(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】複合部品を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/80 20060101AFI20220509BHJP
C04B 35/577 20060101ALI20220509BHJP
C04B 35/571 20060101ALI20220509BHJP
C23C 16/38 20060101ALI20220509BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
C04B35/80 600
C04B35/577
C04B35/571
C23C16/38
C23C16/42
(21)【出願番号】P 2019568705
(86)(22)【出願日】2018-06-13
(86)【国際出願番号】 FR2018051384
(87)【国際公開番号】W WO2018229428
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-05-13
(32)【優先日】2017-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】516299213
【氏名又は名称】サフラン・セラミックス
(73)【特許権者】
【識別番号】517310463
【氏名又は名称】アリアングループ・エス・ア・エス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エベールラン-フックス,ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】ブイヨン,エリク
(72)【発明者】
【氏名】ジャコブ,ギュイ
(72)【発明者】
【氏名】グリアンヌ,エディ
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-076429(JP,A)
【文献】特開平06-009278(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105951301(CN,A)
【文献】特表2001-505863(JP,A)
【文献】特表平11-513355(JP,A)
【文献】特表2010-507556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
C23C 16/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合部品を製造するための方法であって、少なくとも以下の工程:
その表面上に-OH基を有するコーティング(1)で覆われたスレッドによって形成された繊維プリフォームの細孔中に、接着促進剤(10)を導入する工程、ここで、前記接着促進剤は、前記-OH基の置換又は求核付加の反応に従って反応する電子吸引基G1と、ヒドロキシル官能基、エポキシド、ハロゲン原子、アミン官能基、カルボニル官能基、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合から選択される反応基G2とを備える、
前記基G1に対する前記-OH基の置換又は求核付加の反応によって、前記コーティングの前記表面に前記接着促進剤をグラフトする工程、ここで、このグラフトは、前記接着促進剤がその中に導入されている繊維プリフォームの第一の加熱によって実施される、
前記接着促進剤をグラフトする前記工程の後に、前記繊維プリフォームの前記細孔中にセラミック前駆体樹脂(4)を導入する工程、
導入された前記樹脂を重合し、及び前記グラフトされた接着促進剤(20)を前記樹脂に、前記基G2の位置で、これら2つの化合物間での化学反応によって結合する工程、ここで、前記重合及び前記結合は、前記樹脂がその中に導入されている前記繊維プリフォームの第二の加熱によって実施される、並びに
前記重合された樹脂(40)の熱分解によって、前記繊維プリフォームの前記細孔中にセラミックマトリックス相を形成する工程、
を含む、方法。
【請求項2】
方法が、促進剤の導入前に、化学蒸着又は化学蒸気浸透によってスレッド上にコーティング(1)を形成する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
方法が、促進剤の導入前に、プリフォームの細孔中に前駆体化合物を導入すること及びこの前駆体化合物の熱分解によって、スレッド上にコーティング(1)を形成する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
コーティング(1)の表面を形成する材料が、炭素、ホウ素がドープされた炭素、炭化ケイ素、窒化ホウ素、ケイ素がドープされた窒化ホウ素、又は窒化ケイ素から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
基G1が、エポキシド、カルボキシル官能基、ハロゲン原子、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
基G2が、ヒドロキシル官能基、アミン官能基又は炭素-炭素二重結合から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
モノマー状態において、接着促進剤(10)が、以下の一般式:G1-E-G2を有し、式中、Eは1~10個の炭素原子を含む炭素鎖、又は1~10個のケイ素元素を含む、シラン、シロキサン、シラザン若しくはカルボシラン鎖を表す、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
Eが1~5個の炭素原子を含む炭素鎖を表す、又はEが1~5個のケイ素元素を含む、シラン、シロキサン、シラザン若しくはカルボシラン鎖を表す、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
接着促進剤(10)がハロシランである、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
樹脂(4)が、ポリシロキサン樹脂、ポリシラザン樹脂、ポリカルボシロキサン樹脂、ポリカルボシラン樹脂及びこのような樹脂の混合物から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも部分的に、改善された力学特性を有するセラミックのマトリックスを用いて複合部品を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
少なくとも部分的にセラミックのマトリックスを有する複合部品は、伝統的に、ポリマー含浸熱分解(PIP)の技術によって取得され得る。
【0003】
この技術では、セラミック前駆体ポリマーの液体組成物が繊維プリフォームの細孔中に導入される。このようにして導入された組成物は重合され、次いで、セラミックマトリックス相を形成するために熱分解される。使用される前駆体の選択に応じて、様々な種類のセラミックマトリックスがこの方法によって形成され得る。特に、SiCNマトリックスを得るためにポリシラザンポリマーを、SiCマトリックスを得るためにポリカルボシランポリマーを、又はSiCOマトリックスを得るためにポリシロキサンポリマーが使用され得る。
【0004】
熱分解によるセラミックへの変換は容積の縮小を伴うので、稠密化された部分に対して所望の多孔度を得るために、浸透と熱分解のこれらのサイクルを連続して数回繰り返すのが通常である。
【0005】
そのマトリックスが少なくとも部分的にPIP技術によって形成されている複合部品によって示される力学特性を改善することが望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一の態様によれば、本発明は、複合部品を製造するための方法であって、少なくとも以下の工程:
-その表面上に-OH基を有するコーティングで覆われたスレッドによって形成された繊維プリフォームの細孔中に、接着促進剤を導入する工程、ここで、前記接着促進剤は、前記-OH基の置換又は求核付加の反応に従って反応する電子吸引基G1と、ヒドロキシル官能基、エポキシド、ハロゲン原子、アミン官能基、カルボニル官能基、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合から選択される反応基G2とを備える、
-前記基G1に対する-OH基の置換又は求核付加の反応によって、コーティングの表面に接着促進剤をグラフトする工程、ここで、このグラフトは、前記接着促進剤がその中に導入されている繊維プリフォームの第一の加熱によって実施される、
-接着促進剤をグラフトする工程の後に、繊維プリフォームの細孔中にセラミック前駆体樹脂を導入する工程、
-導入された樹脂を重合し、及びグラフトされた接着促進剤を樹脂に、基G2の位置で、これら2つの化合物間での化学反応によって結合する工程、前記重合及び前記結合は、樹脂がその中に導入されている繊維プリフォームの第二の加熱によって実施される、並びに
-重合された樹脂の熱分解によって、繊維プリフォームの細孔中にセラミックマトリックス相を形成する工程、
を含む、方法に関する。
【0007】
本発明者らは、PIP技術によって得られるマトリックスを有する部品に関する研究を実施してきた。これらの研究によって、これらの部品の力学特性の限界は、PIPマトリックスの接合部分での接着の問題に起因することを特定することが可能となった。本発明者らは、重合状態にあるセラミック前駆体とスレッド上に予め形成されたコーティングとの間の粘着の低下が存在することを実際に見出した(
図1参照)。
図1と関連する試験では、コーティングは、スレッドを覆う熱分解炭素(PyC)界面相の層であった。これに関して、
図2は、前駆体の熱分解後に得られたマトリックス相とスレッド上に予め形成された炭化ケイ素(SiC)のコーティング間の粘着の低下の存在を示している。粘着のこれらの低下の存在は、得られた部品の最適に満たない力学特性に反映される。
【0008】
本発明は、この問題を解決するために開発され、このため、PIPマトリックス相とスレッド上に予め形成されたコーティングとの間の接着を改善するために接着促進剤を使用する。この事前に形成されたコーティングは、本明細書の以下に記載されているように、様々な種類のものであり得る。接着促進剤は、基G1のために、基礎となるコーティングへ共有結合でグラフトすることが可能である。接着促進剤は、コーティングの表面上に存在する突き出した-OH基の位置でグラフトされ、-OH基は、コーティングを周囲の空気に曝露した後に自然に存在する。さらに、接着促進剤は、基G2のために、樹脂と化学的に反応することができる。この反応によって、セラミック前駆体樹脂への促進剤の共有結合が可能になる。このように、接着促進剤は、樹脂、すなわち、最終的にはPIPマトリックス相と、基礎となるコーティングの中間の結合を構成し、これにより、このマトリックス相のこのコーティングへの接着を改善することが可能になる。本発明によって提案される接着促進剤の使用は、このように、得られる複合部品の力学特性を改善するのに寄与する。
【0009】
一実施形態例では、この方法は、促進剤の導入前に、化学蒸着又は化学蒸気浸透(CVD又はCVI)によって、スレッド上にコーティングを形成する工程をさらに含む。
【0010】
この場合には、コーティングは、界面相又は前段階マトリックス相であり得る。この例では、接着促進剤の使用は、このコーティング上に直接形成されたPIPマトリックス相の接着を改善する。
【0011】
変形として、この方法は、促進剤の導入前に、プリフォームの細孔中に前駆体化合物を導入すること、及びこの前駆体化合物の熱分解によって、スレッド上にコーティングを形成する工程をさらに含む。
【0012】
この事例では、コーティングは、前段階PIPマトリックス相を構成し、接着促進剤の使用は、連続して形成されたPIPマトリックスの2つのブロック間の接着を改善する。マトリックスがPIPマトリックスの複数のブロックから形成される場合には、これらのブロックのそれぞれの間での接着を改善するために、上記方法を使用することが可能であることに注意すべきである。
【0013】
一実施形態例では、コーティングの表面を形成する材料は、炭素、特に、熱分解炭素、ホウ素がドープされた炭素、炭化ケイ素、窒化ホウ素、ケイ素がドープされた窒化ホウ素又は窒化ケイ素から選択される。
【0014】
一実施形態例では、基G1は、エポキシド、カルボキシル官能基、ハロゲン原子、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合から選択される。
【0015】
一実施形態例では、基G2は、ヒドロキシル官能基、アミン官能基又は炭素-炭素二重結合から選択される。
【0016】
一実施形態例では、モノマー状態において、接着促進剤は、以下の一般式:G1-E-G2を有し、式中、Eは1~10個の炭素原子を含む炭素鎖又は1~10個のケイ素元素を含む、シラン、シロキサン、シラザン若しくはカルボシラン鎖を表す。
【0017】
例えば、Eは、脂肪族又は芳香族炭素鎖であり得る。Eは、直鎖又は分岐鎖であり得る。モノマー状態において、促進剤は、単一の基G2又は数個の基G2を有し得る。
【0018】
特に、Eは、1~5個の炭素原子を含む炭素鎖を表す。変形として、Eは、1~5個のケイ素原子を含む、シラン、シロキサン、シラザン又はカルボシラン鎖を表す。
【0019】
特に、接着促進剤は、ハロシランである。
【0020】
一実施形態例では、樹脂は、ポリシロキサン樹脂、ポリシラザン樹脂、ポリカルボシロキサン樹脂、ポリカルボシラン樹脂及び前記樹脂の混合物から選択される。
【0021】
添付の図面を参照しながら、以下の非限定的な説明から、本発明のその他の特徴及び利点がより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】重合状態のセラミック前駆体とスレッド上に形成されたPyCのコーティングの間の粘着の低下の存在を示す写真である(本発明によるものではない。)。
【
図2】PIPマトリックス相とスレッド上に形成されたSiCのコーティングの間の粘着の低下の存在を示す写真である(本発明によるものではない。)。
【
図3A】本発明の方法の例の様々な工程を模式的に図示している。
【
図3B】本発明の方法の例の様々な工程を模式的に図示している。
【
図3C】本発明の方法の例の様々な工程を模式的に図示している。
【
図3D】本発明の方法の例の様々な工程を模式的に図示している。
【
図4】本発明の方法の第一の実施例に関して、接着促進剤をグラフトした後に行われたX線光電子分光法による分析による測定の結果を示している。
【
図5A】本発明の方法の第一の実施例で得られた複合材料の写真である。
【
図5B】本発明の方法の第一の実施例で得られた複合材料の写真である。
【
図5C】本発明の方法の第一の実施例で得られた複合材料の写真である。
【
図6A】本発明の方法の第二の実施例で得られた複合材料の写真である。
【
図6B】本発明の方法の第二の実施例で得られた複合材料の写真である。
【
図6C】本発明の方法の第二の実施例で得られた複合材料の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
最初に、セラミック又はカーボンスレッドなど、耐火性のスレッドから形成された繊維プリフォームが形成される。
【0024】
プリフォームは、例えば、「Nicalon」、「Hi-Nicalon」又は「Hi-Nicalon TypeS」の表記で、日本企業NGSによって供給される炭化ケイ素のスレッドから形成され得る。このプリフォームを形成するために使用できるカーボンスレッドは、例えば、Toray社によって、Torayca T300 3Kの名称で供給される。
【0025】
繊維プリフォームは、少なくとも1つのテキスタイル作業から得られる。繊維プリフォームは、取得されるべき部品の繊維強化材を構成することが意図されている。繊維プリフォームは、特に、多層又は三次元紡織によって取得され得る。
【0026】
「三次元紡織」又は「3D紡織」は、少なくともいくつかのある縦糸が、数個の横糸層上の横糸を結合する紡織の様式として理解されるべきである。縦糸と横糸の役割を逆にすることも本明細書において可能であり、同じく、特許請求の範囲に包含されるものとみなされる。
【0027】
繊維プリフォームは、例えば、マルチサテン織物を有し得る、すなわち、各層の基本的な織物は従来のサテン型の織物と等しいが、横糸の層を1つに結合している織物のある一定の点を有する横糸の数個の層を持つ三次元紡織によって得られる布地であり得る。変形として、繊維プリフォームは、インターロック織物を有し得る。「インターロック織物又は布地」は、縦糸の各層が横糸の数個の層を結合し、同じ縦糸の柱の全ての糸が織物の平面中で同じ動きを有する3D紡織された織物として理解されるべきである。繊維プリフォームを形成するために使用可能な多層紡織の様々な種類が、WO2006/136755に記載されている。
【0028】
二次元の布地又は一方向性の層など、まず、繊維状の生地を形成し、前記繊維状の生地を型の上でドレープ成形することにより繊維プリフォームを取得することも可能である。これらの生地は、繊維プリフォームを形成するために、例えばスレッドを縫い付け又は植え付けることによって、任意に、一緒に結合してもよい。
【0029】
次いで、プリフォームのスレッド上にコーティングが形成される。このコーティングは界面相であり得、又は繊維プリフォームを部分的に稠密化している1つ若しくは複数のマトリックス相を備えてもよい。コーティングは、炭素の、特に、PyCの、ホウ素がドープされた炭素(BC、ホウ素が原子比で5%~20%、残りが炭素である。)の、又は炭化ケイ素、窒化ホウ素(BN)、ケイ素がドープされた窒化ホウ素(BN(Si)、ケイ素が重量比で5%~40%、残りが窒化ホウ素である。)又は窒化ケイ素(Si3N4)などのセラミック材料のものであり得る。
【0030】
コーティングは、このように、単層又は複層の界面相によって形成され得る。その場合、界面相の表面は、接着促進剤のグラフトを可能にすることが意図される-OH基を有する。この界面相は、熱分解炭素、窒化ホウ素、ケイ素がドープされた窒化ホウ素又はホウ素がドープされた炭素の少なくとも一層を備え得る。
【0031】
ここで、界面相は、複合材料の脆化を緩和するという機能を有しており、これは、マトリックス中に伝搬された後に界面相に到達している全ての亀裂を逸らすことを促進し、前記亀裂によるスレッドの破損を予防し、又は遅延させる。
【0032】
界面相の厚さは、10nm~1000nm、例えば、10nm~100nmであり得る。界面相は、CVIによって、プリフォームのスレッド上に形成され得る。
【0033】
変形として、プリフォームの形成より前にスレッド上に化学蒸着を行い、次いで、このようにしてコートされたスレッドから出発してこのプリフォームを形成することによって、界面相を形成し得る。
【0034】
変形として、コーティングは、少なくとも1つの前段階マトリックス相と、この少なくとも1つの前段階マトリックス相とスレッドの間に介在する任意に設けてもよい界面相とを含み得る。その場合には、外側の、すなわち、プリフォームのスレッドから最も遠い前段階マトリックス相は、接着促進剤のグラフトを可能にすることが意図される-OH基をその表面上に有する。
【0035】
外側の前段階マトリックス相は、CVI、融解状態のケイ素の浸透(「溶解浸透」法)又はPIP技術によるなど、それ自体公知の様々な方法によって形成され得る。したがって、後者の場合には、接着促進剤は、PIPマトリックスの2つの連続するブロック間の接着を改善させることが可能であることに注目すべきである。外側の前段階マトリックス相は、セラミック又は炭素のものであり得る。外側の前段階マトリックス相は、炭素のもの、又はPyC、炭化ケイ素、窒化ホウ素又は窒化ケイ素のものであり得る。
【0036】
もちろん、接着促進剤を介してコーティングに接合されたPIPセラミックマトリックス相の形成を可能にするために、コーティングの形成後に、繊維プリフォームは多孔質の状態を保っている。ここで、
図3A~
図3Dに図解された、本発明の方法の例を用いて、この態様を説明する。
【0037】
コーティングの形成後に、接着促進剤10が、繊維プリフォームの残存する細孔中に導入される(
図3A参照)。接着促進剤10は、繊維プリフォームの細孔中に、液体状態で導入され得る。接着促進剤10は、繊維プリフォームの細孔中に注入され得る。導入された接着促進剤10は、-OH基を有するコーティング1の表面Sと接触する。この表面Sは、コーティング1の外側表面、すなわち、プリフォームを形成するスレッドから最も遠い表面に相当する。
【0038】
図解されている例では、モノマー状態において、促進剤10は、以下の一般式:G1-E-G2を有する。式中、基G1は塩素原子であり、鎖Eは、1個のケイ素原子を有するカルボシラン鎖である。ここでは、接着促進剤10は、クロロシランである。上述されているように、基G1及びG2について、及び鎖Eについて、いくつかの変形が可能である。
【0039】
図解されている例では、促進剤10は、モノマー状態で導入された。しかしながら、本発明者らは、促進剤10がオリゴマー状態で導入されているときも、本発明の範囲内になお属するものとする。
【0040】
基G1は、コーティング1への促進剤10のグラフトを可能とする。基G2は、促進剤がセラミック前駆体樹脂に接合できるようにし、したがって、最終的には、熱分解後に得られるセラミックマトリックス相へ接合できるようにする。
【0041】
促進剤10をコーティング1の表面S上にグラフトするために、第一の加熱が実施される。この第一の加熱によって、基G1に対する表面Sの-OH基の置換又は求核付加の反応を活性化し、これにより、促進剤10のグラフトを達成することが可能となる。図解された例では、グラフトは、求核置換反応によって達成される。グラフト後に、-OH基の酸素と先述した鎖Eとの間での共有結合の形成を通じて、コーティング1の表面Sにグラフトされた促進剤20が得られる(
図3B参照)。
【0042】
第一の加熱の間には、概ね一定の温度(±2℃)が課され得る。当業者の一般的な知識に基づき、当業者は、接着促進剤に応じて、第一の加熱の間に課されるべき温度の値を決定することが可能であろう。第一の加熱の間に課される温度は、典型的には、30℃~60℃であり得る。
【0043】
グラフト後に、グラフトされた促進剤20は、セラミック前駆体樹脂との反応が意図される少なくとも1つの突き出した基G2をなお有している(
図3B参照)。
【0044】
接着促進剤20がグラフトされたら、セラミック前駆体樹脂4が繊維プリフォームの細孔中に導入される(
図3C参照)。導入された樹脂4は、グラフトされた促進剤20と接触している。樹脂4は、繊維プリフォームの細孔中に液体状態で導入され得る。樹脂4は、繊維プリフォームの細孔中に注入され得る。この樹脂4はそれ自体公知であり、ポリシロキサン樹脂、ポリシラザン樹脂、ポリカルボシロキサン樹脂、ポリカルボシラン樹脂及び前記樹脂の混合物から選択され得る。
【0045】
樹脂4が導入されると、樹脂4はグラフトされた促進剤20に共有結合し得る。この結合は、グラフトされた促進剤20の基G2と樹脂4によって担持された反応性官能基との間の化学反応によって生成される。一例として、樹脂4の反応性官能基は、以下の群:-OH、Si-H又は炭素-炭素二重結合から選択され得る。
【0046】
有利には、基G2は、-OH、-NH2又は炭素-炭素二重結合から選択される。前記基G2の選択によって、グラフトされた促進剤20への樹脂4の接着のさらなる改善が可能となる。樹脂がポリシロキサン樹脂である場合には、G2は-OHであることが有利である。樹脂がポリシラザン樹脂である場合には、G2は-NH2であることが有利である。樹脂がポリシロキサン、ポリシラザン又はポリカルボシラン樹脂である場合には、G2は炭素-炭素二重結合であることが有利である。
【0047】
例として、Starfire(R)Systemsによって、「SMP-10」の表記で販売されているポリカルボシラン樹脂を使用することが可能である。このような樹脂は、Si-H官能基及び基G2と反応することができる炭素-炭素二重結合を有している。
【0048】
例として、Clariantによって、「HTT1800」又は「PSZ20」の表記で販売されているポリシラザン樹脂を使用することが可能である。このような樹脂は、Si-H官能基及び基G2と反応することができる炭素-炭素二重結合を有している。
【0049】
例として、Wackerによって、「H62C」の表記で販売されているポリシロキサン樹脂を使用することが可能である。このような樹脂は、Si-H官能基及び基G2と反応することができる炭素-炭素二重結合を有している。
【0050】
例として、Wackerによって、「MK」又は「MS100」の表記で販売されているポリシロキサン樹脂を使用することが可能である。このような樹脂は、Si-H官能基及び基G2と反応することができる-OH基を有している。
【0051】
例として、Starfire(R)Systemsによって、「SPR212」又は「SPR036」の表記で販売されているポリカルボシロキサン樹脂を使用することが可能である。このような樹脂は、Si-H官能基及び基G2と反応することができる炭素-炭素二重結合を有している。
【0052】
樹脂4にグラフトされた接着促進剤20の結合は、基G2の、及び樹脂4によって担持されている反応性官能基の性質に応じて、様々な化学反応によって実施され得る。
【0053】
例として、樹脂がSi-H官能基を有し、基G2が炭素-炭素二重結合である場合には、反応は、Si-C-C結合をもたらすヒドロシリル化であり得る。
【0054】
例として、樹脂がSi-H官能基を有し、基G2が-OHである場合には、反応は、Si-O-Si結合をもたらす縮合であり得る。
【0055】
例として、樹脂がSi-H官能基を有し、基G2が-NH2である場合には、反応は、Si-N-Si結合をもたらす縮合(アミノ基転移反応)であり得る。
【0056】
例として、樹脂が炭素-炭素二重結合を有し、基G2が炭素-炭素二重結合である場合には、反応は、C-C-C-C結合をもたらす付加であり得る。
【0057】
グラフトされた促進剤20への樹脂4の結合は、第二の加熱を行うことによって実施される。第二の加熱によって、樹脂4を重合すること及びグラフトされた促進剤20への樹脂4の結合の反応を活性化することがいずれも可能となる。当業者の一般的な知識に基づき、当業者は、使用される樹脂及びグラフトされた促進剤20に応じて、第二の加熱の間に課されるべき温度の値を決定することが可能であろう。典型的には、90℃~250℃の温度が、第二の加熱の間に課され得る。
【0058】
図3Dは、グラフトされた促進剤30への重合された樹脂40の結合を示している。この配置において、促進剤30は、重合された樹脂40とコーティング1との間の連結を形成する。次いで、繊維プリフォームの細孔中にセラミックマトリックス相を形成するために、重合された樹脂40を熱分解する。
【0059】
部品のマトリックスの形成は、セラミック前駆体樹脂の導入と熱分解のPIPサイクル数回を実施することを伴い得ることに注意すべきである。その場合には、セラミック前駆体樹脂の新たな各導入の前に、PIPによって得られたマトリックスのブロックに接着促進剤をグラフトし得る。この場合には、接着促進剤は、これらのブロック相互の接着を改善するために、PIPマトリックスの様々なブロックを連結する。
【0060】
取得されたら、このように製造された部品は、航空又は航空宇宙用途用の部品であり得る。該部品は、航空若しくは航空宇宙エンジンのガスタービン又は産業用タービンの高温部用の部品であり得る。該部品は、タービンエンジンの部品であり得る。該部品は、配電器の少なくとも一部分、ノズルの若しくは防熱コーティングの少なくとも一部分、燃焼室の壁、タービンリングの一区域、タービンエンジンの翼を構成し得る。
【実施例】
【0061】
[実施例1]
SiC前段階マトリックス相で予め稠密化されたSiCスレッドの繊維プリフォームの細孔中に接着促進剤を導入した。使用した接着促進剤は、アセトキシエチルジメチルクロロシランであった。
【0062】
第一の加熱を行うことによって、このようにして導入された接着促進剤をSiC前段階マトリックス相の表面にグラフトした。第一の加熱の間、40℃の温度を設定して、シクロヘキサン中で24時間、熱制御された反応器中において、対応する化学反応を実施した。この反応の間、0.6L/時間の窒素流速を設定した。
【0063】
X線光電子分光法(「XPS」分析)による分析によって、接着促進剤のグラフトを確認した。得られた結果が
図4に示されており、SiC前段階マトリックス相の表面上に、グラフトされた促進剤に相当する有機ケイ素種の存在を示している。
【0064】
促進剤がグラフトされたら、Wackerによって、「MK」の表記で販売されているポリシロキサン樹脂を繊維プリフォームの細孔中に導入した。
【0065】
次いで、導入された樹脂を重合し、グラフトされた接着促進剤に樹脂を結合するために、250℃で第二の加熱を行った。
図5Aは、ポリシロキサン樹脂の重合後及びその熱分解の前に得られた材料の写真である。ポリマーマトリックスとSiC前段階マトリックス相間の境界面よりもむしろ、ポリマーマトリックス内に優先的に伝播される亀裂「F」が存在することが見出される。このことは、このポリマーマトリックスのSiC前段階マトリックスへの強力な接着が存在すること、それ故、繊維強化材への強力な接着が存在することを証明する。この強力な接着は、第二の加熱の間に樹脂とグラフトされた促進剤との間に生じた結合によるものである。
【0066】
次いで、900℃で熱処理を加えることによるポリシロキサン樹脂の熱分解によって、セラミックマトリックス相が得られた。
図5B及び
図5Cは、この熱分解後に得られた材料の写真である。同様に、前段階マトリックス相と熱分解によって得られたマトリックス相間の境界面よりもむしろ、熱分解によって得られたマトリックス内に優先的な亀裂「F」の存在があることが見出される。これは、コーティングへの、及び基礎となる繊維強化材への、熱分解によって得られたマトリックス相の良好な接着を確認している。
【0067】
[実施例2]
SiC前段階マトリックス相で予め稠密化されたSiCスレッドの繊維プリフォームの細孔中に接着促進剤を導入した。使用した接着促進剤は、アリルジメチルクロロシランであった。
【0068】
第一の加熱を実施することによって、このようにして導入された接着促進剤をSiC前段階マトリックス相の表面にグラフトした。第一の加熱の間、40℃の温度を設定して、シクロヘキサン中で24時間、熱制御された反応器中において、対応する化学反応を実施した。この反応の間、0.6L/時間の窒素流速を設定した。
【0069】
実施例1と同様に、X線光電子分光法(「XPS」分析)によって、接着促進剤のグラフトを確認した。
【0070】
促進剤がグラフトされたら、Clariantによって、「PSZ 20」の表記で販売されているポリシラザン樹脂を繊維プリフォームの細孔中に導入した。
【0071】
次いで、導入された樹脂を重合し、グラフトされた接着促進剤に樹脂を結合するために、250℃で第二の加熱を行った。
図6Aは、ポリシラザン樹脂の重合後及びその熱分解の前に得られた材料の写真である。実施例1のように、亀裂「F」がポリマーマトリックス内に優先的に存在することが見出され、したがって、このポリマーマトリックスの良好な接着を証明している。
【0072】
次いで、900℃での熱処理を加えることによるポリシラザン樹脂の熱分解によって、セラミックマトリックス相が得られた。
図6B及び
図6Cは、この熱分解後に得られた材料の写真である。同じく、熱分解によって得られたマトリックス内への亀裂「F」の優先的な存在が認められる。
【0073】
「~」という表現は、その範囲の両端を含むものとして理解しなければならない。