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特許7068316巨大分子の精製のための高分子メッシュの利用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】巨大分子の精製のための高分子メッシュの利用
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/16 20060101AFI20220509BHJP
   B01D 15/34 20060101ALI20220509BHJP
   B01J 20/281 20060101ALI20220509BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20220509BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
C07K1/16
B01D15/34
B01J20/26 L
B01J20/28 Z
B01J20/30
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2019536659
(86)(22)【出願日】2017-09-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2017073332
(87)【国際公開番号】W WO2018050849
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-03-19
(31)【優先権主張番号】16189065.2
(32)【優先日】2016-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519093193
【氏名又は名称】クラヴェゴ ゲーエムベーハー アンド コー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】ゴットシャル,クラウス
(72)【発明者】
【氏名】ブリッチ,ローター
(72)【発明者】
【氏名】ゴットシャル,エブリン
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/013609(WO,A1)
【文献】特表2014-524916(JP,A)
【文献】特開2009-053191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/16
B01D 15/34
B01J 20/281
B01J 20/28
B01J 20/30
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料から標的タンパク質を回収するための方法であって、前記原料は前記標的タンパク質と宿主細胞タンパク質(HCP)、DNA、RNA、若しくは他の核酸、又はそれらの2種以上の組み合わせから選択される少なくとも1種の不純物化合物とを含み、前記原料は溶液又は懸濁液の形態であり、及び前記標的タンパク質は流体力学半径Rh1によって特徴付けられ、前記不純物化合物は流体力学半径Rh2によって特徴付けられ、ここでRh1>Rh2であり、前記方法は以下の工程(i)~(iv)を含む、方法:
(i)正に荷電されたアミノ基を含有する少なくとも1種の架橋ポリマーを含む高分子メッシュを提供する工程であって、前記ポリマーは可変に設定可能な細孔サイズ排除限界Rhiによって特徴付けられる工程;
(ii)前記高分子メッシュの前記可変の細孔サイズ排除限界RhiをRh2<Rhi且つRh1>Rhiとなるように流体力学半径Rh1及びRh2に適合させる工程;
(iii)前記高分子メッシュを前記原料と、高分子メッシュ中に不純物化合物を保持させ且つ標的タンパク質を高分子メッシュから排除させるのに十分な時間接触させる工程;
(iv)保持された不純物化合物を含有する高分子メッシュを、排除された標的タンパク質を含有する原料から分離して、精製された原料を得る工程。
【請求項2】
前記原料が、アルブミン、内毒素、界面活性剤、及び微生物、若しくはそれらの断片、又はそれらの2種以上の組み合わせをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(v)標的タンパク質を前記精製された原料から単離する工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
標的タンパク質を原料から回収するための方法であって、前記原料は前記標的タンパク質と宿主細胞タンパク質(HCP)、DNA、RNA、若しくは他の核酸、又はそれらの2種以上の組み合わせから選択される少なくとも1種の不純物化合物とを含み、前記原料は溶液又は懸濁液の形態であり、及び前記標的タンパク質は流体力学半径Rh1によって特徴付けられ、前記不純物化合物は流体力学半径Rh2によって特徴付けられ、ここでRh1>Rh2であり、前記方法は以下の工程(i)、及び(iii)~(iv)を含む、方法:
(i)正に荷電されたアミノ基を含有する少なくとも1種の架橋ポリマーを含む高分子メッシュを提供する工程であって、前記ポリマーがRh2<Rhi及びR h1 >Rhiとなるような細孔サイズ排除限界Rhiによって特徴付けられる工程;
(iii)前記高分子メッシュを前記原料と、高分子メッシュ中に不純物化合物を保持させ且つ標的タンパク質を高分子メッシュから排除させるのに十分な時間接触させる工程;
(iv)保持された不純物化合物を含有する高分子メッシュを、排除された標的タンパク質を含有する原料から分離して、精製された原料を得る工程。
【請求項5】
前記原料が、アルブミン、内毒素、界面活性剤、及び微生物、若しくはそれらの断片、又はそれらの2種以上の組み合わせをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
(v)標的タンパク質を前記精製された原料から単離する工程をさらに含む、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法であって、工程(i)における前記設定、又は工程(ii)における前記適合、又は工程(i)における前記設定及び工程(ii)における前記適合は、以下のうちの1つ以上により行われる、方法:ポリマーの構造を変化させること;高分子メッシュを生成するために使用する架橋剤を選択すること;高分子メッシュの架橋度を選択すること;高分子メッシュの調製及び使用のための溶媒を変更することによって、高分子メッシュの膨潤の度合いを制御すること;溶媒のpHを変更してこれにより高分子メッシュのプロトン化度を変更することによって、高分子メッシュの膨潤の度合いを制御すること;及び高分子メッシュが高分子メッシュと支持体とを含む複合材に含まれる場合には、ポリマーの濃度及び固定化される量を制御すること。
【請求項8】
工程(iii)における前記接触の前に、工程(ii)において得られた前記高分子メッシュを8未満のpHに平衡化することを含む、請求項1~3のいずれか1項又は7に記載の方法;又は
工程(iii)における前記接触の前に、工程(i)によって提供された前記高分子メッシュを8未満のpHに平衡化することを含む、請求項4~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
工程(iii)は、7以上のpI(等電点)を有する中性又は正に荷電された化合物を、前記平衡化された高分子メッシュによって低減することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか1項又は請求項1に従属する請求項7~9のいずれか1項に記載の方法であって、工程(i)において提供され又は工程(ii)において適合される高分子メッシュの前記可変の細孔サイズ排除限界Rhiは、1~20nmの範囲に設定され又は適合される、方法;又は
請求項4~6のいずれか1項又は請求項4に従属する請求項8又は9に記載の方法であって、工程(i)において提供される高分子メッシュの前記細孔サイズ排除限界Rhiは1~20nmの範囲内である、方法。
【請求項11】
請求項1~3のいずれか1項又は請求項1に従属する請求項7~10のいずれか1項に記載の方法であって、工程(i)において提供され又は工程(ii)において適合される高分子メッシュの前記可変の細孔サイズ排除限界Rhiは、3~10nmの範囲に設定され又は適合される方法;又は
請求項4~6又は請求項4に従属する請求項8~10のいずれか1項に記載の方法であって、工程(i)において提供される高分子メッシュの前記細孔サイズ排除限界Rhiは3~10nmの範囲内である、方法。
【請求項12】
請求項10又は11のいずれか1項に記載の方法であって、前記高分子メッシュ中に保持されるべき前記不純物化合物は4nm未満の流体力学半径Rh2を有する不純物化合物から選択される、方法。
【請求項13】
前記不純物化合物は宿主細胞タンパク質である、請求項12の方法。
【請求項14】
前記標的タンパク質は抗体である、請求項13の方法。
【請求項15】
前記原料は発酵ブロス懸濁液である、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
工程(iii)及び(iv)は対流輸送を適用しない一工程バッチプロセスとして行われる、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記高分子メッシュは複合材料の一部である、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
工程(i)は、ポリ(ビニルアミン)若しくはポリ(ビニルホルムアミド-コ-ビニルアミン)又はそれらの混合物を、前記正に荷電されたアミノ基を含有する架橋ポリマーに変換することを含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
i)支持材料の少なくとも細孔体積を、少なくとも1種の架橋性ポリマー又はコポリマーと少なくとも1種の架橋剤との溶液で充てんする工程と、
ii)前記架橋性ポリマーを架橋によってその場で固定化する工程と、
を含み、前記支持材料は粒子状、薄膜状、又はモノリシックである、
複合材料の合成のためのプロセス。
【請求項20】
前記架橋性ポリマーはポリ(ビニルホルムアミド-コ-ビニルアミン)若しくはポリ(ビニルアミン)、又はそれらの混合物である、請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
20nm~5mmの平均細孔サイズを有する多孔質支持材料を含む複合材料であって、8未満のpHの適用条件下で、前記多孔質支持材料の全細孔体積を架橋一級又は二級アミノ基含有ポリマーで充てんし、
前記複合材料は、インバースサイズ排除クロマトグラフィ(iSEC)によってpH6の20mM酢酸アンモニウム緩衝液中でプルラン標準物質を用いて決定される細孔サイズ分布によって特徴付けられ、ここで
4nm以上の流体力学半径Rhを有する分子は細孔体積の少なくとも90%から排除され、及び
全細孔体積の少なくとも35%は、流体力学半径Rh=2.13nmを有するプルラン標準物質6.2kDにアクセス可能な細孔によって表される、
複合材料。
【請求項22】
21.7kDaの分子量及びRh=3.98nmを有する較正されたプルラン標準物質が細孔体積の少なくとも90%から排除される、請求項21に記載の複合材料。
【請求項23】
全細孔体積の少なくとも15%は流体力学半径Rh=2.7nmを有するプルラン標準物質10.0kDaにアクセス可能である、請求項21又は22に記載の複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不要化合物と標的化合物とを含有する溶液又は懸濁液から前記不要化合物を分離するための、ポリマーゲル又は複合材料のいずれかを含む高分子メッシュの使用に関する。本発明はまた、この目的に適した特定の高分子メッシュ、及び前記高分子メッシュを含む複合材料の調製プロセスに関する。本発明はまた、前記高分子メッシュを用いて発酵ブロスから標的タンパク質を回収するための方法に関する。詳細には、本発明は、前記複合材料の使用による遺伝子組み換えタンパク質、好ましくは抗体及び抗体断片の分離に関する。
【背景技術】
【0002】
精製された可溶性巨大分子は全産業に渡って非常に重要な物質である。主に医薬及び医療の分野では、治療及び診断目的が主であるが組織工学のような技術のためにも、生体高分子物質に対する需要が拡大していることが報告されている。利用可能なクロマトグラフ法の中でも、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)は、低容量、低解像度、及び低速度が原因で酷く生産性が低いことに起因して、ポリッシング目的を除く大規模な操作のためには有用ではないと考えられている。特に、分子のサイズによる分離は、最大でも充填カラム内部の一回の総液体体積以内で行われるため、SECにおける負荷容量は一般に非常に限定的である。これにより、特別の固定相の間隙体積と細孔体積との比率、並びに細孔サイズ分布が、SECにおける限定されたサンプル体積に寄与する主要な特性となる。
【0003】
巨大分子の未精製溶液、例えばほぼあらゆる種類の生物学的出発原料からの粗抽出物、特に生存又は死滅組織、種々の培養技術の組織及び細胞培養物からの粗抽出物中の様々な不純物の莫大な数に起因して、従来のクロマトグラフィ精製プロセスにおける第一工程は通常、標的化合物の結合(「捕捉」)を含んでおり、一方、不要な生成物の大部分が全く結合されずに残るか、又は選択的溶出工程によって標的から分離されて、この工程中標的物質の前後に、結合された不純物が放出され得る。
【0004】
しかしながら、第一工程において不純物の大部分を結合し、精製された標的化合物が未結合のまま溶液中に残ることは、生成物の回収及び全体的なプロセスの合理化の点で極めて有利であろう。主に抗体精製の目的のためには、このアプローチは、未精製の供給溶液中に存在するおよそ10,000Da~100,000Daの分子量を示す付随的なタンパク質の大部分の結合を可能としなければならない。タンパク質のこの分子量範囲はおよそ1.5nm~5nmの流体力学半径Rの分子サイズに相当する。
【0005】
対応する問題は、一般には先行技術によりこの方法では解決されなかった。
【0006】
抗体及び他のタンパク質の精製のために、種々の支持材料とアミノポリマーとを含む複合吸収剤を分離剤として用いる幾つかの方法が報告されている。支持材料は粒子、フィルター媒体、又は膜のいずれかであった。ポリエチレンイミン、ポリ(アリルアミン)、及びポリ(ビニルアミン)が共有結合的に又は架橋後に支持体に結合された好ましい官能性アミノポリマーであった。
【0007】
この目的のためには基本的に、フィルター材料又は粒子による充填層が結合及び溶出のために種々の緩衝液で灌流され、その間に供給物のうちの特定の化合物が保持されることを特徴とするクロマトグラフ法が適用されてきた。
【0008】
粒子系の複合材料に関して、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7の特許出願ファミリー(「WO994」ファミリー)は球状シリカ及びポリスチレンスルホネート支持体の由来の不明なポリビニルアミンによるコーティングを含んでいる。通常、これらの複合材はさらに誘導体化され、種々の薬剤化合物の選択的分離に特化されている。ポリ(ビニルアミン)コーティングの結合は一般に、以下の二工程手順によって達成される。即ち、細孔を有する支持材料にポリマー水溶液を染み込ませた後、この材料を乾燥し、第2工程において、析出したポリマーを再溶解しない適切な有機溶媒中に架橋剤を溶解した後、懸濁液中で架橋を行う。
【0009】
特許文献8は、複数のポリアミンを保持するマトリクスを含む、タンパク質分離に使用するための複合分離媒体を開示しており、複数のポリアミンはマトリクスに共有結合されている。
【0010】
特許文献9は、生物学的流体から汚染物質を除去する方法に関し、この方法は、多孔質鉱物酸化物マトリクスの上部を覆うが共有結合はしていない架橋疎水性高分子メッシュであって、前記多孔質鉱物酸化物マトリクス内部の細孔体積は、前記疎水性メッシュで実質的に満たされている架橋疎水性高分子メッシュと前記生物学的流体を接触させ、それによって10,000ダルトン未満の平均分子量を有する疎水性の両性分子を除去することを含む。
【0011】
特許文献10には、非多孔質コアと、生体分子を結合するための荷電性のペンダント基又は親和性リガンドのいずれかを含む高分子ベースマトリクス、例えば、デキストランとで構成される粒子状材料が記載されている。この荷電性のペンダント基はポリエチレンイミン又は変性ポリエチレンイミンであり、触手様の構造を形成し得る。この材料はDNA等の生体巨大分子の分離に利用される。
【0012】
特許文献11には、複数の細孔を有する支持体部材と前記支持体部材の細孔を充てんしているマクロ多孔質架橋ゲルとを含む複合材料が開示されている。
【0013】
特許文献12は、膜に固定化された架橋ポリアミンコーティングを使用する生物学的試料の精製に関する。
【0014】
複合材を調製する試みの多くは、支持材料の体積又は表面の空のスペースの内部でのモノマーの重合に関係している。このようなプロセスは、生じたポリマー鎖の前記表面への共有結合も含む場合がある。本発明では重合反応を扱うことは好ましくなく、成形済みのポリマーの使用について述べている。
【0015】
成形済みポリマーの支持材料への永続的な固定化を含む複合材料の合成のためには、基本的に以下の2つの方法が利用可能である。
【0016】
・支持材料表面へのポリマーの共有結合
・架橋を介した表面上への又は細孔中へのポリマーの固定化。
【0017】
共有結合はより面倒で費用がかかり、それに加えて表面に結合される層の厚さに関して制限を受けることになる。一方、支持体表面が平坦又は不均質であるならば、単に安定性の理由により、膜、布帛、又は組織を用いる場合と同様に、それは好ましい方法である。
【0018】
架橋は、得られるメッシュが良好に捕捉され及び厚みのある層を形成し得ることから、必要とされる労力がより少なく且つ多孔質材料を用いて適用可能である。一方、多孔質粒子は意図に反して接着し合う場合があり及び/又は細孔が塞がれる場合があるため、多孔質粒子をこの方法でコーティングするには大きな問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】国際公開第2013/007793号
【文献】国際公開第2013/007799号
【文献】国際公開第2013/037991号
【文献】国際公開第2013/037992号
【文献】国際公開第2013/037993号
【文献】国際公開第2013/037994号
【文献】国際公開第2013/037995号
【文献】国際公開第90/14886号
【文献】国際公開第95/25574号
【文献】米国特許第6,783,962号
【文献】国際公開第2004/073843号
【文献】米国特許出願公開第2010/0200507号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
ポリマーを粒子又は多孔質のモノリシック支持材料の細孔に架橋を介して結合するためには、さらに以下の2つの合成経路が利用可能である。
【0021】
・最初にポリマーを支持体の内部表面に沈殿させ、その後、前記ポリマーを再溶解することができない溶媒中に溶解された架橋剤を加えた後これらの成分間の反応を開始し所望の架橋度が得られるまで続けることによって沈殿した材料を架橋する。
【0022】
この手順により細孔の閉塞及び粒子の連結は両方とも確実に回避される。一方、本発明内で示されるように(図実施形態1.1~1.4及び表2参照)、ポリマーに対するアクセス性に関して、異なる、そしてあまり望ましくないモルフォロジーが得られる。
【0023】
・支持体の細孔をポリマーと架橋剤との混合物で充てんするためのそれらの同時添加と、それに続くこれらの成分間の反応の開始。反応は所望の架橋度が得られるまで続けられ、それによって、中間の物理的操作を必要とすることなく得られるポリマーメッシュの固定化が媒介される。
【0024】
溶解された成形済みポリマー及び架橋剤を反応のために多孔質支持材料に同時に大量に又は大きな体積で導入すると、支持材料の細孔を塞いで変性された生成物の物質移動が乏しくなってしまうおそれがあるため、当業者はそのようなことは避けるであろう。
【0025】
しかしながら意外なことに、本発明の合成条件下では閉塞も連結も起こらないことが分かった。加えて、官能性ポリマーと反応性架橋剤とを予め混合することは一般には推奨されない。しかしながら、本発明で使用されるように、架橋反応が高度な温度で開始される場合に限りこの関連法は好ましい。
【0026】
基本的には先行技術では複合材の「一工程合成」は避けられ、常に最終品ではない複合材の中間又は後乾燥が行われていた。さらに、先行技術では、支持体細孔体積の外側に反応性溶液が存在することは回避された。支持体細孔のポリマーによる閉塞及び粒子の意図されない連結はすなわち克服できない問題であるように思われていたが、今般本発明によって解決された。
【0027】
したがって、製造プロセスを終える前の上流での乾燥もまたこれまで、そうしたリスクを防ぐために最良の方法と思われていた。
【0028】
標的化合物のための捕捉工程を回避するという概念は、不要化合物の大部分が「ポジティブに」吸着され、及びこのようにして低減されることを特徴とする一種の「ネガティブクロマトグラフィ」と定義される場合がある。この目標を実現するための戦略を以下の工程I、II、及びIIIにおいて概説する。前記「排除による非結合」を、例えば表面と分子との同じ電荷に起因して標的化合物が吸収剤から単に反発されるだけのアプローチから区別することが重要である。以下の3つの部分からなる識別機構が、本発明の材料及び方法により可能となる特長、即ち戦略である。
【0029】
I.遺伝子組み換え抗体からの、標的物質の分子量を下回る分子量を示す物質、例えば宿主細胞タンパク質の大部分及びBSAの低減であって、前記不純物は対応する発酵プロセスにおいて使用される宿主細胞及び細胞培養媒体に由来し得る。
【0030】
II.核酸、ウイルス及びそれらの断片のような高分子量化合物やナノ粒子の同時低減。
【0031】
III.標的化合物、一般にはメッシュ細孔の体積に侵入するには大きすぎる分子、例えばタンパク質を回収し、同時に媒体の外側表面への(それらの強力な)結合を回避する。
【0032】
したがって、本発明の目的は、I、II、及びIIIに基づいて目標に到達することが可能な精製プロセスを可能にする方法及び材料を提供することである。
【0033】
前記「ネガティブ」分離工程は標的化合物の特定のメッシュ細孔体積からの立体的排除によって実現され、一方でより小さな分子サイズの不純物はこの体積に入り込み、そこで保持され、内部表面に共有的に結合されるか吸着され、又は分割機構によってメッシュ体積へと分配されるか単純に包含され得る。吸着は好ましくは、主としてイオン力、水素結合力、分散力、ファンデルワールス力、及び配位(リガンド交換、ドナー-アクセプター)力を含む、非共有相互作用によって達成される。
【0034】
したがって、本発明の材料は、原則として吸着、分割クロマトグラフィ、及びサイズ排除クロマトグラフィの利点を組み合わせ、標的化合物を排除されたまま残し、一方不純物は高分子メッシュの内部に保持される。
【0035】
したがって、本発明は、少なくとも1種の標的化合物と少なくとも1種の不純物とを含む原料から標的化合物を回収する方法であって、ろ過された又は未精製の原料を少なくとも1種の高分子メッシュと十分な時間に渡り接触させて、少なくとも1種の不純物を高分子メッシュによって保持させ、次いで前記高分子メッシュを少なくとも1種の標的化合物を含有する精製後の原料から分離し、及び任意で、前記少なくとも1種の標的化合物を前記原料から単離することを特徴とする方法を提供する。
【0036】
加えて、標的化合物の外側表面への望ましくない吸着のために残される面積はほとんどないため、多孔質材料の全粒子表面に対する外側粒子表面の寄与が比較的小さく、このことが所望のネガティブ吸着効果を大いに助長する。
【0037】
同時に著しく大きな内側表面が、内部細孔体積に入り込むことのできる大量の低分子サイズ不純物に対する高い結合能力を提供する。さらに、それらの分子のサイズに起因して内部細孔体積からやはり排除されたまま残る特定の低濃度であるが高荷電及び高分子量の汚染物、例えば、核酸及びウイルス粒子及びそれらの断片が、媒体外側表面に効率的に捕捉されるようになり、それによって立体的に排除された標的化合物に対する吸着競合物として働き得る。
【0038】
本発明が、薬物又は薬物代謝物のような小分子の結合だけではなく、およそ5nm未満の流体力学半径Rと同等の、分子量およそ100,000Daまでの巨大分子の前記高分子メッシュの内部への結合を可能にするということを強調することが重要である。さらに、標的化合物は高分子メッシュの細孔体積に結合されずに、排除されたまま残る。このアプローチは、望ましくない化合物が結合されないまま残り、通常はごく少ない数の標的物質が、それらが吸着される多孔質スペースに浸透する制限アクセス法とは全く対照的である。
【0039】
本発明の精製戦略はこれまでは普通ではなかったが、一般的な分離の問題を解決するために有益な方法を暗示している。しかしながら、植物抽出物又は細胞培養上清のような未精製の溶液中の不純物の数は、莫大な異なる構造を含む数千部位に及ぶ範囲に渡るため、一工程で90%超の低減レベルに到達するためには複合材料によって非常に高い全般的な親和性が提供されなければならない。概して、本発明は以下の教示を提供する:
【0040】
・巨大分子のための効率的な精製プロセスであって、標的分子は固定相又は吸収材の高分子メッシュの細孔から排除され、一方で不純物の大部分は内部細孔によって保持されることを特徴とするプロセス。前記内部細孔は固定化された高分子コイルの内部及びそれらの間の体積を含む。
【0041】
・高分子メッシュを含む複合材のための迅速で簡単で安価で且つ堅牢な合成プロセスであって、溶媒A中に溶解されたポリマーと架橋剤との混合物を支持材料に加え、反応及び溶媒B中での膨潤後にナノ多孔質メッシュを生成することを特徴とし、反応混合物の体積は好ましくは懸濁された支持材料の細孔体積を上回る。
【0042】
・架橋ポリマーを含む、ソフトゲル又は複合材のいずれかの高分子メッシュの材料設計であって、このメッシュは、特定の溶媒中で、少なくともRh1の流体力学半径を有する有益な分子の排除によって特定される細孔サイズを示し、一方でRh1未満の流体力学半径を有する少なくとも1種の不要化合物は前記メッシュに浸透した後で内部細孔によって保持されることを特徴とする、材料設計。
【0043】
本発明に関して、実際に最も重要な応用分野は生命工学である。それとは別に、他のポリマー精製の問題もまた本発明の対象である。
【0044】
例えば抗体のような標的タンパク質を含有する発酵ブロス又は体液から出発するような生体分離において、その目標は、DNA、RNA、宿主細胞タンパク質(HCP)、天然に生ずるか又は細胞増殖用の媒体の内容物として導入されるBSAやトランスフェリンのような豊富な防御又は飼料タンパク質、及び内毒素、並びに病原菌又はそれらの断片等の物質を低減させることである。加えて、より良好な細胞増殖又は保存を達成するために添加されることの多い界面活性剤も、好ましくは低減されるべきである。
【0045】
このように生体分離における一般的な課題は、以下のa)~g)に挙げるような物質の低減である。実際に、関連する分離の問題を一工程又は二工程で且つ低いコストレベルで解決するために利用可能な方法及び材料は存在していない。
【0046】
標的化合物を含有する原料として発酵ブロス(ろ過前若しくはろ過後)又は細胞培養上清(CCS)を使用する場合、その標的化合物は遺伝子組み換えタンパク質、好ましくは抗体であり、及びその原料は不純物として以下の部類の化合物を含む:
a)少なくとも100,000ダルトンの分子量を有するDNA、RNA、他の核酸、タンパク質、及び有機物質;
b)100,000ダルトン未満の分子量を有するプロテアーゼを含めた宿主細胞タンパク質(HCP);
c)アルブミン(BSA、HSA、卵白アルブミン);
d)細胞培養媒体中に存在する他のタンパク質並びに栄養分又は細胞代謝に由来する種々の分子量の物質;
e)内毒素;
f)界面活性剤;及び
g)細菌、及びウイルス等の微生物、又はそれらの断片。
【0047】
したがって、本発明の目的は、後述するような改良及び進歩を示す、精製方法を提供すること、この目的のために好適な分離材料、及び前記分離材料の合成のためのプロセスを提供することである。
【0048】
本発明の目的は、好ましくは構造的に異なる物質の部類に属する数種の不純物の溶液(原料)からの同時除去を達成し、一方で少なくとも1種の標的化合物は未結合のまま残って高収率で回収される分離方法及び精製プロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0049】
予期せぬことに、本発明の高分子メッシュは宿主細胞タンパク質、核酸、及び栄養タンパク質を非常に高度に同時除去することが可能であることが見出され(実施例参照)、一方ヒト血漿からの抗体の複雑な混合物は高い収率で回収された。
【0050】
本発明はこのように、ソフトゲル又は複合材料のいずれかの高分子メッシュの利用に関する。ソフトゲルとは、モノマーと架橋剤とから合成されるか又は好ましくは成形済みのポリマーと架橋剤とから合成され、こうして共有又は非共有的架橋によって固定化された結合されたポリマー鎖又はコイルを含む多孔質固体材料を生ずるメッシュを意味する。
【0051】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい一実施形態では、各ソフトゲルは、架橋官能性ポリマー、好ましくは架橋アミノ基含有ポリマーと種々の架橋剤とを含む。上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたより好ましい実施形態では、前記複合材料は好ましくは、多孔質支持材料に固定化されて複合材を形成する架橋アミノ基含有ポリマーを含む。
【0052】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた別の実施形態では、前記ポリマーは支持材料の表面に共有結合され、及び任意でさらに架橋されていてもよい。
【0053】
不要化合物と標的化合物とを含有する溶液(原料)からの不要化合物の分離のために、ソフトゲル及び複合材の両方を使用することができる。
【0054】
本発明の標的化合物は、ポリマー、好ましくは生体ポリマー、より好ましくはタンパク質、及び最も好ましくは抗体を含む。
【0055】
供給溶液又は懸濁液は合成又は天然起源の少なくとも2つの溶解された物質を含み、好ましくはろ過済みである(細胞培養上清)か、又は細胞及びデブリのような固体断片を未だ含有している発酵ブロスを含む。
【0056】
有利な改良された分離技術は下記を可能とすべきである。
【0057】
1.精製され溶解された標的化合物から不純物を同時に高度に分離すること。
【0058】
2.樹脂への結合及びそれに続く溶出が全体のプロセスコストに寄与し生成物の収率も低下させ得ることから、標的化合物の捕捉を回避すること。通常の捕捉手順の代わりに、不純物の大部分の不可逆的な又は少なくとも強力な結合を目標とした。
【0059】
3.高価な装置及び材料の必要性、並びに時間のかかる操作に起因する有益な標的化合物の損失及び分解を減らすことによって、供給溶液又は懸濁液から、例えば発酵ブロスから、標的化合物を迅速及び安価に精製すること。
【0060】
4.好ましくは、分離材料を通した貫流を特徴とするクロマトグラフィ工程を回避すること。特に、より弱い結合を示す不純物は標的化合物と共溶出し得るため、貫流又は灌流はそれらの不純物の低減のためには不利である。
【0061】
5.未結合の精製された標的化合物を含有する精製後の溶液を、この有益な化合物の有意な部分が複合材料に吸着することなしに、高収率で迅速に得ること。
【0062】
6.好ましくは再生を必要とせず一サイクル後に分離材料を処分し、それにより企図された数のプロセスサイクルの退屈な検証を回避すること。
【0063】
h1未満の流体力学半径を有する少なくとも1種の化合物と、Rh1以上の流体力学半径を有する少なくとも1種の標的化合物とを含む原料から標的化合物を回収するための、下記の工程を含む方法を提供する本発明に従って、上述の技術的問題1~6、好ましくは問題1、2、及び5は解決され、前記目的は達成された:
【0064】
前記原料を少なくとも1種のアミノポリマーを含む高分子メッシュと十分な時間に渡り接触させる工程であって、Rh1未満の流体力学半径を有する少なくとも1種の化合物は高分子メッシュによって保持される工程と、その後Rh1以上の流体力学半径を有する少なくとも1種の標的化合物を含有する精製後の原料から高分子メッシュを分離する工程と、任意で、原料から標的化合物を単離する工程。
【0065】
h1は「排除限界」として定義され、1nm~20nm、好ましくは3nm~10nm、最も好ましくは4nm~6nmの範囲である。
【0066】
単離するとは精製された標的化合物を、抽出、蒸留、凍結乾燥、又は他の既知の手順を利用して固体又は抽出物として得ることを意味する。
【0067】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい一実施形態では、前記高分子メッシュは少なくとも1種のアミノポリマーを含む。
【0068】
特に、本発明によれば、少なくとも1種の標的タンパク質と、宿主細胞タンパク質(HCP)、DNA、RNA、又は他の核酸を含み、及び任意でアルブミン、内毒素、界面活性剤、及び微生物、又はそれらの断片を含む不純物とを含む溶液又は懸濁液のいずれかの原料から、標的タンパク質を回収するための方法が提供され、前記方法は以下の工程を含む:
i)前記原料を少なくとも1種のアミノポリマーを含む高分子メッシュと十分な時間に渡り接触させる工程であって、少なくとも1種の不純物化合物は保持される工程、
ii)次いで、高分子メッシュを少なくとも1種の標的タンパク質を含有する精製後の原料から分離する工程、及び
iii)任意で、標的タンパク質を原料から単離する工程。
【0069】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい一実施形態では、標的化合物は溶解されており、別の実施形態では、標的化合物は少なくとも部分的に懸濁されている。不純物もまた少なくとも部分的に懸濁されている。
【0070】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい一実施形態では、溶液又は懸濁液は好ましくはろ過された又は未精製の発酵ブロスである。
【0071】
前記少なくとも1種の保持された化合物は、宿主細胞タンパク質(HCP)、DNA、RNA、又は他の核酸、アルブミン、内毒素、界面活性剤、及び微生物を含む部位のサブセットである。
【0072】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい一実施形態では、工程ii)によって精製供給物中に残存する前記少なくとも1種の標的化合物は、高分子メッシュ体積から排除された。
【0073】
任意で、工程iv)内で、高分子メッシュは弱溶媒で洗浄され、得られた溶液を更なる処理のために収集する。
【0074】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい一実施形態では、アミノポリマーはポリ(ビニルアミン)又はポリ(ビニルホルムアミド-コ-ビニルアミン)のいずれかである。
【0075】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい一実施形態では、上記の原料は少なくとも1種のアミノポリマーを含む高分子メッシュと十分な時間に渡り接触され、この際4nm未満の流体力学半径Rh2を有する前記少なくとも1種の不純物化合物はアミノポリマー含有高分子メッシュによって保持され、一方で4nm以上の流体力学半径Rh1を有する少なくとも1種の標的タンパク質は精製後の供給物中に残存する。
【0076】
定義により、高分子メッシュの細孔体積は、固定化された高分子コイルにより橋渡しされるウェブの内部の特定の体積とみなされる。外側ウェブの表面及び支持材料の外側表面はこのメッシュ体積には寄与しない。
【0077】
高分子メッシュにより保持されるとは、吸着等の非共有若しくは共有結合機構に起因する、又は分割、サイズ排除、若しくは抽出機構に起因する、メッシュ細孔の内部での低減を意味する。
【0078】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい一実施形態では、高分子メッシュは複合材料を含む。
【0079】
それに応じて、本発明は、工程i)に対応する分離用の複合材料の合成のための方法であって、多孔質支持材料が、架橋官能性ポリマー、好ましくはポリ(ビニルホルムアミド-コ-ビニルアミン)、直鎖若しくは分子鎖ポリ(ビニルアミン)、ポリ(アリルアミン)、ポリ(エチレンイミン)、若しくはポリリジン、又はこのようなアミノポリマーを含有するコポリマーで充てんされる方法を提供する。
【0080】
さらに、本発明によれば、ポリ(ビニルホルムアミド-コ-ビニルアミン)の組成は5%~80%、好ましくは10%~40%、より好ましくは10%~20%のポリ(ビニルホルムアミド)を含んでいる。
【0081】
さらに、工程i)に従う又はそれに匹敵するいずれかの接触のために、アミノポリマー含有高分子メッシュを予め、水性緩衝液、又は好ましくは一塩基酸の、塩溶液と混合することによって、pH8未満、好ましくはpH3~7.5、より好ましくはpH4~7、最も好ましくはpH6~6.8に平衡化する。前記平衡化はまた、ソフトゲルを処理する規則でもある。平衡化された高分子メッシュにおける緩衝液又は塩の濃度は500mM未満、好ましくは10mM~200mM、より好ましくは20mM~100mMである。使用の前に、平衡化された高分子メッシュは前記緩衝液又は塩溶液で少なくとも湿潤され、好ましくは少なくとも細孔体積が充てんされている。
【0082】
好ましい一塩基酸はギ酸、酢酸、スルファミン酸、塩酸、過塩素酸、又はグリシンである。好ましい陽イオンはアンモニウム、アルキルアンモニウム、ナトリウム、及びカリウムである。
【0083】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい一実施形態では、前記塩は酢酸アンモニウムである。
【0084】
任意で、標的化合物が塩基性である場合、原料のpHを4~7の範囲に調節する。
【0085】
以下は本発明による標的化合物を分離するための方法の好ましい実施形態である。
【0086】
本発明の分離方法は好ましくは、原料、例えば、ろ過溶液又は細胞及び細胞デブリ等を未だ含有している未精製懸濁液のいずれかを表す発酵ブロスに関係する。
【0087】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、標的化合物として遺伝子組み換えタンパク質を含み、不純物として宿主細胞タンパク質、DNA、及びBSAを含む溶液又は懸濁液をアミノポリマー含有高分子メッシュと接触させ、原料から不純物を同時に低減させる。
【0088】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい一実施形態では、アミノポリマー含有高分子メッシュを用いてBSAが5%(w/v)溶液から完全に低減された。
【0089】
予期せぬことに、pI(等電点)値7以上の不純物が本発明の高分子メッシュを適用して少なくとも95%まで低減されたことが分かった(実施例)。宿主細胞特異性のELISAを等電点電気泳動と組み合わせて用い、低減された前記中性及び塩基性化合物の大部分が宿主細胞タンパク質であったことが示された(「方法」参照)。
【0090】
故に、下記実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、7以上のpIを示す又は塩基性の性質を示しイオン性相互作用が可能な宿主細胞タンパク質は、アミノ含有ポリマーを含む正に荷電された高分子メッシュを用いた場合、50%まで、好ましくは80%まで、最も好ましくは少なくとも90%まで低減される。
【0091】
したがって本発明は、正に荷電されたアミノ基含有高分子メッシュ、好ましくは複合材、最も好ましくはポリ(ビニルアミン)又はポリ(ビニルホルムアミド-コ-ビニルアミン)を含む複合材を適用して、7以上のpIを有する化合物を低減するための方法を提供する。
【0092】
前記高分子メッシュは、pH8未満、好ましく7未満の溶液による平衡化の後では、正に荷電される。
【0093】
下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、5nmを超える、好ましくは4nmを超える流体力学半径Rh1を示す標的化合物及び較正済みの試験物質は、使用溶媒条件下でメッシュ細孔体積から立体的に排除され,こうして他の構成成分から分離される。したがって本発明は、正に荷電されたアミノ基含有高分子メッシュを適用して4nmを超える流体力学半径Rh1を示す化合物を回収するための方法であって、前記化合物の少なくとも80%、好ましくは90%が液相中に残存する方法を提供する。
【0094】
分子量と流体力学半径との関係についても「方法」の項を参照のこと。
【0095】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、i)、ii)、及びiii)の手順内でクロマトグラフィの代わりに一工程バッチ吸着プロセスを用い、精製後の供給溶液を沈降又は遠心分離によって不純物が負荷された複合吸収材から除去することを特徴とする。
【0096】
バッチ低減は拡散機構による操作であるということが強調される。好ましくは、対流輸送機構、例えば貫流を必要とするカラム等の装置は適用されない。
【0097】
当業者は、一理論段分離工程と同等なワンユニットの操作を適用しただけでは満足のいく精製を期待しないであろう。というのも、通常こうした手順では複雑な試料混合物については十分な選択性が見出されていないためである。クロマトグラフィカラム又は選択的勾配溶出技術においては、複雑な供給物中の種々の化合物の結合定数の幅広い分布に起因して、良好な分離のためには常に多くの段数を必要とするであろうということが共通原則である。しかし本発明を用いれば、サイズ排除機構によって、高分子量の標的物質に対する種々の不純物への選択性が生まれる。故に、本発明の材料及び方法を用いて設計されるような吸着とサイズ排除機構との組み合わせによって、高度な精製が可能となる。
【0098】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、工程i)の持続時間は5~30分間である。
【0099】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、単一の精製工程により効率的な不純物の低減が達成できる。
【0100】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたさらに好ましい実施形態では、多孔質支持材料は3μm~10mm、好ましくは20μm~500μm、最も好ましくは35μm~200μmの平均粒子サイズを有する粒子状材料である。
【0101】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、標的化合物はポリマー、好ましくは生体ポリマー、より好ましくはタンパク質である。生体ポリマーは、生体によって一旦生成された500Daを超える分子量を有するペプチド、タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、核酸、及びいずれかの他の化合物を含んでいる。
【0102】
下記の実施形態のいずれかと組み合わせたさらに好ましい実施形態では、タンパク質は抗体、ペグ化された抗体又は抗体の他の誘導体、又は抗体断片である。
【0103】
したがって、本発明は工程i)、ii)、及び任意でiii)を含み、標的化合物が抗体であることを特徴とする精製プロセスに関する。
【0104】
ここで抗体とは、タンパク質合成のためのいずれかの種類の細胞培養若しくは細胞非含有系からの遺伝子組み換えタンパク質としての又は生物学的流体若しくは組織から単離された、ヒト又は他の起源の、いずれかの免疫グロブリンを意味する。
【0105】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい一実施形態では、予期せぬことに、アミノポリマー含有高分子メッシュと接触させた後20分後でもポリクローナル抗体(hIgG)混合物から凝集物が形成されないことが分かった。それに対して、多くの従来の捕捉プロセスでは、樹脂表面への非共有的結合後の収率の低下に悩まされている。加えて、アフィニティカラムからでさえも、抗体の有意な部分が溶出工程中の凝集物の形成に起因し失われてしまう。
【図面の簡単な説明】
【0106】
図1a図1a(図実施形態1.1)は複合吸収材バッチ07についての、メタノール、エチレングリコール、及び既知の異なる流体力学半径(Rhi)を有する6種のプルラン標準物質の正味溶出体積V(μl)対Rhiのプロットである。
図1b図1b(図実施形態1.2)は複合吸収材バッチ07についての、分布係数(Kav値、即ち、細孔体積分布画分)対図実施形態1.1と同じ試験物質の流体力学半径Rhiのプロットである。
図1c図1c(図実施形態1.3)は比較例の複合吸収材バッチ19と本発明例の複合吸収材バッチ07についての、メタノール、エチレングリコール、及び既知の異なる流体力学半径(Rhi)を有する6種のプルラン標準物質の正味溶出体積V(μl)対Rhiのプロットである。
図1d図1d(図実施形態1.4)は比較例の複合吸収材バッチ19と本発明例の複合吸収材バッチ07についての、分布係数(Kav値、即ち、細孔体積分布画分)対図実施形態1.1と同じ試験物質の流体力学半径Rhiのプロットである。
図2】実施例4によるCHO K1細胞株からの細胞培養上清(CCS)の濃縮溶液の等電点電気泳動(IEF)を示す図である。
図3】2つのpH条件下での2つの複合材バッチ07及び09による及び塩の存在又は非存在下での実施例5による処理後の、細胞培養上清CCS BHK-21からのウシ血清アルブミン(BSA)の低減を示す図である。
図4.1】実施例3による吸収材細孔からのhIgGの排除を示す図である。
図4.2】実施例3による吸収材細孔からのhIgGの排除を示す図である。
図5】本発明の目的を要約する図である。
図6】全体的概念を要約する図である。
図7】作業原理を要約する図である。
図8】可能なプロセスの一例におけるバッチ低減材料を要約する図である。
図9】バッチ結果を要約する図である。
図10】回収hIgGの点でのバッチ結果を要約する図である。
図11】HCP及びDNAの低減におけるバッチ結果を要約する図である。
図12】概要を要約する図である。
【発明を実施するための形態】
【0107】
典型的な必須の技術的特徴の組み合わせによって非常の多くの可能な実施形態の設計が可能となる。以下の項目が本発明による重要な実施形態とみなされるが、包括的であることは求めない。
【0108】
下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、不要化合物はDNA、RNA、アルブミン、宿主細胞タンパク質(HCP)、内毒素、界面活性剤、バクテリア、及びウイルスから選択される。コーティングタンパク質、S層、細胞断片、又はデブリのような前記不要化合物の断片もまた本実施形態の範囲内である。
【0109】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、標的化合物は抗体であり、上に挙げた不純物a)、b)及びc)のみが前記溶液から低減される。上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたさらに好ましい実施形態では、標的化合物は抗体であり、上に挙げた不純物a)及びb)のみが溶液から低減される。上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたさらに好ましい実施形態では、標的化合物は抗体であり、不純物(不要化合物)としてDNA及び宿主細胞タンパク質のみが溶液から低減される。
【0110】
好ましくは、汚染物質又は不純物は原料(例えば生物学的流体、発酵プロセスの上清、又はろ過前の発酵ブロス)から原料中のそれぞれの合計量の90%超、95%超、99%超の程度で低減され、標的物質の全体量の10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下が付随的に結合する。
【0111】
したがって本発明は、工程i)、ii)、及びiii)を含む精製プロセスであって、不純物が少なくとも90%まで低減され、一方で標的タンパク質が少なくとも90%まで回収されることを特徴とするプロセスに関する。
【0112】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、宿主細胞タンパク質は少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%の量まで低減される。
【0113】
したがって、本発明は、宿主細胞タンパク質が供給物から初期濃度の少なくとも90%まで低減される精製プロセスに関する。
【0114】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、ある体積の特定の原料(例えば、細胞培養物又はその上清のような、固体物質の除去前か後の発酵プロセスからのもの)を懸濁液中で十分な量のアミノポリマー含有複合材料と接触させる。適当な時間撹拌又は振盪した後、例えば、吸引、ろ過、又は好ましくは沈降又は遠心分離によって、複合材料を該低減済みの供給溶液から分離する。
【0115】
原料が、細胞、細胞断片、又は組織等を含有する懸濁液であった場合、これらの固体は複合材料とともに除去される。残留する遠心分離物、濾液、又は画分は精製された標的化合物を含有する。
【0116】
粒子状の複合材料を用いる場合、いくらかの標的化合物が粒子間の間隙体積中に残存する場合がある。この場合、標的含有溶液の大部分を置換するために、一外部空洞体積の非常に弱い溶媒を適用する。純度及び収率によって、この追加の体積を標的の主要画分と合わせてもよく、又は別の精製工程に供してもよい。細胞培養上清からの抗体精製の場合には、置換のための溶媒はただの水、又は標的タンパク質、好ましくは抗体のpIから十分に遠い弱緩衝液である。
【0117】
弱溶媒又は弱緩衝液は好ましくはクロマトグラフィの溶出力を示さず、及び供給物の不純物化合物の大部分に対する溶解性が低いことを特徴とする。
【0118】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、原料の複合材料に対する比率は5~100l/kgの範囲であり、好ましい接触時間は5~60分である。
【0119】
複合材料は好ましくはプロセスサイクルの終わりに処分され、即ち、それらは1回使用向けに設計されているため、標的化合物が許容可能な程度まで未結合のまま液相中に残存する限り、結合物質のその後の溶出は通常必要ない。しかしいずれかの結合化合物の溶出及び単離は本発明の範囲内であり、いずれかの既知の溶出方法を適用することにより達成することができる。
【0120】
API(医薬的有効成分)のために定められている厳しい品質要求を満たすために、新規な技術的知識に従って精製された標的化合物は1つ又は2つの追加の精製工程を必要とする場合がある。これは検出限界未満の低減が必要である場合、又は宿主細胞タンパク質のような複雑で不均質な部類の副生成物又は不純物を最終的なAPIの質量基準で10ppm未満のレベルまで除去しなければならない場合に当てはまる場合がある。
【0121】
他のいずれかの精製工程と連続する上記又は下記の実施形態のいずれかの高分子メッシュの使用は故に、本発明の対象である。上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせて、イオン交換又はアフィニティクロマトグラフィ工程、又はいずれかの他の精製工程の前又は後でのそれらの使用は本発明の範囲内であり、特にアフィニティ系の分離工程、例えばタンパク質A、タンパク質G、又は双方の組み合わせを収穫するいずれかの種類の分離媒体に対する標的化合物の選択的吸着が考えられる。加えて、膜ろ過、デプスろ過とのいずれかの組み合わせ又はモノリシック分離剤の適用は本発明の範囲内であるとみなされる。上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたより好ましい実施形態では、イオン交換又はアフィニティクロマトグラフィ工程又は他の精製工程の前後に、高分子メッシュが使用される。
【0122】
したがって、本発明は、いずれかの更なるクロマトグラフィ又は非クロマトグラフィ精製工程に先だって、上述の工程i)、ii)、及びiii)が未精製の供給懸濁液又は溶液を用いて行われることを特徴とする、1つ以上の追加の分離工程との組み合わせに関する。
【0123】
標的化合物は高分子メッシュから排除されるが、少量がその外側表面に吸着される場合がある。標的化合物の十分な収率及び/又は回収率を達成するために、高分子メッシュの外側表面へのこの標的化合物の有意な量の結合を回避することが必要である。高分子メッシュの細孔直径における必然的な分布に起因して、また外側表面との潜在的な相互作用に起因して、少量の標的物質の損失を全く回避することは不可能であることが多い。これらの損失は有益な物質の全体としての回収率を低下させる場合があるため、こうした損失を最小限に抑えるべく本発明内で追加の戦略が組み合わされた。
【0124】
高分子メッシュの特別な多孔性により提供される排除効果とともに、本発明はこうして以下の一般的な設計原理もまた採用している:
【0125】
A1.水性環境における適用のためには、移動相と接触されるポリマー部分は極性であって、標的化合物の極性及び/又は電荷に近くなければならない。その結果として、溶媒化された標的化合物は複合材料から離間されそれらには結合しない。
【0126】
A2.したがって、有機溶媒中では、脂肪親和性の標的は親水性のポリマーにより反発を受け、またその逆も成り立つ。
【0127】
B1.ポリマーが電荷を帯びている場合、結合緩衝液のpHは、標的化合物がイオン種である限りはその等電点(pI)の+/-1ユニットとしてその分子をほぼ未荷電状態に保つようにする。
【0128】
B2.より好ましくは、高分子メッシュを、供給物と接触させる前に、標的タンパク質の等電点(pI)の+/-1ユニットのpH、最も好ましくは標的化合物の結合が最小限に抑えられるpHに調節された緩衝液又は溶媒で平衡化する。
【0129】
標的化合物との前記望ましくない相互作用を避けるために、好ましくは20分未満の接触時間内は、予備メッシュ平衡化のpH条件は十分な未変化状態に保たれる。
【0130】
C.高い塩濃度(好ましくは100mM超のNaClと当量、又は10mS/cm超の伝導度)が極性の結合力(主に高分子メッシュの外側表面上でのイオン性の電荷相互作用)を低下させ、及びしたがって標的化合物はあまり引きつけられない。それでも、高分子メッシュ内部の強い、例えば多価の結合力は、やはり高い塩負荷で流入する分子を吸着することができる。
【0131】
D.発酵プロセスからの少量のDNAのような大きな巨大分子鎖分子の、外側表面への多価の強い結合は、標的分子がそのDNAそのものと相互作用しない限り、競合する置換によって標的分子の結合を妨害し又は抑制することになる。
【0132】
本発明の高分子メッシュの使用はしたがって、標的化合物の結合を回避するか最小限に抑えるようなpH及びイオン強度に調節された溶媒又は緩衝液を用いて、又は好ましくは原料の溶媒と比較して低い溶出強度の溶媒を用いて、高分子メッシュをすすぎ及び平衡化する予備工程を含む。この対策はより低い結合定数を示す不純物の結合も改善する。
【0133】
上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせて、本発明の工程i)、ii)、及び任意でiii)はしたがって、上記のA、B、C、又はDに基づく1つ以上の対策と組み合わされる。
【0134】
「標的化合物」とは本発明による精製に供されるいずれかの有益な物質を指す。
【0135】
安価な複合材料の調製のための方法を提供することもまた本発明の目標である。前記複合材料は、種々の物質の分離又は精製方法、例えば、数種の構造的に異なる部類の物質を溶液(原料)から同時除去することを可能にする。
【0136】
前記目標は以下を含むプロセスにより達成され:
少なくとも多孔質支持材料の細孔体積を、少なくとも1種の官能性ポリマー又はコポリマーと少なくとも1種の架橋剤との溶液(反応混合物)で充てんする工程、及び前記官能性ポリマーを架橋によってその場で固定化する工程、この際支持材料は粒子状、ペリクル状、又はモノリシックである。
【0137】
ペリクル状とは、固体粒子又は材料が多孔質層でコーティングされていることを意味する。
【0138】
モノリシックとは、少なくとも0.5mmの厚みを示す支持材料の均質多孔片を意味する。
【0139】
下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、細孔は官能性ポリマーと架橋剤との混合物で充てんされ、及び予備的な又は中間の乾燥を行わずに一工程プロセス中で反応される。下記の実施形態のいずれかと組み合わせた別の実施形態では、細孔を充てんした後、架橋反応を開始する前に溶媒を完全に又は部分的に除去してもよい。エポキシド架橋剤又は周囲温度で反応しない架橋剤を用いる場合には、この溶媒の減少は好ましくは30℃未満の温度での蒸留によって達成される。溶媒の所望の部分が除去されたら、架橋反応を50℃以上の温度で開始する。下記の実施形態のいずれかと組み合わせた別の実施形態では、この溶媒の部分的な又は完全な除去の後に、空の空間を異なる溶媒で部分的に又は完全に充てんしてもよい。
【0140】
これらの上述の場合すべてにおいて、初期の細孔充てん工程の間に既に架橋剤が存在した。そして反応は多孔質支持体の内部又は界面で行われる。但し、支持材料は粒子状又はモノリシックアイテムのアセンブリ、例えばスタックであり、前記プロセスは、別法として以下を含む:
【0141】
支持材料(細孔体積及び粒子間又は層間の間隙体積)のうちの少なくとも沈降体積(「方法」参照)を前記反応混合物で充てんすること、又は
任意で、反応混合物を含有する前記沈降体積の120%までの過剰な反応混合物を適用すること。
【0142】
下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、支持材料は、細孔中への液体の自発的な染み込みを適用して反応溶液で充てんされる。先行技術により既知の細孔充てんのいずれかの他の方法も適用可能である。
【0143】
しかしながら、染み込み技術を用いて、多孔質粒子支持材料の全細孔体積を完全に充てんすることは難しい。また細孔体積の決定(「方法」を比較のこと)は常にある程度の誤差を含むため、適用すべき反応液の必要な体積を正確に決定するのはさらにより難しくなる。したがって、例えば単に液体の表面張力のために、粒子の有意な画分が外側表面上で液体によりやや過負荷となることはまず避けられない。結局、決定された細孔体積に等しい体積だけしか反応混合物を加えなかった場合には、他の粒子の細孔部分は必然的に完全には充てんされないこととなる。
【0144】
製造プロセス中に全粒子を一度に液体と接触させることは基本的に不可能であるため、不均質な粒子充てんのこの問題は特に大きな量を処理する場合には、さらにより深刻となる。
【0145】
特化された用途に関しては、支持材料のアクセス可能な表面を架橋ポリマーで完全に覆うことは絶対的な要求である。したがって上述した種類及び程度の不正確さは無視できない。ポリマーで覆われていない支持体表面画分は、選択性及び主に分離プロセス中の回収に負の影響を与えることになる。特にシリカ等の極性の支持材料又は他の極性媒体上のタンパク質標的化合物では、標的化合物のこれらのスポットへのより強い吸着が存在する場合がある。
【0146】
前記問題は、十分過剰な反応混合物体積を適用して支持体表面全体の完全な湿潤及びポリマー被覆を可能にすることで回避することができる。この場合、しかしながら、粒子体積の外側のあらゆる架橋反応を防止することが必要となる。さらに、反応混合物の調製後の十分なポットライフ時間の間のポリマーと架橋剤との急速な反応も許容されない。
【0147】
驚くべきことに、粒子間の間隙体積が部分的に又は完全に反応溶液を含有する場合でも、いずれの粒子も互いに融着されないことが分かった。いずれかの説明に拘泥されるものではないが、この場合(実施例1)、架橋剤はおそらく多孔質支持材料によって吸着される。したがって、ある程度過剰のポリマー架橋剤溶液が適用されるならば複合材の調製は負の影響を受けない。反応が沈降された支持材料を用いて撹拌、振盪、又は他の移動なしで行われることになるため、これらの予想外の知見は、特に大量の複合材料を製造しながらでも、本発明による製造プロセスの簡略化を可能にする。
【0148】
上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせて、少なくとも支持材料の細孔体積は、反応溶液で、好ましくは細孔体積に対して過剰な溶液で充てんされ、より好ましくは沈降体積及び最も好ましくは沈降体積よりわずかに過剰な量が添加される。故に上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせて、官能性ポリマー、好ましくはポリ(ビニルアミン)又はポリ(ビニルホルムアミド-コ-ビニルアミン)と、ビスエポキシド、好ましくはエチレングリコール-、プロピレングリコール-、ブタンジオール-、又はヘキサンジオールジグリシジルエーテルとの溶液が、少なくとも細孔体積の量、好ましくは沈降体積の量、及び最も好ましくは全沈降体積の110%~120%の量で提供される。この際、支持材料の細孔は完全に充てんされた。予期せぬことに、反応の終わりに、細孔の外側にポリマーゲルが形成されることもなく粒子が接着し合うこともない。
【0149】
同様に上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、粒子間の間隙体積が完全に液体で充てんされ及び反応溶液の薄い液体膜が沈降された固体の上部を覆うように、過剰な、好ましくは支持材料沈降体積の110%~120%の、官能性ポリマーの架橋剤含有溶液が添加される。
【0150】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたより好ましい実施形態では、架橋剤は架橋性ポリマーと共に水中又は水溶液中において適用される。好ましくは上述のビスエポキシド、最も好ましくはヘキサンジオールジグリシジルエーテルを用いる2%(v/v)未満の架橋剤量でさえ完全には水に溶解しないが、驚くべきことに形成されたエマルションは支持材料細孔の内部に分配され、こうして安定な架橋高分子メッシュを生成する。
【0151】
水性媒体のみを使用することは合成プロセス及びその後の洗浄及び平衡化にとって有利である。
【0152】
予備的な細孔充てんを含む反応の目的のために、架橋性ポリマー又はコポリマーは好ましくは、ポリマーを収縮させることになる溶媒又は緩衝液中に溶解される。こうして個々のポリマーコイル又はポリマー体の分子体積が最小化されて、狭い細孔内に最大量のポリマーを誘導することが可能となる。
【0153】
ポリアクリレート又は他の酸性ポリマーの場合には、酸性pH範囲内で膨潤が抑えられ、非解離形態を生成する。アミノ含有ポリマーの場合には、塩基性のpHがこの所望の分子の収縮を生ずる。ポリビニルアルコールのような中性のポリマーは好ましくは、例えば水-プロパノール混合物を用いて、テータ点に近い水性混合物中に溶解される。
【0154】
下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、本発明はしたがって非膨潤溶媒、溶媒混合物、又は緩衝液を用いて調製された反応溶液による細孔充てん工程に関する。
【0155】
下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、反応混合物は、官能性ポリマー又はコポリマーと、架橋剤と、及び任意で、例えば緩衝化合物、塩、又は溶媒若しくは溶媒混合物中に適用され共に溶解、懸濁、若しくは乳化された原料反応物質に由来する種々の副生物等の補助物質と、を含む。
【0156】
本発明はまた、特定の溶媒又は緩衝液中である細孔サイズ分布を示す架橋された成形済みのポリマーを含む高分子メッシュであって、以下を特徴とする高分子メッシュを提供する:
【0157】
十分に膨潤されたポリマーメッシュの細孔サイズの上限は、流体力学半径Rh1(nm)を有するポリマー標準分子の排除によって規定され、一方で細孔体積全体の予め選択され規定された画分は、Rh1~Rh2(Rh1>Rh2)の流体力学半径を有するポリマー標準分子に対してはアクセス可能なままである。
【0158】
水溶液中での適用のための好ましいポリマー標準分子はポリエチレンオキシド、デキストラン、及びプルランである。
【0159】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせて、前記高分子メッシュは、アクセス可能な細孔体積の内部に浸透物質のうちの少なくとも1種を保持することが可能である。
【0160】
前記排除特性は複合材の設計に限定されず、ソフトゲルの実施形態も対象とする。
【0161】
h1の好ましい値は5nm、より好ましくは4nmである。Rh2の好ましい値は2nm、より好ましくは1nm、最も好ましくは0.2nmである。
【0162】
h1及びRh2の限定による好ましい範囲は1.5nm~5nmであるが、それは細孔サイズのこの範囲は基本的に10,000Da~100,000Daの分子量を有するタンパク質に対してアクセス可能であるためである。
【0163】
以下は本発明による前記高分子メッシュの調製の好ましい実施形態である。
【0164】
少なくとも4つの等しい又は異なる繰り返し単位を有するコポリマー、重縮合生成物(例えば、ポリアミド)、及びオリゴマー又は分子は、本発明の関するポリマーの定義の範囲内であるとみなす。
【0165】
下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、個々の架橋性ポリマー又はコポリマー鎖は少なくとも1つの官能基を含んでいる(「官能性ポリマー」)。
【0166】
基本的に、官能性ポリマーとは少なくとも1つ以上の同一の又は異なる官能基を含むいずれの種類のポリマーであってもよい。
【0167】
好ましくは、官能性ポリマーは少なくとも1つのOH-、SH-、COOH-、SOH、又はアミノ基を有している。
【0168】
好ましいヒドロキシル含有官能性ポリマーはポリ(ビニルアルコール)、アガロース、及びセルロースである。好ましいカルボキシル含有ポリマーはポリ(アクリレート)又はポリ(メタクリレート)である。
【0169】
固定化されたポリマー又はコポリマーが官能化されている場合、1分子当たり少なくとも1つの架橋性基を示す。
【0170】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、官能性ポリマーは少なくとも4つのアミノ基を有するアミノ基含有ポリマー又はオリゴマー、より好ましくはポリアミンである。アミノ基は一級及び二級である。
【0171】
ポリマーのアミノ基含有誘導体、例えばアミノ基を有するポリビニルアルコール又は多糖は本発明の範囲に含まれる。上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたさらに好ましい実施形態では、ポリアミンはポリ(ビニルアミン)又はポリ(ビニルホルムアミド-コ-ビニルアミン)である。
【0172】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたさらに好ましい実施形態では、官能性ポリマーは水に可溶である。
【0173】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたさらに好ましい実施形態では、反応化合物は水に可溶であるか又は少なくとも乳化される。
【0174】
本発明の他の目的は、例えば出発原料又は中間体のいずれかの精製等の、前処理を必要としない、適度な温度での一操作工程のみを含む、複合材料の効率的な一般的合成手順を提供することである。
【0175】
加えて、最も好ましい実施形態では、前記複合材料の合成及び洗浄及び平衡化は有機溶媒の使用を回避する。
【0176】
一工程及びその場とは、所望される生成物を得るために、1つの作業操作内ですべての反応物が混合され、反応され、及び複合材が洗浄されることを意味する。主として、架橋を介する固定化は完全な反応混合物の適用と同時に又は適用後に達成される。
【0177】
特に、架橋剤が添加される前に乾燥工程が適用されることはない。
【0178】
下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、架橋反応は細孔充てん中に既に開始されるのではなく、その後に、好ましくは高温下又はpHシフトを伴って開始される。エポキシド架橋剤による架橋はこのように、好ましくは50℃を超える温度で開始され、室温では30分後に、さらには2時間後でも目に見えるゲル化は起こらない。
【0179】
アミノ含有ポリマーのカルボニルジイミダゾールのような反応性架橋剤による架橋は7未満、好ましくは6未満のpH値で抑制され、及び好ましくは7を超えるpH、より好ましくは8を超えるpHに調節した後に開始されることとなるが、それはプロトン化されたアミノ基の反応速度が大変遅いためである。下記の実施形態のいずれかと組み合わせた別の実施形態では、架橋剤をまず支持材料細孔中に適用し、任意で樹脂を少なくとも部分的に乾燥し、そして最後にポリマー溶液を導入して架橋を行う。
【0180】
本発明はまた、以下を含む複合材料の調製プロセスも提供する:
【0181】
少なくとも多孔質支持材料の細孔体積を少なくとも1種の官能性ポリマー又はコポリマーと少なくとも1種の架橋剤との溶液(反応混合物)で充てんすることと、前記官能性ポリマーを架橋によって固定化することであって、この際前記反応混合物は、塩、緩衝液、及び/又は他の化合物を含有していて、これらは複合材生成物には組み込まれない。
【0182】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、この複合材合成のために、各試薬の製造プロセスからの塩及び他の副生物を未だ含有している工業品質の未精製ポリマー又はポリマー溶液及び架橋剤が使用される。
【0183】
予期せぬことに、いずれかの副生物、主に塩又は不純物は再現性のある架橋プロセスを妨げないことがわかった。未反応の、例えば、過剰の化合物と共に、それらは反応物質の同時固定化後のその後の洗浄工程によって複合材から除去される。この種の処理は、予め反応性化合物を濃縮又は洗浄するための労力及びコスト全般を節約する。したがって、高価な高品質等級の化学品の代わりに安価な工業品質ポリマー及び架橋剤を使用することができる。
【0184】
下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、複合材合成のために、未精製のポリアミンが使用され、より好ましくは塩、水酸化ナトリウム、ギ酸ナトリウム、及びポリマー製造プロセスからの他の副生物を含有する未精製のポリ(ビニルアミン)又はポリ(ビニルホルムアミド-コ-ビニルアミン)溶液が使用される(実施例1)。
【0185】
10nm~5mmの平均細孔サイズを有する支持材料が好ましく、20nm~500nmの細孔サイズがより好ましく、20nm~100nmの範囲が最も好ましい。
【0186】
多孔質支持材料の形態は特に限定されず、例えば、膜、不織組織、モノリシック、又は粒子状の材料とすることができる。粒子状及びモノリシックの多孔質材料が支持体として好ましい。ペリクル材料もまた本発明の範囲に含まれる。粒子状の多孔質支持材料の形状は不規則又は球状のいずれかとすることができる。上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせて、多孔質支持材料は好ましくは実質的に不規則な形状を有する。
【0187】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたさらに好ましい実施形態では、多孔質支持材料はモノリシック又は粒子状の材料である。
【0188】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたさらに好ましい実施形態では、多孔質支持材料は金属酸化物、半金属酸化物、セラミック材料、ゼオライト、又は天然若しくは合成のポリマー材料で構成される。
【0189】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたさらに好ましい実施形態では、多孔質支持材料は多孔質シリカゲルである。
【0190】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたさらに好ましい実施形態では、多孔質支持材料は多孔質セルロース、キトサン、又はアガロースである。
【0191】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたさらに好ましい実施形態では、多孔質支持材料は多孔質ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリエーテルケトン、ポリアルキルエーテル、ポリアリールエーテル、ポリビニルアルコール、又はポリスチレンである。
【0192】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたさらに好ましい実施形態では、多孔質支持材料は1~500μmの平均粒子サイズを有する粒子状の材料である。
【0193】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたさらに好ましい実施形態では、モノリシック支持材料は少なくとも0.5mmの高さ及び任意の直径を有する円板、円環、円筒、又は中空円筒である。
【0194】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたさらに好ましい実施形態では、支持材料は20nm~100nmの平均細孔サイズ(直径)(DIN66133に従い水銀圧入によって分析)及び少なくとも100m/gの表面積(DIN66132によるBET表面積)を有するシリカ、アルミナ、又は二酸化チタンである。
【0195】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたさらに好ましい実施形態では、支持材料は少なくとも150m/gの表面積を有する不規則形状シリカ、アルミナ、又は二酸化チタンである。
【0196】
iSEC条件(図実施形態1.1、1.2、1.3、及び1.4からなる図1参照)下でpH6において20mM酢酸アンモニウム中に溶解され測定された場合に、6nm以下の流体力学半径Rを有する高分子プルラン標準物質のアクセスを可能にする、20~30nmの平均細孔直径を示す不規則形状シリカゲル材料がさらにより好ましい。
【0197】
少なくとも150m/g、好ましくは250m/gのBET表面積及び少なくとも1.5ml/g、好ましくは1.8ml/gの細孔体積(水銀圧入)を有する不規則シリカが最も好ましい。調製用タンパク質精製目的のためのシリカ及びシリカ誘導体の使用はまれであり、且つ50nmより大きい平均細孔サイズが、通常有機支持材料で達成される先行技術における好ましい範囲である。
【0198】
無機支持材料もまた乾燥状態において利用可能であり、最初の乾燥及びポリマー精製工程を行わずに細孔を単純に充てんすることによって溶解された試薬の導入が可能である。
【0199】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせた最も好ましい実施形態では、25nmの平均細孔直径を有するシリカゲル、好ましくは支持材料Davisil250の細孔を、ビスエポキシド架橋剤とポリビニルアミン、Lupamin50/95(平均分子量50.000Da、おおよそ95%までの加水分解物)若しくはLupamin45/70(平均分子量45.000Da、約70%までの加水分解物)又は同等の仕様を有する材料との混合物を含有する水溶液で9~11のpHにおいて充てんし、50~60℃の温度で24~48時間反応させる。
【0200】
したがって、本発明は、多孔質支持材料とアミノ基含有ポリマーとを含む複合材料の合成のためのプロセスであって、支持材料が20nm~100nmの平均細孔直径を有するシリカゲルであり、細孔がアミノ基含有ポリマーと架橋剤との混合物で充てんされ、及び好ましくは予備の又は中間の乾燥を含まない一工程プロセスにおいて反応され、こうしてアミノ基含有ポリマーを架橋によって固定化することを特徴とするプロセスに関する。
【0201】
(官能性)ポリマーが支持材料の細孔内部に固定化される場合、それらは乾燥状態ではいずれの観測可能なメッシュ多孔性も示さない。このような複合材を乾燥した後では、少なくとも架橋度が25%未満に留まる限り、BET窒素吸着又は水銀圧入ポリシメトリーのような確立された方法を用いておおよそベースの支持材料の細孔サイズ分布が再び見られる。この挙動は、排除されるポリマー体積に近い値までのメッシュの収縮を引き起こすポリマーコイル内部の強い接着力に起因し得る。例えばポリアクリレート又はポリアミンを用いる場合のように、官能基がそのままの状態で電荷を帯びている場合には、結果として得られる排除体積はわずかに大きくなり得る。
【0202】
溶媒によって又は懸濁液中で湿潤される場合には、ポリマー構造は基本的に異なるモルフォロジーを表す。十分な溶媒化がなされると、ポリマーメッシュは、可能な最大体積に達して古典的なヒドロゲル構造に及ぶまで膨潤する。この場合、得られる高分子メッシュの多孔性は溶媒の性質(極性等)、pH、イオン強度、及び界面活性剤等の補助剤の濃度に依存する。
【0203】
本発明に従い、官能性ポリマー、特に荷電ポリマーを扱う場合、ポリマーの固定化プロセス中においては支持材料細孔を充てんする度合いを、また分離における複合材の使用中においては「充てんされた又は占有された細孔」を識別することが重要である。
【0204】
ポリマー結合の第一のケースでは、支持体の細孔体積全体が試薬の溶液で充てんされる。後者のケースにおいて、選択された溶媒中での架橋ポリマー及び得られるメッシュの膨潤挙動に起因して、メッシュ細孔は満たされており、即ち特定の流体力学半径Rh1の分子にとってもはやアクセス可能ではない。各々の特定のケースにおいて、潜在的な膨潤挙動は利用可能なポリマーの文献から推定可能である。このように細孔の充てん度は、適切な溶媒及びpHの選択により実現、調節、及び制御可能である。
【0205】
適切な溶媒とは、当業者には既知であるポリマー溶媒化の規則に従って高分子メッシュを膨潤可能である溶媒を意味する。詳細はH.G.Elias、Makromolekule、Huthig&Wepf、Basel、Bd.1(1990)、p.145-207を参照のこと。
【0206】
複合材料を用いるが本発明の圧力安定性ポリマーゲルをも用いる場合、細孔体積及び細孔体積画分を決定するための方法はiSECである。剛性の多孔質材料に使用するような水銀圧入又はBET窒素吸着としてのプロトコルは、メッシュが乾燥後に崩壊してしまうためここでは適用不可である。
【0207】
下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、アミノ基含有ポリマーが、好ましくは8.5より上、より好ましくは9~12、最も好ましくは10~11のpHで収縮状態で支持材料に導入され、これにより細孔充てんの条件下での溶解ポリマーの最大密度が可能となる。8未満のpHにて架橋及び膨潤した後では、最初の支持体細孔体積内部の高分子メッシュにより占められた空間が増大し、最終的には酸性pHにおいて最大となる。
【0208】
下記の実施形態のいずれかと組み合わせた好ましい実施形態では、本発明の目的は少なくとも1種の収縮架橋性ポリマーの少なくとも1種の架橋剤との反応によって達成され、このようにして特定の溶媒又は緩衝液中で選択的に膨潤され又は収縮されるメッシュを形成する。
【0209】
使用条件下で、適切な溶媒又は溶媒混合物を選ぶことによって細孔充てんの度合いを所望のレベルに調節することができる。定義により、選択され及び良好に規定された流体力学半径Rh1を有する標準分子がそれ以上メッシュ細孔に入り込めないならば、高分子メッシュの細孔は満たされているとみなされる。本発明では、「方法」の項で概説し図1(図実施形態1.1~1.4)に実証されるようなインバースサイズ排除クロマトグラフィ(iSEC)の方法を用いてこの膨潤の度合いを較正し及び適合させ、及びさらに精製プロセスの間制御しつつ、選択された緩衝液の存在によって対応する膨潤状態を維持する。
【0210】
基本的に、規定された最小の(「又は臨界の」)流体力学半径を有する分子の特定の細孔体積画分からの立体的排除が起こるということは、図実施形態1.1~1.4及び実施例によってモデル標的化合物として使用されるプルラン分子量標準物質との比較によって実証される通りである。
【0211】
実施例のポリ(ビニルアミン)又はポリ(ビニルホルムアミド-コ-ビニルアミン)含有複合材では、20mM~200mMの酢酸アンモニウム溶液を用いて膨潤の度合いが調節される。その後の不純物の低減のために、複合材を好ましくは50mM酢酸アンモニウム緩衝液で7未満、より好ましくは3~7のpHに平衡化する。
【0212】
したがって、好ましい実施形態では、及び上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせて、ポリマー膨潤の度合いは、較正用に良好に規定された分子サイズのポリマー標準物質の選択と、適切な溶媒又は溶媒混合物を加えることによる高分子メッシュの付随する調節を利用して、インバースサイズ排除クロマトグラフィによって決定される。
【0213】
本発明によれば、適切な溶媒中ではアクセス可能なメッシュ細孔体積は膨潤条件下で増大し、及び収縮条件下で減少する。メッシュ細孔サイズ体積及びメッシュサイズ分布は常に、特定の連結ポリマーコイル又は小球内部の又はそれらの間の空間に関連付けられるのであって、支持材料中の最初に利用可能な又は最終的に残存する空間にではない。
【0214】
支持材料に導入され及び固定化されるポリマーの量は、好ましくは各反応溶液におけるポリマー濃度により制御される。
【0215】
それに対し、適用条件下での支持体細孔充てんの度合い及びメッシュサイズ分布は、ポリマーの溶媒依存性の膨潤及びその総固定化量により制御される。両パラメータを共に採用して、固定化されるポリマーの全体量及び膨潤度合いによって、ポリマーにより充てんされる全細孔体積の割合を調節することが可能となる。
【0216】
上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたさらに好ましい実施形態では、適用条件下での支持体細孔充てんの度合い及びメッシュサイズ分布は、異なるポリマー量の導入及び固定化及びその後の細孔サイズ分布の測定によって達成され及び決定される。固定化されるべきポリマーの量は好ましくは反応溶液中のポリマー濃度により調節される。このようにして、固定化されることのできる可能な最大ポリマー量が前記目的のために容易に解明される。
【0217】
充てんの度合いは、ポリマー-架橋剤溶液の導入の前後に湿潤及び乾燥材料を秤量することにより正確に決定され及び標準化される。
【0218】
溶解された標的ポリマー、例えばタンパク質の分離又は精製のために、種々の不純物の保持を少なくとも1種の標的化合物の立体的排除と同時に達成することがさらに有利である。
【0219】
上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせて、本発明は、高分子メッシュの使用のための材料及び方法、好ましくは数種の構造的に異なる部類の物質の、溶液、好ましくは原料からの同時除去を達成するとともに、少なくとも1種の標的化合物が実質的に未結合のまま残り高収率で回収される複合材料の使用のための材料及び方法を提供する。この標的化合物の収率は好ましくは80%、より好ましくは90%、及び最も好ましくは95%超である。
【0220】
上記の及び下記の本発明のさらなる目的もまた、以下に概説する実施形態により達成される。
【0221】
上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせて、本発明は、適切な溶媒で平衡化された場合に上限の、しかし可変の細孔サイズRhiを示し、これにより細孔体積内部にこの排除限界Rhi(nm)未満の流体力学半径を有する化合物の有意な量、最初の含有量の好ましくは50%、より好ましくは80%、最も好ましくは90%超を保持することができる一方で、高分子メッシュの細孔はRhi以上の流体力学半径を有する少なくとも1種の標的化合物についてはアクセス不可であり、これにより溶液中、好ましくは精製供給物中に前記標的化合物を回収することが可能となる、高分子メッシュの合成及び利用のための方法を提供する。メッシュの溶媒依存性の膨潤によって、この排除限界Rhiは可変のサイズである。溶媒の強度及びpH以外の、Rhiを制御する主要なパラメータは、官能性ポリマーの構造、架橋剤の性質、架橋度、及び複合材の場合には支持材料の細孔サイズ分布である。
【0222】
用語Rhiとは、一連の異なるサイズが膨潤度の関数として得られることを示す。それに対して、Rh1及びRh2は特定の適用ケースにおいて固定された距離を示している。
【0223】
吸着、分割、及びサイズ排除を組み合わせる前記目的は好ましくは、以下を含む複合材料の使用によって達成される:
【0224】
5nm~5mmの平均細孔サイズを有する多孔質支持材料、ここで、多孔質支持材料の全細孔体積はポリマーで充てんされ、このポリマーは架橋されてこれによりメッシュを形成し、このメッシュは、適切な溶媒で平衡化したときに流体力学半径Rhi(nm)の標準分子を排除し、それによりRhi(nm)以上の流体力学半径を有する合成及び天然の巨大分子のための排除限界を提供する。
【0225】
標的化合物が抗体である場合には、前記排除効果は、このメッシュが5nmを超える、好ましくは4nmを超える流体力学半径Rh1を示す分子にとってアクセス不可な状態である場合に達成される。
【0226】
同様に上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせて、本発明は、4nm未満の流体力学半径Rを有する化合物の有意な量、好ましくは最初の含有量の50%、より好ましくは80%、最も好ましくは90%超を保持できる規定されたメッシュ細孔体積を示し、一方で細孔体積のこの画分が抗体にとってアクセス不可である、ソフトゲル又は複合材料の合成及び使用を提供する。
【0227】
本発明の文脈における細孔体積とは、特定の細孔体積画分全体の積分値又は合計を意味し、それらの画分の各々が細孔サイズの下限及び上限によって規定される。
【0228】
同様に上述の又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせて、本発明は、それらのメッシュ細孔体積内に4nm未満の流体力学半径Rh2を有する化合物の有意な量、好ましくは最初の含有量の50%、より好ましくは80%、最も好ましくは90%超を保持可能であり、一方で細孔体積のこの画分が抗体等の4nm以上のRh1を有する標的化合物にとってアクセス不可であり、及び一方で高分子量を有する所望されない生成物の別の部分は外側表面に結合される、規定された細孔サイズ分布を示すソフトゲル又は複合材料の合成及び使用を提供する。
【0229】
上述した別の所望されない生成物は、好ましくは100,000Daを超える分子量を有する核酸及び/又は宿主細胞タンパク質である。
【0230】
タンパク質精製の上述の目的は、好ましくは以下を含む複合材料の使用によって達成される:
【0231】
20nm~5mmの平均細孔サイズを有する多孔質支持材料、ここで、この多孔質支持材料の全細孔体積はpH8未満の適用条件下で架橋アミノ基含有ポリマーで充てんされ、
前記複合材料は、4nm以上の流体力学半径Rを有する分子、特に21.7kDaの分子量を有しR=3.98nmの較正されたプルラン標準物質が、細孔体積の少なくとも90%から排除され、且つ、全細孔体積の少なくとも35%が、流体力学半径R=2.13nmのプルラン標準物質6.2kDにアクセス可能である細孔により表される、細孔サイズ分布によって特徴付けられる。
【0232】
任意で、上記複合材料の全細孔体積の少なくとも15%が、流体力学半径=2.7nmのプルラン標準物質10.0kDaにアクセス可能な細孔により表され得る。
【0233】
上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせて、上記のアミノ基含有ポリマーは好ましくはポリ(ビニルアミン)又はポリ(ビニルホルムアミド-コ-ビニルアミン)を含んでいる。
【0234】
それぞれ35%及び15%のこれら向上された細孔体積画分は、例えば選択された溶媒又は緩衝液中で基本的におよそ2nm~4nmの分子流体力学半径Rを表すおよそ10,000Da~100,000Daの分子量を有するタンパク質のための、有意な結合能力を提供するために有利である。
【0235】
上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせて、本発明は、ポリ(ビニルアミン)又はポリ(ビニルホルムアミド-コ-ビニルアミン)と架橋剤とを含む懸濁された高分子メッシュの使用であって、R=3.98nmを超える流体力学半径を示すプルラン標準物質が細孔体積から実質的に排除され、このようにして各溶媒における細孔直径の上限を規定し、一方でメッシュ体積が流体力学半径Rh2=2.13nmのプルラン標準物質6.2kDに対してアクセス可能であることを特徴とする、使用を提供する。
【0236】
実質的に、とは細孔体積の少なくとも90%がアクセス可能でないことを意味する。
【0237】
アミノポリマーを含む高分子メッシュは好ましくは水溶液中で各ポリマーを架橋することによって得られ、この際pHは8~13、好ましくは9~12、最も好ましくは10~11とする。
【0238】
細孔アクセス性及び排除限界は常に、pH6の20mM酢酸アンモニウム緩衝液中でプルラン標準物質を用いてiSECによって決定される(図1及び「方法」参照)。
【0239】
供給溶液は合成又は天然起源の混合物を含む。好ましくは供給物は、ろ過済み発酵ブロス(細胞培養上清)又は細胞及び細胞デブリのような固体を未だ含有する粗発酵ブロスである。
【0240】
上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせて、官能性ポリマーの平均分子量は好ましくは2,000~2,000,000ダルトン、より好ましくは10,000~1,000,000ダルトン、さらにより好ましくは15,000~200,000ダルトン、最も好ましくは20,000~100,000ダルトンである。
【0241】
上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせて、本発明によるポリマーの固定化のために、先行技術により既知の任意の架橋剤が適用可能である。
【0242】
上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせて、ポリマーがアミノ基を有する限りにおいて、架橋剤は好ましくはビスオキシラン又はスクシニック若しくはグルタリックジアルデヒド等のビスアルデヒドである。ビスアルデヒドを架橋剤として使用する場合、安定化のためにその後に還元工程を行うのが有利である。
【0243】
2種よりも多い反応性基を有する架橋剤もまた適用可能である。
【0244】
好ましくは架橋剤は、高分子メッシュの形成の際に化学的に活性化される試薬を表すべきである。
【0245】
あるいは、先行技術、特にペプチド合成から既知の試薬及び手順を用いて、ポリマーを化学的活性化の対象として導入してもよい。
【0246】
前記ポリマーはまた先験的に反応性でもある。この場合ポリマーの官能基は、反応性の又は活性化されたポリマー、例えばポリ(マレイン酸)の無水物若しくはポリオキシランを適用することで、架橋プロセスそのものの間に又はその後に生成されてもよい。
【0247】
どちらの場合も、架橋剤又はポリマーも先行技術のカルボジイミド試薬、好ましくは水溶性カルボジイミドを用いて活性化して、反応全体を非水性条件下で行えるようにしてもよい。
【0248】
上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせて、アクリルポリマーをこのようにしてジアミン、ジオール、又はジスルフィドにより架橋する。あるいは、活性化されたジカルボン酸を使用して、アミノ含有又はヒドロキシル含有又はチオール含有ポリマーを架橋する。
【0249】
上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせて、架橋度は好ましくは5%~30%、より好ましくは7%~20%、及び最も好ましくは10%~15%である。
【0250】
合成のために、調製の条件下で架橋剤及び架橋性ポリマーと反応しないか又はゆっくりしか反応せず、且つ前記反応物を好ましくは少なくとも1%(w/v)溶液まで溶解する任意の溶媒を使用してもよい。この文脈におけるゆっくりとは、比較例1において実証されるように、選択された温度においてポリマー架橋剤溶液のみを用いて少なくとも30分までに目に見えるゲル化が起こらないことを意味する。
【0251】
上記又は下記で概説される実施形態のいずれかと組み合わせて、支持材料の細孔内部に固定化された架橋ポリマーの量は好ましくは少なくとも1%w/w(ポリマー及び架橋剤の重量/乾燥複合材料の重量)、より好ましくは5%~10%w/w、及び好ましくは25%w/w未満である。
【0252】
合成プロセスのための温度範囲は好ましくは20℃~180℃、より好ましくは40℃~100℃、及び最も好ましくは50℃~70℃である。
【0253】
関連する反応時間は好ましくは1時間~100時間、より好ましくは8時間~60時間、及び最も好ましくは18時間~48時間である。
【0254】
略語及び定義
部分体積(μl)
吸収材の多孔性データを得るために必要、充填クロマトグラフィカラムを用い規定された流体力学半径Rの分子標準物質を注入することによって測定。この体積は信号時間に流量を掛け合わせることによって決定された。
【0255】

正味溶出体積Vはクロマトグラフィ系のカラム外体積を全体の溶出体積から差し引くことにより得られる。Vはカラムの総空隙体積Vに等しい。Venは個々の標準物質nの溶出体積である。
【0256】

カラムの総空隙体積は細孔体積Vと間隙体積Vとの合計である。
【0257】

間隙体積Vは粒子間の体積である。
【0258】

吸収材の細孔体積Vは総多孔質空間から成る。
【0259】
hIgG
ポリクローナルヒト免疫グロブリンG
【0260】
S層タンパク質、細胞表面の小片
【0261】
材料
細胞培養上清(CCS)
CHO-K1、Invivo、Berlin、バッチRP SZ292/01
細胞株CHO-K1の模擬媒体
伝導度:15mS/cm、pH7.0
HCP含有量:120μg/ml、DNA含有量:1000ng/ml。
及びの低減実験に使用
【0262】
CCS BHK-21:Invivo、Berlin、バッチRP SZ352/01、細胞株BHK-21の模擬媒体は5%のBSAを含有し、図3に示したウシ血清アルブミン(BSA)低減に使用。
【0263】
供給物
特定のCCSにヒト血漿(Octagam、10%溶液、Octapharma、ウィーン)からのhIgGを2mg/ml添加した。
SECによる分析によると、Octagamは2.5%~3.5%の凝集物を含有していた。
【0264】
支持材料
シリカゲル:Davisil LC250(W.R.Grace)、公称平均細孔サイズ250Å、粒子サイズ40-63μm(lot:1000241810)
Eurosil Bioselect300-5、5μm、300Å、Knauer Wissenschaftliche Gerate、ベルリン、ドイツ。
【0265】
ポリマー
ポリ(ビニルホルムアミド-コ-ポリビニルアミン)水溶液、Lupamin45-70(BASF)、供給元:BTC Europe、モンハイム、ドイツ、実施例1の実施形態のために、1000gのLupamin45-70を260gの水酸化ナトリウム(10%w/v)と共に80℃で5時間加熱することによって部分的に加水分解。最後に170gの10%塩酸を用いてpHを9.5に調節した。実施例1aのためには、水酸化ナトリウムによる加水分解及び塩酸によるpH調節を行わない未処理のLupamin45-70溶液を用いた。
【0266】
架橋剤
ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、Ipox RD18、Ipox Chemicals、ラウプハイム(ドイツ)、lot16092)
【0267】
方法及び測定
サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)
供給物中のhIgGの濃度及び精製後の溶液中のhIgGの回収率は下記の条件下でSECを用いて決定した。
カラム:東ソーTSK G3000SWXL 7.8300mm(粒子サイズ5μm)
移動相:10mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.2+150mM NaCl
注入体積:100μl-移動相で希釈された試料
流量:1ml/分
検出器:DAD280nm、hIgG溶液(Octapharma)を外部標準物質として使用
温度:20℃±1℃
【0268】
乾燥質量の決定
複合材を各5カラム体積の水で5回、次いで各5カラム体積のメタノールで5回洗浄する。0.5gの試料を、減圧下(0.1mbar)80℃で12時間、次いで重量が一定となるまで2時間を2~3回、乾燥した後、支持材料及び複合材の乾燥質量を決定した。
【0269】
種々の複合吸収材の細孔サイズ分布及び細孔体積画分
細孔直径及び種々の流体力学半径を有するポリマー分子のための排除限界に関連付けられるアクセス可能な細孔体積画分は、インバースサイズ排除クロマトグラフィ(iSEC)を用いて決定された。この目的のために、複合材料を1ml(50×5mm)クロマトグラフィカラム中に充填し、20mM水性酢酸アンモニウム緩衝液pH6を用いて平衡化し、2つの低分子量標準物質、及び既知の規定平均分子量Mの6種の市販プルランポリマー標準物質(PPS、マインツ、ドイツ、詳細については図実施形態1.1-1.4参照)の選択を適用して較正した。
【0270】
プルラン標準物質のMの決定は、移動相として水、ナトリウムアジド0.005%を流量1ml/分で30℃で用いて、PSSにてSECにより行われた。3つの分析カラム、各8×300mm(PSS SUPREMA10μm、100Å/3000Å/3000Å)が8×50mm予備カラム(PSS SUPREMA10μm)と直列に組み合わせて使用された。試料濃度は1g/lであり、各測定において20μlの体積が注入された。検出はPSSWinGPCデータ取得システムと連結された屈折率(Rl)モニター(AgilentRID)を用いて行われた。
【0271】
特定の複合材料において特定の標準物質にとってアクセス可能な細孔体積画分Kavを、正味溶出体積Ven(μl)を評価することによって得た。
【0272】
したがって、Kavとは、所与の流体力学半径Rを有する特定の標準物質がアクセスできる全細孔体積の画分を記述する。Kav値1を表す総液体体積V=V=Vの決定のためにはメタノールを使用する。210,000Daのプルラン標準物質を使用して、細孔から既に排除されているため粒子外の液体体積を表し、したがってKavが0(細孔体積0%)を表す充填複合材粒子間の間隙体積Vを決定する(図1も参照)。VとVとの差が細孔体積Vである。
【0273】
【表1】
【0274】
部分細孔体積は、保持されないプルランポリマー標準物質だけでなく保持されない小分子によってもアクセス可能である複合吸収材におけるそれぞれの体積画分として定義される。保持されないとは、細孔体積画分のみを決定するために、固定相の表面上でそれぞれの標準物質の相互作用又は結合が起こらないことを意味する。本発明の支持材料及び複合材については、これはアルコール及び親水性炭水化物、好ましくは水性溶媒系において既知の流体力学半径(R)を示すプルランに対して当てはまる。
【0275】
プルランのR値は分子量Mから実験式R=0.027M 0.5(I.Tatarovaら、J.Chromatogr.A、1193(2008)、p.130)によって計算された。
【0276】
IgGのR値は文献(K.Ahrerら、J.Chromatogr.A、1009(2003)、p.95、図4)から引用した。
【0277】
CCS CHO K1における宿主細胞タンパク質の等電点pI値の分布
リストに示したように、既知のpIの標準タンパク質で較正された、等電点電気泳動(IEF)(詳細については図2参照)により決定(実施例4)。
【0278】
DNAの決定
DNAの定量は、DNA抽出キット、Cygnus Technologies、サウスポート(米国)を用いたDNA抽出後に、Quant-iT PicoGreen dsDNA試薬キット、Life Technologies、ダルムシュタット(ドイツ)を用いて行った。
【0279】
宿主細胞タンパク質(HCP)の決定
HCPの定量は、Cygnus Technologies、サウスポート(米国)製のCygnus HCP ELISAキット、CHO宿主細胞タンパク質第3世代(F550)を用いて行った。
【実施例
【0280】
実施例1
複合吸収材バッチ07(表)の調製
704μl(658mg)のヘキサンジオールジグリシジルエーテル(Mw230.2、d=1.07g/ml)架橋剤を42mlの水に溶解した。この架橋剤溶液を15mlのポリ(ビニルホルムアミド-コ-ポリビニルアミン)(Lupamin45-70、部分加水分解物、「材料」参照)の水溶液に加えた。混合後、3mlの0.5M NaOHでpH11に調節した。
【0281】
10gのシリカゲルDavisil LC250、40-63μm(W.R.Grace)、乾燥粉末、を直径8cmの平底ステンレス皿中に沈降させた。その層高は8mmであった。39.5gのポリマー-架橋剤溶液を加えてシリカ上に均等に分配しつつ、溶液を急速に細孔中に染み込ませた。得られたペーストを旋回振盪器で600rpmで1分間振盪して、1~3mmの液体フィルムで覆われた滑らかな表面の均質な塊を得た。前記皿をステンレスの蓋で閉じて、ペーストを60℃の乾燥炉中でさらなる混合又は移動なしに48時間加熱し、49.6gの湿気を含んだ複合材を得た。
【0282】
次いで、41.3gのこの未だウェットなペーストをフリット上で25mlの水で5回洗浄した。その後複合材ケーキを31.6mlの10%硫酸中に懸濁し、周囲温度にて2時間滑らかな振盪下で処理して未反応のエポキシ基を加水分解した。最後に生成物をもう一度25mlの水で5回フリット上で洗浄した後、20%エタノール/水中で保管した。
【0283】
目標とする架橋度に応じて架橋剤の量(体積)を変更した以外はこの方法で表中の他のバッチを調製した。
【0284】
参考例1
(架橋ポリビニルアミンゲルの調製)
支持材料を用いない場合の反応を調べるために、3mlの実施例1のポリマー-架橋剤溶液を50℃で24時間加熱した。6時間後、ゲル化が見られた。24時間後、一片の透明な固体弾性ゲルが得られた。
【0285】
実施例1a
小粒子支持材料を用いた複合吸収材の調製
1ml(935mg)のヘキサンジオールジグリシジルエーテル(M230.2、d=1.07g/ml)架橋剤を59mlの水とともに振盪し、均質なエマルジョンを形成した。この架橋剤溶液を21mlのポリ(ビニルホルムアミド-コ-ポリビニルアミン)(Lupamin45-70、未精製及び未処理)の水溶液に加えた。
混合後、0.5M NaOHを用いてpH10に調節した。
25gのシリカEurosil Bioselect300-5、5μm、乾燥粉末、を直径12cmの平底ステンレス皿中に沈降させた。この層高は約15mmであった。46gのポリマー-架橋剤溶液を加えてシリカ上に均等に分配しつつ、溶液を細孔中に染み込ませ、粘着性で粘液性の塊を形成した。ポリマー-架橋剤溶液の1.5mlの部分及び最終的に4mlの希釈ポリマー(3mlの水で希釈された1mlのポリ(ビニルホルムアミド-コ-ポリビニルアミン))を加えた後、懸濁液はむらなく均質となった。得られたペーストは高さ約1mmの液体フィルムで覆われていた。この皿をステンレスの蓋で閉じた後、このバッチを65℃の乾燥炉中でさらに混合又は移動することなく21時間加熱し、72gの湿気を含んだ複合材を得た。
【0286】
次いで、このペーストを蒸留水で150mlの体積となるように希釈し、得られた懸濁液を分取HPLCポンプを用いて250×20mmHPLCカラム中に吸い上げた。充填された複合材層を次いで250mlの水で洗浄した。未反応のエポキシ基を加水分解するべく、100mlの2n塩酸をカラム中に吸い上げ、周囲温度で2時間そこに留めた。この工程及びその後の水によるすすぎの間に背圧が増大したので、充填された複合材を最後に300mlのエタノールで洗浄すると、流量10ml/分にて圧力は5バールまで下がった。生成物をカラムから除去し周囲温度で乾燥した。窒素含有量は1.18%と判定され、炭素含有量は2.99%と判定された。
【0287】
参考/比較例2
国際公開第2013/037994号(先行技術)による複合材料バッチ19の調製
10gのシリカゲルDavisil LC250、40-63μmの細孔に実施例1のポリ(ビニルホルムアミド-コ-ポリビニルアミン)を完全に染み込ませた。この工程1の中間生成物を重量が一定となるまで50℃で乾燥した。その後この乾燥吸収材をエチレングリコールジグリシジルエーテルを含有するイソプロパノール(30mlイソプロパノール中121mg)中に懸濁し、55℃で5時間撹拌した。
【0288】
その後、この工程2の生成物をろ過し、イソプロパノール、0.5Mトリフルオロ酢酸、水、及びメタノールで洗浄した。
【0289】
図実施形態1.3及び1.4に示すように、細孔体積及び細孔サイズ分布は複合材料バッチ07で得られた性質とは異なっている。詳細については表2を参照のこと。
【0290】
【表2】
【0291】
分子量100,000Da未満のタンパク質のための捕捉空間として、R=2nm~R=4nmとの間の体積画分が重要である。したがって宿主細胞タンパク質に対する高い結合能力を提供するために、この範囲内でできるだけ大きな体積を生成することが有利である。バッチ07は前記範囲内で約44%の総体積を示し、一方、二工程合成バッチ19の生成物は約19%の細孔体積画分しか示していない。加えて、バッチ19では2.7nm~4nmのR範囲内の細孔体積画分はわずか4%しかない。
【0292】
基本的に、バッチ07及び19のデータは、異なる合成法によって、得られる複合材の異なる細孔サイズ分布及びしたがって異なるモルフォロジーが作り出されるということを示している。
【0293】
実施例2
に示した実施例1により調製された複合材料及び表に示した市販の比較材料の分離能の分析
複合材料の分離能を測定するために、不純物又は不要化合物の標的物質からの低減(分離)の度合いを決定する。この目的のために、選択的アッセイを用いて供給物中の個々の構成成分又は物質部類の濃度を決定する。分離工程後に、精製された画分を用いてこの濃度測定を繰り返す。このようにして、これらの濃度及び関連する体積から純度及び回収率の両方を算出することが可能である。
【0294】
宿主細胞タンパク質(HCP)除去に関して、未精製供給溶液を、新規な複合材料との特別の接触時間を経た低減後の上清画分と比較することにより、Cygnus CHO HCP第3世代Elisaアッセイを用いて精製の効率を判定した。
【0295】
Quant-iT PicoGreen dsDNA試薬キットを適用してdsDNAを決定した。hIgG回収率を定量的SECにより決定した。
【0296】
一般的な低減手順
供給物は、2mg/mlのhIgG(ポリクローナル抗体Octagam、詳細については「材料」参照のこと)を加えた未処理及び未希釈の細胞培養上清CHO-K1とした。400mgの湿気を含んだ平衡化吸収材を2mlの供給物とともにファルコン管又は遠心分離管を用いてインキュベートした。5分間の穏やかな振盪の後に、遠心分離によって上清を分離した後分析した。
【0297】
hIgGの回収率は定量的SEC(装置については、「方法及び測定」参照)により決定した。クロマトグラム中の主ピーク(97~98%)はモノマーに関連し及びより早い溶出ピーク(2~3%)は、元のhIgG(Octagam)調製品中に既に存在していた免疫グロブリン凝集物に関連する。較正及び回収率の決定は主ピークを参照する。
【0298】
吸収材は供給物と接触させる前は湿潤状態にあったため、関連する空隙体積により総液体体積は増大されている。したがって物質濃度は低下することになる。空隙体積は典型的には樹脂重量の70%~90%である。したがって、最終的な物質濃度は低減工程後に各希釈率により補正される。
【0299】
この精製手順の間、凝集物の量は一定であることが分かった。これに対し、先行技術の吸収材及び分離プロトコルを用いると、多くの場合凝集物の形成が観察される。
【0300】
巨大分子DNAはhIgGよりもはるかに大きく、したがって一般には複合材細孔系から排除される。hIgGもまた実施例3に示されるように排除される。
【0301】
結果
支持材料シリカゲルDavisil LC250 40-63μの、加水分解ポリ(ビニルホルムアミド-コ-ポリビニルアミン)Lupamin45-70(BASF)及び種々の量の架橋剤ヘキサンジオールジグリシジルエーテルによる細孔充てん後に得られた複合吸収材の結果を表に示す。
【0302】
添加する架橋剤の体積を、指定された架橋度を得るために変更した。複合材バッチ07を調製するために使用した704μlの体積は10%の架橋度を表している。他のすべての条件は実施例1と同様とした。
【0303】
供給物体積と吸収材質量との比率は5:1(2ml供給物:0.4g吸収材)とした。
【0304】
すべての吸収材は供給物と接触させる前に50mM酢酸アンモニウム緩衝液pH6で平衡化した。
【0305】
【表3】
【0306】
DNA分析はDNA抽出後にQuant-iT PicoGreenアッセイを用いて行った(「方法」参照)。
【0307】
HCP分析はCygnus HCP ELISA、CHO第3世代(F550)を用いて行った、「方法」参照。
【0308】
比較例3
市販のアミノ含有吸収材の分離能の分析
実施例2に記載のものと同様の低減手順を用いて、特別の試験条件下で正に荷電された基を示す市販のアミノ含有吸収材の分離能を測定した。
【0309】
は、市販のアミノ含有アニオン交換吸収材Toyopearl AF Amino650M、Tosoh Bioscience、グリースハイム(ドイツ);Toyopearl DEAE650M、Tosoh;及びQSepharoseFF、GE Healthcare、リトルチャルフォント(英国)についての結果を示す。
【0310】
供給物体積と吸収材質量との比率は5:1(2ml供給物:0.4g吸収材)とした。すべての吸収材は供給物と接触させる前に50mM酢酸アンモニウム緩衝液pH6.5で平衡化した。
【0311】
【表4】
【0312】
DNA分析は、DNA抽出後にQuant-iT PicoGreenアッセイを用いて行った(「方法」参照)。HCP分析はCygnus HCP ELISA、CHO第3世代(F550)を用いて行った、「方法」参照。
【0313】
結果
から分かるように、HCP及びDNAを同時に高い程度(92%超)まで低減させる本発明の複合吸収材の能力と共に、80%~96%のhIgG回収率が達成された。
【0314】
インバースサイズ排除クロマトグラフィ(iSEC)により、流体力学半径R>4nmのプルランポリマー標準物質が複合材料の細孔から90%超まで排除されたことが示された(図実施形態1.2参照)。IgGは4.5~5nmのRを特徴とし、そのためこれもまたこれらの細孔から排除される(詳細については実施例3を参照のこと)。
【0315】
加えて、DNA(仔牛胸腺からのナトリウム塩、タイプ1、繊維、Sigma)の動的結合能力がおよそ1.2mg/ml複合材であることが示された。その後に注入されたDNA部分は約0.5mlの間隙体積V(充填粒子間の体積)において1mlカラムから溶出され、一方でより小さなポリマー標準物質及びメタノールは尚、内部細孔体積に対するアクセスを有する。このことは、巨大分子DNAが複合吸収材の外側表面に結合されているだけであることを示している。巨大分子DNAはhIgGよりもはるかに大きく、したがって一般には複合材細孔系から排除される。実施例3に示されるようにhIgGもまた排除される。
【0316】
実施例3
hIgGに対する結合能力の決定
この実験の目的は、hIgGは吸収材細孔から排除され、非常に少量のみが吸収材の外部に結合されることを示すことである。
【0317】
約1mlの吸収材バッチ07(実施例1及び表)を1mlカラム(50×5mm)中に充填し20mM酢酸アンモニウム緩衝液pH6で平衡化した。
【0318】
10%Octagam原液から50mM酢酸アンモニウム緩衝液pH6.5(緩衝液A)で希釈することによりhIgG試験溶液(c=2mg/ml)を調製した。
【0319】
負荷工程中の流量は0.2ml/分、洗浄中は1mL/分とした。
【0320】
溶出液中の光学密度を280nmにてモニタリングした。
【0321】
全体の溶出体積は、(カラム内体積、即ち、充填カラムの液体体積V=V)+(クロマトグラフィ系のカラム外体積)の2つの寄与から成る。
【0322】
充填カラムの総液体体積Vはメタノールのサンプルを流すことによって972μlと決定され、間隙体積Vはプルラン48.800Daを用いて523μlと決定された。吸収材の細孔体積Vはその差であり、故に449μlである。
【0323】
hIgG信号の溶出は630μlの体積にて始まった(図4.1)。この全溶出体積から、クロマトグラフィ系のカラム外体積を表す44μlを減算した。したがって、hIgGのための正味保持体積は586μlであった。この体積は972μlのカラム液体体積Vよりも有意に小さく、hIgGが細孔系内にアクセスを有さないということを示している。
【0324】
突破の瞬間、523μlの間隙体積Vが未結合のhIgGで充てんされた。したがって、最初に586μl-523μl=63μlの差分体積で含有されていたhIgGの量が突破の瞬間に複合材バッチ07に結合されていた。故に126μgが1mlの複合材に結合された。この小さな吸着量はおそらく、実際の塩濃度の条件下で粒子の小面積の外側表面に結合している6未満のpIを有する抗体に関連している。
【0325】
複合材をhIgGで飽和させた後の追加の物質注入
複合材バッチ07で充填されたこのカラムをhIgGで飽和させた後、同じ緩衝液条件下であるが流量1ml/分にて、hIgG溶液の等しい5回の50μg注入を行った(図4.2)。
【0326】
すべてのクロマトグラムは同一であった。0.45分後に既に突破が起こり、ピークの最大値には0.572分又は572μlで到達した。44μlのカラム外体積を減算することにより、528μlの体積が得られ、カラム中の間隙体積Vとよく合致した。
【0327】
このことは、一旦hIgGで飽和された複合材にhIgGがそれ以上結合しないこと及び細孔系からのhIgGの排除を証明している。
【0328】
したがって、少量の吸着hIgGが粒子の外側表面にのみ結合されるとともに、4.5~5.5nmの流体力学半径Rを有するhIgGの大部分は未結合のままであり、またさらには、4nmのR未満のサイズを有する複合材の細孔に入り込むことは不可能である(図1の実施形態)。
【0329】
図1より、4nmを超えるRを有する分子は概して、複合材の細孔の少なくとも90%から排除されると結論づけることができる。
【0330】
実施例4
等電点電気泳動によるCCS CHO-K1の特性決定及び塩基性(正に荷電された)宿主細胞タンパク質の低減
等電点電気泳動(IEF)を使用してCCSにおけるタンパク質の電荷不均質性を決定するとともに、その中におけるpI7.5超の塩基性タンパク質の存在を実証した。
【0331】
IEFストリップのpH範囲を、既知の等電点を有するタンパク質を含有する市販のキットを利用して較正した。同条件下で調査された模擬CCSの染色ゲルは、pI3~pI10の帯域の広い分布、及び8を超える高いpIを有するタンパク質の画分を示した。したがって、CCS中の宿主細胞タンパク質(HCP)の有意な量が塩基性である(図2)。
【0332】
定量的HCP ELISAによると、hIgG補充CCSから精製されたhIgGは例えば98.7%(表、バッチ07)のHCP低減を示し、粗CCS中に存在する塩基性宿主細胞タンパク質の大部分がこのように除去されたことを実証した。個々のIEF分析は、以下に挙げる既知のpIを有する9種のタンパク質標準物質(Biorad)を用いて較正された。
【0333】
【表5】
【0334】
CCS CHO K1の等電点電気泳動(IEF)のための条件(ゲル:4-15% Mini-PROTEAN(登録商標)TGX(商標)ゲル(Biorad)、7cmIPG/prep well、250μl、ストリップ:7cmIPGストリップ pH3~pH10直線勾配、染色方法:クマシーブリリアントブルーR-250)により、pI4~pI10の帯域の広い分布(図2参照)及びpI7.5超のタンパク質の塩基性画分が示された。
【0335】
結論:予期せぬことに、アミノ基含有複合材はアニオン種(pI2-6)を結合するだけでなく、最も重要なことにはHCPの群からの、カチオン性(pI8-11)及び中性の化合物も結合する。これらの結果は、複合材の平衡化のために50mM酢酸アンモニウム緩衝液pH7.5未満を用いた場合に、一般的にそうであるように正に荷電された固定化ポリビニルアミンを用いて得られる。50mM酢酸アンモニウム緩衝液を用いてpH6.5に平衡化した場合、複合材はCCS CHO K1中のHCPの99.8%までを除去した(表、バッチ06)。したがって、驚くべきことにHCP及び他の不純物の低減はそれらの等電点とはかなりの程度無関係と思われることが分かった。
【0336】
同じ条件下でHCPの81.8%しか除去しない従来の強アニオン交換Q Sepharose(表参照)と比較して、本発明のポリ(ビニルアミン)含有シリカ吸収材材料は、2mg/mlポリクローナルhIgGの存在下で全HCPのリストを最大で99.8%低減し、ポリクローナルhIgGを最大で96%まで回収した。
【0337】
実施例5、及び図3の説明
2つのpH条件下での2つの複合材バッチ07及び08による、及び塩の存在又は非存在下での実施例2による処理後の、細胞培養上清CCS BHK-21(「材料」参照)からのウシ血清アルブミン(BSA)の低減
【0338】
図3は、約50mg/mlのBSAを栄養分として含有しhIgG(2mg/mL)を添加したCCSInvivoBHK-21で構成される供給物(レーン9)を用いて、一バッチ工程でBSAが検出レベルまで低減された(レーン3-8)ことを示している。この低減は、実施例2に従い表の複合材バッチ07及び08を用いて6つの独立した実験において行われた。
【0339】
通常のpH6.5の50mM酢酸アンモニウムでの平衡化(レーン5及び8)に加えて、50mM酢酸アンモニウムpH6.5を150mMのNaClと共に用いて複合材を平衡化した(レーン4及び7)。加えて、両方の複合材をpH7.4の50mM酢酸アンモニウムと150mM NaClを用いて平衡化した(レーン3及び6)。
【0340】
このように、BSAの定量的除去が塩の存在下且つ高いpH下でも機能するということが実証された。
【0341】
SDS PAGEの特定のレーン3-8に適用された精製試料、レーン9における供給物
1、マーカータンパク質(Bio Rad、Precision Plusタンパク質)
2、ブランク
3、バッチ08(50mM水性酢酸アンモニウムpH7.4、150mM塩化ナトリウムで平衡化された複合材)により精製
4、バッチ08(50mM水性酢酸アンモニウムpH6.5、150mM塩化ナトリウムで平衡化された複合材)により精製
5、バッチ08(塩を用いず50mM水性酢酸アンモニウムpH6.5で平衡化された複合材)により精製
6、バッチ07(50mM水性酢酸アンモニウムpH7.4、150mM塩化ナトリウムで平衡化された複合材)により精製
7、バッチ07(50mM水性酢酸アンモニウムpH6.5、150mM塩化ナトリウムで平衡化された複合材)により精製
8、バッチ07(塩を用いず50mM水性酢酸アンモニウムpH6.5で平衡化された複合材)により精製
9、供給物CCS Invivo BHK-21(バッチRP_SZ_352/01)+hIgG2mg/mLは5%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA)を含有する
【0342】
図実施形態1.1
複合吸収材バッチ07。メタノール、エチレングリコール、及び既知の異なる流体力学半径(Rhi)を有する6種のプルラン標準物質の正味溶出体積V(μl)対Rhiのプロット。
【0343】
吸収材の細孔体積V及び粒子間の間隙体積Vは1ml(50×5mm)公称樹脂体積の充填カラムを用いてiSECにより決定される(ダイヤグラムV)。支持材料Davisil LC250及び種々の複合材料で充填されたカラムにおいて、最小の標準メタノールについて完全にアクセス可能な、965μl~998μlの総液体体積V=V(Vはカラム外体積を差し引いた場合に決定される正味溶出体積)が測定された。粒子間の間隙体積Vは450μl~530μlと決定された。特定の体積画分における偏差は個々のカラム充填材料の量並びに充填密度における少しの違いに起因する。R>9nmの標準物質はシリカDavisil LC250の細孔にアクセス不可であり、449μlの間隙体積Vを通過した後単独で移動した後、同じ体積内で溶出している。例えば、図実施形態1.1のカラム中の例えばDavisil LC250シリカの総細孔体積Vは差分:998μl-449μl=549μlである。較正されたプルラン標準物質はそれらの特定の流体力学半径Rに応じた体積画分に浸透する。種々の複合材の体積比は同様にして測定される。
【0344】
図実施形態1.2
複合吸収材バッチ07。分布係数(Kav値、即ち、細孔体積分布画分、「方法」参照;Kavは個々の物質にとって利用可能な細孔体積の画分と等価)対図実施形態1.1と同じ試験物質の流体力学半径Rhiのプロット。
【0345】
分布係数Kavはある細孔直径を超える特定の分子標準物質nのために利用可能な細孔体積画分Venとして定義され、即ち、Kav=Ven-V/V-Vである。上方のiSEC曲線(Silica250)は支持材料Davisil LC250の細孔サイズ分布を示しており、排除限界はRh=9nmであり及び4nmのRにおいてアクセス可能な細孔体積画分Kavが0.36である(総細孔体積の36%が流体力学半径4nm~9nmのポリマー標準物質に与えられる)。これは4nmのRを有する分子に対し細孔体積の36%がアクセス可能であることを示している。
【0346】
下方の3本の曲線は各実験操作を用いて得られた実施形態バッチ07(表)の多孔性を示している。ポリマー固定化後、細孔の5%未満(Kav=0.05)のみが4nm以上の値を示す。
【0347】
これは、特定の直径の分子に対するアクセス可能性に関して、使用条件下で充てんされ/満杯の又は占有された細孔についての物理的な証拠であり、
出発原料Davisil LC250においては細孔の36%超が4~9nmの範囲に見られるが、架橋ポリマーメッシュの固定化後の生成物バッチ07中には対応する細孔体積のうちの30%超は存在していない。これは明らかにポリマーネットワークによる、ちょうどこの体積の空間占有及び分割に起因する。
【0348】
換言すれば:最初は総細孔体積の36%超を示していた4nm~9nmのDavisil LC250の細孔体積の30%超は消失し、それはこのサイズの細孔は、それよりかなり小さな細孔を示す高分子メッシュによって占有されたためである。より小さな支持体細孔もすべてが高分子メッシュを含有している。したがって、複合材の多孔性はpH6において膨潤状態にある(小さなスポンジ様の)高分子メッシュの内部細孔によって確立される。
【0349】
しかし、低分子量の標準メタノールは支持材料の全細孔体積並びに複合材の全細孔体積に入り込む。そのため、複合材多孔性曲線の傾斜はDavisil LC250曲線の傾斜よりもかなり急である。
【0350】
Davisil LC250の壁部のみがコーティングされているならば、各細孔の中央に常に隙間が残されているため、複合材のKav曲線は、少なくとも4nm~9nmのR範囲において、Davisil LC250曲線に平行となることが予測されよう。
【0351】
記載された立体的排除効果は、充填された又は懸濁された新規の複合材料の外部体積においてかなりの程度まで未結合のまま残される例えば抗体に対する、複合材内部の高分子メッシュの精製能をもたらす原因であり、一方でより低い分子量の構成成分、例えば、宿主細胞タンパク質は固定化されたポリマーの細孔に入り込み、それらはそこで捕捉され得る。
【0352】
複合材細孔の約40%が、100.000分子量未満のほとんどのタンパク質の流体力学半径を含む2nm~4nmのRを有する分子にとってアクセス可能であるということが極めて重要である。ポリマーも通常の作業条件下で正に荷電されているにもかかわらず、細孔のこの画分内で、pI>7.0の正に荷電された塩基性のものを含めほとんどの宿主細胞タンパク質は捕捉される(実施例3及び図2参照)。
【0353】
図実施形態1.3
比較例の複合吸収材バッチ19と本発明例の複合吸収材バッチ07。メタノール、エチレングリコール、及び既知の異なる流体力学半径(Rhi)を有する6種のプルラン標準物質の正味溶出体積V(μl)対Rhiのプロット。
【0354】
図実施形態1.4
比較例の複合吸収材バッチ19と本発明例の複合吸収材バッチ07。分布係数(Kav値、即ち、細孔体積分布画分、「方法」参照;Kavは個々の物質にとって利用可能な細孔体積の画分と等価)対図実施形態1.1と同じ試験物質の流体力学半径Rhiのプロット。
【0355】
複合材料バッチ07とは対照的に、第一工程後の予備的な乾燥を含む二工程で合成されたバッチ19は、ナノメータ範囲において非常に異なる多孔性を示す。2.7nm~4nmの流体力学半径で細孔体積の4%のみが利用可能であり、一方でバッチ07は同じ範囲で22%の体積画分を与える。詳細については表2を参照のこと。
【0356】
図2
この種の試料における宿主細胞タンパク質(HCP)のpIスペクトルの可視化のために典型的な、実施例4によるCHO K1細胞株からの細胞培養上清(CCS)の濃縮溶液の等電点電気泳動(IEF)。かなりの数の中性及び塩基性宿主細胞タンパク質が7~10のpI範囲において密に集中していることが分かる。
【0357】
CCS中のタンパク質の電荷不均質性を判定するため並びにその中のpI7.5を超える塩基性タンパク質の存在を実証するために、等電点電気泳動(IEF)を使用した。
【0358】
IEFストリップのpH範囲を既知の等電点を有するタンパク質を含有する市販のキットを利用して較正した。同条件下で調査された模擬CCSの染色ゲルは、pI3~pI10の帯域の広い分布、及び8を超える高いpIを有するタンパク質の画分を示している。したがって、CCS中の宿主細胞タンパク質(HCP)のかなりの量が塩基性である。
【0359】
図3
2つのpH条件における2つの複合材バッチ07及び09による及び塩の存在又は非存在下での実施例5による処理後の細胞培養上清CCS BHK-21からのウシ血清アルブミン(BSA)の低減。
【0360】
図4
実施例3による吸収材細孔からのhIgGの排除であって、微小な部分のみが吸収材の外側表面に結合している。
図4の説明、実施例3も参照のこと
この実験の目的は、hIgGが吸収材細孔から排除され、非常に少量のみが吸収材の外部に結合されるということを示すことであった。
【0361】
動的容量測定の条件下で、突破の瞬間(図4.1)、523μlの間隙カラム体積Vが未結合のhIgGで充てんされた。したがって、最初に溶出体積と空隙との差(586μl-523μl=63μl)で含有されていたhIgGの量が、突破の瞬間に複合材バッチ07に結合されていた。故に126μgが1mlの複合材に結合された。
【0362】
複合材バッチ07で充填されたこのカラムを126μgのhIgGで飽和させた後、同じ緩衝液条件下であるが流量1ml/分にて、hIgG溶液の等しい5回の50μg注入を行った(図4.2)。
【0363】
すべてのクロマトグラムは同一であった。0.45分後に既に突破が起こり、0.572分又は572μlでピークの最大値に到達した。44μlのカラム外体積を減算することにより、528μlの体積が得られ、カラム中の間隙体積Vとよく合致した。
【0364】
図5~12は、本発明の目的、全体的概念、作業原理、1つの可能なプロセスにおけるバッチ低減材料、バッチ結果、hIgG回収率の点でのバッチ結果、HCP及びDNAの低減におけるバッチ結果、及び概要を要約している。
【0365】
他の態様では、本発明は以下の項目に関する。
【0366】
1.原料から標的タンパク質を回収するための方法であって、前記原料は溶液又は懸濁液の形態であり、少なくとも1種の標的タンパク質と、宿主細胞タンパク質(HCP)、DNA、RNA若しくは他の核酸、又はそれらの2種以上の組み合わせから選択される少なくとも1種の不純物化合物とを含み、及び任意でアルブミン、内毒素、界面活性剤、及び微生物、若しくはそれらの断片、又はそれらの2種以上の組み合わせを含み、前記方法は、
i)前記原料を少なくとも1種のアミノポリマーを含む高分子メッシュと十分な時間に渡り接触させる工程であって、この際少なくとも1種の不純物化合物が保持される工程と、
ii)その後、高分子メッシュを少なくとも1種の標的タンパク質を含有する精製後の原料から分離する工程と、
iii)任意で、標的タンパク質を原料から単離する工程と、
を含む、方法。
【0367】
2.少なくとも1種のアミノポリマーを含む高分子メッシュによって保持される前記少なくとも1種の不純物化合物は、精製後の原料中に残存する標的タンパク質の流体力学半径よりも小さい流体力学半径Rh1を示し、
好ましくは、少なくとも1種のアミノポリマーを含む高分子メッシュによって保持される前記少なくとも1種の不純物化合物は、4nm未満の流体力学半径Rh1を示し、及び精製後の原料中に残存する少なくとも1種の標的タンパク質は4nm以上の流体力学半径Rh1を示す、項目1に記載の方法。
【0368】
3.少なくとも1種のアミノポリマーを含む前記高分子メッシュは、前記原料と接触させる工程の前に8未満のpHに平衡化される、先行する項目のいずれか1項に記載の方法。
【0369】
4.前記標的タンパク質は抗体である、先行する項目のいずれかに記載の方法。
【0370】
5.pH8未満に平衡化された少なくとも1種のアミノポリマーを含む高分子メッシュによって7以上のpIを有する化合物が初期濃度の少なくとも50%まで低減される、先行する項目のいずれかに記載の方法。
【0371】
6.前記不純物化合物は宿主細胞タンパク質である、項目5に記載の方法。
【0372】
7.前記宿主細胞タンパク質は原料から初期濃度の少なくとも90%まで低減される先行する項目のいずれかに記載の方法。
【0373】
8.前記原料は発酵ブロス懸濁液である、先行する項目のいずれかに記載の方法。
【0374】
9.i)及びii)の手順内で一工程バッチ吸着プロセスが使用され、対流輸送が適用されないことを特徴とする、先行する項目のいずれかに記載の方法。
【0375】
10.前記高分子メッシュは複合材料の一部である、先行する項目のいずれかに記載の方法。
【0376】
11.前記アミノポリマーはポリ(ビニルアミン)若しくはポリ(ビニルホルムアミド-コ-ビニルアミン)、又はそれらの混合物のいずれかである、先行する項目のいずれかに記載の方法。
【0377】
12.i)支持材料の少なくとも細孔体積を少なくとも1種の架橋性ポリマー又はコポリマーと少なくとも1種の架橋剤との溶液で充てんする工程と、
ii)前記架橋性ポリマーを架橋によってその場で固定化する工程と、
を含み、前記支持材料は粒子状、ペリクル状、又はモノリシックである、
複合材料の合成プロセス。
【0378】
13.前記架橋性ポリマーはポリ(ビニルホルムアミド-コ-ビニルアミン)若しくはポリ(ビニルアミン)、又はそれらの混合物である、項目12に記載のプロセス。
【0379】
14.項目12又は13によって調製された複合材料。
図1a
図1b
図1c
図1d
図2
図3
図4.1】
図4.2】
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12