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7068457S-メチルメチオニン高含有ブラシカオレラセア植物
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  • -S-メチルメチオニン高含有ブラシカオレラセア植物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】S-メチルメチオニン高含有ブラシカオレラセア植物
(51)【国際特許分類】
   A01H 6/20 20180101AFI20220509BHJP
   A01H 5/10 20180101ALI20220509BHJP
   A01H 1/02 20060101ALI20220509BHJP
   C07C 381/12 20060101ALI20220509BHJP
   A61K 31/198 20060101ALN20220509BHJP
   A61P 1/04 20060101ALN20220509BHJP
   A01H 5/02 20180101ALN20220509BHJP
【FI】
A01H6/20
A01H5/10
A01H1/02 Z
C07C381/12
A61K31/198
A61P1/04
A01H5/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020530204
(86)(22)【出願日】2019-07-09
(86)【国際出願番号】 JP2019027167
(87)【国際公開番号】W WO2020013190
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2020-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2018131069
(32)【優先日】2018-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-22352
(73)【特許権者】
【識別番号】591042403
【氏名又は名称】株式会社サカタのタネ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川村 学
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-095165(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0040277(KR,A)
【文献】特開2007-089572(JP,A)
【文献】特開2010-227113(JP,A)
【文献】特開2003-284527(JP,A)
【文献】特開2003-274887(JP,A)
【文献】上田京子 他,ブロッコリーのビタミンC,S-メチルメチオニン,ポリフェノール含有量の部位別解析と細胞機能への影響,日本食品科学工学会誌,2015年,Vol.62, No.5,pp.242-249
【文献】Gun-Hee KIM,Determination of Vitamin U in Food Plants,Food Sci. Technol. Res.,2003年,Vol.9, No.4,pp.316-319
【文献】Ji-Hoon Song et al.,Determination of S-methyl-L-methionine (SMM) from Brassicaceae Family Vegetables and Characterization of the Intestinal Transport of SMM by Caco-2 Cells,Journal of Food Science,2017年,Vol.82, No.1,pp.36-43
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
花蕾におけるS-メチルメチオニンの含有量が48mg/100gFW以上となる遺伝形質を有し、前記遺伝形質が、受託番号FERM BP-22352として代表的な種子が寄託されているブロッコリーが有する遺伝形質であり、且つ、前記遺伝形質が交配によって付与されている、花蕾におけるS-メチルメチオニンの含有量が48mg/100gFW(生鮮重量)以上であるブロッコリー
【請求項2】
託番号FERM BP-22352として代表的な種子が寄託されているブロッコリー、又は、前記ブロッコリーの、花蕾におけるS-メチルメチオニンの含有量が48mg/100gFW以上である後代植物
【請求項3】
請求項1又は2に記載の植物の部分。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の植物の種子。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の植物と、他のブロッコリーを交配する交配工程を含む、花蕾におけるS-メチルメチオニンの含有量が48mg/100gFW以上であるブロッコリーの作出方法。
【請求項6】
前記交配工程で得られた後代植物から、葯培養及び/又は花粉培養により倍加半数体を作出する倍加半数体作出工程を更に含む、請求項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の植物と、他のブロッコリーを交配する交配工程を含む、ブロッコリーの作出方法により作出されることのできる、花蕾におけるS-メチルメチオニンの含有量が48mg/100gFW以上であるブロッコリー、その種子又はその部分。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の植物又はその部分を配合すること、或いは
請求項1又は2に記載の植物又はその部分を処理して処理物を調製すること及び前記処理物を配合すること
含む、S-メチルメチオニン含有組成物の製造方法
【請求項9】
請求項1又は2に記載の植物又はその部分或いは前記植物又は部分の処理物から、S-メチルメチオニンを取得することを含む、S-メチルメチオニンの製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の植物、その種子又はその部分の、花蕾におけるS-メチルメチオニンの含有量が48mg/100gFW以上であるブロッコリーを作出するための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来のブラシカオレラセア植物よりS-メチルメチオニン含有量の高いブラシカオレラセア植物及びその作出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アブラナ科(Brassicaceae)植物は、中近東や地中海沿岸を起源とする植物種であり、ブラシカ(Brassica)属植物には農業上極めて重要な作物が含まれる。なかでもブラシカオレラセア(Brassica oleracea L.)は、B.oleracea L.var.capitata(キャベツ)、Brassica oleracea L.var.italica(ブロッコリー)、Brassica oleracea L.var.botrytis(カリフラワー)、B.oleracea L.var.gemmifera(メキャベツ)、B.oleracea L.var.gongyloides(コールラビ)、B.oleracea L.var.acephala(ハボタン、ケール)、B.oleracea L.var.alboglabra(カイラン)等を含む極めて重要な植物種である。
【0003】
アブラナ科ブラシカ属植物のうち、ブロッコリーは、日本において1980年代頃から消費が拡大している。花蕾及び茎を食用とし、ビタミンBやビタミンC、及びAならびに食物繊維が多く、加えてカロテンや鉄分を豊富に含むほか、スルフォラファン等ガン予防効果があるとされる物質も含むなど、健康に良い野菜として認知されている。
【0004】
S-メチルメチオニンは、ビタミンU又は、キャベツから発見されたためキャベジンとも呼ばれるアミノ酸誘導体、含硫アミノ酸の一種である。抗消化器潰瘍因子であり食物では野菜に遊離状で含まれる。
【0005】
これまで、各種野菜に含まれるS-メチルメチオニンの含有量がスクリーニングされている。ある報告では、セリ科やナス科やユリ科の野菜には生鮮重量あたり1~4mg%、緑茶は乾燥重量あたり1~9mg%、アブラナ科の野菜には生鮮重量あたり4~20mg%含有するとされている。特にアブラナ科野菜中でもクレソン、白菜、キャベツは2~4mg%と比較的少なく、カリフラワー、ブロッコリー、コールラビ、菜の花は10~20mg%と多く含有されていたという分析結果が見られる(非特許文献1)。
【0006】
ブロッコリーにおける部位別の栄養成分の分布についての報告では、花蕾にS-メチルメチオニンが多く含まれ、花蕾には、茎、主軸下部、葉軸、葉、根の他の部位よりも多い16.7mg/100gFWの含有量が確認されたことが記載されている(非特許文献2)。
【0007】
一方、特許文献1には、異種染色体を植物に導入することを含む、植物におけるアミノ酸及び/又はアミノ酸関連物質含量を増強させる方法が開示されている。ここでアミノ酸の下位概念の一つにS-メチルメチオニンは含まれるものの、依然として本成分が増強されたアブラナ科植物は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-143920号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】1988年度 実績報告書 大槻耕三: 京都府立大学学術報告(理学・生活科学).40.(1989)
【文献】「ブロッコリーのビタミンC、S-メチルメチオニン、ポリフェノール含有量の部位別解析と細胞機能への影響」2015年度 福岡県工業技術センター 研究報告No.25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、S-メチルメチオニンの含有量が高いブラシカオレラセア植物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、S-メチルメチオニンの含有量が高いブラシカオレラセア植物を提供することを目的として鋭意検討した結果、以下の発明を完成するに至った。
(1)
S-メチルメチオニンの含有量が48mg/100gFW(生鮮重量)以上であるブラシカオレラセア植物。
(2)
S-メチルメチオニンの植物体内での高濃度を引き起こす遺伝形質を有し、前記遺伝形質が、受託番号FERM BP-22352として代表的な種子が寄託されているブロッコリー、又は、前記ブロッコリーの、S-メチルメチオニンの植物体内での高濃度を引き起こす遺伝形質を有する後代に存在することを特徴とする、ブラシカオレラセア植物。
(3)
ブラシカオレラセア植物が、ブロッコリー、カリフラワー、カイラン、キャベツ、メキャベツ、コールラビ、ハボタン、ケール及びこれらの雑種からなる群から選ばれる一つである、(1)又は(2)に記載のブラシカオレラセア植物。
(4)
ブラシカオレラセア植物が、ブロッコリーである、(3)に記載のブラシカオレラセア植物。
(5)
(1)~(4)のいずれかに記載のブラシカオレラセア植物の部分。
(6)
(1)~(4)のいずれかに記載のブラシカオレラセア植物の種子。
(7)
(1)~(4)のいずれかに記載のブラシカオレラセア植物と、他のブラシカオレラセア植物を交配する交配工程を含む、ブラシカオレラセア植物の作出方法。
(8)
作出されるブラシカオレラセア植物が、S-メチルメチオニンを48mg/100gFW以上含有するブラシカオレラセア植物である、(7)に記載の方法。
(9)
前記交配工程で得られた後代植物から、葯培養及び/又は花粉培養により倍加半数体を作出する倍加半数体作出工程を更に含む、(7)又は(8)に記載の方法。
(10)
(1)~(4)のいずれかに記載のブラシカオレラセア植物と、他のブラシカオレラセア植物を交配する交配工程を含む、ブラシカオレラセア植物の作出方法により作出されることのできる、ブラシカオレラセア植物、その種子又はその部分。
(11)
S-メチルメチオニンを48mg/100gFW以上含有する、(10)に記載のブラシカオレラセア植物、その種子又はその部分。
(12)
ブラシカオレラセア植物を交配する交配工程と、
前記交配工程で得られた後代植物から、葯培養及び/又は花粉培養により倍加半数体を作出する倍加半数体作出工程と、
前記倍加半数体作出工程により作出された前記倍加半数体から、S-メチルメチオニンを48mg/100gFW以上含有するブラシカオレラセア植物を選抜する選抜工程と
を含む、S-メチルメチオニンを48mg/100gFW以上含有するブラシカオレラセア植物の作出方法。
(13)
(1)~(4)のいずれかに記載のブラシカオレラセア植物又はその部分或いは前記植物又は部分の処理物を含む、S-メチルメチオニン含有組成物。
(14)
(1)~(4)のいずれかに記載のブラシカオレラセア植物又はその部分或いは前記植物又は部分の処理物から、S-メチルメチオニンを取得することを含む、S-メチルメチオニンの製造方法。
(15)
(1)~(4)のいずれかに記載のブラシカオレラセア植物、その種子又はその部分の、S-メチルメチオニンを48mg/100gFW以上含有するブラシカオレラセア植物を作出するための使用。
(16)
従来のブラシカオレラセア(Brassica oleracea)植物よりS-メチルメチオニンを高濃度で含有するブラシカオレラセア植物。
(17)
受託番号FERM BP-22352として寄託されているブロッコリーに代表される、S-メチルメチオニンを高濃度で含有する形質を有するブラシカオレラセア植物。
【0012】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018-131069号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のブラシカオレラセア植物は、S-メチルメチオニン(ビタミンU)を高濃度で含有する、ブラシカオレラセア植物を提供することができる。
【0014】
本発明のブラシカオレラセア植物を他のブラシカオレラセア植物と交配させることで、S-メチルメチオニンを高濃度で含有するブラシカオレラセア植物を作出することができる。
【0015】
本発明のS-メチルメチオニン含有組成物は、医薬組成物、飲食品組成物等の用途に有用である。
【0016】
本発明のS-メチルメチオニンの製造方法により、天然由来のS-メチルメチオニンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、S-メチルメチオニン含有量の高い系統4-1(SSC-BRO-17-002)と他の系統とのF2後代の95個体における、S-メチルメチオニン含有量と個体数との関係を示したグラフである。
図2図2は、S-メチルメチオニン含有量の高い系統4-1(SSC-BRO-17-002)と他の系統とのF2後代の95個体を、S-メチルメチオニン含有量の昇順で並べたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<ブラシカオレラセア植物>
アブラナ科に属するブラシカオレラセア(Brassica oleracea L.)は、ブロッコリー、カリフラワー、カイラン、キャベツ、メキャベツ、コールラビ、ハボタン及びケール等に分類される植物や、これらの植物と交配が可能な植物や、これらの植物を交配して得られる雑種を含む種である。ブラシカオレラセア植物とは、当該種に属する植物を指す。
【0019】
本発明におけるブロッコリーには、Brassica oleracea L.var.italicaに属するブラシカオレラセア植物及びその後代が含まれる。本明細書においてブラシカオレラセア植物の「後代」とは、本発明によるS-メチルメチオニンを高濃度で含有するブラシカオレラセア植物と、該植物と交配可能なブラシカオレラセア植物とを交配させて得られる植物が包含される。したがって、例えばブロッコリーの「後代」には、本発明によるS-メチルメチオニンを高濃度で含有するブロッコリー植物を片親とし、該植物と交配可能なブラシカオレラセア植物を片親として交配することによって得られる交雑種も含まれる。また、「後代」には、例えば本発明によるS-メチルメチオニンを高濃度で含有するブラシカオレラセア植物と、該植物と融合可能な植物との細胞融合による植物や、種属間交雑植物も含まれる。
【0020】
本発明におけるS-メチルメチオニンの定量方法は、植物体に含まれるS-メチルメチオニンの含有量が再現性をもってスクリーニングできれば特に限定されないが、例えば、HPLCによるアミノ酸蛍光標識化した植物抽出液からの定量法、ガスクロマトグラフィーによる間接的定量法、植物抽出液をLi系アミノ酸分析機に直接インジェクトしS-メチルメチオニンを直接分離定量する分析方法、及び、植物の乾燥試料から抽出した沈殿物を緩衝液に再懸濁しアミノ酸分析装置を用いて分析する方法等が選択できる。
【0021】
本発明においてS-メチルメチオニン含有量の定量のサンプリング時期は、例えばブロッコリーにおいては、ブロッコリーが収穫期になったとき、具体的にはその平均的な大きさである花蕾の直径が10~15cmになったときに行う。
【0022】
本発明は、第一に、従来のブラシカオレラセア植物よりS-メチルメチオニンを高濃度で含有するブラシカオレラセア植物に関する。ここで「従来のブラシカオレラセア植物よりS-メチルメチオニンを高濃度で含有する」とは、従来のブラシカオレラセア植物に比較し、単位重量あたりのS-メチルメチオニン含有量が高いことをいう。S-メチルメチオニン含有量を測定し比較する部位は特に限定されないが、花蕾、茎又は葉が好ましく、花蕾又は茎がより好ましく、花蕾が特に好ましい。
【0023】
従来のブラシカオレラセア植物よりS-メチルメチオニンを高濃度で含有するブラシカオレラセア植物の具体例としては、好ましくは、S-メチルメチオニンの含有量が48mg/100gFW(生鮮重量)以上であるブラシカオレラセア植物が挙げられる。ここで、S-メチルメチオニンの含有量は、収穫期において測定した含有量であることが好ましく、ブロッコリーにおいては花蕾の直径が10~15cmになったときに測定した含有量であることがより好ましく、茎ブロッコリーにおいては花蕾の直径3~4cmになったときに測定した含有量であることが好ましい。S-メチルメチオニンの含有量は、花蕾、茎又は葉における含有量であることが好ましく、花蕾又は茎における含有量であることがより好ましく、花蕾における含有量であることが特に好ましい。特に、ブラシカオレラセア植物がブロッコリーである場合に、好ましくは収穫期の花蕾、茎又は葉、より好ましくは収穫期の花蕾又は茎、特に好ましくは収穫期の花蕾、でのS-メチルメチオニン含有量が48mg/100gFW以上である。
【0024】
本発明のブラシカオレラセア植物のS-メチルメチオニンの含有量は、より好ましくは、50mg/100gFW以上、55mg/100gFW以上、60mg/100gFW以上、65mg/100gFW以上、70mg/100gFW以上である。本発明のブラシカオレラセア植物のS-メチルメチオニンの含有量は、通常は、200mg/100gFW以下、例えば150mg/100gFW以下又は130mg/100gFW以下である。
【0025】
本発明のブラシカオレラセア植物は、より好ましくは、種子が受託番号FERM BP-22352として国際寄託されているブロッコリー(ブロッコリー系統「SSC-BRO-17-002」)又はその後代に代表される、S-メチルメチオニンを高濃度で含有する形質を有するブラシカオレラセア植物であり、特に好ましくは、種子が受託番号FERM BP-22352として国際寄託されているブロッコリーに代表される、S-メチルメチオニンを高濃度で含有する形質を有するブラシカオレラセア植物であり、最も好ましくは、種子が受託番号FERM BP-22352として国際寄託されているブロッコリー又はその後代である。このブロッコリーは、S-メチルメチオニンの含有量が特に高い。
【0026】
本発明のブラシカオレラセア植物の、別の好ましい一以上の実施形態は、S-メチルメチオニンの植物体内での高濃度を引き起こす遺伝形質を有し、前記遺伝形質が、受託番号FERM BP-22352として代表的な種子が寄託されているブロッコリー、又は、前記ブロッコリーの、S-メチルメチオニンの植物体内での高濃度を引き起こす遺伝形質を有する後代に存在することを特徴とする、ブラシカオレラセア植物である。下記の実施形態では、受託番号FERM BP-22352として代表的な種子が寄託されているブロッコリーの、S-メチルメチオニンが植物体内で高濃度で存在するという形質が、遺伝性の遺伝形質(inheritable genetic trait)であることが確認されている。
【0027】
ここで「S-メチルメチオニンの植物体内での高濃度を引き起こす遺伝形質」とは、植物体、特に、花蕾、茎又は葉、より好ましくは花蕾又は茎、特に好ましくは花蕾、での、S-メチルメチオニン含有量が、好ましくは、48mg/100gFW以上、50mg/100gFW以上、55mg/100gFW以上、60mg/100gFW以上、65mg/100gFW以上又は70mg/100gFW以上である遺伝形質を指し、より好ましくは200mg/100gFW以下、例えば150mg/100gFW以下又は130mg/100gFW以下である遺伝形質を指す。
【0028】
本発明のブラシカオレラセア植物の前記実施形態において、S-メチルメチオニンの植物体内での高濃度を引き起こす遺伝形質が、受託番号FERM BP-22352として代表的な種子が寄託されているブロッコリー、又は、前記ブロッコリーの、S-メチルメチオニンの植物体内での高濃度を引き起こす遺伝形質を有する後代に「存在する」とは、前記ブロッコリー又は前記後代が有する、S-メチルメチオニンの植物体内での高濃度を引き起こす遺伝形質と同じ(実質的に同じ場合を含む)であることを指す。より好ましくは、本発明のブラシカオレラセア植物の前記実施形態において、S-メチルメチオニンの植物体内での高濃度を引き起こす遺伝形質は、受託番号FERM BP-22352として代表的な種子が寄託されているブロッコリー、又は、前記ブロッコリーの、S-メチルメチオニンの植物体内での高濃度を引き起こす遺伝形質を有する後代から得ることができる。当業者にとり、受託番号FERM BP-22352として代表的な種子が寄託されているブロッコリー、又は、前記ブロッコリーの、S-メチルメチオニンの植物体内での高濃度を引き起こす遺伝形質を有する後代から、前記遺伝形質を、適当な技術を用いて他の植物に伝えることは過度の試行錯誤を要さない。
【0029】
本発明は第二に、上記の本発明のブラシカオレラセア植物の部分に関する。ここで本発明のブラシカオレラセア植物の部分とは、花蕾、葉、茎、根、花、細胞、核酸等の植物体の部分を包含するが、好ましくは花蕾、茎又は葉であり、より好ましくは花蕾又は茎であり、特に好ましくは花蕾である。また複数の部分が混合したものであってもよい。
【0030】
本発明は第三に、上記の本発明のブラシカオレラセア植物の種子に関する。種子としては、受託番号FERM BP-22352として国際寄託されている、ブロッコリー系統「SSC-BRO-17-002」の種子が例示できる。
【0031】
<S-メチルメチオニンを高濃度で含有するブラシカオレラセア植物の作出方法1>
本発明は第四に、上記の本発明のブラシカオレラセア植物と、他のブラシカオレラセア植物を交配する交配工程を含む、ブラシカオレラセア植物の作出方法に関する。
【0032】
他のブラシカオレラセア植物は、本発明のブラシカオレラセア植物と交配して後代種子を生産可能な植物であれば特に限定されない。
【0033】
作出されるブラシカオレラセア植物は、片親となる他のブラシカオレラセア植物よりも、S-メチルメチオニン含有量が増した植物であることが好ましく、S-メチルメチオニンを48mg/100gFW以上含有するブラシカオレラセア植物であることが特に好ましい。作出される植物のS-メチルメチオニンの含有量の更に好ましい範囲は、本発明のブラシカオレラセア植物に関して上記の通りである。
【0034】
交配工程で得られた植物から、S-メチルメチオニンの含有量の高い植物を選抜する工程を更に含んでもよい。選抜のために、植物中のS-メチルメチオニンを定量する方法は、本発明のブラシカオレラセア植物に関して記載した通りである。
【0035】
本発明の、S-メチルメチオニンを高濃度で含有するブラシカオレラセア植物の作出方法は、より好ましくは、交配工程に加えて、交配工程で得られた後代植物から、葯培養及び/又は花粉培養により倍加半数体を作出する倍加半数体作出工程を更に含む。葯培養及び/又は花粉培養による倍加半数体の作出は、常法に従って行うことができる。例えば、Palmer, C.E.ら.(1996)「In Vitro Haploid Production in Higher plants」第3巻(Kluwer Academic Publishers,編者:Jain,S.M.、Sopory,S.K.及びVeilleux,R.E.)の第143~172頁に従って行うことができる。
【0036】
<S-メチルメチオニンを高濃度で含有するブラシカオレラセア植物の作出方法2>
本発明は第五に、S-メチルメチオニンを48mg/100gFW以上含有するブラシカオレラセア植物の作出方法であって、
ブラシカオレラセア植物を交配する交配工程と、
前記交配工程で得られた後代植物から、葯培養及び/又は花粉培養により倍加半数体を作出する倍加半数体作出工程と、
前記倍加半数体作出工程により作出された前記倍加半数体から、S-メチルメチオニンを48mg/100gFW以上含有するブラシカオレラセア植物を選抜する選抜工程と
を含む方法に関する。
【0037】
実施例4において、ブラシカオレラセア植物でのS-メチルメチオニンの生産能には複数の劣性的な因子が関与していると推定される。このため、S-メチルメチオニンを48mg/100gFW以上含有するブラシカオレラセア植物を、交配と選抜を繰り返す通常の育種方法で作出することは非常に難しいと考えられる。交配工程と、倍加半数体作出工程と、選抜工程とを含む本実施形態の方法によれば、S-メチルメチオニンを48mg/100gFW以上含有するブラシカオレラセア植物を効率的に作出することが可能となる。
【0038】
倍加半数体作出工程は上記文献等の記載の手順により行うことができる。
【0039】
ブラシカオレラセア植物の具体的な種類は、本発明のブラシカオレラセア植物に関して記載した通りである。
【0040】
作出されるブラシカオレラセア植物のS-メチルメチオニンの含有量及びその他の特性の好ましい範囲は、本発明のブラシカオレラセア植物に関して記載した通りである。
【0041】
選抜のために、植物中のS-メチルメチオニンを定量する方法は、本発明のブラシカオレラセア植物に関して記載した通りである。
【0042】
<S-メチルメチオニン含有組成物>
本発明は第六に、上記の本発明のブラシカオレラセア植物又はその部分或いは前記植物又は部分の処理物を含む、S-メチルメチオニン含有組成物に関する。
【0043】
S-メチルメチオニン含有組成物は医薬組成物、飲食品組成物等の経口摂取組成物であることが好ましい。
【0044】
本発明のブラシカオレラセア植物又はその部分については既述の通りである。
【0045】
前記植物又はその部分の処理物としては、前記植物又はその部分の、乾燥、粉砕、抽出、搾汁等から選択される1種以上の処理による処理物が挙げられ、2種以上の処理の組み合わせによる処理物であってもよい。
【0046】
S-メチルメチオニン含有組成物は、前記植物又はその部分或いは前記植物又は部分の処理物に加えて、他の成分を含むことができる。他の成分としては、医薬、飲食品等の経口摂取の用途に許容される賦形剤、担体、溶媒(水等)が例示できる。
【0047】
<S-メチルメチオニンの製造方法>
本発明は第七に、上記の本発明のブラシカオレラセア植物又はその部分或いは前記植物又は部分の処理物から、S-メチルメチオニンを取得することを含む、S-メチルメチオニンの製造方法に関する。
【0048】
前記植物、前記部分、前記処理物の具体例は既述の通りである。
【0049】
「S-メチルメチオニンを取得する」とは、S-メチルメチオニンを単離された成分として取得することには限らず、前記植物、前記部分又は前記処理物から、相対的に高濃度化された形態のS-メチルメチオニンを取得すること全般を含む。すなわち、取得されるS-メチルメチオニンは、粗精製物の形態であってもよい。
【0050】
前記植物、前記部分又は前記処理物からのS-メチルメチオニンの取得は、カラムクロマトグラフィー、溶媒抽出等の操作により行うことができ、特に限定されない。
【0051】
製造されたS-メチルメチオニンは、医薬組成物、飲食品組成物等の最終目的の用途に用いることができる。
【実施例
【0052】
以下に、実施例及び比較例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
<栽培方法 植物体からのサンプリング方法>
播種後、セルトレイで育苗し定植に適した苗に生育後、圃場に定植し、慣行の栽培管理を行い、花蕾が収穫適期になった時点で花蕾を収穫し収穫物は冷凍庫に保存した。
【0054】
<定量方法 S-メチルメチオニンの定量方法>
上記植物サンプルを、2%リン酸を用いてホモジナイズした。このホモジネートを遠心分離(3000rpm x 10分)して、上清をS-メチルメチオニン抽出液として得た。この上清に含まれるS-メチルメチオニンを、アミノ酸蛍光標識化試薬NBD-F(4-Fluoro-7-nitrobenzofurazan)と反応(60℃、5分)させて蛍光誘導体化し、測定サンプルとした。この測定サンプルを、ODSカラム((株)資生堂)及び蛍光検出器を備え付けたHPLC((株)島津製作所LC10-ADvp)を用いて分析し、S-メチルメチオニンを定量した。
【0055】
S-メチルメチオニンの量を、測定部位(花蕾、茎又は葉)の生鮮重量(FW)100gあたりのS-メチルメチオニン(ビタミンU)の重量(mg)として示す。
【0056】
比較例1
ブロッコリー品種について、2006年春に、既存の親系統及びF1品種30点を栽培し、花蕾を収穫し、サンプリングを行った。S-メチルメチオニン(ビタミンU)を定量した結果を表1に示す。網羅的に確認した結果、本出願人の系統Hの花蕾がS-メチルメチオニンを32.8mg/100gFWの量で含んでおり、最も高いものであった。
【0057】
【表1】
【0058】
実施例1
本発明者は、ブロッコリーの系統1と系統2とを交配した後代に、さらにブロッコリーの系統3を交配した後代から、葯培養により固定させて得た倍加半数体の系統のなかの1つからブロッコリー系統4-1「SSC-BRO-17-002」を得た。
【0059】
驚くべきことに発明者は、SSC-BRO-17-002、及び、SSC-BRO-17-002とブロッコリーの他の系統5とを交配して得た新規F1品種中に、S-メチルメチオニンの含有量が有意に高いという特徴を見出した(実施例2、3参照)。
【0060】
なお、前記したブロッコリー系統「SSC-BRO-17-002」の種子は、2017年12月15日付で独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に国際寄託されている(寄託者が付した識別のための表示:SSC-BRO-17-002、受託番号:FERM BP-22352)。
【0061】
実施例2
S-メチルメチオニンを含むブロッコリー植物の含有量の変動を確認するために、圃場1又は圃場2にて2012年8月~2012年9月に播種、定植した4品種について、S-メチルメチオニンの成分分析を行い、季節変動を確認した。結果を表2に示す。測定部位として花蕾を用いた。実施例1に記載の新規F1品種は、他のブロッコリー既存品種と比較してS-メチルメチオニンの含有量が非常に高いことが示された。
【0062】
【表2】
【0063】
実施例3
表3に示すブロッコリー系統を2015年に圃場1にて栽培し、花蕾中のS-メチルメチオニンの含有量を測定した。測定は各系統の3個体から収穫した花蕾を用いて行い、その平均値を求めた。結果を表3に示す。
【0064】
系統5及びSSC-BRO-17-002は実施例1に記載のものであり、系統Gは比較例1に記載のものである。
【0065】
実施例1に記載の通り、親系統1と親系統2とを交配した後代に、さらに親系統3を交配した後代から、葯培養により固定させて得た倍加半数体の系統の中から系統4-1(SSC-BRO-17-002)及び、表3に示す系統4-2、4-3、4-4、4-5及び4-6を得た。
【0066】
また、系統7は、系統5と系統8の交雑後代から選抜したものである。
【0067】
この結果、系統4-1、4-3、4-5、4-6及び系統7において、S-メチルメチオニンの含有量が48mg/100gFW以上含まれることが分かった。
【0068】
【表3】
【0069】
実施例4(遺伝様式)
実施例1で作出されたブロッコリー系統4-1(SSC-BRO-17-002)、実施例1に記載のブロッコリー系統5、前記系統4-1と前記系統5とのF1雑種である実施例1に記載の新規F1品種、ブロッコリーの他の系統6、前記系統4-1と前記系統6とのF1雑種であるF1-2、及び前記F1-2を自殖したF2後代であるF1-2-1の種子を採種、播種し、S-メチルメチオニン含有量の遺伝様式を調査した。サンプリング数は、親系統(系統4-1(SSC-BRO-17-002)、系統5、系統6)は6個体、F1系統(新規F1品種、F1-2)は9個体、F2後代(F1-2-1)は95個体について、花蕾のS-メチルメチオニン含有量の分布を確認するとともに平均値を求めた。F2後代(F1-2-1)の集団は図1に示す分布であった。表4に各系統のS-メチルメチオニン含有量の平均値を示す。
【0070】
図1に示す通り、F2後代(F1-2-1)の95個体の大部分はS-メチルメチオニン含有量が低く、且つ、平均値も低い(24mg/100gFW)。また、F2後代(F1-2-1)の95個体を、S-メチルメチオニン含有量の昇順で並べた結果を図2に示す。最低値5mg/100gFWから最高値103mg/100gFWまで分散状態を示した。このように系統4-1と系統6のF2後代の個体別の測定値から、複数の劣性的な因子が関与していると推定されるが、詳細は不明である。
【0071】
【表4】
【0072】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2