(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】生物組織切断方法、生物組織切断装置及び生物組織切断用基板
(51)【国際特許分類】
G01N 1/04 20060101AFI20220509BHJP
G01N 1/36 20060101ALI20220509BHJP
G01N 1/28 20060101ALN20220509BHJP
【FI】
G01N1/04 X
G01N1/36
G01N1/28 J
(21)【出願番号】P 2020083999
(22)【出願日】2020-05-12
【審査請求日】2022-01-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520164736
【氏名又は名称】株式会社KBBM
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 正宏
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-526632(JP,A)
【文献】特開2000-266744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00 - 1/44
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレート上に生物組織を設ける工程と、
前記プレート上に前記生物組織及びその周囲を覆うゲル層を設ける工程と、
前記プレート上において切断用ブレードにより前記ゲル層と一緒に前記生物組織を切断する工程と、
を含むことを特徴とする生物組織切断方法。
【請求項2】
請求項1記載の生物組織切断方法において、
前記ゲル層を設ける工程は、
前記プレート上に前記生物組織を取り囲む枠を設ける工程と、
前記枠の中に流動性を有する材料を流し込む工程と、
前記枠の中に流し込まれた材料をゲル化させて前記ゲル層を形成する工程と、
を含む、
ことを特徴とする生物組織切断方法。
【請求項3】
請求項1記載の生物組織切断方法において、
前記生物組織は前記プレートに沿って広がった平坦な形態を有し、
前記ゲル層は、前記生物組織を覆う中央部分と、前記生物組織の周囲を覆う周囲部分と、を有し、
前記周囲部分が前記プレートに対して直接的又は間接的に密着している、
ことを特徴とする生物組織切断方法。
【請求項4】
請求項1記載の生物組織切断方法において、
前記切断する工程が繰り返し実行され、これにより前記生物組織が二次元キューブアレイに加工される、
ことを特徴とする生物組織切断方法。
【請求項5】
請求項1記載の生物組織切断方法において、
前記プレート上に柔軟性を有するベースシートが設けられ、前記ベースシート上に前記生物組織が設けられる、
ことを特徴とする生物組織切断方法。
【請求項6】
請求項1記載の生物組織切断方法において、
前記生物組織の切断後に前記ブレードを前記生物組織から引き上げる際に、前記生物組織の浮き上がりが押さえ部材により抑制される、
ことを特徴とする生物組織切断方法。
【請求項7】
請求項1記載の生物組織切断方法において、
前記プレートは水平姿勢を有し、
前記ブレードの垂直姿勢が維持されたまま、前記ブレードを垂直に降下させて、前記ブレードのエッジを前記プレートに突き当てることにより、前記生物組織が切断される、
ことを特徴とする生物組織切断方法。
【請求項8】
請求項1記載の生物組織切断方法を実施するための生物組織切断装置であって、
前記生物組織及びその周囲を覆う
前記ゲル層が設けられた
前記プレートを保持するステージと、
前記
ゲル層と一緒に前記生物組織を切断する
前記ブレードを備えたカッターと、
を含むことを特徴とする生物組織切断装置。
【請求項9】
請求項8記載の生物組織切断装置において、
前記プレートと前記生物組織との間に設けられ、前記ブレードのエッジが当たった際に変形する又は切断される材料で構成されたベースシートを含む、
ことを特徴とする生物組織切断装置。
【請求項10】
請求項8記載の生物組織切断装置において、
前記生物組織の切断後に前記ブレードを前記生物組織から引き上げる際に、前記生物組織の浮き上がりを抑制する押さえ部材を含む、
ことを特徴とする生物組織切断装置。
【請求項11】
請求項8記載の生物組織切断装置において、
前記ステージ上において前記プレートが水平姿勢を有し、
前記ブレードの垂直姿勢を維持しながら前記カッターに垂直運動を行わせる案内部材が設けられた、
ことを特徴とする生物組織切断装置。
【請求項12】
請求項8記載の生物組織切断装置において、
前記ブレードは第1水平方向に伸長するエッジを有し、
前記第1水平方向に直交する第2水平方向におけるブレード位置を変更するスライド機構が設けられた、
ことを特徴とする生物組織切断装置。
【請求項13】
請求項1記載の生物組織切断方法において、
前記プレートは、第1水平方向及び第2水平方向に広がった平面を有し、
前記平面上に前記生物組織及び前記ゲル層が設けられる、
ことを特徴とする生物組織切断方法。
【請求項14】
請求項1記載の生物組織切断方法において、
切断位置を順次変更しながら前記切断する工程が繰り返し実行され、それにより生じる切断線列のピッチは200~1000μmの範囲内にある、
ことを特徴とする生物組織切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物組織切断方法、生物組織切断装置及び生物組織切断用基板に関し、特に、生体から採取された柔らかい組織を細かく切断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
人体等の生物から取り出された生物組織、具体的には軟組織(以下、単に「組織」という。)に対して、培養、処理、試験等が実施される。組織の培養法として、例えば、CTOS(Cancer tissue-originated Spheroid)法が挙げられる。組織の処理として、例えば、酵素処理が挙げられる。組織の試験として、例えば、薬剤試験が挙げられる。組織の培養、処理、試験等に先だって、組織が切断され、これにより組織が複数の小片又は複数の小塊に加工される。
【0003】
組織は、一般に、非常に柔らかく、それに対して外力が及ぶと、組織は容易に変形してしまう。それ故、組織を細かく、とりわけ均等に、切断することは容易ではない。メス及びピンセットを用いて手作業で組織を細かく切断するならば、細かさの程度に限界があると同時に、組織において無視し得ない程度の挫滅が生じる。
【0004】
従来、組織を自動的に切断する装置が実用化されているが、そのような従来装置において、組織を細かく(例えば1mm以下の厚みで)切断することは非常に困難である。また、従来装置では、組織を段階的に切断することはできない。例えば、ブロック状の組織の切断により得られたシートを更に細かく切断することはできない。
【0005】
なお、特許文献1には、切断対象物をスライスする生物組織切断装置が開示されている。切断対象物は、組織及びそれを包囲するアガロース(agarose)からなる円柱状の複合体である。切断対象物の端面は垂直面を構成しており、その端面は水槽内に露出している。この装置を用いて組織を段階的に細かく切断していくことはできず、とりわけ、組織を二次元に切断することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の目的は、生物組織を細かく切断できる技術を実現することにある。あるいは、本開示の目的は、生物組織の挫滅を防止又は軽減しつつ生物組織を切断できる技術を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る生物組織切断方法は、プレート上に生物組織を設ける工程と、前記プレート上に前記生物組織及びその周囲を覆うゲル層を設ける工程と、前記プレート上において切断用ブレードにより前記ゲル層と一緒に前記生物組織を切断する工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0009】
本開示に係る生物組織切断装置は、生物組織及びその周囲を覆うカバー層が設けられたプレートを保持するステージと、前記カバー層と一緒に前記生物組織を切断するブレードを備えたカッターと、を含むことを特徴とするものである。
【0010】
本開示に係る生物組織切断用基板は、プレートと、前記プレートに設けられ切断対象となる生物組織が載せられるベースシートであって切断用ブレードのエッジが当たった際に変形する又は切断される材料で構成されたベースシートと、を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、生物組織を細かく切断できる。あるいは、本開示によれば、生物組織の挫滅を防止又は軽減しつつ生物組織を切断できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係る生物組織切断装置を示す斜視図である。
【
図2】組織包埋体を載せたプレートを示す図である。
【
図3】ステージ上にサンプルセットが保持された状態を示す図である。
【
図4】第1実施形態に係る生物組織切断装置を示す側面図である。
【
図5】キューブアレイ作製方法の一例を示す図である。
【
図7】実施形態に係る生物組織切断方法を示すフローチャートである。
【
図8】シャーレ内へのプレートの配置を示す図である。
【
図9】プレート上へのベースシート及び枠の配置を示す図である。
【
図10】切断工程の詳細を示すフローチャートである。
【
図12】キューブアレイ作製方法の他の例を示す図である。
【
図13】第2実施形態に係る生物組織切断装置を示す模式図である。
【
図17】生物組織切断方法の第1変形例を示す図である。
【
図18】生物組織切断方法の第2変形例を示す図である。
【
図20】押さえ部材を利用した生物組織切断方法の第1例を示す斜視図である。
【
図21】押さえ部材を利用した生物組織切断方法の第1例を示す断面図である。
【
図22】押さえ部材を利用した生物組織切断方法の第2例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る生物組織切断方法は、準備工程、及び、切断工程を含む。準備工程は、プレート上に生物組織を設ける工程、及び、プレート上に生物組織及びその周囲を覆うゲル層を設ける工程、を含む。切断工程では、プレート上において切断用ブレードによりゲル層と一緒に生物組織が切断される。
【0015】
上記方法によれば、プレート上において、切断対象となった生物組織それ全体がゲル層により包み込まれる。ゲル層はカバー層として機能する。ゲル層により、生物組織の変形及び移動が抑制される。生物組織及びゲル層を含む組織包埋体に対して、ブレードを押し当てることにより、ゲル層と共に生物組織が切断される。通常、組織包埋体は、生物組織よりも潰れ難く、あるいは、生物組織よりも良好な形態保持性を有する。そのような組織包埋体を切断対象とすることにより、従来に比べて、生物組織をより細かく切断することが可能となる。その際において、生物組織の挫滅を回避又は軽減できる。また、上記構成によれば、プレート上に生物組織が載せられているので、生物組織を段階的に細かく均等に切断していくことも容易である。
【0016】
実施形態において、プレートは、第1水平方向及び第2水平方向に広がった平面(載置面)を有する部材である。プレートは、基本的に、ブレードが当たっても破断又は変形しない硬質の材料により構成される。実施形態において、ゲル層は、生物組織よりも良好な形態保持性を発揮するものであり、それは生物組織よりも切断し易いものである。透明性を有するゲル層を用いれば、ゲル層を介して、外部から生物組織を視認し得る。切断後に生じた個々の小片又は小塊からゲルが除去されてもよいが、ゲルの除去が省略されてもよい。
【0017】
実施形態において、ゲル層を設ける工程は、プレート上に生物組織を取り囲む枠を設ける工程と、枠の中に流動性を有する材料を流し込む工程と、枠の中に流し込まれた材料をゲル化させてゲル層を形成する工程と、を含む。それらの工程によれば、材料の流し込みにより、ゲル層が生物組織に自然に密着する。換言すれば、生物組織とゲル層とが自然に一体化する。また、流し込みにより、ゲル層がプレートに対して直接的又は間接的に密着する。これにより、ゲル層の変形抑制作用及び移動抑制作用をより高められる。枠を切断可能な材料(例えば、ゲル材料)で構成してもよい。その場合、枠の中に流動性を有する材料を流し込んだ後に、枠を除去する必要がなくなる。
【0018】
実施形態においては、生物組織の切断後にブレードを生物組織から引き上げる際に、生物組織の浮き上がりが押さえ部材により抑制される。この構成によれば、生物組織がブレードと一緒に引き上げられてしまうことを防止できる。押さえ部材の自重により、押さえ作用が発揮されてもよい。押さえ部材が機械的に保持又は駆動されてもよい。ブレードの片側に押さえ部材が設けられてもよいし、ブレードの両側に押さえ部材が設けられてもよい。
【0019】
実施形態においては、生物組織はプレートに沿って広がった平坦な形態を有する。ゲル層は、生物組織を覆う中央部分と、生物組織の周囲を覆う周囲部分と、を有する。周囲部分がプレートに対して直接的又は間接的に密着する。実施形態においては、切断工程が繰り返し実行される。これにより生物組織が二次元キューブアレイに加工される。プレート上の生物組織は平坦な形態を有し、且つ、その変形及び移動がゲル層によって抑制されているので、生物組織を細かく切断することが容易となる。特に、生物組織を段階的に細かく切断していくことが容易となる。
【0020】
実施形態においては、プレート上に柔軟性を有するベースシートが設けられ、ベースシート上に生物組織が設けられる。ベースシートは、プレートよりも柔らかい材料、例えば、ブレードのエッジの当接により変形する材料又はその当接により切断される材料により構成される。上記構成によれば、プレートが硬質の材料で構成されていても、生物組織に対してブレードを容易に通過させることができるので、生物組織の不完全な切断を回避し得る。プレートそれ自体を一定の柔軟性を有する材料で構成する変形例も考えられる。その場合、プレートは、料理で使用するまな板のように機能する。
【0021】
実施形態においては、プレートは水平姿勢を有する。ブレードの垂直姿勢が維持されたまま、ブレードを垂直に降下させて、ブレードのエッジをプレートの上面に突き当てることにより、生物組織が切断される。実施形態においては、ブレードとして、先鋭なエッジを有する非常に薄い刃が利用される。
【0022】
実施形態に係る生物組織切断装置は、ステージ及びカッターを有する。ステージは、生物組織及びその周囲を覆うカバー層が設けられたプレートを保持する部材である。カッターは、カバー層と一緒に生物組織を切断するブレードを備える。
【0023】
上記構成によれば、カバー層によって生物組織の変形及び移動が抑制される。そのような状態において、生物組織がブレードにより切断される。よって、生物組織を薄く又は細かく切断することが容易となる。また、切断時における生物組織の挫滅を効果的に防止又は軽減できる。プレート上に生物組織が載せられているので、生物組織を段階的に細かく切断していくことも可能である。また、プレートに対するブレードの向きの変更により、切断方向を容易に変更できる。ブレードを備えるカッターの移動がマニュアルで行われてもよいし、その移動が自動的に行われてもよい。カッターに複数のブレードを設けてもよい。
【0024】
プレート上に生物組織を取り囲む枠を設け、枠の内部に材料を流し込み、その材料を硬化又はゲル化させることにより、カバー層が形成されてもよい。カバー層を構成する材料として、ゲル化材料、樹脂、その他が挙げられる。生物組織を収容する凹部を有するカバー層が用いられてもよい。
【0025】
実施形態においては、プレートと生物組織との間にベースシートが設けられる。ベースシートは、ブレードのエッジが当たった際に変形する又は切断される材料で構成される。この構成によれば、ブレードのエッジが生物組織を完全に通過することになるので、生物組織の不完全な切断が防止される。
【0026】
実施形態においては、生物組織の切断後にブレードを生物組織から引き上げる際に、生物組織の浮き上がりを抑制する押さえ部材が設けられる。この構成によれば、ブレードと一緒に生物組織の一部(及びカバー層の一部)が引き上げられてしまうことを防止できる。生物組織における複数の切断片の並びを維持し易くなる。
【0027】
実施形態においては、ステージ上においてプレートが水平姿勢を有する。ブレードの垂直姿勢を維持しながらカッターに垂直運動を行わせる案内部材が設けられる。実施形態においては、ブレードは第1水平方向に伸長するエッジを有する。第1水平方向に直交する第2水平方向におけるブレード位置を変更するスライド機構が設けられる。この構成によれば、均一なサイズを有する複数の帯状片又は複数のキューブを作製し易くなる。
【0028】
実施形態に係る生物組織切断用基板は、プレートと、プレートに設けられたベースシートと、を含む。ベースシートは、切断対象となる生物組織が載せられる部材である。ベースシートは、切断用ブレードのエッジが当たった際に変形する又は切断される材料で構成される。ベースシートは生物組織の完全切断を担保するための部材である。ベースシートがプレートに事前に配置されていれば、生物組織の切断に先立ってプレート上にベースシートを配置する作業が不要となる。ベースシートがプレートに接着されていれば、生物組織の切断後において組織小片に付着したシート小片を取り除く作業が不要となる。
【0029】
実施形態に係る生物組織切断用基板は、プレートに設けられ、生物組織を取り囲む枠を含む。枠は、切断用ブレードによって切断され得る材料で構成される。この構成によれば、枠の中に流動性を有する材料を流し込んでそれを硬化させた後に、枠を取り外す必要がなくなる。
【0030】
(2)実施形態の詳細
図1には、第1実施形態に係る生物組織切断装置が模式的に示されている。生物組織切断装置は、生物から採取された組織(軟組織)を切断する装置であり、特に、その組織を後述するキューブアレイに加工する装置である。加工対象となる組織は、例えば、がん細胞を含む腫瘍、正常な組織、等である。もちろん、それは例示に過ぎないものである。ヒト以外の動物の組織が切断対象となってもよい。
【0031】
第1実施形態に係る生物組織切断装置は、手作業による生物組織の切断を支援する装置である。以下に具体的に説明する。なお、
図1において、X方向が第1水平方向であり、Y方向が第2水平方向であり、Z方向が垂直方向(鉛直方向)である。
【0032】
図1において、生物組織切断装置10は、大別して、切断機構11及びサンプルセット12により構成される。サンプルセット12は、プレート14、組織包埋体15等により構成される。プレート14は、透明な硬質のガラス平板であり、具体的には、それはスライドグラスである。プレート14の上面及び下面は、それぞれ、X方向及びY方向に広がった平面である。プレート14は、化学的に安定で、且つ、組織切断時においてブレード43のエッジが突き当った際に破断又は変形しない材料で構成される。上から見て、プレート14の形状は矩形、具体的には長方形である。円形のプレートが利用されてもよい。樹脂、金属等からなるプレートが利用されてもよい。なお、ブレード43のエッジが突き当った際に表層において変形が生じる材料でプレート14を構成することも考えられる。
【0033】
組織包埋体15は、プレート14の上面に載せられた組織16と、組織16及びその周囲を覆うゲル層18により構成される。組織16は、プレート14の上面に沿って広がっており、具体的には、概ね均一な厚みを有し、平坦な又はシート状の形態を有している。上から見て、組織16は矩形又は円形の形態を有する。シート状の組織16の作製に際してスライサー等が利用されてもよい。組織16は、非常に軟らかく、それは外力により容易に潰れたり変形したりしてしまうものである。
【0034】
ゲル層18は、組織16それ全体を覆い、つまり、組織16それ全体を包み込む、カバー層として機能する。後述するように、ゲル層18は、Z方向から見て、組織16の上面を覆う中央部分及び組織16の周囲を覆う周辺部分からなる。ゲル層18の中央部分は、組織16の上面に密着しており、ゲル層18の周辺部分は、プレート14の上面に密着している。ゲル層18における中央部分には、後述する流し込みの結果として生じた下向きの凹部が存在しており、その凹部の中に組織16が埋め込まれている。
【0035】
ゲル層18と組織16が一体化されて複合体としての組織包埋体15が構成されている。組織包埋体15は、組織16よりも変形し難く、換言すれば、組織16よりも良好な形態保持性を有する。ブレード43を用いた組織16の切断過程において、ゲル層18は、組織16の潰れ及び移動を抑制する作用を発揮する。
【0036】
ゲル層18は、融点以下の温度でゲル化する特定の材料により構成される。具体的には、特定の材料は、加温により流動性を有し又は液体になり、冷却によりゲル化する材料である。例えば、加温時の温度は37℃以上である。例えば、冷却時の温度は4度以上10度以下である。本願明細書に挙げる各数値はいずれも例示である。
【0037】
特定の材料は、具体的には、ブタ皮下組織由来のゼラチンを主成分とする材料である。他のゼラチン、アガロース、等のゲル化材料を利用することも考えられる。ゲル層18に代えて、ゲル化材料以外の材料で構成されたカバー層を設けてもよい。例えば、そのような材料として、ブレードにより切断可能な樹脂が挙げられる。ゲル層18は透明性を有し、ゲル層を介して、内部に存在する組織16を視認し得る。
【0038】
切断機構11は、ベース20、スライド機構22、L型ブラケット28、ホルダ34、カッター38、等を有する。L型ブラケット28は、水平板28A及び垂直板28Bからなる。
図1においては、位置決め機構の図示が省略されている。
【0039】
ベース20は、X方向及びY方向に広がる矩形の台座である。ベース20の一方端部がステージ20Aを構成している。ステージ20A上には、シート状のホルダ34が配置されている。ベース20の他方端部にスライド機構22が搭載されている。スライド機構22は、図示の構成例において、下部24及び上部26により構成される。下部24は、ベース20に固定されており、上部26は水平板28Aに固定されている。下部24に対して上部26が相対的にスライド運動する。その運動方向はX方向である。下部24と上部26に跨って、両者を相対的にスライド運動させる機構が設けられているが、
図1においては、その機構は示されていない。その機構は、例えば、複数のレール、複数のスライダ、ラック、ピニオン等を含む。
【0040】
ベース20及び下部24により固定機構30が構成されており、上部26及びL型ブラケット28により可動機構32が構成されている。可動機構32のスライド運動が
図1においてX1で示されている。可動機構32のスライド位置の調整により、垂直板28BのX方向の位置が定められる。垂直板28Bは、垂直面を有し、そこには低摩擦フィルム46が貼付されている。低摩擦フィルム46の表面が案内面として機能する。低摩擦フィルム46は、例えば、フッ素樹脂であるポリテトラフルオロエチレンにより構成される。その材料の摩擦係数は非常に小さい。
【0041】
カッター38は、図示の構成例において、ブレード43、及び、2つのプレート40,42により構成される。ブレード43の下端がエッジであり、それによって組織包埋体15が切断される。エッジはY方向に平行な直線に相当する。ブレード43として、フェザー社製ハイ・ステンレス(品番:FH-10)が用いられてもよい。その製品の厚みは0.1mmであり、それはステンレス鋼により構成される。ブレード43の表面には、必要に応じて、コーティングが施される。上記製品の表面には、プラチナ合金及び樹脂のコーティングがなされている。
【0042】
2つのプレート40,42により、ブレード43が挟持される。2つのプレート40,42は、例えば、4本のねじにより相互に締結されている。2つのプレート40,42は、樹脂、金属その他の材料により構成され得る。
【0043】
図示の例では、プレート42の背面42Aが低摩擦フィルム46の前面に密着している。その状態では、カッター38が垂直姿勢となり、つまり、ブレード43が垂直姿勢となる。カッター38の運動時に、低摩擦フィルム46の前面が案内面として機能する。その前面に対してプレート42の背面42Aが完全に密着するように、しかもエッジが水平に維持されるように、カッター38の下降運動及び上昇運動がマニュアルで実施される。それが
図1においてZ1で示されている。
【0044】
ステージ20Aは、図示の例において、水平台であり、そこにはホルダ34が配置されている。ホルダ34は、開口36を備えるシート状の部材である。例えば、ホルダ34は、樹脂で構成される。開口36は、縦溝36X及び横溝36Yを合体させた十字形態を有する。縦溝36X及び横溝36Yは、それぞれ、プレート14を収容する形態を有する。縦溝36X内にサンプルセット12を配置した場合、プレート14の長手方向がX方向に対して平行になり、プレート14の短手方向がY方向に対して平行になる。横溝36Y内にサンプルセット12を配置した場合、プレート14の長手方向がY方向に対して平行になり、プレート14の短手方向がX方向に対して平行になる。ホルダ34の厚みは、サンプルセット15の厚みよりも薄く、より具体的には、プレート14の厚み以下である。
【0045】
ホルダ34によりサンプルセット12が保持され、サンプルセット12が所定の姿勢となる。なお、サンプルセット12の保持をより確実にするための部材が設けられているが、
図1においては、その図示が省略されている。ホルダ34に代わる他の保持機構又は保持手段を設けてもよい。
【0046】
図2には、プレート14上に載せられた組織包埋体15が示されている。(A)は、プレート14の上面を示しており、(B)は、プレート14の断面を示している。x方向はプレート14の長手方向であり、y方向はプレート14の短手方向である。z方向はプレート14の厚み方向である。
【0047】
プレート14の上面には、矩形のベースシート44が配置されている。それは柔軟性を有する樹脂シートにより構成され、例えば、それはシリコーンシートである。ベースシート44は、組織16と同じかそれよりも大きなサイズを有する。組織16は、上から見て、例えば、10mm×10mmのサイズを有し(符号46を参照)、その厚みは、例えば、1~3mmの範囲内である(符号54を参照)。ベースシート44は、上から見て、例えば、10m×10mmのサイズ又はそれ以上のサイズを有し(符号48を参照)、その厚みは、例えば、0.5mmである(符号52を参照)。ゲル層18の直径は、例えば、25mmであり(符号50を参照)、その厚みは、例えば、4mmである(符号56を参照)。
【0048】
ゲル層18は、組織16を覆う中央部分18Aと、組織16の周囲を覆う周囲部分18Bと、からなる。既に説明したように、中央部分18Aの下側に、流し込みの結果として生じた下側に開いた凹部が存在し、その凹部の中に組織16が埋め込まれている。流動性をもった材料、具体的にはゲル化する材料の流し込みにより、凹部の内面が組織16の外面に密着しており、これによりゲル層18と組織16とが一体化されている。
【0049】
周囲部分18Bは、ベースシート44において組織16からその外側にはみ出している部分に密着しており、また、プレート14の上面においてベースシート44の外側に存在している部分に密着している。ベースシート44それ全体がゲル層18により覆われている。ゲル層18の形態を円板ではなく平板としてもよい。
【0050】
図3には、横溝36Y内に配置されたサンプルセット12が示されている。開口36は、縦溝36X及び横溝36Yを合体させた形状を有する。サンプルセット12における一方端部がベルト60によって抑え込まれている。ベルト60の両端は、一対の固定具62,64によりホルダ34に固定されている。縦溝36Xにサンプルセット12aが配置された場合にも、その一方端部がベルト60aによって抑え込まれる。符号62はブレードにより形成される切断線を示している。
【0051】
図4には、切断機構11に含まれる位置決め機構66が示されている。位置決め機構66は、下部24と上部26の間に跨って設けられており、下部24に対する上部26のX方向の位置を可変するための機構である。位置決め機構66は、図示の例において、筒部材68、台座70、つまみ72、軸74、台座76等を有する。台座70は下部24に固定されている。筒部材68は台座70に固定されている。筒部材68の中を軸74が回転可能に挿通している。軸74の端部につまみ72が連結されている。軸74の先端は台座76に回転可能に連結されている。軸74の外面にはねじ構造が設けられ、筒部材68の内面にもねじ構造が設けられている。2つのねじ構造がかみ合っている。
【0052】
つまみ72を回転させると、軸74が筒部材68に対して相対的に運動する。これにより下部24に対して上部26がスライド運動する。例えば、0.1mm、0.25mm、0.5mmピッチ、0.75mmピッチ、又は、1.0mmピッチで、下部24に対して上部26を段階的にスライド運動させ、各運動位置においてカッター38を垂直に引き下ろすことにより、組織包埋体15がブレード43により切断される。
【0053】
その際においては、カッター38の背面が垂直板28Bの前面に密着する状態が維持されつつ、カッター38が下方へ引き下ろされる。すなわち、ブレード43の垂直姿勢が維持されつつ、ブレード43が垂直に引き下ろされる。一対のプレート40,42は複数の締結部材78によって連結されている。図示された位置決め機構66以外の位置決め機構が設けられてもよい。X方向及びY方向の両方向にスライド運動を生じさせる機構を設けてもよい。
【0054】
図5には、二次元キューブアレイ作製方法が示されている。上述したように、組織16及びゲル層18により組織包埋体15が構成されている。ゲル層18は、組織16の外側を覆う周囲部分80を有する。周囲部分80は、図示の例では、ベースシート44のはみ出し部分を覆う内側周囲部分80Aと、ベースシート44のはみ出し部分の周囲を覆う外側周囲部分80Bと、に大別される。内側周囲部分80Aは、プレート14の上面に対してベースシート44を介して間接的に密着している。外側周囲部分80Bは、プレート14の上面に直接的に密着している。
【0055】
上から見て、ベースシート44のサイズを組織16のサイズに合わせれば、プレート14の上面に対してゲル層18が直接的に接する面積を増大させることが可能となる。ベースシート44のサイズを組織16のサイズよりも小さくした場合、組織16の一部において切断不良が生じ易くなる。よって、ベースシート44のサイズを、組織16のサイズと同じにするか、組織16のサイズよりも若干大きなサイズとすることが望まれる。
【0056】
切断線列82は、y方向に並ぶ複数の切断線82aからなる。プレート14の長手方向がブレードと平行となるように、サンプルセットを配置した上で、ブレード位置を順次変更しながら繰り返し切断を行うことにより、切断線列82が作製される。その際のピッチがΔyである。
【0057】
切断線列84は、x方向に並ぶ複数の切断線84aからなる。プレート14の短手方向がブレードと平行となるように、サンプルセットを配置した上で、ブレード位置を順次変更しながら繰り返し切断を行うことにより、切断線列84が作製される。その際のピッチがΔxである。Δy及びΔxは、例えば、200~1000μmの範囲内にあり、実施形態においては、300μmである。
【0058】
上から見て、各切断線82a,84aは、組織包埋体15(すなわちゲル層18)を完全に超えた長さを有している。組織16が完全に切断され、且つ、ゲル層18内で周辺部分の一部が切断されないように、各切断線82a,84aを形成してもよい。
【0059】
切断線列82及び切断線列84を形成した結果、組織16が二次元キューブアレイ(二次元マイクロキューブアレイといってもよい)に加工される。個々の切断に際しては、ブレードのエッジがベースシート44まで到達し、そこに突き当たる。ベースシート44は、その際に変形し、あるいは、その際に切断される。ブレードのエッジがプレート14の上面に完全に突き当たるまでブレードを下降させることにより、ベースシート44から複数の小片が生じる。通常、それらの小片が複数のキューブから事後的に除去される。
【0060】
実施形態においては、プレート14の上面に沿って広がる平坦な組織包埋体15がプレート14上に設けられており、そのような組織包埋体15が切断対象とされる。組織包埋体15は、剥き出しの組織よりも、良好な形態安定性を有する。よって、組織包埋体15を段階的に細かく切断していくことが可能である。すなわち、切断線列82,84の一方を形成した上で、それに続いて他方を形成することが可能である。その際において、ゲル層18が複数の小片の移動や変形を制限する作用を発揮するので、それらの配列や形態が大きく崩れることを防止できる。
【0061】
図6には、キューブアレイ89を含むフラグメントアレイ86が示されている。フラグメントアレイ86は、組織包埋体から作製されるものであり、二次元配列された複数のフラグメント88により構成される。各フラグメント88は、生物組織の一部分であるキューブ16aと、ゲル層の一部分であるゲル部分18aと、により構成される。二次元配列された複数のキューブ16aによりキューブアレイ89が構成される。各フラグメント88において、その幅94,96は、例えば500μmである。その高さ90は、例えば4mmである。キューブ16aの高さは、例えば2.0mmである。一方、ベースシートが二次元的に切断されて複数の小片44aが生じる。
【0062】
図7には、実施形態に係る生物組織切断方法がフローチャートとして示されている。S10では、ゼラチンが作製される。56℃の加温下で、滅菌リン酸緩衝液にゼラチン粉末(15w%)を添加し、ゼラチン粉末を溶解させる。これにより作製されたゼラチン液が、1mlずつ複数の滅菌チューブに収容される。それらの滅菌チューブが冷蔵庫内に保管される。冷却過程において、各滅菌チューブ内でゼラチン液がゲル化する。ゼラチン粉末として、例えば、ブタ皮下ゼラチン粉末(シグマ社製,Gelatin Porcine,Type A,G1890)が用いられる。
【0063】
一方、S12では、10×10×10mmのサイズを有する組織ブロックがスライサーにより繰り返しスライスされ、これにより複数の組織シートが作製される。各組織シートの厚みは、例えば、1.0~3.0mmの範囲内である。もっと、薄い組織シートが作製されてもよい。複数の組織シートは、培養液中において、冷却された状態で保管される。実施形態に係る構成を利用して複数の組織シートが作製されてもよい。
【0064】
S14では、例えば、
図8に示すように、透明なシャーレ102内に、スライドグラス(プレート)106が配置される。その場合、目印104を有するスライドグラス100の上にシャーレ102を置き、その後、スライドグラス100にスライドグラス106が完全に重なるように、スライドグラス106が配置される。
【0065】
図7に示すS16では、
図9に示すように、スライドグラス106の上に枠108が配置される。枠108は円形の型枠であり、リングである。その際、目印104が枠108の中心に一致するように、枠108が配置される。枠108の厚みは例えば2mmである。その厚みがゲル層の厚みを規定する。ゲル層の厚みを可変したい場合、目盛りを有する枠を利用してもよい。枠108の内径は例えば25mmである。
【0066】
図7に示すS18では、
図9に示すように、スライドグラス106の上にベースシート44が配置される。その際、目印104がベースシート44の中心に一致するように、ベースシート44が配置される。枠108の配置の前に、ベースシート44が配置されてもよい。
【0067】
図7に示すS20では、枠の中、且つ、ベースシートの上に、S12で作製された組織シートが配置される。S21では、枠の中にゼラチン液が流し込まれる。具体的には、冷蔵庫から必要数のチューブ(例えば2本のチューブ)が取り出され、それらが56℃の加温下に置かれる。これにより、ゼラチンゲルがゼラチン液に戻される。その後、ゼラチン液の温度が42℃に変更される。その温度は、組織に悪影響を与えない温度である。ゼラチン液が枠の中に流し込まれる。流し込みは、プレートを例えば4℃に冷却した状態で行われる。その冷却が省略されてもよい。
【0068】
その後、S22では、シャーレが冷蔵庫内に置かれる。庫内温度は例えば4℃である。冷却に伴ってゼラチン液がゲル化し、ゲル層つまり組織包埋体が形成される。ゲル化の後に、スライドグラス上の枠が取り除かれる。
【0069】
S24では、組織包埋体の切断が繰り返され、キューブアレイが作製される。その詳細については後述する。切断過程は、組織包埋体を冷却した状態で実施される。冷却温度は例えば4℃である。組織包埋体の冷却が省略されてもよい。
【0070】
S26では、作製されたキューブアレイに対して後処理が適用される。後処理には、ベースシートから生じた複数のベースシート小片の除去、ゲル層から生じた複数のゲルの除去、等が含まれる。それらの処理が省略されてもよい。例えば、個々のキューブに対して酵素処理が適用される場合にはゲルの除去を省略し得る。
【0071】
図10には、
図7に示したS24の詳細な内容が示されている。S30では、ステージ上に第1姿勢を有するサンプルセットが配置される。すなわち、y方向(スライドグラスの短手方向)がブレードに平行になるようにサンプルセットが配置される。S32では、x方向におけるブレード位置(切断位置)が初期位置x1に位置決められる。S34ではカッターの垂直下降により組織包埋体が切断される。その後、カッターは垂直に引き上げられる。S36では、ブレード位置が最終位置x2を超えたか否かが判断され、超えていない場合には、S36においてブレード位置がx方向にΔxだけシフトされる。その後、S34以降が再び実行される。S34の繰り返し実行により、y方向に平行な複数の切断線が形成される。
【0072】
S37では、ステージ上にサンプルセットが第2姿勢で配置される。すなわち、x方向(スライドグラスの長手方向)がブレードに平行になるようにサンプルセットが配置される。S38では、y方向におけるブレード位置(切断位置)が初期位置y1に位置決められる。S40ではカッターの垂直下降により組織包埋体が切断される。その後、カッターは垂直に引き上げられる。S42では、ブレード位置が最終位置y2を超えたか否かが判断され、超えていない場合には、S44においてブレード位置がy方向にΔyだけシフトされる。その後、S40以降が再び実行される。S40の繰り返し実行により、x方向に平行な複数の切断線が形成される。以上の結果、1枚の組織シートから二次元キューブアレイが作製される。Δx及びΔyとして所望の値を設定し得る。
【0073】
図11には、カッターの変形例が示されている。カッター110は、平行に並んだ4つのブレードからなるブレード列112を有する。複数のブレードは、複数のプレートからなるブロック114によって保持されている。カッター110に、より多くのブレードを設けてもよい。マトリック形態を有するブレード体をカッターに設けてもよい。
【0074】
図12には、キューブアレイ作製方法の変形例が示されている。プレート14上に組織包埋体15が載せられている。切断線マトリックス116は、x方向に平行な複数の切断線からなる切断線列と、y方向に平行な複数の切断線からなる切断線列と、により構成される。切断線マトリックス116の形成によりキューブアレイ117が形成される。切断線マトリックス116は、組織包埋体15中の局所的領域に生じており、それ全体には及んでいない。同様に、切断線マトリックス116は、ベースシート44において周縁部分を除いた部分に生じており、周縁部分には及んでいない。なお、x方向に平行な複数の切断線の一方端部をx方向に延伸してもよく、y方向に平行な複数の切断線の一方端部をy方向に延伸してもよい。すなわち、組織包埋体15それ全体を横切る切断が行われないように、切断線マトリックス116を構成してもよい。
【0075】
図示の例では、組織の全体は切断されているが、ベースシート44の全体は切断されておらず、枠状の未切断部分が生じている。ゲル層にも比較的大きな枠状の未切断部分が生じている。これにより、切断過程の進行に伴う、ゲル層の組織抑制作用の低下が軽減されている。また、切断後において、ベースシート44がプレート14上に残留し易くなっている。上記で説明した以外のキューブアレイ作製方法が採用されてもよい。
【0076】
図13には、第2実施形態に係る生物組織切断装置が模式的に示されている。図示された生物組織切断装置は、キューブアレイを自動的に作製する装置である。生物組織切断装置は、切断機構120を有する。切断機構120の動作は、制御部134により制御される。制御部134は、プログラムを実行するプロセッサを有する。
【0077】
XYステージ122上に旋回ステージ124が搭載されている。旋回ステージ124の水平方向の位置がXYステージ122により定められる。旋回ステージ124上にサンプルセット12が配置されている。旋回ステージ124によりサンプルセット12の姿勢(回転角度)が変更される。昇降機構126はカッター128を保持しており、それを昇降させる。カッター128の昇降運動がZ1で示されている。カッター128が有するブレード129により、基板上の組織包埋体が切断される。組織包埋体を静止画像又は動画像として撮影するカメラ136が設けられている。
【0078】
前処理部130は、組織ブロックから複数の組織シートを自動的に作製する。また、前処理部130は、組織シートをプレート上に載せた上で組織包埋体を自動的に作製する。これにより作製されたサンプルセット12が搬送機構132により旋回ステージ124上に移送される。切断工程の繰り返し後、キューブアレイを含むサンプルセット12が搬送機構132により後処理部131へ移送される。後処理部131は、ゲル除去、ベースシート小片の除去、等を行う機能を有する。後処理部において、個々のキューブが培養液中に浸漬され、あるいは、個々のキューブに対して酵素処理が適用されもよい。
【0079】
プレート上にベースシートを予め接着することにより組織切断用基板を製作し得る。
図14には、そのような基板の第1例が示されている。(A)は基板の上面を示しており、(B)は基板の断面を示している。基板は、プレート140とそれに接着されたベースシート142により構成される。ベースシート142は、上から見て円形を有する。プレート140は、ブレードのエッジが当たっても切断せず変形もしない硬質の材料で構成され、一方、ベースシート142は、ブレードのエッジが当たった際に潰れ変形し又は切断される柔らかい材料で構成される。
【0080】
図15には、基板の第2例が示されている。(A)は基板の上面を示しており、(B)は基板の断面を示している。基板は、プレート140とそれに接着されたベースシート144により構成されている。ベースシート144は上から見て正方形を有し、その横幅はプレート140の横幅に一致している。ベースシート144は、
図14に示したベースシート142と同じ材料により構成される。なお、プレートとベースシートとを別体化しておき(すなわち基板キットを構成しておき)、使用時にプレート上にベースシートを接着又は載置することにより基板を構成するようにしてもよい。
【0081】
図16には、基板の第3例が示されている。基板146は、一定の弾性を有する材料で構成される。具体的には、ブレードのエッジが当たった際に表層において若干窪み変形する材料で構成される。例えば、比較的に硬質の樹脂で構成される。
【0082】
切断過程では、基板146が硬質のステージ上に載置される。基板146の上面には直接的に生物組織150が載置され、それはカバー層152により覆われている。そのような組織包埋体がブレードにより切断される。
【0083】
図17には、生物組織切断方法の第1変形例が示されている。変形例では、予め凹部162が形成されたカバー層160が利用される。プレート154上にベースシート156を配置した上で、その上に組織158が配置される。その後、凹部162内に組織158が収容されるように、プレート154上にカバー層160が配置される。
【0084】
凹部162の形状と組織158の形状とが一致するように、すなわち、凹部162の内面と組織158の外面とが密着するように、凹部162の形状及び組織158の形状の少なくとも一方が操作される。プレート154に対してベースシートが事前に貼付されてもよい。カバー層160の周囲にその水平運動を制限する枠体が設けられてもよい。その場合、枠体がプレート154に事前に固定されてもよい。
【0085】
従来においては、例えば1mm以下の均等の厚みをもった複数の組織片を自動的に又は手作業で作製することは極めて困難であった。そのような複数の薄い組織片が作製できたとしても、無視し得ない程度の挫滅が生じていた。これに対し、上記装置及び上記方法によれば、均等な厚みをもった複数の薄い組織片を容易に作製でき、その際において組織の挫滅を大幅に軽減できる。また、上記装置及び上記方法によれば、プレート上の組織を段階的に切断していくことが可能であり、つまり、組織シートからキューブアレイを作製することが可能である。組織培養、組織処理、組織試験等において、非常に小さな且つ健全なキューブを利用することが可能となる。
【0086】
図18には、組織切断方法の第2変形例が示されている。プレート170上には、ゲル化した枠172が設けられており、且つ、ベースシート174が設けられている。枠172は、上方から見て、円形又は矩形の形状を有する。ベースシート174の上に、組織176が設けられている。枠172の内部に、加温により流動性を有するゲル化材料が流し込まれる。そのゲル化材料を冷却することにより、ゲル層178が形成される。ゲル層178は、組織176を覆いながらそれを包み込む。組織176及びゲル層178により組織包埋体が構成される。組織包埋体は、ゲル化した材料からなる枠172に囲まれている。符号182で示すように、ブレード180を下方に引き下ろすと、組織包埋体と共に枠172が切断される。
【0087】
図18に示した第2変形例によれば、プレート170上から枠を取り外す必要がないという利点を得られる。また、切断時に、枠172が組織176の移動や変形を間接的に抑制する作用を発揮する。すなわち、枠172がゲル層178の一部のように機能する。枠172の内周と組織176の外周とを近接させてもよい。プレート170及びプレート170上に事前に形成された枠172からなる基板が利用されてもよい。
【0088】
図19には、ホルダの変形例が示されている。比較的に大きなシート184上に、所定の配列をもって4つのストッパ186~192が固定されている。各ストッパ186~192は矩形のシート片である。4つのストッパ186~192により十字溝が構成される。十字溝は、溝193A及び溝193Bからなる。図示の例では、溝193A内にプレート194が配置されている。その端辺194Aは、シート184の端辺184Aに揃っている。3つのストッパ188,190,192に跨って柔軟性を有するL字シート196が配置されている。L字シート196は、プレート194の浮き上がりを抑制する作用を発揮する。
【0089】
プレート194が溝193Bに配置される場合、プレート194の端辺194Aがシート184の端辺184Bに揃えられる。プレート194上には、組織包埋体202が載せられている。組織包埋体202は、組織198及びそれを包み込むゲル層200で構成される。切断時には、
図19に示す構成が
図1に示したベース20上に配置される。その際、クリップ等の器具により、ベース20上にシート184及びプレート194が固定されてもよい。シート184の厚みは例えば1mmであり、各ストッパ186~192の厚みは例えば1mmである。プレート194の厚みは例えば0.9~1.2mmである。L字シート196の厚みは例えば400μmである。
【0090】
図20及び
図21には、押さえ部材を利用した生物組織切断方法の第1例が示されている。
図20において、ゲル層200上には、押さえ部材としての押さえ片204が載せられている。押さえ片204は、図示の例において、上方から見て台形を有する小片である。但し、その形状は例示である。
【0091】
押さえ片204の先端面204Aは、引き上げ直前のブレード206の一方側面に接しており又は近接している。図示の状態では押さえ片204の後端部204Bは、ゲル層200よりも水平方向に突出している。後端部204Bをピンセット等の工具で掴んで、その工具により、押さえ片204の位置や姿勢を調整し得る。但し、切断面が進行していくと、押さえ片204の後端部204Bは、ゲル層200よりも水平方向に突出しなくなる。
【0092】
より詳しく説明すると、
図21に示す断面図おいて、シート184上にはストッパ186,188が設けられ、それらによってプレート194の位置及び姿勢が保持されている。プレート194上にはベースシート208及び組織198が積層されており、その積層体がゲル層200で包まれている。これにより組織包埋体202が構成されている。プレート194の端部がL字シート196により抑え込まれている。
【0093】
押さえ片204が切断位置から若干離れた場所に位置決めされている状態で、S50で示すように、ブレード206が引き下ろされる。これにより、組織包埋体202が切断される。その後、S52で示すように、押さえ片204の先端面がブレード206の一方側面に突き合わされる。その上で、S54に示すように、ブレード206が上方へ引き上げられる。ブレード206の一方側面に、組織198の一部やゲル層200の一部が付着していても、それらの付着物は、押さえ片204の押さえ作用により、ブレード206の一方側面から剥がされる。これにより、切断により生じた1又は断片の配列の乱れを防止又は軽減できる。また、付着物による次の切断作用への影響が防止又は軽減される。ブレード206が引き上げられた後、S56で示すように、次の切断位置へブレードが動かされる。その後、上記同様の一連の工程が繰り返される。 実験によれば、0.15~0.20gの押さえ片を置くだけで、その自重により、ブレードへの付着物の残留を大幅に低減できることが確認されている。状況に応じて、押さえ片の重さを上記範囲以外の重さとしてもよい。また、状況に応じて、押さえ片の形態を上記以外の形態としてもよい。一般には、押さえ片の先端面の横幅を組織包埋体の横幅と同じかそれ以上にするのが望ましい。ブレードの両側に一対の押さえ部材を置くようにしてもよい。押さえ片204の厚みは例えば1mmである。
【0094】
図22には、押さえ部材を利用した生物組織切断方法の第2例が示されている。カッター210は、均等間隔で並ぶ複数のブレードからなるブレード列212を有している。ブレード列はブロック214に固定されており、符号222で示すように、ブロック214を昇降させることにより、ブレード列212が昇降する。ブロック214を保持する機構の図示が省略されている。
【0095】
カッター210は、押さえ部材216を有する。押さえ部材216は、複数の押さえ片218-1~218-5により構成される。それらは部材220に固定されている。符号224で示すように、部材220を昇降させることにより、押さえ部材216が昇降する。部材220を保持する機構の図示が省略されている。複数の押さえ片218-1~218-5は、両端の押さえ片218-1,218-5及びブレード間の押さえ片218-2~218-4からなる。
【0096】
ブレード列212を下降させて、組織包埋体の切断を行った後、押さえ部材216が組織の上面に軽く当接され、その状態が維持される。その状態において、ブレード列212が引き上げられる。個々のブレード側面に付着した、組織やゲル層の一部は、押さえ部材216の作用により、個々のブレード側面から掻き落とされる。
【0097】
ブレード列212を下降させる際又はそれ以前に、押さえ部材216を組織の表面に当てるようにしてもよい。その際の当接力がセンサにより検出され、その検出値により押さえ片の下降位置がフィードバック制御されてもよい。ブレード列212に対して押さえ部材216が独立して昇降運動する構成を採用するのが望ましい。
【符号の説明】
【0098】
10 生物組織切断装置、12 サンプルセット、14 プレート、15 組織包埋体、16 組織、18 ゲル層、20 ベース、20A ステージ、22 スライド機構、24 下部、26 上部、28 L型ブラケット、30 固定機構、32 可動機構、34 ホルダ、36 開口、38 カッター、44 ベースシート。