(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】ヘキサデシルトレプロスチニル結晶及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 69/708 20060101AFI20220509BHJP
A61K 31/19 20060101ALI20220509BHJP
C07C 67/52 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
C07C69/708 CSP
A61K31/19
C07C67/52
C07C69/708 Z
(21)【出願番号】P 2020162260
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2020-10-01
(32)【優先日】2019-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512213583
【氏名又は名称】チャイロゲート インターナショナル インク.
【氏名又は名称原語表記】CHIROGATE INTERNATIONAL INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ,シ-イ
(72)【発明者】
【氏名】ジェン,ジアン-バン
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-540734(JP,A)
【文献】特表2017-531661(JP,A)
【文献】特表2015-509092(JP,A)
【文献】特表2007-501281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 69/708
A61K 31/19
C07C 67/52
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の2θ反射角:3.3±0.2°、6.6±0.2°、14.2±0.2°、18.9±0.2°、21.3±0.2°及び22.5±0.2°においてその6つの最も強い特徴的なピークを含むX線粉末回折(XRPD)パターンを有することを特徴とするヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形I。
【請求項2】
前記XRPDパターンが、さらに以下の2θ反射角:13.8±0.2°、15.3±0.2°、16.9±0.2°、17.8±0.2°、19.8±0.2°、20.6±0.2°、20.9±0.2°、24.4±0.2°及び24.8±0.2°において特徴的なピークを含む、請求項1に記載のヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形I。
【請求項3】
さらにピーク開始温度
が52.2±1℃であり、最大ピーク
が54.5±1℃である吸熱ピークを含む示差走査熱量測定(DSC)熱記録パターンをさらに有する、請求項1に記載のヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形I。
【請求項4】
さらにcm
-1で、3445±4cm
-1、3402±4cm
-1、2958±4cm
-1、2919±4cm
-1、2871±4cm
-1、2854±4cm
-1、1733±4cm
-1、1606±4cm
-1、1585±4cm
-1、1474±4cm
-1、1443±4cm
-1、1416±4cm
-1、1374±4cm
-1、1357±4cm
-1、1331±4cm
-1、1309±4cm
-1、1271±4cm
-1、1247±4cm
-1、1229±4cm
-1、1202±4cm
-1、1167±4cm
-1、1148±4cm
-1、1122±4cm
-1、1088±4cm
-1、1039±4cm
-1、1023±4cm
-1、1000±4cm
-1、982±4cm
-1、968±4cm
-1、917±4cm
-1、889±4cm
-1、784±4cm
-1、772±4cm
-1、734±4cm
-1、719±4cm
-1及び708±4cm
-1のピークを含む1%KBrフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルを有する、請求項1に記載のヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形。
【請求項5】
エチルエーテル、イソプロピルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、トルエン、キシレン、アセトン、ジクロロメタン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド及びそれらの混合物からなる群から選択される第1の溶媒にヘキサデシルトレプロスチニルを溶解して、均一溶液を形成する工程;
温度を下げる工程及
びアセトニトリル、水及びそれらの混合物からなる群から選択される第2の溶媒を前記均一溶液に加える工程;及び
沈殿が形成されるまで撹拌する工程
を含む、請求項1に記載のヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iを製造する方法。
【請求項6】
第2の溶媒又は第1の溶媒と第2の溶媒との混合物を添加して沈殿物をすすぐ工程;
沈殿物を濾別してヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iを単離する工程;及び
任意にヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iを乾燥させる工程
をさらに含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
以下の2θ反射角:3.4±0.2°、6.1±0.2°、9.4±0.2°、20.3±0.2°、21.6±0.2°及び23.4±0.2°においてその6つの最も強い特徴的なピークを含むXRPDパターンを有することを特徴とする、ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形II。
【請求項8】
前記XRPDパターンが、さらに以下の2θ反射角:7.0±0.2°、9.0±0.2°、12.2±0.2°、12.7±0.2°、17.5±0.2°、18.0±0.2°、18.5±0.2°、19.1±0.2°及び19.4±0.2°において特徴的なピークを含む、請求項
7に記載のヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形II。
【請求項9】
ピーク開始温度
が54.6±1℃であり、最大ピーク
が56.9±1℃である吸熱ピークを含むDSC熱記録パターンをさらに有する、請求項
7に記載のヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形II。
【請求項10】
さらにcm-
1で、3515±4cm
-1、3443±4cm
-1、3291±4cm
-1、3034±4cm
-1、2953±4cm
-1、2922±4cm
-1、2851±4cm
-1、1730±4cm
-1、1605±4cm
-1、1484±4cm
-1、1456±4cm
-1、1437±4cm
-1、1395±4cm
-1、1347±4cm
-1、1330±4cm
-1、1295±4cm
-1、1286±4cm
-1、1235±4cm
-1、1218±4cm
-1、1209±4cm
-1、1171±4cm
-1、1148±4cm
-1、1115±4cm
-1、1070±4cm
-1、1053±4cm
-1、1030±4cm
-1、1019±4cm
-1、989±4cm
-1、946±4cm
-1、926±4cm
-1、909±4cm
-1、893±4cm
-1、878±4cm
-1、790±4cm
-1、765±4cm
-1、726±4cm
-1及び704±4cm
-1にピークを含む1%KBr FTIRスペクトルをさらに有する、請求項
7に記載のヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形II。
【請求項11】
エチルエーテル、イソプロピルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、トルエン、キシレン、アセトン、ジクロロメタン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド及びそれらの混合物からなる群から選択される第3の溶媒にヘキサデシルトレプロスチニルを溶解して、均一溶液を形成する工程;
温度を下げる工程及
びペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン及びそれらの混合物からなる群から選択される第4の溶媒を前記均一溶液に加える工程;並びに
沈殿物が形成されるまで撹拌する工程
を含む、請求項
7に記載のヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIを製造する方法。
【請求項12】
第4の溶媒又は第3の溶媒と第4の溶媒との混合物を添加して沈殿物をすすぐ工程;
沈殿物を濾別してヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIを単離する工程;及び
任意にヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIを乾燥させる工程
をさらに含む、請求項
11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、固体形のプロスタサイクリン誘導体に関し、特に、固形結晶形のヘキサデシルトレプロスチニル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘキサデシルトレプロスチニル(C16TR)は、トレプロスチニルのプロドラッグとしての合成ベンゾプロスタサイクリン類縁体である。トレプロスチニル及びヘキサデシルトレプロスチニルの構造は、次のスキームAの通りである。ヘキサデシルトレプロスチニルは薬理的観点から非常に重要である。脂質ナノ粒子中に製剤化された吸入ヘキサデシルトレプロスチニルは、肺動脈高血圧症(PAH)の治療において、注入トレプロスチニル(Tyvaso(登録商標))よりも有意に低い血漿濃度を提供する長時間作用性肺血管拡張剤であり、低毒性で、耐容性が高く、便利な投与スケジュールに適用可能である(例えば、非特許文献1、2及び特許文献1)。
【0003】
【0004】
ヘキサデシルトレプロスチニルの合成プロセスは、非特許文献2及び特許文献2に開示されている。しかしながら、これらの報告は、製造されたヘキサデシルトレプロスチニルがオフホワイトのろう状固体であることを明らかにした。ろう状固体は、活性医薬成分(API)の非晶質形態であることがよく知られている。非晶質APIの熱安定性、純度及び均一性は、結晶質のものと比較して満足できるものではない。さらに、ろう状固体は、通常、高粘度であり、容器上に付着してしまい、商業的に取り扱うには困難が伴う。ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形を開示する他の報告はないことから、安定なヘキサデシルトレプロスチニル結晶を製造するための従来の結晶化方法の利益は、先行技術文献に基づいて評価することはできない。
【0005】
その結果、安定な結晶形のヘキサデシルトレプロスチニルの製造が緊急に求められている。固有の物理化学的特性を有する安定なヘキサデシルトレプロスチニルの結晶は、一定の操作パラメータ、例えば、通常の医薬製剤のための溶解度及び薬理学的処理のための定常的な生体吸収性を提供することができる。さらに、安定なヘキサデシルトレプロスチニル結晶はまた、商業的検討に適した貯蔵、製剤化、取扱い及び輸送に有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2015/148414号明細書
【文献】米国特許出願公開第2017/0320813号明細書
【非特許文献】
【0007】
【文献】Pulm. Pharmacol. Ther., 49, 104-111
【文献】Drug Research, 68, 605-614
【発明の概要】
【0008】
一態様によれば、本発明は、ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iの安定な固体形を提供し、その製造プロセスを提供する。
【0009】
一実施形態において、本発明は、ヘキサデシルトレプロスチニルを、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、イソプロピルアセテート、トルエン、キシレン、アセトン、ジクロロメタン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド及びそれらの混合物からなる群から選択される第1の溶媒に溶解して、均一溶液を形成する工程;温度を下げる工程及び/又はアセトニトリル、水及びそれらの混合物からなる群から選択される第2の溶媒を前記均一溶液に加える工程;並びに沈殿物が形成されるまで撹拌する工程を含む、ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iを製造する方法を提供する。
【0010】
一実施形態において、本発明は、以下の2θ反射角:3.3±0.2°、6.6±0.2°、14.2±0.2°、18.9±0.2°、21.3±0.2°及び22.5±0.2°においてその6つの最も強い特徴的なピークを示すX線粉末回折(XRPD)パターンを有するヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iを提供する。
【0011】
一実施形態において、本発明は、約52.2±1℃のピーク開始温度及び約54.5±1℃のピーク最大値を有する吸熱ピークを含む示差走査熱量測定(DSC)熱記録パターンを有するヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iを提供する。
【0012】
一態様によれば、本発明は、ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIの安定な固体形状を提供し、その製造プロセスを提供する。
【0013】
一実施形態において、本発明は、ヘキサデシルトレプロスチニルを、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、イソプロピルアセテート、トルエン、キシレン、アセトン、ジクロロメタン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド及びそれらの混合物からなる群から選択される第3の溶媒に溶解して、均一溶液を形成する工程;温度を下げる工程及び/又はペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロペンタン、シクロヘプタン及びそれらの混合物からなる群から選択される第4の溶媒を前記均一溶液に添加する工程;並びに沈殿物が形成されるまで撹拌する工程を含む、ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIを製造するための方法を提供する。
【0014】
一実施形態において、本発明は、以下の2θ反射角:3.4±0.2°、6.1±0.2°、9.4±0.2°、20.3±0.2°、21.6±0.2°及び23.4±0.2°においてその6つの最も強い特徴的なピークを示すXRPDパターンを有するヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIを提供する。
【0015】
一実施形態において、本発明は、約54.6±1℃のピーク開始温度及び約56.9±1℃の最大ピークを有する吸熱ピークを含むDSC熱記録パターンを有するヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIを提供する。
【0016】
本発明は、固体形状のヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形I及び結晶形IIを提供し、これは、商業的取扱いにあたり、結晶形の変換なしに室温で安定な貯蔵を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IのX線粉末回折(XRPD)パターンを示す。
【0018】
【
図2】ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iの示差走査熱量測定(DSC)熱記録パターンを示す。
【0019】
【
図3】ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iのフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルを示す。
【0020】
【
図4】ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIのX線粉末回折(XRPD)図を示す。
【0021】
【
図5】ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIの示差走査熱量測定(DSC)熱記録パターンを示す。
【0022】
【
図6】ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIのフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルを示す。
【発明の詳細な説明】
【0023】
ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形I及びその製造
【0024】
本発明の実施形態において、ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iの製造方法は、
(a)エチルエーテル、イソプロピルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、トルエン、キシレン、アセトン、ジクロロメタン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド及びそれらの混合物からなる群から選択される第1の溶媒に粗ヘキサデシルトレプロスチニルを溶解して、均一溶液を形成する工程;
(b)温度を下げる及び/又はアセトニトリル、水及びそれらの混合物からなる群から選択される第2の溶媒を前記均一溶液に加える工程;
(c)沈殿物が形成されるまで撹拌する工程;
(d)沈殿物を濾別し、それによりヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iを単離する工程;及び
(e)任意にヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iを乾燥する工程
を含む。
【0025】
本発明において、粗ヘキサデシルトレプロスチニルを溶解するために使用される第1の溶媒は、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、トルエン、キシレン、アセトン、ジクロロメタン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド及びそれらの混合物からなる群、好ましくはエタノール及びプロパノールからなる群から選択される。第1の溶媒の体積は、使用される溶媒の種類によるが、粗ヘキサデシルトレプロスチニル1g当たり、約0.5mL~約100mL、好ましくは約1mL~約50mL、より好ましくは約2mL~約20mLまたは約5mL~約10mLであり得る。粗ヘキサデシルトレプロスチニルは、約0℃~約80℃、好ましくは約10℃~約60℃、より好ましくは室温~約40℃の範囲の温度で第1の溶媒に溶解することができる。
【0026】
本発明の一実施形態において、前記均一溶液の温度は、約-30℃~約50℃、好ましくは約-20℃~約40℃、より好ましくは約-10℃~約30℃の範囲の温度に下げられる。
【0027】
第2の溶媒の選択は、ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iを形成することができるか否かを決定する鍵である。好ましい実施形態において、アセトニトリル、水及びそれらの混合物からなる群から選択される第2の溶媒の体積は、使用される溶媒の種類によるが、第1の溶媒1mL当たり約0.5mL~約200mL、約1mL~約150mL又は約2mL~約100mLであり得る。第2の溶媒は、約-30℃~約50℃、好ましくは約-20℃~約40℃、より好ましくは約-10℃~約30℃の範囲の温度で添加することができる。
【0028】
本発明の一実施形態において、結晶析出は、約-30℃~約50℃、好ましくは約-20℃~約40℃、より好ましくは約-10℃~約30℃の範囲の温度で行うことができる。
【0029】
本発明の一実施形態において、沈殿物を濾別する工程は、第2の溶媒、又は第1の溶媒と第2の溶媒との混合物を使用して沈殿物を洗浄することを含む。混合溶媒において、第1の溶媒と第2の溶媒との比は、約1:1~約1:100、好ましくは約1:10~約1:50とすることができる。
【0030】
本発明の一実施形態において、ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iは、以下の2θ反射角:3.3±0.2°、6.6±0.2°、14.2±0.2°、18.9±0.2°、21.3±0.2°及び22.5±0.2°においてその5つの最も強い特徴的なピークを示すX線粉末回折(XRPD)パターンを有する。好ましい実施形態において、ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IのXRPDパターンは、以下の2θ反射角:13.8±0.2°、15.3±0.2°、16.9±0.2°、17.8±0.2°、19.8±0.2°、20.6±0.2°、20.9±0.2°、24.4±0.2°及び24.8±0.2°において特徴的なピークをさらに含む。より好ましくは、ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IのXRPDパターンは、
図1と一致する。ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iの具体的なデータを、表1に示す。
【0031】
【0032】
一実施形態において、本発明は、
図1に実質的に示されるXRPDパターンを有するヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iを提供する。
【0033】
一実施形態において、本発明は、約52.2±1℃のピーク開始温度及び約54.5±1℃の最大ピークを有する吸熱ピークを含む示差走査熱量測定(DSC)熱記録パターンを有するヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iを提供する。好ましい実施形態において、本発明は、実質的に
図2に示されるようなDSC熱記録パターンを有するヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iを提供する。
【0034】
一実施形態において、本発明は、cm
-1で、3445±4cm
-1、3402±4cm
-1、2958±4cm
-1、2919±4cm
-1、2871±4cm
-1、2854±4cm
-1、1733±4cm
-1、1606±4cm
-1、1585±4cm
-1、1474±4cm
-1、1443±4cm
-1、1416±4cm
-1、1374±4cm、1357±4cm、1331±4cm
-1、1309±4cm
-1、1271±4cm
-1、1247±4cm
-1、1229±4cm
-1、1202±4cm
-1、1167±4cm
-11148±4cm
-1、1122±4cm
-1、1088±4cm
-1、1039±4cm
-1、1023±4cm
-1、1000±4cm
-1、982±4cm
-1、968±4cm
-1、917±4cm
-1、889±4cm
-1、784±4cm
-1、772±4cm
-1、734±4cm
-1、719±4cm
-1及び708±4cm
-1のピークを含むヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iを提供する。好ましい実施形態において、本発明は、実質的に
図3に示されるような1%KBr FTIRスペクトルを有するヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iを提供する。
【0035】
本発明の方法で使用される有機溶媒系により、沈殿したヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iは、緻密な固体状の特徴を有し、したがって濾別することが容易である。残留溶媒は、室温・高真空下で容易に除去することができる。さらに、粒状特性を有する乾燥ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iは、高粘性を有するヘキサデシルトレプロスチニルのろう状の固体形状と比較して、商業的取扱いにあたり、はるかに秤量が容易である。
【0036】
さらに、ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iは安定な結晶形であり、良好な安定性を示し、他の結晶形又は不純物の分解生成物を室温で6ヶ月間全く含まない。さらに、ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iのアッセイは、通常の貯蔵温度(約5℃~約-20℃)下で36ヶ月の貯蔵後であっても、約98.0%~約102.0%の間に維持することができる。
【0037】
ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形II及びその製造
【0038】
本発明の実施形態において、ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIの製造方法は、
(a)エチルエーテル、イソプロピルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、トルエン、キシレン、アセトン、ジクロロメタン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド及びそれらの混合物からなる群から選択される第3の溶媒に粗ヘキサデシルトレプロスチニルを溶解して、均一溶液を形成する工程;
(b)温度を下げる及び/又はペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン及びそれらの混合物からなる群から選択される第4の溶媒を前記均一溶液に加える工程;
(c)沈殿物が形成されるまで撹拌する工程;
(d)沈殿物を濾別し、それによりヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIを単離する工程;及び
(e)任意にヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIを乾燥させる工程
を含む。
【0039】
本発明において、粗ヘキサデシルトレプロスチニルを溶解するために使用される第3の溶媒は、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、トルエン、キシレン、アセトン、ジクロロメタン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド及びそれらの混合物からなる群、好ましくは酢酸エチル及びトルエンからなる群から選択される。第3の溶媒の体積は、使用される溶媒の種類によるが、粗ヘキサデシルトレプロスチニル1g当たり、約0.5mL~約100mL、好ましくは約1mL~約50mL、より好ましくは約2mL~約20mL又は約1mL~約10mLであり得る。粗ヘキサデシルトレプロスチニルは、約0℃~約80℃、好ましくは約10℃~約60℃、より好ましくは室温~約40℃の範囲の温度で第3の溶媒に溶解することができる。
【0040】
本発明の一実施形態において、前記均一溶液の温度は、約-30℃~約50℃、好ましくは約-20℃~約40℃、より好ましくは約-10℃~約30℃の範囲の温度に下げられる。
【0041】
第4の溶媒の選択は、ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIを形成することができるか否かを決定する鍵である。好ましい実施形態において、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン及びそれらの混合物からなる群から選択される第4の溶媒の体積は、使用される溶媒の種類によるが、第3の溶媒1mL当たり約0.5mL~約200mL、約1mL~約150mL又は約2mL~約100mLであり得る。第4の溶媒は、約-30℃~約50℃、好ましくは約-20℃~約40℃、より好ましくは約-10℃~約30℃の範囲の温度で添加することができる。
【0042】
本発明の一実施形態において、結晶析出は、約-30℃~約50℃、好ましくは約-20℃~約40℃、より好ましくは約-10℃~約30℃の範囲の温度で行うことができる。
【0043】
本発明の一実施形態において、沈殿物を濾別する工程は、第4の溶媒、又は第3の溶媒と第4の溶媒との混合物を使用して沈殿物を洗浄することを含む。該混合溶媒において、第3溶媒と第4溶媒との比は、約1:1~約1:100、好ましくは約1:10~約1:50とすることができる。
【0044】
本発明の一実施形態において、ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIは、以下の2θ反射角:3.4±0.2°、6.1±0.2°、9.4±0.2°、20.3±0.2°、21.6±0.2°及び23.4±0.2°においてその6つの最も強い特徴的なピークを示すXRPDパターンを有する。好ましい実施形態において、ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIのXRPDパターンは、以下の2θ反射角:7.0±0.2°、9.0±0.2°、12.2±0.2°、12.7±0.2°、17.5±0.2°、18.0±0.2°、18.5±0.2°、19.1±0.2°及び19.4±0.2°において特徴的なピークをさらに含む。より好ましくは、ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIのXRPDパターンが
図4と一致することである。ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIの具体的データを表2に示す。
【0045】
【0046】
一実施形態において、本発明は、
図4に実質的に示されるXRPDパターンを有するヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIを提供する。
【0047】
一実施形態において、本発明は、約54.6±1℃のピーク開始温度及び約56.9±1℃の最大ピークを有する吸熱ピークを含むDSC熱記録パターンを有するヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIを提供する。好ましい実施形態において、本発明は、実質的に
図5に示されるようなDSC熱記録パターンを有するヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIを提供する。
【0048】
一実施形態において、本発明は、cm
-1で、3515±4cm
-1、3443±4cm
-1、3291±4cm
-1、3034±4cm
-1、2953±4cm
-1、2922±4cm
-1、2851±4cm
-1、1769±4cm
-1、1730±4cm
-1、1605±4cm
-1、1584±4cm
-1、1469±4cm
-1、1456±4cm
-1、1437±4cm
-1、1395±4cm
-1、1371±4cm
-1、1347±4cm
-1、1330±4cm
-1、1311±4cm
-1、1295±4cm
-1、1286±4cm
-1、1271±4cm
-1、1259±4cm
-1、1235±4cm
-1、1218±4cm
-1、1209±4cm
-1、1189±4cm
-1、1171±4cm
-1、1148±4cm
-1、1115±4cm
-1、1070±4cm
-1、1053±4cm
-1、1030±4cm
-1、1019±4cm
-1、989±4cm
-1、946±4cm
-1、926±4cm
-1、909±4cm
-1、893±4cm
-1、878±4cm
-1、790±4cm
-1、765±4cm
-1、726±4cm
-1及び704±4cm
-1のピークを含むヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIを提供する。好ましい実施形態において、本発明は、実質的に
図6に示されるような1%KBr FTIRスペクトルを有するヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIを提供する。
【0049】
本発明方法で使用される有機溶媒系により、沈殿したヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIは、緻密な固体状の特徴を有し、したがって濾別することが容易である。残留溶媒は、室温・高真空下で容易に除去することができる。さらに、粒状特性を有する乾燥ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIは、高粘性を有するヘキサデシルトレプロスチニルのろう状固形物と比較して、商業的に取り扱うにあたり、はるかに秤量が容易である。
【0050】
さらに、ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIは安定な結晶形であり、良好な安定性を示し、他の結晶形も不純物の分解生成物も室温で6ヶ月間存在しない。さらに、ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIのアッセイは、通常の貯蔵温度(約5℃~約-20℃)下で36ヶ月間貯蔵した後であっても、約98.0~約102.0%の間を維持することができる。
【実施例】
【0051】
X線粉末回折(XRPD)解析:XRPDパターンを、固定発散スリット及び1D LYNXEYE検出器を有するBruker D2 PHASER回折計で収集した。試料(約100mg)を試料台上に平らに置いた。製造した試料を、10mA及び30kVの電源でCuKα照射を使用して、0.02度のステップサイズ及び1秒のステップ時間で、2°~50°の2θ範囲にわたって分析した。CuKβ照射は発散ビームニッケルフィルターにより除去した。
【0052】
示差走査熱量測定(DSC)分析:DSC熱記録パターンをTA DISCOVERY DSC25装置で収集した。試料(約5mg)を、クリンプ閉鎖アルミニウム蓋を有するアルミニウムパン中に秤量した。製造した試料を、窒素流下(約50mL/分)、10℃/分の走査速度で10℃~100℃で分析した。融解温度及び融解熱は、測定前にインジウム(In)によって較正した。
【0053】
フーリエ変換赤外(FTIR)分析:FTIRスペクトルをPerkin Elmer SPECTRUM 100装置で収集した。試料を、メノウ乳鉢及び乳棒を用いて約1:100の割合(w/w)で臭化カリウム(KBr)と混合した。混合物をペレットダイ中で約10~13トンの圧力で2分間圧縮した。得られたディスクは、4cmの解像度で4000cm-1から650cm-1まで収集したバックグラウンドに対して、4回スキャンした。データをベースライン補正し、正規化した。
【0054】
実施例1 粗ヘキサデシルトレプロスチニルの製造
【0055】
2-(((1R,2R,3aS,9aS)-2-ヒドロキシ-1-((S)-3-ヒドロキシオクチル)-2,3,3a,4,9,9a-ヘキサヒドロ-1H-シクロペンタ[b]ナフタレン-5-イル)オキシ)酢酸(40.0g、102.4mmol)を600mLのジメチルホルムアミドに溶解し、続いて42.0gの炭酸カリウムを72.0gの1-ヨードヘキサデカンと共に添加し、60℃で1時間撹拌した。その後、反応混合物を10℃に徐々に冷却し、650mLの水及び50.0gの硫酸マグネシウムを含む650mLの酢酸エチルを反応混合物に添加して抽出した。抽出溶液を真空下、室温で蒸発させて、粗生成物を得た。次いで、粗生成物を、勾配溶離剤としてヘキサン-酢酸エチル混合溶媒を使用して、シリカゲルクロマトグラフィーで精製して、58.6gのオフホワイトろう状固体(粗ヘキサデシルトレプロスチニル)を得た。
【0056】
実施例2 ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iの製造
【0057】
粗ヘキサデシルトレプロスチニル(1.00g、実施例1より)及びプロパノール(5mL)を、40℃に加熱して溶解し、次いで室温に冷却した。水(5mL)を徐々に滴下し、混合物を氷水浴中で18時間撹拌し、固体沈殿が生じた。その後、得られた懸濁液を濾別し、すすいだ後、室温で24時間高真空乾燥し、0.92gのヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iを得た。XRPD、DSC及びFTIRの結果は、
図1、
図2及び
図3に示すものと同じである。
【0058】
実施例3 ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iの製造
【0059】
粗ヘキサデシルトレプロスチニル(1.01g、実施例1より)及びエタノール(6mL)を、40℃に加熱して溶解し、次いで室温に冷却した。アセトニトリル(30mL)を徐々に滴下し、混合物を氷水浴中で18時間撹拌し、固体沈殿が生じた。その後、得られた懸濁液をろ過し、すすいだ後、室温で24時間高真空乾燥し、0.90gのヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iを得た。XRPD、DSC及びFTIRの結果は、
図1、
図2及び
図3に示すものと同じである。
【0060】
実施例4 ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iの製造
【0061】
粗ヘキサデシルトレプロスチニル(1.00g、実施例1より)及びトルエン(5mL)を、40℃に加熱して溶解した。アセトニトリル(50mL)を徐々に滴下し、混合物を氷水浴中で20時間撹拌して固体沈殿が生じた。その後、得られた懸濁液をろ過、すすいだ後、室温で24時間高真空乾燥し、0.91gのヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形Iを得た。XRPD、DSC及びFTIRの結果は、
図1、
図2及び
図3に示すものと同じである。
【0062】
実施例5 ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIの製造
【0063】
粗ヘキサデシルトレプロスチニル(1.01g、実施例1より)及び酢酸エチル(1mL)を40℃に加熱して溶解し、次いで室温に冷却した。n-ヘキサン(30mL)を徐々に滴下し、混合物を氷水浴中で18時間撹拌し、固体沈殿が生じた。その後、得られた懸濁液を濾別し、すすいだ後、室温で24時間高真空乾燥し、0.88gのヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIを得た。XRPD、DSC及びFTIRの結果は、
図4、
図5及び
図6に示すものと同じである。
【0064】
実施例6 ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIの製造
【0065】
粗ヘキサデシルトレプロスチニル(1.00g、実施例1より)及びトルエン(3mL)を、40℃に加熱して溶解し、次いで室温に冷却した。n-ヘプタン(40mL)を徐々に滴下し、混合物を氷水浴中で24時間撹拌し、固体沈殿が生じた。その後、得られた懸濁液を濾別し、すすいだ後、室温で24時間、高真空乾燥し、0.85gのヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIを得た。XRPD、DSC及びFTIRの結果は、
図4、
図5及び
図6に示すものと同じである。
【0066】
実施例7 ヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIの製造
【0067】
粗ヘキサデシルトレプロスチニル(1.01g、実施例1より)及びメチルtert-ブチルエーテル(3mL)を、40℃に加熱して溶解した。n-ペンタン(30mL)を徐々に滴下し、混合物を氷水浴中で18時間撹拌し、固体沈殿が生じた。その後、得られた懸濁液を濾別し、すすいだ後、室温で24時間、高真空下で乾燥させて、0.85gのヘキサデシルトレプロスチニルの結晶形IIを得た。XRPD、DSC及びFTIRの結果は、
図4、
図5及び
図6に示すものと同じである。