(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220509BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20220509BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20220509BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
C21D8/12 B
H01F1/147 175
(21)【出願番号】P 2019534734
(86)(22)【出願日】2017-12-20
(86)【国際出願番号】 KR2017015130
(87)【国際公開番号】W WO2018117643
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2019-06-24
(31)【優先権主張番号】10-2016-0177047
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ギュ ソク
(72)【発明者】
【氏名】パク,チャン ス
(72)【発明者】
【氏名】キム,ゼ ギョム
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジョン テ
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0084893(KR,A)
【文献】国際公開第2015/174362(WO,A1)
【文献】特開2014-167147(JP,A)
【文献】特開2014-074210(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1633255(KR,B1)
【文献】特開2016-089198(JP,A)
【文献】特開2005-290446(JP,A)
【文献】米国特許第04177091(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12
H01F 1/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Si:1.0%~7.0%、C:0%超0.005%以下、Al:0.0097%以下、Mn:0.047%以下、N:0.005%以下、P:0.0010~0.1%、Sn:0.005~0.2%、S:0.0005~0.020%、Se:0.0005~0.020%、およびB:0.0001~0.01%を含み、残部がFeおよびその他不可避不純物からなり、
Al、Mn、Si、Mg、Ca、B、またはTiを含む介在物を0.01~500個/mm
2含
み、
前記介在物の平均粒径は0.01~1.0μmであることを特徴とする方向性電磁鋼板。
【請求項2】
前記方向性電磁鋼板は、SおよびSeを合量で0.005~0.04質量%含むことを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記方向性電磁鋼板は、Ti、MgおよびCaのうち一つ以上をそれぞれ0.005質量%以下さらに含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記方向性電磁鋼板は、SおよびSeの複合粒界偏析およびFe(S,Se)複合介在物を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項5】
質量%で、Si:1.0%~7.0%、C:0.001~0.10%、Al:0.0097%以下、Mn:0.047%以下、N:0.005%以下、P:0.0010~0.1%、Sn:0.005~0.2%、S:0.0005~0.020%、Se:0.0005~0.020%、およびB:0.0001~0.01%を含み、残部がFeおよびその他不可避不純物からなるスラブを加熱する段階と、
前記スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階と、
前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階と、
前記冷延板を一次再結晶焼鈍する段階と、
一次再結晶焼鈍が完了した冷延板を二次再結晶焼鈍する段階と、を含み、
製造された方向性電磁鋼板は、Al、Mn、Si、Mg、Ca、B、またはTiを含む介在物を0.01~500個/mm
2含
み、
前記介在物の平均粒径は0.01~1.0μmであることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記スラブは、SおよびSeを合量で0.005~0.04質量%含むことを特徴とする請求項5に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記スラブは、Ti、Mg、およびCaのうち一つ以上をそれぞれ0.005質量%以下さらに含むことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記熱延板を製造する段階以降、前記熱延板の片側エッジクラックが20mm以下で発生することを特徴とする請求項5乃至請求項7の何れか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記熱延板を製造する段階以降、前記熱延板を焼鈍する段階をさらに含むことを特徴とする請求項5乃至請求項8の何れか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階は、2回以上の冷間圧延する段階を含み、冷間圧延の間に中間焼鈍する段階を含むことを特徴とする請求項5乃至請求項9の何れか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記二次再結晶焼鈍する段階は、昇温段階および均熱段階を含み、前記昇温段階は窒素および水素混合雰囲気で行われ、前記均熱段階は水素雰囲気で行われることを特徴とする請求項5乃至請求項10の何れか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記均熱段階は、1000~1250℃の温度で20時間以下行われることを特徴とする請求項11に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板およびその製造方法にかかり、より詳しくは、SおよびSeの複合粒界偏析およびFe(S,Se)複合介在物を使用した方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、鋼板面の結晶粒の方位が{110}面で、圧延方向の結晶方位は<001>軸に平行なGoss集合組織({110}<001>集合組織)を鋼板全体に形成させ、圧延方向の磁気的特性に優れ、各種変圧器および発電機のような大型回転機等の優れた一方向の磁気的特性が求められる電子機器の鉄心として使用される軟磁性材料である。
電磁鋼板の磁気的特性は、磁束密度と鉄損で表現することができ、高い磁束密度は結晶粒の方位を{110}<001>方位に正確に配列することによって得ることができる。磁束密度の高い電磁鋼板は、電気機器の鉄心材料の大きさを小さくできるだけでなく、ヒステリシス損が低くなり、電気機器の小型化と共に高効率化をなすことができる。
鉄損は、鋼板に任意の交流磁場を加えたとき熱エネルギーとして消費される電力損失であり、鋼板の磁束密度や板の厚さ、鋼板中の不純物量、比抵抗、そして二次再結晶の結晶粒の大きさ等により大きく変化し、磁束密度と比抵抗が高いほど、そして板の厚さと鋼板中の不純物量が低いほど鉄損が低くなり、電気機器の効率が増加する。
【0003】
方向性電磁鋼板は、熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延、再結晶焼鈍、高温焼鈍の工程によって製造され、鋼板全体に強いGoss組織を発達させるために、二次再結晶と呼ばれる異常結晶粒成長現象を用いる。このような異常な結晶粒成長は、通常の結晶粒成長と異なり、正常な結晶粒成長が析出物、介在物や、あるいは固溶したり粒界に偏析する元素によって正常に成長する結晶粒界の移動が抑制されたときに発生する。このように結晶粒成長を抑制する析出物や介在物等を特別に結晶粒成長抑制剤(inhibitor)と呼び、Goss方位の二次再結晶による方向性電磁鋼板の製造技術に対する研究は、強力な結晶粒成長抑制剤を使用してGoss方位に対する集積度の高い二次再結晶を形成して、優れた磁気特性を確保するのに注力してきた。
初期に開発された方向性電磁鋼板は、MnSが結晶粒成長抑制剤として使用され、2回の冷間圧延法で製造された。これにより、二次再結晶は安定的に形成されたが、磁束密度がそれほど高くない水準であったし、鉄損も高いほうであった。その後、AlN、MnS析出物を複合で用い、80%以上の冷間圧延率で1回強冷間圧延して方向性電磁鋼板を製造する方法が提案された。
【0004】
最近はMnSを使用せず、1回の強冷間圧延後に脱炭を実施した後に、アンモニアガスを用いた別途の窒化工程によって鋼板の内部に窒素を供給して強力な結晶粒成長抑制効果を発揮するAl系の窒化物によって二次再結晶を起こす方向性電磁鋼板の製造方法が提案された。
今まで方向性電磁鋼板を製造するほとんど全ての鉄鋼会社では、主にAlN、MnS[Se]等の析出物を結晶粒成長抑制剤として用いて二次再結晶を起こす製造方法を用いている。このような製造方法は、二次再結晶を安定的に起こすことができる長所はあるが、強力な結晶粒成長抑制効果を発揮するためには、析出物を非常に微細かつ均一に鋼板に分布させなければならない。このように微細な析出物を均一に分布させるためには、熱間圧延の前にスラブを1300℃以上の高い温度で長時間加熱して、鋼中に存在していた粗大な析出物を固溶させた後、非常に短時間内に熱間圧延を実施して、析出が起きていない状態で熱間圧延を終えなければならない。このためには、大単位のスラブ加熱設備を必要とし、析出を最大限抑制するために熱間圧延と巻取工程を非常に厳格に管理し、熱間圧延以降の熱延板焼鈍工程で固溶した析出物が微細に析出するように管理しなければならない制約が伴う。また高温でスラブを加熱すると、融点の低いFe2SiO4が形成されることにより、スラブウォッシング(washing)現象が発生して実収率が低下する。
【0005】
また、AlNやMnSの析出物を結晶粒成長抑制剤として使用して二次再結晶を起こす方向性電磁鋼板の製造方法は、二次再結晶の完了後に析出物構成成分を除去するために、1200℃の高温で30時間以上長時間純化焼鈍をしなければならない製造工程上の複雑性と原価負担が伴う。つまり、AlNやMnSのような析出物を結晶粒成長抑制剤として使用して二次再結晶を形成した後、継続して析出物が鋼板内に残留するようになると、磁区の移動を妨害してヒステリシス損を増加させる原因となるため、必ずこれを除去しなければならず、このために二次再結晶の完了後に、約1200℃の高温で100%水素ガスを使用して長時間純化焼鈍を実施することにより、AlNやMnSのような析出物およびその他不純物を除去する。
このような純化焼鈍によってMnS析出物はMnとSに分離して、Mnは鋼中に固溶し、Sは表面に拡散して雰囲気中の水素ガスと反応してH2Sに形成され排出される。そして、高温純化焼鈍過程においてAlN系析出物は、AlとNに分解された後にAlが鋼板の表面に移動して表面酸化層の酸素と反応することによりAl2O3酸化物が形成されるが、このように形成されたAl系酸化物や、あるいは純化焼鈍過程で完全に分解されなかったAlN析出物は、鋼板内あるいは表面近くで磁区の移動を妨害して鉄損を劣化させる原因となる。
【0006】
このように不純物除去のために高温で長時間高温焼鈍を実施するとしても、製鋼段階で析出物形成を目的として一定量のAlとMnを添加するため、必然的にAlおよびMn含有析出物あるいは酸化物は、最小限でも最終製品に残留するしかなく、磁性を劣化する原因となる。
最近開発された冷間圧延以後の脱炭焼鈍後の窒化処理によるAlN系窒化析出物によって二次再結晶を形成するスラブ低温加熱法による方向性電磁鋼板の製造技術でも、Mnの含有量はスラブ高温法より添加量が多くて粗大なMnS析出物を形成する可能性が高いため、二次再結晶完了後にAlN、MnS析出物の構成成分を除去するために高温で長時間純化焼鈍をしなければならない製造工程上の複雑性と原価負担が伴うという問題点は解消できずにいる。
したがって、方向性電磁鋼板の磁性をより向上させ、純化焼鈍の負担を減らして生産性を向上させるためには、AlN、MnSのような析出物を結晶粒成長抑制剤として使用しない新たな方向性電磁鋼板を製造する技術を必要とする。
【0007】
AlN、MnSの析出物を結晶粒成長抑制剤として使用せず、方向性電磁鋼板を製造する方法としては、表面エネルギーを結晶成長の駆動力として用いて{110}<001>方位をまず成長させる方法がある。この方法は、鋼板表面に存在する結晶粒は結晶方位によって表面エネルギーが異なり、最も低い表面エネルギーを有する{110}面の結晶粒が、より高い表面エネルギーを有する他の結晶粒を蚕食しながら成長するという点に着眼したものであり、このような表面エネルギーの差異を効果的に用いるためには、鋼板の厚さが薄くなければならない問題がある。しかし、現在変圧器を製造する際に広く使用されている方向性電磁鋼板の厚さは0.20mm以上であり、それ以上の製品の厚さで表面エネルギーを用いて二次再結晶を形成するには技術的に困難がある。また、表面エネルギーを用いた技術は、0.20mm以下の厚さに製造するにおいて冷間圧延工程上で工程負荷が大きく作用するという問題点がある。のみならず、表面エネルギーを効果的に用いるためには、鋼板表面で酸化物が生成されることを積極的に抑制した状態で二次再結晶させなければならないため、高温焼鈍雰囲気を真空あるいは不活性ガスと水素ガスの混合ガス雰囲気にすることが絶対的に求められる。そして、表面に酸化層が形成されないため、最終二次再結晶を形成する高温焼鈍過程において、Mg2SiO4(forsterite)被膜の形成が不可能となり絶縁が難しく、鉄損が上昇する短所がある。
【0008】
一方、析出物を使用せずに鋼板内の不純物含有量を最少化して、結晶方位による結晶粒界の粒界移動度の差異を極大化することにより二次再結晶を形成させる方向性電磁鋼板の製造方法が提案されている。この技術では、Al含有量を100ppm以下、B、V、Nb、Se、S、P、Nの含有量を50ppm以下に抑制することを提案しているが、実際に提示された実施例では、少量のAlが析出物や介在物を形成して二次再結晶を安定化させるものと示している。したがって、実質的に析出物を完全に排除した方向性電磁鋼板の製造方法とはみられず、これによって得られる磁気特性も現在常用されている方向性電磁鋼板製品の磁性より劣る。また、鋼板内の全ての不純物を最大限除去して低鉄損特性を確保するとしても、生産性の面では原価負担が加重される問題点を解消することはできない。
この他にも、TiN、VN、NbN、BN等のような多様な析出物を結晶粒成長抑制剤として活用しようと試みられてきたが、熱的不安定と高過ぎる析出物分解温度により、安定した二次再結晶を形成するのには失敗している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。より具体的には、SおよびSeの複合粒界偏析およびFe(S,Se)複合介在物を結晶粒成長抑制剤として使用した方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による方向性電磁鋼板は、質量%で、Si:1.0%~7.0%、C:0%超0.005%以下、P:0.0010~0.1%、Sn:0.005~0.2%、S:0.0005~0.020%、Se:0.0005~0.020%、およびB:0.0001~0.01%を含み、残部はFeおよびその他不可避不純物からなることを特徴とする。
【0011】
前記方向性電磁鋼板は、SおよびSeを合量で0.005~0.04質量%含むとを特徴とする。
【0012】
前記方向性電磁鋼板は、Al:0.010質量%以下、Mn:0.08質量%以下、およびN:0.005質量%以下を、さらに含むことを特徴とする。
【0013】
前記方向性電磁鋼板は、SおよびSeの複合粒界偏析およびFe(S,Se)複合介在物を含むことを特徴とする。
【0014】
前記方向性電磁鋼板は、Al、Mn、Si、Mg、Ca、B、またはTiを含む介在物を0.01~500個/mm2含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、Ti、MgおよびCaのうち一つ以上をそれぞれ0.005質量%以下さらに含むことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、質量%で、Si:1.0%~7.0%、C:0.001~0.10%、P:0.0010~0.1%、Sn:0.005~0.2%、S:0.0005~0.020%、Se:0.0005~0.020%、およびB:0.0001~0.01%を含み、残部がFeおよびその他不可避不純物からなるスラブを加熱する段階と、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階と、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階と、冷延板を一次再結晶焼鈍する段階と、一次再結晶焼鈍が完了した冷延板を二次再結晶焼鈍する段階と、を含むことを特徴とする。
【0017】
前記スラブは、SおよびSeを合量で0.005~0.04質量%含むことを特徴とする。
【0018】
前記スラブは、Al:0.010質量%以下、Mn:0.08質量%以下、およびN:0.005質量%以下、をさらに含むことを特徴とする。
【0019】
前記スラブは、Ti、MgおよびCaのうち一つ以上をそれぞれ0.005質量%以下でさらに含むことを特徴とする。
【0020】
前記熱延板を製造する段階以降、熱延板の片側エッジクラックが20mm以下であることを特徴とする。
【0021】
前記熱延板を製造する段階以降、熱延板を焼鈍する段階をさらに含むことを特徴とする。
【0022】
前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階は、2回以上の冷間圧延する段階を含み、冷間圧延の間に中間焼鈍する段階を含むことを特徴とする。
【0023】
前記二次再結晶焼鈍する段階は、昇温段階および均熱段階を含み、昇温段階は窒素および水素混合雰囲気で行われ、均熱段階は水素雰囲気で行われることを特徴とする。
【0024】
前記均熱段階は、1000~1250℃の温度で20時間以下行なうことことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の方向性電磁鋼板によれば、ゴス結晶粒を安定的に形成させることにより磁気的特性に優れる。
また、磁性に有害なAlおよびMn含有析出物を最少化して、磁気的特性に優れる。
また、製造過程で熱延板の片側エッジクラックを最小化することができ、生産性に優れる。
また、製造過程において二次再結晶焼鈍内の均熱段階を低い温度で少ない時間で行うことができ、生産性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【発明を実施するための形態】
【0027】
第1、第2および第3等の用語は、多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下で叙述する第1の部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2の部分、成分、領域、層またはセクションとして言及され得る。
ここで使用される専門用語は、単に特定の実施例に言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形は、文言がこれと明確に反対の意味を示さない限り複数形も含む。明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、定数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、定数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外するものではない。
【0028】
ある部分が他の部分「上に」または「の上に」あると言及する場合、これは他の部分のすぐ上にまたは上方にあるか、その間に他の部分が伴うことができる。対照的に、ある部分が他の部分の「すぐ上に」あると言及する場合、その間に他の部分が介在しない。
別に定義してないないが、ここに使用される技術用語および科学用語を含む全ての用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同一の意味を有する。普通使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示されている内容に合う意味を持つものと追加解釈され、定義されていない限り理想的や公式的過ぎる意味に解釈されない。
また、特に言及しない限り、%は質量%を意味し、1ppmは0.0001質量%である。
本発明の一実施例において追加元素をさらに含むことの意味は、追加元素の追加量分だけ残部の鉄(Fe)に代替して含むことを意味する。
【0029】
以下、本発明の実施例について本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳しく説明する。しかし、本発明は、様々に相異する形態で具現され得、ここで説明する実施例に限定されない。
従来の方向性電磁鋼板技術においては、結晶粒成長抑制剤としてAlN、MnS等のような析出物を使用しており、全ての工程が析出物の分布を厳格に制御し、二次再結晶した鋼板内に残留した析出物が除去されるようにするための条件によって、工程条件が極めて制約されていた。
反面、本発明の一実施例においては、結晶粒成長抑制剤としてAlN、MnS等のような析出物を使用しない。SおよびSeの複合粒界偏析およびFe(S,Se)複合介在物を結晶粒成長抑制剤として使用することにより、Goss結晶粒の分率を増やし、磁性に優れた電磁鋼板を得ることができる。また、Bの添加により、SおよびSeの添加に伴う熱延板の片側エッジクラックの発生を最小化する。
【0030】
本発明の一実施例において、Sと化学的特性が類似するSeをSと共に添加することにより、Sを単独で添加する場合よりはるかに効果的な結晶粒成長抑制力を発揮して、安定した二次再結晶による優れた磁気特性を確保することができ、Sの単独添加時に発生するエッジクラックの量を低減することができる。これは、SeがSより原子の大きさおよび質量が大きいため、結晶粒界偏析時の結晶粒界の移動を遅延させる効果が大きく、Sと複合的に粒界に偏析するとき、その効果がさらに大きくなるものと判断される。また、FeS析出物が1000℃以上で液状への相変態により抑制力が弱まる現象があるのに比べ、Fe(S,Se)複合析出物の場合、1000℃以上での相変態を遅延させ、その分だけ高温でも結晶粒成長抑制力が安定的に維持されるため、FeS析出物よりはFe(S,Se)複合析出物の結晶粒成長抑制力が強いものと判断される。
【0031】
また、SとSeの複合添加時に、連鋳およびスラブ加熱後の熱延過程でエッジクラックの発生が著しく減少することを確認した。これは、SeがSと同様に粒界偏析効果は強いが、Sよりmelting pointやboiling pointが高いため、粒界偏析時に高温で比較的安定的に存在することができたためと考えられる。このようなSとSe複合添加の他にも、Bを製鋼段階で添加することにより、Bの結晶粒界結合力強化効果によって連鋳および熱間圧延時の片側エッジクラックの発生を著しく減少させることができた。Bは、結晶粒界を強化させる効果と共に、BNのような析出物を形成することによって結晶粒界の移動を抑制する効果もあるため、焼鈍過程で雰囲気ガス中の窒素ガスと反応を誘導することにより、SおよびSeと共に結晶粒成長抑制剤として活用が可能である。
【0032】
本発明の方向性電磁鋼板は、質量%で、Si:1.0%~7.0%、C:0%超0.005%以下、P:0.0010~0.1%、Sn:0.005~0.2%、S:0.0005~0.020%、Se:0.0005~0.020%、およびB:0.0001~0.01%を含み、残部はFeおよびその他不可避不純物からなる。
以下、各成分について具体的に説明する。
Si:1.0~7.0質量%
シリコン(Si)は、電磁鋼板の基本組成で、鋼板の比抵抗を増加させ、変圧器の鉄心損失(core loss)、つまり鉄損を下げる役割をする。Siの含有量が少な過ぎる場合、比抵抗が減少して鉄損特性が劣化し、高温焼鈍時に相変態区間が存在して二次再結晶が不安定になる。Siを過剰含有時には、鋼の脆性が大きくなって冷間圧延が極めて難しくなり、オーステナイト分率を40%以上含有するためのCの含有量が大きく増え、また二次再結晶が不安定になる。したがって、Siは、1.0~7.0質量%含む。より具体的には、Siは2.0~4.5質量%含む。
【0033】
C:0.005質量%以下
炭素(C)は、オーステナイト安定化元素であり、900℃以上の温度で相変態を起こして連鋳過程に発生する粗大な柱状晶組織を微細化する効果と共に、Sのスラブ中心偏析を抑制する。また、冷間圧延中に鋼板の加工硬化を促進して鋼板内に{110}<001>方位の二次再結晶核生成を促進する。したがって、添加量に大きな制約はないが、スラブ内に0.001質量%未満で含まれると、相変態および加工硬化効果を得ることができず、0.1質量%を超えて添加すると、熱延エッジ-クラック(edge-crack)の発生により作業上の問題点と共に、冷間圧延後の脱炭焼鈍時に脱炭工程の負荷が発生する。したがって、スラブ内の添加量は0.001~0.1質量%になる。
本発明の製造過程で一次再結晶焼鈍段階で脱炭焼鈍を経ることになり、脱炭焼鈍後に製造された最終電磁鋼板内のC含有量は、0.005質量%以下である。より具体的には、0.003質量%以下である。
【0034】
P:0.0010~0.1質量%
リン(P)は、結晶粒界に偏析して結晶粒成長を抑制する効果があり、一次再結晶焼鈍時に{111}<112>方位結晶粒の再結晶を促進し、Goss方位結晶粒の二次再結晶形成に有利な微細組織を形成する。このような理由から、最大0.1質量%まで添加することが好ましく、0.1質量%を超えての添加時には、冷間圧延時に板破断の発生が増加して冷間圧延の実収率が下がるようになる。また、0.0010質量%未満で添加する場合には、添加効果がみられないため、スラブおよび最終方向性電磁鋼板でのPの管理範囲は0.0010~0.1質量%に限定する。
【0035】
Sn:0.005~0.2質量%
スズ(Sn)は、Pと共に代表的な結晶粒界偏析元素であり、熱延過程で{110}<001>Goss方位の核生成を促進して、磁束密度を増加させる効果がある。このようなSnを0.2質量%まで添加すると、Goss方位結晶粒を増加させる効果があるが、これを超えて添加する場合には、結晶粒界過偏析によって冷間圧延板の破断の発生、および脱炭を遅延させて不均一な一次再結晶微細組織を形成するようになり、磁性を下げることがある。また、0.005質量%未満で添加する場合には、やはりGoss方位再結晶粒形成に効果が弱く、スラブおよび最終方向性電磁鋼板でのSnの含有量は0.005~0.2質量%に限定する。
【0036】
S:0.0005~0.020質量%
硫黄(S)は、鋼中にMnと反応してMnSを形成することによって結晶粒成長抑制効果を有する元素であるが、本発明の一実施例においては、MnSを結晶粒成長抑制剤として用いないため、Mnの含有量を最小に管理することによって、MnSの形成を抑制する。反面、Sは、Seと共に粒界に複合で偏析し、Fe(S,Se)複合析出物を形成してGoss方位の二次再結晶を起こすのに重要な元素である。本発明においては、SをSeと複合して添加することによって単独添加の場合より結晶粒成長抑制をより効果的に使用することができるため、Seと同等な添加量水準でSの含有量を限定する。つまり、Sを0.0005~0.020質量%添加することができる。Sをあまりに少なく添加する場合は添加効果が下がり、反対にあまりに多く添加する場合には連鋳および熱延段階のエッジクラックの発生が増加して実収率が低下するため、スラブおよび最終方向性電磁鋼板でのSの含有量は0.0005~0.020質量%に限定する。
【0037】
Se:0.0005~0.020質量%
セレニウム(Se)は、本発明の一実施例においては核心元素として取扱われる。Seは、Sと共に複合で結晶粒界に偏析すると同時に、結晶粒界でFe(S,Se)複合析出物を形成して結晶粒界の移動を強力に抑制することにより{110}<001>Goss方位結晶粒の二次再結晶形成を促進する。Seを単独で添加する場合には、Sを単独で添加するのと同様に、二次再結晶を起こすための単独添加量が、複合添加するときより多く添加してこそ安定した磁性確保が可能であった。しかし、そのような単独添加の場合、磁性確保は可能であるが、スラブ連鋳および熱延過程でエッジクラックの発生が増加して全体的な実収率低下を招く問題があった。
【0038】
本発明のように、SとSeを複合で添加して結晶粒界偏析およびFe(S,Se)析出物を形成する場合には、単独元素を添加する場合より、磁性および実収率が改善される結果を確保した。このような結果に基づいて、Seの含有量は同一な水準で製鋼段階で添加するのが効果的であり、その上限は0.02質量%を越えないことが好ましい。Sと複合で添加する本発明の成分系でみると、0.02質量%を超えると過多な結晶粒界偏析およびFe(S,Se)析出物形成により、連鋳および熱延過程でエッジクラックの発生が増加する。反対に、0.0005質量%未満で添加すると、Seの偏析およびFe(S,Se)析出物形成が少なくなり、結晶粒成長抑制効果が下がる。したがって、スラブおよび最終方向性電磁鋼板でのSe添加量は、0.0005~0.020質量%に限定する。
【0039】
前述したSおよびSeは、合量で管理することができる。スラブおよび最終方向性電磁鋼板において、SおよびSeは合量で0.005~0.04質量%含み得る。その合量が少な過ぎる場合、SおよびSeの複合偏析およびFe(S,Se)析出物形成が少なくなって結晶粒の成長抑制効果が下がる。その合量が多過ぎる場合、連鋳および熱延過程でエッジクラックの発生が増加する。
【0040】
B:0.0001~0.01質量%
ホウ素(B)は、鋼中にNと反応してBN析出物を形成して結晶粒成長の抑制もするが、結晶粒界に偏析して結晶粒界の結合力を強化させることによって、欠陥や、クラックの粒界伝播を抑制して、熱延中のエッジクラックの発生を低減するのに効果的な元素である。本発明の一実施例でのように、SとSeを複合で添加する場合に予想されるエッジクラック発生の可能性を最少化するために、Bの含有量を最大0.01質量%添加するのが好ましい。Bの含有量をあまりに多く添加する場合には、金属間化合物の形成による高温脆性を増加させる問題が発生する。反対に、過度に少なく添加する場合には、Bの添加によるエッジクラック発生を抑制できないため、スラブおよび最終方向性電磁鋼板でのBの含有量は0.0001~0.01質量%に限定する。
【0041】
Al:0.010質量%以下
アルミニウム(Al)は、鋼中に窒素と結合してAlN析出物を形成するため、本発明の一実施例においてはAlの含有量を積極的に抑制してAl系窒化物や酸化物等の介在物形成を避ける。酸可溶性Alの含有量が多過ぎるとAlNおよびAl2O3の形成が促進され、これを除去するための純化焼鈍時間が増加することになり、除去しきれなかったAlN析出物やAl2O3のような介在物が最終製品に残留し保磁力を増加させ、最終的に鉄損が増加し得るため、製鋼段階でAlの含有量を0.010質量%以下に積極的に抑制する。より具体的には、製鋼工程の負荷を考慮し、Alの含有量を0.001~0.010質量%に制御することができる。
【0042】
Mn:0.08質量%以下
マンガン(Mn)は、Siと同様に比抵抗を増加させて鉄損を減少させる効果があるが、従来技術における添加の主な目的は、鋼中でSと反応してMnS析出物を形成して結晶粒の成長を抑制することである。しかし、本発明の一実施例においては、MnS析出物を結晶粒の成長抑制剤として使用せず、Fe(S,Se)複合析出物を用いるため、Mnの含有量はMnSが形成されない含有量の範囲内に制限する必要がある。
最も理想的な方法は、Mnを全く添加しないことであるが、製銑および製鋼過程でMnの含有量が低い溶銑の使用および吹錬を実施しても一定量のMn含有量が残留するが、不可避的に残留する場合、その含有量は0.08質量%以下に制限することが好ましい。Mnが多量添加されるとMnS[Se]が析出されるため、SおよびSeの粒界偏析が少なくなって結晶成長移動を妨害するのが難しく、またFe(S,Se)複合析出物の形成も難しくなる。さらに、MnS[Se]析出物は固溶温度が高く、実際の鋼板に大きさが非常に大きな析出物として存在するようになり、結晶成長抑制力も下がる。また、高温焼鈍純化工程において、MnS[Se]を分解するために高温で長時間焼鈍しなければならない短所がある。このような理由から、本発明の一実施例においては、Mnの最大含有量は0.08質量%以下に管理する。Mnを添加しないのが最もよいが、0.001質量%未満に下げるためには製鋼工程の負荷が増加することになって生産性が下がるため、Mnの下限は0.001質量%に限定する。
【0043】
N:0.005質量%以下
Nは、AlおよびSiと反応してAlNやSi3N4析出物を形成する元素である。また、Bと反応してBNを形成しもする。本発明においては、結晶粒成長抑制剤としてAlNを用いないので製鋼段階で酸可溶性Al添加をしないため、Nを特別に任意的に添加しはしない。また、本発明では、結晶粒界結合力を増加させるためにBを添加するので、BNの形成は好ましくない。このような理由から、Nの上限は最大0.005質量%に制限して、BN析出に伴うB自体の結晶粒界結合力の強化効果を確保する。また、Nを添加しないか、最小で添加することが好ましいが、製鋼段階でNを0.0005質量%未満に管理するには、製鋼工程の脱窒負荷が大きく増加するため、製鋼段階でNは0.0005~0.005質量%に限定する。本発明の一実施例においては、窒化工程を省略することができるため、スラブ内のNの含有量と最終方向性電磁鋼板内のNの含有量が実質的に同一なこともあり得る。
【0044】
その他の元素
チタニウム(Ti)、マグネシウム(Mg)およびカルシウム(Ca)のような成分は、鋼中で酸素あるいは窒素と反応して酸化物あるいは窒化物を形成するため、強力抑制することが必要なことにより、それぞれの成分別に0.005質量%以下に制御することができる。より具体的には、それぞれの成分別に0.003質量%以下に制御することができる。
本発明の一実施例において、上述したように、特定含有量のSおよびSeの添加によって、SおよびSeの複合粒界偏析およびFe(S,Se)複合介在物を含む。本発明の一実施例において、Fe(S,Se)複合介在物とは、Feと反応して形成されたFe-S、Fe-SeまたはFe-S-Se金属間化合物を意味する。
【0045】
本発明においては、上述したように、Al、Mn、N等の含有量を積極的に抑制することにより、方向性電磁鋼板に形成される介在物の個数を少なく制御することができる。このような介在物は、方向性電磁鋼板の磁気的特性を劣化させる原因となり、本発明の一実施例においては、これらの生成を根本的に遮断することにより磁気的特性が優れる。また、製造過程で介在物の除去のために高温で長時間焼鈍する必要がなくなり、生産性に優れる。本発明の一実施例において、介在物とは、Al、Mn、Si、Mg、Ca、BまたはTiを含む介在物を意味する。より具体的には、介在物は、Al、Mn、Si、Mg、Ca、BまたはTiの酸化物、硫化物、窒化物または炭化物を意味する。本発明の一実施例において、介在物の個数は、方向性電磁鋼板の厚さ方向に垂直な面で方向性電磁鋼板を観察する時、単位面積当り観察される介在物の個数を意味する。
【0046】
本発明の一実施例においては、介在物の個数が少なく形成されるだけでなく、形成される介在物の平均粒径も小さく形成される。本発明の一実施例において、介在物の平均粒径は0.01~1.0μmである。この際、介在物の粒径とは、介在物に外接する仮想の円と内接する仮想の円の平均粒径を意味する。
このように、本発明の一実施例においては、SおよびSeの複合粒界偏析およびFe(S,Se)複合介在物を結晶粒成長抑制剤として使用して、磁気的特性に優れた方向性電磁鋼板を製造することができる。具体的には、本発明の一実施例において、磁束密度(B8)が1.90T以上で、鉄損(W17/50)1.00W/kg以下である。この際、磁束密度B8は、800A/mの磁場下で誘導される磁束密度の大きさ(Tesla)であり、鉄損W17/50は、1.7Teslaおよび50Hzの条件で誘導される鉄損の大きさ(W/kg)である。
【0047】
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、質量%で、Si:1.0%~7.0%、C:0.001~0.10%、P:0.0010~0.1%、Sn:0.005~0.2%、S:0.0005~0.020%、Se:0.0005~0.020%、およびB:0.0001~0.01%を含み、残部がFeおよびその他不可避不純物からなるスラブを加熱する段階と、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階と、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階と、冷延板を一次再結晶焼鈍する段階と、一次再結晶焼鈍が完了した冷延板を二次再結晶焼鈍する段階と、を含む。
【0048】
以下、各段階別に方向性電磁鋼板の製造方法を具体的に説明する。
まず、スラブを加熱する。製鋼段階では、Si、C、P、Sn、S,Se、B等の主要元素を適正含有量に制御し、必要に応じてGoss集合組織形成に有利な合金元素を添加する。製鋼段階で成分が調整された溶鋼は、連続鋳造によりスラブに製造される。Twin rollの間に溶鋼を投入して、直接熱延鋼板を製造するストリップキャスティング法を使用することができる。
スラブの組成については、電磁鋼板の組成と関連して具体的に説明したので、重複する説明は省略する。
スラブの加熱温度は制限されないが、スラブを1300℃以下の温度で加熱するようになると、スラブの柱状晶組織が粗大に成長することを防止し、熱間圧延工程で板のクラックが発生することを防止することができる。したがって、スラブの加熱温度は1050℃~1300℃である。特に、本発明の一実施例においては、結晶粒成長抑制剤としてAlNおよびMnSを使用しないため、1300℃を超える高温でスラブを加熱する必要がない。
【0049】
次に、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する。熱間圧延温度は制限されず、一実施例として950℃以下で熱延を終了する。その後、水冷して600℃下で巻取る。熱間圧延により1.5~4.0mmの厚さの熱延板に製造する。この際、本発明の一実施例においては、SおよびSeを複合で添加し、Bを追加的に添加するに伴い、片側エッジクラックが低減する。片側エッジクラックとは、鋼板の幅方向において、鋼板の端部から鋼板内部方向に発生するクラックを意味する。本発明において、熱延板の片側エッジクラックの長さは20mm以下である。片側エッジクラックの長さが長い場合、それだけ切断量が多くなり、実収率の低下が大きく発生する。本発明の一実施例においては、熱延板の片側エッジクラックを最大限低減することによって、実収率の下落を防止し、生産性を向上させることができる。
【0050】
次に、必要に応じて熱延板を熱延板焼鈍する。熱延板焼鈍を実施する場合、熱延組織を均一にするために900℃以上の温度で加熱し、均熱した後、冷却する。
次に、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する。冷間圧延はリバース(Reverse)圧延機あるいはタンデム(Tandom)圧延機を用いて、1回の冷間圧延、複数回の冷間圧延、または中間焼鈍を含む複数回の冷間圧延法により0.1mm~0.5mmの厚さの冷延板を製造する。
また、冷間圧延中に鋼板の温度を100℃以上に維持する温間圧延を実施する。
また、冷間圧延を介した最終圧下率は50~95%である。
次に、冷間圧延された冷延板を一次再結晶焼鈍する。一次再結晶焼鈍段階で、ゴス結晶粒の核が生成される一次再結晶が起こる。一次再結晶焼鈍段階で、冷延板の脱炭が行われる。脱炭のために、800℃~950℃の温度および50℃~70℃の露点温度で焼鈍する。950℃を超えて加熱すると、再結晶粒が粗大に成長して結晶成長の駆動力が下がり、安定した二次再結晶が形成されない。そして、焼鈍時間は本発明の効果を発揮するのに大きく問題にならないが、生産性を勘案して通常5分以内で処理することが好ましい。
【0051】
また、雰囲気は、水素および窒素の混合ガス雰囲気である。また、脱炭が完了すると、冷延板内の炭素含有量は0.005質量%以下である。より具体的には、炭素含有量は0.003質量%以下である。また、脱炭と同時に鋼板表面に適正量の酸化層が形成される。一次再結晶焼鈍過程において成長した再結晶粒の粒径は、5μm以上である。本発明の一実施例においては、AlNの結晶粒成長抑制剤を使用しないため、窒化工程を省略できる。
次に、一次再結晶焼鈍が完了した冷延板を二次再結晶焼鈍する。この際、一次再結晶焼鈍が完了した冷延板に焼鈍分離剤を塗布した後、二次再結晶焼鈍する。この際、焼鈍分離剤は特に制限せず、MgOを主成分として含む焼鈍分離剤を使用する。
二次再結晶焼鈍する段階は、昇温段階および均熱段階を含む。昇温段階は、一次再結晶焼鈍が完了した冷延板を均熱段階の温度まで昇温する段階であり、{110}<001>Goss方位の二次再結晶を起こす。
【0052】
均熱段階は、鋼板に存在する不純物を除去する過程であり、均熱段階の温度は900℃~1250℃で、20時間以下で行い得る。900℃未満であればゴス(goss)結晶粒が十分に成長できずに磁性が低下し、1250℃超過時は結晶粒が粗大に成長して電磁鋼板の特性が低下する。昇温段階は、水素および窒素の混合ガス雰囲気で、均熱段階は水素雰囲気で行われる。本発明の一実施例において、AlN、MnS等の結晶粒成長抑制剤を使用しないため、これを除去するために高温で長時間焼鈍する必要がなく、これにより生産性が向上する。
以後、必要に応じて、方向性電磁鋼板の表面に絶縁被膜を形成したり、磁区微細化処理をすることができる。本発明の一実施例において、方向性電磁鋼板の合金成分は、絶縁被膜等のコーティング層を除いた素地鋼板を意味する。
【0053】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。しかし、このような実施例は、単に本発明を例示するためのものであり、本発明はこれに限定されない。
実施例1
質量%で、C:0.055%、Si:3.2%、P:0.03%、Sn:0.04%、B:0.005%、N:0.002%、および下記表1のようにMn、S,Seの含有量を変化させ、残部がFeとその他不可避的不純物からなるスラブを準備した。
スラブを1250℃の温度で加熱した後、厚さ2.3mmとなるように熱間圧延した。熱延板の片側エッジクラック発生の深さを測定した後、熱間圧延された熱延板を950℃の温度で加熱した後、120秒間均熱して熱延板焼鈍を実施した。
続いて、焼鈍された熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延して厚さ0.30mmの冷延板に製造した。冷間圧延された鋼板は、露点温度60℃の湿った水素と窒素の混合ガス雰囲気中で、830℃の温度で180秒間維持して脱炭および再結晶熱処理した。
この鋼板に焼鈍分離剤のMgOを塗布した後、コイル状で最終二次再結晶焼鈍を実施した。二次再結晶焼鈍は、1050℃までは25体積%窒素および75体積%水素の混合雰囲気中で行い、1050℃到達後には100体積%水素ガス雰囲気で20時間維持した後、炉冷した。二次再結晶焼鈍後の鋼板の磁束密度(B8、800A/m)および鉄損(W17/50)をsingle sheet測定法を用いて測定し、測定結果と、Mn、S、およびSeの含有量変化に伴う熱延板での片側エッジクラックの発生量を下記表1に示した。
【0054】
【表1】
表1で確認できるように、SおよびSeを複合で添加して本発明の範囲に制御した場合、磁束密度と鉄損が両方ともに優れていた。また、熱延板のエッジクラック発生が20mm以下で現れた。しかし、SおよびSeの総含有量が0.04質量%を超える比較材6の場合には、エッジクラックが20mm以上発生し、磁性もまた劣位となる傾向を示した。Mnの含有量が0.08質量%を超える比較材3の場合には、Fe(S,Se)析出よりは粗大なMnS[Se]析出により結晶粒成長抑制効果が下がり、安定した二次再結晶が起こることができず磁性が劣位なものと判断される。
【0055】
実施例2
質量%で、C:0.06%、Si:3.0%、Mn:0.035%、S:0.015%、Se:0.015%、P:0.02%、Sn:0.06%、N:0.0015%、および下記表2のようにBの含有量を変化させ、残部がFeとその他不可避的な不純物からなるスラブを準備した。
スラブを1200℃の温度で加熱した後、厚さ2.0mmとなるように熱間圧延した。熱延板の片側エッジクラック発生の深さを測定した後、熱間圧延された熱延板を1000℃の温度で加熱した後、120秒間均熱して熱延板焼鈍を実施した。
続いて、焼鈍された熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延して厚さ0.23mmの冷延板にした。冷間圧延された鋼板は、露点温度60℃の湿った水素と窒素の混合ガス雰囲気中で、820℃の温度で150秒間維持して脱炭および再結晶熱処理した。
この鋼板に焼鈍分離剤のMgOを塗布した後、コイル状で最終二次再結晶焼鈍を実施した。二次再結晶焼鈍は、1150℃までは25体積%窒素および75体積%水素の混合雰囲気中で行い、1150℃到達後には100体積%水素ガス雰囲気で15時間維持した後、炉冷した。二次再結晶焼鈍厚鋼板の磁束密度(B8、800A/m)および鉄損(W17/50)をsingle sheet測定法を用いて測定し、測定結果と、Bの含有量変化に伴う熱延板での片側エッジクラックの発生量を表2に示した。
【0056】
【表2】
表2に示すように、Bが未添加の比較材7の場合に、磁気特性は比較的安定的に優れた特性を示したが、熱延板エッジクラック発生の深さは34mmで、エッジクラックによる熱間圧延板両エッジの切捨量が増加して生産性が下がる。
一方、Bの含有量が0.01質量%を超える比較材8の場合は、Bが鋼中のFeと反応して金属間化合物を形成するようになり粒界偏析して結晶粒界の結合力増加効果を期待するのは難しく、Goss方位結晶粒の二次再結晶形成に妨害となって磁気特性が劣位となる。
【0057】
実施例3
質量%で、C:0.051%、Si:3.3%、Mn:0.047%、S:0.014%、Se:0.016%、P:0.035%、Sn:0.06%、B:0.0055%、および表3のようにAlおよびNの含有量を変化させ、残部がFeとその他不可避的な不純物からなるスラブを準備した。
スラブを1150℃の温度で加熱した後、厚さ2.6mmとなるように熱間圧延した。熱延板の片側エッジクラック発生の深さを測定した後、熱間圧延された熱延板を1100℃の温度で加熱した後、150秒間均熱して熱延板焼鈍を実施した。
続いて、焼鈍された熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延して厚さ0.27mmの冷延板に製造した。冷間圧延された鋼板は、露点温度60℃の湿った水素と窒素の混合ガス雰囲気中で、855℃の温度で180秒間維持して脱炭および再結晶熱処理した。
この鋼板に焼鈍分離剤のMgOを塗布した後、コイル状で最終二次再結晶焼鈍を実施した。二次再結晶焼鈍は、1200℃までは50体積%窒素および50体積%水素の混合雰囲気中で行い、1200℃到達後には100体積%水素ガス雰囲気で10時間維持した後、炉冷した。二次再結晶焼鈍後の鋼板を介在物分析によって、介在物の平均大きさおよび単位面積当りの個数を下記表3に示した。また、磁束密度(B
8、800A/m)および鉄損(W
17/50)をsingle sheet測定法を用いて測定し、測定結果を表3に示した。
図1および
図2は、発明材16についての介在物および介在物成分分析の結果である。
図1に示すように、鋼板内に存在する介在物の量が非常に少ないことを確認することができる。
図1での介在物についての成分分析の結果は、Ca、TiおよびMg系の酸化物と、Al
2O
3そしてSiO
2の酸化物と判断され、一部MnS析出物も存在するものと確認される。
【0058】
【表3】
表3に示すように、Alが0.01質量%以下に抑制され、Nが0.005質量%以下に抑制された発明材16~発明材18は、最終製品に観察された介在物の数が500個/mm
2以下と観察され、磁束密度と鉄損が両方ともに優れていた。
これに対し、Alの含有量が0.01質量%を超える比較材9、およびAlの含有量が0.01質量%を超えNの含有量が0.005質量%を超える比較材10の場合、二次再結晶焼鈍後の最終製品で観察された介在物が鋼板内に500個/mm
2以上、過度に形成されることによって磁区移動を妨害して鉄損が劣位となった。
【0059】
このような介在物の総個数は、結局、製鋼段階で添加されるAlとMnの含有量が少ないほど最終高温焼鈍板に少なく存在する可能性が高いため、本発明の一実施例のように、質量%でAl成分は0.010質量%以下、Mnは0.08質量%以下の範囲で添加することが、最終製品での介在物総個数を減少させて、磁性に優れた方向性電磁鋼板を製造することができる。また、Ca、Ti、Mg等の不純物の含有量も、それぞれ0.005質量%以下に制限して、最終製品の介在物の個数を500個/mm2以下に減少させる必要があることを確認した。
本発明は、実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で製造されることができ、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的な思想や必須的な特徴を変更することなく、別の具体的な形態で実施できるということを理解するであろう。したがって、以上で記述した実施例は、全ての面で例示的なものであり、限定的ではないものと理解しなければならない。