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特許70686513次元捲縮を有する扁平アクリロニトリル系繊維及び該繊維を用いたパイル布帛
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-09
(45)【発行日】2022-05-17
(54)【発明の名称】3次元捲縮を有する扁平アクリロニトリル系繊維及び該繊維を用いたパイル布帛
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/08 20060101AFI20220510BHJP
   D03D 27/00 20060101ALI20220510BHJP
   D04B 1/04 20060101ALI20220510BHJP
   D04B 21/04 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
D01F8/08
D03D27/00 A
D04B1/04
D04B21/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018085127
(22)【出願日】2018-04-26
(65)【公開番号】P2019007122
(43)【公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2017121946
(32)【優先日】2017-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西村 修平
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特公昭45-036340(JP,B1)
【文献】特公昭39-024301(JP,B1)
【文献】特開昭54-082433(JP,A)
【文献】特開平01-104831(JP,A)
【文献】特公昭47-024182(JP,B1)
【文献】特開平02-139476(JP,A)
【文献】特開2017-066553(JP,A)
【文献】国際公開第2015/166956(WO,A1)
【文献】特開平01-104828(JP,A)
【文献】特開平10-237721(JP,A)
【文献】特開2006-111985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00 - 8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル含有割合の異なる2つのアクリロニトリル系重合体成分を含有し、断面が扁平度1.5以上10以下の扁平形状(ただし、断面に凹部を有するものを除く)であるアクリロニトリル系繊維であって、前記2つのアクリロニトリル系重合体成分がサイドバイサイド構造を形成しており、無荷重沸水処理後のJISL1015:2010に従って求めた捲縮数Cnおよび捲縮率Ciを元に下記式1によって算出したCf値が、16以上であることを特徴とする扁平アクリロニトリル系繊維。
(式1)Cf=Cn×(1-Ci/100)
【請求項2】
ダウンヘアとして、扁平アクリロニトリル系繊維を、立毛部を構成する繊維の少なくとも20重量%以上含有しているパイル布帛であって、前記扁平アクリロニトリル系繊維が、アクリロニトリル含有割合の異なる2つのアクリロニトリル系重合体成分を含有し、断面が扁平度1.5以上10以下の扁平形状であるアクリロニトリル系繊維であって、前記2つのアクリロニトリル系重合体成分がサイドバイサイド構造を形成しており、無荷重沸水処理後のJISL1015:2010に従って求めた捲縮数Cnおよび捲縮率Ciを元に下記式2によって算出したCf値が、16以上であることを特徴とすることを特徴とするパイル布帛。
(式2)Cf=Cn×(1-Ci/100)
【請求項3】
ガードヘアとして、上記式によって算出したCf値が16未満であるアクリロニトリル系繊維を、立毛部を構成する繊維の少なくとも10重量%以上含有していることを特徴とする請求項2に記載のパイル布帛。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術はガードヘアを下支えするためにダウンヘアの捲縮を十分に活用し、パイル布帛とした際に立毛性などの外観に優れ、ソフト性をよりリアルに再現できるとともに、パイル加工時の繊維の歩留まりを向上させることのできる扁平アクリロニトリル系繊維及び該繊維を用いたパイル布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アクリロニトリル系合成繊維はその優れた発色性や風合いから衣料やパイル等の分野で利用されてきた。特にダウンヘアとガードヘアの2層からなるアクリルパイルはミンクやフォックス等の獣毛のような外観をよりリアルに再現することが可能である。しかし、立毛性の面で問題があるとされており、例えば、特許文献1では、非収縮繊維と収縮繊維を混在させ、仕上げ時に収縮繊維に収縮を発現させる方法が用いられている。これにより、ダウンヘアとガードヘアに、より明確な段差が発現し、収縮したダウンヘアによって、ガードヘアが下支えされ、より獣毛に近い立毛性を有するパイルとすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-18910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般的に、染色後の繊維を用いてパイルを作製するため、例えば、濃染色するために高温染色をすると、収縮繊維が染色工程中で収縮してしまうため、パイルの仕上げ加工時には収縮があまり発現しないという問題があった。その結果、作製したパイル布帛のダウンヘアとガードヘアに明確な段差ができず、ダウンヘアによる下支え効果が不足し、獣毛に比べると立毛性などの外観が劣るものとなる。
【0005】
また、衣料用パイル織物は、ソフトな風合いを重視しようとすると、パイル加工時の糊付けを薄くする必要があるが、その代償として、パイル加工時に繊維が抜けてしまい、加工の前後で、パイル布帛の目付が減少してしまったり、使用時にパイル布帛の毛抜けが多くなったりする問題があった。
【0006】
本発明は、かかる現状に基づきなされたものであり、その目的は、パイル布帛とした際に毛抜けし難く、高温染色など工程中の高温処理の有無に関わらず、優れた立毛性などの外観及びソフト性を発現させることができる扁平アクリロニトリル系繊維および該繊維を含有するパイル布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題について鋭意検討を重ねた結果、パイル布帛を構成するダウンヘアとして、繊維断面が扁平形状で、且つ、優れた3次元捲縮を有する扁平アクリロニトリル系繊維を用いることで、染色工程を経ても、ダウンヘアによるガードヘアの優れた下支え効果が得られ、且つ、作製したパイル布帛の毛抜けが抑制され、上記目的が達成できることを見出した。すなわち、本発明の目的は以下の手段により達成される。
【0008】
[1]アクリロニトリル含有割合の異なる2つのアクリロニトリル系重合体成分を含有し、断面が扁平度1.5以上10以下の扁平形状(ただし、断面に凹部を有するものを除く)であるアクリロニトリル系繊維であって、前記2つのアクリロニトリル系重合体成分がサイドバイサイド構造を形成しており、無荷重沸水処理後のJISL1015:2010に従って求めた捲縮数Cnおよび捲縮率Ciを元に下記式1によって算出したCf値が、16以上であることを特徴とする扁平アクリロニトリル系繊維。
(式1)Cf=Cn×(1-Ci/100)
[2]ダウンヘアとして、扁平アクリロニトリル系繊維を、立毛部を構成する繊維の少なくとも20重量%以上含有しているパイル布帛であって、前記扁平アクリロニトリル系繊維が、アクリロニトリル含有割合の異なる2つのアクリロニトリル系重合体成分を含有し、断面が扁平度1.5以上10以下の扁平形状であるアクリロニトリル系繊維であって、前記2つのアクリロニトリル系重合体成分がサイドバイサイド構造を形成しており、無荷重沸水処理後のJISL1015:2010に従って求めた捲縮数Cnおよび捲縮率Ciを元に下記式2によって算出したCf値が、16以上であることを特徴とすることを特徴とするパイル布帛。
(式2)Cf=Cn×(1-Ci/100)
[3]ガードヘアとして、上記式によって算出したCf値が16未満であるアクリロニトリル系繊維を、立毛部を構成する繊維の少なくとも10重量%以上含有していることを特徴とする[2]に記載のパイル布帛。

【発明の効果】
【0009】
本発明によると、ダウンヘアを扁平形状とし、捲縮を十分に発現させることで、ダウンヘア同士が十分に絡み合うため、パイル布帛の毛抜け抑制効果が得られ、且つ優れたガードヘアの下支え効果が得られるため、立毛性などの外観及びソフト性に優れたパイル布帛を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の扁平アクリロニトリル系繊維は、アクリロニトリル含有割合の異なる2つのアクリロニトリル系重合体成分を含有するものである。このような2成分構造とすることで、アクリロニトリル系重合体の熱収縮率差の違いにより、繊維自体にコイル状の3次元捲縮を発現させることができる。これにより、収縮が伸ばされてしまうようなパイル布帛の作製工程通過後であっても、繊維が有する捲縮によりガードヘアが下支えされるため、該繊維を用いて得られるパイル布帛は立毛性などの外観に優れたものとなる。
【0011】
また、前述する2成分構造としては、2つのアクリロニトリル系重合体成分が、2成分が貼り合わされた2層構造であるサイドバイサイド構造、又は各単繊維によって層数が異なるランダム構造が挙げられる。このような2成分構造とすることで、構成成分の熱収縮率差の違いにより繊維に3次元捲縮を発現させることが可能となる。上記2種類の構造の中でも、サイドバイサイド構造は、3次元捲縮をより発現させやすいという点から好ましい。
【0012】
また、本発明の扁平アクリロニトリル系繊維は、繊維の断面形状が扁平形状である。該形状とすることで、繊維の断面2次モーメントが低くなるため、繊維を構成する重合体成分の熱収縮率差に起因する捲縮が発現し易くなる。その結果、繊維同士の絡み合いがより強くなり、パイル布帛とした際に毛抜けの抑制効果が得られるほか、立毛性などの外観及びソフト性により優れたパイルとすることができる。
【0013】
本発明の扁平アクリロニトリル系繊維は、上述したCf値が、好ましくは16以上、より好ましくは18以上、さらに好ましくは20以上であることが望ましい。ここでいう、Cf値は繊維を特定の割合で伸ばした際の、その繊維1インチ当たりのクリンプの個数を表すものであり、このCf値が高ければ、繊維が引き伸ばされた後であっても、繊維に十分な捲縮が残っていると言える。このCf値が16以上であれば、パイル加工工程通過後でも捲縮を維持することが可能となり、パイル布帛とした際に優れた外観となり、品位向上が期待できる。一方、16未満の場合には、パイル加工工程中で捲縮が引き伸ばされてしまい、目的とするような立毛性などの外観が得られない場合がある。
【0014】
本発明の扁平アクリロニトリル系繊維を構成するアクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルと他のビニル系単量体との共重合体であればよく、単量体組成としてアクリロニトリル含有割合が、好ましくは40重量%以上、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上であることが望ましい。アクリロニトリル含有割合が40重量%未満の場合には、繊維とした際に十分な繊維強度が得られなくなる場合がある。また、2つのアクリロニトリル系重合体成分の内、高収縮成分のアクリロニトリル含有割合が90重量%未満であることが優れた3次元捲縮を得られやすいという点から好ましい。
【0015】
本発明に採用するアクリロニトリル含有割合の異なる2つのアクリロニトリル系重合体成分としては、アクリロニトリル含有割合が1.0重量%以上異なるものであることが好ましく、1.5重量%以上であることがより好ましい。これにより、アクリロニトリル含有割合の違いによる熱収縮率差に起因する3次元捲縮が十分に発現し、パイル布帛とした際に優れた立毛性などの外観を有するものとすることができる。一方、アクリロニトリル含有割合の差が1.0重量%未満では、2つのアクリロニトリル系重合体の熱収縮率差が小さくなり、所望の捲縮が得られず、パイル布帛とした際に立毛等の外観の品位が低下する恐れがある。
【0016】
また、アクリロニトリルと共重合し得る他のビニル系単量体としては、特に限定はないが、アクリル酸、メタクリル酸、又はこれらのエステル類;アクリルアミド、メタクリルアミド又はこれらのN-アルキル置換体;酢酸ビニル等のビニルエステル類;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル又はビニリデン類;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、p-スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸又はこれらの塩類等を挙げることができる。なお、上記アクリロニトリル系重合体は、上述の組成を満たす限り、複数種を構成成分として用いても構わない。
【0017】
本発明の扁平アクリロニトリル系繊維は、断面の長軸長を短軸長で除して算出される扁平度の下限が、1.5以上であることが好ましく、1.7以上であることがより好ましい。また、上限としては、10以下であることが好ましく、7以下であることがより好ましく、4未満であることがさらに好ましい。該範囲内とすることで、立毛性などの外観及びソフト性に優れたパイル布帛とすることができる。
【0018】
また、本発明の扁平アクリロニトリル系繊維の繊度は0.5~20dtexであることが好ましく、1.0~15dtexであることがより好ましく、1.0~8dtexであることがさらに好ましい。繊度が0.5dtex未満の場合、繊維が細すぎるために集束感が強くなり外観が悪化する恐れがある。また、20dtexを超える場合、繊維が太すぎるため、パイル布帛としての外観及びソフト性が悪化する恐れがある。
【0019】
以上に述べてきた、本発明の扁平アクリロニトリル系繊維を構成するアクリロニトリル系重合体を合成する方法としては、特に制限はなく、周知の重合手段である懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法などを利用することができる。
【0020】
また、得られた重合体を用いて、本発明の扁平アクリロニトリル系繊維を製造する方法としては、特に限定はないが、湿式紡糸法を用いて製造する場合における一例を挙げると、一般的によく知られた水系懸濁重合で作られるアクリロニトリル含有割合の異なる2つのアクリロニトリル系重合体を、溶媒にそれぞれ溶解し、原液を作製する(高アクリロニトリル含有重合体原液(A)、低アクリロニトリル含有重合体原液(B)とする)。
【0021】
ここで、アクリロニトリル系重合体を溶解させる溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトンなどの有機系溶媒や硝酸、塩化亜鉛水溶液、チオシアン酸ナトリウム水溶液などの無機系溶媒を挙げることができる。
【0022】
作製したAおよびBの両原液を、例えば、特公昭39-24301号で開示されているような複合紡糸装置を用い、AとBを重量比でA/B=20/80~80/20の割合で、複合紡糸口金に導き凝固浴に押し出し、ついで、水洗、延伸、緻密化乾燥、湿熱処理、油剤処理、捲縮処理等を施すことでサイドバイサイド型の繊維を作製することができる。また、ミキサー等でランダムに多層化された紡糸原液を紡出することで、ランダム型とすることも可能であるし、用いるノズル孔型を変更したり、紡出速度を変化させたりすることで、所望の扁平形状を有する繊維とすることが可能となる。その際、A及びBの重量比や湿熱処理温度を変更することで、任意のCf値とすることができる。
【0023】
本発明の扁平アクリロニトリル系繊維を用いて、パイル布帛を作製する方法としては、従来公知の製造方法を用いて製造することが出来る。また、その際の繊維の形態としては、特に限定されるものではなく、スライバー、紡績糸、フィラメント等いずれであってもよい。
【0024】
本発明のパイル布帛は、ダウンヘアとして、本発明の扁平アクリロニトリル系繊維を含有するものである。含有量としては、立毛部を構成する繊維として、本発明の扁平アクリロニトリル系繊維を少なくとも20重量%以上、好ましくは30重量%以上含有しているものである。本発明の扁平アクリロニトリル系繊維の割合が20重量%未満では、捲縮による効果が十分に得られず、パイル布帛の外観が悪化するなど品位が低下する。
【0025】
さらに、本発明のパイル布帛は、ガードヘアとして上述したCf値が16未満であるアクリロニトリル系繊維を用いることが好ましく、10以下であることがより好ましく、8以下であることがさらに好ましい。これにより、パイル加工工程において、Cf値が16未満であるアクリロニトリル系繊維の捲縮が十分に引き伸ばされ、獣毛のような優れた外観を発現させることができる。
【0026】
上述するCf値が16未満であるアクリロニトリル系繊維の量としては、立毛部を構成する繊維の少なくとも10重量%以上であり、好ましくは15重量%である。Cf値が16未満であるアクリロニトリル系繊維が10重量%未満の場合、獣毛のような優れた外観が得られない場合がある。
【0027】
また、上述したCf値が16未満であるアクリロニトリル系繊維の断面形状については、特に限定はないが、丸型、扁平、三角、Y字、十字断面などを採用することができる。その中でも、扁平形状のものは、パイルを作製した際に、集束感の少ない外観が得られ、且つソフト性が良好なものが得られやすい点から望ましい。
【0028】
本発明に採用する、Cf値が16未満であるアクリロニトリル系繊維の繊度としては、10~40dtexが好ましく、17~30dtexであることがより好ましい。繊度が10dtex未満と細すぎると獣毛のような外観が損なわれる恐れがある。また、40dtexを超える場合には、パイルとしてのソフト性が低下する恐れがある。
【0029】
前述したパイル布帛は、本発明の扁平アクリロニトリル系繊維やCf値が16未満であるアクリロニトリル系繊維の他に、別途、その他の繊維を混用しても構わない。
【0030】
上述するその他の繊維としては特に限定は無く、レーヨン、ナイロン、ポリエステル、綿、アクリル等を用いることができ、これらは、1種類だけに限らず、複数種を用いることも可能である。
【0031】
また、繊維の断面形状に関しても、特に限定は無く、丸型でも非丸型であっても良く、非丸型としては扁平、三角、楕円、Y字、十字断面などが挙げられる。
【実施例
【0032】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また実施例中の部及び百分率は特に限定が無い限り質量基準で示す。なお、実施例において記述するパイル布帛の立毛性などの外観及び、ソフト性は下記の方法で測定したものである。
【0033】
(1) 捲縮数Cn
JIS L1015により測定、算出する。
【0034】
(2) 捲縮率Ci
JIS L1015により測定、算出する。
【0035】
(3) Cf値
JIS L1015により測定、算出したCnおよびCiを元に、下記式3によって算出する。
(式3)
Cf = Cn × ( 1 - Ci/100 )
【0036】
(4) 扁平度
サンプル繊維から単繊維を150~200本とりだし、引きそろえて繊維束とする。該繊維束の断面をカットし、光学顕微鏡を用いて断面写真を撮影した。断面写真から50本の繊維の短径(A)および長径(B)を測り、扁平比(A)/(B)により算出した。
【0037】
(5) パイル布帛の外観評価
作製したパイル布帛について、天然フォックス毛皮に対してどうであるのかを視感により、以下の4つの基準で評価した。
◎ 天然のフォックスの外観とほぼ同等。
○ 天然のフォックスの外観に近い
△ 天然のフォックスの外観にやや劣る
× 天然のフォックスの外観と大きく劣る
【0038】
(6) パイル布帛のソフト性評価
作製したパイル布帛について、天然フォックス毛皮に対してどうであるのかを触感により、以下の3つの基準で評価した。
◎ 天然のフォックスのソフト感とほぼ同等
○ 天然のフォックスのソフト感に近い
× 天然のフォックスのソフト感に劣る
【0039】
(7) パイル布帛の毛抜け試験
一般財団法人日本繊維製品品質技術センター(QTEC)試験法の羽毛付着試験方法(QTEC95-1111)を参考として、試験方法までは同様に行い、判定については、セロハンテープに付着した繊維の本数を実際に計数し、本数を比較することで評価を行った。なお、繊維の本数を測定する際には、セロハンテープに例えば、スリーボンド社製の潤滑剤(TB1801B)を塗布することにより、セロハンテープの粘着成分が除去され、容易に測定することが可能となる。
【0040】
(実施例1~4、比較例1~2、製造例1~2)アクリロニトリル系繊維の作製
高熱収縮成分として、アクリロニトリル88重量部、酢酸ビニル12重量部を懸濁重合することによってアクリロニトリル系重合体Aを作製した。また、低熱収縮成分として、アクリロニトリル90重量部、アクリル酸メチル10重量部を懸濁重合することによってアクリロニトリル系重合体Bを作製した。
【0041】
50%ロダン酸ナトリウム水溶液90部に、前記アクリロニトリル系重合体A及びBをそれぞれ10部ずつ溶解し、紡糸原液Ap及びBpを作製した。該紡糸原液を、例えば特公昭39-24301号において開示されている複合紡糸装置を用い、Ap及びBpを表1に記載の成分比で複合紡糸口金に導き、凝固浴である10%ロダンソーダ水溶液中に押し出し、ついで、沸水で10倍延伸後、115℃の熱風で乾燥し、さらに120℃の加圧水蒸気中で熱処理を施すことで、アクリロニトリル系繊維を得た。また、単成分の繊維に関しては、従来公知のアクリロニトリルの製造方法を用いて製造できることは言うまでもない。この際に使用するミキサー、紡糸口金の種類または孔径の違いを利用することで、繊度や断面形状を調整したアクリロニトリル系繊維a~hを作製した。各繊維の詳細データを表1に示した。
【0042】
【表1】
【0043】
(実施例5~9、比較例3~5)
アクリロニトリル系繊維a~hを表2に示す割合で混合して開繊/カード機にてスライバーとした。該スライバーをパイル編み機で目付1100g/mに編んだ後、裏面に糊剤を塗布、乾燥することでパイル原布を作製した。
該パイル原布を20分間スチーム処理し、繊維に十分な捲縮を発現させた後、90~190℃の温度で繰り返しポリッシング処理を行ことで、パイル布帛を作製した。
各実施例、比較例として作製したパイル布帛のアクリロニトリル系繊維混合割合、各パイル布帛の外観、ソフト性の評価結果を表2に示した。
【0044】
【表2】
【0045】
実施例5~9のパイル布帛は、本発明の扁平アクリロニトリル系繊維を立毛部に含有しているため、ガードヘアが下支えされることで、良好な外観及びソフト性を有するものであった。一方で、比較例3では、断面形状が丸型のアクリロニトリル系繊維を用いており、外観およびソフト性が低下する結果となった。また、比較例4では、Apの1成分のみからなるアクリロニトリル系繊維を用いたため、捲縮によるガードヘアの下支え効果が得られず、立毛性などの外観が悪化した。さらに、比較例5では、本発明の扁平アクリロニトリル系繊維の含有割合が、15%と少ないため、ガードヘアの下支え効果が十分得られず、外観が悪化する結果となった。
【0046】
また、本発明の扁平アクリロニトリル系繊維を用いた実施例7のパイル布帛と、比較例3のパイル布帛を用いて、毛抜け試験を行ったところ、従来の収縮繊維をダウンヘアとして用いた比較例3が平均で100本であるのに対して、本発明の扁平アクリロニトリル系繊維を用いた実施例7が平均で68本であり、毛抜け本数が約30%減少するとうい良好な結果が得られた。そのため、本発明の扁平アクリロニトリル系繊維をダウンヘアとして用いることで、パイル加工工程における毛抜けについても抑制できると考えられ、パイル加工時の前後で目付の減少が少なくなることが期待できる。