(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】スプレーガンノズル
(51)【国際特許分類】
B05B 7/06 20060101AFI20220509BHJP
【FI】
B05B7/06
(21)【出願番号】P 2021528005
(86)(22)【出願日】2019-07-19
(86)【国際出願番号】 GB2019052023
(87)【国際公開番号】W WO2020021241
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-03-08
(32)【優先日】2018-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】521033734
【氏名又は名称】カーライル フルイド テクノロジーズ(ユーケー)リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(72)【発明者】
【氏名】ネイル バンブレイ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー スティーブン グリース
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-160156(JP,A)
【文献】特開2002-001169(JP,A)
【文献】特開2014-034020(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0042248(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103567098(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプレーガンから塗料を噴霧するために噴霧空気の噴流を放出するためのエアキャップノズルであって、前記エアキャップノズルは、噴霧空気の放出口を有する先端表面部と、該放出口を囲むリム領域と、を備えており、
前記リム領域は、前記先端表面部の前記リム領域から軸方向外向きに突出する複数の突起によって形成された
単一の連続的な鋸歯状部分を備えており、
前記突起は、前記噴霧空気の噴流による周囲の空気の同伴を許容するように構成された谷部によって分離されており、該同伴された周囲の空気は、前記谷部を通って引き込まれており、許容された該同伴は、該同伴された周囲の空気と前記噴霧空気の噴流との間の混合を
もたらしており、
前記連続的な鋸歯状部分は、前記噴霧空気の噴流と衝突する後縁を形成する、エアキャップノズル。
【請求項2】
前記リム領域は、環状とされている、請求項1に記載のエアキャップノズル。
【請求項3】
前記複数の突起の少なくともいくつかは、前記噴霧空気の放出口の中心部へ向けて延在する、
請求項1に記載のエアキャップノズル。
【請求項4】
前記谷部は、前記突起の間の湾曲した表面を備える、
請求項1に記載のエアキャップノズル。
【請求項5】
前記谷部は、前記噴霧空気の放出口の中心部から径方向に延在する、
請求項1に記載のエアキャップノズル。
【請求項6】
前記突起は、前記噴霧空気の放出口の中心部から径方向外側へ向けて延在する頂部を備える、
請求項1に記載のエアキャップノズル。
【請求項7】
前記複数の突起の径方向の幅は、前記噴霧空気の放出口からの距離と共に増加する、
請求項1に記載のエアキャップノズル。
【請求項8】
前記複数の突起は、8個から16個までの突起を備える、
請求項1に記載のエアキャップノズル。
【請求項9】
さらに、エアスプレーガンに取り付けるように構成されている、
請求項1に記載のエアキャップノズル。
【請求項10】
さらに、前記エアキャップノズルの外表面から突出する1つ又は複数の角部を備えており、前記1つ又は複数の角部は、前記噴霧空気の放出口の下流の噴霧領域へ向けて補助空気噴流を放出するように構成されている、
請求項1に記載のエアキャップノズル。
【請求項11】
請求項1に記載のエアキャップノズルを備えた塗料スプレーガン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料スプレーガンに関する。より具体的には、本発明は、塗料スプレーガンに使用するエアキャップノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
塗料スプレーガンは、車両のボディパネルといった媒体に塗料を塗布するために大抵使用される。塗料スプレーガンには、通常、媒体に塗布する前に液体塗料を小さな粒子に分解するための手段(すなわち、スプレー)が含まれる。このプロセスは、噴霧化と呼ばれている。噴霧化は、塗料噴流と「噴霧化する」空気噴流とを混合することによって達成される。これらの噴流の間の混合が、噴霧化を引き起こす。
【0003】
既存の塗料スプレーガンは、エアキャップと、塗料ノズルと、と備えた流体チップを含む。エアキャップは、塗料ノズルに近接したエアキャップ放出口から噴霧空気の噴流を提供し、これによって塗料の噴霧化のために必要な噴流間の混合を可能にする。噴霧空気の噴流を提供するために、高圧の空気源がよく使用される。
【0004】
噴霧空気の噴流は、高速であることが望ましい。しかしながら、既存の塗料スプレーガンによって生成される高速噴霧空気の噴流は、望ましくないノイズを引き起こす。さらに、既存の塗料スプレーガンは、噴霧空気の噴流の変動(いわゆる「フラッピング」)を引き起こしやすく、スプレーガンの転送効率(すなわち、表面に付着する塗料液滴の数)を低下させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明によれば、スプレーガンから塗料を噴霧するために噴霧空気の噴流を放出するためのエアキャップノズルが提供され、エアキャップノズルは、噴霧空気放出口を有する先端表面部と、放出口を囲むリム領域と、を備える。リム領域は、先端表面部のリム領域から軸方向外向きに突出する複数の突起によって形成された連続的な鋸歯状部分を備える。突起は、噴霧空気ジェットによる周囲の空気の同伴を可能にするように構成された谷によって分離され、同伴された周囲の空気は、谷を通って引き込まれる。許容された同伴は、同伴された周囲の空気と噴霧空気ジェットとの間の混合を提供する。突起は、噴霧空気噴流による周囲の空気の同伴を許容するように構成された谷部によって分離されており、同伴された周囲の空気は、谷部を通って引き込まれる。許容された同伴は、同伴された周囲の空気と噴霧空気の噴流との間の混合をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0006】
噴霧空気が既存のエアキャップノズルから放出されると、放出された空気と周囲の空気との間の界面において混合層が生成される。発明者は、この混合層は、放出された空気と周囲の空気との間の高圧及び速度差に起因する激しい乱流によって特徴付けられると判断した。この乱流の強さは、生成されるノイズのレベルに直接関連付けられる。作動音を低減するためには、混合層の乱流が低減されなければならない。
【0007】
複数の突起は、放出空気の噴流と周囲の空気との間の混合を強化する流れ方向の渦を導入することによって、混合層内の乱流を低減することが見出されている。この強化された混合は、放出された空気流内のピーク速度をより迅速に減少し、これによって、乱流の量及び生成されるピークノイズを低減する。
【0008】
本発明のエアキャップノズルが、複数の突起によって生成される流れ方向の渦によって、特に安定した放出噴霧空気の噴流をもたらすことが見出されるのは、更なる利点である。放出された噴霧空気の噴流は、既存のエアキャップノズルによって提供されるものよりも安定していることが見出されている。噴霧空気の噴流の安定性が向上することは、スプレーガン操作中の空気の噴流の変動(いわゆる「フラッピング」)の頻度及び/又は高度を低減させる。フラッピングは、スプレーガンから放出される液体塗料の不安定性によって引き起こされる。フラッピングは、塗料液滴の不均一な分布をもたらし、かつ、スプレーガンの全体的な転送効率(すなわち、スプレーガンから放出される塗料液滴の総量と比較した表面に付着する塗料液滴の量)を低下させるため、望ましくない。それゆえ、本発明は、効率の節約を伴う改善された塗料分配の品質を提供する。
【0009】
さらに、放出された噴霧空気の噴流のスプレー乱流特性は、突起の形状を改良することによって制御されてもよい。放出された噴霧空気の噴流内の乱流の低減は、スプレーガンの全体的な転送効率を向上する。
【0010】
任意には、リム領域は、環状とされている。
【0011】
任意には、リム領域は、単一の連続した鋸歯状部分を備える。
【0012】
任意には、複数の突起の少なくともいくつかは、半径方向内側に延在する軸方向外側部分を有する。軸方向外側部分は、噴霧空気放出口の中心部へ向けて延在してもよい。突起の軸方向外側部分が半径方向内側に延在する場合、噴霧空気流は、塗料の噴流、特に、リムの半径方向内側の位置から放出される塗料の噴流を突き抜けるように方向づけられる。このことは、得られる噴霧塗料の噴流の安定性を改良し、これによって、真っすぐな放出口プロファイルを長期間維持されることを可能にする。この結果、表面への塗料スプレーの塗布がより良好に制御され、再現性が向上する。しかしながら、いくつかの実施形態では、突起の部分は、必ずしも半径方向内側に延在しない(すなわち、突起の内面は、放出口の中心線と実質的に平行とされている。)。
【0013】
任意には、谷部は、突起間の湾曲した表面を備える。
【0014】
任意には、連続的な鋸歯状部分は、噴霧空気流と衝突する後縁を形成する。
【0015】
任意には、谷部は放出口の中心部から径方向に延在する。
【0016】
任意には、突起は、噴霧空気放出口の中心部から半径方向外向きに延在する頂部を備える。
【0017】
任意には、複数の突起の半径方向の幅は、噴霧空気放出口からの距離と共に増加する。
【0018】
任意には、複数の突起は、8個から16個までの突起である。
【0019】
任意には、エアキャップノズルは、さらに、塗料スプレーガンに取り付けるように構成されている。取り付けられた場合、塗料スプレーガンのペイントノズルは、エアキャップノズル放出口に対する実質的な質量中心とされてもよい。
【0020】
任意には、エアキャップノズルは、さらに、エアキャップの外表面から突出する1つ又は複数の角部を備えており、1つ又は複数の角部は、それぞれ噴霧空気放出口の下流の噴霧領域へ向けて補助空気の噴流を放出するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1a】
図1aは、突起のない既存のエアキャップノズルから放出する噴霧空気の空気流のプロファイル(上流を向いて見た場合)を示す。
【
図1b】
図1bは、突起を備えたエアキャップノズルから放出する噴霧空気の空気流のプロファイル(上流を向いて見た場合)を示す。
【
図2a】
図2aは、周囲の空気と
図1aのエアキャップノズルから放出される噴霧空気との間の静圧差を概略的に示す。
【
図2b】
図2bは、周囲の空気と
図1bのエアキャップノズルから放出される噴霧空気との間の静圧差を概略的に示す。
【
図3a】
図3aは、エアキャップノズル放出口から下流の4つの異なる軸方向位置において軸方向から見た場合における、
図1aのエアキャップノズルから放出される空気の流れの可視化パターンを示す。
【
図3b】
図3bは、エアキャップノズル放出口から下流の異なる軸方向位置において軸方向から見た場合における、
図1bのエアキャップノズルから放出される空気の流れの可視化パターンを示す。
【
図4a】
図4aは、放出された空気の流れに対して横方向から見た場合における、
図1aのエアキャップノズルから放出される空気の流れの可視化パターンを示す。
【
図4b】
図4bは、放出された空気の流れに対して横方向から見た場合における、
図1bのエアキャップノズルから放出される空気の流れの可視化パターンを示す。
【
図5a】
図5aは、補助空気流を放出するための角部を備えた
図1bのエアキャップノズルを示す。
【
図6】
図6は、
図1bのエアキャップノズルの放出口の拡大図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1aを参照すると、従来の円形リム102aを有するエアキャップノズル103a(「エアノズル」とも称する)から放出される空気の噴流101aの空気流プロファイルが示されている。空気の噴流101aは、エアノズル放出口100aを介して放出される。空気の噴流101aの空気流プロファイルは、円周方向に均一であることが観察され得る。従来のリム102aを有する
図1aのエアノズルから放出された空気の噴流は、空気の噴流101aがエアノズル103aから放出された後、周囲の空気を同伴する。
【0023】
図1bを参照すると、本発明の実施形態による、エアノズル103bから放出された空気の噴流101bの空気流プロファイルが示されている。エアノズル103bは、突起104を備えたリム102b(リム領域とも称する)を有する。各突起は、谷部105によって隣接する突起の頂部と分離された頂部106を有する。リム102bは、エアノズル放出口100b(噴霧空気放出口とも称する)を取り囲む。図示された実施形態では、各突起104の頂部106は、エアノズル放出口100bの中心部から半径方向に離れて延在する。突起は、「シェブロン(chevrons)」又は「鋸歯(saw-tooth)」と称されてもよい。空気流101bが、各突起104の半径方向内側の位置107に実質的に収束することが観察され得る。それゆえ、谷部105から直ぐに半径方向内側にある位置(すなわち、突起104の間)において、空気流101b内部にギャップ108がある。
【0024】
図1bのノズルにおいて、空気の噴流101bの同伴は、空気の噴流が、エアノズル103bを出る前に始まる(すなわち、空気の噴流101bの空気が、突起106の下流となる前に、谷部102bで同伴が始まる)。
【0025】
図2aを参照すると、
図1aのエアノズル放出口103aから放出される空気の噴流の方向は、矢印200aによって示されている。周囲の空気と放出された空気の噴流との間の静圧差は、矢印201aによって示されている。
【0026】
図2bを参照すると、エアノズル放出口を取り囲む突起104が示されている。矢印201bによって示されているように、周囲の空気と放出された空気の噴流200bとの間には、静圧差がある。この静圧差は、
図2aに参照されているものと同様です。しかしながら、矢印202bによって示されるように、突起104によって生成される追加の静圧差が存在する。追加の静圧差は、ノズル103bの内側に、逆回転する渦対を生成する(
図2bには示されていない)、小さな半径方向の侵入噴流を形成する。
【0027】
図3aを参照すると、
図1aのエアノズル放出口から下流側の軸方向位置においてエアキャップノズル(すなわち、空気の噴流)から放出される空気の流れの可視化パターン301a、302a、303a、304aが(エアノズル放出口からの距離の順番で)示されている。
図3aから4bに示されている内部の等高線は、観測された空気の噴流の内側における流れの可視化マーカー特性の等高線に関連する。本発明にとって最も重要なのは、空気の噴流を周囲の空気から区切る最も外側の等高線306である。
図1aのエアノズルからの空気の噴流は、有意な逆回転する渦対を発生させないことが観察される。空気の噴流と周囲の空気との混合は、最小限に抑えられる。
【0028】
対照的に、
図3bを参照すると、有意な逆回転する渦対305が
図1bのエアノズルから生成されている。逆回転する渦の対は、
図3aの位置に対応する下流側の軸方向位置における流れの可視化310b、302b、303b、304bの最も外側の等高線306を参照して観察することができる。
図3bに示されるように、逆回転する渦対305は、エアノズル放出口から半径方向外向きに伝播する。渦対は、このような渦対が生成されないエアノズルと比較して、より大きな混合を引き起こす。放出された空気の噴流と周囲の空気との間の強化された混合は、放出された空気の噴流(及び、それゆえ、乱流)のピーク速度が、より迅速に減少されて、その結果としてノイズが減少することを生じさせる。特に、流れの可視化304bは、
図3aの流れの可視化304aに示されているものと比較して、空気の噴流と周囲の空気との間のはるかに大きな混合を示す。
図3aと比較して、
図3bの最も外側の等高線306を参照すると、より大きな混合が特に観察され得る。
【0029】
図4a及び4bを参照して、ノズル103a、103b(突起なし及び突起あり)から放出された空気の噴流500の横方向の流れの可視化が示されている。ノズルからの放出された空気の流れに対する上述の逆回転する渦対の影響を観察することができる。
【0030】
図4aを参照すると、放出された空気の噴流の「ネック」部分402aは、比較的厚い。ネック部分402aは、変動(すなわち、上述した、いわゆる「フラッピング」)の影響を受けやすい。
【0031】
図4bは、著しく薄いネック部分402bを示す。逆回転する渦対の影響によってネック部分が薄くなっている。より薄いネック部分402bは、ネック部分の変動が小さいことを意味する。特に、変動401bは、
図4aのエアノズルからの変動401aが止まる点からかなり上流側の点において止まる。言い換えれば、変動401bの頻度及び高度が低減されている。これは、突起によって生成される空気の噴流内部の逆回転する渦対の影響によるものである。減少された変動は、小さな塗料の液滴の軌道を改善し、スプレーガンの全体的な転送効率を向上させる。
【0032】
図5a及び5bを参照すると、
図1bに示されているようなエアキャップノズル103bが示されている。エアキャップノズルは、さらに2つの角部501を備えている。角部は、エアキャップノズル103bの放出口503の下流側の領域に補助空気の噴流を放出するための補助空気放出口502を含む。補助空気の噴流は、放出された空気の噴流を中心部に放出された塗料の噴流(図示省略)へ向けて絞る働きをし、これによって塗料のスプレーパターンを生成する。ホーンの形状を変えることによって、塗料のスプレーパターンを調整することができる。
【0033】
図6aを参照すると、突起104を備えたリム102bの拡大図が示されている。リム102bは、エアキャップノズル放出口100bを取り囲んでいる。
図6の残りの機能については、
図1bを参照して説明したとおりである。