm(回転毎分)以上の回転数で回転可能とする。ツールホルダ14に装着される工具15は従来の切削工具(研削工具、フライス削り工具、ドリル、バイトなど)でもよく、特殊加工工具(レーザ切削工具、超音波工具など)であってもよい。
【0024】
複数の異なる工具15a、15b、15c、15d、……を工具マガジン16に収納しておくことができる。機械コントローラ19の制御の下に動作する自動工具交換機構が設けられ、特定の工具15を工具マガジン16から取り出して回転主軸あるいはツールホルダ14に装着したり、また元通り返却したりできる。自動工具交換機構は通常、独自のツールチェンジャ17を備え、このツールチェンジャ17によって各工具が、適切な位置に位置決めされた工作機械10のツールホルダ14と工具マガジン16内の収納位置との間を搬送される。簡素な実施形態として、ツールホルダ14を適切に動作させることを以て自動工具交換機構としてもよい。すなわち、ツールホルダ14が到達可能な予め定めた位置において、ツールホルダ14が工具の取り出しおよび返却を行うように構成してもよい。
【0025】
工作機械10はさらにクラッディングヘッド20を備える。クラッディングヘッド20もツールホルダ14に対して着脱可能である。クラッディングヘッド20の着脱は機械コントローラ19の制御の下で自動的に行うことができる。クラッディングヘッド20が使用されていないときにこれをツールホルダ14以外の場所に収納する収納装置25が設けられる。収納装置25は工具マガジン16とは別体に設けてもよい。
【0026】
クラッディングヘッド20についても、その取り出しおよび返却を自動的に行うことができる。交換アームを別途設けて、これによってクラッディングヘッド20を収納装置25とツールホルダ14が到達可能な位置との間で搬送してもよい。他の一実施形態として、搬送装置29を設けて、収納装置25の保持部を交換位置と収納位置との間で搬送してもよい。交換位置はツールホルダ14が到達可能な位置とされる一方、収納位置はそこから退避した位置とされる。搬送装置はアームを備え、このアームは先端にクラッディングヘッド用の保持部を備え、上述の2つの位置間を並進移動または回転移動可能とされる。このアームもまた機械コントローラ19によって制御される。
【0027】
好ましくは可動式の衝立29aを設けてもよい。衝立29aは例えば開閉可能な扉として構成され、収納装置25に収納されたクラッディングヘッド20を加工プロセスの影響から遮蔽する。加工対象物の切削加工においては、加工領域内に切削屑が必ず生じる。さらに冷却液の使用が切削加工を極めて「汚れから逃れ難い」ものにする。そのため目下使用されていない工具、特にクラッディングヘッド20、は遮蔽することが望ましい。
【0028】
クラッディングヘッド20は通常、可撓管路(フレキシブルホース)24を備え、これを介して必要な材料、電力および信号が供給あるいは出力される。可撓管路24、26は例えば次のものを含む:外部で生成されたレーザ光を溶融温度を得るためのエネルギー源として供給するための導光ケーブル;溶着される素材を供給するための素材供給管であって、例えば、パウダー状の素材(金属、鉄、スチール、セラミックなど)が不活性ガスなどの適切な流体とともに適切なレート、量または速度で加工箇所へ供給するための流体配管;加工プロセスに対する環境や切削屑その他の影響を防ぐために別途不活性ガスを供給するための不活性ガス配管;クラッディングヘッド20内で消費される電力を供給するための電力配線;クラッディングヘッド20内の各部を制御するための制御信号を供給するための信号配線;クラッディングヘッド20内のセンサ23その他信号を発生する各部からの信号を出力するための信号配線。
【0029】
これら配管、配線その他はまとめて十分な長さの可撓管路(機内管路24、機外管路26)に収められ、クラッディングヘッド20へと導かれる。溶着素材として、流体と共に供給されるパウダー状のもの以外に、ワイヤー状のものを供給してもよい。
【0030】
クラッディングの実施にはセンサ類23を用いることができ、これらセンサ23は前に述べた測定装置の全体または一部を構成する。測定装置/センサ23は、クラッディングヘッド20に搭載してもよいし、全体または一部をクラッディングヘッド20とは別に設けてもよい。センサ23としては、所定の空間分解能での温度測定の可能なものが適切である。ここで空間分解能は、溶着素材の温度と、それに隣接する加工対象物の部分の温度とが、個別にかつ十分な信頼性を以て測定可能な程度に設定される。具体的に、空間分解能は例えばミリメートルのオーダーとされ、2mm以下、1mm以下または500μm以下とされる。空間分解能はまた例えば10μmを超える、または20μmを超えるものとされる。温度センサは例えばピクセルサーモグラフィーカメラであって、これによって連続的に生成される信号が可撓管路24に通した配線などを介して機械コントローラ19に入力される。
【0031】
センサ23はさらに位置センサまたは形状センサを含んでもよい。この場合センサは加工中の加工対象物の各部の寸法をリアルタイムかつ好ましくは三次元的に測定し、測定データを例えば可撓管路24を介して機械コントローラ19に入力する。一実施形態として、温度センサをクラッディングヘッド20に取り付ける一方で、それとは別に表面/形状/位置センサを加工領域内に固定して設けてもよい。このセンサは例えば1つ以上のレーザラインセンサまたはレーザエリアセンサからなる。
【0032】
測定装置/センサ23の一部として記憶装置が設けられる。この記憶装置には互いに対応するデータ(温度、位置、時刻)が関連付けられて記憶され、後の利用に供される。特に、同じ位置における温度データと形状データが関連付けられて記憶される。同様にして、測定時刻を示す時間データもそれらと関連付けられて記憶されてもよい。このようにして加工の推移についての有意な記録が残されるので、これを別途評価することができる。特記すべき点として、加工対象物上の同じ位置の温度を複数回測定してもよい。例えば、1回目は同位置で加工が行われている最中、素材が溶融している間に;その後一回以上、同位置がその時々に加工中の位置から遠ざかって温度が前より下がった状態で。このように測定されたデータをすべて関連付けて記憶するとよい。
【0033】
ここでの記憶は所定のフォーマットで行うとよい。例えばXMLタグ付きフォーマットで、あるいは少なくも所定の環境においてまたは所定のソフトウェアの下で関連付け可能に記憶される。
【0034】
今述べたような加工推移記録の生成方法もまたそれ自体で独立して請求項に記載され得る本発明の一部をなすと考えられる。
【0035】
図2にクラッディングヘッドの一例を模式的に示す。符号21は工作機械10のツールホルダ14へのカップリングを示す。カップリング21は好ましくは何らかの規格、例えばHSKまたはSK、に準拠したものとされ、ツールホルダ14と相補的な形状を有する。符号24は上に述べた可撓管路を示す。符号22はクラッディングヘッドの本体を示す。この本体内には構成部品として次のものが収められる:レーザ光導光および焦点調節手段;各素材の制御および供給手段;アクチュエータ類;更なるセンサ類;など。
【0036】
クラッディングヘッド20は符号28が模式的に示す諸要素によって加工対象物に作用する。符号28aは集光されたレーザビームを示す。レーザビームはその時々に加工中の加工対象物表面へ、通常はそこに焦点を合わせた状態で、または意図的にそこから焦点を外した状態で、照射される。ヘッド内の光学部品を保護するために、円錐状のレーザビーム28aはノズルから放出される円錐状の不活性ガス28bに包まれる。そのさらに外側に供給される溶着素材を符号28cが示している。パウダー状の溶着素材を用いる場合には、素材(金属、鉄、セラミックなど)は顆粒の状態で、または流動流体中の粉末の状態で、供給される。ここで流体は通常何らかのガスまたは不活性ガス(アルゴン、窒素など)である。流体を用いずに、ワイヤー状の溶着素材を供給してもよい。
【0037】
クラッディングヘッド20はその使用時には可動軸12a、12bによって加工対象物表面沿いに自由に移動しつつ素材を溶着することができる。素材は例えば鉄または鉄の合金、特にスチールである。素材はセラミックまたはその他の素材であってもよい。
【0038】
符号27はクラッディングヘッド20に対する様々な供給装置を示す。供給装置27はレーザ源27a、溶着素材源27bおよび不活性ガス源27cを含み、さらに必要に応じて、クラッディングヘッド20を動作させるための電気(デジタル)系統27dを含む。これらの供給装置27は図においては工作機械10の傍らに別体として描かれているが、その全部または一部を工作機械10に内蔵して単独では認識できない構成としてもよい。供給装置27は工作機械10と機外可撓管路26を介して接続される。クラッディングヘッド20およびその電気系統27dは例えば機械コントローラ19の制御の下に動作する。
【0039】
図5にさらなるハードウェア構成としての加工対象物温度調節装置50を示す。加工対象物温度調節装置50は加工対象物の温度を高めの傾向に保つことによって、少なくとも加工対象物にクラッディングが施されている間におけるその時々の加工箇所からの温度勾配を小さくすることで、加工対象物の状態をより正確に予測可能、再現可能にする。
【0040】
加工対象物温度調節装置50はワークテーブル13と加工対象物の底部59との間に挿入される。加工対象物温度調節装置50は取付部52を有し、この取付部52を介してワークテーブル13に、例えばボルトやクランプ金具56を用いた締結により、固定することができる。加工対象物温度調節装置50はさらに加熱部51を有し、加熱部51は電気的に、または流体を利用して、動作する。加熱部51は制御可能に、またはフィードバック制御可能に、構成されてもよい。この他、図示しないが、温度を測定するための温度センサおよびそれらの配線をさらに設けてもよい。
【0041】
加工対象物温度調節装置50の加工対象物載置部53が加熱部51と加工対象物自体との間に位置する。加工対象物載置部53はその上へ加工対象物の底部59が適切に固定可能に構成される。加工対象物載置部53は例えばワークテーブルのような形状とされる。取付部52と加工対象物載置部53はいずれも平坦面を有し、比較的厚肉の金属板からなるか、またはそのような金属板を含む。加熱部51により加工対象物載置部53が加熱され、これにより間接的に加工対象物の底部59が一様に加熱される。これにより、加工対象物が所定の温度に均一に保たれる。
【0042】
さらに断熱層54を設けて、加熱部51をワークテーブル13から、ひいては工作機械10から、熱的に絶縁してもよい。必要に応じて、あるいは熱出力に応じて、さらに冷却装置55を断熱部54と取付部52との間に設けてもよい。冷却装置55にも、図示しないが、センサ類とその配線を設けてもよい。冷却装置55は例えば水冷装置などの流体を利用した冷却システムであって、必要な接続部材を含む。
【0043】
図示しないが、材料、流体、信号、エネルギーなどの伝達のための接続部材が適宜設けられることは言うまでもない。そのような接続部材は例えば可撓管路として、加工対象物温度調節装置50から不図示の供給装置にわたって敷設される。ワークテーブル13が連続的に回転可能に構成されているか、またはそのように使用可能な場合には、可撓管路を用いなくてもよい。代わりに可動軸を貫通する通路を設けて、この通路を介して配管や配線を敷設する。
【0044】
加熱部51は例えば加工対象物載置部53または加工対象物の底部59を、100℃を超える、または150℃を超える、または200℃を超える、または250℃を超える温度にまで加熱するように構成される。温度の上限は例えば400℃、または350℃、または300℃である。
【0045】
加工対象物は非常に高温になるといってもそのほとんどの部分が赤熱温度未満(鉄やスチールにおいては500℃未満)、すなわち400℃未満、に留まる。加工対象物温度調節装置50によって加工対象物の温度を例えば250℃に設定することにより、加工対象物内の温度勾配を明確に小さくすることができる。これにより、温度分布が予測可能となり、計算しやすくなり、加工データの生成時に想定しやすくなる。
【0046】
次に図3を参照して工作機械向けの加工データの生成方法を説明する。加工データとは工作機械に入力されるデータであって、工作機械は加工データに基づいて加工対象物を加工する。加工データは実行可能なプログラムであってもよいし、またはデータであって他のプログラムの実行時に読み出されることによって対応する動作を実現するものであってもよい。一般に、加工データはアクチュエータ類全般の制御に関わり、具体的には例えば駆動軸の制御、クラッディングパラメータの制御、工具の扱いの制御、必要に応じて温度設定装置の制御、その他多様な制御に関わる。加工データはまたセンサ類による読み取りやセンサ類から得られたデータの処理の制御にも関わる。
【0047】
冒頭で述べたように、加工対象物の精密な加工にあたっては大きな温度変化を考慮する必要があることにクラッディングの難しさがある。クラッディングの際には、工作機械向けの加工データ34を通常のように加工対象物データ33、プロセス特性値データ32および選択可能パラメータ31に基づいて決定するのでは不十分であり、温度の影響を無視することはできない。
【0048】
加工対象物データ33は例えば一般のCADプログラムで得られるCADデータであって、加工対象物の加工を目的として加工対象物の形状をベクトルで、またはビットマップのような形式、例えばボクセル(voxel)で、記述したのもである。
【0049】
プロセス特性値32はクラッディングに関する共通特性値であり、必要な温度、必要な素材流量、可能な速度、必要なクラッディング出力、エネルギー量、速度その他に関する基本データである。
【0050】
選択可能パラメータ31は状況に応じた設定が可能なパラメータである。例えば、加工速度と加工品質との兼ね合いについて選択の余地が与えられる場合には、その指定を選択可能パラメータ31に記述することができる。従来のシステムでは、以上述べたようなデータから加工データ34が生成され、その後この加工データ34に基づいて加工対象物が加工される。
【0051】
上に述べた選択可能パラメータ31、プロセス特性値32および加工対象物データ33からはさらに加工推移データ35が生成される。加工推移データ35には、時間の流れに沿った加工対象物の加工の推移、特に特定の加工箇所の加工時刻、が記述される。時間の経過に伴う温度平衡によって、温度分布も時間の経過とともに必然的に変わる。したがって加工対象物の加工の経過を把握することが重要である。
【0052】
特記すべき点として、システム内の熱出力は相当に大きくなり得る。クラッディング用のレーザは通常出力が100Wから10kWのものであり、さらに温度調節装置も同程度のオーダーの出力のものである。これらの出力は熱となる。比較的小さい加工領域(例えば1m)でも例えば5kWの出力で加熱が行われる。したがって温度の
影響は大である。
【0053】
例えばクラッディングによって、上に向かって拡がる漏斗を製造するとする。これを行うには例えば、刻々と加工されてゆく加工対象物の漏斗状部分の現在の縁から、半径を増加しつつ螺旋状にクラッディングヘッドを移動する。加工推移データには、加工対象物のどの部分あるいは領域がいつ加工されるのかが記述される。
【0054】
上に述べた加工推移データ35は、可能であれば図示の入力データ31、32、33から生成するのとは違った方法で生成されてもよい。これらの入力データは部分的にのみ利用してもよく、例えば加工対象物データ33のみを利用し、ライブラリなどの内容にアクセスするなどして加工推移データ35を生成してもよい。
【0055】
加工推移データ35をさらに他のデータと共に用いて温度関係データ36を生成してもよい。そのために温度分布シミュレーション(有限要素法、ボクセル(voxel)など)を行うとよい。シミュレーションにおいては例えば熱伝導率が考慮され、さらには実施中のクラッディングおよび場合によっては温度調節装置によるエネルギー入力ならびに伝導および放射による熱の消散などが継続的に考慮される。このようなシミュレーションは複雑、煩雑で、相応のデータ処理能力を必要とする。このようにして温度関係データ36が生成され、加工対象物の各部分あるいは各領域の温度の情報が所定の空間分解能を以て直接得られるほか、この情報をさらに他の評価に用いて、例えば局所的な、または加工対象物全体の、熱膨張、温度勾配などを求めてもよい。
【0056】
温度関係データ36には例えば、加工対象物の異なる部分に対して個別に値を持つような空間分解能が与えられる。空間分解能は例えば10mm以下、または5mm以下、または2mm以下、または1mm以下の範囲とされる。温度関係データ36には特に、加工中の加工対象物における突出した高温が加工対象物の寸法に及ぼす全体的および局所的な影響が記述される。通常、高温の影響として、加工後の温度が平衡したときと比べて、加工中の加工対象物の寸法が大きい、ということが起こる。
【0057】
温度関係データ36を参照すれば、そのようのことを想定したうえで加工データ34を生成することができる。例えば加工対象物を意図的に「大きめ」に加工することで、冷却されて温度平衡が得られたのちに加工対象物が正確な寸法を持つようにすることができる。
【0058】
図示と異なるが、温度関係データ36の生成は加工推移データ35の生成の完了後でなくてもよい。両データはほぼ同時に生成されてもよいし、ひとまとまりのデータセットとしてほぼ同時に生成されてもよい。
【0059】
可能であれば、上述の温度関係データ36も図示の入力データ(31、32、33、35)から生成するのとは違った方法で生成されてもよい。これらの入力データは部分的にのみ利用してもよく、例えば加工対象物データ33のみを利用し、ライブラリなどの内容にアクセスするなどして温度関係データ36を生成してもよい。
【0060】
図4aに示すように、温度関係データ36を利用して、加工中の想定温度に照らして加工対象物データ33(目標データ)を再計算してもよい。このようにして熱膨張を考慮した通常大きめの「目標」が求められる。これは図4aにおいて符号33’で示されている。この大きめの目標33’を他のデータと合わせて、加工データ34が生成される。
【0061】
温度関係データ36の利用方法の他の一例を図4bに模式的に示す。ここではすでに生成された加工データ34’が仮データと見做され、温度関係データ36に基づいて現実の温度分布に照らした再計算が施される。その結果として通常、寸法が全体的に加工中の熱膨張に対応して拡大される。
【0062】
他の一実施形態として、加工データを生成する際に温度分布について回帰処理を行ってもよい。生成の一巡目に得られた温度関係データ36(局所温度、局所温度勾配)を限界値または目標値と比較する。例えば、非常に高いか高過ぎる温度が観測されているかどうかに基づいて過熱が発生しているかどうかを判断できる。過熱は小さい加工対象物や加工対象物の細かな部位において、限られた領域に長時間クラッディングレーザ出力が集中すると発生することがある。限界値越えが検出された場合には、修正パラメータを生成するとよい。例えば送り速度を上げるかレーザ出力を下げる。これに応じて推移データ(図3においては不図示)を修正してもよく、さらにこれに応じて温度関係データを修正してもよい。
【0063】
温度関係データ36あるいはこれのチェック結果に基づいて、加工データ34を直接修正してもよい。例えば可能であれば、加工対象物の過熱しがちな箇所の加工を中断して他の箇所の加工を続け、先の箇所が冷めるのを待ってそちらの加工を再開するように加工手順をジャンプする。
【0064】
このようにして加工データ34に記述されている加工対象物の加工プランを最適化することで、複雑な温度分布に起因する困難を軽減することができる。このようにして、クラッディングで加工されるべき加工対象物の温度分布を適切に想定して過熱を防止することが可能な加工データ34が生成され、結果として加工対象物の精密な加工が可能となる。
【0065】
これまで述べた方法は加工対象物の加工が障害なく進行すること(予定通りの推移)を前提としている。このように生成された加工データ34は、加工が予定通り進行しなくなるとたちまち不適切なものとなる。そのような事態は例えば、システムエラーが発生したときに発生する。例えば、素材の供給が滞って半時間に亘って稼働が停止したとする。このような場合には温度平衡が進行して、温度分布が障害を見込まずに想定したものと異なってくる。
【0066】
そのような場合でもクラッディングによる高品質(特に最終的な寸法精度について)な加工を可能とするため、複数セットの温度関係データを生成してもよい。例えば、加工対象物上の2つ、または3つ、または複数の箇所(一般にn箇所)について、2分間、または5分間、または10分間、または20分間(一般に異なるm種の時間長さ)に及ぶ中断が発生し得ると想定する。これら異なる可能性に個別に対応できるように、複数(n×m)セットの温度関係データを生成し、それらからさらに複数(n×m)セットの修正作業データを生成してもよい。修正データは必要時にいつでも参照し、利用することができる。空間的および時間的な補間をさらに行ってもよい。このようにして、クラッディング工程の進行に障害が発生した場合でも、加工対象物の高品質な加工を継続することができる。
【0067】
以下にクラッディングの実施方法を説明する。クラッディングはコンピュータ制御の工作機械10上でクラッディングヘッド20を用いて行われる。工作機械10の構成は例えば既に述べたとおりである。加工を始める前に、加工データ34が工作機械10に入力される。加工データ34は例えば既に述べたとおりの方法で生成される。このデータ(加工データ34)および他のデータに基づいて、工作機械10とその各部が機械コントローラ19によって駆動され、加工対象物の加工が進められる。加工と並行して、測定装置/センサ23による測定が行われる。この測定には加工途中の加工対象物の形状の測定が含まれ、これは加工対象物表面上の各点を好ましくは三次元的に(x、y、z)、所定の分解能で測定することによって行われる。また温度測定が含まれ、これも所定の空間分解能を以て行われる。表面測定(形状測定)の空間分解能と温度測定の空間分解能は異なっていてよい。ただし両測定は互いに関連付けられて行われ、測定箇所と測定温度の対応はシステムが把握している。
【0068】
位置測定の結果と温度測定の結果はいずれも加工対象物の加工の(フィードバック)制御に利用することができる。それらの結果は例えば加工データ34から生成される加工手順を修正するために利用される。加工データ34は制御工学上の目標値として取り扱われ、それを達成すべくセンサ値のフィードバックが行われる。
【0069】
温度測定の一環としてその時々の溶着素材だまりの温度を測定してもよい。目的は同温度を所定の範囲内に保つためである。素材だまりの温度が高すぎるときには、加工機の制御に介入を行って例えばレーザ出力(クラッディング出力)を下げたりクラッディングヘッド20における送り速度および/または素材供給レートを変えて温度が下がるようにする。これと反対の操作を行うことによって、逆に溶着素材だまり温度が低すぎる状況に対応することもできる。
【0070】
位置測定の結果に目標値からの乖離が認められたときにも、介入を行ってよい。例えば、形成された層が厚すぎるときには、レーザ出力または素材供給レートを下げるか送り速度を上げるとよい。逆の状況には反対の操作で対応できる。
【0071】
一般に、加工途中の加工対象物についての温度測定および/または形状あるいは表面測定の結果に基づいて、次のようなシステムパラメータの制御が可能である:クラッディングの熱出力、特にレーザ出力;素材供給レート(単位時間ごとの質量);素材供給速度(単位時間ごとの長さ);レーザ集光度;加工対象物に対するクラッディングヘッドの送り速度;キャリアガスおよび不活性ガスの供給レート。
【0072】
互いに関連付けられた形状データと温度データは連続的に記憶するとよい。そのようにして加工の推移の記録を残して、事後の評価に利用することができる。ここで温度データと形状/表面点データとは互いに関連付けられた形で記憶される。好ましくはそれらと共に時間データも互いに関連付けられた形で記憶される。そうすることで加工対象物の加工に関して形状、温度および時刻の記録を得ることができ、これを事後の評価に利用することができる。評価の結果は例えば修正加工データ34を生成するために利用でき、そうすることで最適化された加工を加工対象物に施すことができる。記憶されたデータはまた加工対象物自体の品質の評価にも利用してそれに応じたデータを生成することができる。
【0073】
不測の事態により加工が予定通り進行せず、特に遅れが生じたとき、このことは、時間の流れに沿った加工の現実の推移を障害を見込まない進行予定と比較することで認識できる。障害が認識されたときには、上にも述べたように、修正加工データを生成するか、もし存在するなら以前に生成された修正加工データを利用すればよい。
【0074】
一般に、上に述べたクラッディング方法は他の切削方法と併用することができる。その際両方法を同一の加工機上で、加工対象物の段取り替えを伴わずに実施することができる。クラッディングの加工精度は従来の技術では他の切削方法、例えばフライス加工、ドリル加工もしくは旋盤加工、または特殊加工、例えばレーザ切削、超音波加工その他、の加工精度に及ぶものではない。このため、クラッディングにおいては加工対象物を一回り「大きめ」に加工しておき、そののち従来の切削方法で加工対象物を最終寸法まで加工する、というのが現在よく取られる方策である。ところが他の多くの従来の加工方法と異なりクラッディングは、それを実施した後の長い待ち時間を避けるとすれば従来の切削加工を比較的高温の環境、例えば200℃ないし300℃で行うことを余儀なくさせる。すると上に述べた温度の影響、特に熱膨張と熱収縮、を考慮せざるを得なくなる。通常と異なる(より高い)温度はまた切削特性にも影響を及ぼすので、これも考慮する必要が生じる。
【0075】
クラッディングと切削を交互に行う手法は単一の加工プログラムに記述することができる。これを本明細書では共通加工データ34と称す。これによってクラッディングヘッドの動作と切削工具の動作が交互に制御され、またその合間の工具交換機構の動作が制御される。したがって図3に示す方法においては、クラッディングの特性値および初期設定のみならず、切削加工の特性値および初期設定が考慮される。そのように行われる切削工程もまた当然温度に影響を及ぼし、その結果加工対象物は通常冷却される。このこともまた加工中の形状に影響するので、切削時はもちろん、そのあとで再度クラッディングによる素材の溶着を行う場合にはそのときにも、考慮する必要がある。これは上に述べた加工推移データ35およびそれから生成される温度関係データ36に基づいて実施可能である。
【0076】
本発明に適用可能な寸法、数値および範囲を下に列挙する。
加工対象物の全体寸法:>20mm、>50mmまたは>100mm、一方で<1000mmまたは<500mm。
クラッディング用レーザ出力:>500W、>1000Wまたは>2000W、一方で<20000Wまたは<10000W。
素材溶着速度:>0.1g/min、>0.5g/minまたは>2g/min、一方で<200g/minまたは<100g/min。
溶着素材:鉄、スチール、ニッケル合金、コバルト・クロム、ステライト、金属合金全般、セラミック。
目下加工中の箇所における溶着温度:スチール使用時1400~1600°C;セラミック使用時1100°C~2500°C。
目下加工中の箇所以外の加工対象物温度:>50°C、>100°Cまたは>200°C、一方で金属使用時<500°C。
加工対象物に対するレーザクラッディングヘッドの送り速度:>0.1m/分、>0.2m/分または>0.5m/分、一方で<5m/分または<2m/分。
【0077】
本明細書に記載の様々な特徴は、具体的な言及の有無に拘わらず、技術的に可能で有用である限り、任意に組み合わせて実施することができる。処理方法の説明はその処理方法を実行する装置の説明でもあり、その逆もまた真であると理解されるべきである。また制御方法の説明はその制御方法が実装されたソフトウェアの説明でもあると理解されるべきである。その限りにおいてソフトウェアおよびそれを収納した記憶媒体も本発明の一部であると理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5