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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】射出成形用金型およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/26 20060101AFI20220510BHJP
   B29C 33/38 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
B29C45/26
B29C33/38
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018022293
(22)【出願日】2018-02-09
(65)【公開番号】P2019136941
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116034
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 啓輔
(74)【代理人】
【識別番号】100144624
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 達也
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 大致
(72)【発明者】
【氏名】關根 勇人
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-031018(JP,A)
【文献】国際公開第2012/124828(WO,A1)
【文献】特開2008-173887(JP,A)
【文献】特開平08-118407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 33/00-33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティを形成するための成形面のうち第1部分を有する第1金属層と、前記成形面のうち第2部分を有する第2金属層と、を備えた射出成形用金型であって、
前記第2金属層は、前記第1金属層よりも通気性が高く、
前記第1金属層は、前記第2金属層の前記キャビティ側の面に設けられ
前記第2金属層よりも通気性が高い第3金属層をさらに備え、
前記第3金属層は、前記第2金属層を挟んで前記第1金属層の反対側に配置され、
前記成形面は、底面と、前記底面から前記底面と交差する方向に向けて延びる側面とを有し、
前記第2金属層は、前記底面を有し、
前記第3金属層は、前記第2金属層とは反対側に開口し、前記第2金属層に向けて延びる底付きの穴を有し、
前記穴の底は、前記底面に対応した位置に配置されていることを特徴とする射出成形用金型。
【請求項2】
記第2金属層は、前記側面における前記底面側の一部を有し、
前記第1金属層は、前記側面の他部を有することを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項3】
前記第2金属層と前記第3金属層との両方に焼結され、前記第2金属層よりも通気性が低い第4金属層をさらに備えることを特徴とする請求項または請求項に記載の射出成形用金型。
【請求項4】
前記第4金属層は、成形品の板状のリブを形成するためのリブ成形面を有することを特徴とする請求項に記載の射出成形用金型。
【請求項5】
前記第4金属層は、前記第2金属層および前記第3金属層の外周を囲っていることを特徴とする請求項または請求項に記載の射出成形用金型。
【請求項6】
前記第1金属層は、前記第2金属層から突出する複数の突起として形成されていることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の射出成形用金型。
【請求項7】
前記第2金属層の最大厚さは、前記第1金属層の最大厚さよりも小さいことを特徴とする請求項から請求項のいずれか1項に記載の射出成形用金型。
【請求項8】
前記第3金属層の最大厚さは、前記第1金属層の最大厚さよりも大きいことを特徴とする請求項から請求項のいずれか1項に記載の射出成形用金型。
【請求項9】
キャビティを形成するための成形面のうち第1部分を有する第1金属層と、前記成形面のうち第2部分を有し、前記第1金属層よりも通気性が高い第2金属層と、前記第2金属層を挟んで前記第1金属層の反対側に配置され、前記第2金属層よりも通気性が高い第3金属層と、を備え、前記成形面が、底面と、前記底面から前記底面と交差する方向に向けて延びる側面とを有し、前記第2金属層が、前記底面を有し、前記第3金属層が、前記第2金属層とは反対側に開口し、前記第2金属層に向けて延びる底付きの穴を有し、前記穴の底が、前記底面に対応した位置に配置されている射出成形用金型の製造方法であって、
粉末層に対して、前記穴以外の部分に光ビームを照射することで、前記穴を有する前記第3金属層を形成する工程と、
前記第3金属層の前記キャビティ側の面に粉末層を積層する工程と、
前記第3金属層の前記キャビティ側の面に積層されている粉末層に光ビームを照射することで、前記第3金属層の前記キャビティ側の面に前記第2金属層を形成する工程と、
前記第2金属層の前記キャビティ側の面に粉末層を積層する工程と、
前記第2金属層の前記キャビティ側の面に積層されている粉末層に光ビームを照射することで、前記第2金属層の前記キャビティ側の面に前記第1金属層を形成する工程と、を備えたことを特徴とする射出成形用金型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用金型およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、射出成型用金型として、無機質あるいは有機質の粉末に光ビームを照射することで形成される焼結部を備えたものが知られている(特許文献1参照)。具体的に、この技術に係る射出成形用金型は、焼結部と、焼結部よりも密度の低い低密度焼結部とを備えている。
【0003】
焼結部および低密度焼結部は、例えば金属からなる層であり、低密度焼結部は、焼結部よりも低密度で形成されることで、焼結部よりも通気性が高くなっている。そして、焼結部と低密度焼結部は、同一の層内に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-1715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術では、焼結部と低密度焼結部が同一の層内に配置されているので、例えば光ビームの走査速度を焼結部と低密度焼結部とで変更しなければならなくなるなど、製造が煩雑になるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、通気性の異なる金属層を有する射出成形用金型の製造を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するため、本発明に係る射出成形用金型は、キャビティを形成するための成形面のうち第1部分を有する第1金属層と、前記成形面のうち第2部分を有する第2金属層と、を備える。
前記第2金属層は、前記第1金属層よりも通気性が高く、前記第1金属層は、前記第2金属層の前記キャビティ側の面に設けられている。
【0008】
この構成によれば、第1金属層よりも通気性が高い第2金属層で成形面の第2部分を構成するので、樹脂成形時におけるガス抜きを行うことができる。第2金属層よりも通気性が低い第1金属層で成形面の第1部分を構成するので、例えば成形面のすべてを通気性が高い金属層で構成する場合と比べ、成形品が成形面に貼り付くのを抑えることができ、成型品の離型性を高めることができる。第1金属層が第2金属層のキャビティ側の面に設けられているので、例えば第1金属層と第2金属層が同一の層内に設けられる場合と比べ、射出成形用金型の製造を容易に行うことができる。
【0009】
また、前記成形面は、底面と、前記底面から前記底面と交差する方向に向けて延びる側面とを有し、前記第2金属層は、前記底面と、前記側面における前記底面側の一部とを有し、前記第1金属層は、前記側面の他部を有していてもよい。
【0010】
三次元造形にて射出成形用金型を製造する際において、例えば底面の全体を第2金属層で構成し、側面の全体を第1金属層で構成する場合には、第1金属層の焼結時に第2金属層の底面の部分も加熱されてしまい、底面が通気性のない密度になってしまうおそれがある。これに対し、本実施形態では、底面に加え、側面における底面側の一部まで第2金属層で構成するので、第1金属層の焼結時において第2金属層の底面の部分が加熱されにくくなり、底面を第2金属層の密度で形成することができる。
【0011】
また、前記射出成形用金型は、前記第2金属層よりも通気性が高い第3金属層をさらに備え、前記第3金属層は、前記第2金属層を挟んで前記第1金属層の反対側に配置されていてもよい。
【0012】
これによれば、樹脂成形時に発生するガスが、第2金属層を通った後、第2金属層よりも通気性が高い第3金属層を通るので、例えば第2金属層を厚く形成する構造に比べ、ガス抜きをより良好に行うことができる。また、第3金属層よりも通気性の低い第2金属層で成形面の一部を構成するので、例えば成形面の一部を第3金属層で構成する構造に比べ、成形品が成形面に貼り付くのを抑えることができ、成型品の離型性を高めることができる。
【0013】
また、前記第3金属層は、前記第2金属層とは反対側に開口し、前記第2金属層に向けて延びる底付きの穴を有し、前記穴の底は、前記底面に対応した位置に配置されていてもよい。
【0014】
これによれば、樹脂成形時に発生するガスが、第2金属層を通った後、第3金属層の薄い部分、詳しくは穴の底から第2金属層までの部分を通って、穴内に排出されるため、ガス抜きをより良好に行うことができる。
【0015】
また、前記射出成形用金型は、前記第2金属層と前記第3金属層との両方に焼結され、前記第2金属層よりも通気性が低い第4金属層をさらに備えていてもよい。
【0016】
これによれば、第2金属層と第3金属層を、通気性が低い第4金属層で補強することができる。
【0017】
また、前記第4金属層は、成形品の板状のリブを形成するためのリブ成形面を有していてもよい。
【0018】
これによれば、リブ成形面を第4金属層で構成するので、板状のリブがリブ成形面に貼り付くのを抑えることができる。
【0019】
また、前記第4金属層は、前記第2金属層および前記第3金属層の外周を囲っていてもよい。
【0020】
これによれば、第2金属層と第3金属層を、通気性が低い第4金属層でより強固に補強することができる。
【0021】
また、前記第1金属層は、前記第2金属層から突出する複数の突起として形成されていてもよい。
【0022】
これによれば、例えば多孔状のスピーカーグリルを製造することができる。
【0023】
また、前記第2金属層の最大厚さは、前記第1金属層の最大厚さよりも小さくてもよい。
【0024】
これによれば、樹脂成形時に発生するガスを、第2金属層の厚さ方向に容易に抜くことができる。
【0025】
また、前記第3金属層の最大厚さは、前記第1金属層の最大厚さよりも大きくてもよい。
【0026】
これによれば、最も通気性の高い第3金属層の剛性を高めることができる。
【0027】
また、本発明に係る射出成形用金型の製造方法は、キャビティを形成するための成形面のうち第1部分を有する第1金属層と、前記成形面のうち第2部分を有し、前記第1金属層よりも通気性が高い第2金属層と、を備えた射出成形用金型の製造方法であって、粉末層に光ビームを照射することで、前記第2金属層を形成する工程と、前記第2金属層の前記キャビティ側の面に粉末層を積層する工程と、前記第2金属層の前記キャビティ側の面に積層されている粉末層に光ビームを照射することで、前記第1金属層を形成する工程と、を備える。
【0028】
これによれば、第1金属層を第2金属層のキャビティ側の面に形成すればよいので、例えば第1金属層と第2金属層が同一の層内に形成する場合と比べ、射出成形用金型の製造を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、通気性の異なる金属層を有する射出成形用金型の製造を容易にすることができる。
【0030】
また、成形面のうち、底面と、側面における底面側の一部と、を第2金属層で構成することで、第1金属層で底面が塞がれてしまうのを抑えることができる。
【0031】
また、第2金属層よりも通気性が高い第3金属層を、第2金属層を挟んで第1金属層の反対側に配置することで、ガス抜きをより良好に行うことができる。
【0032】
また、第3金属層に、第2金属層とは反対側に開口し、第2金属層に向けて延びる底付きの穴を形成し、穴の底を、底面に対応した位置に配置することで、ガス抜きをより良好に行うことができる。
【0033】
また、第2金属層よりも通気性が低い第4金属層を、第2金属層と第3金属層との両方に焼結することで、第2金属層と第3金属層を、通気性が低い第4金属層で補強することができる。
【0034】
また、成形品の板状のリブを形成するためのリブ成形面を第4金属層で構成することで、板状のリブがリブ成形面に貼り付くのを抑えることができる。
【0035】
また、第4金属層で第2金属層および第3金属層の外周を囲うことで、第2金属層と第3金属層を、通気性が低い第4金属層でより強固に補強することができる。
【0036】
また、第1金属層を第2金属層から突出する複数の突起として形成することで、例えば多孔状のスピーカーグリルを製造することができる。
【0037】
また、第2金属層の最大厚さを、第1金属層の最大厚さよりも小さくすることで、樹脂成形時に発生するガスを、第2金属層の厚さ方向に容易に抜くことができる。
【0038】
また、第3金属層の最大厚さを第1金属層の最大厚さよりも大きくすることで、最も通気性の高い第3金属層の剛性を高めることができる。
【0039】
また、第2金属層に、底面から突出する突出部を設け、突出部の底面からの突出量を、0.6mm以下、0.3mm以下、または、0.1mm以下と極力小さくすることで、側面を構成する第1金属層の割合を増やすことができるので、成形品が側面に貼り付くのを良好に抑えることができる。
【0040】
また、第2金属層のうち、底面を有する基部の厚さを、3mm以下、または、2mm以下とすることで、樹脂成形時に発生するガスを、第2金属層の厚さ方向に容易に抜くことができる。
【0041】
また、第2金属層から穴の底までの距離を1~3mmとすることで、第3金属層の薄い部分、詳しくは穴の底から第2金属層までの部分を、適度な厚さにすることができるので、第2金属層を第3金属層の薄い部分で良好に補強することができるとともに、樹脂成形時に発生するガスを穴内に良好に排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明の一実施形態に係る射出成形用金型を示す断面図である。
図2】第1金属層および第2金属層周りの構造を拡大して示す断面図である。
図3】射出成形用金型の製造方法を示すための図(a)~(c)である。
図4】第2金属層の基部上に突出部を形成する工程を示す図(a)と、突出部上に第1金属層を形成する工程を示す図(b)と、複数の突起状の第1金属層がすべて形成された状態を示す図(c)である。
図5】変形例に係る射出成形用金型を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
図1に示すように、射出成形用金型Mは、複数の孔を有するスピーカ部分を有する多孔状のスピーカーグリルを成形するための金型であり、第1金型1と、第2金型2と、入れ子3とを備えている。
【0044】
第1金型1は、通気性のない金属からなり、樹脂成形品であるスピーカーグリルの一部を形成するための第1成形面F1を有している。また、第1金型1は、スピーカ部分の複数の孔の一部を形成するための複数の突起11を有している。なお、複数の突起11の外周面は、第1成形面F1の一部を構成している。
【0045】
第2金型2は、通気性のない金属からなり、入れ子3が嵌め込まれる嵌合穴21と、嵌合穴21の底面から外部に抜ける通気孔22とを有している。第2金型2および入れ子3は、スピーカーグリルの他部を形成するための第2成形面F2を有している。そして、入れ子3が嵌め込まれた第2金型2に第1金型1を合わせたときに、各成形面F1,F2によって、スピーカーグリルを成形するための空間であるキャビティCが形成される。
【0046】
第2成形面F2は、底面F21と、底面F21から底面F21と交差する方向に向けて延びる側面F22とを有している。底面F21は、スピーカ部分の表面を形成するための面であり、第1金型1と対面するように配置されている。側面F22は、スピーカ部分の複数の孔を形成するための面であり、後述する複数の突起状の第1金属層31のそれぞれに形成されている。側面F22は、底面F21から第1金型1に向けて延び、底面F21に対して傾斜している。
【0047】
入れ子3は、第1金属層31と、第1金属層31よりも通気性が高い第2金属層32と、第2金属層32よりも通気性が高い第3金属層33と、第2金属層32よりも通気性が低い第4金属層34と、土台35とを備えている。詳しくは、第2金属層32は、第1金属層31および第4金属層34よりも低密度に形成されることで、第1金属層31および第4金属層34よりも通気性が高くなっている。また、第3金属層33は、第2金属層32よりも低密度に形成されることで、第2金属層32よりも通気性が高くなっている。第1金属層31、第4金属層34および土台35は、第2金属層32よりも高密度に形成されることで、第2金属層32よりも通気性が低くなっている。
【0048】
なお、本実施形態では、第1金属層31、第4金属層34および土台35を、通気性のない金属で形成することとする。ただし、本発明はこれに限定されず、第1金属層31、第4金属層34および土台35の通気性は、第2金属層32よりも低ければよく、第1金属層31、第4金属層34および土台35のそれぞれの通気性は、それぞれ異なっていてもよい。
【0049】
土台35は、第2金型2の嵌合穴21の底面に接触するように配置されている。土台35には、嵌合穴21の底面側から第3金属層33側に貫通する貫通孔35Aが形成されている。貫通孔35Aは、第2金型2の通気孔22に連通している。
【0050】
第3金属層33は、土台35の上に積層されている。また、第2金属層32は、第3金属層33の上に積層され、第1金属層31は、第2金属層32の上に積層されている。つまり、第3金属層33は、第2金属層32を挟んで第1金属層31の反対側に配置されている。
【0051】
第3金属層33は、複数の底付きの穴33Aと、複数の穴33Aに連結される通路33Bとを有している。穴33Aは、第2金属層32とは反対側に開口し、開口部から第2金属層32に向けて延びている。そして、複数の穴33Aの底は、底面F21に対応した位置に配置されている。詳しくは、複数の穴33Aの底は、各層31~33の積層方向において底面F21と対面する位置(真裏の位置)に配置されている。通路33Bは、複数の穴33Aの開口部と土台35の貫通孔35Aとを繋ぐように形成されている。
【0052】
第4金属層34は、第2金属層32および第3金属層33の外周の一部に配置され、第2金属層32と第3金属層33との両方に焼結されている。第4金属層34は、スピーカーグリルの板状のリブを形成するためのリブ成形面34Aを有している。詳しくは、第4金属層34は、L形状に形成されており、断面視L形状のリブ成形面34Aが第2金型2の嵌合穴21の側面に合わさることで、板状のリブを形成するための凹面が形成されている。
【0053】
第1金属層31は、第2金属層32のキャビティC側の面に設けられており、第2金属層32から突出する複数の突起として形成されている。複数の突起状の第1金属層31は、第1金型1の複数の突起11に対応して設けられ、複数の突起11に突き当たるように形成されている。そして、複数の突起状の第1金属層31と複数の突起11とによって、スピーカ部分の複数の孔を形成することが可能となっている。
【0054】
そして、第2金属層32の最大厚さT2は、第1金属層31の最大厚さT1よりも小さくなっている。ここで、厚さとは、各層31~33の積層方向における大きさをいう。また、第3金属層33の最大厚さT3は、第1金属層31の最大厚さT1よりも大きくなっている。
【0055】
図2に示すように、第2金属層32は、第2成形面F2の底面F21を有する基部32Aと、底面F21から突出する突出部32Bとを有している。基部32Aは、一定の厚さで形成されている。ここで、厚さとは、各層31~33の積層方向における大きさをいう。基部32Aの厚さL1は、基部32Aの剛性を確保しつつ、十分な通気性を確保できる値であればよく、例えば、下限値は、0.5mm以上、1mm以上、または、2mm以上とすることができ、上限値は、3mm以下、または、2mm以下とすることができる。
【0056】
突出部32Bは、円錐台状に形成され、その外周面が、第2成形面F2の側面F22の一部を形成している。つまり、第2金属層32は、底面F21と、側面F22の底面F21側の一部とを有している。ここで、底面F21と、側面F22の一部は、第2成形面F2のうちの第2部分に相当する。突出部32Bの底面F21からの突出量L2は、三次元造形における粉末層の一層分の厚さ以上、望ましくは複数層分の厚さ以上であれば十分であり、例えば、下限値は、0.01mm以上、0.02mm以上、または、0.04mm以上とすることができ、上限値は、0.6mm以下、0.3mm以下、または、0.1mm以下とすることができる。なお、前述した第2金属層32の最大厚さT2は、基部32Aの厚さL1と突出部32Bの突出量L2とを足した値をいう。
【0057】
第1金属層31は、第2金属層32の突出部32Bの上に設けられており、第2成形面F2の側面F22の他部を有している。ここで、側面F22の他部は、第2成形面F2のうちの第1部分に相当する。
【0058】
また、第3金属層33のうち、穴33Aの底から第2金属層32までの部分は、他の部分よりも厚さが小さい薄層部33Cとなっている。薄層部33Cの厚さL3、つまり、第2金属層32から穴33Aの底までの距離は、例えば、1~3mmとすることができる。
【0059】
次に、本実施形態に係る射出成形用金型Mの製造方法について説明する。
図3(a)に示すように、まず、三次元造形装置4に土台35をセットする。ここで、三次元造形装置4は、基準面41に対して土台35を昇降させる図示せぬ昇降装置を備えている。また、土台35の貫通孔35Aには、貫通孔35Aを埋めるための冶具42を入れておく。
【0060】
基準面41に対して土台35の上面を所定量低い位置に配置した状態にして、土台35の上面に、無機質あるいは有機質の金属を含む粉末を投入し、図示せぬブレードを基準面41に沿って移動させることで、粉末の上面を均して、粉末層5を形成する。なお、粉末層5の厚さは、例えば前述した突出部32Bの突出量L2以下の大きさとすることができる。その後、粉末層5の適所、詳しくは第3金属層33の穴33Aおよび通路33B以外の部分にレーザ光を照射することで、照射した箇所を焼結させて、第3金属層33を土台35上に積層させる。
【0061】
このような粉末層5の形成とレーザ光の照射を繰り返し行うことで、図3(b)に示すように、複数の穴33Aおよび通路33Bを有する第3金属層33が形成される。また、図3(b)に示すように、同一の層内、つまり土台35からの高さの範囲が同じ範囲内において、密度の異なる層、詳しくは第3金属層33および第4金属層34が存在する場合には、レーザ光を照射する工程において、レーザ光の出力やレーザ光の走査速度などを、第3金属層33と第4金属層34とで異なる値にすることで、密度の異なる層を同一の層内に形成する。
【0062】
具体的には、レーザ光の出力を大きくすると高密度の層が形成され、レーザ光の出力を小さくすると低密度の層が形成される。また、レーザ光の走査速度を遅くすると高密度の層が形成され、レーザ光の走査速度を速くすると低密度の層が形成される。
【0063】
その後は、このような動作を繰り返すことで、図3(c)に示すように、第3金属層33の上に第2金属層32の基部32Aを形成する。その後、図4(a)に拡大して示すように、第2金属層32の基部32Aに粉末層5を積層した後、粉末層5のうち突出部32Bに対応した部分に、レーザ装置LMからレーザ光を照射することで、複数の突出部32Bを順次形成する。
【0064】
その後、図4(b)に示すように、複数の突出部32Bと、これらの間を埋めている粉末層5との上に、新たな粉末層5を積層する。つまり、複数の突出部32BのキャビティC側の面に、粉末層5を積層する。そして、複数の突出部32BのキャビティC側の面に積層されている粉末層5に光ビームを照射することで、第1金属層31の一部を形成する。
【0065】
その後は、同様にして、第1金属層31の一部を順次積み重ねるように形成することで、図4(c)に示すように、複数の突起状の第1金属層31が形成されて、内部の空間に粉末層5が詰まった状態の入れ子3が製造される。その後は、入れ子3から冶具42を外すとともに、入れ子3の内部の粉末層5を崩して入れ子3の外部へ取り除くことで、入れ子3の製造が完了する。
【0066】
以上によれば、本実施形態の射出成形用金型Mにおいて、次の各効果を奏することができる。
第1金属層31よりも通気性が高い第2金属層32で第2成形面F2の第2部分(底面F21および側面F22の一部)を構成するので、樹脂成形時におけるガス抜きを行うことができる。第2金属層32よりも通気性が低い第1金属層31で第2成形面F2の第1部分(側面F22の他部)を構成するので、例えば第2成形面のすべてを通気性が高い金属層で構成する場合と比べ、成形品が第2成形面F2に貼り付くのを抑えることができ、成型品の離型性を高めることができる。
【0067】
第1金属層31が第2金属層32のキャビティC側の面に設けられているので、例えば第1金属層と第2金属層が同一の層内に設けられる場合と比べ、射出成形用金型Mの製造を容易に行うことができる。特に、本実施形態のように、突起状の第1金属層31を、スピーカ部分の多数の孔に対応した数だけ形成する必要がある状況において、例えば第1金属層と第2金属層を同一の層内に配置した場合には、1層の粉末層をレーザ光で照射する工程において、レーザ光の走査速度などの照射条件を何回も変更しなければならず、製造が煩雑になる。これに対し、本実施形態では、突起状の第1金属層31を形成する場合には、レーザ光の照射条件を変更する必要がないので、製造を容易にすることができる。
【0068】
三次元造形にて射出成形用金型Mを製造する際において、例えば底面F21の全体を第2金属層32で構成し、側面F22の全体を第1金属層31で構成する場合には、第1金属層31の焼結時に第2金属層32の底面F21の部分も加熱されてしまい、底面F21が通気性のない密度になってしまうおそれがある。これに対し、本実施形態では、底面F21に加え、側面F22における底面F21側の一部まで第2金属層32で構成するので、第1金属層31の焼結時において第2金属層32の底面F21の部分が加熱されにくくなり、底面F21を第2金属層32の密度で形成することができる。
【0069】
また、例えば底面F21の全体を第2金属層32で構成し、側面F22の全体を第1金属層31で構成する場合には、底面F21と側面F22とで形成される隅が異なる密度の金属層31,32で形成されるため、隅の部分にクラックが発生しやすい。これに対し、本実施形態では、底面F21に加え、側面F22における底面F21側の一部まで第2金属層32で構成するので、底面F21と側面F22とで形成される隅が同一の密度の金属層(第2金属層32)で形成されるため、クラックの発生を抑えることができ、耐久性を向上させることができる。
【0070】
第2金属層32よりも通気性が高い第3金属層33を、第2金属層32を挟んで第1金属層31の反対側に配置することで、樹脂成形時に発生するガスが、第2金属層32を通った後、第2金属層32よりも通気性が高い第3金属層33を通るので、例えば第2金属層32を厚く形成する構造に比べ、ガス抜きをより良好に行うことができる。また、第3金属層33よりも通気性の低い第2金属層32で第2成形面F2の一部を構成するので、例えば第2成形面の一部を第3金属層で構成する構造に比べ、成形品が第2成形面F2に貼り付くのを抑えることができ、成型品の離型性を高めることができる。
【0071】
第2金属層32とは反対側に開口し、第2金属層32に向けて延びる底付きの穴33Aを第3金属層33に形成し、穴33Aの底を底面F21に対応した位置に配置することで、樹脂成形時に発生するガスが、第2金属層32を通った後、第3金属層33の薄層部33Cを通って、穴33A内に排出されるため、ガス抜きをより良好に行うことができる。
【0072】
第2金属層32よりも通気性が低い第4金属層34を、第2金属層32と第3金属層33との両方に焼結させたので、第2金属層32と第3金属層33を、通気性が低い第4金属層34で補強することができる。
【0073】
リブ成形面34Aを第4金属層34で形成したので、板状のリブがリブ成形面34Aに貼り付くのを抑えることができる。
【0074】
第2金属層32の最大厚さT2を第1金属層31の最大厚さT1よりも小さくしたので、樹脂成形時に発生するガスを、第2金属層32の厚さ方向に容易に抜くことができる。
【0075】
第3金属層33の最大厚さT3を第1金属層31の最大厚さT1よりも大きくしたので、最も通気性の高い第3金属層33の剛性を高めることができる。
【0076】
突出部32Bの底面F21からの突出量L2を、0.6mm以下、0.3mm以下、または、0.1mm以下と極力小さくすることで、側面F22を構成する第1金属層31の割合を増やすことができるので、成形品が側面F22に貼り付くのを良好に抑えることができる。
【0077】
基部32Aの厚さL1を、3mm以下、または、2mm以下とすることで、樹脂成形時に発生するガスを、第2金属層32の厚さ方向に容易に抜くことができる。
【0078】
第3金属層33の薄層部33Cの厚さL3を1~3mmとすることで、第2金属層32を第3金属層33の薄層部33Cで良好に補強することができるとともに、樹脂成形時に発生するガスを穴33A内に良好に排出することができる。
【0079】
以上に本発明の実施形態について説明したが、本発明は、以下の他の形態に示すように、適宜変形して実施することが可能である。
【0080】
前記実施形態では、第4金属層34を、第2金属層32および第3金属層33の外周の一部に配置したが、本発明はこれに限定されず、図5に示すように、第4金属層34は、第2金属層32および第3金属層33の外周を囲っていてもよい。これによれば、第2金属層32と第3金属層33を、通気性が低い第4金属層34でより強固に補強することができる。
【0081】
また、図5に示すように、第4金属層34は、第2金属層32の基部32AのキャビティC側の面から土台35まで延びる補強部34Cを有していてもよい。このような肉厚の補強部34Cには、例えば、リブ成形面34Aで形成されるリブよりも薄く、かつ、高いリブを形成するための凹面状のリブ成形面34Bを形成してもよい。ここで、例えばリブ成形面34Bの底面から土台35の間の部分を第3金属層33で形成した場合には、その部分にクラックが入るおそれがあるが、この部分を第4金属層34で形成することで、クラックの発生を抑えることができる。
【0082】
なお、第4金属層は、第2金属層および第3金属層の外周に限らず、第2金属層および第3金属層の内部に設けてもよい。
【0083】
前記実施形態では、穴33Aを積層方向に沿って形成したが、本発明はこれに限定されず、例えば、積層方向に対して傾斜するように穴を形成してもよい。
【0084】
前記実施形態では、スピーカーグリルを成形するための射出成形用金型Mを例示したが、本発明はこれに限定されず、どのような射出成形用金型で成形する成形品はどのようなものであってもよい。
【0085】
前記実施形態では、第2金属層32を基部32Aと複数の突出部32Bとで構成したが、本発明はこれに限定されず、例えば、第2金属層は、基部のみで構成されていてもよい。
【0086】
前記実施形態では、第3金属層33に底付きの穴33Aを形成したが、本発明はこれに限定されず、第3金属層33を積層方向に貫通する穴を形成し、この穴の第2金属層側の開口を底面に対応した位置に配置してもよい。
【0087】
前記実施形態では、土台35の貫通孔35Aに冶具42を入れたが、本発明はこれに限定されず、例えば冶具42の代わりに、無機質あるいは有機質の金属を含む粉末を入れてもよい。
【0088】
前記した実施形態および変形例で説明した各要素を、任意に組み合わせて実施してもよい。
【符号の説明】
【0089】
31 第1金属層
32 第2金属層
33 第3金属層
34 第4金属層
C キャビティ
F2 第2成形面
F21 底面
F22 側面
M 射出成形用金型
図1
図2
図3
図4
図5