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特許7068496リチウムイオン二次電池およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20220509BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220509BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220509BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/525
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020556029
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2019042865
(87)【国際公開番号】W WO2020100620
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2021-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2018212635
(32)【優先日】2018-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505083999
【氏名又は名称】ビークルエナジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸城 博行
(72)【発明者】
【氏名】有島 康夫
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-9203(JP,A)
【文献】特開2007-214038(JP,A)
【文献】特開2007-26676(JP,A)
【文献】特開2008-198596(JP,A)
【文献】特表2018-507528(JP,A)
【文献】特開2017-157529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極電極と負極電極とをセパレータを介して対向させたリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
正極集電箔の表面に第1の正極活物質粒子を含む第1のスラリーを塗布するとともに、該第1のスラリーの表面に前記第1の正極活物質粒子よりも平均粒子径が大きくかつタップ密度が高い第2の正極活物質粒子を含む第2のスラリーを塗布する塗布工程と、
前記正極集電箔の表面に塗布された前記第1のスラリーと該第1のスラリーの表面に塗布された前記第2のスラリーを乾燥させて、前記正極集電箔の表面に前記第1の正極活物質粒子を含む深層部を形成するとともに、該深層部の表面に前記第2の正極活物質粒子を含む表層部を形成する乾燥工程と、
前記乾燥工程を経て前記正極集電箔の表面に前記深層部が設けられ該深層部の表面に前記表層部が設けられた積層体を加圧して、前記表層部における正極活物質粒子間の空間率が前記深層部における正極活物質粒子間の空間率よりも低い前記積層体を得るプレス工程と、
前記プレス工程を経た前記積層体を裁断して、前記表層部と前記深層部を含む正極合剤層を有する正極電極を得る裁断工程と、
前記正極電極と前記負極電極とを、前記セパレータを介して対向させ、前記正極合剤層の前記表層部を、前記セパレータを介して前記負極電極に対向させる電極群製造工程と、
を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記表層部に含まれる正極活物質粒子のコバルト含有率は、前記深層部に含まれる正極活物質粒子のコバルト含有率よりも高いことを特徴とする請求項に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記表層部に含まれる正極活物質粒子の平均粒子径は、5[μm]以上かつ12[μm]以下であり、
前記深層部に含まれる正極活物質粒子の平均粒子径は、3[μm]以上かつ8[μm]以下であることを特徴とする請求項に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記表層部に含まれる正極活物質粒子のタップ密度は、2.0[g/cm]以上かつ2.8[g/cm]以下であり、
前記深層部に含まれる正極活物質粒子のタップ密度は、1.5[g/cm]以上かつ2.2[g/cm]以下であることを特徴とする請求項に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記表層部における前記空間率は、25[%]以上かつ14[%]以下であり、
前記深層部における前記空間率は、28[%]以上かつ15[%]以下であることを特徴とする請求項に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン二次電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から正電極板およびその正電極板を備えるリチウムイオン二次電池に関する発明が知られている(下記特許文献1を参照)。特許文献1に記載された発明は、リチウムイオン二次電池に使用した場合に、リチウムイオンの拡散抵抗を小さくしながらも、電池の容量を確保しうる正電極板を提供することを目的としている(同文献、第0005段落等を参照)。この目的を達成するために、特許文献1は、次の構成を備えた正電極板に係る発明を開示している。
【0003】
正電極板は、第1主面および第2主面を有する金属箔と、上記第1主面および第2主面の少なくともいずれかに形成され、リチウム化合物からなる正極活物質粒子を含有する複数の正極活物質層を積層した積層活物質層と、を備える。上記積層活物質層は、積層方向に見て、上記正極活物質粒子の含有率が均一であり、かつ、含有する上記正極活物質粒子の平均粒子径の小さい上記正極活物質層ほど上層に配置されてなる(同文献、請求項1等を参照)。
【0004】
このような構成により、正電極板の上層においてリチウムイオンの拡散抵抗を小さくでき、リチウムイオンの拡散抵抗を低減して、電池の内部抵抗を低くしつつ、電池の容量が小さくなることを防止して容量を確保することができる(同文献、第0007段落等を参照)。また、正電極板を電池に用いた場合、充放電を繰り返しても、電池の内部抵抗値の経時的な増加を抑制することができる(同文献、第0008段落等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009‐026599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の正電極板は、前述のように、含有する正極活物質粒子の平均粒子径の小さい正極活物質層ほど上層に配置されている。また、この正電極板を用いたリチウムイオン二次電池において、正電極板の上層に配置され、含有する正極活物質粒子の平均粒子径が小さい正極活物質層は、セパレータを介して負電極板に対向している(同文献、第0027段落、図3等を参照)。このような構成の従来のリチウムイオン二次電池は、次のような課題を有している。
【0007】
セパレータを介して負電極板に対向する正電極板の上層の正極活物質層は、下層の正極活物質層と比較して、電池の充放電反応に伴うリチウムイオンのインターカレーションおよびデインターカレーションが激しくなる。しかし、正極活物質粒子は、相対的に平均粒子径が小さいほど、リチウムイオンのインターカレーションおよびデインターカレーションによって、正極活物質粒子に割れが発生しやすくなる。正極活物質粒子に割れが発生すると、電池の内部抵抗値が増加したり、電池の容量が低下したりするおそれがある。
【0008】
本開示は、従来よりも耐久性に優れた高容量のリチウムイオン二次電池およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様は、正極電極と、負極電極と、セパレータとを備え、前記正極電極は、正極集電箔と、該正極集電箔の表面に設けられた正極合剤層とを有し、前記正極合剤層は、前記セパレータを介して前記負極電極に対向する表層部と、該表層部と前記正極集電箔との間に設けられた深層部とを有し、前記表層部に含まれる正極活物質粒子の平均粒子径は、前記深層部に含まれる正極活物質粒子の平均粒子径よりも大きく、前記表層部における正極活物質粒子間の空間率は、前記深層部における正極活物質粒子間の空間率よりも低いことを特徴とするリチウムイオン二次電池である。
【発明の効果】
【0010】
本開示の上記一態様によれば、従来よりも耐久性に優れた高容量のリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の斜視図。
図2図1に示すリチウムイオン二次電池の分解斜視図。
図3図2に示すリチウムイオン二次電池の巻回体の分解斜視図。
図4図3に示す巻回体を構成する正極電極の模式的な断面図。
図5図4に示す正極電極の模式的な拡大断面図。
図6】本開示の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法のフロー図。
図7図6に示す塗布工程および乾燥工程に用いられる製造装置の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本開示に係るリチウムイオン二次電池およびその製造方法の一実施形態を説明する。
【0013】
図1は、本開示の一実施形態に係る二次電池100の斜視図である。図2は、図1に示す二次電池100の分解斜視図である。図3は、図2に示す二次電池100の巻回体30の分解斜視図である。図4は、図3に示す巻回体30を構成する正極電極31の模式的な断面図である。図5は、図4に示す正極電極31の模式的な拡大断面図である。
【0014】
本実施形態の二次電池100は、たとえば、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の蓄電装置に使用される角形二次電池である。より詳細には、二次電池100は、たとえば、角形リチウムイオン二次電池である。このような二次電池100に対しては、高容量化や、大電流の入出力に対する耐久性の向上が要求されている。詳細については後述するが、本実施形態の二次電池100は、次のような構成を特徴としている。
【0015】
二次電池100は、リチウムイオン二次電池であり、正極電極31と、負極電極32と、セパレータ33,34とを備えている。正極電極31は、正極集電箔31aと、その正極集電箔31aの表面に設けられた正極合剤層31bとを有している。正極合剤層31bは、セパレータ33,34を介して負極電極32に対向する表層部31sと、その表層部31sと正極集電箔31aとの間に設けられた深層部31dとを有している。表層部31sに含まれる正極活物質粒子Psの平均粒子径は、深層部31dに含まれる正極活物質粒子Pdの平均粒子径よりも大きい。また、表層部31sにおける正極活物質粒子Ps間の空間率は、深層部31dにおける正極活物質粒子Pd間の空間率よりも低い。
【0016】
以下、本実施形態の二次電池100の各部の構成を詳細に説明する。なお、各図面では、扁平角形の二次電池100の幅方向に平行なX軸、厚さ方向に平行なY軸、高さ方向に平行なZ軸からなるXYZ直交座標系を用いて、二次電池100の各部の構成を説明する場合がある。また、以下の説明における上下左右の方向は、図面に基づいて二次電池100の各部の構成を説明するための便宜的な方向であり、鉛直方向や水平方向に限定されない。
【0017】
二次電池100は、たとえば、電池容器10と、外部端子20と、巻回体30と、集電板40と、絶縁シート50と、を備えている。電池容器10は、たとえば扁平な矩形箱形の形状を有する金属製の容器である。電池容器10は、幅方向(X方向)に沿う一対の広側面10wと、厚さ方向(Y方向)に沿う一対の狭側面10nと、細長い長方形の上面10tおよび底面10bを有している。これら広側面10w、狭側面10n、上面10tおよび底面10bのうち、広側面10wが最大の面積を有している。
【0018】
電池容器10は、たとえば、高さ方向(Z方向)の一端が開放された扁平角形の電池缶11と、その電池缶11の開口部11aを閉塞する長方形板状の電池蓋12とを有している。電池容器10は、電池缶11の開口部11aから蓄電要素である巻回体30が内部に挿入されている。電池容器10は、たとえば、レーザ溶接によって電池缶11の開口部11aの全周にわたって電池蓋12が溶接されることで、電池缶11の開口部11aが電池蓋12によって封止されている。
【0019】
電池蓋12は、二次電池100の幅方向(X方向)である長手方向の両端部に外部端子20の一部を挿通させる貫通孔12aを有している。また、電池蓋12は、長手方向の中央部にガス排出弁15を有している。ガス排出弁15は、たとえば、電池蓋12の一部をプレス加工して薄肉化し、スリットを形成した部分であり、電池蓋12と一体的に設けられている。ガス排出弁15は、電池容器10の内圧が所定の圧力まで上昇したときに開裂して、電池容器10の内部のガスを排出することで、電池容器10の内圧を低減して二次電池100の安全性を確保する。
【0020】
電池蓋12は、たとえば貫通孔12aとガス排出弁15との間に注液孔16を有している。注液孔16は、電池蓋12の内部に電解液を注入するために設けられ、電解液の注入後に、たとえばレーザ溶接によって注液栓17を接合することによって封止される。電池容器10内に注入する非水電解液としては、たとえば、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを体積比で1:2の割合で混合した混合溶液中に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/リットルの濃度で溶解したものを用いることができる。なお、非水電解液にはイオン電導度を良好に保持するために六フッ化リン酸リチウム以外のリチウム電解質や電解液溶媒中に電極反応活性を維持するための添加材が含まれていてもよい。
【0021】
一対の外部端子20は、電池蓋12の外面すなわち電池容器10の上面10tの長手方向に離隔して配置され、電池蓋12を貫通して電池容器10の内部でそれぞれ一対の集電板40の基部41に接続されている。外部端子20は、正極外部端子20Pと負極外部端子20Nを含んでいる。正極外部端子20Pの素材は、たとえばアルミニウムまたはアルミニウム合金である。負極外部端子20Nの素材は、たとえば銅または銅合金である。
【0022】
外部端子20は、たとえばバスバーに接合される接合部21と、集電板40に接続される接続部22とを有している。接合部21は、おおむね直方体形状の矩形のブロック状の形状を有し、電気絶縁性を有するガスケット13を介して電池蓋12の外面すなわち電池容器10の上面10tに配置される。接続部22は、電池蓋12に対向する接合部21の底面から電池蓋12を貫通する方向に延びる円柱状または円筒状の部分である。
【0023】
集電板40は、外部端子20に接続された基部41と、その基部41に交差する方向に延びる延在部42と、巻回体30に接合された延在部42の接合部42aと基部41との間に設けられた屈曲部43と、を有している。基部41は、電池蓋12の内面に沿って配置され、延在部42は、電池蓋12の内面に直交する方向へ向けて延びている。延在部42の接合部42aは、巻回体30の正極集電部31cまたは負極集電部32cが巻回されて扁平に積層された積層部35に対して、たとえば、超音波接合によって接合されている。
【0024】
巻回体30は、たとえば、正極電極31と、負極電極32と、これらの電極を絶縁する絶縁体である第1のセパレータ33と、第2のセパレータ34とを備えている。巻回体30は、第1のセパレータ33、正極電極31、第2のセパレータ34、および負極電極32が積層されて巻回された構成を有する巻回電極群である。巻回体30において、たとえば、最内周と最外周に巻回された電極は負極電極32であり、最外周に巻回された負極電極32の外周にさらに第1のセパレータ33が巻回されている。
【0025】
負極電極32は、負極集電箔32aと、その表裏両面に形成された負極合剤層32bと、その負極合剤層32bから負極集電箔32aが露出した部分である負極集電部32cとを有している。負極電極32の負極集電部32cは、長尺帯状の負極電極32の幅方向(X方向)、すなわち巻回体30の巻回軸方向Dの一側に設けられている。負極集電箔32aは、たとえば約6μmから約12μmの厚さの銅箔を使用することができ、好ましくは8μm程度の電解銅箔である。
【0026】
負極合剤層32bは、たとえば、負極集電箔32aの表裏両面に、負極集電部32cを除いてスラリー状の負極合剤を塗布し、塗布された負極合剤を乾燥させてプレスすることで形成されている。その後、負極合剤層32bが形成された負極集電箔32aを、適宜、裁断することによって負極電極32を製作することができる。負極集電箔32aを含まない負極合剤層32bの厚さは、たとえば約70μm程度である。
【0027】
負極合剤のスラリーは、たとえば、次のように調製することができる。負極活物質である100重量部の黒鉛質炭素粉末に対し、増粘調整剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液を添加して混合する。その混合物に、さらに、結着剤である1重量部のスチレンブタジエンゴム(SBR)を添加し、さらに分散溶媒として純水(イオン交換により金属イオンが除去された水)を添加して混練したものを、負極合剤のスラリーとして用いることができる。
【0028】
また、負極合剤層32bの表面に絶縁層を形成する場合、負極集電箔32aの表面に塗布した負極合剤のスラリーの表面に、絶縁材料を分散させた絶縁用スラリーを塗布することができる。その後、負極合剤のスラリーおよび絶縁用スラリーを乾燥させてプレスすることで、表面に絶縁層を有する負極合剤層32bを形成することができる。なお、負極合剤層32bの表面に絶縁層を形成しない場合は、表面にセラミック層などの無機物を含む層を有するセパレータ33,34を使用することが好ましい。
【0029】
なお、負極合剤層32bに含まれる負極活物質は、前述の黒鉛質炭素に限定されない。たとえば、負極活物質として、非晶質炭素、リチウムイオンを挿入脱離可能な天然黒鉛、人造の各種黒鉛材、表面修飾や表面改質がなされた黒鉛質炭素材料、コークスなどの炭素質材料、SiやSnなどの化合物(たとえば、SiO、TiSiなど)、またはこれらの複合材料を用いてもよい。また、負極活物質の粒子形状は特に制限されず、たとえば、鱗片状、球状、繊維状、塊状などであってもよい。これらのうち、球状に成形された粒子を主成分とする負極活物質を用いることが好ましい。
【0030】
正極電極31は、正極集電体である正極集電箔31aと、その表裏両面に形成された正極合剤層31bと、その正極合剤層31bから正極集電箔31aが露出した部分である正極集電部31cとを有している。正極電極31の正極集電部31cは、長尺帯状の正極電極31の幅方向(X方向)、すなわち巻回体30の巻回軸方向Dにおいて、負極電極32の負極集電部32cと反対側の一側に設けられている。正極集電箔31aは、たとえば約10μmから約20μmの厚さのアルミニウム箔を使用することができ、好ましくは15μm程度の厚さのアルミニウム箔である。正極集電箔31aの箔材としては、引張強さが250N/mm以上の箔材がより好ましい。
【0031】
正極合剤層31bは、前述のように、セパレータ33,34を介して負極電極32の負極合剤層32bに対向する表層部31sと、その表層部31sと正極集電箔31aとの間に設けられた深層部31dとを有している。すなわち、正極集電箔31aの表面に深層部31dが設けられ、その深層部31dの表面を覆うように、表層部31sが設けられている。換言すると、正極集電箔31aの上に深層部31dが設けられ、その深層部31dの上に表層部31sが設けられている。
【0032】
詳細については後述するが、正極合剤層31bは、たとえば、正極集電箔31aの表面に、正極集電部31cを除いて、二種類の異なる正極活物質粒子Ps,Pdを含む二種類のスラリー状の正極合剤を積層させて塗布し、塗布された二種類の正極合剤を乾燥させてプレスすることで形成されている。その後、正極合剤層31bが形成された正極集電箔31aを、適宜、裁断することによって正極電極31を製作することができる。なお、正極電極31は、負極電極32と同様に、表面に絶縁層を有してもよい。
【0033】
正極集電箔31aを含まない正極合剤層31bの厚さは、たとえば約70μm程度である。正極合剤のスラリーとしては、たとえば、正極活物質である100重量部の層状ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(化学式Li(NiCoMn1-x-y)O)に対し、導電材として鱗片状黒鉛もしくはアセチレンブラックまたはこれらの両方を7重量部と、結着剤である3重量部のPVDFとを添加し、さらに分散溶媒としてN-メチルピロリドン(NMP)を添加して混練したものを用いることができる。
【0034】
正極活物質である層状ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの化学式:Li(NiCoMn1-x-y)Oにおいて、xおよびyは、0.30<x≦0.85、かつ、0.18<y<0.40の範囲であることが好ましい。たとえば、正極活物質として、化学式:Li(Ni0.6Co0.2Mn0.2)Oで表される層状ニッケルコバルトマンガン酸リチウムを用いることができる。なお、表層部31sに含まれる正極活物質粒子Psのコバルト含有率は、たとえば、深層部31dに含まれる正極活物質粒子Pdのコバルト含有率よりも高い。
【0035】
前述のように、表層部31sに含まれる正極活物質粒子Psの平均粒子径は、深層部31dに含まれる正極活物質粒子Pdの平均粒子径よりも大きい。より具体的には、表層部31sに含まれる正極活物質粒子Psの平均粒子径は、たとえば、5[μm]以上かつ12[μm]以下である。この場合、深層部31dに含まれる正極活物質粒子Pdの平均粒子径は、たとえば、3[μm]以上かつ8[μm]以下である。
【0036】
たとえば、表層部31sに含まれる正極活物質粒子Psの平均粒子径を6.4[μm]とし、深層部31dに含まれる正極活物質粒子Pdの平均粒子径を5.7[μm]とすることができる。正極活物質粒子Ps,Pdの平均粒子径は、たとえば、レーザ回折散乱法を用いた粒度分布測定装置によって測定した正極活物質粒子Ps,Pdのメジアン径D50とすることができる。
【0037】
また、表層部31sに含まれる正極活物質粒子Psのタップ密度は、たとえば、深層部31dに含まれる正極活物質粒子Pdのタップ密度よりも高い。より具体的には、表層部31sに含まれる正極活物質粒子Psのタップ密度は、たとえば、2.0[g/cm]以上かつ2.8[g/cm]以下である。一方、深層部31dに含まれる正極活物質粒子Pdのタップ密度は、たとえば、1.5[g/cm]以上かつ2.2[g/cm]以下である。
【0038】
たとえば、表層部31sに含まれる正極活物質粒子Psのタップ密度を2.2[g/cm]とし、深層部31dに含まれる正極活物質粒子Pdのタップ密度を2.0[g/cm]とすることができる。正極活物質粒子Ps,Pdのタップ密度は、たとえば、日本工業規格JIS Z 2512:2012、または、JIS R 1628:1997に準拠した測定方法によって、測定することができる。
【0039】
また、前述のように、表層部31sにおける正極活物質粒子Ps間の空間率は、深層部31dにおける正極活物質粒子Pd間の空間率よりも低い。より具体的には、表層部31sにおける正極活物質粒子Ps間の空間率は、たとえば、25[%]以上かつ14[%]以下である。この場合、深層部31dにおける正極活物質粒子Pd間の空間率は、たとえば、28[%]以上かつ15[%]以下である。正極活物質粒子Ps間の空間率および正極活物質粒子Pd間の空間率は、たとえば、表層部31sおよび深層部31dの材料であるスラリーにおける、正極活物質粒子Ps,Pdの配合量、溶媒の添加率などを調整することによって制御することができる。
【0040】
ここで、正極活物質粒子Ps,Psの空間率とは、正極活物質粒子Ps,Psの集合体である正極活物質粉末中の正極活物質粒子Ps,Psの間の空間の割合である。正極活物質粒子Ps,Psの空間率は、たとえば、正極合剤層31bの試料断面の顕微鏡観察を行う光学的方法によって測定することができる。より具体的には、正極活物質粒子Ps,Psの空間率は、たとえば、表層部31sおよび深層部31dの試料断面における単位面積あたりの正極活物質粒子Ps,Psの面積から求めることができる。
【0041】
なお、正極合剤層31bに含まれる正極活物質は、前述の層状ニッケルコバルトマンガン酸リチウムに限定されない。たとえば、正極活物質として、スピネル結晶構造を有する他のマンガン酸リチウム、一部を金属元素で置換またはドープしたリチウムマンガン複合酸化物を用いることができる。また、正極活物質として、層状結晶構造を有するコバルト酸リチウムやチタン酸リチウム、一部を金属元素で置換またはドープしたリチウム-金属複合酸化物を用いてもよい。
【0042】
また、負極合剤および正極合剤に用いられる結着剤は、SBRやPVDFに限定されない。結着剤としては、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ブチルゴム、ニトリルゴム、多硫化ゴム、ニトロセルロース、シアノエチルセルロース、各種ラテックス、アクリロニトリル、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、フッ化プロピレン、フッ化クロロプレン、アクリル系樹脂などの重合体およびこれらの混合体などを用いることができる。
【0043】
セパレータ33,34は、たとえば、多孔質のポリエチレン樹脂もしくはポリプロピレン樹脂またはそれらを複合させて成る樹脂によって製作され、正極電極31と負極電極32との間に介在してこれらを電気的に絶縁する。また、最外周に巻回された負極電極32の外側にもセパレータ33,34が巻回される。図示は省略するが、巻回体30は、負極電極32、第1のセパレータ33、正極電極31、および第2のセパレータ34を積層させて巻回するための軸芯を有してもよい。
【0044】
軸芯としては、たとえば、正極集電箔31a、負極集電箔32a、セパレータ33,34よりも曲げ剛性の高い樹脂シートを巻回したものを用いることができる。また、巻回体30は、巻回軸方向D(X方向)において負極合剤層32bの寸法が正極合剤層31bの寸法よりも大きく、正極合剤層31bが必ず負極合剤層32bの間に挟まれるように構成されている。
【0045】
巻回体30において、正極電極31の正極集電部31cと負極電極32の負極集電部32cは、それぞれ、図3に示すように巻回軸方向D(X方向)の一端と他端で巻回されて積層されている。さらに、正極集電部31c、負極集電部32cは、それぞれ、図2に示すように扁平に束ねられ、たとえば超音波接合や抵抗溶接によって集電板40の延在部42の接合部42aに接合されている。
【0046】
なお、巻回軸方向D(X方向)において、セパレータ33,34の寸法は、負極合剤層32bの寸法よりも大きい。しかし、セパレータ33,34の端部は、それぞれ、正極集電部31c、負極集電部32cの端部よりも、巻回軸方向D(X方向)における内側の位置に配置されている。そのため、正極集電部31cおよび負極集電部32cを束ねて、それぞれ、正極集電板40Pおよび負極集電板40Nの延在部42の接合部42aに接合する際に支障はない。
【0047】
集電板40の基部41は、板状の絶縁部材14を介して電池蓋12に固定され、外部端子20に電気的に接続されている。より詳細には、外部端子20の接続部22が、たとえば、ガスケット13の貫通孔13aと、電池蓋12の貫通孔12aと、絶縁部材14の貫通孔14aと、集電板40の基部41の貫通孔41aに挿通され、集電板40の基部41の下面で先端を拡径させるように塑性変形させてかしめられている。
【0048】
これにより、外部端子20と集電板40とが、互いに電気的に接続され、電池蓋12に対してガスケット13と絶縁部材14を介して電気的に絶縁された状態で固定され、蓋組立体としてアッセンブリ化されている。ガスケット13および絶縁部材14の素材は、たとえば、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂などの電気絶縁性を有する樹脂である。
【0049】
また、アッセンブリ化された蓋組立体においては、集電板40の延在部42の接合部42aが、巻回体30の正極集電部31c、負極集電部32cのそれぞれの積層部35に接合されている。これにより、巻回体30を構成する正極電極31および負極電極32が、集電板40を介して外部端子20に電気的に接続されている。巻回体30は、集電板40に接合されることで、集電板40を介して電池蓋12に固定され、外部端子20に電気的に接続された状態で、電気絶縁性を有する樹脂製の絶縁シート50によって覆われて、電池缶11の開口部11aから電池缶11内に挿入される。
【0050】
絶縁シート50は、たとえばポリプロピレンなどの合成樹脂を素材とする一枚のシートまたは複数のフィルム部材からなる。絶縁シート50は、集電板40が接合された巻回体30のおおむね全体を集電板40とともに覆うことができる寸法および形状を有している。絶縁シート50は、巻回体30および集電板40と電池缶11との間に介在し、これらの間を電気的に絶縁する。なお、絶縁シート50に代えて、袋状の絶縁フィルムによって、巻回体30および集電板40を覆うようにしてもよい。
【0051】
巻回体30は、巻回軸方向Dが二次電池100の幅方向(X方向)に沿うように、一方の湾曲部30bから電池缶11内に挿入され、他方の湾曲部30bが電池蓋12に対向して配置される。その後、前述のように、電池蓋12を電池缶11の開口部11aの全周にわたって接合して電池容器10を構成する。その後、注液孔16を介して電池容器10内に電解液を注入し、注液孔16に注液栓17を接合して封止する。このとき、電池容器10の内部の圧力と外部の圧力とを適切に調整すると、巻回体30内の空気と電解液の置換が促進されて、電池容器10内に電解液を効率的に注入することができる。
【0052】
以上の構成により、二次電池100は、外部端子20と外部機器とが、外部端子20に接合された図示を省略するバスバーを介して接続される。二次電池100は、外部端子20と集電板40を介して巻回体30の正極電極31および負極電極32に電力を供給することで充電される。また、充電された二次電池100は、巻回体30の正極電極31および負極電極32から集電板40および外部端子20を介して外部へ電力を供給することができる。
【0053】
以下、従来の正極電極板を備える従来のリチウムイオン二次電池との対比に基づいて、本実施形態の二次電池100の作用について説明する。
【0054】
上記従来の正電極板は、前述のように、含有する正極活物質粒子の平均粒子径の小さい正極活物質層ほど上層に配置されている。また、この正電極板を用いたリチウムイオン二次電池において、正電極板の上層に配置され、含有する正極活物質粒子の平均粒子径が小さい正極活物質層は、セパレータを介して負電極板に対向している。セパレータを介して負電極板に対向する正電極板の上層の正極活物質層は、下層の正極活物質層と比較して、電池の充放電反応に伴うリチウムイオンのインターカレーションおよびデインターカレーションが激しくなる。
【0055】
しかし、正極活物質粒子は、相対的に平均粒子径が小さいほど、リチウムイオンのインターカレーションおよびデインターカレーションによって、正極活物質粒子に割れが発生しやすくなる。そのため、この従来のリチウムイン電池では、上層の正極活物質層において、正極活物質粒子に割れが発生して、電池の内部抵抗値が増加したり、電池の容量が低下したりするおそれがある。
【0056】
また、EVやHEVなどの車両の蓄電装置に使用される車載用の二次電池には、さらなる高出力化が求められている。さらに、車載用の二次電池は、車両の航続距離を従来よりも延長することができるように、放電出力の持続時間を延長することが求められている。
【0057】
これに対し、本実施形態の二次電池100は、前述のように、リチウムイオン二次電池であり、正極電極31と、負極電極32と、セパレータ33,34とを備えている。正極電極31は、正極集電箔31aと、その正極集電箔31aの表面に設けられた正極合剤層31bとを有している。正極合剤層31bは、セパレータ33,34を介して負極電極32に対向する表層部31sと、その表層部31sと正極集電箔31aとの間に設けられた深層部31dとを有している。表層部31sに含まれる正極活物質粒子Psの平均粒子径は、深層部31dに含まれる正極活物質粒子Pdの平均粒子径よりも大きい。また、表層部31sにおける正極活物質粒子Ps間の空間率は、深層部31dにおける正極活物質粒子Pd間の空間率よりも低い。
【0058】
このように、正極合剤層31bの表層部31sに含まれる正極活物質粒子Psの平均粒子径が、深層部31dに含まれる正極活物質粒子Pdの平均粒子径よりも大きいことで、表層部31sの正極活物質粒子Psの割れが抑制される。すなわち、正極活物質粒子Psは、相対的に平均粒子径が大きいことで、二次電池100の充放電反応に伴うリチウムイオンのインターカレーションおよびデインターカレーションによる割れを抑制することができる。
【0059】
すなわち、セパレータ33,34を介して負極電極32に対向し、深層部31dの正極活物質粒子Pdと比較して、リチウムイオンのインターカレーションおよびデインターカレーションが激しくなる正極合剤層31bの正極活物質粒子Psの割れを抑制できる。これにより、二次電池100の容量低下を抑制することができ、二次電池100の内部抵抗の増加を抑制して、二次電池100を高出力化することができる。
【0060】
さらに、相対的に耐久性が高い表層部31sの正極活物質粒子Psが、相対的に耐久性が低い深層部31dの正極活物質粒子Pdを保護するシールド効果によって、深層部31dの正極活物質粒子Pdの割れを防止することができる。したがって、本実施形態の二次電池100によれば、上記従来のリチウムイオン二次電池よりも耐久性に優れた高容量のリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0061】
また、深層部31dに含まれる正極活物質粒子Pdの平均粒子径が、表層部31sに含まれる正極活物質粒子Psよりも小さい。そのため、深層部31dに含まれる相対的に平均粒子径が小さく容量密度が高い正極活物質粒子Pdによって、二次電池100の容量低下や出力低下が防止され、二次電池100の高容量化および高出力化を実現することが可能になる。すなわち、本実施形態の二次電池100は、表層部31sに含まれる相対的に大きい正極活物質粒子Psによって、二次電池100の耐久性を向上させつつ、深層部31dに含まれる相対的に小さい正極活物質粒子Pdによって、高容量、高出力のリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0062】
さらに、表層部31sにおける正極活物質粒子Ps間の空間率が、深層部31dにおける正極活物質粒子Pd間の空間率よりも低いことで、表層部31s中に正極活物質粒子Psが密に充填され、正極活物質粒子Psの欠落が防止される。これにより、表層部31sに大きな孔が開くことによる正極合剤層31bの局所的な劣化が防止され、表層部31sの正極活物質粒子Psによるシールド効果をより長期間にわたって持続させ、二次電池100の耐久性を向上させることができる。
【0063】
したがって、本実施形態の二次電池100を車両の蓄電装置に使用することで、EVやHEVなどの車両の高出力化に加えて、放電出力の持続時間を延長することができ、車両の航続距離を従来よりも延長することができる。
【0064】
また、本実施形態の二次電池100は、前述のように、たとえば、表層部31sに含まれる正極活物質粒子Psのタップ密度が、深層部31dに含まれる正極活物質粒子Pdのタップ密度よりも高い。
【0065】
この構成により、前述のように、表層部31sにおける正極活物質粒子Ps間の空間率を、深層部31dにおける正極活物質粒子Pd間の空間率よりも低くすることができる。すなわち、正極活物質粒子Psのタップ密度が正極活物質粒子Pdのタップ密度よりも高ければ、表層部31s中の正極活物質粒子Psを、深層部31d中の正極活物質粒子Pdよりも高い密度で配置することが可能になり、表層部31sの正極活物質粒子Psの欠落が防止される。
【0066】
また、本実施形態の二次電池100は、表層部31sに含まれる正極活物質粒子Psのコバルト含有率が、たとえば、深層部31dに含まれる正極活物質粒子Pdのコバルト含有率よりも高い。
【0067】
この構成により、表層部31sに含まれる正極活物質粒子Psにおいて、層状構造をより安定に保つことができる。正極活物質粒子Psの層状構造を安定に保つことにより、たとえば、LiサイトにNiが混入するカチオンミキシングを抑制することができる。そのため、優れた充放電サイクル特性を得ることができ、表層部31sに含まれる正極活物質粒子Psの耐久性を向上させることができる。
【0068】
また、本実施形態の二次電池100は、前述のように、たとえば、表層部31sに含まれる正極活物質粒子Psのタップ密度が、2.0[g/cm]以上かつ2.8[g/cm]以下である。この場合、深層部31dに含まれる正極活物質粒子Pdのタップ密度は、たとえば、1.5[g/cm]以上かつ2.2[g/cm]以下である。
【0069】
この構成により、正極活物質粒子Ps,Pdの流動性を確保して、正極活物質粒子Ps,Pdの取り扱いを容易にすることができる。また、表層部31sにおける正極活物質粒子Ps間の空間率を、より効果的に深層部31dにおける正極活物質粒子Pd間の空間率よりも低くすることができる。これにより、表層部31sの正極活物質粒子Psの欠落をより効果的に防止することができる。
【0070】
また、本実施形態の二次電池100は、たとえば前述のように、表層部31sに含まれる正極活物質粒子Psの平均粒子径が、5[μm]以上かつ12[μm]以下である。この場合、深層部31dに含まれる正極活物質粒子Pdの平均粒子径は、たとえば、3[μm]以上かつ8[μm]以下である。
【0071】
この構成により、前述のように、表層部31sに含まれる正極活物質粒子Psの割れを抑制するとともに、前述のシールド効果によって深層部31dの正極活物質粒子Pdの割れを防止し、二次電池100の耐久性を十分に向上させることができる。また、深層部31dに含まれる正極活物質粒子Pdの容量密度を向上させ、二次電池100の高容量化および高出力化を、より効果的に実現することが可能になる。したがって、たとえば車載用の二次電池に対する高い要求を満足することができる。
【0072】
本実施形態の二次電池100は、たとえば前述のように、表層部31sにおける正極活物質粒子Psの空間率が、25[%]以下かつ14[%]以上である。この場合、深層部31dにおける正極活物質粒子Pdの空間率は、たとえば、28[%]以下かつ15[%]以上である。
【0073】
この構成により、正極合剤層31bの表層部31sに正極活物質粒子Psを密に充填することができ、表層部31sにおける正極活物質粒子Psの欠落をより確実に防止することができる。これにより、深層部31dの正極活物質粒子Pdよりも平均粒子径が大きい表層部31sの正極活物質粒子Psが欠落して局所的にシールド効果が失われることを防止して、正極合剤層31bの局所的な劣化を、効果的に防止することができる。したがって、表層部31sに正極活物質粒子Psのシールド効果によって、表層部31sの正極活物質粒子Psよりも平均粒子径が小さい深層部31dの正極活物質粒子Pdを保護することができる。
【0074】
以上説明したように、本実施形態によれば、従来よりも耐久性に優れた高容量のリチウムイオン二次電池である二次電池100を提供することができる。
【0075】
次に、図6および図7を参照して、本開示の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法Mを説明する。図6は、本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法Mの各工程を示すフロー図である。図7は、本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法Mに用いられる製造装置Aの一部を示す模式図である。
【0076】
本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法Mは、たとえば、前述の二次電池100を製造するための方法である。より具体的には、本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法Mは、正極電極31と負極電極32とをセパレータ33,34を介して対向させたリチウムイオン二次電池の製造方法である。なお、本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法Mは、正極電極31の製造工程に特徴を有している。そのため、以下では、正極電極31の製造工程を詳細に説明し、その他の工程の説明を適宜省略する。
【0077】
図6に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法Mは、塗布工程S1と、乾燥工程S2と、プレス工程S3と、裁断工程S4と、電極群製造工程S5とを含んでいる。また、本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法Mは、たとえば、組立工程S6を有している。
【0078】
図7に示す製造装置Aは、たとえば、塗布工程S1と乾燥工程S2に用いられる装置である。製造装置Aは、たとえば、第1スラリータンクA1と、第2スラリータンクA2と、ポンプA3,A4と、第1スリットダイA5と、第2スリットダイA6とを備えている。また、製造装置Aは、たとえば、供給ローラA7と、回収ローラA8と、搬送ローラA9,A10,A11と、塗工ローラA12と、乾燥機A13とを備えている。
【0079】
第1スラリータンクA1は、第1の正極活物質粒子Pdを含む第1のスラリーSL1を貯留している。第2スラリータンクA2は、第2の正極活物質粒子Psを含む第2のスラリーSL2を貯留している。第1のスラリーSL1は深層部31dの材料であり、第2のスラリーSL2は、表層部31sの材料である。第1のスラリーSL1および第2のスラリーSL2は、前述のように、正極活物質粒子Pdおよび正極活物質粒子Psに対し、それぞれ、導電材と結着剤と分散溶媒を添加し、混練したものを用いることができる。
【0080】
ポンプA3は、第1スラリータンクA1と第1スリットダイA5との間の第1のスラリーSL1の流路に配置され、第1のスラリーSL1を第1スラリータンクA1から第1スリットダイA5へ圧送する。ポンプA4は、第2スラリータンクA2と第2スリットダイA6との間の第2のスラリーSL2の流路に配置され、第2スラリータンクA2から第2スリットダイA6へ第2のスラリーSL2を圧送する。
【0081】
第1スリットダイA5は、ポンプA3によって圧送された第1のスラリーSL1を、スリットから吐出して、正極集電箔31aの表面に塗布する。第2スリットダイA6は、第1スリットダイA5よりも正極集電箔31aの搬送方向の後方に配置され、ポンプA4によって圧送された第2のスラリーSL2を、正極集電箔31aの表面に塗布された第1のスラリーSL1の表面に塗布する。
【0082】
供給ローラA7は、ロール状に巻回された正極集電箔31aを外周に支持して回転することで、正極集電箔31aを供給する。回収ローラA8は、回転することで、表面に正極合剤層31bが形成された正極集電箔31aを、外周に巻回して回収する。搬送ローラA9,A10,A11は、供給ローラA7から供給された正極集電箔31aを、塗工ローラA12、乾燥機A13、および回収ローラA8へ搬送する。
【0083】
塗工ローラA12は、正極集電箔31aに第1のスラリーSL1および第2のスラリーSL2を塗布する時に、外周面に正極集電箔31aを支持しつつ回転し、正極集電箔31aを乾燥機A13へ搬送する。乾燥機A13は、正極集電箔31aの表面に塗布された第1のスラリーSL1および第2のスラリーSL2を加熱して乾燥させる。
【0084】
塗布工程S1は、たとえば、正極電極31を構成する正極集電箔31aに正極合剤層31bの材料であるスラリーを塗布する工程と、負極電極32を構成する負極集電箔32aに負極合剤層32bの材料であるスラリーを塗布する工程を含んでいる。本実施形態において、塗布工程S1は、正極集電箔31aに正極合剤層31bの材料であるスラリーを塗布する工程に特徴を有している。そのため、以下では、正極電極31の製造工程を説明し、負極電極32の製造工程の説明を省略する。
【0085】
本実施形態において、塗布工程S1は、正極合剤層31bの表面に第1の正極活物質粒子Pdを含む第1のスラリーSL1を塗布するとともに、その第1のスラリーSL1の表面に第2の正極活物質粒子Psを含む第2のスラリーSL2を塗布する工程を含む。ここで、表層部31sの材料である第2のスラリーSL2に含まれる第2の正極活物質粒子Psは、深層部31dの材料である第1のスラリーSL1に含まれる第1の正極活物質粒子Pdよりも平均粒子径が大きい。また、第2の正極活物質粒子Psは、第1の正極活物質粒子Pdよりもタップ密度が高い。
【0086】
より具体的には、塗布工程S1では、たとえば、製造装置Aの供給ローラA7から供給されて搬送ローラA9,A10,A11によって搬送され、塗工ローラA12によって支持された正極集電箔31aに、第1のスラリーSL1と第2のスラリーSL2を塗布する。より詳細には、ポンプA3によって第1スラリータンクA1から第1スリットダイA5へ第1のスラリーSL1を圧送する。そして、第1スリットダイA5のスリットから第1のスラリーSL1を吐出して、正極集電箔31aの表面に第1のスラリーSL1を塗布する。
【0087】
さらに、ポンプA4によって第2スラリータンクA2から第2スリットダイA6へ第2のスラリーSL2を圧送する。そして、第2のスラリーSL2のスリットから第2のスラリーSL2を吐出して、正極集電箔31aの表面に塗布された第1のスラリーSL1の表面に、第2のスラリーSL2を塗布する。すなわち、塗布工程S1では、乾燥前の第1のスラリーSL1の上に、第2のスラリーSL2を塗布する。
【0088】
塗布工程S1では、たとえば、第2のスラリーSL2の粘度が、第1のスラリーSL1の粘度よりも低くなるように、第1のスラリーSL1および第2のスラリーSL2が調製されている。これにより、第1のスラリーSL1の上に塗布された第2のスラリーSL2が、第1のスラリーSL1の表面を覆うように迅速かつ円滑に広がって、第1のスラリーSL1の表面が第2のスラリーSL2によって均一に被覆される。
【0089】
なお、塗布工程S1では、たとえば、帯状の正極集電箔31aの幅方向の両端を残して、第1のスラリーSL1および第2のスラリーSL2を塗布する。また、図7に示す製造装置Aでは、第1スリットダイA5と第2スリットダイA6を用いて第1のスラリーSL1及び第2のスラリーSL2を塗布しているが、製造装置Aは、この構成に限定されない。たとえば、一つのスリットダイから、あらかじめ積層させた第1のスラリーSL1と第2のスラリーSL2を同時に吐出してもよい。塗布工程S1の終了後は、乾燥工程S2が開始される。
【0090】
乾燥工程S2は、正極集電箔31aの表面に塗布された第1のスラリーSL1と、その第1のスラリーSL1の表面に塗布された第2のスラリーSL2を乾燥させる工程である。この工程により、正極集電箔31aの表面に、第1の正極活物質粒子Pdを含む深層部31dを形成するとともに、その深層部31dの表面に第2の正極活物質粒子Psを含む表層部31sを形成する。
【0091】
より具体的には、乾燥工程S2では、たとえば、製造装置Aの搬送ローラA9,A10,A11によって正極集電箔31aを搬送し、表面に第1のスラリーSL1および第2のスラリーSL2が塗布された正極集電箔31aを乾燥機A13の内部へ送る。乾燥機A13は、たとえば、正極集電箔31aの表面に塗布された第1のスラリーSL1および第2のスラリーSL2を加熱して熱風により溶媒を蒸発させ、これらを同時に乾燥させる。乾燥工程S2の効率を高めるために、蒸発した溶媒を吸引して集める装置が付加されてもよい。
【0092】
このとき、第1のスラリーSL1に含まれる正極活物質粒子Pdの間や、第2のスラリーSL2に含まれる正極活物質粒子Psの間や、導電助剤の粒子間には、微小な隙間または空孔が形成される。この隙間または空孔は、正極活物質粒子Pdおよび正極活物質粒子Psの平均粒子径によって、これらが最密配置された場合の大きさが決まる。また、第1のスラリーSL1および第2のスラリーSL2を調製する時の正極活物質粒子Pdおよび正極活物質粒子Ps、導電助剤、溶媒などの混合比によって、上記の隙間または空孔を制御することができる。
【0093】
なお、図7では、正極集電箔31aの一方の表面のみに、第1のスラリーSL1および第2のスラリーSL2を塗布して深層部31dおよび表層部31sを含む正極合剤層31bを形成している。その後、たとえば、一方の表面に正極合剤層31bが形成された正極集電箔31aを供給ローラA7の外周に支持し、正極集電箔31aの他方の表面に、第1のスラリーSL1および第2のスラリーSL2を塗布して乾燥させ、正極集電箔31aの両面に正極合剤層31bを形成することができる。乾燥工程S2の終了後は、プレス工程S3が開始される。
【0094】
プレス工程S3は、乾燥工程S2を経て、正極集電箔31aの表面に深層部31dが設けられ、その深層部31dの表面に表層部31sが設けられた積層体Lを加圧する工程である。プレス工程S3では、たとえば、一対のプレスローラの間に積層体Lを挟み込んでプレスする。プレス工程S3の終了後は、裁断工程S4が開始される。
【0095】
裁断工程S4は、プレス工程S3を経た積層体Lを裁断して、表層部31sと深層部31dを含む正極合剤層31bを有する正極電極31を得る工程である。裁断工程S4では、たとえば、帯状の正極集電箔31aの幅方向の両端部を除いて正極集電箔31aの表面に正極合剤層31bが設けられた積層体Lを、正極集電箔31aの幅方向の中央で裁断する。これにより、図3および図4に示すように、幅方向の一端に正極集電部31cを有する正極電極31が得られる。裁断工程S4の終了後は、電極群製造工程S5が開始される。
【0096】
電極群製造工程S5は、正極電極31と負極電極32とを、セパレータ33,34を介して対向させ、正極合剤層31bの表層部31sを、セパレータ33,34を介して負極電極32に対向させる工程である。より具体的には、電極群製造工程S5では、巻回機の回転軸にセパレータ33,セパレータ34を巻き付け、セパレータ33,34の間に、正極電極31と負極電極32をそれぞれ挟み込むようにして巻回する。
【0097】
これにより、図3に示すように、最内周と最外周に巻回された電極は負極電極32であり、最外周に巻回された負極電極32の外周にさらに第1セパレータ33が巻回された30を製作することができる。なお、電極群製造工程S5では、巻回機の回転軸に軸芯を取り付けて、軸芯にセパレータ33およびセパレータ34の始端部を溶着させ、セパレータ33、負極電極32、セパレータ34、および正極電極31を積層させて巻回してもよい。電極群製造工程S5の終了後は、たとえば組立工程S6が開始される。
【0098】
組立工程S6は、電池容器10、外部端子20、巻回体30、集電板40、および絶縁シート50を組み立てて、二次電池100を構成する工程である。具体的には、図2に示すように、外部端子20の接続部22をガスケット13の貫通孔13a、電池蓋12の貫通孔12a、絶縁部材14の貫通孔14a、および集電板40の貫通孔41aに挿通させ、外部端子20の接続部22の先端を塑性変形させてかしめ部を形成する。
【0099】
これにより、外部端子20、ガスケット13、絶縁部材14、および集電板40が、電池蓋12に一体的に取り付けられ、外部端子20と集電板40が電気的に接続される。また、電池蓋12は、ガスケット13および絶縁部材14によって、外部端子20および集電板40に対して電気的に絶縁される。さらに、集電板40の延在部42に巻回体30の積層部35を接合する。
【0100】
これにより、正極外部端子20Pが正極集電板40Pを介して正極電極31の正極集電部31cに接続され、負極外部端子20Nが負極集電板40Nを介して負極電極32の負極集電部32cに接続される。また、巻回体30が集電板40を介して電池蓋12に支持された蓋組立体を構成することができる。その後、巻回体30および集電板40の周囲に絶縁シート50を巻き付けて、巻回体30および集電板40を絶縁シート50によって覆う。
【0101】
そして、絶縁シート50によって覆われた巻回体30および集電板40を、電池缶11の開口部11aに挿入して、電池缶11の内部に収容する。その後、電池蓋12によって電池缶11の開口部11aを塞いだ状態で、電池蓋12の全周を、たとえばレーザ溶接によって電池缶11に接合して電池容器10を構成する。その後、電池蓋12の注液孔16から電池容器10の内部に非水電解液を注入し、たとえば、レーザ溶接によって、注液孔16に注液栓17を接合して電池容器10を密閉する。以上により、図1に示す二次電池100を製造することができる。
【0102】
以上のように、本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法Mは、正極電極31と負極電極32とをセパレータ33,34を介して対向させたリチウムイオン二次電池の製造方法である。本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法Mは、前述のように、以下の各工程を含むことを特徴としている。正極集電箔31aの表面に第1の正極活物質粒子Pdを含む第1のスラリーSL1を塗布するとともに、その第1のスラリーSL1の表面に第1の正極活物質粒子Pdよりも平均粒子径が大きくかつタップ密度が高い第2の正極活物質粒子Psを含む第2のスラリーSL2を塗布する塗布工程S1。正極集電箔31aの表面に塗布された第1のスラリーSL1と、第1のスラリーSL1の表面に塗布された第2のスラリーSL2を乾燥させて、正極集電箔31aの表面に第1の正極活物質粒子Pdを含む深層部31dを形成するとともに、その深層部31dの表面に第2の正極活物質粒子Psを含む表層部31sを形成する乾燥工程S2。乾燥工程S2を経て正極集電箔31aの表面に深層部31dが設けられ、その深層部31dの表面に表層部31sが設けられた積層体Lを加圧するプレス工程S3。プレス工程S3を経た積層体Lを裁断して、表層部31sと深層部31dを含む正極合剤層31bを有する正極電極31を得る裁断工程S4。そして、正極電極31と負極電極32とを、セパレータ33,34を介して対向させ、正極合剤層31bの表層部31sを、セパレータ33,34を介して負極電極32に対向させる電極群製造工程S5である。
【0103】
すなわち、本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法Mでは、前述のように、塗布工程S1において、第1のスラリーSL1の上に第2のスラリーSL2を積層させ、乾燥工程S2において、第1のスラリーSL1と第2のスラリーSL2を同時に乾燥させている。その後、乾燥工程S2を経た積層体Lをプレス工程S3で加圧している。そのため、本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法Mによって製造された二次電池100は、正極電極31の正極合剤層31bに含まれる表層部31sと深層部31dとの間の界面が、凹凸を有している。これより、深層部31dと表層部31sとを一体化させ、前述のように、従来よりも耐久性に優れた高容量の二次電池100を製造することができる。
【0104】
一方、正極集電箔31aの表面に第1のスラリーSL1を塗布した後、第1のスラリーSL1を乾燥させて深層部31dを形成し、深層部31dをプレスにより加圧してから、深層部31dの表面に第2のスラリーSL2を塗布することが考えられる。この場合、深層部31dの表面は、プレスによって平坦になっている。そのため、深層部31dの表面に塗布した第2のスラリーSL2を乾燥させて表層部31sを形成し、表層部31sをプレスによって加圧すると、表層部31sと深層部31dとの界面は、上記のような凹凸を有しない平坦な面となる。しかし、この方法では、生産性が低下するだけでなく、表層部31sと深層部31dと結合も不十分になりかねない。したがって、前述のリチウムイオン二次電池の製造方法Mによって二次電池100を製造することが好ましい。
【0105】
以上、図面を用いて本開示に係るリチウムイオン二次電池およびその製造方法の実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0106】
31 正極電極
31a 正極集電箔
31b 正極合剤層
31d 深層部
31s 表層部
32 負極電極
33 セパレータ
33 セパレータ
L 積層体
M リチウムイオン二次電池の製造方法
Pd 正極活物質粒子(第1の正極活物質粒子)
Ps 正極活物質粒子(第2の正極活物質粒子)
S1 塗布工程
S2 乾燥工程
S3 プレス工程
S4 裁断工程
S5 電極群製造工程
SL1 第1のスラリー
SL2 第2のスラリー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7