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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】神経系細胞の作製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0793 20100101AFI20220509BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20220509BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220509BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220509BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
C12N5/0793 ZNA
C12N5/0735
C12N5/10
C12N15/12
C12N15/86 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020140488
(22)【出願日】2020-08-21
(62)【分割の表示】P 2019557236の分割
【原出願日】2018-11-27
(65)【公開番号】P2020188814
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2020-08-28
(31)【優先権主張番号】62/592,629
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517123221
【氏名又は名称】アイ ピース,インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】505048482
【氏名又は名称】株式会社IDファーマ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】田邊 剛士
(72)【発明者】
【氏名】井上 誠
(72)【発明者】
【氏名】朱 亜峰
(72)【発明者】
【氏名】森 豊隆
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/163958(WO,A1)
【文献】Wang, C.-Y. et al.,"Systematic analysis of the achaete-scute complex-like gene signature in clinical cancer patients",Mol. Clin. Oncol.,2017年,Vol. 6,pp. 7-18
【文献】Pfisterer, U. et al.,"Direct conversion of human fibroblasts to dopaminergic neurons",Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A.,2011年,Vol. 108,pp. 10343-10348
【文献】Kim, J. et al.,"Functional integration of dopaminergic neurons directly converted from mouse fibroblasts",Cell Stem Cell.,2011年,Vol. 9,pp. 413-419, Supplemental Information
【文献】Caiazzo, M. et al.,"Direct generation of functional dopaminergic neurons from mouse and human fibroblasts",Nature,2011年,Vol. 476,pp. 224-227, SUPPLEMENTARY INFORMATION
【文献】Vasconcelos, F. F. et al.,"Coordinating neuronal differentiation with repression of the progenitor program: Role of the transcription factor MyT1",Neurogenesis,2017年06月23日,Vol. 4; e1329683,pp. 1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞を用意することと、
前記幹細胞にセンダイウイルスを感染により導入し、前記幹細胞内で前記センダイウイルスにachaete-scute homolog(ASCL)及びmyelin transcription factor 1 Like(MYT1L)を含む誘導因子(Brn2を含む誘導因子を除く。)を合成するmRNAを発現させることで、前記幹細胞をドーパミン産生神経細胞に誘導することと、
を含
前記幹細胞が、人工多能性幹細胞又は胚性幹細胞である、
ドーパミン産生神経細胞の作製方法。
【請求項2】
前記ドーパミン産生神経細胞が、TH陽性である、請求項に記載のドーパミン産生神経細胞の作製方法。
【請求項3】
前記センダイウイルスが、前記幹細胞内で、薬剤耐性遺伝子のmRNAを発現させる、請求項1又は2に記載のドーパミン産生神経細胞の作製方法。
【請求項4】
前記幹細胞に前記センダイウイルスを感染した後、薬剤耐性を示す細胞を選択することを含む、請求項に記載のドーパミン産生神経細胞の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞技術に関し、神経系細胞の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、体を構成するあらゆる細胞に変化することができる。そのため、様々な種類の体細胞や組織に変化することができるiPS細胞は、細胞移植治療や創薬研究に利用されることが期待されている。また、例えば、2014年にはiPS細胞から作製された網膜の細胞が移植治療に応用された。日本のみならず、世界各国でも、iPS細胞から脳の細胞や、各種臓器の細胞を作製し、移植治療に用いるプロジェクトが進んでいる。
【0003】
従来、iPS細胞を分化細胞に変化させる方法は数多くある。しかし、iPS細胞を移植治療に利用するためには、iPS細胞の効率の良い誘導方法を確立することが重要である。具体的には、iPS細胞を分化細胞へと誘導するときに用いる技術を確立し、誘導の効率及び精度を向上させ、作製した分化細胞の機能性などが移植治療に耐えうるものである必要がある。
【0004】
従来、iPS細胞や胚性幹細胞(ES細胞)から分化細胞へ誘導する方法は、細胞の性質を決定するホルモンや成長因子、並びに低分子化合物を組み合わせ、それらの量比や濃度を経時的に変える事で、発生の過程を模倣して行なわれてきている。しかし、発生の過程を試験管内で完全に模倣することは難しく効率が悪い。また、マウスの体細胞の誘導期間に比べてヒトの場合は非常に長い誘導期間が必要であり、例えば成熟した神経を作製するためには、従来、3ヶ月以上を要する。
【0005】
さらに、ES/iPS細胞株によって誘導の効率が大きく異なり、誘導された体細胞の性質が不均一である等の問題がある。実際に、複数のES細胞クローンに化学物質を添加し、様々な細胞を作製したところ、膵臓の細胞に誘導しやすいクローンや、心臓の細胞に誘導しやすいクローンなどが存在し、クローンによって誘導されやすさに違いがあることが示された(例えば、非特許文献1参照。)。また、無血清凝集浮遊培養法(SFEBq法)とよばれる、血清や神経細胞への誘導を阻害する化学物質を含まない培地でiPS細胞を培養することで、iPS細胞/ES細胞から神経細胞を作製する方法を利用し、数十種類のiPS細胞から神経細胞を作製したところ、神経細胞に変化しにくいiPS/ES細胞クローンが存在することが証明された(例えば、非特許文献2参照。)。
【0006】
具体的には、ヒトES/iPS細胞からホルモンや化学物質を利用する方法を用いて誘導された細胞は、初期の段階では胎児段階の体細胞であることが確認されている。ヒトの成熟した体細胞の誘導は極めて難しく、数か月にわたる長期の培養が必要である。しかし、発生が完了した個体を対象とする創薬や移植医療において、個体の成熟度に一致する体細胞を作製することは重要である。
【0007】
また、神経細胞には、様々なサブタイプの細胞が存在するが、ホルモンや化学物質を利用する方法では、これらのサブタイプ神経を均一にES/iPS細胞から誘導できない。そのため、特定の神経サブタイプ特異的な創薬スクリーニングができない。したがって、創薬スクリーニングの効率が低い。また、移植医療においても、疾患のある特定の細胞だけを濃縮して移植することができない。
【0008】
これに対し、ゲノムにインテグレートするデオキシリボ核酸(DNA)ウイルスを用いて特定の体細胞の性質を規定する遺伝子をES/iPS細胞に直接を導入し、目的の体細胞を作製する方法が提案されている。ゲノムにインテグレートするDNAウイルスを用いる方法は、ホルモンや化学物質を利用する方法に比べて、例えば2週間のような非常に短い期間で成熟した神経細胞を特異的に作製可能である。また、特定の遺伝子導入により神経細胞を作製すると、例えば興奮性神経のみを均一に得ることができる。そのため、特定の神経サブタイプ特異的な創薬スクリーニングが可能であり、移植医療においても、疾患のある特定の細胞だけを濃縮して移植できると考えられている。
【0009】
しかし、特定の遺伝子を発現させるためにゲノムにインテグレートするDNAウイルスを用いて幹細胞を体細胞に誘導する方法においては、ES/iPS細胞のゲノム上に遺伝子が挿入され、内在性の遺伝子に傷を付けてしまう。その結果、創薬スクリーニングが正しく行なわれず、移植においては癌化のリスクが伴うという問題がある(例えば、非特許文献3、4参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Nature Biotechnol 26(3): 313-315, 2008.
【文献】PNAS, 111:12426-12431, 2014
【文献】N Eng J Med, 346:1185-1193, 2002
【文献】Science 302: 415-419, 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、細胞の遺伝子を傷つけることなく、短期間で効率よく神経系細胞を作製可能な、神経系細胞の作製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の態様によれば、幹細胞を用意することと、幹細胞にセンダイウイルスを感染により導入し、幹細胞内でセンダイウイルスに誘導因子を合成するメッセンジャーリボ核酸(mRNA)を発現させることで、幹細胞を神経系細胞に誘導することと、を含む、神経系細胞の作製方法が提供される。
【0013】
上記の神経系細胞の作製方法において、幹細胞が人工多能性幹細胞(iPS細胞)であってもよい。
【0014】
上記の神経系細胞の作製方法において、幹細胞が胚性幹細胞(ES細胞)であってもよい。
【0015】
上記の神経系細胞の作製方法において、誘導因子が、neurogenin(NGN)を含んでいてもよい。誘導因子が、neurogenin(NGN)のみを含んでいてもよい。
【0016】
上記の神経系細胞の作製方法において、誘導因子が、achaete-scute homolog(ASCL)を含んでいてもよい。
【0017】
上記の神経系細胞の作製方法において、誘導因子が、myelin transcription factor(MYT)を含んでいてもよい。
【0018】
上記の神経系細胞の作製方法において、誘導因子が、distal-less homeobox(DLX)を含んでいてもよい。
【0019】
上記の神経系細胞の作製方法において、神経系細胞が、神経細胞、神経幹細胞及び神経前駆細胞のいずれかであってもよい。神経細胞が、興奮性神経細胞、抑制性神経細胞、ドーパミン産生神経細胞、運動神経細胞、及び大脳神経細胞からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。神経系細胞が、オリゴデンドロサイト前駆細胞及びオリゴデンロドサイトであってもよい。
【0020】
上記の神経系細胞の作製方法において、神経系細胞が、NGN遺伝子陽性、ASCL遺伝子陽性、MYT遺伝子陽性、及びDLX遺伝子陽性から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0021】
上記の神経系細胞の作製方法において、神経系細胞が、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)陽性、TUJ1陽性、BRN2陽性、NGN陽性、β-IIITubulin陽性、MAP2陽性、PSA-NCAM陽性、vGLUT陽性、SATB2陽性、chAT陽性、HB9陽性、MUNC13陽性、HOMER1陽性、vGAT陽性、及びGAD65/67陽性からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0022】
上記の神経系細胞の作製方法において、センダイウイルスが、幹細胞内で、薬剤耐性遺伝子のmRNAを発現させてもよい。
【0023】
上記の神経系細胞の作製方法において、薬剤耐性遺伝子が、ピューロマイシン耐性遺伝子、ブラストシジン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、及びネオマイシン耐性遺伝子からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0024】
上記の神経系細胞の作製方法が、幹細胞にセンダイウイルスを感染した後、薬剤耐性を示す細胞を選択することを含んでいてもよい。
【0025】
上記の神経系細胞の作製方法が、幹細胞にセンダイウイルスを感染した後、ピューロマイシン耐性、ブラストシジン耐性、ハイグロマイシン耐性、及びネオマイシン耐性からなる群から選択される少なくとも一つの薬剤耐性を示す細胞を選択することを含んでいてもよい。
【0026】
上記の神経系細胞の作製方法において、センダイウイルスに感染させる際の幹細胞の密度が、12ウェルプレートのウェルにおいて、0.2×105個/ウェルから1.0×106個/ウェルであってもよい。
【0027】
上記の神経系細胞の作製方法において、センダイウイルスの感染多重度(MOI:multiplicity of infection)が1回あたり0.1から100.0であってもよい。
【0028】
上記の神経系細胞の作製方法において、幹細胞をセンダイウイルスに感染させる際の培地が、mTeSR(登録商標)1、TeSR2(登録商標)及びStem Fitから選択されるいずれかであってもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、細胞の遺伝子を傷つけることなく、短期間で効率よく神経系細胞を作製可能な神経系細胞の作製方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施例1に係る細胞の顕微鏡写真である。
図2】実施例1に係る抗BRN2抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図3】実施例2に係る抗HOMER1抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図4】実施例3に係る抗MAP2抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図5】実施例4に係る抗MUNC13-1抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図6】実施例5に係る抗SATB2抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図7】実施例6に係る抗TUJ1抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図8】実施例7に係る抗vGLUT抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図9】実施例8に係る抗chAT抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図10】実施例9に係る抗HB9抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図11】実施例10に係る抗TH抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図12図12(a)及び図12(b)は、実施例11に係る細胞の顕微鏡写真である。図12(c)は、実施例11に係る抗TUJ1抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図13】実施例12に係る抗BRN2抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図14】実施例13に係る抗GAD65/67抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図15】実施例14に係る抗MAP2抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図16】実施例15に係る抗vGAT抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図17】実施例16に係る抗TUJ1抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図18】実施例17に係る抗MAP2抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図19】実施例18に係る抗BRN2抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図20】実施例19に係る抗vGAT抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図21】実施例20に係る抗GAD65/67抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図22】実施例21に係る抗TH抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図23】実施例22に係る抗chAT抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図24】実施例23に係る抗vGLUT抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図25】実施例24に係る抗SATB2抗体を用いて蛍光標識した細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図26】実施例25に係るフローサイトメトリーの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお以下の示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部材の組み合わせ等を下記のものに特定するものではない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【0032】
本発明の実施の形態に係る幹細胞から体細胞を作製する方法は、幹細胞を用意することと、幹細胞にセンダイウイルスを感染により導入し、幹細胞内でセンダイウイルスに誘導因子を合成するmRNAを発現させることで、幹細胞を神経細胞に誘導することと、を含む。
【0033】
幹細胞としては、人工多能性幹細胞(iPS細胞)及び胚性幹細胞(ES細胞)の両方が使用可能である。幹細胞は、ヒトの幹細胞であってもよいし、非ヒト動物の幹細胞であってもよい。
【0034】
誘導とは、リプログラミング、初期化、形質転換、分化転換(Transdifferentiation or Lineage reprogramming)、分化誘導及び細胞の運命変更(Cell fate reprogramming)等を指す。
【0035】
誘導される神経系細胞の例としては、神経細胞、神経幹細胞及び神経前駆細胞が挙げられる。神経細胞の例としては、興奮性神経細胞、抑制性神経細胞、ドーパミン産生神経細胞、運動神経細胞、及び大脳神経細胞が挙げられる。あるいは、神経系細胞は、オリゴデンドロサイト前駆細胞及びオリゴデンロドサイト等であってもよい。
【0036】
幹細胞に導入されるセンダイウイルス(SeV)は、幹細胞を神経細胞に誘導する誘導因子を合成するmRNAを発現するRNAゲノムを有する。なお、任意のmRNAを発現可能な組換えセンダイウイルスベクターの作製は、例えば、株式会社IDファーマが特許技術を利用して受託している。誘導因子を合成するmRNAとしては、例えば、NGN2等のNGN遺伝子のmRNA、ASCL1等のASCL遺伝子のmRNA、MYT1L等のMYT遺伝子のmRNA、及びDLX2等のDLX遺伝子のmRNAが挙げられる。NGN2、ASCL1、MYT1L、及びDLX2は、神経細胞生成に必要なスイッチタンパク質である。NGN2は、興奮性神経細胞を生成することができる。ASCL1、MYT1L、DLX2のそれぞれは、抑制性神経細胞を生成することができる。ASCL1とMYT1Lの組み合わせは、興奮性神経細胞、抑制性神経細胞、及びドーパミン産生神経細胞を生成することができる。
【0037】
例えば、幹細胞に導入されたセンダイウイルスは、誘導因子を合成するmRNAとして、NGN2等のNGN遺伝子のmRNA、ASCL1等のASCL遺伝子のmRNA、MYT1L等のMYT遺伝子のmRNA、及びDLX2等のDLX遺伝子のmRNAから選択される少なくとも一つを発現させる。
【0038】
センダイウイルスは、薬剤耐性遺伝子のmRNAを発現するRNAゲノムを有していてもよい。薬剤とは、例えばピューロマイシン、ブラストサイジン、ハイグロマイシン、ネオマイシン、G418、及びゼオシン等の抗生物質である。例えば、幹細胞に導入されたセンダイウイルスは、薬剤耐性遺伝子のmRNAを発現させる。薬剤耐性遺伝子のmRNAが発現した細胞は、薬剤耐性を示す。
【0039】
センダイウイルスが、薬剤耐性遺伝子のmRNAを発現させた場合、感染の後、薬剤耐性を示す細胞を選択してもよい。例えば、センダイウイルスによって、ピューロマイシン耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、G418耐性遺伝子、及びゼオシン(Zeocin、登録商標)耐性遺伝子のmRNAの少なくともいずれかを発現させた場合、感染の後の細胞を対応する抗生物質に曝すことにより、センダイウイルスが導入された細胞以外を死滅させ、センダイウイルスが導入された細胞を選別することが可能である。
【0040】
センダイウイルスは、例えば、NGN2遺伝子のmRNA及びピューロマイシン耐性遺伝子のmRNAを含むmRNA(以下、「NGN2-Puro mRNA」という。)を発現可能なRNAを有していてもよい。NGN2遺伝子のmRNAの配列は、例えば、配列番号1(マウス)又は配列番号2(ヒト)に示すDNAの配列に対応する。NGN2-Puro mRNAが発現した細胞は、NGN2を産生し、かつ、ピューロマイシン耐性を示す。
【0041】
センダイウイルスは、例えば、ASCL1遺伝子のmRNA、MYT1L遺伝子のmRNA、及びピューロマイシン耐性遺伝子のmRNAを含むmRNA(以下、「ASCL1-MYT1L-Puro mRNA」という。)を発現可能なRNAを有していてもよい。ASCL1遺伝子のmRNAの配列は、例えば、配列番号3(マウス)又は配列番号4(ヒト)に示すDNAの配列に対応する。MYT1L遺伝子のmRNAの配列は、例えば、配列番号5(マウス)、配列番号6(マウス)、配列番号7(マウス)又は配列番号8(ヒト)に示すDNAの配列に対応する。ASCL1-MYT1L-Puro mRNAが発現した細胞は、ASCL1及びMYT1Lを産生し、かつ、ピューロマイシン耐性を示す。
【0042】
センダイウイルスは、例えば、DLX2遺伝子のmRNA及びブラストサイジン耐性遺伝子のmRNAを含むmRNA(以下、「DLX2-Blast mRNA」という。)を発現可能なRNAを有していてもよい。DLX2遺伝子のmRNAの配列は、例えば、配列番号9(マウス)又は配列番号10(ヒト)に示すDNAの配列に対応する。DLX2-Blast mRNAが発現した細胞は、DLX2を産生し、かつ、ブラストサイジン耐性を示す。
【0043】
センダイウイルスは、細胞培養液に懸濁されることにより幹細胞に導入される。センダイウイルスは、細胞表面抗原を認識し、幹細胞を感染する。
【0044】
センダイウイルスの感染の際の幹細胞の密度は、例えば、12ウェルプレートのウェルにおいて、0.2×105個/ウェルから1.0×106個/ウェル、0.5×105個/ウェルから8.0×105個/ウェル、あるいは1.0×105個/ウェルから4×105個/ウェルである。
【0045】
用いられるセンダイウイルスの力価は、例えば、1×1012CIU/mLから1×105CIU/mL、1×1010CIU/mLから1×106CIU/mL、あるいは、1×109CIU/mLから1×107CIU/mLである。センダイウイルスの感染多重度(MOI:multiplicity of infection)は、例えば、1回あたり0.1から100.0、1.0から50.0、あるいは1.0から20.0である。
【0046】
センダイウイルスの感染の際に用いられる培地は、例えばmTeSR1、TeSR2、(登録商標、STEMCELL Technologies Inc.)、及びStem Fit(株式会社リプロセル)等の幹細胞培地である。センダイウイルスの感染の後、培地を神経系細胞への誘導に適した培地(以下、「神経誘導培地」ともいう。)に交換してもよい。神経誘導培地としては、例えば、NDiff 227(登録商標、TAKARA BIO INC.)、Neurobasal(登録商標、Thermo Fisher Scientific Inc.)、Human ES/iPS Neuronal Differentiation Medium(Merck KGaA)、及びN3培地等が挙げられる。N3培地は、例えば、500mLのDMEMF12に、10mLのB27と、5mLのN2サプルメント(Thermo Fisher Scientific Inc.)と、濃度が6.25mg/mLの1.6mLのインスリンを加えることにより調製される。
【0047】
センダイウイルスの感染の際、及びその前後に用いられる培地は、B18Rタンパク質を含んでいてもよい。B18Rタンパク質は、細胞の先天性抗ウイルス反応を緩和する。B18Rタンパク質は、ウイルス感染に伴う免疫反応に伴う細胞死を抑制するために使用されることがある。ただし、実施の形態に係る方法は、短期間で幹細胞から神経系細胞を作製可能であるため、培地はB18Rタンパク質を含まなくともよく、あるいは、B18Rタンパク質を0.01%から1%のような薄い濃度で含有してもよい。
【0048】
センダイウイルスの感染から25日以内、20日以内、10日以内、9日以内、8日以内、7日以内、6日以内、5日以内あるいは4日以内に幹細胞が神経系細胞に誘導される。幹細胞が神経系細胞に誘導されたか否かは、例えば、MAP2、TUJ1(β-IIITubulin)、BRN2、HOMER1、NGN2等のNGN、PSA-NCAM、MUNC13-1、SATB2、vGLUT、chAT、HB9、LHX3、GAD65、GAD67、TH、ASCL1(MASH1)等のASCL、vGAT、SOX1、SOX2、CD133、Nestin、HB9、ISL1、O4、PLP1、MOG、及びMBPから選択される少なくとも一つが陽性であるか否かによって確認される。
【0049】
NGN2は、神経細胞生成に必要なスイッチタンパク質であり、興奮性神経細胞のマーカーである。TUJ1(β-IIITubulin)、MAP2、BRN2、ASCL1(MASH1)及びPSA-NCAMは、神経細胞のマーカーである。HOMER1及びMUNC13-1は、シナプスを作る成熟した神経細胞のマーカーである。SATB2は、大脳皮質神経細胞のマーカーである。vGLUTは、グルタミン酸作動性神経細胞のような興奮性神経細胞のマーカーである。chATは、コリン性神経細胞等の運動神経細胞のマーカーである。HB9は、運動神経細胞のマーカーである。GAD65及びGAD67は、GABA作動性神経細胞のような抑制性神経細胞のマーカーである。THは、ドーパミン産生神経細胞のマーカーである。vGATは、抑制性神経細胞のマーカーである。SOX1、SOX2、CD133、及びNestinは、神経幹細胞のマーカーである。LHX3、HB9及びISL1は運動神経細胞のマーカーである。O4、PLP1、MOG、及びMBPは、オリゴデンドロサイト前駆体のマーカーである。また、アストロサイト前駆体及びアストロサイトのマーカーとして、GFAP及びCD44が利用可能である。
【0050】
以上説明した本発明の実施の形態に係る方法によれば、幹細胞に誘導因子を合成するmRNAを発現させることで、幹細胞の遺伝子に傷をつけることなく、インテグレーションフリーで、神経系細胞を効率よく作製することが可能である。
【0051】
ホルモンや化学物質のみを利用して幹細胞から神経系細胞を作製する方法では、神経系細胞が作製されるまで非常に長い時間が必要である。これに対し、本発明の実施の形態に係る方法によれば、短い時間で神経系細胞を作製することが可能である。
【0052】
また、ホルモンや化学物質のみを利用して幹細胞から神経系細胞を作製する方法においては、幹細胞のうちの一部のみが目的の神経系細胞になる。これに対し、本発明の実施の形態に係る方法によれば、センダイウイルスの感染が成立した細胞のほとんどが目的の神経系細胞になり得る。
【0053】
さらに、ホルモンや化学物質のみを利用して幹細胞から神経系細胞を作製する方法においては、同じプロトコールに従っても、目的の神経系細胞になるクローンと、ならないクローンがあり、クローン間にばらつきが生じる。これに対し、本発明の実施の形態に係る方法によれば、複数のクローンで高い誘導効率を得ることが可能である。
【0054】
また、未分化な細胞集団からサイトカイン等を用いて誘導を行って移植用細胞を作製する場合、移植用細胞の中に誘導されなかった細胞が残存する可能性がある。この残存した誘導されなかった細胞は移植位置で独自に細胞分裂、増殖をし、テラトーマ等を形成する危険性がある。これに対し、本発明の実施の形態に係る方法によれば、薬剤耐性遺伝子のmRNAも同時に発現させることができるため、センダイウイルスが導入された細胞の薬剤選択が可能である。そのため誘導されなかった細胞の混入やテラトーマ形成などの危険性を回避することが可能であり、移植医療に適している。
【0055】
さらに、本発明の実施の形態に係る方法によれば、センダイウイルスを用いており、ゲノムに遺伝子を挿入するウイルスを利用していない。そのため、インテグレーションフリーであり、幹細胞の遺伝子に傷がつかず、作製される神経系細胞に癌化のリスクがないため、臨床への利用が可能である。
【0056】
またさらに、例えば血液の細胞からiPS細胞を完全閉鎖系のクリーンな環境下で作製し、引き続き、本発明の実施の形態に係る方法によって、iPS細胞から神経系細胞を完全閉鎖系のクリーンな環境下で作製すれば、より清潔で安全な神経系細胞を作製することが可能である。
【0057】
加えて、本発明の実施の形態に係る方法によれば、短期間で神経系細胞を作製することが可能であるため、B18R等を使用しなくてもよく、また、使用する場合も、非常に薄い濃度にすることが可能である。
【0058】
(実施例1)
株式会社IDファーマにて、NGN2-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスを用意した。用意したセンダイウイルスの力価は、1×109CIU/mLであった。
【0059】
可溶化基底膜調製品(Matrigel、Corning)でコートされた12ウェルディッシュを用意し、各ウェルに10nmol/mLの濃度でROCK(Rho-associated coiled-coil forming kinase/Rho結合キナーゼ)阻害剤(Selleck)を含むフィーダーフリー培地(mTeSR(登録商標)1、Stemcell Technologies)を入れた。ROCK阻害剤は、細胞死を抑制する。
【0060】
iPS細胞を組織・培養細胞の剥離/分離/分散溶液(Accutase、Innovative Cell Technologies)で分散させ、12ウェルディッシュにまいた。センダイウイルスに感染されるiPS細胞は、1ウェルあたり、2×105個の密度でまかれた。センダイウイルスに感染されないコントロールiPS細胞も、1ウェルあたり、2.0×105個の密度でまかれた。その後、iPS細胞を、フィーダーフリー培地中で、5%二酸化炭素濃度及び20%酸素濃度の気体条件下で、24時間培養した。
【0061】
MOIが20になるよう、NGN2-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスにiPS細胞を感染させた。センダイウイルス感染後2日目に、ウェル内の培地を、2μg/mLの濃度でピューロマイシンを含む神経誘導培地(N3培地)に置換し、未感染の細胞を死滅させた。N3培地は、500mLのDMEMF12に、10mLのB27と、5mLのN2と、濃度が6.25mg/mLの1.6mLのインスリンを加えて調製した。
【0062】
センダイウイルス感染後2日目、3日目、5日目、及び7日目の細胞の顕微鏡写真を図1(a)に示す。センダイウイルス感染後24日目の細胞の顕微鏡写真を図1(b)に示す。図1に示すように、センダイウイルス感染後、細胞が神経系細胞に誘導されていることが、形態的に確認された。
【0063】
センダイウイルス感染後28日目、プレートから培地を除き、PBSで細胞を洗った。次に、4%パラホルムアルデヒド(PFA)をプレートに入れ、15分4℃で反応させ、細胞を固定した。さらに、PBSで細胞を2回洗浄後、5%CCS及び0.1%トライトンを含むPBS培地で一次抗体を希釈し、プレートに添加した。一次抗体としては、神経細胞のマーカーであるBRN2に対するヤギモノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology)を使用した。
【0064】
室温で一時間反応後、プレートにPBSを添加し、プレートによくなじませた後、PBSを廃棄した。再度、PBSを添加、廃棄し、蛍光標識されたゴリラ抗ヤギIgG(H+L)二次抗体(Alexa Fluor、登録商標、555、conjugate、ThermoFisher)を含む溶液をプレートに加えて、室温で30分間反応させた。その後、細胞をPBSで2回洗浄し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図2に示すように、誘導された神経系細胞は、BRN2を発現していることが確認された。
【0065】
(実施例2)
実施例1と同様にNGN2-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスにiPS細胞を感染させ、一次抗体としてシナプスを作る成熟した神経細胞のマーカーであるHOMER1に対するウサギモノクローナル抗体(SYNAPTIC SYSTEMS)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図3に示すように、誘導された神経系細胞は、HOMER1を発現していることが確認された。
【0066】
(実施例3)
実施例1と同様にNGN2-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスにiPS細胞を感染させ、一次抗体として神経細胞のマーカーであるMAP2に対するマウスモノクローナル抗体(Sigma Aldrich)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図4に示すように、誘導された神経系細胞は、MAP2を発現していることが確認された。
【0067】
(実施例4)
実施例1と同様にNGN2-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスにiPS細胞を感染させ、一次抗体としてシナプスを作る成熟した神経細胞のマーカーであるMUNC13-1に対するラビットモノクローナル抗体(SYNAPTIC SYSTEMS)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図5に示すように、誘導された神経系細胞は、MUNC13-1を発現していることが確認された。
【0068】
(実施例5)
実施例1と同様にNGN2-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスにiPS細胞を感染させ、一次抗体として大脳神経細胞のマーカーであるSATB2に対するマウスモノクローナル抗体(Abcam)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図6に示すように、誘導された神経系細胞は、SATB2を発現していることが確認された。
【0069】
(実施例6)
実施例1と同様にNGN2-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスにiPS細胞を感染させ、一次抗体として神経細胞のマーカーであるTUJ1に対するマウスモノクローナル抗体(Biolegend)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図7に示すように、誘導された神経系細胞は、TUJ1を発現していることが確認された。
【0070】
(実施例7)
実施例1と同様にNGN2-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスにiPS細胞を感染させ、一次抗体としてグルタミン酸作動性神経細胞のような興奮性神経細胞のマーカーであるvGLUTに対するウサギモノクローナル抗体(SYNAPTIC SYSTEMS)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図8に示すように、誘導された神経系細胞は、vGLUTを発現していることが確認された。
【0071】
(実施例8)
実施例1と同様にNGN2-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスにiPS細胞を感染させ、一次抗体として運動神経細胞のマーカーであるchATに対するマウスモノクローナル抗体(Millipore)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図9に示すように、誘導された神経系細胞は、chATを発現していることが確認された。
【0072】
(実施例9)
実施例1と同様にNGN2-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスにiPS細胞を感染させ、一次抗体として運動神経細胞のマーカーであるHB9に対するマウスモノクローナル抗体(Thermo)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図10に示すように、誘導された神経系細胞は、HB9を発現していることが確認された。
【0073】
(実施例10)
実施例1と同様にNGN2-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスにiPS細胞を感染させ、一次抗体としてドーパミン産生神経細胞のマーカーであるTHに対するヒツジモノクローナル抗体(Pel Freez)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図11に示すように、誘導された神経系細胞は、THを発現していることが確認された。
【0074】
(実施例11)
ASCL1-MYT1L-Puro mRNAと、DLX2-Blast mRNAと、を発現させることができるセンダイウイルスを用いた以外は、実施例1と同様にセンダイウイルスにiPS細胞を感染させた。センダイウイルス感染後2日目、5日目、11日目、及び21日目の細胞の顕微鏡写真を図12(a)に示す。センダイウイルス感染後24日目の細胞の顕微鏡写真を図12(b)に示す。図12(a)及び図12(b)に示すように、センダイウイルス感染後、細胞が神経系細胞に誘導されていることが、形態的に確認された。
【0075】
センダイウイルス感染後28日目、一次抗体として一般的な神経細胞のマーカーであるTUJ1に対するマウスモノクローナル抗体(Biolegend)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図12(c)に示すように、誘導された神経系細胞は、TUJ1を発現していることが確認された。
【0076】
(実施例12)
実施例11と同様にASCL1-MYT1L-Puro mRNAと、DLX2-Blast mRNAと、を発現させることができるセンダイウイルスにiPS細胞を感染させ、一次抗体として神経細胞のマーカーであるBRN2に対するヤギモノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図13に示すように、誘導された神経系細胞は、BRN2を発現していることが確認された。
【0077】
(実施例13)
実施例11と同様にASCL1-MYT1L-Puro mRNAと、DLX2-Blast mRNAと、を発現させることができるセンダイウイルスにiPS細胞を感染させ、一次抗体として抑制性(GABA作動性)神経細胞のマーカーであるGAD65/67に対するマウスモノクローナル抗体(Millipore)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図14に示すように、誘導された神経系細胞は、GAD65/67を発現していることが確認された。
【0078】
(実施例14)
実施例11と同様にASCL1-MYT1L-Puro mRNAと、DLX2-Blast mRNAと、を発現させることができるセンダイウイルスにiPS細胞を感染させ、一次抗体として神経細胞のマーカーであるMAP2に対するマウスモノクローナル抗体(Sigma Aldrich)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図15に示すように、誘導された神経系細胞は、MAP2を発現していることが確認された。
【0079】
(実施例15)
実施例11と同様にASCL1-MYT1L-Puro mRNAと、DLX2-Blast mRNAと、を発現させることができるセンダイウイルスにiPS細胞を感染させ、一次抗体として抑制性神経細胞のマーカーであるvGATに対するラビットモノクローナル抗体(SYNAPTIC SYSTEMS)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図16に示すように、誘導された神経系細胞は、vGATを発現していることが確認された。
【0080】
(実施例16)
ASCL1-MYT1L-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスを用いた以外は、実施例1と同様にセンダイウイルスにiPS細胞を感染させた。センダイウイルス感染後21日目、一次抗体として一般的な神経細胞のマーカーであるTUJ1に対するマウスモノクローナル抗体(Biolegend)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図17に示すように、誘導された神経系細胞は、TUJ1を発現していることが確認された。
【0081】
(実施例17)
実施例22と同様に配ASCL1-MYT1L-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスにiPS細胞を感染させ、一次抗体として神経細胞のマーカーであるMAP2に対するマウスモノクローナル抗体(Sigma Aldrich)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図18に示すように、誘導された神経系細胞は、MAP2を発現していることが確認された。
【0082】
(実施例18)
実施例22と同様にASCL1-MYT1L-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスにiPS細胞を感染させ、一次抗体として神経細胞のマーカーであるBRN2に対するヤギモノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図19に示すように、誘導された神経系細胞は、BRN2を発現していることが確認された。
【0083】
(実施例19)
実施例22と同様にASCL1-MYT1L-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスにiPS細胞を感染させ、一次抗体として抑制性神経細胞のマーカーであるvGATに対するラビットモノクローナル抗体(SYNAPTIC SYSTEMS)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図20に示すように、誘導された神経系細胞は、vGATを発現していることが確認された。
【0084】
(実施例20)
実施例22と同様にASCL1-MYT1L-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスにiPS細胞を感染させ、一次抗体として抑制性神経細胞(GABA作動性神経細胞)のマーカーであるGAD65/67に対するマウスモノクローナル抗体(Millipore)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図21に示すように、誘導された神経系細胞は、GAD65/67を発現していることが確認された。
【0085】
(実施例21)
実施例22と同様にASCL1-MYT1L-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスにiPS細胞を感染させ、一次抗体としてドーパミン産生神経細胞のマーカーであるTHに対するヒツジモノクローナル抗体(Pel Freez)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図22に示すように、誘導された神経系細胞は、THを発現していることが確認された。
【0086】
(実施例22)
実施例22と同様にASCL1-MYT1L-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスにiPS細胞を感染させ、一次抗体としてコリン性神経細胞のマーカーであるchATに対するヤギモノクローナル抗体(Millipore)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図23に示すように、誘導された神経系細胞は、chATを発現していることが確認された。
【0087】
(実施例23)
実施例22と同様にASCL1-MYT1L-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスにiPS細胞を感染させ、一次抗体として興奮性神経(グルタミン酸作動性神経細胞)のマーカーであるvGLUTに対するウサギモノクローナル抗体(SYNAPTIC SYSTEMS)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図24に示すように、誘導された神経系細胞は、vGLUTを発現していることが確認された。
【0088】
(実施例24)
実施例22と同様にASCL1-MYT1L-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスにiPS細胞を感染させ、一次抗体として大脳神経細胞のマーカーであるSATB2に対するマウスモノクローナル抗体(Abcam)を使用して細胞を蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察した。その結果、図25に示すように、誘導された神経系細胞は、SATB2を発現していることが確認された。
【0089】
(実施例25)
実施例1で用意したNGN2-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスに感染させなかったコントロール細胞をフローサイトメトリーで分析したところ、図26(a)に示すように、神経細胞のマーカーであるPSA-NCAMは陰性であった。実施例1で用意したNGN2-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスに感染させた細胞を感染後7日目にフローサイトメトリーで分析したところ、図26(b)に示すように、神経細胞のマーカーであるPSA-NCAMは陽性であった。なお、感染後4日目にフローサイトメトリーで分析しても、神経細胞のマーカーであるPSA-NCAMは陽性であった。
【0090】
実施例11で用意したASCL1-MYT1L-Puro mRNAと、DLX2-Blast mRNAと、を発現させることができるセンダイウイルスに感染させた細胞を感染後7日目にフローサイトメトリーで分析したところ、図26(c)に示すように、神経細胞のマーカーであるPSA-NCAMは陽性であった。なお、感染後4日目にフローサイトメトリーで分析しても、神経細胞のマーカーであるPSA-NCAMは陽性であった。実施例22で用意したASCL1-MYT1L-Puro mRNAを発現させることができるセンダイウイルスに感染させた細胞を感染後7日目にフローサイトメトリーで分析したところ、図26(d)に示すように、神経細胞のマーカーであるPSA-NCAMは陽性であった。なお、感染後4日目にフローサイトメトリーで分析しても、神経細胞のマーカーであるPSA-NCAMは陽性であった。
図1
図2
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