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特許7068270モデル材インクセット、サポート材組成物、インクセット、立体造形物および立体造形物の製造方法
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  • 特許-モデル材インクセット、サポート材組成物、インクセット、立体造形物および立体造形物の製造方法 図1
  • 特許-モデル材インクセット、サポート材組成物、インクセット、立体造形物および立体造形物の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】モデル材インクセット、サポート材組成物、インクセット、立体造形物および立体造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/112 20170101AFI20220509BHJP
   B29C 64/40 20170101ALI20220509BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20220509BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20220509BHJP
   B33Y 70/10 20200101ALI20220509BHJP
【FI】
B29C64/112
B29C64/40
B33Y70/00
C08F220/18
B33Y70/10
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2019504549
(86)(22)【出願日】2018-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2018008134
(87)【国際公開番号】W WO2018164012
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2017042135
(32)【優先日】2017-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100172605
【弁理士】
【氏名又は名称】岩木 郁子
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 克幸
(72)【発明者】
【氏名】出雲 妥江子
(72)【発明者】
【氏名】大川 将勝
(72)【発明者】
【氏名】本郷 健太
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-067770(JP,A)
【文献】特開2017-031249(JP,A)
【文献】特開2017-001226(JP,A)
【文献】特開2016-026915(JP,A)
【文献】特開2016-112824(JP,A)
【文献】国際公開第2016/199611(WO,A1)
【文献】特開2017-024259(JP,A)
【文献】特開2010-155926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式による光造形法において使用されるモデル材インクセットであって、モデル材インクとしてカラーインクとクリアインクとを含み、
カラーインクおよびクリアインクはそれぞれエチレン性不飽和単量体を含有し、
カラーインクは、エチレン性不飽和単量体として、カラーインクの総量に基づいて、30~75質量%の(メタ)アクリレートおよび10~50質量%の(メタ)アクリレートではない窒素原子を含有するエチレン性不飽和単量体を含有し、
クリアインクは、エチレン性不飽和単量体として、クリアインクの総量に基づいて30~80質量%の(メタ)アクリレートを含有し、ここで、クリアインクにおける、(メタ)アクリレートではない窒素原子を含有するエチレン性不飽和単量体の含有量はクリアインクの総量に基づいて10質量%未満であり、クリアインクにおける単官能エチレン性不飽和単量体の含有量は、クリアインクの総量に基づいて30~70質量%である、
モデル材インクセット。
【請求項2】
(メタ)アクリレートではない窒素原子を含有するエチレン性不飽和単量体は、(メタ)アクリルアミドおよびN-ビニルラクタム類からなる群から選択される、請求項1に記載のモデル材インクセット。
【請求項3】
カラーインクおよびクリアインクはそれぞれ、エチレン性不飽和単量体として、単官能エチレン性不飽和単量体および二官能以上のエチレン性不飽和単量体を含有する、請求項1または2に記載のモデル材インクセット。
【請求項4】
カラーインクにおける単官能エチレン性不飽和単量体の含有量は、カラーインクの総量に基づいて30~70質量%である、請求項3に記載のモデル材インクセット。
【請求項5】
カラーインクにおける二官能以上のエチレン性不飽和単量体の含有量は、カラーインクの総量に基づいて5~50質量%である、請求項3または4に記載のモデル材インクセット。
【請求項6】
クリアインクにおける二官能以上のエチレン性不飽和単量体の含有量は、クリアインクの総量に基づいて5~50質量%である、請求項3~のいずれかに記載のモデル材インクセット。
【請求項7】
カラーインクおよびクリアインクはそれぞれ、(メタ)アクリレートとして脂環式基および/または芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートを含有する、請求項1~のいずれかに記載のモデル材インクセット。
【請求項8】
クリアインクは、(メタ)アクリレートとしてフェノキシエチルアクリレートおよび/またはエトキシ化フェニルアクリレートを含有する、請求項1~のいずれかに記載のモデル材インクセット。
【請求項9】
カラーインクは、(メタ)アクリレートではない窒素原子を含有するエチレン性不飽和単量体としてアクリロイルモルホリンおよび/またはヒドロキシエチルアクリルアミドを含有する、請求項1~のいずれかに記載のモデル材インクセット。
【請求項10】
カラーインクおよびクリアインクはそれぞれ重合性オリゴマーをさらに含有する、請求項1~のいずれかに記載のモデル材インクセット。
【請求項11】
重合性オリゴマーはウレタン基を有する、請求項10に記載のモデル材インクセット。
【請求項12】
カラーインクおよびクリアインクのそれぞれにおける重合性オリゴマーの含有量は、各インクの総量に基づいて10~45質量%である、請求項10または11に記載のモデル材インクセット。
【請求項13】
カラーインクおよびクリアインクはそれぞれ、各インクの総量に基づいて2~15質量%の光重合開始剤をさらに含有する、請求項1~12のいずれかに記載のモデル材インクセット。
【請求項14】
カラーインクおよびクリアインクは表面調整剤をさらに含有する、請求項1~13のいずれかに記載のモデル材インクセット。
【請求項15】
カラーインクの構成は、シアン、マゼンタおよびイエローを含む、請求項1~14のいずれかに記載のモデル材インクセット。
【請求項16】
カラーインクの構成は、ホワイトおよび/またはブラックをさらに含む、請求項15に記載のモデル材インクセット。
【請求項17】
シアンはC.I.Pigment Blue15:3およびC.I.Pigment Blue15:4からなる群から選択される少なくとも1種の顔料を含み、
マゼンタはC.I.Pigment Red122、C.I.Pigment Red202およびC.I.Pigment Violet19からなる群から選択される少なくとも1種の顔料を含み、
イエローはC.I.Pigment Yellow150およびC.I.Pigment Yellow155からなる群から選択される少なくとも1種の顔料を含み、
ホワイトは酸化チタンを含み、および/または
ブラックはカーボンブラックを含む、
請求項15または16に記載のモデル材インクセット。
【請求項18】
酸化チタンはルチル型酸化チタンである、請求項17に記載のモデル材インクセット。
【請求項19】
請求項1~18のいずれかに記載のモデル材インクセットと、
単官能エチレン性不飽和単量体、ならびに、オキシエチレン基および/またはオキシプロピレン基を有するポリアルキレングリコールを含む、サポート材組成物
とを含む、インクジェット方式による光造形用のインクセット。
【請求項20】
サポート材組成物は、サポート材組成物の総量に基づいて、
20~50質量%の単官能エチレン性不飽和単量体、ならびに、
20~50質量%のオキシエチレン基および/またはオキシプロピレン基を有するポリアルキレングリコール
を含む、請求項19に記載のインクセット。
【請求項21】
サポート材組成物は、サポート材組成物の総量に基づいて2~20質量%の光重合開始剤をさらに含有する、請求項19または20に記載のインクセット。
【請求項22】
サポート材組成物は、サポート材組成物の総量に基づいて3~35質量%の水溶性有機溶剤をさらに含有する、請求項1921のいずれかに記載のインクセット。
【請求項23】
請求項1~18のいずれかに記載のモデル材インクセットに含まれるカラーインク及びクリアインクの光硬化物から構成される、立体造形物。
【請求項24】
請求項1922のいずれかに記載のインクセットを用いて、インクジェット方式による光造形法により立体造形物を製造する、立体造形物の製造方法。
【請求項25】
パーソナルコンピュータと、パーソナルコンピュータに接続される三次元造形装置とを少なくとも備える三次元造形システムを用いる、請求項24に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は日本国特許出願第2017-042135号(出願日:2017年3月6日)についてパリ条約上の優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、その全体が本明細書中へ組み込まれるものとする。
本発明は、インクジェット方式による光造形法において使用されるモデル材インクセット、サポート材組成物、インクセット、ならびに、モデル材インクセットに含まれるモデル材インクの光硬化物から構成される立体造形物および立体造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、立体造形物を作成する方法として、紫外線等を照射することにより硬化する光硬化性樹脂組成物を用いた造形法が広く知られている。具体的に、このような造形法では、光硬化性樹脂組成物に紫外線等を照射して硬化させることにより、所定の形状を有する硬化層を形成する。その後、該硬化層の上にさらに光硬化性樹脂組成物を供給して硬化させることにより、新たな硬化層を形成する。前記工程を繰り返し行うことにより、立体造形物を作製する。
【0003】
前記造形法の中でも、近年、ノズルから光硬化性樹脂組成物を吐出させ、その直後に紫外線等を照射して硬化させることにより、所定の形状を有する硬化層を形成するインクジェット方式による光造形法(以下、インクジェット光造形法という)が報告されている。インクジェット光造形法は、光硬化性樹脂組成物を貯留する大型の樹脂液槽および暗室の設置が不要である。そのため、従来法に比べて、造形装置を小型化することができる。インクジェット光造形法は、CAD(Computer Aided Design)データに基づいて、自由に立体造形物を作成可能な3Dプリンターによって実現される造形法として、注目されている。
【0004】
光硬化性樹脂組成物のインクジェット方式における吐出性を向上する観点で、例えば特許文献1には、インクジェット方式による光造形法に好適であるとされる、特定の成分(A)~(D)を含有し、特定の成分(E)および(F)を所定量以上含有しない光硬化性液状樹脂組成物が記載されている。また、インクジェット方式で光造形物を製造する際には、通常モデル材とサポート材とが併用されるが、サポート材の除去性を向上する必要があり、特許文献2には、特定のサポート材と併用される、特定の範囲のSP値の加重平均値を有する硬化性樹脂成分を含むモデル材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-155926号公報
【文献】特開2012-111226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、インクジェット方式による光造形法において、種々の提案がなされているが、インクの光硬化物である造形物の外観品質の向上と、強度の向上に対する要求はなお存在する。本発明者らは、外観品質と強度に優れる造形物を提供することを課題としてインクについて検討した。その結果、インクの光硬化物である造形物において、表面の粗さが造形物の外観品質、特に表面の質感に影響することに着目し、カラーインクと共にクリアインクを使用する場合には上記外観品質を向上できることを見出した。しかし、この場合、特に表面の質感を向上するという外観品質の問題は解決されるものの、クリアインクの透明性が高いために、光硬化の際および経時的に造形物の色変化が目立ちやすいという課題があることがわかった。そして、カラーインクとクリアインクを共に使用する場合に、造形物の強度を十分に高めつつ、光硬化の際および経時的に造形物の色変化を防止することは困難であった。そのため、本発明は、カラーインクおよびクリアインクの光硬化物である造形物の強度を十分に高めると共に、造形物の色変化を防止することができる、インクセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、インクジェット方式による光造形法において使用されるモデル材インクの組成について鋭意検討を行った。その結果、特定の組成を有するカラーインクとクリアインクとをモデル材インクとして含むモデル材インクセットを用いることにより、カラーインクおよびクリアインクの光硬化物である造形物の強度を十分に高めると共に、造形物の色変化を防止することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
[1]インクジェット方式による光造形法において使用されるモデル材インクセットであって、モデル材インクとしてカラーインクとクリアインクとを含み、
カラーインクおよびクリアインクはそれぞれエチレン性不飽和単量体を含有し、
カラーインクは、エチレン性不飽和単量体として、カラーインクの総量に基づいて、30~75質量%の(メタ)アクリレートおよび10~50質量%の(メタ)アクリレートではない窒素原子を含有するエチレン性不飽和単量体を含有し、
クリアインクは、エチレン性不飽和単量体として、クリアインクの総量に基づいて30~80質量%の(メタ)アクリレートを含有し、ここで、クリアインクにおける、(メタ)アクリレートではない窒素原子を含有するエチレン性不飽和単量体の含有量はクリアインクの総量に基づいて10質量%未満である、
モデル材インクセット。
[2](メタ)アクリレートではない窒素原子を含有するエチレン性不飽和単量体は、(メタ)アクリルアミドおよびN-ビニルラクタム類からなる群から選択される、前記[1]に記載のモデル材インクセット。
[3]カラーインクおよびクリアインクはそれぞれ、エチレン性不飽和単量体として、単官能エチレン性不飽和単量体および二官能以上のエチレン性不飽和単量体を含有する、前記[1]または[2]に記載のモデル材インクセット。
[4]カラーインクにおける単官能エチレン性不飽和単量体の含有量は、カラーインクの総量に基づいて30~70質量%である、前記[3]に記載のモデル材インクセット。
[5]カラーインクにおける二官能以上のエチレン性不飽和単量体の含有量は、カラーインクの総量に基づいて5~50質量%である、前記[3]または[4]に記載のモデル材インクセット。
[6]クリアインクにおける単官能エチレン性不飽和単量体の含有量は、クリアインクの総量に基づいて20~70質量%である、前記[3]~[5]のいずれかに記載のモデル材インクセット。
[7]クリアインクにおける二官能以上のエチレン性不飽和単量体の含有量は、クリアインクの総量に基づいて5~50質量%である、前記[3]~[6]のいずれかに記載のモデル材インクセット。
[8]カラーインクおよびクリアインクはそれぞれ、(メタ)アクリレートとして脂環式基および/または芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートを含有する、前記[1]~[7]のいずれかに記載のモデル材インクセット。
[9]クリアインクは、(メタ)アクリレートとしてフェノキシエチルアクリレートおよび/またはエトキシ化フェニルアクリレートを含有する、前記[1]~[8]のいずれかに記載のモデル材インクセット。
[10]カラーインクは、(メタ)アクリレートではない窒素原子を含有するエチレン性不飽和単量体としてアクリロイルモルホリンおよび/またはヒドロキシエチルアクリルアミドを含有する、前記[1]~[9]のいずれかに記載のモデル材インクセット。
[11]カラーインクおよびクリアインクはそれぞれ重合性オリゴマーをさらに含有する、前記[1]~[10]のいずれかに記載のモデル材インクセット。
[12]重合性オリゴマーはウレタン基を有する、前記[11]に記載のモデル材インクセット。
[13]カラーインクおよびクリアインクのそれぞれにおける重合性オリゴマーの含有量は、各インクの総量に基づいて10~45質量%である、前記[11]または[12]に記載のモデル材インクセット。
[14]カラーインクおよびクリアインクはそれぞれ、各インクの総量に基づいて2~15質量%の光重合開始剤をさらに含有する、前記[1]~[13]のいずれかに記載のモデル材インクセット。
[15]カラーインクおよびクリアインクは表面調整剤をさらに含有する、前記[1]~[14]のいずれかに記載のモデル材インクセット。
[16]カラーインクの構成は、シアン、マゼンタおよびイエローを含む、前記[1]~[15]のいずれかに記載のモデル材インクセット。
[17]カラーインクの構成は、ホワイトおよび/またはブラックをさらに含む、前記[16]に記載のモデル材インクセット。
[18]シアンはC.I.Pigment Blue15:3およびC.I.Pigment Blue15:4からなる群から選択される少なくとも1種の顔料を含み、
マゼンタはC.I.Pigment Red122、C.I.Pigment Red202およびC.I.Pigment Violet19からなる群から選択される少なくとも1種の顔料を含み、
イエローはC.I.Pigment Yellow150およびC.I.Pigment Yellow155からなる群から選択される少なくとも1種の顔料を含み、
ホワイトは酸化チタンを含み、および/または
ブラックはカーボンブラックを含む、
前記[16]または[17]に記載のモデル材インクセット。
[19]酸化チタンはルチル型酸化チタンである、前記[18]に記載のモデル材インクセット。
[20]前記[1]~[19]のいずれかに記載のモデル材インクセットと共に使用されるサポート材組成物であって、
単官能エチレン性不飽和単量体、ならびに、
オキシエチレン基および/またはオキシプロピレン基を有するポリアルキレングリコールを含む、サポート材組成物。
[21]サポート材組成物の総量に基づいて、
20~50質量%の単官能エチレン性不飽和単量体、ならびに、
20~50質量%のオキシエチレン基および/またはオキシプロピレン基を有するポリアルキレングリコール
を含む、前記[20]に記載のサポート材組成物。
[22]サポート材組成物の総量に基づいて2~20質量%の光重合開始剤をさらに含有する、前記[20]または[21]に記載のサポート材組成物。
[23]サポート材組成物の総量に基づいて3~35質量%の水溶性有機溶剤をさらに含有する、前記[20]~[22]のいずれかに記載のサポート材組成物。
[24]前記[1]~[19]のいずれかに記載のモデル材インクセットと、前記[20]~[23]のいずれかに記載のサポート材組成物とを含む、インクジェット方式による光造形用のインクセット。
[25]前記[1]~[19]のいずれかに記載のモデル材インクセットに含まれるモデル材インクの光硬化物から構成される、立体造形物。
[26]前記[24]に記載のインクセットを用いて、インクジェット方式による光造形法により立体造形物を製造する、立体造形物の製造方法。
[27]パーソナルコンピュータと、パーソナルコンピュータに接続される三次元造形装置とを少なくとも備える三次元造形システムを用いる、前記[26]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のモデル材インクセットによれば、カラーインクおよびクリアインクの光硬化物である造形物の強度を十分に高めると共に、造形物の色変化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の立体造形物の製造方法の一実施形態における工程(I)を模式的に示す図である。
図2図2は、本発明の立体造形物の製造方法の一実施形態における工程(II)を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。
【0012】
1.モデル材インクセット
本発明のモデル材インクセットは、インクジェット方式による光造形法において使用されるモデル材インクセットであって、モデル材インクとしてカラーインクとクリアインクとを含む。本発明のモデル材インクセットは、カラーインクとクリアインクとを含むことにより、造形物の外観、特に表面の質感を向上させることができる。ここで、本発明において、モデル材インクは、インクジェット方式による光造形法において光硬化されることによりモデル材を構成するための組成物である。モデル材インクであるカラーインクは、モデル材に含まれる着色された硬化物を構成するために使用される組成物である。また、モデル材インクであるクリアインクは、モデル材に含まれる着色されていないまたはわずかに着色されるのみである硬化物を構成するために使用される組成物である。
【0013】
〔エチレン性不飽和単量体〕
本発明のモデル材インクセットに含まれるカラーインクおよびクリアインクはそれぞれ、エチレン性不飽和単量体を含有する。エチレン性不飽和単量体は、エネルギー線により硬化する特性を有するエチレン性二重結合を分子内に少なくとも1個有する重合性モノマーである。エチレン性不飽和単量体は分子内にエチレン性二重結合を1個有する単官能エチレン性不飽和単量体であってもよいし、分子内にエチレン性二重結合を2個以上有する多官能エチレン性不飽和単量体であってもよい。エチレン性不飽和単量体としては、例えば(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N-ビニルラクタム、ビニルエーテル、マレイミド等が挙げられる。本明細書において、「(メタ)アクリレート」はアクリレートおよびメタクリレートの双方またはいずれかを表し、「(メタ)アクリルアミド」はアクリルアミドおよびメタクリルアミドの双方またはいずれかを表す。
【0014】
本発明のモデル材インクセットに含まれるカラーインクは、エチレン性不飽和単量体として、カラーインクの総量に基づいて、30~75質量%の(メタ)アクリレートおよび10~50質量%の(メタ)アクリレートではない窒素原子を含有するエチレン性不飽和単量体を含有する。なお、以下において、(メタ)アクリレートではない窒素原子を含有するエチレン性不飽和単量体を「窒素原子含有エチレン性不飽和単量体」とも称する。本明細書において「窒素原子含有エチレン性不飽和単量体」は、(メタ)アクリレートではなく、窒素原子を含有する(メタ)アクリレートは「窒素原子含有エチレン性不飽和単量体」には包含されない。
【0015】
本発明のモデル材インクセットに含まれるクリアインクは、エチレン性不飽和単量体として、クリアインクの総量に基づいて30~80質量%の(メタ)アクリレートを含有する。また、クリアインクは、窒素原子含有エチレン性不飽和単量体を含有してもよいし、含有しなくてもよいが、クリアインクにおける窒素原子含有エチレン性不飽和単量体の含有量はクリアインクの総量に基づいて10質量%未満である。
【0016】
上記特徴を有するカラーインクとクリアインクとを含む本発明のモデル材インクセットは、造形物の外観品質を向上させ、造形物の強度を十分に高めると共に、造形物の色変化を防止することができる。
【0017】
カラーインクは、30~75質量%の(メタ)アクリレートを含む。カラーインクに含まれる(メタ)アクリレートの量が30質量%未満であると、インクの粘度が高くなりすぎるため、インクジェットノズルから吐出するに十分な吐出性が得られない。また、カラーインクに含まれる(メタ)アクリレートの量が75質量%を超えると、造形物の強度および硬度が低下して、寸法安定な造形物を得ることができない。カラーインクに含まれる(メタ)アクリレートの量は、インクを低粘度に設計し、吐出性を向上しやすい観点からは、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上である。また上記の量は、造形物の強度および硬度を高めやすい観点からは、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0018】
カラーインクは、10~50質量%の(メタ)アクリレートではない窒素原子含有エチレン性不飽和単量体を含む。カラーインクに含まれる窒素原子含有エチレン性不飽和単量体の量が10質量%未満であると、造形物の強度および硬度が低下して、寸法安定な造形物を得ることができない。また、カラーインクに含まれる窒素原子含有エチレン性不飽和単量体の量が50質量%を超えると、インクの粘度が高くなりすぎるため、インクジェットノズルから吐出するに十分な吐出性が得られない。カラーインクに含まれる窒素原子含有エチレン性不飽和単量体の量は、造形物に強度および硬度を付与しやすい観点からは、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。また上記の量は、インクを低粘度に設計しやすい観点からは、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0019】
クリアインクは、30~80質量%の(メタ)アクリレートを含む。クリアインクに含まれる(メタ)アクリレートの量が30質量%未満であると、インクの粘度が高くなりすぎるため、インクジェットノズルから吐出するに十分な吐出性が得られない。また、クリアインクに含まれる(メタ)アクリレートの量が80質量%を超えると、造形物の強度および硬度が低下して、寸法安定な造形物を得ることができない。クリアインクに含まれる(メタ)アクリレートの量は、インクを低粘度に設計しやすい観点からは、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上である。また上記の量は、造形物に強度および硬度を付与しやすい観点からは、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。
【0020】
クリアインクは、窒素原子含有エチレン性不飽和単量体を含有してもしなくてもよいが、クリアインクにおける窒素原子含有エチレン性不飽和単量体の含有量はクリアインクの総量に基づいて10質量%未満である。クリアインクに含まれる(メタ)アクリレートの量が10質量%を超えると、クリアインクをエネルギー線により硬化した硬化物の色相において黄色の色調が強くなる過ぎるため、最終的に得られる立体造形物の色変化が生じる。クリアインクにおける窒素原子含有エチレン性不飽和単量体の含有量は、最終的に得られる立体造形物の外観品質を高めやすい観点から、好ましくは8質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。クリアインクにおける窒素原子含有エチレン性不飽和単量体の含有量は、少なければ少ないほどよく、その下限は特に限定されず、0質量%以上であればよい。
【0021】
<(メタ)アクリレート>
カラーインクおよびクリアインクに含まれる(メタ)アクリレートは、単官能の(メタ)アクリレート(単官能エチレン性不飽和単量体)であってもよいし、多官能の(メタ)アクリレート(多官能エチレン性不飽和単量体)であってもよい。(メタ)アクリレートとしては、直鎖状または分枝状のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、脂環式基および/または芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレート、複素環式基を有する(メタ)アクリレート、直鎖状または分枝状のアルキレン基を有する(メタ)アクリレート、直鎖状または分枝状のアルキレングリコール基を有するアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリレートとして、これらを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、脂環式基とは、炭素原子が環状に結合した脂肪族の環状構造を含む基であり、芳香族炭化水素基とは、炭素原子が環状に結合した芳香族の環状構造を含む基であり、複素環式基とは、炭素原子および1以上のヘテロ原子が環状に結合した構造を含む基である。
【0022】
アルキル(メタ)アクリレートにおける直鎖状または分枝状のアルキル基としては、好ましくは炭素数4~30、より好ましくは炭素数6~25のアルキル基が挙げられ、具体的には、オクチル基、イソオクチル基、2-エチルへキシル基、ノニル基、イソノニル基、ラウリル基、ステアリル基、イソステアリル基、t-ブチル基等が挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートは、通常、単官能の(メタ)アクリレートである。
【0023】
脂環式基および/または芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートにおける脂環式基および芳香族炭化水素基としては、好ましくは炭素数6~20、より好ましくは炭素数8~14の脂環式基および芳香族炭化水素基が挙げられる。脂環式基としては、例えば、シクロヘキシル基、4-t-ブチルシクロヘキシル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、トリシクロデシル基、アダマンチル基等が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、例えばフェノキシエチル基、エトキシ化フェニル基(例えば2-(2-エトキシエトキシ)フェニル)基、フェニルフェノール基、フルオレン基等が挙げられる。脂環式基および/または芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートは、単官能または多官能のいずれであってもよいが、好ましくは単官能の(メタ)アクリレートである。
【0024】
複素環式基を有する(メタ)アクリレートにおける複素環式基としては、好ましくは炭素数5~20、より好ましくは炭素数5~14の複素環式基が挙げられる。複素環式基を有する(メタ)アクリレートとしては、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、4-(メタ)アクリロイルオキシメチル-2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン、4-(メタ)アクリロイルオキシメチル-2-シクロヘキシル-1,3-ジオキソラン等が挙げられる。複素環式基を有する(メタ)アクリレートは、単官能または多官能のいずれであってもよいが、好ましくは単官能の(メタ)アクリレートである。
【0025】
直鎖状または分枝状のアルキレン基を有する(メタ)アクリレートにおけるアルキレン基としては、好ましくは炭素数2~30、より好ましくは炭素数3~20のアルキレン基が挙げられる。このようなアルキレン基としては、例えばペンタエリスリトール基、ジペンタエリスリトール基、ジメチロールトリシクロデカン基等が挙げられる。直鎖状または分枝状のアルキレン基を有する(メタ)アクリレートとしては、具体的には、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。直鎖状または分枝状のアルキレン基を有する(メタ)アクリレートは、通常、多官能の(メタ)アクリレートであり、好ましくは2~10個、より好ましくは2~6個の(メタ)アクリレート基を有する多官能(メタ)アクリレートである。
【0026】
直鎖状または分枝状のアルキレングリコール基を有する(メタ)アクリレートにおけるアルキレングリコール基としては、好ましくは炭素数4~25、より好ましくは炭素数6~20のアルキレングリコール基が挙げられる。アルキレングリコール基としては、例えばトリプロピレングリコール基、1,6-ヘキサンジオール基、ネオペンチルグリコール基、1,9-ノナンジオール基、3-メチル-1,5-ペンタンジオール基、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール基、ペンタエリスリトール基、ジエチレングリコール基、トリエチレングリコール基等の(n)エチレングリコール基、ジプロピレングリコール基、トリプロピレングリコール基等の(n)プロピレングリコール基が挙げられる。直鎖状または分枝状のアルキレングリコール基を有する(メタ)アクリレートとしては、具体的には、上記アルキレングリコールのジ(メタ)アクリレート、上記アルキレングリコールのトリ(メタ)アクリレートが挙げられる。直鎖状または分枝状のアルキレングリコール基を有する(メタ)アクリレートは、単官能または多官能のいずれであってもよいが、好ましくは多官能の(メタ)アクリレートであり、より好ましくは1~6個、さらに好ましくは2または3個の(メタ)アクリレート基を有する多官能(メタ)アクリレートである。
【0027】
カラーインクおよびクリアインクは、モデル材インクの粘度を低下させ、インクジェットにおける吐出性を高めやすい観点、および、立体造形物の強度および硬度を高めやすい観点から、それぞれ、(メタ)アクリレートとして、脂環式基および/または芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートを含有することが好ましい。
【0028】
カラーインクおよびクリアインクは、モデル材インクの粘度を低減しインクジェットにおける吐出性を高めやすい観点から、(メタ)アクリレートとして、脂環式基を有する(メタ)アクリレートを含有することが好ましく、イソボルニル(メタ)アクリレートおよび/またはシクロヘキシル(メタ)アクリレートを含有することがより好ましい。
【0029】
クリアインクは、立体造形物の強度および硬度を高めやすい観点から、(メタ)アクリレートとして、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートを含有することが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレートおよび/またはエトキシ化フェニル(メタ)アクリレート(例えば2-(2-エトキシエトキシ)フェニル(メタ)アクリレート)を含有することがより好ましい。
【0030】
<窒素原子含有エチレン性不飽和単量体>
カラーインクに含まれる、(メタ)アクリレートではない窒素原子を含有するエチレン性不飽和単量体は、単官能の窒素原子含有エチレン性不飽和単量体(単官能エチレン性不飽和単量体)であってもよいし、多官能の窒素原子含有エチレン性不飽和単量体(多官能エチレン性不飽和単量体)であってもよい。窒素原子含有エチレン性不飽和単量体としては、例えば(メタ)アクリルアミド、N-ビニルラクタム類、マレイミド、N-ビニルホルムアミドが挙げられる。
【0031】
(メタ)アクリルアミドとしては、次の式(I):
【化1】
[式中、Qはn価の連結基を表し、Qはそれぞれ独立して水素原子または1価の有機基を表し、Rはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、nは1または2以上の整数を表す]
で示される単官能または多官能の(メタ)アクリルアミド化合物、および、次の式(II):
【化2】
[式中、Qは置換基を有してもよい、N原子と共に脂環式構造を形成する2価の連結基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す]
で示される単官能化合物が挙げられる。(メタ)アクリルアミドは、インクを低粘度に設計し、吐出性を向上しやすい観点から単官能であることが好ましい。式(I)または式(II)で示される単官能の化合物としては、例えば、式(I)中のQが好ましくは炭素数1~10の直鎖状または分枝状のアルキル基であり、Qが好ましくは炭素数1~10の直鎖状または分枝状のアルキル基および/または水素原子である(メタ)アクリルアミド〔例えば、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド等〕、式(I)中のQが好ましくは炭素数2~10の直鎖状または分枝状のヒドロキシアルキル基を有し、Qが水素原子であるヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド〔例えば、ヒドロキシエチルアクリルアミド、ヒドロキシプロピルアクリルアミド等〕、式(I)中のQが好ましくは炭素数3~20の脂環式基を有し、Qが好ましくは炭素数1~10の直鎖状または分枝状のアルキル基および/または水素原子である(メタ)アクリルアミド、式(II)中のQが好ましくは炭素数4~20を有し脂環式基を構成する(メタ)アクリルアミド〔例えばアクリロイルモルホリン〕が挙げられる。
【0032】
N-ビニルラクタム類としては、単官能または多官能のいずれであってもよいが、例えば次の式(III):
【化3】
[式中、mは1~5の整数を表す]
で示される化合物が挙げられる。原材料を入手しやすい観点から、mは2~4の整数であることが好ましく、2または4であることがより好ましい。このようなN-ビニルラクタム類としては、具体的にはN-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム等が挙げられる。
【0033】
カラーインクに含まれる(メタ)アクリレートではない窒素原子含有エチレン性不飽和単量体は、立体造形物の強度および硬度を高めやすい観点から、(メタ)アクリルアミドおよびN-ビニルラクタム類からなる群から選択されることが好ましく、(メタ)アクリルアミドであることがより好ましく、式(II)中のQが炭素数4~20を有し脂環式基を構成する(メタ)アクリルアミド(特にアクリロイルモルホリン)であることがさらに好ましい。
【0034】
<単官能および二官能以上のエチレン性不飽和単量体>
本発明のモデル材インクセットに含まれるカラーインクおよびクリアインクはそれぞれ、エチレン性不飽和単量体として、単官能エチレン性不飽和単量体および二官能以上のエチレン性不飽和単量体を含有することが好ましい。単官能エチレン性不飽和単量体としては、上記に述べた単官能の(メタ)アクリレート、単官能の窒素原子含有エチレン性不飽和単量体が挙げられる。二官能以上のエチレン性不飽和単量体としては、上記に述べた多官能の(メタ)アクリレート、多官能の窒素原子含有エチレン性不飽和単量体が挙げられる。本発明のモデル材インクセットに含まれるカラーインクおよびクリアインクが単官能エチレン性不飽和単量体に加えて二官能以上のエチレン性不飽和単量体を含有する場合、モデル材インクの光硬化物である造形物(モデル材)の脆さが低減され、強度を向上させやすい。
【0035】
カラーインクにおける単官能エチレン性不飽和単量体の含有量は、カラーインクの総量に基づいて好ましくは30~70質量%、より好ましくは35~70質量%、さらに好ましくは40~65質量%である。カラーインクにおける単官能エチレン性不飽和単量体の含有量が上記の下限以上である場合、インクの粘度を低減させ吐出性を高めやすいため好ましい。また、上記の上限以下である場合、カラーインクの光硬化物の強度および硬度を高めやすく、また、造形物の表面のべたつきを抑制しやすいため好ましい。
【0036】
カラーインクにおける二官能以上のエチレン性不飽和単量体の含有量は、カラーインクの総量に基づいて好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~40質量%、さらに好ましくは10~35質量%である。カラーインクにおける二官能以上のエチレン性不飽和単量体の含有量が上記の下限以上である場合、カラーインクの光硬化物の脆さを低減しやすく、造形物の強度および硬度を向上させやすいため好ましい。また、上記の上限以下である場合、カラーインクの光硬化物における硬化収縮を抑制しやすく、造形物の寸法精度(あるいは反り防止性)が向上するため好ましい。
【0037】
クリアインクにおける単官能エチレン性不飽和単量体の含有量は、クリアインクの総量に基づいて好ましくは20~70質量%、より好ましくは25~70質量%、さらに好ましくは30~65質量%である。クリアインクにおける単官能エチレン性不飽和単量体の含有量が上記の下限以上である場合、クリアインクを低粘度に設計しやすいため好ましい。また、上記の上限以下である場合、造形物の硬度および強度を高めやすいため好ましい。
【0038】
クリアインクにおける二官能以上のエチレン性不飽和単量体の含有量は、クリアインクの総量に基づいて好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~40質量%、さらに好ましくは10~35質量%である。クリアインクにおける二官能以上のエチレン性不飽和単量体の含有量が上記の下限以上である場合、造形物の硬度および強度を高めやすいため好ましい。また、上記の上限以下である場合、造形物における硬化収縮や反りを低減し、寸法精度を向上しやすいため好ましい。
【0039】
本発明の好ましい一実施形態において、カラーインクは、上記に述べた好ましくは脂環式基を有する単官能の(メタ)アクリレートと、多官能の(メタ)アクリレートと、単官能の窒素原子含有エチレン性不飽和単量体とを含有することが好ましい。本発明のカラーインクが好ましくは脂環式基を有する単官能の(メタ)アクリレートと、多官能の(メタ)アクリレートとを含有する場合、インクの粘度を低減させ吐出性を高めやすいと同時に、モデル材インクの光硬化物であるモデル材の脆さを低減し、造形物の強度および硬度を向上させやすい。さらに、本発明のカラーインクが単官能の窒素原子含有エチレン性不飽和単量体を含有する場合には、モデル材インクの光硬化物である造形物の強度を向上させやすい。この実施形態において、上記効果を得やすい観点から、カラーインクにおける脂環式基を有する単官能の(メタ)アクリレートの含有量は、好ましくは5~75質量%、より好ましくは10~60質量%であり、多官能の(メタ)アクリレートの含有量は好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~45質量%であり、単官能の窒素原子含有エチレン性不飽和単量体の含有量は、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~40質量%である。
【0040】
また、本発明の好ましい一実施形態において、クリアインクは、上記に述べた単官能の(メタ)アクリレートと、多官能の(メタ)アクリレートとを含有することが好ましい。単官能の(メタ)アクリレートとして、上記に述べた脂環式基を有する(メタ)アクリレートおよび/または芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートを含有することがより好ましい。この実施形態において、クリアインクにおける単官能の(メタ)アクリレートの含有量は、好ましくは30~80質量%、より好ましくは40~70質量%であり、多官能の(メタ)アクリレートの含有量は好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~40質量%である。
【0041】
〔重合性オリゴマー〕
本発明のモデル材インクセットに含まれるカラーインクおよびクリアインクはそれぞれ、重合性オリゴマーをさらに含有することが好ましい。モデル材インクが重合性オリゴマーを含有することにより、造形物の脆さを低減して、強度および硬度を付与しやすく、造形物を曲げても割れにくくなる。また、造形物の表面のタック性も低減しやすくなる。
【0042】
重合性オリゴマーは、エネルギー線により硬化する特性を有する光硬化性成分である。ここで、本明細書中において「オリゴマー」とは、重量平均分子量Mwが1,000~10,000のものをいう。より好ましくは、重量平均分子量Mwの下限値が1,000を超えるものをいう。重量平均分子量Mwは、GPC(Gel Permeation Chromatography)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。モデル材インクが重合性オリゴマーを含有する場合、重合性オリゴマーとして1種類の化合物を含有してもよいし、2種以上の化合物を含有してもよい。
【0043】
重合性オリゴマーとしては、例えば、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。好適に用いられる重合性オリゴマーは、造形物に強度と靱性を付与することができ、材料選択の幅が広く、様々な特性を有する材料を選択できる観点から、好ましくはウレタン基を有する重合性オリゴマーであり、より好ましくはウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーである。
【0044】
ウレタン基を有する重合性オリゴマーは、インクを低粘度に設計しやすく、造形物の硬度および強度を高めやすく、硬化収縮を低減しやすい観点から、カプロラクトン変性された重合性オリゴマーであることが好ましい。カラーインクが重合性オリゴマーを含有する場合、該重合性オリゴマーは、造形物の硬度および強度を高めやすい観点から、カプロラクトン変性されたイソホロンジイソシアネート系の重合性オリゴマーであることが好ましい。また、クリアインクが重合性オリゴマーを含有する場合、該重合性オリゴマーは、色変化を抑制しやすい観点から、カプロラクトン変性されたジシクロヘキシルメタンジイソシアネート系の重合性オリゴマーであることが好ましい。
【0045】
モデル材インクが重合性オリゴマーを含有する場合、カラーインクおよびクリアインクのそれぞれにおける重合性オリゴマーの含有量は、各インク(カラーインクまたはクリアインク)の総量に基づいて、好ましくは10~45質量%、より好ましくは15~30質量%である。重合性オリゴマーの含有量が上記の下限以上であると、硬化物の表面のタック性を十分に低減しやすい。重合性オリゴマーの含有量が上記の上限以下であると、モデル材インクの粘性が高くなりすぎることがなく、吐出性等を向上させやすい。
【0046】
〔その他の添加剤〕
カラーインクおよびクリアインクには、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要により、その他の添加剤を含有させることができる。その他の添加剤としては、例えば、光重合開始剤、表面調整剤、保存安定化剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、重合禁止剤、連鎖移動剤、充填剤等が挙げられる。
【0047】
<光重合開始剤>
光重合開始剤は、紫外線、近紫外線または可視光領域の波長の光を照射するとラジカル反応を促進する化合物であれば、特に限定されない。光重合開始剤としては、例えば、炭素数14~18のベンゾイン化合物〔例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等〕、炭素数8~18のアセトフェノン化合物〔例えば、アセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-フェニルプロパン-1-オン、ジエトキシアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン等〕、炭素数14~19のアントラキノン化合物〔例えば、2-エチルアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、2-クロロアントラキノン、2-アミルアントラキノン等〕、炭素数13~17のチオキサントン化合物〔例えば、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン等〕、炭素数16~17のケタール化合物〔例えば、アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等〕、炭素数13~21のベンゾフェノン化合物〔例えば、ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、4,4’-ビスメチルアミノベンゾフェノン等〕、炭素数22~28のアシルフォスフィンオキサイド化合物〔例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス-(2、6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド〕、これらの化合物の混合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、モデル材インクを光硬化させる際に得られる立体造形物が黄変しにくい点および得られた立体造形物が高い耐光性等を有し経時的に黄変しにくい点から、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイドが好ましい。また、入手可能なアシルフォスフィンオキサイド化合物としては、例えば、BASF社製のDAROCURE TPO等が挙げられる。
【0048】
カラーインクおよびクリアインクが光重合開始剤を含有する場合、カラーインクおよびクリアインクのそれぞれにおける光重合開始剤の含有量は、各インクの総量に基づいて、好ましくは2~15質量%、より好ましくは3~10質量%である。光重合開始剤の含有量が上記の下限以上であると、未反応の重合成分を十分に低減させて、立体造形物の硬化性を十分に高めやすい。一方、光重合開始剤の含有量が上記の上限以下であると、未反応の光重合開始剤の残存量を低下させやすく、未反応の光重合開始剤がモデル材中に残存することにより生じる立体造形物の黄変を防止しやすい。
【0049】
<表面調整剤>
表面調整剤は、カラーインクおよびクリアインクの表面張力を適切な範囲に調整する成分であり、その種類は特に限定されない。カラーインクおよびクリアインクの表面張力を適切な範囲にすることで、吐出性を安定化させることができると共に、モデル材用インクとサポート材用インクとの界面混じりを抑制することができる。その結果、寸法精度が良好な造形物を得ることができる。表面調整剤としては、例えば、シリコーン系化合物等が挙げられる。シリコーン系化合物としては、例えば、ポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーン系化合物等が挙げられる。具体的には、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、ポリアラルキル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。これらとして、商品名でBYK-300、BYK-302、BYK-306、BYK-307、BYK-310、BYK-315、BYK-320、BYK-322、BYK-323、BYK-325、BYK-330、BYK-331、BYK-333、BYK-337、BYK-344、BYK-370、BYK-375、BYK-377、BYK-UV3500、BYK-UV3510、BYK-UV3570(以上、ビックケミー社製)、TEGO-Rad2100、TEGO-Rad2200N、TEGO-Rad2250、TEGO-Rad2300、TEGO-Rad2500、TEGO-Rad2600、TEGO-Rad2700(以上、デグサ社製)、グラノール100、グラノール115、グラノール400、グラノール410、グラノール435、グラノール440、グラノール450、B-1484、ポリフローATF-2、KL-600、UCR-L72、UCR-L93(以上、共栄社化学社製)等を用いてもよい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
カラーインクおよびクリアインクが表面調整剤を含有する場合、カラーインクおよびクリアインクのそれぞれにおける表面調整剤の含有量は、各インクの総量に基づいて、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上であり、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下である。表面調整剤の含有量が上記の範囲内である場合、カラーインクおよびクリアインクのそれぞれの表面張力を適切な範囲に調整しやすい。
【0051】
保存安定化剤は、カラーインクおよびクリアインクの保存安定性を高めることができる成分である。また、熱エネルギーにより重合性化合物が重合することで生じるヘッド詰まりを防止することができる。カラーインクおよびクリアインクが保存安定化剤を含有する場合、上記効果を得やすい観点から、その含有量は各インクの総量に基づいて、好ましくは0.05~3.0質量%である。
【0052】
保存安定化剤としては、例えば、ヒンダードアミン系化合物(HALS)、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられる。具体的には、ハイドロキノン、メトキノン、ベンゾキノン、p-メトキシフェノール、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノンモノブチルエーテル、TEMPO、4-ヒドロキシ-TEMPO、TEMPOL、クペロンAl、IRGASTAB UV-10、IRGASTAB UV-22、FIRSTCURE ST-1(ALBEMARLE社製)、t-ブチルカテコール、ピロガロール、BASF社製のTINUVIN 111 FDL、TINUVIN 144、TINUVIN 292、TINUVIN XP40、TINUVIN XP60、TINUVIN 400等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0053】
〔カラーインク〕
本発明のモデル材インクセットにおけるカラーインクは、通常、顔料を含み着色されたインクである。カラーインクにおける顔料の含有量は、カラーインクの所望される色味や、用いる顔料の種類に応じて適宜設定すればよいが、カラーインクの総量に基づいて、通常0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上である。カラーインクにおける顔料の含有量の上限も特に限定されず、カラーインクの総量に基づいて、通常5.0質量%以下、好ましくは3.0質量%以下である。カラーインクの構成は特に限定されないが、該構成は好ましくはシアン、マゼンタおよびイエローを含み、より好ましくはホワイトおよび/またはブラックをさらに含む。
【0054】
シアンは、色味および発色、ならびに顔料分散の容易さの観点から、C.I.Pigment Blue15:3およびC.I.Pigment Blue15:4からなる群から選択される少なくとも1種の顔料を含むことが好ましい。
【0055】
マゼンタは、色味および発色、ならびに顔料分散の容易さの観点から、C.I.Pigment Red122、C.I.Pigment Red202およびC.I.Pigment Violet19からなる群から選択される少なくとも1種の顔料を含むことが好ましい。
【0056】
イエローは、色味および発色、ならびに顔料分散の容易さの観点から、C.I.Pigment Yellow150およびC.I.Pigment Yellow155からなる群から選択される少なくとも1種の顔料を含むことが好ましい。
【0057】
ホワイトは、色味および隠ぺい性、ならびに顔料分散の容易さの観点から、酸化チタンを含むことが好ましい。インクの光安定性を向上しやすい観点から、酸化チタンはルチル型酸化チタンであることがより好ましい。
【0058】
ブラックは、色味および発色、ならびに顔料分散の容易さの観点から、カーボンブラックを含むことが好ましい。
【0059】
カラーインクの粘度は、インクジェットヘッドからの吐出性を良好にする観点から、25℃において100mPa・s以下であることが好ましい。カラーインクの粘度は、25℃において30mPa・s以上であることが好ましい。上記粘度の測定は、JIS Z 8 803に準拠し、R100型粘度計を用いて行うことができる。
【0060】
〔クリアインク〕
本発明のモデル材インクセットにおけるクリアインクは、顔料を含まないか、またはブルーイング剤等の顔料および/または染料を少量含むのみである、高い透明性を有するインクである。クリアインクにおける顔料の含有量は、クリアインクの総量に基づいて、通常0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下である。クリアインクにおける顔料の含有量の下限は、0質量%以上である。
【0061】
クリアインクの粘度は、インクジェットヘッドからの吐出性を良好にする観点から、25℃において100mPa・s以下であることが好ましい。クリアインクの粘度は、25℃において30mPa・s以上であることが好ましい。上記粘度の測定は、JIS Z 8 803に準拠し、R100型粘度計を用いて行うことができる。
【0062】
カラーインクおよびクリアインクはの製造方法は特に限定されず、例えば、上記成分を混合攪拌装置等を用いて均一に混合することにより製造することができる。
【0063】
2.サポート材組成物
インクジェット方式による光造形法において中空形状などの複雑な形状を有する立体造形物を造形する場合には、上記に述べた本発明のモデル材インクセットを光硬化させて得られるモデル材を支えるために、該モデル材とサポート材とを組み合わせて、立体造形物を造形してもよい。サポート材組成物は、光硬化によりサポート材を与える、サポート材用の樹脂組成物である。モデル材を作成後、サポート材をモデル材から物理的に剥離することにより、または、サポート材を有機溶媒もしくは水に溶解させることにより、モデル材から除去することができる。本発明のサポート材組成物は、上記に述べた本発明のモデル材インクセットと共にインクとして使用される組成物である。
【0064】
本発明のサポート材組成物は、単官能エチレン性不飽和単量体、ならびに、オキシエチレン基および/またはオキシプロピレン基を有するポリアルキレングリコールを含む。
【0065】
<単官能エチレン性不飽和単量体>
本発明のサポート材組成物は単官能エチレン性不飽和単量体を含む。サポート材組成物に含まれる単官能エチレン性不飽和単量体は、エネルギー線により硬化する特性を有する分子内にエチレン性二重結合を1個有する重合性モノマーであり、好ましくは水溶性単官能エチレン性不飽和単量体である。サポート材組成物に含まれる単官能エチレン性不飽和単量体としては、例えば、炭素数5~15の水酸基含有(メタ)アクリレート〔例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等〕、数平均分子量(Mn)200~1,000の水酸基含有(メタ)アクリレート〔例えばポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、モノアルコキシ(炭素数1~4)ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、モノアルコキシ(炭素数1~4)ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、PEG-PPGブロックポリマーのモノ(メタ)アクリレート等〕、炭素数3~15の(メタ)アクリルアミド誘導体〔例えば(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等〕、(メタ)アクリロイルモルホリン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0066】
サポート材組成物に含まれる単官能エチレン性不飽和単量体の含有量は、サポート材組成物の硬化性を向上させ、かつ、サポート材組成物を光硬化させて得られるサポート材をすばやく水に溶解させやすい観点から、サポート材組成物の総量に基づいて、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上である。また、上記含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。
【0067】
<オキシエチレン基および/またはオキシプロピレン基を含むポリアルキレングリコール>
本発明のサポート材組成物はオキシエチレン基および/またはオキシプロピレン基を含むポリアルキレングリコールを含む。オキシエチレン基および/またはオキシプロピレン基を含むポリアルキレングリコールは、活性水素化合物に少なくともエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドが付加したものである。ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。活性水素化合物としては、1~4価アルコール、アミン化合物等が挙げられる。これらの中でも、2価アルコールまたは水であることが好ましい。
【0068】
本発明のサポート材組成物における前記ポリアルキレングリコールの含有量は、サポート材組成物を光硬化させて得られるサポート材の水への溶解性を高めやすい観点から、サポート材組成物の総量に基づいて、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上である。また、上記含有量は、立体造形物を造形中にサポート材からポリアルキレングリコールが浸み出る現象を防止し、造形の精細性を高めやすい観点から、好ましくは49質量%以下であり、より好ましくは45質量%以下である。
【0069】
前記ポリアルキレングリコールの数平均分子量Mnは、好ましくは100~5,000である。ポリアルキレングリコールのMnが前記範囲内であると、光硬化前の前記ポリアルキレングリコールと相溶し、かつ、光硬化後の前記ポリアルキレングリコールと相溶しない。その結果、サポート材組成物を光硬化させて得られるサポート材の自立性を高め、かつ、サポート材の水への溶解性を高めることができる。ポリアルキレングリコールのMnは、好ましくは200~3,000、より好ましくは400~2,000である。
【0070】
<その他の添加剤>
サポート材組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要により、その他の添加剤を含有させることができる。その他の添加剤としては、例えば、光重合開始剤、水溶性有機溶剤、酸化防止剤、着色剤、顔料分散剤、保存安定化剤、紫外線吸収剤、光安定剤、重合禁止剤、連鎖移動剤、充填剤等が挙げられる。
【0071】
(光重合開始剤)
光重合開始剤としては、モデル材インクに含有され得る光重合開始剤として上記に述べた化合物を同様に使用してよい。サポート材組成物が光重合開始剤を含有する場合、その含有量は、サポート材組成物の総量に基づいて好ましくは2~20質量%、より好ましくは3~10質量%である。光重合開始剤の含有量が上記の下限以上であると、未反応の重合成分を十分に低減させて、サポート材の硬化性を十分に高めやすい。一方、光重合開始剤の含有量が上記の上限以下であると、未反応の光重合開始剤がサポート材に残存することを回避しやすい。
【0072】
(水溶性有機溶剤)
水溶性有機溶剤は、サポート材組成物を光硬化させて得られるサポート材の水への溶解性を向上させる成分である。また、サポート材組成物を低粘度に調整する成分である。サポート材組成物が水溶性有機溶剤を含有する場合、その含有量は、サポート材組成物の総量に基づいて好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。また、上記含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。サポート材組成物中の水溶性有機溶剤の量が多すぎると、サポート材組成物を光硬化させる際に、水溶性有機溶剤の浸み出しが生じ、サポート材の上層に成形されたモデル材の寸法精度が悪化する場合がある。水溶性有機溶剤の含有量が上記の上限以下である場合、このような浸み出しを抑制しやすい。また、サポート材組成物中の水溶性有機溶剤の含有量が上記の下限以上であると、サポート材の水への溶解性を向上させやすく、かつ、サポート材組成物を低粘度に調整しやすい。
【0073】
水溶性有機溶剤としては、例えば、直鎖状または分枝状のアルキレン基を有するアルキレングリコールモノアセテート〔例えばエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールモノアセテート、トリエチレングリコールモノアセテート、トリプロピレングリコールモノアセテート、テトラエチレングリコールモノアセテート、テトラプロピレングリコールモノアセテート等〕、直鎖状または分枝状のアルキレン基を有するアルキレングリコールモノアルキルエーテル〔例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、テトラエチレングリコールモノプロピルエーテル、テトラプロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノブチルエーテル等〕、直鎖状または分枝状のアルキレン基を有するアルキレングリコールジアセテート〔例えばエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、トリプロピレングリコールジアセテート、テトラエチレングリコールジアセテート、テトラプロピレングリコールジアセテート等〕、直鎖状または分枝状のアルキレン基を有するアルキレングリコールジアルキルエーテル〔例えばエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラプロピレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジプロピルエーテル、トリエチレングリコールジプロピルエーテル、トリプロピレングリコールジプロピルエーテル、テトラエチレングリコールジプロピルエーテル、テトラプロピレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、テトラプロピレングリコールジブチルエーテル等〕、直鎖状または分枝状のアルキレン基を有するアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート〔例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、テトラプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、テトラプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、テトラプロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、テトラプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等〕等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、サポート材の水への溶解性を向上させやすく、かつ、サポート材組成物を低粘度に調整しやすい観点から、水溶性有機溶剤は、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、または、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートであることがより好ましい。
【0074】
本発明のサポート材組成物の粘度は、インクジェットヘッドからの吐出性を良好にする観点から、25℃において100mPa・s以下であることが好ましい。サポート材組成物の粘度は、25℃において30mPa・s以上であることが好ましい。上記粘度の測定は、JIS Z 8 803に準拠し、R100型粘度計を用いて行うことができる。
【0075】
本発明のサポート材組成物の製造方法は特に限定されず。例えば、上記成分を混合攪拌装置等を用いて均一に混合することにより製造することができる。
【0076】
3.光造形用のインクセット
本発明は、上記に述べた本発明のモデル材インクセットと、上記に述べた本発明のサポート材組成物とを含む、インクジェット方式による光造形用のインクセットも提供する。例えば、モデル材インクセットにおけるカラーインクの構成がシアン、マゼンタおよびイエローである場合には、本発明のインクセットは、シアン、マゼンタおよびイエローのそれぞれの色を有する3つのカラーインクと、クリアインクと、サポート材組成物のインクとを含むインクセットとなる。
【0077】
4.立体造形物およびその製造方法
本発明は、上記モデル材インクセットに含まれるモデル材インクの光硬化物から構成される、立体造形物も提供する。インクジェット方式による光造形法において、立体造形物は本発明のインクセットを用いて製造することができる。本発明は、本発明のインクセットを用いて、インクジェット方式による光造形法により立体造形物を製造する、立体造形物の製造方法も提供する。本発明の製造方法において、パーソナルコンピュータと、パーソナルコンピュータに接続される三次元造形装置とを少なくとも備える三次元造形システムを用いてもよい。
【0078】
本発明の立体造形物の製造方法は、本発明のインクセットを用いて、インクジェット方式による光造形法により立体造形物を製造する方法である限り特に限定されないが、本発明の好ましい一実施形態において、本発明の製造方法は、モデル材インクセットに含まれるモデル材インクを光硬化させてモデル材を得ると共に、サポート材組成物を光硬化させてサポート材を得る工程(I)と、モデル材からサポート材を除去する工程(II)とを含む。上記工程(I)および上記工程(II)は、特に限定されないが、例えば、以下の方法により行ってよい。
【0079】
<工程(I)>
図1は、本発明の一実施形態に係る立体造形物の製造方法における工程(I)を模式的に示す図である。図1に示すように、三次元造形装置1は、インクジェットヘッドモジュール2および造形テーブル3を含む。インクジェットヘッドモジュール2は、モデル材インク4aを充填したモデル材用インクジェットヘッド21と、サポート材組成物5aを充填したサポート材用インクジェットヘッド22と、ローラー23と、光源24とを有する。
【0080】
まず、インクジェットヘッドモジュール2を図1中の造形テーブル3に対して相対的に、X方向およびY方向に走査させるとともに、モデル材用インクジェットヘッド21からモデル材インク4aを吐出させ、かつ、サポート材用インクジェットヘッド22からサポート材組成物5aを吐出させることにより、モデル材インク4aとサポート材組成物5aとからなる樹脂組成物層を形成する。そして、上記樹脂組成物層の上面を平滑にするために、ローラー23を用いて、余分なモデル材インクおよびサポート材組成物を除去する。そして、モデル材インク4aとサポート材組成物5aとからなる樹脂組成物に、光源24を用いて光を照射することにより、造形テーブル3上に、モデル材4およびサポート材5からなる硬化層を形成する。
【0081】
次に、造形テーブル3を、上記硬化層の厚み分だけ、図1中のZ方向に降下させる。その後、上述と同様の方法で、上記硬化層の上にさらにモデル材4およびサポート材5からなる硬化層を形成する。これらの工程を繰返し行うことにより、モデル材4およびサポート材5からなる硬化物6を作製する。
【0082】
モデル材インクおよびサポート材組成物を硬化させる光としては、例えば、遠赤外線、赤外線、可視光線、近紫外線、紫外線等が挙げられる。これらの中でも、硬化作業の容易性および効率性の観点から、近紫外線または紫外線であることが好ましい。
【0083】
光源24としては、ランプ方式、LED方式等が挙げられる。これらの中でも、設備を小型化することができ、かつ、消費電力が小さいという観点から、LED方式であることが好ましい。
【0084】
<工程(II)>
図2は、本発明の一実施形態に係る立体造形物の製造方法における工程(II)を模式的に示す図である。工程(II)において、工程(I)で作製したモデル材4およびサポート材5からなる硬化物6を、容器7に入れた溶媒8中に浸漬させる。これにより、図2に示すように、サポート材5を溶媒8に溶解させて、除去することができる。
【0085】
サポート材を溶解させる溶媒8としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、水道水、井戸水等が挙げられる。これらの中でも、不純物が比較的少なく、かつ、安価に入手できるという観点から、イオン交換水であることが好ましい。
【0086】
以上の工程によりモデル材インクを光硬化させて、本発明の立体造形物を製造することができる。
【実施例
【0087】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0088】
後述する実施例および比較例において使用した原料の略号および詳細を次の表1~表5に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】

【0093】
【表5】
【0094】
後述する実施例および比較例において使用した重合性オリゴマーAおよびBは、次のようにして製造した。
(製造例1:重合性オリゴマーAの製造)
撹拌機を備えた反応容器に、2-ヒドロキシエチルアクリレートのカプロラクトン5mol付加物(プラクセルFA-5D(ダイセル化学工業製))1mol(689g)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(東京化成工業製)0.5mol(132g)、および、ウレタン化触媒としてジラウリン酸ジブチルすず(東京化成工業製)0.2mmol(0.12g)を入れ、80℃で6時間加熱して反応を行い、ジシクロヘキシルメタン構造有するウレタン系重合性オリゴマーAを得た。
【0095】
(製造例2:重合性オリゴマーBの製造)
撹拌機を備えた反応容器に、2-ヒドロキシエチルアクリレートのカプロラクトン5mol付加物(プラクセルFA-5D(ダイセル化学工業製))1mol(689g)、イソホロンジイソシアネート(東京化成工業製)0.5mol(111g)、および、ウレタン化触媒としてジラウリン酸ジブチルすず(東京化成工製業)0.2mmol(0.12gを入れ、80℃で6時間加熱して反応を行い、イソホロン構造を有するウレタン系重合性オリゴマーBを得た。
【0096】
<モデル材インク>
(クリアインクの製造)
表6に示す成分を表中に示す配合量で混合攪拌装置を用いて均一に混合し、実施例1~4、比較例1および2のクリアインクを製造した。
【表6】
【0097】
(カラーインクの製造)
表7に示す成分を表中に示す配合量で混合攪拌装置を用いて均一に混合し、実施例5~15、比較例3~7のカラーインクを製造した。
【表7】
【0098】
上記実施例および比較例で製造したカラーインクおよびクリアインクについて、下記に示す方法に従い、次の物性値を測定した。結果を表8および表9に示す。
【0099】
<引張強さの測定>
実施例および比較例のインクをそれぞれ、紫外線硬化型インクジェット方式の造形装置を使用し、JIS K 7139:2009「プラスチック-試験片」に規定された多目的試験片タイプA1形状に準拠して造形したものを測定試料とし、JIS K7162:1994「プラスチック-引っ張り特性の試験方法 第2部:型成形、押し出し成型及び注型プラスチックの試験条件」に従い引張強さを測定した(造形条件:1層積層厚32μm、照度1000mW/cm、1層積算光量800mJ/cm)。
【0100】
<曲げ強度の測定>
引張強さの測定と同様の造形装置、条件でJIS K 7139:2009「プラスチック-試験片」に規定された短冊形試験片形状B2に準拠して造形したサンプルを測定試料とし、JIS K7171:2008「プラスチック-曲げ特性の求め方」に従い曲げ強度を測定した。
【0101】
<シャルピー衝撃強さの測定>
曲げ強度の測定と同様にして作成したサンプルを測定試料とし、JIS K7111:-1:2012「プラスチック-シャルピー衝撃特性の求め方-第1部:非計装化衝撃試験」に従いシャルピー衝撃強さを測定した。
【0102】
<ショアD硬度の測定>
曲げ強度の測定と同様にして作成したサンプル2個を2段に重ね合わせたものを測定試料とし、JIS K7215:1986「プラスチックのデュロメーター硬さ試験方法」に従いショアD硬度を測定した。
【0103】
<Lab色差の測定>
(色差1)2mm板での測定
実施例および比較例のインクをそれぞれ、紫外線硬化型インクジェット方式の造形装置を使用し、厚さ2mmの板を造形し、測定試料として用いた(造形条件:1層積層厚32μm、照度1000mW/cm、1層積算光量800mJ/cm)。色差計「X-Rite939」(X-Rite社製)を用い、この試料のLab色差を測定した。
(色差2)塗膜での測定
実施例および比較例のインクを、#14バーコーターで白PET(U292W、帝人社製)上に塗布し、照射手段として紫外線LED(NCCU001E、日亜化学工業株式会社製)を用い、全照射光量が500mJ/cmとなるように紫外線を照射し硬化させ、測定試料を作成した。色差計「X-Rite939」(X-Rite社製)を用い、この試料のLab色差を測定した。
【0104】
【表8】
【0105】
【表9】
【0106】
上記表8および表9の結果から、本発明のモデル材インクセットに含まれるカラーインクの硬化物は、高い引張強さ、曲げ強度およびショアD硬度を有し、カラーインクの硬化物の強度および硬度が非常に高いことが確認された。そして、本発明のモデル材インクセットに含まれるクリアインクの硬化物は、L値(明度)が高くクリア性に優れると共にb値が低く黄味が抑制されており、また、一定以上の強度および硬度を有することが確認された。このようなクリアインクとカラーインクとを組み合わせることにより、造形物の強度および硬度を十分に高めると共に、造形物の色変化を防止することができることが確認された。なお、比較例のカラーインクの強度および硬度は、一定以上ではあるものの、造形物の強度および硬度を高めるのに十分とはいえないものであった。また、比較例のクリアインクは、光硬化前にはクリア性が高く黄味の少ないものであったものの、光硬化後の硬化物はL値が低く、黄味が高いことが確認された。
【0107】
<サポート材組成物>
(サポート材組成物の製造)
表10に示す成分を表中に示す配合量で混合攪拌装置を用いて均一に混合し、実施例16~38のサポート材組成物を製造した。
【表10】
【0108】
表10に示すサポート材組成物に使用した原料の詳細を以下に示す。
HEAA:N-ヒドロキシエチルアクリルアミド[HEAA(エチレン性二重結合/1分子:1個)、KJケミカルズ社製]
ACMO:アクリロイルモルフォリン[ACMO(エチレン性二重結合/1分子:1個)、KJケミカルズ社製]
DMAA:N,N’-ジメチルアクリルアミド[DMAA(エチレン性二重結合/1分子:1個)、KJケミカルズ社製]
PPG-400:ポリプロピレングリコール[ユニオールTG400(分子量400)、
日油社製]
PPG-1000:ポリプロピレングリコール[ユニオールTG1000(分子量100
0)、日油社製]
PEG-400:ポリエチレングリコール[PEG#400(分子量400)、日油社製]
PEG-1000:ポリエチレングリコール[PEG#1000(分子量1000)、日油社製]
MTG:トリエチレングリコールモノメチルエーテル[MTG、日本乳化剤社製]
DPMA:ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート[ダワノールDPMA、ダウケミカル社製]
【0109】
(粘度の測定)
各サポート材組成物の粘度は、R100型粘度計(東機産業社製)を用いて、25℃、コーン回転数5rpmの条件下で測定し、下記の基準において評価した。結果を表11に示す。
A:粘度 ≦ 70mPa・s
B:粘度 > 70mPa・s
【0110】
(水への溶解性)
直径50mmのアルミカップに、各サポート材組成物2.0gを採取した。次に、照射手段として紫外線LED(NCCU001E、日亜化学工業株式会社製)を用い、全照射光量が500mJ/cm2となるように紫外線を照射して硬化させ、サポート材を得た。その後、サポート材をアルミカップから離型した。続いて、ビーカーに入れたイオン交換水500ml中に、上記サポート材を浸漬した。10分毎にサポート材を目視で観察し、浸漬開始から完全溶解または元の形状が無くなるまでに要した時間(以下、水溶解時間という)を計測し、下記の基準において溶解性を評価した。結果を表10に示す。
A:水溶解時間 ≦ 1時間
B:1時間 < 水溶解時間 <1.5時間
C:水溶解時間 ≧ 1.5時間
【0111】
(油状浸み出しの評価)
100mm×100mmのアルミ箔に、各サポート材組成物1.0gを採取した
。次に、照射手段として紫外線LED(NCCU001E、日亜化学工業株式会社製)を用い、全照射光量が500mJ/cmとなるように紫外線を照射して硬化させ、サポート材を得た。なお、この時点でサポート材は固体状態である。このサポート材を2時間放置し、サポート材表面における油状浸み出しの有無を目視で観察し、下記の基準において評価した。結果を表10に示す。
A:油状浸み出しが全く観察されなかった
B:わずかに油状浸み出しが観察された
C:油状浸み出しが多く観察された
【0112】
(自立性の評価)
ガラス板(商品名「GLASS PLATE」、アズワン社製、200mm×200mm×厚さ5mm)の上面四辺に厚さ1mmのスペーサーを配し、10cm×10cmの正方形に仕切った。該正方形内に各サポート材組成物を注型した後、別の上記ガラス板を重ねて載せた。そして、照射手段として紫外線LED(NCCU001E、日亜化学工業株式会社製)を用い、全照射光量が500mJ/cmとなるように紫外線を照射して硬化させ、サポート材を得た。その後、サポート材をガラス板から離型し、カッターで縦10mm、横10mmの形状に切り出して、試験片を得た。次に、該試験片を10枚重ねて、高さ10mmの試験片群を得た。該試験片群は、上から100gの重しを乗せ、そのまま30℃に設定したオーブンの中に入れ、1時間放置した。その後、試験片の形状を観察し、下記の基準において自立性を評価した。結果を表10に示す。
A:形状に変化がなかった
B:形状がわずかに変化し、重しが傾いた状態になった
C:形状が大きく変化した
【0113】
【表11】
【0114】
表11の結果から、本発明の好ましい一実施形態である、所定量で各成分を含有するサポート材組成物は、インクジェットヘッドからの吐出に適した粘度を示すことがわかる。また、この実施形態のサポート材組成物を光硬化させて得られるサポート材は、水への溶解性が高く、油状浸み出しが抑制され、かつ、充分な自立性を示した。
【0115】
<光造形品>
(密着性の評価)
ガラス板(商品名「GLASS PLATE」、アズワン社製、200mm×200mm×厚さ5mm)の上面四辺に厚さ1mmのスペーサーを配し、10cm×10cmの正方形に仕切った。該正方形内に実施例25で得たサポート材組成物を注型した後、照射手段として紫外線LED(NCCU001E、日亜化学工業株式会社製)を用い、全照射光量が500mJ/cmとなるように紫外線を照射して硬化させ、サポート材を得た。
【0116】
次に、上記のようにしてサポート材を5つ作成し、各サポート材の上面四辺に厚さ1mmのスペーサーを配し、10cm×10cmの正方形に仕切った。該正方形内のそれぞれに、実施例5~9のモデル材インクを注型した後、照射手段として紫外線LED(NCCU001E、日亜化学工業株式会社製)を用い、全照射光量が500mJ/cmとなるように紫外線を照射して硬化させ、モデル材を得た。
【0117】
この状態で30℃の恒温槽に12時間放置し、モデル材とサポート材との密着性の様子を目視にて確認し、下記の基準において密着性を評価した。結果を表12に示す。
A:モデル材とサポート材とは密着していた。
B:モデル材とサポート材とは密着していたが、モデル材とサポート材との界面を爪でひっかくと剥がれが生じた。
C:モデル材とサポート材との界面で剥がれが生じ、モデル材の硬化収縮でモデル材が反るように剥がれた。
【0118】
【表12】
【0119】
表12の結果から分かるように、本発明のモデル材インク(カラーインク)およびサポート材組成物とは良好な密着性を示した。このように、モデル材とサポート材とが密着していれば、寸法精度が良好な光造形品が得られる。
【符号の説明】
【0120】
1 三次元造形装置
2 インクジェットヘッドモジュール
3 造形テーブル
4 モデル材
4a モデル材インク
5 サポート材
6 硬化物
7 容器
8 溶媒
5a サポート材組成物
21 モデル材用インクジェットヘッド
22 サポート材用インクジェットヘッド
23 ローラー
24 光源
図1
図2