IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝エネルギーシステムズ株式会社の特許一覧

特許7068419発電機器の評価装置、及び発電機器の評価方法
<>
  • 特許-発電機器の評価装置、及び発電機器の評価方法 図1
  • 特許-発電機器の評価装置、及び発電機器の評価方法 図2
  • 特許-発電機器の評価装置、及び発電機器の評価方法 図3
  • 特許-発電機器の評価装置、及び発電機器の評価方法 図4
  • 特許-発電機器の評価装置、及び発電機器の評価方法 図5
  • 特許-発電機器の評価装置、及び発電機器の評価方法 図6
  • 特許-発電機器の評価装置、及び発電機器の評価方法 図7
  • 特許-発電機器の評価装置、及び発電機器の評価方法 図8
  • 特許-発電機器の評価装置、及び発電機器の評価方法 図9
  • 特許-発電機器の評価装置、及び発電機器の評価方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】発電機器の評価装置、及び発電機器の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20220509BHJP
【FI】
G01N17/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020187343
(22)【出願日】2020-11-10
【審査請求日】2020-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(74)【代理人】
【識別番号】100125151
【弁理士】
【氏名又は名称】新畠 弘之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
(72)【発明者】
【氏名】中島 将太
(72)【発明者】
【氏名】真野 敦
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-040003(JP,A)
【文献】特開平11-148931(JP,A)
【文献】特開2003-065984(JP,A)
【文献】特開平03-130644(JP,A)
【文献】特開2008-298529(JP,A)
【文献】特開2002-333398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00-17/04
G01N 3/00-3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電機器の動作流体に混入する固体粒子が機器へ与える影響について運転中に評価する発電機器の評価装置であって、
前記発電機器に設置されたセンサから取得した運転データを用いて、前記発電機器内部における評価領域の単位時間あたりの損傷量を生成する損傷量生成部と、
前記単位時間あたりの損傷量の累積値に基づき、前記評価領域の損傷の程度を評価する第1評価部と、
、備え、
前記損傷量生成部は、
前記発電機器に設置されたセンサから取得した運転データを用いて、前記発電機器の内部の状態を示す状態量を生成する状態量生成部と、
前記発電機器の材料及び形状のうちの少なくとも材料と、前記状態量と、に基づき、前記単位時間あたりの損傷量を生成する損傷速度生成部と、
を、有する、発電機器の評価装置。
【請求項2】
前記損傷速度生成部が生成する前記単位時間あたりの損傷量は、確率分布に従い変動する、請求項に記載の発電機器の評価装置。
【請求項3】
前記損傷速度生成部は、水質管理データ、総運転時間、ボイラー側化学洗浄頻度のいずれかを少なくとも含む運転データ、前記運転データに基づき生成した前記固体粒子の量、及び配管材料を含むプラント設計値のうちの少なくともいずれかを用いて、前記単位時間あたりの損傷量を生成する、請求項に記載の発電機器の評価装置。
【請求項4】
前記状態量生成部は、前記運転データを用いたヒートバランスにより、前記状態量を生成する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発電機器の評価装置。
【請求項5】
前記第1評価部の評価に応じて表示形態を変更する画像を表示装置に表示させる表示制御部を、更に備える、請求項1に記載の発電機器の評価装置。
【請求項6】
前記累積値に基づき、警報を発報する警報部を更に備える、請求項1に記載の発電機器の評価装置。
【請求項7】
前記発電機器における日ごとの発電量を示す発電計画を用いて、前記損傷量の累積値を予測し、評価する第2評価部を更に備える、請求項1に記載の発電機器の評価装置。
【請求項8】
前記損傷量の累積値と、前記損傷量の累積値に対応する実測値とが一致するように、前記第2評価部における前記損傷量の累積値の生成方法を変更する、再評価部を、更に備える、請求項に記載の発電機器の評価装置。
【請求項9】
前記損傷量生成部は、前記発電機器が蒸気タービンである場合に、蒸気タービン羽根、ノズル材料、及び使用温度を含むプラント設計値と、総運転時間とに応じて前記単位時間あたりの損傷量を変更する、請求項1に記載の発電機器の評価装置。
【請求項10】
前記確率分布は、過去に他のプラントで計測された損傷データ、損傷確率理論、およびこれらの組み合わせにより予め演算される、請求項に記載の発電機器の評価装置。
【請求項11】
発電機器の動作流体に混入する固体粒子が機器へ与える影響について運転中に評価する発電機器の評価方法であって、
前記発電機器に設置されたセンサから取得した運転データを用いて、前記発電機器内部における評価領域の単位時間あたりの損傷量を生成する損傷量生成工程と、
前記単位時間あたりの損傷量の累積値に基づき、前記評価領域の損傷の程度を評価する第1評価工程と、
、備え、
前記損傷量生成工程は、
前記発電機器に設置されたセンサから取得した運転データを用いて、前記発電機器の内部の状態を示す状態量を生成する状態量生成工程と、
前記発電機器の材料及び形状のうちの少なくとも材料と、前記状態量と、に基づき、前記単位時間あたりの損傷量を生成する損傷速度生成工程と、
を、有する、発電機器の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、発電機器の評価装置、及び発電機器の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電プラントの主要な構成機器であるタービンや制御弁、ボイラーなどは、運転に伴い各部位に損傷や劣化が発生し、蓄積する。これにより、発電性能の低下や破損リスクが増大することが一般に知られている。
【0003】
この損傷の一つとして、個体粒子の衝突により機器表面が侵食されるSPE(Solid Particle Erosion)が知られている。火力発電プラントでは直接火炎に晒されるボイラー配管は非常に高温となり、その配管外径側、内径側上面に酸化被膜などのスケールが生じる。運転に伴い、スケールは成長する。このため、スケールは、ある一定の膜厚に達して剥離したり、プラント起動停止時の熱応力などにより剥離したりする。剥離して蒸気に混入したスケールは、流れに沿いボイラーから蒸気弁およびタービン側へ運ばれる。例えば蒸気弁の入口に設けられた異物混入を防止するストレーナ、及び蒸気弁座などの蒸気流れを制御する部位や、タービン羽根やノズルなど仕事を取り出す部位において、スケールはその構造物表面に高速に衝突し、相手側を侵食する。
【0004】
この侵食が原因となり、蒸気弁やタービンの構造物が破損する恐れがある。このため、運転に伴うSPE損傷を低減することや損傷量を適切に把握することは、タービンの予期せぬ破損や性能低下を防止するうえで重要となる。
【0005】
キャリーオーバされるスケールを完全に無くすことは難しく、プラント運用においては保守管理の一環でSPE損傷をモニタリングする必要がある。このため、プラント停止時に蒸気弁やタービンを解放し、目視と寸法計測により損傷量が確認される。
【0006】
ところが、目視と寸法計測により損傷量を確認するためには、プラントを停止する必要が生じてしまう。また、プラントを停止し、再起動するためには、数週間かかってしまう恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第10156153号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、発電機器の運転を継続した状態で発電機器内部の損傷評価が可能な発電機器の評価装置、及び発電機器の評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態に係る発電機器の評価装置は、発電機器の動作流体に混入する固体粒子が機器へ与える影響について運転中に評価する発電機器の評価装置であって、損傷量生成部と、第1評価部と、を、備える。損傷量生成部は、発電機器に設置されたセンサから取得した運転データを用いて、発電機器内部における評価領域の単位時間あたりの損傷量を生成する。第1評価部は、単位時間あたりの損傷量の累積値に基づき、評価領域の損傷の程度を評価する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発電機器の運転を継続した状態で発電機器内部の損傷評価ができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る発電機器評価システムの構成を示すブロック図。
図2】評価装置の構成例を示すブロック図。
図3】損傷速度と特性値との関係を示す図。
図4】損傷量と損傷管理値との関係を示す図。
図5】表示制御部による表示画像の例を示す図。
図6】評価装置の処理例を示すフローチャート。
図7】第2実施形態に係る評価装置の構成を示すブロック図。
図8】将来の損傷量と運転時間の関係を示す図。
図9】将来の損傷量を示す表示画像の例を示す図。
図10】再評価部の修正例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る発電機器の評価装置、及び評価方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。また、本実施形態で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号又は類似の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、図面の寸法比率は説明の都合上実際の比率とは異なる場合や、構成の一部が図面から省略される場合がある。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る発電機器評価システム1の構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態に係る発電機器システム1は、発電機器の運転を継続しつつ、発電機器の評価が可能なシステムであり、発電機器10と、評価装置20と、表示装置30とを、備える。
【0014】
発電機器10は、例えば火力発電プラントにおける蒸気タービンであり、タービンロータの回転軸の軸方向に沿って、静翼と動翼とを組とするタービン段落を複数有している。複数のタービン段落には、主蒸気管を介して主蒸気が供給される。これにより、発電機器10は、複数のタービン段落により主蒸気を膨張仕事させて、回転エネルギを発生させる。なお、蒸気タービンは、電機機器10の一例であり、これに限定されない。また、本実施形態に係る主蒸気が動作流体に対応する。
【0015】
評価装置20は、発電機器10の損傷を評価する装置である。評価装置20は、CPU(Central Processing Unit)等の演算部を含んで構成される。評価装置20は後述する記憶部202に格納されているシステムプログラムや制御プログラムなどを読み出して記憶部に展開し、当該プログラムに従って発電機器10内の評価領域の損傷評価を実行する。評価領域は、例えば複数のタービン段落の各段落に設定される。
【0016】
また、評価領域の評価をするための運転データを取得する不図示のセンサが発電機器10及び周辺機器に複数設けられる。運転データは、タービン出力、温度、蒸気圧力、抽気温度、及び抽気圧力等である。例えば、タービン入口、及び出口などから取得される。また、これら以外にも蒸気弁前後の温度、及び圧力、タービンケーシングや蒸気弁ケーシングに取り付けられた温度センサから取得された温度なども運転データに含んでもよい。なお、評価装置20の詳細は後述する。
【0017】
表示装置30は、例えばモニタである。表示装置30は、評価装置20が生成した画像信号に基づく画像を表示する。
【0018】
ここで、図2に基づき、評価装置20の詳細を説明する。図2は、評価装置20の構成例を示すブロック図である。この評価装置20は、運転データ取得部200と、記憶部202と、損傷量生成部204と、損傷量評価部206と、警報部208と、表示制御部210とを、有する。
【0019】
運転データ取得部200は、発電機器10およびその周辺機器に予め取り付けた各種センサから、発電機器10の運転中の運転データを取得する。これらの運転データは、発電機器10の各段落の評価対象領域の状態量推定に用いられる。また、運転データ取得部200は、所定の周期で運転データを取得する。
【0020】
運転データ取得部200は、運転データに対してノイズ抑制処理を施し、出力してもよい。例えば、ノイズ抑制処理として運転データの平均化処理、フィルタリング処理などを行うことが可能である。
【0021】
記憶部202は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等により実現される。記憶部202は、上述のように、評価装置20の処理プログラムを記憶している。また、記憶部202は、評価装置20を設置するプラント構成、プラント設計値、設計条件、及び履歴データなどを記憶する。本実施形態では、時系列な運転データ、総運転時間、及び時系列な運転データなどの積算データを履歴データと称する。
【0022】
また、評価装置20の評価対象となるプラントは、装置設置時に一定期間運用している既設プラントである場合も多くなる。このようなプラントは設置時の履歴データを別途管理してしている。このため、記憶部202は、これら設置時の履歴データも記憶してよい。
【0023】
損傷量生成部204は、運転データ取得部200が取得した運転データに基づき、評価対象領域の単位時間当たりのSPE(Solid Particle Erosion)損傷量を生成する。なお、本実施形態では、単位時間当たりのSPE損傷量を損傷速度と称する。すなわち、損傷量生成部204は、運転データ取得部200が取得した運転データに基づき、損傷速度Eを生成する。この損傷量生成部204は、状態量推定部204aと、損傷速度演算部204bと、を有する。
【0024】
本実施形態に係る損傷速度Eは、例えば(1)式で示される。すなわち、損傷速度Eは、損傷に関する物理特性を示す関数fの値と、プラントの特性を示す関数gの値の関数として示すことが可能である。なお、本実施形態では、関数fの値、及び関数gの値に関する値を特性値と称する。
【0025】
【数1】
【0026】
例えば、関数fの値は、損傷の物理モデルに基づき損傷の挙動を評価する値であり、評価領域に対応する内部状態量(温度、圧力、エンタルピ―、流量など)、評価領域の寸法、及び、形状を表すプラント設計データなどにより演算される。すなわち、関数fの値は、発電機器10の運転状態に応じて変動する値であり、関数fは、運転データ取得部200が取得した運転データおよび記憶部202に格納されたプラント設計値、設計条件、及び履歴データなどから演算される。なお、関数fは評価時点での内部状態量やプラント設計データなどから演算されるが、この内部状態量は、履歴データに基づき見積もられたプラントの経年変化も考慮可能である。
【0027】
関数gの値は、評価時刻におけるスケール量および材料特性を評価する値である。スケール量は、例えば水質管理データ、総運転時間、ボイラー側化学洗浄頻度などの運転データ、及び配管材料などのプラント設計値を用いて演算される。スケールには、例えば錆、除去しきれない汚れなどが含まれる。なお、本実施形態に係るスケールとは、固体粒子に対応する。
【0028】
材料特性の演算には、例えば羽根・ノズル材料や使用温度などのプラント設計値と総運転時間などが用いられる。このように、評価時刻におけるスケール量および材料特性を評価する値を損傷速度Eの算出に用いることにより、より高精度に損傷速度Eを演算可能となる。なお、(1)式に示す具体的な関数形は、過去にプラントで計測された測定データに基づく推定則や理論損傷則、コンピュータシミュレーションによる評価、およびこれらの組み合わせた評価などから生成することが可能である。
【0029】
状態量推定部204aは、評価対象領域の損傷速度を演算するために用いる内部状態量を、運転データを用いて推定する。すなわち、状態量推定部204aは、関数fの演算に用いられる内部状態量(温度、圧力、エンタルピ―、流量など)を推定する。例えば、状態量推定部204aは、所謂熱勘定(ヒートバランス)により、発電所内の熱分布状態を燃料の燃焼から発電に至るまでの過程の熱の変化、及び移動状態を分析、計算する。状態量推定部204aは、このヒートバランスを行った結果をヒートバランス図として生成する。このヒートバランス図には発電機器10内の温度、圧力、エンタルピ―、及び流量の値が分布している。状態量推定部204aは、このヒートバランス図上の温度、圧力、エンタルピ―、及び流量の値を用いて、関数fの演算に用いられる内部状態量などを評価対象領域毎に算出する。
【0030】
損傷速度演算部204bは、(1)式にしたがって損傷速度Eを時系列に演算する。また、実運用における高速演算時には、損傷速度演算部204bは、(1)式を近似化し、演算量を減少させた例えば(2)式を用いることが可能である。
【数2】
ここで、h(θ)は、衝突角度θの関数である。衝突角度θ、及び衝突速度Vは評価領域の状態量、及びプラント設計値に基づき演算・設定可能である。また、粒子数Mや材料物性値σは運転データ、及びプラント設計値より演算・設定可能である。なお、この演算に用いるデータには、評価時点において運転データ取得部200が得る運転データに加え、後述のように記憶部202に蓄積した履歴データを用いることも可能である。この粒子数Mは、スケール量に応じて変動する値である。また、材料定数α、β、γについては、過去様々なプラントでの検査記録による実績値を参照して、設定可能である。
【0031】
図3は、損傷速度Eと特性値との関係を示す図である。縦軸は損傷速度Eを示し、横軸は特性値を示す。ここで、特性値は、(2)式で演算されるα・h(θ)・M・Vβの値である。図3に示すように、損傷速度演算部204bは、特性値に対応させて損傷速度Eの確率分布も演算する。例えば、確率分布は、プラントの設置時に取得されたデータ、過去に他のプラントなどで計測された損傷データ、損傷確率理論、およびこれらの組み合わせなどを用いて、予め演算される。より具体的には、損傷速度演算部204bは、(2)式に基づき演算した損傷速度Eの値を確率分布に応じて分散させる。
【0032】
損傷速度Eのバンドは、設定した損傷速度Eの上限値と下限値を示す。このように、損傷速度演算部204bが演算する損傷速度Eは、損傷速度Eのバンド範囲内で確率分布に従い変動する。なお、バンド幅については評価領域における設計思想などから任意に設定が可能である。また、評価領域によっては、逐次送付される運転データを全てヒートバランス計算により処理するのは困難な場合がある。そのような場合には、例えば予め想定される運転データに対するヒートバランスを記憶部202に記憶しておき、運転データに対してヒートバランスを逐次出力するなどの処理を行ってもよい。これにより、処理速度を短縮し、リアルタイムな演算処理が可能となる。
【0033】
損傷量評価部206は、損傷速度演算部204bが演算した損傷速度Eを時系列に累積し、発電機器10の損傷量を生成する。また、損傷量評価部206は、生成した発電機器10の損傷量を評価する。また、損傷量評価部206は、現時刻における損傷速度、損傷量、評価値、及び運転データなどを関連付けて記憶装置202に記憶する。ここで記憶装置202に格納された損傷速度や損傷量はその後の状態量推定部204aや損傷速度演算部204bで利用される。なお、本実施形態に係る損傷量評価部206が第1評価部に対応する。
【0034】
図4は、損傷量と損傷管理値との関係を示す図である。縦軸は損傷量評価部206が生成した損傷量を示し、横軸は運転時間を示す。実績評価線L16は、損傷量の時間変化を示す線である。損傷管理値Ll8は、損傷量が達するとプラントの運転に影響を及ぼす可能性がある値である。警報閾値L20は、損傷管理値Ll8よりも下側の値である。例えば、警報閾値L20は、損傷管理値Ll8の90パーセントの値に設定される。警報閾値L20は、保守時のコストなどを考慮し、評価対象領域毎に設定可能である。例えば、警報閾値L20は、損傷管理値Ll8の90パーセント、85パーセント、80パーセントなど、保守時のコストに応じて設定しても良い。
【0035】
損傷量評価部206は、損傷量が警報閾値L20未満である場合に運転可能状態と評価し、警報閾値L20をこえた場合に警報域の状態と評価し、損傷管理値Ll8をこえた場合に発電機器10を停止すべき危険状態と評価する。
【0036】
損傷量評価部206は、評価結果を評価値として、数値に対応させて出力可能である。例えば、損傷量評価部206は、運転可能状態と評価した場合に1を出力し、警報域の状態と評価した場合に2を出力し、危険状態と評価した場合に3を出力する。
【0037】
警報部208は、図4に示すように、損傷量評価部206が演算した損傷量が警報閾値L20(評価値2)に達すると、警報を発報する。例えば、警報部208は、警報閾値L20に達したことを示す警告を表示装置30に表示する。
【0038】
図5は、表示制御部210による表示画像の例を示す図である。表示制御部210は、表示装置30の画面W10に発電機器10内の評価領域a12、a14毎の状態を示す画像W12、W14を表示させる。画像W12、W14は、図4に対応する図である。評価領域A12、A14は、評価領域a12、a14毎の評価結果を示す。上述のように、損傷量評価部206が、運転可能状態と評価した場合に1を表示し、警報域の状態と評価した場合に2を表示し、危険状態と評価した場合に3を表示する。この場合、評価領域a12、a14毎の表示色を評価結果に応じて変更する。例えば、評価値が1なら青色、評価値が2なら黄色、評価値が3なら赤色に表示する。このように、評価値に応じて表示形態を変更することにより、発電機器10の損傷量を即時に判断可能となる。
【0039】
図5に示すように、評価領域a12、a14毎に損傷管理値Ll8a、Ll8b、警報閾値L20a、L20bを異ならせてもよい。このように、評価領域a12、a14毎の状態を示す画像W12、W14を表示させることにより、発電機器10内の状態を視覚的に評価することが可能となる。なお、本実施形態は蒸気タービンにより構成される火力プラントの例を対象として示したが、これに限定されない。
【0040】
図6は、評価装置20の処理例を示すフローチャートである。図6に示すように、先ず、損傷量生成部204は、取得された運転データに基づき、評価領域の損傷速度を演算する(ステップS100)。続けて、損傷量生成部204は、損傷速度に関連付けて、運転データ、状態値、演算に用いたプラント設計値などを記憶部202に記憶する。
【0041】
次に、損傷量評価部206は、損傷速度演算部204bが演算した損傷速度を時間で積算し、損傷量を生成する(ステップS102)。続けて、損傷量評価部206は、損傷量に基づき、評価領域の評価を行う。そして、損傷量評価部206は、損傷量、評価値、及び損傷速度を関連付けて、記憶部202に記憶する。
【0042】
次に、表示制御部210は、表示装置30の画面W10に発電機器10内の評価領域a12、a14毎の状態を示す画像W12、W14を表示させる(ステップS104)。
次に、警報部208は、損傷量が警報閾値L20(評価値2)に達したか否かを判定する(ステップS106)。警報部208は、警報閾値L20以上であると判定する場合(ステップS106のYES)、警報を発報する(ステップS108)。
【0043】
一方で、警報部208が警報閾値L20未満であると判定する場合(ステップS106のNO)、評価装置20は、全体処理を終了するか否かを判定する(ステップS110)。評価装置20は、全体処理を終了しないと判定する場合(ステップS106のNO)、ステップS100からの処理を繰り返す。一方で、評価装置20は、全体処理を終了すると判定する場合(ステップS106のYES)、全体処理を終了する。
【0044】
以上説明したように、本実施形態によれば、損傷量生成部204が、運転データを用いて、発電機器10内部における評価領域の単位時間あたりの損傷量を生成し、損傷量評価部206が単位時間あたりの損傷量を時系列に累積し、発電機器10の損傷量を生成する。これにより、発電機器10の運転を継続しつつ、発電機器10内部の損傷量を客観的に評価することが可能となる。
【0045】
(第2実施形態)
第2実施形態に係るタービン評価システム1は、運転計画により損傷量を予測可能である点で第1実施形態に係るタービン評価システム1と相違する。以下では第1実施形態に係るタービン評価システム1と相違する点を説明する。
【0046】
図7は、第2実施形態に係る評価装置20の構成を示すブロック図である。図7に示すように、第2実施形態に係る評価装置20は、更に残存寿命評価部212と、保守推奨指示部214と、再評価部216とを有する。
【0047】
残存寿命評価部212は、将来の運転計画と、これまでに記憶装置202に記憶された損傷速度、及び損傷速度に関連付けた運転データ、状態量、演算に用いたプラント設計値などを用いて、将来の損傷量を予測する。運転計画は、例えば将来の日にち別の発電量である。そして、残存寿命評価部212は、予測した損傷量に基づき、発電機器10の評価領域の残存寿命を評価する。なお、本実施形態に係る残存寿命評価部212が第2評価部に対応する。
【0048】
より具体的には、残存寿命評価部212は、運転計画に基づき、発電機器10の日にち別の出力を演算する。続けて、残存寿命評価部212は、この出力を得る際の状態量を演算する。そして、残存寿命評価部212は、記憶部202に記憶される過去の蓄積データを参照して、演算した状態量に対応する損傷速度を生成する。次に、残存寿命評価部212は、損傷速度を現時点の損傷量に累積し、将来の損傷量を逐次的に予測する。なお、本実施例では、記憶部202に記憶される過去の蓄積データを参照して、演算した状態量に対応する損傷速度を生成しているが、必ずしも過去の蓄積データを参照する必要はない。例えば発電計画に基づき演算した状態量と、過去の蓄積したデータから将来予測されるスケール量および材料特性を再度推定しなおし損傷速度を計算することも可能である。
【0049】
図8は、将来の損傷量と運転時間の関係を示す図である。縦軸は損傷量を示し、横軸は運転時間を示す。予測線L22eは、残存寿命評価部212が生成した将来の損傷量を示す線である。図9に示すように、残存寿命評価部212は、予測線L22eが損傷管理値L18eに達する時点と、現時刻との差を残存寿命として演算する。
【0050】
保守推奨指示部214は、残存寿命評価部212が生成した予測線L22eが警報閾値20eに達する日を、保守を開始する推奨日として指示する。
【0051】
図9は、将来の損傷量を示す表示画像の例を示す図である。表示制御部210は、表示装置30の画面W10に発電機器10内の評価領域a12、a14毎の将来の損傷量を含む画像W12、W14を表示させる。画像W12、W14は、図8に対応する図である。このように、評価領域a12、a14毎の将来の損傷量を含む画像W12、W14を表示させことにより、発電機器10内の状態を視覚的に評価することが可能となる。
【0052】
図9に示す様に、複数の評価領域に対して損傷をモニタリングする場合には、効率的に状態確認するために、評価領域に優先順位等を付けてもよい。これにより、評価領域が多数ある場合には、将来の損傷量を示す画像W12、W14等の表示を優先順にしたがって切り換えてもよい。このように、評価領域が表示装置30の画面W10内に一度に表示できない場合にも、優先順に従い状態を確認可能となる。なお、損傷速度の確率分布を用いて残存寿命を破壊確率に置き換え、リスクを比較することで優先順位を決定してもよい。或いは、各評価領域の破壊確率と破壊時のコストインパクトを掛け合わせることでリスクを定義し、リスクを比較することで優先順位を決定してもよい。
【0053】
再評価部216は、プラント停止時に実施した目視点検等の情報を残存寿命評価部212のパラメータに反映し、将来の損傷量の予測量を修正する。
図10は、再評価部216の修正例を示す図である。縦軸は損傷量を示し、横軸は運転時間を示す。再評価部216は、現時刻(点検時刻)における実測の損傷量A10と、演算により得られた損傷量A12とを比較し、損傷量A12が損傷量A10と一致するように各パラメータを調整する。このパラメータには、損傷速度の確率部分布L12と、損傷速度のバンド幅L14が含まれる。続けて、残存寿命評価部212は、調整後のパラメータを用いて、予測線L22fを生成する。そして、残存寿命評価部212は、予測線L22fが損傷管理値L18eに達する時点と、現時刻との差を残存寿命として再演算する。
【0054】
なお、本実施例では現時刻(点検時刻)における実測の損傷量A10を得る手段としてプラント停止時に実施した目視点検等と記載しているが、プラント運転計画や運用コストを鑑み、必ずしも目視点検が行えないケースもある。このような際には、例えば、評価部位周辺の蒸気圧力変動から、間接的に損傷量を見積もり、その結果から残存寿命評価部212のパラメータを見直すなども可能である。
【0055】
以上説明したように、本実施形態によれば、残存寿命評価部212が運転計画により損傷量を予測することとした。これにより、将来の電気機器10の損傷量を評価可能となり、電気機器10の保守の計画をより高精度に立てることが可能となる。
【0056】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規な装置、方法及びプログラムは、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明した装置、方法及びプログラムの形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0057】
1:発電機器評価システム、10:発電機器、20:評価装置、30:表示装置、204:損傷量生成部、204a:状態量推定部、204b:損傷速度演算部、206:損傷量評価部、208:警報部、210:表示制御部、212:残存寿命評価部、216:再評価部。
【要約】
【課題】発電機器の運転を継続した状態で発電機器内部の損傷評価が可能な発電機器の評価装置、及び発電機器の評価方法を提供する。
【解決手段】本実施形態に係る発電機器の評価装置は、発電機器の動作流体に混入する固体粒子が機器へ与える影響について運転中に評価する発電機器の評価装置であって、損傷量生成部と、第1評価部と、を、備える。損傷量生成部は、発電機器に設置されたセンサから取得した運転データを用いて、発電機器内部における評価領域の単位時間あたりの損傷量を生成する。第1評価部は、単位時間あたりの損傷量の累積値に基づき、評価領域の損傷の程度を評価する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10