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特許7068567最適孔径測定方法、及び最適孔径測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】最適孔径測定方法、及び最適孔径測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 13/10 20060101AFI20220510BHJP
   B23B 39/28 20060101ALI20220510BHJP
   B23Q 17/20 20060101ALI20220510BHJP
   G01L 1/00 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
G01B13/10
B23B39/28
B23Q17/20 A
G01L1/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017230378
(22)【出願日】2017-11-30
(65)【公開番号】P2019100801
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】509311643
【氏名又は名称】株式会社山本金属製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504226733
【氏名又は名称】コベルコ溶接テクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115200
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修之
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲吾
(72)【発明者】
【氏名】河合 真二
(72)【発明者】
【氏名】武田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】永井 卓也
【審査官】仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-184118(JP,A)
【文献】特開2010-52103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 13/00-13/24
B23B 35/00-49/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象部材の測定箇所に厚み方向の参照孔と該参照孔と略同心外側に環状にくり抜いたトレパニング孔とを形成し、前記トレパニング孔の形成前後の前記参照孔の孔径変化を測定し、前記測定対象部材の表面および内部の残留応力値を算出する残留応力測定における最適孔径測定方法において、
前記参照孔の孔径の測定は、
前記参照孔に挿入して径方向両側に空気流を噴出させるエアプローブを有して、該空気流の空気圧の変化から距離を測定する2点式エアマイクロメータを用いる、最適孔径測定方法。
【請求項2】
切削工具の先端位置を制御し切削工具を交換可能に把持するツールホルダを有する加工装置の切削工具によって前記参照孔及びトレパニング孔を形成し、
前記加工装置は、前記参照孔の中心位置を記憶しており、
前記参照孔の孔径の測定は、
前記加工装置のツールホルダに把持される切削工具を前記2点式エアマイクロメータと交換して、前記加工装置が記憶している前記参照孔の中心位置に前記2点式エアマイクロメータのエアプローブを挿入することにより行う、請求項1に記載の最適孔径測定方法。
【請求項3】
切削工具の先端位置を制御し、切削工具を交換可能に把持するツールホルダを有する加工装置によって測定対象部材の測定箇所に厚み方向の参照孔と該参照孔と略同心外側に環状にくり抜いたトレパニング孔とを形成し、前記トレパニング孔の形成前後の前記参照孔の孔径変化を測定し、前記測定対象部材の表面および内部の残留応力値を算出する残留応力測定に用いる最適孔径測定装置において、
前記参照孔に挿入して径方向両側に空気流を噴出させるエアプローブを有し、該空気流の空気圧の変化から距離を測定する2点式エアマイクロメータのエアプローブが、切削工具と交換可能に前記ツールホルダに装着され、
前記加工装置は、前記参照孔の中心位置を記憶し、該中心位置に前記エアプローブを挿入する、最適孔径測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接構造物などの測定対象物に参照孔とその同心外側に環状のトレパニング孔とを穿けて参照孔を形状変化を測定することで測定対象物の表面および内部の残留応力を測定する方法(MIRS法)において、エアマイクロメータを用いて高精度かつ容易に参照孔の孔径を測定し得る最適な孔径測定方法やこれを用いた最適孔径測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、深穴穿孔法(DHD:Deep Hole Drilling)による残留応力評価方法は、図7に示すような4つの手順により、応力解放前後の孔径を測定し孔径変化量から板厚内部の残留応力値を算出する。まず、被測定物の穴あけ箇所に当金(Front bush)を装着し、ガンドリル(Gun drill)を用いて、孔あけ加工による貫通もしくは未貫通孔(Reference hole(以下。「参照孔」と称する))を加工する(図7(a)のStep1参照)。次に、この参照孔に関して孔深さ方向に1箇所以上、周方向に3箇所以上、孔径を測定する(図7(b)のStep2参照)。次に、この参照孔に対して、同軸に円筒状にくり抜き加工(トレパニング加工)などの除去加工を行い、周辺の拘束を開放し、残留応力を開放する(図7(c)のStep3参照)。そして、再度、トレパニング加工で周辺除去した後の参照孔に関して孔深さ方向に1箇所以上、周方向に3箇所以上、孔径を測定する(図7(d)のStep4参照)。これらの測定値より、弾性材料であること、無限平板における孔であること、平面応力状態であることなどを仮定条件とし、孔径に対する面内応力成分(σx、σy、σxy)を算出できる。
【0003】
また、同軸に円筒状にトレパニング加工を施す応力解放過程に生じる塑性変形の影響を排除するために、トレパニング加工と孔径測定とを逐次実施する逐次深穴穿孔法(iDHD法:incremental Deep Hole Drilling)などがあり、上述の深穴穿孔法で算出できる孔軸方向成分(σz)も算出することができる。
【0004】
さらに、上記DHD法やiDHD法では、上記仮定条件により孔径に及ぼす三次元的な応力状態や塑性変形の影響が考慮されておらず、実値と理論値とが乖離し、するという問題があり、面内応力(残留応力(σx、σy、σxy))の精度が落ちるため、DHD法やiDHD法(以下、単に「DHD法」とも称する。)は残留応力測定方法の実用的な測定方法として普及していなかった。これに対して出願人は、仮定条件を実現象に近づけて三次元応力状態、塑性変形の影響を考慮できる高精度の板厚内部残留応力測定方法改良型の深孔穿孔法(以下、「MIRS法」と称する)を特許文献2において提供している(詳細には後述する)。
【0005】
上記DHD法、iDHD法又はMIRS法(以下。「MIRS法等」)のいずれにおいても、参照孔の孔径の測定には、接触式測定として機械式・電気式のマイクロメータを用いる方法や、非接触式測定としてエアプローブ(Air probe)を用いるエアマイクロメータを用いる方法が考えられる。このうちエアマイクロメータ(空気マイクロメータ)は、空気の流量で物の寸法を測る比較測定器であり、流量式、背圧式などの測定方式がある。具体的に参照孔を測定するときに採用される流量式の場合、まずコンプレッサとフィルタできれいな圧縮空気を作った後、これをレギュレータにより一定の圧力に保ち、参照孔に挿入したエアプローブのノズルから圧縮空気を噴出させる。ノズルと参照孔の内壁とのすきまが変化するとノズルから吹き出る流量が変化し、これによりフロートの浮き上がる高さが変化し、フロートの位置移動により参照孔の内径を測定する。
【0006】
エアマイクロメータには、両側2方向(対角方向)に空気が噴出する2点式と120°間隔に3箇所から側方(径方向)に空気が噴出する3点式などがある。測定し易さ、負担を考慮すると2点式の方が容易であるが、一般にエアマイクロメータで孔の内径を測定する場合、内径測定には基準点(0点)がないため測定技術の熟練や孔の中心を求める(求心)必要があり、測定精度を要求する場合、3点式エアマイクロメータを採用することが好ましいと考えられていた。その一方、3点式エアマイクロメータによる測定の場合、リングゲージでゼロ合わせをしなければならず、参照孔が真円でないと測定も難しいのに対して、2点式エアマイクロメータの場合、冶具でのゼロ合わせができ、参照孔の円に歪みがあっても測定できる。すなわち、2点式、3点式いずれのエアマイクロメータも内径測定では背反する利害得失があり、MIRS法等の普及の妨げの1つとの要因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-167937号公報
【文献】特開2015-184118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、MIRS法等においてエアマイクロメータを用いて高精度かつ容易に参照孔の孔径を測定し得る最適孔径測定方法、およびこの方法を用いる最適孔径測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
測定対象部材の測定箇所に厚み方向の参照孔と該参照孔と略同心外側に環状にくり抜いたトレパニング孔とを形成し、前記トレパニング孔の形成前後の前記参照孔の孔径変化を測定し、前記測定対象部材の表面および内部の残留応力値を算出する残留応力測定における最適孔径測定方法を提供する。前記参照孔の孔径の測定は、前記参照孔に挿入して径方向両側(対角方向)に空気流を噴出させるエアプローブを有して、該空気圧の変化から距離を測定する2点式エアマイクロメータを用いる。
【0010】
また、本発明の最適孔径測定方法は、
切削工具の先端位置を制御し切削工具を交換可能に把持するツールホルダを有する加工装置の切削工具によって前記参照孔及びトレパニング孔を形成し、前記加工装置は、前記参照孔の中心位置を記憶しており、
前記参照孔の孔径の測定は、前記加工装置のツールホルダに把持される切削工具を前記2点式エアマイクロメータと交換して、前記加工装置が記憶している前記参照孔の中心位置に前記2点式エアマイクロメータのエアプローブを挿入することにより行う、ことが好ましい。
【0011】
また、本発明は、切削工具の先端位置を制御し、切削工具を交換可能に把持するツールホルダを有する加工装置によって測定対象部材の測定箇所に厚み方向の参照孔と該参照孔と略同心外側に環状にくり抜いたトレパニング孔とを形成し、前記トレパニング孔の形成前後の前記参照孔の孔径変化を測定し、前記測定対象部材の表面および内部の残留応力値を算出する残留応力測定に用いる最適孔径測定装置を提供する。
この最適孔径測定装置では、前記参照孔に挿入して径方向両側に空気流を噴出させるエアプローブを有し、該空気流の空気圧の変化から距離を測定する2点式エアマイクロメータのエアプローブが、切削工具と交換可能に前記ツールホルダに装着され、
前記加工装置は、前記参照孔の中心位置を記憶し、該中心位置に前記エアプローブを挿入する、構成を有する。

【0012】
上述するように、孔径の測定方法としてはエアマイクロメータ、機械式・電気式のマイクロメータを用いる方法が考えられるが、参照孔作成の際には穿孔による切りくずが表面や内壁に付着していることもあり、接触式の機械式・電気式のマイクロメータの場合には切りくずの有無によって測定精度が変化する可能性がある。これに対してエアマイクロメータの場合、空気流によって切りくずを吹き飛ばす効果がありMIRS法等における参照孔の孔径測定に好適である。また、機械式マイクロメータではMIRS法等における参照孔のような深穴かつ小径を測定する場合、マイクロメータ自体が歪んだり、孔の内壁に接してしまって測定不能なことがあるため採用し難い。したがって、MIRS法等の参照孔の孔径測定にはエアマイクロメータを採用するのが好ましいことがわかった。
【0013】
また、上述するように一般に孔の内径測定を行う場合、2点式エアマイクロメータを用いるよりも3点式エアマイクロメータを用いる方が好ましいと考えられていた。しかしながら、MIRS法等の場合、マシンニングセンタ等の切削加工装置で刃物を付け替えて参照孔とトレパニング孔とを形成するため、その切削加工装置に切削工具を付け替えて加工装置の主軸のツールホルダにエアマイクロメータを取り付けた場合、基準点を自動求心しなくても加工装置自体が参照孔の中心位置(基準点)を設定しているので、本来、測定技量を要する2点式エアマイクロメータであっても精度良く測定することができる。
【0014】
また、3点式エアマイクロメータの場合、参照孔が真円でないと測定誤差を含みやすい。このためトレパニング加工後に略楕円形状に変形している参照孔の孔径測定に採用するのは好ましくない。この点、2点式エアマイクロメータの場合、加工装置の主軸によりゼロ点合わせができ、参照孔にトレパニング加工時の歪みが生じても測定することが可能である。本発明によれば、2点式エアマイクロメータを参照孔の穿孔を行う加工装置の主軸に取り付ける構成であるため、加工装置側で基準位置がわかっており2点式エアマイクロメータの不利な点が解消され、有利な点のみを活用することができる。したがって、MIRS法等での孔径測定にはベストであることがわかった。本発明は、MIRS法やDHD法での孔径測定に最適な構成を提供して点で大きく有利である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の残留応力の最適測定方法および残留応力の最適測定装置によれば、種々の測定対象物の残留応力測定評価としてのMIRS法等において、エアマイクロメータを用いて高精度かつ容易に参照孔の孔径を測定し得る最適な孔径測定方法やこれを用いた最適孔径測定装置の構成が提供されることで、MIRS法等が今後、標準化され一般ユーザが活用する場合の重要な測定方法及び測定装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)~(e)は、本発明の最適孔径測定方法が用いられる残留応力測定の各工程を示した説明図である。
図2】本発明で使用されるエアマイクロメータがそのツールホルダに取り付けられる加工装置の一例としての切削装置の斜視図を示している。
図3】トレパニング加工前後の参照孔の変化と測定する孔径とを表す略平面図を示している。
図4】3点式エアマイクロメータによる参照孔の孔径測定を示した図である。
図5】2点式エアマイクロメータによる参照孔の孔径測定を示した図である。
図6】2点式エアマイクロメータによる参照孔の孔径測定を加工装置で行う様子を示す図である。
図7】従来の深穴穿孔法による残留応力評価方法の各工程を示した説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(残留応力測定方法)
まず。本発明の実施形態を説明する前提として、本最適孔径測定方法が用いられる残留応力測定について説明する。
図1(a)~(e)は、本発明の最適孔径測定方法が用いられる残留応力測定の各工程を示した説明図である。この残留応力評価方法では、図1(a)~(e)に示すような5つの手順により、板厚内部の残留応力値を算出する。ここで、図中の符号1は、溶接構造物などの測定対象部材であり、符号2は測定対象部材1に参照孔10を形成可能なドリルである。また、符号3は、測定対象部材1に形成された参照孔10の内径を測定可能なエアプローブ(孔径測定部及び孔径再測定部)であり、符号4は、放電によって参照孔10の周辺にくり抜き加工(トレパニング加工)を施してトレパニング孔11を形成可能な放電加工機である。符号5は、円筒部分12の軸方向の伸び量ΔZ及び倒れ量Δθのそれぞれを測定可能なタッチプローブである。この残留応力測定では、少なくとも、エアプローブ3を用いて、前記くり抜き加工(トレパニング加工)の前後における参照孔10の形状変化に基づき、応力値算出部(不図示)で測定対象部材1の表面および内部の残留応力値を算出する。応力値算出部は、残留応力値の算出において、参照孔10の孔径、参照孔10の長手方向の長さ変化(伸び量ΔZ)、及び、参照孔10の軸の傾き(倒れ量Δθ)を考慮する。
【0018】
図1では、参照孔10の中心位置を原点O、紙面右方向をX軸、紙面に垂直奥方向をY軸、上垂直方向をZ軸とする。まず、図1(a)において、測定対象部材1の穴あけ箇所に当金(不図示)を装着し、ドリル2を用いた孔あけ加工によって参照孔10を形成する。参照孔10は、貫通孔であっても半貫通孔であっても良い。次に、図1(b)において、参照孔10に関して長手方向(Z方向)に1箇所以上、周方向に3箇所以上、エアプローブ3を用いた孔径の測定を行う。この孔径測定において本発明の最適孔径測定方法では、2点式エアマイクロメータを使用する(後述)。次に、図1(c)において、参照孔10の周辺に対してくり抜き加工(トレパニング加工)を行い、参照孔10の周辺部分の拘束を解放すると共に、同軸に円筒状の円筒部分12を形成する。そして、図1(d)において、再度、周辺除去加工後の参照孔10に関して長手方向(Z方向)に1箇所以上、周方向に3箇所以上、エアプローブ3を用いた孔径の測定を行う。そして、図1(e)において、タッチプローブ5を用いて、円筒部分12の軸方向(Z方向)の伸び量(ΔZ)、及び、XY方向の倒れ量(Δθ)を測定する。これら伸び量(ΔZ)及び倒れ量(Δθ)の測定により、従来法(深穴穿孔法、逐次深穴穿孔法)で残留応力測定が、(σx、σy、σxy)の3つからなる残留応力成分のみを考慮するものであるのに対して、本発明の残留応力測定方法では、(σx、σy、σz、σxy、σyz、σzx)の6成分からなる残留応力成分まで考慮した残留応力測定が可能となり、これまでの仮定条件では省略されていた三次元の残留応力成分を高精度に測定することができる。
【0019】
≪エアマイクロメータ(2点式及び3点式)の概説及び本発明で2点式エアマイクロメータを採用する理由について≫
上記参照孔10の孔径に使用するエアマイクロメータについて概明する。
上述したようにエアマイクロメータは、空気の流量で物の寸法を測る比較測定器で流量式、背圧式(差圧方式)などの測定方式があるが、流量式の場合、まずコンプレッサとフィルタできれいな圧縮空気を作った後、これをレギュレータにより一定の圧力に保ったまま、ノズルから噴出させる。ノズル部と測定対象物のすきまが変化するとノズルから吹き出る流量が変化し、フロートの浮き上がる高さが変化する。このフロートの位置移動により測定対象物の寸法を測定することができる。このエアマイクロメータには、2点式エアマイクロメータと、3点式エアマイクロメータとがある。本発明の孔径の最適測定方法で採用する2点式エアマイクロメータは、孔径方向両側(対角:180°間隔)に空気が噴出する2つのノズルがあり、ノズルから参照孔10の内壁に向かって噴出される空気の流量変化による軸線方向のフロートの移動量で孔径を測定する。以下、本発明で2点式エアマイクロメータを採用した理由について説明する。
【0020】
まず、前提として実際に測定を所望するトレパニング加工前後の参照孔10の孔径について説明する。図3にはトレパニング加工前後の参照孔10の変化と測定する孔径とを表す略平面図が示され、(a)にはトレパニング加工前、(b)にはトレパニング加工後が示されている。トレパニング加工前の測定では、(a)に示すように参照孔10の中心O周り45°ごとの直径D1,D2,D3,D4を測定する。その後、参照孔10の外周周りに環状のトレパニング孔11(図1(d)参照)を穿けて残留応力を解放した後に、(b)に示すようにトレパニング加工前の直径D1,D2,D3,D4と同位相の参照孔10’の直径D1’,D2’,D3’,D4’を測定する。図3からもわかるようにトレパニング加工を行うと通常、略真円の参照孔10が略楕円の参照孔10’に変形することがわかった。
【0021】
次に、3点式エアマイクロメータによる孔径測定と2点式エアマイクロメータによる孔径測定について、その利点と欠点とを具体的に説明する。
図4は3点式エアマイクロメータによる参照孔10の直径測定(孔径測定)を示している。3点式エアマイクロメータによる測定の場合、図4(a)に示すようにエアプローブ3の中心軸周りに60°間隔で放射状にノズル部3a、3b、3cが設けられ、それぞれ参照孔10の内壁方向に空気を噴射する。参照孔10が真円の場合、ノズル部3a、3b、3cから空気が噴射されると、3方向の空気圧が釣り合う位置にエアプローブ3の中心軸線が参照孔10の中心Oに自動的に位置決めされる。そして、基準となるノズル部3aの位置からその対角方向の直径値を直径D1の直径値として採用する(図4(b)参照)。3点式エアマイクロメータではこのような自動求心作用が働くため測定技量がない測定者でも誤差が少ない。したがって、孔径の測定には一般的に3点式エアマイクロメータが採用されることが多く、MIRS法等においても同様であった。
【0022】
一方、MIRS法等での参照孔10の孔径測定では図3に示すように各位相の直径値D1~D4をそれぞれ測定する必要がある。図3(b)で上述したようにトレパニング加工後の参照孔10’は略楕円であり、それぞれの位相の直径値D1~D4が異なるからである。したがって、3点式エアマイクロメータの場合、エアプローブ3が自動求心しても偏心している楕円の場合、適正な直径値D1~D4を把握することができないということがわかった(図4(c)参照)。
【0023】
図5は2点式エアマイクロメータによる参照孔10の直径測定(孔径測定)を示している。2点式エアマイクロメータによる測定の場合、図5(a)に示すようにエアプローブ3の中心軸周りに対角方向(孔径方向90°間隔)でノズル部3d、3eが設けられ、それぞれ参照孔10の内壁方向(対角方向)に空気を噴射し、2方向の空気圧が釣り合う位置にエアプローブ3の中心軸線が位置決めされる。そして、基準となるノズル部3dの位置からその対角方向の直径値を直径D1の直径値として採用する(図5(b)参照)。2点式エアマイクロメータの場合、3点式エアマイクロメータと異なり、自動求心作用がなくトレパニング加工後に略楕円形状の参照孔10’に変形していても参照孔10’の内壁までの距離が釣り合うため、その意味では適正な直径値D1~D4を測定することができる。
【0024】
その反面、2点式エアマイクロメータによる測定の場合、図5(d)に示すように測定者の測定技量が低いとエアプローブ3の軸線が参照孔10の中心Oからズレれた状態で挿入される可能性があり、ズレた位置におけるノズル部3d、3eから内壁までの距離を直径値D1として測定してしまってトレパニング加工前の直径値の測定でさえ誤差を含んでしまうという問題があった。
【0025】
これに対して本発明の最適孔径測定方法では、MIRS法等においてトレパニング加工後に変形し略楕円形状になった参照孔10を適正に測定し得るために2点式エアマイクロメータによる測定を推奨し、参照孔10へエアプローブ3をズレて挿入してしまうという問題を加工装置の主軸のツールホルダにエアプローブ3を装着することで解決している。まず参照孔10の穿孔は加工装置のツールホルダに装着された切削工具で行う。加工装置は、切削工具の移動を予め設定した位置座標から算出して自動制御するものである。したがって、ツールホルダが把持する工具等の中心位置の座標が記憶されている。したがって、図6(a)に示すように参照孔10を中心位置Oはドリルで穿孔するときにそのXY座標位置(x1、y1)が記憶されており、ツールホルダからドリルが外されてエアプローブ3が取り付けられるとその中心軸線のXY座標位置を(x1、y1)に維持した状態で参照孔10に挿入されると図6(d)のようにズレた位置で孔径を測定することがない。また、トレパニング加工後に再び参照孔10’の孔径を測定する際にもエアプローブ3の中心軸線のXY座標位置も(x1、y1)の状態で孔径測定することができる。
【0026】
《2点式エアマイクロメータを取り付ける切削装置による穴あけ・孔径測定例の概説》
図2には、本発明で使用されるエアマイクロメータがそのツールホルダに取り付けられる加工装置の一例としての切削装置100の斜視図を示している。切削装置100は、概ねツールホルダ把持部105と、測定対象部材1を載置する被加工部材設置面102a(当金は不図示)と、ワークステージ102と、ヘッド支台108と、ヘッド107と、操作盤106と、を備えて構成される。
【0027】
まず、ツールホルダ把持部105に加工対象となる測定対象部材1(図1参照)の残留応力の測定位置(参照孔10の中心位置)に回転当接(当接方向=矢印Z方向、回転方向=矢印Zの軸周り方向)させるドリル2(図1参照)を把持させたツールホルダ104を装着する。これにより主軸101下端のツールホルダ把持部105とツールホルダ104及びドリル2は一体に回転する。また、測定対象部材(被加工部材)2は、基台103上をX方向に移動するワークステージ102の上面の被加工部材設置面102aに載置され、固定用クランプ(図示せず)や固定用ポルト(図示せず〉等を用いて固定される。
【0028】
オペレータは、操作盤106を操作し、ワークステージ102をX方向へ移動させ、測定対象部材2が所望の参照孔10の中心位置の直上にドリル2が位置するところで停止・位置決めする。次に、被加工部材上に停止・位置決めされた状態で操作盤106を操作して、加えてドリル2を下降させ測定対象部材1の参照孔10の位置に当接させながら回転させ、参照孔10が穿孔されるとドリル2が上昇し一旦停止する。なお、連続して複数の参照孔10を穿孔する場合には、停止せずワークステージ102を移動させて次の参照孔の中心位置の真上にドリル2が位置するところで停止・位置決めし、再びドリル2の下降・当接させながらの回転、上昇させ穿孔する参照孔がなくなったところで停止する。
【0029】
参照孔10が形成されると、停止した加工装置のツールホルダ104からドリル2を取り外し、エアマイクロメータのエアプローブ3に付け替えて図1(b)に示すようにエアプローブ3を下降させて参照孔10内に挿入し、孔径の測定を所望する深さ位置にエアプローブ3の空気噴出ノズルを位置決めする。そして、コンプレッサ(不図示)からのエアを内壁方向両側に噴出させて孔径を測定する。なお、複数の参照孔を連続穿孔した場合には、動作条件として予め記憶された参照孔10の中心位置座標に移動してエアプローブ3を挿入する。また、エアプローブ3の挿入後、ノズルから空気流を噴出させて孔径を測定し、エアプローブ3を上昇させて参照孔10から抜去する。
【0030】
次に、エアプローブ3をツールホルダ104から取り外し、放電加工機4に付け替えて図1(c)に示すように放電加工機4を下降させて放電することでトレパニング加工して参照孔10と同心状の環状円を形成する。トレパニング加工は深さ方向に予め設定した距離行う。トレパニング加工が終了すると放電加工機4を上昇させる。そして、再度、ツールホルダ104から放電加工機4を取り外し、エアプローブ3に付け替えて図1(d)に示すようにエアプローブ3を下降させて参照孔10内に挿入し、トレパニング加工前に孔径測定した深さ位置にエアプローブ3の空気噴出ノズルを位置決めし、再度、上述したようにエアプローブ3から空気を噴出させて孔径を測定する。
【0031】
以上のようにトレパニング加工前後の参照孔10の孔径を測定する。なお、ここではその後の図1(e)についての説明は省略する。また、この金属加工装置の一連動作は、オペレータが操作盤106で予め、ドリル2、エアプローブ3、放電加工機4の移動座標や移動速度(又は回転速度)や、これらに付与する荷重や空気量、電力、等の各パラメータを入力・設定しておき、設定したパラメータに基づいて加工装置を制御する。
【0032】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものではないことは言うまでもない。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0033】
1 測定対象部材
2 ドリル
3 エアプローブ
3a,3B,3C,3D,3E ノズル部
4 放電加工機
5 タッチプローブ
10,10’ 参照孔
11 くり抜き孔(トレパニング孔)
12 円筒部分
100 加工装置(切削加工装置)
101 主軸
102 ワークステージ
102a 被加工部材設置面
103 基台
104 ツールホルダ
105 ツールホルダ把持部
106 操作盤
107 ヘッド
108 ヘッド支台O 中心
D1,D2,D3,D4 直径
D1’,D2’,D3’,D4’ 直径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7