(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】新規ポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマー
(51)【国際特許分類】
C08F 8/42 20060101AFI20220509BHJP
C08G 81/02 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
C08F8/42
C08G81/02
(21)【出願番号】P 2019503522
(86)(22)【出願日】2017-07-17
(86)【国際出願番号】 EP2017068048
(87)【国際公開番号】W WO2018019642
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-07-14
(32)【優先日】2016-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517092075
【氏名又は名称】アヴィエント スウィッツァランド ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】パンディ・サムシュワーナス・ディーナナス
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-004640(JP,A)
【文献】特開2006-293326(JP,A)
【文献】国際公開第2011/108435(WO,A1)
【文献】特表2012-524835(JP,A)
【文献】特表2009-521489(JP,A)
【文献】特表2013-536303(JP,A)
【文献】特開2001-072869(JP,A)
【文献】Block Copolymers of γ-Methacryloxypropyltrimethoxysilane and Methyl Methacrylate by RAFT Polymerization. A New Class of Polymeric Precursors for the Sol-Gel Process,Macromolecules,2005年,Vol.38,p.1591-1598
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
293/00-297/08
C08G 77/00- 77/62
81/00- 85/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般構造(I)のポリアクリレート-シランポリマーブロックコポリマー:
【化1】
[式中、
mおよびnは、互いに独立に、2~4000の範囲の整数であり;
pは、0~5の範囲の整数であり;
qは、1~5の範囲の整数であり;
R
1は、水素、1~4個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状アルキル基を表し;
R
2は、水素、1~18個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状アルキル基を表し;
R
3は、水素、ヒドロキシル基、1~4個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状アルキル基またはC
6-C
14-アリール基を表し;
Lは、単結合、または二価基-NH-、-C(O)NH-、-NHC(O)NH-、-OC(O)NH-もしくは-CH
2-であり;
R
4、R
5およびR
6は、互いに独立に、水素、1~8個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状アルキル基またはポリジメチルシロキサン残基を表し;そして
R
7は、水素またはメチル基を表し、そして
R
4、R
5およびR
6の少なくとも1つがポリジメチルシロキサン基を表す。]。
【請求項2】
前記ポリジメチルシロキサン基が、式(II)
【化2】
[式中、xは、500g/モル~300,000g/モルの範囲の数平均分子量となるように6.5~4054の範囲である]
のポリジメチルシロキサンに由来する、請求項1に記載のブロックコポリマー。
【請求項3】
mが100~1000の範囲の整数である、請求項1または2に記載のブロックコポリマー。
【請求項4】
nが100~1000の範囲の整数である、請求項1~3のいずれか1つに記載のブロックコポリマー。
【請求項5】
pが0~3の範囲の整数である、請求項1~4のいずれか1つに記載のブロックコポリマー。
【請求項6】
qが1~3の範囲の整数である、請求項1~5のいずれか1つに記載のブロックコポリマー。
【請求項7】
ポリアクリレートブロック(A)とシランポリマーブロック(B)との重量比が、約1:1.8×10
7~6204:1の範囲にある、請求項1~6のいずれか1つに記載のブロックコポリマー。
【請求項8】
ポリジメチルシロキサン基の数平均分子量が、約500g/モル~約300,000g/モルの範囲にある、請求項1~7のいずれか1つに記載のブロックコポリマー。
【請求項9】
ポリジメチルシロキサン基と一般構造(I)のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマーの全重量との重量比が、1:2.8~1:24023の範囲にある、請求項1~8のいずれか1つに記載のブロックコポリマー。
【請求項10】
R
1が水素、メチルまたはエチルを表す、請求項1~9のいずれか1つに記載のブロックコポリマー。
【請求項11】
R
2が水素、メチルまたはエチルを表す、請求項1~10のいずれか1つに記載のブロックコポリマー。
【請求項12】
R
3が水素を表す、請求項1~11のいずれか1つに記載のブロックコポリマー。
【請求項13】
式「ブロック(A)」のアクリレートポリマーおよび式「ブロック(B)」のシランポリマーを最大120℃の反応温度で重合するステップを含む、請求項1~12のいずれか1つに記載のポリアクリレート-シランポリマーブロックコポリマーを製造する方法。
【化3】
[式中、m、n、p、q、L、R
1~R
7は請求項1に定義されるとおりである。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマーに関する。本発明はまた、前記ポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明:
アクリレートをベースとするポリマーは比較的低コストなため、これらは接着剤、シーラントにおけるおよびコーティングにおける用途に広く使用されている。アクリレートをベースとするポリマーの1つの格別な利点は、他のポリマー、例えばポリプロピレンのようなオレフィンをベースとするポリマーまたはコポリマーとのその相容性である。シランをベースとするポリマーは相対的により高価である。これらは、ポリマーの多くと非相容性である。しかしながら、それらは優れた熱酸化安定性、低い界面エネルギーを有し、コーティングおよびプラスチックにおける添加剤として適用される。
【0003】
個々のシランおよびアクリレートをベースとするポリマーは異なる利点および欠点を有するが、ハイブリッドポリマー系を形成するためのそれらのブレンドは、熱力学的に不安定であり、時間とともに最終的に巨視的な相分離およびブレンド特性の変化を生じる。
【0004】
ポリアクリレートおよびSiをベースとするモノマーのコポリマーが公知である。例えば、US-2015119536A1(特許文献1)およびUS-2013012653A1(特許文献2)は、シリコーンポリマーの混合物およびアクリルモノマーの混合物を、ラジカル開始剤およびスクランブリング触媒と反応させることにより製造されるシリコ-ン-アクリルコポリマーを記載している。
【0005】
US-2015119526A1(特許文献3)は、ポリオルガノシロキサン、メタクリレートモノマーおよびカルボキシル、アミド、ヒドロキシもしくはビニル官能基を有する共重合性モノマーを含む混合物の乳化およびグラフト重合により得られるアクリル改質ポリオルガノシロキサンを開示している。
【0006】
JPH-02258815A(特許文献4)は、トリオルガノシリル(メタ)アクリレートをトリオルガノシロキシシリルアルキレン基含有(メタ)アクリレートと共重合することにより得られるコポリマーを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】US-2015119536A1
【文献】US-2013012653A1
【文献】US-2015119526A1
【文献】JPH-02258815A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ブロックコポリマーは、異なる重合された単量体単位のブロックから作られるコポリマーの特別なクラスである。ブロックコポリマーは、それら内において個々のポリマータイプの特性を組み合わせることができ、従って多くの用途のために非常に興味深いものである。従って、アクリレートならびにシランポリマーの両方の特性を有利に組み合わせたブロックコポリマーを提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一般式(I)のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマーを提供する
【0010】
【化1】
[式中、
mおよびnは、互いに独立に、2~4000の範囲の整数であり;
pは、0~5の範囲の整数であり;
qは、1~5の範囲の整数であり;
R
1は、水素、1~4個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状アルキル基を表し;
R
2は、水素、1~18個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状アルキル基を表し;
R
3は、水素、ヒドロキシル基、1~4個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状アルキル基またはC
6-C
14-アリール基を表し;
Lは、単結合、または二価基-NH-、-C(O)NH-、-NHC(O)NH-、-OC(O)NH-もしくは-CH
2-であり;
R
4、R
5およびR
6は、互いに独立に、水素、1~8個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状アルキル基またはポリジメチルシロキサン残基を表し;そして
R
7は、水素またはメチル基を表す。]
【0011】
本明細書において使用される場合に、「n」は、式(I)のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマーのポリアクリレートブロック(A)の重合度を表す。好ましい実施態様において、nは、10~3000、より好ましくは50~2500、最も好ましくは100~1000の範囲である。
【0012】
本明細書において使用される場合に、「m」は、式(I)のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマーのポリシランブロック(B)の重合度を表す。好ましい実施態様において、mは、10~3000、より好ましくは50~2500、最も好ましくは100~1000の範囲である。
【0013】
好ましいR1基は、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチルを含み、より好ましくは水素、メチルおよびエチルである。
【0014】
好ましいR2基は、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチルを含み、より好ましくは水素、メチルおよびエチルである。1つの特に好ましい実施態様において、R1は水素であり、R2は水素である。別の特に好ましい実施態様において、R1はメチルであり、R2は水素である。
【0015】
好ましくは、pは0~3の範囲の整数であり、より好ましくはpは0または1であり、最も好ましくはpは0である。
【0016】
好ましくは、qは1~3の範囲の整数であり、より好ましくはqは1または2であり、最も好ましくはqは1である。特に好ましい実施態様において、pは1であり、qは1である。
【0017】
別の特に好ましい実施態様において、mは100~2200の範囲であり、nは100~2200の範囲であり、pは0~3の範囲であり、qは1~3の範囲である。
【0018】
好ましくは、R3は、水素、1~4個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状アルキル基またはC6-C14-アリール基、例えばフェニルまたはナフチルを表す。最も好ましくは、R3は水素である。
【0019】
好ましくは、Lは-CH2-基を表す。
【0020】
好ましくは、R4、R5およびR6は、水素、1~6個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状アルキル基またはポリジメチルシロキサン残基である。
【0021】
好ましくは、R7はメチル基である。
【0022】
特に好ましい実施態様において、基R4、R5およびR6の少なくとも1つはポリジメチルシロキサン残基を表す。
【0023】
ポリジメチルシロキサン(PDMS)は式(II)を有する
【0024】
【化2】
[式中、
xは、約500g/モル~約300,000g/モルの範囲の数平均分子量となるように6.5~4054の範囲である]
好ましくは実施態様において、PDMSの数平均分子量は、500g/モル~20,000g/モルである。
【0025】
好ましくは、PDMSと式(I)のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマーの全重量との重量比は、1:2.8~1:24023の範囲にある。
【0026】
本発明の他の態様は、開始剤の存在下、最高で120℃の反応温度で、式「ブロック(A)」のアクリレートポリマーおよび式「ブロック(B)」のシランポリマーを重合することを含む、式(I)のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマーを製造するための方法である。
【0027】
【化3】
ポリアクリレートブロックAの数平均分子量は、好ましくは400g/モル~3.04百万g/モル、より好ましくは10,000~220,000g/モルの範囲にある。
【0028】
ポリシランブロックBの数平均分子量は、好ましくは490g/モル~7,204百万g/モル、より好ましくは24,500~539,000g/モルの範囲にある。
【0029】
好都合には、式(I)のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマーの製造におけるポリアクリレートブロックAとポリシランブロックBとの重量比は、1:1.8x107~6204:1の範囲にある。前記ポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマーは、約890g/モル~約7,207百万g/モルの範囲の数平均分子量を有する。
【0030】
ポリアクリレートブロック(A)は、第1反応混合物においてアクリレートモノマーを重合することにより形成される。重合は、溶液、塊状、懸濁または乳化重合プロセスにより実施することができる。適切なアクリレートモノマーには、例えばメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレートを含む、メタクリル酸のC1~C18直鎖状もしくは分岐状アルキルエステル;アクリレートエステル、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレートおよび2-エチルヘキシルアクリレートを含む、アクリル酸のC1~C18直鎖状もしくは分岐状アルキルエステルが含まれる。
【0031】
前記第1反応混合物は、任意選択的に、溶媒、例えば水、アセトン、メタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトンまたはそれらの組み合わせを含んでいてもよい。アクリレートモノマーの重合は、開始剤の存在下であってもよい。開始剤は、好ましくは、1種以上の他の成分(例えばモノマー、溶媒)におけるその溶解度;所望の重合温度での半減期(好ましくは約30分~約10時間の範囲内の半減期)および安定性のようなパラメーターに基づいて選択される。開始剤の例には、アゾ化合物、例えば2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-(ヒドロキシエチル)]-プロピオンアミドおよび2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)]-プロピオンアミド;ペルオキシド類、例えばt-ブチルヒドロペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド;過硫酸ナトリウム、カリウムもしくはアンモニウム、またはそれらの組み合わせが含まれる。レドックス開始剤系、例えば還元剤、例えばメタ重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、イソアスコルビン酸またはそれらの組み合わせと組み合わせたパースルフェートまたはペルオキシドも使用することができる。重合プロセスの間に使用される開始剤の濃度は、好ましくは、所望の重合度を得るために選択される。好ましくは、開始剤の濃度は、モノマーの重量を基準として、0.2重量パーセント~3重量パーセント、より好ましくは0.5重量パーセント~1.5重量パーセントである。
【0032】
前記の第1反応混合物は、追加的に触媒、例えば遷移金属キレート錯体を含んでいてもよい。好ましくは、遷移金属キレート錯体は、コバルト(II)または(III)キレート錯体、例えばコバルト(II)のジオキシム錯体、コバルト(II)ポルフィリン錯体、あるいはビシナルイミノヒドロキシイミノ化合物、ジヒドロキシイミノ化合物、ジアザジヒドロキシ-イミノジアルキルデカジエン類またはジアザジヒドロキシイミノジアルキルウンデカジエン類のコバルト(II)キレート、あるいはこれらの組み合わせである。
【0033】
前記第1反応混合物は、都合よくは、20~150℃、好ましくは50℃~80℃の温度に加熱される。反応は、1~5時間の時間継続してもよい。重合の完了時の固形分レベルは、典型的には、水性エマルションまたは懸濁物の全重量を基準として、5重量パーセント~70重量パーセント、より好ましくは30重量パーセント~60重量パーセントである。
【0034】
第2反応混合物において、シランモノマーを重合して、式(I)のブロックコポリマーのポリシランブロック(B)を形成する。シランモノマーの例には、(3-アクリルオキシプロピル)トリス(トリメチルシロキシ)-シラン;2-ヒドロキシエチルアクリレートと3-イソシアナトプロピルトリエトキシシランとの反応生成物;2-ヒドロキシエチルメタクリレートと3-イソシアナトプロピルトリメトキシシランとの反応生成物;2-ヒドロキシエチルアクリレートと3-イソシアナトプロピルトリメトキシシランとの反応生成物;2-ヒドロキシエチルメタクリレートと3-イソシアナトプロピルトリエトキシシランとの反応生成物;3-アミノプロピルトリメトキシシランとグリシジルメタクリレートとの反応生成物;3-アミノプロピルトリエトキシシランとグリシジルメタクリレートとの反応生成物、アクリル酸と(3-アミノプロピル)トリメトキシシランとの反応生成物;アクリル酸と(3-アミノプロピル)トリエトキシシランとの反応生成物;メタクリロイルオキシエチルイソシアネートと(3-アミノプロピル)トリメトキシシランとの反応生成物;またはメタクリロイルオキシエチルイソシアネートと(3-アミノプロピル)トリエトキシシランとの反応生成物が含まれる。
【0035】
本明細書で使用される場合に、語句「第1反応混合物」および「第2反応混合物」は、それらは交換可能であり得るので、反応プロセスの順序に関して制限を有するとして解釈されない。例えば、反応プロセスにおいて、第2反応混合物は、第1反応混合物より前に反応させてもよい。
【0036】
前記第2反応混合物は、任意選択的に、溶媒、例えば水、アセトン、メタノール、イソプロパノール、THF、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトンまたはそれらの組み合わせを含む。シランモノマーの重合は、開始剤の存在下であってもよい。適切な開始剤は、第1反応混合物に関して上述したものである。第2反応混合物における開始剤の濃度は、シランモノマーの全重量を基準として、0.2重量パーセント~3重量パーセント、より好ましくは0.5重量パーセント~1.5重量パーセントである。第2反応混合物は、第1反応混合物に関して上述した触媒を追加的に含んでいてもよい。
【0037】
好ましくは、第2反応混合物は、約40~75℃、より好ましくは50~65℃の範囲の温度に加熱される。反応は、1~4時間の範囲内の時間継続してもよい。
【0038】
一般式(I)のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマーを形成するための重合反応は、溶液、塊状、懸濁または乳化重合プロセスにより実施することができる。重合プロセスは、連続式プロセス、バッチ式またはセミバッチ式プロセスであることができる。アクリレートポリマーブロックAおよびシランポリマーブロックBは、都合よくは、開始剤の存在下で、40~120℃、好ましくは50~80℃の反応温度で、重合される。1つの実施態様において、重合は、溶液重合によって行われる。他の実施態様において、重合は塊状重合により行われる。反応は、最大5時間、好ましくは1~5時間の時間継続してもよい。
【0039】
1つの実施態様において、式(I)のブロックコポリマーのポリシラン(B)は、少なくとも1つのポリジメチルシロキサン(PDMS)基でグラフト化される。1つの実施態様において、PDMSモノマー、例えばヒドロキシル終末化PDMSを、グラフト重合触媒の存在下でポリシランブロックBと反応させることにより、PDMSグラフト化ポリシランブロックBを形成する。別の実施態様において、PDMSのグラフティングを、ポリアクリレートブロックAおよびポリシランブロックB間の重合反応後に行うことにより、一般式(I)のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマーを形成する。
【0040】
グラフト重合は、溶媒の存在下で行ってもよい。適切なそのような溶媒には、水、アセトン、メタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトンまたはそれらの組み合わせが含まれる。グラフト重合反応は、開始剤により開始してもよい。適切な開始剤には、第1反応混合物に関して上述したものが含まれる。
【0041】
グラフト重合触媒の例は、鉛、コバルト、鉄、ニッケル、亜鉛およびスズの有機チタネートおよび錯体またはカルボキシレートを含む、有機塩基、カルボン酸および有機金属化合物を含む群から選択されるものである。触媒の例には、ジブチルスズジラウレート(DBTL)、ジブチルスズジオクトエート、ジブチルスズジアセテート、第一スズオクトエート、第一スズオレエート、鉛オクトエート、亜鉛2-エチルヘキソエート、コバルトナフテネート、コバルトオクトエート、鉄2-エチルヘキソエート、ビス(アセチルアセトニル)ジ-イソプロピルチタネート、ジイソプロポキシチタンジ(エチルアセトアセテート)、テトラブチルチタネート、テトラノニルチタネート、エチレングリコールチタネート、テトラブチルジルコネート、エチルアミン、ヘキシルアミン、ジブチルアミン、ピペリジン、エチレンジアミン、オクタデシルアミンアセテート、p-トルエンスルホン酸および酢酸が含まれる。好ましい触媒は、有機スズ化合物、例えばジブチルスズジラウレートおよびジブチルスズジアセテートである。前記触媒は、好ましくは、成分ポリマーの約0.01~約1重量パーセント、より好ましくは約0.05~約0.5重量パーセント、最も好ましくは約0.1~0.2重量パーセントの量で添加される。
【0042】
グラフト重合反応混合物は、約40℃~75℃、より好ましくは50~65℃の範囲の温度に加熱される。反応は、1~5時間、好ましくは1~3時間の範囲の時間継続してもよい。
【0043】
前記のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマーは、ポリシランブロックの低い表面エネルギーのおかげで、ポリマーのより少ないひっかきに関して、表面外観を強化することができ、同時に、ポリアクリレートブロックのおかげで他のポリマーと良好な相容性を有することができる。1つの特定の用途において、本発明のブロックコポリマーは、ポリマー、例えばポリオレフィンとブレンドした場合に、そのひっかき抵抗性を増強することができる。
【0044】
さらなる負担なしに、当業者は、本明細書における記載を用いて、本発明をその最大限の範囲にまでわたって利用できると考えられる。以下の例は、特許請求された発明を実施する当業者に追加的なガイダンスを提供するために、含まれるものである。提供される例は単に、本願の教示に貢献する実施を代表するものである。従って、例は、添付の特許請求の範囲に定義されるような本発明をいかなる様式によっても限定することを意図しない。
【0045】
本明細書で使用される場合に、ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、Tg未満の温度での堅い、ガラス状の状態から、Tg超の温度での流動性またはゴム状の状態へポリマーが移行する温度である。ポリマーのTgは通常、示差走査熱分析(DSC)により、熱流量対温度転移の中間点をTg値として用いることによって、測定される。ブロックコポリマーに関しては、1つのTgをポリアクリレートブロックにより形成される相に関して、他のTgをポリシランブロックにより形成される相に関して測定または算出することができる。「平均Tg」(average Tg)または「全Tg」(overall Tg)は、そのような系に関して、与えられたTgの各相におけるポリマーの量の加重平均として算出することができる。
【0046】
合成ポリマーの分子量はほとんどの場合に、分子量に変動がある鎖の混合物であり、すなわち、多分散性により表される「分子量分布」が存在する。分子量の分布があることを前提とすると、与えられたサンプルの分子量の最も完全な特徴付けは、全体の分子量分布の決定である。この特徴付けは、分布の項を分け、その後、存在する各々の量を定量化することにより得られる。本明細書において使用される場合に、語句「数平均分子量(M
n)」および「重量平均分子量(M
w)」は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定する。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下も包含し得る。
1.一般構造(I)のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマー:
【化4】
[式中、
mおよびnは、互いに独立に、2~4000の範囲の整数であり;
pは、0~5の範囲の整数であり;
qは、1~5の範囲の整数であり;
R
1
は、水素、1~4個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状アルキル基を表し; R
2
は、水素、1~18個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状アルキル基を表し;
R
3
は、水素、ヒドロキシル基、1~4個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状アルキル基またはC
6
-C
14
-アリール基を表し;
Lは、単結合、または二価基-NH-、-C(O)NH-、-NHC(O)NH-、-OC(O)NH-もしくは-CH
2
-であり;
R
4
、R
5
およびR
6
は、互いに独立に、水素、1~8個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状アルキル基またはポリジメチルシロキサン残基を表し;そして
R
7
は、水素またはメチル基を表す。]。
2.mが100~1000の範囲の整数である、上記1に記載のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマー。
3.nが100~1000の範囲の整数である、上記1または2に記載のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマー。
4.pが0~3の範囲の整数である、上記1~3のいずれか1つに記載のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマー。
5.qが1~3の範囲の整数である、上記1~4のいずれか1つに記載のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマー。
6.ポリアクリレートブロック(A)とポリシランブロック(B)との重量比が、約1:1.8×10
7
~6204:1の範囲にある、上記1~5のいずれか1つに記載のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマー。
7.ポリジメチルシロキサン基の数平均分子量が、約500g/モル~約300,000g/モルの範囲にある、上記1~6のいずれか1つに記載のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマー。
8.ポリジメチルシロキサン(PDMS)と一般構造(I)のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマーの全重量との重量比が、1:2.8~1:24023の範囲にある、上記1~7のいずれか1つに記載のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマー。
9.R
1
が水素、メチルまたはエチルを表す、上記1~8のいずれか1つに記載のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマー。
10.R
2
が水素、メチルまたはエチルを表す、上記1~9のいずれか1つに記載のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマー。
11.R
3
が水素を表す、上記1~10のいずれか1つに記載のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマー。
12.R
4
、R
5
およびR
6
の少なくとも1つがポリジメチルシロキサン基を表す、上記1~11のいずれか1つに記載のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマー。
13.式「ブロック(A)」のアクリレートポリマーおよび式「ブロック(B)」のシランポリマーを最大120℃の反応温度で重合するステップを含む、上記1~12のいずれか1つに記載のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマーを製造する方法。
【化5】
[式中、m、n、p、q、L、R
1
~R
7
は上記1に定義されるとおりである。]
14.少なくとも1つのPDMS基をブロック(B)上にグラフト化することをさらに含む、上記13に記載の方法。
15.ポリマーのひっかき抵抗性を増強するための、上記1~12のいずれか1つに記載のポリアクリレート-ポリシランブロックコポリマーの使用。
【実施例】
【0047】
例1
a)シランポリマーの合成:
三つ口丸底(RB)フラスコに凝縮器および窒素でのパージのためのSchlenkラインを取り付けた。RBフラスコを、撹拌器およびブロック上で加熱するホットプレート上に置いた。予め加熱し乾燥したRBフラスコを通して窒素ガスをフラッシュし、重合に先立って中身の水分を除去した。
【0048】
約10グラムのメタクリルオキシプロピルトリメトキシシランをRBフラスコに取り、温度を63℃に上昇させた。アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(0.04g)をRBフラスコ中に滴加した。反応の開始を、反応混合物の粘度の増加を用いて特徴付ける。加熱及び撹拌をさらに2時間継続した。反応混合物を冷却した。
【0049】
b)アクリレートポリマーの合成:
約40グラムのメチルメタクリレート(MMA)を100ミリリットル(mL)のテトラヒドロフラン(THF)と窒素バージした三つ口RBフラスコに取った。反応混合物の温度を60℃に上昇させた。Schlenkラインを通して窒素雰囲気を維持した。上記温度に到達した後に、反応混合物に0.16gのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を添加した。反応の開始を固体形成により特徴付ける。反応を1時間継続した。さらなる特徴付けのために、1時間後に反応混合物からサンプルを回収した。この例から得られたアクリレートポリマーをNMRを用いて特徴付けした。NMRデータ 1H NMR (400MHz,CDCl3) δ 3.7-3.5[COOCH
3],δ 2.0-1.5[C(CH3)CH
2],δ 1.5-0.5[C(CH
3)CH2]によりポリマーの形成が確認される。分子量分析をポリスチレンスタンダードを用いるGPCを用いてクロロホルム溶媒において実施し、表1に列挙する。前記アクリレートポリマーは、209,000の重量平均分子量(Mw)、73,000g/モルの数平均分子量(Mn)および2.8の多分散性を有する。
【0050】
c)ブロックコポリマーの合成:
例1aのシランポリマーを含有する約1.6gの反応混合物を、不活性雰囲気下で取り、例1bのフラスコに添加した。反応をさらに1時間継続し、その後約10gのポリジメチルシロキサン(PDMS Mn500g/モル)をRBフラスコに0.2gのジブチルスズジラウレート(DBTDL)と一緒に添加した。反応をさらに2時間継続し、過剰メタノール中で析出させた。得られた生成物をその後、ろ過し、真空オーブン中において40℃で24時間乾燥して、微量のエタノールを生成物から除去した。そのようにして得られたブロックコポリマー生成物をその後秤量すると89%の収率が得られ、これをさらなる特徴付けのために使用した。ブロックコポリマーの形成をNMRにより[Si-CH
3]に相当するδ 0.3-0.0におけるピークの出現から確認する。ブロックコポリマーの分子量分析をクロロホルム溶媒においてポリスチレン標準を用いるGPCを用いて実施し、表1に列挙する。表1に示すように、前記ブロックコポリマーは240,000の重量平均分子量(Mw)、105,000の数平均分子量(Mn)および2.3の多分散性を有する。
【0051】
【0052】
前記ポリマーのTgを、DSC(Perkin Elmer DSC 6000)を用いて10℃/分の加熱速度で記録した。前記ブロックコポリマーは2つのTgを示す(PDMSに相当する第1のTgが約50℃~70℃に現れ、アクリレートに相当する第2のTgが140℃~150℃の間に現れる)。
【0053】
分解温度を知るために、ブロックコポリマーのTGA(熱重量分析)をPerkin Elmer TGA 4000を用いて測定した。ブロックコポリマーのサンプルを窒素雰囲気下で加熱し、最大700℃の温度への加熱を1分あたり20℃の速度で継続した。ブロックコポリマーのTGAは、250℃の温度での分解の開始を示し、これは従来のポリマー加工法におけるこれらのブロックコポリマーの適合性を示唆している。
【0054】
例2
a)シランポリマーの合成
約13gのヒドロキシエチルメタクリレートをRBフラスコにとり、そこに20.5gの3-イソシアナトプロピルトリメトキシシランを添加する。RBフラスコを窒素でフラッシュし、反応の期間中にわたって窒素バブリングを継続する。0.04gのジブチルスズジラウレート(DBTDL)を反応混合物へ添加し、温度を65℃に上昇させる。反応を約1時間継続する。反応の完了を、赤外線(IR)分光学法を用いて2270cm-1でのイソシアネートピークの消失により特徴付ける。
【0055】
10gの反応生成物を窒素下でRBフラスコにとり、0.03gのAIBNをそれに添加する。温度を63℃に上昇させ、反応を一定の加熱とともに約2時間、窒素雰囲気下で継続する。反応混合物を冷却し、さらなる使用まで窒素雰囲気下で保持する。
【0056】
b)アクリレートポリマーの合成:
約30gのMMAを、250mLのTHFを含むRBフラスコに取る。約0.4gのAIBNを前記フラスコに添加する。温度を63℃に上昇させ、加熱を1時間続ける。反応混合物中における固体形成により重合の開始を観察する。
【0057】
c)ブロックコポリマーの合成
例2aからの生成物を不活性条件下で例2bのRBフラスコに添加し、反応をさらに1時間継続する。約7.5gのPDMS(Mn 500g/モル)を0.18gのDBTDLと一緒に反応混合物に添加し、反応をさらに2時間継続する。反応の終わりに、ブロックコポリマー生成物を過剰のメタノールにおいて析出させ、乾燥する。当該生成物は、NMR、DSCおよびTGAによって特徴付けすることができる。
【0058】
例3
a)シランポリマーの合成
約10グラムのメタクリルオキシプロピルトリメトキシシランをRBフラスコに取り、温度を63℃に上昇させた。約0.04gのAIBNをRBフラスコ中にゆっくりと添加した。反応の開始を、反応混合物の粘度の増加によって特徴付けた。加熱及び撹拌をさらに2時間継続した。反応混合物を冷却した。
【0059】
b)アクリレートポリマーの合成
アクリル酸7.2gを、ディーン・スターク装置に取り付けられた100mgのトルエンを含有するRBフラスコ中に取った。1-オクタノール(13g)をそれに0.2gのパラトルエンスルホン酸(PTSA)と一緒に添加した。反応混合物を還流した。IR分光法により3200-3400cm-1の間の1-オクタノールのヒドロキシルピークの消失により、反応の完了を特徴付けた。反応を、ヒドロキシルピークの消失の4時間後に停止した。反応生成物をジクロロメタンに溶解し、水で洗浄した。それを無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮した。約20.2gの反応生成物を窒素雰囲気下でRBフラスコに取り、0.2gのAIBN触媒の存在下で2時間加熱した。生成物のごく一部をメタノールに添加して析出させ、ポリマー形成を確認した。当該生成物を冷却し、窒素雰囲気下で保持した。
【0060】
c)ブロックコポリマーの合成
例3bの生成物に2.7gの例3aの生成物を窒素雰囲気下で添加した。反応を1時間継続した。約2.7gのPDMS(Mn 500g/モル)を0.05gのDBTDLと一緒に反応混合物に添加し、2時間加熱を継続した。反応混合物を冷却し、過剰のメタノールにおいて析出させ、ろ過し、乾燥し、さらなる特徴付けのために使用した。