(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】線路部品および線路部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220509BHJP
C21D 8/00 20060101ALI20220509BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C21D8/00 A
C22C38/38
(21)【出願番号】P 2019565194
(86)(22)【出願日】2018-05-29
(86)【国際出願番号】 AT2018000049
(87)【国際公開番号】W WO2018223160
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2019-11-25
(32)【優先日】2017-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504101212
【氏名又は名称】フェストアルピーネ シーネン ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カンマーホファー、クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ブラントナー、ハンス ペーター
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-532946(JP,A)
【文献】特表平11-502564(JP,A)
【文献】特開2002-249825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/00-8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両用の低合金鋼製の線路部品であって、前記低合金鋼は、前記線路部品のレール頭部で、8~13体積%のフェライト部分と、11~18体積%のオーステナイト部分と、5~15体積%のマルテンサイト部分と、60~70体積%の炭化物を含まないベイナイト部分とを含
み、前記低合金鋼は、
0.28~0.32重量%のC、
0.98~1.03重量%のSi、
1.7~1.8重量%のMn、
0.28~0.32重量%のCr、
0.08~0.13重量%のMo、および
任意元素として
0~0.25重量%のV、
0~0.016重量%のP、
0~0.016重量%のS、
残部である鉄
からなることを特徴とする線路部品。
【請求項2】
前記の線路部品が、低合金鋼製のレールである、請求項1に記載の線路部品。
【請求項3】
前記ベイナイトは、オーステナイト、マルテンサイト、およびフェライトが分布したマトリックスを形成していることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の線路部品。
【請求項4】
前記オーステナイト部分および前記マルテンサイト部分が、少なくとも部分的に島状に存在することを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の線路部品。
【請求項5】
任意元素であるV、P及びSのうちの少なくとも1つが以下の含有量であることを特徴とする、請求項
1から請求項
4までのいずれか1項に記載の線路部品。
V:0.01~0.25重量%、
P:0.01~0.016重量%、
S:0.01~0.016重量%
【請求項6】
前記線路部品は、前記頭部領域において1050~1400N/mm
2の引張強さR
mを有することを特徴とする、請求項1から請求項
5までのいずれか1項に記載の線路部品。
【請求項7】
前記線路部品は、前記頭部領域において320~400HBの硬さを有することを特徴とする、請求項1から請求項
6までのいずれか1項に記載の線路部品。
【請求項8】
熱間圧延鋼材から請求項1から請求項
7までのいずれか1項に記載の線路部品を製造する方法であって、前記熱間圧延鋼材の前記レール頭部に、圧延スタンドを離れた直後に、圧延熱に対して制御冷却を行い、前記制御冷却は、
第1のステップで780~830℃の第1の温度に達するまで周囲空気で冷却し、
第2のステップで450~520℃の第2の温度まで加速冷却し、
第3のステップで前記第2の温度を保持し、
第4のステップで420~470℃の第3の温度に達するまでさらに加速冷却し、
第5のステップで前記第3の温度を保持し、
第6のステップで室温まで周囲空気で冷却することを含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
前記第2のステップにおける前記加速冷却は、2~5℃/秒の冷却速度で実行することを特徴とする、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記第3のステップは、10~300秒の期間にわたって行うことを特徴とする、請求項
8または請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
前記第3のステップは、30~60秒の期間にわたって行うことを特徴とする、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記第4のステップにおける前記加速冷却は、2~5℃/秒の冷却速度で実行することを特徴とする、請求項
8から請求項
11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記第5のステップは、50~600秒の期間にわたって行うことを特徴とする、請求項
8から請求項
12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記第5のステップは、100~270秒の期間にわたって行うことを特徴とする、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記第3のステップおよび/または第5のステップの間に再加熱を行うことを特徴とする、請求項
8から請求項
14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記線路部品の全長に沿って分布する複数の測定点で温度を検出して、前記温度の平均値を求め、前記制御冷却に使用することを特徴とする、請求項
8から請求項
15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記制御冷却は、少なくとも前記レール頭部を液体冷却剤に浸漬することによって実行することを特徴とする、請求項
8から請求項
16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記第2のステップまたは第4のステップの冷却は、前記液体冷却剤が最初に前記レール頭部の表面上に蒸気膜を形成し、続いて前記表面上で沸騰するように制御することを特徴とする、請求項
17に記載の方法。
【請求項19】
前記第2のステップおよび/または第4のステップの間、窒素などの膜破壊気体圧力媒体を前記線路部品の全長に沿って前記レール頭部に供給して、前記線路部品の全長に沿って蒸気膜を破壊して沸騰段階を開始させることを特徴とする、請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
前記第2のステップおよび/または第4のステップの間、前記液体冷却剤の状態を前記線路部品の全長に沿って監視して、前記線路部品の長さの一部の領域で前記沸騰段階の発生が最初に検出されるとすぐに、前記膜破
壊気体圧力媒体を前記レール頭部に供給することを特徴とする、請求項
19に記載の方法。
【請求項21】
前記第2のステップおよび/または第4のステップの開始20~100秒後に、前記膜破
壊気体圧力媒体を前記レール頭部に供給することを特徴とする、請求項
19または請求項
20に記載の方法。
【請求項22】
前記第2のステップおよび/または第4のステップの開始50秒後に、前記膜破
壊気体圧力媒体を前記レール頭部に供給することを特徴とする、請求項
21に記載の方法。
【請求項23】
前記第2のステップの間、前記線路部品を前記液体冷却剤に完全に浸漬することを特徴とする、請求項
17から請求項
22までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記第3のステップおよび/または第5のステップの間、前記線路部品を、前記液体冷却剤から取り出した位置に保持することを特徴とする、請求項
17から請求項
23までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記第4のステップの間、前記線路部品の前記レール頭部のみを前記液体冷却剤に浸漬することを特徴とする、請求項
17から請求項
24までのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線路部品、特に鉄道車両用の低合金鋼レールに関する。
【0002】
本発明はさらに、熱間圧延鋼材から線路部品を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
近年、鉄道輸送の効率を高めるために、鉄道貨物輸送における輸送貨物の重量および移動速度が着実に増加している。したがって、鉄道の線路は悪化した運転条件の影響を受けやすく、したがって、増加した荷重に耐えるためには高品質でなければならない。具体的問題として、特にカーブに取り付けられたレールの摩耗の大幅な増加と、カーブでのレールと車輪との主な接触点を構成する走行エッジで主に発生する材料疲労による損傷の発生に反映される。その結果、転がり接触疲労(RCF)が発生する。例えば、RCF表面損傷の例には、頭部チェック、スポーリング、スクワット(塑性表面変形)、スリップ波、および凹凸が含まれる。このような表面損傷により、レールの耐用年数が短くなり、騒音が増加し、動作障害が発生する。増加する欠陥の発生は、継続的に増加する通過重量によってさらに加速される。このような状況の直接の結果、鉄道のメンテナンス需要が高まる。しかし、メンテナンス需要の増大は、メンテナンス時間の減少と矛盾する。列車の通過頻度が大きくなると、レールを整備できる時間間隔がますます短くなる。
【0004】
前述の欠陥は、研削によって早期に除去できるが、レールが大きく損傷した場合は交換する必要がある。運用中、半径500m以上のカーブにおいてカーブの外側レールの走行エッジの領域で、すなわち摩耗が僅かに影響を果たし始める領域で頭部チェックが行われる。転がり半径の違いによって引き起こされる、車輪とレールの接触における局所的な滑りと組み合わされた高い局所的な表面圧力により、レール材料の表面にせん断応力がもたらされ、これによりはあらゆる転がりプロセスで発生する。亀裂が始まり、影響を受けるレールの長手方向の切れ目で観察され、次に、亀裂は冷間成形層の方向に沿って成長する。最初の段階での亀裂の成長は、表面とほぼ平行に起こり、その後レール内部に連続的に延びる。亀裂が臨界長に達すると、突然の故障が発生し、亀裂の周期性のために、レール部片の破片が生じる可能性がある。
【0005】
亀裂成長と並行して生じる摩耗率は、従来の完全パーライトのレール等級とベイナイトのレール等級の両方で常に小さく、したがって亀裂成長が実際に支配的である。
【0006】
したがって、過去において、レール寿命を延ばすために、耐摩耗性およびRCF損傷の両方に対する耐性を改善するためのいくつかの試みが行われてきた。とりわけ、これはベイナイトレール鋼の導入と使用によって実現されてきた。
【0007】
ベイナイトは、等温変態または連続冷却による炭素質鋼の熱処理中に形成できるミクロ組織である。ベイナイトは、パーライト形成とマルテンサイト形成の間の範囲の温度および冷却速度で形成される。マルテンサイト形成とは異なり、この場合、結晶格子のせん断プロセスと拡散プロセスが結合し、したがって異なる変態機構を提供する。冷却速度、炭素含有量、合金元素、および結果として生じる形成温度への依存性により、ベイナイトには特徴的なミクロ組織が無い。ベイナイトは、パーライトと同様に、フェライトとセメンタイト(Fe3C)の相を含むが、形状、サイズ、分布の点でパーライトとは異なる。基本的に、2つの主要なミクロ組織形態、すなわち上部ベイナイトと下部ベイナイトが区別される。
【0008】
耐摩耗性の改善、特に頭部チェックの回避を目的とする線路部品およびレール鋼の製造方法が引用文献1から知られている。この目的のために、レール頭部でフェライト含有量が5~15%の多相ベイナイト構造を有するミクロ組織を含む。それにもかかわらず、上記で特定した現象は、半径が500m以上の曲線で発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明は、車輪荷重が高く曲線が大きい場合でも、一方では亀裂の形成が抑制され、他方では亀裂のレール内部への侵入を防ぎながら初期亀裂成長が明らかに遅れさせる作用を有するように、コストおよび溶接の理由で低合金鋼により構成される線路部品、特にレールを改善することを目的とする。最後に、線路部品は容易に溶接可能であり、鉄道建設でこれまでに用いられた鋼と同様の電気伝導率および同様の熱膨張係数などの同様の他の材料特性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を解決するために、第1の観点に係る本発明によれば、最初に定義された種類の線路部品を提供する。この鋼は、線路部品のレール頭部に、5~15体積%のフェライト部分と、5~20体積%のオーステナイト部分と、5~20体積%のマルテンサイト部分と、55~75体積%の炭化物を含まないベイナイト部分とを含むようにさらに開発されものである。炭化物のないベイナイトは、炭化物の析出がなく、転位密度の高いフェライトの針状結晶で構成されている。接触影響ゾーンのオーステナイト相部分は、従来の炭化物含有レールの場合とは別の変形メカニズムの影響を受ける。したがって、変形誘起マルテンサイト相変態、TRIP効果(変態誘起塑性)、それに続いて硬度の同時増加と塑性応力下での変形能が発生する。表面付近の領域での高い変形抵抗に相当する硬度の増加は、周囲の炭化物のないベイナイトに後者のせん断を抑制するように影響を与える。レール頭部のまさに表面で、マルテンサイト変態した領域は、ますます摩耗しやすくなる。亀裂の形成と初期亀裂成長は、亀裂破壊靭性の上昇により明らかに妨げられるか、または遅くなり、自然に生じる摩耗と組み合わせて、亀裂成長が実際には起こらなくなる。したがって、線路部品は、さらなる亀裂形成の監視を必要とせずに、使用期間の正確な決定を可能にするように摩耗にさらされるのみである。
【0012】
炭化物を含まないベイナイトの部分が60~70体積%である場合、特に良好な耐亀裂性が達成されるであろう。
【0013】
フェライト部分は、好ましくは8~13体積%である。
【0014】
さらに、好ましくは、ベイナイトは、オーステナイト、マルテンサイト、およびフェライトが好ましくは均一に分布しているマトリックスを形成する。オーステナイトおよびマルテンサイトは、平均サイズが数μm、特に1~10μmの範囲内の多角形または球状の島状に少なくとも部分的に存在することが好ましい。さらに、オーステナイトは、1μm未満の厚さおよび数μmの長さの膜状に部分的に存在することが好ましい。特に、マルテンサイトは、マルテンサイトからの炭化物の析出がほとんど起こらないように、非常に低いまたはほとんど焼き戻されていない形態の純粋なマルテンサイトとして部分的に存在する。個々のマルテンサイト領域のサイズは約5μmである。フェライトは、部分的に粒界フェライトとして存在し、部分的に多角形フェライトとして存在する。さらに、粒界パーライトが、レール頭部の内部で主に発生する場合がある。それは、数ミリメートルを含むエッジゾーンよりもわずかに低い冷却速度で発生し得るためである。
【0015】
既に上記で指摘したように、本発明によれば、コストを最小化し、溶接適性を高めるために、低合金鋼が使用される。一般的に、本発明の文脈における低合金鋼は、合金成分として、炭素、ケイ素、マンガン、クロム、モリブデン、並びに任意元素としてバナジウム、リン、硫黄、ホウ素、チタン、アルミニウムおよび/または窒素、および残部の鉄を含むことが好ましい。
【0016】
平均炭素含有量が約0.3%であるにもかかわらず、炭化物を含まないベイナイト組織を調整することが、合金元素の主要な目標である。これは、ケイ素を意図的に合金化することにより可能になり、その後ケイ素が混晶内に存在するようになる。ケイ素の本質的な特徴は、セメンタイト相への固溶度が非常に低いことである。これにより、均一なケイ素分布の場合に、セメンタイト形成の強い抑制および/または一時的な遅延が生じる。代わりに、セメンタイトの形成が通常起こる温度範囲で炭素の再分布が起こる。これは、フェライト相がオーステナイト高温相よりもかなり少ない炭素を固溶できるためである。その結果、まだ変態していないオーステナイトへの炭素輸送がフェライト-オーステナイト反応の最前線で発生し、したがってオーステナイトは炭素が豊富になり、熱的に安定化される。オーステナイト内の炭素富化は、その最大溶解度に達すると停止する。これは、温度の関数としてオーステナイトの最大炭素含有量を説明する、いわゆるT0’曲線によって図的に説明される。最大含有量に達すると、反応は停止し、すなわち、炭素が豊富なオーステナイトからのベイナイトの形成はそれ以上起こらない。さらに冷却することにより、熱的に不安定なオーステナイト領域は、多かれ少なかれ高炭素マルテンサイトに変態し、任意で自己焼戻しが起こる。
【0017】
合金化成分が1.8重量%より多い量で存在しないことが好ましい。
【0018】
ケイ素は、1.2重量%より少ない量で存在することが好ましい。すでに述べたように、セメンタイトの形成を防ぐために、ケイ素は合金化によって添加される。そうすることで、Si含有量が少なすぎる場合に部分的なセメンタイトの形成が起こる可能性があるため、ケイ素-炭素比は特に重要である。一方で、求められる多相ミクロ組織では炭化物自体は望ましくなく、他方では、炭化物の形成によりオーステナイトの安定化に利用できる炭素が少なくなり、それはその後、マルテンサイトの形成を促進する。これも望ましくはない。従来技術では、平均炭素含有量が約0.3重量%でセメンタイトの形成を防止するために、1.5重量%のケイ素の最小含有量が示されている。しかしながら、望ましい構成では、ケイ素によって電気抵抗は大幅に増加可能であるため、ケイ素含有量は1.20重量%に制限され、これにより、線路内の電流再循環に問題が生じる可能性がある。
【0019】
さらに、炭素が0.6重量%未満、好ましくは0.35重量%未満の量で存在することが好ましい。炭素は、マルテンサイトの開始温度に最も影響する元素である。炭素部分が増加すると、マルテンサイトの開始温度が低下する。熱処理および冷却ベッドでのさらなる冷却中に主要なマルテンサイト部分の発生を回避するために、マルテンサイトの開始温度は320℃をはるかに超えるべきではない。より低い炭素部分の利点は、オーステナイトがより多くの炭素を吸収でき、ベイナイトの形成がより大きく起こる可能性があることにある。さらに、望ましくないセメンタイト形成のリスクが低減される。
【0020】
マンガンは、とりわけ、熱処理中のフェライトおよびパーライトの形成に対抗し、硬化性を高めることにより主に炭化物を含まないベイナイトを調整するために合金化することによって添加される。マンガンはオーステナイト安定剤でもあり、炭素に加えて、マルテンサイト開始温度を下げる。さらに、マンガン含有量が増加すると、T0’曲線が炭素含有量の低い方向にシフトし、これは炭化物を含まないベイナイトの連続的な形成を妨げることが文献から知られている。このため、最大Mn含有量は1.8%に制限されているが、上記の理由から明らかにより低いことが望ましい。
【0021】
マンガンと同様に、クロムも硬化性を高めるが、マンガンよりも強い効果を有する。さらに、クロムは混晶硬化を引き起こし、これは意図的に利用される。一方では、炭化クロムの発生を防ぎ、他方では溶接性を促進するために、比較的低いクロム含有量が求められている。
【0022】
バナジウムは、靭性を悪化させることなく硬度を増加させる微量合金化元素である。混晶硬化に加えて、硬度の増加を引き起こす非常に細かい粒子の沈殿も引き起こされる。
【0023】
マンガンやクロムと同様に、モリブデンは硬度を高める。モリブデンの特殊性は、とりわけ、拡散制御された変態生成物、すなわちフェライトとパーライトが、変態期間の延長に向かってシフトすることであり、これは文献では溶質薬品効果に起因する。これにより、連続冷却中であってもベイナイト領域を直接ターゲットにできる。この効果を達成するには、1/10%未満というすでに比較的低いモリブデン含有量で十分である。対照的に、モリブデンは偏析挙動にマイナスの影響を与え、その結果、偏析した領域がモリブデンで著しく濃縮され、最終的にはマルテンサイトミクロ組織を有するようになる。溶接性もモリブデンによって著しく劣化する。これらの2つの理由により、熱処理と組み合わせて主に炭化物を含まないミクロ組織を調整するために、モリブデン含有量は可能な限り低く抑えられている。
【0024】
モリブデンと同じ効果、すなわち、フェライトおよびパーライトの形成の著しい時間的遅延は、ホウ素元素によっても発揮される。後者の効果は、ホウ素原子がオーステナイトにほとんど溶けないため、主に粒界に存在し、したがってフェライトおよびパーライトのその後の核形成をはるかにより困難にすることに基づいている。この効果にはすでに数ppmのホウ素で十分であり、フェライト形成の一時的な遅延にとって十分な約30ppmはその10倍である。しかしながら、窒化ホウ素または炭窒化ホウ素が形成されると、このプラスの効果は失われる。この理由から、窒素への親和性がホウ素よりもチタンの方が明らかに高いため、チタンが鋼にさらに合金化され、こうして炭窒化チタンの析出が引き起こされる。ホウ素析出物の発生を安全に防ぐには、溶融物中に常に約50~100ppm存在するチタンと窒素の比率を少なくとも4:1にして、すべての窒素が結合するようにする必要がある。それから生じる問題は、おそらく粗い炭窒化チタンの析出であり、それは靭性および疲労特性に悪影響を及ぼし得る。
【0025】
好ましくは、以下の参照分析値を有する低合金鋼が使用される。
0.2~0.6重量%のC、
0.9~1.2重量%のSi、
1.2~1.8重量%のMn、
0.15~0.8重量%のCr、
0.01~0.15重量%のMo、および
任意元素として
0~0.25重量%のV、特に0.01~0.25重量%のV、
0~0.016重量%のP、特に0.01~0.016重量%のP、
0~0.016重量%のS、特に0.01~0.016重量%のS、
残部である鉄
【0026】
特に良好な結果は、以下の参照分析値を有する低合金鋼によって得られる。
0.28~0.32重量%のC、
0.98~1.03重量%のSi、
1.7~1.8重量%のMn、
0.28~0.32重量%のCr、
0.08~0.13重量%のMo、および
任意元素として
0~0.25重量%のV、特に0.01~0.25重量%のV、
0~0.016重量%のP、特に0.01~0.016重量%のP、
0~0.016重量%のS、特に0.01~0.016重量%のS、
残部である鉄
【0027】
好ましくは、以下の参照分析値を有する低合金鋼が使用される。
0.44~0.52重量%のC、
1.05~1.17重量%のSi、
1.4~1.7重量%のMn、
0.36~0.80重量%のCr、
0.01~0.08重量%のMo、および
任意元素として
0~0.25重量%のV、特に0.01~0.25重量%のV、
0~0.016重量%のP、特に0.01~0.016重量%のP、
0~0.016重量%のS、特に0.01~0.016重量%のS、
残部である鉄
【0028】
線路部品が頭部領域で1150~1400N/mm2の引張強さRmを有する場合、高い圧力が加えられた線路部品に対して特に良好な適性が提供されることが好ましい。さらに、線路部品は、頭部領域で320~380HBの硬度を有することが好ましい。
【0029】
第2の観点によれば、本発明は、上述の線路部品を製造する方法を提供する。線路部品は、熱間圧延鋼材から製造される。圧延鋼材のレール頭部は、圧延スタンドを出た直後に、圧延熱に対して制御冷却を行なう。制御冷却は、第1のステップにおいて780~830℃の第1の温度に達するまで周囲空気で冷却し、第2のステップにおいて450~520℃の第2の温度まで加速冷却し、第3のステップにおいて第2の温度を保持し、第4のステップにおいて420~470℃の第3の温度に達するまでさらに加速冷却し、第5のステップにおいて第3の温度を保持し、第6のステップにおいて周囲空気で室温まで冷却することを含む。制御冷却は、好ましくは、それ自体が知られているように、少なくともレール頭部を液体冷却剤に浸すことによって実行される。液体冷却剤内での加速冷却は、望ましくない相領域を通過することなく、短時間で所望の温度範囲を選択的に達成することを可能にする。
【0030】
第2のステップにおける加速冷却は、2~5℃/秒の冷却速度で実行されることが好ましい。
【0031】
線路部品は、第2のステップ中に冷却剤に完全に浸漬されることが好ましい。
【0032】
450℃~520℃に保持するステップ(第3のステップ)は、主に、第2の保持するステップ(第5のステップ)にける強い再加熱を低くするために、冷却剤に接触するレール頭部表面とレール頭部内部との間の温度補償を提供する。さらに、この温度範囲は、上記で指定した化学組成を有する鋼に次の特別な機能を提供する。フェライト形成(存在する場合)の程度は、冷却速度(従って温度範囲に達するまでの時間)およびこの温度範囲での滞留時間によって影響を受ける可能性がある。状況によっては、この温度範囲内で粒界パーライトの形成が起こる可能性がある。上述の効果を達成するために、第3のステップは。10~300秒、好ましくは30~60秒の期間にわたって行うことが好ましい。
【0033】
第4のステップにおける加速冷却は、2~5℃/秒の冷却速度で実行することが好ましい。
【0034】
第4のステップ中に、線路部品をレール頭部のみを冷却剤に浸漬することが好ましい。
【0035】
420℃~470℃に保持する第2のステップ(第5のステップ)は、周囲のオーステナイトへの炭素の再分配を同時に行う炭化物を含まないベイナイトの形成に役立つ。この温度範囲では、オーステナイトは主に膜状ではなく島状として存在する。この範囲での炭素の再分配の強度は、オーステナイトをどの程度強く炭素で強化し得るか、さらなる冷却の間、オーステナイトとして準安定状態を維持するか、マルテンサイト的に変態するかを決定する。さらに、ミクロ組織の調整のために、加速冷却(第4のステップ)中に400℃以上の温度が観測されることが特に重要であり、そうでない場合、セメンタイトの微細な析出を伴う下部ベイナイトステップの形成引き起こされるからである。これらの効果を達成するために、第3のステップは、50~600秒、好ましくは100~270秒の期間にわたって行うことが好ましい。
【0036】
2つの保持ステップ(第3および第5のステップ)の調整は、例えば、温度範囲の下限まで冷却し、その後再加熱することにより行うことができる。
【0037】
線路部品は、第3および/または第5のステップ中に冷却剤から除去された位置に保持することが好ましい。
【0038】
2つの保持点の温度範囲は、問題の鋼の合金元素とそれらの量の関数であるため、第1温度および第2温度の値は、それぞれの鋼に対して事前に正確に決定されなければならない。レールの温度は、制御冷却中に連続的に測定され、それぞれの温度しきい値に達すると、冷却ステージと保持ステージがそれぞれ開始または終了する。レールの表面温度は線路部品の全長にわたって変化する可能性があり、さらに冷却は線路部品全体に対して均一に行われるため、温度は、線路部品の長さにわたって分布する複数の測定点で検出されて、温度の平均値が形成されるように進めることが好ましく、それは制御冷却を制御するために使用される。
【0039】
液体冷却剤による制御冷却中に、冷却剤は急冷プロセスの3つの段階を通過する。第1の段階、つまり蒸気膜段階では、レール頭部の表面の温度が非常に高いため、冷却剤は急速に蒸発し、こうして薄い絶縁蒸気膜の形成を引き起こす(ライデンフロスト効果)。この蒸気膜相は、すなわち、冷却剤の蒸気形成熱、線路部品(例えば転轍)の表面状態、または冷却タンクの化学組成と設計に非常に依存している。第2の段階、沸騰段階では、冷却剤はレール頭部の高温表面と直接接触し、すぐに沸騰し始め、こうして高い冷却速度をもたらす。第3の段階、対流段階は、線路部品の表面温度が冷却剤の沸点まで下がるとすぐに始まる。この範囲では、冷却速度は、冷却剤の流速に実質的に影響される。
【0040】
蒸気膜段階から沸騰段階への移行は、通常、比較的制御されない自発的な方法で行われる。レール温度は、線路部品の全長にわたって特定の生産関連の温度変動を受けるため、蒸気膜段階から沸騰段階への移行が線路部品の異なる長手方向ゾーンで異なる時間に発生するという問題が存在する。これは、線路部品の長さにわたって不均一なミクロ組織の形成をもたらし、したがって不均一な材料特性をもたらすだろう。レールの全長にわたって蒸気膜段階から沸騰段階への移行時間を統一するために、好ましい動作モードでは、第3のステップ中に窒素などの膜破壊気体圧力媒体が線路部品の全長に沿ってレール頭部に供給され、線路部品の全長に沿って蒸気膜を破壊し、沸騰段階を開始することが提供される。
【0041】
特に、線路部品の全長に沿った第2のステップおよび/または第4のステップの間に冷却剤の状態が監視され、線路部品の長さの一部の領域で沸騰段階の最初の発生が検出されるとすぐに、膜破壊気体圧力媒体がレール頭部に供給されるように進められてもよい。
【0042】
好ましい方法では、第2のステップおよび/または第4のステップの開始後、約20~100秒、特に約50秒で、膜破壊気体圧力媒体をレール頭部に供給する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【実施例】
【0044】
以下では、例示的な実施形態により本発明をより詳細に説明する。
実施例1
第1の例示的な実施形態では、以下の参照分析値、
0.3重量%のC、
1.0重量%のSi、
1.74重量%のMn、
0.31重量%のCr、
0.1重量%のMo、
0.014重量%のS、
0.014重量%のP、
20ppmのAl、
70ppmのN、
を有する低合金鋼が、標準レール部材を備えた走行レールへの熱間圧延によって形成された。
【0045】
ホウ素とチタンは合金化されなかった。残部は鉄および不測の付随元素である。
【0046】
圧延スタンドを出るとすぐに、レールは圧延熱で制御冷却を受けた。制御冷却は、
図1に描かれた時間-温度変態図を参照して以下により詳細に説明する。ここで、1で示される線は冷却履歴を表す。第1のステップで、レールは周囲空気で810℃の温度まで冷却される。第2のステップでは、レールをその全長にわたって断面全体により液体冷却剤に浸漬し、4℃/sの冷却速度に調整した。約85秒後、レールを冷却槽から取り出し、470℃のレール頭部の初期表面温度を測定し、点2に到達した。約45秒間、レールは冷却剤から取り出された位置に保持された。最初の5秒以内に500℃の温度に再加熱された。点3に達すると、レールは再び冷却槽に浸漬され、4℃/秒の冷却速度で440℃(点4)に冷却された。この温度は100秒間保持された。点5に到達すると、レールは周囲空気で室温まで冷却された。
【0047】
上記の制御冷却により、以下のミクロ組織、
60~70体積%の炭化物を含まないベイナイト、
8~13体積%のフェライト、
11~18体積%のオーステナイト、
5~15体積%のマルテンサイト、
を有するレール頭部が得られた。
【0048】
ミクロ組織は
図2に示されている。以下の材料特性、
0.2%耐力:750MPa±10MPa
引張強さ:1130MPa±10MPa
極限伸び:17%±1%
表面硬さ:330HB±5HB
室温での標準試料の破壊靭性K
Ic:58MPa√m±3MPa√m
が測定された。
【0049】
実施例2
第2の例示的な実施形態では、以下の参照分析値、
0.5重量%のC、
1.1重量%のSi、
1.5重量%のMn、
0.7重量%のCr、
0.01重量%のMo、
0.20重量%のV、
0.014重量%のS、
0.014重量%のP、
20ppmのAl、
70ppmのN、
残部はFeおよび不測の付随元素
を有する低合金鋼が、標準レール部材を備えた走行レールへの熱間圧延によって形成された。
【0050】
熱処理は、実施例1と同様に行った。
【0051】
実施例1(0.3重量%のC)の耐摩耗性に比べて耐摩耗性を高めながらも同時に耐破壊性を維持するために、著しく高い炭素含有量(0.5重量%)を有する材料が実施例2では使用された。
【0052】
より高い炭素含有量の利点は、オーステナイトとマルテンサイトの両方で富化を高めることができるため、耐摩耗性に非常に良い影響を与えるこれら2つの組織成分を強化することにある。炭素含有量が高いため、熱処理(加速冷却)により、パーライト形成への増加した傾向が減少する。つまり、パーライト形成が行われる領域は非常に速く通過するため、(深さ10mmまでの)レール頭部表面にパーライトが大量に析出することはない。これは、ミクロ組織が以前に示された組織成分を含み続けることを意味する。
【0053】
以下の材料特性:
0.2%耐力:900MPa±10MPa
引張強さ:1320MPa±10MPa
極限伸び:13%±1%
表面硬さ:380HB±5HB
室温での標準試料の破壊靭性KIc:53MPa√m±3MPa√m
が測定された。