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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】複合シール材
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/10 20060101AFI20220509BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20220509BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
F16J15/10 N
F16J15/10 C
H01L21/302 101G
H01L21/31 C
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020533470
(86)(22)【出願日】2019-07-25
(86)【国際出願番号】 JP2019029282
(87)【国際公開番号】W WO2020026943
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2020-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2018145825
(32)【優先日】2018-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】株式会社バルカー
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】キム サンホ
(72)【発明者】
【氏名】黒田 路
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/113417(WO,A1)
【文献】特開2006-090463(JP,A)
【文献】特開2006-220229(JP,A)
【文献】特開2005-164027(JP,A)
【文献】特開2014-214778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00-15/14
H01L 21/3065
H01L 21/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と第2部材とが左右に隣接されてなる環状の複合シール材であって、
前記第1部材が、
シール本体部と、
前記シール本体部から、前記複合シール材の厚さ方向の上方側に向かって延設されたリップ部と、
を備え、
前記第2部材が、
基部と、
前記基部から、前記複合シール材の厚さ方向の上方側に向かって延設された延設片と、
を備え、
前記延設片は、隣接する前記第1部材に向かって傾斜姿勢で延出されており、
前記基部の底部は、平面で構成され、
前記第1部材のリップ部は、
隣接する前記第2部材とは逆側の外方に向かって傾斜姿勢で延出されていることを特徴とする複合シール材。
【請求項2】
前記リップ部の傾斜角度が、30~60度の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の複合シール材。
【請求項3】
前記第1部材のシール本体部には、
隣接する前記第2部材とは逆側の側部に膨出部が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の複合シール材。
【請求項4】
前記シール本体部の底部は、
平面で構成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の複合シール材。
【請求項5】
前記シール本体部の底部には、
凹部が設けられていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の複合シール材。
【請求項6】
前記延設片の傾斜角度が、50~80度の範囲内であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の複合シール材。
【請求項7】
前記基部には、
前記第1部材に嵌め合わされる嵌合凸部が設けられていることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の複合シール材。
【請求項8】
前記第1部材が、弾性部材から成り、
前記第2部材が、前記第1部材よりも硬質の材料から成ることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の複合シール材。
【請求項9】
前記第1部材と第2部材とが、互いに接着剤で接着されていることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の複合シール材。
【請求項10】
前記複合シール材は、
一方部材と他方部材との間を封止するのに用いられ、前記一方部材に設けられたシール溝内に装着した際において、
前記シール溝の一方壁側に前記第1部材が位置し、他方壁側に前記第2部材が位置することを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の複合シール材。
【請求項11】
前記複合シール材の厚さ方向の最大高さが、前記シール溝の最大深さに対して、1.10~1.70倍の範囲内であることを特徴とする請求項10に記載の複合シール材。
【請求項12】
前記複合シール材の左右方向における第1部材の端部から第2部材の端部までの最大幅が、前記シール溝の開口の最狭幅に対して、1.01~1.30倍の範囲内であることを特徴とする請求項10または11に記載の複合シール材。
【請求項13】
前記シール溝が、
あり溝、片あり溝、角溝のいずれかであることを特徴とする請求項10~12のいずれか一項に記載の複合シール材。
【請求項14】
前記一方部材と他方部材が、半導体製造装置であることを特徴とする請求項10~13のいずれか一項に記載の複合シール材。
【請求項15】
前記一方部材に設けられたシール溝の外側に、さらに別の溝が設けられており、前記別の溝内には、断面略四角形状のスペーサー部材が配設されていることを特徴とする請求項10~14のいずれか一項に記載の複合シール材。
【請求項16】
前記スペーサー部材が別の溝に配設された際において、
前記別の溝の開口から前記他方部材側に突出する前記スペーサー部材の突出量が0.30~1.00mmの範囲内であることを特徴とする請求項15に記載の複合シール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空状態で使用される複合シール材に関し、例えばドライエッチング装置やプラズマCVD装置などの半導体製造装置に使用される複合シール材に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス産業の発達に伴い、IC(集積回路)、LSI(大規模集積回路)などの電子部品の材料となる半導体の製造技術が、特にパーソナルコンピュータなどのように高精細化、薄型化などに伴って著しく進歩している。
【0003】
このため、半導体製造装置に使用される部材に対する要求は厳しくなっており、例えばドライエッチング装置やプラズマCVD装置などの半導体製造装置に使用されるシール材も、その例外ではないものとなっている。
【0004】
ところで半導体製造装置に用いられるシール材は、基本的な性能として真空シール性能が必要である。そしてシール材の装着箇所によっては、耐プラズマ性や耐腐食ガス性などの性能を併せ持つことが要求される。
【0005】
従来より、このような真空シール性能と耐プラズマ性、さらには耐腐食ガス性が求められるシール材として、図10に示したように、フッ素ゴムからなる第1部材102と、第1部材102よりも硬質の材料であり、耐プラズマ性や耐腐食ガス性が良好なフッ素樹脂からなる第2部材104と、から構成された複合シール材100が用いられている(例えば特許文献1)。
【0006】
このような複合シール材100は、半導体製造装置150の一方部材152に設けられたシール溝154に装着する際、例えば大気側に位置するシール溝154の一方壁156側に第1部材102が配置され、エッチングガスやプラズマに曝される側に位置するシール溝154の他方壁158側に第2部材104が配置される。
【0007】
そして、この状態で図11に示したように、一方部材152と他方部材160とを接近させて、複合シール材100が一方部材152と他方部材160の間で押圧されることにより、第1部材102によって一方部材152と他方部材160との間のシール状態を確保するとともに、第2部材104によって、エッチングガスやプラズマが第1部材102側に侵入することを防止し、これにより第1部材102が劣化することなくシール性能を長期に亘って維持することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5126995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、このような従来の複合シール材100は、断面形状において上下対称の塊状であるため、図11に示したように、一方部材152のシール溝154に複合シール材100を装着し、一方部材152と他方部材160とを接近させて一方部材152と他方部材160との間を封止する際には、強い押圧力が必要となる。
【0010】
すなわち、複合シール材100は一方部材152と他方部材160との間で押圧された際に変形するものの、塊状であるが故に圧縮時の反力が強く、複合シール材100によるシール性能を得るためには複合シール材100を強い押圧力で押圧する必要がある。
【0011】
このように強い押圧力を複合シール材100に作用させると、第2部材104とシール溝154の他方壁158とが接触され、これを繰り返すことで第2部材104が摩耗し、パーティクルが生ずるおそれがある。
【0012】
パーティクルの発生は、シール性能に影響を及ぼすとともに、半導体製造装置150における不具合の原因にもなるため、避けたい事象の一つであり、新たな複合シール材が求められているのが実情である。
【0013】
本発明は、このような実情に鑑みなされたものであって、真空シール性、耐プラズマ性、耐腐食ガス性などの性能を併せ持ち、使用時に強い押圧力を必要とせず、パーティクルを生ずるおそれがなく、長期に亘って真空シール性能を維持することのできる複合シール材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前述した従来技術における問題点を解決するために発明されたものであって、本発明の複合シール材は、
第1部材と第2部材とが左右に隣接されてなる環状の複合シール材であって、
前記第1部材が、
シール本体部と、
前記シール本体部から、前記複合シール材の厚さ方向の上方側に向かって延設されたリップ部と、
を備え、
前記第2部材が、
基部と、
前記基部から、前記複合シール材の厚さ方向の上方側に向かって延設された延設片と、
を備え、
前記延設片は、隣接する前記第1部材に向かって傾斜姿勢で延出されており、
前記基部の底部は、平面で構成され、
前記第1部材のリップ部は、
隣接する前記第2部材とは逆側の外方に向かって傾斜姿勢で延出されていることを特徴とする。
【0015】
さらに本発明の複合シール材は、
前記複合シール材は、
一方部材と他方部材との間を封止するのに用いられ、前記一方部材に設けられたシール溝内に装着した際において、
前記シール溝の一方壁側に前記第1部材が位置し、他方壁側に前記第2部材が位置することを特徴とする。
【0016】
このようなリップ部が設けられていれば、複合シール材をシール溝に装着し、一方部材と他方部材とを近接させてシール性能を得る際にも、リップ部がまず先に他方部材と当接してシール状態を確保することができるため、弱い押圧力でシール性能を得ることができる。
【0017】
しかも第2部材がシール溝の他方壁と接触される際も、弱い力でしか第2部材がシール溝の他方壁と接触することがない。したがって、本発明の複合シール材であれば、パーティクルを生ずるおそれがなく、長期に亘って真空シール性能を維持することができる。
さらに、このように第2部材が構成されていれば、シール溝内に複合シール材を装着し、一方部材と他方部材とを近接させてシール性能を得る際に、延設片が第1部材のリップ部の次に他方部材と当接することとなるが、延設片は傾斜姿勢であるため、弱い押圧力で変形されることとなり、複合シール材の反力を弱めることができる。
またこの時、延設片はシール溝の他方壁と他方部材の両方に当接されることとなるため、延設片によってエッチングガスやプラズマが第1部材側に侵入することを確実に防止することができる。
また、このように基部の底部が平面であれば、シール溝の底壁と面接触されることとなるため、シール溝に対する複合シール材の座りが良好であり、シール溝内において複合シール材が転動してしまうことを確実に防止することができる。さらにシール溝の底壁と基部の底部とが当接する範囲が広いため、エッチングガスやプラズマが第1部材側に侵入してしまうことを確実に防止することができる。
【0018】
また本発明の複合シール材は、
前記リップ部の傾斜角度が、30~60度の範囲内であることを特徴とする。
【0019】
このような傾斜角度であれば、複合シール材をシール溝に装着し、一方部材と他方部材とを接近させてシール性能を得る際に、リップ部が確実に他方部材と当接して徐々にシール本体部に向かって倒れていくことになるため、弱い押圧力で確実にシール性能を得ることができる。
【0020】
また本発明の複合シール材は、
前記第1部材のシール本体部には、
隣接する前記第2部材とは逆側の側部に膨出部が設けられていることを特徴とする。
【0021】
このように膨出部が設けられていれば、シール溝の形状があり溝や片あり溝であった場合に、シール溝内に装着された複合シール材が、シール溝から脱落してしまうことを確実に防止することができる。
【0022】
すなわち、膨出部がシール溝の傾斜面(一方壁)と底壁との間に嵌り込むことになり、複合シール材がシール溝から脱落してしまうことを防止することができる。
【0023】
また本発明の複合シール材は、
前記シール本体部の底部は、
平面で構成されていることを特徴とする。
【0024】
このように平面であれば、シール溝の底壁とシール本体部の底部とが面接触されることとなるため、シール溝に対する複合シール材の座りが良好であり、シール溝内において複合シール材が転動してしまうことを確実に防止することができる。
【0025】
また本発明の複合シール材は、
前記シール本体部の底部には、
凹部が設けられていることを特徴とする。
【0026】
このように凹部が設けられていれば、シール溝内に複合シール材を装着し、一方部材と他方部材とを接近させてシール性能を得る際に、複合シール材が押圧されて変形し複合シール材の一部が凹部内に入り込むこととなる。
【0027】
したがって、凹部が設けられていない状態と比べて、凹部が設けられている状態では、複合シール材の反力は弱まり、弱い押圧力で確実にシール性能を得ることができる。
【0031】
また本発明の複合シール材は、
前記延設片の傾斜角度が、50~80度の範囲内であることを特徴とする。
【0032】
特にこのような傾斜角度であれば、シール溝内に複合シール材を装着し、一方部材と他方部材とを近接させてシール性能を得る際に、シール溝の他方壁と第2部材が当接する範囲が広くなり、延設片によってエッチングガスやプラズマが第1部材側に侵入してしまうことを確実に防止することができる。
【0036】
また本発明の複合シール材は、
前記基部には、
前記第1部材に嵌め合わされる嵌合凸部が設けられていることを特徴とする。
【0037】
このように嵌合凸部が設けられていれば、第2部材と第1部材とが確実に一体化されるため、シール溝から第1部材と第2部材のいずれか一方が脱落してしまうことを確実に防止することができる。
【0038】
さらに、第1部材と第2部材が確実に一体化されるため、複合シール材の取り扱い性が良好である。
【0039】
また本発明の複合シール材は、
前記第1部材が、弾性部材から成り、
前記第2部材が、前記第1部材よりも硬質の材料から成ることを特徴とする。
【0040】
このように構成されていれば、第1部材でシール性を確保するとともに、第2部材で例えばエッチングガスやプラズマが第1部材側に侵入することを防止することができる。したがって、複合シール材ひとつで、真空シール性、耐プラズマ性、耐腐食ガス性などの性能を併せ持つことができる。
【0041】
また本発明の複合シール材は、
前記第1部材と第2部材とが、互いに接着剤で接着されていることを特徴とする。
【0042】
このように第1部材と第2部材が接着されていれば、何れか一方がシール溝から脱落したり、転動してしまうことを確実に防止することができる。
【0043】
また本発明の複合シール材は、
前記複合シール材の厚さ方向の最大高さが、前記シール溝の最大深さに対して、1.10~1.70倍の範囲内であることを特徴とする。
【0044】
このような範囲内の最大高さであれば、シール溝内に複合シール材を装着し、一方部材と他方部材とを近接させてシール性能を得る際において、リップ部が確実に他方部材と当接してシール性を確保することができる。
【0045】
また本発明の複合シール材は、
前記複合シール材の左右方向における第1部材の端部から第2部材の端部までの最大幅が、前記シール溝の開口の最狭幅に対して、1.01~1.30倍の範囲内であることを特徴とする。
【0046】
このような範囲内の最大幅であれば、シール溝が特にあり溝や片あり溝であった場合に、複合シール材がシール溝内に留まり、シール溝から複合シール材が脱落してしまうことを確実に防止することができる。
【0047】
また本発明の複合シール材は、
前記シール溝が、
あり溝、片あり溝、角溝のいずれかであることを特徴とする。
【0048】
このようなシール溝であれば、特に本発明の複合シール材を好適に用いることができる。
【0049】
また本発明の複合シール材は、
前記一方部材と他方部材が、半導体製造装置であることを特徴とする。
【0050】
特に半導体製造装置であれば、求められる特性が真空シール性、耐プラズマ性、耐腐食ガス性などの性能を併せ持つこと、およびパーティクルの発生が無いことなど多岐にわたるが、本発明の複合シール材であれば、これらの性能を併せ持ち、しかもパーティクルの発生も確実に防止することができる。
【0051】
また本発明の複合シール材は、
前記一方部材に設けられたシール溝の外側に、さらに別の溝が設けられており、前記別の溝内には、スペーサー部材が配設されていることを特徴とする。
【0052】
このようにさらにスペーサー部材が配設されていれば、一方部材と他方部材とが、直接的に接触してしまうことを確実に防止することができる。したがって、メタルタッチによる金属パーティクルの発生を確実に防止することができる。
【0053】
また本発明の複合シール材は、
前記スペーサー部材が別の溝に配設された際において、
前記別の溝の開口から前記他方部材側に突出する前記スペーサー部材の突出量が0.30~1.00mmの範囲内であることを特徴とする。
【0054】
このような突出量であれば、一方部材と他方部材とが、直接的に接触してしまうことを確実に防止することができるとともに、複合シール材に求められるシール性能を長期に亘って確実に維持することができる。
【発明の効果】
【0055】
本発明の複合シール材によれば、真空シール性能、耐プラズマ性、耐腐食ガス性などの性能を併せ持ち、使用時に強い押圧力を必要とせず、パーティクルを生ずるおそれがなく、長期に亘って真空シール性能を維持することのできる複合シール材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1図1は、本発明の複合シール材が装着される半導体製造装置の概略図である。
図2図2は、図1に示した半導体製造装置のA-A断面を拡大して示した断面図である。
図3図3は、本発明の複合シール材の要部を拡大して示した断面図である。
図4図4は、本発明の複合シール材をシール溝内に装着し、他方部材をリップ部に当接した状態を示した断面図である。
図5図5は、本発明の複合シール材をシール溝内に装着し、一方部材と他方部材とを接近させて複合シール材によるシール性が付与された状態を示した断面図である。
図6図6は、本発明の複合シール材の他の実施形態を示した断面図である。
図7図7は、本発明の複合シール材を片あり溝に装着した状態を示した断面図である。
図8図8は、本発明の複合シール材を角溝に装着した状態を示した断面図である。
図9図9は、シール溝の外側に別の溝が設けられ、別の溝内に、スペーサー部材が配設された状態を示した断面図である。
図10図10は、従来の複合シール材をシール溝に装着した状態を示した断面図である。
図11図11は、従来の複合シール材をシール溝内に装着し、一方部材と他方部材とを接近させて複合シール材によるシール性が付与された状態を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づきより詳細に説明する。
【0058】
本発明の複合シール材10は、図1および図2に示したように、半導体製造装置80の一方部材50に設けられたシール溝52内に装着され、一方部材50と他方部材70との間を封止するのに用いられるものである。
【0059】
そして断面形状としては、図2および図3に示したように、シール溝52(本実施形態ではあり溝)内に装着された状態において、シール溝52の一方壁54側(本実施形態では大気側)に位置する第1部材20と、シール溝52の他方壁56側(本実施形態では腐食性ガス、プラズマなどの厳しい環境側)に位置する第2部材40とを備えており、第1部材20と第2部材40とは互いに連結され、一つの複合シール材10を構成している。
【0060】
このような第1部材20は弾性部材から成り、弾性部材としては、例えばゴムを挙げることができる。なお、ゴムとしては、天然ゴム、合成ゴムのいずれであっても良く、中でもフッ素ゴムであることが望ましい。
【0061】
フッ素ゴムとしては、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、フッ化ビニリデン/トリフルオロクロロエチレン系共重合体、フッ化ビニリデン/ペンタフルオロプロピレン系共重合体等の2元系のフッ化ビニリデン系ゴム、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル系共重合体、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体等の3元系のフッ化ビニリデンゴムやテトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル系共重合体、熱可塑性フッ素ゴムなどを挙げることができる。
【0062】
一方、第2部材40は、第1部材20よりも硬質の材料である、例えば合成樹脂から構成されていることが好ましい。
【0063】
合成樹脂としては、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリエーテルケトン樹脂から選択した1種以上の合成樹脂を挙げることができる。
【0064】
中でも特にフッ素樹脂が好ましく、フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)樹脂、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)樹脂、ポリビニリデンフルオライト(PVDF)樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)樹脂、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体(ECTFE)樹脂、ポリビニルフルオライド(PVF)樹脂などを挙げることができる。この中で、耐熱性、耐腐食性ガス、耐プラズマ性などを考慮すれば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂が最適である。
【0065】
このような弾性部材からなる第1部材20は、一方部材50に設けられたシール溝52の底壁58側に位置するシール本体部22と、このシール本体部22からシール溝52の開口60側に向かって延設されたリップ部24とを備えている。
【0066】
リップ部24は、隣接する第2部材40とは逆側の外方に向かって傾斜姿勢で延出されており、図4に示したように、一方部材50と他方部材70とを近接させた際には、初めに他方部材70と接する部位であり、シール性が付与される部位である。
【0067】
リップ部24の傾斜角度θ1としては、好ましくは30~60度の範囲内、より好ましくは35~50度の範囲内、さらに好ましくは40~45度の範囲内である。
【0068】
このような傾斜角度θ1であれば、複合シール材10をシール溝52に装着し、一方部材50と他方部材70とを近接させてシール性能を得る際に、リップ部24が確実に他方部材70と接触して徐々にシール本体部22側に倒れていくことになるため、弱い押圧力で確実にシール性能を得ることができる。
【0069】
また第1部材20のシール本体部22には、隣接する第2部材40とは逆側(一方壁54側)の側部に膨出部26が設けられている。
【0070】
この膨出部26により、シール溝52内に装着された複合シール材10が、シール溝52から脱落してしまうことを確実に防止することができる。
【0071】
すなわち、膨出部26がシール溝52の一方壁54と底壁58との間に嵌り込むことになり、複合シール材10がシール溝52から脱落してしまうことを確実に防止することができる。
【0072】
さらにシール本体部22の底部28は、平面で構成されており、これによりシール溝52の底壁58と底部28とが面接触されることとなる。したがってシール溝52に対する複合シール材10の座りが良好であり、シール溝52内において複合シール材10が転動してしまうことを確実に防止することができる。
【0073】
なお第1部材20は、シール溝52内に装着された際に、シール本体部22がシール溝52内に位置し、リップ部24の大部分がシール溝52の開口60から他方部材70側に突出されるようになっている。
【0074】
一方、第1部材20と隣接する第2部材40は、底壁58側に位置する基部42と、この基部42から、複合シール材10の厚さ方向の上方側(他方部材70側)に向かって延設された延設片44と、を備えている。
【0075】
このような第2部材40は、シール溝52内に装着された際に、基部42がシール溝52内に位置し、延設片44の大部分がシール溝52の開口60から他方部材70側に突出されるようになっている。
【0076】
延設片44は、隣接する第1部材20に向かって傾斜姿勢で延出されており、これによりシール溝52内に複合シール材10を装着し、一方部材50と他方部材70とを近接させてシール性能を得る際に、図5に示したように、延設片44が第1部材20のリップ部24の次に他方部材70と当接することとなる。この際、延設片44は傾斜姿勢であるため、弱い押圧力で変形されることとなり、複合シール材10の反力を弱めることができる。
【0077】
またこの時、延設片44はシール溝52の他方壁56と他方部材70の両方に当接されることとなるため、確実にエッチングガスやプラズマが第1部材20側に侵入することを防止することができる。
【0078】
なお、延設片44の傾斜角度θ2は、好ましくは50~80度の範囲内、より好ましくは55~75度の範囲内、さらに好ましくは60~70度の範囲内である。
【0079】
このような傾斜角度θ2とすれば、シール溝52内に複合シール材10を装着し、一方部材50と他方部材70とを近接させてシール性能を得る際に、シール溝52の他方壁56と第2部材40が当接する範囲が広くなり、エッチングガスやプラズマが第1部材20側に侵入してしまうことを確実に防止することができる。
【0080】
また、延設片44の厚みT3は、複合シール材10の左右方向の第1部材20の端部から第2部材40の端部までの最大幅T1に対し、好ましくは5~15%の範囲内、より好ましくは8~13%の範囲内、さらに好ましくは10~12%の範囲内である。
【0081】
このように延設片44の厚みT3を設定すれば、弱い押圧力で変形されることとなり、複合シール材10の反力を弱めることができる。
【0082】
さらに基部42の底部46は、平面で構成されており、これにより基部42の底部46とシール溝52の底壁58とが面接触されることとなる。したがってシール溝52に対する複合シール材10の座りが良好であり、シール溝52内において複合シール材10が転動してしまうようなことを確実に防止することができる。
【0083】
また底部46が平面であれば、シール溝52の底壁58と基部42の底部46との当接範囲が広くなるため、確実にエッチングガスやプラズマを第1部材20側に侵入させないようにすることができる。
【0084】
さらに基部42には、隣接する第1部材20と嵌め合わされる嵌合凸部48が設けられており、これにより第2部材40と第1部材20とが確実に一体化されることとなる。したがって、シール溝52から第1部材20と第2部材40のいずれか一方が脱落してしまうことを確実に防止することができる。
【0085】
また、第1部材20と第2部材40が確実に一体化されるため、複合シール材10の取り扱い性を向上させることができる。
【0086】
このように嵌合凸部48を介して第1部材20と第2部材40とを一体化させる際には、併せて互いを接着剤、好ましくは耐熱性接着剤で接着すると良い。
【0087】
なお、図2に示したようなシール溝52に本発明の複合シール材10を装着した際には、複合シール材10の厚さ方向の最大高さH1が、シール溝52の最大深さH2に対して、好ましくは1.10~1.70倍の範囲内、より好ましくは1.20~1.60倍の範囲内、さらに好ましくは1.35~1.40倍の範囲内であると良い。
【0088】
このような範囲内の最大高さH1であれば、シール溝52内に複合シール材10を装着し、一方部材50と他方部材70とを近接させてシール性能を得る際において、リップ部24が確実に他方部材70と当接してシール性能を得ることができる。
【0089】
さらに複合シール材10の左右方向の第1部材20の端部から第2部材40の端部までの最大幅T1が、シール溝52の開口60における最狭幅T2に対して、好ましくは1.01~1.30倍の範囲内、より好ましくは1.02~1.20倍の範囲内、さらに好ましくは1.04~1.10倍の範囲内であると良い。
【0090】
このような範囲内の最大幅T1であれば、シール溝52が特にあり溝や片あり溝であった場合に、複合シール材10がシール溝52内に留まり、シール溝52から脱落してしまうことを確実に防止することができる。
【0091】
このように第1部材20と第2部材40とが構成されてなる複合シール材10は、図2に示したように、シール溝52内に配設された後、図4に示したように一方部材50と他方部材70とを接近させていくと、初めにリップ部24が他方部材70と当接され、一方部材50と他方部材70との間の封止が開始される。
【0092】
そして、さらに一方部材50と他方部材70とを接近させていくと図5に示したように、リップ部24がシール本体部22に向かって倒れていき、リップ部24の外側面が他方部材70と大面積で当接される。
【0093】
したがって、一方部材50と他方部材70との間のシール性を確保しつつ、またリップ部24が他方部材70によって倒されるだけであるため、強い押圧力を必要とすることなく、確実に所望のシール性を得ることができる。
【0094】
またこの際、第2部材40の延設片44も他方部材70によって第1部材20側に倒されながら他方部材70とシール溝52の他方壁56とに当接することとなるため、確実にエッチングガスやプラズマを第1部材20側に侵入させないようにすることができる。
【0095】
しかも、延設片44の厚みが上記したように設定されているため、シール溝52の他方壁56と当接した際にも、強く摺動することがなく、パーティクルを生ずるおそれもないものである。
【0096】
以上、本発明の複合シール材10について、好ましい実施形態を説明したが、本発明の複合シール材10は、上記した実施形態に限定されるものではなく、例えば図6(a)に示したように、第1部材20のシール本体部22の底部28に凹部90が設けられていても良いものである。
【0097】
このように凹部90が設けられていれば、シール溝52内に複合シール材10を装着し、一方部材50と他方部材70とを近接させてシール性能を得る際に、複合シール材10が押圧されて複合シール材10の一部が凹部90内に入り込むこととなる。したがって、凹部90が設けられていない状態と比べて凹部90が設けられている状態では、複合シール材10の反力は弱まり、弱い押圧力で確実にシール性能を得ることができる。
【0098】
さらには図6(b)に示したように、第1部材20の膨出部26の形状を断面略三角状としたり、図6(c)に示したように、膨出部26そのものが無い実施形態であっても、場合によっては良いものである。
【0099】
また、上記した実施形態では、シール溝52があり溝である場合を例にして説明したが、他にも図7に示したように片あり溝の場合や、図8に示したような角溝の場合であっても構わないものである。
【0100】
さらに、図9に示したように、一方部材50に設けられたシール溝52の外側(大気側)に、さらに別の溝92が設けられ、この別の溝92内に、スペーサー部材94が配設されていても良いものである。このようなスペーサー部材94の材質としては、耐熱性、耐疲労性、耐薬品性、耐加水分解性などに優れたPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)が好適である。
【0101】
スペーサー部材94がさらに別の溝92内に配設されている場合には、一方部材50と他方部材70とが、直接的に接触してしまうことを確実に防止することができる。
【0102】
すなわち、一方部材50と他方部材70が金属製である際に、メタルタッチを防止することができ、金属パーティクルが発生してしまうことを確実に防止することができる。
【0103】
なお、スペーサー部材94が別の溝92に配設された際においては、別の溝92の開口96から他方部材70側に突出するスペーサー部材94の突出量H3は、好ましくは0.30~1.00mmの範囲内、より好ましくは0.40~0.80mmの範囲内、さらに好ましくは0.45~0.55mmの範囲内である。
【0104】
このような突出量H3であれば、一方部材50と他方部材70とが、直接的に接触してしまうことを確実に防止することができるとともに、複合シール材10に求められるシール性能を長期に亘って確実に維持することができる。
【0105】
このように本発明の複合シール材10は、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能なものである。
【符号の説明】
【0106】
10 複合シール材
20 第1部材
22 シール本体部
24 リップ部
26 膨出部
28 底部
40 第2部材
42 基部
44 延設片
46 底部
48 嵌合凸部
50 一方部材
52 シール溝
54 一方壁
56 他方壁
58 底壁
60 開口
70 他方部材
80 半導体製造装置
90 凹部
92 別の溝
94 スペーサー部材
96 開口
100 複合シール材
102 第1部材
104 第2部材
150 半導体製造装置
152 一方部材
154 シール溝
156 一方壁
158 他方壁
160 他方部材
T1 複合シール材の最大幅
T2 シール溝の開口における最狭幅
θ1 リップ部の傾斜角度
θ2 延設片の傾斜角度
H1 複合シール材の厚さ方向の最大高さ
H2 シール溝の最大深さ
H3 スペーサー部材の突出量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11