(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】固有の方向性耳介手がかりを生成するヘッドフォン装置
(51)【国際特許分類】
H04R 1/10 20060101AFI20220509BHJP
H04R 1/34 20060101ALI20220509BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
H04R1/10 101Z
H04R1/34 310
H04R1/02 101Z
(21)【出願番号】P 2020540619
(86)(22)【出願日】2018-01-24
(86)【国際出願番号】 EP2018051618
(87)【国際公開番号】W WO2019145023
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】504147933
【氏名又は名称】ハーマン ベッカー オートモーティブ システムズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルフル, ゲナロ
【審査官】西村 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-094942(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0068028(KR,A)
【文献】国際公開第2004/082329(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0054604(KR,A)
【文献】特開2014-155229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザ(2)の耳を少なくとも部分的に取り囲むように配置され、それによって前記ユーザ(2)の前記耳の周りに少なくとも部分的に囲まれた容積を画定するよう構成されたイヤーカップ(14)であって、前記イヤーカップ(14)が、前記イヤーカップ(14)が前記ユーザの前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記ユーザの前記耳を少なくとも部分的に枠入れするように構成された少なくとも部分的に中空のフレーム(15)を備え、前記フレーム(15)が、第1の空洞(34、39)を備え、前記第1の空洞が、前記フレーム(15)の壁部分によって形成されている
、イヤーカップ(14)と、
前記第1の空洞(34、39)の壁部分内に配置された少なくとも1つのスピーカ(26)であって、前記第1の空洞(34、39)の壁部分が、
第1の導波管(32、36)を形成しており、前記第1の導波管(32、36)は、前記第1の導波管(32、36)の導波管出力口(42、44)を通して、前記スピーカ(26)から放射された音を導くように構成さ
れており、前記第1の導波管(32、36)の前記導波管出力口(42、44)が、前記第1の空洞(34、39)に1つ以上の開口部を備える
、スピーカ(26)とを備え
、
前記ユーザの前記耳は、耳甲介、耳甲介舟、耳介、及び外耳道入口を備える、ヘッドフォン装置。
【請求項2】
前記イヤーカップ(14)が前記ユーザ(2)の前記耳を取り囲むように配置されているとき、正中面への前記フレーム(15)の仮想垂直投影が、前記正中面への前記ユーザの外耳の仮想垂直投影の少なくとも中央部分を少なくとも部分的に枠入れし、前記正中面が、前記耳の間の中間で前記ユーザの頭部と交差し、それによって前記ユーザの頭部を本質的に鏡面対称な左右半分に分割する、請求項1に記載のヘッドフォン装置。
【請求項3】
前記正中面への前記ユーザの外耳の前記仮想垂直投影の中央部分は、前記正中面への前記フレーム(15)の前記仮想垂直投影によって少なくとも部分的に枠入れされ、
前記ユーザの耳の
前記耳甲介の一部と、
前記ユーザの耳の前記耳甲介の全
部と、
前記ユーザの耳の
前記耳甲介舟の一部と、
前記ユーザの耳の前記耳甲介舟の全
部と、
前記ユーザの耳の前記耳
介の30%以上、45%以上、または60%以上の少なくとも1つの前記正中面への前記仮想垂直投
影を含む、請求項2に記載のヘッドフォン装置。
【請求項4】
前記第1の空洞(39)の壁部分及び前記少なくとも1つのスピーカ(26)は、第1の音源装置を形成し、
前記少なくとも1つのスピーカ(26)は、第1の側面及び第2の側面を有する膜を備え、
前記膜の前記第1の側面は、前記ユーザ(2)の前記耳の周りの前記少なくとも部分的に囲まれた容積に隣接し、
前記第1の空洞(39)の壁部分は、前記少なくとも1つのスピーカ(26)の前記膜の前記第2の側面を取り囲み、
前記第1の空洞(39)の前記導波管出力口(44)は、前記イヤーカップ(14)の外側の自由空気に向かって開き、前記第1の空洞(39)の壁部分は、それによって後部導波管(36)を形成する
、請求項
1~3のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【請求項5】
前記フレーム(15)内に第2の空洞(34)をさらに備え、
前記第1の空洞(39)の壁部分、前記第2の空洞(34)の壁部分、及び前記少なくとも1つのスピーカ(26)は、第1の音源装置を形成し、
前記少なくとも1つのスピーカ(26)は、第1の側面及び第2の側面を有する膜を備え、
前記少なくとも1つのスピーカ(26)は、前記第1の空洞(39)及び前記第2の空洞(34)の共通の壁部分内に配置され、
前記第2の空洞(34)の壁部分は、前記少なくとも1つのスピーカ(26)の前記膜の前記第1の側面を取り囲み、
前記少なくとも1つの
スピーカ(26)の前記膜の前記第2の側面に隣接する体積は、前記第1の空洞(39)の壁部分によって、及び前記少なくとも1つのスピーカ(26)の一部分によって完全に囲まれ、
前記第2の空洞(34)の前記導波管出力口(42)は、前記ユーザ(2)の前記耳の周りの前記少なくとも部分的に囲まれた
容積に向かって開き、前記第2の空洞(34)の壁部分は、それによって前部導波管(32)を形成する、請求項1~3のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【請求項6】
前記フレーム(15)内に第2の空洞(34)をさらに備え、
前記第1の空洞(39)の壁部分、前記第2の空洞(34)の壁部分、及び前記少なくとも1つのスピーカ(26)は、第1の音源装置を形成し、
前記少なくとも1つのスピーカ(26)は、第1の側面及び第2の側面を有する膜を備え、
前記少なくとも1つのスピーカ(26)は、前記第1の空洞(39)及び前記第2の空洞(34)の共通の壁部分内に配置され、
前記第2の空洞(34)の壁部分は、前記少なくとも1つのスピーカ(26)の前記膜の前記第1の側面を取り囲み、
前記第2の空洞(34)の壁部分は、前記少なくとも1つのスピーカ(26)の前記膜の前記第1の側面から、前記第2の空洞(34)の少なくとも1つの出力口(42)を通って、前記フレーム(15)
の外側に放射される音を導くように構成され、
前記第2の空洞(34)の壁部分は第2の導波管(32)を形成し、前記第2の空洞(34)内の前記少なくとも1つの出力口(42)は、前記第2の導波管(32)の導波管出力口(42)を形成し、
前記イヤーカップ(14)が前記ユーザ(2)の前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記第2の導波管(32)の前記導波管出力口(42)は、前記ユーザ(2)の前記耳の周りの前記少なくとも部分的に囲まれた
容積に向かって開き、前記第1の導波管(36)の前記導波管出力口(44)は、前記イヤーカップ(14)の外側の自由空気に向かって開き、前記第1の空洞(39)の壁部分は、それによって後部導波管(36)を形成
し、前記第2の空洞(34)の壁部分は、それによって前部導波管(32)を形成する、請求項1~3のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【請求項7】
前記第1の導波管(32、36)の前記導波管出力口(42、44)を囲む最小輪郭内の総面積による、少なくとも前記第1の導波管(32、36)の壁部分によって囲まれた、1つのスピーカ(26)の前記膜の幾何学的中心もしくは音響的中心に対する立体角(Ω)は、πステラジアン未満またはπ/2ステラジアン未満である
、請求項
4~6のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【請求項8】
少なくとも1つの導波管内
の空気体積は、前記導波管の壁部分によって囲まれる全てのスピーカ膜の最大体積変位の2倍未満、5倍未満、または10倍未満である
、請求項
1~7のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【請求項9】
少なくとも1つの導波管の前記導波管出力口の面積は、前記導波管の壁部分によって囲まれる全てのスピーカ膜の面積よりも少なくとも30%、少なくとも50%、または少なくとも70%小さい
、請求項
1~8のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【請求項10】
前記イヤーカップ(14)が前記ユーザ(2)の前記耳を取り囲むように配置されているとき、少なくとも1つの前部導波管(32)の前記導波管出力口(42)から、前記ユーザの
前記外耳道入口までの平均距離は、前記前部導波管(32)内に配置された少なくとも1つのスピーカ(26)の前記膜から、前記ユーザ(2)の前記外耳道入口までの平均距離よりも、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも60%短い、請求項5~
6のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【請求項11】
少なくとも1つの前部導波管の少なくとも1つの出力は、前記イヤーカップ(14)が前記ユーザ(2)の
前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記ユーザの耳の前記耳甲
介における前記前部導波管からの音の平均到来方向
が、前記前部導波管内のスピーカ(26)の前記スピーカ膜の幾何学的中心または音響中心から、前記ユーザの耳の前記耳甲
介に向かう平均方向とは異なるように
、配置される、請求項
8~9のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【請求項12】
前記フレーム(15)内に少なくとも1つの追加の音源装置をさらに含み、前記イヤーカップ(14)が前記ユーザ(2)の前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記追加の音源装置によって放射される音が前記ユーザの耳の前記耳甲介に向けられるように、前記追加の音源装置が構成される、請求項4~11のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【請求項13】
前記第1の空洞(39)の壁部分及び前記少なくとも1つのスピーカ(26)は、第1の音源装置を形成し、
前記少なくとも1つのスピーカ(26)は、第1の側面及び第2の側面を有する膜を備え、
前記膜の前記第1の側面は、前記ユーザ(2)の前記耳の周りの前記少なくとも部分的に囲まれた容積に隣接し、
前記第1の空洞(39)の壁部分は、前記少なくとも1つのスピーカ(26)の前記膜の前記第2の側面を取り囲み、
前記第1の空洞(39)の前記導波管出力口(44)は、前記イヤーカップ(14)の外側の自由空気に向かって開き、前記第1の空洞(39)の壁部分は、それによって後部導波管(36)を形成し、
前記ヘッドフォン装置は、前記フレーム(15)内に少なくとも1つの追加の音源装置をさらに含み、前記イヤーカップ(14)が前記ユーザ(2)の前記耳を取り囲むように配置されているとき、少なくとも1つの音源装置によって放射された音が、前頭面の前方の前方方向から前記ユーザの耳の前記耳甲介に向けられ、かつ少なくとも1つの音源装置によって放射された音が、前記前頭面の後方の後方方向から前記ユーザの耳の前記耳甲介に向けられており、前記前頭面は、前記正中面に垂直であり、前記ユーザの両耳を通り、それによって前記ユーザの頭部を前方部分と後方部分とに分割する、請求項
2~
3のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【請求項14】
前記フレーム(15)内に配置された少なくとも2つの前部導波管(32)を含み、少なくとも1つの導波管出力口(42)は、前記前頭面の前方の前方方向から前記ユーザの耳の前記耳甲介に向かって音を放射するように構成され、かつ少なくとも1つの導波管出力口(42)は、前記前頭面の後方の後方方向から前記ユーザの耳の前記耳甲介に向かって音を放射するように構成される、請求項
13に記載のヘッドフォン装置。
【請求項15】
少なくとも1つの前部導波管(32)の前記導波管出力口(42)は、前記イヤーカップ(14)が前記ユーザ(2)の前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記ユーザ(2)の前記耳に向かう方向に突出する少なくとも1つの突起をさらに含み、前記突起は、それによって、前記導波管出力口(42)からの音が前記ユーザ(2)の前記外耳道入口に到達するまで広がる前記
少なくとも部分的に囲まれた容積の体積を減少させる、請求項5~14のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【請求項16】
前記フレーム(15)内に配置された少なくとも2つの導波管(32、36)を備え、前記2つの導波管の前記導波管出力口(42、44)は互いに隣接して配置されて、前記フレーム(15)の一部分に沿って本質的に連続した複合導波管出力口を形成する
、請求項
1~15のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【請求項17】
少なくとも1つの連続した複合導波管出力口が、前記イヤーカップ(14)が
前記ユーザ(2)の
前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記ユーザの
耳の前記耳介の外周の側方輪郭の少なくとも一部とほぼ平行に伸びるように、前記フレーム(15)の一部分に配置されている、請求項16に記載のヘッドフォン装置。
【請求項18】
前記フレーム(15)は、前記イヤーカップ(14)が前記ユーザ(2)の前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記耳を少なくとも部分的に横から覆うために、取り外し可能なカバー(80)の取り付け及び取り外しを可能にする保持固定具をさらに備える
、請求項
1~17のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【請求項19】
取り外し可能なカバー(80)が前記フレーム(15)に取り付けられているかどうか、及び
少なくとも2つの異なるタイプの前記取り外し可能なカバー(80)のどちらが前記フレーム(15)に取り付けられているかの少なくとも1つを検出するように構成された検出機をさらに備える、請求項18に記載のヘッドフォン装置。
【請求項20】
前記イヤーカップ(14)は、
前記フレーム(15)に取り付けられ、前記イヤーカップ(14)が前記ユーザ(2)の前記耳を取り囲むように配置されているとき、少なくとも部分的に前記耳を横から覆うカバー(80)をさらに備え、それによって、部分的に開いたイヤーカップ(14)、または完全に閉じたイヤーカップ(14)を形成する
、請求項
1~19のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【請求項21】
前記イヤーカップ(14)が前記ユーザ(2)の前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記フレーム(15)と前記ユーザの頭部との間に配置される緩衝材(50)をさらに備え、前記緩衝材(50)は、前記フレーム(1
5)と前記ユーザ(2)の前記頭部との間を伝播する低周波音を減衰させるように構成されており、前記緩衝材(50)は、
独立気泡発泡材と、
独立気泡発泡材及び連続気泡発泡材と、
通気性の低い素材で少なくとも部分的に覆われている連続気泡発泡材と、
通気性の低い素材に少なくとも部分的に接着された連続気泡発泡材と、
体積重量が50kg/m
3
を超える柔らかい素材と、
流
体を含むゲル
との少なくとも1つを含む
、請求項
1~20のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【請求項22】
前記イヤーカップ(14)が前記ユーザ(2)の前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記フレーム(15)と前記ユーザの頭部との間に配置される緩衝材(50)をさらに備え、前記緩衝材(50)は、前記ユーザ(
2)の前記耳に向けられた音響反射を低減するように構成され、前記緩衝材は、
吸音材料と、
通気性の高い素材で少なくとも部分的に覆われている吸音材料と、
通気性の高い
素料で少なくとも部分的に覆われている連続気泡発泡材と、
吸音布と、
吸音繊維との少なくとも1つを含む
、請求項
1~21のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【請求項23】
前記第1の導波管内の前記少なくとも1つのスピーカ(26)の前記膜
の面積よりも小さい断面積を持つ少なくとも1つの導波管出力口によって引き起こされる概算音圧損失ILは、0.5dB未満または0.75dB未満であり、前記音圧損失ILは、IL=0.01*(Vd/Aw)^2+0.001*(Vd/Aw)として概算され、Vdは、前記少なくとも1つのスピーカ(26)の前記膜
の最大体積変位であり、Awは、前記導波管出力口の前記断面積である
、請求項
4~6のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【請求項24】
少なくとも1つの導波管内に配置された少なくとも1つのマイクロフォンをさらに含む、
請求項1~23のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固有の方向性耳介手がかりの生成を制御するヘッドフォン装置、特に、ヘッドフォンでステレオならびに2Dサラウンド及び3Dサラウンドのサウンドコンテンツの空間表現を改善するヘッドフォン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在市販されている大多数のヘッドフォンは、従来方式で混合されたステレオ信号によって駆動されるとき、頭内音像を生成する。ここで言う「頭内音像」とは、音像の主要部分が、受聴者の頭部の内で、通常は耳の間の軸上に、発生しているものとして知覚されることを意味する。好適な信号処理方法によってサウンドが外在化(ここで言う外在化とは、音像の主要部分が受聴者の頭部の外で発生しているものとして知覚されるようにする空間表現の操作を意味する)される場合、センタ像は、受聴者の前方にずれるのではなく、主に上方にずれる傾向がある。特に、頭部伝達関数(HRTF)フィルタリングに基づくバイノーラル技法は、音像を外在化させるだけでなく、受聴者の頭部の周りのほとんどの位置に仮想音源を定位させることにも非常に効果的であるが、一方、そうした技法は、一般的に、仮想音源を正中面の前方部分(ユーザの前方)に正確に定位させることができない。このことは、従来のステレオシステムの(ファンタム)センタ像も、一般的なサラウンドサウンドフォーマットのセンタチャンネルも、市販のヘッドフォンで再生した場合は、それらの位置がステレオサウンド及びサラウンドサウンドの提示に最も重要な位置であると考えられているにもかかわらず、正しい位置に再生させることができないことを意味する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
ヘッドフォン装置は、ユーザの耳を少なくとも部分的に取り囲むように配置され、それによってユーザの耳の周りに少なくとも部分的に囲まれた容積を画定するように構成されたイヤーカップであって、イヤーカップが、イヤーカップがユーザの耳を取り囲むように配置されているとき、ユーザの耳を少なくとも部分的に枠入れするように構成された少なくとも部分的に中空のフレームを備え、フレームが、第1の空洞を備え、第1の空洞が、フレームの壁部分によって形成されている、イヤーカップを備える。本ヘッドフォン装置は、第1の空洞の壁部分内に配置された少なくとも1つのスピーカであって、第1の空洞の壁部分が、第1の導波管の導波管出力口を通して、スピーカから放射された音を導くように構成された第1の導波管を形成しており、第1の導波管の導波管出力口が、第1の空洞に1つ以上の開口部を備える、スピーカをさらに備える。
【0004】
他のシステム、方法、特徴、及び利点は、以下の詳細な説明及び図の検討時に、当業者には明らかであろうし、または明らかになるであろう。そのようなさらなるシステム、方法、特徴、及び利点は全て、本説明中に含まれ、本発明の範囲内にあり、以下の特許請求の範囲によって保護されることが意図されている。
本明細書は、例えば、以下の項目も提供する。
(項目1)
ユーザ(2)の耳を少なくとも部分的に取り囲むように配置され、それによって前記ユーザ(2)の前記耳の周りに少なくとも部分的に囲まれた容積を画定するよう構成されたイヤーカップ(14)であって、前記イヤーカップ(14)が、前記イヤーカップ(14)が前記ユーザの前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記ユーザの前記耳を少なくとも部分的に枠入れするように構成された少なくとも部分的に中空のフレーム(15)を備え、前記フレーム(15)が、第1の空洞(34、39)を備え、前記第1の空洞が、前記フレーム(15)の壁部分によって形成されている、前記イヤーカップ(14)と、
前記第1の空洞(34、39)の壁部分内に配置された少なくとも1つのスピーカ(26)であって、前記第1の空洞(34、39)の壁部分が、第1の導波管(32、36)の導波管出力口(42、44)を通して、前記スピーカ(26)から放射された音を導くように構成された前記第1の導波管(32、36)を形成しており、前記第1の導波管(32、36)の前記導波管出力口(42、44)が、前記第1の空洞(34、39)に1つ以上の開口部を備える、前記スピーカ(26)とを備える、ヘッドフォン装置。
(項目2)
前記イヤーカップ(14)が前記ユーザ(2)の前記耳を取り囲むように配置されているとき、正中面への前記フレーム(15)の仮想垂直投影が、前記正中面への前記ユーザの外耳の仮想垂直投影の少なくとも中央部分を少なくとも部分的に枠入れし、前記正中面が、前記耳の間の中間で前記ユーザの頭部と交差し、それによって前記ユーザの頭部を本質的に鏡面対称な左右半分に分割する、項目1に記載のヘッドフォン装置。
(項目3)
前記正中面への前記ユーザの外耳の前記仮想垂直投影の中央部分は、前記正中面への前記フレーム(15)の前記仮想垂直投影によって少なくとも部分的に枠入れされ、
前記ユーザの耳の耳甲介の一部と、
前記ユーザの耳の前記耳甲介の全体と、
前記ユーザの耳の耳甲介舟の一部と、
前記ユーザの耳の前記耳甲介舟の全体と、
前記耳介全体の30%以上、45%以上、または60%以上の少なくとも1つの前記正中面への前記仮想垂直投影とを含む、項目2に記載のヘッドフォン装置。
(項目4)
前記第1の空洞(39)の壁部分及び前記少なくとも1つのスピーカ(26)は、第1の音源装置を形成し、
前記少なくとも1つのスピーカ(26)は、第1の側面及び第2の側面を有する膜を備え、
前記膜の前記第1の側面は、前記ユーザ(2)の前記耳の周りの前記少なくとも部分的に囲まれた容積に隣接し、
前記第1の空洞(39)の壁部分は、前記少なくとも1つのスピーカ(26)の前記膜の前記第2の側面を取り囲み、
前記第1の空洞(39)の前記導波管出力口(44)は、前記イヤーカップ(14)の外側の自由空気に向かって開き、前記第1の空洞(39)の壁部分は、それによって後部導波管(36)を形成する、先行項目のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
(項目5)
前記フレーム(15)内に第2の空洞(34)をさらに備え、
前記第1の空洞(39)の壁部分、前記第2の空洞(34)の壁部分、及び前記少なくとも1つのスピーカ(26)は、第1の音源装置を形成し、
前記少なくとも1つのスピーカ(26)は、第1の側面及び第2の側面を有する膜を備え、
前記少なくとも1つのスピーカ(26)は、前記第1の空洞(39)及び前記第2の空洞(34)の共通の壁部分内に配置され、
前記第2の空洞(34)の壁部分は、前記少なくとも1つのスピーカ(26)の前記膜の前記第1の側面を取り囲み、
前記少なくとも1つのスピーカ(26)の前記膜の前記第2の側面に隣接する体積は、前記第1の空洞(39)の壁部分によって、及び前記少なくとも1つのスピーカ(26)の一部分によって完全に囲まれ、
前記第2の空洞(34)の前記導波管出力口(42)は、前記ユーザ(2)の前記耳の周りの前記少なくとも部分的に囲まれた体積に向かって開き、前記第2の空洞(34)の壁部分は、それによって前部導波管(32)を形成する、項目1~3のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
(項目6)
前記フレーム(15)内に第2の空洞(34)をさらに備え、
前記第1の空洞(39)の壁部分、前記第2の空洞(34)の壁部分、及び前記少なくとも1つのスピーカ(26)は、第1の音源装置を形成し、
前記少なくとも1つのスピーカ(26)は、第1の側面及び第2の側面を有する膜を備え、
前記少なくとも1つのスピーカ(26)は、前記第1の空洞(39)及び前記第2の空洞(34)の共通の壁部分内に配置され、
前記第2の空洞(34)の壁部分は、前記少なくとも1つのスピーカ(26)の前記膜の前記第1の側面を取り囲み、
前記第2の空洞(34)の壁部分は、前記少なくとも1つのスピーカ(26)の前記膜の前記第1の側面から、前記第2の空洞(34)の少なくとも1つの出力口(42)を通って、前記フレーム(15)の前記外側に放射される音を導くように構成され、
前記第2の空洞(34)の壁部分は第2の導波管(32)を形成し、前記第2の空洞(34)内の前記少なくとも1つの出力口(42)は、前記第2の導波管(32)の導波管出力口(42)を形成し、
前記イヤーカップ(14)が前記ユーザ(2)の前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記第2の導波管(32)の前記導波管出力口(42)は、前記ユーザ(2)の前記耳の周りの前記少なくとも部分的に囲まれた体積に向かって開き、前記第1の導波管(36)の前記導波管出力口(44)は、前記イヤーカップ(14)の外側の自由空気に向かって開き、前記第1の空洞(39)の壁部分は、それによって後部導波管(36)を形成すると共に、前記第2の空洞(34)の壁部分は、それによって前部導波管(32)を形成する、項目1~3のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
(項目7)
前記第1の導波管(32、36)の前記導波管出力口(42、44)を囲む最小輪郭内の総面積による、少なくとも前記第1の導波管(32、36)の壁部分によって囲まれた、1つのスピーカ(26)の前記膜の幾何学的中心もしくは音響的中心に対する立体角(Ω)は、πステラジアン未満またはπ/2ステラジアン未満である、先行項目のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
(項目8)
少なくとも1つの導波管内の前記空気体積は、前記導波管の壁部分によって囲まれる全てのスピーカ膜の最大体積変位の2倍未満、5倍未満、または10倍未満である、先行項目のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
(項目9)
少なくとも1つの導波管の前記導波管出力口の面積は、前記導波管の壁部分によって囲まれる全てのスピーカ膜の面積よりも少なくとも30%、少なくとも50%、または少なくとも70%小さい、先行項目のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
(項目10)
前記イヤーカップ(14)が前記ユーザ(2)の前記耳を取り囲むように配置されているとき、少なくとも1つの前部導波管(32)の前記導波管出力口(42)から、前記ユーザの外耳道入口までの平均距離は、前記前部導波管(32)内に配置された少なくとも1つのスピーカ(26)の前記膜から、前記ユーザ(2)の前記外耳道入口までの平均距離よりも、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも60%短い、項目5~9のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
(項目11)
少なくとも1つの前部導波管の少なくとも1つの出力は、前記イヤーカップ(14)が前記ユーザ(2)の耳を取り囲むように配置されているとき、前記ユーザの耳の前記耳甲介領域における前記前部導波管からの音の平均到来方向は、前記前部導波管内のスピーカ(26)の前記スピーカ膜の幾何学的中心または音響中心から、前記ユーザの耳の前記耳甲介領域に向かう平均方向とは異なるように配置される、項目5~10のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
(項目12)
前記フレーム(15)内に少なくとも1つの追加の音源装置をさらに含み、前記イヤーカップ(14)が前記ユーザ(2)の前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記追加の音源装置によって放射される音が前記ユーザの耳の前記耳甲介に向けられるように、前記追加の音源装置が構成される、項目4~11のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
(項目13)
前記フレーム(15)内に少なくとも1つの追加の音源装置をさらに含み、前記イヤーカップ(14)が前記ユーザ(2)の前記耳を取り囲むように配置されているとき、少なくとも1つの音源装置によって放射された音が、前頭面の前方の前方方向から前記ユーザの耳の前記耳甲介に向けられ、かつ少なくとも1つの音源装置によって放射された音が、前記前頭面の後方の後方方向から前記ユーザの耳の前記耳甲介に向けられており、前記前頭面は、前記正中面に垂直であり、前記ユーザの両耳を通り、それによって前記ユーザの頭部を前方部分と後方部分とに分割する、項目4~12のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
(項目14)
前記フレーム(15)内に配置された少なくとも2つの前部導波管(32)を含み、少なくとも1つの導波管出力口(42)は、前記前頭面の前方の前方方向から前記ユーザの耳の前記耳甲介に向かって音を放射するように構成され、かつ少なくとも1つの導波管出力口(42)は、前記前頭面の後方の後方方向から前記ユーザの耳の前記耳甲介に向かって音を放射するように構成される、項目5~13のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
(項目15)
少なくとも1つの前部導波管(32)の前記導波管出力口(42)は、前記イヤーカップ(14)が前記ユーザ(2)の前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記ユーザ(2)の前記耳に向かう方向に突出する少なくとも1つの突起をさらに含み、前記突起は、それによって、前記導波管出力口(42)からの音が前記ユーザ(2)の前記外耳道入口に到達するまで広がる前記体積を減少させる、項目5~14のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
(項目16)
前記フレーム(15)内に配置された少なくとも2つの導波管(32、36)を備え、前記2つの導波管の前記導波管出力口(42、44)は互いに隣接して配置されて、前記フレーム(15)の一部分に沿って本質的に連続した複合導波管出力口を形成する、先行項目のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
(項目17)
少なくとも1つの連続した複合導波管出力口が、前記イヤーカップ(14)がユーザ(2)の耳を取り囲むように配置されているとき、前記ユーザの耳介の外周の側方輪郭の少なくとも一部とほぼ平行に伸びるように、前記フレーム(15)の一部分に配置されている、項目16に記載のヘッドフォン装置。
(項目18)
前記フレーム(15)は、前記イヤーカップ(14)が前記ユーザ(2)の前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記耳を少なくとも部分的に横から覆うために、取り外し可能なカバー(80)の取り付け及び取り外しを可能にする保持固定具をさらに備える、先行項目のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
(項目19)
取り外し可能なカバー(80)が前記フレーム(15)に取り付けられているかどうか、及び
少なくとも2つの異なるタイプの前記取り外し可能なカバー(80)のどちらが前記フレーム(15)に取り付けられているかの少なくとも1つを検出するように構成された検出機をさらに備える、項目18に記載のヘッドフォン装置。
(項目20)
前記イヤーカップ(14)は、フレーム(15)に取り付けられ、前記イヤーカップ(14)が前記ユーザ(2)の前記耳を取り囲むように配置されているとき、少なくとも部分的に前記耳を横から覆うカバー(80)をさらに備え、それによって、部分的に開いたイヤーカップ(14)、または完全に閉じたイヤーカップ(14)を形成する、先行項目のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
(項目21)
前記イヤーカップ(14)が前記ユーザ(2)の前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記フレーム(15)と前記ユーザの頭部との間に配置される緩衝材(50)をさらに備え、前記緩衝材(50)は、前記フレーム(14)と前記ユーザ(2)の前記頭部との間を伝播する低周波音を減衰させるように構成されており、前記緩衝材(50)は、
独立気泡発泡材と、
独立気泡発泡材及び連続気泡発泡材と、
通気性の低い素材で少なくとも部分的に覆われている連続気泡発泡材と、
通気性の低い素材に少なくとも部分的に接着された連続気泡発泡材と、
体積重量が50kg/m3を超える柔らかい素材と、
流体とを含むゲルの少なくとも1つを含む、先行項目のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
(項目22)
前記イヤーカップ(14)が前記ユーザ(2)の前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記フレーム(15)と前記ユーザの頭部との間に配置される緩衝材(50)をさらに備え、前記緩衝材(50)は、前記ユーザ(50)の前記耳に向けられた音響反射を低減するように構成され、前記緩衝材は、
吸音材料と、
通気性の高い素材で少なくとも部分的に覆われている吸音材料と、
通気性の高い材料で少なくとも部分的に覆われている連続気泡発泡材と、
吸音布と、
吸音繊維との少なくとも1つを含む、先行項目のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
(項目23)
前記第1の導波管内の前記少なくとも1つのスピーカ(26)の前記膜面積よりも小さい断面積を持つ少なくとも1つの導波管出力口によって引き起こされる概算音圧損失ILは、0.5dB未満または0.75dB未満であり、前記音圧損失ILは、IL=0.01*(Vd/Aw)^2+0.001*(Vd/Aw)として概算され、Vdは、前記少なくとも1つのスピーカ(26)の前記膜の前記最大体積変位であり、Awは、前記導波管出力口の前記断面積である、先行項目のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
(項目24)
少なくとも1つの導波管内に配置された少なくとも1つのマイクロフォンをさらに含む、先行項目のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【0005】
本方法は、以下の説明及び図面を参照することによって、より良く理解され得る。図中の構成要素は必ずしも縮尺通りではなく、代わりに本発明の原理を説明することに重点が置かれている。さらに、図中、同様の参照番号は、異なった図全体を通して類似する部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】A及びBは、ユーザの頭部の周りに定位させる仮想音源の典型的な経路を概略的に示す。
【
図2】ユーザの頭部の周りに定位させる仮想音源の実現可能な経路を概略的に示す。
【
図3】音源定位のための様々な平面及び角度を概略的に示す。
【
図5】イヤーカップのさらなる実施例を概略的に示す。
【
図6】a)~g)は、従来の音源装置と、前部導波管を有する音源装置の実施例とを概略的に示す。
【
図7】a)~d)は、各種の音源装置とユーザの外耳道入口との間の平均距離を概略的に示す。
【
図8】イヤーカップのさらなる実施例を概略的に示す。
【
図9】イヤーカップのさらなる実施例を概略的に示す。
【
図10】各種のイヤーカップの周波数にわたる音圧測定値の実施例を概略的に示す。
【
図11】a)~f)は、前部導波管を有する音源装置の様々な実施例を概略的に示す。
【
図12】後部導波管を有する各種の音源装置、または後部導波管を有しない各種の音源装置を概略的に示す。
【
図13】a)~d)は、各種の音源装置とユーザの外耳道入口との間の平均距離を概略的に示す。
【
図14】各種のイヤーカップの周波数にわたる振幅応答の実施例を概略的に示す。
【
図15】a)~h)は、各種の音源装置とユーザの外耳道入口との間の平均距離を概略的に示す。
【
図16】各種のイヤーカップの周波数にわたる振幅応答の実施例を概略的に示す。
【
図17】デュアル導波管ダイポールとして構成された音源の断面図を概略的に示す。
【
図18】a)~e)は、デュアル導波管ダイポールとして構成された各種の音源を概略的に示す。
【
図19】a)~e)は、各種の音源装置の例示的な組み合わせを概略的に示す。
【
図20】a)~e)は、追加の直接放射スピーカを有するデュアル導波管ダイポールとして構成された各種の音源を概略的に示す。
【
図21】a)~c)は、前部導波管を有する音源装置と組み合わさってデュアル導波管ダイポールとして構成された各種の音源を概略的に示す。
【
図22】a)~d)は、デュアル導波管ダイポール及びインパルス補償を有する各種の音源装置を概略的に示す。
【
図23】イヤーカップのさらなる実施例を概略的に示す。
【
図24】導波管を有する開放型ヘッドフォン装置を概略的に示す。
【
図25】一体型の音源を有する拡張現実ARヘッドセットを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
現在市販されている大多数のヘッドフォンは、従来の方式で混合されたステレオ信号によって駆動されると、頭内音像を生成する。ここで言う「頭内音像」とは、音像の主要部分が、ユーザの頭部の内で、通常は耳の間の軸(左耳及び右耳を通る軸、
図3の軸x参照)上に、発生しているものとして知覚されることを意味する。5.1サラウンドサウンドシステムは、通常、5つのスピーカチャンネル、すなわち、前方の左チャンネル及び右チャンネル、センタチャンネル、ならびに2つのサラウンド後方チャンネルを使用する。ヘッドフォンの代わりにステレオシステムまたは5.1スピーカシステムが使用されている場合は、ファンタムセンタ像またはセンタチャンネル像がユーザの正面に生成される。しかし、ヘッドフォンを使用する場合、これらのセンタ像は、通常、ユーザの耳の間の軸の中央で知覚される。
【0008】
ユーザを取り囲む空間の中での音源の位置は、方位角φ(左から右の位置)、仰角υ(上下の位置)、及び距離寸法(ユーザからの音源の距離)によって表すことができる。音源の方向を表すには、通常、方位角及び仰角で足りる。ヒトの聴覚系は、頭部伝達関数(HRTF)中に全てが集約された、両耳間時間差(ITD)、両耳間レベル差(ILD)、ならびに耳介共振効果及び耳介キャンセル効果を含む、いくつかの手がかりを用いて音源を定位する。
図3は、音源定位のための平面、すなわち、概して地表面に平行であり、ユーザの頭部を上部と下部とに分割する水平面(横断面とも呼ばれる)、水平面に垂直であり、ユーザの耳の間のほぼ中間でユーザの頭部と交差し、それによって頭部を本質的に鏡面対称な左右半分に分割する正中面(正中矢状面とも呼ばれる)、ならびに頭部の前面と後面とを等しく分割し、水平面及び正中面の両方と直交する前頭面(冠状面とも呼ばれる)を示す。また、
図3には、3軸x、y、zと共に、方位角φ及び仰角υも示される。本文書では、主に片耳(例えば、右耳)に関して、様々な音源及び音源装置を説明する。ヘッドフォンは、通常、音響特性に関しては、両耳のために全く同じに設計されており、それぞれの耳に対して実質的に同様の位置で両耳に取り付けられる。第1の軸xは、ユーザ2の耳を通る。以下では、第1の軸xは、ユーザの耳の耳甲介を交差するものであることが想定されている。第1の軸xは、前頭面及び水平面に平行であり、正中面に垂直である。第2の軸yは、ユーザの頭部を垂直に通り、第1の軸xに垂直である。第2の軸yは、正中面及び前頭面に平行であり、水平面に垂直である。第3の軸zは、ユーザの頭部を横向きに(前から後ろへ)通り、第1の軸x及び第2の軸yに垂直である。第3の軸zは、正中面及び水平面に平行であり、前頭面に垂直である。異なる平面x、y、zの位置については、以下で詳しく説明する。
【0009】
従来のヘッドフォン装置内のサウンドが、好適な信号処理方法によって外在化される場合(ここで言う外在化とは、音像の少なくとも主要部分がユーザの頭部の外で発生しているものとして知覚されることを意味する)、センタチャンネル像は、前方ではなく、主に上方にずれる傾向がある。このことが
図1Aに例示的に示されており、図中、SRはサラウンド後方像位置を示し、Rは前方右像位置を示し、Cはセンタチャンネル像位置を示す。例えば、水平面からの汎用の頭部伝達関数(HRTF)に基づいて、方位角φ(
図3参照)を0°から360°に漸増的にシフトさせてバイノーラル合成を行う場合、仮想音源は、
図1Aに示す、実現可能な音源の位置からなる経路上のどこかに位置し、その経路に沿って移動し得る。特に、HRTFフィルタリングに基づくバイノーラル技法は、音像を外在化させるだけでなく、ユーザの頭部の周りのほとんどの位置に仮想音源を定位させることにも非常に効果的であるが、一方、そうした技法は、一般的に、音源を正中面の前方部分に正確に定位させることができない。発生し得る別の問題は、
図1Bに示される、いわゆる前後誤判断である。前後誤判断は、ユーザ2が、自分の頭部の前方だけでなく、自分の頭部の上方や、またはもっと言えば後方のどこかに、確実に音像を定位することができないことを意味する。このことは、従来のステレオシステムのセンタ音像も、一般的なサラウンドサウンドフォーマットのセンタチャンネル音像も、市販のヘッドフォンで再生した場合は、それらの位置がステレオサウンド及びサラウンドサウンドの提示に最も重要な位置であるにもかかわらず、正しい位置に再生させることができないことを意味する。
【0010】
正中面(方位角φ=0°)内に配置された音源は、仮想音源を定位するのに使用できる両耳間時間差(ITD)及び両耳間レベル差(ILD)を欠いている。音源が正中面上に位置する場合、音源と耳との間の距離、及び頭部による耳の遮りは、右耳及び左耳の両方で同じある。したがって、音源から右耳に音が伝わるのに要する時間は、音源から左耳に音が伝わるのに要する時間と同じであり、頭部の一部分による耳の遮りがもたらす振幅応答の変化も、両方の耳で等しくなる。ヒトの聴覚系は、以下では耳介共振と呼ばれる、耳介によって生成されるキャンセル効果及び共振倍率効果を分析して、正中面の仰角を判定する。各音源の仰角と各耳介とは、一般に、非常に特定的で特質的な耳介共振を誘発する。
【0011】
耳介共振は、HRTF測定から得られたフィルタによって信号に適用され得る。ただし、外的な(例えば、別のヒト個体からの)、汎用の(例えば、代表的な個体群にわたって平均化された)、または簡略化されたHRTFフィルタを適用しようとする試みは、通常、個々人の耳介間の大きなずれのために、正面に安定的な音源の定位をもたらすことができない。通常、個人用のヘッドフォンイコライジングと組み合わせて適用された場合には、個人用のHRTFフィルタのみが、正中面に安定した正面音像を生成することができる。しかし、信号処理のそれほどまでの個人化は、消費者マスマーケット向けには、ほぼ不可能と言ってもいい。
【0012】
ユーザの頭部2正面の前半球に対して強い方向性をもつ耳介手がかり、及び/またはユーザの頭部2後方の後半球に対して適切な手がかりを生成することができるヘッドフォン装置が知られている。これらのヘッドフォン装置の一部は、改善された中央正面音像の生成をサポートし、いくつかのヘッドフォン装置は、適切な信号処理と組み合わせれば、さらにユーザの頭部2の周りの至る所に、仮想音源を定位させることができる。このことが
図2に例示的に示されており、センタチャンネル像Cがユーザの頭部2の正面の所望の位置に定位している。前半球及び後半球に関連付けられた方向性耳介手がかりが利用可能であり、かつそれらを個別に制御できる場合、例えば、それらの手がかりが別々の音源によって生成される場合、それに加えて、適切な信号処理が適用される場合、ユーザの頭部の周りの至る所に仮想音源を定位させることが可能である。さらに、ユーザ2の上方及び下方からの方向性耳介手がかりを誘導して、それぞれの半球における仮想音源の定位を改善してもよい。
【0013】
固有の耳介共振によって生成される方向性手がかりを、HRTFを基盤とした信号処理と組み合わせて、方向性をもつ音像の生成を改善する信号処理方法が知られている。方向性耳介手がかりを生成するヘッドフォン装置を、そのような信号処理方法と組み合わせてもよい。
【0014】
ヘッドフォンの空間特性は、通常、音調バランス、広い動作周波数範囲、低歪みなどの一般的な音質属性よりも重要ではない。その一般的な音質が、典型的なヘッドフォン標準よりも劣っている場合、通常、空間効果は、特にステレオ再生の場合には、ユーザに受け入れられない。したがって、既知の開放型ヘッドフォン装置の基本特性は、特定の実施態様によっては低周波出力が、例えば密閉型ヘッドフォンの場合よりも低くなる場合があるが、この装置は、現在利用可能な他の典型的なヘッドフォンに比べて、一般的な音質の態様では実質的には悪くないということである。特に、低周波数の再生では、通常、相当な大きさの物理的構造がユーザの耳の周りに配置されることが必要とされる。固有の方向性耳介手がかりの制御誘導に対するそのような構造の否定的影響を低減することは、既知のヘッドフォン装置の主要な態様の1つである。これらの物理構造の大きさを、さらに縮小することにより、そのような否定的影響はさらに低減され得る。固有の方向性耳介手がかりを制御誘導することにより、複数の目的を果たすことができる。前に説明したように、正中面上での仮想音源の定位精度は、好適な方向性耳介手がかりを誘導することによって改善され得る。汎用のHRTFに基づく従来のバイノーラル合成と比べた場合のもう1つの利点は、ユーザには、外的なスペクトル形状の手がかりとは対照的に、妨害的な調性変化とは知覚されないユーザ自身のスペクトル形状手がかりが提示されるために、調性が改善されることである。その一方で、また、方向性耳介手がかりは、いくつかの既知のヘッドフォン装置によって提供される、複数の本質的に相反する方向性手がかりを重ね合わせることによる制御された方法で抑制されてもよい。それによって、ヘッドフォン装置は妨害的な方向性耳介手がかりを生成しないので、汎用のまたは個人用のHRTFに基づく従来のバイノーラル合成の理想的な基盤が提供される。現在のところ、汎用のまたは個人用のHRTFに基づく従来のバイノーラル合成は、多くの場合、バイノーラル(2チャンネル)信号のみを提供する仮想現実及び拡張現実アプリケーション向けのデファクトスタンダードである。したがって、このフォーマットに対する互換性は、一部の既知のヘッドフォン装置によっても、本明細書で開示されるヘッドフォン装置の実施形態によってもサポートされる重要な特徴である。最後に、全く空間処理を行わない通常のステレオ再生でも、ヘッドフォン構造内部の反射から生じ、再生音の調性を乱し得る制御不能の櫛形フィルタリング効果を発生させないヘッドフォン装置からは恩恵を受ける場合がある。改善された空間イメージング及び調性に加えて、既知のヘッドフォン装置は、固有の音場が実質的に変化せずにユーザの耳に届くため、例えば、拡張現実アプリケーションに特に適している。さらに、既知のヘッドフォン装置のいくつかは、例えば、耳への不要な圧力、またはイヤーカップの内部に蓄積される熱などの従来のヘッドフォンの問題を解決する。これらの問題は、本明細書に開示されるヘッドフォン装置の実施形態によって解決され得る。
【0015】
特に可聴範囲の低周波数端では、ヘッドフォン装置によって生成される最大音圧レベルは、特にヘッドフォン装置が開放型イヤーカップを含む場合には、ヘッドフォンのイヤーカップの大きさに対応する。ここで言う開放型イヤーカップとは、少なくとも1つの方向に(例えば、横方向に)完全に開放されているイヤーカップのことを指す。別の種類のイヤーカップが、オープンバックヘッドフォンの一部として知られている。一般に、オープンバックヘッドフォンは、視覚的には完全に密閉型のイヤーカップを備えているように見え、比較的小さな通気路が、さもなければ密閉型となるそのイヤーカップに、単に設けられているに過ぎない。このようなオープンバックヘッドフォンは、耳介をほぼ完全に覆う大型のスピーカを、耳介に対して横から配置する。そのため、オープンバックヘッドフォンのイヤーカップは、開放型イヤーカップと実質的に異なる。一般に、イヤーカップが小型であることは、ヘッドフォンの重要な設計要素になり得る。したがって、固有の方向性耳介手がかりを誘導する能力を失うことなく、スピーカ及びスピーカエンクロージャ容積の所与のセットでは、ユーザの耳に受け取られるサウンド出力を多くすることが望ましい。さらに、単に音源を耳の周りに分散させるだけの開放型ヘッドフォン装置が知られており、それによってイヤーカップの形状及び大きさの選択肢が著しく制限されている。したがって、本発明は、所与の開放型イヤーカップの大きさに対して、以前に可能であったよりも高い音圧を提供し、同時に、様々な力学的特性及び音響特性の範囲を有する、広範囲におよぶ密閉型、開放型、及び通気型のイヤーカップの構造、形状、及び大きさを可能にする、開放型または密閉型のヘッドフォン構造を提案するものである。提案したイヤーカップ構造は、空間表現を改善した(完全に)開放型または密閉型のヘッドフォン、及び典型的なステレオヘッドフォン音像を伴う開放型ヘッドフォンで特に興味深いものである。
【0016】
提案されたヘッドフォン装置によって可能になる改善された空間イメージングに加えて、開放型イヤーカップの実施形態は、固有の音場が実質的に変化せずに耳に到達するため、拡張現実アプリケーションに特に適している。さらに、従来のヘッドフォンで知られていた耳への圧迫感や、またはヘッドフォン内部に蓄積する熱のような快適性の問題も、開放型ヘッドフォンの構造によって解決される。最後に、提案されたイヤーカップ構造は、様々な耳及びイヤーカップの配置に対する低周波応答の変化、ならびにヘッドフォンからの無視してよい方向バイアスがあるように実装され得る。これにより、現在の仮想現実(VR)ヘッドセットで一般的に利用されている汎用のHRTFデータに基づくバイノーラル合成のパフォーマンスを向上させることができる。
【0017】
本文書内で、耳介手がかり及び耳介共振という用語は、音の到来方向に応答して、耳介と、場合によってはまた、外耳道とによって与えられる、周波数応答及び位相応答の変化を呼ぶのに用いられる。本文書内の方向性耳介手がかり及び方向性耳介共振という用語は、耳介手がかり及び耳介共振という用語と同じ意味を持つが、耳介によって生じた周波数応答及び位相応答の変化の方向性の側面を強調するのに用いられる。さらに、固有の耳介手がかり、固有の方向性耳介手がかり、及び固有の耳介共振という用語は、耳介の効果をエミュレートする信号処理とは対照的に、実際にこれらの共振が音場に応答して、ユーザの耳介から生み出されることを示すのに用いられる。一般に、耳介が、所望の方向から直接、ほぼ一方向の音場にさらされると、明確な方向性手がかりを伝える耳介共振が励起される。これは、特定の方向から音源が発している音波が、同じ音源の異なる方向からの非常に初期の反射音が加わることなく、耳介に達することを意味する。ヒトは、一般に、典型的な初期の室内反射の存在下で、音源の方向を判定することができるが、直接音の後で、あまりにも短い時間窓内に到達する反射は、知覚される音の方向を変更してしまう。したがって、耳介に近い表面からの反射を抑制しながら、または少なくとも低減しながら、耳介に直接音を送るヘッドフォン装置は、その結果として、強い方向性をもつ手がかりを誘導することができる。
【0018】
一般に、知られているステレオヘッドフォンは、インイヤー型、オーバーイヤー型、及びアラウンドイヤー型に分類することができる。アラウンドイヤー型は、閉じた背面を備える、いわゆるクローズドバックヘッドフォン、または通気穴をつけた背面を備える、いわゆるオープンバックヘッドフォンとして一般的に入手可能である。ヘッドフォンは、単一または複数のドライバ(スピーカ)を含む場合がある。高品質のインイヤーヘッドフォンに加えて、方向性効果の発生を目的とした複数のスピーカを利用する特定のマルチウェイサラウンドサウンドヘッドフォンがある。
【0019】
一般に、インイヤーヘッドフォンは、音が耳介を全く通らずに、外耳道に直接放出されるという事実のために、固有の耳介手がかりを発生させることができない。かなり広い周波数範囲の内で、閉じた背面を有するオンイヤーヘッドフォン及びアラウンドイヤーヘッドフォンは、通常、耳介共振を完全に回避するか、または少なくとも人為的な方法でそれらを変化させる圧力室を耳の周りに生じさせる。さらに、この圧力室は、外耳道に直接結合されており、開いた音場と比較して外耳道の共振を変化させ、それによって固有の方向性手がかりをさらに不明瞭にする。より高い周波数では、イヤーカップの要素が音を反射し、それによって、単一の方向に関連付けられた耳介共振を誘導することができない、部分的に拡散した音場が生成される。以下では、音場の拡散を、どのように制御し得る(例えば、低減させ得る、または意図的に誘導し得る)かに関しての解決策が提示される。ただし、クローズドバックヘッドフォンは、一般に、個人用の固有の方向性耳介手がかりの生成には、あまり適していない。オープンバックヘッドフォンは、これらの欠点のいくつかを回避し得る。また一方、耳の周りに本質的に閉じたチャンバを形成する密閉型のイヤーカップを有するヘッドフォンは、例えば、スピーカの感度及び周波数応答の拡張に関しては、いくつかの利点をも提供する。したがって、開放型ヘッドフォンにカバーを設けてもよい。カバーは、密閉型ヘッドフォンがユーザによって好まれる状況においては密閉型ヘッドフォンを提供できるように、分離が可能な状態で、開放型ヘッドフォン構造に装着可能/取り付け可能なよう構成され得る。それによって、ユーザは、現在の好みに応じて、開放型または密閉型のヘッドフォンを選択できるようになる。そのために、カバーの取り付け及び取り外しのプロセスは単純であってよく、取り付け及び/または取り外しのプロセスをユーザが容易に行うことができるようにするために、どんな工具の使用も必要としなくてもよい。ヘッドフォンは、カバーがヘッドフォンに装着されている/取り付けられているか否かを検出するように構成された検出機を含んでもよい。カバーがヘッドフォンに装着されている/取り付けられていることが検出され、つまり、本質的に閉じたチャンバまたは通気されるチャンバが耳の周りに設けられていることになる場合、イコライジングを、開放型イヤーカップと密閉型または通気型のイヤーカップとの間の振幅応答の差を補償するように、自動的に(例えば、適合機によって)適合させてもよい。
【0020】
このようなヘッドフォン装置が、例として
図23に示される。
図23a)は、密閉型のイヤーカップ14を概略的に示すのに対し、
図23b)は、開放型のイヤーカップ14を示す。イヤーカップ14は、ユーザの耳の周りに配置されるように構成されたフレーム15を備える。各耳に1つのイヤーカップ14を設けてもよい。通例、2つのイヤーカップ14は、頭上のヘッドバンド12によって一体に保持され得る(例えば、
図24参照)。しかし、これはあくまでも一実施例に過ぎない。2つのイヤーカップ14は、他の何らかの好適な方法で一体に保持されてもよい。イヤーカップ14は、フレーム15に分離可能に装着され/取り付けられて、密閉型イヤーカップのヘッドフォン装置を調達し得るカバー80をさらに備えてもよい。開放型イヤーカップのヘッドフォン装置10を調達できるように、カバー80をフレーム15から取り外すことができる。カバー80は、任意の好適な方法で、例えば、ブラケット、磁石、またはクランプを使用して、フレーム15に分離可能に装着され/取り付けられ得る。
図24の装置は、開放型イヤーカップ14をユーザの耳の周りに配置したユーザの頭を概略的に示す。
図24では、イヤーカップ14を所定の位置に保持するように構成されたヘッドバンド12が概略的に示される。ユーザの耳にサウンドを提供するために、イヤーカップ14のフレーム15内に1つ以上の音源装置が配置され得る。
図23は、そのような音源装置の前部42及び後部44の導波管出力をさらに示す。
【0021】
イヤーカップ14は、ユーザの耳の周りに配置されたときに、少なくとも部分的にユーザの耳を取り囲み得る。それによって、イヤーカップ14が、ユーザの耳の周りに、開いた容積または閉じた容積を画定することが結果としてもたらされる。例えば、イヤーカップ14は、フレーム15を備え得るが、カバー80を備えないものであってもよい。この場合、イヤーカップ14によって画定されるユーザの耳の周りの容積は、イヤーカップ14がユーザの耳の周りに配置されたときに、少なくとも横方向(ユーザの頭部の側方)に開いている。フレーム15は、イヤーカップ14がユーザの耳の周りに配置されたときに、ユーザの耳を完全にまたは部分的にのみ取り囲み得る。例えば、フレーム15は、ユーザの耳の周りに連続したフレームを形成するものであってもよい。また一方、フレーム15は、ギャップまたは凹部を備えることも可能である。例えば、フレーム15は、ユーザの耳の上方、前方、及び後方に配置され得るが、ユーザの耳より下のフレーム15の部分が省略されるようなギャップまたは凹部を備えてもよい。しかし、これはあくまでも一実施例に過ぎない。フレーム15は、その周縁に沿った任意の場所に1つ以上のギャップまたは凹部を備えてもよい。そのために、フレーム15は、任意の好適な方法で互いに結合し得る1つ以上のパーツを備えてもよい。フレーム15が、その周縁内に少なくとも1つの凹部を備える場合、たとえイヤーカップ14がユーザの耳の周りの容積を横から(ユーザの頭部の側方に向かって)閉じるカバー80を備えていたとしても、ユーザの耳の周りの容積は完全には封じ込められない。フレーム15は、少なくとも部分的に中空であってもよい。例えば、フレーム15は、その内部に1つ以上の空洞を備えてもよい。こうした空洞は、フレーム15の少なくとも1つの壁部分によって、フレーム15の外側から少なくとも部分的に隔てられたものであってもよい。空洞は、フレーム14の1つ以上のパーツによって形作られてもよい。
【0022】
典型的なオープンバックヘッドフォンと、今日市場に出回っているほとんどのクローズドバックアラウンドイヤーヘッドフォン及びクローズドバックオンイヤーヘッドフォンとは、大口径スピーカを利用している。このような大口径スピーカは、多くの場合、耳介自体とほぼ同じ大きさであり、それによって、正面からの方向性をもつ音場に起因するはずの均一な耳介共振を生成するには適さない大きな平面音波を、頭部の側方から発生させる。さらに、耳介と比較してそのようなスピーカのサイズが比較的大きいばかりでなく、スピーカと耳介との間の距離が近いこと、及びそのようなスピーカの反射面が大きいことにより、低周波数から中周波数では圧力室に、高周波数では反射環境に似た音響状況がもたらされる。さらにまた、そのような装置のスピーカ膜は、耳介へ向けて音を反射する比較的大きな反射面である。これは、固有の耳介共振によってもたらされるのと同様に、耳内の周波数応答にピーク及びディップを生じさせる原因となり得る。このような状況は、単一方向に関連付けられた固有の方向性耳介手がかりの誘導に弊害をもたらす。
【0023】
複数のスピーカを備えたサラウンドサウンドヘッドフォンは、普通、耳介の側方にあるスピーカの位置と、圧力室効果及び反射環境とを組み合わせたものである。こうしたヘッドフォンは、たいていの場合、特に前半球に対しては、一貫した方向を示す耳介手がかりを生成することができない。
【0024】
一般に、ヘッドフォンの背面カバーまたは大きなスピーカ自体といった耳介を覆うあらゆる種類の物体は、耳の周りのチャンバ内で多重反射を生じさせる場合があり、方向性をもつ音場によってもたらされる固有の耳介効果にとっては好ましくない拡散した音場を生成する。
【0025】
そこで、本発明の実施形態は、反射、特にユーザの耳介に当たる反射を最小限に抑えながら、所望の全ての方向から耳介へ向けて直接音を送ることを可能にする最適化されたヘッドフォン装置を提供する。耳介共振は、約2kHzを超える周波数で効果を発揮することが広く認められているが、実際のスピーカは、通例、かなり低い周波数でさえもスピーカの定位を可能にする、様々な種類のノイズ及び歪みを発生させる。また、ユーザは、ヒトの声の周波数スペクトルの範囲内で使用される種々のスピーカ間の歪み、時間特性(例えば、減衰時間)、及び指向性の違いに気付き得る。したがって、固有の耳介共振を伴う方向性手がかりを誘導するのに使用されるスピーカに対しては、約200Hz以下ほどの低い周波数制限を選択してもよく、一方で反射を、少なくともより高い周波数(例えば、2~4kHz超)を対象にして制御してもよい。
【0026】
正中面に安定した正面音像を生成することは、他の方向からの安定した音像を生成することに比べると、十分想定されるように、最高の課題を提示する。一般に、個人用の方向性耳介手がかりの生成は、前半球(ユーザの前方)にとっての方が、後半球(ユーザの後方)にとってよりも重要である。また一方、効果がある固有の方向性耳介手がかりは、汎用の手がかりで置き換えることが一般的に可能な後半球では誘導し易く、この汎用の手がかりは、耳介の側方にスピーカを配置する、少なくとも標準的なヘッドフォンに対しては良好な効果をもたらす。したがって、一部のヘッドフォン装置は、前半球の手がかりの最適化に重点を置くが、その一方で、後半球に対しては、劣るが、それにもかかわらず能力的に十分である方向性手がかりを提供する。他の装置は、前方向及び後方向のそれぞれに、等しく良好な方向性手がかりを提供し得る。強い固有の方向性耳介手がかりを獲得するために、1つ以上のスピーカから発せられた音波が、所望の方向から一度だけ、主に耳介、または少なくとも耳甲介を通り、他の方向から生じ得る反射においてはエネルギーを減少させるように、ヘッドフォン装置を構成してもよい。ヘッドフォン装置によっては、イヤーカップの前方部分にあるスピーカの反射を低減することに重点を置いたものもあれば、一方、スピーカの位置とは無関係に、反射を最小限に抑えるものもある。少なくとも2kHz超において耳を圧力室に入れることや、または拡散した音場をもたらす傾向のある過剰な反射を発生させることを避けられ得る。反射を回避するために、少なくとも1つのスピーカを、所望の方向の音場をもたらすように、イヤーカップ上に配置してもよい。支持構造またはヘッドバンド、及びイヤーカップの背部容積を、反射が回避され、または最小化されるように配置してもよい。
【0027】
ヘッドフォン装置が
図4に例示的に示される。リング形状のイヤーカップ14が、2つの側面に対して完全に開かれ、ユーザの耳の周りに配置されており、音を耳に向かわせる3つのスピーカ20、20’、22を備える。イヤーカップ14は、ヘッドフォン装置がユーザ2によって着用されたときに、ユーザ2の耳の周りに開放容積を画定し得る。イヤーカップ14は、ユーザの耳の周りに配置されるフレーム15をさらに備え、それによって、ユーザの頭部の側方の位置から見たときに、少なくとも部分的に耳が枠入れされ得る。イヤーカップ14によって形作られる開放容積は、具体的には、ユーザ2の頭部から見て外方に向く側に本質的に開かれていてもよい。このことは、上記の
図23に関して既に説明されている。したがって、ユーザの耳の周りの開放容積は、イヤーカップ14の外面上の2点間の1つの直線であって、この直線がイヤーカップ14の部分を全く横切ることがない、少なくともこの直線と交差させることができる各点を空間内に含み得る。全てのスピーカ20、20’、22は、リング形状のフレーム15の内部に取り付けられており、このフレーム15は、少なくとも部分的に中空であって、少なくとも1つの閉じた後部室容積、またはフレーム15の少なくとも1つの壁によって外部と隔てられたスピーカ20、20’、22用の少なくとも1つの空洞を提供する。後部室容積の外側にある、以下では一般に膜と呼ばれる全てのスピーカ膜またはスピーカ振動板は、イヤーカップ14内の開放容積に直接面しているか、または隣接している。イヤーカップ14内の開放容積に面するフレーム15の内壁の表面の一部分は、耳へ向かう反射を低減するために、制振材料(
図4の断面図の斜線領域)で覆われている。
【0028】
図4において、平面A:A’に沿った断面の斜線領域は、例えば、耳介への反射を低減し、さらにユーザの頭部に対して緩衝材として機能する吸音フォームを備えてもよい。
図4の実施例では、スピーカの主なサウンド伝播方向は正中面にほぼ平行であり、耳介から離れる方には向けられていない。イヤーカップフレーム15の内壁の大部分が耳介に面している。吸音材料は、例えば、スピーカ20、20’、22を取り囲む表面または表面部分に施されてもよい。本質的に耳介に向けられている表面または表面部分の少なくとも一部分は、吸音材料を含んでもよく、一方、この吸音材料の使用は、本質的に耳介から離れる方に向けられた表面または表面部分に対しては任意選択である。吸音材料は、イヤーカップ14のあらゆる表面または表面部分によってユーザの耳介へ向けて反射される音の強度を低減するように構成され得る。このような反射音は、当初は少なくとも1つのスピーカ20、20’、22によって発せられたものであってもよい。
【0029】
別のヘッドフォン装置が
図5に示される。この実施例では、フレーム15の形状は、典型的な耳の形状に合わせられた内側輪郭と、スピーカのサイズ及び配置から生じた要件に従う外側輪郭とを有し、複雑化されている。スピーカ20、20’、22、22’、24、24’は、ユーザの耳への反射を減らすために、イヤーカップ14内の開放容積にそれぞれ面している膜の側面とフレーム壁面の大部分とが、正中面から見て外方に向くように傾けられている。
図5に示される、この第2のヘッドフォン装置は、少なくとも部分的に中空のフレーム構造のうちの少なくとも1つの空洞の中にスピーカの裏面を収容し、それによって各スピーカ20、20’、22、22’、24、24’に別個の閉じた背部容積室を提供する。
図4の第1のヘッドフォン装置の場合と同様に、後部室容積の外側にある全てのスピーカ膜は、イヤーカップ14内の開放容積に直接面している。この場合も先と同様に、イヤーカップ14内の開放容積に面するフレーム壁面の一部分は、耳へ向かう反射を低減するために、制振材料(
図5の断面図の斜線領域)で覆われている。
【0030】
図5のヘッドフォン装置は、主なサウンド伝播方向が耳介から離れる方に向けられたスピーカ20、20’、22、22’、24、24’を備える。この例実施では、さらに、その内壁部分の大部分が、耳介から離れる方に傾けられている。フレーム15は、耳介から本質的に離れる方に向けられた外面または外面部分を備え得る(そのような外面部分の垂直方向は、ヘッドフォンが通常の聴取位置でユーザによって着用されたときに耳介の方を指し示さない)。他の表面または表面部分は、本質的に耳介の方へ向けられ、その垂直方向が耳介の方を向いていてもよい。本質的に耳介に向けられたそれらの表面または表面部分の少なくともいくらかの部分は、吸音材料を含んでもよい。例えば、耳介に向けられた表面部分の30%超、50%超、または80%超が、吸音材料で覆われてもよい。本質的に耳介から離れる方に向けられた表面または表面部分は、一般に音の反射を主に耳介から離れる方に向けるため、そのような表面または表面部分は、必ずしも吸音材料を含まなくてよい。また一方、本質的に耳介の方に向けられている表面または表面部分は、一般に、反射の主要部分を耳介の方に向ける。したがって、このような表面または表面部分上の吸音材料は、耳介の方に向けられた反射を減らし得る。このことは、
図5に概略的に示されている。さらに、本質的に耳介に向けられた全ての表面または表面部分が制振材料を含む必要はない場合がある。スピーカの向かい側に配置される表面または表面部分は、反射を減らすために吸音材料を含んでもよく、一方、スピーカの向かい側には配置されない他の表面または表面部分では、こうした表面または表面部分は、直接音を受けることが少なく、したがって生じさせる反射が少なくて済む場合があるため、吸音材料の使用は任意選択であってもよい。それでも、耳介または耳甲介の領域への2次反射を減らすために、スピーカと向かい合っていない表面または表面部分が、吸音材料で覆われていてもよい。
【0031】
図6は、スピーカ26の簡略化された断面図を概略的に示す。スピーカ26は、スピーカエンクロージャ30内に配置される。スピーカエンクロージャは、フレーム15中の空洞によって形作られてもよい。スピーカエンクロージャ30は、密閉エンクロージャ、すなわち、エンクロージャ30の内側と外側との間に全く開口部を有さないものであってもよい。スピーカ26及びエンクロージャ30を含む音源装置は、エンクロージャ30の外部に音を放射する。エンクロージャ30は、上記の
図4及び5を参照して説明したように、イヤーカップ14のフレーム15の壁部分によって形成され得る。
図6a)及び
図6c)は、エンクロージャ30内のスピーカ26の従来技術の実施例を概略的に示す。
図6b)及び
図6d)は、スピーカ26の正面側に導波管をさらに備えた前部導波管装置でのスピーカ26の実施例を例示的に示す。前部導波管32は、フレーム15内の空洞の壁部分によって形作られてもよい。
図6b)及び
図6d)に示される実施例は、スピーカ26の前側の前方にある前部導波管を示すが、同様に、スピーカ26の後側に前部導波管が配置されてもよい(
図6には図示せず)。導波管は、一般に、音が導波管32から出て行き得る出力口42を含む。そのような導波管出力口42が、スピーカ26からユーザの耳に向かって音が伝わり得る唯一の自由空気経路である場合、その導波管は一般に前部導波管と呼ばれる。スピーカ26の前側及び後側の両方に導波管が配置されている場合、ユーザの外耳道の入口(自由空気経路)に近い方の出力口42を有する導波管32が前部導波管と呼ばれる。あるいは、前部導波管は、フレーム15の内部に導波管装置を構成するイヤーカップ14が、ユーザの耳の周りに配置されたときに、ユーザの耳に対するそれらの位置によって、画定されてもよい。この場合、前部導波管の導波管出力口は、イヤーカップ14によって画定されたユーザの耳の周りの開放容積に隣接する。後部導波管の導波管出力口は、イヤーカップ14の外側の自由空気に向かって開く。ただし、以下では、音源装置が前部導波管を有するものとして説明される場合は常に、前部導波管は、少なくとも1つのスピーカ26の正面側の前方に配置される。
【0032】
図6a)及び
図6c)を参照すると、スピーカ26の音は、全面的なスピーカ膜によって自由空気中に放射される。しかし、
図6に示されるスピーカ26は、密閉エンクロージャ30内に配置されているため、スピーカ26の後側からは音が自由空気中に放射されることはない。
図6b)及び
図6d)を参照すると、スピーカ膜の前方に、前部導波管32が配置されている。前部導波管32は、スピーカ膜の前方に配置された少なくとも1つの壁を含む。前部導波管32は、フレーム15の壁部分によって形作られていてもよい。
図6e)に概略的に示されるように、壁とスピーカ膜との間の第1の距離d1は、導波管32に結合された少なくとも1つのスピーカ26の膜の最大直径または最大対角線よりも小さくてよい。例えば、第1の距離d1は、15mm未満、5mm未満、または3mm未満であってもよい。第1の距離d1は、それぞれスピーカ26の膜の最大直径または最大対角線の60%未満、40%未満、または30%未満であってもよい。また、第1の距離d1は、スピーカ26によって放射される最も大きな波長に依存する場合がある。例えば、第1の距離は、スピーカによって放射される音の全波長未満、波長の5倍未満、または波長の10倍未満であってもよい。また一方、第1の距離d1、またはより一般的に言えば、導波管室の断面積を、導波管室の寸法にわたって変化させてもよい。例えば、距離d1または断面積を、導波管出力口42に対して遠方の点(例えば、導波管の反対側の端)から、導波管出力口42に向けて、直線的または指数関数的に増加させてもよい。導波管32の壁の一部分は、導波管装置を構成するイヤーカップがユーザの耳の周りに配置されたときに、ユーザの耳介の一部分と重なり得る。導波管32は、スピーカ膜の前方の、以下では導波管室34とも呼ばれる第2の空洞34の壁部分によって形作られる。導波管32は、音が導波管室34から出て行き得る少なくとも1つの開口部42を備える。開口部42の大きさ、形状、及び位置は、所与の用途に応じて適切に選択されてもよい。
【0033】
導波管開口部42または導波管出力口は、例えば、円形、楕円形、長方形、三角形、または放射状の形状を有してもよい。他の何らかの規則的または不規則な形状が可能である。導波管出力口42を形作る正確に1つの開口部を、導波管32または導波管室34が構成し得る。また一方、1つの導波管32または導波管室34が、組み合わされた断面積と、フレーム15またはユーザの耳の他の特徴に対する平均位置とで、導波管出力口42を共に形作る2つ以上の開口部を構成し得ることも可能である。以下では、導波管出力口42を参照する場合、これは、1つの開口部のみを含む導波管出力口、及び複数の開口部を含む複合出力口を指す。しかしながら、導波管出力口42は、導波管装置を含むフレーム15がユーザの耳の周りに配置されたときに、少なくとも1つのスピーカ26の膜よりも、ユーザの外耳道の入口に平均して著しく近づくように配置されてもよい。導波管出力口42とユーザの外耳道との間の平均距離は、導波管装置を含むフレーム15がユーザの耳の周りに配置されたときに、スピーカ26の膜とユーザの外耳道との間の平均距離よりも、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも60%短くてもよい。ユーザの耳の耳甲介領域に対する単一または複合の導波管出力口の平均位置は、導波管装置を含むフレーム15がユーザの耳の周りに配置されたときに、ユーザの耳の耳甲介領域に対する少なくとも1つのスピーカ26の膜の平均位置から、10°以上、20°以上、または30°以上だけ逸脱してもよい。また一方、前部導波管32の表面積は、スピーカ膜の表面積の少なくとも50%、少なくとも70%、または少なくとも90%であってもよく、それによって、スピーカ膜の少なくとも50%、少なくとも70%、または少なくとも90%を覆う。
【0034】
導波管32は、音源を実質的に耳に近づけると共に、耳における入射角を制御するために、ユーザの耳に対する音の出力位置を制御するように構成される。導波管室34内の囲まれた空気の体積の一部と、導波管32の出力口42に近い領域の空気の体積とは、ヘルムホルツ共振器を形成し得る。ヘルムホルツ共振器の共振周波数は、導波管室34の内部容積、及び導波管出力口42の断面積に依存し得る。ヘルムホルツ共振周波数より下では、導波管室34が少なくとも1つのスピーカによって駆動されるときに、導波管室34内の空気は、本質的に均一に移動し得る。有利な副次的効果として、導波管室34が十分に小さい場合には、導波管室34内の空気の質量を、スピーカ26の総可動質量に加え得る。それによって、結果として、導波管室34内に配置されたスピーカ26の有効共振周波数が低下され得る。ヘルムホルツ周波数では、導波管室34内の空気体積の一部が、空気バネを形成する場合があり、これは共振中に収縮及び拡張する。一部が導波管室34の内側にあり、一部が導波管室34の出力口42に近い外側にある別の空気体積が、空気バネと共振する質量を形成し得る。ヘルムホルツ共振周波数以下では、導波管室出力口の近くの空気粒子は、本質的に均一に移動し得る。このような均一に移動する空気粒子は、導波管32を駆動する少なくとも1つのスピーカ26の膜よりもユーザの外耳道入口に近い音源を形成し得る。
【0035】
音源からユーザの耳介、またはより詳細には、外耳道入口までの距離を短くすることは、特に低周波数において、所与のスピーカ26の外耳道入口での最大音圧レベル(SPL)を改善するので、開放型イヤーカップでは特に重要である。しかし、導波管32は、ヘルムホルツ共振器としてのみ理解されるべきではない。ヘルムホルツ共振器の原理による共振が発生してもよいが、この共振は、本発明の文脈における本質的な導波管機能に必須ではない。導波管32内の体積、及び導波管32の出力口42の周りの体積の形状は、少なくともいくつかの場合には、内部体積、及びこの内部体積を外部に接続するダクト内の体積への明確な割り当てを可能にしない場合があることが、さらに理解され得る。したがって、導波管32内で発生し得る共振を、必ずしもヘルムホルツ共振として分類することができない場合がある。導波管容積内で発生する最低の共振周波数は、導波管室34の最も長い内部寸法にも依存し得る。さらに、より短い内部寸法に依存し得る、より高い周波数において、追加の共振が発生する場合がある。導波管32は、任意の周波数で利用されて、少なくとも1つのスピーカ26によって放出された音を、ユーザの外耳道入口に近い位置、もしくはユーザの耳に対して一定の位置に配置された位置、またはその両方の位置に誘導し得る。それによって、導波管室34内の少なくとも1つのスピーカ26によって生成された音が、ユーザの外耳道入口に到達するまで広がる空気の体積を、導波管32がない場合と比較して大幅に減少させ得る。これは、外耳道入口の音圧レベルの上昇をもたらし得る。導波管室34内の少なくとも1つのスピーカ26によって生成された音が、外耳道入口に到達するまで広がる空気の体積を制限するために、先に述べたように、導波管32の単一または複合の出力口42を、外耳道入口の近くに配置してもよい。
【0036】
さらに、導波管32の単一の導波管出力口42の領域、または導波管32の複合導波管出力口42の全出力口を構成する最小輪郭内の総領域のいずれかによって、導波管室34内の少なくとも1つのスピーカ26のうちの少なくとも1つの膜の幾何学的中心もしくは音響的中心、または導波管室34の幾何学的中心のところで張られる立体角Ωは、πステラジアン未満またはπ/2ステラジアン未満であり得る。導波管出力口42の領域、またはより一般的には第1の表面領域によって定められる立体角Ωは、立体角Ωが範囲を定める点(例えば、導波管室34内の少なくとも1つのスピーカ26のうちの少なくとも1つの膜の幾何学的中心または音響的中心)から表面領域に向かう方向に、第1の表面領域を単位球に投影することによって覆われる単位球の第2の表面領域として画定されてもよい。言い換えれば、導波管室34内の少なくとも1つのスピーカ26のうちの少なくとも1つによって生成された音は、本質的に(導波管室内に放射された音の部分を除いて)、単一または複合の導波管出力口42に到達する時点で、πステラジアン未満またはπ/2ステラジアン未満の立体角内に放射され得る。ヘルムホルツ共振周波数を超えると、外耳道入口での音圧レベルは、導波管なしの場合と比較して増加しない場合があり、または導波管室34内の空気体積が、導波管のローパス挙動もしくは減衰性ハイシェルブ挙動を招き得るので、最終的には減少する場合がある。一般的には、小型スピーカは、低周波数よりも高周波数で高い音圧レベルを生み出すことができる。したがって、適切なイコライジングは、高周波数での音圧レベルの損失を補償する場合がある。開放型または密閉型のイヤーカップの実施態様とは関係なく、耳介での音の入射角を用いて、固有の耳介共振を励起することにより、方向性手がかりを誘導できる。このために、導波管出力口42を、耳介での所望の音入射角が達成されるように配置してもよい。
図6a)の装置と
図6b)の装置との間、及び
図6c)の装置と
図6d)の装置との間のサイズの増加は、実際の製品においては、
図6a)及び
図6c)の装置の、そうしなければむき出しとなるスピーカ膜を保護するために通常必要とされるあらゆる種類の保護グリルによって、少なくとも部分的に埋め合わされ得ることに留意すべきである。
【0037】
ユーザの耳に対する導波管出力口42の位置を正確に制御するため、及びユーザの外耳道入口近くにスピーカ出力を効果的に集束させるために、導波管出力口42の断面積は、比較的小さくなるように選択してもよい。これが導波管室34内のヘルムホルツ共振に及ぼし得る影響とは別に、小さすぎる導波管出力口42は、音圧レベルの低下及び信号の歪みをもたらす場合がある。導波管32内の所与のスピーカ26の場合、導波管出力口42によってもたらされるdB単位の音圧損失ILは、IL=0.01*(Vd/Aw^2+0.001*(Vd/Aw)として近似し得る。この式で、Vdはスピーカ膜の体積変位(例えば最大体積変位)であり、Awは導波管出力口42の断面積である。例えば、体積変位Vdが200mm3、出力断面積Awが40mm2の場合、おおよその音圧損失は約0.25dBになる。歪みを低く保つために、おおよその音圧損失ILを0.5dbよりも低くする、または0.75dBよりも低くする場合がある。
【0038】
前述したことは、
図7に例示的に示されており、
図7は、
図6a)及び
図6c)の例に対して、スピーカ26とユーザの耳の外耳道入口との間の平均距離(d
F)を概略的に示し、同様に、
図7は、
図6b)及び
図6d)の例示的なスピーカまたは音源装置に対して、導波管出力口42と外耳道入口との間の平均距離(dF_WG)を概略的に示す。
図6a)及び
図6c)の装置と、
図6b)及び
図6d)の前部導波管32を含む実施例との間の低周波数SPLの増加は、AWG=20*log10(dF/dF_WG)として近似してもよく、これは、b)対a)の場合は+5.3dB、d)対c)の場合は+5.7dBに等しくなる。この近似値は、音源の距離が2倍になるとSPLが6dB減少することを想定しているが、これは、音源に近接した位置(例えば、3cm未満の距離で)や、
図7に示されているようなスピーカエンクロージャ及び/または導波管構造32を組み込んだ全く完全なイヤーカップ14に対しては正確ではない場合がある。導波管の寸法及び導波管32の形状に応じて、近似は、数百ヘルツまたは数キロヘルツまでかなりうまく機能する場合がある。特に、
図7a)の装置を
図7b)の実施例と比較すると、導波管によって導入された耳甲介領域での平均音の入射角の変化を確認してもよい。
【0039】
複数の前部導波管を含む例示的なイヤーカップの実施態様であって、それを含まない場合は、
図4に示される導波管のない装置に対応するイヤーカップの実施態様が、
図8に示される。
図8に示される装置は、フレーム15と、フレーム15内に配置されたスピーカ20、20’、22とを備えたイヤーカップ14を備える。
図8の実施例では、2つのスピーカ20、22がユーザの耳の前方に配置され、1つのスピーカ20’がユーザの耳の後方に配置されている。スピーカ20、20’、22のそれぞれの前方に導波管32が配置される。つまり、全てのスピーカ20、20’、22は、それらの膜の前にある別個の導波管室に音を放射する。各導波管室は、別個の導波管出力口42を有する。
図8に例示的に示されるように、導波管出力口42は、それぞれのスピーカ20、20’、22の全幅にわたって延在するスリットの形態を有してもよい。これらの出力口またはスリット42は、この開放型イヤーカップがユーザ2の耳の周りに置かれたとき、ユーザの頭部から異なった距離に配置される。複数の隣接する導波管出力口42が、連続的な導波管出力口を形作ってもよい。
【0040】
例えば、耳介前方のスピーカ20、22の導波管のサウンド出力口42は、耳介後方のスピーカ20’の導波管の出力口42よりも頭部に近い。これにより、前部及び後部の導波管出力口に対して、ユーザの耳介の耳甲介領域に向けて直接音を伝播させることが可能になる。特に後部スピーカ20’の場合、導波管出力口42の位置は、耳甲介に放射される音が、外耳の頭部に対向する部分によって遮られることを回避する位置である。
【0041】
図9は、開放型イヤーカップ14のフレーム15に統合された前部導波管32の別の実施例を例示的に示す。前部導波管32を別にすれば、本装置は、その他の点では
図5に示す装置と全く同じである。前部導波管32を含む前の実施例と同様に、
図9に示される6つのスピーカ20、20’、22、22’、24、24’は全て、個々の閉じた後部室30内に配置され、それらの膜の前方に別個の導波管室を備える。導波管32の導波管出力口42のみが、導波管室の外側の自由空気との音圧交換を可能にする。導波管32の導波管出力口42はそれぞれ、それぞれの導波管32にスリットを備え、スリットは、別個のスピーカ20、20’、22、22’、24、24’の幅にほぼ等しい幅を有する。隣接する導波管出力口42は、それぞれ耳介の前側及び/または後側に沿って、ほぼ連続した、結合されたサウンド出力口を形作るように、互いにまとめてもよい。上記のように、導波管出力口42は、サウンド出力口42とユーザの耳の耳甲介領域との間の音響の遮りを回避するように、意図的に配置されている。
【0042】
提案した前部導波管32で可能な改善の実施例をさらに説明するために、
図10は、耳介のないダミーヘッドと、ユーザの耳甲介の典型的な位置に配置されたマイクロフォンとを用いて測定された実際の振幅応答の測定値を例示的に示す。実線は、前部導波管のない装置で測定された振幅応答を表し、破線は、前部導波管32を備えた装置で測定された振幅応答を表す。測定に使用されたイヤーカップは、
図5に示されたイヤーカップ14と、
図9の前部導波管32を備える実施形態に示されたイヤーカップ14と同様のものであった。両方の測定は、
図5の装置の振幅応答を等しくするためのフィルタを含む、等しい励起信号を用いて行われた。本実施例では、SPLは、50Hzと6kHzとの間で、少なくとも6dBだけ増加する。50Hz未満(
図10には示さず)では、同様のSPLの増加が観察された。このようなスピーカの適合によるSPLの増加を達成するには、スピーカ膜の空気体積変位を2倍にする必要があるが、これは例えば、類似のスピーカの数を2倍にすること、及び膜面積を2倍にすること、または既存のスピーカの可動域を2倍にすることによって達成され得る。
【0043】
ただし、
図10に示された測定値は、可能性のある一実施例を示したものに過ぎない。導波管32の精密な実施態様に応じて、より高いSPL増加及び/または一貫したSPL増加を伴う周波数領域のより広い帯域幅が実現可能である。SPLは、一般に、導波管出力口42までの距離の減少に伴って増加する。したがって、ユーザに対してのSPLは、導波管出力口42がユーザの外耳道の近くに配置されるほど増加し、導波管をそれに応じて設計してもよい。
【0044】
図11は、外耳道入口の位置でのSPLを増加させるために、スピーカ26の前面から外耳道入口に向けてさらに延在する前部導波管32のいくつかの実施例を例示的に示す。
図11a)は、導波管32の実施例を例示的に示しており、導波管32は本質的にスピーカ膜を覆っている。
図11b)~
図11d)に示される実施例では、導波管は延在されており、すなわち、導波管32は、スピーカ膜の表面領域を超えて、ユーザの耳の方向に延在している。導波管32は、
図11a)及び
図11b)に示されるように、本質的に平坦であってもよい。
図11c)及び
図11d)の実施例では、導波管32は、第1の部分321及び第2の部分322を含み、第2の部分322は、第1の部分321に対して角度εで配置され、ε<180°である。第2の部分322は、第1の部分321の第1の端部に結合される。
図11e)に示される実施例では、導波管32は突起323を備える。突起323は、導波管出口42の上に一種の屋根を形作る。
図11c)及び
図11d)の装置と同様に、突起323は、導波管32と角度εを形成し、ε<180°である。突起323は、導波管32の第1の端部と第2の端部との間に配置される。突起323によって形作られた屋根は、導波管出力口42からの音波が外耳道入口に到達するまで広がる体積を減少させる。これにより、導波管出力口42からの距離あたりのSPL減少が低減される。
図11e)に示される突起323は、薄板を含む。
図11f)に示される実施例では、突起323は、より厚い板またはくさびを含む。
図11f)の突起323は、吸音材料を含む。例えば、
図11e)に示される板の底面に、吸音材料のくさびが取り付けられてもよい。吸音材料は、本来なら反射性の表面から耳甲介への反射を減らすのに有用である。
【0045】
導波管32の振幅応答の平坦性は、導波管32の幾何学的特徴に依存する。前に説明したように、導波管室内の囲まれた空気の一部と、導波管32の出力口42に近い領域における空気とは、共振器(例えば、ヘルムホルツ共鳴器)を形成してもよく、そのための共振周波数及び品質係数は、他の選択肢の中でもとりわけ、導波管室の内部容積の適合、及び導波管出力口42の断面積の適合によって、調整してもよい。典型的なヘルムホルツ共振器は、画定された断面及び長さの内部容積及びエアダクトを含む。概ね一定の高さ(導波管壁とスピーカバッフルとの間の距離)の内部容積を備える
図6の導波管の実施例では、一般に知られているヘルムホルツ共振周波数及びQファクタを概算で計算するために、奥行き(導波管出力口42と後部導波管壁との間)の約1/4の割合をダクトが占めてもよく、奥行きの約3/4の割合を内部容積が占めてもよい。これは、導波管室の幅、したがって断面積が、全チャンバ深さにわたってほぼ一定であり、出力口42の幅と等しいことを前提としている。
【0046】
内部導波管室34の様々な、より複雑な形状については、幾何学的特徴とヘルムホルツ共振パラメータとの間に他の関係が適用されてもよい。様々な導波管形状は、いずれの場合でも測定によって評価してもよい。一般に、内部導波管体積が小さく、出力口断面積が大きいほど、ヘルムホルツ共振周波数が高くなり、共振の品質係数が小さくなると言うことができる。品質係数が低いほど、導波管出力口振幅の共振倍率は、スピーカ信号に影響を与えるフィルタで良好に等化され得る。共振周波数が高いほど、制振材料で減衰され得る効果が高くなり、可聴性が低くなる。ほとんどの場合、通常、導波管の寸法を維持し、それによって完全なイヤーカップ14を可能な限り小さく保つことが望ましいので、内部導波管の体積と共振周波数との関係は、そうでなければ開放されたスピーカ膜を保護するために、多くの場合に必要とされる典型的な保護グリルと同等のサイズの導波管32を可能にするので、一般的に有利である。いくつかの実施形態では、前部導波管32の内部容積は、導波管内に配置された少なくとも1つのスピーカ26のうちの全てのスピーカ26のスピーカ膜の最大体積変位の2倍未満、4倍未満、または8倍未満であってもよい。品質係数を下げるためのさらなる選択肢は、制振材料、または導波管室もしくは出口42に音響抵抗を提供する材料の導入である。制振材料の密度によっては、導波管のヘルムホルツ共振を減衰させ、一方、低周波信号はほとんど変化しないままにしておいてもよい。
【0047】
内部反射及び内部共振(内部とは導波管構造の内部を意味する)は、通常、比較的高い周波数で(導波管の寸法に依存して)発生するため、特に低周波領域をカバーするスピーカ26の場合、対応する導波管出力口42は、少なくとも1つの駆動スピーカ26から離れて配置してもよい。可能な限り最高のSPLを得るために、前部導波管出力口42を外耳道入口の近くに配置することは有益であり得る。外耳道入口に最も近い耳介の周りの位置は、耳介の前の位置になる。したがって、この位置は、低周波数再生に関係している前部導波管32にとっては、好適な出力口位置である。例えば、1つ以上のスピーカ26が、単一の前部導波管32と共に耳介の周りに配置されてもよく、導波管32の出力口42は、1つまたは全てのスピーカ26の前にあるのではなく、耳介の前方にスピーカ26から横方向に配置されてもよい。
【0048】
導波管室34内の反射は、振幅変動の別の音源を構成する。導波管室34内のそのような反射は、導波管室34内または導波管出力口42において、直接スピーカ信号(壁にぶつかる前にスピーカ26によって放射された音)と干渉する場合があり、両方の信号(直接信号と反射信号)の間の相対的な音響位相に応じて、直接信号と正の和をとるか、またはそれを打ち消し得る。これらの効果は、通常、少なくとも半分の波長が導波管室34の少なくとも1つの寸法(例えば、高さd1、深さd2、または幅)に適合する周波数に対して発生する。導波管室34内の反射は、中心領域(例えば、導波管室34の幾何学的中心C
W)に向かって、または導波管室34の出力口42の方を指向する反射面を回避することによって低減してもよい。反射に基づく和算効果及びキャンセル効果は、内部導波管壁と幾何学的導波管中心及び導波管出力口との間の距離変動によって、より広い周波数範囲にわたって意図的に分散される場合もある。これは、
図6f)及び
図6g)に概略的に示されている。
図6f)では、導波管室34の幾何学的中心C
Wが概略的に示されている。導波管室34の第1の壁と幾何学的中心C
Wとの間の距離d
CW1は、導波管室34の別の壁と幾何学的中心C
Wとの間の距離d
CW2とは異なる。さらに、
図6g)に概略的に示されるように、導波管室34の第1の壁と出力口42との間の例示的な距離d
OUT1は、導波管室34の第2の壁と出力口42との間の距離d
OUT2よりも大きい。これらの距離は、例えば、最大の内部寸法と、対象の最高周波数(例えば、15~20kHz)の半波長との間の範囲内で変化するように設計されてもよい。距離の変化は、例えば、導波管壁の分布によって達成されてもよい。また、導波管室34を通る異なる方向の非遮断経路の距離を変化させる幾何学的対象物を導波管室34内に直接導入することも可能である。対象となる最高周波数の半波長よりも短い距離(例えば、導波管の壁からスピーカバッフル及び/または膜までの距離)は、通常、所与の文脈では問題にならない。さらに、導波管室34内の制振材料で内部反射を低減させてもよい。
【0049】
上記の実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。特に、イヤーカップあたりのスピーカの数、スピーカの配置、または導波管及びイヤーカップの幾何学的形状は、上記の実施例とは異なる場合がある。実施例は、単に前部導波管の基本概念を説明することを目的としている。
【0050】
低周波音響信号の生成に関する一般的な問題は、特定の音圧レベルで必要な空気の体積変位が周波数の減少に向かって増加することである。スピーカの場合、膜の可動域または膜のサイズが大きくなると、空気の体積変位が大きくなる場合がある。膜及びボイスコイルの動きの安定性は、通常、所与のスピーカサイズに対しては可動域を制限する。所与のスピーカの膜面積が増加すると、エンクロージャ内のシステムの共振が増加するという結果になる。所与の自由空気共振周波数を持つスピーカが、閉じたボックス内に取り付けられた場合、それは自由空気共振の倍数への共振周波数移行を示し得る。共振周波数より低い周波数でのスピーカ26の動作は、通常、駆動ハードウェアまたはスピーカ自体の制限のために実現できない場合がある高い駆動信号レベルを必要とする。
【0051】
そのため、スピーカ膜の後側で発生する音圧を、自由空気中に放出してもよい。これにより、スピーカ26がエンクロージャ30に組み込まれている場合に、スピーカの共振周波数が増加することを回避でき、またはそれどころかその共振周波数を減少させることもできる。後部エンクロージャ30を開くと、スピーカ膜の前面及び背面から逆極性の音が自由空気中に放射されるダイポールの構成または配置になる。低周波では、イヤーカップの通常の寸法を超えて伝わり得る遠距離音によってもたらされる追加の位相シフトは無視できるものであり、したがって信号の振幅が等しい場合、前方の信号と後方の信号とが互いに打ち消し合うようになる。このことは、後方の音がユーザの耳に向かって自由に伝播する開放型イヤーカップでは問題になる場合があり、以下ではダイポール損失と呼ばれる音圧損失を招き得る。これを解決するために、自由空気中への後方音の放射位置を制御する後方ダイポール導波管が提案されており、ユーザの外耳道入口の位置で、スピーカ26の後部から放出された音による前部スピーカ音の減衰を減少できるようにする。
【0052】
図12では、
図12a)及び
図12d)は、前部導波管を持たず、完全に閉じた後部エンクロージャ30内に配置されたスピーカ26を概略的に示す。
図12b)及び
図12e)に示される実施例では、シンプルなダイポールスピーカを実現するために、後部エンクロージャの壁が取り払われている。
図12c)及び
図12f)を参照すると、後部(ダイポール)導波管36が概略的に示されている。ここで言う「ダイポール導波管」という用語は、後部導波管の壁部分によって囲まれた少なくとも1つのスピーカ26と、後部導波管36とを含む、結果として得られる音源装置が、前部放射ローブと後部放射ローブとは非対称であってもよいが、ダイポールスピーカと同様の放射パターンを示すことを強調するものとする。上に述べた前部導波管32と同様に、後部導波管36は、スピーカ26の後ろに配置されるが、スピーカの前に配置してもよい。後部導波管36は、イヤーカップ14のフレーム15の壁部分によって形作られてもよい。後部導波管36は、スピーカ26の後部の開放空洞39を囲む壁部分によって形作られる。後部導波管36は、音が導波管36から出て行少なくとも1つの導波管出力口44を備える。簡略化のために、
図12a)及び
図12d)の対応する実施例の後部壁の一部分が、
図12c)及び
図12f)の後部ダイポール導波管36のための壁部分として機能する。すなわち、
図12a)及び
図12d)のエンクロージャ30に、導波管出力口44が設けられる。言い換えれば、後壁は、緩衝材(
図12の斜線領域)の真上に導波管出力口44を含む。エンクロージャ30は、例えば、イヤーカップ14の中空フレーム15内の空洞39によって形作られてもよい。ただし、
図12a)及び
図12d)の装置の密閉箱30の内部空気体積は、
図12c)及び
図12f)の装置の後部ダイポール導波管36には必要とされないことに留意することが重要である。後者の実施例の場合、導波管の壁は、スピーカと導波管壁との間の狭いスリットのみを空気交換のために備え、後方のスピーカの輪郭に密接に追従させてもよい。それによって、イヤーカップの全体的な大きさを、既知のソリューション向けのものよりもかなり小さくしてもよいため、提案された後部ダイポール導波管の利点の1つとなる。
【0053】
後部ダイポール導波管36の利点を説明するために、
図13は、スピーカ26の前部とユーザの外耳道入口との間の平均距離(dF)、及びスピーカ26の後部とユーザの外耳道入口との間の平均距離(dR)を例示的に示す。前に述べたように、両方の音の振幅が等しく、それらの位相が逆である場合には、スピーカ26の前部から発せられる音は、スピーカ26の後部から発せられる音によって打ち消され得る。後者は、一般に、波長が典型的なイヤーカップのあらゆる距離よりもはるかに長い低周波の場合である。ユーザの外耳道の入口での音のキャンセルを低減するために、後部ダイポール導波管36は、ユーザの外耳道の入口から離れて配置された導波管出力口44を備え得る。したがって、
図13b)及び
図13d)に示される実施例の導波管出力口44は、緩衝材の真上の(耳に面していない)フレーム15の外側に配置される。後部導波管出力口44は、出力口44とユーザの外耳道の入口との間の距離を最大にするために、一般に、イヤーカップの外周の任意の位置に配置され得ることに留意されたい。例えば、遠隔の後部導波管出力口は、耳介の周りの様々な位置(例えば、耳介の前)に配置される1つまたは複数のスピーカでは、耳介の上に配置され得る。出力口44をスピーカ26の近く及び/またはスピーカ26の後ろに配置することは、一般に必要とされない。ただし、導波管の長さが長いと、内部の共振効果及び反射効果が発生する場合があり、前方の音に悪影響を与える場合がある。それにもかかわらず、遠隔の後方導波管出力口44は、低周波音圧レベルを最大化するために、マルチウェイシステムの低周波分岐、及びフルレンジスピーカに適用され得る。密閉箱(
図12a)及び
図12d))と比較した
図13の実施例の音響キャンセルは、ADP=20*log10(1-dF/dR)として近似し得る。スピーカ26とユーザの外耳道の入口との間の距離が2倍になるごとに6dBのSPLが減少すると、近似によって想定されるが、この近似は、スピーカのすぐ近くと、
図13に示されているスピーカ及びエンクロージャアセンブリを含む完全なイヤーカップ構造の内部とでは、あまり正確ではない場合がある。
図13の例示的な距離では、近似値は、
図13a)の実施例では-3.9dBのダイポール損失に等しく、
図13b)の実施例の対応する後部ダイポール導波管36では-2.4dBのダイポール損失に等しい。
図13c)の実施例では、近似結果は-4.9dBであり、
図13d)の実施例では-4dBである。後部ダイポール導波管36は、所与の実施例の両方で、外耳道入口での音響キャンセルを低減することが分かるが、その改善は一般的にかなり小さく、他のスピーカの向き(例えば、膜が正中面に平行である)に対しては異なる場合がある。
【0054】
例えば、
図12c)及び
図12f)に示されるように、ダイポールの構成または配置によって、密閉箱の実施態様と比較すると、同じイヤーカップサイズ内で、より大きなスピーカ膜面積が可能になり得る。実際のデバイスでは、スピーカ26を駆動するために利用可能な電圧、電流、または電力が制限される場合がある。さらに、スピーカ26の電力処理によって、安全に適用できる電力が制限される場合がある。したがって、膜が大きくなるとエンクロージャの容積を大きくする必要があり、結果としてイヤーカップのサイズを大きくする場合があるため、密閉箱の実施態様では最大膜サイズは制限され得る。密閉箱の構成または配置と比較して、ダイポールの構成または配置での膜面積の増加に起因するSPLの増加が、音響キャンセル損失を超える限り、ダイポールは全体的なSPLの増加をもたらす。さらに、小さな空気体積を有する密閉箱は、高い相互変調歪みを発生させる傾向があり、これは、提案されたダイポール構成または後部導波管36付きの装置によって改善され得る。
【0055】
図14は、
図12a)の装置に類似した密閉箱構成(実線)と、
図12c)に例示的に示されたダイポールスピーカ構成(破線)との周波数に対する振幅応答の例示的な測定結果を示す。
図14から明確に分かるように、後部導波管36を備えるダイポール構成は、同じ試験信号及び同じマイクロフォン位置で(典型的に、イヤーカップがユーザによって着用されていると想定して、耳甲介の位置で)測定されたときに、密閉箱構成よりも低い周波数(例えば、250Hz以下)でより多くのSPLを提供し得る。
【0056】
一般にダイポールは、低周波で高調波歪みを発生させる傾向がある。これは、すでに上で説明したように、音響短絡による音の部分的なキャンセル(スピーカ26の後ろから出力される180°位相シフトされた音が、スピーカ26の前から出力される音を打ち消す)のためである。上で述べたように、スピーカ26の後方で自由空気中に出力される音と、対象の場所(例えば、ユーザの外耳道の入口)との間の距離を制御することにより、キャンセルの程度を局所的に小さくすることができる。それでも、特定のSPL(低周波感度)に必要な電力とスピーカの歪みとの間には、依然としてトレードオフが存在し得る。導波管出力口44及び/または後部室39は、後側でのサウンド出力を制御するために制振材料を詰め込み、その結果、ダイポールと密閉箱との間の最良の妥協点にシステムをチューニングすることができる。後部導波管室を様々な程度に減衰させることにより、ダイポールとモノポールとの間のあらゆる妥協点を選択し得る。また、制振材料は、耳の位置で均等化が困難であり得る周波数応答(例えば、
図14の2.5kHz)の対応するピークやディップを伴い、通常では和算効果及びキャンセル効果をもたらし得る高周波出力を低減するのに有益である場合がある。一般的に、高い周波数(例えば、1kHz超)では、典型的なファイバベースまたはフォームベースの制振材料は、低い周波数(例えば、200Hz未満)でよりも強い減衰効果を示す。そのため、低周波での利点を維持しつつ、高周波数域での否定的影響を抑制し得る。
【0057】
図15a)及び
図15e)は、前部導波管のない既知の密閉エンクロージャスピーカ装置を例示的に示す。
図15b)及び
図15f)は、前部導波管32を備えた密閉エンクロージャスピーカ装置を例示的に示す。
図15c)及び
図15g)は、後部導波管36を備えるスピーカ装置を例示的に示す。また、上に述べた前部導波管装置及び後部ダイポール導波管装置を、互いに組み合わせて、デュアル導波管ダイポール構成としてもよい。この構成は、
図15d)及び
図15h)に例示的に示されている。
図15d)及び
図15h)の装置は、スピーカ26の前部に配置される前部導波管32、及びスピーカ26の後部に配置される後部導波管36を備える。比較可能性及び単純化のために、
図15に示される装置のエンクロージャの寸法及び形状は、既知の前部導波管及び後部ダイポール導波管の装置と概ね類似している。
【0058】
上に述べたように、前部導波管のない密閉箱構成と比較した前部導波管32の音圧レベルの増加は、AWG=20*log10(dF/dF_WG)として近似してもよく、これは、
図15a)の装置と比較して、
図15b)の装置では+5.3dBに等しく、
図15e)の装置と比較して、
図15f)の装置では+5.7dBに等しくなる。導波管なしの既知の密閉箱構成と比較した場合の後部ダイポール導波管装置での音圧の減衰は、ADP=20*log10(1-dF/dR)として近似されてもよく、その結果、
図15a)の装置と比較して
図15c)の装置では-2.4dB、
図15g)の装置では
図15e)の装置と比較して-4dBとなる。
図15d)及び
図15h)に示されているデュアル導波管装置のダイポール損失は、同じ式、つまりADP=20*log10(1-dF/dR)で近似してもよく、したがって、
図15a)及び
図15e)の装置と比較したSPLの合計変化は、ADWG=AWG+ADPとして概算し得る。ここで、AWGは、それぞれ
図15b)または
図15f)に関して説明したAWGである。
図15d)のデュアル導波管装置の場合、計算の結果、
図15a)の装置と比較して、SPLが約+4.2dB増加する。
図15h)のデュアル導波管装置の場合、
図15e)の装置と比較して、ほぼ等しい+3.9dBの増加が近似的に得られる。
【0059】
デュアル導波管ダイポール構成の概算ダイポール損失は、対応する後部ダイポールの実施例よりも一般にかなり低くなる(
図15c)の装置の-2.4dBと比較して、
図15d)の装置の-1.1dB、及び
図15g)の装置の-4dBと比較して、
図15h)の装置の-1.8dB)。したがって、デュアル導波管装置では、ダイポール損失が非常に小さくなるので、ダイポールは有利であると見なされ得る。測定結果は、
図15h)に示す装置と同様のデュアル導波管ダイポール構成を含む実際のイヤーカップの導波管損失近似を確認したものである。
図16は、
図9に示されるイヤーカップ14(カバーなしのフレーム15)と同様のイヤーカップであるが、
図15h)の後部導波管36と同様の追加の後部ダイポール導波管36を備えたイヤーカップに対して測定された振幅応答(実線)を例示的に示す。
図16はさらに、遠隔のダイポール導波管出力口44を備えた同じイヤーカップの振幅応答(破線)を例示的に示す。また、遠隔ダイポール出力測定では、後部導波管出口44と測定位置(耳のないダミーヘッドの典型的な外耳道入口位置)との距離を、後部導波管出口44の直上にあるイヤーカップの外郭の周囲に嵌合され、封止された安定板によって飛躍的に増加させた。それによって、後部導波管出力口44と測定に使用されたマイクロフォンとの間の距離は、対応するダイポール損失の低減に伴って、ほぼ4倍になった。測定結果は、約-2dBの広帯域ダイポール損失を示唆しており、これは、上記の-1.8dBの近似値に近い値である。
図16に示す測定結果と同様に、上記の近似値は、ユーザの頭部に向けられていないフレーム15の外面に沿って、後部導波管出口から外耳道入口に向かう音響経路のみを含む。言い換えれば、ユーザの頭部とフレーム15との間の緩衝材を介した潜在的な音漏れは含まれていない。このような音漏れが存在してもよく、対応するダイポール損失を低減するために適切な方法によって低減してもよい。
【0060】
上記の
図15に関する全ての近似は、同一のスピーカ26と、大部分が同一のエンクロージャサイズとの音響特性に関係することに注意されたい。スピーカ膜サイズが大きくなる可能性も、ダイポール構成によってサポートされる低周波効率の改善も考慮されていない。したがって、同じサイズのイヤーカップでの最大低周波SPLの全体的な増加は、導波管のない密閉箱構成と比較して、デュアル導波管ダイポール構成の4dBよりも、かなり高くなる場合がある。例えば、膜の面積を、イヤーカップのサイズを大きくせずに2倍にすると、合計で10dBの範囲の最大低周波の増加が可能となる場合がある。
【0061】
デュアル導波管ダイポール構成の実施例が、
図17に例示的に示される。
図17の装置は、可能性のある製品の実施態様を概略的に示し、例示的な導波管装置で使用され得る一般的なマイクロスピーカを備える。
【0062】
上記のように、前部導波管32及び後部ダイポール導波管36を、単独に、または組み合わせて用いて、デュアル導波管ダイポールを形成してもよい。以下の実施例は全てデュアル導波管ダイポール(前部導波管及び後部導波管32、36を備える)を示しているが、このような構成は後部導波管出力口44を閉じることによって前部導波管装置に、同様に、前部導波管32を取り除くことによって後部ダイポール導波管装置に簡単に変換され得ることに留意されたい。さらに、それぞれの用途で必要な場合、導波管出力口42、44を異なる位置に配置してもよいことに留意されたい。
図18の実施例は、それぞれ、単一(1つ以下)のスピーカ26のみを含むが、複数のスピーカを隣り合わせに配置したり、2つ以上のスピーカが共通の前部導波管及び/または後部導波管32、36を共有したりすることも可能である。
【0063】
スピーカ装置が全可聴周波数範囲にわたって使用される場合、スピーカの前側が前部導波管室34に音を放射するような、
図18に示されるデュアル導波管ダイポールの構成内に、ダイナミックスピーカが配置されてもよい。ここで言うスピーカの前側とは、膜を収容する側(例えば、モータアセンブリがない側)のことである。ここで言う前部導波管は、出力口44がユーザの耳の方に向けられた導波管32を指す。ただし、モータを膜の両側に分散させる様々なスピーカ装置が存在する。スピーカのどちら側が前部導波管室34及び後部導波管室39に音を出すかに関しては、提案された導波管に一般的な制限はない。とはいえ、前部導波管室34内の空気体積は、一般に、導波管の共振及び反射の挙動に大きな影響を与える。したがって、場合によっては、前部導波管室34内に任意のスピーカモータ部品を有することとは対照的に、前部導波管室34内にどの物体が配置されるかを制御することが望ましい場合がある。また、この装置を低周波で使用する場合には、スピーカのモータ側にエアノイズや、またはボイスコイルの擦れ音が発生しやすくなり得る。しかしながら、スピーカのモータ側で前部導波管室34に音を供給することは依然として可能であり得る。様々なスピーカ技術が存在し、将来に現れる場合がある。本導波管装置は、特定のスピーカ技術に限定されない。
【0064】
図18は、デュアルダイポール導波管装置のさらなる実施例を概略的に示す。
図18a)~
図18e)は、例示的な装置の簡略化された断面を概略的に示しており、単に基本的な概念を説明するために使用されるものに過ぎない。さらなる実施形態は、異なる形状、サイズ、及び/またはスピーカの向きを有し得ることに留意されたい。図示された導波管装置は、1つ以上の導波管装置を備えた(より大きい)イヤーカップ装置(例えば、
図9または
図19を参照)に含まれ得る。また、イヤーカップ14は、導波管のない追加のスピーカを備えてもよい。
図18a)及び
図18b)は、スピーカ26を示しており、イヤーカップ14がユーザ2によって着用された場合、スピーカ26の膜は、正中面(
図3を参照)にほぼ平行に配置される。
図18a)のスピーカ膜は、前部導波管32に面しており、前部導波管32は、側部導波管出力口42を含む。スピーカ26のモータ側(裏面)では、後部導波管36が音を導波管装置の反対側に向け、それによって導波管32、36のない密閉箱構成と比較してエンクロージャサイズ(導波管室サイズ)を増大させることなく、前部導波管出力口42と後部導波管出力口44との間に最大の自由空気距離を提供する。
図18b)に示されている装置では、スピーカ側が正中面に関して逆になっている。この結果、音源装置がユーザによって着用されるヘッドフォン装置のイヤーカップ14のフレーム15に一体化されている場合には、緩衝材からさらに離れている前部導波管出力口42の位置、及びその近くに緩衝材のユーザの頭部への接触領域が得られることになる。これは、耳介の後ろにあるスピーカの位置に有益な場合がある。
図18c)の構成では、スピーカ26は、ユーザがイヤーカップ14を着用したときに、その膜が正中面(
図3参照)にほぼ平行な方向を向く(膜が正中面に対してほぼ垂直な方向を向く)ように配置される。この場合も、導波管出力口42、44の位置は、2つの導波管出力口42、44の間の自由空気距離が最大になるように選択される。
図18d)及び
図18e)の装置では、スピーカ26は、正中面に対して任意の角度で配置される。
図18d)の装置のスピーカ膜は正中面(
図3を参照)から離れる方向に向けられているのに対し、図e)の装置のスピーカは正中面に向けられている。上に述べたように、前部導波管出力口42と後部導波管出力口44との間の自由空気距離は、比較可能な密閉箱の設計と比較して、エンクロージャサイズを増加させることなく、出口の配置によって最大化される。
【0065】
図18の実施例では、装置は緩衝材50(斜線部分)を含む。緩衝材50は、ヘッドフォン装置で一般的に使用される任意の緩衝材であってよい。緩衝材50は、一般に、ヘッドフォン装置がユーザによって着用されたとき、ユーザの頭部とイヤーカップ14のフレーム15内のスピーカ装置との間に配置される。すなわち、
図18の緩衝材50は水平位置に示されているが、これは典型的には、ユーザが着用したときの緩衝材50の向きではない。ヘッドフォンがユーザによって着用されたときの緩衝材50の向きは、例えば、
図8及び
図9に示されている。
【0066】
図18または他の図のいずれかに示される導波管装置は、開放型または密閉型のイヤーカップに配置されてもよく、互いに組み合わされてもよい構成単位として理解され得る。上記の導波管装置は、例えば、
図19に例示的に示されているように、開放型イヤーカップ14に(カバー80なしで)一体化されてもよい。
図19の様々な装置は、ユーザの耳と周囲の開放型イヤーカップ14との簡略化された水平断面図を示す。
図19の装置はそれぞれ、デュアル導波管(後部導波管36及び前部導波管32を含む)を備えた少なくとも2つの音源装置を含む。任意選択の追加の音源装置またはスピーカは、
図19には示されていない。概して、
図19に示されているイヤーカップの形状は、
図8に示されているイヤーカップ14の形状に概ね類似していてもよい。しかしながら、
図19に示されている装置は、特定の実施態様の詳細を表すのではなく、むしろ本発明の基本原理を説明することを意図したものであり、上記のように、導波路原理を組み込むために使用され得るイヤーカップ14の形状を制限するものではない。以前に
図18に関して説明したように、デュアル導波管装置は、単一導波管装置(例えば、前部導波管または後部ダイポール導波管)に容易に変換され得る。
図19中の矢印は、導波管出力口42、44、及び可能な音響経路、特に前部導波管出力口42とユーザの外耳道との間の経路を示している。
【0067】
図19a)は、イヤーカップ14の断面図を示す。イヤーカップは、フレーム15内に少なくとも2つのスピーカ26を備える。イヤーカップ14は、ユーザが着用したときにユーザの耳の周りに配置される。このようにして、イヤーカップ14は、ユーザの耳の周りに開放容積を形成し、この開放容積は、ユーザの頭部とイヤーカップ14とによって画定される。前部導波管42の出力は、一般に、ユーザの耳の周りのこの開放容積に向けられる。それによって、前部導波管出力口42は、ユーザの耳の周りの開放容積に隣接する。スピーカ26によって発せられる音は、前部導波管32によってユーザの外耳道の方に向けられてもよい。前部導波管32によって形成されるチャンバ34は、出力口42を有する。音は、この出力口42を通って導波管室34を出てもよく、ユーザの外耳道に向けられる。さらに、スピーカ26は、後部導波管36によって形成された後部導波管室39内に配置される。また、後部導波管室39は、スピーカ26の背部から放出された音が、後部導波管室39を出ることができるようにする出力口44をも有する。
図19b)~
図19e)の装置におけるスピーカ26は、様々な角度で配置されている。いくつかの実施例では、スピーカ26の膜は、互いに本質的に平行に配置される。いくつかの装置では、スピーカ26の膜は、装置がユーザの耳の周りに配置されている場合には、正中面または水平面に対して本質的に平行に配置される。他の実施例では、スピーカ26の膜は、正中面に関して0°~180°の間の角度で配置される。
【0068】
図19の主な目的は、先に説明した導波管装置に基づいて、多数のイヤーカップ形状またはフレーム形状が可能であることを示すことである。結果として得られるイヤーカップまたはフレームは、イヤーカップ14またはフレーム15の奥行き、高さ、及び幅、(ユーザの頭部から離れて)自由空気に向かうイヤーカップ開口部の大きさ、ならびにイヤーカップ内(耳の周り)の空気体積を含む、様々な特性を有し得る。さらに、前部導波管出力口42/後部導波管出力口44とユーザの外耳道入口との間の自由空気距離は異なっていてもよい。さらに、前部導波管出力口42によって放出される音のユーザの耳における入射角は、異なる装置の間で異なっていてもよい。さらに、記載された特性は、特に低周波数において、装置及び最大SPLで可能な空間表現に影響を及ぼし得る。
【0069】
製品の要件に応じて、適切なイヤーカップ構造を選択してもよく、これには、
図18のデュアル導波管ダイポール装置の1つ以上が含まれ、任意選択で、任意数の追加のスピーカが含まれる。スピーカのサイズ、ならびにスピーカの周囲の空きスペース、及びユーザの耳は、様々な装置では、ほとんど同じであるため、上記の特性のほとんどは、
図19の実施例の傾向から直接評価することができる。最大低周波SPLに関しては、
図19c)の装置が最も有望であり、それは、全ての後部導波管出力口44から外耳道入口までの距離が比較的長く、耳の周りの内部容積が小さいためである。前者は低ダイポール損失をもたらし、後者は前部導波管出力口42とユーザの外耳道との間の距離にわたって低SPL減少をもたらす。
図19b)及び
図19e)の装置の最大低周波SPLは、
図19c)の装置の最大低周波SPLよりも低くなる傾向がある。
図19a)及び
図19d)の装置は、
図19b)及び
図19e)の装置よりも低い低音SPLをもたらす傾向がある。
【0070】
図18に示された装置と比較すると、
図19に示された装置では、導波管出力口の位置が一部異なっている。提案された導波管装置の基本的な特徴は、導波管出力口42、44の位置が可変なことである。前部導波管出口の位置は、例えば、ユーザの頭部の近くの緩衝材50に直接隣接して配置される位置から、緩衝材50とは反対側(緩衝材50から遠い側)のスピーカ装置の側に配置される位置にシフトさせてもよい。前部導波管出力口42の位置は、頭部と耳介との間の典型的な横方向の隔たりの輪郭に従うために、ユーザの耳の周りのフレーム15内のその位置に依存し得る。
図19の全ての実施例では、耳介のより露出した部分による耳甲介領域への直接音の遮りを避けるために、耳介の後ろの前部導波管出力口42は、ユーザの頭部または緩衝材50からさらに離れた位置に意図的に配置されている。それとは逆に、耳介の前の前部導波管出力口42は、耳介の入口の近くに配置されて、耳甲介での前方音源の入射角をエミュレートするために、頭部の近くに配置されている。
【0071】
イヤーカップ14の自由空気への側面開口部にカバー80が提供される場合、
図19の全ての開放型イヤーカップ装置は、密閉型イヤーカップに変換され得る。カバーは、イヤーカップ14のフレーム15に恒久的に固定されていてもよいし、取り外し可能であってもよい。前部導波管32によって提供される外面は、カバーとスピーカ膜との間の衝突、または導波管出力口42、44の遮断なしに、そのようなカバー80の恒久的または取り外し可能な設置をサポートする。ダイポールとして配置されたフレーム15内に1つ以上の音源を備える側面カバーのない開放型イヤーカップは、複数の放射ローブを含むサウンド放射パターンを発生させ得ることが理解され得る。例えば、低周波では、デュアル導波管を備えたダイポールとして配置された単一の音源が、相対音響位相が反転した2つの主放射ローブを持つ放射パターンを発生させ得る。ユーザの耳に対するこれらの放射ローブの範囲は、例えば、前部導波管出力口及び後部導波管出力口の位置、ならびにそれらの出力口間の音響経路によって制御してもよい。耳の本質的に対向する側に配置されたデュアル導波管を有するダイポールとして配置された2つの音源は、3つの主要な放射ローブを持つ放射パターンを発生させる場合があり、そのうちの1つは、2つの他の放射ローブと比較して逆相対音響位相を示し、これら2つの他のローブの間に位置している。ユーザの耳の周りに配置されたデュアル導波管を有するダイポールとして配置された複数の音源は、逆位相の2つの主放射ローブを生成し得る。耳を覆う第1のローブと、第1のローブを囲み、リング状の形状を示す第2のローブとである。イヤーカップに部分的または完全に閉じるカバーが取り付けられている場合は、放射線ローブにも影響が出る。また、デュアル導波管ダイポールとして配置された音源によって生成される音圧レベルは、前部導波管出力口までの距離の増加に伴って減少する場合があることにも注目すべきである。したがって、外耳道入口に対する導波管出力口の相対的な配置を変化させることと引き換えに、外耳道入口の位置で受け取られる音圧レベルが変化し得る。耳の対向する側にさらに導波管出力口を追加することで、これらの変動を少なくとも部分的に補償できる。外耳道が第1の導波管出力口から遠ざかるにつれて、外耳道は第2の反対側の導波管出力口に近づき得、第1の導波管出力口までの距離の増加によるSPL損失を補償し得る。
【0072】
また、少なくとも前部導波管32または後部導波管36を備えたスピーカ装置を、導波管なしで直接放射するスピーカと組み合わせてもよい。直接放射スピーカと導波管装置とのこのような組み合わせの実施例が
図20に示される。導波管32、36は、例えば、低周波SPLの増強に有利であり得る。ただし、高周波スピーカ(例えば、2~4kHz超)では、導波管によるSPLの増加は必ずしも必要ではない。導波管のないこのような高周波スピーカは、比較的小型となり得る。したがって、このようなタイプのスピーカは、上記の導波管装置に容易に組み込み得る。
【0073】
高周波スピーカ261は、
図20では単純な長方形として概略的に示されている。高周波スピーカ261の片側は、スピーカ26を含むスピーカ装置の外壁と一致する。したがって、高周波スピーカ261は、埋め込み式スピーカに似ている。スピーカ装置の壁は、例えば、後部室30の側壁、または前部室34の側壁であってもよい。例えば、高周波スピーカ261は、後部導波管36または前部導波管32に一体的に形成されてもよく、または後部導波管36または前部導波管32を形成してもよい。そのような直接放射スピーカ261は、導波管室32、30の内部共振効果及び内部反射効果を回避し得、したがって、通常、固有の耳介共振(例えば、4kHz超)の誘導に重要な周波数範囲の発生に適している。両方のスピーカ26、261は、既知のツーウエースピーカと同様の音響信号再生のために組み合わせてもよく、個々のスピーカと部分的に重複する周波数範囲に寄与して、システムの完全な周波数範囲をサポートする。言うまでもなく、さらなる追加の直接放射スピーカはまた、イヤーカップ14の他の部分、例えば、ユーザの耳に面するイヤーカップ14の部分内に配置されてもよい。
【0074】
既に言及してきたように、複数の導波管装置が、単一のイヤーカップ14内で組み合わされてもよい。これらの導波管装置は、イヤーカップ14の全周波数範囲をサポートしてもよいし、または、以下で説明する
図21の実施例で意図されるように、システムの完全な周波数範囲の一部のみをサポートしてもよい。また、高周波スピーカ261は、導波管開口部421が、より低い周波数範囲をサポートする、大きい方の導波管装置の前部出力口42に近い状態で、小さい方の前部導波管室321に取り付けられてもよい。
【0075】
高周波スピーカ261は、
図21において単純な長方形として例示的に示されており、高周波スピーカ261の一方の側面は、図示された導波管装置の壁と一致している。
図21に示される実施例は、それぞれ、低周波スピーカ26及び高周波スピーカ261を含む。高周波スピーカ261は、低周波スピーカ26よりもサイズが小さい。上記のように、低周波スピーカ26は、スピーカ膜の前方に取り付けられた第1の前部導波管32を有する。上記のように、低周波スピーカ26は、スピーカ26の背部に取り付けられた後部導波管36をさらに有してもよい。高周波スピーカ261は、その膜の前に取り付けられた第2の前部導波管321を有してもよい。高周波スピーカ261及び第2の前部導波管321の基本構造は、低周波スピーカ26及び第1の前部導波管32と同様である。第1の前部導波管室の第1の出力口42は、第2の前部導波管32によって形成された第2の前部導波管室の第2の出力口421に隣接して配置されてよい。したがって、両方の出力口42、421は、本質的に同じ方向に音を向け得る。近接する出口42、421を設けることにより、音源の位置、放射特性、及びイヤーカップ14の他の部分からの反射に関して一貫性を向上させ、それによって、複合音源のユーザによる単一音源としての知覚がサポートされる。低周波数範囲及び高周波数範囲のための別個の前部導波管の利点は、高周波導波管321の潜在的に小さなサイズである。例えば、2kHzを超える周波数範囲を単にサポートするだけのスピーカ261は、かなり小さくすることができるので、前部導波管321もまた、それらの小さなスピーカについては、大きな低周波スピーカ26の場合よりも、かなり小さくすることができ、それによって、内部共振及び反射効果を周波数の上方にシフトさせ、位置特定の手がかりのための敏感な範囲(例えば、15kHz超)から潜在的に外せる場合がある。
【0076】
単一の導波管32内に複数のスピーカを組み合わせた実施例が
図22に示されている。
図22の種々の装置では、2つのスピーカ26は、単一の前部導波管32を導波管室34と共有する。各スピーカ26の後部ダイポール導波管36は、個々の後部導波管室39を有する各スピーカ26に対して個別であってもよく(
図22a)を参照)、または単一の後部導波管室を有する両方のスピーカ26に対して結合されていてもよい(
図22b)~
図22d)を参照)。2つのスピーカ26の膜は、互いに向かい合っていてもよく、互いに1cm未満、0.5cm未満、またはさらに0.3cm未満の距離に配置されてもよい。すなわち、前部導波管の幅d1(
図6e)を参照)は、1cm未満、0.5cm未満、またはさらに0.3cm未満であってもよい。スピーカ26の背部は、単一の出力口44を有する同一の後部導波管室39内に配置されてもよい。したがって、スピーカ26の背部から放出された音は、同じ出力口44を通って後部導波管室39を出て行く。このような装置の1つの利点は、一般にスピーカをイヤーカップ14のフレーム15に結合させ得るインパルス(方向付けられた力)のキャンセルである。前面から前面に取り付けられ、互いに同位相で再生される2つの等しいスピーカ26は、等しい力と反対方向のインパルスを生み出す場合があり、剛性の高い構造によってスピーカが機械的に接続されている場合には、これらは相互に打ち消し合う場合がある。
【0077】
さらに、複数の、任意選択で小さいスピーカの組み合わせは、単一の(1つ以下の)大きいスピーカを含む装置と比較して、異なる形状因子を可能にする場合がある。完全なイヤーカップ14内では、
図22(及び
図18、
図20、
図21)によって示されているように、複数の導波管装置を、耳の周りにできる限り全面的に(フレーム15の全周に沿って)横並びに配置してもよい。これらの個々の導波管装置は、ある種の機械的仕切りによって互いに機械的に分離され、2つのスピーカ(またはそれぞれ1つのスピーカ)のみが単一の前部導波管室34に遊挿されるようにしてもよい。また、複数の導波管アセンブリを組み合わせて、導波管32、36あたり2つ以上のスピーカを備える、大きな前部ダイポール導波管または後部ダイポール導波管32、36に組み合わせてもよい。耳介の前部及び後部にそれぞれ配置された2つのスピーカを備える例示的なイヤーカップ14が、
図22d)に例示的に示されている。
【0078】
上記のように、1つ以上の導波管装置と、場合によっては追加の直接放射スピーカとを、単一のイヤーカップ14に組み合わせてもよい。導波管装置は、イヤーカップ14によってサポートされることになる周波数範囲全体、またはこの周波数範囲の一部のみをカバーし得る。一般に、ユーザの外耳道入口でのSPLは、耳介の前の所与の導波管装置の方が、耳介の後ろの導波管装置よりも高くなる。したがって、完全なイヤーカップの最低周波数範囲を単にサポートするのみの前部導波管32の出力口は、例えば、耳介の前に配置されてもよい。
【0079】
別の重要な態様は、耳甲介に対する前部導波管出力口44の位置に依存する、それぞれのスピーカまたは導波管装置によって誘導される方向性耳介手がかりである。耳介の前または後ろだけでなく、上または下に配置された個々の音源(例えば、スピーカ)については、固有の耳介共振によって誘導される場合のある方向性耳介手がかりは、正中面内の対応する方向に関連付けられ得る。したがって、特定の方向に関連する方向性手がかりの誘導が望まれる場合、導波管出力口44は、耳介の周囲の対応する場所に配置されてもよい。一般に、正中面内の方向は、ヘッドフォンでバイノーラル合成された仮想音源に対応することが最も困難である。したがって、利用可能な方向性手がかりが、正中面に近い方向に関連付けられている場合は、最も有益である。これに関して、前部導波管出力口42または直接放射スピーカの配置は、好ましくは、外耳道の入口を通る平面に近く、その平面は正中面に平行であるべきである。耳介の後側は、その背後の音源からの音を遮る場合があるため、遮断効果による大きな振幅応答の変化を回避するために、耳介の後ろのサウンド出力口42を、この平面のさらに外側に配置してもよい。
【0080】
複数のスピーカにまたがる信号分布を制御することによって知覚される音源方向を制御できるようにするために、導波管出力口42及び/または直接放射スピーカを耳介の周りの複数の場所に配置してもよい。スピーカは、少なくとも4kHz~16kHzの間の周波数で音を出力するように構成され得る。例えば、1つ以上の音源が、耳介の前及び後ろに、ユーザの外耳道の入口を通る水平面(例えば、
図3に示される水平面、または
図3の水平面に平行な別の平面)の近くに配置されてもよい。そのような音源は、水平面内の頭部の周り全て、またはユーザの頭部の周りの3D空間にさえも、仮想音源を合成するように構成してもよい。一般に、個々のヒトの耳に対するイヤーカップ14内の音源の位置決め精度は非常に低い。したがって、複数の導波管出力口42、または一般に耳介の前後に音源を有することは有益であり得、これにより、単に並列に再生させる場合には、より安定した方向性の手がかりを提供し得る。音源は、隣接するスピーカにサウンド信号を分配することにより、知覚される音像の高さの調整することをさらに可能にしてもよい。好ましくは小さなイヤーカップ内のスピーカに利用可能な通常の狭いスペースと、適切なSPLで低周波を生成するという課題とを考えると、
図9に類似したスピーカ分布であって、それぞれが耳介の前(20、22、24及び耳介の後(20’、22’、24’)に複数のスピーカを有すると共に、近接した前部導波管出力口42を有するスピーカ分布は、実行可能な選択肢である。耳介の上に装着された直接放射または導波管のいずれかの追加の高周波音源は、仮想音源の上方からの改善された広がりと臨場感とを可能にし得る。また一方、頭部の周りの音源は、耳の上に音源を追加せずに合成してもよい。
【0081】
一般に、大きく反対の方向(例えば、前と後ろ、上と下)からの音源は、多くの場合に有益であり得る。利用可能な方向の1つが耳介の前にある場合(ユーザは音が前方から来ていると認識する)、これは前後の混乱を減らすのに役立ち得る。通常のステレオ再生だけでなく、例えば、既知のバーチャルリアリティヘッドセットによって提供される標準的なHRTFベースのバイノーラル合成のために、方向性のないバイアスが望まれる場合がある。この場合、大きく反対する方向からの複数の重ね合わせた音源による並列再生は、耳介で方向的にニュートラルな(非常に拡散した)音場を近似することができる。空間的に強化されたステレオ再生では、頭部の周りに複数の仮想音源を配置することが現在では有益である。この場合及びオーディオチャンネルまたはオーディオオブジェクトの任意のさらに強化されたセットアップでは、信号は、仮想音源合成を可能にするために、対向する方向から音源に分配されてもよい。単一方向からの強い方向性をもつ手がかりしかない状態では、他の方向の合成は、全く可能ではあるが、通常、現実性が低くなる。
【0082】
提案されるヘッドフォン装置の実施形態は、個々の電気信号によって個別に制御され得る複数のスピーカを含み得る。さらに、スピーカのボイスコイルインピーダンス及び/または効率は、例えば、今日の多くのスマートフォンで提供されているようなヘッドフォンアンプのような標準的なヘッドフォンアンプとは互換性がない場合がある。したがって、ヘッドフォン装置は、入力信号を受け取り、調整済みの入力信号を駆動信号として、単一または複数のスピーカに印加するように構成された少なくとも1つの電子駆動ユニットを含んでもよい。さらに、特定の音質または空間音響特性を達成するために、一部のアプリケーションでは電気音響信号の処理が必要になる場合がある。したがって、ヘッドフォン装置は、少なくとも1つの入力信号を受け取り、少なくとも1つの入力信号を処理し、少なくとも1つの処理された入力信号を少なくとも1つの電子駆動ユニットに放出するように構成される少なくとも1つの信号処理ユニットを含んでもよい。
【0083】
密閉型のイヤーカップは、一般的にいくつかの点で開放型のイヤーカップとは異なる。例えば、視覚的外観、換気、環境音の抑制、デバイス外部の内部音の可聴性、知覚される音像の大きさと位置、及び最大低周波SPLは、重要な際立った特徴の一部である。
【0084】
すでに上に述べたように、本発明が使用され得るイヤーカップは、スピーカ26に使用される導波管の実施態様(例えば、前部導波管、後部ダイポール導波管、またはデュアル導波管ダイポール)のタイプとは無関係に、開放型(フレーム15を備える)または密閉型(フレーム15及びカバー80を備える)のいずれかであり得る。フレーム15とユーザの頭部との間の緩衝材50が、ユーザの耳を完全に取り囲む場合、カバーまたはキャップ80は、フレーム15に恒久的に取り付けられてもよく、またはフレーム15に取り付けられ、またはフレーム15から取り外されてもよい取り外し可能なパーツとして提供されてもよい。カバー80は、所望に応じて、空気漏れに対して妥当なシーリングを提供するように構成されてもよい。しかしながら、緩衝材50ならびにフレーム15及び開放型イヤーカップ14は、一般に、耳を部分的にのみ取り囲んでもよいことに留意されたい。例えば、フレーム15は、その周縁に凹部、切れ目、または隙間を含んでもよい。ただし、カバー80はまた、様々な理由から、連続的な周縁を有さないフレーム15と組み合わされてもよい。その理由を以下に述べる。カバー80に関するほとんどの態様は、耳を完全に枠入れするフレーム15と同様に、耳を部分的にのみ枠入れするフレーム(その周縁に凹部、切れ目、または隙間を含む)にも同様に適用される。
図23は、イヤーカップ14のカバー80の一実施例を概略的に示す。イヤーカップ14は、耳介の前方に3つのデュアル導波管ダイポールとして配置された3つのスピーカ20、22、24と、耳介の後方に3つのデュアル導波管ダイポールとして配置された3つのスピーカ20’、22’、24’とを備える。この図は、カバー80が取り付けられたフレーム15(
図23a)、及びカバー80がフレーム15から取り外されたフレーム15(
図23b)を示す。カバー80は、フレーム15に恒久的に結合されてもよく、または取り外し可能であってもよい。恒久的に背部が閉じられた(カバー80がフレーム15に恒久的に結合された)イヤーカップ14であって、イヤーカップ14が、既知のクローズドバックイヤーカップと比較して、本発明による少なくとも1つの導波管装置を備える、イヤーカップ14の利点は、耳介での音の方向性の出現であり、これにより、固有の方向性耳介手がかりの誘導を可能にする。また一方、取り外し可能なカバー80は、ユーザが状況及び環境に基づいて、開放型のイヤーカップ14または密閉型のイヤーカップ14を選択してもよいので、一般に、はるかに多くの多用途性を提供する。
【0085】
カバーまたはキャップ80は、軟質または中実の材料を含み得る。カバー80の材料は、任意選択で、任意の方法で穿孔されて、例えば、ユーザの耳を完全にまたは部分的に遮り得るが、それでもカバー80を通して空気を交換することを可能にし得る、半開放型のイヤーカップを作成し得る。また、カバーまたはキャップ80は、フレーム15の側面開口部を部分的にのみ閉じてもよい。したがって、カバー80は、任意のサイズ及び/または形状の開口部を備え得る。例えば、フレーム15の上端及び/または下端の領域の大きな開口部は、いくらかの低周波ブーストを提供しながら、スタック効果に基づいた空気換気を提供し得る。開口部を含むこのようなカバー80は、視覚的には、開口部のないカバー80と同じか、または類似しているように見えてもよい。このような種類の開放型カバー80は、イヤーカップ14の内側、例えばフレーム15の壁部に、またはカバー80の内側に、吸音面と組み合わせてもよい。このようにして、カバー80は、既知のオープンバックヘッドフォンに匹敵する、環境ノイズの一定の低減をさらに提供し得る。さらに、カバー80は、音の代わりに光のみを遮断するように構成されてもよく(例えば、音響的に透明な布)、それにより、耳の視覚的露出を単に防止するだけで、依然として音響環境の知覚は可能にする。イヤーカップの音響に対するカバーの影響のために、カバーを利用して、音響特性を好みに合わせて調整してもよい(例えば、周波数応答、音像の外在化)。例えば、音像の外在化は、カバーから耳介に向かう反射音エネルギーの量に応じて減少する。したがって、内部カバー表面の大きさ、形状、及び吸音率に関するカバーの様々な構成を使用して、外在化をある程度制御してもよい。最後に、交換可能なカバー80は、オプションとして入手可能な多数のカバー上に異なる色、パターン、表面、及び材料の任意の組み合わせを有する、カスタマイズ可能な視覚的設計の一部であってもよい。カバー80は、例えば、アフターマーケット製品として販売されてもよい。
【0086】
カバー80の特性によっては、着脱可能なカバー80をフレーム15に装着した場合、イヤーカップ14の音響特性が大きく変化する場合がある。特に、振幅応答は、完全に閉じられたカバー80の場合、低周波から中周波でブーストされてもよい。半開放型カバー80は、任意の中間振幅ブーストを生成し得る。この振幅応答の変化は望ましくない場合があるので、ヘッドフォンで積極的に補正することができる。この目的のために、1つ以上のセンサ及び/またはスイッチは、カバー80の存在を検出し、潜在的に異なるカバータイプ(例えば、開口部を有するカバー、開口部を有さないカバーなど)を区別するために、フレーム15及び/またはカバー80に統合されていてもよい。センサ出力またはスイッチ状態を評価し、それに応じてイヤーカップ14の振幅応答を制御する電子制御ユニットをヘッドフォンに含めてもよい。これは、例えば、スピーカに供給されるオーディオ信号に影響を与える適切なデジタルフィルタまたはアナログフィルタによって実現されてもよい。
【0087】
本発明によるヘッドフォン装置の1つの目的は、所望に応じて、オーディオ信号に個人的な方向性手がかりを追加するために、固有の耳介共振を制御誘導することである。この目的のために、音を、近くの表面からの強い反射なしに、好ましくは特徴的な方向から耳介及び最も重要な耳の耳甲介に到達させ得る。しかしながら、反射はまた、耳介共振の発生とは無関係に重要なイヤーカップ14の一般的な調性を損なう場合がある。反射は、イヤーカップ14内の位置にわたって変化するイヤーカップ14の振幅応答のピーク及びディップを引き起こす。したがって、それらは通常、単にフィルタを適用するだけでは、イヤーカップ14内の広い領域にわたって等化することができない。その結果、振幅応答は、異なる装着位置や異なるユーザによって変化し得る。これは、例えば、個々の頭部伝達関数及びヘッドフォンキャリブレーションを有する指向性オーディオの正確なバイノーラル合成にとって有害であり、後者は、ユーザがヘッドフォンをつけるたびに振幅応答が変化する場合には効果的ではない。しかしながら、上記の反射に関する問題は、1~4kHzを超える周波数領域に関したものに過ぎない。この周波数範囲より下では、低周波数の高い波長のために、典型的なイヤーカップの寸法内では、耳介共振も局所的なキャンセル効果も発生しない。
【0088】
したがって、反射は、上記の有害な影響を回避するための適切な対策を講じることによって低減し得る。これは、例えば、耳介または耳甲介に対する反射面の系統的な方向付けによって可能である。また、反射面は、吸音材料で覆ってもよい。
図23は、両方の対策の実施例を概略的に示す。
図23の実施例では、前部導波管20、22、24の外面は、耳介から離れる方向を向くように傾けられており、これにより、耳の周りの全表面積の大部分から耳介に向かう反射を回避している。これらの表面は、追加的に吸音材料で覆われていてもよい(
図23の斜線部分)。これに関して、前部導波管20、22、24を備えるヘッドフォン装置は、利点を提供し得、すなわち、開放されたスピーカ膜がないので、ユーザの耳を取り囲むイヤーカップ14のほぼ全面が、吸音材料で覆われてもよい。露出したスピーカ膜はそれ自体は反射性であるが、制振材料で覆うことはできない。耳介の方を向いており、したがって耳介に向かって音を反射する場合がある表面は、吸音材料で覆ってもよい(
図23の断面図の斜線領域)。また、緩衝材50には、例えば、連続気泡発泡体を用いてもよく、緩衝材50の内側(耳に当てる側)に、音響的に透明な布を包んでもよい。このような材料が
図23に示されるように取り付けられている場合、エンクロージャのエッジから耳介に向かう反射は、比較的薄いフォームの層で大幅に減少させ得る。ただし、緩衝材50のどこかで音が減衰することに注意してもよい。さもなければ、後部導波管出口からの音は、外耳道入口に向かって緩衝材50を通る比較的短い距離を移動し、過度のダイポール損失を引き起こす場合がある。例えば、外面(少なくとも部分的にイヤーカップ14で囲まれた体積の外側)及びユーザの頭部に接触する緩衝材50の側面は、外耳道入口への短い経路を遮断するために、低通気性の材料(例えば、合成皮革)で包まれてもよい。代替または追加として、緩衝材の少なくとも一部は、比較的体積重量の大きい軟質、弾性、または柔軟性の材料(例えば、連続気泡発泡体または独立気泡発泡材、ゲル)を含んでもよい。必要に応じて、通気性の低いラッピング材を、この柔らかく、弾力性のある、または柔軟な材料に接着してもよい。例えば、ゲル緩衝材及び独立気泡発泡材の緩衝材は、イヤーマフに良好な音響シールを提供することが知られている。このような材料は、緩衝材全体に、または後部導波管出口に近接して(フレーム15の周囲に)配置された緩衝材の一部のみに適用してもよい。イヤーカップの内側に向けられた緩衝材の一部は、内部反射を低減するために、吸音率の高い材料(例えば、連続気泡発泡体)をなおも含んでいてもよい。イヤーカップの内側に向けて配向された緩衝材の一部は、音響的に透明な材料で包まれていてもよい。
図23には、任意選択で取り外し可能なカバーに取り付けられている吸音材料も示されている。これにより、内部反射の有害な影響をさらに低減し得、追加の信号処理を行わなくても、部分的に外在化された音像を提供し得る。
【0089】
フィードバックマイクロフォンホンは、1つ以上のフィードバックループを提供することにより、1つ以上のスピーカの歪み補償を提供するために、1つ以上の前部導波管室または後部導波管室30、34の内部に配置されてもよい。複数の同一のスピーカ26が使用され、少なくとも特定の周波数範囲(例えば、低周波数範囲)にわたって同一の信号によって駆動される場合、これらのスピーカ26は、組み合わせて補償され得る。スピーカは、単一のフィードバックループを共有するか、または少なくとも別のフィードバックループからの補償信号によって駆動されてもよい。スピーカ26が単一の導波管32、36を共有する場合、1つ以上のマイクロフォンを使用して、組み合わされたスピーカ出力を感知し得る。複数のマイクロフォンを使用する場合、それらの出力信号を互いに組み合わせて、単一のフィードバックループに信号を送り込み得る。スピーカ26が別個の導波管室30、34内に取り付けられる場合、マイクロフォンは1つ以上の導波管室30、34内に配置されてもよく、そこでマイクロフォンの出力信号は互いに組み合わされ、単一のフィードバックループに供給され得る。補償されたスピーカ駆動信号は、導波管室39、34の内部にマイクロフォンを持たず、したがってフィードバックループに寄与しない同様の導波管装置内の他の同様のスピーカにも適用され得る。
【0090】
さらに、アクティブノイズキャンセル(ANC)を提供することが可能である。アクティブノイズキャンセルの場合、1つまたは複数のフィードバックマイクをANCターゲット位置(例えば、外耳道の入口)の近くに、または代替的に、1つまたは複数の前部導波管出口42の近くに配置してもよい。ANCを提供するために複数のマイクロフォンが提供されている場合、それらの出力は互いに結合され得、単一のフィードバックループに供給されてもよく、単一のフィードバックループは、導波管を駆動する全てのスピーカを備え、その出力にマイクロフォンが配置される。
【0091】
恒久的または取り外し可能な後部カバー80が上記のようにヘッドフォン構造に適用される場合、マイクロフォンは、それが外耳道の入口に運ばれて近づける位置でこのカバー80に取り付けられてもよい。また、カバーの他端にマイクを備えたバーを取り付けてもよく、これにより、マイクと耳が衝突する危険性を冒さずに、マイクをできるだけ外耳道の入口に近づける。上記のように、このマイクロフォンは、アクティブノイズキャンセル及びアクティブ歪みキャンセルを容易にするために、1つまたは複数のスピーカを備えたフィードバックループで使用してもよい。取り外し可能なカバー80上のマイクロフォンは、信号伝送のためにイヤーカップ14への電子的接続を必要とする場合がある。ANCフィードバックループは一般に知られており、したがって、本明細書ではこれ以上詳細に説明しない。
【0092】
取り外し可能なまたは恒久的なバックカバー80がヘッドフォン構造に適用される場合、マイクロフォンは、フィードフォワード技術に基づくアクティブノイズキャンセルと、環境内の音響イベントの認識モードのサポートとのために、イヤーカップ14の外側に配置されてもよい。前者は、特に安定性の問題からフィードバックループ内に含めることができない周波数帯のノイズキャンセル性能を向上させることができる。後者は、例えば、ユーザが街中の交通を歩いていて、交通騒音に注意する必要がある場合や、またはユーザが誰かと話したい場合に役立ち得る。取り外し可能なカバー80上のマイクロフォンは、信号伝送のためにフレーム15への電子的な接続を必要とする場合がある。フィードフォワードアクティブノイズキャンセル技術は一般的に知られており、したがって、本明細書ではこれ以上詳細に説明しない。
【0093】
図24は、本明細書に記載されるような導波管装置を備えるイヤーカップの実施例を概略的に示す。2つのイヤーカップ14は、ユーザの頭部にヘッドフォン装置を固定するために、典型的なヘッドバンド12によって互いに接続されてもよい。イヤーカップ14がそのような恒久的に固定されたカバー80を備える場合、ヘッドバンド12は、フレーム15または恒久的に取り付けられたカバー80に接続してもよい。頭、首、胴体への他の固定方法も可能である。さらに、
図25に例示的に示されているように、1つ以上の導波管装置を含むイヤーカップ14またはフレーム15を、仮想現実ヘッドセットまたは拡張現実ヘッドセットに統合してもよい。仮想現実ヘッドセットまたは拡張現実ヘッドセットは、各耳用のイヤーカップ14またはフレーム15と、ユーザの目の前に配置され得るディスプレイ16とを備え得る。ディスプレイ16及びイヤーカップ14またはフレーム15は、適切なヘッドバンド構造によってユーザの頭部に保持されてもよい。
図24及び
図25の実施例におけるイヤーカップ14は、カバーのない開放型のイヤーカップ14として示されている。したがって、
図24の実施例の耳介の後ろの前部導波管出力口42の場合がそうであるように、前部導波管出力口42が視認可能であり得る。
【0094】
以下では、ヘッドフォン装置のいくつかの実施例を説明する。
【0095】
実施例1:第1の実施例によれば、ヘッドフォン装置は、ユーザ2の耳を少なくとも部分的に取り囲むように配置され、それによって前記ユーザ2の前記耳の周りに少なくとも部分的に囲まれた容積を画定するように構成されたイヤーカップ14であって、前記イヤーカップ14が、前記イヤーカップ14が前記ユーザの前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記ユーザの前記耳を少なくとも部分的に枠入れするように構成された少なくとも部分的に中空のフレーム15を備え、前記フレーム15が、第1の空洞34、39を備え、前記第1の空洞が、前記フレーム15の壁部分によって形成されている、前記イヤーカップ14を備える。本装置は、前記第1の空洞34、39の壁部分内に配置された少なくとも1つのスピーカ26であって、前記第1の空洞34、39の壁部分が、第1の導波管32、36の導波管出力口42、44を通して、前記スピーカ26から放射された音を導くように構成された前記第1の導波管32、36を形成しており、前記第1の導波管32、36の前記導波管出力口42、44が、前記第1の空洞34、39に1つ以上の開口部を備える、前記スピーカ26をさらに備える。
【0096】
実施例2:前記イヤーカップ14が前記ユーザ2の前記耳を取り囲むように配置されているとき、正中面へのフレーム15の仮想垂直投影が、前記正中面への前記ユーザの外耳の仮想垂直投影の少なくとも中央部分を少なくとも部分的に枠入れし、前記正中面が、前記耳の間の中間で前記ユーザの頭部と交差し、それによって前記ユーザの頭部を本質的に鏡面対称な左右半分に分割する、実施例1に記載のヘッドフォン装置。
【0097】
実施例3:前記正中面への前記ユーザの外耳の前記仮想垂直投影の中央部分は、前記正中面への前記フレーム15の前記仮想垂直投影によって少なくとも部分的に枠入れされ、前記ユーザの耳の耳甲介の一部、前記ユーザの耳の前記耳甲介の全体、前記ユーザの耳の耳甲介舟の一部、前記ユーザの耳の前記耳甲介舟の全体、及び前記耳介全体の30%以上、45%以上、または60%以上の少なくとも1つの前記正中面への前記仮想垂直投影を含む、実施例2に記載のヘッドフォン装置。
【0098】
実施例4:前記第1の空洞39の壁部分及び前記少なくとも1つのスピーカ26は、第1の音源装置を形成し、前記少なくとも1つのスピーカ26は、第1の側面及び第2の側面を有する膜を備え、前記膜の前記第1の側面は、前記ユーザ2の前記耳の周りの前記少なくとも部分的に囲まれた容積に隣接し、前記第1の空洞39の壁部分は、前記少なくとも1つのスピーカ26の前記膜の前記第2の側面を取り囲み、前記第1の空洞39の前記導波管出力口44は、前記イヤーカップ14の外側の自由空気に向かって開き、前記第1の空洞39の壁部分は、それによって後部導波管36を形成する、先行実施例のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【0099】
実施例5:前記フレーム15内に第2の空洞34をさらに備え、前記第1の空洞39の壁部分、前記第2の空洞34の壁部分、及び前記少なくとも1つのスピーカ26は、第1の音源装置を形成し、前記少なくとも1つのスピーカ26は、第1の側面及び第2の側面を有する膜を備え、前記少なくとも1つのスピーカ26は、前記第1の空洞39及び前記第2の空洞34の共通の壁部分内に配置され、前記第2の空洞34の壁部分は、前記少なくとも1つのスピーカ26の前記膜の前記第1の側面を取り囲み、前記少なくとも1つの拡声器26の前記膜の前記第2の側面に隣接する体積は、前記第1の空洞39の壁部分によって、及び前記少なくとも1つのスピーカ26の一部分によって完全に囲まれ、前記第2の空洞34の前記導波管出力口42は、前記ユーザ2の前記耳の周りの前記少なくとも部分的に囲まれた体積に向かって開き、前記第2の空洞34の壁部分は、それによって前部導波管32を形成する、実施例1~3のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【0100】
実施例6:前記フレーム15内に第2の空洞34をさらに備え、前記第1の空洞39の壁部分、前記第2の空洞34の壁部分、及び前記少なくとも1つのスピーカ26は、第1の音源装置を形成し、前記少なくとも1つのスピーカ26は、第1の側面及び第2の側面を有する膜を備え、前記少なくとも1つのスピーカ26は、前記第1の空洞39及び前記第2の空洞34の共通の壁部分内に配置され、前記第2の空洞34の壁部分は、前記少なくとも1つのスピーカ26の前記膜の前記第1の側面を取り囲み、前記第2の空洞34の壁部分は、前記少なくとも1つのスピーカ26の前記膜の前記第1の側面から、前記第2の空洞34の少なくとも1つの出力口42を通って、前記フレーム15の前記外側に放射される音を導くように構成され、前記第2の空洞34の壁部分は第2の導波管32を形成し、前記第2の空洞34内の前記少なくとも1つの出力口42は、前記第2の導波管32の導波管出力口42を形成し、前記イヤーカップ14が前記ユーザ2の前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記第2の導波管32の前記導波管出力口42は、前記ユーザ2の前記耳の周りの前記少なくとも部分的に囲まれた体積に向かって開き、前記第1の導波管36の前記導波管出力口44は、前記イヤーカップ14の外側の自由空気に向かって開き、前記第1の空洞39の壁部分は、それによって後部導波管36を形成すると共に、前記第2の空洞34の壁部分は、それによって前部導波管32を形成する、実施例1~3のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【0101】
実施例7:前記第1の導波管32、36の前記導波管出力口42、44を囲む最小輪郭内の総面積による、少なくとも前記第1の導波管32、36の壁部分によって囲まれた、1つのスピーカ26の前記膜の幾何学的中心もしくは音響的中心に対応する立体角Ωは、πステラジアン未満またはπ/2ステラジアン未満である、先行実施例のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【0102】
実施例8:少なくとも1つの導波管内の前記空気体積は、前記導波管の壁部分によって囲まれる全てのスピーカ膜の最大体積変位の2倍未満、5倍未満、または10倍未満である、先行実施例のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【0103】
実施例9:少なくとも1つの導波管の前記導波管出力口の面積は、前記導波管の壁部分によって囲まれる全てのスピーカ膜の面積よりも少なくとも30%、少なくとも50%、または少なくとも70%小さい、先行実施例のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【0104】
実施例10:前記イヤーカップ14が前記ユーザ2の前記耳を取り囲むように配置されているとき、少なくとも1つの前部導波管32の前記導波管出力口42から、前記ユーザの外耳道入口までの平均距離は、前記前部導波管32内に配置された少なくとも1つのスピーカ26の前記膜から、前記ユーザ2の前記外耳道入口までの平均距離よりも、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも60%短い、実施例5~9のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【0105】
実施例11:少なくとも1つの前部導波管の少なくとも1つの出力は、前記イヤーカップ14が前記ユーザ2の耳を取り囲むように配置されているとき、前記ユーザの耳の前記耳甲介領域における前記前部導波管からの音の平均到来方向は、前記前部導波管内のスピーカ26の前記スピーカ膜の幾何学的中心または音響中心から、前記ユーザの耳の前記耳甲介領域に向かう平均方向とは異なるように配置される、実施例5~10のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【0106】
実施例12:前記フレーム15内に少なくとも1つの追加の音源装置をさらに含み、前記イヤーカップ14が前記ユーザ2の前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記追加の音源装置によって放射される音が前記ユーザの耳の前記耳甲介に向けられるように、前記追加の音源装置が構成される、実施例4~11のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【0107】
実施例13:前記フレーム15内に少なくとも1つの追加の音源装置をさらに含み、前記イヤーカップ14が前記ユーザ2の前記耳を取り囲むように配置されているとき、少なくとも1つの音源装置によって放射された音が、前頭面の前方の前方方向から前記ユーザの耳の前記耳甲介に向けられ、かつ少なくとも1つの音源装置によって放射された音が、前記前頭面の後方の後方方向から前記ユーザの耳の前記耳甲介に向けられており、前記前頭面は、前記正中面に垂直であり、前記ユーザの両耳を通り、それによって前記ユーザの頭部を前方部分と後方部分とに分割する、実施例4~12のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【0108】
実施例14:前記フレーム15内に配置された少なくとも2つの前部導波管32を含み、少なくとも1つの導波管出力口42は、前記前頭面の前方の前方方向から前記ユーザの耳の前記耳甲介に向かって音を放射するように構成され、かつ少なくとも1つの導波管出力口42は、前記前頭面の後方の後方方向から前記ユーザの耳の前記耳甲介に向かって音を放射するように構成される、実施例5~13のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【0109】
実施例15:少なくとも1つの前部導波管32の前記導波管出力口42は、前記イヤーカップ14が前記ユーザ2の前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記ユーザ2の前記耳に向かう方向に突出する少なくとも1つの突起をさらに含み、前記突起は、それによって、前記導波管出力口42からの音が前記ユーザ2の前記外耳道入口に到達するまで広がる前記体積を減少させる、実施例5~14のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【0110】
実施例16:前記フレーム15内に配置された少なくとも2つの導波管32、36を備え、前記2つの導波管の前記導波管出力口42、44は互いに隣接して配置されて、前記フレーム15の一部分に沿って本質的に連続した複合導波管出力口を形成する、先行実施例のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【0111】
実施例17:少なくとも1つの連続した複合導波管出力口が、前記イヤーカップ14が前記ユーザ2の前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記ユーザの耳介の外周の側方輪郭の少なくとも一部とほぼ平行に伸びるように、前記フレーム15の一部分に配置されている、実施例16に記載のヘッドフォン装置。
【0112】
実施例18:前記フレーム15は、前記イヤーカップ14が前記ユーザ2の前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記耳を少なくとも部分的に横から覆うために、取り外し可能なカバー80の取り付け及び取り外しを可能にする保持固定具をさらに備える、先行実施例のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【0113】
実施例19:取り外し可能なカバー80が前記フレーム15に取り付けられているかどうか、及び少なくとも2つの異なるタイプの前記取り外し可能なカバー80のどちらが前記フレーム15に取り付けられているかの少なくとも1つを検出するように構成された検出機をさらに備える、実施例18に記載のヘッドフォン装置。
【0114】
実施例20:前記イヤーカップ14は、フレーム15に取り付けられ、前記イヤーカップ14が前記ユーザ2の前記耳を取り囲むように配置されているとき、少なくとも部分的に耳を横から覆うカバー80をさらに備え、それによって、部分的に開いたイヤーカップ14、または完全に閉じたイヤーカップ14を形成する、先行実施例のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【0115】
実施例21:前記イヤーカップ14が前記ユーザ2の前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記フレーム15と前記ユーザの頭部との間に配置される緩衝材50をさらに備え、前記緩衝材50は、前記フレーム14と前記ユーザ2の前記頭部との間を伝播する低周波音を減衰させるように構成されており、前記緩衝材50は、独立気泡発泡材、独立気泡発泡材及び連続気泡発泡材、通気性の低い素材で少なくとも部分的に覆われている連続気泡発泡材、通気性の低い素材に少なくとも部分的に接着された連続気泡発泡材、体積重量が50kg/m3を超える柔らかい素材、ならびに流体を含むゲルの少なくとも1つを含む、先行実施例のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【0116】
実施例22:前記イヤーカップ14が前記ユーザ2の前記耳を取り囲むように配置されているとき、前記フレーム15と前記ユーザの頭部との間に配置される緩衝材50をさらに備え、前記緩衝材50は、前記ユーザ50の前記耳に向けられた音響反射を低減するように構成され、前記緩衝材は、吸音材料、通気性の高い素材で少なくとも部分的に覆われている吸音材料、通気性の高い材料で少なくとも部分的に覆われている連続気泡発泡材、吸音布、及び吸音繊維の少なくとも1つを含む、先行実施例のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【0117】
実施例23:前記第1の導波管内の前記少なくとも1つのスピーカ26の前記膜面積よりも小さい断面積を持つ少なくとも1つの導波管出力口によって引き起こされる概算音圧損失ILは、0.5dB未満または0.75dB未満であり、前記音圧損失ILは、IL=0.01*(Vd/Aw)^2+0.001*(Vd/Aw)として概算され、Vdは、前記少なくとも1つのスピーカ26の前記膜の最大体積変位であり、Awは、前記導波管出力口の前記断面積である、先行実施例のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【0118】
実施例24:少なくとも1つの導波管内に配置された少なくとも1つのマイクロフォンをさらに含む、先行実施例のいずれかに記載のヘッドフォン装置。
【0119】
本発明の様々な実施形態を説明したが、本発明の範囲内で、さらに多くの実施形態及び実施態様が可能であることは、当業者には明らかであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲及びそれらの均等物を考慮した場合を除き、制限されるべきではない。