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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】運転支援装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20220510BHJP
   G08B 21/24 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
G08G1/16 F
G08B21/24
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018032977
(22)【出願日】2018-02-27
(65)【公開番号】P2018147479
(43)【公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2017042597
(32)【優先日】2017-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017042598
(32)【優先日】2017-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017042599
(32)【優先日】2017-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080768
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100106644
【弁理士】
【氏名又は名称】戸塚 清貴
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 耕二
(72)【発明者】
【氏名】武田 雄策
(72)【発明者】
【氏名】原 利宏
【審査官】田中 将一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-204054(JP,A)
【文献】特開2007-094716(JP,A)
【文献】特開2005-284975(JP,A)
【文献】特開2012-113450(JP,A)
【文献】特開2007-280061(JP,A)
【文献】特開2013-254409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
G08B 19/00 - 21/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の眼球状態を検出して、運転者が視認対象物を目視しているときの視距離を推定する視距離推定手段と、
運転者から前記視認対象物までの実際の距離を検出する実距離検出手段と、
前記視距離推定手段で推定された視距離と前記実距離検出手段で検出された実際の距離との差分に対応した焦点評価指標に基づいて運転支援を行う支援手段と、
を備え、
運転者が着座している運転席の位置を検出する運転席位置検出手段をさらに備え、
前記実距離検出手段で検出される実距離が、前記運転席位置検出手段で検出された運転席の位置に応じて補正され、
前記支援手段は、前記焦点評価指標に基づいて運転者状態を判定して、判定された運転者状態に応じた運転支援を行うようにされ、
前記支援手段は、前記焦点評価指標の統計値に基づいて運転者状態を判定する、
ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記支援手段は、所定時間について前記焦点評価指標を複数求めて、該複数の焦点評価指標の平均値と標準偏差値との少なくとも一方に基づいて運転者状態を判定する、ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記支援手段は、前記標準偏差が第1所定値以上の場合に運転者状態として注意散漫であると判定して、注意散漫である旨の報知を行う、ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3において、
前記支援手段は、前記標準偏差が第1所定値よりも小さい値に設定された第2所定値未満の場合に、運転者状態として注意過大であると判定して、休憩を促す旨の報知を行う、ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項5】
運転者の眼球状態を検出して、運転者が視認対象物を目視しているときの視距離を推定する視距離推定手段と、
運転者から前記視認対象物までの実際の距離を検出する実距離検出手段と、
前記視距離推定手段で推定された視距離と前記実距離検出手段で検出された実際の距離との差分に対応した焦点評価指標に基づいて運転支援を行う支援手段と、
を備え、
運転者が着座している運転席の位置を検出する運転席位置検出手段をさらに備え、
前記実距離検出手段で検出される実距離が、前記運転席位置検出手段で検出された運転席の位置に応じて補正され、
前記支援手段は、前記焦点評価指標に基づいて、前記視認対象物に対して能動的視認状態であるのか受動的視認状態であるのかを判定する視認状態判定手段と、該視認状態判定手段で判定された能動的視認状態の頻度と受動的視認状態の頻度とに基づいて運転者の視線配分の偏りを判定する偏り判定手段とを有して、該偏り判定手段により偏りが有ると判定されたときに、運転支援を行う、
ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記偏り判定手段は、第1所定時間内において前記視認状態判定手段によって判定された能動的視認状態の回数と受動的視認状態の回数との比較によって視線配分の偏りを判定する、ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記偏り判定手段は、前記第1所定時間よりも長く設定された第2所定時間内において、視線の偏りが有りと判定された回数を蓄積して、該蓄積された偏り回数に基づいて視線配分の偏りの有無を最終的に判定する、ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項8】
請求項6または請求項7において、
前記視距離推定手段は、前記視認対象物を十分に注視していると想定される短い第3所定時間以上視認していることを条件として、視距離を推定する、ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項9】
請求項6ないし請求項8のいずれか1項において、
前記支援手段は、視線配分に関する支援情報を運転者に報知する、ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項10】
運転者の眼球状態を検出して、運転者が視認対象物を目視しているときの視距離を推定する視距離推定手段と、
運転者から前記視認対象物までの実際の距離を検出する実距離検出手段と、
前記視距離推定手段で推定された視距離と前記実距離検出手段で検出された実際の距離との差分に対応した焦点評価指標に基づいて運転支援を行う支援手段と、
を備え、
運転者が着座している運転席の位置を検出する運転席位置検出手段をさらに備え、
前記実距離検出手段で検出される実距離が、前記運転席位置検出手段で検出された運転席の位置に応じて補正され、
前記支援手段は、前記焦点評価指標に基づいて前記視認対象物に対して受動的視認状態であるか否かを判定して、該受動的視認状態であるとの判定の継続性に基づいて運転支援を行う、
ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項11】
請求項10において、
前記支援手段は、前記受動的視認状態が所定時間以上継続したことを条件として、運転支援を実行する、ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項12】
請求項10または請求項11において、
前記所定時間が、走行中の危険度が大きいときは小さいときに比して、小さくされる、ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項13】
請求項10ないし請求項12のいずれか1項において、
前記支援手段による運転支援が、車室内にある表示機器の視覚的刺激強度を低下させることにより行われる、ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項において、
前記視距離推定手段は、眼球に対して照射された検知光の反射光から眼球の屈折率を決定して、該屈折率に基づいて視距離としての焦点距離を推定する、ことを特徴とする運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、視認者が緊張状態であるか否かを、その視線方向、視線分布、瞳孔径変化等に基づいて推定するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-367100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、運転支援を行う場合に、運転者状態がどのような状態であるかを知ることが重要となる。例えば、注意散漫であるとか注意過大である等の運転者状態を知ることができれば、判定結果に応じて適切な運転支援を行うことが可能になる。
【0005】
一方、車両の運転者の視認対象物に対する視認状態は、運転者状態を精度よく反映したものとなる。特に、運転者が視認対象物を能動的に(積極的に)に視認しているのか、あるいは受動的に(消極的に)視認しているかの状態を知ることにより、運転者状態を精度よく判定することができる。
【0006】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、視認対象物に対する運転者の視認状態に対応させて運転支援を適切に行えるようにした運転支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、
転者の眼球状態を検出して、運転者が視認対象物を目視しているときの視距離を推定する視距離推定手段と、
運転者から前記視認対象物までの実際の距離を検出する実距離検出手段と、
前記視距離推定手段で推定された視距離と前記実距離検出手段で検出された実際の距離との差分に対応した焦点評価指標に基づいて運転支援を行う支援手段と、
を備えているようにしてある。上記解決手法によれば、運転者の視認対象物に対する視認状態に応じて、運転支援を適切に行うことができる。
【0008】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、以下に記載のとおりである。すなわち、
運転者が着座している運転席の位置を検出する運転席位置検出手段をさらに備え、
前記実距離検出手段で検出される実距離が、前記運転席位置検出手段で検出された運転席の位置に応じて補正される、
ようにしてある。この場合、運転席位置の前後方向への変更に対応して、視認対象物までの実距離を精度よく検出することができる。
【0009】
前記支援手段は、前記焦点評価指標に基づいて運転者状態を判定して、判定された運転者状態に応じた運転支援を行う、ようにしてある。この場合、焦点評価指標に応じて視認対象物に対する運転者状態を判定して、運転者状態に応じた運転支援を適切に行うことができる。
【0010】
前記支援手段は、前記焦点評価指標の統計値に基づいて運転者状態を判定する、ようにしてある。この場合、焦点評価指標の統計値を利用することにより、運転者状態をより安定的にかつ精度よく判定することができる。
【0011】
前記支援手段は、所定時間について前記焦点評価指標を複数求めて、該複数の焦点評価指標の平均値と標準偏差値との少なくとも一方に基づいて運転者状態を判定する、ようにしてある。この場合、所定時間という継続した期間での視認状態に基づいて、運転者状態を安定的に(単発的なノイズを排除して)判定することができる。また、偏差の平均値と標準偏差との少なくとも一方に基づいて運転者状態を判定するので、運転者状態をより精度よくかつ安定的に判定することができる。
【0012】
前記支援手段は、前記標準偏差が第1所定値以上の場合に運転者状態として注意散漫であると判定して、注意散漫である旨の報知を行う、ようにしてある。この場合、注意散漫であることを精度よく判定して、この注意散漫に応じた運転支援を適切
に行うことができる。
【0013】
前記支援手段は、前記標準偏差が第1所定値よりも小さい値に設定された第2所定値未満の場合に、運転者状態として注意過大であると判定して、休憩を促す旨の報知を行う、ようにしてある。この場合、注意過大は疲労が原因であるのが多いことを勘案すれば、休憩を促す報知はその後の安全運転確保の上で好ましいものとなる。
【0014】
前記支援手段は、前記焦点評価指標に基づいて、前記視認対象物に対して能動的視認状態であるのか受動的視認状態であるのかを判定する視認状態判定手段と、該視認状態判定手段で判定された能動的視認状態の頻度と受動的視認状態の頻度とに基づいて運転者の視線配分の偏りを判定する偏り判定手段とを有して、該偏り判定手段により偏りが有ると判定されたときに、運転支援を行う、ようにしてある。この場合、視線配分の偏りの有無を判定して、この判定結果に基づいて運転支援を適切に行うことができる。
【0015】
前記偏り判定手段は、第1所定時間内において前記視認状態判定手段によって判定された能動的視認状態の回数と受動的視認状態の回数との比較によって視線配分の偏りを判定する、ようにしてある。この場合、視線配分の偏りを簡単に判定することができる。なお、第1所定時間は、実施形態における時間B(図11)に対応している。
【0016】
前記偏り判定手段は、前記第1所定時間よりも長く設定された第2所定時間内において、視線の偏りが有りと判定された回数を蓄積して、該蓄積された偏り回数に基づいて視線配分の偏りの有無を最終的に判定する、ようにしてある。この場合、長い時間に渡ってのデータを利用することにより、視線配分の偏りの有無の判定をより精度よく行う上で好ましいものとなる。なお、第2所定時間は、実施形態における時間C(図12)に対応している。
【0017】
前記視距離推定手段は、前記視認対象物を十分に注視していると想定される短い第3所定時間以上視認していることを条件として、視距離を推定する、ようにしてある。この場合、瞬間的なちらっと見のときの視認状態を除外して、最終的に視線配分の偏りの有無の判定を精度よく行う上で好ましいものとなる。なお、第3所定時間は、実施形態における時間A(図11)に対応している。
【0018】
前記支援手段は、視線配分に関する支援情報を運転者に報知する、ようにしてある。この場合、運転者は、視線配分に気をつけて運転するようになり、運転技術の向上はもとより、安全運転向上の上でも好ましいものとなる。
【0019】
前記支援手段は、前記焦点評価指標に基づいて前記視認対象物に対して受動的視認状態であるか否かを判定して、該受動的視認状態であるとの判定の継続性に基づいて運転支援を行う、ようにしてある。この場合、受動的視認状態の継続性に基づいて、運転者が不必要に視線誘導されているか否かを精度よく判定することができ、この判定結果に基づいて適切に運転支援を行うことができる。特に、運転者がある部分を長く見続けているとしても、積極的に見ている能動的視認状態のときはその意味合いがあることからなんら問題のないものであるが、この意味ある視認とは明確に区別して、不必要に運転支援を行うことなく適切に運転支援を行うことができる。
【0020】
前記支援手段は、前記受動的視認状態が所定時間以上継続したことを条件として、運転支援を実行する、ようにしてある。この場合、不必要に視線誘導されていることを簡単かつ精度よく判定して、より適切に運転支援を行うことができる。
【0021】
前記所定時間が、走行中の危険度が大きいときは小さいときに比して、小さくされる、ようにしてある。この場合、走行中の危険度に応じて、運転支援の実行タイミングを適切に設定することができる。
【0022】
前記支援手段による運転支援が、車室内にある表示機器の視覚的刺激強度を低下させることにより行われる、ようにしてある。この場合、視覚的刺激強度を低下させるという簡単な手法によって、運転者を不必要に視線誘導してしまうことを防止することができる。なお、視覚的刺激強度とは、ディスプレイ表示等の視覚刺激が、視覚感覚に与える強度のことで、輝度、色、表示面積、文字の大きさ等により制御可能である。
【0023】
前記視距離推定手段は、眼球に対して照射された検知光の反射光から眼球の屈折率を決定して、該屈折率に基づいて視距離としての焦点距離を推定する、ようにしてある。この場合、視距離の推定を精度よく行う上で好ましいものとなる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、視認対象物に対する運転者の視認状態に対応させて運転支援を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明が適用された車両の一例を示す簡略平面図。
図2】眼球からの反射光の屈折率と視距離との関係を示す簡略平面図。
図3】屈折率と視距離との対応関係を示す特性図。
図4】シート位置の相違に応じた距離補正を示す図。
図5】運転者の視認領域を複数の小領域に分けて、各小領域における主たる視認対象物を示す図。
図6】ディスプレイを注視している状況を示す図。
図7】本発明の制御系統例を示すブロック図。
図8】本発明の制御例を示すフローチャート。
図9】本発明の制御例を示すフローチャート。
図10】表示画面上で、休憩を促す旨の報知例を示す図。
図11】本発明の第2の制御例を示すフローチャート。
図12図11の続きを示すフローチャート。
図13】本発明の第3の制御例を示すフローチャート。
図14】衝突危険度に応じた視覚的刺激強度の設定例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、車両Vの運転席1を上方から見た簡略図である。運転席1には運転者Pが着座されている。運転席1の前方において車幅方向に延びるインストルメントパネル2の上面には、運転者Pから目視されやすい位置において、表示手段としてディスプレイ3が配設されている。ディスプレイ3は、例えばナビゲーション装置用とされて、地図情報を表示する他に、各種警告情報等を適宜切換え表示するようになっている(吹き出し形式等による表示等でもよい)。このディスプレイ3の表示輝度は、自動的に変更可能となっている。
【0027】
運転者Pは、メガネ式の焦点距離(屈折率)検出装置10を装備している。焦点距離検出装置10は、例えば、検知光としての近赤外線の発光部と受光部とを有している。そして、検知光を運転者Pの眼球に照射して、眼球で反射された反射光から眼球の屈折率を決定して、この屈折率に基づいて焦点距離つまり視距離を推定するようになっている。屈折率と視距離との関係は、図3に示すような特性線の関係で示される(屈折率をη、視距離をDとすると、D=1/ηとなる)。
【0028】
上記のような焦点距離検出装置10は、眼球検査において一般的に使用されている装置を利用することができる。また、焦点距離検出装置10を利用して、運転者の視線方向を決定することもできる。なお、運転者の視線方向を決定するために、運転者の顔部分、特に左右の眼球部分を撮像する車内カメラ等を利用することもできる。
【0029】
視距離の推定は、焦点距離に基づく場合に限らず、例えば輻輳角に基づいて行うこともできる。すなわち、例えば車両におけるメガネ式やルーフパネルの前端部(あるいはフロントウインドガラスの上端部)に設けた車内カメラによって、運転者の顔部分、特に眼およびその周囲を撮像して、撮像された画像から、運転者の左右の眼の視線がなす角度つまり輻輳角を決定して、この輻輳角に基づいて、運転者による視認対象物までの視距離を推定することができる。既知のように、輻輳角が大きいほど近くのものを視認している(逆に輻輳角が小さいほど遠くを視認している)と判断される。また、車内カメラによって視認対象物の存在方向をあわせて決定することもできる。
【0030】
図5は、運転者Pによる前方視認領域を、縦横に分割した複数の小領域(実施形態では縦3×横3の合計9つの小領域)に分割してある。そして、各小領域における主たる視認対象物が、図5に列記されている。
【0031】
図6は、ディスプレイ3の存在する小領域を運転者Pが注視している状況が示される。図中破線で示す部分が、単位時間あたりの中心点が存在する範囲であり、中抜きの1つの丸印が注視点分布の中心を示す。
【0032】
図6において、ディスプレイ3の位置は固定であることから、運転席シート1の特定位置とディスプレイ3との間の実際の距離はあらかじめ知ることができる。つまり、運転席1に着座している運転者Pのアイポイント位置とディスプレイ3との距離をあらかじめ知ることができる。ただし、運転席1のシートポジションが前後方向に変化することによって、運転者Pのアイポイント位置とディスプレイ3との間の距離が変化する。運転席1の前後方向位置に応じて運転者Pのアイポイント位置が、図4に示すように補正される。すなわち、運転席1の前後方向位置として、運転者Pが標準的な体格である場合の位置を標準位置とし、運転席1が標準位置から前後方向に移動したときは、その移動分の距離が補正される。
【0033】
アイポイント位置の補正は、具体的には、次のように行えばよい。まず、運転席1の標準位置をX(前後方向の座標位置)とする。この場合、運転席1が標準位置Xから後方へ「Xh1」だけ移動されたときは、運転者Pのアイポイント位置が「X+Xh1」として設定される。逆に、運転席1が標準位置Xから前方へ「Xh2」だけ移動されたときは、運転者Pのアイポイント位置が「X-Xh2」として設定される。このような運転席1の前後方向移動に応じたアイポイント位置の補正は、ディスプレイ3に限らず、ルームミラー、メータ等々、各視認位置に応じて行われる。
【0034】
図7は、本発明の制御系統例を示すものである。図中Uは、車両に搭載されたマイクロコンピュータを利用して構成されたコントローラ(制御ユニット)である。このコントローラUには、前述した焦点距離検出装置10からの信号の他、各種センサ等S1、S2からの信号が入力される。また、コントローラUは、ディスプレイ3を制御して,運転支援に必要な情報を表示させる。
【0035】
上記S1は、レーダであり、例えば車両の前端あるいはフロントウインドガラスの上端部付近の車室内に設けられて、車両前方に位置する物体(視認対象物)までの実際の距離を検出するものとなっている。
【0036】
上記S2は、シートポジションセンサであり、運転席1を構成するシートクッションの前後方向位置を検出するものとなっている。シートポジションセンサS2により検出された運転席1の前後方向位置に応じて、運転者Pのアイポイント位置が特定される。運転者Pのアイポイント位置が特定されることにより、運転者による視認対象物となる各種車載機器類(例えばナビゲーション画面、メータパネル、バックミラー、サイドミラー等)までの実際の距離が特定される。
【0037】
具体的には、コントローラUは、運転席1が標準位置にあるときを前提として、上記各種車載機器類までの実際の距離を記憶したデータベースDBを有している。そして、このデータベースDBに、運転席1の標準位置からの前後方向への位置変化に対応させて、アイポイント位置が前述のようにして補正される。シートポジションセンサS2とデータベースDBとが、運転者の眼の位置から視認対象物までの実際の距離を検出する検出手段を構成している。なお、アイポイント位置の特定(補正)に際しては、運転席1のシートクッションの高さやシートバックの傾斜角度等をも考慮することもできる。
【0038】
コントローラUは、焦点距離検出装置10で受光される反射光から運転者Pの眼球の屈折率ηを決定して、この屈折率ηに基づいて、運転者による視認対象物までの視距離Dを推定するようになっている。また、視認対象物が車両Vよりも前方に存在するときは、この視認対象物までの実際の距離が、レーダS1を利用して検出される(運転席1の前後方向位置に応じた補正あり)。
【0039】
屈折率ηに基づいて推定される視認対象物までの視距離と、視認対象物までの実際の距離とが一致あるいはほぼ一致しているときは、運転者Pは視認対象物を積極的に注視している状態、つまり能動状態でもって視認している状態となる。
【0040】
次に、図8図9に示すフローチャートを参照しつつ、コントローラUによる制御例について説明する。なお、本実施形態では、焦点評価指標として屈折率(に応じた実焦点値)を用いることから、まず、図8を参照しつつ、視認対象物までの実際の距離に対応した実屈折率ηrの決定について説明する。
【0041】
図8のQ21において、レーダS1の設置位置(例えば車両前端部)から車外の視認対象までの距離が検出される。そして、標準アイポイント位置からレーダ設置位置までの距離を加算して、標準アイポイント位置から車外の視認対象までの距離が算出される。このようにして、例えば前方の歩行者までの実際の距離が「X歩」とされ、前方の信号機までの実際の距離が「X信」とされ、その他も同様にして検出される。
【0042】
Q22では、標準アイポイント位置と各種車載機器類との間の距離が取得される。例えば、ルームミラまでの距離が「Xミラー」とされ、ディスプレイ3までの距離が「Xナビ」とされ、その他の車載機器類についても同様にして検出される。
【0043】
Q23では、前述したように、センサS2で検出される運転席1の前後方向位置に応じて、標準位置に対するアイポイント位置の補正量が決定される(図4の「xh1」の決定に相当)。この後、Q24において、単位時間における注視点分布の中心(平均位置)が決定される(図6の中抜き丸印の位置決定)。この後、Q24で決定された中心点分布中心位置が存在する領域が、視認対象物が存在する領域(小領域)であると判定される。
【0044】
Q25の後、Q26において、Q25で決定された領域(小領域)における視認対象物までの実際の距離Drが決定される。実際の距離Drの決定に際しては、Q23で決定されたアイポイント位置の補正量が加味されたものされる。
【0045】
Q27では、Q26で決定された実際の距離Drが、実屈折率(実焦点値)ηrとして変換される(図3のような特性に基づく算出ともなる)。このようにして決定された実屈折率ηrが、後述する図9等での処理に用いられる。なお、図8の処理は、図9の処理と並行して行うようにしてもよく(図9への割り込み処理ともなる)、また、図8の処理を行った後に図9に移行するような直列処理とすることもできる。
【0046】
次に、図9について説明する。まず、Q31において、焦点距離検出装置10を利用して検出された焦点計測値(計測屈折率)η0と、図8の処理で決定された実屈折率ηrとが読み込まれる。この後、Q32において、所定の単位時間(例えば5分~10分)について、η0とηrとの差分の絶対値(=△η)の標準偏差SDと平均値Aveが算出される。
【0047】
Q32の後、Q33において、標準偏差SDが、第1所定値S1(例えば0.2)以上であるか否かが判別される。このQ33の判別でYESのときは、焦点調整の精度が低いときであることから、Q34において、注意散漫状態であると判定される。
【0048】
Q34の後、Q35において、平均値Aveが第2所定値A1(例えば0.1)未満であるか否かが判別される。このQ35の判別でYESのときは、Q36において、周辺状況について注意不足な状態であると判定されて、周辺にまんべんなく注意を向けるように報知される。この報知は、例えば、表示画面3での吹き出し形式によって行うことがででき、表示内容としては、例えば「もう少し周辺の状況を確認するよう心掛けましょう」とされる。
【0049】
上記Q35の判別でNOのときは、前方に向けての注意がおろそかな状態であると判定されて、前方への注意を促す報知が行われる。この報知は、例えば、表示画面3での吹き出し形式によって行うことがででき、表示内容としては、例えば「もう少し前方の状況を確認するよう心掛けましょう」とされる。
【0050】
前記Q33の判別でNOのときは、焦点調整の精度が一定以上ある状態である。このときは、Q38において、標準偏差SDが、所定値S0(例えば0.1)未満であるか否かが判別される。このQ38の判別でYESのときは、注意過大な状態で、運転に疲れている状態と判定されて、休憩を促す旨の報知が行われる。この報知は、例えば、表示画面3での吹き出し形式によって行うことがででき、表示内容としては、例えば「注意過大のようです。休憩することをお勧めします。」とされる(図10参照)。
【0051】
上記Q38の判別でNOのときは、Q41において視認状態が正常であると判定されるが、このときは運転支援は行われないものとされる。
【0052】
図11図12は、本発明の第2の制御例を示すものであり、以下この第2の制御例について説明する。
【0053】
まず、図11のQ51において、データ入力された後、Q52において、視認対象物に対する視認時間が短い所定時間A(例えば1~2秒)以上であるか否かが判別される。このQ2の判別は、瞬間的にちらっと見たような視認状態について、能動的視認状態であるのか受動的視認状態であるのかの判定から除外するためのものとなっている。なお、所定時間Aは、特許請求の範囲における第3所定時間に対応している。
【0054】
Q52の後、Q53において、焦点距離検出装置10を利用して検出された焦点計測値(計測屈折率)η0と、図8の処理で決定された実屈折率ηrとが読み込まれる。この後、Q54において、η0とηrとの差分の絶対値が、偏差△ηとして算出される。
【0055】
Q54の後、Q55において、偏差△ηが、所定値(例えば0.1)未満であるか否かが判別される。このQ55の判別でYESのときは、Q56において、能動的視認状態であると判定されて、その判定回数Nnがカウントアップされる。また、Q55の判別でNOのときは、Q57において、受動的視認状態であると判定されて、その判定回数Njがカウントアップされる。なお、制御開始の当初は、Nn、Nj共に0にリセット(クリア)されている。
【0056】
前記Q56の後、あるいはQ57の後は、それぞれ、Q58において、制御の開始(Q56、Q57でのカウント開始)から所定時間B(例えば3分~5分)が経過したか否かが判別される。このQ58の判別でNOのときはQ51に戻る。なお、所定時間Bは、特許請求の範囲における第1所定時間に対応している。
【0057】
前記Q58の判別でYESのときは、Q59において、NnをNjで除した値が、所定値以上であるか否かが判別される。このQ10の判別でNOのときは、Q60において、Q56、Q57でのカウント値がクリアされた後(所定時間Bもリセットされる)、Q1に戻る。このQ60を経る処理のときは、視線配分の偏り(注意の偏り)がないときであり、運転支援を必要としないときに対応している。
【0058】
前記Q59の判別でYESのときは、図12におけるQ71に移行する。Q71では、能動的視認状態と受動的視認状態との視線配分のバランスが崩れているということで、その回数Naがカウントアップされる。なお、Naは、制御開始時には0にリセット(クリア)されている。
【0059】
Q71の後、Q72において、制御開始から、所定時間Cが経過したか否かが判別される。この所定時間Cは、前記所定時間Bよりも十分に長い時間とされる(所定時間Bの数倍~数十倍の時間で、例えば30分~60分)。このQ72の判別でNOのときは、Q1に戻る。なお、所定時間Cは、特許請求の範囲における第2所定時間に対応している。
【0060】
前記Q72の判別でYESのときは、Q73において、Q71でのカウント値Naが所定値以上であるか否かが判別される。このQ73の判別でYESのときは、Q74において、カウント値Naがクリアされた後(所定時間Cもリセットされる)、Q75において、視線配分の偏りが有ると最終的に判定されて、運転技量が低いと判定される。この後、Q76において、視線配分について注意するための支援情報が運転者に対して報知される。この報知は、例えば「一点に集中し過ぎて見ています。周囲状況をまんべんなく確認するようにしましょう」とか、「もう少し前方を集中して見るようにしましょう」とか、「前方以外も周囲をよく視認するようしましょう」とされる。
【0061】
前記Q73の判別でNOのときは、Q77において、カウント値Naをクリアした後(所定時間Cもリセットされる)、Q51に戻る。
【0062】
図13は、本発明の第3の制御例を示すものである。以下、図13について説明する。まず、Q81において、焦点距離検出装置10を利用して検出された焦点計測値(計測屈折率)η0と、図8の処理で決定された実屈折率ηrとが読み込まれる。この後、Q82において、η0とηrとの差分の絶対値が、偏差△ηとして算出される。
【0063】
Q82の後、Q83において、偏差△ηが、所定値H(例えば0.1)未満であるか否かが判別される。このQ5の判別でNOのときは、Q81に戻る。
【0064】
上記Q83の判別でYESのときは、Q84において、視線移動後の注視時間Tが計測される。この後、Q85において、危険度が小さいか否かが判別される。この危険度は、例えば2段階で評価されて、衝突の可能性の低いときや、車速が低いときは、危険度が小とされる。逆に、衝突の可能性が高いときや車速が高いとき(あるいは高速道路を走行しているとき)は、危険度が大であるとされる。なお、衝突の可能性の検知や車速の検知あるいは道路状況の検知は、既知の適宜の手法により行うことができ、この検知のためのセンサ等は図7では図示を略してある。
【0065】
前記Q85の判別でYESのとき、つまり危険度が小さいときは、Q86において、Q84での計測時間Tが、第1所定時間T1(例えば1.4秒)以上であるか否かが判別される。このQ86の判別でYESのときは、Q87において、車載機器の表示面等が所定分暗くされる(視覚的刺激強度の低下)。なお、視覚的刺激強度の低下の対象となるのは、Q84での計測が行われる際に、運転者の視線方向にあるものに限定される。なお、視覚的刺激強度とは、ディスプレイ表示等の視覚刺激が、視覚感覚に与える強度のことで、輝度、色、表示面積、文字の大きさ等により制御可能である。
【0066】
前記Q85の判別でNOのとき、つまり危険度が大きい場合は、Q88において、Q84での計測時間Tが、第2所定時間T2(例えば0.75秒)以上であるか否かが判別される。この第2所定時間T2は、前記第1所定時間T1よりも小さくされている(T2<T1)。このQ88の判別でYESのときは、Q87移行される(視覚的刺激強度の低下)。
【0067】
前記Q86の判別でNOのとき、あるいはQ88の判別でNOのときは、それぞれ、Q89において、視覚的刺激強度の低下が実行されないものとされる(デフォルトとなる通常の明るさを維持)。なお、衝突危険度に応じた好ましい視覚的刺激強度は、図14のような特性として示される。なお、衝突危険度を、3段階以上あるいは連続可変式に判定して、視覚的刺激強度の低下度合いも3段階以上あるいは連続可変式に変更することもできる。
【0068】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能である。本発明における運転者は、車両の運転者に限らず、例えば飛行機、船舶、鉄道電車等の乗物を操作する者であってもよく、また乗り物以外の動く物(例えば無線操縦されるドローンやヘリコプター等)の操縦者であってもよい。視線配分の偏り(注意の偏り)の判定を、能動的視認状態の頻度と受動的視認状態の頻度との比較に基づくものであれば適宜の手法により行うことができ、例えば能動的視認状態にある時間の蓄積値と受動的視認状態にある時間の蓄積値との比較により判定したり、平均偏差を利用した比較により判定することもできる。また、図12のQ71~Q73の処理は、運転技量の判定をある長い時間に渡っての視認状態に基づいて行うことから設けたが、Q71~Q73の処理を無くして、Q59の判別でYESのときはただちにQ75へ移行するようにしてもよい。運転支援としては、報知に限らず、適宜の手法を採択することができ、例えば自動運転を行ったり、自動運転に関連する一部の機能を作動させることによって行うこともできる(例えば車線維持制御、自動操舵制御、自動ブレーキ制御等の一部の機能を実行する)。
【0069】
焦点評価指標としては、屈折率(焦点値)η(η0とηr)の代わりに、焦点値ηに対応した距離(視距離と実距離)とを用いることもできる。報知を行うための表示手段としては、ディスプレイ3に限らず、例えば運転者の前方に表示情報を投影するヘッドアップディスプレイ等適宜のものを採択することができる。また、表示手段を利用した報知に代
えてあるいは加えて、音声による報知を行うこともできる。視認者は、車両Vの運転者Pに限らず、例えば飛行機、船舶、鉄道電車等の乗物を操作する者であってもよく、また乗り物以外の動く物(例えば無線操縦されるドローンやヘリコプター等)の操縦者であってもよい。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、視認状態に応じた運転支援を適切に行うことができる。
【符号の説明】
【0071】
V:車両
P:運転者
U:コントローラ
S1:レーダ
S2:シートポジションセンサ
1:運転席
3:ディスプレイ(表示手段)
10:焦点距離(屈折率)検出装置


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14