(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】ラジアルピストン機械の軸受装置
(51)【国際特許分類】
F04B 1/0417 20200101AFI20220509BHJP
F04B 1/0408 20200101ALI20220509BHJP
F03C 1/247 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
F04B1/0417
F04B1/0408
F03C1/247
(21)【出願番号】P 2020161591
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2021-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今村 秋吉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠
(72)【発明者】
【氏名】小栗 万里奈
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-128772(JP,A)
【文献】特開2019-90432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 1/0417
F04B 1/0408
F04B 1/1071
F16C 33/08
F03C 1/247
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジアルピストン機械用の軸受装置であって、
内径側にカム面を有するカムリングと、
前記カムリング内に回転可能に支承される回転体であって、前記回転体の回転軸線に関して放射状に形成された複数のシリンダを有する回転体と、
前記シリンダ内に摺動可能に配置される円筒形状のピストンと、
前記ピストンの、前記カムリング側の軸線方向端部に配置される円筒形状のローラであって、前記ローラの回転軸線は前記回転体の前記回転軸線と平行に配置されて前記カム面上を転動するローラと、
前記ピストンと前記ローラの間に配置される半割軸受であって、前記ローラを支承する内周面を形成する摺動層および前記ピストンに保持される外周面を形成する鋼裏金層からなる半割軸受と
を有する軸受装置において、
前記ピストンは、前記カムリング側の軸線方向端部に、前記半割軸受を保持するための部分円筒形状の凹状保持面と、前記凹状保持面の軸線方向の両側に形成される保持側面とを有し、
各保持側面は、
前記凹状保持面の径方向且つ前記ピストンの軸線方向に延びる突条部であって、前記ピストンの径方向内側へ向かって突出するように前記ピストンの軸線方向に垂直な断面において円弧状または楕円弧状の輪郭を有している突条部と、
前記ピストンの周方向における前記突条部の両側に広がる側面部と
を有し、
前記半割軸受は、部分円筒形状の部分円筒部であって、その軸線方向両端部に、軸線方向に垂直な面内に延びる軸線方向端面を有する部分円筒部と、前記部分円筒部の周方向中央で前記軸線方向端面から軸線方向外側に突出する突出部とを有し、
各突出部は、前記軸線方向端面から延びる2つの周方向側面と、前記2つの周方向側面の間に延びる、軸線方向外側を向いた突出部端面とを有し、
前記突出部端面は、
前記半割軸受の周方向中央に位置し、前記半割軸受の軸線方向内側に向かって窪んだ中央凹面と、
前記中央凹面の周方向両側に位置し、前記突条部の前記輪郭と対応する円弧状または楕円弧状に形成された2つの支持凹面と
を有し、
それにより、前記突出部端面のうち前記2つの支持凹面のみが前記ピストンの前記突条部と当接し、前記中央凹面、前記周方向側面および前記軸線方向端面は前記突条部および前記側面部のいずれとも当接しないことを特徴とする、軸受装置。
【請求項2】
前記突出部は、前記半割軸受の円周角度40~70°に相当する周方向長さを有している、請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
前記中央凹面は、前記突出部の周方向長さの25~75%の周方向長さを有している、請求項1または2に記載の軸受装置。
【請求項4】
前記半割軸受の前記突出部における軸受壁厚T2は、前記部分円筒部における軸受壁厚T1よりも小さい、請求項1から3までのいずれか一項に記載の軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジアルピストンモータやラジアルピストンポンプといったラジアルピストン機械の軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のラジアルピストン機械として、特開2008-196410号公報(特許文献1)に記載の油圧ラジアルピストンモータが知られている。この油圧ラジアルピストンモータは、内周に略波形のカム面を有するカムリングを有し、このカムリング内に回転体(シリンダブロック)が配置され、回転体に出力軸が連結されている。回転体には放射状に延びる複数のシリンダが周方向に並んで配置され、複数のシリンダは、それぞれが連通するシリンダポートを有している。複数のシリンダには、それぞれ1つのピストンが往復動可能に配置され、ピストンは、カムリングのカム面を転動するローラを保持している。ローラは円筒形状を有し、またその軸線が回転体の回転軸線と平行となるように、ピストンに装着された半円筒形状(部分円筒形状)の軸受によって支承されている。
複数のピストンが往復動しながらローラがカム面に沿って転動することで、回転体が回転軸線を中心に回転し、それにより出力軸から回転駆動力を得ることができる。
また、ピストンは半円筒形状(部分円筒形状)の軸受保持面を有しており、この軸受保持面に半円筒形状(部分円筒形状)の軸受が装着される(特許文献1)。半割軸受としては、鋼裏金層と摺動層とからなるものが用いられている(例えば特許文献2)。
【0003】
半割軸受は、その周方向両端面が、ピストンの軸受保持面の周方向両側に形成された径方向内側に突出する段差面により拘束されることで、ローラを支承する時にピストンの軸受保持面内で回転しないようになされている(特許文献3の
図1および2、特許文献4の
図3等)。
また、ピストンの軸受保持面の軸線方向両側に矩形状の凹部を設け、また半割軸受の軸線方向両側にこれら凹部と適合する矩形状の凸部を設け、それにより、ピストンの軸受保持面に半割軸受を装着した時に凹部と凸部を係合させ、半割軸受のピストンの軸受保持面内での回転を防ぐことが提案されている(特許文献5の
図3c、4bおよび4c)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-196410号公報
【文献】特開2012-122498号公報
【文献】特表2009-531596号公報
【文献】特開昭62-58064号公報
【文献】国際公開第2016/097230号のパンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半割軸受の周方向両端面をピストンの段差面等の拘束手段によって拘束する従来の軸受装置(特許文献1~4)の場合、運転時に半割軸受の外周面(Fe合金製の裏金層の表面)とピストンの軸受保持面との間で微小すべりが起こり、半割軸受の外周面にフレッチング損傷が起きやすい。
【0006】
また、ピストンの軸受保持面の軸線方向両側に矩形状の凹部を設け、また半割軸受の軸線方向両側にこれら凹部と適合する矩形状の凸部を設けて、これらを係合させる従来の軸受装置(特許文献5)の場合、運転時に、半割軸受に設けた凸部が半割軸受の内周面側に盛り上るように変形してしまうため、凸部の表面がローラの表面と強く接触し、損傷がおきやすい。
【0007】
したがって本発明の目的は、ローラを支承する半割軸受の外周面とピストンの軸受保持面とのフレッチングによる損傷および半割軸受の変形による損傷が起き難いラジアルピストン機械の軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明によれば、ラジアルピストン機械用の軸受装置であって、
内径側にカム面を有するカムリングと、
カムリング内に回転可能に支承される回転体であって、回転体の回転軸線に関して放射状に形成された複数のシリンダを有する回転体と、
シリンダ内に摺動可能に配置される円筒形状のピストンと、
ピストンの、カムリング側の軸線方向端部に配置される円筒形状のローラであって、ローラの回転軸線は回転体の回転軸線と平行に配置されてカム面上を転動するローラと、
ピストンとローラの間に配置される半割軸受であって、ローラを支承する内周面を形成する摺動層およびピストンに保持される外周面を形成する鋼裏金層からなる半割軸受と
を有する軸受装置において、
ピストンは、カムリング側の軸線方向端部に、半割軸受を保持するための部分円筒形状の凹状保持面と、凹状保持面の軸線方向の両側に形成される保持側面とを有し、
各保持側面は、
凹状保持面の径方向且つピストンの軸線方向に延びる突条部であって、ピストンの径方向内側へ向かって突出するようにピストンの軸線方向に垂直な断面において円弧状または楕円弧状の輪郭を有している突条部と、
ピストンの周方向において突条部の両側に広がる側面部と
を有し、
半割軸受は、部分円筒形状の部分円筒部であって、その軸線方向両端部に、軸線方向に垂直な面内に延びる軸線方向端面を有する部分円筒部と、部分円筒部の周方向中央で軸線方向端面から軸線方向外側に突出する突出部とを有し、
各突出部は、軸線方向端面から延びる2つの周方向側面と、2つの周方向側面の間に延びる、軸線方向外側を向いた突出部端面とを有し、
突出部端面は、
半割軸受の周方向中央に位置し、半割軸受の軸線方向内側に向かって窪んだ中央凹面と、
中央凹面の周方向両側に位置し、突条部の輪郭と対応する円弧状または楕円弧状に形成された2つの支持凹面と
を有し、
それにより、突出部端面のうち2つの支持凹面の少なくとも一部のみがピストンの突条部と当接し、中央凹面、周方向側面および軸線方向端面は突条部および側面部のいずれとも当接しない、軸受装置が提供される。
【0009】
本発明の一実施形態では、半割軸受の突出部は、半割軸受の円周角度40~70°に相当する周方向長さを有していてもよい。
【0010】
また本発明の一実施形態では、突出部の中央凹面は、突出部の周方向長さの25~75%の周方向長さを有していてもよい。
【0011】
また本発明の一実施形態では、半割軸受の突出部における軸受壁厚は、部分円筒部における軸受壁厚よりも小さくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図8A】ピストンと半割軸受の全体を示す斜視図である。
【
図8B】ピストンと半割軸受の全体を示す斜視図である。
【
図9】
図8Bに示すピストンの突出部と半割軸受の突条部の接触を示す拡大図である。
【
図10A】カムリングとピストンの動作を示す図である。
【
図10B】カムリングとピストンの動作を示す図である。
【
図10C】カムリングとピストンの動作を示す図である。
【
図10D】カムリングとピストンの動作を示す図である。
【
図13】従来の半割軸受の全体を示す斜視図である。
【
図14】従来のピストンの全体を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本願発明の実施形態について図面を参照して説明する
【0014】
(第1実施形態)
図1は、ラジアルピストン機械の軸受装置1の一例として油圧ラジアルピストンモータを示す。油圧ラジアルピストンモータの軸受装置1は、内周に略波形のカム面31が形成されたカムリング3を有し、このカムリング3内に、回転体(シリンダブロック)2が配置され、さらにこの回転体2に出力軸9が連結されている。
【0015】
カムリング3のカム面31は、
図1に示すように周方向に等間隔(等ピッチ)に配置された8つのカム山32を有している。
【0016】
回転体2は、
図1に示すように周方向に等間隔(等ピッチ)に配置された、それぞれ放射状に延びる6つの同一径のシリンダ21を有している。シリンダ21はそれぞれ、シリンダポート22と連通している。
【0017】
6つのシリンダ21のそれぞれには、1つのピストン5が往復動可能に嵌合され、ピストン5は、カムリング3のカム面31を転動するローラ4を、半割軸受6を介して保持している。ローラ4は円筒形状を有し、その軸線X4が回転体2の回転軸線X2と平行になるようにピストン5に保持される。複数のピストン5が往復動して、ローラ4がカム面31に沿って転動することで、回転体2が回転軸線X2を中心に回転し、それにより出力軸9からの回転駆動力が得られる。
【0018】
(ピストンの説明)
ピストン5は、
図2に示すように略円筒形状に形成され、円形状の外周面51と、カムリング側を向いた軸線方向端部に位置する軸線方向外側端面52とを有している。
【0019】
また、ピストン5の外周面51には、図示しないピストンリングを装着するための周方向溝57が形成されている。
ピストン5の軸線方向外側端面52には、半割軸受6を介してローラ4を受け入れるための開口53が形成されている。詳細には、開口53は、後述する部分円筒形状の半割軸受6を保持するために対応する部分円筒形状に形成された凹状保持面54と、その軸線方向両側に形成された保持側面55とを含む。凹状保持面54の軸線は、ピストン5の軸線方向と直交するようになされている。
本実施例では、凹状保持面54の周方向長さは、円周角度180°に相当する長さになされている。しかし、凹状保持面54の周方向長さはこれに限定されず、最小で円周角度120°、最大で円周角度220°に相当する長さになされていてもよい。
各保持側面55は、詳細には、凹状保持面54の周方向中央に相当する位置でピストン5の軸線方向と平行に延びる突条部550であって、ピストン5の軸線方向に垂直な断面が円弧状であり、それによりピストン5の径方向内側へ向かって突出している突条部550と、ピストン5の周方向における突条部550の両側に延びる側面部551であって、ピストン5の外周面51までの壁厚が一定であるように形成された側面部551とを有する。なお、突条部550の断面における円弧形状は、幾何学的に厳密な円弧であることを意味するものではく、楕円弧や、略円弧状であってもよい。
【0020】
また本実施例では、突条部550は、ピストン5の軸線方向における保持側面55の長さの全長に亘って形成されているが、これに限定されるものではなく、凹状保持面54からの長さが保持側面55の全長より小さくなされていてもよい。
また本実施例では、ピストン5の周方向における突条部550の幅は、ピストン5の軸線方向に亘って一定になされているが、これに限定されるものではなく、ピストン5の軸線方向に沿って変化するようになされていてもよい。
また本実施例では、突条部550の稜線がピストン5の軸線方向と平行に延びるように形成されているが、これに限定されるものではなく、突条部550の稜線は、ピストン5の軸線方向に対して、すなわちピストン5の径方向外側に向かって、僅かに傾斜(2°以下)するように形成されてもよい。
また本実施例では、側面部551の表面もまたピストン5の軸線方向と平行に延びるよう形成されているが、これに限定されるものではなく、側面部551は、ピストン5の軸線方向に対して、すなわちピストン5の径方向の外側に向かって、僅かに傾斜(2°以下)するように形成されてもよい。
また本実施例では、側面部551とピストン5の外周面51との間の壁厚がピストン5の周方向に亘って一定になされているが、壁厚は、突条部550と隣接する位置で最大で、凹状保持面54と接続する位置へ向かって周方向に減少するようになされてもよい。
【0021】
(半割軸受の説明)
次に、
図3~5を用いて半割軸受6の構成について説明する。本実施例の半割軸受6は、鋼裏金層6aに薄い摺動層6bを接着したバイメタル(
図4参照)によって、外周面61側に鋼裏金層6aが、また内周面62側に摺動層6bが配置された部分円筒形状に形成される。
【0022】
鋼裏金層6aとして、炭素の含有量が0.05~0.25質量%の亜共析鋼やステンレス鋼を用いることができる。また摺動層6bとして、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PI(ポリイミド)、PAI(ポリアミドイミド)から選ばれる1種以上の合成樹脂を主体とし、黒鉛、MoS2、WS2、h-BN等の固体潤滑材や、摺動層の強度を高めるカーボン繊維、金属化合物繊維やCaF2、CaCo3、硫酸バリウム、酸化鉄、リン酸カルシウム、SnO2等の充填剤を含む組成物を用いることができる。また、鋼裏金層6aと摺動層6bの接合を向上するために鋼裏金層6aの表面に銅合金等の多孔質焼結部が設けられてもよい。
【0023】
本実施例の半割軸受6は部分円筒部60を有し、部分円筒部60は、円周角度180°に相当する周方向長さを有するように形成されている。しかし半割軸受6の周方向長さはこれに限定されるものではなく最小で円周角度120°、最大で円周角度220°に相当する長さになされていてもよい。
【0024】
半割軸受6の部分円筒部60は、その軸線方向の両端部に、軸線方向に垂直な面内に延びる軸線方向端面63を有する。また半割軸受6は、部分円筒部60の周方向中央に、各軸線方向端面63からさらに軸線方向外側に突出した突出部64をさらに有している。
図3および5に示すように、突出部64は、軸線方向端面63から垂直に延びる2つの周方向側面641、641と、これら2つの周方向側面641、641の間に延びる、軸線方向外側を向いた突出部端面642とを有している(
図3)。さらに、この突出部端面642は、半割軸受6の周方向中央に位置する、半割軸受6の軸線方向内側に向かって深く窪んだ円弧状の中央凹面642aと、この中央凹部642aの周方向両側の2つの支持凹部642bであって、それぞれがピストン5の突条部550の断面円弧形状に対応した断面円弧形状の一部を有し、したがって半割軸受6の軸線方向内側に向かって窪んでいる2つの支持凹部642bとを有する(
図5)。
2つの支持凹部642bの円弧の共通の中心C1および中央凹面642aの円弧の中心C2は、半割軸受6の周方向中央CLを通り且つ半割軸受6の軸線に平行な線上に位置する。
中央凹面642aの最も窪んだ箇所(最深点)A1は、半割軸受6の軸線方向端面63と同一面内に位置することが好ましいが、最深点A1は、軸線方向端面63よりも軸線方向外側に位置していてもよい。
中央凹面642aの円弧の半径R2は、支持凹部642bの円弧の半径R1よりも小さい。
なお、支持凹部642bおよび中央凹面642aの円弧形状は、幾何学的に厳密な円弧であることを意味するものではく、略円弧状であってよい。
【0025】
突出部64は、半割軸受6の周方向に沿った周方向長さL1を有し、この周方向長さL1は、(外周面61上における)半割軸受6の円周角度40~70°に相当する長さであることが好ましい。
また、中央凹面642aは、(外周面61上における)半割軸受6の周方向に沿った周方向長さL2を有し、この周方向長さL2は、(外周面61上における)突出部64の周方向長さL1の25~75%であることが好ましい。
なお、本実施例では、突出部64の周方向長さL1および中央凹面642aの周方向長さL2は、半割軸受6の径方向に亘って一定になされているが、例えばバイメタルを湾曲させて半割軸受6を形成した場合、外周面61側から内周面62側へ向かって減少するように構成されていてもよい。
【0026】
また本実施例では、半割軸受6の突出部64における軸受壁厚が半割軸受6の部分円筒部60における軸受壁厚と同じであるが、突出部64における軸受壁厚T2が部分円筒部60における軸受壁厚T1よりも小さくなっていてもよい(
図6および7参照)。
【0027】
(ピストンへの半割軸受の装着)
図8Aは、装着前の半割軸受6とピストン5を示し、
図8Bは、半割軸受6をピストン5に装着した状態を示し、
図9は、
図8Bに示される状態におけるピストン5の突条部550と半割軸受6の突出部64との接触を拡大して示している。
半割軸受6は、部分円筒部60における外周面61がピストン5に形成された凹状保持面54に取り付けられ保持される。図示されるように、この保持状態において半割軸受6の周方向端面65、65はピストン5と接触しない。
一方、本発明によれば、突出部64のうちの2つの支持凹部642bのみがピストン5と、より詳細にはピストン5の突条部550と当接するようになっており、突出部64の周方向側面641および中央凹面642a、ならびに部分円筒部60の軸線方向端面63は、ピストン5の保持側面55と当接しない。
【0028】
(軸受装置の作用)
図10A~10Dは、カムリング3のカム面31を転動するローラ4とピストン5の回転体2のシリンダ21内での動作を示す。特に
図10Aはローラ4がカム面31のカム山32の頂点にあり、ピストン5が下死点にある状態を示し、
図10Cはローラ4がカム面31のカム底33の最下点にあり、ピストン5が上死点にある状態を示す。
半割軸受6の内周面(摺動面)62は、カム面31を転動することで回転するローラ4の外周面を支承する。ローラ4から半割軸受6の内周面(摺動面)62に加わる負荷は常に変化し、ピストン5が下死点にあるときに最大となり、ピストン5が上死点にあるときに最小となる。またローラ4からの負荷は、主に半割軸受6の周方向中央部付近に加わる。
【0029】
ところで、従来の軸受装置(特許文献1~4参照)では、半割軸受の周方向端面が、ピストンに形成された拘束手段(すなわちピストンの凹状保持面の周方向両側に形成された、径方向内側に突き出た段差面)に当接することで、周方向の動きが規制されている。このため、ピストンが下死点から上死点に移動する間(
図10B)、半割軸受は、回転するローラによってローラの回転方向前方の周方向端面側へ押圧され、半割軸受の周長が減少するように弾性変形する。一方、ピストンが上死点から下死点に移動する間(
図10D)、半割軸受は、半割軸受の周長が増加するように(元の周長に戻るように)変形する。
上述したようにローラの回転方向前方の周方向端面側へ半割軸受が押圧された場合、特に半割軸受の周方向中央部付近において周方向の弾性変形量が大きくなり、したがって半割軸受の外周面とピストンの凹状保持面の間で往復すべりが繰り返される。
この往復すべりが繰り返されると、半割軸受の周方向中央部ではFe合金製の裏金層の外周面が高温となって酸化し、半割軸受の裏金層の外周面とピストンの凹状保持面との間に、裏金層の外周面から脱落した摩耗粉(Fe
2O
3)がもたらされる。この酸化摩耗粉(Fe
2O
3)は裏金層のFe合金よりも硬いため、往復すべりがさらに繰り返されると、酸化摩耗粉によりフレッチング損傷が起き、半割軸受の裏金層の外周面(特に周方向中央部付近の裏金層の外周面)および/またはピストンの凹状保持面が傷付けられる。
【0030】
(本発明による効果)
本発明の半割軸受6では、その周方向中央に形成される突出部64の突出部端面642のうちの2つの支持凹部642bのみがピストン5の突条部550と当接することで、ピストン5の凹状保持面54内での半割軸受6の周方向の動きが規制される。このように半割軸受6の周方向の動きがその周方向中央で規制されるため、ラジアルピストン機械の運転時に、ピストン5の凹状保持面54内での半割軸受6の周方向の弾性変形量(特に半割軸受6の周方向中央付近における周方向の弾性変形量)が小さくなる。したがって半割軸受6の外周面61とピストン5の凹状保持面54との間での往復すべりが小さくなり、フレッチング損傷が防がれる。
【0031】
また、上述したようにピストン5の凹状保持面54内での半割軸受6の周方向の動きは、半割軸受6の突出部64の2つの支持凹部642bがピストン5の突条部550と接触することで規制されるが、それらの接触面は、ローラ4から半割軸受6に加わる負荷の方向(すなわち周方向)に対して傾斜しているため、突出部64に加わる負荷の一部が接触面間でのすべりにより消費され、したがって突出部64の弾性変形量が小さくなる。
さらに、半割軸受6の突出部64の2つの支持凹部642bの間に形成される中央凹面642aはピストン5の突条部550と接触せず、また突出部64の2つの周方向側面641もピストン5の側面部511と接触しないようになっており、したがってそれらの間には隙間が形成されている。このため、ローラ4からの負荷を受けた際の突出部64の弾性変形がそれらの隙間側に向かって起きやすくなり、したがって突出部64が半割軸受6の内周面62よりも径方向内側に向かうような弾性変形が起き難い。
【0032】
なお、実施例とは異なり、例えば特許文献5に記載されるように、半割軸受206の軸線方向の両端部に、軸線方向端面263から垂直に突出する矩形の突出部264が形成され(
図13)、またピストン205の開口253に、突出部264と対応する矩形の凹部255が形成され(
図14)、それにより凹部255内に突出部264が嵌合される従来の軸受装置の場合、半割軸受206の軸線方向端面263から垂直に伸びる突出部264の周方向側面2641が、ピストン205の凹部255の対応する面と接触することで、ピストン205の凹状保持面254内における半割軸受206の周方向の動きが拘束される。しかし、これらの接触面は、ローラから半割軸受206に加わる負荷の方向(すなわち周方向)に対して直交して配置されているので、突出部264の周方向側面2641に大きな負荷が加わり、突出部264は、半割軸受206の内周面よりも径方向内側に盛り上るように弾性変形または塑性変形する。このため、突出部264の表面がローラの表面と強く接触し、損傷が起きやすい。
【0033】
(実施例2)
以下、
図11を用いて、実施例1とは別の形態の突出部64を有する半割軸受6について説明する。なお、図中、実施例1で説明した内容と同一又は均等な構成要素には同一の符号を付している。
【0034】
(構成)
本実施例の軸受装置1の全体構成は、実施例1と同様である。半割軸受6の構成も、突出部64の形状を除いて実施例1と概ね同様である。
【0035】
実施例2の半割軸受6の突出部64の周方向側面641、641は、部分円筒部60の軸線方向端面63との間に形成される角度θ1が90°を超えるように傾斜しており、それにより、突出部64の軸線方向外側を向いた突出部端面の幅(周方向長さ)L1’が、軸線方向端面63における突出部の幅(周方向長さ)L1よりも小さくなっている。
本実施例においても、半割軸受6をピストン5に装着した際、半割軸受6の突出部64の周方向側面641、641は、ピストン5の側面部551)とは接触せず、支持凹部642bのみがピストン5の突条部550と接触する。
なお、実施例2の半割軸受6を有する軸受装置1は、実施例1の軸受装置1と同じ作用を有する。
【0036】
(実施例3)
以下、
図12を用いて、実施例1および2とは別の形態の突出部64を有する半割軸受6について説明する。なお、実施例1で説明した内容と同一又は均等な構成要素には同一の符号を付している。
【0037】
(構成)
本実施例の軸受装置1の全体構成は、実施例1と同様である。半割軸受6の構成も、突出部64の形状を除いて実施例1と概ね同様である。
実施例3の半割軸受6の突出部64の軸線方向外側を向いた突出部端面は、中央凹面642aおよび支持凹部642bに加えて、2つの支持凹部642bの周方向外側に、半割軸受6の周方向と平行に延びる平面部642c、642cをさらに有する。半割軸受6をピストン5に装着した際、半割軸受6の突出部64の平面部642c、642cは、ピストン5の突条部550とはやはり接触しないようになされている。
実施例3の半割軸受6を有する軸受装置1は、実施例1の軸受装置1と同じ作用を有する。
【0038】
実施例では、ラジアルピストン機械の軸受装置の一例としての油圧ラジアルピストンモータを示してきたが、本発明の軸受装置は、油圧ラジアルピストンポンプ等に適用することもできることが理解されよう。
【符号の説明】
【0039】
1 軸受装置
2 回転体(シリンダブロック)
21 シリンダ
22 シリンダポート
3 カムリング
31 カム面
32 カム山
4 ローラ
5 ピストン
51 外周面
52 軸線方向外側端面
53 開口
54 凹状保持面
55 保持側面
550 突条部
551 側面部
57 周方向溝
6 半割軸受
6a 鋼裏金層
6b 摺動層
60 部分円筒部
61 外周面
62 内周面
63 軸線方向端面
64 突出部
641 周方向側面
642 突出部端面
642a 中央凹面
642b 支持凹部
9 出力軸